(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019470
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂膜、物品および分離方法
(51)【国際特許分類】
C08L 33/14 20060101AFI20250131BHJP
C08F 20/28 20060101ALI20250131BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20250131BHJP
B29B 17/02 20060101ALI20250131BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20250131BHJP
C08K 5/19 20060101ALI20250131BHJP
C09D 133/06 20060101ALN20250131BHJP
C09D 133/14 20060101ALN20250131BHJP
C09D 7/63 20180101ALN20250131BHJP
C09D 5/02 20060101ALN20250131BHJP
C09J 133/04 20060101ALN20250131BHJP
C09J 5/00 20060101ALN20250131BHJP
C09J 11/06 20060101ALN20250131BHJP
【FI】
C08L33/14
C08F20/28
B32B27/30 A
B29B17/02
C08J5/18 CEY
C08K5/19
C09D133/06
C09D133/14
C09D7/63
C09D5/02
C09J133/04
C09J5/00
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123095
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】七島 祐
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4F401
4J002
4J038
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA33
4F071AB17
4F071AE19
4F071AG28
4F071AG34
4F071AH12
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4J100HE11
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4J100JA01
4J100JA03
4J100JA05
4J100JA07
4J100JA11
4J100JA13
4J100JA15
4J100JA58
4J100JA67
(57)【要約】 (修正有)
【課題】易解体性を実現可能な、樹脂組成物、当該樹脂組成物から形成される樹脂膜、当該樹脂膜を備える物品、および当該物品を構成する部材の分離方法を提供する。
【解決手段】重合体を構成するモノマー単位として、下記式(1)
に示されるエチレンカーボネート構造を有するエチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含む(メタ)アクリル酸エステル重合体を分散質として含有するエマルション、または、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体を含有する微粒子と、前記エチレンカーボネート構造中におけるカルボニル基を構成する炭素原子に対して求核攻撃を行い、それにより前記エチレンカーボネート構造を分解して、二酸化炭素を脱離させることが可能な触媒とを含有する樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体を構成するモノマー単位として、下記式(1)
【化1】
に示されるエチレンカーボネート構造を有するエチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含む(メタ)アクリル酸エステル重合体を分散質として含有するエマルション、または、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体を含有する微粒子と、
前記エチレンカーボネート構造中におけるカルボニル基を構成する炭素原子に対して求核攻撃を行い、それにより前記エチレンカーボネート構造を分解して、二酸化炭素を脱離させることが可能な触媒と
を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記分散質の粒径(D50)は、10nm以上、1μm以下であり、
前記微粒子の平均粒径は、10nm以上、1μm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体は、当該重合体を構成するモノマー単位として、前記エチレンカーボネート含有モノマーを10質量%以上、99.9質量%以下で含むことを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチレンカーボネート含有アクリルモノマーは、下記式(2)または下記式(3)で示される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【化2】
(式中、nは0以上の整数を表す。)
【化3】
(式中、nは0以上の整数を表す。)
【請求項5】
前記触媒は、求核性アニオンを発生させることが可能な求核性アニオン発生剤であり、
前記求核性アニオンは、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)および水酸化物イオン(OH-)の少なくとも一種である
ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記触媒は、臭化テトラブチルアンモニウムおよびフッ化テトラ-N-ブチルアンモニウムの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アクリル酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体は、前記エチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含むモノマー単位を乳化重合することで得られるものであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記微粒子は、前記エチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含むモノマー単位を乳化重合することで、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体を分散質として含むエマルションを生成した後、当該エマルションを構成する分散媒を除去させて得られる残留物を粉砕することで得られるものであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物から形成されたことを特徴とする樹脂膜。
【請求項11】
請求項10に記載の樹脂膜と、前記樹脂膜の少なくとも一方の面に設けられた部材とを備えることを特徴とする物品。
【請求項12】
請求項11に記載の物品における前記樹脂膜と前記部材とを分離させる分離方法であって、
前記樹脂膜を加熱することで、前記エチレンカーボネート構造を分解して、二酸化炭素ガスを発生させる工程と、
前記樹脂膜と前記部材との界面に溜まった前記二酸化炭素ガスによって、前記樹脂膜と前記部材とを分離させる工程
を含むことを特徴とする分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、当該樹脂組成物から形成される樹脂膜、当該樹脂膜を備える物品、および、当該物品を構成する部材の分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境配慮の観点から、電子機器や電化製品等において、不要となった製品を容易に解体できること(易解体性)が求められている。解体されて生じた部品は、リサイクルやリユースに使用することも可能となる。
【0003】
例えば、製品を構成する部材同士が粘着シートで貼合されている場合には、外部刺激によって当該粘着シートの粘着性を低下させ、部材同士の分離・剥離を容易にすることが行われる。そのような粘着シートの例として、特許文献1には、水に浸漬して解体・剥離できる水溶解性を有する粘着剤から構成された粘着シートが開示されている。また、特許文献2には、接合時には高い常態接着力を維持しつつ、接合部を分離・解体する際には、加熱により接着力が低下して、容易に分離・解体できる加熱発泡型再剥離性粘着テープが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-35332号公報
【特許文献2】特開2014―214208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される粘着シートを用いた製品を解体する場合、少なくとも粘着シート部分を水に接触させる必要があるが、製品が大型である場合や、粘着シートが製品の深部に存在することにより水を到達させ難い場合には、取り扱いが困難となる。
【0006】
また、粘着シートが使用されていない製品にも易解体性が求められることがあり、その場合には、特許文献1に開示される粘着シートでは十分に対応することができない。
【0007】
特許文献2に開示される熱発泡剤(特に熱膨張性微小球)の平均粒径は、分散性や薄層形成性等の点から、一般に1~80μm程度であり、粘着シートの用途によっては十分に対応することができない。
【0008】
さらに、近年、法規制や環境配慮などから、エマルションタイプの樹脂組成物や、地球温暖化の原因とされている二酸化炭素等のガスを原料として利用した化学品への関心が高まっている。そのため、環境に配慮し、より容易に取り扱いできる易解体性を可能とする、更なる選択肢が求められる。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、易解体性を実現可能な新たな手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、重合体を構成するモノマー単位として、下記式(1)
【化1】
に示されるエチレンカーボネート構造を有するエチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含む(メタ)アクリル酸エステル重合体を分散質として含有するエマルション、または、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体を含有する微粒子と、前記エチレンカーボネート構造中におけるカルボニル基を構成する炭素原子に対して求核攻撃を行い、それにより前記エチレンカーボネート構造を分解して、二酸化炭素を脱離させることが可能な触媒とを含有することを特徴とする樹脂組成物を提供する(発明1)。
【0011】
上記発明(発明1)に係る樹脂組成物では、(メタ)アクリル酸エステル重合体中に存在する上記エチレンカーボネート構造が、上記触媒の作用のもと、加熱処理によって分解し、二酸化炭素が放出される。そのため、上記樹脂組成物を材料として形成された樹脂膜(粘着剤層等)が、その他の対象物と密着している場合でも、樹脂膜と対象物との界面に上記二酸化炭素が溜まり、それによって密着性が低減するものとなる。結果として、対象物から樹脂膜を容易に分離することが可能となる。
【0012】
上記発明(発明1)において、前記分散質の粒径(D50)は、10nm以上、1μm以下であり、前記微粒子の平均粒径は、10nm以上、1μm以下であることが好ましい(発明2)。
【0013】
上記発明(発明1,2)において、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体は、当該重合体を構成するモノマー単位として、前記エチレンカーボネート含有モノマーを10質量%以上、99.9質量%以下で含むことが好ましい(発明3)。
【0014】
上記発明(発明1~3)において、前記エチレンカーボネート含有アクリルモノマーは、下記式(2)または下記式(3)で示される化合物であることが好ましい(発明4)。
【化2】
(式中、nは0以上の整数を表す。)
【化3】
(式中、nは0以上の整数を表す。)
【0015】
上記発明(発明1~4)において、前記触媒は、求核性アニオンを発生させることが可能な求核性アニオン発生剤であり、前記求核性アニオンは、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)および水酸化物イオン(OH-)の少なくとも一種であることが好ましい(発明5)。
【0016】
上記発明(発明1~5)において、前記触媒は、臭化テトラブチルアンモニウムおよびフッ化テトラ-N-ブチルアンモニウムの少なくとも1種であることが好ましい(発明6)。
【0017】
上記発明(発明1~6)において、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アクリル酸を含むことが好ましい(発明7)。
【0018】
上記発明(発明1~7)において、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体は、前記エチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含むモノマー単位を乳化重合することで得られるものであることが好ましい(発明8)。
【0019】
上記発明(発明1~8)において、前記微粒子は、前記エチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含むモノマー単位を乳化重合することで、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体を分散質として含むエマルションを生成した後、当該エマルションを構成する分散媒を除去させて得られる残留物を粉砕することで得られるものであることが好ましい(発明9)。
【0020】
第2に本発明は、前記樹脂組成物(発明1~9)から形成されたことを特徴とする樹脂膜を提供する(発明10)。
【0021】
第3に本発明は、前記樹脂膜(発明11)と、前記樹脂膜の少なくとも一方の面に設けられた部材とを備えることを特徴とする物品を提供する(発明11)。
【0022】
第4に発明は、前記物品(発明11)における前記樹脂膜と前記部材とを分離させる分離方法であって、前記樹脂膜を加熱することで、前記エチレンカーボネート構造を分解して、二酸化炭素ガスを発生させる工程と、前記樹脂膜と前記部材との界面に溜まった前記二酸化炭素ガスによって、前記樹脂膜と前記部材とを分離させる工程を含むことを特徴とする分離方法を提供する(発明12)。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る樹脂組成物は、易解体性を実現可能な新たな手段を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例に係る解体性確認用サンプルについて、加熱後の発泡の様子と、剥離する際の様子とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔樹脂組成物〕
本実施形態に係る樹脂組成物は、重合体を構成するモノマー単位として、下記式(1)
【化4】
に示されるエチレンカーボネート構造を有するエチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含む(メタ)アクリル酸エステル重合体を分散質として含有するエマルション、または、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体を含有する微粒子と、
上記エチレンカーボネート構造中におけるカルボニル基を構成する炭素原子に対して求核攻撃を行い、それにより上記エチレンカーボネート構造を分解して、二酸化炭素を脱離させることが可能な触媒とを含有する。
【0026】
本実施形態に係る樹脂組成物では、上記エチレンカーボネート構造が、上記触媒の作用によって分解し、二酸化炭素を放出することができる。このような性質を有する樹脂組成物を用いることで、易解体性に優れた製品を製造することが可能となる。すなわち、上記の通り放出される二酸化炭素を、製品を構成する部材同士の密着性の低減に利用することができ、その結果として、当該製品を容易に解体することが可能となる。例えば、本実施形態に係る樹脂組成物を材料として製造された粘着シートによって、部材同士が貼合されている場合には、上述したエチレンカーボネート構造の分解によって二酸化炭素を生じさせることにより、当該二酸化炭素を粘着シートと部材との界面に溜め、粘着シートと部材とを物理的に引き離すことが可能となる。
【0027】
なお、上述した触媒としては、例えば、所定の刺激によって求核性アニオンを発生させることが可能な求核性アニオン発生剤が好適である。当該求核性アニオンは、エチレンカーボネート構造中におけるカルボニル基を構成する炭素原子に対して求核攻撃を行い、それによって効率的なエチレンカーボネート構造の分解が可能となる。そして、上記求核性アニオン発生剤として、加熱により求核性アニオンを発生するものを使用した場合には、外部刺激として加熱することによって、本実施形態に係る樹脂組成物が使用された製品の解体が可能となる。
【0028】
1.エマルション・微粒子
本実施形態におけるエマルションとしては、上述した(メタ)アクリル酸エステル重合体を分散質として含有するものである限り特に限定されない。また、本実施形態における微粒子は、上述した(メタ)アクリル酸エステル重合体を含有するものである限り特に限定されない。
【0029】
しかしながら、本実施形態におけるエマルションは、上述したエチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含むモノマー単位を乳化重合することで得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体を分散質として含むエマルションであることが好ましい。さらに、本実施形態における微粒子は、当該エマルションを構成する分散媒を除去して得られる残留物を粉砕することで得られる微粒子であることが好ましい。
【0030】
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、重合体を構成するモノマー単位として、上記式(1)に示されるエチレンカーボネート構造を有するエチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含む限り、特に制限されない。
【0031】
上記エチレンカーボネート含有アクリルモノマーとしては、エチレンカーボネート構造を含むとともに、(メタ)アクリロイル基(構造)を有するモノマーであれば限り特に限定されない。エチレンカーボネート含有アクリルモノマーの好ましい例としては、エチレンカーボネート構造を有する有機基と(メタ)アクリロイルオキシ基とが結合した構造を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。このような(メタ)アクリル酸エステルの例としては、下記式(2)
【化5】
で示されるアクリル酸エステル、または下記式(3)
【化6】
で示されるメタクリル酸エステル、または下記式(4)
【化7】
で示されるメタクリル酸エステルが挙げられる。なお、式(2)から式(4)のいずれにおいても、nおよびmは0以上の整数、Xは水素、又はメチル基を表す。
【0032】
上記式(2)から式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステルの中でも、良好に二酸化炭素ガスを放出し易いという観点から、nおよびmのそれぞれが1以上である(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、nおよびmのそれぞれが2以上である(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。上記nおよびmのそれぞれの上限値は特に限定されないが、重合性の観点から、10以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、特に4以下であることが好ましく、さらには3以下であることが好ましい。これらの中でも、上記式(2)および式(3)において、n=1である(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、特に式(3)においてn=1であるメタアクリル酸(2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルが好ましい。なお、エチレンカーボネート含有モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
エチレンカーボネート含有モノマーは、特開2006-335971号公報に開示されているように、エポキシ基を有する(メタ)アクリレートのエポキシ基にCO2を付加してカーボネート基を導入することにより製造することができる。すなわち、エチレンカーボネート含有モノマーを使用する本実施形態に係る(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、二酸化炭素を製造原料として製造することができ、したがって二酸化炭素の有効利用を図ることができる。
【0034】
本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、エチレンカーボネート含有アクリルモノマーを、1質量%以上含有することが好ましく、特に5質量%以上含有することが好ましく、さらには10質量%以上含有することが好ましい。これにより、本実施形態に係る樹脂組成物から形成された樹脂膜が二酸化炭素を良好に発生し易いものとなる。また、本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、エチレンカーボネート含有アクリルモノマーを、99.9質量%以下で含有することが好ましく、特に99.5質量%以下で含有することが好ましく、さらには99.0質量%以下で含有することが好ましい。これにより、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、その他の構成モノマーを十分に含むものとなり、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が所望の性能を有し易いものとなる。
【0035】
本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、重合体を構成するモノマー単位として、上述したエチレンカーボネート含有アクリルモノマー以外のモノマーを含有してもよい。例えば、当該モノマーの例としては、アルキル基の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基等の反応性官能基を含有するモノマー;アルコキシアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル;フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリルアミド、メタクリルアミド等の非架橋性のアクリルアミド;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の非架橋性の3級アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル;スチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
上述した中でも、本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシ基を含有するモノマーに該当するアクリル酸を含むことが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル共重合体がアクリル酸を含むことにより、得られるエマルションの粒径(D50)または微粒子の平均粒径の調整が容易となる。
【0037】
本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、重合体を構成するモノマー単位としてアクリル酸を含む場合、その含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、特に0.3質量%以上であることが好ましく、さらには0.5質量%以上であることが好ましい。また、上記含有量は、99質量%以下であることが好ましく、特に98質量%以下であることが好ましく、さらには97質量%以下であることが好ましい。これにより、(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の上述したエチレンカーボネート構造の量を十分に確保しつつ、得られるエマルションの粒径(D50)または微粒子の平均粒径を調整し易いものとなる。
【0038】
本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル重合体は、前述の通り、エチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含むモノマー単位を乳化重合することで得られるものであることが好ましい。当該乳化重合の手法としては従来公知のものを使用することができる。例えば、前述したエチレンカーボネート含有アクリルモノマーと、所望により前述したその他のモノマーと、乳化剤とを分散媒としての水中で撹拌した後、そこへ重合開始剤を添加し、所定の温度で撹拌することで乳化重合を進行させることができる。
【0039】
上記乳化剤としては特に制限は無いものの、分散安定性を向上させる観点から、アニオン系乳化剤またはノニオン系乳化剤が好ましく、アニオン系乳化剤がより好ましい。
【0040】
アニオン系乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、アリルアルキルスルホコハク酸エステル塩等が挙げられる。また、ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩が特好ましい。これらの乳化剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
乳化剤の含有量としては、乳化重合反応の安定性の観点、および、未反応の乳化剤が残存することによる物性低下を防ぐ観点から、全モノマーの総量100質量に対して、1質量部以上であることが好ましく、特に3質量部以上であることが好ましく、さらには5質量部以上であることが好ましい。また、乳化剤の含有量は、全モノマーの総量100質量に対して、30質量部以下であることが好ましく、特に25質量部以下であることが好ましく、さらには20質量部以下であることが好ましい。
【0042】
上記重合開始剤としては、水溶性、油溶性のいずれであってもよく、例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド等のアゾ系化合物、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物等が挙げられ、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせや、過酸物とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせ等からなるレドックス開始剤を用いてもよい。重合開始剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、重合安定性に優れているという観点から、過硫酸アンモニウムが好ましい。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
重合開始剤の含有量としては、重合速度を速める観点から、全モノマーの総量100質量に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、特に0.5質量部以上であることが好ましく、さらには1質量部以上であることが好ましい。また、重合開始剤の含有量は、全モノマーの総量100質量に対して、10質量部以下であることが好ましく、特に7質量部以下であることが好ましく、さらには5質量部以下であることが好ましい。
【0044】
重合開始剤の添加後における、温度および撹拌の条件としては、分散質が十分に分散する条件であればよいものの、例えば、温度としては、60~90℃であることが好ましく、特に65~85℃であることが好ましく、さらには70~80℃であることが好ましい。また、撹拌の条件としては、50~200rpmとすることが好ましく、特に70~180rpmとすることが好ましく、さらには100~150rpmとすることが好ましい。さらに、撹拌の時間としては、10~180分とすることが好ましく、特に10~60分とすることが好ましく、さらには10~30分とすることが好ましい。
【0045】
また、乳化重合により得られたエマルションに対して、さらに、アンモニア水、各種水溶性アミン、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ水溶液を添加して、pH5~9に調整することが好ましく、特にpH6~8.5に調整することが好ましい。これにより、分散の安定性を向上させることが可能となる。
【0046】
得られたエマルションの固形分濃度は、好ましくは10~80質量%、より好ましくは25~70質量%、更に好ましくは45~65質量%である。
【0047】
また、得られたエマルションでは、(メタ)アクリル酸エステル共重合体から構成される分散質の粒径(D50)が、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましく、特に50nm以上であることが好ましく、さらには100nm以上であることが好ましい。また、上記粒径(D50)は、1μm以下であることが好ましく、特に0.8μm以下であることが好ましく、さらには0.6μm以下であることが好ましい。分散質の上述した粒径(D50)が上記範囲であることで、本実施形態に係る樹脂組成物から形成された樹脂膜が厚さの選択肢が増え、十分な二酸化炭素を放出し易いものとなり、幅広い分野の易解体性の用途に適用できる。なお、上記粒径(D50)の測定方法の詳細は、後述する実施例に記載の通りである。
【0048】
上記の通り得られたエマルションから分散媒を除去する方法としては、特に限定されず、例えば、所定の温度環境下にエマルションを静置して、分散媒を乾燥させることが挙げられる。この場合の温度としては、25℃以上であることが好ましく、特に40℃以上であることが好ましく、さらには45℃以上であることが好ましい。また、上記温度は、100℃以下であることが好ましく、特に90℃以下であることが好ましく、さらには80℃以下であることが好ましい。さらに、乾燥時間としては、1時間以上であることが好ましく、特に2時間以上であることが好ましく、さらには3時間以上であることが好ましい。また、当該時間は、72時間以下であることが好ましく、特に48時間以下であることが好ましく、さらには24時間以下であることが好ましい。上記の通り得られたエマルションから分散媒を除去する方法としては、ろ過、遠心分離などを行ってもよい。なお、微粒子の表面に残存する界面活性剤を除去する目的で、微粒子を水や各種有機溶媒を用いて洗浄してもよい。
【0049】
上記の通りエマルションから分散媒を除去することにより、分散質が残留物として残る。この残留物を粉砕して微粒子を得る方法としても特に限定されず、例えば、凝集の状態に応じて適宜選択でき、例えば、乳鉢粉砕、ハンマーミル、ジョットミル、ビーズミルなどの乾式粉砕手段といった方法が挙げられる。
【0050】
以上のように得られる微粒子の平均粒径は、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、特に30nm以上であることが好ましく、さらには100nm以上であることが好ましい。平均粒径が10nm以上であることで、本実施形態に係る樹脂組成物から形成された樹脂膜が十分な二酸化炭素を放出し易いものとなる。また、上記平均粒径は、1μm以下であることが好ましく、特に0.9μm以上であることが好ましく、さらには0.8μm以下であることが好ましい。平均粒径が上記範囲であることで、本実施形態に係る樹脂組成物中において微粒子が良好に混合・分散し易くなる。なお、微粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡を用いた観察により測定されるものであり、その詳細は後述する実施例に記載の通りである。
【0051】
2.触媒
本実施形態における触媒としては、上記エチレンカーボネート構造中におけるカルボニル基を構成する炭素原子に対して求核攻撃を行い、それにより上記エチレンカーボネート構造を分解して、二酸化炭素を脱離させることが可能である限り、特に限定されない。触媒の例としては、求核性アニオンを発生させることが可能な求核性アニオン発生剤が好ましく、特に、所定の外部刺激に応じて求核性アニオンを発生させることが可能な求核性アニオン発生剤が好ましい。
【0052】
上記求核性アニオンの例としては、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、水酸化物イオン(OH-)等が挙げられ、これらのなかでも、フッ化物イオン(F-)および臭化物イオン(Br-)が好ましく、特にフッ化物イオン(F-)が好ましい。また、求核性アニオン発生剤を構成するカチオンの例としては、第四級アンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピぺリジニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等が挙げられ、これらの中でも第四級アンモニウムカチオンが好ましい。
【0053】
上記求核性アニオン発生剤の好ましい具体例としては、テトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、テトラブチルホスホニウムブロミド、水酸化ナトリウム等が挙げられ、これらの中でもテトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)およびテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)が好ましい。なお、これらの記求核性アニオン発生剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
上記外部刺激としては、加熱、活性エネルギー線の照射(レーザ照射、マイクロ波照射、紫外線照射など)等が挙げられ、これらの中でも加熱が好ましい。加熱は、処理が容易であり、また、本実施形態に係る樹脂組成物から形成された樹脂膜が製品の深部にある場合でも、その他の場合に比べて、刺激を到達させ易いため好適である。
【0055】
本実施形態に係る樹脂組成物中における触媒の含有量は、前述したエマルションまたは微粒子100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、特に0.1質量部以上であることが好ましく、さらには1質量部以上であることが好ましい。また、触媒の含有量は、前述したエマルションまたは微粒子100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、特に7質量部以下であることが好ましく、さらには5質量部以下であることが好ましい。触媒の含有量が上記範囲であることで、効率的に二酸化炭素を発生させ易いものとなる。
【0056】
3.その他の成分
本実施形態に係る樹脂組成物は、前述したエマルション、微粒子および触媒以外の成分を含有してもよい。特に、そのようなその他の成分は、本実施形態に係る樹脂組成物から形成される樹脂膜の種類に応じて適宜選択することができる。
【0057】
例えば、樹脂膜として粘着剤層を形成する場合には、樹脂組成物は、主材として粘着成分を含有することが好ましく、その例としてはアクリル系粘着剤(アクリル系ポリマー)等が挙げられる。また、樹脂膜として表面コート層を形成する場合には、樹脂組成物は、主材として硬化性成分等を含有することが好ましい。
【0058】
4.樹脂組成物の調製方法
本実施形態に係る樹脂組成物の調製方法は、特に限定されず、例えば、前述したエマルションまたは微粒子と、触媒と、所望によりその他の成分とを、溶媒中で混合することで得ることができる。
【0059】
〔樹脂膜・物品〕
本発明の別の実施形態は、前述した樹脂組成物から形成される樹脂膜および当該樹脂膜を備える物品に関する。
【0060】
本実施形態に係る樹脂膜としては、本実施形態に係る樹脂組成物から形成されるものであれば特に限定されない。樹脂膜の具体的な例としては、粘着剤層や接着剤層、自立膜の他、所定の基材等の表面に形成される表面コート層やアンカーコート層が挙げられる。なお、本明細書における「自立膜」とは、支持体が存在せずとも、破損することなく、それ単独で取り扱いが可能な強度を有し、膜形状を維持し得る膜をいう。
【0061】
本実施形態に係る樹脂膜は、例えば、樹脂膜が粘着剤層である場合には、基材(フィルム、紙など)の少なくとも一方の面に樹脂膜が設けられた粘着シートや、樹脂膜の両方の面に剥離材が設けられた粘着シートなどの形態となる。また、樹脂膜が表面コート層である場合には、例えば、基材(フィルム、紙など)と、当該基材に設けられた表面コート層とを備えるコートフィルム等が挙げられる。樹脂膜が自立膜である場合、物品としては、当該自立膜を備える粘着シートやハードコートフィルムであってもよいし、当該自立膜のみからなる基材フィルムであってもよい。
【0062】
また、本実施形態に係る物品は、上記樹脂膜とともに、当該樹脂膜の少なくとも一方の面に設けられた部材とを備えることが好ましい。上記樹脂膜は、外部刺激として加熱することによって、二酸化炭素を放出するため、部材と樹脂膜の解体が可能となる。上記部材の材質は、とくに制限されない。たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレンのようなポリオレフィン;ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタールのようなエンジニアリングプラスチック;金属、ガラス、ゴムが挙げられる。このような物品の用途例としては、特に限定されず、たとえば、自動車や車両(新幹線、電車)、電気製品、建材、木工、製本包装などの用途に使用することができる。自動車関連の用途としては、天井、ドア、シート等の内装材の接着、ランプなどの自動車照明灯具、サイドモール等の外装材の接着やシールなどを挙げることができる。具体的には、自動車照明灯具を製造する際に光源を保持するプラスチック製のハウジングと光源を保護するレンズとを接合してシールするのに好適に用いることができる。また、電気関連の用途としては、ランプシェイド、スピーカ等の組立等を挙げることができる。さらに、建材や木工関係での用途としては、建築現場、建材の工場製造におけるドア、アクセスフロア、複層床、家具組立、縁貼り、プロファイルラッピング等の接着等が挙げられる。
【0063】
さらに、本発明の別の実施形態は、本実施形態に係る物品を構成する部材同士を分離させる分離方法に関し、特に、上記物品における上記樹脂膜と上記部材とを分離させる分離方法に関する。
【0064】
当該分離方法は、上記樹脂膜を加熱することで、上記エチレンカーボネート構造を分解して、二酸化炭素ガスを発生させる工程(ガス発生工程)と、上記樹脂膜と上記部材との界面に溜まった上記二酸化炭素ガスによって、上記樹脂膜と上記部材とを分離させる工程(分離工程)とを含むことが好ましい。
【0065】
上記ガス発生工程における加熱の条件としては、物品の形態に応じて適宜設定できるものの、例えば、温度としては、150℃~250℃とすることが好ましく、特に160℃~230℃とすることが好ましく、さらには170℃~200℃とすることが好ましい。また、加熱の時間としては、1分~30分とすることが好ましく、特に2分~15分とすることが好ましく、さらには3分~10分とすることが好ましい。
【0066】
また、加熱の手段としては、特に限定されず、例えば、オーブン内で加熱する方法、ヒートガンで加熱する方法、ホットプレートで加熱する方法等が挙げられる。
【0067】
上記加熱後、樹脂膜と部材との界面に十分な二酸化炭素ガスが溜まるまで、物品を静置することが好ましい。十分に二酸化炭素ガスが溜まった後に、続く分離工程が行われる。
【0068】
上記分離工程では、上記樹脂膜と上記部材とを引き離す処理を行ってもよく、あるいは、自然落下・自然崩壊により上記樹脂膜と上記部材とを分離させてもよい。
【0069】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例0070】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0071】
[エマルションおよび微粒子の調製]
〔調製例1〕
前述した式(3)においてnが2であるエチレンカーボネート含有アクリルモノマー(二酸化炭素を製造原料として製造されたモノマー)20質量部と、アクリル酸0.2質量部と、乳化剤としてのポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩(日本乳化剤社製,製品名「ニューコール707SF」)1質量部と精製水130質量部とを含む溶液を、70℃および170rpmの条件で撹拌した。
【0072】
続いて、上記溶液に対して、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム(APS)0.3質量部を添加した後、70℃および160rpmの条件で撹拌しながら、乳化重合法により10分間重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体を調製した。これにより、分散媒としての水中に、分散質としての(メタ)アクリル酸エステル重合体が分散してなるエマルションを得た。
【0073】
得られたエマルションにおいては、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成するエチレンカーボネート含有アクリルモノマーと、アクリル酸との質量比は約99:1であり、モル比は約37:1となる。また、上記エマルションの固形分濃度を算出すると、14.4質量%となる。さらに、エマルション中の分散質((メタ)アクリル酸エステル重合体)の粒度分布をDLS法で測定したところ、粒径(D50)は142nmであった。
【0074】
上記の通り得られたエマルションを、50℃の環境下に一晩静置することで、分散媒を乾燥させた。乾燥後に残った残留物を、乳鉢を用いて粉砕することで微粒子を得た。当該微粒子を、オスミウム蒸着した後に、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。得られた画像の円検出と二値化処理を行ったところ、平均粒径が132nmであった。
【0075】
さらに、得られたエマルションにおけるエチレンカーボネート含有アクリルモノマーの配合量から、エマルションに使用(固定)された二酸化炭素の量(質量比)を、CO2固定化量として算出したところ、27.6%であった。なお、この算出は、CO2の分子量(=44)を、エチレンカーボネート含有アクリルモノマー(A)の分子量(=158)で除して、百分率で表することで行った。
【0076】
[樹脂組成物]
〔実施例1-1〕
調製例1で製造したエマルション100質量部(固形分換算値,以下同様)と、触媒としてのテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)5質量部とを混合し、50℃の環境下に一晩静置することで、分散媒を乾燥させた。乾燥後に残った残留物(樹脂組成物)を得た。
【0077】
〔実施例1-2~1-8〕
触媒の種類および含有量を表1に記載の通り変更した以外、実施例1-1と同様にして樹脂組成物を得た。なお、表2中、「TBAB」は前述したテトラブチルアンモニウムブロミドを意味し、「TBAF」はテトラブチルアンモニウムフルオリドを意味する。
【0078】
〔比較例1-1〕
触媒を使用しないこと以外、実施例1-1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0079】
〔試験例1-1〕(5%重量減少温度の測定)
実施例1-1~1-8で作製した樹脂組成物について、示差熱・熱重量同時測定装置(株式会社島津製作所製,製品名「DTG-60」)を用い、JIS K7120:1987に準拠して、5%重量減少温度を測定した。結果を表1に示す。
【0080】
【0081】
表1の実施例1-1~1-4および実施例1-5~1-8のそれぞれからわかるように、基本的に触媒の量が多いほど、5%重量減少温度が低いという結果となった。これは、触媒の量が多いほど、エチレンカーボネート含有アクリルモノマーに由来するエチレンカーボネート構造の分解が効率的に進行し、効率的に二酸化炭素が放出されたことによるものと推定される。
【0082】
また、実施例1-1~1-4と実施例1-5~1-8との比較から、触媒として、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)を使用した場合に比べて、テトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)を使用した方が、5%重量減少温度が低くなり、すなわち、エチレンカーボネート構造の分解が効率的に進行することがわかった。
【0083】
[粘着シート]
〔実施例2-1〕
n-ブチルアクリレート95質量部と、アクリル酸5質量部とを乳化重合法により共重合させることで、粘着成分の主材としての(メタ)アクリル酸エステル共重合体を得た。当該主材100質量部(固形分換算値36質量%,以下同様)と、調製例1で製造したエマルション10質量部と、触媒としてのテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)2質量部とを混合し、固形分濃度33質量%の樹脂組成物(粘着剤組成物)の塗布液を得た。
【0084】
得られた塗布液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した重剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET752150」)の剥離処理面に、コーターで塗布した。そして、塗布層に対し、100℃で2分間加熱処理して塗布層を形成した。次いで、上記で得られた重剥離型剥離シート上の塗布層と、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した軽剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET381031」)とを、当該軽剥離型剥離シートの剥離処理面が塗布層に接触するように貼合し、厚さ25μmの粘着剤層を有する粘着シート、すなわち、重剥離型剥離シート/粘着剤層(厚さ:25μm)/軽剥離型剥離シートの構成からなる粘着シート1を作製した。また上記で得られた重剥離型剥離シート上の塗布層と、アルミ箔とポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせた複合基材(アルペット厚さ:40μm)とを、当該軽剥離型剥離シートの剥離処理面が塗布層に接触するように貼合して粘着シート2を作製した。
【0085】
〔実施例2-2および2-3〕
調製例1で製造したエマルションの含有量、並びに、触媒の種類および含有量を表2に記載の通り変更した以外、実施例2-1と同様にして粘着シートを得た。なお、表2中、「TBAB」は前述したテトラブチルアンモニウムブロミドを意味し、「TBAF」はテトラブチルアンモニウムフルオリドを意味する。
【0086】
〔比較例2-1〕
触媒を使用しないこと以外、実施例2-1と同様にして粘着シートを得た。
【0087】
〔試験例2-1〕(5%重量減少温度の測定)
実施例2-1~2-3および比較例2-1で作製した粘着剤層を構成する粘着剤について、示差熱・熱重量同時測定装置(株式会社島津製作所製,製品名「DTG-60」)を用い、JIS K7120:1987に準拠して、5%重量減少温度を測定した。結果を表2に示す。
【0088】
〔試験例2-2〕(発泡性の評価)
実施例2-1~2-3および比較例2-1で製造した粘着シートから剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層の露出面をガラス板に貼付し、これを気泡確認用サンプルとした。当該気泡確認用サンプルを、180℃の恒温槽に1分間投入することで加熱し、当該加熱の前後において、粘着剤層とガラス板との界面における気泡の発生の有無を確認した。そして、以下の基準に基づいて、発泡性について評価した。結果を表2に示す。
◎:界面において、全体的に気泡の発生が確認された。
〇:界面において、部分的に気泡の発生が確認された。
×:界面において、気泡の発生を殆ど確認できなかった。
【0089】
〔試験例2-3〕(易解体性の評価)
実施例2-1~2-3および比較例2-1で製造した粘着シートから剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層の露出面をガラス板に貼付し、これを解体性確認用サンプルとした。当該解体性確認用サンプルを、200℃のホットプレート上に設置して2分間加熱した。当該加熱中に、粘着剤層とガラス板との界面を手作業にて剥離を試みた。そして、以下の基準に基づいて、解体性について評価した。結果を表2に示す。
◎:手剥がしにて容易に剥離が可能であった。
〇:手剥がしにて比較的容易に剥離が可能であった。
×:手剥がしにて、剥がすことが困難であった。
【0090】
なお、
図1には、実施例2-2に係る解体性確認用サンプルについて、加熱後の発泡の様子(
図1a)と、剥離する際の様子(
図1b)とを示す。
【0091】
【0092】
表2に示されるように、実施例2-1~2-3に係る粘着シートでは、粘着剤層の5%重量減少温度が参考例に比べて低い温度となった。そして、5%重量減少温度が低いほど、発泡性の評価結果に優れる(すなわち、気泡の発生が多い)という結果となった。
【0093】
上記結果は、実施例2-1~2-3に係る粘着剤層において、(メタ)アクリル酸エステル重合体中のエチレンカーボネート構造が熱によって分解したことに起因すると推定される。すなわち、実施例2-1~2-3では、エチレンカーボネート構造の分解により二酸化炭素が粘着剤層から放出され、これにより、重量減少が早まるとともに、気泡が多く発生したものと推定される。
本発明の樹脂組成物は、易解体性が求められる製品の製造に好適に使用することができる。具体的には、塗料、接着剤、粘着剤、紙加工、染料、繊維加工、印刷インキ、セメント混和剤、コート剤、フィルム等の広い分野にわたって有用である。