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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019505
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】可変バルブタイミング機構の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/02 20060101AFI20250131BHJP
【FI】
F02D13/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123142
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】椛澤 直矢
(72)【発明者】
【氏名】小須田 雅貴
(72)【発明者】
【氏名】松尾 宣彦
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AA01
3G092AA06
3G092AA11
3G092AB02
3G092BA03
3G092BA04
3G092BA09
3G092BB01
3G092BB06
3G092DA09
3G092DA10
3G092EA03
3G092EA04
3G092EC01
3G092FA06
3G092HB01Z
3G092HB02Z
3G092HC09Z
3G092HE01Z
3G092HE03Z
3G092HE06Z
3G092HE08Z
(57)【要約】
【課題】カムシャフトの回転角度を早期に校正することで、オーバーシュートを抑制して制御性を向上させる。
【解決手段】VVT機構の制御装置は、歯欠け部が形成されたクランクシグナルプレートの歯部を検知してパルス状のクランク信号を出力するクランク角センサのクランク信号、及び気筒判別信号を出力するカム角センサのカム信号を入力して、クランクシャフトに対するカムシャフトの位相角度を変化させてバルブタイミングを変更する。このとき、VVT機構の制御装置は、エンジン停止時にVVT機構を所定角度に制御する。また、VVT機構の制御装置は、エンジン始動時にクランク信号から歯欠け部が検知されたとき(S20)、歯欠け部によって特定されるカムシャフトの回転角度に応じてカムシャフトの回転角度を校正し(S21)、校正したカムシャフトの回転角度に応じてVVT機構を目標角度に制御する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯欠け部が形成されたクランクシグナルプレートの歯部を検知してパルス状のクランク信号を出力するクランク角センサのクランク信号、及び気筒判別信号を出力するカム角センサのカム信号を入力して、クランクシャフトに対するカムシャフトの位相角度を変化させてバルブタイミングを変更する可変バルブタイミング機構の制御装置であって、
エンジン停止時に前記可変バルブタイミング機構を所定角度に制御し、
エンジン始動時に前記クランク信号から前記歯欠け部が検知されたとき、前記歯欠け部によって特定される前記カムシャフトの回転角度に応じて前記カムシャフトの回転角度を校正し、
前記校正したカムシャフトの回転角度に応じて前記可変バルブタイミング機構を目標角度に制御する、
可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項2】
前記所定角度は、前記可変バルブタイミング機構の最遅角位置である、
請求項1に記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項3】
歯欠け部が形成されたクランクシグナルプレートの歯部を検知してパルス状のクランク信号を出力するクランク角センサのクランク信号、及び気筒判別信号を出力するカム角センサのカム信号を入力して、クランクシャフトに対するカムシャフトの位相角度を変化させてバルブタイミングを変更する可変バルブタイミング機構の制御装置であって、
エンジン始動時に前記カム信号が入力されたとき、前記カム信号によって特定される前記カムシャフトの回転角度に応じて前記カムシャフトの回転角度を校正し、
前記校正したカムシャフトの回転角度に応じて前記可変バルブタイミング機構を目標角度に制御する、
可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項4】
前記校正したカムシャフトの回転角度に応じてカムトルクを求め、
前記カムトルクに応じて前記クランクシャフトに対する前記カムシャフトの位相角度を推定する、
請求項1~請求項3のいずれか1つに記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項5】
前記カムシャフトの回転角度の校正は、前記歯欠け部の検知に応答して校正した後、前記カム信号が入力されるたびに行われる、
請求項4に記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相を変化させてバルブタイミングを変更する、可変バルブタイミング(VVT;Variable Valve Timing)機構の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
VVT機構の制御装置は、特開2020-79581号公報(特許文献1)に記載されるように、クランク信号及びカム信号から推定されたカムトルクを考慮して、クランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相を推定している。ここで、VVT機構の制御装置は、クランク信号及びカム信号からカムシャフトの回転角度を求め、カムシャフトの回転角度とカムトルクとの関係が定義されたカムトルクテーブルを参照して、カムシャフトの回転角度からカムトルクを推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-79581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジン始動直後ではカムシャフトの回転角度が不明であるため、デフォルト値である所定値を起点として、クランク信号に同期してカムシャフトの回転角度を求めている。この場合、クランク信号から歯欠けが検知された後にカム信号が入力されるまで、要するに、正規カム信号が検知されるまでカムシャフトの回転角度が校正されず、誤差を含んだカムシャフトの回転角度でカムトルクが推定されてしまう。このように推定されたカムトルクを使用してVVT機構を制御すると、カムトルクの推定値と実値とが乖離している期間が長くなり、その結果としてオーバーシュートが発生して制御性が低下してしまう可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、カムシャフトの回転角度を早期に校正することで、オーバーシュートを抑制して制御性を向上させた、VVT機構の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態によれば、VVT機構の制御装置は、歯欠け部が形成されたクランクシグナルプレートの歯部を検知してパルス状のクランク信号を出力するクランク角センサのクランク信号、及び気筒判別信号を出力するカム角センサのカム信号を入力して、クランクシャフトに対するカムシャフトの位相角度を変化させてバルブタイミングを変更する。このとき、VVT機構の制御装置は、エンジン停止時にVVT機構を所定角度に制御する。また、VVT機構の制御装置は、エンジン始動時にクランク信号から歯欠け部が検知されたとき、歯欠け部によって特定されるカムシャフトの回転角度に応じてカムシャフトの回転角度を校正し、校正したカムシャフトの回転角度に応じてVVT機構を目標角度に制御する。
【0007】
他の実施形態によれば、VVT機構の制御装置は、歯欠け部が形成されたクランクシグナルプレートの歯部を検知してパルス状のクランク信号を出力するクランク角センサのクランク信号、及び気筒判別信号を出力するカム角センサのカム信号を入力して、クランクシャフトに対するカムシャフトの位相角度を変化させてバルブタイミングを変更する。このとき、VVT機構の制御装置は、エンジン始動時にカム信号が入力されたとき、カム信号によって特定されるカムシャフトの回転角度に応じてカムシャフトの回転角度を校正し、校正したカムシャフトの回転角度に応じてVVT機構を目標角度に制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、VVT機構の制御において、カムシャフトの回転角度が早期に校正されるようになり、これによって、オーバーシュートを抑制して制御性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】4サイクルエンジンの制御システムの一例を示す概略図である。
図2】クランクシグナルプレートの一例を示す平面図である。
図3】カムシグナルプレートの一例を示す平面図である。
図4】VVT機構の一例を示す斜視図である。
図5】エンジン制御で使用する各種パラメータの説明図である。
図6】従来技術における問題点を示す説明図である。
図7】第1実施形態における停止時処理の一例を示すフローチャートである。
図8】第1実施形態における始動時処理の一例を示すフローチャートである。
図9】第1実施形態による作用及び効果を示す説明図である。
図10】第2実施形態における始動時処理の一例を示すフローチャートである。
図11】第2実施形態による作用及び効果を示す説明図である。
図12】従来技術に対する第1実施形態及び第2実施形態の利点を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、自動車などの車両に搭載された、4サイクルエンジンの制御システムの一例を示している。
【0011】
エンジン100は、シリンダブロック110と、ピストン120と、クランクシャフト130と、コネクティングロッド140と、シリンダヘッド150と、を備えている。シリンダブロック110には、ピストン120が往復動可能に嵌挿されるシリンダボア110Aが形成されている。シリンダブロック110の下部には、図示しないベアリングを介して、シリンダブロック110に対して相対回転可能にクランクシャフト130が配置されている。そして、ピストン120は、コネクティングロッド140を介して、クランクシャフト130に対して相対回転可能に連結されている。
【0012】
シリンダヘッド150には、吸気を導入する吸気ポート150A、及び排気を排出する排気ポート150Bが夫々形成されている。そして、シリンダヘッド150がシリンダブロック110の上面に締結されることで、シリンダブロック110のシリンダボア110A、ピストン120の冠面、及びシリンダヘッド150の下面によって区画される領域が燃焼室160として機能する。燃焼室160を臨む吸気ポート150Aの開口端には、吸気カムシャフト170によって開閉駆動される吸気バルブ180が配置されている。また、燃焼室160を臨む排気ポート150Bの開口端には、排気カムシャフト190によって開閉駆動される排気バルブ200が配置されている。
【0013】
燃焼室160を臨むシリンダヘッド150の所定箇所には、燃焼室160に燃料を直接噴射する電磁式の燃料噴射弁210、及び燃料と吸気との混合気を着火燃焼させる点火プラグ220が夫々取り付けられている。なお、燃料噴射弁210は、燃焼室160に燃料を直接噴射する構成に限らず、吸気ポート150Aに燃料を噴射する構成、又はこれらの両方を有する構成であってもよい。
【0014】
クランクシャフト130の端部には、クランクシグナルプレート230が取り付けられている。クランクシグナルプレート230は、図2に示すように、円板形状のプレート部230A、及びプレート部230Aの外周端から半径外方に向かって任意の所定角度ごとに延びる複数の歯部230Bが一体化された被検知部材である。また、クランクシグナルプレート230には、歯部230Bの一部が欠損されることで、クランク角度360°における角度の基準を規定する歯欠け部230Cが形成されている。ここで、図2に示すクランクシグナルプレート230の一例では、歯欠け部230Cが2つの歯部230Bを欠損させて形成されているが、任意数の歯部230Bを欠損させて歯欠け部230Cを形成するようにしてもよい。
【0015】
4気筒エンジンの場合、クランクシグナルプレート230は、例えば、所定角度を10°として、34個の歯部230Bと、2個の歯部230Bが欠損された30°に亘る歯欠け部230Cと、を有している。なお、クランクシグナルプレート230は、2つ以上の歯欠け部230Cを有していてもよい。
【0016】
シリンダブロック110の下部であって、クランクシグナルプレート230の外周端に対面する所定箇所には、クランクシグナルプレート230の歯部230Bを検知して、パルス状のクランク信号CRSを出力するクランク角センサ240が取り付けられている。
【0017】
吸気カムシャフト170の端部には、カムシグナルプレート250が取り付けられている。カムシグナルプレート250は、図3に示すように、円板形状のプレート部250A、及びプレート部250Aの外周端の一部から半径外方に向かって延びる円弧形状の延設部250Bが一体化された被検知部材である。
【0018】
また、シリンダヘッド150の上部であって、カムシグナルプレート250の外周端に対面する所定箇所には、カムシグナルプレート250の延設部250Bを検知して、矩形形状のカム信号CMSを出力するカム角センサ260が取り付けられている。クランクシャフト130が2回転する間に、クランク角センサ240がクランクシグナルプレート230の歯欠け部230Cを検知した2箇所の歯欠け位置において、例えば、1回転目の歯欠け位置でLOW信号を出力し、2回転目の歯欠け位置でHIGH信号を出力するように、カムシグナルプレート250の延設部250Bが形成されている。従って、カム角センサ260は、カムシグナルプレート250の延設部250Bを検知したか否かに応じて、異なるレベルのカム信号CMSを出力する。
【0019】
このようなカム信号CMSを監視することで、吸気カムシャフト170の2倍の回転速度で回転するクランクシャフト130について、吸気カムシャフト170の0°~180°に対応する1回転目(0°~360°)の回転中であるか、吸気カムシャフト170の180°~360°に対応する2回転目(360°~720°)の回転中であるかを区別することができる。要するに、吸気カムシャフト170が1回転する間に、クランクシャフト130が1回転目の回転中であるか、クランクシャフト130が2回転目の回転中であるかを区別することができる。なお、カムシグナルプレート250は、図3に示す形状に限らず、1回転目の歯欠け位置と2回転目の歯欠け位置とで異なるレベルの信号を出力できれば、如何なる形状を有していてもよい。
【0020】
また、吸気カムシャフト170の端部には、クランクシャフト130に対する吸気カムシャフト170の回転位相を変化させることで、吸気バルブ180のバルブタイミングを変更する電動式のVVT機構270が更に取り付けられている。VVT機構270は、図4に示すように、クランクシャフト130の回転駆動力を伝達するカムチェーンが巻き回されたカムスプロケット270Aと一体化され、減速機が内蔵された電動モータ270B(アクチュエータ)によって吸気カムシャフト170に対してカムスプロケット270Aを相対回転させることで、吸気カムシャフト170のバルブタイミングを進角又は遅角させる。ここで、図4において符号270Cで示す要素は、電動モータ270Bへと駆動電流を供給するハーネスを接続するためのコネクタである。なお、VVT機構270は、吸気カムシャフト170に限らず、吸気カムシャフト170及び排気カムシャフト190の少なくとも一方に備え付けられていてもよい。また、VVT機構270は、図4に示す構成を有するものに限らず、周知の構成を有するものであってもよい。
【0021】
クランク角センサ240のクランク信号CRS、及びカム角センサ260のカム信号CMSは、マイクロコンピュータ280Aを内蔵したエンジンコントロールモジュール(ECM)280に夫々入力されている。また、エンジンコントロールモジュール280には、クランク角センサ240及びカム角センサ260の各出力信号に加えて、エンジン100の回転速度Neを検出する回転速度センサ290、エンジン100の負荷Qを検出する負荷センサ300、エンジン100の水温Twを検出する水温センサ310、及び排気中の空燃比A/Fを検出する空燃比センサ320の各出力信号が入力されている。ここで、エンジン100の負荷Qとしては、例えば、吸気流量、吸気負圧、過給圧力、アクセル開度、スロットル開度など、エンジン100の要求トルクと密接に関連する状態量を使用することができる。なお、エンジンコントロールモジュール280が、VVT機構270の制御装置の一例として挙げられる。また、エンジンコントロールモジュール280は、回転速度センサ290から回転速度Neを読み込む代わりに、クランク角センサ240のクランク信号CRSから回転速度Neを算出するようにしてもよい。
【0022】
エンジンコントロールモジュール280は、マイクロコンピュータ280Aの不揮発性メモリ(図示せず)に格納されたアプリケーションプログラムを実行することで、クランク角センサ240、カム角センサ260、回転速度センサ290、負荷センサ300、水温センサ310及び空燃比センサ320の各出力信号に応じて、燃料噴射弁210、点火プラグ220、及びVVT機構270の電動モータ270Bを夫々電子制御する。
【0023】
このとき、エンジンコントロールモジュール280は、クランク角センサ240のクランク信号CRSが10°ごとに発生して分解能が低いことに鑑み、図5に示すように、マイクロコンピュータ280Aに内蔵された逓倍回路(図示せず)を使用して、クランク信号CRSを10逓倍(倍周)した逓倍クランク信号CRS’を生成する。従って、逓倍クランク信号CRS’は、クランクシャフト130が1°回転したことを示すようになる。なお、逓倍クランク信号CRS’は、クランク信号CRSを10逓倍して生成する構成に限らず、例えば、制御精度などを考慮してクランク信号CRSを所定倍率で逓倍して生成するようにしてもよい。
【0024】
ここで、逓倍回路は、連続した2つのクランク信号CRSの出力間隔を逐次計測し、直前のクランク信号CRSの出力間隔を10逓倍した逓倍クランク信号CRS’を生成する。また、逓倍回路は、連続した2つのクランク信号CRSが歯欠け位置を挟んだものである場合、その直前のクランク信号CRSの出力間隔を10逓倍した逓倍クランク信号CRS’を生成する。一方、逓倍回路は、歯欠け位置の直後においては、その直前が歯欠け位置で精度が劣るため、歯欠け位置の直前のクランク信号CRSの出力間隔を10逓倍した逓倍クランク信号CRS’を生成する。
【0025】
また、エンジンコントロールモジュール280は、燃料噴射制御、点火制御及びバルブタイミング制御で使用するパラメータとして、図5に示すように、クランク信号カウンタ、クランク角、及びクランク角度カウンタを使用する。
【0026】
クランク信号カウンタは、クランクシャフト130の回転角度がクランクシグナルプレート230の歯欠け部230Cに対応する位置にあるか否かを判定する歯欠け判定のためのカウンタである。そして、クランク信号カウンタは、クランク信号CRSに同期してカウントアップされ、その計数値が歯欠け判定閾値(所定閾値)以上になったときに、次回のクランク信号CRSの入力によってリセットされる。
【0027】
クランク角は、例えば、#1気筒の上死点(TDC)を起点として、クランクシャフト130の0°~720°を周期的にカウントするカウンタである。そして、クランク角は、クランク信号CRSに同期して角度認識値がカウントアップされ、#1気筒の上死点が検知されたときにリセットされる。
【0028】
クランク角度カウンタは、燃料噴射タイミング、点火タイミング及びバルブタイミングを制御するためのカウンタである。そして、クランク角度カウンタは、クランク信号CRSを10逓倍した逓倍クランク信号CRS’に同期してカウントアップされ、所定気筒の歯欠け判定が行われた後、次回のクランク信号CRSの入力によってリセットされる。このとき、クランク角度カウンタは、クランクシグナルプレート230の歯欠け部230Cを考慮して逐次更新される。
【0029】
なお、クランク信号カウンタ、クランク角及びクランク角度カウンタは、エンジンコントロールモジュール280によってカウント及びリセットされてもよいし、専用の電子回路によってカウント及びリセットされてもよい。
【0030】
エンジンコントロールモジュール280は、回転速度センサ290及び負荷センサ300から回転速度Ne及び負荷Qを夫々読み込み、回転速度Ne及び負荷Qにより特定されるエンジン運転状態に応じた基本燃料噴射量を演算する。また、エンジンコントロールモジュール280は、水温センサ310から水温Twを読み込み、基本燃料噴射量を水温Twで補正した燃料噴射量を演算する。さらに、エンジンコントロールモジュール280は、回転速度Ne、負荷Q及び燃料噴射量に応じて、燃料噴射タイミング及び点火タイミングを夫々演算する。
【0031】
そして、エンジンコントロールモジュール280は、クランク角度カウンタによって特定されるクランクシャフト130の回転角度が燃料噴射タイミングになったとき、燃料噴射量に応じた制御信号を燃料噴射弁210に出力して、燃料噴射弁210から燃焼室160に燃料を噴射させる。また、エンジンコントロールモジュール280は、クランク角度カウンタによって特定されるクランクシャフト130の回転角度が点火タイミングになったとき、点火プラグ220に作動信号を出力して、燃料と吸気との混合気を着火燃焼させる。このとき、エンジンコントロールモジュール280は、空燃比センサ320から空燃比A/Fを読み込み、排気中の空燃比A/Fが目標空燃比に近づくように、燃料噴射弁210をフィードバック制御する。
【0032】
エンジンコントロールモジュール280は、燃料噴射弁210及び点火プラグ220の制御に加えて、以下で説明するように、VVT機構270を電子制御する。即ち、エンジンコントロールモジュール280は、回転速度センサ290及び負荷センサ300から夫々読み込んだ回転速度Ne及び負荷Qに応じて、VVT機構270の目標角度を演算する。また、エンジンコントロールモジュール280は、クランク角度カウンタによって特定されるクランクシャフト130の回転角度、及びカム角センサ260から読み込んだカム信号CMSに応じて吸気カムシャフト170の回転角度を求める。さらに、エンジンコントロールモジュール280は、吸気カムシャフト170の回転角度とカムトルクとが関連付けられたカムトルクテーブルを参照して、上記のように求めた吸気カムシャフト170の回転角度に応じたカムトルクを推定する。その後、エンジンコントロールモジュール280は、VVT機構270の電動モータ270Bに出力している駆動電流に応じたモータ出力トルクを求め、このモータ出力トルク及びカムトルクの推定値からVVT機構270の実角度(VVT角度)を推定する。そして、エンジンコントロールモジュール280は、このように推定されたVVT角度が目標角度に収束するように、VVT機構270の電動モータ270Bに出力する駆動電流をフィードバック制御する。
【0033】
エンジンコントロールモジュール280が上記のようにVVT機構270を電子制御することで、クランクシャフト130に対する吸気カムシャフト170の位相角度がエンジン運転状態に適した角度になり、エンジン出力、燃費性能、排気性状などを同時に改善することができる。
【0034】
ところで、VVT機構270の実角度は、上述したように、クランク角度カウンタによって特定されるクランクシャフト130の回転角度、及びカム角センサ260から読み込んだカム信号CMSに応じて推定されている。しかしながら、エンジン停止時の吸気カムシャフト170の回転角度が不定であるため、エンジン始動直後における吸気カムシャフト170の回転角度が不明である。そこで、従来技術においては、図6に示すように、エンジン始動時にはデフォルト値である所定値を起点として、逓倍クランク信号CRS’に同期して吸気カムシャフト170の回転角度を逐次更新し、これを使用してカムトルクの推定、及びVVT機構270の実角度の推定を行っていた。そして、エンジン始動後において、歯欠け判定が初めて行われた後に初回のカム信号CMSが入力されると、これは正規カム信号であると判断して、吸気カムシャフト170の回転角度を正規カム信号に応じた回転角度にする校正が行われていた。
【0035】
従って、従来技術においては、エンジン始動後に正規カム信号が入力されるまでの期間、誤差を含んだ吸気カムシャフト170の回転角度を使用していたため、図6に示すように、破線で示すカムトルクの推定値と実線で示すカムトルクの実値とが乖離(不一致)している期間が長くなってしまう。その結果として、オーバーシュートが発生して、制御性が低下してしまう可能性があった。
【0036】
そこで、本実施形態では、以下で詳細に説明する制御によって、吸気カムシャフト170の回転角度を早期に校正し、オーバーシュートを抑制して制御性を向上させるようにする。
【0037】
<<第1実施形態>>
第1実施形態では、エンジンコントロールモジュール280は、エンジン停止時にVVT機構270を所定角度、例えば、VVT機構270の最遅角位置に制御する。また、エンジンコントロールモジュール280は、エンジン始動時にクランク信号CRSから歯欠け部230Cが検知されたとき、この歯欠け部230Cによって特定される吸気カムシャフト170の回転角度に応じて、エンジン始動時に所定値を起点として逓倍クランク信号CRS’から求められた吸気カムシャフト170の回転角度を校正する。具体的には、エンジンコントロールモジュール280は、エンジン始動時に所定値を起点として逓倍クランク信号CRS’から求められた吸気カムシャフト170の回転角度を、歯欠け部230Cによって特定される吸気カムシャフト170の回転角度とする。そして、エンジンコントロールモジュール280が、このように校正した吸気カムシャフト170の回転角度に応じて、VVT機構270を目標角度に制御する。なお、エンジンコントロールモジュール280は、上記のように校正した吸気カムシャフト170の回転角度に応じてカムトルクを求め、このカムトルクに応じてクランクシャフト130に対する吸気カムシャフト170の位相角度を推定する(以下同様)。
【0038】
図7は、エンジン100が停止されたことを契機として、エンジンコントロールモジュール280のマイクロコンピュータ280Aが、セルフシャットダウン処理中に実行する停止時処理の一例を示している。なお、停止時処理は、マイクロコンピュータ280Aの不揮発性メモリに格納されたアプリケーションプログラムに従って実行される。
【0039】
ステップ10(図7では、「S10」と略記する。以下同様。)では、エンジンコントロールモジュール280のマイクロコンピュータ280Aが、VVT機構270の電動モータ270Bに駆動電流を出力することで、VVT機構270を最遅角位置に制御する。
【0040】
図8は、エンジン100が始動されたことを契機として、エンジンコントロールモジュール280のマイクロコンピュータ280Aが、所定時間ごとに繰り返し実行する始動時処理の一例を示している。なお、始動時処理は、マイクロコンピュータ280Aの不揮発性メモリに格納されたアプリケーションプログラムに従って実行される。
【0041】
ステップ20では、エンジンコントロールモジュール280のマイクロコンピュータ280Aが、クランク信号CRSから初回のクランクシグナルプレート230の歯欠け部230Cを検知したか否かを判定する。そして、エンジンコントロールモジュール280のマイクロコンピュータ280Aは、初回の歯欠け部230Cを検知したと判定すれば(Yes)、処理をステップ21へと進める。一方、エンジンコントロールモジュール280のマイクロコンピュータ280Aは、初回の歯欠け部230Cを検知していないと判定すれば(No)、処理をステップ22へと進める。
【0042】
ステップ21では、エンジンコントロールモジュール280のマイクロコンピュータ280Aが、クランクシグナルプレート230の歯欠け部230Cによって特定される吸気カムシャフト170の回転角度に応じて、所定値を起点として逓倍クランク信号CRS’から求められた吸気カムシャフト170の回転角度を校正する。ここで、歯欠け部230Cによって特定される吸気カムシャフト170の回転角度は、上述した正規カム信号ではないため、若干の誤差が含まれている可能性があり、必ずしも正確でない可能性がある。
【0043】
ステップ22では、エンジンコントロールモジュール280のマイクロコンピュータ280Aが、カム角センサ260からカム信号CMSが入力されたか否か、要するに、カムシグナルプレート250の延設部250Bが検知されたか否かを判定する。そして、エンジンコントロールモジュール280のマイクロコンピュータ280Aは、カム信号CMSが入力されたと判定すれば(Yes)、処理をステップ23へと進める。一方、エンジンコントロールモジュール280のマイクロコンピュータ280Aは、カム信号CMSが入力されていないと判定すれば(No)、今回の制御サイクルにおける始動時処理を終了させる。
【0044】
ステップ23では、エンジンコントロールモジュール280のマイクロコンピュータ280Aが、カム信号CMSによって特定される吸気カムシャフト170の回転角度に応じて、所定値を起点として逓倍クランク信号CRS’から求められた吸気カムシャフト170の回転角度を更に校正する。なお、初回の歯欠け部230Cの検知後にカム信号CMSが入力された場合には、このカム信号CMSは正規カム信号であるため、正規カム信号の入力によって吸気カムシャフト170の回転角度が校正されたと判断して、処理負荷の増加を抑制すべく、所定時間ごとに繰り返し実行される始動時処理を終了させることが望ましい。
【0045】
かかる始動時処理及び停止時処理によれば、エンジン100が停止されると、VVT機構270が最遅角位置に制御され、例えば、エンジン100の始動に適したバルブタイミングとすることができる。また、エンジン停止時にVVT機構270が最遅角位置に制御されることで、エンジン始動時における吸気カムシャフト170の回転角度を規定する所定値の誤差が小さくなり、その回転角度が最終的に校正されるまでの制御性を向上させることができる。
【0046】
そして、エンジン100が始動されると、クランクシャフト130の端部に取り付けられたクランクシグナルプレート230の歯欠け部230Cの検知を契機として、初期値を起点として逐次更新された吸気カムシャフト170の回転角度が校正される。また、カム信号CMSの入力を契機として、吸気カムシャフト170の回転角度が校正される。要するに、エンジン100の始動時に、歯欠け部230Cの検知に応答して校正が行われるとともに、カム信号CMSの入力に応答して校正が行われる。
【0047】
従って、図9に示すように、正規カム信号の入力を待たずに、エンジン始動後の早期に吸気カムシャフト170の回転角度が校正されることから、従来技術(図6参照)と比較して、吸気カムシャフト170の回転角度の実値から乖離している期間が短くなり、制御性を向上させることができる。このように校正された吸気カムシャフト170の回転角度は、上述したように若干の誤差を含んでいる可能性があるが、正規カム信号の入力に応答して更に校正されるので、その後の処理においては測定誤差のみを含む回転角度に応じてVVT機構270を制御することができる。
【0048】
<<第2実施形態>>
第2実施形態では、エンジンコントロールモジュール280は、エンジン始動時にカム信号CMSが入力されたとき、このカム信号CMSによって特定される吸気カムシャフト170の回転角度に応じて、エンジン始動時に所定値を起点として逓倍クランク信号CRS’から求められた吸気カムシャフト170の回転角度を校正する。具体的には、エンジンコントロールモジュール280は、エンジン始動時に所定値を起点として逓倍クランク信号CRS’から求められた吸気カムシャフト170の回転角度を、カム信号CMSによって特定される吸気カムシャフト170の回転角度とする。そして、エンジンコントロールモジュール280が、このように校正した吸気カムシャフト170の回転角度に応じて、VVT機構270を目標角度に制御する。
【0049】
図10は、エンジン100が始動されたことを契機として、エンジンコントロールモジュール280のマイクロコンピュータ280Aが、所定時間ごとに繰り返し実行する始動時処理の一例を示している。なお、第2実施形態では、第1実施形態とは異なり、エンジン100が停止されたことを契機として実行される停止時処理を必ずしも実行する必要はない。
【0050】
ステップ30では、エンジンコントロールモジュール280のマイクロコンピュータ280Aが、カム角センサ260からカム信号CMSが入力されたか否かを判定する。そして、エンジンコントロールモジュール280のマイクロコンピュータ280Aは、カム信号CMSが入力されたと判定すれば(Yes)、処理をステップ31へと進める。一方、エンジンコントロールモジュール280のマイクロコンピュータ280Aは、カム信号CMSが入力されていないと判定すれば(No)、今回の制御サイクルにおける始動時処理を終了させる。
【0051】
ステップ31では、エンジンコントロールモジュール280のマイクロコンピュータ280Aが、カム信号CMSによって特定される吸気カムシャフト170の回転角度に応じて、所定値を起点として逓倍クランク信号CRS’から求められた吸気カムシャフト170の回転角度を校正する。なお、カム信号CMSの入力によって吸気カムシャフト170の回転角度が校正されたので、処理負荷の増加を抑制すべく、所定時間ごとに繰り返し実行される始動時処理を終了させることが望ましい。
【0052】
かかる停止時処理によれば、エンジン100が始動されると、吸気カムシャフト170の端部に取り付けられたカムシグナルプレート250の延設部250Bの検知によるカム信号CMSの入力を契機として、初期値を起点として逐次更新された吸気カムシャフト170の回転角度が校正される。このとき、カム信号CMSは、吸気カムシャフト170の回転角度を正確に特定可能であるから(但し、測定誤差が含まれる)、第1実施形態のような2段階の校正を行わなくても、エンジン始動後の早期に吸気カムシャフト170の回転角度を校正することができるようになる。
【0053】
従って、図11に示すように、正規カム信号の入力を待たずに、エンジン始動後の早期に吸気カムシャフト170の回転角度が校正されることから、従来技術(図6参照)と比較して、吸気カムシャフト170の回転角度の実値から乖離している期間が短くなり、制御性を向上させることができる。そして、その後の処理においては、測定誤差のみを含む回転角度に応じてVVT機構270を制御することができる。ここで、第2実施形態では、図11から明らかなように、クランクシグナルプレート230の歯欠け部230Cの検知を待たなくても、吸気カムシャフト170の回転角度が校正されるので、特に、クランクシグナルプレート230の歯欠け部230Cの検知前にカム信号CMSが入力された場合に有利である。
【0054】
第1実施形態及び第2実施形態による制御を実装することで、図12に示すような結果を奏することができる。即ち、従来技術では、太線で示す実際のVVT角度が細線で示す目標角度に収束する際、正規カム信号の入力によって吸気カムシャフト170の回転角度が校正されるまでにある程度の時間t1が必要であり、目標角度からのオーバーシュートが比較的大きかった。これに対して、本実施形態の提案技術では、太線で示す実際のVVT角度が細線で示す目標角度に収束する際、正規カム信号の入力を待たずに、歯欠け部230Cの検知又はカム信号CMSの入力によって吸気カムシャフト170の回転角度が校正される。従って、図12から明らかなように、従来技術比較して、吸気カムシャフト170の回転角度が校正されるまでの時間t2が短くなり、これによって目標角度からのオーバーシュートを抑制することができる。
【0055】
なお、当業者であれば、上記実施形態の技術的思想について、その一部を省略したり、その一部を適宜組み合わせたり、その一部を周知技術に置換したりすることで、新たな実施形態を生み出せることを容易に理解できるであろう。
【0056】
その一例を挙げると、車両に搭載されたエンジン100は、ガソリンエンジンに限らず、ディーゼルエンジンなどであってもよい。また、エンジンコントロールモジュール280は、燃料噴射弁210及び点火プラグ220を電子制御するモジュールと、VVT機構270を電子制御するモジュールと、に分かれていてもよい。
【符号の説明】
【0057】
130…クランクシャフト、170…吸気カムシャフト(カムシャフト)、230…クランクシグナルプレート、230B…歯部、230C…歯欠け部、240…クランク角センサ、260…カム角センサ、270…VVT機構、280…エンジンコントロールモジュール(制御装置)、CRS…クランク信号、CMS…カム信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12