(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019509
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】皮膚透過促進剤及び皮膚透過促進方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7048 20060101AFI20250131BHJP
A61K 31/196 20060101ALI20250131BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20250131BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250131BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
A61K31/7048
A61K31/196
A61K31/352
A61P29/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123149
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】591061068
【氏名又は名称】東洋精糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 裕一
(72)【発明者】
【氏名】門田 和紀
(72)【発明者】
【氏名】内山 博雅
(72)【発明者】
【氏名】中西 章仁
(72)【発明者】
【氏名】タンジャ マハマドゥ
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA11
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA11
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZB11
4C206AA01
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4C206FA33
4C206KA01
4C206MA02
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4C206MA13
4C206NA11
4C206ZA89
4C206ZB11
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】生理活性物質を透過させ、また、水系製剤等への配合が容易で、皮膚への刺激性が低い、皮膚透過促進剤及び生理活性物質の皮膚透過促進方法を提供する。
【解決手段】α-グルコシルナリンジンを含む、生理活性物質を透過させるための皮膚透過促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-グルコシルナリンジンを含む、生理活性物質を透過させるための皮膚透過促進剤。
【請求項2】
前記α-グルコシルナリンジンがα-モノグルコシルナリンジンを含む、請求項1に記載の皮膚透過促進剤。
【請求項3】
皮膚透過促進剤100質量%中、前記α-モノグルコシルナリンジンの含有量が65質量%以上である、請求項2に記載の皮膚透過促進剤。
【請求項4】
前記生理活性物質が、酸性非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)及びフラボノイドからなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項1に記載の皮膚透過促進剤。
【請求項5】
前記酸性非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が、ベンゼン環を2つ以上有する芳香族化合物である、請求項4に記載の皮膚透過促進剤。
【請求項6】
前記生理活性物質が、メフェナム酸又はその塩、フラボン、及びヘスペレチンからなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項1に記載の皮膚透過促進剤。
【請求項7】
α-グルコシルナリンジンと生理活性物質とを皮膚に外用投与する工程を含む、前記生理活性物質の皮膚透過促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚透過促進剤及び皮膚透過促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、肝初回通過効果を回避できること、投与方法が簡便であること、また、投与中断も簡便であることなどから、局所作用だけでなく全身作用をも期待した薬物(生理活性物質)の投与部位として注目されている。投与された薬物が薬効を示すためには、皮膚を透過することが必要であるため、薬物を透過させるための種々の試みがなされている。
薬物の皮膚透過経路には、角層の角質細胞間隙や角質細胞内を透過する経角層経路と毛孔や汗孔などの付属器官を透過する経付属器官経路があるが、主な透過経路は、経角層経路である。角層は、全体的に脂溶性の高い密な膜であり、生体を外界から守るバリアとして機能しているため、薬物の多くはあまり皮膚透過しない。特に、分子量の大きい薬物や水溶性薬物の皮膚透過性は著しく低い(非特許文献1)。
【0003】
薬物の透過促進剤として、脂肪族アルコール及び脂肪酸並びにこれらのエステル類、モノテルペン類、精油等が知られているが、これらは、角層脂質に作用し、そのバリア能を減少させることにより薬物の皮膚透過性を改善する(非特許文献1)ので、安全性に問題がある場合が多かった。また、薬物によっては、透過促進剤を使っても皮膚透過性が充分ではない場合も多かった。
【0004】
皮膚への刺激性が低い薬物透過促進剤としては、フラボノイド化合物であるケルセチン、アピゲニン、又はミリセチンを用いると、ロキソプロフェンナトリウム、特定のペプチド、アスピリン、イミキモド、エプネフリン等の薬物の皮膚透過が促進されることが報告されている(特許文献1)。
【0005】
グルコシル化フラボノイド化合物の1種であるα-グルコシルナリンジンは、所定の難水溶性物質の水への溶解性を従来よりも向上させることができ、それによって体内での吸収性も向上させ、より少ない使用量で所望の薬効を発揮させることができることが報告されている(特許文献2)。しかし、特許文献2には、難水溶性物質の体内での吸収性については予測が示されているにすぎず、α-グルコシルナリンジンが薬物の皮膚透過にどのように作用するかは全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-163606号公報
【特許文献2】特開2017-48127号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「化学的および物理的吸収促進法を用いた難吸収性薬物の経皮デリバリー」、藤堂浩明ら、Drug Deliverly System、27-3、2012年、156-163頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ケルセチン、アピゲニン、又はミリセチン等の特許文献1に記載のフラボノイド化合物は、水に難溶性であるため、水系製剤等への配合が難しかった。
上記事情を鑑み、本発明は、生理活性物質を透過させ、また、水系製剤等への配合が容易で、皮膚への刺激性が低い、皮膚透過促進剤及び生理活性物質の皮膚透過促進方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、以下の構成を有することにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、例えば以下の〔1〕~〔7〕に関する。
〔1〕 α-グルコシルナリンジンを含む、生理活性物質を透過させるための皮膚透過促進剤。
〔2〕 前記α-グルコシルナリンジンがα-モノグルコシルナリンジンを含む、〔1〕に記載の皮膚透過促進剤。
〔3〕 皮膚透過促進剤100質量%中、前記α-モノグルコシルナリンジンの含有量が65質量%以上である、〔2〕に記載の皮膚透過促進剤。
〔4〕 前記生理活性物質が、酸性非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)及びフラボノイドからなる群より選ばれる少なくとも一つである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の皮膚透過促進剤。
〔5〕 前記酸性非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が、ベンゼン環を2つ以上有する芳香族化合物である、〔4〕に記載の皮膚透過促進剤。
〔6〕 前記生理活性物質が、メフェナム酸又はその塩、フラボン、及びヘスペレチンからなる群から選ばれる少なくとも一つである、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の皮膚透過促進剤。
〔7〕 α-グルコシルナリンジンと生理活性物質とを皮膚に外用投与する工程を含む、前記生理活性物質の皮膚透過促進方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生理活性物質を透過させ、また、水系製剤等への配合が容易で、皮膚への刺激性が低い皮膚透過促進剤及び生理活性物質の皮膚透過促進方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、α-グルコシルナリンジン、α-グルコシルルチン、α-グルコシルヘスペリジン、又はナリンジンを添加した場合の、フラボンの皮膚透過量の経時変化を示すグラフである。
【
図2】
図2は、α-グルコシルナリンジンを添加した場合の、フラボンの皮膚透過量の経時変化を示すグラフである。
【
図3】
図3は、α-グルコシルナリンジンを添加した場合の、ヘスペレチンの皮膚透過量の経時変化を示すグラフである。
【
図4】
図4は、α-グルコシルナリンジンを添加した場合の、メフェナム酸の皮膚透過量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明について具体的に説明する。
数値範囲に関する「A~B」との記載は、特に断りがなければ、A以上B以下であることを意味する。また、%とは質量%を意味する。
【0013】
<α-グルコシルナリンジン>
α-グルコシルナリンジン(αグルコシルナリンジンともいう)は、ナリンジンが有する水酸基に1分子以上のグルコースが付加された化合物の総称である。ナリンジンは、ナリンゲニン(5,7,4’-トリヒドロキシフラバノン)骨格の7位の水酸基にネオヘスペリドース(L-ラムノシル-(α1→2)-D-グルコース)がβ結合した構造を有する、フラボノイドの一種である。α-グルコシルナリンジンは、そのナリンジンが有する、ネオへスペリドース残基中のグルコース残基の3位(3’’位)の水酸基及びナリンゲニン骨格中のフェニル基の4位(4’位)の水酸基の少なくとも一つに、α-グルコースが1分子以上結合した構造を有する。本発明におけるα-グルコシルナリンジンは、そのような構造を有する化合物のうちの1種類単独からなるものであっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0014】
α-グルコシルナリンジンは、下記式(1)で表すことができる。式(1)中、R1のm及びR2のnは、それぞれ3’’位及び4’位に結合したα-グルコース残基の数を意味し、互いに独立した、0以上、通常は25以下の整数を表す。ただし、式(1)が「α-グルコシルナリンジン」を表すためには、m+n≧1を満たす、つまりナリンジンに少なくとも1分子のα-グルコースが連結している必要がある(m=n=0の場合、つまりR1、R2ともに-Hである場合、式(1)は「ナリンジン」を表す)。
【0015】
【0016】
α-グルコシルナリンジンは、「酵素処理ナリンジン」(「糖転移ナリンジン」と呼ばれることもある。)として知られている素材に主成分として含まれている化合物である。α-グルコシルナリンジンのうち、グルコースが1つだけ結合したものを「α-モノグルコシルナリンジン」と称し、グルコースが2つ以上結合したものを「α-ポリグルコシルナリンジン」と称する。
【0017】
酵素処理ナリンジンは、例えば、ナリンジンと糖供与体(例えばデキストリン)の混合物に糖転移酵素(例えばシクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼ)を反応させることにより得られる生成物(本明細書において「第1酵素処理ナリンジン」と呼ぶ。)であって、ナリンジンが有する水酸基に1分子以上のグルコースが付加された様々な化合物の集合体である。したがって、酵素処理ナリンジンは、通常は、ナリンジンに結合したグルコースの個数が異なる化合物の混合物、例えば、α-モノグルコシルナリンジンとα-ポリグルコシルナリンジンとからなる混合物を含む。また、α-グルコシルナリンジンに加えて、未反応のナリンジンや7-グルコシルナリンゲニン等のα-グルコシルナリンジン以外のナリンジン誘導体(その他のナリンジン誘導体ともいう)を含んでいてもよい。
【0018】
第1酵素処理ナリンジンの基本的な製造方法は、例えば特開平4-13691号公報を参照することができる。必要に応じて、例えば多孔性合成吸着材と適切な溶出液を用いて、第1酵素処理ナリンジンを精製することにより、糖供与体及びその他の不純物を除去し、さらにナリンジンの含有量を減らし、α-グルコシルナリンジンの純度を高めた第1酵素処理ナリンジン(α-グルコシルナリンジン精製物)が得られる。
【0019】
α-グルコシルナリンジンとしては、ナリンジンの3’’位にα-グルコースが1分子及び/又は4’位にα-グルコースが1分子連結したもの、すなわち3’’-α-モノグルコシルナリンジン(式(1)中、m=1、n=0)、4’-α-モノグルコシルナリンジン(同じくm=0、n=1)、及び3’’-4’-α-ジグルコシルナリンジン(同じくm=1、n=1)から選択される少なくとも一種のα-グルコシルナリンジンが好ましく、中でも3’’-α-モノグルコシルナリンジンがより好ましい。α-モノグルコシルナリンジンの分子量はα-ポリグルコシルナリンジンの分子量よりも小さいため、単位質量あたりの分子数はα-モノグルコシルナリンジンの方が多くなり、皮膚透過促進効果の上で有利であると考えられるためである。
α-グルコシルナリンジンは、α-モノグルコシルナリンジンを含むことが好ましい。
【0020】
上記3種のα-モノ/ジグルコシルナリンジンを多く含有する酵素処理ナリンジン(本明細書において「第2酵素処理ナリンジン」と呼ぶ。)は、例えば、上述した第1酵素処理ナリンジンをグルコアミラーゼ活性を有する酵素で処理し、ナリンジンの3’’位及び/又は4’位に前記糖転移酵素によって転移された、2分子以上のα-グルコースがα-1,4結合によって結合している糖鎖を、根元の1分子相当のα-グルコース残基だけを残して切断することによって得ることができる。さらに、第2酵素処理ナリンジンをα-グルコシダーゼ活性を有する酵素で処理し、4’位の水酸基に直接結合している1分子相当のα-グルコース残基を切断することにより、3’’-α-モノグルコシルナリンジンを残存させ、4’-α-モノグルコシルナリンジン及び3’’-4’-α-ジグルコシルナリンジンをほとんどないし全く含有しない酵素処理ナリンジン(本明細書において「第3酵素処理ナリンジン」と呼ぶ。)を得ることができる。第2及び第3酵素処理ナリンジンの基本的な製造方法は、例えば特開2002-199896号公報を参照することができる。
【0021】
さらに、第3酵素処理ナリンジンにα-L-ラムノシダーゼを作用させ、ナリンジンのルチノース単位に含まれるラムノースを切断することにより7-グルコシルナリンゲニンが生成し、7-グルコシルナリンゲニンとα-モノグルコシルナリンジンを含有する酵素処理ナリンジン(本明細書において「第4酵素処理ナリンジン」と呼ぶ。)が得られる。
【0022】
また、トランスグルコシダーゼはグルコアミラーゼ活性とα-グルコシダーゼ活性の両方を有する酵素なので、第1酵素処理ナリンジンに対してトランスグルコシダーゼを作用させれば、上述したような2段階の処理でなく1段階の処理で、3’’-α-モノグルコシルナリンジンに富んだ第3酵素処理ナリンジンが得られる。さらに、必要であればβ-グルコシダーゼ活性を有する酵素を第3酵素処理ナリンジンに対して作用させて(第1酵素処理ナリンジンに対してトランスグルコシダーゼと同時に作用させてもよい)、水溶液中に少量溶解している未反応のナリンジンが有する(糖転移酵素による糖鎖の修飾を受けていない)ネオヘスペリドース残基をそのアグリコンであるナリンゲニンから切断する処理を行ってもよい。そのような処理によって生成するナリンゲニンはナリンジンよりも溶解度が低く、沈殿となって水溶液中から容易に除去できるので、水溶液から3’’-α-モノグルコシルナリンジンをより高純度で回収することが可能となる。
【0023】
本発明においては、本発明の効果などを考慮すると、α-グルコシルナリンジンを含有する組成物である酵素処理ナリンジンを用いることが好ましく、第1酵素処理ナリンジン、第2酵素処理ナリンジン、第3酵素処理ナリンジン、及び第4酵素処理ナリンジンのいずれの組成物を用いてもよいが、好ましくは第4酵素処理ナリンジンを用いる。
【0024】
酵素処理ナリンジンは、本発明の効果などを考慮すると、α-グルコシルナリンジンと、ナリンジン及び7-グルコシルナリンゲニンからなる群から選ばれる少なくとも1つとを含む混合物であることが好ましい。
【0025】
酵素処理ナリンジンに含まれる各種のα-グルコシルナリンジン、ナリンジン、及びその他の成分の存在はHPLCのクロマトグラムによって確認することができ、各成分の含有量、又は所望の特定の成分の純度は、クロマトグラムのピーク面積から算出することができる。
【0026】
α-グルコシルナリンジンの製造方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。収率が良く、また製造が容易であることから、前記のナリンジンの酵素処理により製造することが好ましい。ナリンジンの入手及び調製方法は特に限定されるものではなく、試薬若しくは精製物として一般的に製造販売されている化合物を使用しても、又は柑橘類(ナツミカン、グレープフルーツ等)の外皮などの原料から抽出して調製した化合物を使用してもよい。
【0027】
<生理活性物質>
前記生理活性物質は、生理活性を有することが知られている物質であれば特に制限されない。
前記生理活性物質としては、例えば、抗炎症薬、抗菌剤、ホルモン剤、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー薬、血流改善剤、血管拡張剤、強心剤、抗不整脈剤、抗狭心症剤、抗高血圧剤、インスリン製剤、金属イオン封鎖剤、ビタミン類、皮膚軟化剤、保湿剤、美白剤、抗シワ剤、収斂剤、紫外線吸収剤、発毛・育毛剤、発汗防止剤、防臭剤などが挙げられる。
【0028】
前記生理活性物質は、α-グルコシルナリンジンによる皮膚透過促進効果が出やすいことから、好ましくは難水溶性の物質であり、より好ましくはベンゼン環を2つ以上有する難水溶性の物質である。
【0029】
抗炎症薬は、より具体的には、ステロイド系抗炎症薬及び非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が挙げられるが、好ましくは非ステロイド性抗炎症薬、さらに好ましくは酸性非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)である。
【0030】
酸性非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)としては、例えば、アスピリン、エテンザミド、ジフルシナル(ジフルニサル)、サリチル酸メチルなどのサリチル酸系;イブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、ケトプロフェン、デクスケトプロフェン、フルルビプロフェン、オキサプロジン、ロキソプロフェンなどのプロピオン酸系;インドメタシン、トルメチン、スリンダク、エトドラク、ケトロラク、ジクロフェナクなどの酢酸系;ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、ロルノキシカム、又はイソキシカムなどのオキシカム系;メフェナム酸、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、トルフェナム酸などのフェナム酸系;及びこれらの塩が挙げられる。
【0031】
前記塩は、薬学的に許容される塩であればよく、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、リチウム等の金属を含む無機塩、或いはメチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リジン等の有機塩、リン酸塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0032】
これらの中でも、α-グルコシルナリンジンによる皮膚透過促進効果が出やすいことから、ベンゼン環を2つ以上有する芳香族化合物が好ましい。ベンゼン環を2つ以上有する芳香族化合物としては、例えば、ジフルシナル(ジフルニサル)、ナプロキセン、フェノプロフェン、ケトプロフェン、デクスケトプロフェン、フルルビプロフェン、オキサプロジン、インドメタシン、スリンダク、ジクロフェナク、ピロキシカム、メフェナム酸、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、トルフェナム酸が挙げられ、メフェナム酸、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、トルフェナム酸などのフェナム酸系が好ましい。
【0033】
血流改善剤は、より具体的には、フラボノイド、トコフェロール又はその誘導体、ヘパリン類似物質、dl-カンフル、イチョウ葉エキス、ショウガ根茎エキス、トウガラシ果実エキス、ショウキョウエキス、シロスタゾール、チクロピジン塩酸塩、アルプロスタジル、リマプロスト、ベラプロストナトリウム、サルポグレラート塩酸塩、アルガトロバン、ナフチドロフリル、塩酸イソクスプリン、バトロキソビン、ジヒドロエルゴトキシンメシル酸塩、塩酸トラゾリン、ヘプロニカート、四物湯エキス等が挙げられる。これらの中でも、α-グルコシルナリンジンによる皮膚透過促進効果が出やすいことから、フラボノイドが好ましい。
【0034】
フラボノイドとしては、例えば、フラボン、アピゲニン、ルテオリン、タンゲレチン、ジオスミン、ノビレチン、フラボキサートなどのフラボン類;ダイゼイン、ダイジン、ゲニステインなどのイソフラボン類;ケンフェロール、ミリセチン、ケルセチン、ルチンなどのフラボノール類;エリオジクチオール、ヘスペレチン、ヘスペリジン、ホモエリオジクチオール、ナリンゲニンなどのフラバノン類;カテキン、エピカテキン、エピガロカテキンなどのフラバノール類;ジヒドロケルセチンなどのフラバノノール類;シアニジン、アントシアニン、デルフィニジン、マルビジン、ペラルゴニジン、ペオニジンなどのアントシアニジン類などが挙げられる。
これらの中でも、α-グルコシルナリンジンによる皮膚透過促進効果が出やすいことから、フラボノール類、フラボン類、フラバノン類が好ましく、ルチン、ケルセチン、ヘスペリジン、フラボン、ヘスペレチンがより好ましく、フラボン、ヘスペレチンがさらに好ましい。
【0035】
α-グルコシルナリンジンによる皮膚透過促進効果が出やすいことから、前記生理活性物質は、好ましくは、酸性非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)及びフラボノイドからなる群より選ばれる少なくとも一つである。
α-グルコシルナリンジンによる皮膚透過促進効果が出やすいことから、前記生理活性物質は、好ましくは、メフェナム酸又はその塩、フラボン、及びヘスペレチンからなる群より選ばれる少なくとも一つである。
【0036】
<皮膚透過促進剤>
本発明の一態様である皮膚透過促進剤は、α-グルコシルナリンジンを含み、生理活性物質の皮膚透過を促進させる。
【0037】
皮膚透過を促進する効果を評価する方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、被験物質を添加した場合の生理活性物質の皮膚透過の程度が、被験物質を添加しない場合の生理活性物質の皮膚透過の程度よりも高い場合に、被験物質には皮膚透過を促進する効果があると評価することができる。
【0038】
生理活性物質の皮膚透過の程度は、ある一点の時点で評価してもよく、異なる複数の時点、すなわち、経時的に評価してもよい。生理活性物質の皮膚透過の程度を評価する時点は、特に制限されないが、好ましくは試験開始4時間後以降、より好ましくは試験開始6時間後以降、さらに好ましくは試験開始8時間後以降、特に好ましくは試験開始12時間後以降である。
【0039】
生理活性物質の皮膚透過の程度は、公知の方法により測定することができるが、好ましくは、フランツ型拡散セルを用いた方法により測定する。フランツ型拡散セルの透過膜は、公知のもの、例えば、ヒト、モルモット、マウス等の動物由来の皮膚、三次元培養皮膚、Permea Pad Barrier、Strat-Mメンブレン等の人工の皮膚透過性試験用膜を用いることができる。
【0040】
皮膚透過を促進する程度は、α-グルコシルナリンジンを用いない場合の生理活性物質の皮膚透過性を100%とした場合に、α-グルコシルナリンジンを用いる場合の生理活性物質の皮膚透過性が100%よりも大きければ、特に制限されないが、例えば、110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、150%以上、200%以上、250%以上、300%以上、350%以上、400%以上、450%以上、500%以上である。
【0041】
皮膚透過促進剤が含むα-グルコシルナリンジンの量は特に限定されない。例えば、本発明の皮膚透過促進剤が含むα-グルコシルナリンジンの量の下限としては、例えば、30質量%、40質量%、45質量%、50質量%、60質量%、70質量%、80質量%が挙げられる。また、本発明の皮膚透過促進剤が含むα-グルコシルナリンジンの量の上限としては、例えば、100質量%、99質量%、98質量%、95質量%、90質量%、85質量%が挙げられる。本発明の皮膚透過促進剤が含むα-グルコシルナリンジンの量の範囲としては、前記下限と上限とを任意に組み合わせた範囲を任意に設定することができ、例えば30~100質量%、60~100質量%、60~90質量%等の範囲を設定することができる。皮膚透過促進効果の観点から、好ましくは、α-グルコシルナリンジンの含有量は、皮膚透過促進剤100質量%中、65質量%以上であり、より好ましくは、α-モノグルコシルナリンジンの含有量が皮膚透過促進剤100質量%中、70質量%以上である。
【0042】
皮膚透過促進剤は、α-グルコシルナリンジンを含むものであればよく、α-グルコシルナリンジンのみからなるものであってもよいし、α-グルコシルナリンジンによる皮膚透過促進効果を妨げない限り、さらに賦形剤、安定化剤や湿潤剤や乳化剤等の公知の任意成分を含有してもよい。また、皮膚透過促進剤は、α-グルコシルナリンジンを含む組成物である、酵素処理ナリンジンであってもよい。
【0043】
α-グルコシルナリンジンが生理活性物質の皮膚透過を促進するメカニズムは明らかではないが、本発明者らは以下のように推測している。
皮膚は脂質から形成されているので、水溶性薬物の皮膚への透過性は著しく低く、脂溶性が高いほど皮膚に分配しやすく、皮膚透過速度が大きいことが一般的に知られている。つまり、難水溶性物質を可溶化して水溶性を高めると、皮膚透過性は下がると考えるのが技術常識である。
しかし、本発明者らは、難水溶性物質の皮膚透過には、溶解性とその後の放出性の2つの要素が大きく寄与していると考えている。すなわち、難水溶性物質の皮膚透過を促進するためには、第1に難水溶性物質を可溶化して、水溶性を高めることが必要であり、第2に可溶化された後の難水溶性物質が、充分に皮膚へ放出されることが必要である。
【0044】
α-グルコシルナリンジンは、所定の難水溶性物質の水への溶解性を従来よりも向上させることができることが報告されている(特許文献2)。α-グルコシルナリンジンは難水溶性物質を可溶化して水溶性を高めるので、技術常識に基づけば、α-グルコシルナリンジンを添加した場合、難水溶性物質の皮膚透過性は低くなることが予測される。しかし、本明細書の実施例で示すように、可溶化効果のないナリンジンと比べて、α-グルコシルナリンジンは、難水溶性物質の皮膚透過を顕著に促進した。
【0045】
また、α-グルコシルナリンジンだけでなく、同じくグルコシル化フラボノイド化合物である、α-グルコシルヘスペリジン及びα-グルコシルルチンについても、難水溶性物質の水への溶解性を従来よりも向上させることができることが報告されている(特許文献2)。しかし、本明細書の実施例で示すように、生理活性物質の皮膚透過を顕著に促進したのはα-グルコシルナリンジンだけであり、α-グルコシルヘスペリジン又はα-グルコシルルチンの皮膚透過促進効果はわずかであった。
これらの事実から、α-グルコシルナリンジンは、可溶化された後の難水溶性物質の放出性を高める作用がα-グルコシルヘスペリジン又はα-グルコシルルチンよりも高く、α-グルコシルナリンジンの高い皮膚透過促進効果は主にこの作用に起因すると考えられる。
【0046】
皮膚透過促進剤の用途は特に制限されないが、本発明の皮膚透過促進剤は、生理活性物質の皮膚透過を促進する高い作用を有するので、例えば、生体において、生理活性物質の皮膚透過を促進させる目的で、単回又は複数回生体に投与することができる。
生体に投与された皮膚透過促進剤は、生理活性物質の皮膚透過を促進するので、例えば、生理活性物質がその活性を局所又は全身で発現することに寄与する。
【0047】
<皮膚透過促進剤の生体への投与>
皮膚透過促進剤を生体に投与する場合、投与経路は通常、皮膚への外用である。
皮膚透過促進剤の投与方法は特に制限されず、皮膚透過促進剤と、透過を促進させたい生理活性物質とを組み合わせて投与すればよく、通常、皮膚透過促進剤と、透過を促進させたい生理活性物質とを同時に投与する。
【0048】
皮膚透過促進剤は、そのまま生体に投与してもよいが、好ましくは、皮膚透過促進剤の有効量と透過を促進させたい生理活性物質とを組み合わせて配合した製剤として投与する。
前記製剤における皮膚透過促進剤の含有量は、透過を促進させたい生理活性物質の種類又は濃度によって適宜選択すればよい。皮膚透過促進効果の観点から、前記製剤は、製剤100質量%中、α-グルコシルナリンジンを好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.025~2質量%、さらに好ましくは0.05~1質量%含む。
【0049】
前記製剤における生理活性物質の濃度は、生理活性物質の種類、その活性を発現させる部位(局所又は全身)、発現させたい活性の程度等によって、適宜選択すればよい。生理活性物質がフラボン、ヘスペレチン、又はメフェナム酸である場合、該製剤における生理活性物質の濃度は、好ましくは0.01~5mg/mL、より好ましくは0.1~1mg/mLである。
【0050】
前記製剤は、皮膚に適用できる製剤であれば、医薬品、医薬部外品、化粧品のいずれであってもよい。
前記製剤は、性状や剤型は制限されず、例えば、固体状、半固体状、液状、乳液状、クリーム状、ジェル状、ムース状、噴霧用剤、又はこれらを混合して用いる二剤式、リニメント剤、パップ剤、硬膏剤(プラスター剤)、貼付剤(例:フィルム、テープ)などであってもよい。
【0051】
前記製剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤や洗浄剤等に用いられる成分、例えば、油脂、ロウ類、炭化水素油、エステル油、高級アルコール、シリコーン油、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、保湿剤、界面活性剤、水溶性高分子、増粘剤、粉体、皮膚保護剤、美白剤、シワ改善剤、老化防止剤、植物抽出物、防腐剤、消炎剤、pH調整剤、金属イオン封鎖剤、酸化防止剤、安定化剤、香料、色素、顔料等などを必要に応じて適宜配合することができる。これらの成分は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
前記製剤は、これらの製剤について一般的に用いられている手法に従って皮膚透過促進剤と生理活性物質とを添加することにより製造することができる。皮膚透過促進剤及び生理活性物質は、製剤の製造工程の初期に添加されるか、製造工程の中期又は終期に添加されればよく、また添加の手法は、混和、混練、溶解、浸漬、散布、噴霧、塗布等から適切なものを製剤の態様に応じて選択すればよい。
【0053】
皮膚透過促進剤の有効成分であるα-グルコシルナリンジンは、水溶性が良好であるため、本発明の皮膚透過促進剤は水溶性が高く、水又は水分の多い製剤に添加する際も、均一に溶解又は分散させることが可能であり、水系製剤等への配合が容易である。そのため、本発明の皮膚透過促進剤は、配合できる製剤の幅が非常に広い。
【0054】
皮膚透過促進剤の有効成分であるα-グルコシルナリンジンは、皮膚への刺激性が低く、食経験も豊富で、安全性が良好であるため、本発明の皮膚透過促進剤は皮膚への刺激性が低く、安全性が高い。
【0055】
<皮膚透過促進方法>
本発明の一態様は、α-グルコシルナリンジンと生理活性物質とを皮膚に外用投与する工程を含む、前記生理活性物質の皮膚透過促進方法である。
α-グルコシルナリンジンと生理活性物質とを皮膚に外用投与する方法は特に制限されず、<皮膚透過促進剤の生体への投与>の項で述べた通りである。
【0056】
本発明の一態様は、生理活性物質の皮膚透過を促進させるためのα-グルコシルナリンジンの使用である。
本発明の一態様は、生理活性物質を透過させるための皮膚透過促進剤の製造における、α-グルコシルナリンジンの使用である。
【実施例0057】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0058】
<フランツ型拡散セルを用いた皮膚透過性試験1>
(方法)
物質群Aとして、以下のα-グルコシルナリンジン(実施例1)、ナリンジン(比較例1)、α-グルコシルヘスペリジン(比較例2)、およびα-グルコシルルチン(比較例3)を用いた。
α-グルコシルナリンジン(Naringin-G):酵素処理ナリンジン(東洋精糖株式会社製、α-モノグルコシルナリンジン75質量%を含む。)
ナリンジン(Naringin):ナリンジン試薬(東京化成工業株式会社製、ナリンジンを96質量%含む。)
α-グルコシルヘスペリジン(Hsp-G):酵素処理ヘスペリジン(東洋精糖株式会社製、α-モノグルコシルヘスペリジン80質量%を含む。)
α-グルコシルルチン(Rutin-G):酵素処理ルチン(東洋精糖株式会社製、α-モノグルコシルルチン75質量%を含む。)
生理活性物質として、フラボン(東京化成工業株式会社製、NO.H0721)を用いた。
【0059】
物質群Aのいずれかの物質及び生理活性物質を蒸留水10mLに添加し、混合して、溶液(又は懸濁液)を調製し試験液とした。物質群Aの物質は、試験液中の濃度が10mg/mLとなる量を添加した。生理活性物質は、試験液中の濃度が250μg/mLとなる量を添加した。対照として、物質群Aの物質を添加しない試験液(フラボンのみ)も調製した。
【0060】
フランツ型垂直拡散セルのレセプター部にタウロコール酸ナトリウムを0.5%添加したリン酸緩衝液(pH7.4)を満たし、透過膜として経皮拡散試験用Strat-Mメンブレン(Merck社製)を装着した。ドナー側に上記の試験液400μLを滴下後、レセプター液を経時的にサンプリングした。サンプリングしたレセプター液中の生理活性物質の量を高速液体クロマトグラフィーによって定量した。実験はN=1で行った。
【0061】
(結果)
結果を
図1に示す。
水に難溶性のフラボノイド化合物であるナリンジンを添加すると、フラボンの皮膚透過量はほとんど変化しなかった。水溶性のグルコシル化フラボノイド化合物であるα-グルコシルヘスペリジン又はα-グルコシルルチンを添加すると、フラボンの皮膚透過量は増加したが、その増加の幅は小さかった。
一方、α-グルコシルナリンジンを添加すると、フラボンの皮膚透過量が大きく増加した。すなわち、α-グルコシルナリンジンは生理活性物質の皮膚透過を促進することが明らかになった。
【0062】
<フランツ型拡散セルを用いた皮膚透過性試験2>
(方法)
物質群Aの物質として、皮膚透過性試験1と同じα-グルコシルナリンジン(Naringin-G)を用いた。
生理活性物質として、フラボン(東京化成工業株式会社製、NO.H0721、実施例2)、ヘスペレチン(SIGMA-ALDRICH社製、NO.F2003、実施例3)、およびメフェナム酸(東京化成工業株式会社製、NO.M1782、実施例4)を用いた。
α-グルコシルナリンジンと生理活性物質のいずれかとを蒸留水10mLに添加し、混合して、溶液(又は懸濁液)を調製し試験液とした。α-グルコシルナリンジンは、試験液中の濃度が0.5mg/mL、1mg/mL、2.5mg/mL、5mg/mL、10mg/mL、又は20mg/mL(メフェナム酸に対しては10mg/mL又は25mg/mLとなる量、ヘスペレチンに対しては1mg/mL又は20mg/mLとなる量)を添加した。生理活性物質は試験液中の濃度が250μg/mLとなる量を添加した。対照として、物質群Aの物質を添加しない試験液(フラボンのみ、ヘスペレチンのみ、メフェナム酸のみ)も調製した。
皮膚透過性試験1と同様にしてフランツ型拡散セルを用いた皮膚透過性試験を行った。実験はN=3で行い、平均値を算出した。
【0063】
(結果)
生理活性物質としてフラボンを用いた場合(実施例2)の結果を
図2、ヘスペレチンを用いた場合(実施例3)の結果を
図3、メフェナム酸を用いた場合(実施例4)の結果を
図4に示す。
図2、3、4より、α-グルコシルナリンジン添加により、フラボン、ヘスペレチン、及びメフェナム酸の皮膚透過量が増加した。また、α-グルコシルナリンジンの皮膚透過促進作用は、一定の濃度範囲内において、α-グルコシルナリンジンの濃度依存的であった。