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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019511
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】車両用空調装置および車両上部構造
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/00 20060101AFI20250131BHJP
【FI】
B60H1/00 102S
B60H1/00 101V
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123154
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500309126
【氏名又は名称】株式会社ヴァレオジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】竹尾 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 弘之
(72)【発明者】
【氏名】伊東 剛
(72)【発明者】
【氏名】平井 幸男
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA22
3L211BA23
3L211DA03
3L211DA52
(57)【要約】
【課題】車両の上部に取り付けられた場合でもレジスタの放熱量を維持し、温度ヒューズが意図せずに溶断して使用不能となることを回避することができる車両用空調装置、およびその車両用空調装置が配置された車両上部構造を提供する。
【解決手段】車両用空調装置106は、車両102のルーフパネル104の車室側に配置されている。空調装置は、装置外面を構成し所定の収容空間122を区画する壁部116と、壁部に設けられた挿通孔124と、挿通孔から挿通され収容空間に収容され空調装置の出力を調整する出力調整部130と、出力調整部に連結され挿通孔を外部から覆うブラケット132とを有し、出力調整部は、溶断温度に到達したときに溶断することで電気的通電を遮断する溶断材料で形成された温度ヒューズ134を含み、ブラケットは、壁部との間に所定の第1隙間140を介して挿通孔を覆い、これにより収容空間と壁部の外部とを連通している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(102)のルーフパネル(104)の車室側に配置される車両用空調装置(106)であって、
装置外面を構成し所定の収容空間(122)を区画する壁部(116)と、
前記壁部(116)に設けられた挿通孔(124)と、
前記挿通孔(124)から挿通され前記収容空間(122)に収容されていて前記空調装置(106)の出力を調整する出力調整部(130)と、
前記出力調整部(130)に連結されていて前記挿通孔(124)を外部から覆っているブラケット(132)と、を有し、
前記出力調整部(130)は、溶断温度に到達したときに溶断することで電気的通電を遮断する溶断材料で形成された温度ヒューズ(134)を含み、
前記ブラケット(132)は、前記壁部(116)との間に所定の第1隙間(140)を介して前記挿通孔(124)を覆っていて、これにより前記収容空間(122)と前記壁部(116)の外部とを連通していることを特徴とする車両用空調装置(106)。
【請求項2】
前記出力調整部(130)は、前記温度ヒューズ(134)が露出して配置された平面部(170)を有し、その平面部の表裏が上下を向く姿勢で配置されていて、該平面部(170)の上面と前記挿通孔の上縁(172)との間の所定の第2隙間(174)を介して前記挿通孔(124)に挿通されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置(106)。
【請求項3】
前記出力調整部の平面部(170)は、前記挿通孔(124)に近づくほど下方に傾斜していることを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置(106)。
【請求項4】
前記挿通孔(124)の両側で前記ブラケット(132)と前記壁部との間に介在する一対の部位を有し、該部位によって前記第1隙間(140)が保たれていることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置(106)。
【請求項5】
前記一対の部位の各々は、所定の連結治具によって前記壁部(116)に連結された連結部(162a、162b)と、該連結部から上下方向に延びる延長部(164a、164b)とを含むことを特徴とする請求項4に記載の車両用空調装置(106)。
【請求項6】
前記ブラケット(132)に接続されたハーネス(148)を有し、
前記ハーネス(148)は、前記第1隙間(140)の上方に配索されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置(106)。
【請求項7】
車両(102)のルーフパネル(104)と、該ルーフパネル(104)の車室側に配置された請求項1から6のいずれか1項に記載の車両用空調装置(106)とを備えることを特徴とする車両上部構造(100)。
【請求項8】
前記ルーフパネル(104)は、前記第1隙間(140)の上方に傾斜部(176a、176b)を有し、
前記傾斜部の下端(178a、178b)は、前記第1隙間(140)から離れた位置にあることを特徴とする請求項7に記載の車両上部構造(100)。
【請求項9】
前記車両用空調装置(106)は、前記ルーフパネル(104)を支えるピラー(108)の上部(110)の車幅方向内側に配置されていて、
前記出力調整部(130)は、前記ピラー(108)の内部空間(112)と連通していることを特徴とする請求項7または8に記載の車両上部構造(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置、およびその車両用空調装置が配置された車両の車両上部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両上部構造では、ルーフパネルの車室側に空調装置(車両用空調装置)が配置されている場合がある。特許文献1には、車室内の上部に空調装置が取り付けられた車両上部構造に関する技術が示されている。ここで空調装置は、アッパーケース、ロアケース、これらケースの内部に配置されるクロスフローファン、クロスフローファンを駆動するモータ、およびレジスタ等を備えている。
【0003】
特許文献2には、車両用空調装置の送風機に用いられるレジスタに関する技術が示されている。ここでレジスタは、アルミ板等で形成された放熱板、絶縁体を介して放熱板に挟まれるもので電気抵抗となる抵抗体、および温度ヒューズ等を備えている。
【0004】
レジスタに設けられた複数の抵抗体のうち、通電する抵抗体を選択することで回路を流れる電流の量を変更することができる。特許文献2のレジスタを特許文献1の空調装置に適用することで、モータへの通電量を変更してファンの回転数を調整し、所望する風量の調和空気を車室内に供給することができる。
【0005】
一方、温度ヒューズは、温度が所定値を超えると溶断する溶断材料を備えた過熱保護素子である。電気機器の故障や内部回路のショートなどにより意図しない量の電流が流れると、抵抗体から過度の熱が発生する。抵抗体で発生した熱は放熱板から放出され、温度ヒューズの溶断材料の温度を上昇し、溶断材料の溶断温度に達すると溶断して、電気回路を遮断する。これにより電気回路の通電が停止され、抵抗体への通電の停止に伴って発熱も停止されて、製品の安全を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3-139417号公報
【特許文献2】特開平9-245607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
車室内の上部に取り付けられる空調装置は乗員空間の上方に位置するため、高温となりやすい。また空調装置は、ルーフパネルの近傍に位置する。ルーフパネルは、日射や夏季には高温の車両外気によって暖められ、車室内側に熱が伝わりやすい。このため空調装置のレジスタは、放熱板および温度ヒューズの温度が上昇しやすく、レジスタに流れる電流が適正な量のときに温度ヒューズの溶断が発生しないよう、配慮することが望まれる。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、車両の上部に取り付けられた場合でもレジスタの放熱量を維持し、温度ヒューズが意図せずに溶断して使用不能となることを回避することができる車両用空調装置、およびその車両用空調装置が配置された車両上部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両用空調装置の代表的な構成は、車両(102)のルーフパネル(104)の車室側に配置される車両用空調装置(106)であって、装置外面を構成し所定の収容空間(122)を区画する壁部(116)と、壁部(116)に設けられた挿通孔(124)と、挿通孔(124)から挿通され収容空間(122)に収容されていて空調装置(106)の出力を調整する出力調整部(130)と、出力調整部(130)に連結されていて挿通孔(124)を外部から覆っているブラケット(132)と、を有し、出力調整部は、溶断温度に到達したときに溶断することで電気的通電を遮断する溶断材料で形成された温度ヒューズ(134)を含み、ブラケット(132)は、壁部(116)との間に所定の第1隙間(140)を介して挿通孔(124)を覆っていて、これにより収容空間(122)と壁部(116)の外部とを連通していることを特徴とする。
【0010】
また上記課題を解決するために、本発明にかかる車両上部構造の代表的な構成は、車両(102)のルーフパネル(104)と、ルーフパネル(104)の車室側に配置された本発明にかかる車両用空調装置(106)とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両の上部に取り付けられた場合でもレジスタの放熱板からの放熱量を維持し、温度ヒューズが意図せずに溶断して使用不能となることを回避することができる車両用空調装置、およびその車両用空調装置が配置された車両上部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例に係る車両上部構造を車両の一部とともに示す図である。
図2図1の車両上部構造の空調装置の要部を示す図である。
図3図2の空調装置の主要部材を示す図である。
図4図2(a)の空調装置を備えた車両上部構造の要部を示す図である。
図5図2(a)の空調装置を備えた車両上部構造の要部を図4とは異なる方向から見た状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施の形態に係る車両用空調装置の代表的な構成は、車両のルーフパネルの車室側に配置される車両用空調装置であって、装置外面を構成し所定の収容空間を区画する壁部と、壁部に設けられた挿通孔と、挿通孔から挿通され収容空間に収容されていて空調装置の出力を調整する出力調整部と、出力調整部に連結されていて挿通孔を外部から覆っているブラケットと、を有し、出力調整部は、溶断温度に到達したときに溶断することで電気的通電を遮断する溶断材料で形成された温度ヒューズを含み、ブラケットは、壁部との間に所定の第1隙間を介して挿通孔を覆っていて、これにより収容空間と壁部の外部とを連通(通気)していることを特徴とする。
【0014】
上記構成の温度ヒューズでは、溶断材料として例えば樹脂を用いると、周辺温度が溶融温度に到達する前であってもガラス転移温度を超えると樹脂の形状が変形し、電気的通電を意図せず遮断してしまう場合がある。このような場合、電気機器の故障や内部回路のショートなどによる異常過熱が発生していないにもかかわらず、温度ヒューズのリード線が断線状態となり、空調装置は使用不能となってしまう。
【0015】
そこで上記構成では、温度ヒューズを含む出力調整部にブラケットを連結し、さらにブラケットによって壁部との間に第1隙間を介して挿通孔を覆うことで、出力調整部を収容する収容空間と外部とを通気している。このため空調装置では、出力調整部の温度ヒューズの周囲の暖められた空気が、ブラケットと壁部との間の第1隙間を通って収容空間から外部に排気される。あるいは、壁部の外部の相対的に温度の低い空気が、ブラケットと壁部との間の第1隙間を通って収容空間に流入する。したがって上記構成によれば、温度ヒューズの周辺温度の上昇を抑制し、溶断材料の変形を抑制して、意図しないリード線の断線を抑制することにより、空調装置が意図せず使用不能となることを回避することができる。
【0016】
上記の出力調整部は、温度ヒューズが露出して配置された平面部を有し、その平面部の表裏が上下を向く姿勢で配置されていて、平面部の上面と挿通孔の上縁との間の所定の第2隙間を介して挿通孔に挿通されているとよい。
【0017】
これにより、温度ヒューズの周囲の空気が暖められると、暖められた空気は上方に移動して、出力調整部の平面部の上面と挿通孔の上縁との間の第2隙間を通って、収容空間から外部に排気される。これにより、温度ヒューズの周辺温度の上昇を抑制することができる。また、出力調整部の平面部の表裏が上下を向くように、すなわち水平に配置されているため、空調装置の上下寸法を小さくでき、ルーフパネルの車室側の限られたスペースに空調装置を収容し易くなる。
【0018】
上記の出力調整部の平面部は、挿通孔に近づくほど下方に傾斜しているとよい。このように、出力調整部の平面部が挿通孔に近づくほど下方に傾斜しているため、挿通孔を外部から覆うブラケットは、挿通孔から遠ざかる姿勢となる。このため、ブラケットと壁部との間の第1隙間を大きくすることができ、温度ヒューズの周囲の暖められた空気を、より確実に外部に排気して放熱することができる。
【0019】
上記の挿通孔の両側でブラケットと壁部との間に介在する一対の部位を有し、部位によって第1隙間が保たれているとよい。
【0020】
このように、一対の部位が挿通孔の両側でブラケットと壁部との間に介在するため、ブラケットと壁部との間の第1隙間の両側から結露水などが出力調整部に浸入することを抑制することができる。また一対の部位は、第1隙間を保つスペーサとして機能する。なお一対の部位は、ブラケットと一体に形成してもよいし、ブラケットとは別体であってもよい。
【0021】
上記の一対の部位の各々は、所定の連結治具によって壁部に連結された連結部と、連結部から上下方向に延びる延長部とを含むとよい。
【0022】
このように、一対の部位が連結部で壁部に連結されるため、ブラケットと壁部との間に第1隙間を確実に保つことができる。また一対の部位が連結部から上下方向に延びる延長部を含むため、ブラケットが連結部を起点にして傾動することを回避することができる。このため、第1隙間および第2隙間の寸法を所望の寸法に維持し易い。
【0023】
上記のブラケットに接続されたハーネスを有し、ハーネスは、第1隙間の上方に配索されているとよい。このように、ハーネスが第1隙間の上方に配索されているため、第1隙間に結露水が落下することを抑制できる。
【0024】
本発明の一実施の形態に係る車両上部構造の代表的な構成は、車両のルーフパネルと、ルーフパネルの車室側に配置された上述の車両用空調装置とを備えることを特徴とする。このように上述の車両用空調装置がルーフパネルの車室側に配置されていることにより、温度ヒューズの周辺温度の上昇を抑制し、空調装置が意図せず使用不能となることを回避した車両上部構造を得ることができる。
【0025】
上記のルーフパネルは、第1隙間の上方に傾斜部を有し、傾斜部の下端は、第1隙間から離れた位置にあるとよい。これにより、ルーフパネルの下面を伝って流れる結露水を、第1隙間から離れた位置にある傾斜部の下端まで導くことができる。このため結露水が第1隙間に落下することを抑制できる。
【0026】
上記の車両用空調装置は、ルーフパネルを支えるピラーの上部の車幅方向内側に配置されていて、出力調整部は、ピラーの内部空間と連通しているとよい。ピラーは、ルーフパネルよりも下側に位置している。このためピラーの内部空間の空気は、出力調整部の周辺の暖められた空気よりも温度が低くなっている。上記構成では、出力調整部がピラーの内部空間と連通しているので、出力調整部の周辺の暖められた空気に、ピラーの内部空間の温度の低い空気が混入することにより、出力調整部の周辺温度の上昇を抑制することができる。
【実施例0027】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0028】
図1は、本発明の実施例に係る車両上部構造100を車両102の一部とともに示す図である。以下各図において、車両前後方向をそれぞれ矢印Front、Back、車幅方向の左右をそれぞれ矢印Left、Right、車両上下方向をそれぞれ矢印Up、Downで例示する。
【0029】
車両上部構造100は、車両102のルーフパネル104と、図中鎖線で示す車両用空調装置(空調装置)106とを備える。空調装置106は、車室内に向けて冷風を吹き出すことによって車室内の快適性を保つ装置である。なお、本発明の実施例の説明において、車両用空調装置106のことを、単に空調装置106と称することがある。
【0030】
空調装置106は、ルーフパネル104の車室側すなわち太陽光の照射により温度が上昇しやすい位置に配置されている。また空調装置106は、ルーフパネル104を支えるピラー108の上部110の車幅方向内側に配置されている。ピラー108は、ルーフパネル104よりも下側に位置する。このためピラー108の内部空間112の空気は、空調装置106が配置されるルーフパネル104の車室側の空気よりも温度が低くなっている。
【0031】
図2は、図1の車両上部構造100の空調装置106の要部を示す図である。図2(a)は、図1のルーフパネル104を省略した上で領域Aの空調装置106を示している。図2(b)は、図2(a)の空調装置106の一対のスペーサ114a、114bを示している。図3は、図2の空調装置106の主要部材を示す図である。
【0032】
空調装置106は、図2(a)に示す壁部116を有する。壁部116は、上壁部118と下壁部120とを含み、これらを上下に組み付けることで装置外面を構成して所定の収容空間122(図4(b)参照)を区画する。また壁部116には、挿通孔124が設けられている。挿通孔124は、例えば図5(b)に示す上壁部118の切欠部126と下壁部120の切欠部128を上下に組み合わせることで矩形状を成している。
【0033】
空調装置106はさらに、図2(a)および図3(a)に示す出力調整部130およびブラケット132と、図2(a)および図2(b)に示す一対のスペーサ114a、114bとを有する。出力調整部130は、図3(a)に示す温度ヒューズ134が露出して配置された平面部170を有するレジスタであり、壁部116の挿通孔124から挿通され収容空間122に収容されている。平面部170は金属で形成され、後述する端子Lo、Mi、Hiに通電時に発生する熱が伝達されて、平面部170の周囲の空気に放熱する。なお図3(a)は、出力調整部130およびブラケット132を上方から見た図である。
【0034】
出力調整部130は、温度ヒューズ134と、図3(a)に示す複数の端子Lo、Mi、Hi、MOからなる出力選択部136とを含み、空調装置106の出力を調整する図3(b)に示す回路を構成している。
【0035】
出力選択部136の端子MOには電流が印加される。端子Hiの配線は、端子Lo、Miの配線よりも太くなっている。端子Lo、Miの配線の太さは同じである。また端子Loの配線は、端子Miの配線よりも長くなっている。このため端子Loの配線は、端子Miの配線よりも電気抵抗が大きい。さらに端子Hiの配線は、端子Miの配線よりも短い。したがって出力選択136において、端子Hiを選択することで、空調装置106の出力が高出力(Hi)となり、端子Loを選択することで、空調装置106が低出力(Low)となる。そして、各端子Lo、Mi、Hiに通電することにより、電気抵抗の大きさに応じて熱が発生する。発生した熱は、出力調整部130の平面部170に伝達され、周囲に放熱される。
【0036】
温度ヒューズ134は、図3(a)に示すように、出力調整部130の平面部170の内部に、平面部170と空間を隔てて配置されている。また、温度ヒューズ134は、
溶断することで電気的通電を遮断する溶断部138を有する。溶断部138には、溶断材料として従来周知の樹脂が用いられている。温度ヒューズ134は平面部170と空間を隔てて配置されているが、平面部170が放熱すると、平面部170からの熱放射を受けて、あるいは平面部170の表面で加熱された空気との接触を介して、温度が上昇する。
【0037】
電気機器の故障や内部回路のショートなどによって各端子Lo、Mi、Hiに過大な電流が流れたとき、平面部170からの発熱量も過度に大きいものとなる。溶断部138の温度が上昇し、溶融温度に到達すると、溶断材料が軟化する。溶断部138内に配置される電極(図示せず)は、予め離間するように付勢されているところ、溶断材料によって離間が阻止されているが、溶断材料が軟化することで電極の離間が許容され、電気回路が遮断される仕組みとなっている。
【0038】
電気機器の故障や内部回路のショートなどが発生しておらず、各端子Lo、Mi、Hiに適正な量の電流が流れたとき、平面部170からの発熱量は想定された量となる。溶断部138の温度が上昇するとしても、溶融温度には到達せず、溶断材料が軟化することがない。これにより、溶断部138内に配置される電極の離間が阻止されて、電気回路は遮断されない。
【0039】
一方、電気機器の故障や内部回路のショートなどが発生しておらず、各端子Lo、Mi、Hiに適正な量の電流が流れた場合であっても、温度ヒューズ134の温度(溶断部138の温度)が溶断温度に達すると、電気回路が遮断されるおそれがある。
【0040】
そこで車両上部構造100では、温度ヒューズ134の周辺温度の上昇を抑制し、空調装置106が意図せず使用不能となることを回避できる構成を採用した。具体的には、空調装置106のブラケット132は、図3(a)に示すように出力調整部130に連結された部材である。また、ブラケット132は、図2(a)に示すように壁部116(図中では、上壁部118)との間に所定の第1隙間140(例えば10mm程度)を介して挿通孔124を外部から覆っている。これによりブラケット132は、収容空間122と壁部116の外部とを連通(通気)している(図4(b)の矢印D、E参照)。
【0041】
このような構成により、平面部170からの放熱や太陽光の照射に基づくルーフパネル104から車室側への放熱を受けて高温となった空気が、出力調整部130の周囲に滞留することが防止され、平面部170からの放熱を円滑なものとし、溶断部138が溶断温度に到達することが防止される。すなわち、適正な量の電流が流れた場合に、意図せずに空調装置106が使用不能となることが防止される。
【0042】
ブラケット132は、剛性のある樹脂で形成され、例えば矩形状の本体部142を有する。本体部142には接続口144が形成されている。接続口144には、コネクタ146を介してハーネス148が接続されている。ハーネス148は、上壁部118に設けられたハーネス支持部149によって支持されて、さらに第1隙間140の上方に配索されている(図4(b)参照)。このため、ルーフパネル104の下面を伝って流れる結露水が落下しても、ハーネス148が結露水を受け止めるため、第1隙間140に結露水が落下することを抑制できる。
【0043】
本体部142の側壁150a、150bは、車両前後方向に張り出したフランジ部152a、152bを有する。フランジ部152a、152bには、図3(a)に示す貫通穴154a、154bが設けられている。貫通穴154a、154bには、連結治具であるボルト156a、156bが貫通される。
【0044】
また本体部142は、図2(a)に示す一対のスペーサ114a、114bと当接する段差部158a、158bを有する。一対のスペーサ114a、114bは、図2(b)に示すようにボルト孔160a、160bが設けられた連結部162a、162bと、連結部162a、162bから上下方向に延びる延長部164a、164bとを含む。一対のスペーサ114a、114bの材質は、車両上部構造100に求められる温度範囲や振動条件に適応し所定値以上の硬度を有する部材であれば特に限定はしないが、例えばポリプロピレンやアルミニウム、ステンレスなどが用いられる。
【0045】
連結部162a、162bは、ボルト孔160a、160bに本体部142の貫通穴154a、154bを重ねた状態でボルト156a、156bが貫通することにより、ブラケット132の本体部142とともに壁部116に連結される。延長部164a、164bは、壁部116の挿通孔124の両側で本体部142の段差部158a、158bと当接し、ブラケット132の本体部142と壁部116との間に介在することによって第1隙間140を保っている。
【0046】
図4は、図2(a)の空調装置106を備えた車両上部構造100の要部を示す図である。図4(a)は、車両上部構造100を車幅方向外側から見た状態を示している。なお図中では、一対のスペーサ114a、114bを鎖線で示している。図4(b)は、図1および図4(a)の車両上部構造100のB-B断面図である。
【0047】
空調装置106は、ルーフパネル104と車室天井166との間の天井空間168に配置されている。平面状の出力調整部130は、図4(b)に示すようにその平面部170が上下を向く姿勢で配置されている。また出力調整部130は、平面部170と挿通孔124の上縁172との間の所定の第2隙間174を介して挿通孔124に挿通されて、収容空間122に収容されている。さらに出力調整部130の平面部170は、図4(b)の角度αに示すように挿通孔124に近づくほど下方に傾斜している。
【0048】
またルーフパネル104は、出力調整部130および第1隙間140の上方に傾斜部176aを有する。この傾斜部176aは、車幅方向外側に向かうほど下方に傾斜していて、その下端178aが出力調整部130、第1隙間140、ブラケット132およびハーネス148から離れた位置にある。
【0049】
これにより、ルーフパネル104の下面を伝って流れる結露水は、経路Waに示すように傾斜部176aの下端178aまで導かれて、出力調整部130、第1隙間140、ブラケット132およびハーネス148に落下し難くなる。このため結露水が第1隙間140に浸入することを抑制できる。
【0050】
図5は、図2(a)の空調装置106を備えた車両上部構造100の要部を図4とは異なる方向から見た状態を示す図である。図5(a)は、車両上部構造100を車両後側から見た状態を示している。なお図中では、スペーサ114bを鎖線で示している。図5(b)は、図1および図5(a)の車両上部構造100のC-C断面図である。
【0051】
ルーフパネル104は、図5(b)に示すように出力調整部130および壁部116の挿通孔124の上方に傾斜部176bを有する。この傾斜部176bは、車両前側に向かうほど下方に傾斜していて、その下端178bが出力調整部130、挿通孔124、ブラケット132およびハーネス148から離れた位置にある。また、傾斜部176bの下端178bは、第1隙間140からも離れた位置にある。
【0052】
これにより、ルーフパネル104の下面を伝って流れる結露水は、経路Wbに示すように傾斜部176bの下端178bまで導かれて、出力調整部130、第1隙間140、ブラケット132およびハーネス148に落下し難くなる。このため、結露水が第1隙間140に浸入することを抑制できる。
【0053】
また図4および図5に示すルーフパネル104と車室天井166との間の天井空間168は、図1に示すピラー108の内部空間112と連通している。このため天井空間168に配置された空調装置106の出力調整部130も、ピラー108の内部空間112と連通している。
【0054】
車両上部構造100では、温度ヒューズ134を含む出力調整部130にブラケット132を連結し、さらにブラケット132によって壁部116との間に第1隙間140を介して挿通孔124を覆っている。このようにして車両上部構造100では、図4(b)の矢印D、Eに示すように出力調整部130を収容する収容空間122と壁部116の外部とを連通(通気)している。
【0055】
このため空調装置106では、出力調整部130の温度ヒューズ134の周囲の暖められた空気(平面部170の放熱やルーフパネル104から車室側への放熱により温められた、温度ヒューズ134の周囲の空気)が、ブラケット132と壁部116との間の第1隙間140を通って収容空間122から壁部116の外部に排気される。したがって車両上部構造100によれば、温度ヒューズ134の周辺温度の上昇を抑制し、溶断部138の溶断材料の変形を抑制して、意図しないリード線の断線を抑制することにより、空調装置106が意図せず使用不能となることを回避することができる。
【0056】
出力調整部130は、図4(b)に示すように平面部170の表裏が上下を向く姿勢で配置されていて、平面部170と挿通孔124の上縁172との間に第2隙間174を介して挿通孔124に挿通されている。このため、温度ヒューズ134の周囲の空気が暖められると、暖められた空気は上方に移動して第2隙間174を通って、収容空間122から外部に排気される。これにより車両上部構造100では、温度ヒューズ134の周辺温度の上昇を抑制することができる。
【0057】
車両上部構造100では、出力調整部130の平面部170が水平(水平に近い姿勢を含む)に配置されているため、空調装置106の上下寸法を小さくできる。その結果、ルーフパネル104と車室天井166との間の限られたスペースである図4および図5に示す天井空間168に、空調装置106を収容し易くなる。
【0058】
また図4(b)に示すように出力調整部130の平面部170が挿通孔124に近づくほど下方に傾斜しているため、挿通孔124を外部から覆うブラケット132の上部は、挿通孔124から遠ざかる姿勢となる。このため車両上部構造100では、ブラケット132と壁部116との間の第1隙間140を大きくすることができ、温度ヒューズ134の周囲の暖められた空気を、より確実に外部に排気して放熱することができる。
【0059】
一対のスペーサ114a、114bは、挿通孔124の両側でブラケット132と壁部116との間に介在して第1隙間140を保っている。このため車両上部構造100では、ブラケット132と壁部116との間の第1隙間140の両側から結露水などが出力調整部130に浸入することを抑制できる。
【0060】
また一対のスペーサ114a、114bが連結部162a、162bで壁部116に連結されるため、ブラケット132と壁部116との間に第1隙間140を確実に保つことができる。また一対のスペーサ114a、114bの延長部164a、164bは、連結部162a、162bから上下方向に延びて、さらにブラケット132の本体部142の段差部158a、158bと当接している。このため車両上部構造100では、ブラケット132が、一対のスペーサ114a、114bの連結部162a、162bを起点にして傾動することを回避できるため、第1隙間140および第2隙間174の寸法を所望の寸法に維持し易い。
【0061】
また図4および図5に示す天井空間168に配置された空調装置106の出力調整部130は、図1に示すピラー108の内部空間112と連通している。このため車両上部構造100では、出力調整部130の周辺の暖められた空気に、ピラー108の内部空間112の温度の低い空気が混入することにより、出力調整部130の周辺温度の上昇を抑制することができる。
【0062】
さらに車両上部構造100では、温度ヒューズ134の周囲の暖められた空気が第2隙間174を介して壁部116の外部に排気されると同時に、ピラー108と連通する天井空間168に存在していて暖められていない空気が収容空間122に給気される。これにより、温度ヒューズ134の周辺温度の上昇をより効果的に抑制し、出力調整部130の周辺温度の上昇を抑制することができる。
【0063】
なお車両上部構造100では、ブラケット132とは別体である一対のスペーサ114a、114bによって、ブラケット132と壁部116との間に第1隙間140を保つようにしたが、これに限定されない。一例として、一対のスペーサ114a、114bと同じ形状の部位をブラケット132と一体に形成し、この部位によって第1隙間140を保つようにしてもよい。
【0064】
また出力調整部130は、平面部170の上面と挿通孔の上縁172との間の所定の第2隙間174を介して挿通孔124に挿通されているとしたが、更に図4(b)に示すように平面部170の下面と挿通孔124の下縁173との間に第3隙間175を設けて挿通されると好ましい。
【0065】
さらに一例として、温度ヒューズ134は、出力調整部130の平面部170の内部に、平面部170と空間を隔てて配置されているものとして説明したが、これに限定されず、空間を隔てずに平面部170と当接するように配置されていてもよい。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、車両用空調装置、およびその車両用空調装置が配置された車両上部構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
100…車両上部構造、102…車両、104…ルーフパネル、106…車両用空調装置、108…ピラー、110…ピラーの上部、112…ピラーの内部空間、114a、114b…スペーサ、116…壁部、118…上壁部、120…下壁部、122…収容空間、124…壁部の挿通孔、126、128…切欠部、130…出力調整部、132…ブラケット、134…温度ヒューズ、136…出力選択部、138…溶断部、140…第1隙間、142…ブラケットの本体部、144…接続口、146…コネクタ、148…ハーネス、149…ハーネス支持部、150a、150b…本体部の側壁、152a、152b…フランジ部、154a、154b…貫通穴、156a、156b…ボルト、158a、158b…段差部、160a、160b…ボルト孔、162a、162b…連結部、164a、164b…延長部、166…車室天井、168…天井空間、170…出力調整部の平面部、172…挿通孔の上縁、173…挿通孔の下縁、174…第2隙間、175…第3隙間、176a、176b…ルーフパネルの傾斜部、178a、178b…傾斜部の下端
図1
図2
図3
図4
図5