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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019516
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】開閉制御装置
(51)【国際特許分類】
   E05F 15/41 20150101AFI20250131BHJP
   E05F 15/655 20150101ALI20250131BHJP
   B60J 5/00 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
E05F15/41
E05F15/655
B60J5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123160
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000148896
【氏名又は名称】三井金属アクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】川野辺 修
【テーマコード(参考)】
2E052
【Fターム(参考)】
2E052AA09
2E052CA06
2E052DA02
2E052DB02
2E052EA16
2E052EB01
2E052EC01
2E052GA09
2E052GA10
2E052GB06
2E052LA09
(57)【要約】
【課題】コストの増加を抑えながら、挟み込みを精度よく検出することが可能な開閉制御装置を提供する。
【解決手段】車体Bに開閉可能に支持されるドアDを開閉方向へ駆動するドア開閉用モータM1と、ドア開閉用モータM1を制御する制御装置9と、を備える開閉制御装置であって、制御装置9は、ドア開閉用モータM1の進角を調整可能なモータ制御部92と、パルス信号を出力するパルスエンコーダ45と、パルスエンコーダ45から出力されるパルス信号に基づくパルス検知によりドア開閉用モータM1の回転数を検出可能なパルス検出部91と、ドアDの挾み込みを検出する挟み込み検出部96と、を有する。挾み込み検出部96は、モータ制御部92がドア開閉用モータM1の進角制御中に、ドア開閉用モータM1の回転数が閾値以下になったとき、ドアDの挟み込みを検出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に開閉可能に支持される開閉体を開閉方向へ駆動するモータと、
前記モータを制御する制御装置と、を備える開閉制御装置であって、
前記制御装置は、
前記モータの進角を調整可能なモータ制御部と、
パルス信号を出力するパルスエンコーダと、
前記パルスエンコーダから出力されるパルス信号に基づくパルス検知により前記モータの回転数又は前記開閉体の開閉速度を検出可能なパルス検出部と、
前記開閉体の挾み込みを検出する挾み込み検出部と、を有し、
前記挾み込み検出部は、前記モータ制御部が前記モータの進角制御中に、前記モータの回転数又は前記開閉体の開閉速度が閾値以下になったとき、前記開閉体の挟み込みを検出する、開閉制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の開閉制御装置であって、
前記挾み込み検出部は、前記モータ制御部が前記進角制御を行わない前記モータの通常制御中に、前記モータの回転数又は前記開閉体の開閉速度が前記閾値以下になったとき、前記開閉体の挟み込みを検出する、開閉制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の開閉制御装置であって、
前記制御装置は、前記車体の傾斜角を検出可能な傾斜検出部をさらに備え、
前記モータ制御部は、前記傾斜角に基づいて前記進角を変更する、開閉制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の開閉制御装置であって、
前記開閉体の開閉動作において動作方向が上り傾斜となる状況において、
前記モータ制御部は、前記傾斜角が設定値以下のとき、前記進角制御を行う、開閉制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載の開閉制御装置であって、
前記開閉体の開閉動作において動作方向が上り傾斜となる状況において、
前記モータ制御部は、前記傾斜角が大きくなるにしたがって前記進角を小さくする、開閉制御装置。
【請求項6】
請求項3に記載の開閉制御装置であって、
前記開閉体の開閉動作において動作方向が上り傾斜となる状況において、
前記モータ制御部は、前記傾斜角が設定値よりも大きいとき、前記進角制御を行わない前記モータの通常制御を行う、開閉制御装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の開閉制御装置であって、
前記モータ制御部は、前記開閉体の負荷変動が発生しやすい領域では、前記開閉体の負荷変動が発生しづらい領域に比べて、前記進角を小さくして前記進角制御を行うか、又は、前記進角制御を行わない前記モータの通常制御を行う、開閉制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の開閉制御装置であって、
前記開閉体は、スライドドアであり、
前記開閉体の負荷変動が発生しやすい領域は、半ドア位置に達する前の減速領域、及び、全開位置に達する前のラッチ嵌合領域を含む、開閉制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開閉制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用開閉体制御装置において、特許文献1のように、モータに流れる電流値により挟み込みの検出を行うものが知られている。しかしながら、閉位置または全開位置からの動き出しなどドア動作直後、及びドアを全開位置に保持するための全開ラッチ装置がストライカに噛合するときにあっては、モータの起動や負荷増により電流値が上昇する等して安定しないため、挟み込みの検出精度に課題があった。
【0003】
また、特許文献2のように、ドアが全開側領域または全閉側領域にあるときは、回転角センサのパルス信号により挟み込みを検出し、中間領域にあるときは、電流値により挟み込みを検出するということで、上記の課題に対応したものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7192587号公報
【特許文献2】特許第6291663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2のものでは、電流センサと回転角センサの両方が必要となるため、コストアップに繋がる課題があった。
【0006】
本発明は、コストの増加を抑えながら、挟み込みを精度よく検出することが可能な開閉制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
車体に開閉可能に支持される開閉体を開閉方向へ駆動するモータと、
前記モータを制御する制御装置と、を備える開閉制御装置であって、
前記制御装置は、
前記モータの進角を調整可能なモータ制御部と、
パルス信号を出力するパルスエンコーダと、
前記パルスエンコーダから出力されるパルス信号に基づくパルス検知により前記モータの回転数又は前記開閉体の開閉速度を検出可能なパルス検出部と、
前記開閉体の挾み込みを検出する挾み込み検出部と、を有し、
前記挾み込み検出部は、前記モータ制御部が前記モータの進角制御中に、前記モータの回転数又は前記開閉体の開閉速度が閾値以下になったとき、前記開閉体の挟み込みを検出する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電流センサがなくても、挟み込みを精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態の開閉制御装置を適用した車両の側面図である。
図2】制御装置9の構成を示すブロック図である。
図3】ドアDの開閉領域を示す説明図である。
図4】挟み込み発生時の回転速度変動及びトルク変動(負荷変動)を示す説明図である。
図5】ドア開作動時の制御手順を示すフローチャート図である。
図6】ドア閉作動時の制御手順を示すフローチャート図である。
図7】進角設定処理の第1例を示すフローチャート図である。
図8】進角設定処理の第2例を示すフローチャート図である。
図9】進角設定処理の第3例を示すフローチャート図である。
図10】進角設定処理の第4例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図1図10を参照して説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとし、以下の説明において、前後、左右、上下は、運転者から見た方向に従い、図面に車両Vの車体Bの前方をFr、後方をRr、左方をL、右方をR、上方をU、下方をD、として示す。
【0011】
図1に示すように、車両のスライドドア(以下、「ドア」と記す)Dは、車体Bの側面に固定された前後方向を向くガイドレールG1、G2、G3により前後方向へ開閉可能に支持される。ドアDは、手動による手動操作及び後述のドア開閉駆動装置PSDのドア開閉用モータM1の動力による電動操作により、車体Bの側面に設けられた乗降口を閉鎖した全閉位置から、車体Bの外側面より若干外方に移動しつつ車体Bの側面に沿って後方へ移動した全開位置へ移動することができ、またその逆である全開位置から全閉位置へ移動することができる。
【0012】
なお、ガイドレールG2は、ドアDの開作動時、ドアDを車体Bの外側面より若干外方に移動しつつ車体Bの側面に沿って後方へ移動し得るように案内支持するため、図3に示すように、ガイドレールG2の前部は車内側へ向けて湾曲し、当該湾曲した部分よりも後部分は直線状に形成されている。他のガイドレールG1、G3についても同様な形状に形成される。
【0013】
ドアD内の後端部には、ドアDを全閉位置に保持するための全閉ラッチ装置DL1及びドアDを半ドア位置から全閉位置に閉め込むためのドアクローザ装置DCが設けられる。
【0014】
全閉ラッチ装置DL1は、噛合機構を備える。噛合機構は、乗降口における開口後縁の適所に固着された全閉ストライカ(図示略)に噛合可能なラッチ(図示略)、及び全閉ストライカに係合しているラッチに係合することで、ラッチの開き方向への回動を阻止可能なラチェット(図示略)を含む。全閉ラッチ装置DL1は、ドアDの閉作動時、ラッチが全閉ストライカに僅かに噛合するハーフラッチ状態(ドアDの半ドア位置に相当)を経由して全開ストライカに完全に噛合するフルラッチ状態(ドアDの全閉位置に相当)に回動することで、ドアDを全閉位置に保持する。
【0015】
ドアクローザ装置DCは、全閉ラッチ装置DL1のラッチをハーフラッチ状態からフルラッチ状態へ回動させることで、ドアDを半ドア位置から全閉位置に移動させるためのクローザ用モータ61を有する。ドアクローザ装置DCは、全閉ラッチ装置DL1に設けられたハーフラッチ検知スイッチ51がラッチのハーフラッチ状態を検出したことを契機に、クローザ用モータ61が駆動してラッチをハーフラッチ状態からフルラッチ状態に回動させる。これにより、ドアDをドアシールの反力に抗して半ドア位置から全閉位置に移動させることができる。なお、全閉ラッチ装置DL1及びドアクローザ装置DCは、公知の構造を採用するため詳細な説明については省略する。
【0016】
ドアDの下前部には、ドアDを全開位置に保持するための全開ラッチ装置DL2が設けられる。全開ラッチ装置DL2は、ドアDが開作動することで、車体Bの下部に固着された全開ストライカ(図示略)と噛合することによりドアDを全開位置に保持する。
【0017】
全閉ラッチ装置DL1及び全開ラッチ装置DL2は、ドアDの車外側に設けられるアウトサイドハンドルOH及び車内側に設けられるインサイドハンドル(図示略)の開扉操作、並びに全閉ラッチ装置DL1及び全開ラッチ装置DL2に連結されたリリース用電動アクチュエータ(図示略)により解除作動させられることによって、各ストライカからそれぞれ外れてドアDの開作動及び閉作動を可能にする。
【0018】
ドア開閉駆動装置PSDは、車体Bの側面に配置されると共に、正逆回転可能なドア開閉用モータM1と、ドア開閉用モータM1の回転を減速する減速機を介して正逆回転可能な回転ドラムM2と、回転ドラムM2に巻き取り及び送り出し可能に掛け回される共に、ガイドレールG2に沿って配索され、ドアDの後端部に連結されるケーブルM3と、ドア開閉用モータM1と回転ドラムM2間の動力伝達経路を断続可能な電磁クラッチ44とを備える。ドア開閉駆動装置PSDは、アウトサイドハンドルOH及びインサイドハンドルの開閉操作に連動するハンドルスイッチ11及び運転席近傍、携帯用のワイヤレスリモートコントロールスイッチ等に設けられた操作スイッチ12の操作に基づいて、電磁クラッチ44が接続状態に作動すると共に、ドア開閉用モータM1が回転(正転または逆転)することで、当該回転を電磁クラッチ44、回転ドラムM2、ケーブルM3を介してドアDに伝達してドアDを開方向または閉方向へ作動させる。また、電磁クラッチ44が切断状態のときには、減速機、ドア開閉用モータM1を逆転させる抵抗を受けることがなく、ドアDを手動操作で開閉作動させることができる。
【0019】
なお、ドア開閉用モータM1は、ドアDの閉作動にあっては、ドアDが全開位置から半ドア位置へ移動する期間は駆動し、クローザ用モータ61の駆動によりドアDが半ドア位置から全閉位置に移動する期間は駆動を停止する。すなわち、ドアDの閉作動にあっては、ドアDを全開位置から半ドア位置まで移動させる駆動源はドア開閉用モータM1となり、半ドア位置から全閉位置まで移動させる駆動源はクローザ用モータ61となる。
【0020】
回転ドラムM2には、回転ドラムM2の回転角を高分解能に検知して回転に応じたパルス信号を出力するパルスエンコーダ45が設けられる。なお、回転ドラムM2は、ケーブルM3を介してドアDに連結されてドアDの開閉作動に実質的に同期して回転するものであるから、回転ドラムM2の回転速度、回転角を検知することは、ドアDの開閉速度、ドアDの位置を検知することと実質的に同じである。したがって、以下の説明においては、パルスエンコーダ45は、ドアDの移動に応じたパルス信号を出力するものとして説明する。
【0021】
パルスエンコーダ45は、ドアDの開閉方向、開閉速度、移動量に応じたパルス信号を出力し、当該パルス信号は、車体Bの適所に設置された制御装置9に送信される。
【0022】
次に、図2に示すブロック図を参照して、制御装置9、及び当該制御装置9に接続される各電気的要素について説明する。
【0023】
制御装置9は、車載のバッテリ(図示略)に電気的に接続され、マイクロコンピュータによるプログラム制御によって電気的要素の駆動要素を統括的に制御するものである。制御装置9は、パルスエンコーダ45から出力されるパルス信号に基づくパルス検知によりドアDの開閉速度、移動方向及び現在位置を算出するパルス検出部91と、ドア開閉用モータM1を制御するモータ制御部92と、電磁クラッチ44を制御するためのクラッチ制御部93と、車体Bの傾斜を検出する傾斜検出部94と、ドアクローザ装置DCのクローザ用モータ61を制御するためのクローザ制御部95と、ドアDへの身体、その他の障害物の接触、挾み込み等を検出する挾み込み検出部96と、全閉ラッチ装置DL1及び全開ラッチ装置DL2に連結されたリリース用電動アクチュエータを制御するアクチュエータ制御部(図示略)と、モータ制御部92、クラッチ制御部93及びクローザ制御部95の制御に基づいてオン・オフする駆動回路部97と、ハンドルスイッチ11、操作スイッチ12の開操作信号及びハーフラッチ検知スイッチ51の出力に基づいてドアDの駆動判定を行う駆動回路部97と、を含む。
【0024】
パルス検出部91は、ドアDの開閉作動に応じてパルスエンコーダ45から出力されるパルス信号のパルス幅に基づいて、ドアDの開閉速度又はドア開閉用モータM1の回転速度を算出するドア速度算出部911と、2相パルス信号の位相関係に基づいてドアDの移動方向を検出するドア移動方向検出部912と、パルスエンコーダ45から出力されるパルス信号を計数し、当該計数した計数値に基づいてドアDの現在位置を検出するドア位置算出部913とを含む。なお、ドア開閉用モータM1の回転速度は、単位時間あたりのモータ回転数であるため、ドア開閉用モータM1の回転速度をドア開閉用モータM1の回転数と称する場合がある。
【0025】
図3に示すように、ドアDの開閉作動領域には、全閉側領域L1、中間領域L2及び全開側領域L3が含まれ、ドアDが各領域L1~L3のうち何れの領域にあるかは、ドア位置算出部913がパルスエンコーダ45から出力されるパルス信号をカウントしたパルス数によって認識される。なお、全閉側領域L1は、ガイドレールG2に沿って開閉作動するドアDの半ドア位置(全閉ラッチ装置DL1のハーフラッチ状態に対応)と半ドア手前位置との間の領域(ドアDの閉作動時、ドアDが半ドア位置に達する前の減速領域であって、ガイドレールG1、G2、G3の前部の湾曲部G11、G21、G31に相当)を指す。全開側領域L3は、全開位置(全開ラッチ装置DL2が全開ストライカに完全に噛合した位置)と全開手前位置(ガイドレールG1、G2、G3の直線部分の後端部にあって、ドアDの開作動時、全開ラッチ装置DL2が全開ストライカに接触し始める位置)間の領域を指す。中間領域L2は、全閉側領域L1と全開側領域L3との間の領域を指す。
【0026】
また、ドアDの目標速度は、全閉側領域L1及び全開側領域L3においては低速度、中間領域L2においては高速度になるように、予め設定されて制御装置9の記憶領域に記憶されている。したがって、全閉側領域L1及び全開側領域L3は低速領域、中間領域L2は高速領域と定義することができる。
【0027】
モータ制御部92は、ドア開閉用モータM1をPWM(Pulse Width Modulation)制御するPWM制御部921と、ドア開閉用モータM1の進角を調整する進角調整部922とを含む。
【0028】
PWM制御部921は、後述する制御手順(図5図6参照)に基づいてドア開閉用モータM1をPWM制御し、ドアDを開閉作動させる。また、ドアDの開閉作動中に挟み込み検出部96が挟み込みを検出した場合は、PWM制御部921がドア開閉用モータM1を反転制御し、ドアDの挟み込み状態を解除させる。
【0029】
ドア開閉用モータM1は、モータ制御信号の位相を進角させて制御することも可能なブラシレスモータであり、進角調整部922は、進角の調整によりドア開閉用モータM1のモータ特性を変更する(図4参照)。なお、本明細書では、通常制御に対し進角を大きくし、ドア開閉用モータM1のモータ特性を高回転-低トルク型とする制御状態を進角制御と称する。言い換えると、通常制御は、進角ゼロとする進角制御を行わない制御であり、進角制御時におけるモータ特性に対し、低回転-高トルク型のモータ特性を有する。
【0030】
挾み込み検出部96は、ドア開閉用モータM1の回転速度(又は、ドア開閉用モータM1の回転数、ドアDの開閉速度)が閾速度(閾値)を超えて低下したとき、ドアDの挟み込みを検出する。挟み込み検出部96は、ドア開閉用モータM1の進角制御中及び通常制御中のいずれにおいてもドアDの挟み込みを検出することができる。そして、進角制御中の場合は、ドア開閉用モータM1の回転数変化に対するトルク変化が小さくなり、挟み込み発生時のトルク変動に伴うドア開閉用モータM1の回転数変化が大きくなる。これにより、挟み込み検出の応答性が向上するので、電流センサがなくても、挟み込みを精度よく検出できるだけでなく、挟み込み検出時の挟み込み荷重を低減できる。なお、開閉制御装置は、電流センサを備えていてもよい。以下、その具体的な原理について図4を参照して説明する。
【0031】
図4は、挟み込み発生時におけるドア開閉用モータM1の回転速度変動及びトルク変動(負荷変動)を示している。この図に示すように、ドアDの作動中にA点(負荷Ta、回転速度Na)で挟み込みが発生すると、ドア開閉用モータM1の回転速度が低下する。ドア開閉用モータM1が進角制御中の場合は、負荷がTaからTbに増加した時点で、回転速度がNb2(閾速度)まで下がり、挟み込みが検出される(B2点)。一方、通常制御中の場合は、負荷がTaからTbに増加した時点では、回転速度がNb1(Nb1<Nb2)までしか低下しないため、挟み込みは検出されない(B1点)。つまり、通常制御中の場合は、負荷がTaからTcまで増大し、回転速度がNb2まで低下した時点で挟み込みが検出される(C点)。
【0032】
傾斜検出部94は、例えばGセンサ46(加速度センサ)の検出信号に基づいて車体Bの傾斜角を検出する。なお、既存の加速度センサを備える車両Vでは、既存の加速度センサをGセンサ46に兼用してもよい。
【0033】
図2に示すように、傾斜検出部94は、検出した車体Bの傾斜角をモータ制御部92の進角調整部922に送る。進角調整部922は、車体Bの傾斜角に基づいてドア開閉用モータM1の進角を変更する。つまり、車体Bの傾斜角によってドアDの開閉に必要なトルクが異なるため、必要トルクに応じてドア開閉用モータM1のモータ特性を切り替えることで、ドアDの開閉動作と挟み込み検出の両方を適切に制御することが可能となる。
【0034】
具体的に説明すると、本実施形態のドアDは、前後方向に開閉動作するスライドドアであり、ドアDの動作方向が上り傾斜となる場合はドアの自重に逆らって動作するため必要トルクが大きくなり、ドアDの動作方向が下り傾斜となる場合はドアの自重に従って動作するため必要トルクが小さくなる。例えば、車体Bが前下がり状に傾斜している場合は、前後傾斜角が0の場合に比べて、ドアDの開動作に必要なトルクが大きくなり、ドアDの閉動作に必要なトルクが小さくなる。また、車体Bが後下がり状に傾斜している場合は、前後傾斜角が0の場合に比べて、ドアDの開動作に必要なトルクが小さくなり、ドアDの閉動作に必要なトルクが大きくなる。そして、このようなドアDの開閉動作において、常に進角制御を行うと、必要トルクが大きくなる車体Bの傾斜時にドア開閉用モータM1のトルクが不足し、ドアDの開閉動作がスムーズに行われない可能性があるため、進角調整部922は、車体Bの傾斜角に基づいてドア開閉用モータM1の進角を変更する。
【0035】
なお前述の内容はバックドアでも同様であり、車体Bが前下がり状に傾斜している場合は、ドアDの動作方向が上り傾斜となる場合であり、車体Bが後下がり状に傾斜している場合は、ドアDの動作方向が下り傾斜となる場合である。またサイドドアにおいては、車体Bが後下がり状に傾斜している場合は、ドアDの動作方向が上り傾斜となる場合であり、車体Bが前下がり状に傾斜している場合は、ドアDの動作方向が下り傾斜となる場合とすることで同様に考える事ができる。
【0036】
以下の説明では、前後傾斜角が0の場合を基準にしてドアDの動作方向が上り傾斜となる傾斜角、言い換えると必要トルクが大きくなる傾斜角を正とする。即ち、傾斜角が正の場合とは、ドアDの開動作においては前下がり状に傾斜している状況であり、ドアDの閉動作においては後下がり状に傾斜している状況である。
【0037】
例えば、進角調整部922は、車体Bの傾斜角が第1設定値a(a>0)以下のとき、進角を第1値α°として進角制御を行い、車体Bの傾斜角が第1設定値aよりも大きいとき、進角を0°として通常制御を行う。このようにすると、車体Bの傾斜角が小さい領域では、ドアDの開閉トルクが小さいので、進角制御を行うことでドアDの挟み込み荷重を低減し、車体Bの傾斜角が大きい領域では、ドアDの開閉トルクが大きいので、通常制御を行うことでドアDの開閉動作がスムーズになる。
【0038】
進角調整部922は、車体Bの傾斜角が大きくなるにしたがって進角を段階的に小さくするようにしてもよい。例えば、進角調整部922は、車体Bの傾斜角が第1設定値a(a>0)以下のとき、進角を第1値α°として進角制御を行い、第1設定値aよりも大きく、且つ、車体Bの傾斜角が第1設定値aよりも大きい第2設定値b(b>a)以下のとき、進角を第1値α°よりも小さい第2値β°(β°<α°)として進角制御を行い、車体Bの傾斜角が第2設定値bよりも大きいとき、通常制御を行う。このようにすると、車体Bの傾斜角に基づいて、より適切な進角を適用することができる。なお、ドアDの動作方向及び車体Bの傾斜角に基づいて必要トルクを算出し、算出した必要トルクに基づいて進角を調整してもよい。
【0039】
制御装置9の入力側である駆動判断部98には、ハンドルスイッチ11、操作スイッチ12の開操作信号及びハーフラッチ検知スイッチ51のハーフラッチ信号が入力される。
【0040】
制御装置9の出力側である駆動回路部97には、ドア開閉用モータM1、電磁クラッチ44及びクローザ用モータ61がそれぞれ電気的に接続される。
【0041】
次に、図5及び図6に示すフローチャートに基づいて、制御装置9が行う開閉制御について説明する。
【0042】
図5に示すように、制御装置9は、ハンドルスイッチ11または操作スイッチ12からの開操作信号を受信すると(S101)、車体Bの傾斜角を検出するとともに(S102)、傾斜角に基づいて後述する進角設定処理(図7図10参照)を実行する(S103)。
【0043】
次に、制御装置9は、ドアDの開動作を開始するとともに(S104)、ドアDの開動作中にドア開閉用モータM1の回転数が閾値Nb2よりも小さくなったか否かを判断する(S105)。制御装置9は、ステップS105の判断結果がYESの場合、ドアDの挟み込み発生と判断し、ドア開閉用モータM1を反転制御する(S106)。また、制御装置9は、ステップS105の判断結果がNOの場合、ドアDの全開位置への到達に応じてドアDの開動作を停止させる(S107)。
【0044】
図6に示すように、制御装置9は、ハンドルスイッチ11または操作スイッチ12からの閉操作信号を受信すると(S201)、車体Bの傾斜角を検出するとともに(S202)、傾斜角に基づいて後述する進角設定処理(図7図10参照)を実行する(S203)。
【0045】
次に、制御装置9は、ドアDの閉動作を開始するとともに(S204)、ドアDの閉動作中にドア開閉用モータM1又はクローザ用モータ61の回転数が閾値Nb2よりも小さくなったか否かを判断する(S205)。制御装置9は、ステップS205の判断結果がYESの場合、ドアDの挟み込み発生と判断し、ドア開閉用モータM1又はクローザ用モータ61を反転制御する(S206)。また、制御装置9は、ステップS205の判断結果がNOの場合、ドアDの全閉位置への到達に応じてドアDの閉動作を停止させる(S207)。
【0046】
次に、図7図10に示すフローチャートに基づいて、制御装置9が行う進角設定処理の4つの例について説明する。
【0047】
図7に示す進角設定処理の第1例において、制御装置9は、車体Bの傾斜角が第1設定値a(a>0)よりも大きいか否かを判断する(S301)。制御装置9は、ステップS301の判断結果がNOの場合、進角をα°として進角制御を行う(S302)。制御装置9は、ステップS301の判断結果がYESの場合、進角を0°として通常制御を行う(S303)。
【0048】
図8に示す進角設定処理の第2例において、制御装置9は、車体Bの傾斜角が第1設定値a(a>0)よりも大きいか否かを判断する(S401)。制御装置9は、ステップS401の判断結果がNOの場合、進角をα°として進角制御を行う。制御装置9は、ステップS301の判断結果がYESの場合、車体Bの傾斜角が第2設定値b(b>a)よりも大きいか否かを判断する(S403)。制御装置9は、ステップS403の判断結果がNOの場合、進角をβ°(β°<α°)として進角制御を行う(S404)。制御装置9は、ステップS403の判断結果がYESの場合、進角を0°として通常制御を行う(S405)。
【0049】
図9に示す進角設定処理の第3例において、制御装置9は、車体Bの傾斜角θを検出した後(S501)、所定の係数k、傾斜角θを変数とする関数式f(θ)を用いて進角を演算し(S502)、演算した進角に基づいて進角制御又は通常制御を行う。
例えば、下記の関数式f(θ)を用いて進角を演算する。
f(θ)=30-k×θ
ただし、f(θ)≦0の場合はf(θ)=0、f(θ)≧30の場合はf(θ)=30
【0050】
図10に示す進角設定処理の第4例において、制御装置9は、車体Bの傾斜角θを検出した後(S601)、予め設定したマップを参照して進角を選択し(S602)、選択した進角に基づいて進角制御又は通常制御を行う。
【0051】
(変形例)
制御装置9は、ドアDの負荷変動が発生しやすい領域では、ドアDの負荷変動が発生しづらい領域に比べて、進角を小さくして進角制御を行うか、又は、進角制御を行わずに通常制御を行うことができる。例えば、ドアDがスライドドアである場合、ドアDの負荷変動が発生しやすい領域は、半ドア位置に達する前の減速領域である全閉側領域L1、及び、全開位置に達する前のラッチ嵌合領域である全開側領域L3であり、これらの領域L1、L3では、進角を小さくして進角制御を行うか、又は、進角制御を行わずに通常制御を行うことで、挟み込みの誤検出を回避することができる。
【0052】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。例えば、本発明をバックドアに適用してもよいし、サイドドアに適用してもよい。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0053】
本明細書には少なくとも以下の事項が記載されている。なお、括弧内には、上記した実施形態において対応する構成要素等を示しているが、これに限定されるものではない。
【0054】
(1) 車体(車体B)に開閉可能に支持される開閉体(ドアD)を開閉方向へ駆動するモータ(ドア開閉用モータM1)と、
前記モータを制御する制御装置(制御装置9)と、を備える開閉制御装置であって、
前記制御装置は、
前記モータの進角を調整可能なモータ制御部(モータ制御部92)と、
パルス信号を出力するパルスエンコーダ(パルスエンコーダ45)と、
前記パルスエンコーダから出力されるパルス信号に基づくパルス検知により前記モータの回転数又は前記開閉体の開閉速度を検出可能なパルス検出部(パルス検出部91)と、
前記開閉体の挾み込みを検出する挾み込み検出部(挟み込み検出部96)と、を有し、
前記挾み込み検出部は、前記モータ制御部が前記モータの進角制御中に、前記モータの回転数又は前記開閉体の開閉速度が閾値(閾値Nb2)以下になったとき、前記開閉体の挟み込みを検出する、開閉制御装置。
【0055】
(1)によれば、モータを進角制御することで、モータの回転数変化又は開閉体の開閉速度変化に対するトルク変化が小さくなる。即ち、挟み込み発生時におけるモータの回転数変化又は開閉体の開閉速度変化の応答性が向上する。これにより、電流センサがなくても、挟み込みを精度よく検出することができる。また、挟み込み検出時の挟み込み荷重を低減できる。
【0056】
(2) (1)に記載の開閉制御装置であって、
前記挾み込み検出部は、前記モータ制御部が前記進角制御を行わない前記モータの通常制御中に、前記モータの回転数又は前記開閉体の開閉速度が前記閾値以下になったとき、前記開閉体の挟み込みを検出する、開閉制御装置。
【0057】
(2)によれば、モータの通常制御時と進角制御時で同じ閾値を使うことで制御の複雑化を回避することができる。また、通常制御と進角制御を使い分けることで、状況に応じた適切な挟み込み検出を行うことが可能となる。
【0058】
(3) (1)又は(2)に記載の開閉制御装置であって、
前記制御装置は、前記車体の傾斜角を検出可能な傾斜検出部(傾斜検出部94)をさらに備え、
前記モータ制御部は、前記傾斜角に基づいて前記進角を変更する、開閉制御装置。
【0059】
(3)によれば、傾斜角によって開閉体の開閉に必要なトルクが異なるため、必要トルクに応じてモータの制御を切り替えることで、開閉体の開閉動作と挟み込み検出の両方を適切に制御することが可能となる。
【0060】
(4) (3)に記載の開閉制御装置であって、
前記開閉体の開閉動作において動作方向が上り傾斜となる状況において、
前記モータ制御部は、前記傾斜角が設定値(第1設定値a)以下のとき、前記進角制御を行う、開閉制御装置。
【0061】
(4)によれば、傾斜角が小さい領域ではスライドドアの開閉トルクが小さいので、進角制御を行うことで開閉体の挟み込み荷重を低減できる。
【0062】
(5) (3)に記載の開閉制御装置であって、
前記開閉体の開閉動作において動作方向が上り傾斜となる状況において、
前記モータ制御部は、前記傾斜角が大きくなるにしたがって前記進角を小さくする、開閉制御装置。
【0063】
(5)によれば、傾斜角が小さい領域ではスライドドアの開閉トルクが小さいので、進角制御を行うことで開閉体の挟み込み荷重を低減し、傾斜角が大きい領域ではスライドドアの開閉トルクが大きいので、通常制御を行うことで開閉体の開閉動作がスムーズになる。
【0064】
(6) (3)に記載の開閉制御装置であって、
前記開閉体の開閉動作において動作方向が上り傾斜となる状況において、
前記モータ制御部は、前記傾斜角が設定値(第2設定値b)よりも大きいとき、前記進角制御を行わない前記モータの通常制御を行う、開閉制御装置。
【0065】
(6)によれば、傾斜角が大きい領域ではスライドドアの開閉トルクが大きいので、通常制御を行うことで開閉体の開閉動作がスムーズになる。
【0066】
(7) (1)又は(2)に記載の開閉制御装置であって、
前記モータ制御部は、前記開閉体の負荷変動が発生しやすい領域では、前記開閉体の負荷変動が発生しづらい領域に比べて、前記進角を小さくして前記進角制御を行うか、又は、前記進角制御を行わない前記モータの通常制御を行う、開閉制御装置。
【0067】
(7)によれば、開閉体の負荷変動が発生しやすい領域で、進角を小さくして進角制御を行うか、又は、通常制御を行うことで挟み込みの誤検出を回避することができる。
【0068】
(8) (7)に記載の開閉制御装置であって、
前記開閉体は、スライドドアであり、
前記開閉体の負荷変動が発生しやすい領域は、半ドア位置に達する前の減速領域、及び、全開位置に達する前のラッチ嵌合領域を含む、開閉制御装置。
【0069】
(8)によれば、スライドドアの半ドア位置に達する前の減速領域、及び、全開位置に達する前のラッチ嵌合領域では負荷変動が発生しやすいので、通常制御を行うことで挟み込みの誤検出を回避することができる。
【符号の説明】
【0070】
45 パルスエンコーダ
9 制御装置
91 パルス検出部
92 モータ制御部
94 傾斜検出部
96 挟み込み検出部
D ドア
B 車体
M1 ドア開閉用モータ
Nb2 閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10