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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019522
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】電極製造方法および電極製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20250131BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20250131BHJP
【FI】
H01M4/04 A
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123172
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】中島 康治
(72)【発明者】
【氏名】松本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信二
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050DA10
5H050DA11
5H050GA22
5H050GA29
(57)【要約】
【課題】エネルギー粒子の照射による集電体のワークの温度上昇を抑える。
【解決手段】電極製造方法は、電極を構成する集電体ワーク40の少なくとも一方の面にエネルギー粒子を照射して照射処理を行う照射工程と、照射処理を行った集電体ワークの面に活物質スラリー50を塗布する塗布工程とを有し、照射工程において、集電体ワーク40の同一の被照射領域への所定照射時間のエネルギー粒子の照射を複数回に分けて行うとともに、複数回のエネルギー粒子の照射における各回の照射と各回の次の回の照射との間に同一の被照射領域へのエネルギー粒子の照射を休止する照射休止時間を設ける。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の電極を製造するための電極製造方法であって、
前記電極を構成する集電体のワークの少なくとも一方の面にエネルギー粒子を照射して照射処理を行う照射工程と、
前記照射工程で前記エネルギー粒子の照射処理が行われた前記ワークの面に活物質を含むスラリーを塗布する塗布工程と、を有し、
前記照射工程において、
前記ワークの同一の被照射領域への所定照射時間の前記エネルギー粒子の照射を複数回に分けて行うとともに、当該複数回の前記エネルギー粒子の照射における各回の照射と当該各回の次の回の照射との間に前記同一の被照射領域への前記エネルギー粒子の照射を休止する照射休止時間を設けることを特徴とする電極製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記照射工程において、
前記エネルギー粒子の照射による前記ワークの上昇後の温度が、所定温度以下となるように前記照射休止時間を制御することを特徴とする電極製造方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記照射工程において、
異なる時間長の複数種類の前記照射休止時間を設定することを特徴とする電極製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記同一の被照射領域への複数回の前記エネルギー粒子の照射において、後の回になるほどより長い時間長の照射休止時間を設定することを特徴とする電極製造方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記エネルギー粒子は、波長200nm以下の光子、またはプラズマ粒子であることを特徴とする電極製造方法。
【請求項6】
請求項1において、
前記スラリーは、前記活物質と、導電助剤と、バインダーとを含み、前記活物質と前記導電助剤と前記バインダーとの配合比の総和を100[%]としたときに、前記導電助剤の配合比X[%]の範囲を0<X≦5とすることを特徴とする電極製造方法。
【請求項7】
二次電池の電極を製造するための電極製造装置であって、
エネルギー粒子を放射するエネルギー粒子源と、
前記電極を構成する集電体のワークおよび前記エネルギー粒子源の少なくとも一方を移動させる移動機構と、
前記エネルギー粒子源および前記移動機構を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記移動機構を、前記エネルギー粒子源の照射領域が前記ワークの面に沿って移動または相対移動するように制御し、
前記エネルギー粒子源を、前記ワークの同一の被照射領域に対する所定照射時間の前記エネルギー粒子の照射を複数回に分けて行うとともに、当該複数回の前記エネルギー粒子の照射における各回の照射と当該各回の次の回の照射との間に前記同一の被照射領域への前記エネルギー粒子の照射を休止する照射休止時間を設けるように制御することを特徴とする電極製造装置。
【請求項8】
二次電池の電極を製造するための電極製造装置であって、
エネルギー粒子を放射する複数のエネルギー粒子源と、
前記電極を構成する集電体のワークを搬送する搬送機構と、
前記複数のエネルギー粒子源および前記搬送機構を制御する制御部と、を備え、
前記複数のエネルギー粒子源は、前記ワークの長手方向に沿って所定間隔を空けて配置され、
前記搬送機構は、前記ワークを各前記エネルギー粒子源の前記エネルギー粒子の照射位置へと順に搬送するように構成され、
前記制御部は、
前記搬送機構を、各前記照射位置において、処理に必要な所定照射時間を前記エネルギー粒子源の数と同数に分割した分割照射時間の間、前記エネルギー粒子を前記ワークの同一の被照射領域に照射可能な搬送速度に制御するとともに、前記所定間隔の区間において、前記同一の被照射領域に対して前記照射を休止する照射休止時間を形成可能な搬送速度に制御することを特徴とする電極製造装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記所定間隔は、長さの異なる複数種類の間隔に構成されていることを特徴とする電極製造装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記複数種類の間隔は、搬送方向の下流側に配置された前記エネルギー粒子源間の方が上流側に配置された前記エネルギー粒子源間よりも長い間隔に構成されていることを特徴とする電極製造装置。
【請求項11】
請求項7または8において、
前記エネルギー粒子源は、波長200nm以下の光子を放射する紫外光放射源または大気圧プラズマ粒子を放射するプラズマ放射源であることを特徴とする電極製造装置。
【請求項12】
請求項7または8において、
前記エネルギー粒子を照射後の前記ワークの前記面に活物質を含むスラリーを塗布する塗布機構を備えることを特徴とする電極製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の電極製造方法および電極製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池の電極は、集電体(例えば、アルミ箔、銅箔、ステンレス鋼箔などの金属箔)の上に活物質スラリーを塗布した構造が一般的に用いられている。活物質としては、正極には例えばリチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄などの種々の金属の酸化物やリン酸化合物、負極には例えば黒鉛やハードカーボンなどの炭素系材料、チタン酸リチウムなどが用いられている。これら活物質の粉体と、これらを結着させ集電体に接着するためのバインダー、高い導電性を得るためのアセチレンブラックなどの導電助剤を溶媒と混錬して活物質スラリーとしている。また、リチウムイオン二次電池は、大電流化、大容量化、高速充電化が急速に進んでいる。この妨げになるのが集電体と活物質スラリーとの接触抵抗(界面抵抗)である。そのため接触抵抗を下げることが求められている。
【0003】
接触抵抗を大きくする要因として活物質スラリーと集電体との密着性が大きく影響することが解っている。すなわち、密着性が低いと充放電の間に活物質の剥離や浮きが起こり著しく抵抗値が増大するからである。その結果、二次電池の劣化が進行し、充放電特性が悪化して二次電池の寿命を短くしてしまう。
【0004】
これを防ぐために集電体表面に親水化処理やカーボンコーティングによる表面粗化などの表面改質処理を行い、活物質スラリーとの密着性を向上させることが試みられている。このうち、親水化処理としては、酸素存在下での真空紫外光の照射や大気圧プラズマの照射等のエネルギー粒子を照射して表面を改質する処理が用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-94343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、真空紫外光や大気圧プラズマ等のエネルギー粒子を照射する処理は集電体の温度上昇を伴うため長い時間連続して行うと集電体の温度上昇により集電体が熱膨張したり、温度の照射面内のばらつきにより集電体が不均一に膨張したりする。この温度上昇は表面にカーボンコーティングを行った金属集電体に対しては光吸収率が増大するためさらに顕著になる。また、プラズマ生成時に強い発光を伴い、プラズマと光の両方がワークに入射する大気圧プラズマ照射処理においてもより顕著となる。
【0007】
温度上昇を伴った状態で次のステップである活物質スラリーの塗布工程を行うと、活物質スラリーは集電体より温度が低い常温であるために塗布後に集電体が急激に冷えて収縮が起こり、その収縮が上記ばらつきのため不均一に発生する。これにより、活物質スラリーに皺が寄ったり部分的剥離を起こしたりして界面抵抗を上げてしまい性能劣化の原因となっていた。
【0008】
また、酸素存在下でのエネルギー粒子の照射処理は活性酸素を生成する酸化反応を伴って集電体表面を親水化するため、この時の温度が高いと酸化が集電体内部に進行して表面酸化膜を必要以上に増大させてしまう。そうなると、酸化膜での抵抗が上昇してしまい、二次電池の性能劣化を引き起こしてしまう。
そこで、本発明は、上記に鑑みて成されたものであり、エネルギー粒子の照射による集電体のワークの温度上昇を抑えることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る電極製造方法の一態様は、二次電池の電極を製造するための電極製造方法であって、前記電極を構成する集電体のワークの少なくとも一方の面にエネルギー粒子を照射して照射処理を行う照射工程と、前記照射工程で前記エネルギー粒子の照射処理が行われた前記ワークの面に活物質を含むスラリーを塗布する塗布工程と、を有する。加えて、前記照射工程において、前記ワークの同一の被照射領域への所定照射時間の前記エネルギー粒子の照射を複数回に分けて行うとともに、当該複数回の前記エネルギー粒子の照射における各回の照射と当該各回の次の回の照射との間に前記同一の被照射領域への前記エネルギー粒子の照射を休止する照射休止時間を設ける。
【0010】
これにより、複数回の照射における各回の照射とその次の回の照射との間の照射休止時間の間、同一の被照射領域へのエネルギー粒子の照射が休止されるので、その間にワークを冷却することができる。その結果、エネルギー粒子を所定照射時間の間、同一の被照射領域に連続で照射した場合と比較して、照射処理によるワークの温度上昇を抑制することができる。そのため、ワークの温度上昇による表面酸化膜の膜厚増大による表面酸化膜の抵抗の上昇を低減することができ、二次電池の性能劣化を低減することができる。また、照射処理の後に連続して活物質スラリーを塗布した場合に、活物質スラリーとワークとの温度差によるワークの収縮を低減することができるので皺や剥がれの発生による界面抵抗の上昇を低減することができる。また、照射処理によって、ワークの面に濡れ性を付与することができるので、濡れ性を付与後の面に活物質スラリーを塗布することで、活物質スラリーとの密着性を向上して界面抵抗を低減することができる。
また、上記の電極製造方法において、前記照射工程において、前記エネルギー粒子の照射による前記ワークの上昇後の温度が、所定温度以下となるように前記照射休止時間を制御してもよい。
【0011】
これにより、所定温度を、例えば、活物質スラリーの塗布による集電体ワークの収縮が発生しにくい温度や、表面酸化膜の膜厚が増大しにくい温度などに設定することで、ワークの温度上昇による界面抵抗の上昇や表面酸化膜の抵抗の上昇をより確実に低減することができる。
また、上記の電極製造方法において、前記照射工程において、異なる時間長の複数種類の前記照射休止時間を設定してもよい。
これにより、複数回に分割した照射処理において、各回の照射後の上昇後の温度が変化して冷却条件が変わってくるので、例えば全て同じ長さの照射休止時間を設定するよりも、効率的にワークの温度上昇を抑制することができる。
また、上記の電極製造方法において、前記同一領域への複数回の前記エネルギー粒子の照射において、後の回になるほどより長い時間長の照射休止時間を設定してもよい。
ここで、エネルギー粒子を照射後の温度は、残留熱によって後の回になるほど高温になるので、後の回になるほど冷却時間を長くすることで、より効率的にワークの温度上昇を抑制することができる。
また、上記の電極製造方法において、前記エネルギー粒子は、波長200nm以下の光子、またはプラズマ粒子としてもよい。
これにより、例えば、真空紫外光の光子や大気圧プラズマ粒子をワークに照射することで、ワークの温度上昇を抑制しつつ、ワーク表面を改質(親水化)可能な照射処理を行うことができる。
【0012】
また、上記の電極製造方法において、前記スラリーは、前記活物質と、導電助剤と、バインダーとを含み、前記活物質と前記導電助剤と前記バインダーとの配合比の総和を100[%]としたときに、前記導電助剤の配合比X[%]の範囲を0<X≦5としてもよい。
これにより、導電助剤の増加による二次電池の容量低下を抑えつつ、界面抵抗を低減することができるので、照射処理による二次電池の性能向上の効果をより高めることができる。
【0013】
一方、本発明に係る電極製造装置の一態様は、二次電池の電極を製造するための電極製造装置であって、エネルギー粒子を放射するエネルギー粒子源と、前記電極を構成する集電体のワークおよび前記エネルギー粒子源の少なくとも一方を移動させる移動機構と、前記エネルギー粒子源および前記移動機構を制御する制御部と、を備える。加えて、前記制御部は、前記移動機構を、前記エネルギー粒子源の照射領域が前記ワークの面に沿って移動または相対移動するように制御し、前記エネルギー粒子源を、前記ワークの同一の被照射領域に対する所定照射時間の前記エネルギー粒子の照射を複数回に分けて行うとともに、当該複数回の前記エネルギー粒子の照射における各回の照射と当該各回の次の回の照射との間に前記同一の被照射領域への前記エネルギー粒子の照射を休止する照射休止時間を設けるように制御する。
【0014】
この構成によれば、複数回の照射における各回の照射とその次の回の照射との間の照射休止時間の間、エネルギー粒子の照射が休止されるので、その間にワークを冷却することができる。これにより、エネルギー粒子を所定照射時間の間、同一の被照射領域に連続で照射した場合と比較して、照射によるワークの温度上昇を抑制することができる。その結果、ワークの温度上昇による表面酸化膜の膜厚増大による表面酸化膜の抵抗の上昇を低減することができ、二次電池の性能劣化を低減することができる。また、照射処理の後に連続して活物質スラリーを塗布した場合に、活物質スラリーとワークとの温度差によるワークの収縮を低減することができるので皺や剥がれの発生による界面抵抗の上昇を低減することができる。
【0015】
また、本発明に係る電極製造装置の一態様は、二次電池の電極を製造するための電極製造装置であって、エネルギー粒子を放射する複数のエネルギー粒子源と、前記電極を構成する集電体のワークを搬送する搬送機構と、前記複数のエネルギー粒子源および前記搬送機構を制御する制御部と、を備える。加えて、前記複数のエネルギー粒子源は、前記ワークの長手方向に沿って所定間隔を空けて配置され、前記搬送機構は、前記ワークを各前記エネルギー粒子源の前記エネルギー粒子の照射位置へと順に搬送するように構成されている。さらに、前記制御部は、前記搬送機構を、各前記照射位置において、処理に必要な所定照射時間を前記エネルギー粒子源の数と同数に分割した分割照射時間の間、前記エネルギー粒子を前記ワークの同一の被照射領域に照射可能な搬送速度に制御するとともに、前記所定間隔の区間において、前記同一の被照射領域に対して前記照射を休止する照射休止時間を形成可能な搬送速度に制御する。
【0016】
この構成によれば、所定間隔の区間において照射休止時間が形成される搬送速度でワークが搬送されるので、この区間においてワークを冷却することができる。これにより、エネルギー粒子を所定照射時間の間、同一の被照射領域に連続で照射した場合と比較して、照射によるワークの温度上昇を抑制することができる。その結果、ワークの温度上昇による表面酸化膜の膜厚増大による表面酸化膜の抵抗の上昇を低減することができ、二次電池の性能劣化を低減することができる。また、照射処理の後に連続して活物質スラリーを塗布した場合に、活物質スラリーとワークとの温度差によるワークの収縮を低減することができるので皺や剥がれの発生による界面抵抗の上昇を低減することができる。
また、上記電極製造装置において、前記所定間隔は、長さの異なる複数種類の間隔に構成されていてもよい。
この構成によれば、搬送速度を一定に保ったまま間隔の長さによって異なる時間長の複数種類の照射休止時間を設定することができる。また、例えば全て同じ長さの照射休止時間を設定するよりも、効率的にワークの温度上昇を抑制することができる。
さらに、上記電極製造装置において、前記複数種類の間隔は、下流側に配置されたエネルギー照射源の方が上流側に配置されたエネルギー照射源よりも長い間隔に設定されていてもよい。
この構成によれば、エネルギー粒子を照射後の温度は、残留熱によって後の回になるほど高温になるので、後の回になるほど冷却時間を長くすることで、より効率的にワークの温度上昇を抑制することができる。
さらに、上記電極製造装置において、前記エネルギー粒子源は、波長200nm以下の光子を放射する紫外光放射源または大気圧プラズマ粒子を放射するプラズマ放射源としてもよい。
この構成によれば、ワークの温度上昇を抑制しつつ、ワーク表面の親水化処理を行うことができる。
また、上記電極製造装置において、前記エネルギー粒子を照射後の前記ワークの前記面に活物質を含むスラリーを塗布する塗布機構を備えてもよい。
この構成によれば、温度上昇が抑制された改質後のワークの面に活物質スラリーを塗布することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、エネルギー粒子の照射による集電体のワークの温度上昇を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施の形態に係るリチウムイオン二次電池30の基本構成を示す模式図である。
図2】リチウムイオン二次電池30の電極製造工程の一例を示す図である。
図3】照射工程および塗布工程において使用される電極製造装置1の概略構成例を示す図である。
図4】エネルギー粒子源11の照射領域と集電体ワーク40との位置関係の一例を示す図である。
図5】第1の実施の形態に係る電極製造制御処理を示すフローチャートである。
図6】表面改質に必要な照射時間の真空紫外光の照射を連続して行った場合の集電体ワークの温度変化を示す図である。
図7】表面改質に必要な照射時間の真空紫外光の照射を、第1の実施の形態に係る照射方法で行った場合の集電体ワークの温度変化を示す図である。
図8A】照射工程および塗布工程において使用される電極製造装置2の概略構成例を示す図である。
図8B】エネルギー粒子源22の照射領域と集電体ワーク60との位置関係の一例を示す図である。
図9】第2の実施の形態に係る電極製造制御処理を示すフローチャートである。
図10】集電体ワークの温度変化を示す図である。
図11】活物質スラリー50の導電助剤36の配合比Xを2[%]とした場合の充放電後の二次電池セルの定格容量を示す図である。
図12】活物質スラリー50の導電助剤36の配合比Xを5[%]とした場合の充放電後の二次電池セルの定格容量を示す図である。
図13】変形例に係る電極製造装置1Aの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第1の実施の形態〕
〔リチウムイオン二次電池の概要〕
以下、本発明の第1の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1図7は、第1の実施の形態を示す図である。
第1の実施の形態では、二次電池の電極製造方法、および、二次電池の電極を製造する工程において用いられる電極製造装置について説明する。第1の実施の形態において、上記二次電池は、リチウムイオン二次電池である。
まず、リチウムイオン二次電池の概要について説明する。
図1は、リチウムイオン二次電池30の基本構成を示す模式図である。
図1に示すように、リチウムイオン二次電池30は、負極31と、セパレータ32と、正極33と、電解液34とを備える。
負極31および正極33は、短絡防止用のセパレータ32を間に挟んで対向して配置され、電解液34は、負極31とセパレータ32との間および正極33とセパレータ32との間を満たしている。
負極31は、負極集電体31aと、負極集電体31aの正極33と対向する側の面に設けられた負極活物質層31bとを有し、正極33は、正極集電体33aと、正極集電体33aの負極31と対向する側の面に設けられた正極活物質層33bとを備える。
負極集電体31aは、例えば、銅箔、ステンレス鋼箔等の金属箔から構成されている。
負極活物質層31bは、例えば、黒鉛やハードカーボンなどの炭素系材料、チタン酸リチウムなどの活物質、例えばアセチレンブラックなどの導電助剤等を含んで構成されている。
正極集電体33aは、例えば、アルミ箔、ステンレス鋼箔などの金属箔から構成されている。
正極活物質層33bは、例えば、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄などの種々の金属の酸化物やリン酸化合物などの活物質、導電助剤等を含んで構成されている。
電解液34は、例えば、環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合溶媒にLiPF6やLiBF4などの電解質塩を溶解させたものから構成されている。
負極活物質層31bおよび正極活物質層33bは、それぞれ負極集電体31aおよび正極集電体33aに活物質スラリーを塗布することで形成される。
【0020】
具体的に、活物質層は、正極活物質層33bを例に挙げると、活物質35と、導電助剤36と、バインダー37と、ボイド38とを含んで構成される。また、活物質スラリーを塗布後に、乾燥および圧縮処理、または圧縮処理が行われるため、正極活物質層33bには、圧縮によりクラックした活物質35cも含まれる。
【0021】
ここで、乾燥および圧縮処理は、活物質スラリーを塗布後の集電体を恒温槽等にて乾燥し、乾燥後にロールプレス機等によって活物質スラリーを集電体に押し付ける処理となる。これにより、界面抵抗を下げたり、スラリーの密度を調整したりする。近年は、乾燥処理を必要としない半固体電極も登場してきており、乾燥処理をせずに圧縮処理が実行される場合がある。そのため乾燥処理については電池の構造・種類により適宜選択されるようになっている。
〔電極製造方法〕
次に、リチウムイオン二次電池30の電極製造方法について説明する。
図2は、リチウムイオン二次電池30の電極製造工程の一例を示す図である。
【0022】
まず、準備工程であるS10では、負極集電体31aまたは正極集電体33aのワーク40(以下、「集電体ワーク40」と称す)を準備する。図2の例では、集電体ワーク40は、長尺帯状を成しており、それをリールによってロール状に巻き取ったものとなる。このロール状の集電体ワーク40は、ガイドローラー(図示略)によって上流側の送りリールからエネルギー粒子源11および塗布機構12の照射エリアおよび塗布エリアを通って下流側の巻き取りリールへと搬送される。なお、図2中の矢印は搬送方向を示す。
ここで、照射エリアは、エネルギー粒子源11が集電体ワーク40の面にエネルギー粒子を照射する照射位置のエリアであり、塗布エリアは、塗布機構12が集電体ワーク40の面に活物質スラリー50を塗布する塗布位置のエリアである。
【0023】
次に、照射工程であるS11では、ガイドローラーによって搬送された集電体ワーク40の少なくとも一方の面に、エネルギー粒子源11にてエネルギー粒子を照射する照射処理(表面改質処理)を行う。これにより、集電体ワーク40の活物質スラリー50を塗布する面(以下、「被塗布面」と称す)を表面改質する。
具体的に、上記表面改質とは、集電体ワーク40の被塗布面を親水化(濡れ性を付与)して、被塗布面と活物質スラリー50との接触抵抗(界面抵抗)を下げる改質である。
ここで、エネルギー粒子源は、例えば、波長200[nm]以下の光子を放射する紫外光放射源、プラズマ粒子を放射するプラズマ放射源などが該当する。
なお、上記S11の照射処理においては、集電体ワーク40の温度上昇を抑えるために、集電体ワーク40の被塗布面の被照射領域への表面改質(親水化)に必要な照射時間のエネルギー粒子の照射を、複数回の照射に分割して行う。
これは、本発明者らが、真空紫外光や大気圧プラズマ照射処理での表面改質処理(親水化処理)は、真空紫外光や大気圧プラズマの照射エネルギー値には依存せず積算照射量に依存することを見出しことから発案された照射方法である。
【0024】
具体的に、この照射方法は、同一の被照射領域に対する各回のエネルギー粒子の照射を、必要照射時間を照射回数と同数に分割した分割照射時間で行う。加えて、各回の照射とその次の回の照射との間にエネルギー粒子の照射を休止する照射休止時間を設ける方法となる。すなわち、同一の被照射領域に対して必要照射時間の間、連続してエネルギー粒子を照射せずに、照射休止時間を間に挟みながら複数回に分けて照射を行う方法となる。
【0025】
例えば、必要照射時間が6秒、照射回数が3回の場合に、分割照射時間は例えば「6秒/3回」で2秒間となる。なお、この構成に限らず、分割照射時間は、3回に分割すればよいので、例えば、3秒、2秒、1秒などのそれぞれ異なる時間長に設定してもよい。
【0026】
また、照射休止時間は、エネルギー粒子の照射による集電体ワーク40の上昇後の温度が所定温度以下となるように設定される。例えば、照射休止時間は、1回目の照射後が4秒、2回目の照射後が6秒などに設定される。照射休止時間は、例えば試験運転などにおける照射後の温度測定結果等に基づいて適切な時間が設定される。
以下、上記S11の照射処理における本発明の照射方法を、「分割照射方法」と称す。
次に、塗布工程であるS12では、集電体ワーク40の照射処理を行った後(表面改質後)の被塗布面に、塗布機構12によって活物質スラリー50を塗布する。
ここで、塗布機構12としては、例えば、ダイコーター、コンマコーター、リバースロールコーター、グラビアコーターなどを使用することができる。活物質スラリー50を塗布後の集電体ワーク40は、巻き取りリールに巻き取られる。
また、活物質スラリー50を塗布後に、例えば、集電体ワーク40を1次乾燥させた後に、巻き取りリールに巻き取るようにしてもよい。
次に、乾燥工程であるS13では、巻き取りリールに巻き取られた集電体ワーク40を恒温槽14内に搬送し、恒温槽14内にて、集電体ワーク40を乾燥させる。例えば、恒温槽14内にて数日間かけて乾燥させる。
なお、半固体電極を製造する場合は、この乾燥工程S13を行わずに、次の圧縮工程S14に移行する。
【0027】
次に、圧縮工程であるS14では、ロールプレス方式の圧縮機構15にて、集電体ワーク40に塗布された活物質スラリー50を圧縮する。これにより、圧縮後の活物質スラリー50’が形成される。ここで、ロールプレス方式とは、2つの回転するローラーの間に集電体ワーク40を流し込んで線状に圧縮する圧縮方式である。
【0028】
なお、圧縮機構15としては、ロールプレス方式の装置の他に、板状体にて集電体ワーク40の全面を一度に圧縮する全面プレス方式の装置がある。上記ロール状に巻かれた集電体ワーク40の場合は、ロールプレス方式が主流であるが、集電体ワークのサイズや形状に応じて全面プレス方式の装置を用いることができる。
〔電極製造装置の構成〕
図3は、上記S11の照射工程および上記S12の塗布工程において使用される電極製造装置1の概略構成例を示す図である。
【0029】
電極製造装置1は、集電体ワーク40を搬送する搬送機構10と、エネルギー粒子を放射するエネルギー粒子源11a、11bおよび11cと、表面改質後の集電体ワーク40に活物質スラリー50を塗布する塗布機構12とを備える。加えて、搬送機構10、エネルギー粒子源11a~11cおよび塗布機構12の動作を制御する制御部13を備える。なお、図3中の矢印は集電体ワーク40の搬送方向である。
以下、エネルギー粒子源11a~11cは、区別する必要がない場合に、単に「エネルギー粒子源11」と称する。
搬送機構10は、送りリール10aと、複数のガイドローラー10bと、巻き取りリール10cとを備える。
送りリール10aは、自身に巻かれた長尺且つ帯状の集電体ワーク40を、ガイドローラー10bへと送り出すためのリールである。
複数のガイドローラー10bは、送りリール10aに巻かれた集電体ワーク40を、エネルギー粒子源11a~11cの照射エリア、塗布機構12の塗布エリア、巻き取りリール10cへと順に搬送するためのローラーである。
巻き取りリール10cは、塗布機構12で活物質スラリー50を塗布後の集電体ワーク40を巻き取るリールである。
【0030】
なお、搬送機構10は、集電体ワーク40に所定の張力が作用するように調整する張力制御機構を備えていてもよい。張力制御機構としては、例えばダンサロール式の自動張力制御装置とすることができる。また、搬送機構10は、集電体ワーク40の幅方向の位置を調整する位置調整機構を備えていてもよい。位置調整機構としては、例えばエッジ検査装置と位置補正装置とを組み合わせた、EPC(edge position control)等とすることができる。
【0031】
エネルギー粒子源11a~11cは、集電体ワーク40の長手方向に沿って所定間隔を空けて配置されている。具体的に、図3に示すように、エネルギー粒子源11aは、送りリール10aに最も近い位置(上流側)に配置され、エネルギー粒子源11bは、エネルギー粒子源11aと間隔L1を空けて配置されている。また、エネルギー粒子源11cは、エネルギー粒子源11bと間隔L2(L1<L2)を空けて配置されている。
【0032】
エネルギー粒子源11は、波長200[nm]以下の光子を放射する紫外光放射源またはプラズマ粒子を放射するプラズマ放射源から構成することができる。エネルギー粒子源11a~11cは、例えば中心波長172[nm]の真空紫外光を放射するキセノンエキシマランプとすることができる。また、エネルギー粒子源11a~11cは、例えば大気圧プラズマ粒子を放射する大気圧プラズマ装置とすることができる。
以下の説明において、エネルギー粒子源11a~11cは、真空紫外光を放射する紫外光放射源とする。
また、エネルギー粒子源11の数は、エネルギー粒子源11a~11cの3台に限らず、放射源の種類および同一領域への照射回数に応じて2台で構成してもよいし、または4台以上で構成してもよい。
塗布機構12は、集電体ワーク40の表面改質後の被塗布面に活物質スラリー50を塗布する機構である。塗布機構12は、例えばダイコーターとすることができる。
【0033】
制御部13は、制御プログラムに基づいて電極製造装置1の全体を制御するプロセッサと、制御プログラムや設定データ等を格納しているROM(Read Only Memory)とを備える。加えて、ROMから読み出したデータやプロセッサの演算過程で必要な演算結果を格納するためのRAM(Random Access Memory)と、外部装置に対してデータの入出力を媒介するI/F(interface)とを備える。これらは、データを転送するための信号線であるバスで相互に且つデータ授受可能に接続されている。
制御部13は、I/Fを介して、搬送機構10、エネルギー粒子源11a~11cおよび塗布機構12とそれぞれ電気的に接続され、これらの動作を制御する。
【0034】
具体的に、制御部13は、搬送機構10の各リールおよび各ローラーの回転速度(集電体ワーク40の搬送速度)、エネルギー粒子源11のエネルギー粒子の照射強度、照射時間、塗布機構12の塗布厚等を制御する。また、制御部13は、搬送機構10に、張力制御機構および位置調整機構を設けた場合、これらの動作も制御する。
〔照射領域と集電体ワーク40との位置関係〕
図4は、エネルギー粒子源の真空紫外光の照射領域と集電体ワーク40との位置関係の一例を示す図である。
図4に示すように、集電体ワーク40を上面から視ると、エネルギー粒子源11a、11bおよび11cの照射領域110a、110bおよび110cは、それぞれ集電体ワーク40の短手方向の全域を含む線状(矩形)の範囲となっている。
【0035】
また、図4に示すように、エネルギー粒子源11aとエネルギー粒子源11bとの間隔L1は、エネルギー粒子源11aの直下点111aとエネルギー粒子源11bの直下点111bとの間隔として設定される。同様に、エネルギー粒子源11bとエネルギー粒子源11cとの間隔L2は、エネルギー粒子源11bの直下点111bとエネルギー粒子源11cの直下点111cとの間隔として設定される。
また、図4中の片矢印は集電体ワーク40の搬送方向、T1はエネルギー粒子源11aおよび11bの間の区間の照射休止時間、T2はエネルギー粒子源11bおよび11cの間の区間の照射休止時間を示す。
【0036】
図4の例では、集電体ワーク40の搬送速度は一定速度に制御されており、照射休止時間T1およびT2は、間隔L1およびL2の長さによって決まる。すなわち、照射休止時間T1およびT2の区間は、照射休止区間となる。また、搬送速度を変化させることでも照射休止時間T1およびT2を変化させることができる。なお、照射休止時間は、集電体ワーク40の上昇後の温度が、所定温度以下となる時間に設定される。
【0037】
この所定温度は、エネルギー粒子源11a~11cによるエネルギー粒子(真空紫外光)の照射処理が完了後に、冷却装置による冷却等をせずに連続して活物質スラリー50を塗布したとしても、集電体ワーク40に皺や剥離が生じない温度とする。加えて、エネルギー粒子の照射による集電体ワーク40の被塗布面の酸化が集電体内部に進行して表面酸化膜を必要以上に増大させない温度とする。
なお、皺や剥離を生じさせないための所定温度は、活物質スラリー50の特性や集電体ワーク40の材質によって許容温度が変わってくる。そのため、活物質スラリー50を混錬するときに添加する溶媒の気化温度以下のなるべく低い温度とすることが望ましく、例えば、水溶性の場合は60[℃]以下が望ましい。また、有機系溶媒(例えば低級アルコールや低級ケトン)の場合はそれぞれの沸点以下は必須で50[℃]以下とすることが望ましい。これは、気化した溶媒で界面に気化層が発生するとそこで滑り出すことになるので極端に接着力が弱くなると考えられるからである。また、酸化膜増大を防ぐという観点からは、アルミの場合は少なくとも100[℃]以下にすることが望ましい。
【0038】
また、エネルギー粒子源11a~11cの照射エネルギー強度(照射エネルギー値)並びに間隔L1およびL2は、図4中の照射休止区間の中点Lc1およびLc2の位置で、実質的に非照射とみなせる強度となるように設定されている。例えば、直下点111aおよび111bのエネルギー値の1/20の値以下となるように設定されている。
すなわち、複数のエネルギー粒子源を並べて照射する構成においては、間隔L1およびL2の長さ次第で照射休止区間でも漏れ光などが生じて照射エネルギー値がゼロにはならないことが想定される。そのための規定となる。
なお、中点Lc1およびLc2の位置の照射エネルギー値は、エネルギー粒子源11a~11cの間隔L1およびL2の長さを調整することで調整することができる。
〔電極製造制御処理〕
図5は、電極製造制御処理を示すフローチャートである。
制御部13のプロセッサは、ROMの所定領域に格納されている制御プログラムを起動させ、そのプログラムに従って、図5のフローチャートに示す電極製造制御処理を実行する。
電極製造制御処理は、プロセッサにおいて実行されると、図5に示すように、まず、ステップS100に移行する。
ステップS100では、予めユーザによって入力され、ROMに記憶された設定情報を取得する。その後、ステップS102に移行する。
【0039】
ここで、設定情報は、エネルギー粒子源11の真空紫外光の照射強度(エネルギー強度)、照射領域、照射時間および照射回数、塗布機構12の活物質スラリー50の塗布厚等の情報を含んでいる。なお、第1の実施の形態では、照射回数は、エネルギー粒子源の数と同数となる。
【0040】
ステップS102では、ステップS100で取得した設定情報に基づいて、搬送機構10の集電体ワーク40の搬送速度、エネルギー粒子源11の照射強度および塗布機構12の活物質スラリー50の吐出量等を設定する。その後、ステップS104に移行する。
【0041】
例えば、「照射時間/照射回数(図3の例では3回)」により分割照射時間を算出する。そして、搬送速度として、分割照射時間および照射領域に基づいて、同一の被照射領域への分割照射時間の照射ができる速度を設定する。すなわち、照射領域を通過した集電体ワーク40の面部分が分割照射時間の照射がされた状態となる搬送速度に設定される。また、塗布機構12の活物質スラリー50の吐出量は、塗布厚と搬送速度に基づいて適切な吐出量に決定される。
ステップS104では、各機構および各粒子源の動作制御を開始する。その後、ステップS106に移行する。
具体的に、制御部13は、搬送機構10の各リールおよび各ローラーを、設定搬送速度で集電体ワーク40を搬送するように制御する。
【0042】
一方、制御部13は、エネルギー粒子源11a~11cを、設定照射強度でエネルギー粒子を放射するように動作を制御する。これにより、エネルギー粒子源11a~11cは、設定照射強度の真空紫外光を放射する。また、制御部13は、エネルギー粒子源11a~11cを、集電体ワーク40の被塗布面への照射処理(表面改質処理)が全て完了するまでは真空紫外光を放射し続けるように制御する。
なお、照射開始のタイミングについては、センサー等によって、集電体ワーク40が照射エリアに到達したことを検知したことに応じてエネルギー粒子源11の真空紫外光の放射を開始するタイミングに制御してもよい。
また、制御部13は、塗布機構12に対して、活物質スラリー50の吐出量を設定する。
【0043】
制御部13の制御により、搬送機構10が動作を開始すると、まず、送りリール10aから集電体ワーク40が最上流のガイドローラー10bに送り出される。これにより、集電体ワーク40の先端部が、複数のガイドローラー10bを介して、まず、エネルギー粒子源11aの下側の照射エリア(照射領域110aの照射位置)へと搬送される。
【0044】
集電体ワーク40の先端部が照射領域110a内に入ると、図3の例では、照射領域110a内の先端部上面(被塗布面)に対して真空紫外光が照射される。この間も設定搬送速度で集電体ワーク40が搬送され、先端部上面の照射領域110aを最初に通過した部分(以下、「第1照射部分」と称す)が分割照射時間で真空紫外光が照射された状態となる。これにより、第1照射部分は、照射前よりも温度が上昇した状態となる。
【0045】
集電体ワーク40の第1照射部分が照射領域110aを出てからエネルギー粒子源11bの照射領域110bの手前に到達するまでの区間は、真空紫外光が照射されない照射休止区間となる。すなわち、第1照射部分がこの照射休止区間を搬送されている間の時間は照射休止時間T1となり、照射休止時間T1の間に、第1照射部分が冷却される。
【0046】
引き続き、第1照射部分がエネルギー粒子源11bの下側の照射領域110bの照射位置を通過すると、第1照射部分は、分割照射時間で真空紫外光が2回照射された状態となる。これにより、第1照射部分は、2回目の照射前よりも温度が上昇した状態となる。
【0047】
第1照射部分が照射領域110bを出てからエネルギー粒子源11cの照射領域110cの手前に到達するまでの区間は、真空紫外光が照射されない2回目の照射休止区間となる。すなわち、第1照射部分がこの照射休止区間を搬送されている間の時間は照射休止時間T2となり、照射休止時間T2の間に、第1照射部分が冷却される。
【0048】
なお、照射休止時間T2は照射休止時間T1よりも長い時間となるように区間L2の長さが設定されており、2回目の照射休止区間では、照射休止時間T1よりも長い時間、第1照射部分が冷却される。これは、第1照射部分の1回目の照射前の初期温度よりも1回目の照射後で且つ照射休止時間T1で冷却後の温度の方が高く、1回目の照射後よりも2回目の照射後の方が、集電体ワーク40の温度が高くなるからである。
【0049】
続いて、第1照射部分がエネルギー粒子源11cの下側の照射領域110cを通過すると、第1照射部分は、分割照射時間で真空紫外光が3回照射された状態となる。すなわち、第1照射部分は、設定照射時間で真空紫外光が連続して照射された場合と等価の状態となる。これにより、第1照射部分の表面改質処理が完了し、第1照射部分が親水化された(濡れ性を有する)状態となる。
以降は、第1照射部分が塗布機構12の塗布エリアに到達するまでの区間も照射休止区間となり、3回目の照射で温度が上昇した第1照射部分が冷却される。
塗布機構12は、センサ(不図示)により、第1照射部分が塗布エリアに到達したことを検知すると、設定搬送速度で移動する第1照射部分に対して活物質スラリー50を設定吐出量で吐出する。これにより、第1照射部分に活物質スラリー50が塗布される。
以上説明した一連の照射動作、冷却動作および塗布動作は、集電体ワーク40の上面の第1照射部分に続く他部についても順次行われる。また、集電体ワーク40の活物質スラリー50を塗布後の部分は、巻き取りリール10cによって順次巻き取られていく。
【0050】
ステップS106では、集電体ワーク40の全体が巻き取りリール10cに巻き取られたか否かを判定することで、処理が完了したか否かを判定する。そして、処理が完了したと判定した場合(Yes)は、ステップS108に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、完了するまで判定処理を繰り返す。
ステップS108に移行した場合は、電極製造装置1の各機構および各粒子源の動作を停止し、一連の処理を終了する。
〔第1の実施の形態の効果〕
【0051】
第1の実施の形態では、電極を構成する負極集電体31aまたは正極集電体33aの集電体ワーク40の同一の被照射領域への所定照射時間(親水化に必要な照射時間)のエネルギー粒子の照射を、複数回に分けて行うようにした。加えて、複数回のエネルギー粒子の照射における、各回の照射とその次の回の照射との間に照射を休止する照射休止時間を設けるようにした。
【0052】
これにより、複数回の照射における各回の照射とその次の回の照射との間の照射休止時間の間、集電体ワーク40の同一の被照射領域へのエネルギー粒子の照射が休止されるので、その間に同一の被照射領域を冷却することができる。その結果、エネルギー粒子を所定照射時間の間、同一の被照射領域に連続で照射した場合と比較して、照射処理による集電体ワーク40の温度上昇を抑制することができる。そのため、集電体ワーク40の温度上昇による表面酸化膜の膜厚増大による表面酸化膜の抵抗の上昇を低減することができ、二次電池の性能劣化を低減することができる。また、照射処理の後に連続して活物質スラリー50を塗布した場合に、活物質スラリー50の塗布による急激な温度低下を防ぐことができ集電体ワーク40の収縮の発生を低減することができる。その結果、塗布された活物質スラリー50に皺が寄ったり部分的剥離を起こしたりするのを防止または低減することができるので界面抵抗の上昇を低減することができる。
【0053】
また、所定照射時間を、集電体ワーク40の被塗布面の親水化に必要な照射時間としたので、集電体ワーク40被塗布面を親水化することができる。これにより、被塗布面に濡れ性を付与することができるので、濡れ性を付与後の被塗布面に活物質スラリー50を塗布することで、活物質スラリー50との密着性を向上して界面抵抗を低減することができる。また、搬送機構10を共通にすることができ設備コストを抑えることができる。
【0054】
また、第1の実施の形態では、照射休止時間T1およびT2を、エネルギー粒子(真空紫外光の光子)の照射による集電体ワーク40の上昇後の温度が、所定温度以下となるように設定するようにした。また、この所定温度を、集電体ワーク40の収縮および表面酸化膜の増大を防ぐまたは低減する温度に設定した。これにより、集電体ワーク40の収縮および表面酸化膜の増大をより確実に防止または低減することができる。
【0055】
また、第1の実施の形態では、集電体ワーク40の同一の被照射領域への複数回のエネルギー粒子の照射において、後の回になるほどより長い時間長の照射休止時間を設定するようにした。すなわち、照射休止時間T2を照射休止時間T1よりも長い時間に設定した。
集電体ワーク40の温度は、1回目の照射後よりも2回目の照射後の方が高くなるので、その分だけ後の回の照射休止時間を長くすることで、複数回を照射後の集電体ワーク40の温度をより確実に所定温度以下に下げることができる。
【0056】
また、第1の実施の形態では、エネルギー粒子源11a~11cを、集電体ワーク40の長手方向に沿って、エネルギー粒子源11aおよび11bの間は間隔L1を空けて配置するようにした。加えて、エネルギー粒子源11bおよび11cの間は間隔L1より長い間隔L2を空けて配置するようにした。さらに、搬送機構10の搬送速度を一定の速度に制御して、間隔L1およびL2の長さによって照射休止時間T1およびT2を異なる時間長に設定するようにした。
このような構成であれば、搬送速度を一定に保った状態で、所望の照射休止時間を設定することができるので、照射時間の制御が容易になるとともに、活物質スラリー50の塗布ムラ等の発生を低減することができる。
〔第1の実施の形態の実施例〕
次に、図面に基づいて上記第1の実施の形態の実施例について説明する。
【0057】
図6は、表面改質に必要な照射時間の真空紫外光の照射を連続して行った場合の集電体ワークの温度変化を示す図である。また、図7は、表面改質に必要な照射時間の真空紫外光の照射を、上記第1の実施の形態に係る分割照射方法で行った場合の集電体ワークの温度変化を示す図である。
【0058】
ここで、図6および図7の温度変化の測定に使用した集電体ワークは、アルミ箔製のワークであり、表面改質に必要な照射量は1000[mJ/cm]以上となる。また、本実施例で使用したエネルギー粒子源(真空紫外光源)からの真空紫外光の照度(照射エネルギー強度)は、170[mW/cm]であり、表面改質に必要な照射時間は6秒以上となる。
本実施例では、比較のために、連続して6秒間、13秒間および25秒間、170[mW/cm]の真空紫外光を集電体ワークに照射した場合の温度変化をそれぞれ測定した。
【0059】
図6中の破線に示すように、連続して6秒間、170[mW/cm]の真空紫外光を集電体ワークの同一の被照射領域に照射した場合の上昇後の温度は約75[℃]となった。同様に、図6中の点線に示すように13秒連続で照射した場合の上昇後の温度は約100[℃]となり、図6中の実線に示すように25秒間連続で照射した場合の上昇後の温度は約110[℃]となった。
次に、必要な照射時間(6秒間)を3分割し、各2秒間の分割照射時間で3回に分けて照射を行うとともに、1回目の照射後に4秒間の照射休止時間を設け、2回目の照射後に6秒間の照射休止時間を設けた場合の集電体ワークの温度変化を測定した。
図7中の実線に示すように、集電体ワークへの3回目の照射後の温度は約43[℃]となり、分割せずに連続で6秒間照射した場合の約75[℃]と比較して、約32[℃]の低温化が達成できていることが解る。
なお、各照射休止時間は同じ時間に設定しても良いが、本実施例のように同じ時間にせず、後に行くほど長くすることで冷却の度合いを強めることができる。
【0060】
また、本実施例において、アルミ箔の集電体ワークに真空紫外光の照射処理を行った前後の表面酸化膜(不働態膜)の厚みを測定した。照射処理を行う前の厚みは5.4[nm]であり、1回目の後に4秒間、2回目の後に6秒間の照射休止時間を挟んで各2秒間の分割照射時間で3回に分けて照射を行った後の厚みは5.7[nm]であった。また、連続して6秒間の照射を行った後の厚みは6.2[nm]であった。
【0061】
すなわち、本発明の分割照射方法にて照射を行った場合は、到達温度が43[℃]であり、厚みの増加も0.3[nm]と軽微であった。一方、連続して6秒間の照射を行った場合は、到達温度が75[℃]であり、厚みの増加が0.8[nm]と顕著であった。このことから、照射休止時間を設けることによって表面酸化膜の深さ方向への進行を抑制できることが解る。
なお、処理時間を短くするために大電力を投入する程、連続照射と、照射休止時間を設けた分割照射との温度差が大きくなる傾向があり、本発明の分割照射方法は大電力の短時間処理に好適な方法である。
〔第2の実施の形態〕
次に、本発明の第2の実施の形態を図面に基づいて説明する。図8(A)、図8(B)および図9は、第2の実施の形態を示す図である。
第2の実施の形態は、照射工程における照射処理において単体のエネルギー粒子源を用いる点が上記第1の実施の形態と異なる。
以下、上記第1の実施の形態と異なる部分を詳細に説明し、重複する部分については適宜説明を省略する。
〔電極製造装置の構成〕
図8(A)は、第2の実施の形態における照射工程および塗布工程において使用される電極製造装置2の概略構成例を示す図である。
電極製造装置2は、図8(A)に示すように、基台20と、移動台21と、エネルギー粒子を放射するエネルギー粒子源22と、塗布機構23と、制御部24とを備える。
基台20は、移動台21を図8(A)中の矢印の方向に移動可能に支持するとともに、移動台21を同矢印方向に移動させる移動機構(図示略)を備える。
移動台21は、集電体ワーク60を固定するキャッチャー(図示略)を備え、移動機構によって基台20上を、図8(A)中の矢印方向に移動する。
ここで、集電体ワーク60は、上記第1の実施の形態の集電体ワーク40と同様の材料から構成され、集電体ワーク40よりも短尺なワークである。すなわち、集電体ワーク60は、リールに巻き取って処理するほどの長さを有さないものである。
エネルギー粒子源22は、上記第1の実施の形態のエネルギー粒子源11と同様の粒子源となる。
以下の説明において、エネルギー粒子源22は、大気圧プラズマ粒子を放射する大気圧プラズマ放射源とする。
塗布機構23は、上記第1の実施の形態の塗布機構12と同様に、照射処理後(表面改質後)の集電体ワーク60の被塗布面に活物質スラリー50を塗布する装置である。
【0062】
制御部24は、上記第1の実施の形態の制御部13と同様に、プロセッサと、ROMと、RAMと、I/Fと、これらを相互に且つデータ授受可能に接続するバスとを備える。加えて、分割照射時間および照射休止時間の経過を判定するためのタイマーと、照射回数をカウントするための第1カウンターと、表面改質処理の回数をカウントするための第2カウンターとを備える。
制御部24は、I/Fを介して、基台20の移動機構、エネルギー粒子源22および塗布機構23とそれぞれ電気的に接続され、これらの動作を制御する。
具体的に、制御部24は、移動機構の移動(集電体ワーク60の移動)、エネルギー粒子源22の大気圧プラズマの照射強度、照射時間、照射のオン/オフ、塗布機構23の塗布厚等を制御する。
〔照射領域と集電体ワーク60との位置関係〕
図8(B)は、エネルギー粒子源22の照射領域と集電体ワーク60との位置関係の一例を示す図である。
【0063】
集電体ワーク60を上面から視ると、エネルギー粒子源22の照射領域220は、図8(B)中の破線の矩形に示すように、集電体ワーク60の短手方向の全域を含む線状の範囲となっている。なお、エネルギー粒子源22の大気圧プラズマの照射領域220の方が、上記第1の実施の形態のエネルギー粒子源11の真空紫外光の照射領域110a~110cよりも幅が狭くなる。
【0064】
集電体ワーク60は、移動機構によって、図8(B)中の矢印の方向に移動できるようになっている。第2の実施の形態では、照射領域220の短手方向の幅は、集電体ワーク60の長さよりも短い。そのため、第2の実施の形態では、集電体ワーク60の被塗布面を、照射領域220の幅に基づいて複数に分割し、移動機構によって集電体ワーク60を移動させて、各分割領域に対して、順次分割照射処理を行う。
〔電極製造制御処理〕
図9は、第2の実施の形態に係る電極製造制御処理を示すフローチャートである。
制御部24のプロセッサは、ROMの所定領域に格納されている制御プログラムを起動させ、そのプログラムに従って、図9のフローチャートに示す電極製造制御処理を実行する。
電極製造制御処理は、プロセッサにおいて実行されると、図9に示すように、まず、ステップS200に移行する。
ステップS200では、予めユーザによって入力され、ROMに記憶された設定情報を取得する。その後、ステップS202に移行する。
ここで、設定情報は、エネルギー粒子源22の大気圧プラズマの照射エネルギー強度、照射領域、照射時間および照射回数、表面改質処理の処理回数、塗布機構12の活物質スラリー50の塗布厚等の情報を含んでいる。
ここで、分割照射処理の処理回数は、例えば、照射領域と集電体ワーク60の長さとに基づいて設定される。
ステップS202では、ステップS200で取得した設定情報に基づいて、エネルギー粒子源22の大気圧プラズマの照射強度および塗布機構23の活物質スラリー50の吐出量等を設定する。その後、ステップS204に移行する。
上記第1の実施の形態と同様に「照射時間/照射回数」により分割照射時間を算出する。例えば、照射時間が70秒、照射回数が10回の場合、分割照射時間は7秒となる。
また、塗布機構23の活物質スラリー50の吐出量は、塗布厚と移動機構による集電体ワーク60の移動速度に基づいて適切な吐出量に決定される。
また、照射休止時間については、上記第1の実施の形態と同様に、照射による上昇後の温度が所定温度以下となるように設定される。
ステップS204では、移動機構を制御して、集電体ワーク60を、エネルギー粒子を照射する初期位置へと移動する。加えて、タイマー、第1カウンターおよび第2カウンターをリセットする。その後、ステップS206に移行する。
ステップS206では、エネルギー粒子源22に、照射領域220の照射位置にある集電体ワーク60の被照射領域に対する大気圧プラズマの照射を開始させるとともに、タイマーによる分割照射時間の計測を開始する。その後、ステップS208に移行する。
【0065】
ステップS208では、タイマーの値に基づいて、分割照射時間が経過したか否かを判定し、経過したと判定した場合(Yes)は、ステップS210に移行する。一方、そうでないと判定した場合(No)は、大気圧プラズマの照射を継続させたまま、分割照射時間が経過するまで判定処理を繰り返す。
ステップS210に移行した場合は、エネルギー粒子源22に大気圧プラズマの照射を停止させる。また、タイマーをリセットして、同タイマーにより、次は、照射休止時間の測定を開始する。その後、ステップS212に移行する。
【0066】
ステップS212では、タイマーの値に基づいて、照射休止時間を経過したか否かを判定する。そして、経過したと判定した場合(Yes)は、タイマーをリセットして、ステップS214に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、照射休止時間が経過するまで判定処理を繰り返す。
【0067】
ステップS214に移行した場合は、第1カウンターのカウント値に基づいて、集電体ワーク60の同一の被照射領域に対する設定照射回数の照射が完了したか否かを判定する。そして、完了したと判定した場合(Yes)は、第1カウンターをリセットして、ステップS216に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、第1カウンターのカウント値に1を加算して、ステップS206に移行する。
【0068】
ステップS216に移行した場合は、第2カウンターのカウント値に基づいて、設定処理回数の分割照射処理が完了したか否かを判定する。そして、完了したと判定した場合(Yes)は、第2カウンターをリセットして、ステップS218に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、第2カウンターのカウント値に1を加算して、ステップS222に移行する。
ステップS218に移行した場合は、移動機構を制御して、集電体ワーク60を塗布機構23の塗布位置へと移動する。その後、ステップS220に移行する。
ステップS220では、塗布機構23によって、表面改質後の集電体ワーク60に対して、活物質スラリー50を塗布する処理が実行される。
具体的に、移動機構により集電体ワーク60を設定速度で移動させるとともに、塗布機構23を、設定速度で移動する集電体ワーク60の被塗布面に対して、設定吐出量で活物質スラリー50を吐出させる。
【0069】
一方、ステップS216で設定処理回数の分割照射処理が完了していないと判定され、ステップS222に移行した場合は、移動機構を制御して、集電体ワーク60の次の被照射領域を、エネルギー粒子源22の照射位置に移動させる。加えて、タイマーをリセットして、ステップS206に移行する。
〔第2の実施の形態の効果〕
【0070】
第2の実施の形態では、電極を構成する負極集電体31aまたは正極集電体33aの集電体ワーク40の同一の被照射領域への所定照射時間(親水化に必要な照射時間)のエネルギー粒子の照射を、複数回に分けて行うようにした。加えて、複数回のエネルギー粒子の照射における、各回の照射とその次の回の照射との間に照射を休止する照射休止時間を設けるようにした。
【0071】
これにより、複数回の照射における各回の照射とその次の回の照射との間の照射休止時間の間、集電体ワーク60の同一の被照射領域へのエネルギー粒子の照射が休止されるので、その間に同一の被照射領域を冷却することができる。その結果、エネルギー粒子を所定照射時間の間、同一の被照射領域に連続で照射した場合と比較して、照射処理による集電体ワーク60の温度上昇を抑制することができる。そのため、集電体ワーク60の温度上昇による表面酸化膜の膜厚増大による表面酸化膜の抵抗の上昇を低減することができ、二次電池の性能劣化を低減することができる。また、照射処理の後に連続して活物質スラリー50を塗布した場合に、活物質スラリー50の塗布による急激な温度低下により集電体ワーク60の収縮の発生を低減できる。その結果、塗布された活物質スラリー50に皺が寄ったり部分的剥離を起こしたりするのを防止または低減することができるので界面抵抗の上昇を低減することができる。
【0072】
また、所定照射時間を、集電体ワーク60の被塗布面の親水化に必要な照射時間としたので、集電体ワーク60被塗布面を親水化することができる。これにより、被塗布面に濡れ性を付与することができるので、濡れ性を付与後の被塗布面に活物質スラリー50を塗布することで、活物質スラリー50との密着性を向上して界面抵抗を低減することができる。
【0073】
また、第2の実施の形態では、照射休止時間を、エネルギー粒子(大気圧プラズマ粒子)の照射による集電体ワーク60の上昇後の温度が、所定温度以下となるように設定するようにした。また、この所定温度を、集電体ワーク60の収縮および表面酸化膜の増大を防ぐまたは低減する温度に設定した。これにより、集電体ワーク60の収縮および表面酸化膜の増大をより確実に防止または低減することができる。
また、第2の実施の形態では、照射休止時間を異なる2種類の時間長に設定するとともに、これら2種類の時間長を交互に繰り返すようにした。これにより、各回の照射とその次の回の照射との間の照射休止時間として同一時間長の照射休止時間を設定するよりも、所定温度以下への制御が容易になるとともに、温度上昇をなだらかにすることができる。
〔第2の実施の形態の実施例〕
次に、図面に基づいて上記第2の実施の形態の実施例について説明する。
図10は、表面改質に必要な照射時間の大気圧プラズマ粒子の照射を連続して行った場合と、本発明の分割照射方法で行った場合の集電体ワークの温度変化を示す図である。図10において、横軸が時間(秒)であり、縦軸が集電体ワークの温度(℃)である。
【0074】
実験に用いた集電体ワークは、アルミ箔製のワークであり、表面改質に必要な照射量は1000[mJ/cm]以上となる。また、本実施例で使用したエネルギー粒子源(大気圧プラズマ放射源)からの大気圧プラズマ粒子の照射エネルギー強度は、約14.5[mW/cm]であり、表面改質に必要な照射時間は70秒以上となる。
また、上記第2の実施の形態の電極製造装置2と同様に、単体のエネルギー粒子源(プラズマ放射源)を用いて表面化処理を行った場合の温度変化を測定した。
本実施例では、図10中の破線に示すように、分割照射方法との比較のために、連続して約300秒間、約14.5[mW/cm]の大気圧プラズマ粒子を、集電体ワークの同一の被照射領域に照射した場合の温度変化を測定した。
図10中の破線に示すように、大気圧プラズマ粒子を連続で70秒間照射した時間位置の測定結果から、集電体ワークの温度は約90[℃]に到達していることが解る。
一方、図10中の実線に示すように、集電体ワークの同一の被照射領域への約14.5[mW/cm]の大気圧プラズマ粒子の70秒間の照射を、本発明の分割照射方法にて行った場合の温度変化を測定した。
【0075】
具体的に、70秒間を10分割し、各7秒間の分割照射時間で10回に分けて照射を行うとともに、各奇数回目の照射後に16秒間の照射休止時間を挟み、偶数回目のうち2、4、6、8回目の照射後に12秒間の照射休止時間を挟んだ場合の温度変化を測定した。
図10中の実線に示すように、集電体ワークの同一の被照射領域への10回目の照射後の温度は約70[℃]に到達しており、分割せずに連続で70秒間照射した場合の約90[℃]と比較して、約20[℃]の低温化が達成できていることが解る。
【0076】
また、図10中の実線に示すように、異なる時間長の2種類の照射休止時間を交互に挟むことで、集電体ワークの上昇後の温度の最低値(約58[℃])と最高値(約70[℃])との差を約12[℃]に抑えることができていることが解る。すなわち、交互に異なる時間長の照射休止時間を挟むことで、途中で急激な温度上昇等が生じない比較的なだらかな温度上昇とすることができていることが解る。
〔第3の実施の形態〕
次に、本発明の第3の実施の形態を図面に基づいて説明する。図11および図12は、第3の実施の形態を示す図である。
第3の実施の形態は、活物質スラリー(以下、単に「スラリー」と称す)における導電助剤の配合比の範囲を特定範囲とした点が、上記第1および第2の実施の形態と異なる。
以下、上記第1および第2の実施の形態と異なる部分を詳細に説明し、重複する部分については適宜説明を省略する。
【0077】
本発明者らは、電池性能への親水化処理(表面改質処理)による界面抵抗の低下の効果が、スラリー自体の電気抵抗が比較的高い場合に顕著に現れることを見出した。すなわち、導電助剤の配合比が比較的少ない場合と、スラリーの密度が比較的小さい場合である。このような状態では、スラリー自体の電気抵抗が大きくなるためにこれに界面の抵抗値が加わると二次電池の性能維持のための電極全体の許容抵抗値を超えてしまう。
スラリーの密度が比較的小さい場合にスラリーの電気抵抗が大きくなるのは、導電助剤同士、導電助剤と活物質または導電助剤と集電体との接触が疎になるためにスラリーの電気抵抗が上昇してしまうからと推測される。
【0078】
また、圧縮処理でスラリーを圧縮すると密度が上昇し、スラリーが緻密になって前記導電助剤の接触が密になりスラリーの抵抗値が低下する。但し、過度な圧縮はリチウムイオン等のスラリー膜内での移動がし難くなり逆に電池性能が低下してしまうので密度を無暗に大きくすることはできない。リチウムイオン等の移動が十分確保できる密度以下にすることが求められている。
【0079】
スラリーの抵抗が小さければ界面抵抗が大きくても許容値を超えないが、電池の容量や充放電能力を上げるためには極力活物質以外の物質の割合を下げる必要があるため、導電助剤は減らすことが望まれており、界面抵抗値を下げる試みはこの要求に合致する。また、前記の理由でスラリーの密度が上げられずにスラリーの抵抗が大きくなった場合にも、界面抵抗値を下げる試みは電池性能を向上させる有力な解決手段となる。すなわち、真空紫外光や大気圧プラズマ照射処理による集電体の表面改質処理を、集電体の表面酸化膜を極力増加させない方法で実現させることで、劣化特性の向上だけでなく二次電池全体の基本特性である容量・充放電特性の性能向上にも効果が得られる。
【0080】
そこで、第3の実施の形態では、活物質スラリー50中の活物質35の配合比V[%]、導電助剤36の配合比X[%]およびバインダー37の配合比Y[%]の総和を100[%]とした場合に、導電助剤36の配合比X[%]の範囲を0<X≦5の範囲とした。
以下、活物質スラリー50を、単に「スラリー50」と称す。
【0081】
図11は、導電助剤36の配合比Xを2[%]としたスラリー50を塗布した集電体にて二次電池セルを組み立てて充放電を複数回繰り返した場合に測定した定格容量を示す図である。図12は、導電助剤36の配合比Xを5[%]としたスラリー50を塗布した集電体にて二次電池セルを組み立てて充放電を複数回繰り返した場合に測定した定格容量を示す図である。
【0082】
なお、図11および図12において、「未処理」は、本発明の分割照射方法による照射処理が未処理の場合の測定結果を示す。加えて、「AP」は、大気圧プラズマにて本発明の分割照射方法による照射処理を行った場合の測定結果を、「VUV」は、真空紫外光にて本発明の分割照射方法による照射処理を行った場合の測定結果を示す。
また、図11および図12において、充放電レートを0.2[C(Capacity)](2回)→1[C](2回)→2[C](2回)→0.2[C](2回)の順で計8回繰り返して、それぞれの充放電完了時の定格容量を測定した。
【0083】
ここで、充放電レート(C(電池の公称容量/Capacity)レート)とは、二次電池の充電および放電のスピードであり、電気量[C]=容量[Ah]/3600秒[s]で求めることができる。また、括弧中の2回とは、各充放電レートで満充電を1回行い、充電後の完全放電を1回行った場合の計2回を示す。
【0084】
また、上記1[C]は、1時間で満充電状態から完全に放電した状態になる時の電流値を表している。すなわち、この数字が高ければ高いほど大きな電流を出力することができる。同様に、上記2[C]は30分、上記0.2[C]は5時間でそれぞれ満充電状態から完全に放電した状態になる時の電流値を表している。
例えば、二次電池の容量が20[Ah]の場合、1[C]の電流値は20[A]、2[C]の電流値は40[A]、0.2[C]の電流値は4[A]となる。
【0085】
また、図11および図12の測定において、正極集電体33aにはアルミ箔を、活物質35にはニッケル・コバルト・マンガン酸リチウムNCM523を用いた。さらに、導電助剤36には高導電性カーボンブラックであるケッチェンブラック(KB)を、バインダー37にはポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。また、負極集電体31aには黒鉛を、電解液34には1M-LiPF/ECを、セパレータ32にはポリエチレンを用いた。
また、図11の測定においては、活物質35の配合比V[%]、導電助剤36の配合比X[%]およびバインダー37の配合比Y[%]の総和を100[%]としたときに、導電助剤の配合比X[%]を2[%]としたスラリー50を用いた。
【0086】
ここで、活物質35の重量をW1、導電助剤36の重量をW2、バインダー37の重量をW3とした場合に、配合比の総和は「V+X+Y={W1/(W1+W2+W3)+W2/(W1+W2+W3)+W3/(W1+W2+W3)}×100」で計算できる。
また、図12の測定においては、導電助剤36の配合比Xを、図11の2[%]に代えて5[%]としたスラリー50を用いた。なお、導電助剤36を増加した分は活物質35を減らした。
図11に示すように、導電助剤36の配合比が2[%]の場合は、同図中の未処理(△)、AP(〇)、VUV(□)の測定結果をそれぞれ比較すると、VUVおよびAP共に未処理と比較して分割照射処理による定格容量の大幅な向上が見られる。
一方、図12に示すように、導電助剤の配合比が5[%]の場合は、VUVおよびAP共に未処理と比較して定格容量の向上は見られるがその差は僅かである。
このことから、導電助剤の配合比が5[%]以下の場合に本発明の分割照射処理による表面改質処理の効果が現れ、その値が小さいほど表面改質処理の効果が顕著に現れることが解った。
〔第3の実施の形態の効果〕
【0087】
第3の実施の形態では、活物質スラリー50を構成する活物質35の配合比V[%]、導電助剤36の配合比X[%]およびバインダー37の配合比Y[%]の総和を100[%]としたときに、導電助剤36の配合比X[%]の範囲を0<X≦5の範囲とした。
これにより、本発明の分割照射方法にて表面改質処理を行った場合に、上記範囲外とした場合と比較して、電池の容量や充放電能力を向上する効果をより高めることができる。
〔変形例〕
【0088】
なお、上記第1の実施の形態において、エネルギー粒子源11a~11cの配置間隔L1およびL2の長さによって、照射休止時間を設定する構成としたが、この構成に限らない。例えば、搬送路にエネルギー粒子の照射を回避する迂回路を形成する構成としてもよい。
図13は、変形例に係る電極製造装置1Aの概略構成を示す図である。
電極製造装置1Aは、図13に示すように、上記第1の実施の形態の電極製造装置1において、搬送機構10に代えて、搬送機構10Aを備えた構成となっている。
搬送機構10Aは、送りリール10aと、複数のガイドローラー10bと、巻き取りリール10cと、複数の迂回ローラー10dとを備える。
複数の迂回ローラー10dは、エネルギー粒子源11aおよび11bの間の照射休止時間T1の照射休止区間を形成する迂回路101と、エネルギー粒子源11bおよび11cの間の照射休止時間T2の照射休止区間を形成する迂回路102とを形成する。
【0089】
迂回路101および102は、集電体ワーク40を正規の搬送路の下側に向かって側面視で略U字状に迂回する迂回路をそれぞれ形成しており、迂回路の長さ(迂回するワークの長さ)が、上記第1の実施の形態の間隔L1およびL2に対応している。なお、図13の例では、迂回路101および102の長さは同じ長さに構成されているため、両者で照射休止時間は同じ時間となるが、この構成に限らず、迂回路の長さを等長とせずに異なる長さに構成してもよい。このように、迂回路を形成することで、迂回路の長さだけで照射休止時間を調整することができるので、エネルギー粒子源の間隔と集電体ワーク40の搬送速度を変更せずに照射休止時間だけを変更することが可能となる。
【0090】
また、上記第2の実施の形態において、移動機構によって集電体ワーク60側を移動する構成としたが、この構成に限らず、例えば、集電体ワーク60を固定して、エネルギー粒子源22および塗布機構23を移動させる構成としてもよい。または、集電体ワーク60と、エネルギー粒子源22および塗布機構23とを双方とも移動できる構成として、これらを相対移動させる構成としてもよい。
【0091】
また、上記第2の実施の形態およびその変形例において、集電体ワーク60の複数の被照射領域について、1つの被照射領域ごとに照射休止時間を挟んだ複数回の分割照射時間による照射処理を行う構成としたが、この構成に限らない。例えば、ある被照射領域に対して分割照射時間の照射を行った後に、照射休止時間が経過するまでの間に他の被照射領域に対する分割照射時間の照射を行う構成としてもよい。これにより、照射休止時間の経過を待つ間に複数の被照射領域に対して照射処理を行うことができるので分割照射処理の効率を向上することができる。
【0092】
また、上記において特定の実施の形態およびその変形例が説明されているが、当該実施の形態およびその変形例は単なる例示であり、本発明の範囲を限定する意図はない。本明細書に記載された装置および方法は上記した以外の形態において具現化することができる。また、本発明の範囲から離れることなく、上記した実施の形態およびその変形例に対して適宜、省略、置換および変更をなすこともできる。かかる省略、置換および変更をなした形態は、請求の範囲に記載されたものおよびこれらの均等物の範疇に含まれ、本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0093】
1,1A,2…電極製造装置、10,10A…搬送機構、10a…送りリール、10b…ガイドローラー、10c…巻き取りリール、10d…迂回ローラー、11,11a~11c,22…エネルギー粒子源、12,23…塗布機構、13,24…制御部、14…恒温槽、30…リチウムイオン二次電池、31…負極、31a…負極集電体、31b…負極活物質層、32…セパレータ、33…正極、33a…正極集電体、33b…正極活物質層、34…電解液、35…活物質、35c…クラックした活物質、36…導電助剤、37…バインダー、38…ボイド、40,60…集電体ワーク、50…活物質スラリー、110a~110c,220…照射領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13