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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001953
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】防振システム
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
F16F13/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101773
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】村岡 睦
【テーマコード(参考)】
3J047
【Fターム(参考)】
3J047AA05
3J047AA15
3J047AB01
3J047CA12
3J047CD11
3J047FA02
(57)【要約】
【課題】共通の構造の流体封入式防振装置を用いて負圧式と非負圧式の何れかを任意に選択して車両に搭載することのできる、新規な防振システムを提供する。
【解決手段】流体封入式防振装置12,13を用いた防振システム10であって、何れの流体封入式防振装置12,13も、流体室20の壁部の一部がメンブラン64で構成されて、メンブラン64に対して流体室20と反対側に作用空気室68が形成されており、第一のポート92と第二のポート94とを備えてそれらポート92,94を作用空気室68に対して選択的に切り替えて連通させる切替弁90が設けられており、第一のポート92は大気開放構造とされており、第二のポート92は、それぞれの流体封入式防振装置12,13においてキャップ102が装着されてキャップ102によって密閉された遮断構造と、負圧源106に接続されて作用空気室68に負圧が及ぼされる吸引構造とを、選択可能とされている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で連結されており、内部に流体室が形成された流体封入式防振装置を用いた防振システムであって、
何れの前記流体封入式防振装置も、前記流体室の壁部の一部がメンブランで構成されて、該メンブランに対して該流体室と反対側に作用空気室が形成されており、第一のポートと第二のポートとを備えてそれらポートを該作用空気室に対して選択的に切り替えて連通させる切替弁が設けられており、
該第一のポートは、何れの該流体封入式防振装置においても大気開放構造とされており、
該第二のポートは、それぞれの該流体封入式防振装置において、キャップが装着されて該キャップによって密閉された遮断構造と、負圧源に接続されて該作用空気室に負圧が及ぼされる吸引構造とを、選択可能とされている防振システム。
【請求項2】
前記切替弁の切替えを制御する切替制御装置を備えており、
該切替制御装置は、何れの前記流体封入式防振装置においても同じ制御で該切替弁を切り替える請求項1に記載の防振システム。
【請求項3】
第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で連結されており、内部に流体室が形成された流体封入式防振装置を用いた防振システムであって、
何れの前記流体封入式防振装置も、前記流体室の壁部の一部がメンブランで構成されて、該メンブランに対して該流体室と反対側に作用空気室が形成されており、第一のポートと第二のポートとを備えてそれらポートを該作用空気室に対して選択的に切り替えて連通させる切替弁が設けられており、
該第一のポートは、何れの該流体封入式防振装置においても大気に開放されており、
該第二のポートは、何れの該流体封入式防振装置においても閉塞チューブが装着されて、該閉塞チューブにおける該第二のポートと反対側の端部開口が閉塞されており、
それら流体封入式防振装置において該閉塞チューブの長さが、要求される該作用空気室のばね特性に応じて各別に調節されている防振システム。
【請求項4】
前記第一のポートは、何れの前記流体封入式防振装置においても開放チューブが装着されており、
それら流体封入式防振装置において該開放チューブの長さが、要求される該作用空気室のばね特性に応じて各別に調節されている請求項1~3の何れか一項に記載の防振システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に流体が封入された複数の異なる流体封入式防振装置を用いた防振システムに係り、特に各流体封入式防振装置が作用空気室と当該作用空気室に連通する切替弁を備える防振システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振支持体や防振連結体等の防振装置として、内部に封入された非圧縮性流体の共振作用等の流動作用に基づいて防振効果を得るようにした流体封入式防振装置が知られている。そのような流体封入式防振装置は、例えば特開2007-162876号公報(特許文献1)において提案されている。
【0003】
特に、特許文献1に記載の流体封入式防振装置は、作用空気室と当該作用空気室に連通する切換バルブを備えており、切換バルブを切り換えることにより作用空気室が大気中と所定の負圧源とに択一的に連通される負圧式の流体封入式防振装置として構成されている。このような流体封入式防振装置では、切換バルブを切り換えて防振装置における防振特性を変化させることで、複数の異なる周波数の振動に対して防振効果が発揮されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-162876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば特許文献1のような流体封入式防振装置を用いた車両において、アイドリング時に切換バルブを切り換えて作用空気室と負圧源とを連通させることで、流体封入式防振装置においてアイドリング振動等の周波数にチューニングされたオリフィス通路等を備えた防振機構によりアイドリング振動を抑制させる場合がある。そして、このような作用空気室と連通される負圧源としては、例えばエンジン吸入負圧が採用されることがある。
【0006】
ところが、近年、直噴エンジン搭載車やアイドリングストップ車等が増加しており、負圧源としてエンジン吸入負圧を採用できない場合がある。このような場合、非負圧式の防振装置を採用することも考えられるが、そうでない場合には未だ負圧式の防振装置を採用する場合も多くあることから、コストや環境面等への観点から、負圧式と非負圧式とで流体封入式防振装置を共用することのできる防振システムが求められていた。
【0007】
また、このように複数の流体封入式防振装置を用いて防振システムを構築する場合においては、各流体封入式防振装置における作用空気室の防振特性を所望の周波数にチューニングする必要があり、より簡単にばね特性をチューニングすることのできる防振システムが求められていた。
【0008】
本発明は上述の如き事情を背景としてなされたものであって、その解決課題とするところは、共通の構造の流体封入式防振装置を用いて負圧式と非負圧式の何れかを任意に選択して車両に搭載することのできる、新規な防振システムを提供することにある。
【0009】
また、本発明における別の解決課題は、複数の流体封入式防振装置における各作用空気室のばね特性のチューニングを簡単に行うことのできる、新規な防振システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0011】
第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で連結されており、内部に流体室が形成された流体封入式防振装置を用いた防振システムであって、何れの前記流体封入式防振装置も、前記流体室の壁部の一部がメンブランで構成されて、該メンブランに対して該流体室と反対側に作用空気室が形成されており、第一のポートと第二のポートとを備えてそれらポートを該作用空気室に対して選択的に切り替えて連通させる切替弁が設けられており、該第一のポートは、何れの該流体封入式防振装置においても大気開放構造とされており、該第二のポートは、それぞれの該流体封入式防振装置において、キャップが装着されて該キャップによって密閉された遮断構造と、負圧源に接続されて該作用空気室に負圧が及ぼされる吸引構造とを、選択可能とされているものである。
【0012】
本態様によれば、共通の構造の流体封入式防振装置を用いて、負圧式と非負圧式の何れかを任意に選択することができる。すなわち、切替弁における第二のポートが負圧源(例えば、エンジン吸入負圧)に接続されて作用空気室に負圧が及ぼされる吸引構造とされた場合、この流体封入式防振装置は、従来と同様の負圧式の流体封入式防振装置とされる。一方、切替弁における第二のポートにキャップが装着されて当該キャップによって作用空気室が密閉された遮断構造とされた場合、この流体封入式防振装置は、負圧源(例えば、エンジン吸入負圧)を備えない非負圧式の流体封入式防振装置とされる。このように、切替弁における第二のポートが吸引構造と遮断構造の何れかとされることで、負圧式と非負圧式の何れかを任意に選択することが可能であり、本態様における防振システムでは、流体封入式防振装置だけではなく切替弁も含めて共通の構造とされる。換言すれば、本態様の防振システムでは、負圧源(例えば、エンジン吸入負圧)のある車両と、負圧源(例えば、エンジン吸入負圧)のない車両とに対して、切替弁までが共通の構造とされた流体封入式防振装置を適用することができる。
【0013】
第二の態様は、前記第一の態様に係る防振システムにおいて、前記切替弁の切替えを制御する切替制御装置を備えており、該切替制御装置は、何れの前記流体封入式防振装置においても同じ制御で該切替弁を切り替えるものである。
【0014】
本態様によれば、負圧式の流体封入式防振装置(即ち、第二のポートが吸引構造)と非負圧式の流体封入式防振装置(即ち、第二のポートが遮断構造)とで切替弁の切替制御装置を変更することがなく、キャップ装着時と負圧源接続時との何れにおいても共通の制御態様で目的とする特性を得ることができる。
【0015】
第三の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で連結されており、内部に流体室が形成された流体封入式防振装置を用いた防振システムであって、何れの前記流体封入式防振装置も、前記流体室の壁部の一部がメンブランで構成されて、該メンブランに対して該流体室と反対側に作用空気室が形成されており、第一のポートと第二のポートとを備えてそれらポートを該作用空気室に対して選択的に切り替えて連通させる切替弁が設けられており、該第一のポートは、何れの該流体封入式防振装置においても大気に開放されており、該第二のポートは、何れの該流体封入式防振装置においても閉塞チューブが装着されて、該閉塞チューブにおける該第二のポートと反対側の端部開口が閉塞されており、それら流体封入式防振装置において該閉塞チューブの長さが、要求される該作用空気室のばね特性に応じて各別に調節されているものである。
【0016】
本態様によれば、切替弁における第二のポートに閉塞チューブが装着された流体封入式防振装置において、切替弁が切り替えられて作用空気室が第二のポートに連通された状態では、作用空気室と第二のポート及び閉塞チューブの内部空間が一つの空間となることから、閉塞チューブの長さを調節することで当該一つの空間の内部容積を調節することができて、作用空気室が第二のポートに連通された状態での特性を閉塞チューブ内の空気の圧縮性を利用して簡単にチューニングすることができる。
【0017】
第四の態様は、前記第一~第三の何れか一つの態様に係る防振システムにおいて、前記第一のポートは、何れの前記流体封入式防振装置においても開放チューブが装着されており、それら流体封入式防振装置において該開放チューブの長さが、要求される該作用空気室のばね特性に応じて各別に調節されているものである。
【0018】
本態様によれば、切替弁における第一のポートに開放チューブが装着された流体封入式防振装置において、切替弁が切り替えられて作用空気室が第一のポートに連通された状態では、作用空気室と第一のポート及び開放チューブの内部空間が一つの空間となることから、開放チューブの長さを調節することで当該一つの空間の内部容積を調節することができて、作用空気室が第一のポートに連通された状態での特性を開放チューブ内の空気の共振現象を使用して簡単にチューニングすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、共通の構造の流体封入式防振装置を用いて負圧式と非負圧式の何れかを任意に選択して車両に搭載することのできる、新規な防振システムを提供することができる。
【0020】
また、本発明の別の態様によれば、複数の流体封入式防振装置における各作用空気室のばね特性のチューニングを簡単に行うことのできる、新規な防振システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態における防振システムをモデル的に説明するための説明図
図2図1に示された防振システムを構成する流体封入式防振装置の縦断面図であって、第二のポートがキャップにより遮断された遮断構造を有する流体封入式防振装置を示す図
図3図1に示された防振システムを構成する流体封入式防振装置の縦断面図であって、第二のポートに負圧源が接続された吸引構造を有する流体封入式防振装置を示す図
図4図1に示された防振システムを構成する流体封入式防振装置においてチューブの長さと作用空気室におけるばね特性の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0023】
先ず、図1には、本発明の一実施形態における防振システム10が示されている。この防振システム10は、図2に示される非負圧式の流体封入式防振装置であるエンジンマウント12(12’)と図3に示される負圧式の流体封入式防振装置であるエンジンマウント13とを含んで構成されている。これらエンジンマウント12(12’),13は多くの部分が共通の構造であり、以下の説明では、先に両エンジンマウント12(12’),13に共通の構造を説明する。何れのエンジンマウント12(12’),13も基本的な構造として、第一の取付部材14と第二の取付部材16が本体ゴム弾性体18で連結された構造を有しており、エンジンマウント12の内部には流体室20が形成されている。なお、エンジンマウント12とエンジンマウント12’は何れも非負圧式であるが、後述する開放チューブ98及び閉塞チューブ100の長さ寸法が相互に異ならされている。また、以下の説明中、特に断りのない限り、上下方向とは、マウント軸方向となる図2中の上下方向をいう。
【0024】
より詳細には、第一の取付部材14は、全体として上下方向に延びる略柱状であり、特に本実施形態では、第一の取付部材14の下方部分が、下方に開口する略カップ形状とされている。一方、第一の取付部材14の上方部分には、図示しないボルトが締結されるボルト穴22が上方に開口して設けられており、第一の取付部材14は、下方において略カップ形状とされた部分と、上方においてボルト穴22を有して略筒状とされた部分とを一体的に備えている。
【0025】
第二の取付部材16は、全体として略段付きの筒形状を有しており、軸方向中間部分に形成されて段差部24を挟んで上方が大径筒部26とされていると共に、下方が小径筒部28とされている。小径筒部28の下端部には内周側に突出する略環状の嵌着突部29が形成されている。そして、第一の取付部材14が、第二の取付部材16における上方の開口部側に離隔配置されて、両部材14,16の中心軸が略同一線上に位置していると共に、第一の取付部材14と第二の取付部材16との間には、本体ゴム弾性体18が配されている。
【0026】
本体ゴム弾性体18は、全体として略円錐台形状を有しており、その小径側端面には、第一の取付部材14における下方部分の略全体が埋設された状態で固着されている。また、本体ゴム弾性体18の大径側端部の外周面は、第二の取付部材16の大径筒部26及び段差部24の内周面に固着されている。本実施形態では、本体ゴム弾性体18が、第一の取付部材14と第二の取付部材16とを備えた一体加硫成形品として形成されている。これにより、第一の取付部材14と第二の取付部材16とが本体ゴム弾性体18によって弾性的に連結されていると共に、第二の取付部材16の大径筒部26における上方開口部が本体ゴム弾性体18によって流体密に閉塞されている。
【0027】
また、本体ゴム弾性体18の大径側端面には、下方に開口する大径凹所30が形成されている。更に、第二の取付部材16における小径筒部28の内周面には、本体ゴム弾性体18と一体的に形成されたシールゴム層32が、略一定の厚さ寸法をもって固着されている。
【0028】
そして、第一及び第二の取付部材14,16を備えた本体ゴム弾性体18の一体加硫成形品には、第二の取付部材16における下方開口部側から仕切部材34が組み付けられている。本実施形態の仕切部材34は、全体として下方に開口する略カップ形状であり、硬質の合成樹脂により形成されている。特に、本実施形態では、仕切部材34が、上方の蓋部材36と、下方の仕切部材本体38とから構成されている。
【0029】
仕切部材本体38は、外径寸法が第二の取付部材16における小径筒部28の内径寸法よりも小径であり、仕切部材本体38の下面における中央部分には下方に開口する中央凹所40が形成されている。この中央凹所40の周壁部の内周面には、軸方向(深さ方向)の中間部分に位置して、軸直角方向に広がる円環形状の段差面42が形成されている。これにより、中央凹所40は、段差面42よりも上方の内径寸法が、段差面42よりも下方の内径寸法よりも小さくされている。
【0030】
また、仕切部材本体38の周壁部には、外周面に開口して周方向に所定長さで延びる周溝44が形成されている。周溝44の一方の端部は、仕切部材本体38の上端部に設けられた連通窓45を通じて上方に開口していると共に、周溝44の他方の端部は、仕切部材本体38の下端部に設けられた図示しない連通窓を通じて下方に開口している。
【0031】
さらに、仕切部材本体38の周壁部における上端面には、上方に突出する円環形状の環状突部46が設けられている。これにより、仕切部材本体38の上端面において環状突部46の内周側には、上方に開口する上凹所が形成されている。環状突部46の内径寸法は、中央凹所40における段差面42より上方の内径寸法と略等しくされている。かかる上凹所の上方開口部は、仕切部材本体38に対して上方から重ね合わされる蓋部材36により覆蓋されるようになっている。
【0032】
蓋部材36は、全体として下方に開口する略皿形状であり、上凹所の上方開口部と蓋部材36の下方開口部とがそれぞれ突き合わされるようにして、仕切部材本体38における環状突部46の上端面に重ね合わされる。蓋部材36と仕切部材本体38との固着方法は限定されるものではなく、溶着や接着等によって固着され得る。これら蓋部材36と仕切部材本体38における上凹所との間の空間により、拘束配設領域48が形成されている。
【0033】
仕切部材本体38及び蓋部材36において、拘束配設領域48の上下壁部を構成する部分には、上下方向で貫通する複数の透孔50が形成されている。これら各透孔50を通じて、拘束配設領域48の内部空間が上下方向両側の外部空間に連通されている。そして、拘束配設領域48には、例えばゴム等の弾性体により構成される可動板52が収容配置されている。可動板52は、全体として薄肉の略円板形状であり、拘束配設領域48の中央部分に位置している。可動板52の上下方向寸法は、拘束配設領域48の上下壁部の対向面間距離よりも小さくされており、これにより、可動板52が、拘束配設領域48の内部において上下方向で変位可能とされている。
【0034】
これら蓋部材36と仕切部材本体38とからなる仕切部材34には、軸方向下方から固定部材54が重ね合わされて組み付けられる。固定部材54は、全体として略円板形状とされており、硬質の合成樹脂により形成されている。固定部材54の下面における中央部分には、下方に開口する下側凹所56が設けられている。また、固定部材54の中央部分には、上方に突出する中央突部58が一体形成されている。中央突部58の上端面には、上方に開口する略円形の凹所が形成されている。中央突部58の突出基端(下端)における外周面には、周方向の全周にわたって環状に延びる嵌着溝59が設けられている。
【0035】
固定部材54において中央突部58の外周側における上端面は軸直角方向に広がる略環状の平坦面であり、かかる固定部材54の外周部分には上下方向で貫通する図示しない連通孔が形成されている。この連通孔は、周溝44の他方の端部における連通窓と対応する位置に形成されており、固定部材54の上側と下側(下側凹所56)とを相互に連通している。さらに、固定部材54の外周面において上端部分及び下端部分には、それぞれ周方向の全周にわたって延びる上側嵌着溝60及び下側嵌着溝62が形成されている。
【0036】
かかる固定部材54は、仕切部材34に対して、例えばそれぞれに設けられた凹凸が嵌合することにより固定される。これら凹凸は、例えばある程度の周方向長さをもって形成される。これにより、固定部材54の上端面と仕切部材34の下端面とが略隙間なく重ね合わされるようになっている。
【0037】
そして、固定部材54の中央突部58には、メンブラン64が組み付けられている。メンブラン64は、全体として薄肉の略円板形状であり、ゴム等の弾性体により形成されている。メンブラン64の両面には、複数の凹凸や溝、突条等が形成されており、周方向で厚さ寸法が異ならされている。メンブラン64の外周端部には、略円筒状の嵌着リング66が固着されており、本実施形態では、メンブラン64が嵌着リング66を備えた一体成形品として形成されている。嵌着リング66の下端部は内周側に屈曲されており、当該嵌着リング66の下端部が中央突部58における嵌着溝59に差し入れられることで、メンブラン64が中央突部58における上方開口部を覆うようにして固定部材54に組み付けられている。
【0038】
そして、これら中央突部58の底部とメンブラン64との間に作用空気室68が形成されている。また、固定部材54には、空気通路70が貫通して形成されている。この空気通路70の一方の端部が中央突部58の上面に開口して作用空気室68に接続されていると共に、空気通路70の他方の端部が固定部材54の外周面に開口している。空気通路70の他方の端部は略円筒形状のポート部72とされており、当該ポート部72が固定部材54の外周面から外周側に突出している。
【0039】
このように中央突部58にメンブラン64が組み付けられた固定部材54が、仕切部材34に対して下方から組み付けられることで、メンブラン64の外周端部及び嵌着リング66の上端部が、仕切部材34の下方に設けられた中央凹所40における段差面42に重ね合わされる。これにより、仕切部材34において下方に開口する中央凹所40がメンブラン64で覆蓋される。
【0040】
かかる固定部材54と仕切部材34の組立体が、第二の取付部材16の下方開口部から差し入れられて、第二の取付部材16の下端の嵌着突部29が固定部材54における上側嵌着溝60に嵌め入れられることで、固定部材54及び仕切部材34が第二の取付部材16に組み付けられている。これにより、固定部材54の上端部に第二の取付部材16が外嵌固定されている。
【0041】
さらに、第二の取付部材16の下端部から露出した固定部材54の下端部には、ダイヤフラム74が組み付けられている。ダイヤフラム74は、全体として薄肉の円板形状であり、ゴム等の弾性体により形成されて容易に撓み変形が可能とされている。ダイヤフラム74の外周端部には略筒状の固定金具76が固着されており、固定金具76の上端部には、内周側に突出する略環状の嵌着突部78が形成されている。かかる固定金具76が固定部材54に対して外挿されて嵌着突部78が固定部材54における下側嵌着溝62に差し入れられることで、ダイヤフラム74が固定部材54の下方に組み付けられている。この結果、固定部材54における下側凹所56の開口がダイヤフラム74により流体密に覆蓋されている。要するに、第二の取付部材16の下方開口部は、固定部材54を介してダイヤフラム74により覆蓋されており、本体ゴム弾性体18とダイヤフラム74との軸方向の対向面間には、仕切部材34と固定部材54とが配設されている。
【0042】
このように、本体ゴム弾性体18とダイヤフラム74との対向面間には外部空間に対して密閉された流体室20が形成されており、当該流体室20に非圧縮性流体が封入されている。封入流体としては、例えば水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油等が採用されるが、特に流体の共振作用等の流動作用に基づく防振効果を有効に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。
【0043】
また、上記のように流体室20の内部には仕切部材34及び固定部材54が軸直角方向に広がるように配設されており、流体室20は、仕切部材34及び固定部材54により軸方向上下に二分されている。流体室20において仕切部材34及び固定部材54よりも上方には、壁部の一部が本体ゴム弾性体18で構成されて、第一の取付部材14と第二の取付部材16の間への振動入力時に、本体ゴム弾性体18の弾性変形に基づいて圧力変動が生じる主液室80が形成されている。一方、流体室20において仕切部材34及び固定部材54よりも下方には、壁部の一部がダイヤフラム74で構成されて、ダイヤフラム74の変形により容積変化が容易に許容される平衡室82が形成されている。
【0044】
また、前述のように、仕切部材本体38における中央凹所40の下方開口部はメンブラン64で覆蓋されており、仕切部材本体38とメンブラン64との間には、副液室84が形成されている。この副液室84には、主液室80や平衡室82と同様に非圧縮性流体が封入されており、流体室20の一部が副液室84により構成されている。これにより、流体室20の壁部の一部がメンブラン64で構成されている。そして、メンブラン64の上方に副液室84が構成されていると共に下方に作用空気室68が構成されており、換言すれば、メンブラン64に対して流体室20(副液室84)と反対側に作用空気室68が形成されている。
【0045】
さらに、主液室80と副液室84とは、仕切部材34における拘束配設領域48により上下方向で仕切られており、当該拘束配設領域48には、その内部に上下方向で所定量だけ変位可能な状態で可動板52が配設されている。この可動板52の上面と下面には、複数の各透孔50を通じて主液室80と副液室84の圧力がそれぞれ及ぼされている。そして、振動入力時には、これら主液室80と副液室84の相対的な圧力差の変動に基づいて、主液室80の圧力変動を副液室84に逃がすようになっている。
【0046】
そして、第二の取付部材16に対して仕切部材34及び固定部材54が組み付けられて、仕切部材本体38における周溝44の外周側開口が、シールゴム層32を介して第二の取付部材16における小径筒部28により流体密に覆蓋されることにより、オリフィス通路86が形成されている。オリフィス通路86の一方の端部は、仕切部材本体38の連通窓45を通じて主液室80に接続されている。またオリフィス通路86の他方の端部は、仕切部材本体38及び固定部材54における図示しない連通窓及び連通孔を通じて平衡室82に接続されている。これにより、主液室80と平衡室82がオリフィス通路86で相互に接続されており、それら両室80,82間で、オリフィス通路86を通じての流体流動が許容されるようになっている。このオリフィス通路86は、当該オリフィス通路86を流動する流体の共振周波数が、該流体の共振作用に基づいてアイドリング振動等に相当する周波数域(例えば、数十Hz程度)の振動に対して有効な防振効果(低動ばね特性に基づく振動絶縁効果)が発揮されるようにチューニングされている。
【0047】
かかる構造とされたエンジンマウント12(又はエンジンマウント12’,13)において、第一の取付部材14が、ボルト穴22に締結される図示しないボルトによりパワーユニット側の部材に固定されると共に、第二の取付部材16における大径筒部26が図示しないブラケットに固着されて車両ボデー側の部材に固定される。これにより、エンジンマウント12(又はエンジンマウント12’,13)が、パワーユニットと車両ボデーとの間に装着されて、パワーユニットが車両ボデーに対して防振支持されるようになっている。
【0048】
ここにおいて、固定部材54におけるポート部72には空気管路88が接続されており、空気管路88を通じてポート部72、空気通路70及び作用空気室68の内部空間が切替弁90に接続されている。切替弁90は第一のポート92及び第二のポート94が設けられた三方弁であり、車両に設けられた切替制御装置96により切替えが制御され、第一のポート92と第二のポート94とが択一的に選択されてポート部72及び空気管路88に連通されるようになっている。即ち、切替弁90は、電磁的に切り替えられる電磁弁でもあり、切替弁90により第一のポート92と第二のポート94とを選択的に切り替えて作用空気室68に連通させるようになっている。
【0049】
切替制御装置96は、自動車に備え付けられた各種センサ等から、自動車の速度やエンジン回転数、減速機選択位置、スロットル開度など、自動車の状態を表す各種情報のうち、必要なものが入力されるようになっており、かかる情報に基づいて、予め設定されたプログラムに従って、マイクロコンピュータのソフトウエア等により、切替弁90を切替作動させるようになっている。そして、切替弁90を、自動車の走行状態等の各種条件下で入力される振動に応じて適切に切替制御することにより、目的とする防振効果を得るための作用空気室68の圧力制御が行われる。本実施形態では、非負圧式のエンジンマウント12(12’)及び負圧式のエンジンマウント13の何れもが切替制御装置96を備えており、切替制御装置96による制御により切替弁90が切り替えられるようになっている。
【0050】
また、切替弁90における第一のポート92には開放チューブ98が接続されており、当該開放チューブ98が大気に開放されている。即ち、第一のポート92は、何れのエンジンマウント12(12’),13においても大気開放構造とされている。
【0051】
以上がエンジンマウント12(12’),13で共通の構造であり、以下、図2に示される非負圧式のエンジンマウント12(12’)と図3に示される負圧式のエンジンマウント13との違いについて説明する。
【0052】
図2に示されるエンジンマウント12(12’)では、第二のポート94に閉塞チューブ100が接続されていると共に、閉塞チューブ100において第二のポート94と接続される側と反対側の端部開口にはキャップ102が装着されている。閉塞チューブ100及びキャップ102は、例えばそれぞれ合成樹脂製とされて、ある程度の変形剛性を有していてもよい。閉塞チューブ100とキャップ102との固定構造は限定されるものではなく、接着や溶着等であってもよいが、例えば閉塞チューブ100におけるキャップ102が装着される側の端部開口の外周面に雄ねじを設けると共に、キャップ102の内周面に雌ねじを設けて、これら雄ねじと雌ねじの螺合により閉塞チューブ100の端部開口にキャップ102が装着されて閉塞チューブ100が閉塞されるようになっていてもよい。また、閉塞チューブ100はある程度の長さ寸法を有している。
【0053】
このような構造において、切替弁90を切替制御装置96により切り替えて空気管路88(ポート部72)と第二のポート94とが連通された場合には、作用空気室68、空気通路70、ポート部72及び空気管路88の内部空間が閉塞チューブ100の内部空間と連通することになるが、閉塞チューブ100の端部にキャップ102が固定されることにより、これらの内部空間は密閉空間となり、容積の変化が阻止又は抑制され、メンブラン64は、開放チューブ98を通じて作用空気室68が大気に開放された状態よりも硬いばね剛性を発揮する。かかる場合、第二のポート94は、第二のポート94に接続される閉塞チューブ100にキャップ102が装着されて、当該キャップ102によって密閉された遮断構造とされる。
【0054】
一方、図3に示されるエンジンマウント13では、第二のポート94に接続チューブ104が接続されていると共に、接続チューブ104において第二のポート94と接続される側と反対側の端部には負圧源106が装着されている。この負圧源106としては、例えばエンジン吸入負圧を利用することができる。
【0055】
このような構造において、切替弁90を切替制御装置96により切り替えて空気管路88(ポート部72)と第二のポート94とが連通された場合に、負圧源106からの吸引力を及ぼすことで、メンブラン64が作用空気室68側に負圧吸引変形されたり、更に強く吸引されてメンブラン64が作用空気室68の底面に重ね合わせられることによって変形拘束されて硬いばね剛性が発揮される。かかる場合、第二のポート94は、接続チューブ104を介して負圧源106が接続されており、作用空気室68に負圧が及ぼされる吸引構造とされる。
【0056】
以上のようなエンジンマウント12(12’),13に対して、例えばアイドリング振動等の振動が入力された場合には、主液室80に対して比較的大きな振幅の圧力変動が惹起されることとなる。かかる場合において、各エンジンマウント12(12’),13において、切替弁90を切替制御装置96により切り替えて空気管路88と第二のポート94(キャップ102または負圧源106)とを連通することで、副液室84の変形が阻止又は抑制される。これにより、主液室80の圧力変動が副液室84に逃がされることが抑制されて、アイドリング振動にチューニングされたオリフィス通路86を通じての流体の流動により、良好な防振効果が発揮される。
【0057】
特に、図2に示された非負圧式のエンジンマウント12(12’)においては、上記のように作用空気室68を含む密閉空間の容積が、作用空気室68に加えて、空気通路70、ポート部72、空気管路88及び閉塞チューブ100の内部空間によって決定される。即ち、かかる密閉空間の容積は、閉塞チューブ100を適切な長さに設定することによって調節され得る。そして、かかる密閉空間(内部空間)の空気ばねがメンブラン64に対して補助的乃至は拘束的なばねとして作用することから、メンブラン64の硬さは、この密閉空間の容積によって決定される。
【0058】
本発明者は、実際に長さを異ならせた複数の閉塞チューブ100を準備して、閉塞チューブ100の長さが異ならされた複数のエンジンマウント12,12’を作製し、各エンジンマウント12,12’における作用空気室68のばね特性(メンブラン64の硬さ)、及びそれに伴って変化するオリフィス通路86を流動する流体の共振作用に基づくエンジンマウント12,12’の防振特性(絶対ばね定数)の周波数特性を求めた。本実験では、基準となる閉塞チューブ(閉塞チューブ+0mm)と、それに対してそれぞれ50mm(閉塞チューブ+50mm)、100mm(閉塞チューブ+100mm)、150mm(閉塞チューブ+150mm)長くした閉塞チューブを準備した。その結果のグラフを図4に示す。なお、図4のグラフ中、縦軸はエンジンマウント12,12’(特に、本体ゴム弾性体18)の絶対ばね定数を線形スケール(通常スケール)で示しており、縦軸において上に行くほど高いばね定数を示すとともに、下に行くほど低いばね定数を示している。図4において丸で囲った部分からも明らかなように、閉塞チューブ100の長さが異なることで作用空気室68を含む密閉空間の容積も変化して、メンブラン64のばね特性(メンブラン64の硬さ)が変化することで、オリフィス通路86を流動する流体の流動作用に基づくエンジンマウント12,12’のばね特性において共振ボトム周波数が変化していることがわかる。具体的には、閉塞チューブ100をより長くすることで共振ボトム周波数がより低周波数になっており、閉塞チューブ100の長さ寸法を適切に設定することで、オリフィス通路86を流動する流体の流動作用に基づくエンジンマウント12,12’のばね特性における共振ボトム周波数を所望の値に調節することができる。なお、負圧式のエンジンマウント13では、メンブラン64へ略一定の吸引拘束力が作用することとなり、接続チューブ104の長さ寸法が作用空気室68のばね特性に影響を与えることは略ないので、接続チューブ104の長さ寸法は取回し等を考慮した上で適切な長さに設定される。それ故、接続チューブ104としては、例えば非負圧式のエンジンマウント12(12’)に採用される閉塞チューブ100と同一のチューブを採用することも可能である。
【0059】
一方、エンジンマウント12(12’),13に対して、例えば走行こもり音等の高周波小振幅の振動が入力された場合には、切替弁90を切り替えて空気管路88と第一のポート92とを連通させる。第一のポート92は開放チューブ98を介して大気に連通されていることから、メンブラン64は比較的柔らかいばね特性を発揮する。この結果、拘束配設領域48内での可動板52の変位に伴って、主液室80の圧力変動が副液室84に対して効率的に伝達されて、メンブラン64の弾性変形に基づく液圧吸収作用により主液室80の圧力変動が軽減乃至は解消されて、良好な防振効果が発揮される。なお、高周波小振幅振動の入力に際して、それよりも低周波数域にチューニングされたオリフィス通路86は、反共振的な作用によって流体流動抵抗が著しく大きくなって実質的に閉塞状態とされる。
【0060】
なお、図1に示されるように、開放チューブ98の長さ寸法を適切に設定することで、空気管路88と第一のポート92とを連通させた状態において、作用空気室68から外部空間に至るまでの内部空間の容積を変更することができて、これによってもメンブラン64、即ち作用空気室68のばね特性を調整することができる。この結果、主液室80と副液室84間の各透孔50を通じた流体流動による防振機構において、開放チューブ98の長さ寸法を異ならせることで共振周波数のチューニングを行うことができる。
【0061】
以上のような構成とされた本実施形態の防振システム10によれば、負圧源106(例えば、エンジン吸入負圧)を有さない車両には図2に示されるエンジンマウント12(12’)を採用可能であり、負圧源106(例えば、エンジン吸入負圧)を有する車両には図3に示されるエンジンマウント13が採用可能であり、これらエンジンマウント12,12’,13は、多くの部分が共通の構造とされる。具体的には、エンジンマウント12,12’においては第二のポート94に閉塞チューブ100及びキャップ102が接続されていると共に、エンジンマウント13においては第二のポート94に接続チューブ104及び負圧源106が接続されている。要するに、第二のポート94を遮断構造とするか吸引構造とするかを選択して、第二のポート94に接続されるチューブ(閉塞チューブ100または接続チューブ104)に対してキャップ102と負圧源106の何れかを接続することで、非負圧式のエンジンマウント12(12’)と負圧式のエンジンマウント13とを任意に選択することができる。この結果、第二のポート94に閉塞チューブ100を介してキャップ102が接続された遮断構造を有するエンジンマウント12(12’)と、第二のポート94に接続チューブ104を介して負圧源106が接続された吸引構造を有するエンジンマウント13とを組み合わせた防振システム10を構築することで、負圧源106(例えば、エンジン吸入負圧)を有さない車両と負圧源106(例えば、エンジン吸入負圧)を有する車両との両方に効率的に且つ低コストで容易に対応することができる。
【0062】
特に、非負圧式のエンジンマウント12(12’)と負圧式のエンジンマウント13との何れにおいても、切替弁90を切り替えるための切替制御装置96は同一のものを採用することができて、非負圧式のエンジンマウント12(12’)と負圧式のエンジンマウント13とを選択するに際して切替制御装置96を変更する必要もない。これにより、各態様において制御系までも共通化することが可能であって、大きな変更を伴うことなく、キャップ102を接続するか、負圧源106を接続するかの変更のみで、負圧源106を有さない車両と負圧源106を有する車両との両方に対応することができる。
【0063】
また、非負圧式のエンジンマウント12,12’では、第二のポート94に接続される閉塞チューブ100の長さ寸法を異ならせることで、空気管路88(ポート部72)と第二のポート94との連通時の作用空気室68におけるばね特性が調節される。これにより、例えばオリフィス通路86等を備えた防振機構において共振周波数を容易にチューニングすることができて、長さを異ならせた複数の閉塞チューブ100を準備することで、負圧源106(例えば、エンジン吸入負圧)を有さない種々の車両において、作用空気室68のばね特性が異なる複数の非負圧式のエンジンマウント12,12’を採用することができる。これにより、閉塞チューブ100の長さを異ならせた複数の非負圧式のエンジンマウント12,12’と、負圧式のエンジンマウント13によって防振システム10を構成することが可能である。
【0064】
同様に、第一のポート92に接続される開放チューブ98の長さ寸法を異ならせることで、空気管路88(ポート部72)と第一のポート92との連通時の作用空気室68におけるばね特性が調節される。これにより、非負圧式と負圧式との何れのエンジンマウント12(12’),13においても、主液室80と副液室84間の流動等による防振機構において共振周波数を容易にチューニングすることができて、共振周波数が所望の値に設定された複数のエンジンマウント12,12’,13を有する防振システム10を構築することができる。
【0065】
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、かかる実施形態における具体的な記載によって、本発明は、何等限定されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様で実施可能であり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【0066】
例えば、前記実施形態では、主液室80と平衡室82とがオリフィス通路86により連通されて当該オリフィス通路86を利用した防振機構がアイドリング振動に相当する中周波中振幅の振動にチューニングされていたと共に、主液室80と副液室84とを利用した防振機構が走行こもり音に相当する高周波小振幅の振動にチューニングされていたが、この態様に限定されるものではない。即ち、例えば流体封入式防振装置はエンジンマウント以外に適用されてもよく、前記実施形態において例示したアイドリング振動や走行こもり音以外の振動が抑制されるようになっていてもよい。そして、流体封入式防振装置では、防振対象とする振動(周波数や振幅など)が限定されるものでなく、例えば低周波大振幅振動や中周波中振幅振動、高周波小振幅振動などの各種の振動の少なくとも一つに対して防振効果が発揮されるようになっていればよい。オリフィス通路の数も限定されるものでなく、防振対象とする振動に応じて二つ以上のオリフィス通路を設けることも可能である。例えば、前記実施形態の如き基本構造を有するエンジンマウントにおいて、主液室と副液室を連通する第二のオリフィス通路を設けて、当該第二のオリフィス通路を第一のオリフィス通路とは異なる周波数域にチューニングすることも可能である。かかる第二のオリフィス通路を通じての流体の流動特性ひいては第二のオリフィス通路によって発揮される防振特性も、副液室の壁部の一部を構成するメンブランのばね硬さを切替弁の切替えによって変更することで適宜に調節することが可能である。かかる第二のオリフィス通路は第一のオリフィス通路よりも高周波数域にチューニングされることが望ましい。なお、本発明に係る流体封入式防振装置において、主液室と平衡室とを連通するオリフィス通路は平衡室を含めて必須なものではなく、例えば平衡室を備えない流体封入式防振装置において主液室と副液室とを連通するオリフィス通路を通じた流体流動により、低周波大振幅振動(例えば、エンジンシェイク)や中周波中振幅振動(例えば、アイドリング振動)が抑制されるようになっていて、その防振特性が切替弁の切替えに基づいて変更設定可能とされていてもよい。また、切替弁の切替作動の具体的な制御態様は、防振すべき振動の態様や入力状況などに応じて適宜に設定され得るものであって限定されるものでない。
【0067】
また、前記実施形態では、閉塞チューブ100において第二のポート94と接続される側と反対側の端部開口においてキャップ102が装着されることにより閉塞チューブ100が閉塞されていたが、本発明の一態様によっては、キャップが設けられることなく、例えば閉塞チューブの内周面が溶着されたり接着されたりすることで閉塞チューブが閉塞されてもよいし、別部材が充填されることで閉塞チューブの端部開口が閉塞されてもよい。なお、閉塞チューブ100とキャップ102との固定方法は、前記実施形態で例示した雄ねじと雌ねじとの螺合に限定されるものではなく、例えば圧入であってもよいし、凹凸嵌合等であってもよい。
【0068】
さらに、前記実施形態では、流体封入式防振装置としてエンジンマウント12,12’を例示すると共に、負圧源106としてエンジン吸入負圧を例示したが、この態様に限定されるものではない。流体封入式防振装置は、ボデーマウントやデフマウント等のエンジンマウント以外の車両用の流体封入式防振装置であってもよいし、車両用以外の流体封入式防振装置であってもよい。同様に、流体封入式防振装置に採用される負圧源は、エンジン吸入負圧以外の車両に設けられる負圧源であってもよいし、車両以外に設けられる負圧源であってもよい。
【0069】
本発明に係る流体封入式防振装置は、例えば作用空気室と当該作用空気室に連通する切替弁を備えていればよく、流体封入式防振装置における切替弁の第二のポートに接続される閉塞チューブ及び/又はキャップは、流体封入式防振装置を構成していてもよいし、構成していなくてもよい。
【0070】
前記実施形態では、防振システム10が、閉塞チューブ100の長さ寸法の異なる複数の非負圧式のエンジンマウント12,12’と負圧式のエンジンマウント13とを含んで構成されていたが、この態様に限定されるものではない。本発明に係る防振システムの一態様では、非負圧式のエンジンマウントにおける閉塞チューブの長さ寸法は一定でもよく、かかる非負圧式のエンジンマウントと負圧式のエンジンマウントとが組み合わされることで防振システムが構成されてもよい。また、本発明に係る防振システムの別の態様では、負圧式のエンジンマウントは必須なものではなく、閉塞チューブの長さ寸法が相互に異ならされた複数の非負圧式のエンジンマウントにより防振システムが構成されてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 防振システム
12,12’,13 エンジンマウント(流体封入式防振装置)
14 第一の取付部材
16 第二の取付部材
18 本体ゴム弾性体
20 流体室
22 ボルト穴
24 段差部
26 大径筒部
28 小径筒部
29 嵌着突部
30 大径凹所
32 シールゴム層
34 仕切部材
36 蓋部材
38 仕切部材本体
40 中央凹所
42 段差面
44 周溝
45 連通窓
46 環状突部
48 拘束配設領域
50 透孔
52 可動板
54 固定部材
56 下側凹所
58 中央突部
59 嵌着溝
60 上側嵌着溝
62 下側嵌着溝
64 メンブラン
66 嵌着リング
68 作用空気室
70 空気通路
72 ポート部
74 ダイヤフラム
76 固定金具
78 嵌着突部
80 主液室
82 平衡室
84 副液室
86 オリフィス通路
88 空気管路
90 切替弁
92 第一のポート
94 第二のポート
96 切替制御装置
98 開放チューブ
100 閉塞チューブ
102 キャップ
104 接続チューブ
106 負圧源
図1
図2
図3
図4