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特開2025-19696流路スペーサ、及びスパイラル型膜モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019696
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】流路スペーサ、及びスパイラル型膜モジュール
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/00 20060101AFI20250131BHJP
   B01D 63/10 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
B01D63/00 510
B01D63/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123436
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 来貴
(72)【発明者】
【氏名】北野 宏樹
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA62
4D006JA05A
4D006JA05B
4D006JA05C
4D006JA06A
4D006JA06C
4D006JA19A
4D006JA19C
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB03
4D006PB08
4D006PC80
(57)【要約】      (修正有)
【課題】濃度分極層の形成を抑制しつつ、圧力損失を小さく抑えることが可能な流路スペーサの提供。
【解決手段】スパイラル型膜モジュールの集水管に巻回された分離膜の間に介在させる流路スペーサ4であって、流れ方向Xに対して各々が斜め上方に傾くように延びつつ、互いに間隔を保つように並んだ複数の第1線状部41と、流れ方向Xに対して各々が斜め下方に傾くように延びつつ、互いに間隔を保つように並んだ複数の第2線状部42とを有し、複数の第1線状部41と複数の第2線状部42との間で複数の開口部43が形成されるように、複数の第1線状部41と複数の第2線状部42とが互いに交差する斜め格子状のメッシュ構造を備え、第1線状部41は、開口部43毎に分けられた複数の第1円弧410を含み、第2線状部42は、開口部43毎に分けられた複数の第2円弧420を含み、第1及び第2の円弧の中心角は、10°以上50°以下である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパイラル型膜モジュールの集水管に巻回された分離膜の間に介在させる流路スペーサであって、
前記集水管を流れる原水の流れ方向に対して直交する正方向を上、負方向を下としたとき、
前記流れ方向に対して各々が斜め上方に傾くように延びつつ、互いに間隔を保つように並んだ複数の第1線状部と、前記流れ方向に対して各々が斜め下方に傾くように延びつつ、互いに間隔を保つように並んだ複数の第2線状部とを有し、複数の前記第1線状部と複数の前記第2線状部との間で複数の開口部が形成されるように、複数の前記第1線状部と複数の前記第2線状部とが互いに交差する斜め格子状のメッシュ構造を備え、
前記第1線状部は、前記開口部毎に分けられた複数の第1円弧を含み、
前記第2線状部は、前記開口部毎に分けられた複数の第2円弧を含み、
前記第1円弧は、前記流れ方向に対して斜め上方に傾くように所定の線幅で延びつつ、その延び方向における両端部を通る仮想的な直線に対して、下側に膨らむように曲がっており、
前記第2円弧は、前記流れ方向に対して斜め下方に傾くように所定の線幅で延びつつ、その延び方向における両端部を通る仮想的な直線に対して、上側に膨らむように曲がっており、
前記第1円弧及び前記第2円弧からなる各円弧の中心角は、10°以上50°以下である流路スペーサ。
【請求項2】
前記第1円弧の長さ、及び前記第2円弧の長さは、互いに同じである請求項1に記載の流路スペーサ。
【請求項3】
前記開口部のピッチが5mmである請求項1又は請求項2に記載の流路スペーサ。
【請求項4】
一方向に延びた集水管と、
前記集水管に巻回される分離膜と、
前記分離膜の間に介在される流路スペーサであって、
前記集水管を流れる原水の流れ方向に対して直交する正方向を上、負方向を下としたとき、
前記流れ方向に対して各々が斜め上方に傾くように延びつつ、互いに間隔を保つように並んだ複数の第1線状部と、前記流れ方向に対して各々が斜め下方に傾くように延びつつ、互いに間隔を保つように並んだ複数の第2線状部とを有し、複数の前記第1線状部と複数の前記第2線状部との間で複数の開口部が形成されるように、複数の前記第1線状部と複数の前記第2線状部とが互いに交差する斜め格子状のメッシュ構造を備え、
前記第1線状部は、前記開口部毎に分けられた複数の第1円弧を含み、
前記第2線状部は、前記開口部毎に分けられた複数の第2円弧を含み、
前記第1円弧は、前記流れ方向に対して斜め上方に傾くように所定の線幅で延びつつ、その延び方向における両端部を通る仮想的な直線に対して、下側に膨らむように曲がっており、
前記第2円弧は、前記流れ方向に対して斜め下方に傾くように所定の線幅で延びつつ、その延び方向における両端部を通る仮想的な直線に対して、上側に膨らむように曲がっており、
前記第1円弧及び前記第2円弧の中心角は、10°以上50°以下である流路スペーサとを備えるスパイラル型膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路スペーサ、及びスパイラル型膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
海水の淡水化、純水の製造等の水処理において、スパイラル状の分離膜(逆浸透膜、限界ろ過膜等)を備えたスパイラル型膜モジュールが使用されている。この種のスパイラル型膜モジュールは、集水管と、その集水管の周りにスパイラル状に巻回された複数の分離膜と、隣り合った分離膜の間に介在される流路スペーサとを備えている(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
流路スペーサは、隣り合った分離膜の間において、処理対象である原水の流路を確保するための部材である。流路スペーサは、一般的に、複数の経糸(縦糸)と、複数の緯糸(横糸)とが交差する形で配置されたメッシュ構造を備えている。
【0004】
このような流路スペーサとしては、原水の流路において、それ自体が障害物となって発生する圧力損失が小さいことが求められている。また、流路スペーサとしては、濃度分極層の形成が抑制されることが求められている。濃度分極層は、分離膜を透過できないイオン、塩類等の溶質の濃度の高い層であり、溶質が分離膜の表面の近傍に蓄積することによって形成される。濃度分極層は、分離膜の表面の近傍における浸透圧を上昇させ、透過水の量を減少させる原因となる。
【0005】
このような濃度分極層は、原水が分離膜に作用する剪断応力が大きいと形成され難いことが知られている。また、原水の乱流の大きさ(乱流エネルギー)が大きいと、濃度分極層の形成が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-198849号公報
【特許文献2】特開平11-235520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
濃度分極層の形成を抑制すること(つまり、剪断応力及び乱流をそれぞれ大きくすること)と、圧力損失を小さく抑えることとは、本質的にトレードオフの関係にあるため、これらを両立させることは容易ではない。従来、それらを両立させるために、原水の流れ方向と、メッシュ構造を構成する経糸及び緯糸の各形状との関係を考慮することは十分に行われていなかった。
【0008】
本発明の目的は、濃度分極層の形成を抑制しつつ、圧力損失を小さく抑えることが可能な流路スペーサ、及び前記流路スペーサを備えたスパイラル型膜モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> スパイラル型膜モジュールの集水管に巻回された分離膜の間に介在させる流路スペーサであって、前記集水管を流れる原水の流れ方向に対して直交する正方向を上、負方向を下としたとき、前記流れ方向に対して各々が斜め上方に傾くように延びつつ、互いに間隔を保つように並んだ複数の第1線状部と、前記流れ方向に対して各々が斜め下方に傾くように延びつつ、互いに間隔を保つように並んだ複数の第2線状部とを有し、複数の前記第1線状部と複数の前記第2線状部との間で複数の開口部が形成されるように、複数の前記第1線状部と複数の前記第2線状部とが互いに交差する斜め格子状のメッシュ構造を備え、前記第1線状部は、前記開口部毎に分けられた複数の第1円弧を含み、前記第2線状部は、前記開口部毎に分けられた複数の第2円弧を含み、前記第1円弧は、前記流れ方向に対して斜め上方に傾くように所定の線幅で延びつつ、その延び方向における両端部を通る仮想的な直線に対して、下側に膨らむように曲がっており、前記第2円弧は、前記流れ方向に対して斜め下方に傾くように所定の線幅で延びつつ、その延び方向における両端部を通る仮想的な直線に対して、上側に膨らむように曲がっており、前記第1円弧及び前記第2円弧の中心角は、10°以上50°以下である流路スペーサ。
【0010】
<2> 前記第1円弧の長さ、及び前記第2円弧の長さは、互いに同じである前記<1>に記載の流路スペーサ。
【0011】
<3> 前記開口部のピッチが5mmである前記<1>又は<2>に記載の流路スペーサ。
【0012】
<4> 一方向に延びた集水管と、前記集水管に巻回される分離膜と、前記分離膜の間に介在される流路スペーサであって、前記集水管を流れる原水の流れ方向に対して直交する正方向を上、負方向を下としたとき、前記流れ方向に対して各々が斜め上方に傾くように延びつつ、互いに間隔を保つように並んだ複数の第1線状部と、前記流れ方向に対して各々が斜め下方に傾くように延びつつ、互いに間隔を保つように並んだ複数の第2線状部とを有し、複数の前記第1線状部と複数の前記第2線状部との間で複数の開口部が形成されるように、複数の前記第1線状部と複数の前記第2線状部とが互いに交差する斜め格子状のメッシュ構造を備え、前記第1線状部は、前記開口部毎に分けられた複数の第1円弧を含み、前記第2線状部は、前記開口部毎に分けられた複数の第2円弧を含み、前記第1円弧は、前記流れ方向に対して斜め上方に傾くように所定の線幅で延びつつ、その延び方向における両端部を通る仮想的な直線に対して、下側に膨らむように曲がっており、前記第2円弧は、前記流れ方向に対して斜め下方に傾くように所定の線幅で延びつつ、その延び方向における両端部を通る仮想的な直線に対して、上側に膨らむように曲がっており、 前記第1円弧及び前記第2円弧の中心角は、10°以上50°以下である流路スペーサとを備えるスパイラル型膜モジュール。
【発明の効果】
【0013】
本願発明によれば、濃度分極層の形成を抑制しつつ、圧力損失を小さく抑えることが可能な流路スペーサ、及び前記流路スペーサを備えたスパイラル型膜モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るスパイラル型膜モジュールの斜視図
図2】原水側スペーサの部分平面図
図3図2のA-A線断面図
図4図2に示される原水側スペーサの一部を拡大した平面図
図5図4に示される第2円弧に対応した円弧の中心角θ(°)を示す説明図
図6】中心角θが±30°、±50°の場合の各メッシュ構造を示す説明図
図7】プラス側及びマイナス側の中心角θと、剪断応力、及び圧力損失との関係を示すグラフ
図8】プラス側及びマイナス側の中心角θと、乱流エネルギーとの関係を示すグラフ
図9】プラス側の中心角θと、剪断応力、及び圧力損失との関係を示すグラフ
図10】プラス側の中心角θと、乱流エネルギーとの関係を示すグラフ
図11】ピッチが「4mm、4mm」の場合における中心角θと、剪断応力、及び圧力損失との関係を示すグラフ
図12】ピッチが「4mm、4mm」の場合における中心角θと、乱流エネルギーとの関係を示すグラフ
図13】ピッチが「6mm、6mm」の場合における中心角θと、剪断応力、及び圧力損失との関係を示すグラフ
図14】ピッチが「6mm、6mm」の場合における中心角θと、乱流エネルギーとの関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔スパイラル型膜モジュール〕
図1は、本発明の一実施形態に係るスパイラル型膜モジュール1の斜視図である。図1には、スパイラル型膜モジュール1の一部の構造が、展開された状態で示されている。スパイラル型膜モジュール1(以下、単に、「モジュール1」と称する場合がある。)は、海水の淡水化、純水の製造等の水処理を行うための装置である。モジュール1は、主として、集水管2、複数の分離膜3、原水側スペーサ4、透過側スペーサ5を備えている。
【0016】
複数の分離膜3は、各々が扁平な袋状の構造をなしつつ、互いに重ね合わせられた状態で、集水管2の周りに巻き付けられる。なお、袋状の構造の内部には、透過側スペーサ5が配置されている。透過側スペーサ5は、袋状をなした分離膜3の重なった部分の間に透過水の流路としての空間を確保する機能を備えている。また、分離膜3からなる袋状の構造の外部において、隣り合った分離膜3の間に、原水側スペーサ(流路スペーサの一例)4が配置されている。原水側スペーサ4は、隣り合った分離膜3の間に原水の流路としての空間を確保する。原水側スペーサ4の詳細は、後述する。
【0017】
なお、透過水の流路が集水管2に連通するように、分離膜3からなる袋状の構造の開口端が、集水管2に接続されている。原水の種類は、特に限定されず、例えば、海水であってもよいし、排水であってもよいし、純水の製造のための水であってもよい。
【0018】
集水管2は、各分離膜3を透過した透過水を集めてモジュール1の外部に導く機能を備えている。集水管2は、一方向に延びつつ、周面に複数の孔部が形成された円筒状の管からなる。集水管2は、例えば、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂製のパイプが加工されたものからなる。孔部は、集水管2の長手方向(一方向)に沿って、所定間隔で複数設けられている。透過水は、これらの孔部を通って集水管2内に流入する。
【0019】
分離膜3としては、例えば、逆浸透膜、ナノろ過膜、限界ろ過膜、精密ろ過膜等が挙げられる。
【0020】
透過側スペーサ5は、メッシュ構造を有するシート状の部材である。透過側スペーサ5は、例えば、ポリオレフィン樹脂(ポリプロピレン等)等の合成樹脂の成形品からなる。
【0021】
モジュール1は、例えば、筒状の圧力容器(ハウジング)に収容した状態で使用される。圧力容器内に、処理対象である原水が供給されると、原水は、モジュール1の一端側(図1の紙面奥側)から、原水の流路に流入する。原水は、分離膜3によってろ過されて濃縮される。これにより、濃縮された原水と、透過水とが生成される。濃縮された原水は、モジュール1の他端側(図1の紙面手前側)から、モジュール1の外部へ排出される。透過水の流路及び集水管2を通じて、モジュール1の外部へ排出される。モジュール1は、原水に含まれたイオン、塩類等の溶質が取り除かれた透過水を生成する。
【0022】
〔原水側スペーサ〕
次いで、原水側スペーサ4について、詳細に説明する。原水側スペーサ4は、スパイラル型膜モジュール1の集水管2に巻回された分離膜3の間に介在させるものであり、隣り合った分離膜3の間で挟まれることで、処理対象である原水の流路を確保する。図2は、原水側スペーサ4の部分平面図であり、図3は、図2のA-A線断面図である。
【0023】
原水側スペーサ4は、図2に示されるように、メッシュ構造を有するシート状の部材である。なお、図2に示される矢印は、集水管2を流れる原水の流れ方向Xを表す。つまり、原水は、図2の左側から右側に流れるものとする。また、説明の便宜上、本明細書では、集水管2を流れる原水の流れ方向Xに対して直交する正方向を上、負方向を下とする。
【0024】
原水側スペーサ4は、全体的には、図2に示されるような、斜め格子状のメッシュ構造40を備えている。このようなメッシュ構造40は、複数の第1線状部41と、複数の第2線状部42とを有する。複数の第1線状部41と複数の第2線状部42との間で複数の開口部43が形成されるように、複数の第1線状部41と複数の第2線状部42とが互いに交差する形で配置されている。
【0025】
本実施形態の場合、複数の第1線状部41の上側(図2の紙面手前側)に、複数の第2線状部42が載せられる形で、複数の第1線状部41及び複数の第2線状部42が一体的に形成されている。第1線状部41及び第2線状部42は、互いに重なり合った部分で、互いに固着(融着)されている。他の実施形態においては、本発明の目的を損なわない限り、複数の第2線状部42の上側に、複数の第1線状部41が載せられる形で、複数の第1線状部41及び複数の第2線状部42が一体的に形成されてもよい。
【0026】
複数の第1線状部41は、全体的には、各々が、集水管2を流れる原水の流れ方向Xに対して斜め上方に傾くように延びつつ、互いに間隔を保つように並んでいる。複数の第1線状部41は、各々が所定の線幅(一定の線幅)と共に、所定の厚み(一定の厚み)を有する線状をなしている。複数の第1線状部41は、互いに等間隔を保つように配置されている。
【0027】
複数の第2線状部42は、全体的には、各々が流れ方向Xに対して斜め下方に傾くように延びつつ、互いに間隔を保つように並んでいる。複数の第2線状部は、各々が所定の線幅(一定の線幅)と共に、所定の厚み(一定の厚み)を有する線状をなしている。複数の第2線状部42は、互いに等間隔を保つように配置されている。
【0028】
本実施形態の場合、第1線状部41の線幅と、第2線状部42の線幅は、互いに同じである。また、第1線状部41の厚みと、第2線状部42の厚みも、互いに同じである。図3には、第1線状部41の断面が示されている。図3において、上下方向の両矢印が、第1線状部41の線幅Wを表し、左右方向の両矢印Dが、第1線状部41の厚み(高さ)Dを表す。なお、本明細書において、第1線状部41及び第2線状部42の各線幅は、最も大きな幅の部分の大きさを表し、各厚みは、最も大きな厚みの部分の大きさを表す。
【0029】
第1線状部41及び第2線状部42の各線幅Wは、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、0.43mm以上0.63mm以下が好ましい。また、第1線状部41及び第2線状部42の各厚みDは、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、0.33mm以上0.53m以下が好ましい。なお、線幅Wは、厚みDよりも大きい方が好ましい。
【0030】
原水側スペーサ4の厚みは、第1線状部41と第2線状部42の総厚みである。ただし、第1線状部41と第2線状部42とが互いに融着することで、それらの厚みの総和から、0.02mm程度の減少分が生じる。
【0031】
図3に示されるように、第1線状部41の上面41a及び下面41bは、それぞれ平坦であり、両側面41c、41dは、それぞれ外側に円弧状に膨らんだ形をなしている。第2線状部42も、第1線状部41と同様、平坦な上面及び下面を有すると共に、それぞれ外側に円弧状に膨らんだ両側面を有している。
【0032】
第1線状部41は、その長さ方向(流れ方向Xに対して斜め上方に傾きつつ延びる方向)において、説明の便宜上、開口部43毎に複数の区間に分けられる。本明細書では、この分けられた区間を、「第1円弧410」と称する。第1線状部41は、開口部43毎に分けられた複数の第1円弧410を含んでいると言える。なお、第1円弧410同士が、互いに一列に繋がったものが、第1線状部41となる。第1円弧410は、流れ方向Xに対して斜め上方に傾くように所定の線幅で延びつつ、その延び方向(第1円弧410の長さ方向)における両端部を通る仮想的な直線に対して、下側に膨らむように曲がった円弧をなしている。
【0033】
第2線状部42は、その長さ方向(流れ方向Xに対して斜め下方に傾きつつ延びる方向)において、説明の便宜上、開口部43毎に複数の区間に分けられる。本明細書では、この分けられた区間を、「第2円弧420」と称する。第2線状部42は、開口部43毎に分けられた複数の第2円弧420を含んでいると言える。なお、第2円弧420同士が、互いに一列に繋がったものが、第2線状部42となる。第2円弧420は、流れ方向Xに対して斜め下方に傾くように所定の線幅で延びつつ、その延び方向(第2円弧420の長さ方向)における両端部を通る仮想的な直線に対して、上側に膨らむように曲がった円弧をなしている。
【0034】
図4は、図2に示される原水側スペーサ4の一部を拡大した平面図である。図4には、1つの開口部43を形成する部分の原水側スペーサ4(図2において、正方形状の枠Sで囲まれた部分の原水側スペーサ4)が示されている。
【0035】
図4に示されるように、1つの開口部43は、隣り合った2つの第1線状部41(2つの第1円弧410)と、隣り合った2つの第2線状部42(2つの第2円弧420)とで形成される。図4において、2つの第1線状部41のうち、一方の第1線状部41は、左上側に配され、他方の第1線状部41は、右下側に配されている。また、図4において、2つの第2線状部42のうち、一方の第2線状部42は、右上側に配され、他方の第2線状部42は、左下側に配されている。
【0036】
図4において、左上側に配される一方の第1線状部41と、右上側に配される一方の第2線状部42とが、互いに重なり合って交差する箇所が、第1交点A1として示される。また、図4において、左上側に配される一方の第1線状部41と、左下側に配される他方の第2線状部42とが、互いに重なり合って交差する箇所が、第2交点A2として示される。また、図4において、右下側に配される他方の第1線状部41と、右上側に配される一方の第2線状部42とが、互いに重なり合って交差する箇所が、第3交点A3として示される。また、図4において、右下側に配される他方の第1線状部41と、左下側に配される他方の第2線状部42とが、互いに重なり合って交差する箇所が、第4交点A4として示される。
【0037】
図4には、説明の便宜上、第1交点A1及び第2交点A2を通る仮想的な直線L1と、第3交点A3及び第4交点A4を通る仮想的な直線L2とが示されている。直線L1及び直線L2は、流れ方向Xに対して斜め上方に傾きつつ延びている。本実施形態の場合、それらは、流れ方向Xに対して、斜め45°の角度で上方に傾きつつ延びている。
【0038】
また、図4には、説明の便宜上、第1交点A1及び第3交点A3を通る仮想的な直線L3と、第2交点A2及び第4交点A4を通る仮想的な直線L4とが示されている。直線L3及び直線L4は、流れ方向Xに対して斜め下方に傾きつつ延びている。本実施形態の場合、それらは、流れ方向Xに対して、斜め45°の角度で下方に傾きつつ延びている。
【0039】
第1交点A1、第2交点A2、第3交点A3及び第4交点A4の各位置は、1つの開口部43に対応して形成される仮想的な正方形の各頂点に、それぞれ対応している。
【0040】
なお、開口部43のピッチは、第1交点A1と第4交点A4との間の長さB1、又は第2交点A2と第3交点A3との間の長さB1である。本実施形態の場合、長さB1及び長さB2は、互いに同じである。長さB1及び長さB2は、それぞれ、上述した仮想的な正方形の対角線の長さに相当する。
【0041】
原水側スペーサ4の開口部43のピッチの大きさは、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、4mm以上6mm以下が好ましく、5mmが特に好ましい。
【0042】
左上側に配される一方の第1線状部41において、第1交点A1と第2交点A2との間の部分が、開口部43を構成する一方の第1円弧410となる。この一方の第1円弧410は、流れ方向Xに対して斜め上方に傾くように所定の線幅で延びており、その延び方向(長さ方向)における一方の端部は、第1交点A1で表される箇所であり、他方の端部は、第2交点A2で表される箇所である。本明細書では、前記第1円弧410の一方の端部を、符号A1で表し、他方の端部を、符号A2で表す。前記第1円弧410は、両端部A1,A2を通る仮想的な直線L1に対して、下側に膨らむように曲がった円弧をなしている。
【0043】
右下側に配される他方の第1線状部41において、第3交点A3と第4交点A4との間の部分が、開口部43を構成する他方の第1円弧410となる。この他方の第1円弧410は、流れ方向Xに対して斜め上方に傾くように所定の線幅で延びており、その延び方向(長さ方向)における一方の端部は、第3交点で表される箇所であり、他方の端部は、第4交点A4で表される箇所である。本明細書では、前記第1円弧410の一方の端部を、符号A3で表し、他方の端部を、符号A4で表す。前記第1円弧410は、両端部A3,A4を通る仮想的な直線L2に対して、下側に膨らむように曲がった円弧をなしている。
【0044】
右上側に配される一方の第2線状部42において、第1交点A1と第3交点A3との間の部分が、開口部43を構成する一方の第2円弧420となる。この一方の第2円弧420は、流れ方向Xに対して斜め下方に傾くように所定の線幅で延びつつ、その延び方向(長さ方向)における一方の端部は、第1交点A1で表される箇所であり、他方の端部は、第3交点A3で表される箇所である。本明細書では、前記第2円弧420の一方の端部を、符号A1で表し、他方の端部を、符号A3で表す。前記第2円弧420は、両端部A1,A3を通る仮想的な直線L3に対して、上側に膨らむように曲がった円弧をなしている。
【0045】
左下側に配される他方の第2線状部42において、第2交点A2と第4交点A4との間の部分が、開口部43を構成する他方の第2円弧420となる。この他方の第2円弧420は、流れ方向Xに対して斜め下方に傾くように所定の線幅で延びつつ、その延び方向(長さ方向)における一方の端部は、第2交点A2で表される箇所であり、他方の端部は、第4交点A4で表される箇所である。本明細書では、前記第2円弧420の一方の端部を、符号A2で表し、他方の端部を、符号A4で表す。前記第2円弧420は、両端部A2,A4を通る仮想的な直線L4に対して、上側に膨らむように曲がった円弧をなしている。
【0046】
第1円弧410の中心角は、10°以上50°以下(好ましくは、30°以上50°以下)の範囲である。
【0047】
まだ、第2円弧420の中心角は、10°以上50°以下(好ましくは、30°以上50°以下)の範囲である。なお、第2円弧420の中心角と、第1円弧410の中心角とは、互いに同じであることが好ましい。
【0048】
ここで、図5を参照しつつ、第2円弧420を例に挙げて、その円弧と中心角(θ)との関係について簡単に説明する。図5は、図4に示される第2円弧420に対応した円弧420aの中心角θ(°)を示す説明図である。図5には、第1交点A1、第3交点A3、及び円弧420aの中心Oを頂点とする三角形(二等辺三角形)が示されている。なお、図5において、第1交点A1と第3交点A3との間の長さmは、開口部43のピッチが5mmの場合の値が示されている。また、中心Oから第1交点A1までの長さ、及び中心Oから第3交点A3までの長さは、それぞれ、円弧420aの半径rに対応する。上述した三角形において成立する余弦定理より、半径rと、中心角θ(cosθ)との関係を把握することができる。
【0049】
このような関係より、中心角θ(°)が大きくなると、第2円弧420の曲げの程度(曲率=1/r)が大きくなると言える。また、第1円弧410の場合も同様に、中心角が大きくなると、第1円弧410の曲げの程度(曲率=1/r)が大きくなる。
【0050】
なお、各々が円弧状をなした複数の第1円弧410が、互いに一列に繋がることで、1つの第1線状部41が形成される。また、各々が円弧状をなした複数の第2円弧420が、互いに一列に繋がることで、1つの第2線状部42が形成される。
【0051】
また、本実施形態の斜め格子状のメッシュ構造40は、全体的には、流れ方向Xに向かって移動する波紋のような形状の部分(例えば、第1交点A1と第3交点A3との間の第2円弧420と、第3交点A3と第4交点A4との間の第1円弧410とで形成される概ね半円弧状をなした部分)が、複数個集まって形成されているとも言える。
【0052】
原水側スペーサ4は、合成樹脂を母材とした成形品からなる。合成樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。合成樹脂としては、成形性に優れる等の観点より、熱可塑性樹脂が好ましい。なお、熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂等が挙げられる。
【0053】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0054】
合成樹脂には、原水側スペーサ4の表面の親水性を高める等の目的で、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン等のカーボン材料が配合されてもよい。カーボン材料(カーボンナノチューブ等)が合成樹脂中に配合されていると、成形品の表面に、水分子の薄い膜が形成される。
【0055】
カーボンナノチューブは、グラフェンシートを円筒状に巻いたような構造を備えており、直径は、数nm~数十nm、長さは直径の数十倍~数千倍以上である。カーボンナノチューブは、グラフェンシートが実質的に1層である単層カーボンナノチューブと、2層以上である多層カーボンナノチューブに分類される。本発明の目的を損なわない限り、カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブの何れを使用してもよい。
【0056】
グラフェンは、一般的に、1原子の厚さのsp2結合炭素原子のシート(単層グラフェン)を指すが、本発明の目的を損なわない限り、単層グラフェンが積層した状態の物質も、グラフェンとして使用してもよい。
【0057】
フラーレンは、閉殻構造を有する炭素クラスタであり、通常、その炭素数は、60~130の偶数である。フラーレンの具体例としては、C60、C70、C76、C78、C80、C82、C84、C86、C88、C90、C92、C94、C96及びこれらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスタが挙げられる。本発明の目的を損なわない限り、炭素数の異なるフラーレン同士を組み合わせて使用してもよいし、単独のフラーレンを使用してもよい。
【0058】
ナノカーボン材料の中でも、入手容易性、汎用性等の観点より、カーボンナノチューブが最も好ましい。
【0059】
合成樹脂(例えば、ポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂)に対するナノカーボン材料の配合割合は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、合成樹脂100質量部に対して、1~30質量部の割合で、ナノカーボン材料が配合される。
【0060】
合成樹脂には、本発明の目的を損なわない限り、ナノカーボン材料以外に、紫外線防止剤、着色剤(顔料、染料)、増粘付与剤、フィラー、界面活性剤、可塑剤等の各種の添加剤が、適宜、配合されてもよい。
【0061】
原水側スペーサ4は、所定の金型を利用して適宜、成形される。例えば、合成樹脂が熱可塑性樹脂からなる場合、原水側スペーサ4は、所定の金型を利用して、適宜、回転押出成形で成形される。また、他の実施形態においては、射出成形や3Dプリンティング等の金型を使用しない成形方法により、原水側スペーサ4が製造されてもよい。
【0062】
以上のような構造を備える本実施形態の原水側スペーサ4は、濃度分極層の形成が抑制され、かつ圧力損失を小さく抑えることができる。圧力損失が小さく抑えられると、例えば、モジュール1に原水を送るポンプの動力を小さくすること(つまり、消費電力を抑えること)ができる。濃度分極層は、原水が分離膜3に作用する剪断応力が大きいと形成され難い。また、原水の乱流の大きさ(乱流エネルギー)が大きいと、濃度分極層の形成が抑制される。濃度分極層の形成が抑制されると、分離膜3の分離性能の低下を抑制等できる。
【実施例0063】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0064】
〔流路スペーサのメッシュ構造における円弧の中心角の違いの検証〕
市販の流体解析ソフトウェア(「Femtet(登録商標)」、ムラタソフトウェア株式会社)を利用したシミュレーションにより、流路スペーサのメッシュ構造が備える円弧部分の中心角θが、0°、+10°、+30°、+50°、+60°、+70°、+90°、-30°、-50°の場合における剪断応力[Pa]、圧力損失[Pa]、乱流エネルギー(×10-6)[m/s]を、以下に示される条件の下で、それぞれ求めた。
【0065】
参考として、図6に、中心角θが、+30°、+50°、-30°、-50°の場合のメッシュ構造を例示した。なお、中心角がマイナスの場合とは、第1線状部及び第2線状部が膨らむ向きが、中心角がプラスの場合と逆向きになる場合である。例えば、図6の上側に示される中心角θが+30°の場合と比べて、図6の下側に示される中心角が-30°の場合は、第1線状部及び第2線状部が膨らむ向きが、それぞれ逆向きになっている。また、中心角が0°の場合とは、第1線状部及び第2線状部が、それぞれ真っ直ぐに直線状に延びた場合(つまり、従来品の場合)である。
【0066】
<条件>
・第1線状部及び第2線状部の太さ:線幅W=0.53mm、厚みD=0.43mm
・流路スペーサの総厚み:0.84mm(第1線状部と第2線状部の融着による減少分が0.02mm)
・流体領域の総厚み:0.84mm(流体領域は、流体(水)が流れる領域であり、流体領域の総厚みは、流路スペーサの総厚みと同じである)
・流体領域の範囲:10mm×20mm
・流入速度:11.3cm/秒
・流出速度:自然流出
・流路スペーサの素材:ポリエチレン
・流体の種類:水
・ピッチ:B1=5mm,B2=5mm
【0067】
上記シミュレーションの結果は、図7図10に示した。図7は、プラス側及びマイナス側の中心角θと、剪断応力、及び圧力損失との関係を示すグラフである。図7の横軸は、中心角θ[°]を表し、左側の縦軸は、剪断応力[Pa]を表し、右側の縦軸は、圧力損失[Pa]を表す。また、図8は、プラス側及びマイナス側の中心角θと、乱流エネルギーとの関係を示すグラフである。図8の横軸は、中心角θ[°]を表し、縦軸は、乱流エネルギー(×10-6)[m/s]を表す。
【0068】
図7に示されるように、中心角θが+30°、+50°の場合は、中心角θが0°の場合(従来品)と、圧力損失が同等程度の値となることが確かめられた。これに対して、中心角θが-30°、-50°の場合は、中心角θが0°の場合よりも、圧力損失が大きくなってしまう。
【0069】
また、図7に示されるように、中心角θが+30°、+50°の場合は、中心角θが0°の場合や、中心角θが-30°、-50°の場合よりも、剪断応力が大きくなることが確かめられた。
【0070】
また、図8に示されるように、中心角θが+30°、+50°の場合は、中心角θが0°の場合よりも、乱流エネルギーが大きくなることが確かめられた。
【0071】
図9は、プラス側の中心角θと、剪断応力、及び圧力損失との関係を示すグラフである。図9の横軸は、中心角θ[°]を表し、左側の縦軸は、剪断応力[Pa]を表し、右側の縦軸は、圧力損失[Pa]を表す。図10は、プラス側の中心角θと、乱流エネルギーとの関係を示すグラフである。図10の横軸は、中心角θ[°]を表し、縦軸は、乱流エネルギー(×10-6)[m/s]を表す。
【0072】
図9に示されるように、中心角θが+10°~+50°の範囲であると、中心角θが0°の場合と、圧力損失が同等程度の値となり、しかも、剪断応力が、中心角θが0°の場合よりも、大きくなることが確かめられた。
【0073】
また、図10に示されるように、乱流エネルギーについては、中心角θが+30°~50°の場合は、中心角θが0°の場合よりも、大きくなることが確かめられた。また、中心角θが10°の場合の乱流エネルギーについては、中心角θが0°の場合と同等であることが確かめられた。
【0074】
以上の結果より、ピッチが5mm、5mmのメッシュ構造の流路スペーサでは、中心角θが10°以上50°以下の範囲であると、従来品(中心角θが0°の場合)よりも、濃度分極層の形成が抑制されると共に、圧力損失が小さく抑えられると言える。
【0075】
特に、中心角θが30°以上50°以下の範囲であると、より確実に、濃度分極層の形成が抑制されると共に、圧力損失が小さく抑えられると言える。
【0076】
〔流路スペーサのメッシュ構造におけるピッチの違いの検証〕
上記流体解析ソフトウェアを利用したシミュレーションにより、流路スペーサのメッシュ構造のピッチが「4mm、4mm」の場合と、「6mm、6mm」の場合とにおいて、円弧部分の中心角θが、それぞれ、0°、+30°、+50°の場合における剪断応力[Pa]、圧力損失[Pa]、乱流エネルギー(×10-6)[m/s]を、それぞれ求めた。なお、ピッチ以外のシミュレーションの条件は、上述したピッチが「5mm。5mm」の場合と同様である。ピッチが「4mm、4mm」の場合の結果は、図11及び図12に示した。また、ピッチが「6mm、6mm」の場合の結果は、図13及び図14に示した。
【0077】
図11は、ピッチが「4mm、4mm」の場合における中心角θと、剪断応力、及び圧力損失との関係を示すグラフである。図11の横軸は、中心角θ[°]を表し、左側の縦軸は、剪断応力[Pa]を表し、右側の縦軸は、圧力損失[Pa]を表す。図12は、ピッチが「4mm、4mm」の場合における中心角θと、乱流エネルギーとの関係を示すグラフである。図12の横軸は、中心角θ[°]を表し、縦軸は、乱流エネルギー(×10-6)[m/s]を表す。
【0078】
図11に示されるように、ピッチが「4mm、4mm」の場合、中心角θが+30°や+50°であると、中心角θが0°の場合よりも、圧力損失が大きくなってしまう。なお、剪断応力については、中心角θが+30°や+50°であると、中心角θが0°の場合よりも、若干、大きくなる結果となった。
【0079】
また、図12に示されるように、ピッチが「4mm、4mm」の場合、中心角θが+30°や+50°であると、中心角θが0°の場合よりも、乱流エネルギーが小さくなってしまう。
【0080】
図13は、ピッチが「6mm、6mm」の場合における中心角θと、剪断応力、及び圧力損失との関係を示すグラフである。図13の横軸は、中心角θ[°]を表し、左側の縦軸は、剪断応力[Pa]を表し、右側の縦軸は、圧力損失[Pa]を表す。図14は、ピッチが「6mm、6mm」の場合における中心角θと、乱流エネルギーとの関係を示すグラフである。図14の横軸は、中心角θ[°]を表し、縦軸は、乱流エネルギー(×10-6)[m/s]を表す。
【0081】
図13に示されるように、ピッチが「6mm、6mm」の場合、中心角θが+30°や+50°であっても、中心角θが0°の場合と、圧力損失及び剪断応力の各結果は、略同等であった。
【0082】
なお、図14に示されるように、ピッチが「6mm、6mm」の場合、中心角θが+30°であると、中心角θが0°の場合よりも、乱流エネルギーが大きくなる結果となった。これに対して、中心角θが+50°であると、中心角θが0°の場合と、乱流エネルギーの大きさは殆ど同じ結果となった。
【符号の説明】
【0083】
1…スパイラル型膜モジュール、2…集水管、3…分離膜、4…原水側スペーサ(流路スペーサ)、41…第1線状部、410…第1円弧、42…第2線状部、420…第2円弧、5…透過側スペーサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14