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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019745
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   B60B 35/18 20060101AFI20250131BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20250131BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20250131BHJP
   B60B 35/14 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
B60B35/18 A
F16C19/18
B60B35/02 L
B60B35/14 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123534
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 峻介
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA77
3J701FA60
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】ハブボルトのボルト孔に対する耐スリップトルクの向上と、ハブボルトの圧入によるハブフランジの歪の抑制とを図ることができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】内周に複列の外側軌道面23、24を有する外輪2と、外周に外側軌道面24と対向する一方の内側軌道面33および車輪を取り付けるためのハブフランジ32を有するハブ輪3と、ハブ輪3に連結され、外周に外側軌道面23と対向する他方の内側軌道面41を有する内輪4と、から構成される内方部材と、外輪2とハブ輪3および内輪4との両軌道面間に転動自在に収容されたインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6と、ハブフランジ32に形成されるボルト孔35に圧入されるハブボルト36とを備える車輪用軸受装置1であって、ハブフランジ32におけるボルト孔35の表面硬度と、ハブボルト36の表面硬度との差が、42HRC~50HRCである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
外周に前記外側軌道面と対向する一方の内側軌道面および車輪を取り付けるためのハブフランジを有するハブ輪と、前記ハブ輪に連結され、外周に前記外側軌道面と対向する他方の内側軌道面を有する軌道面形成部材と、から構成される内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記ハブフランジに形成されるボルト孔に圧入されるハブボルトと、
を備える車輪用軸受装置であって、
前記ハブフランジにおける前記ボルト孔の表面硬度と、前記ハブボルトの表面硬度との差が、42HRC~50HRCである車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記ハブボルトは、軸方向に延びる凸部が周方向に沿って複数形成され、前記ボルト孔に圧入されるナール部を有し、
前記凸部は、前記凸部の先端側へいくに従って周方向における互いの距離が小さくなる側に傾斜する第1傾斜面と第2傾斜面とを有し、
前記凸部の第1傾斜面と第2傾斜面とが成す角度は鋭角である請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記ボルト孔の内周面は、前記凸部よりも小径に形成されるとともに前記凸部に対して締め代を有して嵌合可能な複数の凹部を有する請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記ハブフランジは軸方向一側に面するフランジ面を有し、
前記ボルト孔に前記ハブボルトが圧入されていない状態の前記ハブフランジにおいて、前記フランジ面の前記ボルト孔よりも外径側に位置する部分は、外径側へいくに従って軸方向他側に傾斜している請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記ハブフランジは軸方向一側に面するフランジ面を有し、
前記ボルト孔に前記ハブボルトが圧入されていない状態の前記ハブフランジにおいて、前記フランジ面の前記ボルト孔よりも外径側に位置する部分は、外径側へいくに従って軸方向一側に傾斜している請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記ハブフランジは、軸方向一側に面するフランジ面と、軸方向他側に面する側面とを有し、
前記ボルト孔に前記ハブボルトが圧入されていない状態の前記ハブフランジにおいて、前記フランジ面および前記側面の前記ボルト孔よりも外径側に位置する部分は、外径側へいくに従って軸方向他側に傾斜している請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記ハブフランジは、軸方向一側に面するフランジ面と、軸方向他側に面する側面とを有し、
前記ボルト孔に前記ハブボルトが圧入されていない状態の前記ハブフランジにおいて、前記フランジ面および前記側面の前記ボルト孔よりも外径側に位置する部分は、外径側へいくに従って軸方向一側に傾斜している請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記フランジ面の軸方向と直交する方向に対する傾斜角度と、前記側面の軸方向と直交する方向に対する傾斜角度とは、異なっている請求項6または請求項7に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置においては、内方部材であるハブ輪が外径側に延びるハブフランジを有しており、ハブフランジに形成されるボルト孔には、ハブ輪と車輪等とを締結するためのハブボルトが圧入されている。
【0003】
ハブフランジのボルト孔にハブボルトを圧入する際に、ハブボルトのボルト孔に対する耐スリップトルクを十分に確保するために、ボルト孔に対するハブボルトの締代を大きくすると、ハブフランジに歪が加わって、ハブフランジのフランジ面の振れや倒れが大きくなる。フランジ面の振れや倒れが大きくなると、フランジ面に固定されるブレーキロータに面振れが生じ、ブレーキジャダーや騒音の発生につながるおそれがある。
【0004】
特に、近年においては、車両の低燃費化を図るために車輪用軸受装置の更なる軽量化が求められており、車輪用軸受装置の軽量化に伴うハブフランジの肉薄化によって、ハブフランジに生じる歪が増大する傾向にある。
【0005】
ハブボルトの圧入によりハブフランジに生じる歪の抑制については、例えば、ハブフランジのボルト孔が形成された部分に、ハブ輪に形成した焼き入れ硬化層の熱影響が及ぶと、ハブフランジに生じる歪が大きくなることから、ハブ輪に形成した焼き入れ硬化層の熱影響がハブフランジのボルト孔が形成された部分に及ばないように構成することが行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-219006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、ボルト孔にハブボルトを圧入することによるハブフランジの歪を抑制するためには、ボルト孔に対するハブボルトの締代を小さくすることが考えられるが、ボルト孔に対するハブボルトの締代を小さくすると、ハブボルトのボルト孔に対する耐スリップトルクを十分に確保できないおそれがある。
【0008】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、ハブボルトのボルト孔に対する耐スリップトルクの向上と、ハブボルトの圧入によるハブフランジの歪の抑制との両立を図ることが可能な車輪用軸受装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、外周に前記外側軌道面と対向する一方の内側軌道面および車輪を取り付けるためのハブフランジを有するハブ輪と、前記ハブ輪に連結され、外周に前記外側軌道面と対向する他方の内側軌道面を有する軌道面形成部材と、から構成される内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記ハブフランジに形成されるボルト孔に圧入されるハブボルトと、を備える車輪用軸受装置であって、前記ハブフランジにおける前記ボルト孔の表面硬度と、前記ハブボルトの表面硬度との差が、42HRC~50HRCである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ハブボルトのボルト孔に対する耐スリップトルクを向上するとともに、ハブフランジに生じる変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
図2】ハブボルトおよびハブフランジのボルト孔を示す側面断面図である。
図3】ハブボルトのナール部を示す軸方向断面図である。
図4】ハブボルトにおけるナール部の凸部と、ハブフランジにおけるボルト孔の凹部とを示す軸方向断面図である。
図5】ハブボルトがハブフランジのボルト孔に圧入される様子を示す側面断面図である。
図6】ハブフランジの第2実施形態を示す側面断面図である。
図7】ハブフランジの第3実施形態を示す側面断面図である。
図8】ハブフランジの第4実施形態を示す側面断面図である。
図9】ハブフランジの第5実施形態を示す側面断面図である。
図10】第4世代構造の車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0013】
[車輪用軸受装置]
図1に示す車輪用軸受装置1は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態であり、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。
【0014】
以下の説明において、軸方向とは車輪用軸受装置1の回転軸心Xに沿った方向を表す。また、アウター側とは、軸方向一側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表し、インナー側とは、軸方向他側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表す。
【0015】
車輪用軸受装置1は第3世代と称呼される構成を備えており、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ輪3および内輪4と、転動列である二列のインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6と、アウター側シール部材9と、インナー側シール部材10とを具備する。内輪4は、ハブ輪に連結された軌道面形成部材の一例である。
【0016】
外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材10が嵌合可能なインナー側開口部21が形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材9が嵌合可能なアウター側開口部22が形成されている。
【0017】
インナー側シール部材10がインナー側開口部21に嵌合されることにより、外方部材である外輪2と内方部材であるハブ輪3および内輪4とによって形成された環状空間Sのインナー側の開口端が塞がれている。アウター側シール部材9がアウター側開口部22に嵌合されることにより、環状空間Sのアウター側の開口端が塞がれている。
【0018】
インナー側シール部材10およびアウター側シール部材9は、環状空間Sの開口端を塞ぐ密封装置である。このように、インナー側シール部材10およびアウター側シール部材9により環状空間Sのインナー側およびアウター側の開口端を塞ぐことで、泥水等の異物が車輪用軸受装置1の内部へ浸入することを抑制している。
【0019】
外輪2の内周面には、インナー側の外側軌道面23と、アウター側の外側軌道面24とが形成されている。外輪2の外周面には、外輪2を車体側部材に取り付けるための車体取り付けフランジ25が一体的に形成されている。車体取り付けフランジ25には、車体側部材と外輪2とを締結する締結部材(ここでは、ボルト)が螺合されるボルト孔26が設けられている。
【0020】
ハブ輪3の外周面におけるインナー側端部には、アウター側端部よりも縮径された小径段部31が形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるためのハブフランジ32が一体的に形成されている。ハブフランジ32は、ハブ輪3の軸方向の一端部であるアウター側端部において外径側へ延びている。
【0021】
ハブフランジ32には、複数のボルト孔35が形成されている。ボルト孔35は、ハブフランジ32を軸方向に貫通している。ボルト孔35には、ハブ輪3と車輪又はブレーキ部品とを締結するためのハブボルト36が圧入されている。
【0022】
ハブフランジ32は、アウター側に面するフランジ面321と、インナー側に面する側面322とを有している。フランジ面321および側面322は、軸方向と直交する方向に広がる面である。車輪又はブレーキ部品は、ハブボルト36と図示しないホイールナットによって、ハブフランジ32のフランジ面321に締結される。
【0023】
ハブ輪3においては、ハブフランジ32の基部側にアウター側シール部材9が摺接する摺接面34が形成されている。ハブ輪3の外周面には、外輪2のアウター側の外側軌道面24に対向するようにアウター側の内側軌道面33が設けられている。つまり、内方部材のアウター側には、ハブ輪3によって内側軌道面33が構成されている。内側軌道面33は、外側軌道面と対向する一方の内側軌道面の一例である。
【0024】
ハブ輪3の小径段部31には、内輪4が設けられている。内輪4は、圧入のみ、又は、圧入およびかしめ加工によりハブ輪3の小径段部31に固定されている。図1は加締め加工した例であり、ハブ輪3のインナー側端部には、内輪4のインナー側端面42にかしめられたかしめ部37が形成されている。
【0025】
内輪4は、かしめ部37により軸方向に固定されている。かしめ部37は、小径段部31のインナー側端部を外径側に塑性変形させることにより形成されている。内輪4は、転動列であるインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6に予圧を付与している。
【0026】
内輪4の外周面には、外輪2のインナー側の外側軌道面23と対向するようにインナー側の内側軌道面41が設けられている。つまり、内方部材のインナー側には、内輪4によって内側軌道面41が構成されている。内側軌道面41は、外側軌道面と対向する他方の内側軌道面の一例である。
【0027】
転動列であるインナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、転動体である複数のボール7が保持器8によって保持されることにより構成されている。インナー側ボール列5は、内輪4の内側軌道面41と、外輪2のインナー側の外側軌道面23との間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列6は、ハブ輪3の内側軌道面33と、外輪2のアウター側の外側軌道面24との間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、外方部材と内方部材との両軌道面間に転動自在に収容されている。
【0028】
車輪用軸受装置1においては、外輪2と、ハブ輪3及び内輪4と、インナー側ボール列5と、アウター側ボール列6とによって複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、車輪用軸受装置1は複列アンギュラ玉軸受に替えて複列円錐ころ軸受を構成していてもよい。
【0029】
[ハブボルトおよびハブフランジのボルト孔]
図2に示すように、ハブボルト36は、頭部36Aと、ナール部36Bと、雄ねじ部36Cとを備えている。頭部36Aは、ハブボルト36のインナー側端部に配置されており、ハブボルト36がボルト孔35に圧入された状態においてハブフランジ32のインナー側に位置している。
【0030】
ナール部36Bは、ハブボルト36におけるボルト孔35に圧入される部分であり、ナール部36Bには軸方向に延びる凸部361が周方向に沿って複数形成されている(図3参照)。ナール部36Bは、頭部36Aのアウター側に隣接して配置されている。
【0031】
雄ねじ部36Cは、ナール部36Bのアウター側に隣接して位置している。ボルト孔35に圧入されたハブボルト36の雄ねじ部36Cにナットを螺装することで、ハブ輪3と車輪またはブレーキ部品とを締結することができる。
【0032】
ハブボルト36のナール部36Bは、ハブフランジ32のボルト孔35に対して締め代を有しており、ボルト孔35にハブフランジ32のインナー側から圧入される。
【0033】
ナール部36Bをボルト孔35に圧入することで、ナール部36Bの凸部361がハブフランジ32におけるボルト孔35の内周面に食い込んで、ボルト孔35の内周面が凸部361の形状に沿って塑性変形する。これにより、ハブボルト36がボルト孔35に対して周方向へ回転することが抑制される。
【0034】
車輪用軸受装置1においては、ハブボルト36におけるナール部36Bの表面硬度と、ハブフランジ32のボルト孔35における内周面の表面硬度との差が、42HRC~50HRCとなるように構成されている。
【0035】
この場合、ナール部36Bの表面硬度は、例えば、凸部361を含むナール部36Bの外周面360からの深さが0.05mm~0.1mmの部分の硬度を、複数箇所において測定することにより得ることができる(図3における「×」印を参照)。
【0036】
ボルト孔35の内周面の表面硬度についても同様に、ボルト孔35の内周面からの深さが0.05mm~0.1mmの部分の硬度を、複数箇所において測定することにより得ることができる。
【0037】
このように、ナール部36Bの表面硬度とボルト孔35における内周面の表面硬度との差を42HRC~50HRCとなるように設定することで、ナール部36Bがボルト孔35の内周面に食い込み易くなり、ナール部36Bとボルト孔35の内周面との密着度合いを高めることができる。
【0038】
これにより、ハブボルト36のボルト孔35に対する周方向への回転の抑制度合いを高めて、ハブボルト36のボルト孔35に対する周方向の耐スリップトルクを向上することが可能となる。
【0039】
また、ハブボルト36のボルト孔35に対する耐スリップトルクが向上するため、ナール部36Bのボルト孔35に対する締め代を小さくしても必要な耐スリップトルクを確保することができる。
【0040】
ハブボルト36をボルト孔35に圧入する際には、ハブフランジ32に歪が加わって変形が生じるが、ナール部36Bのボルト孔35に対する締め代を小さくすることで、ハブフランジ32に生じる変形を抑制することが可能となる。
【0041】
なお、本実施形態においては、ナール部36Bとボルト孔35の内周面との表面硬度の差を42HRC~50HRCの範囲に設定しているが、表面硬度の差が42HRC未満であると、ナール部36Bのボルト孔35への食い込み量を十分に得ることができないおそれがある。
【0042】
また、表面硬度の差が50HRCを超えると、ハブボルト36に回転方向の力がかかったときに、ボルト孔35の内周面が周方向へ変形し易くなって、耐スリップトルクを十分に確保することができないおそれがある。
【0043】
図3に示すように、ナール部36Bの凸部361は、ナール部36Bの外周面360から外径側へ突出する山形状に形成されている。凸部361は、凸部361の先端側へいくに従って周方向における互いの距離が小さくなる側に傾斜する第1傾斜面361aと第2傾斜面361bとを有しており、凸部361の第1傾斜面361aと第2傾斜面361bとが成す角度θ1は鋭角である。本実施形態においては、角度θ1は50°~80°の範囲に設定されている。
【0044】
このように、第1傾斜面361aと第2傾斜面361bとが成す角度θ1を鋭角に設定することで、ナール部36Bの凸部361がボルト孔35の内周面に食い込み易くなり、ナール部36Bとボルト孔35の内周面との密着度合いを高めることができる。
【0045】
これにより、ハブボルト36のボルト孔35に対する周方向への回転の抑制度合いを高めて、ハブボルト36のボルト孔35に対する周方向の耐スリップトルクを向上することが可能となる。
【0046】
また、ハブボルト36のボルト孔35に対する耐スリップトルクが向上するため、ナール部36Bのボルト孔35に対する締め代を小さくしても必要な耐スリップトルクを確保することができる。ナール部36Bのボルト孔35に対する締め代を小さくすることで、ハブフランジ32に生じる変形を抑制することが可能となる。
【0047】
図4に示すように、ハブボルト36のナール部36Bにおいては、複数の凸部361によって雄スプラインが構成されている。ハブフランジ32におけるボルト孔35の内周面には、軸方向に延びる凹部351が周方向に沿って複数形成されており、複数の凹部351によって雌スプラインが構成されている。ボルト孔35の凹部351とナール部36Bの凸部361とは、スプライン嵌合することが可能である。
【0048】
ナール部36Bの凸部361にスプライン嵌合可能なボルト孔35の凹部351は、凸部361よりも小径に形成されていて、凸部361に対して締め代nを有している。従って、凸部361と凹部351とを嵌合する際には、凸部361が凹部351に圧入される。
【0049】
図4図5に示すように、凸部361が凹部351に圧入されると、凸部361が凹部351に食い込んで、凹部351の内周面に凸部361の形状が転写される。この場合、凸部361により凹部351の内周面が極僅かに切削加工され、また極僅かな塑性変形および弾性変形を付随的に伴いながら、凹部351の内周面に凸部361の形状が転写される。
【0050】
凸部361が凹部351に圧入されて、凸部361と凹部351とがスプライン嵌合した状態では、凸部361の外周面と凹部351の内周面とは全体的に密着している。
【0051】
このように、凸部361と凹部351とが軸方向において全体的に密着した状態でスプライン嵌合することにより、ハブボルト36のボルト孔35に対する周方向の耐スリップトルクを増大させることができる。
【0052】
また、ハブボルト36のボルト孔35に対する耐スリップトルクが増大するため、ナール部36Bのボルト孔35に対する締め代を小さくしても必要な耐スリップトルクを確保することができる。ナール部36Bのボルト孔35に対する締め代を小さくすることで、ハブフランジ32に生じる変形を抑制することが可能となる。
【0053】
[ハブフランジの第2実施形態]
ハブフランジ32のボルト孔35にハブボルト36をインナー側から圧入した場合、ハブフランジ32のフランジ面321が変形してアウター側へ倒れることがある。特に、フランジ面321のボルト孔35よりも外径側に位置する部分である外径側フランジ面3211に、ハブボルト36のボルト孔35への圧入に伴うアウター側への倒れが生じ易い。
【0054】
車輪用軸受装置1においては、ハブフランジ32を図6に示すハブフランジ32Aのように形成することで、ハブボルト36をボルト孔35へ圧入した際のフランジ面321Aのアウター側への倒れを抑制することができる。
【0055】
ハブフランジ32Aは、アウター側に面するフランジ面321Aと、インナー側に面する側面322Aとを有している。フランジ面321Aは、ボルト孔35Aよりも外径側に位置する部分である外径側フランジ面3211Aを有している。
【0056】
図6(a)に示すように、外径側フランジ面3211Aは、ボルト孔35Aにハブボルト36が圧入されていない状態のハブフランジ32Aにおいて、外径側へいくに従ってインナー側へ傾斜する傾斜面に形成されている。外径側フランジ面3211Aの径方向に対する傾斜角度はθ2である。なお、径方向は、軸方向と直交する方向である。
【0057】
図6(b)に示すように、外径側フランジ面3211Aはボルト孔35Aにハブボルト36を圧入することでアウター側へ倒れるため、外径側フランジ面3211Aを予めインナー側へ傾斜する傾斜面に形成しておくことで、ハブボルト36の圧入後の外径側フランジ面3211Aを、ハブボルト36の圧入前の外径側フランジ面3211Aよりも、軸方向に対して垂直な面とすることができる。
【0058】
これにより、ボルト孔35Aにハブボルト36を圧入した完成品状態の車輪用軸受装置1において、フランジ面321Aの振れや倒れを所定の規定値の範囲内に収めることができ、ブレーキジャダーや騒音の発生を抑制することが可能となる。
【0059】
また、ブレーキジャダーの発生を抑制することで、車両のNVH性能を向上することができる。なお、NVH性能のNはノイズ(Noise)を意味し、Vは振動(Vibration)を意味し、Hはハーシュネス(Harshness)を意味する。
【0060】
なお、例えば、外径側フランジ面3211Aの傾斜角度θ2は4′に設定することができる。但し、傾斜角度θ2の大きさは、ボルト孔35Aにハブボルト36を圧入した際の外径側フランジ面3211Aのアウター側への倒れ量に応じて任意に設定することが可能である。
【0061】
[ハブフランジの第3実施形態]
ハブフランジ32のボルト孔35にハブボルト36をインナー側から圧入した場合、ハブフランジ32やハブボルト36の形状によっては、ハブフランジ32の外径側フランジ面3211に加えて、側面322のボルト孔35よりも外径側に位置する部分である外径側側面3221がアウター側へ倒れることがある。
【0062】
このような場合には、ハブフランジ32を、図7に示すハブフランジ32Bのように形成することで、ハブボルト36をボルト孔35Bへ圧入した際のフランジ面321Bおよび側面322Bのアウター側への倒れを抑制することができる。
【0063】
ハブフランジ32Bは、アウター側に面するフランジ面321Bと、インナー側に面する側面322Bとを有している。フランジ面321Bは、ボルト孔35Bよりも外径側に位置する部分である外径側フランジ面3211Bを有している。側面322Bは、ボルト孔35Bよりも外径側に位置する部分である外径側側面3221Bを有している。
【0064】
外径側フランジ面3211Bは、ボルト孔35Bにハブボルト36が圧入されていない状態において、外径側へいくに従ってインナー側へ傾斜する傾斜面に形成されている。外径側側面3221Bは、ボルト孔35Bにハブボルト36が圧入されていない状態において、外径側へいくに従ってインナー側へ傾斜する傾斜面に形成されている。
【0065】
外径側フランジ面3211Bの径方向に対する傾斜角度はθ3であり、外径側側面3221Bの径方向に対する傾斜角度はθ4である。外径側フランジ面3211Bの傾斜角度θ3と、外径側側面3221Bの傾斜角度θ4とは、同じ値に設定することが可能であり、異なった値に設定することもできる。
【0066】
このように、外径側フランジ面3211Bおよび外径側側面3221Bを共に、予めインナー側へ傾斜する傾斜面に形成しておくことで、ハブボルト36の圧入後の外径側フランジ面3211Bおよび外径側側面3221Bを、ハブボルト36の圧入前の外径側フランジ面3211Bおよび外径側側面3221Bよりも、軸方向に対して垂直な面とすることができる。また、外径側フランジ面3211Bと外径側側面3221Bとの平行度を、所定の規定値の範囲内に収めることが可能となる。
【0067】
特に、外径側フランジ面3211Bの傾斜角度θ3と、外径側側面3221Bの傾斜角度θ4とを異なる値に設定した場合は、ボルト孔35Bにハブボルト36を圧入したときの外径側フランジ面3211Bのアウター側への倒れ度合いに合わせて傾斜角度θ3を設定するとともに、外径側側面3221Bのアウター側への倒れ度合いに合わせて傾斜角度θ4を設定することができる。
【0068】
これにより、ハブボルト36の圧入後における外径側フランジ面3211Bの軸方向に対する垂直度合いと、外径側側面3221Bの軸方向に対する垂直度合いとを、共に高めることができる。また、外径側フランジ面3211Bと外径側側面3221Bとの平行度を、より高めることができる。
【0069】
なお、例えば、外径側フランジ面3211Bの傾斜角度θ3は4′に設定することができ、外径側側面3221Bの傾斜角度θ4は1′に設定することができる。但し、傾斜角度θ3の大きさは、ボルト孔35Bにハブボルト36を圧入した際の外径側フランジ面3211Bのアウター側への倒れ量に応じて任意に設定することができ、傾斜角度θ4の大きさは、ボルト孔35Bにハブボルト36を圧入した際の外径側側面3221Bのアウター側への倒れ量に応じて任意に設定することができる。
【0070】
[ハブフランジの第4実施形態]
ハブフランジ32のボルト孔35にハブボルト36をインナー側から圧入した場合、ハブフランジ32やハブボルト36の形状によっては、ハブフランジ32の外径側フランジ面3211がインナー側へ倒れることがある。
【0071】
このような場合は、ハブフランジ32を、図8に示すハブフランジ32Cのように形成することで、ハブボルト36をボルト孔35Cへ圧入した際のフランジ面321Cのインナー側への倒れを抑制することができる。
【0072】
ハブフランジ32Cは、アウター側に面するフランジ面321Cと、インナー側に面する側面322Cとを有している。フランジ面321Cは、ボルト孔35Cよりも外径側に位置する部分である外径側フランジ面3211Cを有している。
【0073】
図8(a)に示すように、外径側フランジ面3211Cは、ボルト孔35Cにハブボルト36が圧入されていない状態のハブフランジ32Cにおいて、外径側へいくに従ってアウター側へ傾斜する傾斜面に形成されている。外径側フランジ面3211Cの径方向に対する傾斜角度はθ5である。
【0074】
図8(b)に示すように、外径側フランジ面3211Cはボルト孔35Cにハブボルト36を圧入することでインナー側へ倒れるため、外径側フランジ面3211Cを予めアウター側へ傾斜する傾斜面に形成しておくことで、ハブボルト36の圧入後の外径側フランジ面3211Cを、ハブボルト36の圧入前の外径側フランジ面3211Cよりも、軸方向に対して垂直な面とすることができる。
【0075】
これにより、ボルト孔35Cにハブボルト36を圧入した完成品状態の車輪用軸受装置1において、フランジ面321Cの振れや倒れを所定の規定値の範囲内に収めることができ、ブレーキジャダーや騒音の発生を抑制することが可能となる。また、ブレーキジャダーの発生を抑制することで、車両のNVH性能を向上することができる。
【0076】
なお、例えば、外径側フランジ面3211Cの傾斜角度θ5は4′に設定することができる。但し、傾斜角度θ5の大きさは、ボルト孔35Cにハブボルト36を圧入した際の外径側フランジ面3211Cのインナー側への倒れ量に応じて任意に設定することが可能である。
【0077】
[ハブフランジの第5実施形態]
ハブフランジ32のボルト孔35にハブボルト36をインナー側から圧入した場合、ハブフランジ32やハブボルト36の形状によっては、ハブフランジ32の外径側フランジ面3211に加えて、外径側側面3221がインナー側へ倒れることがある。
【0078】
このような場合には、ハブフランジ32を、図9に示すハブフランジ32Dのように形成することで、ハブボルト36をボルト孔35Dへ圧入した際のフランジ面321Dおよび側面322Dのインナー側への倒れを抑制することができる。
【0079】
ハブフランジ32Dは、アウター側に面するフランジ面321Dと、インナー側に面する側面322Dとを有している。フランジ面321Dは、ボルト孔35Dよりも外径側に位置する部分である外径側フランジ面3211Dを有している。側面322Dは、ボルト孔35Dよりも外径側に位置する部分である外径側側面3221Dを有している。
【0080】
外径側フランジ面3211Dは、ボルト孔35Dにハブボルト36が圧入されていない状態において、外径側へいくに従ってアウター側へ傾斜する傾斜面に形成されている。外径側側面3221Dは、ボルト孔35Dにハブボルト36が圧入されていない状態において、外径側へいくに従ってアウター側へ傾斜する傾斜面に形成されている。
【0081】
外径側フランジ面3211Dの径方向に対する傾斜角度はθ6であり、外径側側面3221Dの径方向に対する傾斜角度はθ7である。外径側フランジ面3211Dの傾斜角度θ6と、外径側側面3221Dの傾斜角度θ7とは、同じ値に設定することが可能であり、異なった値に設定することもできる。
【0082】
このように、外径側フランジ面3211Dおよび外径側側面3221Dを共に、予めアウター側へ傾斜する傾斜面に形成しておくことで、ハブボルト36の圧入後の外径側フランジ面3211Dおよび外径側側面3221Dを、ハブボルト36の圧入前の外径側フランジ面3211Dおよび外径側側面3221Dよりも、軸方向に対して垂直な面とすることができる。また、外径側フランジ面3211Dと外径側側面3221Dとの平行度を、所定の規定値の範囲内に収めることが可能となる。
【0083】
特に、外径側フランジ面3211Dの傾斜角度θ6と、外径側側面3221Dの傾斜角度θ7とを異なる値に設定した場合は、ボルト孔35Dにハブボルト36を圧入したときの外径側フランジ面3211Dのインナー側への倒れ度合いに合わせて傾斜角度θ6を設定するとともに、外径側側面3221Dのインナー側への倒れ度合いに合わせて傾斜角度θ7を設定することができる。
【0084】
これにより、ハブボルト36の圧入後における外径側フランジ面3211Dの軸方向に対する垂直度合いと、外径側側面3221Dの軸方向に対する垂直度合いとを、共に高めることができる。また、外径側フランジ面3211Dと外径側側面3221Dとの平行度を、より高めることができる。
【0085】
なお、例えば、外径側フランジ面3211Dの傾斜角度θ6は4′に設定することができ、外径側側面3221Dの傾斜角度θ7は1′に設定することができる。但し、傾斜角度θ6の大きさは、ボルト孔35Dにハブボルト36を圧入した際の外径側フランジ面3211Dのインナー側への倒れ量に応じて任意に設定することができ、傾斜角度θ7の大きさは、ボルト孔35Dにハブボルト36を圧入した際の外径側側面3221Dのインナー側への倒れ量に応じて任意に設定することができる。
【0086】
なお、本実施形態における車輪用軸受装置1は、外輪2の外側軌道面23に対向する内側軌道面41を内輪4に形成する代わりに、ハブ輪3の内周に形成される貫通孔に嵌合する等速自在継手に形成して、内輪4を備えない構成となる第4世代構造とすることもできる。この場合、等速自在継手は、ハブ輪に連結された内方部材の一部となり、ハブ輪と等速自在継手で複列の内側軌道面が形成される。
【0087】
内輪4を備えない構成となる第4世代構造の車輪用軸受装置は、例えば図10に示す車輪用軸受装置1Aのように構成することができる。車輪用軸受装置1Aは、ハブ輪3Aに連結される等速自在継手50を備えており、内輪4を備えていない。等速自在継手50は、ハブ輪に連結された軌道面形成部材の一例である。
【0088】
等速自在継手50は、駆動源からの駆動力が入力されるシャフトを支持するマウス部52と、マウス部52からアウター側へ向けて延びるステム部53とを備えている。ハブ輪3Aは、軸方向に貫通する貫通孔38を有しており、貫通孔38とステム部53とはスプライン嵌合している。
【0089】
マウス部52におけるアウター側端部の外周面には、外輪2のインナー側の外側軌道面23に対向する内側軌道面58が形成されている。内側軌道面58は、外側軌道面と対向する他方の内側軌道面の一例である。インナー側ボール列5は、外輪2のインナー側の外側軌道面23と、等速自在継手50におけるマウス部52の内側軌道面58との間に転動自在に挟まれている。
【0090】
つまり、車輪用軸受装置1Aにおいては、外輪2の外側軌道面23に対向する内側軌道面58を有する等速自在継手50が、内輪を兼ねる構成となっている。
【0091】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0092】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
3 ハブ輪
4 内輪
5 インナー側ボール列
6 アウター側ボール列
23 (インナー側の)外側軌道面
24 (アウター側の)外側軌道面
32、32A、32B、32C、32D ハブフランジ
33 内側軌道面
35、35A、35B、35C、35D ボルト孔
36 ハブボルト
36B ナール部
41 内側軌道面
321、321A、321B、321C、321D フランジ面
322、322A、322B、322C、322D 側面
351 凹部
361 凸部
361a 第1傾斜面
361b 第2傾斜面
3211、3211A、3211B、3211C、3211CD 外径側フランジ面
3221、3221B、3221D 外径側側面
θ1 (第1傾斜面と第2傾斜面とが成す)角度
θ3、θ6 (外径側フランジ面の径方向に対する)傾斜角度
θ4、θ7 (外径側側面の径方向に対する)傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10