(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019766
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】地盤湧水評価方法及び地盤湧水評価システム
(51)【国際特許分類】
G01V 9/02 20060101AFI20250131BHJP
G01V 8/10 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
G01V9/02
G01V8/10 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123569
(22)【出願日】2023-07-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載日:令和4年8月1日、学会名:令和4年度土木学会全国大会第77回年次学術講演会、掲載アドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/jsce2022/subject/VI-271/advanced(第VI部門 山岳トンネル(11) [VI-271]分光カメラを用いたトンネル切羽の湧水センシング技術の開発)、開催日:令和4年9月15日 9:00~10:20、学会名:令和4年度土木学会全国大会第77回年次学術講演会、開催場所:京都大学 吉田南総合館北棟(京都府京都市左京区吉田本町)
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 丈瑠
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA01
2G105BB16
2G105BB17
2G105CC01
2G105DD02
2G105EE06
2G105HH04
(57)【要約】
【課題】地盤から湧出する湧水量を定量的に評価する。
【解決手段】地盤湧水評価方法は、所定の波長帯域の光が照射された評価対象となる切羽2から反射された反射光の650nm以上1100nm以下の少なくとも2つ以上の異なる波長の画像を取得するステップと、少なくとも2つ以上の異なる波長の画像中の信号レベルに基づいて、湧水量と相関性を有する湧水量指標値を演算するステップと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤から湧出する湧水量を評価する地盤湧水評価方法であって、
所定の波長帯域の光が照射された評価対象となる前記地盤から反射された反射光の650nm以上1100nm以下の少なくとも2つ以上の異なる波長の画像を取得するステップと、
少なくとも2つ以上の異なる波長の前記画像中の信号レベルに基づいて、前記湧水量と相関性を有する湧水量指標値を演算するステップと、を含む、
地盤湧水評価方法。
【請求項2】
少なくとも2つ以上の異なる波長の前記画像中の同じ座標位置における画素の信号レベルを合成して合成ベクトルを求めるステップと、
前記合成ベクトルと比較される基準ベクトルを設定するステップと、
前記基準ベクトルと各合成ベクトルとが成す角度に応じた値を前記湧水量指標値として演算するステップと、
予め求められた前記湧水量指標値と前記湧水量との相関関係から前記湧水量を求めるステップと、をさらに含む、
請求項1に記載の地盤湧水評価方法。
【請求項3】
2つの異なる波長の前記画像中の同じ座標位置における画素の信号レベルの差分を前記湧水量指標値として演算するステップと、
予め求められた前記湧水量指標値と前記湧水量との相関関係から前記湧水量を求めるステップと、をさらに含む、
請求項1に記載の地盤湧水評価方法。
【請求項4】
2つの異なる波長の前記画像中の同じ座標位置における画素の信号レベルの差分を、2つの異なる波長の波長差によって除した値を前記湧水量指標値として演算するステップと、
予め求められた前記湧水量指標値と前記湧水量との相関関係から前記湧水量を求めるステップと、をさらに含む、
請求項1に記載の地盤湧水評価方法。
【請求項5】
前記湧水量指標値を演算する前に、前記画像中の各画素における信号レベルを正規化するステップをさらに含む、
請求項1から4の何れか1つに記載の地盤湧水評価方法。
【請求項6】
異なる波長の波長差は100nm以上である、
請求項1から4の何れか1つに記載の地盤湧水評価方法。
【請求項7】
前記画像を撮像可能な撮像装置は、前記地盤から3m以上離れた位置に設置される、
請求項1から4の何れか1つに記載の地盤湧水評価方法。
【請求項8】
地盤から湧出する湧水量を評価する地盤湧水評価システムであって、
評価対象となる前記地盤に所定の波長帯域の光を照射する光源と、
前記地盤で反射された反射光を撮像可能な撮像装置と、
前記撮像装置により撮像された650nm以上1100nm以下の波長の画像中の信号レベルに基づいて前記湧水量を求める演算装置と、を備え、
前記演算装置は、少なくとも2つ以上の異なる波長の前記画像中の信号レベルに基づいて、前記湧水量と相関性を有する湧水量指標値を演算する、
地盤湧水評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤湧水評価方法及び地盤湧水評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、切羽面における温度分布情報と近赤外線強度分布情報とに基づいて、切羽面における湧水の状態を評価する評価システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された評価システムによれば、切羽面における湧水発生エリアの場所や面積を特定することが可能である。一方で、特許文献1に記載された評価システムでは、切羽面における湧水量については特定されないことから、湧水量については依然として作業員が目視によって推定している。しかしながら、このような作業員の主観による評価は、個人差が生じやすいことから、切羽面での作業の安全性を検討するための指標として適しているとはいえない。
【0005】
本発明は、地盤から湧出する湧水量を定量的に評価することが可能な方法及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、地盤から湧出する湧水量を評価する地盤湧水評価方法であって、所定の波長帯域の光が照射された評価対象となる地盤から反射された反射光の650nm以上1100nm以下の少なくとも2つ以上の異なる波長の画像を取得するステップと、少なくとも2つ以上の異なる波長の画像中の信号レベルに基づいて、湧水量と相関性を有する湧水量指標値を演算するステップと、を含む。
【0007】
また、本発明は、地盤から湧出する湧水量を評価する地盤湧水評価システムであって、評価対象となる地盤に所定の波長帯域の光を照射する光源と、地盤で反射された反射光を撮像可能な撮像装置と、撮像装置により撮像された650nm以上1100nm以下の波長の画像中の信号レベルに基づいて湧水量を求める演算装置と、を備え、演算装置は、少なくとも2つ以上の異なる波長の画像中の信号レベルに基づいて、湧水量と相関性を有する湧水量指標値を演算する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、地盤から湧出する湧水量を定量的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る地盤湧水評価方法の評価対象となる地盤の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る地盤湧水評価システムのブロック図である。
【
図3】地盤から湧出する湧水の一例を示す図である。
【
図4】
図3のA-A線に沿う湧水の断面を示す断面図である。
【
図5】吸光特性を測定する方法について説明するための図である。
【
図6】吸光率の差異について説明するためのグラフである。
【
図7】本発明の実施形態に係る地盤湧水評価方法の第1実施例において行われる処理手順を示したフローチャートである。
【
図8】湧水量指標値の演算過程について説明するためのグラフである。
【
図9】湧水量指標値を画像化した一例を示す図である。
【
図10】湧水量指標値と湧水厚さの相関性について説明するためのグラフである。
【
図11】本発明の実施形態に係る地盤湧水評価方法の第2実施例において行われる処理手順を示したフローチャートである。
【
図12】湧水量指標値の演算過程について説明するための図である。
【
図13】湧水量指標値を画像化した一例を示す図である。
【
図14】湧水量指標値と湧水厚さの相関性について説明するためのグラフである。
【
図15】湧水量指標値と湧水厚さの相関性について説明するための別のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る地盤湧水評価システム100及び地盤湧水評価方法について説明する。
【0011】
本発明の実施形態に係る地盤湧水評価システム100は、地盤から湧出する湧水量を定量的に評価するシステムであり、例えば、
図1に示されるように、NATM工法によってトンネル1を構築する際に掘削面となる切羽2(地盤)において湧出する湧水量を評価するものである。
【0012】
以下では、地盤湧水評価システム100が、
図1に示されるような切羽2(地盤)において湧出する湧水量を評価するために用いられる場合について説明する。なお、地盤湧水評価システム100の評価対象となる地盤は、切羽2のような岩盤に限定されず、掘削によって露出した地盤であればよく、例えば、トンネル1内の切羽2以外の掘削面であってもよいし、切土法面であってもよい。
【0013】
山岳トンネル等の施工に主に用いられるNATM工法では、発破工程、ズリ出し工程、一次コンクリート吹付工程、支保工建込工程及び二次コンクリート吹付工程を1~3mごとに繰り返すことにより、
図1に示されるようなトンネル1が構築される。
【0014】
支保工建込工程以後の工程では、切羽2の近傍において作業員が作業を行うことがあることから、作業の安全性を高めるために、例えば、湧水量が比較的多く、剥落するおそれがある切羽2に対して予めコンクリート材料を吹付けたりボルトを打込んだりすることにより、切羽2を安定させている。
【0015】
このように切羽2に対してコンクリート材料を吹付けたりボルトを打ち込んだりするにあたって、切羽2において湧出する湧水量を評価する必要があるが、この評価は、例えば、作業員が目視によって推定したり、側溝に集められた湧水の流量を計測したりすることによって行われる。しかしながら、作業員の主観による評価は、作業員の熟練度が高い場合であっても個人差が生じやすいことから、切羽2全体への剥落対策等を検討するための指標として適しているとは言えず、また、湧水の流量を実測するといった切羽2近傍での作業は危険を伴うため避けることが望まれる。
【0016】
そこで本実施形態では、以下に示す地盤湧水評価システム100により、切羽2(地盤)において湧出する湧水量の評価を定量的に行うことを可能としている。
【0017】
地盤湧水評価システム100は、
図1及び
図2に示すように、評価対象となる切羽2(地盤)に所定の波長帯域の光を照射する光源24と、切羽2で反射された反射光を撮像可能な撮像装置20と、撮像装置20により撮像された画像中の信号レベルに基づいて湧水量を求める演算装置10と、を備える。
【0018】
撮像装置20は、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)といったイメージセンサが内蔵された一般的なデジタルカメラであり、光学フィルタを切り替えることによって、1100nm以下の近赤外線領域及び可視光線領域の任意の波長の光を受けたイメージセンサの出力強度である信号レベルを画像化及びデータ化することが可能なデジタル画像化装置である。撮像装置20は、評価対象となる切羽2(地盤)から5m以上離れた位置からであっても所定の波長を画像化することが可能であるが、受光精度を向上させるためにはできるだけ切羽2の近くに設置した方がよい。一方で安全性の観点からは、切羽2から離れた位置に設置することが望まれることから、撮像装置20は、例えば、3m以上離れた位置に設置される。
【0019】
撮像装置20は、有線又は無線で演算装置10に接続されており、撮像装置20によって撮像された切羽2の画像は、演算装置10の後述の画像処理部11へと送られる。なお、撮像装置20は、撮像する波長を切り換えることが可能な1台のカメラで構成されていてもよいし、特定の波長の画像を撮像することに特化した複数台の単波長カメラにより構成されていてもよい。また、撮像装置20に内蔵されるイメージセンサは、CCDやCMOSに限定されるものではない。
【0020】
光源24は、1100nm以下の波長帯域の光を含む光を評価対象となる切羽2(地盤)に向けて照射可能なハロゲンランプであり、撮像装置20とともに、評価対象となる切羽2(地盤)から3~5m以上離れた位置に設置される。なお、光源24は、ハロゲンランプに限定されず、1100nm以下の波長帯域の光を含む光を照射可能な照明装置であればどのような形式のものであってもよい。また、光源24は、評価対象となる切羽2全体に光を照射するために、複数配備されることが好ましい。
【0021】
演算装置10は、撮像装置20によって撮像された画像に対して正規化等の処理を行う画像処理部11と、処理された画像に基づいて後述の湧水量指標値等を演算する演算部12と、演算部12の演算結果に基づいて切羽2(地盤)において湧出する湧水量を評価する評価部13と、演算部12及び評価部13で用いられる演算式や判定基準等が記憶されるとともに演算結果や評価結果が記憶される記憶部14と、を有する。
【0022】
演算装置10は、具体的には、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、及びI/Oインターフェース(入出力インターフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。RAMはCPUの処理におけるデータを記憶し、ROMはCPUの制御プログラム等を予め記憶し、I/Oインターフェースは演算装置10に接続された撮像装置20や表示部30との情報の入出力に使用される。RAM及びROMは記憶部14に相当する。なお、画像処理部11、演算部12及び評価部13は、演算装置10の各機能を、仮想的なユニットとして示したものであり、物理的に存在することを意味するものではない。
【0023】
表示部30は、演算装置10の演算部12で演算された演算結果や評価部13で評価された評価結果、撮像装置20で撮像された画像等を表示可能なディスプレイ装置である。なお、表示部30は、演算装置10や撮像装置20に対する種々指令を入力可能な入力部を備えていてもよい。
【0024】
続いて、評価対象となる切羽2(地盤)において湧出する湧水について、
図3及び
図4を参照して説明する。
図3には、切羽2の1箇所の湧水点Sから湧出した湧水が下方へと流れ落ちる状態が示されており、
図4には、
図3のA-A線に沿う断面、すなわち、流れ落ちる湧水の断面が示されている。なお、実際には、評価対象となる切羽2(地盤)の表面には凹凸があり、また、湧水は、亀裂部等の複数箇所から湧出する傾向があるが、説明上、簡素化して示している。
【0025】
図3に示されるように、一般的に切羽2において湧水点Sから湧出した湧水は、水平方向に広がりながら切羽2に沿って鉛直方向下方に向かって流れる。そして、
図4に示されるように、流れ落ちる湧水の厚さtは、水平方向において異なっている。
【0026】
また、一般的に、壁面に沿う流体の平均流速は、流体の厚さに応じて変化することから、流れ落ちる湧水の平均流速も、湧水の厚さtに応じて変化すると考えられる。
【0027】
したがって、予め湧水の厚さtに応じた湧水の平均流速を実験的に求めておき、切羽2に沿って流れる湧水の厚さtと、湧水の水平方向における長さとが判明すれば、例えば、
図3のA-A線に沿う断面、すなわち、水平方向に沿う1つの断面を流れる湧水の流量を算出することが可能である。
【0028】
ここで、水分の有無や水分量を検出する方法として、近赤外領域の光が水により吸収される特性を利用した方法が知られているが、公知の方法では、水による吸光特性が顕著に表れる2000nm付近の波長を利用することが一般的である。しかしながら、2000nm付近の波長を検出可能なセンサ、特に画像化可能なセンサは比較的高価である。
【0029】
一方で、比較的安価なCCDやCMOSといったイメージセンサにより画像化することが可能な1100nm以下の波長の光においても、水による吸光特性は、波長の長さに応じて異なる。
【0030】
例えば、
図5に示されるように、容器C内に入れられた水に対して、上述の光源24から光を照射し、反射された反射光を上述の撮像装置20によって撮像すると、
図6のグラフに示されるように、容器C内に入れられた水の厚さtに応じて、約700~1000nmの波長の画像中の信号レベルが波長毎に変わることがわかる。特に、50~100nm程度の差がある任意の2つの波長間では、水の厚さtに対する信号レベルの低下の度合、すなわち、水に吸収される吸光率に違いがあることが明らかである。なお、
図6に示されるグラフの横軸は、撮像装置20によって画像化された波長であり、縦軸は、容器C内に水がないときを基準とした信号レベルの比率である。
【0031】
そこで、本実施形態では、このような水の吸光特性の差異を利用し、650nm以上1100nm以下の少なくとも2つ以上の異なる波長を画像化することで得られた信号レベルに基づいて、湧水の厚さtを求め、最終的に湧水量を評価している。
【0032】
次に、
図7~
図10を参照し、上述の地盤湧水評価システム100を用いて行われる地盤湧水評価方法の第1実施例について説明する。
図7は、地盤湧水評価方法の第1実施例において行われる処理手順を示したフローチャートであり、
図8は、湧水量指標値の演算過程について説明するための三次元グラフであり、
図9は、湧水量指標値を画像化した一例であり、
図10は、湧水量指標値と湧水厚さの相関性について説明するためのグラフである。
【0033】
まず、ステップS10において、撮像装置20により評価対象となる切羽2(地盤)の画像が撮像される。
【0034】
切羽2には、1100nm以下の波長帯域の光を含む光が光源24から照射されており、撮像装置20により650nm以上1100nm以下の3つの異なる波長の画像が取得される。
【0035】
具体的には、ステップS10では、第1波長λ1(例えば、750nm)の画像P1と、第1波長λ1よりも100nmだけ波長が長い第2波長λ2(例えば、850nm)の画像P2と、第2波長λ2よりも100nmだけ波長が長い第3波長λ3(例えば、950nm)の画像P3と、の3つの画像データが取得される。なお、各波長の差分は100nmに限定されず、50nm程度であってもよいが、水の吸光特性の差を十分に利用するには、100nm程度の差を設けることが好ましい。また、3つの異なる波長のうち、最も波長が長い第3波長λ3は、水に吸収される吸光率(
図6参照)が比較的高い900nm以上とすることが好ましい。
【0036】
続く、ステップS11において、3つの画像P1,P2,P3の正規化が行われる。
【0037】
各画像P1,P2,P3の各画素は、光を受けたイメージセンサの出力強度である信号レベルをそれぞれ画素値として有しているが、これらは絶対値であることから、各画像P1,P2,P3の信号レベルを単純に比較することは困難である。そこで、各画像P1,P2,P3の信号レベルを相対的な値とするために、ステップS11では、画像P1,P2,P3毎に、信号レベルが最も高い画素の正規化後の画素値が1となり、信号レベルが最も低い画素の正規化後の画素値が0となるよう、画像P1,P2,P3内の全ての画素における信号レベルを0から1の範囲の値に変換している。
【0038】
正規化が完了すると、ステップS12に進み、正規化された3つの画像P1,P2,P3の各画素における信号レベルを1つのベクトルとして扱い、合成ベクトルを生成する。
【0039】
具体的には、各画像P1,P2,P3の同じ座標位置における画素の信号レベルを抽出し、
図8に示されるように、X軸の値を第1波長λ1の信号レベルとし、Y軸の値を第2波長λ2の信号レベルとし、Z軸の値を第3波長λ3の信号レベルとした合成ベクトルを、SAM(Spectral Angle Mapper)を用いて生成する。なお、合成ベクトルは、画素の数だけ生成される。
【0040】
続いて、ステップS13において、合成ベクトルと比較される基準ベクトルが設定される。
【0041】
基準ベクトルは、評価対象となる切羽2(地盤)において湧水が無いと推定される箇所の信号レベルを合成した合成ベクトルであり、ステップS12で生成された合成ベクトルの中から選定される。
【0042】
具体的には、湧水が無い箇所では、何れの波長も吸光されず、ステップS11における正規化において、値が1ないし1に最も近い値になると考えられることから、ステップS12で生成された合成ベクトルのうち、ベクトルの大きさが最大のものが、基準ベクトルとして選定される。
【0043】
なお、基準ベクトルの選定方法はこれに限定されず、撮像装置20により撮像された画像中において湧水が無いと推定される箇所の画素を抽出し、当該画素における各波長λ1,λ2,λ3の信号レベルから合成された合成ベクトルを基準ベクトルとしてもよい。また、基準ベクトルは合成ベクトルから選定することなく、各波長λ1,λ2,λ3の信号レベルが1であるベクトルを基準ベクトルとして設定してもよい。
【0044】
次に、ステップS14において、各合成ベクトル及び基準ベクトルに基づいて湧水量指標値が演算される。
【0045】
具体的には、合成ベクトルと基準ベクトルとが成す角度θから算出された余弦値が湧水量指標値として演算される。なお、湧水量指標値は、合成ベクトルと同様に、画素の数だけ演算される。
【0046】
ここで、湧水がほとんど無く、湧水の厚さtが薄い場合には、各波長λ1,λ2,λ3の何れの波長もほとんど吸収されないことから、合成ベクトルと基準ベクトルとが成す角度θは小さくなり、湧水量指標値として演算される角度θから算出された余弦値は、1に近い値となる。
【0047】
一方、湧水の厚さtが厚い場合には、各波長λ1,λ2,λ3は、それぞれ異なる比率で吸光されることから、合成ベクトルと基準ベクトルとが成す角度θは比較的大きくなり、湧水量指標値として演算される角度θから算出された余弦値は、0に近付くことになる。
【0048】
このように、合成ベクトルと基準ベクトルとが成す角度θから算出された余弦値は、湧水量と相関性のある湧水の厚さtの度合を示す指標値となっている。なお、吸光特性は3つの波長λ1,λ2,λ3でそれぞれ異なることから(
図6参照)、湧水の厚さtが比較的厚い場合に、合成ベクトルの方向が基準ベクトルの方向と一致することはない。
【0049】
このようにして演算された湧水量指標値(cosθ)を、例えば、
図3の矢印Bで示される領域について画像化すると、
図9に示されるように、湧水の厚さtが比較的厚い部分は、湧水量指標値が小さい領域として示され、湧水の厚さtが薄くなるにつれて、湧水量指標値は次第に大きい値(1に近い値)となることが示される。したがって、ステップS14で演算された湧水量指標値を画像化することにより、湧水が湧出する湧水点Sの位置や切羽2での湧水の広がり具合を把握することが可能である。
【0050】
続くステップS15では、湧水量指標値から湧水の厚さtが算出される。
【0051】
湧水の厚さtを算出するにあたって、
図10に示される湧水量指標値と湧水の厚さtとの相関関係が予め求められる。
【0052】
湧水量指標値と湧水の厚さtとの相関関係は、例えば、
図5に示される試験装置を用いて、水の厚さtをゼロから徐々に増加させたときの各波長λ1,λ2,λ3の信号レベルの変化を求めて、ステップS14と同様にして湧水量指標値に相当する値を演算することにより予め求められる。なお、ステップS10で取得される3つの画像の波長λ1,λ2,λ3は、
図10に示される湧水量指標値と湧水の厚さtとの相関関係を求める際に用いられる波長λ1,λ2,λ3と同じ波長である。
【0053】
湧水量指標値と湧水の厚さtとの相関関係から湧水の厚さtが求められると、続くステップS16において、湧水量が算出される。
【0054】
単位時間当たりの流量である湧水量は、ステップS15で求められた画素毎の湧水の厚さtに対して、各画素の水平方向における長さを切羽2における長さに換算した実際の長さと、切羽2に沿って流れる湧水の平均流速と、を乗じることによって求められ、さらに、求められた湧水量を水平方向において積算することにより、例えば、
図3のA-A線に沿う断面を流れる湧水量が算出される。なお、切羽2に沿って流れる湧水の平均流速は、湧水の厚さtに応じて異なることから、湧水の厚さtに応じた湧水の平均流速が実験的に予め求められ、マップ化ないしテーブル化される。
【0055】
このように湧水量が算出されると、続くステップS17において、予め設定された基準湧水量に対する算出された湧水量の評価値が求められる。
【0056】
以上のような演算過程を経て求められた湧水量の評価結果は、撮像装置20よって撮像された画像や演算過程における画像データとともに表示部30に表示される。
【0057】
これにより地盤湧水評価システム100を用いて行われる地盤湧水評価方法が完了し、作業員は、表示部30に表示された内容を見ることによって、定量的に評価された切羽2(地盤)全体の湧水状態を把握することができる。そして、定量的に求められた湧水量の評価値は、切羽2全体への剥落対策等を検討するための指標として用いられる。なお、表示部30に表示される内容は、作業員が携帯する端末等に表示されてもよい。
【0058】
以上のように、地盤湧水評価方法の第1実施例によれば、3つの異なる波長λ1,λ2,λ3の画像P1,P2,P3中の信号レベルから、切羽2(地盤)の表面を流れる湧水量と相関性を有する湧水量指標値(余弦値)を求めることが可能であり、結果として、切羽2(地盤)から湧出する湧水量を定量的に評価することができる。
【0059】
なお、上記第1実施例では、合成ベクトルは、3つの異なる波長λ1,λ2,λ3の信号レベルから三次元的に合成されているが、合成ベクトルは、2つの異なる波長λ1,λ2の信号レベルから二次元的に合成されたものであってもよい。この場合も合成ベクトルと基準ベクトルとが成す角度θから算出された余弦値が湧水量指標値として演算される。なお、湧水量の推定精度を向上させるためには、3つの異なる波長λ1,λ2,λ3の信号レベルから合成ベクトルを合成することが好ましい。
【0060】
また、上記第1実施例では、合成ベクトルは、各画像P1,P2,P3の画素の数だけ生成されているが、合成ベクトルは、各画像P1,P2,P3内の所定の範囲内にある画素においてのみ生成されてもよい。例えば、評価対象となる切羽2(地盤)に、光源24からの光が十分に届いていない領域がある場合には、光源24からの光が十分に届いている範囲内を評価対象とし、この範囲内を撮像した画素においてのみ合成ベクトルを生成するようにしてもよい。
【0061】
続いて、
図11~
図14を参照し、上述の地盤湧水評価システム100を用いて行われる地盤湧水評価方法の第2実施例について説明する。
図11は、地盤湧水評価方法の第2実施例において行われる処理手順を示したフローチャートであり、
図12は、湧水量指標値の演算過程について説明するための図であり、
図13は、湧水量指標値を画像化した一例であり、
図14は、湧水量指標値と湧水厚さの相関性について説明するためのグラフである。
【0062】
まず、ステップS20において、撮像装置20により評価対象となる切羽2(地盤)の画像が撮像される。
【0063】
切羽2には、1100nm以下の波長帯域の光を含む光が光源24から照射されており、撮像装置20により650nm以上1100nm以下の2つの異なる波長の画像が取得される。
【0064】
具体的には、ステップS20では、第1波長λ1(例えば、750nm)の画像P1と、第1波長λ1よりも200nmだけ波長が長い第2波長λ2(例えば、950nm)の画像P2と、の2つの画像データが取得される。なお、波長の差分は200nmに限定されず、100nm程度であってもよいが、水の吸光特性の差を十分に利用するには、200nm程度の差を設けることが好ましい。また、2つの異なる波長のうち、波長が長い第2波長λ2は、水に吸収される吸光率(
図6参照)が比較的高い900nm以上とする一方、波長が短い第1波長λ1は、水に吸収される吸光率(
図6参照)が比較的低い800nm以下とすることが好ましい。
【0065】
続く、ステップS21において、2つの画像P1,P2の正規化が行われる。
【0066】
2つの画像P1,P2の各画素は、光を受けたイメージセンサの出力強度である信号レベルをそれぞれ画素値として有しているが、これらは絶対値であることから、各画像P1,P2の信号レベルを単純に比較することは困難である。そこで、各画像P1,P2の信号レベルを相対的な値とするために、ステップS21では、画像P1,P2毎に、信号レベルが最も高い画素の正規化後の画素値が1となり、信号レベルが最も低い画素の正規化後の画素値が0となるよう、画像P1,P2内の全ての画素における信号レベルを0から1の範囲の値に変換している。
【0067】
正規化が完了すると、ステップS22に進み、正規化された2つの画像P1,P2の各画素における信号レベルの差分を算出する。
【0068】
具体的には、例えば
図12に示されるように、第1波長λ1の画像P1の正規化後の信号レベルの値nから第2波長λ2の画像P2の正規化後の信号レベルの値mを差し引くことによって、各画像P1,P2の同じ座標位置における画素の信号レベルの差分が湧水量指標値として算出される。なお、信号レベルの差分は、画素の数だけ算出される。
【0069】
ここで、湧水がほとんど無く、湧水の厚さtが薄い場合には、各波長λ1,λ2の何れの波長もほとんど吸収されないことから、湧水量指標値として算出される信号レベルの差分は、0に近い値となる。
【0070】
一方、湧水の厚さtが厚い場合には、各波長λ1,λ2は、それぞれ異なる比率で吸光され、湧水の厚さtが厚くなるほど吸光される比率の差が大きくなることから(
図6参照)、湧水量指標値として算出される信号レベルの差分は、湧水の厚さtに応じて0よりも大きな値となる。
【0071】
このように、2つの異なる波長λ1,λ2の画像P1,P2から求められた信号レベルの差分は、湧水量と相関性のある湧水の厚さtの度合を示す指標値となっている。なお、吸光特性は2つの波長λ1,λ2でそれぞれ異なっており、特に、第1波長λ1は吸光率が比較的低く、第2波長λ2は吸光率が比較的高いことから、湧水の厚さtが厚くなるにつれて、差分は0に近付くことなく、徐々に大きくなる。
【0072】
このようにして演算された湧水量指標値(信号レベルの差分)を、例えば、
図3の矢印Bで示される領域について画像化すると、
図13に示されるように、湧水の厚さtが比較的厚い部分は、湧水量指標値が大きい領域として示され、湧水の厚さtが薄くなるにつれて、湧水量指標値は次第に小さい値(0に近い値)となることが示される。したがって、ステップS22で演算された湧水量指標値を画像化することにより、湧水が湧出する湧水点Sの位置や切羽2での湧水の広がり具合を把握することが可能である。
【0073】
続くステップS23では、湧水量指標値から湧水の厚さtが算出される。
【0074】
湧水の厚さtを算出するにあたって、
図14に示される湧水量指標値と湧水の厚さtとの相関関係が予め求められる。
【0075】
湧水量指標値と湧水の厚さtとの相関関係は、例えば、
図5に示される試験装置を用いて、水の厚さtをゼロから徐々に増加させたときの各波長λ1,λ2の信号レベルの変化を求めて、ステップS22と同様にして湧水量指標値に相当する値を演算することにより予め求められる。なお、ステップS20で取得される2つの画像の波長λ1,λ2は、
図14に示される湧水量指標値と湧水の厚さtとの相関関係を求める際に用いられる波長λ1,λ2と同じ波長である。
【0076】
湧水量指標値と湧水の厚さtとの相関関係から湧水の厚さtが求められると、続くステップS24において、湧水量が算出される。
【0077】
単位時間当たりの流量である湧水量は、ステップS23で求められた画素毎の湧水の厚さtに対して、各画素の水平方向における長さを切羽2における長さに換算した実際の長さと、切羽2に沿って流れる湧水の平均流速と、を乗じることによって求められ、さらに、求められた湧水量を水平方向において積算することにより、例えば、
図3のA-A線に沿う断面を流れる湧水量が算出される。なお、切羽2に沿って流れる湧水の平均流速は、湧水の厚さtに応じて異なることから、湧水の厚さtに応じた湧水の平均流速が実験的に予め求められ、マップ化ないしテーブル化される。
【0078】
このように湧水量が算出されると、続くステップS25において、予め設定された基準湧水量に対する算出された湧水量の評価値が求められる。
【0079】
以上のような演算過程を経て求められた湧水量の評価結果は、撮像装置20よって撮像された画像や演算過程における画像データとともに表示部30に表示される。
【0080】
これにより地盤湧水評価システム100を用いて行われる地盤湧水評価方法が完了し、作業員は、表示部30に表示された内容を見ることによって、定量的に評価された切羽2(地盤)全体の湧水状態を把握することができる。そして、定量的に求められた湧水量の評価値は、切羽2全体への剥落対策等を検討するための指標として用いられる。なお、表示部30に表示される内容は、作業員が携帯する端末等に表示されてもよい。
【0081】
以上のように、地盤湧水評価方法の第2実施例によれば、2つの異なる波長λ1,λ2の画像P1,P2中の信号レベルから、切羽2(地盤)の表面を流れる湧水量と相関性を有する湧水量指標値(信号レベルの差分)を求めることが可能であり、結果として、切羽2(地盤)から湧出する湧水量を定量的に評価することができる。
【0082】
なお、上記第2実施例では、信号レベルの差分が湧水量指標値として演算されているが、信号レベルの差分を2つの異なる波長λ1,λ2の波長差(λ2-λ1)によって除した値が湧水量指標値として演算されてもよい。
【0083】
信号レベルの差分を湧水量指標値とする場合は、2つの画像P1,P2の波長λ1,λ2が、湧水量指標値と湧水の厚さtとの相関関係を予め求める際に用いられた2つの波長λ1,λ2と同じ大きさである必要があり、撮像装置20は所定の2つの波長λ1,λ2の画像を撮像するよう制限されることになる。
【0084】
一方、信号レベルの差分を波長差(λ2-λ1)で除した値を湧水量指標値とする場合、
図15に示される湧水量指標値と湧水の厚さtとの相関関係は、例えば、
図5に示される試験装置を用いて、水の厚さtをゼロから徐々に増加させたときの任意の2つの波長λn,λmの信号レベルの変化を求め、求められた信号レベルの差分を任意の2つの波長の波長差(λm-λn)で除することにより求められる。なお、
図15は、
図14と同様に、湧水量指標値と湧水厚さとの相関性を示すグラフである。
【0085】
つまり、この場合は、2つの画像P1,P2の波長λ1,λ2を、湧水量指標値と湧水の厚さtとの相関関係(
図15参照)を予め求める際に用いられた2つの波長λn,λmと一致させる必要がないことから、画像P1,P2を撮像する際の波長λ1,λ2は、撮像装置20において撮像可能な波長に設定することが可能である。
【0086】
また、上記第2実施例では、信号レベルの差分は、各画像P1,P2の画素の数だけ算出されているが、信号レベルの差分は、各画像P1,P2内の所定の範囲内にある画素においてのみ算出されてもよい。例えば、評価対象となる切羽2(地盤)に、光源24からの光が十分に届いていない領域がある場合には、光源24からの光が十分に届いている範囲内を評価対象とし、この範囲内を撮像した画素においてのみ信号レベルの差分を算出するようにしてもよい。
【0087】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0088】
上述の地盤湧水評価システム100及び地盤湧水評価方法によれば、650nm以上1100nm以下の少なくとも2つ以上の異なる波長の画像中の信号レベルに基づいて、切羽2(地盤)の表面を流れる湧水量と相関性を有する湧水量指標値が演算される。このように湧水量と相関性を有する湧水量指標値が演算されることで、切羽2(地盤)から湧出する湧水量を定量的に評価することができる。
【0089】
また、湧水量指標値の演算に用いられる画像は、1100nm以下の波長の画像であることから、撮像装置20としては、比較的安価なイメージセンサを備えたデジタルカメラを採用することが可能である。このため、地盤湧水評価システム100の構築コスト及び運用コストを低減させることができる。
【0090】
なお、次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す方法や構成と上述の実施形態で説明した方法や構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する方法や構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0091】
上記実施形態の第1実施例及び第2実施例では、湧水量指標値を演算する前に、画像中の各画素における信号レベルが正規化されている。これに代えて、湧水量指標値を演算する際に用いられる各画像の信号レベルのレベルが同等であること、例えば、互いの最大値が所定の範囲内にあり、互いの最小値が所定の範囲内にあることが予め確認されている場合には、正規化を行うことなく湧水量指標値を演算するようにしてもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、画像が撮像された時点のみでの湧水量が評価されている。これに代えて、所定時間毎に画像を撮像して湧水量を評価するようにしてもよい。このように湧水量の経時的な変化を評価することにより、湧水が地下水に起因するものであるのか、一時的な降雨に起因するものであるのか等を判定することが可能である。
【0093】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0094】
100・・・地盤湧水評価システム
2・・・切羽(地盤)
10・・・演算装置
20・・・撮像装置
24・・・光源