(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019778
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】軸受又は直動装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/58 20060101AFI20250131BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20250131BHJP
F16C 29/04 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/06
F16C29/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123586
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】相澤 知之
(72)【発明者】
【氏名】新井 覚
【テーマコード(参考)】
3J104
3J701
【Fターム(参考)】
3J104AA23
3J104AA63
3J104BA05
3J104CA20
3J104DA15
3J701AA02
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA54
3J701DA05
3J701EA78
3J701FA25
(57)【要約】
【課題】分解することなく簡便に異常を検知可能な軸受や直動装置を提供する。
【解決手段】直動装置は、転動溝と、転動溝に転動自在に配置される転動体と、
を備える。転動溝は、転動体との初期接触状態において接触する接触部と、初期接触状態において接触しない非接触部と、を有する。非接触部には、互いに異なる複数の機能層が被覆される。複数の機能層は、初期接触状態における転動溝と転動体との初期接触角に近い側から順に配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動溝と、
前記転動溝に転動自在に配置される転動体と、
を備える軸受又は直動装置であって、
前記転動溝は、前記転動体との初期接触状態において接触する接触部と、前記初期接触状態において接触しない非接触部と、を有し、
前記非接触部には、互いに異なる複数の機能層が被覆され、
前記複数の機能層は、前記初期接触状態における前記転動溝と前記転動体との初期接触角に近い側から順に配置される、
軸受又は直動装置。
【請求項2】
前記機能層は、色相を有する、
請求項1に記載の軸受又は直動装置。
【請求項3】
前記機能層は、香料を内包するマイクロカプセルを有する、
請求項1又は2に記載の軸受又は直動装置。
【請求項4】
前記機能層は、一定の凹凸パターンを有する、
請求項1又は2に記載の軸受又は直動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受又は直動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般産業用途向けの搬送装置やロボットにおいて、精度や機能の維持管理を効率的に行うため、これらに用いられる軸受や直動装置について、異常検知や状態監視のニーズが高まっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、直動転がり案内装置における現在の動作状態を検出するため、AEセンサを用いることが開示されている。しかしながら、特許文献1の技術では、直動転がり案内装置とは別に各センサや検出した信号の解析部等の大掛かりなシステム構成が必要となり、コスト負担が大きくなるとともに、検出信号と直動転がり案内装置の動作状態との相関関係を把握するために多くのデータ蓄積が要であり、運用も容易ではない。
【0004】
これに対し、特許文献2や特許文献3には、センサを用いずに滑り軸受の滑り層の表面を被覆し、被覆層の剥がれ具合から寿命や状態を検知する技術が開示されている。しかしながら、被覆層の磨耗を確認するためには滑り軸受を分解する必要があるため、扱いが煩雑である。また、異常の進行度を把握することが困難であるため、交換のタイミングの最適化することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4430316号
【特許文献2】特許第5083646号
【特許文献3】特開平4-78319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、分解することなく簡便に異常を検知可能な軸受や直動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 転動溝と、
前記転動溝に転動自在に配置される転動体と、
を備える軸受又は直動装置であって、
前記転動溝は、前記転動体との初期接触状態において接触する接触部と、前記初期接触状態において接触しない非接触部と、を有し、
前記非接触部には、互いに異なる複数の機能層が被覆され、
前記複数の機能層は、前記初期接触状態における前記転動溝と前記転動体との初期接触角に近い側から順に配置される、
軸受又は直動装置。
(2) 前記機能層は、色相を有する、
(1)に記載の軸受又は直動装置。
(3) 前記機能層は、香料を内包するマイクロカプセルを有する、
(1)又は(2)に記載の軸受又は直動装置。
(4) 前記機能層は、一定の凹凸パターンを有する、
(1)~(3)のいずれか1つに記載の軸受又は直動装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分解することなく簡便に異常を検知可能な軸受や直動装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るリニアガイドのレール1の一部を示す斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、レール1の断面図であり、
図2(b)は、
図2(a)のA部拡大図である。
【
図4】
図4は、摩耗や負荷によって接触角が変化した場合の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る軸受又は直動装置の各実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。軸受としては各種転がり軸受が例示され、直動装置としてはリニアガイドやボールネジ等が例示される。以下、本発明がリニアガイドのレールに適用された場合を例に説明するが、軸受の内外輪やボールネジのねじ軸等にも適用可能である。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係るリニアガイドのレール1の一部を示す斜視図である。
図2(a)は、レール1の断面図であり、
図2(b)は、
図2(a)のA部拡大図である。
図3は、
図2(b)を模式的に示した図である。
図1~
図3には、転動溝10と転動体20との初期接触状態、すなわち、転動溝10に転動体20が組み込まれて所望の初期接触角θとなっている状態が示されている。
【0012】
レール1は、リニアガイドのスライド方向に延びる転動溝10と、転動溝10に転動自在に配置される転動体20と、を備える。転動溝10と転動体20とは潤滑油やグリース等の潤滑剤によって潤滑されている。
【0013】
転動溝10は、転動体20との初期接触状態において接触する接触部11と、初期接触状態において接触しない非接触部13と、を有する。非接触部13には、互いに異なる複数の機能層15,17が転動溝10の全長にわたって被覆されている。
【0014】
複数の機能層15,17は、初期接触状態における転動溝10と転動体20との初期接触角θに近い側から順に配置される。以降、複数の機能層15,17のうち、初期接触角θに近いものを第一機能層15と呼び、遠いものを第二機能層17と呼ぶ。
【0015】
第一機能層15及び第二機能層17は、異なる色相を有する塗料によって構成されている。例えば、第一機能層15の色相は黄色であり、第二機能層17の色相は赤色である。
【0016】
図4には、摩耗や負荷によって接触角が変化した場合の模式図が示されている。長期使用による摩耗等によって転動溝10と転動体20との間に隙間が発生した場合や、大きな荷重Fが作用した場合は、
図4に示すように接触角が変化する。
図4には接触角の変化量Δθが示されている。
【0017】
これにより、初期接触状態では非接触であった第一機能層15と転動体20とが接触し、第一機能層15から剥がれた塗料が潤滑剤に混ざって黄色に変色する。さらに摩耗が進行した場合や、より大きな荷重Fが作用した場合には、接触角が大きく変化して、第一機能層15よりも接触部11に遠い第二機能層17と転動体20とが接触し、第二機能層17から剥がれた塗料が潤滑剤に混ざって赤色に変色する。
【0018】
このように、潤滑剤の変色(色相の変化)や、第一機能層15及び第二機能層17の剥がれを目視することで、リニアガイドを分解することなく、異常の進行度を確認することができる。
【0019】
なお、上記実施形態では、転動体20と転動溝10との隙間発生量が10~30μmとなった場合に初期接触状態と異なって新たに転動体20と転動溝10とが接触領域となる位置に、第一機能層15(黄色の塗料)が被覆されており、転動体20と転動溝10との隙間発生量が30μmを超えた場合にさらに接触領域となる位置に、第二機能層17(赤色の塗料)が被覆されている。
【0020】
一般的に、軸受や直動装置に大きな磨耗が生じると、それを組み込んだ一般産業用途向けの搬送装置やロボット等においても、装置の機能の低下(実装精度の劣化や異音・異常振動の発生など)が発生することが多い。本発明の軸受や直動装置を組みこんだ場合、例えば、潤滑剤が黄色に変色した時点で注意領域にあるものとして扱い、交換部品(軸受や直動装置)を用意してオーバーホール予定を計画する、又は、装置の運転条件を緩和して延命をはかる等の対策をとることができる。さらに、潤滑剤が赤色に変色した時点で危険領域にあるものとして扱い部品交換を行うことで、無駄なく適切なサイクルで部品交換等が可能となり、コスト・メンテナンス面で有利となる。
【0021】
なお、第一及び第二機能層15,17の被覆位置は、上記実施形態で説明したものに限られず、各装置の機能低下と許容範囲の都合から、適宜変更してもよい。また、上記実施形態では二つの機能層15,17が設けられていたが、三つ以上の複数の機能層を設けて、より詳細に状態監視を行ってもよい。
【0022】
また、第一及び第二機能層15,17は、転動溝10をマスキングして所定の部位だけ被覆してもよいし、転動溝10の全域を被覆した後、エージング等によって初期接触部を剥がしてもよい。
【0023】
また、第一及び第二機能層15,17は、互いに異なる、香料を内包するマイクロカプセルを含んだ被膜層としてもよい。この場合、転動体20が第一及び第二機能層15,17を接触・押圧することでマイクロカプセルが割れ、その際に発生する匂いの違いで、異常を検知することができる。
【0024】
また、第一及び第二機能層15,17は、互いに異なる、表面に一定の凹凸パターンが刻まれた被膜層としてもよい。この場合、転動体20が第一及び第二機能層15,17上を転動する際に発生する音の違いで、異常を検知することができる。
【0025】
また、第一及び第二機能層15,17は、一方が色相を有して他方が香料を内包するマイクロカプセルを有してもよく、一方が香料を内包するマイクロカプセルを有して他方が表面に一定の凹凸パターンを有してもよく、一方が表面に一定の凹凸パターンを有して他方が色相を有してもよい。すなわち、第一及び第二機能層15,17と色相・マイクロカプセル・凹凸パターンとの組み合わせは適宜設定してよい。
【0026】
なお、第一及び第二機能層15,17としては上記の例に限るものではなく、転動体20との接触を知覚的に検出可能であればその具体的態様は限定されない。すなわち、第一及び第二機能層15,17と転動体20との接触時に、転動溝10と転動体20との接触時とは異なる知覚可能な情報を出力可能であればよい。
【符号の説明】
【0027】
1 レール
10 転動溝
11 接触部
13 非接触部
15 第一機能層
17 第二機能層
20 転動体