特開 2025-19779 直動装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2025019779

(43)【公開日】2025-02-07

(54)【発明の名称】直動装置

(51)【国際特許分類】

   F16C 29/06 20060101AFI20250131BHJP

   F16C 41/00 20060101ALI20250131BHJP

   H01F 7/02 20060101ALI20250131BHJP

   H01F 1/04 20060101ALI20250131BHJP

【ＦＩ】

F16C29/06

F16C41/00

H01F7/02 B

H01F7/02 A

H01F1/04

【審査請求】未請求

【請求項の数】6

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2023123587

(22)【出願日】2023-07-28

(71)【出願人】

【識別番号】000004204

【氏名又は名称】日本精工株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】110002000

【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所

(72)【発明者】

【氏名】山口 宏樹

【テーマコード（参考）】

3J104

3J217

5E040

【Ｆターム（参考）】

3J104AA03

3J104AA23

3J104AA36

3J104AA65

3J104AA69

3J104AA74

3J104AA76

3J104BA74

3J104BA80

3J104CA13

3J104CA32

3J104DA10

3J104DA20

3J104EA04

3J104EA06

3J104EA10

3J217JA02

3J217JA18

3J217JA24

3J217JA34

3J217JB26

5E040BB03

5E040CA01

5E040NN13

(57)【要約】

【課題】簡易な構成により、摩耗粉、剥離片などの異物を検知することの可能な直動装置を提供する。
【解決手段】直動装置は、長尺状の案内部材と、案内部材上を、案内部材に対して相対的に移動可能な移動体と、案内部材上であって、移動体が対向する位置に設けられ、金属製の異物を吸着可能な磁性を有する吸着部材と、を備える。
【選択図】図１

【特許請求の範囲】

【請求項1】

長尺状の案内部材と、
前記案内部材上を、前記案内部材に対して相対的に移動可能な移動体と、
前記案内部材上であって、前記移動体が対向する位置に設けられ、金属製の異物を吸着可能な磁性を有する吸着部材と、
を備える直動装置。

【請求項2】

前記吸着部材は、磁性体金属粉を含有する、
請求項１に記載の直動装置。

【請求項3】

前記吸着部材は、前記磁性体金属粉と、樹脂またはゴムと、の混合体を成形して得られる、
請求項２に記載の直動装置。

【請求項4】

前記吸着部材の色相は、前記異物と異なる色相を有する、
請求項１から３のいずれか１項に記載の直動装置。

【請求項5】

前記吸着部材の磁力は、ＢＨＭａｘ：１．６～１１１［ＫＪ／ｍ^３］である、
請求項１から３のいずれか１項に記載の直動装置。

【請求項6】

前記移動体は、前記吸着部材に対向配置され、磁界の変化を検出可能な磁気センサを備える、
請求項１から３のいずれか１項に記載の直動装置。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、リニアガイドやボールねじなどの直動装置に関する。

【背景技術】

【0002】

一般産業用途向けの搬送装置、ロボットなどにおいて、物体を搬送し、精密な位置決めを行うために直動装置を組み込むことが多い。このような直動装置は、たとえば、搬送装置、ロボットなどにおける案内機構や送り機構を含む。具体的な直動装置の例は、たとえば、リニアガイド、ボールねじなどである。

【0003】

精度および機能の維持管理を効率的に行うため、直動装置についての異常検知や状態監視のニーズが高まっている。たとえば、特許文献１は、ナット内に供給された潤滑剤の鉄粉濃度や潤滑剤の油分率を検知することが可能なねじ装置を開示している。このねじ装置においては、ナットまたはシールキャップに潤滑剤排出孔を設け、この潤滑剤排出孔からナットの外部に排出された潤滑剤の油分率や鉄粉濃度を、油分率計及び鉄粉濃度計で計測する。

【0004】

また、特許文献２は、シリンダドレンなどの微細な鉄粉を含んでいる液体から鉄粉の量を検出してエンジン部品の摩耗状態を検出する検出装置を開示している。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0005】

【特許文献1】特開２００８－１８０３８０号公報

【特許文献2】特開２００８－１９０９６３号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0006】

特許文献１および特許文献２に開示の装置は、いずれも潤滑剤供給口と排出口とを繋ぐ配管、配管に潤滑剤を圧送する潤滑剤圧送ポンプ、さらには、鉄粉濃度計や油分率計などの計測機器を具備する必要があり、コストの増大および装置の大型化を招くものとなっている。

【0007】

本発明は、簡易な構成により、摩耗粉、剥離片などの異物を検知することの可能な直動装置を提供する。

【課題を解決するための手段】

【0008】

本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
（１） 長尺状の案内部材と、
前記案内部材上を、前記案内部材に対して相対的に移動可能な移動体と、
前記案内部材上であって、前記移動体が対向する位置に設けられ、金属製の異物を吸着可能な磁性を有する吸着部材と、
を備える直動装置。
（２） 前記吸着部材は、磁性体金属粉を含有する、
（１）に記載の直動装置。
（３） 前記吸着部材は、前記磁性体金属粉と、樹脂またはゴムと、の混合体を成形して得られる、
（２）に記載の直動装置。
（４） 前記吸着部材の色相は、前記異物と異なる色相を有する、
（１）から（３）のいずれか１つに記載の直動装置。
（５） 前記吸着部材の磁力は、ＢＨＭａｘ：１．６～１１１［ＫＪ／ｍ^３］である、
（１）から（４）のいずれか１つに記載の直動装置。
（６） 前記移動体は、前記吸着部材に対向配置され、磁界の変化を検出可能な磁気センサを備える、
（１）から（５）のいずれか１つに記載の直動装置。

【発明の効果】

【0009】

本発明によれば、簡易な構成により異物を検知することが可能であり、また、磁力によって発生した摩耗粉を吸着部材に捉えることで、摩耗への進行を緩和することができ、直動装置の寿命を伸ばすことが可能となる。

【図面の簡単な説明】

【0010】

【図1】図１は、本発明の第１実施形態に係る直動装置の具体例であるリニアガイドの断面図である。

【図2】図２は、本発明の第２実施形態に係る直動装置の具体例であるリニアガイドの断面図である。

【図3】図３は、本発明の第３実施形態に係る直動装置の具体例であるボールねじの側面図である。

【発明を実施するための形態】

【0011】

以下、本発明に係る直動装置の実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。図１は、本発明の第１実施形態に係る直動装置の具体例であるリニアガイド１００の断面図である。

【0012】

リニアガイド１００は、長尺状のレール１０と、レール１０に対して相対移動可能なベアリング２０と、レール１０及びベアリング２０の相対移動によって発生した異物を吸着可能な吸着部材３０と、を備える。

【0013】

レール１０は、長尺状の案内部材であり、図１の紙面に対して奥行き方向に延びている。

【0014】

ベアリング２０は、レール１０上を、レール１０に対して相対的に移動可能な移動体であり、図１の紙面に対して奥行き方向に移動する。

【0015】

レール１０およびベアリング２０にはそれぞれ、互いに対向するように転動溝１１，２１が形成されている。これら転動溝１１，２１の間には、鋼球のような転動体４０が配置されており、レール１０およびベアリング２０に発生する摩擦力が低減されている。

【0016】

吸着部材３０は、レール１０上の位置であって、ベアリング２０が対向する位置に設けられている。吸着部材３０は、相対運動するレール１０の負荷部以外の箇所、すなわち転動溝１１以外の箇所に配置される。本実施形態では、吸着部材３０は、レール１０の両側面において、隣り合う転動溝１１，１１の間に設けられ、レール１０に跨るベアリング２０の両脚に対向している。

【0017】

吸着部材３０は、磁性体金属粉を混合して成形した樹脂やゴム等からなり、摩耗粉、剥離片のような金属製の異物を吸着することが可能な磁性を有する。吸着部材３０は、たとえば、薄いテープ状の形態を有し、レール１０及びベアリング２０の相対運動方向（図１の紙面奥行き方向）に沿って延びている。本実施形態では、レール１０の全長に渡って、接着剤を用いてレール１０に貼付されている。このように、吸着部材３０は、レール１０及びベアリング２０の相対移動方向（図１の紙面奥行き方向）に隙間なく配置されることが、異物吸着機能を向上させる観点から好ましい

【0018】

吸着部材３０は、特に転動溝１１が形成されていない、レール１０の側面の領域に設けられており、ベアリング２０からも離れている。よって、吸着部材３０は、転動体４０およびベアリング２０との接触が防止され、レール１０からの剥離が抑制される。

【0019】

一般的に、リニアガイド１００のような直動装置を構成するレール１０、ベアリング２０、転動体４０などの部材は鋼製である。リニアガイド１００は、過酷な環境下で利用されることがある。たとえば、リニアガイド１００は、長期にわたる利用、過大な負荷の下での継続的利用、異物の存在下での利用にさらされる。このような過酷な利用環境下において、鋼製の転動体４０、転動溝１１，２１などの部材から、金属製の磨耗粉、剥離片などの異物が発生する。発生した異物は、リニアガイド１００、ひいてはリニアガイド１００を組み込んだ一般産業用途向けの搬送装置、ロボットなどの機能の低下（実装精度の劣化、異音・異常振動の発生など）を招くおそれがある。

【0020】

第１実施形態のリニアガイド１００においては、吸着部材３０が、金属製の磨耗粉、剥離片などの異物を、その磁力で吸着し、保持することができる。吸着部材３０の異物保持機能により、異物が、リニアガイド１００の部材に接触する事象を抑制するため、部材の摩耗進行を緩和し、リニアガイド１００の寿命の低下を緩和することが可能となる。吸着部材３０は簡易な部材であるため、コストの増加を抑えつつ、リニアガイド１００の延命を図ることができる。

【0021】

また、リニアガイド１００のユーザは、吸着部材３０を目視することにより、吸着部材３０に対する異物の付着量を把握することができる。これにより、ユーザは、簡易な構成によって、リニアガイド１００の摩耗進行度のような異常の進行度を判定することができる。ユーザは、さらに、リニアガイド１００の精度劣化や、円滑な稼働を妨げるような著しい磨耗が生じる前に、部材の交換のような効果的なメンテナンスを行うことが可能となる。

【0022】

吸着部材３０の色相は、たとえば、磨耗粉、剥離片などの異物の色相と異なるものに設定することができる。この場合、吸着部材３０の色相は、たとえば、白色に設定される。これにより、ユーザは、吸着部材３０の目視に際して、吸着部材３０に付着した異物を、より容易に判別することができることになる。

【0023】

図２は、本発明の第２実施形態に係る直動装置の具体例であるリニアガイド１１０の検出ユニット２３が取り付けられている部分の断面図である。リニアガイド１１０は、移動体である図示しないベアリングが、吸着部材３０に対向配置されている。検出ユニット２３は、図示しないベアリングの端部（図２の紙面に対して奥行き方向または手前方向）に取付けられている図示しないエンドキャップとサイドシールの間に取付けることが出来、磁界の変化を検出可能な磁気センサ２２を備える。磁気センサ２２は、吸着部材３０に対向するように、図示しないベアリングの両脚に相当する位置に配置されている。磁気センサ２２は、吸着部材３０及び当該吸着部材３０に吸着した異物から発生する磁界（磁場、磁力線）の変化を検出することができるため、ユーザの目視のみに比べて、正確に、かつ、定量的に異物の発生度合いを検知することができる。この結果、無駄を抑制した適切なサイクルで、部品交換などが可能となり、コスト、メンテナンスの点で一層有利となる。

【0024】

図３は、本発明の第３実施形態に係る直動装置の具体例であるボールねじ２００の側面図である。ボールねじ２００は、長尺状のねじ軸５０と、ねじ軸５０に対して相対移動可能なナット６０と、ねじ軸５０及びナット６０の相対移動によって発生した異物を吸着可能な吸着部材７０と、を備える。ねじ軸５０は、長尺状の案内部材であり、らせん状のねじ溝５２が、その表面に形成されている。ナット６０は、ねじ軸５０上を、ねじ軸５０の長手方向に沿って相対的に移動可能な移動体である。また、鋼球のような転動体（図示せず）が、ねじ軸５０のねじ溝５２およびナット６０の内側の溝（図示せず）の間に形成された転動溝に配置されており、ねじ軸５０およびナット６０に発生する摩擦力を低減している。

【0025】

吸着部材７０は、ねじ軸５０上の位置であって、ナット６０が径方向に対向する位置に設けられている。吸着部材７０は、相対運動するねじ軸５０及びナット６０の負荷部以外の箇所、すなわち転動溝以外の箇所に配置される。本実施形態では、吸着部材７０は、ねじ軸５０の表面であって、ねじ溝５２が形成されていない領域に、らせん状に設けられている。

【0026】

第１実施形態と同様に、吸着部材７０は、摩耗粉、剥離片のような金属製の異物を吸着することが可能な磁性を有する。吸着部材７０は、たとえば、薄いテープ状の形態を有し、接着剤を用いてねじ軸５０の軸全長に貼付されている。このように、吸着部材７０は、ねじ軸５０及びナット６０の相対移動方向（図３の左右方向）に隙間なく配置されることが、異物吸着機能を向上する観点から好ましい

【0027】

吸着部材７０は、転動体が配置されるねじ溝５２が形成されていない、ねじ軸５０の表面の領域に設けられており、ナット６０からも離れている。よって、吸着部材７０は、転動体およびナット６０との接触が防止され、ねじ軸５０からの剥離が抑制される。

【0028】

実施形態のボールねじ２００においては、吸着部材７０が、磨耗粉、剥離片などの異物を、その磁力で吸着し、保持することができる。吸着部材７０の異物保持により、異物が、ボールねじ２００の部材に接触する事象を抑制するため、部材の摩耗進行を緩和し、ボールねじ２００の寿命の低下を抑制することが可能となる。吸着部材７０は簡易な部材であるため、コストの増加を抑えつつ、ボールねじ２００の延命を図ることができる。

【0029】

また、ボールねじ２００のユーザは、吸着部材７０を目視することにより、吸着部材７０に付着した異物の程度を把握することができる。これにより、ユーザは、簡易な構成によって、ボールねじ２００の部材の摩耗進行度のような異常の進行度を判定することができる。ユーザは、さらに、ボールねじ２００の精度劣化や、円滑な稼働を妨げるような著しい磨耗が生じる前に、部材の交換のような効果的なメンテナンスを行うことが可能となる。

【0030】

ボールねじ２００の吸着部材７０は、リニアガイド１００の吸着部材３０と同様に構成することができる。また、ボールねじ２００のナット６０には、リニアガイド１００のベアリング２０と同様に、磁気センサ２２を設けることができる。

【0031】

吸着部材３０，７０は、磁性体金属粉を含有することにより、簡易に形成することができる。特に吸着部材３０，７０は、磁性体金属粉と、樹脂またはゴムとの混合体を成形することにより、簡易に得ることができる。

【0032】

吸着部材３０，７０の磁力は、たとえば、ＢＨＭａｘ（最大エネルギー積）：１．６～１１１［ＫＪ／ｍ^３］の範囲に設定される。磁力がこの範囲にあれば、機能面や入手性の面で有利である。ＢＨＭａｘが１．６ＫＪ／ｍ^３未満であると、磁力が低すぎて異物を吸着することができない。ＢＨＭａｘが１１１ＫＪ／ｍ^３超であると、磁力が高すぎて直動装置を構成する部品が磁化し、直動装置を組み込んだ産業装置に悪影響を及ぼす可能性がある。

【0033】

なお、吸着部材３０、７０の形状、配置位置、固定方法などは、組み込む直動装置に合わせて適宜設定すればよい。

【0034】

また、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。

【符号の説明】

【0035】

１０ レール（案内部材）
１１ 転動溝
２０ ベアリング（移動体）
２１ 転動溝
２２ 磁気センサ
２３ 検出ユニット
３０ 吸着部材
４０ 転動体
５０ ねじ軸（案内部材）
５２ ねじ溝
６０ ナット（移動体）
７０ 吸着部材
１００ リニアガイド（直動装置）
１１０ リニアガイド（直動装置）
２００ ボールねじ（直動装置）

【図1】

【図2】

【図3】