(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019780
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20250131BHJP
【FI】
F16H25/22 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123588
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】チハ リガ
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA11
3J062BA16
3J062CD12
(57)【要約】
【課題】構造を複雑化することなく、ナット負荷圏に配置されるボール数を多くでき、しかも、低コストで長寿命にする。
【解決手段】ボールねじ装置100は、第一ねじ溝17を有するねじ軸11と、第二ねじ溝19を有するナット13と、転動路21に収容される複数のボール15とを備える。ねじ軸11は、第一ねじ溝の両端に小径部23をそれぞれ有し、ナット13は、ナット負荷圏部A1の両端部にナット非負荷圏部A2を有する。ナット非負荷圏部A2には更に延長ねじ溝33が第二ねじ溝19から延長して形成される。ナット非負荷圏部A2と小径部23との間の環状空間に、軸方向の一端部がねじ軸11に固定され、他端部が第一ねじ溝17に向けて配置されたコイルばね37A,37Bを有する。コイルばね37A,37Bは、転動路21から押し出されるボール15を転動路21に押し戻す弾性力を発生する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状の第一ねじ溝を有するねじ軸と、内周面に螺旋状の第二ねじ溝を有して前記ねじ軸に外嵌されるナットと、前記第一ねじ溝と前記第二ねじ溝によって形成される転動路に収容される複数のボールと、を備えるボールねじ装置であって、
前記ねじ軸は、前記第一ねじ溝の両端に、前記第一ねじ溝の溝底と同じ外径の小径部をそれぞれ有し、
前記ナットは、前記第二ねじ溝が形成されたナット負荷圏部の両端部に、前記第二ねじ溝の溝深さより浅い内径の内周面が形成されたナット非負荷圏部をそれぞれ有し、前記ナット非負荷圏部には更に、前記第二ねじ溝の溝底と同じ内径の延長ねじ溝が前記第二ねじ溝から延長して形成され、
前記第一ねじ溝の軸方向の両端における前記ナット非負荷圏部と前記小径部との間の環状空間のそれぞれに、軸方向の一端部が前記ねじ軸に固定され、他端部が前記第一ねじ溝に向けて配置されたコイルばねが設けられ、
前記コイルばねは、前記ねじ軸と前記ナットとが相対回転して前記転動路から押し出される前記ボールを前記転動路に押し戻す弾性力を発生する、
ボールねじ装置。
【請求項2】
前記転動路の両端と前記コイルばねの前記他端部との間にそれぞれ配置され、一方の面に前記ボールが当接し、他方の面に前記コイルばねが当接する円環状部材を備える
請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記第二ねじ溝の溝底から前記ボールの中心までの径方向の溝底高さHと、前記延長ねじ溝の径方向の溝壁高さhとは、h≧H/3の関係を有する、
請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項4】
前記転動路は、多条の転動路である、
請求項1から3のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転運動を直線運動に変換するボールねじ装置が広く一般に使用されている。このボールねじ装置は、内周面に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、ナット及びねじ軸のねじ溝同士の間に形成される転動路に配置された複数のボールと、ボールを負荷圏部の転動溝の一端から他端に循環させる循環部品を含む還流ユニットと、を備える。上記した各構成部品のうち、特に循環部品については、その形状や加工が複雑で組立作業が繁雑であり、しかもコストが高く比較的故障しやすい部品となる。そのため近年では、動作ストロークが短く、位置精度の要求が高くない使用環境での使用を想定して、還流ユニットを設けずに動力伝達を高効率で実現できるボールねじ装置(例えば特許文献1,2)が提案されている。
【0003】
特許文献1に記載のボールねじ装置では、ナットの両端にそれぞれ桿部材が収容され、各桿部材とボール溝部の一端との間に、ばねが螺旋姿勢で配置されている。各桿部材によってばねをナット内に固定することで、ばねが圧縮されたときに生じる裕度ストローク内でボールを転動できるようにしている。この構成によれば、ボールを循環転動させる必要がなく、還流ユニットを設ける必要がない。
【0004】
特許文献2に記載の技術では、ねじ溝に沿って配置された螺旋部材と円盤部材を通して転動するボールを、軸端に配置されたばねで押し付け、ばねの圧縮により生じた裕度ストローク内でボールが転動できるようにしている。この構成でもボールを循環転動する必要がなく、還流ユニットを設ける必要がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第1905039号明細書
【特許文献2】特開2020-76486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の構造では、細長いばねを螺線状のねじ溝内に収納して使用している。このような細長いばねを螺線形態に配置する構造では、ばねは、その全長にわたって均等には縮まず、その変形のバラつきに起因して部分的に早期の疲労破壊が生じるという課題がある。また、ばねの根元が固定され、桿部材がナットに固定されるために、ナットに細長い穴を加工する必要が生じ、加工コストが嵩む。
【0007】
また、特許文献2の構造では、螺線状のねじ溝に沿って挿入された螺旋部材(コイルばね)を介して転動路のボールを押す必要があるため、転動路内の負荷ボールの数が少なくなり、負荷容量が低下する。また、螺旋部材の摺動による摩擦が大きく、使用条件によってはボールねじ装置の異常発熱を招くおそれがあり、さらに、部品点数が多くコスト面でも不利である。
【0008】
そして、上記の特許文献1,2に示される構造のねじ溝を、例えば2条の螺線溝に変更した場合には、二重螺旋の2回路に配置されるばね同士の伸縮バラツキ、又は螺旋部材の摺動バラツキにより、作動不良を起こすおそれがある。
【0009】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、構造を複雑化することなく、ナット負荷圏に配置されるボール数を多くでき、しかも、低コストで長寿命な無循環式のボールねじ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は下記構成からなる。
外周面に螺旋状の第一ねじ溝を有するねじ軸と、内周面に螺旋状の第二ねじ溝を有して前記ねじ軸に外嵌されるナットと、前記第一ねじ溝と前記第二ねじ溝によって形成される転動路に収容される複数のボールと、を備えるボールねじ装置であって、
前記ねじ軸は、前記第一ねじ溝の両端に、前記第一ねじ溝の溝底と同じ外径の小径部をそれぞれ有し、
前記ナットは、前記第二ねじ溝が形成されたナット負荷圏部の両端部に、前記第二ねじ溝の溝深さより浅い内径の内周面が形成されたナット非負荷圏部をそれぞれ有し、前記ナット非負荷圏部には更に、前記第二ねじ溝の溝底と同じ内径の延長ねじ溝が前記第二ねじ溝から延長して形成され、
前記第一ねじ溝の軸方向の両端における前記ナット非負荷圏部と前記小径部との間の環状空間のそれぞれに、軸方向の一端部が前記ねじ軸に固定され、他端部が前記第一ねじ溝に向けて配置されたコイルばねが設けられ、
前記コイルばねは、前記ねじ軸と前記ナットとが相対回転して前記転動路から押し出される前記ボールを前記転動路に押し戻す弾性力を発生する、
ボールねじ装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、構造を複雑化することなく、ナット負荷圏に配置されるボール数を多くでき、しかも、低コストで長寿命な無循環式のボールねじ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、第1実施形態のボールねじ装置の要部を一部断面で示す概略構成図である。
【
図4】
図4は、ナットを軸方向に切断して示すナットの断面斜視図である。
【
図7】
図7は、
図6に示すVII-VII線に沿った円環状部材の断面図である。
【
図8】
図8は、ナット負荷圏部の第一ねじ溝と第2ねじ溝、及びナット非負荷圏部の小径部と延長ねじ溝の軸方向断面を対比させて示す説明図である。
【
図9】
図9は、
図8に示すナット負荷圏部とナット非負荷圏部のそれぞれで、ボールがねじ軸とナットと接触する状態を、軸方向断面で拡大して示す模式的な説明図である。
【
図10】
図10は、ボールねじ装置の初期状態から、ねじ軸を回転させてナットを右方向及び左方向に移動させる様子を示す動作説明図である。
【
図11】
図11は、ボールねじ装置の初期状態から、ねじ軸を回転させてナットを右方向及び左方向に移動させる様子を示す動作説明図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態のボールねじ装置の要部を一部断面で示す概略構成図である。
【
図13】
図13は、
図12に示すVIII-VIII線に沿った断面において、円環状部材とボールとの接触位置を示す説明図である。
【
図14】
図14は、円環状部材に2つのボールが接触する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態のボールねじ装置100の要部を一部断面で示す概略構成図である。
図2は、
図1に示すV1方向から見た側面図である。
図1に示すように、ボールねじ装置100は、ねじ軸11と、ナット13と複数のボール15とを備える。ねじ軸11は、外周面に螺旋状の第一ねじ溝17を有する。ナット13は、内周面に螺旋状の第二ねじ溝19を有してねじ軸11に外嵌されている。複数のボール15は、第一ねじ溝17と第二ねじ溝19によって形成される転動路21に収容される。
図2にも示すように、ナット13は、円筒部13aと、円筒部13aの軸方向一端部に設けられたフランジ部13bとを有する。
【0014】
図3は、ねじ軸11の斜視図である。ねじ軸11は、第一ねじ溝17の両端に小径部23を有する。小径部23の外径は、第一ねじ溝17の溝底と同じか僅かに小さい。また、小径部23には、
図1及び
図2に示すC字形の止め輪25を固定する係止溝27が形成されている。
【0015】
図4は、ナット13を軸方向に切断して示すナット13の断面斜視図である。
図5は、
図4に示すP部の拡大断面図である。ナット13は、中央部内周面29の第二ねじ溝19が形成された領域がナット負荷圏部A1であり、ナット負荷圏部A1の両端部の、第二ねじ溝19の溝深さより浅い内径の端部内周面31が形成された領域がナット非負荷圏部A2となる。つまりナット非負荷圏部A2における端部内周面31は、ナット負荷圏部A1における中央部内周面29よりも大径となっている。
【0016】
ナット非負荷圏部A2には、第二ねじ溝19の溝底と同じ内径の溝底を有する延長ねじ溝33が第二ねじ溝19から更に延長して形成されている。即ち、第二ねじ溝19と延長ねじ溝33とは、溝底からの溝壁高さが互いに異なるが、同一の螺線で連続して繋がっている。これにより、ナット負荷圏部A1から押し出されたボール15が、第二ねじ溝19と延長ねじ溝33との間を滑らかに転動しながら案内されるようになる。
【0017】
具体的には、
図5に示すように、第二ねじ溝19の溝底(
図5の例では、延長ねじ溝33の溝底も同じ)から、破線で示すボール15の中心を通る軸線Axbまでの径方向長さである溝底高さをH、延長ねじ溝33の溝底からナット非負荷圏部A2の端部内周面31までの径方向長さである溝壁高さをhとする。その場合のHとhとの関係は(1)式を満たすのが好ましい。
h≧H/3 ・・・(1)
溝壁高さhを、上記の(1)式を満足させることで、延長ねじ溝33がコイルばね37A,37B以外からの荷重をボール15に付与させることなく、ボール15を延長ねじ溝33に沿って円滑に案内できるようになる。
【0018】
また、
図1に示すように、一対のナット非負荷圏部A2におけるねじ軸11の小径部23とナット13の端部内周面31との間の環状空間35には、コイルばね37A,37Bがそれぞれ設けられている。また、第一ねじ溝17の端部、即ち転動路21の端部と、コイルばね37A,37Bとの間には、円環状部材39がそれぞれ配置されている。
【0019】
コイルばね37A,37Bは、小径部23の係止溝27に係止された止め輪25と円環状部材39との間で、
図1に示す初期状態において、自然長又は微圧縮状態で配置される。上記したコイルばね37A,37B、止め輪25及び円環状部材39は、それぞれナット13の端部内周面31と干渉することなく同軸で配置されている。
【0020】
図6は、円環状部材39の斜視図であり、
図7は、
図6に示すVII-VII線に沿った円環状部材39の断面図である。円環状部材39は、金属又は樹脂等の剛性を有する材料からなることが好ましく、一方の側面39aにボール15が当接し、他方の側面39bにコイルばね37A,37Bが当接する。ボール15が当接する一方の側面39aは、ボール15の曲面に沿った凹曲面、例えば、凹状の球面に形成される。他方の側面39bは、平坦面となっている。円環状部材39の内周面は、対向するねじ軸11の外周面より半径方向に10μmから100μmの範囲で大きいされた内径であるのが望ましい。その場合、ボール15から受ける力によって、軸線から傾斜することが抑えられ、軸方向移動の摺動抵抗が小さくなる。また、円環状部材39の内周面の軸方向幅を広くすることでも上記した傾斜が抑えられる。
【0021】
ねじ軸11とナット13とが相対回転すると、ねじ軸11とナット13とが軸方向に相対移動し、転動路21の何れか一方の端部から転動路21内のボール15が押し出される。これにより押し出されたボール15は、円環状部材39をナット13の外側に向けて付勢する。円環状部材39により押されて縮退したコイルばね37A,37Bは、転動路21から押し出されたボール15を再び転動路21に押し戻す弾性力を発生する。
【0022】
図8は、ナット負荷圏部A1の第一ねじ溝17と第二ねじ溝19、及びナット非負荷圏部A2の小径部23と延長ねじ溝33の軸方向断面を対比させて示す説明図である。
図9は、
図8に示すナット負荷圏部A1とナット非負荷圏部A2のそれぞれで、ボール15がねじ軸11とナット13と接触する状態を、軸方向断面で拡大して示す模式的な説明図である。
図8に示したボール15とねじ軸11との接触位置を含む領域Qに着目すると、
図9に示すように、ナット負荷圏部A1の第一ねじ溝17と第二ねじ溝19はいずれもV溝で形成されている。その場合、ナット負荷圏部A1において、ボール15は第一ねじ溝17のV溝と、第二ねじ溝19のV溝に挟まれて転動し、ボール15は第一ねじ溝17の溝底P1に接触せずに溝底P1から僅かに浮いた位置に配置される。その場合、ボール15は一定の接触角を保持しながら転動する。
【0023】
一方、ナット非負荷圏部A2においては、小径部23の外周面が、第一ねじ溝17の溝底P1の径方向高さと同じか僅かに小径に形成される。そのため、小径部23にボール15が接触するか、第二ねじ溝19の溝底P2と同じ径方向高さに溝底P3が形成された延長ねじ溝33に接触するか、のいずれかとなる。つまり、ボール15とねじ軸11との間、又はボール15とナット13との間に径方向のすき間を生じる。
図9においては、後者のボール15とナット13との間にすき間δを生じた場合を示している。その場合、ボール15は、延長ねじ溝33に案内されながら転動し、コイルばね37A,37Bからの軸方向力以外のボールねじ装置100への荷重がボール15に付与されることはない。
【0024】
次に、上記した構成のボールねじ装置100の動作について説明する。
図10は、ボールねじ装置100の初期状態から、ねじ軸11を回転させてナット13を右方向及び左方向に移動させる様子を示す動作説明図である。ここでいう初期状態とは、ボールねじ11とナット13とを、これらが相対移動する軸方向ストロークの中央に配置した状態であり、この状態をナット13の初期位置とする。また、ナット13を
図10に示す右方向に移動させる動作を右ストローク、左方向に移動させる動作を左ストロークという。
【0025】
ナット13の初期位置では、コイルばね37A,37Bは自然長状態又は微圧縮状態で組み込まれる。この状態からねじ軸11を時計回り方向R1に回転させて右ストローク動作させると、ねじ軸11に対してナット13が右方へ距離L1移動するとともに、転動路21からボール15が左側のナット非負荷圏部A2内のコイルばね37Bに向けて押し出される。押し出されたボール15は、延長ねじ溝33の螺線に沿って移動して、円環状部材39を介してコイルばね37Bを軸方向に押し縮める。一方、右側のコイルばね37Aは、初期位置のまま維持される。
【0026】
また、ねじ軸11を反時計回り方向R2に回転させて左ストローク動作させると、ねじ軸11に対してナット13が左方へ距離L2(L2=2L1)移動するとともに、転動路21からボール15が右側のナット非負荷圏部A2内のコイルばね37Aに向けて押し出される。押し出されたボール15は、延長ねじ溝33の螺線に沿って移動して、円環状部材39を介してコイルばね37Aを軸方向に押し縮める。一方、左側のコイルばね37Aは、押し縮められたコイルばね37Bからの弾性力によって、ボール15が転動路21に押し戻され、初期位置の状態に戻される。
【0027】
このように、本構成のボールねじ装置100によれば、ナット13を初期位置から右方と左方とに、コイルばね37A,37Bの圧縮限界まで移動させることができる。この移動は、ナット13の移動に限らず、ナット13を固定してねじ軸11を軸方向に移動することであってもよい。また、移動時にボール15が延長ねじ溝33に沿って押し出され、円環状部材39を介してコイルばね37A,37Bのいずれかを押し縮める。このとき縮退したコイルばねが発生する復元力(弾性力)は、円環状部材39を介してボール15に伝達され、ナット13が逆方向に移動した際にボール15を転動路21に押し戻す力となる。
【0028】
このように、ボール15がナット非負荷圏部A2の軸端部まで転動しながら誘導され、これによりボール15が円環状部材39を軸方向に押してコイルばね37A,37Bを縮退させるため、移動に必要とされる部品点数を削減して簡素で低コストとなる装置構成にできる。上記した円環状部材39は、ボール15とコイルばね37A,37Bとの間の軸方向力の伝達損失を抑制し、より円滑にボール15の移動とばねの伸縮動作を行えるようにする。
【0029】
また、ナット非負荷圏部A2では、ボールねじ11にねじ溝を設けていない。そのため、ボール15は、ボールねじ11及びナット13からの負荷を受けず、コイルばねからの弾性力のみを受ける状態となる。その結果、摺動抵抗が小さくて済み、ボール15の転動路21からの排出と再挿入の動きが円滑となる。そして、ナット負荷圏部A1に配置されるボール15の数を多く維持できるため、ボールねじ装置100の耐荷重性の低下を抑制できる。このようにして、低コストで長寿命、且つ信頼性及び効率の高い無循環式のボールねじ装置100の実現が可能となる。
【0030】
(他の使用形態の例)
上記したボールねじ装置100では、双方のコイルばね37A,37Bを、初期状態で自然長状態又は微圧縮状態のいずれか同じ状態で配置していたが、互いに異なる状態にしてもよい。
図11は、ボールねじ装置100の初期状態から、ねじ軸11を回転させてナット13を右方向及び左方向に移動させる様子を示す動作説明図である。この状態では、ボールねじ11とナット13とを、互いの軸方向ストロークのいずれか一端に配置した場合に、いずれか一端の側のコイルばね37Aは自然長状態又は微圧縮状態で組み込まれ、他端の側のコイルばね37Bは圧縮状態で組み込まれる。この場合、ボール15が転動路21から左側のコイルばね37Bに向けて押し出され、円環状部材39を介してコイルばね37Bを縮退させている。
【0031】
そして、ねじ軸11を反時計回り方向R2に回転させて左ストローク動作させると、ねじ軸11に対してナット13が左方へ距離L1移動するとともに、転動路21から押し出されたボール15がコイルばね37Bの弾性力によって転動路21に押し戻される。一方、転動路21内のボール15が右側のコイルばね37Bに向けて押し出される。右側に押し出されたボール15は、円環状部材39を介してコイルばね37Aを押し縮める。
【0032】
また、ねじ軸11を時計回り方向R1に回転させて右ストローク動作させると、ナット13が右方へ距離L1移動して初期位置の状態に戻る。この場合もコイルばね37A,37Bは圧縮限界まで移動させることができる。
【0033】
図11に示す使用形態の場合では、ボールねじ11とナット13とが相対移動するストローク長さL1が短くなるが、ナット負荷圏部A1内に配置されるボール15の数を増加でき、耐荷重性を向上できる。
【0034】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態のボールねじ装置について説明する。
図12は、第2実施形態のボールねじ装置200の要部を一部断面で示す概略構成図である。
図12ではボール15を省略して示している。
図13は、
図12に示すVIII-VIII線に沿った断面において、円環状部材39とボール15との接触位置を示す説明図である。
【0035】
本構成のボールねじ装置200では、ねじ軸11Aの第一ねじ溝17A,17Bと、ナット13Aの第二ねじ溝19A,19Bとが、2条の螺線溝で形成されている。つまり、第一ねじ溝17Aと第二ねじ溝19Aによって転動路21Aが形成され、第一ねじ溝17Bと第二ねじ溝19Bによって転動路21Bが形成されている。転動路21A,21Bは、等ピッチでそれぞれ隣り合って配置される。
【0036】
そのため、
図13に示すように、転動路21A,21Bの端部では、それぞれの転動路21A、21Bからのボール15が円環状部材39に同時に接触するようになる。2条の転動路21A,21Bの場合は、円環状部材39の周方向に180°間隔でボール15が円環状部材39に接触する。
【0037】
図14は、円環状部材39に2つのボール15が接触する様子を示す説明図である。円環状部材39は、周方向に等配された位置でボール15から押圧されると、軸方向からの傾斜が抑えられ、小さな摺動抵抗で円滑に軸方向へ移動できる。さらに転動路を3条にすると、円環状部材39に3つのボール15が周方向に120°で等配されて接触することになる。その場合、円環状部材39を更に傾斜させにくくし、より円滑に軸方向へ移動できるようになる。このように転動路を多条の転動路21A,21Bにすることで、ねじ軸11Aとナット13Aとの相対移動をより円滑にできる。
【0038】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
例えば、前述した円環状部材39を省略してコイルばね37A,37Bを直接軸方向に押し付ける構成にしてもよい。その場合、部品点数を更に削減できる。
【0039】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 外周面に螺旋状の第一ねじ溝を有するねじ軸と、内周面に螺旋状の第二ねじ溝を有して前記ねじ軸に外嵌されるナットと、前記第一ねじ溝と前記第二ねじ溝によって形成される転動路に収容される複数のボールと、を備えるボールねじ装置であって、
前記ねじ軸は、前記第一ねじ溝の両端に、前記第一ねじ溝の溝底と同じ外径の小径部をそれぞれ有し、
前記ナットは、前記第二ねじ溝が形成されたナット負荷圏部の両端部に、前記第二ねじ溝の溝深さより浅い内径の内周面が形成されたナット非負荷圏部をそれぞれ有し、前記ナット非負荷圏部には更に、前記第二ねじ溝の溝底と同じ内径の延長ねじ溝が前記第二ねじ溝から延長して形成され、
前記第一ねじ溝の軸方向の両端における前記ナット非負荷圏部と前記小径部との間の環状空間のそれぞれに、軸方向の一端部が前記ねじ軸に固定され、他端部が前記第一ねじ溝に向けて配置されたコイルばねが設けられ、
前記コイルばねは、前記ねじ軸と前記ナットとが相対回転して前記転動路から押し出される前記ボールを前記転動路に押し戻す弾性力を発生する、
ボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、ねじ軸とナットとを相対回転させて、ナットをねじ軸に対して移動させる際、ナット負荷圏部の転動路から押し出されたボールが、ナット非負荷圏部に形成された延長ねじ溝に沿って転動してコイルばねを押し縮める。縮退されたコイルばねは、その弾性力によって押し出されたボールを延長ねじ溝に沿って転動路へ押し戻す。これにより、移動に必要とされる部品点数を削減して簡素で低コストとなる装置構成にできる。
【0040】
(2) 前記転動路の両端と前記コイルばねの前記他端部との間にそれぞれ配置され、一方の面に前記ボールが当接し、他方の面に前記コイルばねが当接する円環状部材を備える
、(1)に記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、ボールが円環状部材を介してコイルばねを伸縮させるため、ボールとコイルばねとの間の軸方向力の伝達損失を抑制して、より円滑にボールの移動とばねの伸縮動作とを実現できる。
【0041】
(3) 前記第二ねじ溝の溝底から前記ボールの中心までの径方向の溝底高さHと、前記延長ねじ溝の径方向の溝壁高さhとは、h≧H/3の関係を有する、(1)又は(2)に記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、延長ねじ溝がボールを、コイルばね以外からの荷重を付与させることなく、ボールを延長ねじ溝に沿って案内できる。
【0042】
(4) 前記転動路は、多条の転動路である、(1)から(3)のいずれか1つに記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、複数のボールがコイルばねを偏りなく軸方向に押すことができ、ねじ軸とナットとの相対移動がより円滑となる。
【符号の説明】
【0043】
11,11A ねじ軸
13,13A ナット
13a 円筒部
13b フランジ部
15 ボール
17,17A 第一ねじ溝
19,19A 第二ねじ溝
21,21A,21B 転動路
23 小径部
25 止め輪
27 係止溝
29 中央部内周面
31 端部内周面
33 延長ねじ溝
35 環状空間
37A,37B コイルばね
39 円環状部材
39a 側面
39b 側面
100 ボールねじ装置
A1 ナット負荷圏部
A2 ナット非負荷圏部