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特開2025-19802水性エアゾール塗料原液、及び水性エアゾール塗料原液を含む水性エアゾール塗料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019802
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】水性エアゾール塗料原液、及び水性エアゾール塗料原液を含む水性エアゾール塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 167/08 20060101AFI20250131BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20250131BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20250131BHJP
【FI】
C09D167/08
C09D5/02
C09D7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123627
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000126528
【氏名又は名称】株式会社アサヒペン
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木口 太輔
(72)【発明者】
【氏名】片岡 陽平
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 剛
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DD231
4J038EA011
4J038JA26
4J038KA06
4J038MA08
4J038MA10
4J038MA11
4J038MA14
4J038NA03
4J038PA06
(57)【要約】
【課題】エアゾール適性に優れ、かつ塗膜性能を高水準で提供することができる水性エアゾール塗料原液、及び水性エアゾール塗料原液を含む水性エアゾール塗料を提供する。
【解決手段】ディスパージョン樹脂を変性させることで、従来のエアゾール塗料と同等の噴霧作業性を有しつつ、従来のエアゾール塗料より大きな平均粒径とすることにより、エアゾール適性に優れ、かつ塗膜性能を高水準で提供することができる水性エアゾール塗料原液、及び水性エアゾール塗料原液を含む水性エアゾール塗料を提供できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性エアゾール塗料に用いる水性エアゾール塗料原液であって、当該水性エアゾール塗料原液は、
(a)ディスパージョン樹脂、
(b)50重量部以上60重量部以下の水、
(c)10重量部以上20重量部以下の共溶剤、
(d)1重量部以下の顔料、及び
(e)添加剤
を含み、
前記ディスパージョン樹脂は、アルキド樹脂またはアクリル変性アルキド樹脂であり、
樹脂固形分が25重量部以上35重量部以下である、水性エアゾール塗料原液。
【請求項2】
前記ディスパージョン樹脂が、アクリル変性アルキド樹脂である、請求項1に記載の水性エアゾール塗料原液。
【請求項3】
前記ディスパージョン樹脂は、平均粒径が約100nm以上200nm以下の粒子を含有する、請求項1に記載の水性エアゾール塗料原液。
【請求項4】
前記ディスパージョン樹脂は、平均粒径が約100nm以上200nm以下の粒子を含有する、請求項2に記載の水性エアゾール塗料原液。
【請求項5】
前記共溶剤は、ブチルセロソルブである、請求項1に記載の水性エアゾール塗料原液。
【請求項6】
前記共溶剤は、ブチルセロソルブである、請求項2に記載の水性エアゾール塗料原液。
【請求項7】
前記共溶剤は、ブチルセロソルブである、請求項3に記載の水性エアゾール塗料原液。
【請求項8】
前記共溶剤は、ブチルセロソルブである、請求項4に記載の水性エアゾール塗料原液。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の水性エアゾール塗料原液、及び噴射剤を含有する水性エアゾール塗料であって、前記噴射剤は、水性エアゾール塗料原液100重量部に対して、70重量部以上90重量部以下の量で含有され、前記噴射剤がジメチルエーテルである、水性エアゾール塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性エアゾール塗料原液、及び水性エアゾール塗料原液を含む水性エアゾール塗料に関し、より詳しくは、エアゾール適性に優れ、かつ塗膜性能を高水準で提供することができる水性エアゾール塗料原液、及び水性エアゾール塗料原液を含む水性エアゾール塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
自然環境への負荷を考慮し、これまで水を溶媒とする水性塗料の開発が多く提案されてきた。エアゾール塗料においても、これまでのラッカー系のエアゾール塗料の開発から変わり、水性エアゾール塗料の開発が主流となっている。
例えば、特許文献1には、特定の重量平均分子量範囲の水希釈性樹脂と特定の重量平均分子量範囲の樹脂のエマルションとを特定比率で配合することにより、被塗物への付着性、非脆性、非粘着性、耐水性等に優れ、かつ家庭用塗料による塗装部分及び工業用塗料による塗装製品の補修に好適に使用することができる水性エアゾール塗料組成物が提案されている。
特許文献2には、ディスパージョン樹脂をバインダーとして使用することで、VOC量を十分に低下できるとともに保存安定性及び塗膜性能に優れる水性エアゾール塗料原液及び水性エアゾール塗料組成物が提案されている。
水性エアゾール塗料は、水溶性樹脂(ラッカー系のエアゾール塗料で使用されてきた樹脂と比べて、分子量が低く、酸価が高い)を使用するために、保存安定性や乾燥性等のエアゾール適性、及び耐水性や塗膜耐久性等の塗膜性能に問題を有する。この問題を踏まえ、これまで多くの水性エアゾール塗料が提案されてきたが、依然としてエアゾール適性及び塗膜性能の両方を高水準で(特に塗膜性能を高水準で)提供する水性エアゾール塗料の開発に至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-82294号公報
【特許文献2】特開2015-7252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑み、様々な樹脂や配合比率を鋭意検討することで完成した、エアゾール適性に優れ、かつ塗膜性能を高水準で提供することができる水性エアゾール塗料原液、及び水性エアゾール塗料である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、水性エアゾール塗料に用いる水性エアゾール塗料原液であって、当該水性エアゾール塗料原液は、(a)ディスパージョン樹脂、(b)50重量部以上60重量部以下の水、(c)10重量部以上20重量部以下の共溶剤、(d)1重量部以下の顔料、及び(e)添加剤を含み、前記ディスパージョン樹脂は、アルキド樹脂またはアクリル変性アルキド樹脂であり、樹脂固形分が25重量部以上35重量部以下である、水性エアゾール塗料原液に関する。
【0006】
請求項2に係る発明は、前記ディスパージョン樹脂が、アクリル変性アルキド樹脂である、請求項1に記載の水性エアゾール塗料原液に関する。
【0007】
請求項3に係る発明は、前記ディスパージョン樹脂は、平均粒径が約100nm以上200nm以下の粒子を含有する、請求項1に記載の水性エアゾール塗料原液に関する。
【0008】
請求項4に係る発明は、前記ディスパージョン樹脂は、平均粒径が約100nm以上200nm以下の粒子を含有する、請求項2に記載の水性エアゾール塗料原液に関する。
【0009】
請求項5に係る発明は、前記共溶剤は、ブチルセロソルブである、請求項1に記載の水性エアゾール塗料原液に関する。
【0010】
請求項6に係る発明は、前記共溶剤は、ブチルセロソルブである、請求項2に記載の水性エアゾール塗料原液に関する。
【0011】
請求項7に係る発明は、前記共溶剤は、ブチルセロソルブである、請求項3に記載の水性エアゾール塗料原液に関する。
【0012】
請求項8に係る発明は、前記共溶剤は、ブチルセロソルブである、請求項4に記載の水性エアゾール塗料原液に関する。
【0013】
請求項9に係る発明は、請求項1~8のいずれか1項に記載の水性エアゾール塗料原液、及び噴射剤を含有する水性エアゾール塗料であって、前記噴射剤は、水性エアゾール塗料原液100重量部に対して、70重量部以上90重量部以下の量で含有され、前記噴射剤がジメチルエーテルである、水性エアゾール塗料に関する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、水性エアゾール塗料に用いる水性エアゾール塗料原液であって、当該水性エアゾール塗料原液は、(a)ディスパージョン樹脂、(b)50重量部以上60重量部以下の水、(c)10重量部以上20重量部以下の共溶剤、(d)1重量部以下の顔料、及び(e)添加剤を含み、前記ディスパージョン樹脂は、アルキド樹脂またはアクリル変性アルキド樹脂であり、樹脂固形分が25重量部以上35重量部以下である、水性エアゾール塗料原液であることを特徴とすることから、エアゾール適性に優れ、かつ高水準の塗膜性能を有する水性エアゾール塗料原液を提供できるという有利な効果を奏する。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、前記ディスパージョン樹脂が、アクリル変性アルキド樹脂である、請求項1に記載の水性エアゾール塗料原液であることを特徴とすることから、樹脂を変性することにより、更にエアゾール適性に優れ、かつ高水準の塗膜性能を有する水性エアゾール塗料原液を提供できるという有利な効果を奏する。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、前記ディスパージョン樹脂は、平均粒径が約100nm以上200nm以下の粒子を含有する、請求項1に記載の水性エアゾール塗料原液であることを特徴とすることから、エアゾール塗料で通常使用される分散液(ディスパージョン溶液)中の粒径よりも大きい平均粒径を有することで、更にエアゾール適性に優れ、かつ高水準の塗膜性能を有する水性エアゾール塗料原液を提供できるという有利な効果を奏する。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、前記ディスパージョン樹脂は、平均粒径が約100nm以上200nm以下の粒子を含有する、請求項2に記載の水性エアゾール塗料原液であることを特徴とすることから、エアゾール塗料で通常使用される分散液(ディスパージョン溶液)中の粒径よりも大きい平均粒径を有することで、更にエアゾール適性に優れ、かつ高水準の塗膜性能を有する水性エアゾール塗料原液を提供できるという有利な効果を奏する。
【0018】
請求項5に係る発明によれば、前記共溶剤は、ブチルセロソルブである、請求項1に記載の水性エアゾール塗料原液であることを特徴とすることから、共溶剤の種類を特定することにより、更にエアゾール適性に優れ、かつ高水準の塗膜性能を有する水性エアゾール塗料原液を提供できるという有利な効果を奏する。
【0019】
請求項6に係る発明によれば、前記共溶剤は、ブチルセロソルブである、請求項2に記載の水性エアゾール塗料原液であることを特徴とすることから、共溶剤の種類を特定することにより、更にエアゾール適性に優れ、かつ高水準の塗膜性能を有する水性エアゾール塗料原液を提供できるという有利な効果を奏する。
【0020】
請求項7に係る発明によれば、前記共溶剤は、ブチルセロソルブである、請求項3に記載の水性エアゾール塗料原液であることを特徴とすることから、共溶剤の種類を特定することにより、更にエアゾール適性に優れ、かつ高水準の塗膜性能を有する水性エアゾール塗料原液を提供できるという有利な効果を奏する。
【0021】
請求項8に係る発明によれば、前記共溶剤は、ブチルセロソルブである、請求項4に記載の水性エアゾール塗料原液であることを特徴とすることから、共溶剤の種類を特定することにより、更にエアゾール適性に優れ、かつ高水準の塗膜性能を有する水性エアゾール塗料原液を提供できるという有利な効果を奏する。
【0022】
請求項9に係る発明によれば、請求項1~8のいずれか1項に記載の水性エアゾール塗料原液、及び噴射剤を含有する水性エアゾール塗料であって、前記噴射剤は、水性エアゾール塗料原液100重量部に対して、70重量部以上90重量部以下の量で含有され、前記噴射剤がジメチルエーテルである、水性エアゾール塗料であることを特徴とすることから、エアゾール適性に優れ、かつ高水準の塗膜性能を有する水性エアゾール塗料を提供できるという有利な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る水性エアゾール塗料原液、及び水性エアゾール塗料原液を含む水性エアゾール塗料の実施形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲がこれらの記載によって制限されるべきものではない。
【0024】
本発明に係る水性エアゾール塗料原液とは、エアゾール適性に優れ、かつ塗膜性能を高水準で提供することができる水性エアゾール塗料を作製するに際し、塗料としての性能を事実上決定づける、塗料製品の根幹となる原液のことである。
本発明に係る水性エアゾール塗料原液には、ディスパージョン樹脂、水、共溶剤、顔料、及び添加剤が含まれる。
本発明に係る水性エアゾール塗料原液は、樹脂固形分が20重量部以上40重量部以下、好適には25重量部以上35重量部以下となるよう設計される。
樹脂固形分を20重量部以上40重量部以下の範囲とすることで、密着力が著しく低下せず、エアゾール塗料としてスプレーした際噴霧性(または霧化性)が良く、噴霧された塗料が垂れづらく、外観がきれいな塗膜を得ることができる。
樹脂固形分が20重量部を下回ると、噴霧された塗料が垂れやすくなり、作製された塗膜が十分な塗膜性能を有しない場合がある。
樹脂固形分が40重量部を上回ると、エアゾール塗料としてスプレーした際噴霧性(または霧化性)が悪くなり、外観の仕上がりが悪い塗膜が形成される場合がある。
【0025】
本発明に係る水性エアゾール塗料には、水性エアゾール塗料原液、噴射剤、及び添加剤が含まれる。
本発明に係る水性エアゾール塗料の配合比率は、水性エアゾール塗料原液100重量部に対して、噴射剤が60重量部以上95重量部以下の量で含有され、好適には噴射剤が70重量部以上90重量部以下の量で含有されるように設計される。60重量部未満では塗料粘度が高く成り過ぎるために製造しにくくなり、スプレーした際霧にならない一方で、95重量部を超えると対象物にスプレーした際に垂れやすくなってしまい、外観がきれいな塗膜を得ることができないため、噴射剤の含有量は60重量部以上95重量部以下が好適となる。
【0026】
本発明に係るディスパージョン樹脂とは、水が主成分となる溶媒に分散される樹脂の総称である。例えばポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、アセタール樹脂、アリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂が挙げられる。本発明では、アルキド樹脂が好適である。
本発明に係るディスパージョン樹脂を、ある樹脂Aの有する官能基に、ある樹脂Bを化学反応(変性)させることで、新たな特性を持った樹脂Cとして使用することができる。
例えば本発明では、アルキド樹脂を主成分とし、ポリアクリル樹脂を変性させた樹脂(以下、アクリル変性アルキド樹脂と称する)が好適である。
本発明に係るディスパージョン樹脂の配合比率は、樹脂固形分が20重量部以上40重量部以下、好適には25重量部以上35重量部以下となるよう適宜設計される。
樹脂固形分を20重量部以上40重量部以下の範囲とすることで、密着力が著しく低下せず、エアゾール塗料としてスプレーした際噴霧性(または霧化性)が良く、噴霧された塗料が垂れづらく、外観がきれいな塗膜を得ることができる。
樹脂固形分が20重量部を下回ると、噴霧された塗料が垂れやすくなり、作製された塗膜が十分な塗膜性能を有しないことが多い。
樹脂固形分が40重量部を上回ると、エアゾール塗料としてスプレーした際噴霧性(または霧化性)が悪くなり、外観の仕上がりが悪い塗膜が形成されることが多い。
【0027】
本発明に係る水は、水性エアゾール塗料原液、及び水性エアゾール塗料の機能(エアゾール適性及び塗膜性能)を十分に発揮できる水であれば、その種類は特に限定されないが、イオン交換水が好適に用いられる。
本発明に係る水の配合比率は、水性エアゾール塗料原液のうち、40重量部以上70重量部以下が好ましく、さらには50重量部以上60重量部以下がより好ましい。
水の配合比率が40重量部を下回ると、エアゾール塗料としてスプレーした際噴霧性(または霧化性)が悪くなり、外観の仕上がりが悪い塗膜が形成される場合がある。
水の配合比率が70重量部を上回ると、噴霧された塗料が垂れやすくなり、狙いの膜厚を十分に獲得できず、作製された塗膜が十分な塗膜性能を有しない場合がある。
【0028】
本発明に係る共溶剤とは、水と高い親和性を有し、あらゆる割合で水と混和することができる有機溶剤のことであり、具体的にはメタノール、エタノール、ジメチルエーテル、ブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジオキサン、酢酸、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル(DPnB)、ベンジルアルコール、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ピリジン、t-ブチルアルコール、2-プロパノール、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、エチレングリコール、グリセリン等が考えられ、ブチルセロソルブが好適に使用される。
本発明に係る共溶剤の配合比率は、水性エアゾール塗料原液のうち、5.0重量部以上30重量部以下が好ましく、さらには10重量部以上20重量部以下がより好ましい。
これは、地球環境への負荷の観点からできるだけ有機溶剤成分を減らすことが望ましいが、製造上の問題やスプレーした際の霧になり易さや、きれいに仕上げるために、5.0重量部以上30重量部以下の共溶剤が必要となるためである。
共溶剤の配合比率が5.0重量部を下回ると、ディスパージョン樹脂が水と相溶せず、作製されるエアゾール塗料原液が均一な溶液とならない場合がある。また、スプレーした際の霧になりづらく、作製される塗膜の外観の仕上がりも悪くなることがある。
共溶剤の配合比率が30重量部を上回ると、塗装時の塗膜の膜厚を十分に獲得できなくなり、それにより本発明における狙いの塗膜性能を有する塗膜を作製できない場合がある。
【0029】
本発明に係る顔料としては、酸化チタン、弁柄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フアストエロー、ナフトールレッド、黄色酸化鉄等の通常使用されている顔料、更には亜鉛末、リン酸亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム等の防錆顔料も使用することができる。
必要に応じて、沈降性硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ等の体質顔料等も好適に使用できる。
本発明に係る顔料の配合比率は、水性エアゾール塗料原液のうち、10重量部以下が好ましく、さらには1.0重量部以下がより好ましい。
これは、本発明の水性エアゾール塗料原液の作製において、分散工程を想定しないためである。顔料の配合比率が10重量部を上回ると、エアゾール塗料原液を作製する際に、顔料が原液内で均一に分散せず、最終製品であるエアゾール塗料の品質安定性が保てなくなる場合がある。
ここで分散工程とは、顔料を原液中で分散機などを用いて分散させて微粒子化させるための一連の工程のことである。分散工程を行うことで、微粒子化した顔料を溶液内で安定して存在させることができる。分散工程を行う場合、顔料の配合比率は10.0重量部以下には限られず、本発明がエアゾール適性に優れ、かつ塗膜性能を高水準で提供することができる限りにおいて任意に設計することができる。
【0030】
本発明に係る添加剤とは、水性エアゾール塗料原液、及び水性エアゾール塗料原液を含む水性エアゾール塗料における塗膜性能の向上やスプレー塗装の際の噴霧性(または霧化性)、乾燥性等の、スプレー作業性の向上を目的に添加される物質の総称である。
添加剤として具体的には、可塑剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤、色分れ防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、防カビ剤、防腐剤、抗菌剤等が考えられるが、塗料製品の開発に通常使用されるものであり、本発明の水性エアゾール塗料原液、及び水性エアゾール塗料原液を含む水性エアゾール塗料の塗膜性能またはエアゾール作業性を向上させるものであれば特に限定されない。
【0031】
本発明に係る水性エアゾール塗料は、噴射剤を使用してエアゾール化される。
噴射剤としては、ジメチルエーテル(DME)、LPG(液化石油ガス)などが挙げられ、ジメチルエーテルを使用することが好ましい。
噴射剤(好適にはジメチルエーテル)にLPG(液化石油ガス)を混合して使用することができる。
本発明に係る噴射剤の配合比率は、水性エアゾール塗料原液100重量部に対して、噴射剤が60重量部以上95重量部以下の量であることが好ましく、さらには噴射剤が70重量部以上90重量部以下の量であることが好ましい。
噴射剤の配合比率が、水性エアゾール塗料原液100重量部に対して60重量部を下回ると、エアゾール塗料としてスプレーした際噴霧性(または霧化性)が悪くなり、外観の仕上がりが悪い塗膜が形成される場合がある。
噴射剤の配合比率が、水性エアゾール塗料原液100重量部に対して95重量部を上回ると、塗装時の塗膜の膜厚を十分に獲得できなくなり、それにより本発明における狙いの塗膜性能を有する塗膜を作製できない場合がある。
【0032】
本発明に係る水性エアゾール塗料原液、及び水性エアゾール塗料原液を含む水性エアゾール塗料は、溶媒中で分散された状態(ディスパージョン状態)における樹脂の平均粒径が75nm~250nm、好適には100nm~200nmになるように開発設計される。
平均粒径が75nmを下回る、または平均粒径が250nmを上回ると、塗装時のスプレー作業性及び作製される塗膜の外観の仕上がりが悪くなる場合がある。
本発明に係る水性エアゾール塗料原液、及び水性エアゾール塗料原液を含む水性エアゾール塗料は、塗膜性能を向上させるために樹脂の変性を行い、変性した後の樹脂であってもエアゾール適性を維持できるよう鋭意開発したものである。
樹脂の変性をすることにより、分散液(ディスパージョン溶液)中の樹脂の平均粒径が、エアゾール塗料で通常使用される分散液(ディスパージョン溶液)中の樹脂の粒径よりはるかに大きなものとなった。
これにより、通常のエアゾール塗料と比べ、1回の塗装で多くの樹脂を目的物に塗布することができ、また、少ない塗装回数で狙いの膜厚(すなわち、狙いの塗膜性能を保証できる膜厚)を作製することができる。
さらに、本発明に係るディスパージョン樹脂に関し、塗料として求められる機能(例えば耐候性、耐水性、耐剥離性、耐化学薬品性などの塗膜性能の向上)を付与することを前提に樹脂の変性を行うため、得られる変性後の樹脂は塗料として高機能であることが多い。
すなわち本発明は、従来のエアゾール塗料としての扱いやすさを維持あるいは向上させつつ、平均粒径を大きくすることによる高機能な塗膜の発現を使用者がだれでも狙うことができる発明である。
【0033】
本発明に係る平均粒径は、粒度分布測定法によって測定される。粒度分布測定法には、例えば光学顕微鏡または電子顕微鏡による幾何学的な粒径の測定方法、カスケードインパクターを使用して粒子を捕集することによる動力学(慣性力)的な測定方法、静電式粒度分布測定器(EAA)を使用することによる電気移動度による測定方法、パーティクル・カウンタを使用することによる、光散乱法による測定方法、ディフュージョンバッテリー(拡散バッテリー)を使用することによる、拡散沈着による測定方法、凝縮核計数器(CNC)を使用することによる、断熱膨張による測定方法などがある。
本発明に係る平均粒径は、カスケードインパクターを使用して粒子を捕集することによる動力学(慣性力)的な測定方法によって測定されている。
【0034】
本発明に係る水性エアゾール塗料原液、及び水性エアゾール塗料原液を含む水性エアゾール塗料は、保存安定性にも優れている。これは、樹脂の表面を水及び充填ガス(または噴射剤)に可溶化しやすいように設計したためである。
【0035】
本発明において「約」とは、ある数における10%以内の誤差のことをいう。
例えば「約100」との記載がある場合、その数値は「90~110」の範囲のうちのいずれかを示す。
例えば「約200」との記載がある場合、その数値は「180~220」の範囲のうちのいずれかを示す。
【実施例0036】
以下に本発明の実施例、比較例及び試験結果を示すことにより、本発明の効果をより一層明確にする。
【0037】
以下に記載する実施例1~7のエアゾ-ル塗料原液135ml(このときのエアゾール塗料原液の量を約100重量部とする)をエアゾ-ル用ブリキ缶に充填した後、噴射剤としてジメチルエ-テル165mlを封入してエアゾ-ル塗料とした(このときのジメチルエーテルの量を約80重量部とする)。このエアゾ-ル塗料を、木材の試験板に4度重ね塗りするように、(すなわちエアゾール塗料を試験板に対して2往復分噴射して)塗装し乾燥させた。得られた塗膜に関し、次の性能を試験した。得られた塗膜の膜厚は約30μm~40μmであった。
同時にエアゾール塗料原液の平均粒径とガスとの相溶性、及びエアゾール塗料の保存安定性も以下に記載するように試験した。
【0038】
(平均粒径)
本発明に係る平均粒径は、カスケードインパクターを使用して粒子を捕集することによる動力学(慣性力)的な測定方法によって測定された。
(ガスとの相溶性)
エアゾール塗料原液と噴射剤を混合させ、目視により均一な溶液となった場合を◎とし、互いに完全に相溶しない状態を×とした。
(スプレー作業性)
10秒間エアゾール塗布して霧の状態を目視で観察した。エアゾール塗料として問題のない霧の状態を異常のないものから順に◎、○、△とし、粗い霧等エアゾール塗料として問題のある霧の状態を×とした。
(塗膜の外観)
目視により確認し、問題のない塗膜から順に◎、○、△とし、問題のある塗膜を×とした。
(塗料の垂れ)
下地を隠すまで一気にエアゾール塗布して試験板を垂直に立て掛け垂れの度合いを観察した。
エアゾール塗料が垂れず、異常のないものから順に◎、○、△とし、エアゾール塗料が垂れるものを×とした。
(保存安定性)
JIS K 5600 2-7の方法に則り、次のように試験した。
試料を容器に入れて密封し、温度45℃で6か月間保存した後、室温に戻し、容器の中の状態、塗装作業性及び塗膜の外観の変化の有無、保存した容器の腐食度合を調べて判定した。異常のないものから順に◎、○、△とし、貯蔵前に比べて著しい差異を示したものを×とした。
(耐候性)
JIS K 5600 7-7の方法(キセノンランプ法)で試験した。(塗膜の膜厚約30μm~40μm)
異常のないものから順に◎、○、△とし、照射前に比べて著しい差異を示したものを×とした。
(耐水性)
木材の試験板(150mm×70mm×厚さ4.0mm)に、塗膜の膜厚約30μm~40μmとなるようスプレー塗装し、室温で7日間乾燥させ塗膜を作製した。その後、スポイトを使用して水を塗膜に数滴ほど滴下し、24時間後の塗膜の外観を観察した。異常のないものから順に◎、○、△とし、塗膜が剥離した場合、あるいは塗膜に明らかなシミが残り、塗膜のツヤが確認できなくなった場合を×とした。
(耐アルカリ性)
木材の試験板(150mm×70mm×厚さ4.0mm)に、塗膜の膜厚約30μm~40μmとなるようスプレー塗装し、室温で7日間乾燥させ塗膜を作製した。その後、スポイトを使用して水酸化カルシウム飽和溶液を塗膜に数滴ほど滴下し、24時間後の塗膜の外観を観察した。異常のないものから順に◎、○、△とし、塗膜が剥離した場合、あるいは塗膜に明らかなシミが残り、塗膜のツヤが確認できなくなった場合を×とした。
(不粘着性)
木材の試験板(150mm×70mm×厚さ4.0mm)に、塗膜の膜厚約30μm~40μmとなるようスプレー塗装し、室温で7日間乾燥後、ガーゼ5枚を重ね、ガーゼの中央に500gの錘を置き、40℃で4時間放置した後ガーゼを塗面から引き離し、塗面とガーゼとの粘着の程度と塗面に付いた布目の跡とを調べた。粘着も布目の跡もないものを◎、いずれかがあるものを○、どちらもあるものを×とした。
(可撓性)
塗膜が作製された鋼板の試験板(150mm×50mm×厚さ0.6mm)を90度に折り曲げ、折り曲げた後の塗膜の状態を、異常のないものから順に◎、○、△とし、塗膜が完全に割れたものを×とした。
【0039】
実施例1~7のエアゾール塗料原液の配合比率(表1)、及び比較例を含む試験結果(表2)は以下のようになった。
ここでエアゾール塗料原液の配合比率(表1)に記載されたディスパージョン樹脂は以下のとおりである。
アクリル変性アルキド樹脂1
ウォーターゾール WNW-524(DIC株式会社製)
アクリル変性アルキド樹脂2
ウォーターゾール WPW-601(DIC株式会社製)
アクリル変性アルキド樹脂3
ウォーターゾール BCD-3040(DIC株式会社製)
アルキド1(変性なし)
アクリル変性アルキド樹脂1と同じアルキド樹脂であり、アクリル樹脂による変性を行っていない樹脂。
本発明の比較例として使用する比較例1、比較例2、比較例3は以下のとおりである。
比較例1
アクリル変性アルキド樹脂1と同程度の分子量を有するアクリル樹脂を使用した場合。
比較例2
アクリル変性アルキド樹脂1と同程度の分子量を有するウレタン樹脂を使用した場合。
比較例3
水性多用途スプレー(株式会社アサヒペン社製 水溶性アクリル樹脂を使用。4度重ね塗りする(すなわちエアゾール塗料を試験板に対して2往復分噴射する)ことにより膜厚は約15μm~25μm)を使用した場合。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
実施例1で使用したエアゾール塗料原液を用いて噴射剤の配合比率を以下のように検討した。
実施例1のエアゾ-ル塗料原液を、噴射剤の配合比率を変更しながら(それぞれ比率例1~比率例4とする)エアゾール塗料を作製した。
作製したそれぞれのエアゾール塗料を、木材の試験板に4度重ね塗りするように、(すなわちエアゾール塗料を試験板に対して2往復分噴射して)塗装し乾燥させた。この時のエアゾール塗料の塗装に関し、エアゾール塗料がエアゾール粒子として十分均一に噴射され、試験板に塗装できるか(霧化性)を評価した。
得られた塗膜に関し、膜厚を測定した。狙いの塗膜の膜厚は約30μm~40μmとした。
得られた試験結果を、エアゾール塗料の配合比率検討、及び霧化性及び膜厚に対する試験結果(表3)として以下に記載する。
【0043】
【表3】
【0044】
表2の試験結果を踏まえると、アクリル変性アルキド樹脂1は、樹脂固形分が25重量部~35重量部の範囲において比較例3よりも優れたエアゾール適性及び塗膜性能を示した(実施例1~実施例3)。
アクリルおよびウレタンは、アクリル変性アルキド樹脂1の場合及び比較例3の場合と比べ、ガスとの相溶性及びスプレー作業性の著しい悪化が確認された(比較例1~比較例2)。したがって、アクリルおよびウレタンは、エアゾール適性がアクリル変性アルキド樹脂1及び比較例3より劣ると判断し、その他のエアゾール適性及び塗膜性能を確認しなかった。
共溶剤は、アルコール(1-プロパノール)を使用するより、ブチルセロソルブを使用するほうが、特に塗料の垂れの観点においてエアゾール適性が優れていることが示された(実施例4)。
アクリル樹脂による変性を行わない場合、耐候性が比較例3より悪化することが示された(実施例5)。
アクリル変性アルキド樹脂2及びアクリル変性アルキド樹脂3は、アクリル変性アルキド樹脂1の場合及び比較例3の場合と比べ、スプレー作業性の低下と塗膜の外観の悪化が確認された(実施例6~実施例7)。したがって、アクリル変性アルキド樹脂2及びアクリル変性アルキド樹脂3はエアゾール適性がアクリル変性アルキド樹脂1及び比較例3より劣ると判断し、塗膜性能を確認しなかった。
またこのとき、実施例6の平均粒径が50nm~100nm、実施例7の平均粒径が200nm~300nmであったことから、エアゾール適性が良好であるための一条件として、平均粒径100nm~200nmとなるように作製することが好適であると判断した。
【0045】
表3の試験結果を踏まえると、エアゾール塗料原液100重量部に対して、噴射剤が70~90重量部だと、霧化性が良好であり、膜厚も狙いの範囲(約30μm~40μm)となった。噴射剤が110重量部の場合、狙いの膜厚(約30μm~40μm)に十分に達することができなかった。
【0046】
以上より、得られた試験結果(表2及び表3)から、本発明に係る水性エアゾール塗料原液、及び水性エアゾール塗料原液を含む水性エアゾール塗料は、比較例1~3の結果と比べ、エアゾール適性を維持しつつ、塗膜性能が向上した発明が見出された。
具体的には、アクリル変性アルキド樹脂1は、樹脂固形分が25重量部~35重量部の範囲、及び平均粒径100nm~200nmの範囲において、比較例3よりも優れたエアゾール適性及び塗膜性能を示し、エアゾール塗料原液100重量部に対して、噴射剤が70重量部~90重量部とするエアゾール塗料として使用することが望ましいことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る水性エアゾール塗料原液、及び水性エアゾール塗料原液を含む水性エアゾール塗料は、家庭用塗料及び工業用塗料としての使用に有用である。塗装される基材に限定は無いが、特に木材への塗装が好適である。