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特開2025-19861面ファスナー成形用金型の製造方法、並びに面ファスナー及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019861
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】面ファスナー成形用金型の製造方法、並びに面ファスナー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/10 20060101AFI20250131BHJP
   A44B 18/00 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
C25D1/10
A44B18/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123727
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599124426
【氏名又は名称】株式会社ディムコ
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】道端 勇
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 結
(72)【発明者】
【氏名】栗山 亘
(72)【発明者】
【氏名】松田 清義
(72)【発明者】
【氏名】垣内 美穂
【テーマコード(参考)】
3B100
【Fターム(参考)】
3B100DA03
3B100DA05
(57)【要約】
【課題】面ファスナーの係合素子の形状精度の向上に貢献する新たな技術が求められている。
【解決手段】面ファスナー成形用金型9の製造方法は、金属製スリーブ4の支持面4a上に電気絶縁性を有する一群の犠牲部3が形成された電鋳用金型6上に電鋳スリーブ7を形成することにして、金属製スリーブ4の支持面4a上に電鋳スリーブ7が形成され、かつ一群の犠牲部3の各犠牲部3が少なくとも部分的に電鋳スリーブ7に埋設されることと、電鋳用金型6の一群の犠牲部3を除去して一群の犠牲部3に対応した一群の成形キャビティー8が電鋳スリーブ7に形成された面ファスナー成形用金型9を得ることを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面ファスナー成形用金型(9)の製造方法であって、
導電性の支持材(4)の支持面(4a)上に電気絶縁性を有する一群の犠牲部(3)が形成された電鋳用金型(6)上に電鋳膜(7)を形成することにして、前記支持材(4)の支持面(4a)上に前記電鋳膜(7)が形成され、かつ前記一群の犠牲部(3)の各犠牲部(3)が少なくとも部分的に前記電鋳膜(7)に埋設されることと、
前記電鋳用金型(6)の前記一群の犠牲部(3)を除去して前記一群の犠牲部(3)に対応した一群の成形キャビティー(8)が前記電鋳膜(7)に形成された面ファスナー成形用金型(9)を得ることを含む、面ファスナー成形用金型の製造方法。
【請求項2】
前記電鋳用金型(6)を製造することを更に含み、
前記電鋳用金型(6)を製造することは、前記支持材(4)の支持面(4a)上において前記一群の犠牲部(3)を造形することを含む、請求項1に記載の面ファスナー成形用金型の製造方法。
【請求項3】
前記支持材(4)の支持面(4a)上において前記一群の犠牲部(3)を造形することは、3Dプリンタヘッド(1)が、光又は熱硬化性材料の吐出に基づいて前記支持材(4)の前記支持面(4a)上において一群の犠牲部(3)を造形することを含む、請求項2に記載の面ファスナー成形用金型の製造方法。
【請求項4】
前記支持材(4)の支持面(4a)上において前記一群の犠牲部(3)を造形することは、前記3Dプリンタヘッド(1)が、前記支持面(4a)の第1領域において前記一群の犠牲部(3)の第1サブセットを造形することと、前記第1サブセットの造形に続いて前記第1領域に隣接する前記支持面(4a)の第2領域において前記一群の犠牲部(3)の第2サブセットを造形することとを含み、
前記第1サブセットに含まれる複数の犠牲部(3)と前記第2サブセットに含まれる複数の犠牲部(3)が、前記第1及び第2領域の間に非直線的な境界線を引くことができるように相補的に配置される、請求項3に記載の面ファスナー成形用金型の製造方法。
【請求項5】
前記3Dプリンタヘッド(1)は、異なるタイミングで吐出した前記光又は熱硬化性材料が空中において合体して前記支持面(4a)上に着地するように動作可能である、請求項3に記載の面ファスナー成形用金型の製造方法。
【請求項6】
前記支持材(4)が可撓性を有する金属製スリーブである請求項3に記載の面ファスナー成形用金型の製造方法であって、前記3Dプリンタヘッド(1)は、前記金属製スリーブの変形により形成された前記支持面(4a)の平坦面上において前記一群の犠牲部(3)を造形する、面ファスナー成形用金型の製造方法。
【請求項7】
前記電鋳膜(7)が電鋳スリーブとして形成される、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の面ファスナー成形用金型の製造方法。
【請求項8】
前記支持材(4)から前記電鋳膜(7)を取り外すことを更に含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の面ファスナー成形用金型の製造方法。
【請求項9】
前記電鋳膜(7)が前記支持面(4a)から離れた側に凸凹面を有するように形成される請求項1乃至6のいずれか一項に記載の面ファスナー成形用金型(9)の製造方法であって、前記電鋳膜(7)の凸凹面を研磨することを更に含む、面ファスナー成形用金型の製造方法。
【請求項10】
前記一群の犠牲部(3)の各犠牲部(3)が、前記支持面(4a)から起立したステム部と、前記支持面(4a)上において前記ステム部に連結した少なくとも1以上の爪部を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の面ファスナー成形用金型の製造方法。
【請求項11】
前記一群の成形キャビティー(8)の各成形キャビティー(8)が、前記ステム部により形成される開口径が一定のステム成形空間と、前記1以上の爪部により形成される爪部成形空間を含む、請求項10に記載の面ファスナー成形用金型の製造方法。
【請求項12】
前記一群の成形キャビティー(8)の各成形キャビティー(8)が前記電鋳膜(7)を貫通する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の面ファスナー成形用金型の製造方法。
【請求項13】
前記支持材(4)が可撓性を有する金属製スリーブである、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の面ファスナー成形用金型の製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の面ファスナー成形用金型(9)を用いて面ファスナーを製造する面ファスナーの製造方法。
【請求項15】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の面ファスナー成形用金型(9)を用いて製造された面ファスナー。
【請求項16】
基層と、前記基層の主面に形成された一群の係合素子を備える面ファスナーであって、
前記一群の係合素子の各係合素子が、前記基層から突出する円柱状のステム部と、前記ステム部の頂部に連結した1以上の爪部を含み、前記ステム部は、前記基層から離れる方向において実質的に一定の直径を持つ、面ファスナー。
【請求項17】
前記ステム部の頂部への前記1以上の爪部の連結位置が、前記一群の係合素子においてバラツキなく一定ある、請求項16に記載の面ファスナー。
【請求項18】
前記係合素子の配置密度が、150個/cm2~400個/cm2の範囲内である、請求項16又は17に記載の面ファスナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、面ファスナー成形用金型の製造方法、並びに面ファスナー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一次及び二次成形によって係合頭部の外周縁部に爪部が突設された係合素子を持つ面ファスナーが開示されている(例えば、同文献の図2参照)。同文献の図8等に示すような貫通孔と凹溝部が形成された円筒体が面ファスナーの成形のために用いられる(同文献の図7も併せて参照)。同文献の図36に示すように外側と内側の2層の円筒体を用いる形態も開示されており、それらの構造が同文献の図37に図示されている。
【0003】
尚、特許文献2には面ファスナーとは無関係であるが、円筒部材の離型方法が開示されている。円筒状金属母型上に絶縁材料を配置し、絶縁材料によって凹形状又は穴形状を含むように、その母型の側面に電鋳膜を形成し、凹形状又は穴形状を用いて電鋳膜を母型から離型することが開示されている(同文献の図1及び図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/110127号
【特許文献2】特開2019-44220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の円筒体を精度良く製造することが極めて困難であった。同文献の図37に示す形態に関して、内側の円筒体の溝に対して外側の円筒体の貫通穴のアライメントを確保することが困難であり、(貫通穴により成形される)係合素子のステムに対して(溝により成形される)爪の位置にバラツキが生じていた。実際に製造した面ファスナーにおいても、ステムに対する爪の位置が面ファスナーの平面内の係合素子の位置によって異なることが観察可能であり、面ファスナーの係合素子の形状バラツキの低減が求められていた。
【0006】
上述の非限定の例示の説明から分かるように、面ファスナーの係合素子の形状精度の向上に貢献する新たな技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る面ファスナー成形用金型の製造方法は、導電性の支持材の支持面上に電気絶縁性を有する一群の犠牲部が形成された電鋳用金型上に電鋳膜を形成することにして、支持材の支持面上に電鋳膜が形成され、かつ一群の犠牲部の各犠牲部が少なくとも部分的に電鋳膜に埋設されることと、電鋳用金型の一群の犠牲部を除去して一群の犠牲部に対応した一群の成形キャビティーが電鋳膜に形成された面ファスナー成形用金型を得ることを含む。
【0008】
本開示の別態様に係る面ファスナーの製造方法は、上述の面ファスナー成形用金型を用いて面ファスナーを製造する。本開時は、これにより製造された面ファスナーにも関する。
【0009】
面ファスナー成形用金型の製造方法は、電鋳用金型を製造することを更に含むことができる。電鋳用金型を製造することは、支持材の支持面上において一群の犠牲部を造形することを含み得る。
【0010】
幾つかの場合、支持材の支持面上において一群の犠牲部を造形することは、3Dプリンタヘッドが、光又は熱硬化性材料の吐出に基づいて支持材の支持面上において一群の犠牲部を造形することを含む。
【0011】
幾つかの場合、支持材の支持面上において一群の犠牲部を造形することは、3Dプリンタヘッドが、支持面の第1領域において一群の犠牲部の第1サブセットを造形することと、第1サブセットの造形に続いて第1領域に隣接する支持面の第2領域において一群の犠牲部の第2サブセットを造形することとを含み、第1サブセットに含まれる複数の犠牲部と第2サブセットに含まれる複数の犠牲部が、第1及び第2領域の間に非直線的な境界線を引くことができるように相補的に配置される。
【0012】
幾つかの場合、3Dプリンタヘッドは、異なるタイミングで吐出した光又は熱硬化性材料が空中において合体して支持面上に着地するように動作可能である。
【0013】
幾つかの場合、支持材が可撓性を有する金属製スリーブである。3Dプリンタヘッドは、金属製スリーブの変形により形成された支持面の平坦面上において一群の犠牲部を造形し得る。搬送機構の採用により金属製スリーブを3Dプリンタヘッドの直下の位置とそれ以外の位置(例えば、UV光源の直下の位置)の間で移動(例えば、反復移動)させることができる。
【0014】
面ファスナー成形用金型の製造方法は、支持材から電鋳膜を取り外すことを更に含むことができる。幾つかの場合、電鋳膜が電鋳スリーブとして形成される。
【0015】
面ファスナー成形用金型の製造方法は、電鋳膜の凸凹面を研磨することを更に含むことができる。幾つかの場合、電鋳膜は、支持面から離れた側に凸凹面を有するように形成される。
【0016】
幾つかの場合、一群の犠牲部の各犠牲部が、支持面から起立したステム部と、支持面上においてステム部に連結した少なくとも1以上の爪部を含む。
【0017】
幾つかの場合、一群の成形キャビティーの各成形キャビティーが、ステム部により形成される開口径が一定のステム成形空間と、1以上の爪部により形成される爪部成形空間を含む。
【0018】
幾つかの場合、一群の成形キャビティーの各成形キャビティーが電鋳膜を貫通する。
【0019】
幾つかの場合、支持材が可撓性を有する金属製スリーブである。
【0020】
本開示のまた別態様に係る面ファスナーは、基層と、基層の主面に形成された一群の係合素子を備える面ファスナーである。一群の係合素子の各係合素子は、基層から突出する円柱状のステム部と、ステム部の頂部に連結した1以上の爪部を含み得る。ステム部は、基層から離れる方向において実質的に一定の直径を持つ得る。
【0021】
好適には、ステム部の頂部への1以上の爪部の連結位置が、一群の係合素子においてバラツキなく一定ある。有利には係合素子の配置密度が、150個/cm2~400個/cm2の範囲内である。
【発明の効果】
【0022】
本開示の一態様によれば、面ファスナーの係合素子の形状精度の向上に貢献する新たな技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示の一態様に係る面ファスナー成形用金型の製造方法の関する概略的なフローチャートである。
図2】電鋳用金型の製造装置の概略図である。
図3】犠牲部の概略的な側面図である。
図4】犠牲部の概略的な上面図である。
図5】犠牲部の造形工程を示す概略図である。
図6】金属製スリーブの隣接した領域において造形部のサブセットを連続的に形成することを示す模式図である。
図7】電鋳用金型の概略図である。
図8】電鋳工程を示す概略的な工程図である。
図9】電鋳工程により得られた犠牲部付きの電鋳スリーブを示す概略図である。
図10】犠牲部の除去に関する工程図である。
図11】犠牲部が除去された電鋳スリーブを示し、併せて電鋳スリーブの外面を研磨する研磨機も図示する概略図である。
図12】面ファスナー製造装置の概略図である。
図13】面ファスナーの概略的な部分断面図である。
図14】面ファスナーの係合素子の上面図である。
図15】金属製スリーブ上に造形された犠牲部の概略的な斜視図である。
図16】面ファスナーの基層から立ち上がる係合素子の概略的な斜視図である。
図17】係合素子の変形例を示す概略的な斜視図である。
図18】実施例に係る面ファスナーの上面を写した写真である。
図19】実施例に係る面ファスナーの側面を写した写真である。
図20】内側及び外側円筒体からダイホイールが構築されることを示す模式図である。
図21】電子ビームによって外側円筒体に穴明けすることを示す模式図である。
図22】係合素子において爪部の位置にバラツキがあることを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明の非限定の実施形態及び特徴について説明する。当業者は、過剰説明を要せず、各実施形態及び/又は各特徴を組み合わせることができ、この組み合わせによる相乗効果も理解可能である。実施形態間の重複説明は、原則的に省略する。参照図面は、発明の記述を主たる目的とするものであり、作図の便宜のために簡略化されている。
【0025】
以下、面ファスナー成形用金型の製造方法について説明する。模範的な製法では、図1に示すように、一群の犠牲部を含む電鋳用金型を製造(S1)し、これを用いて電鋳処理を実施し(S2)、続いて電鋳用金型における一群の犠牲部を除去する(S3)ことを含む。適切な造形方法(例えば、3D(3次元)造形技術、射出成形、又はフォトリソグラフィー)で個々の犠牲部を造形し、これらを電鋳処理後に除去(典型的には化学的処理により除去)することにより個々の犠牲部に対応する個々の成形キャビティーが形成された電鋳膜が得られる。この電鋳膜を面ファスナー成形用金型として用いることで高い形状/寸法の均一性の一群の係合素子が形成された面ファスナーを製造することができる。尚、犠牲部は、電気絶縁性を有する造形に適した任意の材料から成る。
【0026】
個々の成形キャビティーの形状/寸法精度(ひいては、個々の係合素子の形状/寸法精度)は、個々の犠牲部の形状/寸法精度に依存するが、現時点で利用可能な造形方法の精度は十分に高い。実際、電子ビームといった切削方法よりも十分な精度で犠牲部3を造形することができ、結果として、成形キャビティーの形状/寸法精度も高められる。
【0027】
本明細書では、3Dプリンタヘッドといった3D造形技術を活用して一群の犠牲部を造形することについて主に説明するが、これ以外の方法(例えば、射出成形、フォトリソグラフィー)も利用可能であることに留意されたい。
【0028】
図2を参照して説明する。電鋳用金型の製造装置100は、3Dプリンタヘッド1、UV光源2、及び搬送機構を含む。3Dプリンタヘッド1は、光硬化性材料の吐出に基づいて金属製スリーブ4の支持面4a上に一群の犠牲部3を造形する。3Dプリンタヘッド1は、例えば、2次元的に配列された一群のノズルを有し、選択した1以上のノズルから光硬化性材料を吐出可能である。これにより2次元的な範囲においてサブセットの犠牲部3を形成することができる。尚、3Dプリンタヘッド1の具体的な構造及び機構に特段の限定はなく、様々な種類の3Dプリンタヘッドを利用することができる。例えば、単一のノズルを2次元的にスキャンする種類の3Dプリンタヘッドを利用することもできる。また、光硬化性材料は、典型的にはUV硬化樹脂(好適には、ネガ型レジスト)である。当然ながら、光硬化性材料の代替として熱硬化性材料を用いることもでき、この場合、その硬化のために熱源(例えば、ヒーター、遠赤外線レーザー等)が利用される。個々の犠牲部3を射出成形して金属製スリーブ4に付着する形態も想定の範囲内である。
【0029】
UV光源2は、3Dプリンタヘッド1に内蔵され又は独立して設けられる。3Dプリンタヘッド1のノズルから吐出されたUV硬化樹脂(例えば、レジスト)は、UV光源2から放射されたUV光線を受けて硬化(典型的には半硬化)する。UV光源2としてUVレーザー光源(例えば、波長355nm)を用いる場合、レーザースポット径、レーザー出射タイミング、及びレーザー強度を高精度で制御可能である。好適には、3Dプリンタヘッド1からの材料の吐出タイミングとUV光線の放射タイミングに関してソフトウェア又はハードウェア基準のシーケンス制御が実施される。
【0030】
搬送機構は、可動ステージ(不図示)と、可動ステージ上に実装されたコンベア5を有し得る。可動ステージの移動に基づいて3Dプリンタヘッド1及びUV光源2に対するコンベア5の位置が変わる。可動ステージは、例えば、ある搬送方向(例えば、3Dプリンタヘッド1とUV光源2の横並び方向)において往復移動可能であり得る。コンベア5は、一対のロール5a,5bを含み、金属製スリーブ4を周方向に搬送可能に支持する。金属製スリーブ4は、端的には、コンベアベルトとして2つのロール5a,5bの間に架け渡される。ステージの移動により、3Dプリンタヘッド1の直下の位置に犠牲部3が未配置の支持面4aを供給することができ、同様、犠牲部3が配置された支持面4aを3Dプリンタヘッド1の直下の位置からUV光源2の直下の位置に送ることができる。
【0031】
有利には、金属製スリーブ4は、その支持面4aが2つのロール5a,5bの間で平坦に延びる態様でコンベア5により支持される。金属製スリーブ4の変形により支持面4aに平坦面が形成され、3Dプリンタヘッド1が、その平坦面上に一群の犠牲部3を造形する。汎用的な3Dプリンタヘッド1を用いて一群の犠牲部3を造形でき、湾曲面上での犠牲部3の造形のために3Dプリンタヘッド1を特別設計することが回避される。3Dプリンタヘッド1及びUV光源2をコンベア5に対して移動可能に設けることも可能である。
【0032】
金属製スリーブ4は、外面として支持面4aと、これとは反対の内面4bを有する中空円筒体である。金属製スリーブ4は、好適には可撓性を有し、自在に撓み、かつ湾曲可能である。金属製スリーブ4の厚みは、例えば、0.05mm~0.3mmの範囲内、好適には、0.1mm~0.2mmの範囲内である。犠牲部3を支持する支持材としては金属製スリーブ以外のもの、例えば、金属製の平板を用いることもできる。
【0033】
後述するように、3Dプリンタヘッド1は、金属製スリーブ4の支持面4aの異なる領域(例えば、QN,QN-1,QN-2(Nは、2以上の自然数を意味する))に対して犠牲部3のサブセットを造形し得る。N=3の場合、模範的には、まず支持面4aの第1領域となるQ1が2つのロール5a,5bの間で平坦面となるように金属製スリーブ4をコンベア5に配置する。その後、ステージの移動により第1領域Q1の支持面4aを3Dプリンタヘッド1の直下の位置とUV光源2の直下の位置とを往復させて、第1領域Q1の支持面4aに所望の数の犠牲部3を形成する。続いて、2つのロール5a,5bの回転により支持面4aの第2領域となるQ2が2つのロール5a,5bの間で平坦面となるように金属製スリーブ4をコンベア5に配置する。第1領域と同様に、第2領域の支持面4aにも所望の数の犠牲部3を形成する。第3領域も同様の手順で、犠牲部3を形成する。
【0034】
3Dプリンタヘッド1が一度に造形可能な犠牲部3の最大数は、金属製スリーブ4の支持面4aに配置されるべき犠牲部3の総数未満(例えば、その総数の1/3程度~1/10程度)であり、上述の3Dプリンタヘッド1及びUV光源2に対するステージの移動とコンベア5による金属製スリーブ4の回転に基づいて小型な3Dプリンタヘッド1を活用して金属製スリーブ4の全域に効率的に犠牲部3を形成することができる。
【0035】
犠牲部3の3次元形状は、目標とする面ファスナーの係合素子の最終的な形状又は係合素子の前駆体の形状に応じて設定される。本願明細書では、面ファスナー成形用金型により一時的に成形された係合素子が二次、三次といった如く追加的に成形される形態を念頭に置いて、そのような追加成形前の(即ち、面ファスナー成形用金型により成形された通りの)係合素子を「前駆体」と呼ぶ。
【0036】
犠牲部3は、その中心線CLに合致する高さ方向と、高さ方向に直交する幅又は径方向を有する。犠牲部3は、その高さ方向において変化する幅又は直径を有し、これが成形キャビティー及び係合素子(又は係合素子の前駆体)の形状に反映されることになる。
【0037】
模範的には、犠牲部3は、金属製スリーブ4の支持面4aから起立した略円柱状のステム部31と、支持面4a上においてステム部31に連結した少なくとも1以上の爪部32,33を含む(図3及び図4参照)。ステム部31は、頂面31aと側面31bを有する。側面31bは、金属製スリーブ4の支持面4aに対して直立し、支持面4aに対して略90°(例えば、89°~101°の範囲内)の角度を形成する。なお、ここで述べた支持面4aは、図1に示したようにロール5a,5b間を延びる水平面である。
【0038】
ステム部31の頂面31aは、中心線CLから径方向外側に延びるに応じて支持面4a側に接近する湾曲面、又は支持面4aに平行な平坦面である。ステム部31の頂面31aと側面31bの間に丸み付けられた縁31cが形成され得る。頂面31a及び/又は縁31cの湾曲は、ステム部31が3Dプリンタヘッド1による材料粒子の滴下により形成されたことの帰結であり得る。尚、ステム部31との関係から、爪部を「径方向突起」と呼んでも良い。
【0039】
犠牲部3の寸法の詳細については適宜変更可能であるが、模範的な形態では、以下のとおりである。犠牲部3は、ステム部31における最大高さの第1高さH1と、爪部32,33における最大高さの第2高さH2を有する。第1高さH1は、0.3~0.8mmの範囲内、より好適には、0.4~0.6mmの範囲内であり得る。第2高さH2は、0.01~0.06mmの範囲内、より好適には、0.02~0.04mmの範囲内であり得る。犠牲部3は、ステム部31単体の第1幅又は直径W1と、ステム部31に爪部32,33が連結した部分のより大きい第2幅又は直径W2を有する。第1幅又は直径W1は、100μm~200μmの範囲内、好適には、130μm~170μmの範囲内であり得る。第2幅又は直径W2は、150μm~300μmの範囲内、好適には、200μm~250μmの範囲内であり得る。ステム部31の周面から突出する爪部32,33の突出量合計は、ステム部31の直径の約25%~50%であり得る。
【0040】
犠牲部3の造形のために3Dプリンタヘッド1が用いられる場合について図5及び図6を参照して説明する。図5(a)に示すように、3Dプリンタヘッド1のノズルから吐出された(光硬化性材料の)材料粒子が金属製スリーブ4の支持面4aに着地して爪部32となる。図5(a)からの材料粒子の吐出と同一又は異なるタイミングで、図5(b)に示すように、3Dプリンタヘッド1のノズルから材料粒子が吐出されて金属製スリーブ4の支持面4aに着地して爪部33になる。支持面4aの犠牲部3を形成したい領域を3Dプリンタヘッド1の直下に配置し、図5(a)(b)に示すように材料粒子を着地させた後、後述するようにステージの移動により当該領域をUV光源2の直下に移動させて材料粒子をUV硬化させる。爪部33が所望の高さH2になるように、この手順を繰り返して材料粒子を高さ方向に積み上げることができる。
【0041】
図5(a)及び図5(b)における材料粒子の吐出と同時又は後、図5(c)に示すように3Dプリンタヘッド1から異なるタイミングで一連の材料粒子が吐出され、空中で連鎖的に合体し、金属製スリーブ4の支持面4aに着地してステム部31になる。このように空中で材料粒子を連鎖的に合体させることで、小さなノズルであっても大きな材料粒子の液滴を得ることができる。そのため、ステム部31のピッチを狭く形成したい場合(ノズル径を大きくできない場合)であっても、ステム部31を所望の太さにすることができる。一連の材料粒子を空中で合体させて支持面4aに着地させた後、爪部33と同様に、ステージの移動により当該領域をUV光源2の直下に移動させて材料粒子をUV硬化させる。ステム部31が所望の高さH1になるように、この手順を繰り返して材料粒子を高さ方向に積み上げることができる。また、空中で材料粒子を連鎖的に合体させてステム部31を太く形成することにより、ステム部31の径に対して相対的に微小な爪部33を形成することも可能になる。微小な爪部33を有していることにより、面ファスナーと係合する雌部材(ループや不織布)の目付量が小さい場合に、十分な係合強度を得ることができる。
【0042】
図5(a)~(c)に関して、金属製スリーブ4の支持面4aに向かって落下している最中又は支持面4a上に着地した後、材料粒子がUV光線に晒されて半硬化する。追加又は代替的に、図5(c)に示す犠牲部3の全体が造形された後、硬化処理が行われて犠牲部3の硬化が更に促進される。光源から放射されるUV光線の光度調整に基づいてステム部31の幅又は直径を微調整することもできる。この場合、ステム部31は、3Dプリンタヘッド1からの材料粒子の吐出条件に加えてUV照明条件にも相関した幅又は直径を持つことになる。
【0043】
3Dプリンタヘッド1は、金属製スリーブ4の支持面4aの異なる領域(例えば、QN,QN-1,QN-2(Nは、2以上の自然数を意味する))に対して犠牲部3のサブセットを造形し得る。図6を参照して説明すると、N=3の時、3Dプリンタヘッド1は、第1領域Q1において合計24個の犠牲部3の第1サブセットを造形し、続いて第2領域Q2において合計24個の犠牲部3の第2サブセットを造形し、続いて第3領域Q3において合計24個の犠牲部3の第3サブセットを造形する。第1領域Q1の合計24個の犠牲部3と第2領域Q2の合計24個の犠牲部3は、第1領域Q1と第2領域Q2の間に非直線的な境界線を引くことができるように相補的に(図示例では相補的なジグザグ状に)配置される。同様、第2領域Q2の合計24個の犠牲部3と第3領域Q3の合計24個の犠牲部3は、第2領域Q2と第3領域Q3の間に非直線的な境界線を引くことができるように相補的(図示例では相補的なジグザグ状に)に配置される。これにより第1領域Q1、第2領域Q2、及び第3領域Q3の視覚的な区別がより困難になる。尚、N=3の時、犠牲部3の総数=72である。N=2、4,5,6,7等の場合にも上述と同様の説明が当てはまる。一つの領域における犠牲部の数の増減が可能であり、異なる領域において異なる数の犠牲部を形成することも可能である。非直線的な境界線は、ジグザグ線に限らず凸凹線であっても構わない。各犠牲部3は、行番号R1~R12及び列番号C1~C5により番地指定可能であり得る。
【0044】
金属製スリーブ4の支持面4a上に一群の犠牲部3が2次元的かつ規則的に形成される。金属製スリーブ4の支持面4a上における一群の犠牲部3の密度は、目標とする面ファスナーの係合素子の密度に対応して設定される。好適には、一群の犠牲部3は、金属製スリーブ4の支持面4aの全域に一様に形成され、これにより面ファスナーの効率的な製造が促進される。幾つかの場合、金属製スリーブ4の支持面4aを複数の領域に区画する時、各区画の犠牲部3の密度に殆ど差がなく、例えば、最大密度の区画と比較して、その他の全区画の密度が、最大密度×0.95と最大密度×1.05の間の範囲内にある。
【0045】
金属製スリーブ4を十分に薄くして可撓性を持たせることにより、ロール5a,5bから比較的簡単に取り外すことができる。犠牲部3は、金属製スリーブ4に対して必ずしも強く密着せず、外力又は金属製スリーブ4の変形によっては金属製スリーブ4から脱落するリスクがある。従って、犠牲部3が脱落しないように金属製スリーブ4を慎重に取り扱うことが望ましい。ロール5a,5bに対して両面シール又は機械的締結具(例えば、ネジ、ボルト)を用いて金属製スリーブ4を仮固定することもできる。
【0046】
上述の方法又は上述とは異なる他の方法で図7に示す電鋳用金型6が製造される。電鋳用金型6の金属製スリーブ4を繰り返し使用することができるが、一群の犠牲部3を繰り返し使用することはできない。従って、上述の3Dプリンタヘッド1、UV光源2及び搬送機構の組合せにより効率的に一群の犠牲部3を製造することに実益がある。
【0047】
図8は、電鋳処理を模式的に示す。電鋳処理は、電鋳用金型6から電鋳生成物(電鋳膜)が取り外される点を除いて電気めっきと同様である。電鋳槽51内には適切な電解液52が貯留されており、その液中に電鋳用金型6が浸漬される。電鋳用金型6が電解液に浸漬される限られた時間において電鋳用金型6の犠牲部3は、電解液に溶融することはない。電鋳用金型6の金属製スリーブ4が直流電源の陰極に接続され、金属イオン供給源の可溶性又は不溶性電極(例えば、ニッケル金属バー)53が直流電源の陽極に接続される。ニッケル金属バーを導電性の網状カゴに入れ、このカゴを陽極に接続することもできる。電極53から電解液52に溶出した金属イオン(例えば、ニッケルイオン)が電鋳用金型6に向けて泳動し、金属製スリーブ4の支持面4a上に堆積する。このようにして金属製スリーブ4の支持面4a上に電鋳スリーブ7が形成される。電鋳スリーブ7は、その剥離を許す程度に金属製スリーブ4の支持面4aに付着する。電鋳スリーブ7の材料としてニッケル以外の他の金属(例えば、ニッケル―タングステン合金、ニッケル―鉄合金)も採用可能である。
【0048】
電鋳用金型6の一群の犠牲部3の各犠牲部3は、少なくとも部分的に電鋳スリーブ7に埋設され得る。好適には、犠牲部3の全体が電鋳スリーブ7に埋設されず、そのステム部31の頂部31tが電鋳スリーブ7に埋設されない。これにより、ステム部31の縁31cに対応して成形キャビティーが縮径又は幅狭になることが回避される。尚、負担又はコストは増加するが、犠牲部3の全体が電鋳スリーブ7に埋設されるとしても、電鋳スリーブ7の表面の研削により電鋳スリーブ7を貫通する成形キャビティーを形成することは可能である。
【0049】
図9は、金属製スリーブ4から取り外した状態の電鋳スリーブ7、即ち、面ファスナー成形用金型の半製品を模式的に示す。金属製スリーブ4は電鋳スリーブ7よりも軟質であり得る。この場合、電鋳スリーブ7から金属製スリーブ4を剥離することにより金属製スリーブ4から電鋳スリーブ7が取り外される。電鋳スリーブ7は、金属製スリーブ4よりも軟質であり得る。この場合、金属製スリーブ4から電鋳スリーブ7を剥離することにより金属製スリーブ4から電鋳スリーブ7が取り外される。
【0050】
電鋳スリーブ7に犠牲部3が埋設されており、即ち、電鋳スリーブ7と犠牲部3が一体となっている。電鋳スリーブ7は、外面7aと内面7bを有する。電鋳スリーブ7は、金属製スリーブ4よりも径方向外側に形成され、従って、金属製スリーブ4に対する犠牲部3の接触面を被覆しない。この結果、電鋳スリーブ7の内面7bには規則的に犠牲部3の底面3jが露出する。ステム部31の頂部31tが電鋳スリーブ7に埋設されない場合、電鋳スリーブ7の外面7aから頂面31aが突出する。犠牲部3の底面3j及び頂部31tは、電鋳スリーブ7の各面において2次元的に規則的に配置される。尚、内面7bは、滑らかで凹凸がない湾曲面であり得る。外面7aは、内面7bと比較して凹凸した湾曲面(凸凹面)であり得る。頂部31tの突出の程度は非一様であり得る。
【0051】
電鋳処理では、電流が犠牲部3の近傍に流れやすく、犠牲部3の近傍で電鋳スリーブ7が厚く形成されてしまう傾向がある。このような観点から意図的に犠牲部3の高さを高く形成しておくと良く、この関係からも好適にはステム部31の頂部31tが電鋳スリーブ7に埋設されない。尚、作図の便宜上、電鋳スリーブ7の厚みのバラツキについては明示的に図示していない。
【0052】
図10は、電鋳スリーブ7から犠牲部3を除去する非限定の一例の化学的処理を示す。図10に示すように犠牲部3が埋設された電鋳スリーブ7を酸性、アルカリ性、有機溶剤、他の種類の溶剤の溶液200に浸漬し、犠牲部3を溶解又は膨潤させる。このようにして一群の犠牲部3が除去されて一群の成形キャビティー8が形成された電鋳スリーブ7(即ち、面ファスナー成形用金型)が得られる。犠牲部3の除去のためにドライエッチングといった他の様々な方法も採用可能である。犠牲部3の除去のために接着テープを利用することもできる。例えば、電鋳スリーブ7の内面7bに接着テープを貼り付け、接着テープを剥がすことによって電鋳スリーブ7から犠牲部3を除去する。他の方法も採用可能である。
【0053】
図11は、犠牲部3が除去された電鋳スリーブ7、即ち、面ファスナー成形用金型を示す。成形キャビティー8は、電鋳スリーブ7の外面7aと内面7bの間で電鋳スリーブ7を貫通し、かつその貫通方向において変化する幅又は直径を有する。成形キャビティー8の第1開口端8aが電鋳スリーブ7の外面7aにあり、成形キャビティー8の第2開口端8bが電鋳スリーブ7の内面7bにある。成形キャビティー8は、電鋳スリーブ7の外面7aと内面7bの間を貫通する開口径が一定のステム成形空間と、第2開口端8bでステム成形空間に空間的に連通した爪部成形空間を有する。爪部成形空間の連通によって、第2開口端8bの直径又は最大径が、第1開口端8aの直径又は最大径よりも大きくなる。特には、上述のステム成形空間のおかげで面ファスナー40の係合素子42のステム部61がより直立した形状に成形され、これにより係合素子42の柔軟性が高められる。また、典型的には第2開口端8bではなく第1開口端8aを介して成形キャビティー8に樹脂が円滑に流入するため成形キャビティー8の充填不足といった問題も生じにくい。
【0054】
図11は、電鋳スリーブ7の外面7aを研磨する研磨機210も図示する。上述のように、電鋳処理では、犠牲部3の近傍において電鋳スリーブ7が厚く形成される傾向がある。電鋳スリーブ7の外面7aが凸凹した湾曲面(凸凹面)であると、面ファスナー40の基層41の主面も凸凹面となってしまう。このような事態を回避又は抑制するため、図12に模式的に示すように研磨機210により電鋳スリーブ7の表面の凸凹面を研磨することが望ましい。研磨機210は、例えば、所定位置において回転可能な研磨ロールを有する。研磨機210の作動中に電鋳スリーブ7が回転させられて電鋳スリーブ7の凸凹面が研磨されて平坦化される。研磨紙を用いた手作業による研磨も追加又は代替的に採用可能である。
【0055】
図12を参照して上述の方法で製造した面ファスナー成形用金型を用いて面ファスナーを製造する方法について説明する。図12に示すように、面ファスナーの製造装置は、押出機21、電鋳スリーブ7に一群の成形キャビティー8が形成されたダイホイール(面ファスナー成形用金型)9が取り付けられた回転機28、送りロール22,23、加圧ロール24,25、及び延伸部26を含む。
【0056】
押出機21から押し出された溶融又は軟化した材料(例えば、合成樹脂)が回転機28により回転されているダイホイール9の周面9a(電鋳スリーブ7の外面7a)に供給され、かつダイホイール9の成形キャビティー8内に(その第1開口端8aを介して)充填される。尚、成形キャビティー8の第2開口端8bは回転機28への装着により閉じられている。押出機21とダイホイール9の周面9aの間隔によって面ファスナー40の基層41の厚みが画定される。ダイホイール9により成形された面ファスナー40は送りロール22,23によって引かれてダイホイール9から離型される。このタイミングにおいて(例えば、冷却槽27の冷却液への部分的な浸漬によって)成形キャビティー8に充填された樹脂がその形状を保持可能な程度に硬化している。従って、面ファスナー40の係合素子42は、成形キャビティー8の成形空間に対応した形状のまま成形キャビティー8から上手く引き抜かれる。この時の係合素子42の配置密度は、150個/cm2~400個/cm2の範囲内、好ましくは200個/cm2~300個/cm2であり得る。
【0057】
図13及び図14を参照して説明する。送りロール22,23によって引かれてダイホイール9から離型された係合素子42は、犠牲部3のステム部31に対応するステム部61と、犠牲部3の爪部32,33に対応する爪部62,63を有する。ステム部61は、典型的にはステム部31よりも低い。ステム部31の頂部31tが電鋳スリーブ7に埋設されないためである。他方、爪部62,63の形状は爪部32,33と同等であり得る。
【0058】
ステム部61は、基層41の主面に直立に立設される。ステム部61の側面61aは、基層41の上面に対して垂直に立設されており、従って、ステム部61の幅又は直径W61は、係合素子42の中心線CLに沿って実質的に一定である。実質的に一定であることは、中心線CL沿いの異なる位置での全ての幅又は直径が、その平均値の上下5%以内であることを意味する。
【0059】
送りロール22,23によって引かれてダイホイール9から離型された係合素子42の爪部62,63は、ステム部61の上端から径方向外側に突出し、オプションとしてその先端に向かって厚みが漸減する。爪部62,63は、基層41側の係合面62a,63aと、これとは反対側の反対面62b,63bを有する。係合面62a,63aは、ステム部61から径方向外側に離れるに応じて基層41から離れるように湾曲する。これは、3Dプリンタヘッド1によって金属製スリーブ4上に滴下された材料粒子の形状に応じたものであり得る。係合素子42の中心線CLと係合面62a,63aの接線L1のなす角度の最小値は、例えば、30°~70°の範囲内であっても良い。また、係合面62a,63aは、反対面62b,63bに向く全ての面が弧面状に形成される。これは、3Dプリンタヘッド1による材料粒子の滴下により形成された犠牲部3を用いて成形キャビティー8を形成したことの帰結であり得る。
【0060】
反対面62b,63bは、典型的には平坦面であって、基層41の主面に対して平行に配向される。ステム部61の頂面61bに対して反対面62b,63bが結合して係合素子42の頂面64が形成される。頂面64の平坦さは、金属製スリーブ4の支持面4aに対応したものであり得る。爪部62,63と基層41の間には間隔SP1があり、ステム部61から離れるに応じて漸増する。面ファスナーの雌ループは、爪部62,63に係合可能であるが、面ファスナー40の性能又は商品価値の向上のため後述のように二次及び/又は三次成形を実施することもできる。
【0061】
図12に戻って説明する。ダイホイール9から離型された面ファスナー40は、加圧ロール24,25により二次成形され、続いて延伸部26により三次成形される。ダイホイール9から離型された面ファスナー40を一次成形品と呼ぶ場合がある。二次成形によって面ファスナー40の係合素子42の形状が変わる(基層41に変化はない)。三次成形によって基層41が引き伸ばされて薄くなる(基層41が延ばされることに伴って係合素子42の形状が変化し得る)。三次成形後の係合素子の配置密度は、150個/cm2~400個/cm2の範囲内であり得る。三次成形において、200%延伸とする場合、三次成形前の係合素子の配置密度は、300個/cm2~800個/cm2にすることができる。また、三次成形において、150%延伸とする場合、三次成形前の係合素子の配置密度は、225個/cm2~600個/cm2にすることができる。
【0062】
加圧ロール24,25により面ファスナー40の一次成形品がその厚み方向において加圧されて係合素子42のステム部61の頂部が径方向外側に押し広げられる。係合素子42の中心線CLの径方向外側にステム部61の頂部が広がって円板状の係合頭部が形成される。爪部62,63は、この円板状の係合頭部から更に中心線CLの径方向外側に突出する。即ち、二次成形後の係合素子42は、係合頭部と爪部という位置及び寸法が異なる2種類の係合部を有し、これにより係合素子42の係合性能が高められる。このとき、爪部62,63は、その先端が基層41に向くように下方に垂れ下げられていても良い。また、加圧ロール24,25による潰し量の程度を調整することにより、円板状の係合頭部が形成されずに、ステム部61の頂部の周面から基層41に向けて下方に垂れる爪部62,63を有する面ファスナー40を得ることも可能である。
【0063】
延伸部26は、面ファスナー40の一次成形品又は二次成形品をその長手方向において引き伸ばすように動作する。この目的のために回転速度が異なる複数のロールを用いることができる。例えば、面ファスナー40の搬送方向の下流側に回転速度が相対的に大きいロールを配置し、ロール間の回転速度差に応じて面ファスナー40を引き伸ばす。面ファスナー40の基層41が引き伸ばされ、その厚みが減じられ、かつ面ファスナー40における係合素子42の密度が低下する。尚、おむつの止めテープ用として係合素子密度が低い薄厚の面ファスナー(即ち、肌触りが優しく柔軟性が高い面ファスナー)に関する市場要求がある。
【0064】
面ファスナー40の基層41が引き伸ばされるに応じてステム部61も僅かに変形し得る。例えば、基層41に連結したステム部61の基端部は、爪部62,63が連結したステム部61の先端部よりも僅かに幅又は直径が広くなり得る。そのため、三次成形後の面ファスナー40においてステム部61の直径を一様にしたい場合、犠牲部3のステム部31の直径を頂面31aに向けて先細りの形状にしておくことも考えられる。
【0065】
押出機21とダイホイール9の位置関係について様々な変更が可能である。ダイホイール9に隣接して他の追加のホイールを配備することもできる。また、2つのホイール間に樹脂を流し込むような形態で押出機21を配置しても良い。
【0066】
図15及び図16の比較から分かるように犠牲部3の3D形状に基づいて一次成形品の係合素子42の3D形状が構成される。係合素子42の3D形状は、(上述したように完全一致しない場合も含めて)犠牲部3の3D形状を反映し、より端的には、その反転形状を持つ。犠牲部3の造形のため、適切な造形技術を利用することができ、犠牲部3を異なる又はより複雑な形状に造形することもできる。この帰結として、係合素子42も異なる又はより複雑な形状になる。図17は、ほんの一例としてステム部61に対して合計6つの爪部が連結した係合素子42を示す。即ち、爪部62,63の間に合計4つの追加の爪部がある。このような形状の係合素子42は、犠牲部3の造形に基づいて比較的簡単に成形可能である。
【0067】
実施例
図2に示した装置で電鋳用金型を製造した。3Dプリンタヘッドから吐出したレジストを紫外線で半硬化させて犠牲部を形成し、最後に一群の犠牲部に対して紫外線を照射して硬化を更に促進した。続いてニッケル電鋳処理をして犠牲部が埋設したニッケル製の電鋳スリーブを形成した。続いて、有機溶剤(N-メチル-2ピロリドン)に電鋳スリーブを浸漬して犠牲部を膨潤除去した。続いて、図12に示した装置で面ファスナーを製造した。図18は、面ファスナーの上面を写した写真である。図19は、面ファスナーの側面を写した写真である。このように係合素子が適切に成形されており、ステム部に対する爪部の連結位置のバラツキがなく(一群の係合素子において一定)、またステム部が略同一径で直立している。尚、図18,19は、上述の二次及び三次成形をしていない面ファスナーの写真を示す。
【0068】
電鋳用金型は、幅方向0.7mmピッチ、周方向0.3mmピッチで犠牲部3が格子状に並ぶように製造した。これにより製造された電鋳スリーブは、幅方向0.7mmピッチ、周方向0.3mmピッチで格子状に形成された貫通穴を有する。この電鋳スリーブを用いて製造された面ファスナーの一次成形品は、基層41の厚さが0.08mmであった。一次成形品は、二次成形後に三次成形として機械方向に(電鋳スリーブの周方向に)200%延伸加工され、三次成形後の面ファスナーは基層41の厚さが0.04mmであった。また、係合素子42は、基層41上において幅方向0.6mmピッチ、周方向0.6mmピッチで配置された。三次成形で機械方向に延伸加工されたことにより、面ファスナーは主に基層41において延伸方向に分子配向を有している。
【0069】
特許文献1との比較において本開示の優位性について説明する。特許文献1に開示されたもののうち量産に適したダイホイールは、同文献の図37に示したものの如く、内側と外側の円筒体の組み合わせから構築され、これについて実際に試作した。図20(a)は、内側の円筒体82に溝84が形成され、外側の円筒体81に貫通穴83が形成されることを示し、図20(b)は、押出機から押し出された樹脂が貫通穴83と溝84の一部に充填された状態を示す。貫通穴83に充填された部分がステム部となる。溝84に充填された部分が爪部になる。ステム部は、二次成形されて係合頭部を有することになるがその図示は省略する。
【0070】
図21は、円筒体81に電子ビームにより貫通穴を形成する工程を示す。円筒体81の対象部分がバッキング材85上に積層され、電子ビームにより円筒体81に穴が形成される。電子ビームがバッキング材85に照射される時にバッキング材85の構成材が飛散して開口幅が大きくなる。開口幅は、バッキング材85から離れた側においてより大きくなる。このことは、面ファスナーの基層側のステム部の直径が大きくなることに帰結する。面ファスナーの基層側のステム部の拡径により、ステム部のピッチ(貫通穴の配列ピッチ)を狭めることに限界がある。図12に示すような延伸部26を用いて薄厚の面ファスナーを得る場合、延伸後に所望の係合素子密度を得るために一次成形品の段階では係合素子密度を高めておく。貫通穴を電子ビームにより形成する場合には、ステム部のピッチを狭めることに限界があり、高倍率の延伸に対応可能な一次成形品を得ることができなかった。
【0071】
図22は、内側と外側の円筒体のミスアライメントにより係合素子42’の係合頭部65における爪部62’,63’の位置にバラツキがあることを示す。内側の円筒体82の製造公差と、外側の円筒体81の製造公差が累積し、係合素子42’の位置によって係合頭部65への爪部62’,63’の位置が異なる。公差累積による位置ズレの問題の解消は比較的大型な面ファスナー成形用金型においては困難である。また、係合素子42’の係合頭部65における爪部62’,63’の位置にバラツキがあることにより、面ファスナーの部位によってループ部材との係合強度や手触り感にバラつきが生じ得る。
【0072】
本開示の方法及び装置によれば、図21及び図22に関して述べた技術的課題が解決されるか、少なくともその顕在化が抑制される。
【0073】
上述の開示を踏まえ、当業者は、各特徴及び各実施形態に対して様々な変更を加えることができる。請求の範囲に盛り込まれた符号は、参考のためであり、請求の範囲を限定解釈する目的で参照されるべきものではない。
【符号の説明】
【0074】
1 :3Dプリンタヘッド
3 :犠牲部
4 :金属製スリーブ
4a :支持面
6 :電鋳用金型
7 :電鋳スリーブ
8 :成形キャビティー
40 :面ファスナー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22