(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001990
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】滑り軸受焼付き予兆検知方法および該装置
(51)【国際特許分類】
G01M 13/045 20190101AFI20241226BHJP
【FI】
G01M13/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101840
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】上村 祥平
(72)【発明者】
【氏名】菊池 政寛
(72)【発明者】
【氏名】在原 広敏
(72)【発明者】
【氏名】長谷 亜蘭
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AC03
2G024AC05
2G024BA19
2G024BA21
2G024BA27
2G024CA13
2G024DA09
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA15
(57)【要約】
【課題】本発明は、滑り軸受の焼付き予兆を検知可能な滑り軸受焼付き予兆検知方法および滑り軸受焼付き予兆検知装置を提供する。
【解決手段】本発明の滑り軸受焼付き予兆検知方法は、滑り軸受で生じる振動を検出した時系列な振動データを取得するデータ取得工程S1と、データ取得工程S1で取得した振動データを、時間と周波数とを同時に解析する解析方法によって解析する解析工程S3と、解析工程S3で解析した解析結果に基づいて、周波数の横軸と、スペクトル強度に、周波数または重み付けした周波数を乗算したスペクトル強度×周波数の縦軸とを備える座標系のグラフを生成するグラフ生成工程S4と、グラフ生成工程S4で生成したグラフにおける所定の周波数範囲に極大点を有するか否かを判定することによって、前記滑り軸受の焼付き予兆の有無を判定する判定工程S5とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑り軸受で生じる振動を検出した時系列な振動データを取得するデータ取得工程と、
前記データ取得工程で取得した振動データを、時間と周波数とを同時に解析する解析方法によって解析する解析工程と、
前記解析工程で解析した解析結果に基づいて、周波数の横軸と、スペクトル強度に、周波数または重み付けした周波数を乗算したスペクトル強度×周波数の縦軸とを備える座標系のグラフを生成するグラフ生成工程と、
前記グラフ生成工程で生成したグラフにおける所定の周波数範囲に極大点を有するか否かを判定することによって、前記滑り軸受の焼付き予兆の有無を判定する判定工程とを備える、
滑り軸受焼付き予兆検知方法。
【請求項2】
前記解析方法は、ウェーブレット変換を用いた解析方法であり、
前記グラフ生成工程は、複数のウェーブレットそれぞれによって得られた複数の周波数スペクトルにおいて、所定の周波数間隔での複数の周波数それぞれについて、当該周波数におけるスペクトル強度の平均値を求め、前記求めた平均値に当該周波数または重み付けした当該周波数を乗算し、前記座標系に、当該周波数に前記乗算した乗算結果をプロットすることによって前記グラフを生成する、
請求項1に記載の滑り軸受焼付き予兆検知方法。
【請求項3】
前記判定工程は、前記グラフの傾きの符号が変化するか否かによって前記極大点を有するか否かを判定する、
請求項1に記載の滑り軸受焼付き予兆検知方法。
【請求項4】
滑り軸受で生じる振動を検出した時系列な振動データを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部で取得した振動データを、時間と周波数とを同時に解析する解析方法によって解析する解析部と、
前記解析部で解析した解析結果に基づいて、周波数の横軸と、スペクトル強度に、周波数または重み付けした周波数を乗算したスペクトル強度×周波数の縦軸とを備える座標系のグラフを生成するグラフ生成部と、
前記グラフ生成部で生成したグラフにおける所定の周波数範囲に極大点を有するか否かを判定することによって、前記滑り軸受の焼付き予兆の有無を判定する判定部とを備える、
滑り軸受焼付き予兆検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り軸受の焼付き予兆を検知する滑り軸受焼付き予兆検知方法および滑り軸受焼付き予兆検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転運動や往復運動等を伴う、様々な種類の装置には、前記回転運動や往復運動等に対し、軸をスムーズに動かすために、前記軸を支える軸受が用いられている。この軸受に異常が生じると、スムーズな運動が阻害され、前記装置の故障等を生じる虞がある。このため、前記軸受の状態を検知することが要望されている。前記軸受は、一般に、転がり軸受と滑り軸受とに大別される。前記転がり軸受は、例えば玉やころ等の転動体を2つの部材(軸および軌道輪)の間に置くことで荷重を支える装置である。前記滑り軸受は、軸と軸受の面とが直接接触し、軸の動きを面で支える装置である。前記転がり軸受の状態を検知する技術は、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記転がり軸受の状態を検知する技術は、その損傷メカニズムの研究および理解が進んでおり、前記特許文献1のように、種々、存在する。しかしながら、前記滑り軸受における損傷メカニズムは、解明されておらず、前記滑り軸受の状態の検知が望まれている。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、滑り軸受の焼付き予兆を検知可能な滑り軸受焼付き予兆検知方法および滑り軸受焼付き予兆検知装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる滑り軸受焼付き予兆検知方法は、滑り軸受で生じる振動を検出した時系列な振動データを取得するデータ取得工程と、前記データ取得工程で取得した振動データを、時間と周波数とを同時に解析する解析方法によって解析する解析工程と、前記解析工程で解析した解析結果に基づいて、周波数の横軸と、スペクトル強度に、周波数または重み付けした周波数を乗算したスペクトル強度×周波数の縦軸とを備える座標系のグラフを生成するグラフ生成工程と、前記グラフ生成工程で生成したグラフにおける所定の周波数範囲に極大点を有するか否かを判定することによって、前記滑り軸受の焼付き予兆の有無を判定する判定工程とを備える。
【0007】
これによれば、周波数と(スペクトル強度)×(周波数)との座標系でのグラフに極大値を有するか否かを判定することで、滑り軸受の焼付き予兆の有無を判定する滑り軸受焼付き予兆検知方法が提供できる。
【0008】
他の一態様では、上述の滑り軸受焼付き予兆検知方法において、前記解析方法は、ウェーブレット変換を用いた解析方法であり、前記グラフ生成工程は、複数のウェーブレットそれぞれによって得られた複数の周波数スペクトルにおいて、所定の周波数間隔での複数の周波数それぞれについて、当該周波数におけるスペクトル強度の平均値を求め、前記求めた平均値に当該周波数または重み付けした当該周波数を乗算し、前記座標系に、当該周波数に前記乗算した乗算結果をプロットすることによって前記グラフを生成する。
【0009】
これによれば、前記解析方法に、ウェーブレット変換を用いた滑り軸受焼付き予兆検知方法が提供できる。
【0010】
他の一態様では、上述の滑り軸受焼付き予兆検知方法において、前記判定工程は、前記グラフの傾きの符号が変化するか否かによって前記極大点を有するか否かを判定する。
【0011】
これによれば、前記グラフの傾きの符号が変化するか否かによって前記極大点を有するか否かを判定する滑り軸受焼付き予兆検知方法が提供できる。
【0012】
本発明の一態様にかかる滑り軸受焼付き予兆検知装置は、滑り軸受で生じる振動を検出した時系列な振動データを取得するデータ取得部と、前記データ取得部で取得した振動データを、時間と周波数とを同時に解析する解析方法によって解析する解析部と、前記解析部で解析した解析結果に基づいて、周波数の横軸と、スペクトル強度に、周波数または重み付けした周波数を乗算したスペクトル強度×周波数の縦軸とを備える座標系のグラフを生成するグラフ生成部と、前記グラフ生成部で生成したグラフにおける所定の周波数範囲に極大点を有するか否かを判定することによって、前記滑り軸受の焼付き予兆の有無を判定する判定部とを備える。好ましくは、上述の滑り軸受焼付き予兆検知装置において、前記データ取得部は、前記データ取得部は、前記滑り軸受、または、前記滑り軸受で生じる振動を伝播する部材に取り付けられた加速度センサまたはAE(Acoustic Emission)センサである。
【0013】
これによれば、周波数と(スペクトル強度)×(周波数)との座標系でのグラフに極大値を有するか否かを判定することで、滑り軸受の焼付き予兆の有無を判定する滑り軸受焼付き予兆検知装置が提供できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる滑り軸受焼付き予兆検知方法および滑り軸受焼付き予兆検知装置では、滑り軸受の焼付き予兆が検知可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態における滑り軸受焼付き予兆検知装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】前記滑り軸受焼付き予兆検知装置におけるAEセンサ(データ取得部1の一例)の配設状況を説明するための模式図である。
【
図3】前記滑り軸受焼付き予兆検知装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】一例として、軸受摩擦試験による平均化振動データを示すグラフである。
【
図5】
図4に示す平均化振動データから求めた、周波数に対するスペクトル強度のグラフである。
【
図6】
図4に示す平均化振動データから求めた、周波数に対する(スペクトル強度)×(周波数)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0017】
実施形態における滑り軸受焼付き予兆検知装置は、滑り軸受の焼付きの予兆を検知する装置であり、データ取得部と、解析部と、グラフ生成部と、判定部とを備える。前記データ取得部は、滑り軸受で生じる振動を検出した時系列な振動データを取得するものである。前記解析部は、前記データ取得部で取得した振動データを、時間と周波数とを同時に解析する解析方法によって解析するものである。前記グラフ生成部は、前記解析部で解析した解析結果に基づいて、周波数の横軸と、スペクトル強度に、周波数を乗算したスペクトル強度×周波数の縦軸とを備える座標系のグラフを生成するものである。前記判定部は、前記グラフ生成部で生成したグラフにおける所定の周波数範囲に極大点を有するか否かを判定することによって、前記滑り軸受の焼付き予兆の有無を判定するものである。以下、このような滑り軸受焼付き予兆検知装置、および、これに実装される滑り軸受焼付き予兆検知方法について、より具体的に説明する。
【0018】
図1は、実施形態における滑り軸受焼付き予兆検知装置の構成を示すブロック図である。
図2は、前記滑り軸受焼付き予兆検知装置におけるAEセンサ(データ取得部1の一例)の配設状況を説明するための模式図である。
【0019】
実施形態における滑り軸受焼付き予兆検知装置1000は、例えば、
図1に示すように、データ取得部1と、前処理部2と、制御処理部3と、入力部4と、出力部5と、インターフェース部(IF部)6と、記憶部7とを備える。
【0020】
データ取得部1は、滑り軸受で生じる振動を検出した時系列な振動データを取得する装置である。データ取得部1は、検知対象の焼付け予兆を略リアルタイムで検知するために、例えば、加速度センサやAE(Acoustic Emission)センサ等のセンサであり、検知対象の振動の周波数に応じて適宜なセンサが利用される。この加速度センサやAEセンサは、滑り軸受、または、前記滑り軸受で生じる振動を伝播する部材に取り付けられ、所定のサンプリング間隔で前記振動を検出することで、前記時系列な振動データを取得する。例えば、
図2に示すように、データ取得部1の一例であるAEセンサ1は、検知対象の滑り軸受BRで支持される回転軸AXを備える機械設備Ob(例えばその機構や筐体等)に配設される。これによって滑り軸受BRで生じて機械設備Obに伝播した滑り軸受BRの振動がAEセンサ1によって検出される。このAEセンサ1は、本実施形態では、前処理部2を介して制御処理部3に接続され、その出力を前処理部2へ出力する。
【0021】
なお、データ取得部1は、上述の加速度センサやAEセンサに限らず、他の装置であってもよい。例えば、データ取得部1は、外部の機器との間でデータを入出力するインターフェース回路である。前記外部の機器は、前記振動データを記憶した、例えばUSB(Universal Serial Bus)メモリおよびSDカード(登録商標)等の記憶媒体である。あるいは、前記外部の機器は、前記振動データを記録した、例えばCD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD-R(Compact Disc Recordable)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)およびDVD-R(Digital Versatile Disc Recordable)等の記録媒体からデータを読み込むドライブ装置である。このデータ取得部1としてのインターフェース回路は、有線または無線によって前記外部の機器に接続されてよい。あるいは、データ取得部1は、例えば、外部の機器と通信信号を送受信する通信インターフェース回路であって、前記外部の機器は、ネットワーク(WAN(Wide Area Network、公衆通信網を含む))あるいはLAN(Local Area Network)を介して前記通信インターフェース回路に接続され、前記振動データを管理するサーバ装置である。このようなデータ取得部1は、前処理部2を介することなく、制御処理部3に接続されてよい。このようなデータ取得部1では、前記振動データの生成後に、検知対象を検証できる。ここで、データ取得部1がインターフェース回路や通信インターフェース回路である場合では、データ取得部1は、IF部6と兼用されてもよい(すなわち、IF部6がデータ取得部1として用いられてもよい)。
【0022】
前処理部2は、制御処理部3に接続され、データ取得部1の出力に対し、所定の信号処理する装置であり、例えば、データ取得部1の出力を所定の増幅率で増幅する増幅器や前記増幅器で増幅されたデータ取得部1の出力を、アナログ信号からデジタル信号に変換するAD変換器等である。前処理部2は、前記所定の信号処理を施したデータ取得部1の出力を制御処理部3へ出力する。
【0023】
なお、
図1に示す例では、前処理部2は、ハードウェアで構成されたが、ソフトウェアで構成されてよく、この場合、前処理部2は、制御処理部3に機能的に構成されてよい。
【0024】
入力部4は、制御処理部3に接続され、例えば、検知の開始を指示するコマンド等の各種コマンド、および、検知対象の機械設備名等の、滑り軸受焼付き予兆検知装置1000を動作させる上で必要な各種データを前記滑り軸受焼付き予兆検知装置1000に入力する機器であり、例えば、キーボードや、マウスや、所定の機能を割り付けられた複数の入力スイッチ等である。出力部5は、制御処理部3に接続され、制御処理部3の制御に従って、入力部4から入力されたコマンドやデータ、および、後述のように判定された判定結果等を出力する機器であり、例えばCRTディスプレイ、液晶ディスプレイおよび有機ELディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0025】
なお、入力部4および出力部5からいわゆるタッチパネルが構成されてもよい。このタッチパネルを構成する場合において、入力部4は、例えば抵抗膜方式や静電容量方式等の操作位置を検出して入力する位置入力装置であり、出力部5は、表示装置である。このタッチパネルでは、前記表示装置の表示面上に前記位置入力装置が設けられ、前記表示装置に入力可能な1または複数の入力内容の候補が表示され、ユーザが、入力したい入力内容を表示した表示位置を触れると、前記位置入力装置によってその位置が検出され、検出された位置に表示された表示内容がユーザの操作入力内容として滑り軸受焼付き予兆検知装置1000に入力される。このようなタッチパネルでは、ユーザは、入力操作を直感的に理解し易いので、ユーザにとって取り扱い易い滑り軸受焼付き予兆検知装置1000が提供される。
【0026】
IF部6は、制御処理部3に接続され、制御処理部3の制御に従って、外部機器との間でデータの入出力を行う回路であり、例えば、シリアル通信方式であるRS-232Cのインターフェース回路、Bluetooth(登録商標)規格を用いたインターフェース回路、IrDA(Infrared Data Asscoiation)規格等の赤外線通信を行うインターフェース回路、および、USB(Universal Serial Bus)規格を用いたインターフェース回路等である。また、IF部6は、外部機器との間で通信を行う回路であり、例えば、データ通信カードや、IEEE802.11規格等に従った通信インターフェース回路等であってもよい。
【0027】
記憶部7は、制御処理部3に接続され、制御処理部3の制御に従って、各種の所定のプログラムおよび各種の所定のデータを記憶する回路である。前記各種の所定のプログラムには、例えば、制御処理プログラムが含まれ、前記制御処理プログラムには、制御プログラム、解析プログラム、グラフ生成プログラムおよび判定プログラム等が含まれる。前記制御プログラムは、滑り軸受焼付き予兆検知装置1000の各部1、2、4~7を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御するプログラムである。前記解析プログラムは、前記データ取得部1で取得した振動データを、時間と周波数とを同時に解析する解析方法によって解析するプログラムである。前記グラフ生成プログラムは、前記解析プログラムで解析した解析結果に基づいて、周波数の横軸と、スペクトル強度に周波数を乗算したスペクトル強度×周波数の縦軸とを備える座標系のグラフを生成するプログラムである。前記判定プログラムは、前記グラフ生成プログラムで生成したグラフにおける所定の周波数範囲に極大点を有するか否かを判定することによって、前記滑り軸受の焼付き予兆の有無を判定するプログラムである。前記各種の所定のデータには、例えば、データ取得部1で取得した振動データ等の、これら各プログラムを実行する上で必要なデータが含まれる。このような記憶部7は、例えば不揮発性の記憶素子であるROM(Read Only Memory)や書き換え可能な不揮発性の記憶素子であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等を備える。そして、記憶部7は、前記所定のプログラムの実行中に生じるデータ等を記憶するいわゆる制御処理部3のワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等を含む。なお、記憶部7は、大容量を記憶可能なハードディスク装置を備えてもよい。
【0028】
制御処理部3は、滑り軸受焼付き予兆検知装置1000の各部1、2、4~7を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、滑り軸受の焼付きの予兆を検知するための回路である。制御処理部3は、例えば、CPU(Central Processing Unit)およびその周辺回路を備えて構成される。制御処理部3には、前記制御処理プログラムが実行されることによって、制御部31、解析部32、グラフ生成部33および判定部34が機能的に構成される。
【0029】
制御部31は、滑り軸受焼付き予兆検知装置1000の各部1、2、4~7を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、滑り軸受焼付き予兆検知装置1000全体の制御を司るものである。
【0030】
解析部32は、前記データ取得部1で取得した振動データを、時間と周波数とを同時に解析する解析方法によって解析するものである。前記解析方法は、例えば、ウェーブレット変換を用いた解析方法である。前記ウェーブレット変換は、前記解析対象に含まれる時間情報と周波数情報とを同時に得る解析手法であり、互いに異なる複数のウェーブレットそれぞれについて解析対象の周波数スペクトルを求めるものである。より具体的には、解析部32は、前処理部2で前処理された、前記データ取得部1で取得した振動データの移動平均を求めることによって平均化振動データを求め、前記求めた平均化振動データをウェーブレット変換する。これによって前記複数のウェーブレットそれぞれについて、平均化振動データの各周波数スペクトルが求められる。前記移動平均では、今回のサンプリングタイミング以前の所定時間内における振動データについて、各サンプリングタイミングでの各振幅値の総和を、そのサンプリング回数で除算することによって、今回のサンプリングタイミングでの移動平均値(移動平均振幅値)が求められる。移動平均することで、平均化振動データのSN比が向上し得る。前記所定時間は、例えば、複数のサンプルから予め適宜に決定される。
【0031】
グラフ生成部33は、前記解析部32で解析した解析結果に基づいて、周波数の横軸と、スペクトル強度に周波数を乗算したスペクトル強度×周波数の縦軸とを備える座標系のグラフを生成するものである。より具体的には、グラフ生成部33は、各ウェーブレットそれぞれによって得られた各周波数スペクトルにおいて、所定周波数間隔での複数の周波数それぞれについて、当該周波数におけるスペクトル強度の平均値を求め、前記求めた平均値に当該周波数を乗算し、前記座標系に、当該周波数に前記乗算した乗算結果をプロットすることによって前記グラフを作成する。前記所定周波数間隔は、例えば、複数のサンプルから予め適宜に決定される。
【0032】
判定部34は、前記グラフ生成部33で生成したグラフにおける所定の周波数範囲に極大点を有するか否かを判定することによって、前記滑り軸受の焼付き予兆の有無を判定するものである。より具体的には、判定部34は、前記グラフの傾きの符号が変化するか否かによって前記極大点を有するか否かを判定する。極大点では、グラフの傾きが0となるので、符号の変化の有無で極大点の有無が判定できる。例えば、周波数をiとし、周波数iから微小周波数間隔dだけ離れた周波数をi+1とし、前記グラフをGとした場合、判定部34は、前記所定の周波数範囲fs~feにおいて(fs≦i≦fe)、周波数i+1の傾きGR(i+1)=(G(i+1)-G(i))/dを求め、符号の変化の有無を判定し、極大点の有無を判定する。前記所定の周波数範囲は、例えば、複数のサンプルから予め適宜に決定される。
【0033】
制御部31は、前記判定部34で判定した判定結果を出力部5から出力する。
【0034】
これら制御処理部3、入力部4、出力部5、IF部6および記憶部7は、例えば、デスクトップ型やノート型やタブレット型等のコンピュータによって構成可能である。なお、データ取得部1がインターフェース回路や通信インターフェース回路である場合には、IF部6は、データ取得部1と兼用できるので、データ取得部1も含めて、滑り軸受焼付き予兆検知装置1000は、コンピュータによって構成可能である。
【0035】
次に、本実施形態の動作について説明する。
図3は、前記滑り軸受焼付き予兆検知装置の動作を示すフローチャートである。
【0036】
このような構成の滑り軸受焼付き予兆検知装置1000は、その電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。制御処理部3には、その制御処理プログラムの実行によって、制御部31、解析部32、グラフ生成部33および判定部34が機能的に構成される。
【0037】
滑り軸受焼付き予兆検知装置1000は、予兆検知の開始を指示するコマンドを入力部4で受け付けると、予兆検知の終了を指示するコマンドを入力部4で受け付けるまで、
図3に示す各処理S1~S6を所定のサンプリング間隔で繰り返し、実行する。ここで、データ取得部1の一例であるAEセンサ1の検出結果を、前記所定時間、取得するまで、前記予兆検知のための振動データを生成できないので、前記予兆検知の開始から、前記所定時間だけ経過するまで、AEセンサ1の検出結果を取得して記憶部7に記憶する処理が前記所定のサンプリング間隔で繰り返し実行される。
【0038】
前記予兆検知の開始から、前記所定時間だけ経過し、サンプリングタイミングになると、今回のサンプリングタイミングでの処理を開始し、
図3において、まず、滑り軸受焼付き予兆検知装置1000は、制御処理部3の制御部31によって、AEセンサ1からデータを取得し(S1、データ取得工程)、前記取得したデータを前処理部2で前処理し、前記前処理した前記データ取得部1のデータを前記今回のサンプリングタイミングと対応付けて記憶部7に記憶する(S2、前処理工程)。
【0039】
続いて、滑り軸受焼付き予兆検知装置1000は、制御処理部3の解析部32によって、平均化振動データを求め、前記求めた平均化振動データをウェーブレット変換する(S3、解析工程)。
【0040】
続いて、滑り軸受焼付き予兆検知装置1000は、制御処理部3のグラフ生成部33によって、前記処理S3で解析部32によって解析した解析結果に基づいて、周波数に対する(スペクトル強度)×(周波数)のグラフを生成し、前記生成したグラフを記憶部7に記憶する(S4、グラフ生成工程)。
【0041】
続いて、滑り軸受焼付き予兆検知装置1000は、制御処理部3の判定部34によって、前記処理S4でグラフ生成部33によって生成したグラフにおける所定の周波数範囲に極大点を有するか否かを判定することによって、滑り軸受BRの焼付き予兆の有無を判定し、その判定結果を記憶部7に記憶する(S5、判定工程)。
【0042】
そして、滑り軸受焼付き予兆検知装置1000は、制御処理部3の制御部31によって、前記処理S5で判定部34によって判定された今回の判定結果を出力部5に出力し、今回のサンプリングタイミングでの本処理を終了する。なお、必要に応じて、今回の判定結果は、IF部6から外部機器へ出力されてもよい。
【0043】
焼付き予兆の検知に関し、滑り軸受焼付き予兆検知装置1000は、このように動作する。
【0044】
一具体例として、実際に軸受摩擦試験装置を用いて、滑り軸受BRに荷重を負荷して回転させた場合に対し、滑り軸受焼付き予兆検知装置1000を用いた結果について、説明する。
【0045】
図4は、一例として、軸受摩擦試験による平均化振動データを示すグラフである。
図4の横軸は、試験開始からの経過時間[分]であり、その縦軸は、振幅値(AEセンサ1の出力電圧値[V])である。
図5は、
図4に示す平均化振動データから求めた、周波数に対するスペクトル強度のグラフ(f-aグラフ)である。
図5Aは、
図4に示すサンプル点M1~M4における各f-aグラフを示し、
図5Bは、
図4に示すサンプル点M5~M8における各f-aグラフを示す。
図6は、
図4に示す平均化振動データから求めた、周波数に対する(スペクトル強度)×(周波数)のグラフ(f-afグラフ)である。
図6Aは、
図4に示すサンプル点M1~M4における各f-afグラフを示し、
図6Bは、
図4に示すサンプル点M5~M8における各f-afグラフを示す。
【0046】
φ10の滑り軸受に対し、回転数1200[rpm]、荷重31.4[N]の連続運転で軸受摩擦試験を実施したところ、平均化振動データにおいて、
図4に示すように、回転開始から約20分まででは、振幅が大きく振り切れていないが、前記約20分以降では、振幅が大きく振り切れることがあり、回転開始から約25分後に焼付きが発生し、その回転が停止した。
【0047】
そこで、回転開始から20分までの範囲において、任意の時刻で4個の第1ないし第4サンプル点M1~M4が設定され、前記20分以降の範囲において、任意の時刻で4個の第5ないし第8サンプル点が設定され、第1ないし第8サンプル点M1~M8それぞれについて、1[ms]の平均化振動データが抽出され、解析が行われた。
【0048】
前記解析では、まず、第1ないし第8サンプル点M1~M8の各平均化振動データそれぞれについて、ウェーブレット変換が実施され、所定周波数間隔での複数の周波数それぞれについて、当該周波数におけるスペクトル強度の平均値が求められ、周波数に対するスペクトル強度のグラフ(f-aグラフ)が生成された。その結果が
図5に示されている。
図5Aにおいて、第1サンプル点M1のf-aグラフは、実線で示され、第2サンプル点M2のf-aグラフは、短破線(・・・)で示され、第3サンプル点M3のf-aグラフは、一点鎖線で示され、第4サンプル点M4のf-aグラフは、長破線(- - -)で示されている。
図5Bにおいて、第5サンプル点M5のf-aグラフは、実線で示され、第6サンプル点M6のf-aグラフは、短破線(・・・)で示され、第7サンプル点M7のf-aグラフは、一点鎖線で示され、第8サンプル点M8のf-aグラフは、長破線(- - -)で示されている。
図5Aに示す第1ないし第4f-aグラフと
図5Bに示す第5ないし第8f-aグラフとを比較すると、ピーク値の大きさが異なるものの、いずれのf-aグラフも低周波数側に複数のピーク(
図5に示す例では0~500[kHz]の範囲に3個のピーク)を持つプロファイルになっており、
図5Aに示す第1ないし第4f-aグラフと
図5Bに示す第5ないし第8f-aグラフとを有意に差別化することが難しい。これは、AEは、高周波になるほど減衰し易く信号が弱くなるためであり、焼付き前の予兆がf-aグラフには、現れない、と推察される。
【0049】
そこで、発明者は、高周波になるほど弱くなる信号を強調するために、さらに、当該周波数におけるスペクトル強度の平均値に、当該周波数を乗算し、周波数に対する(スペクトル強度)×(周波数)のグラフ(f-afグラフ)を生成した。その結果が
図6に示されている。
図5と同様に、
図6Aにおいて、第1サンプル点M1のf-afグラフは、実線で示され、第2サンプル点M2のf-afグラフは、短破線(・・・)で示され、第3サンプル点M3のf-afグラフは、一点鎖線で示され、第4サンプル点M4のf-afグラフは、長破線(- - -)で示されている。
図6Bにおいて、第5サンプル点M5のf-afグラフは、実線で示され、第6サンプル点M6のf-afグラフは、短破線(・・・)で示され、第7サンプル点M7のf-afグラフは、一点鎖線で示され、第8サンプル点M8のf-afグラフは、長破線(- - -)で示されている。
図6Aに示す第1ないし第4f-afグラフと
図6Bに示す第5ないし第8f-afグラフとを比較すると、
図6Bに示す第5ないし第8f-afグラフでは、
図6Aに示す第1ないし第4f-afグラフに対し、約750[kHz]から約1250[kHz]までの周波数帯域において、約800[kHz]にもピークが生じている。このため、約750[kHz]から1250[kHz]までの周波数帯域において、極大値の有無をモニタ(監視)し、極大値の有無で、通常の回転状態から、前記通常の回転状態から異なる回転状態となって焼付きが生じる前の事象である焼付きの予兆の有無が判定できる。
【0050】
以上説明したように、実施形態における滑り軸受焼付き予兆検知装置1000およびこれに実装された滑り軸受焼付き予兆検知方法は、周波数と(スペクトル強度)×(周波数)との座標系でのグラフに極大値を有するか否かを判定することで、滑り軸受の焼付き予兆の有無を判定し得る。
【0051】
本実施形態によれば、前記解析方法に、ウェーブレット変換を用いた滑り軸受焼付き予兆検知装置1000および滑り軸受焼付き予兆検知方法が提供できる。
【0052】
本実施形態によれば、前記グラフの傾きの符号が変化するか否かによって前記極大点を有するか否かを判定する滑り軸受焼付き予兆検知装置1000および滑り軸受焼付き予兆検知方法が提供できる。
【0053】
なお、上述の実施形態では、グラフ生成部33は、スペクトル強度に、周波数を乗算することによってグラフを生成したが、スペクトル強度に、重み付けした周波数を乗算してもよい。この場合では、前記グラフ生成部は、解析部32で解析した解析結果に基づいて、周波数の横軸と、スペクトル強度に、重み付けした周波数を乗算したスペクトル強度×周波数の縦軸とを備える座標系のグラフを生成する。より具体的には、前記グラフ生成部は、複数のウェーブレットそれぞれによって得られた複数の周波数スペクトルにおいて、所定の周波数間隔での複数の周波数それぞれについて、当該周波数におけるスペクトル強度の平均値を求め、前記求めた平均値に重み付けした当該周波数を乗算し、前記座標系に、当該周波数に前記乗算した乗算結果をプロットすることによって前記グラフを生成する。重みWは、周波数fに応じて例えば複数のサンプルから予め適宜に設定され、記憶部7に予め記憶される。重みWは、例えば、経験則に照らして予め決定される周波数帯f1~f2(f1<f2)において、W=Kf0(Kは定数(K>0)、f1≦f0≦f1))等が好適に採用される。あるいは、例えば、重みWは、注目周波数ftの重みW(ft)が他の重みWより大きくなるように設定される。これにより注目周波数ftを強調したグラフが生成でき、注目周波数ftを走査し、滑り軸受の焼付きを評価し、その評価結果で注目周波数ftを決定することで、滑り軸受の焼付きの有無を好適に判定できる。
【0054】
また、上述の実施形態では、滑り軸受の焼付き予兆の有無を判定したが、滑り軸受の焼付きの程度を表す指標値が求められてもよい。この場合では、前記グラフ生成部は、予め設定された基準時点でのグラフと診断時点でのグラフを生成し、滑り軸受診断装置としての滑り軸受焼付き予兆検知装置1000は、前記判定部に代え、前記グラフ生成部で生成した前記基準時点でのグラフと前記診断時点でのグラフとの差に基づいて、前記滑り軸受の焼付きの程度を表す指標値を診断結果として求める指標値演算部を備える。前記差は、例えば、数波数スペクトルの周波数全体における各周波数それぞれについて、当該周波数における前記基準時点でのグラフと前記診断時点でのグラフとの差分を求め、各差分の総和を求めることによって求められる。前記差が大きいほど、前記滑り軸受の焼付きが進行しており、前記指標値は、大きくなる。前記指標値演算部は、例えばこのような前記差と前記指標値との対応関係を予め記憶し、前記差を前記対応関係に基づき前記指標値に変換する。前記基準時点は、前記滑り軸受に焼付きが生じていないタイミング、例えば、新規に使用を開始した時点やメンテナンスを行って使用を再開した時点等である。これによれば、前記指標値を参照することによって、ユーザ(オペレータ)は、滑り軸受の焼付き具合を判定できる。
【0055】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0056】
1000 滑り軸受焼付き予兆検知装置
1 データ取得部
3 制御処理部
6 インターフェース部(IF部)
7 記憶部
31 制御部
32 解析部
33 グラフ生成部
34 判定部