(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019904
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】射出成形機の加熱筒断熱方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B29C 45/78 20060101AFI20250131BHJP
B29C 45/62 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
B29C45/78
B29C45/62
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123795
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000227054
【氏名又は名称】日精樹脂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 利美
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AK05
4F206AK14
4F206AP051
4F206AR061
4F206JA07
4F206JL02
4F206JP11
4F206JP17
4F206JQ46
4F206JQ47
4F206JQ90
4F206JT07
4F206JT22
(57)【要約】
【課題】 良好な断熱機能を含む加熱機能及び冷却機能を維持しつつ温度制御時における良好な応答性を確保し、成形サイクルの短縮による量産性の向上及び不良品の低減による歩止率の向上を図る。
【解決手段】 加熱部3の外周部3fに付設し、かつ内部に真空制御空間5を形成した断熱層部4と、真空制御空間5を真空可能にする真空手段6と、真空制御空間5を密閉可能にする密閉手段7と、真空制御空間5の密閉を解除する密閉解除手段8とを設け、加熱筒2の温度制御時に、温度制御の状態に対応して、密閉手段7又は密閉解除手段8を切換制御し、少なくとも真空制御空間5を真空断熱モードMv又は真空断熱解除モードMrに切換える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも加熱部を装着した加熱筒に対して断熱を行う射出成形機の加熱筒断熱方法において、予め、前記加熱部の外周部に付設し、かつ内部に真空制御空間を形成した断熱層部と、前記真空制御空間を真空可能にする真空手段と、前記真空制御空間を密閉可能にする密閉手段と、前記真空制御空間の密閉を解除する密閉解除手段とを設け、前記加熱筒の温度制御時に、温度制御の状態に対応して、前記密閉手段又は前記密閉解除手段を切換制御し、少なくとも前記真空制御空間を真空断熱モード又は真空断熱解除モードに切換えることを特徴とする射出成形機の加熱筒断熱方法。
【請求項2】
前記加熱部をONにして前記加熱筒を加熱する加熱制御時に、前記真空断熱モードに切換制御するとともに、前記加熱部をOFFにして前記加熱筒の加熱を解除する冷却制御時に、前記真空断熱解除モードに切換制御することを特徴とする請求項1記載の射出成形機の加熱筒断熱方法。
【請求項3】
前記冷却制御時には、前記真空手段により、前記真空制御空間の内部を吸引し、当該真空制御空間に外気を流通させることを特徴とする請求項2記載の射出成形機の加熱筒断熱方法。
【請求項4】
少なくとも加熱部を装着した加熱筒に対して断熱を行う射出成形機の加熱筒断熱装置において、前記加熱部の外周部に付設し、かつ内部に真空制御空間を形成した断熱層部と、前記真空制御空間を真空可能にする真空手段と、前記真空制御空間を密閉可能にする密閉手段と、前記真空制御空間の密閉を解除する密閉解除手段と、前記加熱筒の温度制御時に、当該温度制御の状態に対応して前記密閉手段又は前記密閉解除手段を切換制御し、少なくとも前記真空制御空間を真空断熱モード又は真空断熱解除モードに切換える成形機コントローラとを備えることを特徴とする射出成形機の加熱筒断熱装置。
【請求項5】
前記真空手段は、前記真空制御空間の内部を吸引する真空ポンプを用いることを特徴とする請求項4記載の射出成形機の加熱筒断熱装置。
【請求項6】
前記加熱部は、バンドヒータを用いることを特徴とする請求項4記載の射出成形機の加熱筒断熱装置。
【請求項7】
前記断熱層部は、前記バンドヒータの外周面の全部又は一部を覆い、かつ内部にリング状の前記真空制御空間を有するバンド状に構成することを特徴とする請求項6記載の射出成形機の加熱筒断熱装置。
【請求項8】
前記密閉手段は、前記真空制御空間と前記真空手段間に接続した逆止弁を用いることを特徴とする請求項4記載の射出成形機の加熱筒断熱装置。
【請求項9】
前記密閉解除手段は、前記真空制御空間と大気間に接続した開閉弁を用いることを特徴とする請求項4記載の射出成形機の加熱筒断熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機の加熱筒の断熱に用いて好適な射出成形機の加熱筒断熱方法及び同方法の実施に用いる加熱筒断熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、射出成形機を構成する射出装置には、投入される樹脂材料を可塑化する加熱筒を備え、その温度制御には、正確性及び応答性が要求されるため、加熱筒の外周部にはバンドヒータ等を装着した加熱部を備えるとともに、空冷機能を有するジャケット等を付設した冷却部を備えており、このような加熱冷却手段を備えた射出成形機としては、特許文献1に記載される射出成形機の温度制御装置及び特許文献2に記載される射出装置が知られている。
【0003】
特許文献1の射出成形機の温度制御装置は、冷却機能と加熱機能を連携制御し、ハンチング現象等を回避した安定性の高い制御を行うとともに、高い制御精度を確保しつつ省エネルギ性に優れた温度制御装置の実現を目的としたものであり、加熱筒における所定部位の加熱温度を温度センサにより検出し、検出温度が予め設定した設定温度になるように、所定部位を加熱する加熱部及び所定部位を冷却する冷却部を制御する成形機コントローラを備えるとともに、検出温度と設定温度の偏差値を求め、この偏差値がゼロになるようにPID制御を行うとともに、I動作出力,D動作出力,偏差値及び加熱側比例帯により生成して加熱部に対する制御を行う加熱操作量と、I動作出力,D動作出力,偏差値及び冷却側比例帯により生成して冷却部に対する制御を行う冷却操作量との、相対的に大きい一方の操作量のみを、対応する加熱部又は冷却部に対して出力するPID制御系を備えて構成したものである。
【0004】
また、特許文献2の射出装置は、加熱シリンダが軸方向に複数のゾーンに区分され、各ゾーンのそれぞれが該加熱シリンダの外周面に巻かれた複数枚のバンドヒータと、該バンドヒータの外側に設けられている複数枚の断熱カバーと、該断熱カバー毎に独立して外部から空気を供給するようになっている冷却手段とを備え、各ゾーンが独亡して温度制御されるようになっている射出装置であって、射出装置は所定の吸引手段とスターリングエンジンとを備え、吸引手段はそれぞれの断熱カバーから空気を吸引するようになっており、スターリングエンジンは吸引された空気を熱源として駆動されて発電するように構成されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-083867号公報
【特許文献2】特開2016-112775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した加熱冷却手段を備えた従来の射出成形機は、次のような解決すべき課題も存在した。
【0007】
即ち、この種の射出成形機では、加熱手段と冷却手段を切換えることにより温度制御を行うため、基本的には、加熱手段と冷却手段を切換えて使用するとともに、加熱筒に対して、加熱手段からの加熱温度と冷却手段からの冷却温度を、加熱筒に対して直接伝達して加熱側の温度制御と冷却側の温度制御を行う必要がある。
【0008】
一方、加熱筒に対する温度目標値は、通常、数百℃程度の高温に維持する必要があるため、加熱手段の能力のみならず保温手段、即ち、断熱手段による断熱能力も重要になる。通常、断熱手段には、断熱カバー等が用いられるが、断熱カバーを付設して断熱性を高めた場合、加熱時(昇温時)には、有利に作用するが、反面、副作用として、昇温時から降温時に切変えた際の応答性が大きく低下する。特に、高温時間が長く継続した場合、樹脂焼け等の成形不良の発生要因となる。
【0009】
このように、従来の加熱冷却手段を備える射出成形機では、良好な加熱機能及び冷却機能を確保しつつ温度制御時における応答性を高めることは容易でなく、従来より、これらの各能力、即ち、断熱能力と温度制御の高応答性能力の双方を高めることができる加熱冷却手段の改善が要請されていた。
【0010】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した射出成形機の加熱筒断熱方法及び装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る射出成形機1の加熱筒断熱方法は、上述した課題を解決するため、少なくとも加熱部3を装着した加熱筒2に対して断熱を行うに際し、予め、加熱部3の外周部3fに付設し、かつ内部に真空制御空間5を形成した断熱層部4と、真空制御空間5を真空可能にする真空手段6と、真空制御空間5を密閉可能にする密閉手段7と、真空制御空間5の密閉を解除する密閉解除手段8とを設け、加熱筒2の温度制御時に、温度制御の状態に対応して、密閉手段7又は密閉解除手段8を切換制御し、少なくとも真空制御空間5を真空断熱モードMv又は真空断熱解除モードMrに切換えることを特徴とする
【0012】
また、本発明に係る射出成形機1の加熱筒断熱装置10は、上述した課題を解決するため、少なくとも加熱部3を装着した加熱筒2に対して断熱を行う加熱筒断熱装置を構成するに際して、加熱部3の外周部3fに付設し、かつ内部に真空制御空間5を形成した断熱層部4と、真空制御空間5を真空可能にする真空手段6と、真空制御空間5を密閉可能にする密閉手段7と、真空制御空間5の密閉を解除する密閉解除手段8と、加熱筒2の温度制御時に、当該温度制御の状態に対応して密閉手段7又は密閉解除手段8を切換制御し、少なくとも真空制御空間5を真空断熱モードMv又は真空断熱解除モードMrに切換える成形機コントローラ11とを備えることを特徴とする。
【0013】
この場合、発明の好適な態様により、加熱筒断熱方法の実施に際しては、加熱部3をONにして加熱筒2を加熱する加熱制御時に、真空断熱モードMvに切換制御するとともに、加熱部3をOFFにして加熱筒2の加熱を解除する冷却制御時に、真空断熱解除モードMrに切換制御することができる。この際、冷却制御時には、真空手段6により、真空制御空間5の内部を吸引し、当該真空制御空間5に外気Aoを流通させることができる。一方、加熱筒断熱装置10を構成するに際し、真空手段6には、真空制御空間5の内部を吸引する真空ポンプ6pを用いることができる。また、加熱部3には、バンドヒータ3b…を用いることができるとともに、断熱層部4は、バンドヒータ3b…の外周面3bf…の全部又は一部を覆い、かつ内部にリング状の真空制御空間5を有するバンド状に構成することができる。さらに、密閉手段7には、真空制御空間5と真空手段6間に接続した逆止弁7vを用いることができるとともに、密閉解除手段8には、真空制御空間5と大気Ao間に接続した開閉弁8vを用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
このような本発明に係る射出成形機Mの加熱筒断熱方法及び加熱筒断熱装置10によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0015】
(1) 加熱部3の外周部3fに付設し、かつ内部に真空制御空間5を形成した断熱層部4と、真空制御空間5を真空可能にする真空手段6と、真空制御空間5を密閉可能にする密閉手段7と、真空制御空間5の密閉を解除する密閉解除手段8とを設け、温度制御の状態に対応して、密閉手段7又は密閉解除手段8を切換制御し、少なくとも真空制御空間5を真空断熱モードMv又は真空断熱解除モードMrに切換えるようにしたため、良好な断熱機能を含む加熱機能及び冷却機能を維持しつつ温度制御時における良好な応答性を確保できる。これにより、成形サイクルの短縮による量産性の向上及び不良品の低減による歩止率の向上を図ることができる。
【0016】
(2) 好適な態様により、加熱筒断熱方法の実施に際し、加熱部3をONにして加熱筒2を加熱する加熱制御時に、真空断熱モードMvに切換制御するとともに、加熱部3をOFFにして加熱筒2の加熱を解除する冷却制御時に、真空断熱解除モードMrに切換制御すれば、加熱筒2の温度制御に係わる通常の温度制御シーケンスに利用できるため、加熱筒2に対する最適な温度制御を実現することができる。
【0017】
(3) 好適な態様により、冷却制御時に、真空手段6により、真空制御空間5の内部を吸引し、当該真空制御空間5に外気Aoを流通させるようにすれば、空冷作用による冷却機能を実現することができる。
【0018】
(4) 好適な態様により、加熱筒断熱装置10を構成するに際し、真空手段6に、真空制御空間5の内部を吸引する真空ポンプ6pを用いれば、真空制御空間5に対する吸気作用を確実に実現できるため、容易に真空断熱モードMvに切換えることができるとともに、真空断熱解除モードMrに切換えた際には、外気Aoを流通させる送風機能に兼用できるため、容易に空冷機能を実現することができる。
【0019】
(5) 好適な態様により、加熱部3にバンドヒータ3bを用いれば、バンドヒータ3bを用いる従来と同様の加熱部3を構成できるため、加熱部3側の構成やレイアウト等を特に変更することなく容易に実施することができる。
【0020】
(6) 好適な態様により、断熱層部4を構成するに際し、バンドヒータ3bの外周面3bfの全部又は一部を覆い、かつ内部にリング状の真空制御空間5を有するバンド状に構成すれば、加熱筒2における全体の径方向サイズを大きく変更することなく実施できるため、射出成形機1の無用な煩雑化及びサイズアップを回避することができる。
【0021】
(7) 好適な態様により、密閉手段7に、真空制御空間5と真空手段6間に接続した逆止弁7vを用いれば、逆止弁7vを追加するのみで、密閉手段7を構成できるため、密閉手段7に係わる実施の容易化及び低コスト化に寄与できる。
【0022】
(8) 好適な態様により、密閉解除手段8に、真空制御空間5と大気Ao間に接続した開閉弁8vを用いれば、開閉弁8vを追加するのみで、密閉解除手段8を構成できるため、密閉解除手段8に係わる実施の容易化及び低コスト化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の好適実施形態に係る加熱筒断熱装置を備えた射出成形機における射出装置の断面側面図を含む制御系全体の概要図、
【
図3】同加熱筒断熱装置の加熱筒に付設した状態の概要を示す断面正面図、
【
図4】同加熱筒断熱装置の加熱筒に付設した状態の概要を示す断面側面図、
【
図5】同加熱筒断熱装置の各部品を示す外観斜視図、
【
図6】本発明の好適実施形態に係る加熱筒断熱方法を順を追って説明するためのフローチャート、
【
図7】同加熱筒断熱方法を実施する際の真空断熱モードの作用説明図、
【
図8】同加熱筒断熱方法を実施する際の真空断熱解除モードの作用説明図、
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0025】
まず、本実施形態に係る加熱筒断熱装置10を備える射出成形機1の概要について、
図1を参照して説明する。
【0026】
図1中、1iは射出装置を示し、この射出装置1iと不図示の型締装置により射出成形機1が構成される。射出装置1iは、加熱筒2を備え、この加熱筒2は、前端に射出ノズル2nを備えるとともに、加熱筒2の後端は、加熱筒2の内部に樹脂材料を投入するホッパー21hを備える材料供給部21に結合する。また、加熱筒2の内部にはスクリュ22を挿入し、このスクリュ22の後端は、材料供給部21の後方へ延出することにより、当該スクリュ22を回転駆動及び進退駆動する詳細図を省略したスクリュ駆動部23に接続する。
【0027】
そして、加熱筒2の外周面2f及び射出ノズル2nの外周面2nfには、軸方向Fsに沿って順次配設した複数の加熱部3…を備える。即ち、射出ノズル2n,加熱筒2の前部,加熱筒2の中部,加熱筒2の後部,加熱筒2の最後部にそれぞれ装着した五つの加熱部3…を備える。各加熱部3…は、内部に発熱体を内蔵し、外周面2f…及び2nfに巻付けて装着するバンドヒータ3b…を用いる。このように、加熱部3にバンドヒータ3b…を用いれば、バンドヒータ3b…を用いる従来と同様の加熱部3を構成できるため、加熱部3側の構成やレイアウト等を特に変更することなく容易に実施することができる。一方、各加熱部3…の外周面3f…にはそれぞれ断熱層部4…を付設する。各断熱層部4…は本発明の要部となる本実施形態に係る加熱筒断熱装置10を構成する。
【0028】
次に、本実施形態に係る加熱筒断熱装置10の構成について、
図1-
図5を参照して具体的に説明する。
【0029】
図1-
図3に示すように、上述した加熱筒断熱装置10は、各加熱部3…の外周面3f…にそれぞれ付設する計五つの断熱層部4…を備える。断熱層部4(他の断熱層部4…も同じ)は、バンドヒータ3bの外周面3bfの全部又は一部を覆い、かつ内部にリング状の真空制御空間5を有するバンド状に構成する。断熱層部4を、このように構成すれば、加熱筒2における全体の径方向サイズを大きく変更することなく実施することができるため、射出成形機1の無用な煩雑化及びサイズアップを回避することができる。
【0030】
図5(a)-(c)は、断熱層部4を構成する各部品の外観斜視図を示す。なお、(d)はバンドヒータ3bを示す。(a)は断熱層部4の最外郭部を構成するアウタパネル部25、(b)はアウタパネル部25の内側に配する真空制御空間形成用パネル26、(c)は真空制御空間形成用パネル26の内側に配し、かつバンドヒータ3bの外周面3bfに当接するインナパネル部27をそれぞれ示す。
【0031】
この場合、アウタパネル部25,真空制御空間形成用パネル26,インナパネル部27は、それぞれ厚さ1-2〔mm〕程度の一枚のステンレス鋼パネルを用いて形成することができる。また、アウタパネル部25は、全体を一枚の矩形状に形成し、長手方向(周方向)の両端には一対の丸棒状のボルト挿入ロッド25s,25tを溶着等により固定するとともに、ボルト挿入ロッド25s,25tの近傍には、外周面から外方に突出し、かつ内周面側に連通する第一接続管部25iと第二接続管部25oをそれぞれ固定する。さらに、真空制御空間形成用パネル26は、全体を矩形のフレーム状に形成し、長手方向(周方向)の一端側の近傍には、バンドヒータ3bのケーブルを導出させる複数のケーブル導出管3bx…((d)参照)を挿通させる導出孔26x…を形成する。また、インナパネル部27は、全体を一枚の矩形状に形成する。
【0032】
そして、アウタパネル部25,真空制御空間形成用パネル26,インナパネル部27は、
図3及び
図4に示すように積層する。これにより、一枚のパネル状の断熱層部4が構成され、内部には、第一接続管部25i及び第二接続管部25oを除いて密閉されるリング形中空状のエアジャケット、即ち、真空制御空間5が形成される。
【0033】
断熱層部4は、内部に真空制御空間5を有するため、各種形態により実施可能である。例えば、断熱層部4の内面側(インナパネル部27側)は、加熱筒2に装着した加熱部3の外周部3fに付設するため、この外周部3fに適合する大きさとなるように断熱層部4の内面側の内径を形成すれば、予め、溶着等により一体に組付けてもよいし、アウタパネル部25と真空制御空間形成用パネル26,又は真空制御空間形成用パネル26とインナパネル部27を一体形成してもよい。また、加熱部3の外周部3fに付設する際に、インナパネル部27,真空制御空間形成用パネル26,アウタパネル部25の順に積層し、アウタパネル部25のボルト挿入ロッド25sと25t間をボルトナットB…により締付固定してもよい。この際、通気漏れが生じないように、必要によりパッキン等を介在させて組付けてもよい。
【0034】
次に、加熱筒断熱装置10における断熱層部4…以外の構成について、主に、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0035】
まず、
図2に示すように、各断熱層部4…の第二接続管部25o…には、密閉手段7…を構成する逆止弁7v…の一端側をそれぞれ接続するとともに、逆止弁7v…の他端側は、合流させることにより真空手段6を構成する真空ポンプ6pの吸引口に接続する。なお、31は真空ポンプ6pを駆動するモータを示す。
【0036】
このように、密閉手段7に、真空制御空間5と真空手段6間に接続した逆止弁7vを用いれば、逆止弁7vを追加するのみで、密閉手段7を構成できるため、密閉手段7に係わる実施の容易化及び低コスト化に寄与できるとともに、真空手段6に、真空制御空間5の内部を吸引する真空ポンプ6pを用いれば、真空制御空間5に対する吸気作用を確実に実現できるため、容易に真空断熱モードMvに切換えることができるとともに、真空断熱解除モードMrに切換えた際には、外気Aoを流通させる送風機能に兼用できるため、容易に空冷機能を実現することができる。
【0037】
一方、
図2に示すように、断熱層部4(他の断熱層部4…も同じ)の第一接続管部25iには、密閉解除手段8を構成する電磁弁を用いた開閉弁8vの一端側を接続するとともに、開閉弁8vの他端側は大気Aoに開放する。これにより、開閉弁8vは、真空制御空間5と大気Ao間に接続される。このように、密閉解除手段8として、開閉弁8vを用いれば、開閉弁8vの追加のみで密閉解除手段8を構築できるため、実施の容易化及び低コスト化に寄与できる。
【0038】
なお、加熱部3を構成するバンドヒータ3bのケーブルは、ケーブル導出管3bx…を通して外部に導出し、給電部32の出力側に接続する。33…は、射出ノズル2nを含む加熱筒2における各部、即ち、射出ノズル,加熱筒の前部,中部,後部,最後部の温度を出する温度センサ(熱電対)を示す。
【0039】
そして、給電部32,真空ポンプ6p及び各開閉弁8v…は、成形機コントローラ11の出力ポートに接続するとともに、各温度センサ33…は、成形機コントローラ11のセンサ入力ポートに接続する。成形機コントローラ11は、基本的に、CPU等のハードウェアを内蔵するコントローラ本体を備えるとともに、このコントローラ本体に管理されるハードディスク等の内部メモリを備える。したがって、成形機コントローラ11は、コンピュータシステムとして構成し、射出成形機1における全体の制御を司る機能を備える。また、成形機コントローラ11には、本実施形態に係る加熱筒断熱方法を実行するためのシーケンス制御プログラムが含まれるとともに、成形機コントローラ11には、図示を省略したディスプレイ等の周辺機器を備える。
【0040】
次に、本実施形態に係る加熱筒断熱方法について、主に、
図7及び
図8を参照しつつ
図6に示すフムーチャートに従って説明する。
【0041】
今、射出成形機1は、運転停止状態にあるものとする(ステップS1)。この状態では、真空ポンプ6p及びバンドヒータ3b…はOFFポジションにあり、また、開閉弁8vは閉ポジションScにある。そして、この状態において、成形機コントローラ11から加熱指令が出力した場合を想定する(ステップS2)。
【0042】
これにより、真空ポンプ6pはONになるとともに、バンドヒータ3b…はONポジションになる(ステップS3,S4)。この結果、
図7に示すように、真空制御空間5の内部の空気Aは、真空ポンプ6pにより吸引され、真空制御空間5の内部は真空状態となる真空断熱モードMvに切換制御される。この際、所定の真空状態になったら。必要により真空ポンプ6pをOFFにしてもよい。この場合であっても各第二接続管部25o…には逆止弁7v…が接続されているため、真空制御空間5の密閉状態が維持される。即ち、第一接続管部25i…は開閉弁8v…により閉状態が維持されるため、真空制御空間5の真空状態は維持される。
【0043】
また、バンドヒータ3b…のONポジションにより加熱筒2が加熱されるとともに、温度センサ33…の検出温度は成形機コントローラ11に付与されるため、成形機コントローラ11は加熱筒2の昇温状態を監視する(ステップS5)。そして、検出温度が予め設定した所定の温度目標値に達したなら、温度目標値を維持するための温度に対するPID制御(フィードバック制御)による温度制御処理を実行する(ステップS6,S7)。
【0044】
他方、温度が安定したなら所定の成形処理、即ち、生産処理を行うことができる。なお、生産処理が終了した場合には、射出成形機1の運転を停止するなどの必要な終了処理を行う(ステップS8,S9)。
【0045】
一方、生産処理中に、加熱筒2の温度が過度に上昇するなどにより、成形機コントローラ11から冷却指令が出力した場合を想定する(ステップS8,S10)。これにより、開閉弁8vは開ポジションSoに切換制御され、バンドヒータ3b…はOFFポジションに切換制御される(ステップS11,S12)。また、真空ポンプ6pがOFFになっている場合はONに切換えられる(ステップS13)。
【0046】
この結果、
図8に示すように、開閉弁8vを通して、真空制御空間5の内部に外気Aoが流入し、真空制御空間5は、真空断熱解除モードMrに切換えられる。しかも、真空ポンプ6pにより、真空制御空間5の内部が吸引されるため、真空制御空間5の内部には外気Aoが流通する。即ち、空冷作用による冷却機能を実現することができる。
【0047】
このように、加熱筒断熱方法の実施に際しては、加熱部3をONにして加熱筒2を加熱する加熱制御時に、真空断熱モードMvに切換制御するとともに、加熱部3をOFFにして加熱筒2の加熱を解除する冷却制御時に、真空断熱解除モードMrに切換制御すれば、加熱筒2の温度制御に係わる通常の温度制御シーケンスに利用できるため、加熱筒2に対する最適な温度制御を実現することができる。
【0048】
よって、このような本実施形態に係る射出成形機1の加熱筒断熱方法(加熱筒断熱装置10)によれば、加熱部3の外周部3fに付設し、かつ内部に真空制御空間5を形成した断熱層部4と、真空制御空間5を真空可能にする真空手段6と、真空制御空間5を密閉可能にする密閉手段7と、真空制御空間5の密閉を解除する密閉解除手段8とを設け、温度制御の状態に対応して、密閉手段7又は密閉解除手段8を切換制御し、少なくとも真空制御空間5を真空断熱モードMv又は真空断熱解除モードMrに切換えるようにしたため、良好な断熱機能を含む加熱機能及び冷却機能を維持しつつ温度制御時における良好な応答性を確保できる。これにより、成形サイクルの短縮による量産性の向上及び不良品の低減による歩止率の向上を図ることができる。
【0049】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0050】
例えば、実施形態では、加熱部3を装着した加熱筒2に適用した場合を例示したが、加熱部3と冷却部の双方を備える加熱筒2であっても同様に適用することができる。この場合、冷却制御時には、真空手段6を停止し、真空状態のみを解除してもよい。即ち、真空制御空間5の真空状態のみを解除し、必ずしも真空制御空間5に外気Aoを流通させる必要はない。さらに、冷却制御時には、真空ポンプ6pを使用することなく、ファン等を用いた送風手段に切換える形態であってもよい。また、加熱筒断熱方法の実施に際し、加熱部3をONにして加熱筒2を加熱する加熱制御時に、真空断熱モードMvに切換制御するとともに、加熱部3をOFFにして加熱筒2の加熱を解除する冷却制御時に、真空断熱解除モードMrに切換制御することが望ましいが、真空断熱モードMvのみを使用したり、真空断熱解除モードMrのみを利用することも可能である。一方、真空手段6には各種真空ポンプ6pを利用できるとともに、同様の機能を有する手段に置換可能である。さらに、密閉手段7に逆止弁7vを用いた場合を示すとともに、密閉解除手段8に開閉弁8vを用いた場合を示したが、必要により、制御弁を接続し、真空レベルの大きさを適宜調整できるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る加熱筒断熱方法及び加熱筒断熱装置は、各種射出成形機に備える加熱筒を断熱する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1:射出成形機,2:加熱筒,3:加熱部,3f:加熱部の外周部,3b:バンドヒータ,3bf:バンドヒータの外周面,4:断熱層部,5:真空制御空間,6:真空手段,6p:真空ポンプ,7:密閉手段,7v:逆止弁,8:密閉解除手段,8v:開閉弁,10:加熱筒断熱装置,11:成形機コントローラ,Mv:真空断熱モード,Mr:真空断熱解除モード,Ao:外気