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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019993
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】アピキサバン固体非晶質分散体
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4545 20060101AFI20250131BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20250131BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20250131BHJP
   A61P 7/02 20060101ALN20250131BHJP
【FI】
A61K31/4545
A61K47/32
A61K9/20
A61P7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024083276
(22)【出願日】2024-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2023122981
(32)【優先日】2023-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】307020615
【氏名又は名称】キョーリンリメディオ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 真一
(72)【発明者】
【氏名】小倉 大知
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 彩雪香
(72)【発明者】
【氏名】中野 史陸
(72)【発明者】
【氏名】田村 優樹
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA36
4C076BB01
4C076CC14
4C076DD55
4C076DD67
4C076EE06
4C076EE11
4C076EE31
4C076EE32
4C076FF01
4C076FF33
4C086AA02
4C086CB05
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA11
4C086ZA54
(57)【要約】
【課題】アピキサバンの溶出性を改善した製剤の、加温・加湿保存下における結晶化と不純物の生成を抑制した、安定性の良好なアピキサバン固体非晶質分散体とそれを含有する医薬製剤の提供。
【解決手段】アピキサバンを特定の質量比のポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及び/又はポリビニルアルコールに分散することでアピキサバンの固体非晶質分散体を調製し、上記課題を解決した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アピキサバンが、その質量に対して2又は3倍以上の質量比にあるポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及び/又はポリビニルアルコールに分散しているアピキサバンの固体非晶質分散体。
【請求項2】
60℃の環境下に4週間保存したとき、又は25℃相対湿度75%の環境下に4週間保存したときに、アピキサバンが非晶質状態を維持し、且つ個々の不純物量が0.2%以下である請求項1に記載のアピキサバンの固体非晶質分散体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアピキサバンの固体非晶質分散体と任意の添加剤とを含有する、アピキサバンの固体非晶質分散体を含有する医薬製剤。
【請求項4】
アピキサバンの固体非晶質分散体を含有する医薬製剤について、日本薬局方溶出試験に従い、パドル法50回転、水において溶出試験を行うとき、30分後の溶出率が80%以上である請求項3に記載のアピキサバンの固体非晶質分散体を含有する医薬製剤。
【請求項5】
アピキサバンとポリビニルアルコール、又はアピキサバンとポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体を、水/エタノール混液に溶解し、この溶解液の溶媒を留去する工程を含む、請求項1に記載のアピキサバンの固体非晶質分散体の製造方法。
【請求項6】
アピキサバンとポリビニルアルコール、又はアピキサバンとポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体を熱溶融冷却法により造粒する工程を含む、請求項1に記載のアピキサバンの固体非晶質分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性に優れたアピキサバンを含有する固体非晶質分散体に関する。さらに本発明は、当該固体非晶質分散体を含有する溶出性に優れた医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アピキサバンは、血液凝固活性化第X因子(FXa)を可逆的に阻害する経口抗凝固薬である。FXaは第X因子が活性化されて生成されるセリンプロテアーゼの一種で、フィブリノーゲンをフィブリンに変換する役割を担うトロンビン(FIIa)を生成する酵素であり、血液凝固の中心的役割を果たしている。アピキサバンは、このFXaに対して高い親和性と選択性を有し、FXaの阻害を介してトロンビン産生を抑制することにより、直接的な抗血液凝固作用及び間接的な抗血小板作用を示し、抗血栓作用を発揮する。日本では、非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制及び静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制に用いられている。
【0003】
アピキサバンは水に溶け難い性質を有している。そこで、製剤からのアピキサバンの安定した溶出性を保証するために、89μm以下のD90を有する結晶形のアピキサバンを用いる固形製剤の技術(特許文献1)や、アピキサバンにアミノアルキルメタクリレートコポリマーを被覆することで、胃における溶出性を良好にする技術(特許文献2)が各々開示されている。
【0004】
また、アピキサバンを非晶質化することで、良好な溶出性を得る技術も知られている。例えば、特定の高分子にアピキサバンを単分子状に分散させて担持させた、いわゆる固体非晶質分散体として溶解性を改善する技術(特許文献3~特許文献5)。アピキサバンと高分子の混合物に衝撃・圧縮・せん断等のメカノケミカルな作用を加えることで非晶質化し、溶解性を改善する技術(特許文献6)、及び多孔性物質にアピキサバンを分子レベルで吸着させ非晶質化し、溶解性を改善する技術(特許文献7)。更には、非晶質化したアピキサバンが結晶化するのを抑制する特定の添加剤を用いることで、非晶質状態を維持する技術(特許文献8)等が各々開示されている。
【0005】
一方、非晶質化した物質は熱力学的に不安定であり、保存中の温度や湿度により再結晶化し、溶解性が低下することが知られている(非特許文献1)。そのため、固体非晶質分散体は保存中においても安定な非晶質状態を維持することが求められる。
【0006】
しかし、前述した特許文献の非晶質化技術では、特許文献8以外には、保存中の安定性に関するデータは全く示されていない。また、特許文献8においても、25℃相対湿度75%という緩和な条件での保存安定性のデータしか示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6192078号公報
【特許文献2】特開2022-112698公報
【特許文献3】特許第5775071号公報
【特許文献4】特開2021-152005公報
【特許文献5】特開2022-32772公報
【特許文献6】特開2023-7915公報
【特許文献7】特開2023-54766公報
【特許文献8】特開2023-8994公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】非晶質薬物の製剤開発における固体物性評価の重要性 ファルマシア Vol.52、No.5、392-396 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、アピキサバンの溶出性が改善され、高温又は高湿保存下における結晶化と不純物の生成が抑制された、安定性の良好なアピキサバン固体非晶質分散体とそれを含有する医薬製剤を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、アピキサバンを特定の高分子との固体非晶質分散体とすることで、上記課題が解決されることを見出した。より具体的には、アピキサバンと特定の高分子との混合末に、水/エタノール混液を加えて溶解し、この溶解液の溶媒を任意の方法で留去し粉末化する方法、又はアピキサバンと特定の高分子との混合末について熱溶融冷却法を行い、調粒して粉末化するという方法で、アピキサバンの固体非晶質分散体が得られ、このアピキサバン固体非晶質分散体は、60℃及び25℃相対湿度75%の条件で4週間保存しても、アピキサバンが非晶質の状態を維持しており、尚且つ高純度を保っていることを見出した。更には、このアピキサバン固体非晶質分散体に任意の添加剤を加えて調製した医薬製剤は、良好な溶出性を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は以下の発明を含む
(1)アピキサバンが、その質量に対して2又は3倍以上の質量比にあるポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及び/又はポリビニルアルコールに分散しているアピキサバンの固体非晶質分散体。
(2)60℃の環境下に4週間保存したとき、又は25℃相対湿度75%の環境下に4週間保存したときに、アピキサバンが非晶質状態を維持し、且つ個々の不純物の量が0.2%以下である(1)に記載のアピキサバンの固体非晶質分散体。
(3)(1)又は(2)に記載のアピキサバンの固体非晶質分散体と任意の添加剤とを含有する、アピキサバンの固体非晶質分散体を含有する医薬製剤。
(4)アピキサバンの固体非晶質分散体を含有する医薬製剤について、日本薬局方溶出試験に従い、パドル法50回転、水において溶出試験を行うとき、30分後の溶出率が80%以上である(3)に記載のアピキサバンの固体非晶質分散体を含有する医薬製剤。
(5)アピキサバンとポリビニルアルコール、又はアピキサバンとポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体を、水/エタノール混液に溶解し、この溶解液の溶媒を留去する工程を含む、(1)に記載のアピキサバンの固体非晶質分散体の製造方法。
(6)アピキサバンとポリビニルアルコール、又はアピキサバンとポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体を熱溶融冷却法により造粒する工程を含む、(1)に記載のアピキサバンの固体非晶質分散体の製造方法。
【0012】
本発明におけるアピキサバンの固体非晶質分散体は、安価で簡便な方法で得られ、高温又は高湿度の環境に保存してもアピキサバンが非晶質状態を維持し、高純度である等、安定性に優れている。また、本発明のアピキサバンの固体非晶質分散体を含有する医薬製剤は、良好な溶出性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】比較例1(アピキサバン結晶粉末)の粉末X線回折パターンを示す図である。
図2】実施例1及び実施例2、並びに比較例2及び比較例3で得られた混合末の粉末X線回折パターンを示す図である。
図3】実施例3から実施例5、及び比較例4で得られた混合末の粉末X線回折パターンを示す図である。
図4】実施例2の固体非晶質分散体の保存開始時及び4週間保存後の粉末X線回折パターンを示す図である。
図5】実施例4の固体非晶質分散体の保存開始時及び4週間保存後の粉末X線回折パターンを示す図である。
図6】実施例6から実施例11で得られた混合末の粉末X線回折パターンを示す図である。
図7】実施例12及び比較例5で得られた錠剤の溶出試験結果を示す図である。
図8】実施例13で得られた錠剤の溶出試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るアピキサバンの固体非晶質分散体及びそれを含有する医薬製剤について説明する。ただし、本発明は以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0015】
本発明においてアピキサバンの固体非晶質分散体とは、アピキサバンを固体状の非活性の高分子中に分散させたものであり、アピキサバンの個々の分子は高分子中に無秩序に存在している。そのためこのアピキサバンの固体非晶質分散体を粉末X線回折装置で測定すると、アピキサバンの結晶固有の回折ピークは実質的に示さず、非晶質特有のハローパターンを示す。
【0016】
本発明のアピキサバン固体非晶質分散体における高分子は、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体から選ばれる。
【0017】
本発明におけるポリビニルアルコールはポリ酢酸ビニルをけん化して得た重合物であり、-(CH2CHOH)n-で表される、けん化度が97mol%以上の完全けん化物と、-(CH2CHOH)n-(CH2CHOCOCH3)m-で表される、けん化度が78~96mol%の部分けん化物のいずれでも良いが、本発明においては部分けん化物が好ましく、特に4%の水溶液としたときの粘度が4.6~6.0mPa・sのものが好適である。
【0018】
本発明におけるポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体は、ポリビニルアルコール(部分けん化物)、アクリル酸及びメタクリル酸メチルを32:1:7 の質量比で共重合したものであり、平均分子量は約4000である。その5%水溶液の粘度は4.6~5.5mPa・sである。
【0019】
本発明のアピキサバンの固体非晶質分散体におけるアピキサバンとポリビニルアルコールの質量比は特に限定されないが、アピキサバンの質量に対してポリビニルアルコ-ルを3倍以上用いるのが好ましく、更に5倍以上用いるのが好適である。
【0020】
本発明のアピキサバンの固体非晶質分散体におけるアピキサバンとポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体の質量比は特に限定されないが、アピキサバンの質量に対してポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体を2倍以上用いるのが好ましく、更に3倍以上用いるのが好適である。
【0021】
本発明におけるアピキサバンの固体非晶質分散体の製造方法は特に限定されないが、アピキサバンとポリビニルアルコールの混合物又はアピキサバンとポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体の混合物を溶媒に溶解した液を、噴霧乾燥又は噴霧造粒等の手段により溶媒を留去し、固体非晶質分散体とする方法(溶媒留去法)や、アピキサバンとポリビニルアルコールの混合物又はアピキサバンとポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体の混合物を加熱溶融して固体非晶質分散体とする方法(熱溶融冷却法)及びアピキサバンとポリビニルアルコールの混合物又はアピキサバンとポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体の混合物を衝撃・せん断・圧縮等のメカノケミカルな作用で混合粉砕し固体非晶質分散体を得る方法(混合粉砕法)等、いずれの方法も採用することができる。好ましい製造方法は、溶媒留去法及び熱溶融冷却法であり、溶媒留去法の場合、その溶媒は水/エタノール混液が好ましく、特に75%エタノール水溶液が好適である。
【0022】
また、本発明におけるアピキサバンの固体非晶質分散体の製造においては、アピキサバン、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体以外に医薬上許容できる添加剤を含むことも可能である。
【0023】
本発明におけるアピキサバンの固体非晶質分散体に、更に医薬上許容できる添加剤を加えて製造することにより、顆粒剤、細粒剤、ドライシロップ剤、素錠及びフィルムコーティング錠などの錠剤、などの医薬製剤にすることも可能である。
【0024】
本発明におけるアピキサバンの固体非晶質分散体を含む医薬製剤の製造方法は特に限定されず、直打法、乾式造粒法、湿式撹拌造粒法、流動層造粒法及び溶融造粒法等、任意の方法で製造することができるが、本発明においては流動層造粒法が好ましい。
【0025】
本発明のアピキサバンの固体非晶質分散体を含む医薬製剤に用いられる医薬上許容できる添加剤の種類は特に限定されないが、賦形剤、崩壊剤、結合剤、可溶化剤、滑沢剤、フィルムコーティング剤、着色剤、光沢化剤等を添加することができる。
【0026】
(賦形剤)
本発明のアピキサバンの固体非晶質分散体の医薬製剤に用いられる賦形剤は、例えば、乳糖水和物、無水乳糖、結晶セルロース、白糖、トレハロース、ショ糖等の糖類、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール及びキシリトールなどの糖アルコール、部分アルファー化デンプン、トウモロコシデンプン及びバレイショデンプン等のデンプン類などを単体又は適宜組み合わせて使用することができる。
【0027】
(崩壊剤)
本発明に係るアピキサバンの固体非晶質分散体の医薬製剤に用いられる崩壊剤は、例えば低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン及びデンプングリコール酸ナトリウム等を単体又は適宜組み合わせて使用することができる。
【0028】
(結合剤)
本発明に係るアピキサバンの固体非晶質分散体の医薬製剤に用いられる結合剤は、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、マクロゴール及び上記に賦形剤として示した化合物等から選択することができる。これらの結合剤は、単体又は適宜組み合わせて使用することができる。
【0029】
(可溶化剤)
本発明に係るアピキサバンの固体非晶質分散体の医薬製剤に用いられる可溶化剤は、例えば安息香酸ナトリウム、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム等から選択することができる。これらの可溶化剤は、単体又は適宜組み合わせて使用することができる。
【0030】
(滑沢剤)
本発明に係るアピキサバンの固体非晶質分散体の医薬製剤に用いられる滑沢剤は、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、水素添加植物油、マイクロクリスタリンワックス、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール等から選択することができる。これらの滑沢剤は、単体又は適宜組み合わせて使用することができる。
【0031】
(フィルムコーティング剤)
本発明に係るアピキサバンの固体非晶質分散体の医薬製剤に用いられるフィルムコーティング剤は、医薬用途で使用可能であればよく、例えば、ヒプロメロース、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、乳糖水和物、カルボキシメチルエチルセルロース、カルメロース、カルメロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、PVAコポリマー、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、オパドライ、カルナウバロウ、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸コポリマー等が挙げられる。また、酸化チタンや三二酸化鉄等の遮光剤や着色剤等の成分を添加しても良い。
【0032】
(可塑剤)
本発明に係るアピキサバンの固体非晶質分散体の医薬製剤に用いられる可塑剤は、医薬用途で使用可能であればよく、例えば、クエン酸トリエチル、トリアセチン、フタル酸ジエチル、プロピレングリコール、ポリソルベート80、マクロゴール400、マクロゴール6000等が挙げられる。これらの可塑剤は、単体又は適宜組み合わせて使用することができる。
【0033】
本発明に係るアピキサバンの固体非晶質分散体を含有する医薬製剤を60℃(密栓状態)で4週間保存、又は25℃相対湿度75%(開放状態)で4週間保存し、錠剤中の不純物を液体クロマトグラフ法により求める時、不純物の生成量が少なく、個々の不純物の生成量が0.5%以下であり、より好ましくは0.2%以下である。
【0034】
次に実施例より、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0035】
[実施例1~11、比較例2~4]
表1に示す高分子、質量比、製造法を用いて、アピキサバンと高分子の混合末を製造した。
<溶媒留去法による製造>
アピキサバンに対して高分子を等量から5倍量の質量比で混ぜた混合物を75%エタノール水溶液に溶解し、この溶解液を加熱し溶媒を留去することで、実施例1~5及び比較例2~4の混合末を得た。
<熱溶融冷却法による製造>
アピキサバンに対して高分子を3倍量から10倍量の質量比で混ぜた混合物を熱溶融造粒機(ZE-9型エクストルーダー Three-Tec社)で造粒し、この造粒物を冷却して粉砕することで、実施例6~11の混合末を得た。
【0036】
表1 実施例及び比較例で調製した混合末
【表1】
【0037】
(実験例1 アピキサバンの結晶状態の測定)
実施例1~11及び比較例2~4の混合末、並びにアピキサバン結晶粉末(比較例1)を粉末X線回折装置(リガク電気 MiniFkex 600型)で測定した。なお、比較例1のアピキサバン結晶粉末は、実施例1~5及び比較例2~4で使用したアピキサバンと同一ロットである。粉末X線回折による回折チャートを図1から図3及び図6に示す。また、アピキサバンの結晶状態の一覧を表2に示す
【0038】
表2 アピキサバンの結晶状態
【表2】
結晶状態:主としてアピキサバンの結晶に基づく回折ピークが検出された。
混合状態:アピキサバンの結晶に基づく回折ピークと、非晶質特有のハローパターンの両方が確認された。
非晶質状態:アピキサバンの結晶に基づく回折ピークは検出されず、非晶質特有のハローパターンのみが確認された。
【0039】
図1に示すように、比較例1のアピキサバン結晶粉末は固有のX線回折パターンを示す結晶であった。また、図2に示すように、溶媒留去法で調製したアピキサバンとポリビニルアルコールの混合末は、比較例2及び比較例3ではアピキサバンの結晶に基づく回折ピークが確認されたが、アピキサバンの質量に対するポリビニルアルコールの質量比を3倍量以上で調製した実施例1及び実施例2ではアピキサバンの結晶の回折ピークが消失し、非晶質特有のハローパターンのみが確認されたことから、アピキサバンとポリビニルアルコールとの固体非晶質分散体を形成していることが確認できた。
【0040】
図3に示すように、アピキサバンとポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体からなる組み合わせでは、アピキサバンの質量に対してポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体の質量比を等量で調製した比較例4では、アピキサバンの結晶に基づく回折ピークが検出された。一方、アピキサバンの質量に対してポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体の質量を2倍以上で調製した実施例3から実施例5には、アピキサバンの結晶の回折ピークは検出されず、非晶質特有のハローパターンのみを示していたことから、アピキサバンとポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体からなる固体非晶質分散体を形成していることが確認できた。
【0041】
図6に示すように、アピキサバンの質量に対してポリビニルアルコール又はポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体の質量比が3倍以上となるように調製した実施例6から実施例11には、アピキサバンの結晶の回折ピークは検出されず、非晶質特有のハローパターンのみを示していたことから、アピキサバンとポリビニルアルコール又はポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体からなる固体非晶質分散体を形成していることが確認できた。
【0042】
(実験例2 固体非晶質分散体の保存安定性評価)
実施例2及び実施例4の固体非晶質分散体を各々60℃(密栓状態)で4週間保存、又は25℃相対湿度75%(開放状態)で4週間保存した後、各試料の結晶状態の変化を粉末X線回折装置で測定し、不純物の増加量を液体クロマトグラフィーで測定した。粉末X線回折の結果を図4及び図5に示す。また、結果の一覧を表3に示す。
【0043】
表3 実験例2における固体非晶質分散体の保存安定性
【表3】
非晶質状態:アピキサバンの結晶に基づく回折ピークは検出されず、非晶質特有のハローパターンのみが確認された。
【0044】
実験例2のアピキサバン固体非晶質分散体の安定性試験の結果、60℃の条件で4週間保存、又は25℃相対湿度75%の条件で4週間保存しても、いずれもアピキサバンの結晶は検出されず、非晶質状態を安定に維持していることが確認された。また、個々の分解物の最大量は0.2%以下であり、分解物の合計量も0.5%以下と小さく、安定であることが確認された。
【0045】
[実施例12]
乳糖水和物75.6g、結晶セルロース82g及びラウリル硫酸ナトリウム1.0gの混合末を流動層造粒装置(MP01型、パウレック社)に入れ流動化させながら、75%エタノール水溶液1000mLにアピキサバン5gとポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体15gを加えて70℃で加温溶解した液を噴霧し造粒した。得られた造粒物を整粒機(コーミル197S型、パウレック社)で調粒し、これにクロスカルメロースナトリウム8gとステアリン酸マグネシウム2.4gを加えて混合し、打錠末とした。この打錠末をロータリー式打錠機(HT-AP18型、畑鐵工所)で圧縮成型し、質量95mg中にアピキサバンを2.5mg含有する、直径6mmの円形の錠剤を得た。
【0046】
[比較例5]
90%粒子径が110μmのアピキサバン2.5g、結晶セルロース41g、無水乳糖50.25g、クロスカルメロースナトリウム4g、ラウリル硫酸ナトリウム1g及びステアリン酸マグネシウム1.25gからなる混合末を、ロータリー打錠機(HT-AP18型、畑鐵工所)で圧縮成形し、質量100mg中にアピキサバンを2.5mg含有する直径6mmの錠剤を得た。
【0047】
[実施例13]
アピキサバンとポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体を1:3の比率で混合し、この混合末126.95gを溶融造粒機(ZE-9型エクストルーダー Three-Tec社)に投入し、粉体供給速度3g/min、スクリュー回転速度300min-1、バレル設定温度150~230℃の条件で造粒した。得られた造粒品を0.5mmのスクリーンを装着したサンプルミル(SAMT 株式会社奈良機械製作所)で回転数16,000min-1の条件で調粒した。この調粒品5gに乳糖水和物31.9g、結晶セルロース10g、クロスカルメロースナトリウム2g、ラウリル硫酸ナトリウム0.5gを加えて3分間手混合した後、ステアリン酸マグネシウム0.6gを加えて更に1分間手混合した。この打錠末をロータリー打錠機(HT―AP18型 畑鐵工所)で圧縮成形し、質量200mg中にアピキサバンを5mg含有する直径6mmの錠剤を得た。この錠剤についてコーティング装置(HCT-MINI フロイント産業)を用いてコーティング液を噴霧し、平均質量が208mgのフィルムコーティング錠を得た。なお、コーティング液は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 32.6gとマクロゴール6000 3.8gを精製水220gに溶解し、この液に酸化チタン9.6g、黄色三二酸化鉄1.9gを精製水100gで分散させた液を加えて撹拌混合した後、140Mの篩で篩過したものを使用した。
【0048】
(実験例3 溶出試験)
実施例12、実施例13及び比較例5で得られた錠剤を第18改正日本薬局方溶出試験に従い、パドル法50回転、水において試験を行った。結果を図7及び図8に示す。
【0049】
比較例5の錠剤の溶出は30分後で50%以下であったが、実施例12及び実施例13の錠剤では、30分後で約80%以上溶出し、アピキサバンの固体非晶質分散体とすることで高い溶解性を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により、安価で簡便な方法で安定性と溶出性に優れたアピキサバンの固体非晶質分散体及びアピキサバンの固体非晶質分散体を含有する医薬製剤が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8