(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020007
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】アームサポート装置
(51)【国際特許分類】
A63B 23/14 20060101AFI20250131BHJP
【FI】
A63B23/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024105456
(22)【出願日】2024-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2023123785
(32)【優先日】2023-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501261584
【氏名又は名称】学校法人 日本福祉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】野間 知一
(57)【要約】
【課題】リハビリに際して上肢や手部における意図した動作を容易に実現することが可能なアームサポート装置を提供する。
【解決手段】アームサポート装置1は、利用者の手首周りに装着される装着部材3と、装着部材3を介して利用者の上肢を支持するジンバル機構部5とを備えている。ジンバル機構部5は、第1軸11周りに回転可能に支持された第1可動枠12と、第1可動枠12の内側に配設され第1軸11と直交する第2軸14周りに回転可能に支持された第2可動枠16とを有し、装着部材3は、円弧状に湾曲する第2可動枠16の内周縁16aに沿って回転可能に構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の手首周りに装着される装着部材と、該装着部材を介して利用者の上肢を支持するジンバル機構部とを備え、
前記ジンバル機構部は、第1軸周りに回転可能に支持された第1可動枠と、該第1可動枠の内側に配設され前記第1軸と直交する第2軸周りに回転可能に支持された第2可動枠とを有し、
前記装着部材は、円弧状に湾曲する前記第2可動枠の内周縁に沿って回転可能に構成されている、アームサポート装置。
【請求項2】
前記装着部材が前記第2可動枠に対して着脱可能に構成されている、請求項1に記載のアームサポート装置。
【請求項3】
前記第2可動枠は、周方向の一部が切り欠かれたC字状をなし前記第2軸で支持された枠本体部と、該枠本体部の端部同士を繋ぐ連結部とで、環状体を構成するとともに、
前記連結部は前記枠本体部に対して着脱可能に構成されている、請求項1に記載のアームサポート装置。
【請求項4】
前記ジンバル機構部を移動可能に支持する案内機構部を更に備えている、請求項1に記載のアームサポート装置。
【請求項5】
前記ジンバル機構部は前記第2軸よりも上方で前記案内機構部に連結され、前記利用者の上肢を吊り下げ状態で支持するように構成されている、請求項4に記載のアームサポート装置。
【請求項6】
前記第1可動枠は下方に開口するU字状に形成され、前記第1可動枠の下向きに長く延びる一対の腕部の下端側にて前記第2可動枠が支持されている、請求項5に記載のアームサポート装置。
【請求項7】
前記第1軸が下方に向かうにつれて前記案内機構部から離間するように傾斜する態様で、前記ジンバル機構部が前記案内機構部に取り付けられている、請求項5に記載のアームサポート装置。
【請求項8】
周方向の一部が切り欠かれたC字状をなした装着部材本体部と、該装着部材本体部の端部同士を繋ぐ連結部とで、前記装着部材を環状体として構成するとともに、
前記第2可動枠には、前記装着部材の外周縁を支持し、該外周縁に接触して従動回転するガイドローラが、周方向に複数配設されている、請求項1に記載のアームサポート装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は上肢リハビリテーションを医療・福祉領域で支援するアームサポート装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脳損傷後の上肢リハビリテーション(以下、リハビリと称する場合がある)では、一般的に手関節部の移動を目的とした肩や肘の練習と手関節より遠位の5指により物品の握り離し練習や道具使用練習が実施される。
【0003】
リハビリにおいては、運動麻痺のため手の重さに対して肩肘の筋力が不足することがほとんどのため、手の重さを免荷するアームサポート装置が用いられている。
従来のアームサポート装置では、主に机上での物品操作練習を行なうため、布製のものや前腕の形に沿った形状のものを用いて、前腕を回内位(手のひらが下)で下方から支えるものがほとんどであった。そのため日常生活で顔を洗う際や食事をする際に重要な前腕の回内外運動を伴う手の動きを行おうとすると、この動きを妨げるような望ましくない抵抗力が生じ易く、リハビリに際して所定の筋肉を動かすことを目的とする意図した動作を実現するのが難しい問題があった。なお、下記特許文献1にはこれに関連した技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような事情を背景とし、リハビリに際して上肢や手部における意図した動作を容易に実現することが可能なアームサポート装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、
図7で示す手部の3つの運動(手関節掌背屈、手関節橈尺屈、前腕回内外)の運動軸が手関節部分で交わっていることに着目し、これら3つの運動の運動軸が交わっている利用者の手関節部分(手首部分)を回転可能に支持することで、手部の3次元方向の動きを可能としながら上肢の動きをサポートできることに着想した。本発明はこのような着想のもと成されたものである。
【0007】
而してこの発明の第1の局面のアームサポート装置は次のように規定される。即ち、
利用者の手首周りに装着される装着部材と、該装着部材を介して利用者の上肢を支持するジンバル機構部とを備え、
前記ジンバル機構部は、第1軸周りに回転可能に支持された第1可動枠と、該第1可動枠の内側に配設され前記第1軸と直交する第2軸周りに回転可能に支持された第2可動枠とを有し、
前記装着部材は、円弧状に湾曲する前記第2可動枠の内周縁に沿って回転可能に構成されている。
【0008】
このように規定された第1の局面のアームサポート装置によれば、利用者の上肢がその手首部分において、手の重さが免荷された状態で支持されるとともに、手部の3運動(手関節掌背屈、手関節橈尺屈、前腕回内外)に対応して、利用者の手部がジンバル機構部の第1軸及び第2軸周りに、更に第2可動枠の内周縁の周りにそれぞれ回転可能に支持されることとなり、利用者は手の重さが免荷された状態で手部を3次元方向に自由に動かすことができる。このため、利用者は、上肢のリハビリに際して手部を所定の方向に意図して動かす動作を容易に実現することができる。
【0009】
ここで、前記装着部材は、前記第2可動枠に対して着脱可能に構成することができる(第2の局面)。このようにすれば、リハビリに先立ち利用者が装着部材を手首周りに装着する動作の自由度が高められ、利用者は無理なく装着部材を装着することができる。
【0010】
この発明の第3の局面は次のように規定される。即ち、
第1の局面において、前記第2可動枠は、周方向の一部が切り欠かれたC字状をなし前記第2軸で支持された枠本体部と、該枠本体部の端部同士を繋ぐ連結部とで、環状体を構成するとともに、
前記連結部は前記枠本体部に対して着脱可能に構成されている。
【0011】
このように規定された第3の局面のアームサポート装置によれば、連結部を外すことで枠本体部に設けられた切欠き部を通じて利用者の手首部分を第2可動枠内に配置することができる。利用者の手首部分が第2可動枠内に配置された後は、連結部を用いて第2可動枠を環状体とすることで、利用者の腕部が第2可動枠から抜け落ちてしまうのを防止することができる。
【0012】
またこの発明では、前記ジンバル機構部を移動可能に支持する案内機構部を更に備えるように構成することができる(第4の局面)。
このようにすることで、手部の3次元方向の動きと上肢の運動を複合的に実現させることができる。
【0013】
この発明の第5の局面は次のように規定される。即ち、
第4の局面において、前記ジンバル機構部は前記第2軸よりも上方で前記案内機構部に連結され、前記利用者の上肢を吊り下げ状態で支持するように構成されている。
このようにすれは、利用者の手部の下方に、利用者の動作を妨げるものがない広い空間を確保することができ、リハビリ動作の自由度をより高めることができる。
【0014】
また利用者の上肢を吊り下げ状態で支持する第5の局面では、前記第1可動枠を下方に開口するU字状とし、前記第1可動枠の下向きに長く延びる一対の腕部の下端側にて前記第2可動枠を支持するように構成することができる(第6の局面)。
このようにすれば、第2可動枠を支持する第2軸とその上方に位置する第1可動枠との間の空間を広く確保することができ、利用者の指が上向きとなるリハビリ動作を行なった場合などに、利用者の指と第1可動枠との干渉を軽減することができる。
【0015】
また利用者の上肢を吊り下げ状態で支持する第5の局面では、前記第1軸が下方に向かうにつれて前記案内機構部から離間するように傾斜する態様で、前記ジンバル機構部を前記案内機構部に取り付けることができる(第7の局面)。
このようにすれば、水を飲む、髪の毛をとかす、体を拭くなど手部を利用者の身体に近接させて行われる動作において、利用者の身体とアームサポート装置との干渉を軽減することができる。
【0016】
またこの発明では、周方向の一部が切り欠かれたC字状をなした装着部材本体部と、該装着部材本体部の端部同士を繋ぐ連結部とで、前記装着部材を環状体として構成するとともに、前記第2可動枠には、前記装着部材の外周縁を支持し、前記装着部材の外周縁に接触して従動回転するガイドローラを、周方向に複数配設することができる(第8の局面)。
このようにすれば、第2可動枠と装着部材との間での摩擦抵抗を低減させて、装着部材の回転動作を広い範囲に亘ってスムーズに実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態のアームサポート装置の全体構成を示した図である。
【
図2】
図1のジンバル機構部および装着部材を示した図である。
【
図3】
図2のジンバル機構部の一部を分離させた状態で示した斜視図である。
【
図5】同アームサポート装置を利用する際の手順の説明図である。
【
図8】本発明の他の実施形態のアームサポート装置を示した図である。
【
図9】本発明の更に他の実施形態のアームサポート装置を示した図である。
【
図10】
図9の第2可動枠を単独で示した図である。
【
図12】同実施形態のアームサポート装置の利用態様の一例を示した図である。
【
図14】同実施形態のアームサポート装置の変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明の実施形態を図面を用いて以下に詳しく説明する。
図1は、第1の実施形態に係るアームサポート装置の全体構成を示した図である。同図におけるアームサポート装置1は、利用者の手首周りに装着される装着部材3と、装着部材3を介して利用者の上肢を支持するジンバル機構部5と、ジンバル機構部5を移動可能に支持する案内機構部7を備えている。
【0019】
ジンバル機構部5は、基台部10と、基台部10と一体に形成された第1可動枠12と、その内側に配設された第2可動枠16とを備えている。
第1可動枠12は上部が切り欠かれた円弧状部材で、第1可動枠12の下部は、下向きに延びる第1軸11が設けられた基台部10と一体に形成されている。
第1軸11は、案内機構部7のホルダ部36上面に形成された保持穴37(
図2参照)に挿入されている。保持穴37は第1軸11の軸径よりも僅かに大きな径とされており、第1軸11が保持穴37に挿入された状態で、第1軸11は鉛直方向に保持され、第1可動枠12は、
図2において矢印で示すように、案内機構部7のホルダ部36により、第1軸11周りに回転可能に支持されている。
【0020】
第1可動枠12からは、第1軸11と直交する水平方向に且つ第1可動枠12の中心側に向かって第2軸14が延び出しており、第2可動枠16は、
図2において矢印で示すように、この第2軸14周りに回転可能に支持されている。
【0021】
第2可動枠16は、断面円形の円環状部材で、自身が第2軸14周りに回転可能に支持される一方、所定の曲率ρ(
図2参照)で円弧状に湾曲する内周縁16aに基づいて装着部材3を第2軸14と直交する第3軸15(
図1参照)周りに回転可能に支持する部材である。
【0022】
第2可動枠16は、枠本体部17と連結部21からなり、
図3で示すように、連結部21は枠本体部17に対して着脱可能に構成されている。
第2可動枠16を構成する枠本体部17は、周方向の一部が切り欠かれたC字状の円弧状部材で、第1軸11の軸心を通る鉛直線(
図2参照)に対し左右対称形状とされている。装着部材3および利用者の手部は、枠本体部17の端部19,19の間に形成された切欠き部18を通じて、第2可動枠16の内側に配置可能とされている。
【0023】
一方、連結部21は、枠本体部17と同じ太さ・曲率で湾曲する円弧状部材で、枠本体部17の端部19,19同士を繋いで、第2可動枠16を円環状部材とする。連結部21の端部22,22には係合凸片22aが形成されており、それぞれ対向する枠本体部17の端部19,19に設けられた係合凹部19aと係合可能とされている。また、連結部21の中央部の外周面側には着脱の際に利用される摘み片23が形成されている。
【0024】
次に、利用者の手首周りに装着される装着部材3は、第2可動枠16の枠本体部17と同様に、周方向の一部が切り欠かれたC字状の円弧状部材である。装着部材3の内側の空間は、利用者の手首が収容される空間とされており、
図4で示す切欠き部25を通じて利用者の手首が装着部材3の内側の空間に収容可能とされている。なお、本例では装着部材3の内周面に可撓性のバンド26が設けられており、バンド26を利用者の手首に巻き付けることで、装着部材3の装着位置がずれてしまうのを抑制することができる。後に詳述する他の実施形態に係るアームサポート装置1Bおよび1Cについても同様である。
【0025】
装着部材3の外周縁には、第2可動枠16の凸状の内周縁16aと略同等の曲率で周方向に湾曲する係合凹溝27が形成されている。
図2の吹き出し図で示すように、本例では装着部材3の係合凹溝27を第2可動枠16の内周縁16aに係合させることで、装着部材3が第2可動枠16の周方向に沿って第3軸15(
図1参照)周りに回転可能とされている。このように構成されたアームサポート装置1では、第1軸11、第2軸14および第3軸15の各軸線が第2可動枠16の中心部において交わっている。
【0026】
図1で示す案内機構部7は、案内レール31と、案内レール31に沿って移動する可動体34と、ジンバル機構部5を保持するホルダ部36とを有し、ジンバル機構部5を所定の方向に移動可能に支持するものである。
案内レール31は直線状に延びる棒状部材で、その両端部が脚部32で支持されている。案内レール31の表面には、長手方向に延びる態様で複数の案内溝33が形成されている。
可動体34には案内溝33と対向するローラ35が設けられており、可動体34はローラ35を介して案内レール31に移動自在に係合されている。即ち、可動体34と一体に設けられたホルダ部36にて保持されたジンバル機構部5は、案内レール31の長手方向に移動可能に支持されている。
【0027】
このように構成された本実施形態のアームサポート装置1を利用してリハビリを行なう際の手順は以下の通りである。
先ず、
図5で示すように第2可動枠16から取り外した装着部材3を利用者の手首周りに装着する。次にアームサポート装置1側については、第2可動枠16の一部を構成する連結部21を外しておき、第2可動枠16の切欠き部18を通じて、装着部材3とともに利用者の手首部分を第2可動枠16内に挿入する。そして装着部材3の係合凹溝27を第2可動枠16の内周縁16aに係合させる。そして
図6で示すように枠本体部17の端部19,19同士を繋ぐように連結部21を取り付ける。
【0028】
このようにすることで、利用者の手部の3運動の運動軸が交差する手関節部分と、ジンバル機構部5における3つの回転軸が交わる点とを近接させた状態で、利用者の上肢がジンバル機構部5により鉛直方向下方側から支持される。ここで、
図7(A)で示す手関節掌背屈運動は第2可動枠16の第2軸14周りの回転によりサポートされ、同図(B)で示す手関節橈尺屈運動は第1可動枠12の第1軸11周りの回転によりサポートされ、同図(C)で示す前腕回内外運動は第2可動枠16の内周縁16aに沿った装着部材3の回転によりサポートされ、全体として手部の3次元方向の動きがサポートされる。
なお、アームサポート装置1によれば、前腕を、その長軸の周りに捻じって、前腕回内位(手のひらが下)から前腕回外位(手のひらが上)もしくはそこに至る途中の中間位に移行した場合であっても同質の免荷量でサポートされている。
【0029】
このように構成されたアームサポート装置1は、例えば促進反復療法において好適に用いることができる。促進反復療法は、目的の運動パターンを高頻度に反復することで関連する神経回路を再建・強化して、麻痺した部位の回復や日常生活での手の使用を促進するリハビリ法である。促進反復療法では、治療者が麻痺した手を支え、同時に関連する筋に刺激を入れ、患者が意図した手部の運動を容易に実現・反復していく。特に日常生活で頻回に生じる前腕の回内外運動を伴った手首や肘の複合的な3次元運動パターンが練習に多く取り入れられている。
本実施形態のアームサポート装置1によれば、不必要に手が固定されておらず、
図7で示す手部の3運動を妨げるような抵抗力が働くことがないため、利用者は意図した運動を容易に実現することができ、その運動を集中反復することで効率良く促進反復療法を行うことができる。促通反復療法の有効性は無作為化比較試験で示されており、本来療法士の個別リハで実施されるが、本実施形態のアームサポート装置1を用いると自主練習でも可能となり低コストで同様の臨床効果が期待できる。
【0030】
以上のように本実施形態のアームサポート装置1によれば、利用者の上肢がその手首部分において、手の重さが免荷された状態で支持されるとともに、手部の3運動(手関節掌背屈、手関節橈尺屈、前腕回内外)に対応して、利用者の手部がジンバル機構部5の第1軸11および第2軸14周り、更に第2可動枠16の内周縁16aの周りにそれぞれ回転可能に支持されることとなり、利用者は手の重さが免荷された状態で手部を3次元方向に自由に動かすことができる。このため、利用者は、上肢のリハビリに際して手部を意図した所定の方向に動かす動作を容易に実現することができる。
【0031】
また本実施形態のアームサポート装置1によれば、装着部材3は、第2可動枠16に対して着脱可能に構成されており、リハビリに先立ち利用者が装着部材3を手首周りに装着する動作の自由度が高められ、利用者は無理なく装着部材3を装着することができる。在宅でのリハビリなど、療法士の支援が得られない場合に特に有効である。
【0032】
また本実施形態のアームサポート装置1によれば、第2可動枠16は、周方向の一部が切り欠かれたC字状を成し第2軸14で支持された枠本体部17と、枠本体部17の端部同士19,19を繋ぐ連結部21とで、環状体を構成するとともに、連結部21は枠本体部17に対して着脱可能に構成されている。このため連結部21を外すことで枠本体部17に設けられた切欠き部18を通じて利用者の手首部分を第2可動枠16内に配置することができる。利用者の手首部分が第2可動枠16内に配置された後は、連結部21を用いて第2可動枠16を円環状体とすることで、利用者の腕部が第2可動枠16から抜け落ちてしまうのを防止することができる。
【0033】
また本実施形態のアームサポート装置1によれば、ジンバル機構部5を所定の方向に移動可能に支持する案内機構部7を更に備えており、手部の3次元方向の動きと上肢の運動を複合的に実現させることができる。
【0034】
図8は、第2の実施形態に係るアームサポート装置1Bを示した図である。
上記第1の実施形態に係るアームサポート装置1は、ジンバル機構部5の第1可動枠12および案内機構部7が利用者の手部の下方に配置された状態で利用者の上肢を支持するものであったが、
図8で示すアームサポート装置1Bでは、これらを利用者の手部よりも上方に配置して、利用者の上肢を吊り下げ状態で支持することが可能とされている。この第2の実施形態において、上記第1の実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0035】
このアームサポート装置1Bでは、ジンバル機構部5が第2軸14よりも上方で案内機構部7に連結されている。詳しくは、
図8の吹き出し図で示すように、第1軸11の先端に保持穴37よりも大径のフランジ部40を設けて、第1軸11がホルダ部36から軸方向に抜けないように構成されている。
このアームサポート装置1Bでは、ジンバル機構部5の第1可動枠12および案内機構部7が利用者の手部よりも上方に配置されるため、利用者の手部の下方に、利用者の動作を妨げるものがない広い空間を確保することができる。利用者がジンバル機構部5からのサポートを受けながら机上にある物品の操作や道具を使う動作を行なう場合に用いて特に好適である。
【0036】
図9は、第3の実施形態に係るアームサポート装置1Cの全体構成を示した図である。アームサポート装置1Cは、利用者の手首周りに装着される装着部材3Cと、装着部材3Cを介して利用者の上肢を支持するジンバル機構部5Cと、ジンバル機構部5Cを移動可能に支持する案内機構部7Cを備え、上記第2の実施形態に係るアームサポート装置1Bと同様に、利用者の上肢を吊り下げ状態で支持することが可能とされている。
【0037】
ジンバル機構部5Cは、基部50と、第1可動枠54と、第1可動枠54の内側に配設された第2可動枠60とを備えている。
第1可動枠54は、下向きに略平行に延びる一対の腕部55,55と、腕部55の上端を相互に連結する連結部56とを有し、下方に開口するU字形状(略馬蹄形状)とされている。連結部56の、図中左右方向の中央部には、上向きに延びる第1軸51が一体に設けられた基部50が取り付けられている。
第1軸51は、案内機構部7Cのホルダ部82に形成された保持穴83に挿入された状態で保持され、第1可動枠54は第1軸51周りに回転可能に支持されている。第1軸51とホルダ部82との組付構造は、上記第2の実施形態に係るアームサポート装置1Bの場合と同じである。
【0038】
第1可動枠54の下向きに延びる一対の腕部55,55の下端側からは、第1軸51と直交する水平方向に且つ第1可動枠54の中心側に向かって第2軸58が延び出しており、第2可動枠60は、この第2軸58周りに回転可能に支持されている。
ここで本実施形態では、腕部55を下向きに長く延び出させることで、第2可動枠60を支持する第2軸58とその上方に位置する第1可動枠54の連結部56との間の空間57を上下方向に広く確保している。
【0039】
第2可動枠60は、円弧状に形成された第1の半体61Aと第2の半体61Bを含んで構成された円環状の部材で、その内側に装着部材3Cを保持している。本実施形態では、装着部材3Cの外周縁を支持するガイドローラ62が第2可動枠60の周方向に間隔を隔てて複数取り付けられている。ガイドローラ62は、第3軸65の方向(紙面垂直方向)に延びるローラ軸63を回転中心として、装着部材3Cの外周縁に接触し、装着部材3Cが回転したとき従動回転可能とされている。
図10は、第2可動枠60を単独で示した図である。各ガイドローラ62の内側頂部と接する仮想円64(
図10(A)参照)は、装着部材3Cを回転可能に支持する第2可動枠60の内周縁に相当する。
【0040】
図10(B)で示すように、第2可動枠60を構成する第1の半体61Aと第2の半体61Bは、それぞれの一端部がピン66を介して相対回転可能に結合されている。この実施形態によれば、第2の半体61Bが第2軸58で支持されており、第2の半体61Bが本発明の枠本体部を構成し、第1の半体61Aが本発明の連結部を構成する。この第2可動枠60では、ピン結合されていない半体61Aの他端部を対向する半体61Bの他端部から離間させることで生じる上向きの開口を通じて、装着部材3Cの着脱が可能とされている。
【0041】
図10(B)で示すように、第1の半体61Aのピン結合されていない他端部(図中右側)には、周方向に係合片68を突出させた第1係合部69が形成されるとともに、対向する第2の半体61Bの他端部には、前記係合片68を受入れ可能に側面が切り欠かれた第2係合部70が形成されている。またこの第2係合部70には、径方向外側に向けて突出した突片70aが形成されている。
図中の符号72は、半体の他端部同士を離間不能に固定する固定片である。固定片72には、半体61Bの突片70aと係合可能な長穴開口73と、図示を省略する取付ボルトを貫通させる貫通孔74が形成されている。そして
図10(A)で示すように、長穴開口73の開口縁部を半体61Bの突片70aと係合させた状態で、固定片72を半体61Aに止め付けることで、第1係合部69と第2係合部70とを係合させた状態で、半体61Aおよび61Bは離間不能に固定され、第2可動枠60は円環状となる。
【0042】
図11は装着部材3Cを単独で示した図である。同図で示すように、装着部材3Cは、装着部材本体部76と連結部78からなる円環状の部材で、その内側の空間は利用者の手首が収容される空間とされている。
装着部材本体部76は、周方向の一部が切り欠かれたC字状の円弧状部材で、その端部77には係合凹部77aが形成されている。
連結部78は、装着部材本体部76の一対の端部77,77同士を繋ぐ円弧状部材である。連結部78の端部79には、係合凹部77aと係合可能な係合凸片79aが形成されており、連結部78は、装着部材本体部76に対して着脱可能とされている。
【0043】
装着部材3Cの外周縁には、第2可動枠60の内周縁と略同等の曲率で周方向に湾曲する凹溝80が形成されており、凹溝80の底部80aと第2可動枠60のガイドローラ62が接触することで、装着部材3Cは第2可動枠60の内側において回転可能に支持される。このように構成されたアームサポート装置1Cでは、第1軸51、第2軸58および第3軸65の各軸線が第2可動枠60の中心部において交わっている。
【0044】
図9で示す案内機構部7Cは、図示を省略する案内レールに沿ってXY平面内を移動可能な可動体81と、可動体81の先端に取り付けられジンバル機構部5Cを吊り下げ状態で保持するホルダ部82とを含んでおり、ジンバル機構部5Cが可動体81と一体的にXY平面内を移動できるように構成されている。
【0045】
図12は、アームサポート装置1Cの利用態様の一例として、リハビリ動作としての机上での書字動作を示している。本実施形態のアームサポート装置1Cによれば、アームサポート装置1Bの場合と同様に、利用者の手部の下方に、利用者の動作を妨げるものがない広い空間を確保することができるため、利用者はジンバル機構部5Cからのサポートを受けながら手指を自由に動かすことができる。アームサポート装置1Cによれば、
図12で示す書字動作のほか、本をめくる動作やスプーンで物をすくい上げる動作等を好適に実現させることができる。
【0046】
また本実施形態のアームサポート装置1Cでは、第1可動枠54を下方に開口するU字状とし、第1可動枠54の下向きに長く延びる一対の腕部55,55の下端側にて第2可動枠60を支持するように構成されている。このため、第2可動枠60を支持する第2軸58とその上方に位置する第1可動枠54との間の空間57を広く確保することができ、
図13で示すように、利用者の指が上向きとなるよう前腕を持ち上げる動作を行なった場合での、利用者の指と第1可動枠54との干渉を軽減することができる。
【0047】
また本実施形態のアームサポート装置1Cでは、装着部材3Cの外周縁を支持し、装着部材3Cの外周縁に接触して従動回転するガイドローラ62が、第2可動枠60の周方向に複数配設されており、例えば第1の実施形態に係るアームサポート装置1のように第2可動枠の内周縁と装着部材の外周縁とを面接触させた場合に比べて、回転時の接触抵抗を低減させることができる。
更に本実施形態のアームサポート装置1Cでは、装着部材3Cを環状体としているため、例えばアームサポート装置1のように装着部材を非環状体で構成した場合に比べて、装着部材3Cの回転動作を広い範囲に亘ってスムーズに実現させることができる。
【0048】
図14は、アームサポート装置1Cの変形例を示している。
図9~
図13に記載されたアームサポート装置1Cは、第1軸51が鉛直となるようにジンバル機構部5Cが吊り下げ支持されているが、
図14で示すように、第1軸51が前下方向に傾斜するようにジンバル機構部5Cを取り付けることも可能である。
この
図14の例では、案内機構部7Cにおける可動体81の先端側に、ジンバル機構部5Cが取り付けられる取付部としての取付軸部85が、斜め上向きに延びる態様で設けられている。このようにすることで取付軸部85に取り付けられたジンバル機構部5Cの第1軸51は、下方に向かうにつれて取付軸部85から離間するように傾斜し、アームサポート装置1Cを構成する案内機構部7Cやジンバル機構部5Cの上側の部位(取付軸部85に近い側の部位)を利用者から離間させることができる。
この
図14では、アームサポート装置1Cの利用者が水を飲む動作を行なっている場合を示しているが、水を飲む、髪の毛をとかす、体を拭くなど、手部を利用者の身体に近接させて行われるリハビリ動作において、この
図14で示す構成を採用すれば利用者の身体とアームサポート装置1Cとの干渉を軽減することができる。
【0049】
以上のように、ここまでに説明した各実施形態のアームサポート装置によれば、何れもアームサポートが利用者の手首付近で完結しているため、利用者の手指は全く邪魔されず自由に動かすことができる。そして、そのことにより身体を触る、物品を掴む・摘む、道具を使用するなどの動作を自由に行うことができる。
【0050】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。例えば、上記第1の実施形態では第2可動枠の内周縁を凸状、装着部材の外周縁を凹状としたが、場合によっては第2可動枠の内周縁を凹状、装着部材の外周縁を凸状として、装着部材を第2可動枠に係合させることも可能である。また上記第3の実施形態では、第2可動枠の側にガイドローラを取り付けたが、場合によっては装着部材の側にガイドローラを取り付け、第2可動枠の内周縁に接して従動回転するように構成することも可能である。またここで用いられるガイドローラは、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、回転時の接触抵抗を低減させることが可能な構成(例えば、第2可動枠と装着部材との間に細い針状ころを介在させるなどの構成)を適宜採用することが可能である。
また上記各実施形態における案内機構部は、必要に応じて利用者の上肢が所定の直線方向、XY平面内もしくはXYZ空間内を移動可能となるように適宜構成することが可能である。
また複数人がリハビリで使用できるように、内径のサイズが異なる複数の装着部材を備えるように構成することも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0051】
1,1B,1C アームサポート装置
3,3C 装着部材
5,5C ジンバル機構部
7,7C 案内機構部
11,51 第1軸
12,54 第1可動枠
14,58 第2軸
16,60 第2可動枠
16a,64 内周縁
17,61B 枠本体部
21,61A 連結部
55 腕部
62 ガイドローラ
76 装着部材本体部
78 連結部
85 取付軸部(取付部)