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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020021
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】フコシダーゼ変異体とその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/26 20060101AFI20250131BHJP
   C12N 9/44 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
C12N9/26 ZNA
C12N9/44
C12N9/26 Z
C12N9/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024115463
(22)【出願日】2024-07-19
(31)【優先権主張番号】63/529,439
(32)【優先日】2023-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】521537830
【氏名又は名称】チョ ファーマ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ウー ウェイ-シェン
(72)【発明者】
【氏名】チュー クオ-チン
(57)【要約】
【課題】本開示は、増強されたα-(1,6)フコシダーゼ活性を示す、α-フコシダーゼ(α-L-フコシダーゼ)の新規変異体形態を提供すること。
【解決手段】本開示はまた、α-フコシダーゼの新規変異体形態を含む組成物、および複合糖質中のα-(1,6)-連結フコースを切断するためにα-フコシダーゼの新規変異体形態を使用する方法に関する。一実施形態において、本開示は、インビトロでのフコースの改善された酵素的加水分解のためのα-L-フコシダーゼの変異体形態を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1と少なくとも95%の配列同一性を有し、アミノ酸位置247(K247)に置換変異を有するポリペプチドを含む、変異体α-L-フコシダーゼ。
【請求項2】
前記置換変異が、K247A、K247C、K247D、K247E、K247F、K247G、K247I、K247L、K247M、K247N、K247P、K247Q、K247S、K247T、K247V、K247W、およびK247Yからなる群より選択される、請求項1に記載の変異体α-L-フコシダーゼ。
【請求項3】
配列番号2~18のいずれか1つの配列を有する、請求項1または2に記載の変異体α-L-フコシダーゼ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の変異体α-L-フコシダーゼと、少なくとも1つのグリコシダーゼとを含む組成物。
【請求項5】
インビトロで脱フコシル化複合糖質を作製する方法であって、1つまたは複数のフコースを含む複合糖質を、エンドグリコシダーゼおよび請求項1~3のいずれか1項に記載の変異体α-L-フコシダーゼと順次または同時に接触させるステップを含む、方法。
【請求項6】
(a)前記複合糖質を前記エンドグリコシダーゼと接触させるステップ;および
(b)前記複合糖質を請求項1~3のいずれか1項に記載の変異体α-L-フコシダーゼと接触させるステップ
の連続ステップを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(c)反応を終了させるステップをさらに含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(c)が、約65℃で15~25分間実施される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(a)および/またはステップ(b)が、約37℃で0.5~2時間実施される、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記エンドグリコシダーゼが、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)、EndoA、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoS、EndoS2、およびそれらのバリアントである、請求項6~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
EndoS2が、T138D、T138E、T138F、T138H、T138K、T138L、T138M、T138N、T138Q、T138R、T138V、T138W、D182Q、D226Q、T227Q、およびT228Qからなる群より選択される置換変異を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記フコースが、α-(1,2)、α-(1,3)、α-(1,4)およびα-(1,6)連結フコースからなる群から選択される、請求項5~11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本開示は、増強されたα-(1,6)フコシダーゼ活性を示す、α-フコシダーゼ(α-L-フコシダーゼ)の新規変異体形態に関する。本開示はまた、α-フコシダーゼの新規変異体形態を含む組成物、および複合糖質中のα-(1,6)-連結フコースを切断するためにα-フコシダーゼの新規変異体形態を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
N-グリコシル化は、哺乳動物のタンパク質中に観察される最も一般的な翻訳後修飾の一つであり、これらのタンパク質の固有の特徴および生物学的機能を調節する上で重要な役割を果たしている。例えば、N-グリカンの結合は、タンパク質のフォールディング、安定性、抗原性、および免疫原性に顕著に影響を与え得る。さらに、N-グリカンは、細胞接着、宿主-病原体相互作用、がん転移および免疫応答など、広範な生物学的認識プロセスに直接関与し得る。哺乳動物のN-グリカンは、基本的なオリゴ糖のコア構造を共有するが、シアリル化およびフコシル化など、コア構造に追加の修飾の導入は、生物学的機能に影響を及ぼす構造的多様性の増大したレベルに寄与する。
【0003】
治療抗体の生理学的活性は、2つの異なるメカニズムによって媒介される。第一のメカニズムは、標的抗原中和またはアポトーシスに関与し、これが治療効力に寄与する。第二のメカニズムは、抗体エフェクター機能、抗体依存性細胞細胞傷害性(ADCC)および補体依存性細胞傷害性(CDC)に関与し、これらは免疫複合体の形成によって活性化される。治療抗体の臨床効果における、特に抗がん抗体におけるADCCの重要性は、患者の白血球受容体(FcγR)多型の遺伝子解析を通じて解明されてきた。そのため、バイオ産業界は、抗体の定常領域(Fc)に結合したN-グリカンの修飾を含むADCC増強技術の開発に多大な労力を費やしてきた。抗体のFc領域上のN-グリカンの最内側GlcNAcに結合しているα-(1,6)-連結フコース(コアフコース)の量は、ADCC活性に影響を与えることが知られている。Fc領域上のN-グリカンの最内側GlcNAcからコアフコースの除去は、非フコシル化抗体のFcγRIIIα受容体に対する結合親和性の増大のため、IgGのADCC活性を顕著に増強する。
【0004】
IgGのフコシル化を減少させることにより、FcγRIIIα結合およびADCCを増強するための数多くのアプローチが開発されてきた。いくつかの戦略は、α-(1,6)フコシルトランスフェラーゼの発現を除去または減少させる生産細胞株の開発に関する。フコシル化を減少させる代替戦略としては、RNAiを用いることによりα-(1,6)フコシルトランスフェラーゼ遺伝子をサイレンシングすることが挙げられる。しかし、インビトロでのN-グリカンの酵素的脱フコシル化は、N-グリカンが2つのFcドメインの間に埋め込まれているため、依然として困難である。Fcドメインの存在はα-フコシダーゼのフコース残基へのアクセスを制限し、立体障害をもたらし、酵素的脱フコシル化の効率を低下させる。
【0005】
Fc領域の外側のN-グリカンを除去した後、最内側GlcNAc残基からコアフコースを除去できるα-L-フコシダーゼは、ウシ腎臓由来のα-L-フコシダーゼ、ヒト由来のα-L-フコシダーゼ(FucA1)、Bacteroides fragilis由来のα-L-フコシダーゼ(BfFuc)、およびLactobacillus casei由来のα-L-フコシダーゼC(AlfC)など、ごくわずかしか開示されていない。野生型酵素の固有の機能および活性は限定的であり低いため、N-グリカンからコアフコースを効率的に切断する修飾酵素の開発が求められる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
一実施形態において、本開示は、インビトロでのフコースの改善された酵素的加水分解のためのα-L-フコシダーゼの変異体形態を提供する。本開示は、増強されたα-(1,6)フコシダーゼ活性を示す、α-フコシダーゼ(α-L-フコシダーゼ)の新規変異体形態に関する。本開示はまた、α-フコシダーゼの新規変異体形態を含む組成物、および複合糖質中のα-(1,6)-連結フコースを切断するためにα-フコシダーゼの新規変異体形態を使用する方法に関する。
【0007】
つの実施形態において、本開示は、配列番号1に対して少なくとも95%の配列同一性を有し、アミノ酸位置247(K247)に置換変異を有するポリペプチドを含む変異体α-L-フコシダーゼを提供する。
【0008】
つの実施形態において、本開示は、配列番号1に対して少なくとも97%の配列同一性を有し、アミノ酸位置247(K247)に置換変異を有するポリペプチドを含む変異体α-L-フコシダーゼを提供する。
【0009】
つの実施形態において、本開示は、配列番号1に対して少なくとも99%の配列同一性を有し、アミノ酸位置247(K247)に置換変異を有するポリペプチドを含む変異体α-L-フコシダーゼを提供する。
【0010】
つの実施形態において、本開示は、配列番号1の配列を有し、アミノ酸位置247(K247)に置換変異を有するポリペプチドを含む変異体α-L-フコシダーゼを提供する。
【0011】
いくつかの実施形態において、置換変異は、K247A、K247C、K247D、K247E、K247F、K247G、K247I、K247L、K247M、K247N、K247P、K247Q、K247S、K247T、K247V、K247W、およびK247Yからなる群より選択される。
【0012】
いくつかの実施形態において、変異体α-L-フコシダーゼは、配列番号2~18のいずれか1つの配列を有する。
【0013】
いくつかの実施形態において、本開示の変異体α-L-フコシダーゼは、糖タンパク質の変性または機能的劣化なしに、天然の糖タンパク質中のコアフコースを効率的に切断するのに有用である。
【0014】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のフコシダーゼは、1つまたは複数のα-(1,2)、α-(1,3)、α-(1,4)およびα-(1,6)連結フコースを加水分解することができる。フコースは、複合糖質におけるN-および/またはO-連結グリカンに存在してもよい。
【0015】
いくつかの実施形態において、α-フコシダーゼは、組換えBacteroidesのα-フコシダーゼである。
【0016】
いくつかの実施形態において、α-フコシダーゼは、6.5~7.5に至適pHを示す。
【0017】
いくつかの実施形態において、本開示は、治療抗体などの抗体またはFc融合タンパク質のFc糖操作を容易にするための、上記の変異体α-L-フコシダーゼを含む組成物を提供する。
【0018】
いくつかの実施形態において、組成物は、少なくとも1つのグリコシダーゼをさらに含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、グリコシダーゼはエキソグリコシダーゼであり得る。
【0020】
いくつかの実施形態において、グリコシダーゼはエンドグリコシダーゼであり得る。エンドグリコシダーゼとしては、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)、EndoA、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoS、EndoS2、およびそれらのバリアントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
いくつかの実施形態において、組成物は、インビトロで複合糖質の脱フコシル化を行うために有用かつ効率的である。特に、本明細書に記載の組成物は、インビトロで糖タンパク質のコア脱フコシル化を行うのに有用である。
【0022】
いくつかの実施形態において、コア脱フコシル化はコアα-(1,6)脱フコシル化である。
【0023】
いくつかの実施形態において、コア脱フコシル化はコアα-(1,3)脱フコシル化である。
【0024】
いくつかの実施形態において、脱フコシル化は、糖タンパク質の変性または機能的劣化なしに実施することができる。
【0025】
一実施形態において、本開示は、インビトロで脱フコシル化複合糖質を作製する方法であって、1つまたは複数のフコースを含む複合糖質を、エンドグリコシダーゼおよび上記の変異体α-L-フコシダーゼと順次または同時に接触させるステップを含む方法を提供する。
【0026】
いくつかの実施形態において、方法は、以下の一連のステップを含む:(a)複合糖質をエンドグリコシダーゼと接触させるステップ;および(b)複合糖質を上記の変異体α-L-フコシダーゼと接触させるステップ。
【0027】
いくつかの実施形態において、方法は、ステップ(c)反応を終了させるステップをさらに含む。
【0028】
いくつかの実施形態において、ステップ(c)は、約65℃で15~25分間実施される。
【0029】
いくつかの実施形態において、ステップ(a)および/またはステップ(b)は、約37℃で0.5~2時間実施される。
【0030】
いくつかの実施形態において、方法は、以下の一連のステップを含む:(a)複合糖質をエンドグリコシダーゼ(エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)、EndoA、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoS、EndoS2、およびそれらのバリアントが含まれるが、これらに限定されない)と接触させるステップ;(b)複合糖質を上記の本発明の変異体α-フコシダーゼと接触させるステップ。複合糖質はα-(1,2)、α-(1,3)、α-(1,4)、およびα-(1,6)連結フコースから選択される1つまたは複数のフコースを含む。フコースは複合糖質中のN-および/またはO-連結グリカンに存在してもよい。
【0031】
いくつかの実施形態において、方法は、上記の変異体α-L-フコシダーゼと、少なくとも1つのグリコシダーゼとを含む組成物を接触させることを含む。エンドグリコシダーゼとしては、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)、EndoA、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoS、EndoS2、およびそれらのバリアントが挙げられるが、これらに限定されない。複合糖質は、α-(1,2)、α-(1,3)、α-(1,4)、およびα-(1,6)結合フコースから選択される1つ以上のフコースを含む。フコースは複合糖質中のN-および/またはO-連結グリカンに存在してもよい。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
配列番号1と少なくとも95%の配列同一性を有し、アミノ酸位置247(K247)に置換変異を有するポリペプチドを含む、変異体α-L-フコシダーゼ。
(項目2)
前記置換変異が、K247A、K247C、K247D、K247E、K247F、K247G、K247I、K247L、K247M、K247N、K247P、K247Q、K247S、K247T、K247V、K247W、およびK247Yからなる群より選択される、項目1に記載の変異体α-L-フコシダーゼ。
(項目3)
配列番号2~18のいずれか1つの配列を有する、項目1または2に記載の変異体α-L-フコシダーゼ。
(項目4)
項目1~3のいずれか1項に記載の変異体α-L-フコシダーゼと、少なくとも1つのグリコシダーゼとを含む組成物。
(項目5)
インビトロで脱フコシル化複合糖質を作製する方法であって、1つまたは複数のフコースを含む複合糖質を、エンドグリコシダーゼおよび項目1~3のいずれか1項に記載の変異体α-L-フコシダーゼと順次または同時に接触させるステップを含む、方法。
(項目6)
(a)前記複合糖質を前記エンドグリコシダーゼと接触させるステップ;および
(b)前記複合糖質を項目1~3のいずれか1項に記載の変異体α-L-フコシダーゼと接触させるステップ
の連続ステップを含む、項目5に記載の方法。
(項目7)
(c)反応を終了させるステップをさらに含む、項目5または6に記載の方法。
(項目8)
前記ステップ(c)が、約65℃で15~25分間実施される、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記ステップ(a)および/またはステップ(b)が、約37℃で0.5~2時間実施される、項目6~8のいずれか1項に記載の方法。
(項目10)
前記エンドグリコシダーゼが、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)、EndoA、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoS、EndoS2、およびそれらのバリアントである、項目6~9のいずれか1項に記載の方法。
(項目11)
EndoS2が、T138D、T138E、T138F、T138H、T138K、T138L、T138M、T138N、T138Q、T138R、T138V、T138W、D182Q、D226Q、T227Q、およびT228Qからなる群より選択される置換変異を含む、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記フコースが、α-(1,2)、α-(1,3)、α-(1,4)およびα-(1,6)連結フコースからなる群から選択される、項目5~11のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細説明
便宜上、本開示の文脈で使用される特定の用語をここに集める。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0033】
単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数の参照を含むように本明細書で使用される。
【0034】
ポリペプチドに言及する場合の「実質的同一性」または「実質的に同一」という用語は、BLAST、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような配列同一性の任意の周知のアルゴリズムによって測定した場合に、適切なポリペプチドの挿入または欠失を別のアミノ酸残基と最適に整列させたとき、参照ポリペプチド配列の全体配列に対して少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、97%、98%、または99%のアミノ酸残基においてポリペプチド配列同一性があることを示す。参照ポリペプチド配列と実質的同一性を有するポリペプチド配列は、同じ機能を示し得る。
【0035】
本明細書において、範囲は、「約」1つの特定の値のからおよび/または「約」別の特定の値までとして表現される。このような範囲が表現される場合、実施形態は、その1つの特定の値からおよび/またはその他の特定の値までの範囲を含む。同様に、「約」という語を使用することにより値が近似値として表現される場合、その特定の値が別の実施形態を形成することが理解される。さらに、範囲のそれぞれの端点は、他の端点との関係において、および他の端点とは独立しての両方で有意であることが理解される。本明細書で使用する場合、用語「約」は±20%、好ましくは±10%、より好ましくは±5%を指す。
【0036】
本明細書で使用される場合、用語「グリカン」は多糖またはオリゴ糖を指す。グリカンは、単糖残基のホモポリマーまたはヘテロポリマーであり得、直鎖状または分岐状であり得る。グリカンはまた、糖タンパク質、糖脂質、またはプロテオグリカンなどの複合糖質の炭水化物部分を指すように使用され得る。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語「グリコシダーゼ」は、グリコシド連結または結合の加水分解を触媒する酵素を指す。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「複合糖質」は、少なくとも1つの糖部分が少なくとも1つの他の部分に共有結合しているすべての分子を指し、N-連結糖タンパク質、O-連結糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「N-連結糖タンパク質」は、通常アスパラギンまたはアルギニン側鎖の窒素にグリカンが結合した糖タンパク質を指す。
【0040】
本明細書で使用される場合、用語「O-連結糖タンパク質」は、通常セリン、スレオニン、チロシン、ヒドロキシリジン、またはヒドロキシプロリン側鎖のヒドロキシ酸素、あるいはセラミドのような脂質上の酸素にグリカンが結合した糖タンパク質を指す。
【0041】
本発明の第1の態様は、ポリペプチド配列番号1と配列実質的同一性を有し、247位に置換変異を有するLactobacillus casei由来のα-L-フコシダーゼの変異体形態を含むポリペプチド断片に関する。
【0042】
配列番号1は、Lactobacillus casei由来のα-フコシダーゼの配列を指し、GeneBankアクセッション番号はCAQ67984.1である。
【化1】
【0043】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247A、K247C、K247D、K247E、K247F、K247G、K247I、K247L、K247M、K247N、K247P、K247Q、K247S、K247T、K247V、K247W、およびK247Y、好ましくはK247DおよびK247Eからなる群より選択される。
【0044】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Dであり、変異体α-Lフコシダーゼは、
【化2】
の配列を有する。
【0045】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Eであり、変異体α-Lフコシダーゼは、
【化3】
の配列を有する。
【0046】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Fであり、変異体α-Lフコシダーゼは、
【化4】
の配列を有する。
【0047】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Aであり、変異体α-Lフコシダーゼは、
【化5】
の配列を有する。
【0048】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Cであり、変異体α-Lフコシダーゼは、
【化6】
の配列を有する。
【0049】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Gであり、変異体α-Lフコシダーゼは、
【化7】
の配列を有する。
【0050】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Iであり、変異体α-Lフコシダーゼは、
【化8】
の配列を有する。
【0051】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Lであり、変異体α-Lフコシダーゼは、
【化9】
の配列を有する。
【0052】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Mであり、変異体α-Lフコシダーゼは、
【化10】
の配列を有する。
【0053】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Nであり、変異体α-Lフコシダーゼは、
【化11】
の配列を有する。
【0054】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Pであり、変異体α-Lフコシダーゼは、
【化12】
の配列を有する。
【0055】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Qであり、変異体α-Lフコシダーゼは、
【化13】
の配列を有する。
【0056】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Sであり、変異体α-Lフコシダーゼは、
【化14】
の配列を有する。
【0057】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Tであり、変異体α-Lフコシダーゼは、
【化15】
の配列を有する。
【0058】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Vであり、変異体α-Lフコシダーゼは、
【化16】
の配列を有する。
【0059】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Wであり、変異体α-Lフコシダーゼは以下の配列を有する
【化17】
【0060】
いくつかの実施形態において、上記の置換変異は、K247Yであり、変異体α-Lフコシダーゼは、
【化18】
の配列を有する。
【0061】
変異体α-フコシダーゼは、1つまたは複数のα-(1,2)、α-(1,3)、α-(1,4)、およびα-(1,6)-連結フコースを加水分解することができる。フコースは複合糖質中のN-および/またはO-連結グリカンに存在してもよい。フコースはコアα-(1,3)フコースであってもコアα-(1,6)フコースであってもよい。
【0062】
本発明の第2の態様は、上記の変異体α-フコシダーゼと、少なくとも1つのグリコシダーゼとを含む組成物に関する。
【0063】
いくつかの実施形態において、グリコシダーゼはエキソグリコシダーゼである。
【0064】
いくつかの実施形態において、グリコシダーゼはエンドグリコシダーゼである。エンドグリコシダーゼとしては、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)、EndoA、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoS、EndoS2、およびそれらのバリアントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
いくつかの実施形態において、エンドグリコシダーゼは、D233位の変異体を含むEndoSである。
【0066】
いくつかの実施形態において、エンドグリコシダーゼは、T138位、D226位、T227位、および/またはT228位の変異体を含むEndoS2である。
【0067】
いくつかの実施形態において、エンドグリコシダーゼは、T138D、T138E、T138F、T138H、T138K、T138L、T138M、T138N、T138Q、T138R、T138V、T138W、D182Q、D226Q、T227Q、およびT228Qからなる群より選択される変異体を含むEndoS2である。
【0068】
いくつかの実施形態において、組成物は、インビトロで複合糖質の脱フコシル化を行うのに有用かつ効率的である。特に、本明細書に記載の組成物は、インビトロで糖タンパク質のコア脱フコシル化を行うのに有用である。脱フコシル化は、糖タンパク質の変性または機能低下なしに行うことができる。
【0069】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、抗体のFc領域上のN-グリカンの効率的な加水分解に関する。本明細書で使用される場合、用語「N-グリカン」は、抗体またはその断片のFc領域のアスパラギン残基のアミド窒素に連結したN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)によって結合されたN-連結オリゴ糖を指す。
【0070】
いくつかの実施形態において、N-グリカンは、コアフコースを有するかまたは有さない高マンノース、ハイブリッドまたは複合型である。
【0071】
本発明の第3の態様は、インビトロで脱フコシル化複合糖質を作製する方法に関する。複合糖質は、エンドグリコシダーゼおよび上記の変異体α-フコシダーゼで順次または同時に処理することができる。
【0072】
いくつかの実施形態において、方法は、以下のステップを含む:(a)複合糖質をエンドグリコシダーゼ(エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)、EndoA、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoS、EndoS2、およびそれらのバリアントを含むが、これらに限定されない)と接触させるステップ;(b)複合糖質を上記の本発明の変異体α-フコシダーゼと接触させるステップ。複合糖質はα-(1,2)、α-(1,3)、α-(1,4)、およびα-(1,6)連結フコースから選択される1つまたは複数のフコースを含む。フコースは複合糖質中のN-および/またはO-連結グリカンに存在してもよい。
【0073】
いくつかの実施形態において、方法は、上記の変異体α-L-フコシダーゼを含む組成物と、少なくとも1つのグリコシダーゼとを接触させることを含む。エンドグリコシダーゼとしては、Endo-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)、EndoA、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoS、EndoS2、およびそれらのバリアントが挙げられるが、これらに限定されない。複合糖質は、α-(1,2)、α-(1,3)、α-(1,4)、およびα-(1,6)連結フコースから選択される1つまたは複数のフコースを含む。フコースは複合糖質中のN-および/またはO-連結グリカンに存在してもよい。
【0074】
いくつかの実施形態において、エンドグリコシダーゼは、Streptococcus pyogenesエンドグリコシダーゼS2、アミノ酸位置D233に変異を有するStreptococcus pyogenesエンドグリコシダーゼS、アミノ酸位置T138に変異を有するStreptococcus pyogenesエンドグリコシダーゼS2、アミノ酸位置D182に変異を有するStreptococcus pyogenesエンドグリコシダーゼS2である、アミノ酸位置D184に変異を有するStreptococcus pyogenesエンドグリコシダーゼS2、アミノ酸位置D186に変異を有するStreptococcus pyogenesエンドグリコシダーゼS2、アミノ酸位置D226に変異を有するStreptococcus pyogenesエンドグリコシダーゼS2、またはアミノ酸位置T227に変異を有するStreptococcus pyogenesエンドグリコシダーゼS2である。
【0075】
いくつかの実施形態において、エンドグリコシダーゼは、D233位の変異体を含むEndoSである。
【0076】
いくつかの実施形態において、エンドグリコシダーゼは、T138位、D226位、T227位、および/またはT228位の変異体を含むEndoS2である。
【0077】
いくつかの実施形態において、エンドグリコシダーゼは、T138D、T138E、T138F、T138H、T138K、T138L、T138M、T138N、T138Q、T138R、T138V、T138W、D182Q、D226Q、T227Q、およびT228Qからなる群より選択される変異体を含むEndoS2である。
【0078】
いくつかの実施形態において、反応混合物の持続時間は、少なくとも20分、30分、40分、50分、60分、70分、80分、90分または100分、好ましくは60分未満に設定される。反応温度は、好ましくは室温、より好ましくはおよそ20℃、25℃、30℃、35℃、40℃または45℃、最も好ましくはおよそ37℃で行われる。
【実施例0079】
実施例1.タンパク質発現構築物
【0080】
野生型α-フコシダーゼC(AlfC)は、Lacticaseibacillus casei BL23ゲノムDNA(ATCC 393)からポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅し、N末端にHisタグ融合物を有するpET47Nにクローニングした。247位の野生型リジンの他の19個の天然アミノ酸のそれぞれへの置換を、以下のフォワードプライマーおよびプラスミドにコードされた野生型AlfCを鋳型として使用して、飽和変異誘発によって生成した。
【表1】
【0081】
すべての置換は、リバースプライマーとして以下を使用した:5’-CGG GAT CTC GTT ATC GCC CAG-3’(配列番号38)。飽和変異誘発に用いたPCRプログラムは以下の通りであった:95℃で3分間、16サイクルの95℃で45秒間、58℃で50秒間、68℃で8分間、最終ステップの72℃で10分間。変異はDNA配列決定によって確認した。EndoSまたはEndoS2など、試験で使用した他の酵素を、N末端にHisタグ融合物を有するpET28aにクローニングした。
【0082】
実施例2.タンパク質の発現および精製
タンパク質発現構築物をBL21(DE3)(EMD Biosciences, San Diego, CA)に形質転換した。0.1mMのイソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導により、16℃で20時間、タンパク質を過剰発現させた。細胞を高圧ホモジナイザーで破壊した後、遠心分離した後上清を回収した。回収した上清をNi-NTAアガロースカラムにロードし、カラム容量の10倍の洗浄バッファー(Tris-HCl、pH7.4、200mMの塩化ナトリウム、および40mMのイミダゾール)で洗浄した。溶出は、カラム容量の2倍の溶出バッファー(Tris-HCl、pH7.4、200mMの塩化ナトリウム、および300mMのイミダゾール)で行った。タンパク質の純度をSDS-PAGEで調べ、Amicon(登録商標) Ultra-0.5 Centrifugal Filter Devices(UFC5010BK、10kDaカットオフ)により反応バッファー(50mM Tris-HCl、50mMマンニトール、50mMソルビトール、pH7.0)に交換した。
【0083】
実施例3.糖タンパク質のコア脱フコシル化
変異体フコシダーゼのコア脱フコシル化活性を、酵素処理後のコアフコースパーセンテージを分析することにより行った。トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))(24mg)をEndoS2(15.2μg)で37℃で1時間処理し、続いてAlfCフコシダーゼ変異体(2.8μg)で37℃でさらに1時間反応させた。反応物を65℃で20分間熱失活により懸濁させ、Amicon(登録商標) Ultraフィルターデバイス中でddHOにより3回洗浄した。質量分析のために上清を回収した(表2)。ブランク群(酵素なし)におけるN-グリカン上のコアフコースのパーセンテージは約87%であった。野生型AlfC酵素の脱フコース活性は約19%であった。K247残基を負電荷のアミノ酸残基に変異させると、脱フコシル化活性が約80%まで顕著に改善されたが、K247の他の変異体も正電荷の残基を除いて脱フコシル化活性の向上を示した。脱フコシル化パーセンテージは次式で計算される。
【数1】
【表2】
「NF」はコアGlcNAc-フコースの構造を表し、「N」はコアGlcNAcの構造を表す。
【0084】
本開示は、上記の特定の実施形態と併せて説明されてきたが、その多くの代替、ならびにその改変および変形は、当業者に明らかである。このような代替、改変および変形はすべて、本開示の範囲内に含まれるものとみなされる。
【0085】
参考文献
【0086】
US11193155B2
【0087】
Klontz EH, Li C, Kihn K, Fields JK, Beckett D, Snyder GA, Wintrode PL, Deredge D, Wang LX, Sundberg EJ. Structure and dynamics of an α-fucosidase reveal a mechanism for highly efficient IgG transfucosylation. Nat Commun. 2020 Dec 4;11(1):6204
【0088】
Li C, Zhu S, Ma C, Wang LX. Designer α1,6-Fucosidase Mutants Enable Direct Core Fucosylation of Intact N-Glycopeptides and N-Glycoproteins. J Am Chem
Soc. 2017 Oct 25;139(42):15074-15087.
【0089】
Osanjo G, Dion M, Drone J, Solleux C, Tran V, Rabiller C, Tellier C. Directed evolution of the alpha-L-fucosidase from Thermotoga maritima into an alpha-L-transfucosidase. Biochemistry. 2007 Jan 30;46(4):1022-33.
【0090】
US10415021
【配列表】
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