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特開2025-2004セラミックス基板、パワーモジュール及び窒化アルミニウム焼結体
<図1>
  • 特開-セラミックス基板、パワーモジュール及び窒化アルミニウム焼結体 図1
  • 特開-セラミックス基板、パワーモジュール及び窒化アルミニウム焼結体 図2
  • 特開-セラミックス基板、パワーモジュール及び窒化アルミニウム焼結体 図3
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  • 特開-セラミックス基板、パワーモジュール及び窒化アルミニウム焼結体 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002004
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】セラミックス基板、パワーモジュール及び窒化アルミニウム焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/581 20060101AFI20241226BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20241226BHJP
   H01L 23/13 20060101ALI20241226BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C04B35/581
C04B37/02
H01L23/12 C
H01L25/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101867
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】520299474
【氏名又は名称】株式会社U-MAP
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(72)【発明者】
【氏名】松本 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】内田 圭
【テーマコード(参考)】
4G026
【Fターム(参考)】
4G026BA16
4G026BB22
4G026BH07
(57)【要約】
【課題】熱伝導率及び破壊靭性に加えて、曲げ強度を向上させたセラミックス基板を提供する。
【解決手段】ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体及び粒子状窒化アルミニウムを焼結してなる窒化アルミニウム焼結体から構成されたセラミックス基板であって、当該焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径が焼結体の組織画像において15.0μm以下であることを特徴とするセラミックス基板である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体及び粒子状窒化アルミニウムを焼結してなる窒化アルミニウム焼結体から構成されたセラミックス基板であって、当該焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径が焼結体の組織画像において15.0μm以下であることを特徴とするセラミックス基板。
【請求項2】
前記焼結体中に存在する空隙は、それぞれのサイズについて、焼結体の組織画像における当該空隙の外周上の2点を結ぶ直線の最長距離が2.5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックス基板。
【請求項3】
前記セラミックス基板の熱伝導率が175~183W/mKであることを特徴とする請求項1に記載のセラミックス基板。
【請求項4】
前記セラミックス基板の破壊靭性が、SEPB法における少なくともある1つの破壊の方向において4.2~5.8MPa・m1/2を満たすことを特徴とする請求項1に記載のセラミックス基板。
【請求項5】
前記セラミックス基板の曲げ強度が306~344MPaであることを特徴とする請求項1に記載のセラミックス基板。
【請求項6】
前記セラミックス基板は、熱伝導率が175~183W/mKであり、破壊靭性がSEPB法における少なくともある1つの破壊の方向において4.2~5.8MPa・m1/2を満たし、曲げ強度が306~344MPaであることを特徴とする請求項1に記載のセラミックス基板。
【請求項7】
前記セラミックス基板に含まれる酸素量が2.8質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックス基板。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のセラミックス基板を備えるパワーモジュール。
【請求項9】
ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体及び粒子状窒化アルミニウムを焼結してなる窒化アルミニウム焼結体であって、当該焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径が焼結体の組織画像において15.0μm以下であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス基板、パワーモジュール及び窒化アルミニウム焼結体に関し、特には、熱伝導率、破壊靭性及び曲げ強度に優れたセラミックス基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、電気自動車、自動運転車、鉄道、工作機械、データセンター、高輝度LEDなどの電力制御やモーター制御を行う制御モジュールは、高電圧が印加されるモジュールであり、その基板としてセラミックス基板が用いられている。
【0003】
このような制御モジュールのセラミックス基板として窒化ケイ素焼結体や窒化アルミニウム焼結体を用いることが広く知られている。一方で、窒化ケイ素焼結体をセラミックス基板に用いた場合、そのセラミックス基板は熱伝導率が低いという課題があった。また、窒化アルミニウム焼結体をセラミックス基板に用いた場合、そのセラミックス基板は、熱伝導率に優れるものの、破壊靭性が低下するという課題があった。
【0004】
国際公開第2022/030637号(特許文献1)では、窒化アルミニウム焼結体からなるセラミックス基板について、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を用いたことによって、熱伝導率と機械特性(破壊靭性)を両立したセラミックス基板を提供できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2022/030637号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を用いたセラミックス基板について研究を進めたところ、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を用いたセラミックス基板は、破壊靭性に優れるものであったが、曲げ強度が低くなる傾向にあり、セラミックス基板の機械強度について改善の余地があることが分かった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、熱伝導率及び破壊靭性に加えて、曲げ強度を向上させたセラミックス基板を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかるセラミックス基材を用いたパワーモジュール及びかかるセラミックス基板に適した窒化アルミニウム焼結体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、まず、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を使用しない窒化アルミニウム焼結体と、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を用いた窒化アルミニウム焼結体の組織を観察したところ、同一条件で焼成したにもかかわらず、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を用いた窒化アルミニウム焼結体は、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を使用しない窒化アルミニウム焼結体に比べて、その組織画像に大きな粒子が多数存在していることが分かった。
【0009】
焼結における液相を介した窒化アルミニウムの成長プロセスでは、窒化アルミニウムの粒子は溶解析出を繰り返して成長していく。その際、粒子の曲率半径が小さいものほど溶解しやすく、一方で、曲率半径が大きいものほど成長しやすい(これはオストワルド成長として知られる現象である)。このため、母材である粒子状窒化アルミニウムにファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を添加した材料の焼結を行うと、時間の経過とともに、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体が選択的に成長し、かつ、粒子状窒化アルミニウムの小さな粒子が助剤相中に溶解することとなり、窒化アルミニウム焼結体の組織には大きな粒子(即ちファイバー状窒化アルミニウム単結晶体をベースとする粒子)が多く現れるものと考えられる。
【0010】
そこで、本発明者は、更に検討を進めたところ、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体及び粒子状窒化アルミニウムを用いて窒化アルミニウム焼結体を製造する際に、得られる焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径が15.0μm以下の範囲内となるように調整することによって、曲げ強度を向上できることを見出した。また、本発明者は、窒化アルミニウム焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径を上記特定した範囲内に調整した場合であっても、熱伝導率及び破壊靭性は影響を受けず又は影響を受けたとしてもその程度は小さく、高熱伝導率及び高破壊靭性を維持できたことから、熱伝導率、破壊靭性及び曲げ強度に優れた窒化アルミニウム焼結体及びセラミックス基板を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
従って、本発明のセラミックス基板は、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体及び粒子状窒化アルミニウムを焼結してなる窒化アルミニウム焼結体から構成されたセラミックス基板であって、当該焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径が焼結体の組織画像において15.0μm以下であることを特徴とするセラミックス基板である。
【0012】
本発明のセラミックス基板の好適例において、前記焼結体中に存在する空隙は、それぞれのサイズについて、焼結体の組織画像における当該空隙の外周上の2点を結ぶ直線の最長距離が2.5μm以下である。
【0013】
本発明のセラミックス基板の他の好適例においては、前記セラミックス基板の熱伝導率が175~183W/mKである。
【0014】
本発明のセラミックス基板の他の好適例においては、前記セラミックス基板の破壊靭性が、SEPB法における少なくとも1つの破壊の方向において4.2~5.8MPa・m1/2を満たす。
【0015】
本発明のセラミックス基板の他の好適例においては、前記セラミックス基板の曲げ強度が306~344MPaである。
【0016】
本発明のセラミックス基板の他の好適例において、前記セラミックス基板は、熱伝導率が175~183W/mKであり、破壊靭性がSEPB法における少なくとも1つの破壊の方向において4.2~5.8MPa・m1/2を満たし、曲げ強度が306~344MPaである。
【0017】
本発明のセラミックス基板の他の好適例においては、前記セラミックス基板に含まれる酸素量が2.8質量%以下である。
【0018】
また、本発明のパワーモジュールは、上述した本発明のセラミックス基板を備えるパワーモジュールである。
【0019】
また、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体及び粒子状窒化アルミニウムを焼結してなる窒化アルミニウム焼結体であって、当該焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径が焼結体の組織画像において15.0μm以下であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のセラミックス基板によれば、熱伝導率、破壊靭性及び曲げ強度に優れたセラミックス基板を提供することができる。また、本発明のパワーモジュールによれば、かかるセラミックス基材を用いたパワーモジュールを提供することができる。また、本発明の窒化アルミニウム焼結体によれば、かかるセラミックス基板に適した窒化アルミニウム焼結体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体の結晶構造を概略的に示す斜視図である。
図2】セラミックス基板に対してX線回折を行う装置の構成例を概略的に示す図である。
図3】パワーモジュールの構成例を概略的に示す図である。
図4】試料No.2の「窒化アルミニウム焼結体の組織画像」である。
図5】表1に示される「曲げ強度(MPa)」の値を縦軸とし、「最大短径(μm)」の値を横軸とするグラフを示し、試料No.1~試料No.8の測定結果をプロットした図である。
図6】表1に示される「空隙最大径(μm)」の値を縦軸とし、「曲げ強度(MPa)」の値を横軸とするグラフを示し、試料No.1~試料No.8の測定結果をプロットした図である。
図7】冷熱サイクル試験用のサンプルの概略図及び寸法を示す。
図8】冷熱サイクル試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明は、セラミックス基板、該セラミックス基板を備えるパワーモジュール、及び該セラミックス基板に適した窒化アルミニウム焼結体に関する。
【0023】
本明細書において、セラミックス基板とは、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナ、アルミナジルコニウム、酸化ベリリウム等の無機化合物の焼結体から構成される基板である。実用的なセラミックス基板には、その用途に応じて、良好な熱伝導率、絶縁性、耐熱性、機械的強度等が求められている。セラミックス基板は主にパワーモジュールとして使用されている。
【0024】
本明細書において、パワーモジュールとは、発光ダイオード、レーザーダイオード、電気自動車、自動運転車、鉄道、工作機械、データセンター、産業用ロボット、太陽光発電、風力発電、無停電電源(UPS)、半導体製造装置等の電力制御やモーター制御を行うために使用されるモジュールである。
【0025】
本明細書において、窒化アルミニウム焼結体とは、粉末状の窒化アルミニウムに焼結助剤を添加し焼成することにより結合させて緻密にした物質であり、本発明では、上記原料に加えファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を焼結させている。窒化アルミニウムをAlNと表現する場合もある。
【0026】
本発明のセラミックス基板は、窒化アルミニウム焼結体から構成される基板であり、当該窒化アルミニウム焼結体は、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体及び粒子状窒化アルミニウムを焼結してなる窒化アルミニウム焼結体である。粒子状窒化アルミニウムにファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を添加することで、得られる窒化アルミニウム焼結体及び当該窒化アルミニウム焼結体からなるセラミックス基板の高熱伝導率及び高破壊靭性の両立を実現することができる。本明細書では、この窒化アルミニウム焼結体を「本発明の窒化アルミニウム焼結体」とも称する。なお、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、セラミックス基板に好適であるが、例えば、半導体製造装置用の部材、セラミックスヒーター、静電チャック、ペルチェ素子等にも使用できる。
【0027】
ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体は、繊維状の窒化アルミニウム単結晶体と表現することもできる。つまり、ファイバー状とは、AlN単結晶体が繊維状に細長く延びていることを意図するものである。なお、全体として繊維状であればよく、例えば、直線状に延びていてもよいし、一部が湾曲したり屈曲したりしていてもよい。
【0028】
ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体は、高いアスペクト比を有しており、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体のアスペクト比は、2~100であることが好ましく、5~50であることが更に好ましい。アスペクト比は、後述するファイバー状窒化アルミニウム単結晶体の長径のメディアン径の短径のメディアン径に対する比(長径メディアン径/短径メディアン径)から求められる。
【0029】
ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体の長径のメディアン径は、5~100μmであることが好ましく、10~50μmであることがより好ましい。また、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体の短径のメディアン径は、1~3μmであることが好ましく、1~2μmであることがより好ましい。
【0030】
本明細書において、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体の長径のメディアン径及び短径のメディアン径は、光学顕微鏡によって得られる顕微鏡画像から決定することができる。具体的には、顕微鏡画像から少なくとも5000本のファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を選び、それぞれのファイバー状窒化アルミニウム単結晶体の最大長さを長径とし、この長径に対して垂直な方向における最大長さを短径として求め、得られた値から体積換算による累積分布を作成し、長径及び短径のそれぞれについて累積が50%となる値の径(メディアン径)をファイバー状窒化アルミニウム単結晶体の長径のメディアン径及び短径のメディアン径とする。ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体の長径のメディアン径及び短径のメディアン径の測定には、例えば、セイシン企業社製の粒子形状画像解析装置「PITA-04」を使用することができる。
【0031】
ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体は、図1に例示するように、その結晶構造が、いわゆる六方晶のウルツ鉱型構造となっている。また、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体は、(10-10)面、(0002)面、(11-20)面を有している。(10-10)面及び(11-20)面は、「ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体の長手方向に沿う面」の一例である。(0002)面は、「ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体の長手方向に直交する面」の一例である。以下、(10-10)面を「a面」、(0002)面を「c面」と称する。
【0032】
セラミックス基板における、窒化アルミニウム焼結体を構成するファイバー状窒化アルミニウム単結晶体をベースとする粒子(即ちファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を核として粒成長したアスペクト比を持つ粒子)の配向は特に制限されず、窒化アルミニウム焼結体を構成するファイバー状窒化アルミニウム単結晶体をベースとする粒子は、例えば、セラミックス基板の板厚方向に沿って配向していてもよいし、板厚方向に対して垂直な方向に沿って配向していてもよいし、セラミックス基板の板厚方向に沿って配向している粒子と板厚方向に対して垂直な方向に沿って配向している粒子が混在していてもよい。
【0033】
ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体は、焼結後においても、六方晶のウルツ鉱型構造を維持しているため(即ち窒化アルミニウム焼結体を構成するファイバー状窒化アルミニウム単結晶体をベースとする粒子もまた六方晶のウルツ鉱型構造を有しているため)、セラミックス基板に対してX線回折を行うことで、セラミックス基板内におけるファイバー状窒化アルミニウム単結晶体をベースとする粒子の配向性を確認することができる。
【0034】
図2は、セラミックス基板に対してX線回折を行う装置の構成例を概略的に示す図である。X線回折装置100は、X線を発生するX線源101、入射側コリメータ102、受光側コリメータ103、検出器104を備えている。X線源101が発生するX線は、入射側コリメータ102を介して、測定対象物、この場合、セラミックス基板10の板厚方向の端面(即ち板厚方向に対して垂直な方向に沿った面)に照射される。そして、測定対象物で回析したX線は、受光側コリメータ103を介して、検出器104に入射する。そして、検出器104において、回析パターンを測定する。
【0035】
このようなX線回析装置100によるX線回析においては、測定対象物へのX線の照射方向に対する検出器104の角度2θの値を所定範囲、例えば、20度から80度の範囲で変化させることにより、六方晶のウルツ鉱型構造の各面、即ち、「a面」や「c面」などの各面を示す回折ピークを得ることができる。また、X線回折により得られるピーク強度は、セラミックス基板中の六方晶のウルツ鉱型構造の各面の最大カウント数、つまり、各面の存在数でもある。
【0036】
国際公開第2022/030637号に記載されるように、セラミックス基板10の板厚方向の端面にX線を照射した場合に得られるX線回折パターンの「a面」つまり(10-10)面を示す検出値のピークは、検出器104の角度が33.21度程であるときに検出される。但し、「a面」つまり(10-10)面を示す検出値のピークは、例えば試料の形状や装置の位置関係などにより検出器104の角度が33.21度程から若干外れた角度であるときに検出される場合もある。
【0037】
また、セラミックス基板10の板厚方向の端面にX線を照射した場合に得られるX線回折パターンの「c面」つまり(0002)面を示す検出値のピークは、検出器104の角度が36.04度程であるときに検出される。但し、「c面」つまり(0002)面を示す検出値のピークは、例えば試料の形状や装置の位置関係などにより検出器104の角度が36.04度程から若干外れた角度であるときに検出される場合もある。
【0038】
そして、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を使用しないセラミックス基板のX線回折パターンと比べて、セラミックス基板の板厚方向の端面にX線を照射した場合に得られるX線回折パターンの「a面」つまり(10-10)面を示すピーク強度比が大きく、「c面」つまり(0002)面を示すピーク強度比は小さい場合、そのセラミックス基板内におけるファイバー状窒化アルミニウム単結晶体をベースとする粒子は、板厚方向に対して垂直な方向に沿って配向しているといえる。
【0039】
また、セラミックス基板のX線回析により得られたX線回折パターンの「a面」のピーク強度の「c面」のピーク強度に対する比(a/c値)は、その値が高いほど、セラミックス基板内に含まれるファイバー状窒化アルミニウム単結晶体をベースとする粒子の板厚方向の端面に沿う方向への指向性が強いこと、もしくは、セラミックス基板内に含まれるファイバー状窒化アルミニウム単結晶体をベースとする粒子の存在量が多いことを示す。
【0040】
なお、X線回折は、周知のθ-2θ法により行われ、例えば、Rigaku社製の装置「Ultima IV」を用いることができる。また、X線回析の実施条件は、電圧:40kV、電流:30mA、発散スリット:1/2度、散乱スリット:1/2度、受光スリット:0.3mm、スキャンステップ:0.02度、2θの範囲:20度から80度である。また、X線回折パターンのピーク位置に関しては、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の無機材料データベース「AtomWork」のAlNのX線スペクトルに基づきピーク位置を決定することができる。また、X線回折パターンのピーク強度に関してはピークの最大カウント数をピーク強度とする。
【0041】
ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体は、その表面の少なくとも一部が、酸素含有層で被覆されていることが好ましい。ファイバー状AlN単結晶体の表面を酸素含有層で被覆することによって耐水性を向上させることができる。酸素含有層は、AlN単結晶体の製造過程において、AlN単結晶体が少なくとも酸素原子を取り込むことによって形成される。AlNが酸素分子もしくは水分子と反応すると、Al、AlON、Al(OH)、のうちの少なくとも1つを含む酸素含有層が、AlN単結晶体の表面を覆うように形成され得る。耐水性向上の観点から、酸素含有層は、AlONを含むことが好ましい。
【0042】
本明細書において、酸素含有層で表面が被覆されているファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を「窒化アルミニウムウィスカー」又は「AlNウィスカー」と称する。
【0043】
窒化アルミニウムウィスカーに含まれる酸素量は、3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがさらに好ましく、1.0質量%以下であることが最も好ましい。窒化アルミニウムウィスカーに含まれる酸素量は低ければ低いほど良好である。一方、製造工程等によりやむを得ず酸素を含有することもあり、その場合の下限値としては、製造コスト等の観点から窒化アルミニウムウィスカーに含まれる酸素量が0.01質量%以上であることが好ましい。
【0044】
窒化アルミニウムウィスカーに含まれる酸素量の測定は、例えば、HORIBA社製の装置「EMGA-920」を使用することができる。具体的に、酸素量の測定は、次のように行うことができる。試料10mg程度をニッケル製のカプセルに充填し、装置に投入する。そして、熱分解により、試料を分解し、酸素を炭素触媒にて一酸化炭素に反応させて分析を行う。
【0045】
ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体及び窒化アルミニウムウィスカーの製造方法は、既に公知であり、例えば、特開2018-154534号公報等において詳細に説明されている。
【0046】
窒化アルミニウム焼結体の製造に使用されるファイバー状窒化アルミニウム単結晶体の量は、母材である粒子状窒化アルミニウム100質量部に対して1~30質量部であることが好ましく、3~5質量部であることが更に好ましい。
【0047】
粒子状窒化アルミニウムは、窒化アルミニウム焼結体の母材として使用される窒化アルミニウムであり、そのアスペクト比は小さく、1.1以下である。アスペクト比は、粒子状窒化アルミニウムの長径のメディアン径の短径のメディアン径に対する比(長径メディアン径/短径メディアン径)から求められる。
【0048】
粒子状窒化アルミニウムの長径及び短径のメディアン径は、いずれも、0.3~5μmの範囲内であることが好ましく、0.5~3μmの範囲内であることがより好ましい。
【0049】
本明細書において、粒子状窒化アルミニウムの長径のメディアン径及び短径のメディアン径は、光学顕微鏡によって得られる顕微鏡画像から決定することができる。具体的には、顕微鏡画像から少なくとも5000個の粒子状窒化アルミニウムを選び、当該顕微鏡画像において円形の粒子状窒化アルミニウムの場合はその直径を長径及び短径とし、円形以外の形状の粒子状窒化アルミニウムの場合は粒子状窒化アルミニウムの最大長さを長径とし、この長径に対して垂直な方向における最大長さを短径として求め、得られた値から体積換算による累積分布を作成し、長径及び短径のそれぞれについて累積が50%となる値の径(メディアン径)を長径のメディアン径及び短径のメディアン径とする。粒子状窒化アルミニウムの長径のメディアン径及び短径のメディアン径の測定には、例えば、セイシン企業社製の粒子形状画像解析装置「PITA-04」を使用することができる。
【0050】
粒子状窒化アルミニウムに含まれる酸素量は、2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが最も好ましい。粒子状窒化アルミニウムに含まれる酸素量も低ければ低いほど良好である。一方、製造工程等によりやむを得ず酸素を含有することもあり、その場合の下限値としては、粒子状窒化アルミニウムに含まれる酸素量が0.01質量%以上であることが好ましい。粒子状窒化アルミニウムに含まれる酸素量は、上述した「窒化アルミニウムウィスカーに含まれる酸素量の測定」と同様に測定することができる。
【0051】
窒化アルミニウム焼結体の製造に使用される材料には、窒化アルミニウムに加え、その他の成分として、焼結助剤、分散材、消泡材、有機溶剤、水等があり、これらを目的に応じて適宜使用することができる。
【0052】
窒化アルミニウム焼結体の製造には焼結助剤が使用されることが多い。焼結助剤としては、例えば、希土類元素の酸化物、アルカリ土類元素の酸化物、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩等が挙げられる。これらの中でも、希土類元素の酸化物が好ましく、イットリア(Y)が特に好ましい。
【0053】
焼結助剤を使用する場合、焼結助剤の量は、母材である粒子状窒化アルミニウム100質量部に対して1~10質量部であることが好ましく、3~7質量部であることが更に好ましい。
【0054】
窒化アルミニウム焼結体は、当該焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径が焼結体の組織画像において15.0μm以下であり、13.0μm以下であることが好ましく、12.0μm以下であることが更に好ましい。本発明によれば、焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径を上記特定した範囲内とすることによって、窒化アルミニウム焼結体及び当該窒化アルミニウム焼結体からなるセラミックス基板の曲げ強度を向上させることができる。窒化アルミニウム粒子の最大短径は小さいほど良好である。一方、製造及び取扱いの観点から、下限値としては、焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径が1.0μm以上であることが好ましい。また、窒化アルミニウム粒子の最大短径が上記特定した範囲内である窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率及び破壊靭性は、窒化アルミニウム粒子の最大短径が15.0μmを超えている窒化アルミニウム焼結体と同程度の値を示す。このため、本発明の窒化アルミニウム焼結体及び本発明のセラミックス基板によれば、熱伝導率、破壊靭性及び曲げ強度に優れた窒化アルミニウム焼結体及びセラミックス基板を提供することができる。
【0055】
本発明の窒化アルミニウム焼結体が曲げ強度に優れたまま、従来の窒化アルミニウム焼結体と同程度の熱伝導率が得られる理由としては、熱伝導率は粒内の酸素量の寄与度が高いことが考えられる。焼成が進むと粒成長を伴いながら、粒内の酸素量は同時に系外に排出される。結果として、一般的には最大短径が大きいものは、焼成時間が長く十分に粒内の酸素が排出されているため、熱伝導率が高くなる。つまり最大短径と熱伝導率は偽相関を示していると考えられる。本発明の窒化アルミニウム焼結体は母材である粒子状窒化アルミニウムに粒子の曲率半径が大きなファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を添加しているため、時間の経過とともに、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体が短時間で選択的に成長する。その結果、粒内の酸素量の排出速度が速くなることで、粒成長を抑えながら熱伝導率を向上させている。
【0056】
本発明の窒化アルミニウム焼結体が窒化アルミニウム粒子の最大短径が大きい従来の窒化アルミニウム焼結体と同程度の破壊靭性が得られる理由として、一般的に単一組織からなるセラミックス体においては、粒径が大きいほど破壊靭性が高くなる。破壊靭性とは亀裂の進展のしにくさを表すパラメーターである。窒化アルミニウム焼結体の亀裂は粒界を進む。この時、粒子が大きいほど亀裂が粒子の周りを迂回しながら進むため、破壊靭性が高くなる。本発明の窒化アルミニウム焼結体はファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を添加しているため、き裂の迂回が頻繁に起こる(架橋効果)。これにより粒径によらず、高い破壊靭性を得ることができる。
【0057】
ここで、窒化アルミニウム焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子とは、焼結における成長プロセスを経て形成される窒化アルミニウム粒子を指し、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を核として粒成長したアスペクト比を持つ粒子が、溶解析出を繰り返して成長した母材である粒状窒化アルミニウム中に混在している。
【0058】
本明細書において、窒化アルミニウム焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径、更には後述する窒化アルミニウム焼結体中に存在する空隙のサイズを求めるために使用される「窒化アルミニウム焼結体の組織画像」は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した電子顕微鏡像である。粒子同士を区別するために、結晶粒子の配向方向によりコントラスト差が現れる反射電子像(BSE像)を撮影している。窒化アルミニウム焼結体の組織画像内には少なくとも200個以上の窒化アルミニウム粒子が撮影されているものとする。窒化アルミニウム焼結体は一定程度均質な組織であるため、少なくとも200個以上の窒化アルミニウム粒子が撮影された特定の領域の組織画像により、窒化アルミニウム焼結体の組織を代表させることができる。そのため、かかる組織画像を1視野観察することにより、本発明の構成要件に該当するか否かを判断可能である。なお、窒化アルミニウム焼結体には、その製造方法等により、不可避的に粗大な窒化アルミニウム粒子や粗大な空隙がわずかに生ずることがあり得るが、かかる粗大粒子や粗大な空隙の存在がわずかに存在したとしても、焼結体の特性には影響を及ぼさない。本明細書では、加速電圧を3~5KeV、電流20μA、ワーキングディスタンス4mmの条件で撮影した。試料表面の凹凸がコントラストして検出されないように、試料表面を研磨した後イオンミリングなどを用いてRa<0.2μm程度まで加工している。なお、Raは、算術平均粗さであり、JIS B0601(2013)に準じて測定することができる。
【0059】
本明細書において、窒化アルミニウム焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の短径とは、窒化アルミニウム粒子の外周上の2点を結ぶ直線のうち最大長さを長径とした場合にその長径に対して垂直な方向における最大長さであり、また、円形の窒化アルミニウム粒子の場合にはその直径を短径とする。そして、窒化アルミニウム焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径は、窒化アルミニウム焼結体の組織画像内のすべての窒化アルミニウム粒子の短径のうち最も大きい値を指す。
【0060】
本発明において、窒化アルミニウム焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径を15.0μm以下の範囲内に調整するための手段としては、焼結工程における焼成温度及び焼成時間を調整する手法等が挙げられる。具体的には、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体及び粒子状窒化アルミニウムに対して、焼成温度を比較的低く、焼成時間を比較的短く設定して焼成を行うことで、最大短径が小さく、15.0μm以下の範囲内にある窒化アルミニウム粒子から構成された窒化アルミニウム焼結体を得ることができる。また微細な金属を原料として用いることで、粒成長のピンニング効果により、最大短径を調整することも可能である。
【0061】
窒化アルミニウム焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子間には空隙が生じ得る。本発明において、窒化アルミニウム焼結体中に存在する空隙は、それぞれのサイズについて、焼結体の組織画像における当該空隙の外周上の2点を結ぶ直線の最長距離が2.5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることが更に好ましい。窒化アルミニウム焼結体中に存在する空隙は破壊の起点になり得ることから大きな空隙が存在しないことが好ましい。また、ある特定方向にのみ大きなサイズを有する空隙(例えば線状に伸びる空隙等)が存在する場合であっても窒化アルミニウム焼結体の破壊の起点となり得るため、窒化アルミニウム焼結体の組織画像における空隙の外周上の2点を結ぶ直線の最長距離を制御することが好ましい。本発明によれば、窒化アルミニウム焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の粒径が小さいため、窒化アルミニウム粒子間に生じ得る空隙を小さくすることができる。空隙を極小にすることに製造上の困難が伴う場合、焼結体の組織画像における当該空隙の外周上の2点を結ぶ直線の最長距離の下限値としては、0.1μm以上であることが好ましい。
【0062】
セラミックス基板の熱伝導率は、170~250W/mKであることが好ましく、170~230W/mKであることがより好ましく、170~220W/mKであることが更に好ましく、175~183W/mKであることが特に好ましい。このセラミックス基板の熱伝導率の好ましい範囲は、本発明の窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率についても同様に当てはまることである。熱伝導率は高ければ高いほど良好であるものの、高熱伝導化に必要な条件変更による製造コスト増が大きいという観点から、熱伝導率は220W/mK以下であることが望ましい。
【0063】
本明細書において、熱伝導率は、「ISO 22007-2 “Plastics-Determination of thermal conductivity and thermal diffusivity-Part2:Transient plane heat source(hot disc)method”」に準拠し、ホットディスク法により測定され、例えば、京都電子工業社製の装置「TPS-2500」を用いることができる。
【0064】
本明細書において、破壊靭性は、「JIS R1607 ファインセラミックスの室温破壊じん(靭)性試験方法」に準拠し、SEPB法により測定され、例えば、Mituyo社製のマイクロメーター、Mituyo社製のビッカース硬度計HV-115、インストロン社製の万能試験機5582型、Nikon社製のMEASURESCOPE10などを用いることができる。
【0065】
本発明のセラミックス基板の破壊靭性は、ファイバー状AlN単結晶体を核として粒成長したアスペクト比を持つ粒子(以下、単に「ファイバー状の粒子」ともいう)が面内で配向している場合、その配向方向によって異なる。例えば、ファイバー状の粒子の配向方向のみが異なる2種類の試料をSEPB法で測定したとき、SEPB法における破壊の方向に対して、平行方向にファイバー状の粒子が配向している試料の破壊靭性は4.1MPa・m1/2を示し、SEPB法における破壊の方向に対して、交差する方向にファイバー状の粒子が配向している試料の破壊靭性は6.1MPa・m1/2を示すことがある。概して、破壊の方向に対して交差する方向にファイバー状の粒子が配向している試料が、破壊靭性が高い傾向にあった。「SEPB法における破壊の方向」とは測定時にクロスヘッドを当てている面から試料の厚み方向であり、亀裂が進展する方向を指す。
【0066】
セラミックス基板の破壊靭性は、SEPB法における少なくともある1つの破壊の方向において、その値が2.5~10.0MPa・m1/2を満たすことが好ましく、3.5~7.0MPa・m1/2を満たすことがより好ましく、4.2~5.8MPa・m1/2を満たすことが更に好ましい。このセラミックス基板の破壊靭性の好ましい範囲は、本発明の窒化アルミニウム焼結体の破壊靭性についても同様に当てはまることである。
【0067】
セラミックス基板の曲げ強度は、250~450MPaであることが好ましく、300~450MPaであることが更に好ましく、306~344MPaであること特に好ましい。このセラミックス基板の曲げ強度の好ましい範囲は、本発明の窒化アルミニウム焼結体の曲げ強度についても同様に当てはまることである。
【0068】
本明細書において、曲げ強度は、「JIS R1601 ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法」に準拠し、SEPB法により測定され、例えば、島津製作所製のオートグラフAGX-10KNVVなどを用いることができる。
【0069】
本発明の好ましい実施形態において、セラミックス基板及び窒化アルミニウム焼結体は、熱伝導率が170~220W/mKであり、破壊靭性がSEPB法における少なくともある1つの破壊の方向において4~8MPa・m1/2を満たし、曲げ強度が300~450MPaである。また、本発明のさらに好ましい実施形態において、セラミックス基板及び窒化アルミニウム焼結体は、熱伝導率が175~183W/mKであり、破壊靭性がSEPB法における少なくともある1つの破壊の方向において4.2~5.8MPa・m1/2を満たし、曲げ強度が306~344MPaである。
【0070】
セラミックス基板に含まれる酸素量は、3質量%以下であることが好ましく、2.8質量%以下であることが更に好ましい。このセラミックス基板に含まれる酸素量の好ましい範囲は、本発明の窒化アルミニウム焼結体に含まれる酸素量についても同様に当てはまることである。セラミックス基板に含まれる酸素量及び窒化アルミニウム焼結体に含まれる酸素量も低ければ低いほど良好である。一方、製造工程等によりやむを得ず酸素を含有することもあり、その場合の下限値としては、セラミックス基板に含まれる酸素量が0.01質量%以上であることが好ましい。
【0071】
本明細書において、セラミックス基板の酸素量の測定は、例えば、HORIBA社製の装置「EMGA-920」を使用することができる。具体的に、酸素量の測定は、次のように行うことができる。試料10mg程度をニッケル製のカプセルに充填し、装置に投入する。そして、熱分解により、試料を分解し、酸素を炭素触媒にて一酸化炭素に反応させて分析を行う。前処理としてセラミックス基板はアルミナ製乳鉢などを用いて粉砕した。粉砕後、目開き77μmのメッシュを用い、粗大な粒子を除去したうえで測定を行った。
【0072】
セラミックス基板は、その密度が3.26~3.31g/cmであることが好ましく、3.28~3.31g/cmであることが更に好ましい。このセラミックス基板の密度の好ましい範囲は、本発明の窒化アルミニウム焼結体の密度についても同様に当てはまることである。本明細書において、密度は、「JIS Z8807 固体の密度及び比重の測定方法」に準拠し、液中秤量法により測定される値である。
【0073】
セラミックス基板は、その厚みが0.1~1.5mmであることが好ましい。このセラミックス基板の厚みの好ましい範囲は、本発明の窒化アルミニウム焼結体の厚みについても同様に当てはまることである。
【0074】
次に、セラミックス基板の製造方法について説明する。セラミックス基板の製造方法は、一般に、混練工程、成形工程、脱脂工程及び焼結工程を含む。また、セラミックス基板の製造方法では、混練工程の後に乾燥工程が行われてもよいし、成形工程の前に造粒工程が行われてもよい。なお、ここで説明するセラミックス基板の製造方法は、窒化アルミニウム焼結体の製造方法ともいえる。
【0075】
混練工程は、セラミックス基板の製造に使用される材料を混合し、スラリーを調製する工程である。例えば、分散材と有機溶剤の混合液に、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を投入して分散させる。その後、焼結助剤と、母材である粒子状窒化アルミニウムを加えて混練する。これにより、スラリーを調製することができる。
【0076】
乾燥工程は、スラリー中の溶媒の量が多いときに混練工程の後に行われる場合がある工程であり、スラリー中の溶媒を乾燥させてスラリー中の窒化アルミニウムの濃度を調整する工程である。スラリーの乾燥条件は、特に制限されるものではないが、例えば、温度:130℃、圧力:-0.1MPaの条件下において、所定時間、例えば1時間程の時間をかけて行われる。後続の工程(例えば造粒工程や成形工程)を行う際においてスラリー中に含まれる窒化アルミニウムの量は20~70質量%であることが好ましい。
【0077】
造粒工程は、成形を容易にする観点から行われる場合がある工程であり、混錬工程後のスラリーを粒状化つまり造粒する工程である。造粒工程は、混錬工程の後にスプレードライなどの手法で行われてもよいし、乾燥工程の後にポッドミル等を用いて行われてもよい。
【0078】
成形工程は、セラミックス基板の製造に使用される材料を成形する工程である。成形工程では、混練工程又は乾燥工程により得られたスラリーを成形してもよいし、造粒工程により得られた造粒物を成形してもよい。成形は、金型プレス、ラバープレス、鋳込み成形、シート成形等、用途や大きさに応じて要求される形状に適した成形手段を採用することができる。例えば、混練工程により得られたスラリーをドクターブレード式シート成形機に投入し、シート成形を行うことでシート状の成形体を得ることができる。シート状の成形体を所定の枚数積層し、熱間静水圧プレス機によりプレスをすることで板状の成形体を得ることができる。このとき、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体は、シート成形の塗工方向に沿って配向する。シート状の成形体を積層する際に、同一方向に積層することで1方向に配向した板状の成形体を得ることができる。また、任意の向きに積層することにより、水平方向に無秩序に配向した板状の成形体を得ることができる。ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を核として粒成長したアスペクト比を持つ粒子は、セラミックス基板の板厚方向と垂直な方向に沿って配向するようになる。
【0079】
脱脂工程は、セラミックス基板の製造に使用される材料から有機物(分散材等)を除去する工程であり、セラミックス基板の製造に分散材等が使用された場合、通常、成形工程の後に行われる。脱脂工程は、例えば、窒素雰囲気または大気雰囲気で行われる。脱脂の温度は、例えば400~650℃である。脱脂の時間は、例えば4~24時間である。
【0080】
焼結工程は、粉末状の窒化アルミニウム(粒子状窒化アルミニウム及びファイバー状窒化アルミニウム単結晶体)を焼成により結合させて緻密にし、窒化アルミニウム焼結体を得る工程である。焼成は、窒素雰囲気で行われることが好ましい。また、焼成時の圧力については、常圧焼成と加圧焼成のいずれであってもよいが、経済性等の観点から常圧焼成を行うことが好ましい。本発明においては、窒化アルミニウム焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径を15.0μm以下の範囲内に調整するために、焼成温度を比較的低く、焼成時間を比較的短く設定することが重要である。焼成温度は、1800~1900℃であることが好ましく、1800~1850℃であることが更に好ましい。焼成時間は、2~24時間であることが好ましく、3~15時間であることが更に好ましい。
【0081】
次に、本発明のパワーモジュールについて説明する。本発明のパワーモジュールは、上述した本発明のセラミックス基板を備えるパワーモジュールであり、その一実施形態は、図3に示される。
【0082】
図3に例示するパワーモジュール1は、例えば、発光ダイオード、レーザーダイオード、電気自動車、自動運転車、鉄道、工作機械、データセンター、産業用ロボット、太陽光発電、風力発電、無停電電源(UPS)、半導体製造装置等の電力制御やモーター制御を行うための制御用のモジュールの一例であり、本発明のセラミックス基板10を備えている。セラミックス基板10は、板状に形成されており、その板厚方向の両面に金属層11が設けられている。また、セラミックス基板10の板厚方向の一端面(図3における上側の面)には、いわゆるパワー系の半導体12が設けられている。また、セラミックス基板10の板厚方向の他端面(図3における下側の面)には、放熱機能を備えるヒートシンク13が設けられている。
【0083】
図3に矢印Hで例示するように、パワー系の半導体12から発生する熱は、セラミックス基板10を介してヒートシンク13に伝達し、これにより、パワーモジュール1の放熱が行われる。
【実施例0084】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0085】
1.混練工程
粒子状窒化アルミニウム(トクヤマ製 Hグレード)に有機溶媒、分散材、消泡材を適量混ぜ合わせ、当該粒子状窒化アルミニウムに対し、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体(U-MAP製 短繊維破砕タイプ)を添加した。使用した粒子状窒化アルミニウム単結晶体の短径、長径のメディアン径は1.0μm、アスペクト比は1、酸素量は1.1質量%であった。使用したファイバー状窒化アルミニウム単結晶体の短径のメディアン径は2.5μm、長径のメディアン径は20μm、アスペクト比は8、酸素量は2.8質量%であった。焼結助剤として酸化イットリウム(日本イットリウム製 微粒品3N)を添加した。ボールを使用し24時間の混練を行った。これによりスラリーを得た。
各試料について、原料中のファイバー状窒化アルミニウム単結晶体の割合(質量%)と、原料中の焼結助剤の割合(質量%)を表1に示す。
【0086】
2.成形工程
混練工程で得られたスラリーを、シート成形により100μm厚みのシートに成形した。この時、ファイバー状AlN単結晶体は成形したシート中にシートの成形方向に配向するため、50mm角に裁断したシートを90度回して交互に複数枚重ねることで、ファイバー状AlN単結晶体をシートの平面方向に対して十字に配向するように積層した。得られた積層体を、熱間プレスを行うことにより、4.5mmの厚みの成形体を作製した。
【0087】
3.脱脂工程
成形工程により得られた成形体の脱脂を行った。セラミックス製のセッターの上に、成形体を並べ、炉内に静置した。大気雰囲気において40℃/hの昇温速度で470℃まで昇温した後、4時間保持し、炉冷により降温を行った。これにより脱脂体を得た。
【0088】
4.焼結工程
脱脂工程により得られた脱脂体を還元雰囲気炉によって焼成した。炭素系断熱材で覆われた炉内に窒化ホウ素の治具を設置し、その上に脱脂体を静置した。脱脂体の上にさらに必要枚数の窒化ホウ素の治具、脱脂体を設置した。脱脂体の反りを防止する目的で、最上段に窒化ホウ素の治具と窒化アルミニウム基板を重石として設置した。窒素置換した後に20℃/minで昇温し、所定の温度(保持温度)に到達した後、所定の時間保持し、冷却した。これによりセラミックス基板を作製した。
各試料について、保持温度及び保持時間を表1に示す。なお、ここでの保持温度及び保持時間を焼成温度及び焼成時間と称する。
【0089】
5.セラミックス基板の特性
焼結工程によって得られたセラミックス基板はその表面に焼き肌がついているため、切断、研磨、研削等で取り除いた。焼き肌除去後の試料(セラミックス基板)に対して、上述した測定方法に必要なサイズに切りだし、各種測定を行った。破壊靭性に関して、SEPB法で測定する際に、破壊の方向に対して直交するファイバーが存在する方向で測定を行なった。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
表中、「焼結助剤添加量(質量%)」は、原料中の焼結助剤の割合(質量%)を示し、「ファイバー添加量(質量%)」は、原料中のファイバー状窒化アルミニウム単結晶体の割合(質量%)を示し、「保持温度(℃)」は、焼結工程での保持温度(焼成温度)を示し、「保持時間(時間)」は、焼結工程での保持温度(焼成温度)を保持した時間(焼成時間)を示す。
また、表中「密度(g/cm)」は、セラミックス基板の密度を示し、その測定方法は上記のとおりである。「熱伝導率(W/mK)」は、セラミックス基板の熱伝導率を示し、その測定方法は上記のとおりである。「破壊靭性(MPa・m1/2)」は、セラミックス基板の破壊靭性を示し、その測定方法は上記のとおりである。破壊靭性の測定方向に関して、成形工程において十字に配向させたファイバーに対して、上方向から十字の一方向と対向し、残りの一方向と平行になるように測定した。「曲げ強度(MPa)」は、セラミックス基板の曲げ強度を示し、その測定方法は上記のとおりである。「酸素量(質量%)」は、セラミックス基板に含まれる酸素量を示し、その測定方法は上記のとおりである。「空隙最大径(μm)」は、セラミックス基板を構成する窒化アルミニウム焼結体中に存在するそれぞれの空隙の最長距離の中で最も大きい値を示す。「最大短径(μm)」は、セラミックス基板を構成する窒化アルミニウム焼結体について、当該焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径を示す。セラミックス基板を構成する窒化アルミニウム焼結体中に存在する空隙の最長距離及び当該焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径を求めるために使用される「窒化アルミニウム焼結体の組織画像」の撮影方法は上記のとおりである。図4は、試料No.2の「窒化アルミニウム焼結体の組織画像」である。
【0092】
試料No.1は、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体を使用せずに製造されたセラミックス基板であり、曲げ強度は高い結果となっているが、熱伝導率及び破壊靭性が低い。試料No.2~試料No.8は、ファイバー状窒化アルミニウム単結晶体及び粒子状窒化アルミニウムを焼結してなる窒化アルミニウム焼結体から構成されたセラミックス基板であり、熱伝導率及び破壊靭性に優れた結果を示す。中でも、試料No.2、試料No.7及び試料No.8は、窒化アルミニウム焼結体を構成する窒化アルミニウム粒子の最大短径を15.0μmに調整したことにより、試料No.3~試料No.6と比べて曲げ強度についても優れていることが分かる。
【0093】
図5は、表1に示される「曲げ強度(MPa)」の値を縦軸とし、「最大短径(μm)」の値を横軸とするグラフを示し、試料No.1~試料No.8の測定結果をプロットした図である。各プロットには「ファイバー添加量(質量%)」と「保持時間(時間)」(即ち焼成時間)を記す。
【0094】
図6は、表1に示される「空隙最大径(μm)」の値を縦軸とし、「曲げ強度(MPa)」の値を横軸とするグラフを示し、試料No.1~試料No.8の測定結果をプロットした図である。
【0095】
次に、エスペック社製小型冷熱衝撃装置TSE-12-Aを用いて冷熱サイクル試験(熱衝撃試験)を行った。冷熱サイクル試験(熱衝撃試験)の設定値は、最高温度を150℃、最低温度を-55℃とし、1200サイクルの冷熱サイクル試験(熱衝撃試験)を行った。
【0096】
冷熱サイクル試験用に、セラミックス基板の板厚方向の両面に銅を接合してなるサンプルを用意した。図7には、冷熱サイクル試験用のサンプルの概略図及び寸法を示す。銅箔の角は半径0.5mmのR加工を施した。なお、セラミックス基板及び銅の寸法は、厚みを除き、mmで示される。
【0097】
セラミックス基板には、以下のものを用いた。
1.ファイバー状AlN単結晶体を添加したセラミックス基板(厚み0.635mm)
2.MARUWA社製のAlNセラミックス基板(厚み0.635mm)
3.MARUWA社製のSiNセラミックス基板(厚み0.32mm)
ファイバー状AlN単結晶体を添加したセラミックス基板についての作製方法について示す。粒子状窒化アルミニウムとの混練工程後のスラリーをスプレードライにより造粒した。得られた造粒粉を、金型に投入し、プレス機によってプレスし、板状の成形体を得た。得られた成形体を静水圧プレス(CIP)で200MPaで1分間保持することにより、成形体を得た。得られた成形体に対して上述した「4.脱脂工程」、「5.焼成工程」と同様の方法により脱脂工程、焼成工程を行い、セラミックス基板を得た。得られたセラミックス基板について、窒化アルミニウム粒子の最大短径は15.0μm以下であった。
【0098】
冷熱サイクル試験の結果を図8に示す。
図8の「本発明/AlN/0.635mm厚」は、ファイバー状AlN単結晶体を添加したセラミックス基板の冷熱サイクル試験の結果であり、図8の「従来品/AlN/0.635mm厚」は、MARUWA社製のAlNセラミックス基板を用いたサンプル(従来品A)の場合の冷熱サイクル試験の結果であり、図8の「従来品/SiN/0.32mm厚」は、MARUWA社製のSiNセラミックス基板を用いたサンプル(従来品B)の場合の冷熱サイクル試験の結果である。
図8の「本発明/AlN/0.635mm厚」には、試験前、300サイクル後、600サイクル後、900サイクル後、1200サイクル後のサンプルの超音波探傷検査像(SAT像)と、1200サイクル後のサンプルの写真を示し、図8の「従来品/AlN/0.635mm厚」には、試験前、300サイクル後のサンプルのSAT像と、600サイクル後のサンプルの写真を示し、図8の「従来品/SiN/0.32mm厚」には、試験前、300サイクル後、600サイクル後、900サイクル後、1200サイクル後のサンプルのSAT像を示す。
図8において、SAT像、超音波探傷検査装置で撮影された画像の白い部分は、銅箔とセラミックス基板の剥離を示す。
【0099】
ファイバー状AlN単結晶体を添加したセラミックス基板(本発明)は、1200サイクルの冷熱サイクル試験を行っても破壊されなかった。一方、同じAlNセラミックス基板を用いた従来品Aでは、600サイクルで破壊された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8