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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020059
(43)【公開日】2025-02-10
(54)【発明の名称】エレベータ
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/02 20060101AFI20250203BHJP
   B66B 7/06 20060101ALI20250203BHJP
【FI】
B66B5/02 Z
B66B7/06 D
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123902
(22)【出願日】2023-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100191189
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100199761
【弁理士】
【氏名又は名称】福屋 好泰
(74)【代理人】
【識別番号】100182121
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 紘子
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 悠児
(72)【発明者】
【氏名】金子 元樹
(72)【発明者】
【氏名】玉置 亜由美
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功一
(72)【発明者】
【氏名】物部 愛
【テーマコード(参考)】
3F304
3F305
【Fターム(参考)】
3F304CA11
3F304EA22
3F304EB03
3F305BC20
(57)【要約】
【課題】張車の上昇が検知された場合における保守点検作業の手間を軽減することが可能なエレベータを提供する。
【解決手段】エレベータ10は、乗りかご20の跳ね上がりを抑制するコンペンロープ12を付与する上下動可能に支持される張車40と、張車40が所定の位置まで上昇したときに張車40の制動力を作用させることで張車40の上方への移動を抑制するタイダウン装置60とを備え、所定の位置まで張車40が上昇する前に張車40が上昇したことを検知する上昇検知部41(図2参照)と、張車40の位置を監視する監視部34(図2参照)と、上昇検知部41を介して張車40の上昇が検知された場合には乗りかご20の運転を停止させ、監視部34における監視結果が所定の条件を満たしているときには乗りかご20の運転を再開させる運転制御32(図2参照)と、を備える。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごの跳ね上がりを抑制するコンペンロープに張力を付与するために上下動可能に支持される張車と、前記張車が所定の位置まで上昇したときに前記張車に制動力を作用させ前記張車の上方への移動を抑制するタイダウン装置とを備えるエレベータであって、
前記所定の位置まで前記張車が上昇する前に前記張車の上昇を検知するように設けられた検知部と、
前記張車の位置を監視する監視部と、
前記検知部を介して前記張車の上昇が検知された場合には前記乗りかごの運転を停止させるとともに、前記監視部における監視結果が所定の条件を満たしている場合だけ前記乗りかごの運転を再開させる運転制御部と、
を備えるエレベータ。
【請求項2】
前記所定の条件には、前記所定の位置まで前記張車が上昇していないことが含まれる、
請求項1に記載のエレベータ。
【請求項3】
前記所定の条件には、前記張車の回転軸が水平方向に対して傾いていないことが含まれる、
請求項1に記載のエレベータ。
【請求項4】
前記監視部は、前記張車に設けられた加速度センサを用いて前記張車の位置を監視するように構成される、
請求項1に記載のエレベータ。
【請求項5】
前記監視部は、前記張車の下方に配置された超音波センサを用いて前記張車の位置を監視するように構成される、
請求項1に記載のエレベータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、張車の跳ね上がりを抑制するタイダウン装置を備えるエレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
ロープ式エレベータは、乗りかごおよびカウンターウェイトの上部が主ロープを介して釣瓶式に吊り下げられるとともに、昇降路底部(ピット)に設置された張車に架け渡されるコンペンロープの両端部が各々乗りかごおよびカウンターウェイトの底部に連結されている。このコンペンロープは、乗りかごの昇降位置により変動する主ロープ等の重量のアンバランスを補償する役割を有する。
【0003】
ところで、乗りかごが何らかの要因により昇降中に急停止した場合などには、乗りかご又はカウンターウェイトが上方に移動しようとする慣性力がコンペンロープを介して張車に作用し、張車が跳ね上がる場合も起こり得る。
【0004】
このような跳ね上がりを抑制するために張車の直上方にはタイダウン装置と呼ばれる制動装置が設けられている。タイダウン装置は、例えば、張車を上下動可能な状態で支持するガイドレールに取り付けられており、張車の跳ね上がりに伴って張車に下方から付勢されるとタイダウン装置に設けられた楔がガイドレールを挟圧することにより張車に制動力を作用させる。これにより、タイダウン装置が作動して制動力が張車に作用し跳ね上がりが抑制されることとなる。
【0005】
また、タイダウン装置とは別に張車の跳ね上がりを検知する機能を有する検知部が設けられており、この検知部が張車の跳ね上がりを検知することにより乗りかごの昇降運転が停止するように設定されている。
【0006】
上記検知部が張車の跳ね上がりを検知した場合には保守員が昇降路底部に入ってタイダウン装置を元の位置、すなわち、同装置が作動する前の位置に戻すなどの保守点検作業を行う必要がある。そして、保守点検作業が完了してから乗りかごの運転が再開されることとなる。
【0007】
ところで、エレベータの中には、タイダウン装置が作動する位置、すなわち、タイダウン装置の制動力が張車に作用する位置まで跳ね上がる前に張車の上昇を検知するように上述した検知部が設置されているものもある。
【0008】
このようなエレベータでは検知部が張車の跳ね上がりを検知した場合でも必ずしもタイダウン装置が作動しているわけではなく検知部によって張車の跳ね上がりが検知されていてもタイダウン装置は作動していないという場合も起こり得る。そして、タイダウン装置が作動していない場合にはタイダウン装置を元の位置に戻す復旧作業を行う必要はない。
【0009】
この点に関し、特許文献1には、つり合いロープ張車と同期して移動するつり合いロープ張車カバーに固定された手動復帰式のタイダウン動作検出スイッチ(検知部)が、タイダウン装置に固定されたけり金具に接触することにより検出するエレベータについて開示されている。また、タイダウン動作検出スイッチが作動した場合に、最下階の乗り場から昇降路底部に入ってタイダウン装置の作動状況を保守員が確認し、同装置の復旧作業などを行う点についても開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006-117352号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1に記載のエレベータの構成では、検知部が張車の跳ね上がり(上昇)を検知した場合には、タイダウン装置が作動しているか否かを確認するために保守員が昇降路内に入ってタイダウン装置の作動状態を実際に確認する保守点検作業を行う必要がある。このため、保守点検作業に手間を要するという問題がある。
【0012】
本発明は、張車の上昇が検知された場合における保守点検作業の手間を軽減することが可能なエレベータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のエレベータは、乗りかごの跳ね上がりを抑制するコンペンロープに張力を付与するために上下動可能に支持される張車と、張車が所定の位置まで上昇したときに張車に制動力を作用させ張車の上方への移動を抑制するタイダウン装置とを備えるエレベータであって、所定の位置まで張車が上昇する前に張車の上昇を検知するように設けられた検知部と、張車の位置を監視する監視部と、検知部を介して張車の上昇が検知された場合には乗りかごの運転を停止させるとともに、監視部における監視結果が所定の条件を満たしている場合だけ乗りかごの運転を再開させる運転制御部と、を備えるものである。
【0014】
本発明のエレベータにおいて、所定の条件は、所定の位置まで張車が上昇していないことが含まれてもよい。
【0015】
本発明のエレベータにおいて、所定の条件は、張車の回転軸が水平方向に対して傾いていないことが含まれてもよい。
【0016】
本発明のエレベータにおいて、監視部は、張車に設けられた加速度センサを用いて張車の位置を監視するように構成されてもよい。
【0017】
本発明のエレベータにおいて、張車の下方に配置された超音波センサを用いて張車の位置を監視するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るエレベータによれば、張車の上昇が検知され乗りかごの運転が停止した場合においても監視部の監視結果が所定の条件を満たしているときは乗りかごの運転を再開させることができる。これにより、張車の上昇が検知された場合における保守点検作業の手間を軽減しつつ乗りかごの運転を再開させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態におけるエレベータの概略構成を示す図である。
図2】本実施形態のエレベータにおいて検知部が張車の跳ね上がりを検知したときの乗りかごの運転再開可否を判定するための制御装置を中心とした制御系統の関係を示すブロック図である。
図3図3(a)は張車の側面側からみたときの張車およびタイダウン装置の構成を示す図である。図3(b)は張車の正面側からみたときの張車およびタイダウン装置の構成を示す図である。
図4図4(a)は張車がΔL未満且つΔM以上の距離だけ跳ね上がったときの張車およびタイダウン装置周辺の構成を示す図である。図4(b)は、張車がΔL以上の距離だけ跳ね上がることによりタイダウン装置が作動した状態を図4(a)と同様に示す図である。
図5図5(a)は、図4(a)に示す位置まで張車が跳ね上がった後に下降した状態を示す図である。図5(b)は、図5(a)に含まれる検知用アームおよび検知用レバー周辺の構成を示す部分拡大図である。図5(c)は、図5(a)に示す検知状態から検知用アームだけが係合位置に復帰した状態を示す図である。図5(d)は、図5(b)に示す検知状態から検知用レバーがさらに係合位置に復帰した状態を示す図である。
図6】制御装置における張車の跳ね上がり検知時における乗りかごの運転再開可否判定処理の流れを示すフローチャートである。
図7図7(a)は、加速度センサの代わりに超音波センサを張車の直下方に1つ設置して張車の位置を測定する第1変形例の場合における張車周辺の構成を示す図である。図7(b)は、加速度センサの代わりに超音波センサを張車の幅方向両端部の直下方に1つずつ設置して張車の位置を測定する第2変形例の場合における張車周辺の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態であるエレベータ10について、図面を参照しながら説明する。なお、各図において、図中に示す「X」は綱車16Aの軸方向に平行な水平方向を示し、「Y」は略鉛直方向を示し、「Z」は水平方向Xおよび鉛直方向Yと各々直交する水平方向を示すものとする。
【0021】
図1は、エレベータ10の概略構成を示す図である。なお、頻雑な図示を避けるため図1において主ロープ11およびコンペンロープ12は各々1本の線で表現しているが、実際には複数本のロープにより各々構成される。
【0022】
図1に示すように、エレベータ10は、昇降路14の直上方に機械室Mを有するトラクション式エレベータである。このエレベータ10は、機械室Mに設置された巻上機16に備えられた綱車16A及びそらせ車16Bに架け渡された主ロープ11を介して釣瓶式に吊り下げられた乗りかご20およびカウンターウェイトWを備える。また、エレベータ10は、乗りかご20の運転を統括的に制御する制御装置15を機械室Mに備える。
【0023】
図2は、制御装置15を中心とした機能ブロックを示す図である。図2に示すように、制御装置15は、各種制御プログラムが記憶されたROM、RAM、およびHDDなどの記憶デバイス(不図示)を含み、同記憶デバイスからCPUが上記プログラムを読み出して演算処理することにより運転制御部32や、後述する張車40の位置を監視する監視部34として機能する。
【0024】
運転制御部32は、乗りかご20内に設置されている操作盤や、各階乗場に設置されている呼び釦(不図示)を介して行われる行先階の登録操作に基づいて巻上機16に備えられた電動機16Mの駆動を制御し乗りかご20を昇降させる。電動機16Mからの回転動力が動力伝達機構(不図示)を介して綱車16Aに伝達され綱車16Aが回転駆動されると、これに伴って主ロープ11が走行し、主ロープ11に吊り下げられた乗りかご20およびカウンターウェイトWが各々ガイドレール(不図示)に案内されて昇降路14内を相対的に昇降移動する。
【0025】
また、図1に示すように、乗りかご20及びカウンターウェイトWの底部には、コンペンロープ12の両端が各々連結されている。このコンペンロープ12は、昇降路14の底部(ピット)PTに設置された張車40に架け渡されており、乗りかご20の昇降位置によって変動する主ロープ11やトラベリングケーブルTLなどの重量のアンバランスを補償する役割を有する。
【0026】
図3(a)は、張車40の側面側から見た状態を示す図である。図3(b)は、張車40の正面側から見た状態を示す図である。なお、図3(a)および図3(b)において、コンペンロープ12の図示を省略している。図3(a)および図3(b)に示すように、エレベータ10は、上述したコンペンロープ12が架け渡された張車40と、張車40の跳ね上がりを抑制するタイダウン装置60を備えている。
【0027】
張車40は、両側面部分を覆う側板42A,42Bと上面を覆う上部カバー42Cを備える動滑車である。また、張車40の周面には、コンペンロープ12が各々嵌まり込むロープ溝40G-1,40G-2,40G-3(以下、特に区別する必要が無い場合は「ロープ溝40G」と表記)が設けられている。
【0028】
さらに、張車40の中心部には回転軸40Xが設けられており、張車40は回転軸40Xを介して側板42A,42Bに回転自在に支持される。側板42A,42Bはほぼ同一の構成を備えるため、以下の説明では側板42Aについて主に説明を行うとともに側板42Bについては適宜説明を省略する。
【0029】
図3(b)に示すように、側板42Aの上下両端部には各々ガイドシューH1,H2が設けられている。このガイドシューH1,H2は、昇降路14のピットPTに立設したガイドレールGL1を各々上下方向に摺動可能な状態で挟み込むように設けられており、ガイドレールGL1に沿って張車40を案内する役割を有する。同様に、側板42Bの上下両端部にも上述したガイドシューH1,H2と同一構成を具備するガイドシューH3,H4が設けられ、ピットPTに立設したガイドレールGL2に沿って張車40を案内するように構成される。上記構成により、張車40は上下動可能な状態でガイドレールGL1,GL2に支持される。
【0030】
図3(a)および図3(b)に示すように、張車40の側板42Aには張車40の上昇を検知する機能を有する上昇検知部41が取り付けられている。また、張車40の上部カバー42Cには、直上方に位置するタイダウン装置60に衝突したときの衝撃を緩和するためにゴムなどから構成された緩衝部材43が中央部に取り付けられ、さらに張車40の加速度を検出する加速度センサ52が端部側に設けられている。加速度センサ52は、一例として、3軸方向(水平方向X、Zおよび鉛直方向Y)における加速度を各々検出する機能を有するセンサであり、各軸方向における加速度を検出して出力値として監視部34(図2参照)に送信する。
【0031】
図3(a)に示すように、上昇検知部41は、張車40の跳ね上がりを検知する接触式のスイッチであり、回転可能に支持された検知用レバー44と、検知用レバー44の背面側に位置し回動可能に支持された検知用アーム46を有する。
【0032】
検知用レバー44は、略十字状の外観を呈し、回転軸44Aが中心部に設けられており、回転軸44Aより右側に延びる検知片44Bと回転軸44Aより左側に延びる係止片44Cとを含む。検知片44Bの直上方には上述したタイダウン装置60に上端が連結されたタイダウンアーム62が位置している。
【0033】
図3(b)に示すように、タイダウンアーム62は側面から見て略C字状を呈しタイダウン装置60から下方に向かって延びる板状部材である。タイダウンアーム62は、張車40が跳ね上がったときに上昇検知部41の一部を構成する検知用レバー44の検知片44Bに当接することにより上昇検知部41に張車40の跳ね上がりを検知させる役割を有する。
【0034】
また、図3(a)に示すように、係止片44Cの先端部は二股状に構成されるとともに側面視において略L字状を呈するように背面側に折り曲げられている。これにより、上述した検知用アーム46の係合突起46Aが係止片44Cを介して検知用レバー44に係止された状態で保持可能に構成される。
【0035】
検知用アーム46は、検知用レバー44と係合するための係合突起46Aが上部に設けられるとともに下端部側に設けられた回動軸46B周りに回動可能に構成される。
【0036】
図3(a)に示すように、通常運転時、すなわち、張車40が跳ね上がっていない状態におけるタイダウンアーム62と検知片44Bとの間の距離ΔMは、タイダウン装置60と張車40の緩衝部材43との間の距離ΔLよりも短くなるように設定されている。すなわち、距離ΔLは張車40の緩衝部材43がタイダウン装置60に接触する位置、換言すると、張車40の上昇によってタイダウン装置60が作動する位置(所定の位置)までの距離に相当し、距離ΔMは上昇検知部41が張車40の跳ね上がりを検知する位置までの距離に相当する。
【0037】
上記構成により、張車40がタイダウン装置60を作動させる位置まで跳ね上がる前に上昇検知部41を介して張車40の跳ね上がりを検知することができる。この結果、上昇検知部41を介して張車40の跳ね上がりをいち早く制御装置15に検知させることが可能となる。
【0038】
上述した検知用アーム46は、図3(a)に示す矢印Aの方向、すなわち、検知用レバー44から離れる方向に弾性バネ(不図示)によって常時付勢されており、通常時は上述した検知用レバー44の係止片44Cが背面側に位置する検知用アーム46の係合突起46Aに係止された状態で図3(a)に示す係合位置Pに保持される。そして、張車40の跳ね上がりに伴って検知用レバー44の検知片44Bがタイダウンアーム62に当接され下方に回転すると、反対側の係止片44Cが上方に回転し検知用アーム46の係合突起46Aとの係合状態が解除される。
【0039】
検知用アーム46の係止片44Cと検知用レバー44の係合突起46Aとの係合が解除されると検知用アーム46は上述したように不図示の弾性バネによって図3(a)に示すA方向に付勢されているためA方向に回動する(図4(a)参照)。これにより、検知用アーム46がその一部を構成する安全回路(不図示)に印加されている電流が遮断され張車40の跳ね上がりが運転制御部32に検知される。そして、運転制御部32は綱車16Aを停止させるとともに綱車16Aに取り付けられた制動装置16D(図2参照)を介して綱車16Aに制動力を作用させ乗りかご20の昇降を停止させる。
【0040】
また、検知用レバー44には、上昇検知部41が張車40の跳ね上がりを検知した後に、回転軸44Aを介して検知用レバー44を係合位置Pに向かって回転させる機能を有する第1モータM1(図2参照)が設けられている。同様に、検知用アーム46の回動軸46Bにも同アーム46を係合位置Pに向かって回動させる役割を有する第2モータM2(図2参照)が設けられている。
【0041】
続いて、図4(a)および図4(b)をさらに参照しつつ、張車40が跳ね上がったときの上昇検知部41およびタイダウン装置60の動作について説明を行う。図4(a)および図4(b)は、いずれも張車40が跳ね上がったときの状態を示しており、図4(a)は張車40が跳ね上がった距離をUとしたときにΔM≦U<ΔLの関係を満たす場合、すなわち、上昇検知部41によって張車40の上昇が検知されるもののタイダウン装置60は作動しない範囲で張車40が上昇した場合における張車40周辺の動作状態を示す図である。
【0042】
同様に、図4(b)は、ΔL≦Uである場合、すなわち、上昇検知部41およびタイダウン装置60の双方が作動する位置まで張車40が跳ね上がった場合における張車40周辺の動作状態を示す図である。なお、図4(a)および図4(b)において、張車40の通常運転時の位置、すなわち、張車40が跳ね上がる前の位置を破線で示している。
【0043】
図4(a)に示すように、張車40の跳ね上がった上昇距離UがΔM以上ΔL未満の距離である場合にはタイダウンアーム62によって検知用レバー44の検知片44Bが下方に付勢されることにより検知用レバー44および検知用アーム46の係合状態が解除され検知用アーム46が回動することで上昇検知部41を介して張車40の跳ね上がりが検知されることとなる。
【0044】
このように上昇検知部41が張車40の跳ね上がりを検知すると、制御装置15は巻上機16の電動機16M(図2参照)を停止させるとともに巻上機16の綱車16Aに制動装置16D(図2参照)を介して制動力を作用させて乗りかご20を停止させる。そして、張車40は跳ね上がった後に自重により破線で示す通常時の位置まで下降することとなる。
【0045】
また、この場合には、タイダウン装置60に張車40は接触していないため、タイダウン装置60は作動していない。このため、タイダウン装置60を元の位置に戻す復旧作業を行う必要はない。
【0046】
一方、図4(b)に示すように、張車40の跳ね上がった上昇距離UがΔL以上の距離である場合には上述した図4(a)に示す場合と同様に上昇検知部41を介して張車40の跳ね上がりが運転制御部32(図2参照)に検知されることとなる。また、タイダウン装置60が緩衝部材43を介して張車40に下方から付勢されるため同装置60に設けられている楔(不図示)がガイドレールGL1,GL2をかみ込む(挟圧する)ことによりガイドレールGL1,GL2を介して張車40に制動力を作用させる作動状態となる。
【0047】
これにより、張車40の跳ね上がろうとする付勢力がタイダウン装置60の制動力によって相殺され張車40の跳ね上がり(上昇)が抑制される。その後、タイダウン装置60は破線で示す乗りかご20が通常運転を行っている場合における位置まで自重により下降することとなる。
【0048】
また、図4(b)に示すように、タイダウン装置60は、楔(不図示)がガイドレールGL1,GL2をかみ込んでいるため通常運転時の位置、換言すると、タイダウン装置60が作動する前に取り付けられていた位置よりも上方位置でガイドレールGL1,GL2にかみ込むことにより固定された状態となる。
【0049】
このため、タイダウン装置60を通常運転時の位置まで戻すためには、同装置60における楔(不図示)のかみ込み状態を解除してから通常運転時の位置まで同装置60を下降させるなどの復旧作業を保守員などが行う必要がある。また、これらの復旧作業を行うまでは乗りかご20の通常運転を再開することはできないため、乗りかご20の運転再開までに時間を要することとなる。
【0050】
そこで、本実施形態では、監視部34を用いて張車40の位置を監視することにより張車40が跳ね上がったときにタイダウン装置60が作動したか否かを把握できるようにしている。より具体的には、監視部34は、加速度センサ52から出力される加速度の出力値に基づいて積分などの演算処理を行うことで張車40の上下方向位置を算出する機能を有する。また、監視部34は、加速度センサ52の出力値に基づいて水平方向に対する張車40の傾きも併せて算出する機能を具備するものとしてもよい。
【0051】
続いて、図5(a)~図5(d)を用いて上昇検知部41によって張車40の跳ね上がりが検知された後、上昇検知部41が通常運転時の位置に復帰するときの復帰動作について説明を行う。図5(a)は図4(a)に示す位置、換言すると、タイダウン装置60は作動しないものの上昇検知部41によって検知される位置まで張車40が上昇した後に下降した状態を示す図である。図5(b)は同図(a)に含まれる上昇検知部41における検知用アーム46および検知用レバー44の検知状態を示す部分拡大図である。図5(c)は同図(b)に示す検知状態から検知用アーム46だけが係合位置P(図3(a)参照)に復帰した状態を示す図である。図5(d)は同図(c)に示す状態から検知用レバー44がさらに係合位置P(図3(a)参照)に復帰した状態を示す図である。
【0052】
図5(a)に示すように、運転制御部32は、監視部34の監視結果に基づいて張車40がタイダウン装置60を作動させる位置まで跳ね上がっていないと判断できる場合には、図5(b)に示す上昇検知部41が張車40の上昇を検知したときの検知位置から図5(d)に示す通常運転時の位置に上昇検知部41を復帰させる。
【0053】
より具体的には、図5(b)に示すように上昇検知部41を介して張車40の跳ね上がりを検知したときは、運転制御部32は張車40の跳ね上がりを検知してから一定時間(一例として、5分間)が経過した後に第1モータM1(図2参照)を介して検知用アーム46を係合位置P(図3(a)参照)までB方向に回動させることで図5(c)に示す状態となる。さらに、運転制御部32は、第2モータM2(図2参照)を介して検知用レバー44を係合位置P(図3(a)参照)までC方向に回転させ図5(d)に示す状態となる。
【0054】
これにより、検知用アーム46の係合突起46Aに検知用レバー44の係止片44Cを係止させた状態で保持される。この結果、上昇検知部41を介して張車40の跳ね上がりを検知可能な状態に復帰したこととなる。
【0055】
ここで、図6は、張車40が跳ね上がった場合における運転制御部32による乗りかご20の運転再開可否の判断処理の流れを示すフローチャートである。図6に示すように、運転制御部32は、上昇検知部41を介して乗りかご20の上昇を検知した場合には(ステップS1:YES)、電動機16Mの駆動を停止するとともに制動装置16Dを介して綱車16Aに制動力を作用させる(ステップS2,S3)。これにより、乗りかご20を迅速に停止させることができる。
【0056】
さらに、運転制御部32は、乗りかご20の運転の再開が可能であるか否かを判断する(ステップS4)。より具体的には、運転制御部32は、監視部34において算出される監視結果が所定の条件を全て満たしている場合には乗りかご20の運転の再開が可能であると判断する(ステップS4:YES)。ここで、所定の条件には、以下の第1の条件および第2の条件が含まれる。
【0057】
第1の条件は、監視部34の算出した張車40の上昇距離Uが距離ΔL未満であることである(図4(a),図4(b)参照)。この第1の条件を満たすことによって張車40がタイダウン装置60に接触していない、換言すると、タイダウン装置60が作動していないと判断することができる。
【0058】
第2の条件は、監視部34の算出結果に基づいて水平方向に対して張車40が傾斜していないと判断できることである。これにより、例えば、コンペンロープ12の一部が張車40のロープ溝40Gから外れるなどによって張車40が水平方向に対して傾いた状態となる、或いは、タイダウン装置60に損傷が発生し、その結果として、張車40が水平方向に対して傾くなどの異常が発生していないか判断することができる。
【0059】
上記第1の条件および第2の条件を満たす場合には、運転制御部32は乗りかご20の運転を再開可能と判断する(ステップS4:YES)。
【0060】
運転制御部32は、乗りかご20の運転再開可能と判断した場合には(ステップS4:YES)、上昇検知部41を介して乗りかご20の上昇が検知されたタイミングから所定時間(例えば、5分間)の経過後に第1モータM1および第2モータM2を介して上述した復帰動作を実行させる(ステップS5:YES,ステップS6)。これにより、上昇検知部41の検知用アーム46および検知用レバー44を各々係合位置P(図3(a)参照)に変位させることができる。
【0061】
そして、運転制御部32は、制動装置16D(図2参照)の制動(作動)状態を解除して綱車16Aに制動力が作用しないようにするとともに電動機16M(図2参照)の駆動を再開させ(ステップS7,S8)、一連の制御処理を終了する。
【0062】
一方、ステップS4において、運転制御部32は、上記第1の条件および第2の条件のうちいずれか一方または双方を満たさない場合には乗りかご20の運転再開はできないものと判断する(ステップS4:NO)。そして、運転制御部32は、遠隔監視センターなどに異常検知信号を送信する(ステップS9)。これにより、張車40の跳ね上がりなどによって乗りかご20の運転が停止していることを報知できる。その結果、遠隔監視センターから保守作業員が派遣され、エレベータ10の復旧作業が行われることとなる。そして、復旧作業完了後に乗りかご20の運転が再開される。
【0063】
本実施形態のエレベータ10によれば、張車40の上昇が検知され乗りかごの運転が停止した場合においても監視部34の監視結果が所定の条件を満たしている場合には乗りかご20の運転を再開させることができる。これにより、張車40の上昇が検知された場合における保守点検作業の手間を軽減しつつ乗りかご20の運転を再開させることができる。
【0064】
上記実施形態では、ステップS4の処理において、運転制御部32は所定条件として第1の条件に加えて第2の条件も満たす場合にのみ乗りかご20の運転再開が可能と判断する例を挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、エレベータ10の仕様や設置環境などによっては、上記第2の条件については所定条件に含まないものとし上記第1の条件のみに基づいて乗りかご20の運転再開の可否について運転制御部32が判断を行うものとしてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、ステップS4の処理において、運転制御部32は、所定の条件として第1の条件および第2の条件を満たしている場合に乗りかご20の運転を再開する例を挙げて説明している。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、所定の条件として上記第1の条件および第2の条件の他に、以下に示す張車40の上下動の周期に関する第3の条件をさらに満たしている場合にのみ、運転制御部32は乗りかご20の運転を再開させるものとしてもよい。
【0066】
ここで、張車40の回転中心である回転軸40X(図3(b)参照)の位置は、重心位置と一致せず位置に多少のずれ、すなわち、偏心している。このため、上記偏心の影響により、乗りかご20の昇降に伴って張車40が回転すると乗りかご20の昇降速度に応じて所定周期で張車40が上下動することとなる。
【0067】
一方、例えば、コンペンロープ12の一部が張車40のロープ溝40Gから外れるなど何らかの異常が発生している場合には乗りかご20の昇降時に上記所定周期で張車40が上下動しないといったことが起こり得る。
【0068】
そのため、乗りかご20の昇降時において張車40が所定周期で上下動しているか否かに基づいて張車40の動作状態の異常有無を判定することができる。
【0069】
そこで、第3の条件として、乗りかご20が昇降するときに所定周期で張車40が上下動していることを乗りかご20の運転再開の可否を判断する条件の1つとして加えることが考えられる。
【0070】
この場合において、運転制御部32には乗りかご20を一定時間だけ昇降させた場合における張車40の上下動の周期パターンが予め記憶されている。また、運転制御部32は、監視部34が算出する張車40の位置情報に基づいて張車40の上下動の周期パターンを算出する機能を有する。
【0071】
そして、運転制御部32は、上記第1および第2の条件を満たしていることを確認した後に、乗りかご20を一定時間昇降させたときの張車40の上下動の周期が予め記憶されている上下動の周期パターンと一致することを乗りかご20の運転再開の条件とする。この場合においても上記実施形態におけるエレベータ10と同様の効果を得ることができる。
【0072】
また、上記実施形態では、監視部34は上部カバー42Cに取り付けられた加速度センサ52の出力値を用いて張車40の位置を監視する場合を例に挙げて説明している。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、加速度センサ52に代えて超音波センサを用いてもよい。この場合の第1変形例および第2変形例について図7(a)および図7(b)を用いて説明を行う。以下の説明において、上記実施形態におけるエレベータ10の構成と同一の部分については適宜同一の符号を付して示しつつ適宜説明を省略し、構成の異なる部分についてのみ説明を行う。
【0073】
図7(a)は第1変形例に係る超音波センサ72を用いる場合の構成を示す図である。図7(a)に示すように、張車40の直下方の幅方向中央部に超音波センサ72を配置して用いてもよい。この超音波センサ72は、発信した超音波が対象物にあたって反射してくるまでに要する時間を計測することにより対象物までの距離を測定する機能を有し、同センサ72から張車40までの距離を非接触で測定する。そして、監視部34は、超音波センサ72の測定(出力)値に基づいて張車40の上下方向位置の監視を行う。この場合においても、上述した第1の条件を満たすか否かを運転制御部32が判断することができる。
【0074】
従って、上述したステップS4の処理において、所定の条件として第1の条件のみを満たすか否かに基づいて乗りかご20の運転再開の可否を判断する場合にはこの第1変形例に係る構成でも上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0075】
図7(b)は第2変形例に係る超音波センサ74,76を用いる場合の構成を示す図である。図7(b)に示すように、監視部34は、張車40の直下方の幅方向両端側に各々配置された超音波センサ74,76を介して張車40までの距離の変化を監視するようにしてもよい。超音波センサ74,76は、上述した超音波センサ72と同一の機能および構成を具備するセンサである。
【0076】
この場合には、監視部34は双方の超音波センサ74,76から出力される出力値に基づいて張車40の上下方向位置および張車40の水平方向に対する傾きを算出し監視することができる。
【0077】
従って、上述したステップS4の処理において、所定の条件として第1の条件および第2の条件の双方を満たすか否かに基づいて乗りかご20の運転再開可否の判断を運転制御部32が行なうことができる。このため、第2変形例の場合においても上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0078】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施できる。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内で、何れかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良い。
【符号の説明】
【0079】
10 エレベータ
12 主ロープ
14 昇降路
15 制御装置
16 巻上機
16A 綱車
19 タイダウン装置
20 乗りかご
32 運転制御部
34 監視部
40 張車
41 上昇検知部
44 検知用レバー
46 検知用アーム
52 加速度センサ
60 タイダウン装置
62 タイダウンアーム
72,74,76 超音波センサ
X,Y 水平方向
Z 上下方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7