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特開2025-20068インクの粘度変化検出方法及びインクジェット印刷装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020068
(43)【公開日】2025-02-10
(54)【発明の名称】インクの粘度変化検出方法及びインクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/195 20060101AFI20250203BHJP
【FI】
B41J2/195
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123915
(22)【出願日】2023-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】594033824
【氏名又は名称】マイクロクラフト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108958
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 英一
(72)【発明者】
【氏名】秀平 崇行
(72)【発明者】
【氏名】今井 潔志
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA07
2C056EB04
2C056EB27
2C056EB32
2C056FA10
2C056HA58
(57)【要約】      (修正有)
【課題】装置が大型化したり、コストが増加したりしない方法を提供する。
【解決手段】ワーク11の固定部2と、インクを吐出するノズルを有するインクジェットヘッド4と、固定部2に対してインクジェットヘッド4を相対移動させる移動機構3と、ワーク11を撮像した画像を生成するカメラ6と、インクジェットヘッド4、移動機構3及びカメラ6を制御する制御部7とを備える印刷装置1で実施するものであって、ワーク11及びノズルの間の相対的な特定の物理的条件を互いに異ならせた二状態において、ワーク11に対して所定の印刷パターン25を目標印刷座標に印刷するように印刷処理を行うとともに各状態における目標印刷座標に対する実印刷座標のオフセットをそれぞれ取得し、それらを用いてインクの射出速度を算出し、それを所定の基準射出速度と比較することによりインクの粘度変化を検出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷対象であるワークを固定する固定部と、
印刷用のインクを吐出するノズルと、
前記固定部に対して前記ノズルを相対移動させる移動機構と、
前記固定部に固定された前記ワークの印刷対象面を撮像した画像を生成するカメラと、
前記固定部に固定された前記ワークに対して前記移動機構により前記ノズルを相対移動させながら前記ノズルからインクを吐出させることにより、前記ワークに印刷させる印刷処理を行うことが可能に、かつ、前記ワークの画像を前記カメラから取得する画像取得処理を行うことが可能に構成された制御部と、
を備えるインクジェット印刷装置を用いて行うインクの粘度変化の検出方法であって、
前記ワーク及び前記ノズルの間の相対的な特定の物理的条件を互いに異ならせた二状態において、前記ワークに対して所定の印刷パターンを目標印刷座標に印刷するように前記印刷処理を行うとともに、前記画像取得処理により取得された前記ワークの画像を用いることにより前記各状態における前記目標印刷座標に対する実印刷座標のオフセットをそれぞれ取得する二状態オフセット取得段階と、
前記二状態におけるそれぞれの前記物理条件とともに前記二状態のオフセットを用いて前記ノズルからのインクの射出速度を算出するインク射出速度算出段階と、
該インクの射出速度を、所定の判定基準に基づいて所定の基準射出速度と比較することによりインクの粘度変化の有無を判定するインク粘度変化判定段階とを含んでいる
インクの粘度変化検出方法。
【請求項2】
前記相対的な特定の物理的条件は、前記ノズルと前記ワークとの間の前記相対移動の速度である請求項1記載のインクの粘度変化検出方法。
【請求項3】
前記相対的な特定の物理的条件は、前記ノズルのインク吐出口と前記ワークの距離である請求項1記載のインクの粘度変化検出方法。
【請求項4】
印刷対象であるワークを固定する固定部と、
印刷用のインクを吐出するノズルと、
前記固定部に対して前記ノズルを相対移動させる移動機構と、
前記固定部に固定された前記ワークの印刷対象面を撮像した画像を生成するカメラと、
前記固定部に固定された前記ワークに対して前記移動機構により前記ノズルを相対移動させながら前記ノズルからインクを吐出させることにより、前記ワークに印刷させる印刷処理を行うことが可能に、かつ、前記ワークの画像を前記カメラから取得する画像取得処理を行うことが可能に構成された制御部とを備え、
前記ワーク及び前記ノズルの間の相対的な特定の物理的条件を互いに異ならせた二状態において、前記ワークに対して所定の印刷パターンを目標印刷座標に印刷するように前記印刷処理を行うとともに、前記画像取得処理により取得された前記ワークの画像を用いることにより前記各状態における前記目標印刷座標に対する実印刷座標のオフセットをそれぞれ取得する二状態オフセット取得処理と、
前記二状態におけるそれぞれの前記物理条件とともに前記二状態のオフセットを用いて前記ノズルからのインクの射出速度を算出するインク射出速度算出処理と、
該インクの射出速度を、所定の判定基準に基づいて所定の基準射出速度と比較することによりインクの粘度変化の有無を判定するインク粘度変化判定処理とを行うように構成されている
インクジェット印刷装置。
【請求項5】
前記相対的な特定の物理的条件は、前記ノズルと前記ワークとの間の前記相対移動の速度である請求項4記載のインクジェット印刷装置。
【請求項6】
前記相対的な特定の物理的条件は、前記ノズルのインク吐出口と前記ワークの距離である請求項4記載のインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクの粘度変化検出方法及びインクジェット印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板への文字印刷方法として、インクジェット方式の印刷装置が広く知られている(特許文献1参照)。
【0003】
プリント配線板等に使用するインクジェット用のインクは、図12に示すように、通常、常温では粘度が高く、インクを吐出することができない。よって、インクを加温することでインクの粘度を下げ、適切な粘度で印刷を行う必要がある。しかしながら、インクを加温したり、経時変化したりする等の要因で、インクが増粘する。インクの粘度が変化すると、インクの射出速度が変わり、インクの着弾位置が変化する(位置ずれ)といった課題がある。このため、インクの粘度に応じてインクの着弾位置を調整する必要がある。
【0004】
インクの粘度の変化を検出する方法として、特定位置に設けられた発光素子と受光素子を用いて吐出したインク液滴の吐出速度を算出してインクの粘度を算出する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
また、インクを保持する保持体(タンク)に粘度を測定する粘度センサーを用いてインクの粘度を測定する方法が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-232701号公報
【特許文献2】特開2006-212868号公報
【特許文献3】特開2015-193112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献2の方法では、特定位置に発光素子と受光素子を設ける必要があり、装置が大型化したり、コストが増加したりするという課題がある。
【0008】
また、特許文献3の方法では、コストが増加することに加え、そもそも保持体がない場合(例えばインクカートリッジ式でインクタンクがない場合等)には、適用できないという課題もある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明のインクの粘度変化検出方法は、
印刷対象であるワークを固定する固定部と、
印刷用のインクを吐出するノズルと、
前記固定部に対して前記ノズルを相対移動させる移動機構と、
前記固定部に固定された前記ワークの印刷対象面を撮像した画像を生成するカメラと、
前記固定部に固定された前記ワークに対して前記移動機構により前記ノズルを相対移動させながら前記ノズルからインクを吐出させることにより、前記ワークに印刷させる印刷処理を行うことが可能に、かつ、前記ワークの画像を前記カメラから取得する画像取得処理を行うことが可能に構成された制御部と、
を備えるインクジェット印刷装置を用いて行うインクの粘度変化の検出方法であって、
前記ワーク及び前記ノズルの間の相対的な特定の物理的条件を互いに異ならせた二状態において、前記ワークに対して所定の印刷パターンを目標印刷座標に印刷するように前記印刷処理を行うとともに、前記画像取得処理により取得された前記ワークの画像を用いることにより前記各状態における前記目標印刷座標に対する実印刷座標のオフセットをそれぞれ取得する二状態オフセット取得段階と、
前記二状態におけるそれぞれの前記物理条件とともに前記二状態のオフセットを用いて前記ノズルからのインクの射出速度を算出するインク射出速度算出段階と、
該インクの射出速度を、所定の判定基準に基づいて所定の基準射出速度と比較することによりインクの粘度変化の有無を判定するインク粘度変化判定段階とを含んでいる。
【0010】
前記インクの粘度変化検出方法における前記相対的な特定の物理的条件としては、特に限定されないが、次の態様を例示する。
(1)前記ノズルと前記ワークとの間の前記相対移動の速度
(2)前記ノズルのインク吐出口と前記ワークの距離(印刷高さ)
【0011】
前記実印刷座標を取得する態様としては、特に限定されないが、次の態様を例示する。
(a)印刷後の前記ワークを撮影した画像を、前記制御部に設けられた表示装置の画面に表示させ、その画像に含まれる前記印刷パターンの基準点をユーザーが目視で特定することにより、その実印刷座標を取得する態様。
(b)印刷後の前記ワークを撮影した画像を前記カメラから前記制御部へ入力し、該画像に含まれる前記印刷パターンの基準点の実印刷座標(前記ワーク上に実際に印刷された座標)を、画像解析処理により自動検出することで測定する態様。この画像解析処理により自動検出する態様としては、印刷後の前記ワークを撮影した画像の中から、パターンマッチングにより前記印刷パターンの基準点の位置を探し出すことにより、その実印刷座標を取得する態様を例示する。
【0012】
前記所定の基準射出速度とは、特に限定されないが、所定の基準状態のインク(例えば、インクタンクへのインク投入直後のインクや、未開封のインクカートリッジ内のインクなどの増粘がない状態のインク)を用いて取得しておいたインクの射出速度を例示する。
【0013】
前記所定の判定基準とは、特に限定されないが、所定割合以上射出速度が低下していることで判定する態様や、所定値以上射出速度が低下していることで判定する態様などを例示する。
【0014】
この方法によれば、前記固定部に固定された前記ワークの印刷対象面を撮像した画像を生成する前記カメラを備えていれば容易に実施できる。このようにインク粘度を取得するための専用のハードウェア構成(例えば、インク液滴の吐出速度を得るために発光素子と受光素子や、インクタンク内の粘度を測定する粘度センサー)を設ける必要がないので、それにより装置が大型化したり、コストが増加したりする問題が生じない。また、前記粘度センサーはインクタンクが無いインクカートリッジ式には適用できないが、本発明にはそのような制限がない。そして、インクの粘度が変化した場合には、インクの着弾位置がずれる(印刷位置精度が悪くなる)ので、インクを射出するタイミングを再調整することで印刷位置精度を回復することに利用が可能である。
【0015】
また、本発明のインクジェット印刷装置は、
印刷対象であるワークを固定する固定部と、
印刷用のインクを吐出するノズルと、
前記固定部に対して前記ノズルを相対移動させる移動機構と、
前記固定部に固定された前記ワークの印刷対象面を撮像した画像を生成するカメラと、
前記固定部に固定された前記ワークに対して前記移動機構により前記ノズルを相対移動させながら前記ノズルからインクを吐出させることにより、前記ワークに印刷させる印刷処理を行うことが可能に、かつ、前記ワークの画像を前記カメラから取得する画像取得処理を行うことが可能に構成された制御部とを備え、
前記ワーク及び前記ノズルの間の相対的な特定の物理的条件を互いに異ならせた二状態において、前記ワークに対して所定の印刷パターンを目標印刷座標に印刷するように前記印刷処理を行うとともに、前記画像取得処理により取得された前記ワークの画像を用いることにより前記各状態における前記目標印刷座標に対する実印刷座標のオフセットをそれぞれ取得する二状態オフセット取得処理と、
前記二状態におけるそれぞれの前記物理条件とともに前記二状態のオフセットを用いて前記ノズルからのインクの射出速度を算出するインク射出速度算出処理と、
該インクの射出速度を、所定の判定基準に基づいて所定の基準射出速度と比較することによりインクの粘度変化の有無を判定するインク粘度変化判定処理とを行うように構成されている。
【0016】
前記インクジェット印刷装置における前記相対的な特定の物理的条件、前記目標印刷座標に対する実印刷座標のオフセットを取得する態様、前記所定の基準射出速度、及び、前記所定の判定基準は、本発明のインクの粘度変化検出方法におけるものと同様である。
【0017】
この構成によっても、前記インクの粘度変化検出方法と同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るインクの粘度変化検出方法及びインクジェット印刷装置によれば、装置が大型化したり、コストが増加したりしないという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明を具体化した第一実施形態に係るインクジェット印刷装置の制御系の要部ブロック図である。
図2】同印刷装置の全体構成の要部正面図である。
図3】同印刷装置の全体構成の要部平面図である。
図4】同印刷装置のインクジェットヘッドのノズル面の正面図である。
図5】同印刷装置の制御部で実行されるインクの粘度変化検出処理の流れを示すフローチャートである。
図6】同印刷装置による印刷パターンの例を示す図である。
図7】同印刷パターンの中心をカメラの画像の中心に合わせた図である。
図8】同印刷装置のワーク及びノズルの間の相対的な物理的状態を表した正面図である。
図9】実施例に係るインクジェット印刷装置を用いて、それが備える2個のインクジェットヘッドのそれぞれについて、5種類の印刷速度で測定したオフセット量の値をまとめた表である。
図10図9の測定結果を用いて、インクの液滴の運動を等速度運動として計算した場合と、落下運動として計算した場合のインクの射出速度の値をまとめた表である。
図11】インクの射出速度の平均射出速度、最小射出速度、最大射出速度をまとめたものであり、(a)はインクジェット印刷装置が備える液滴の射出速度の計測結果をまとめたもの、(b)はインクの液滴の運動を等速度運動として計算した場合の計算結果をまとめたものである。
図12】温度とインクジェット用のインクの粘度との関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化したインクジェット印刷装置1の第一実施形態について、同装置で実施されるインクの粘度変化検出方法とともに、図1図11を参照して説明する。図1図4に示すように、このインクジェット印刷装置1は、固定部2、移動機構3、インクジェットヘッド4、硬化部5、カメラ6、及び制御部7を装置本体1aに備えている。
【0021】
固定部2は、印刷の対象であるワーク11(プリント配線板等の基板)を載置する載置台8と、該載置台8の上の所要の位置にワーク11を固定する固定手段(図示略)とを備えている。
【0022】
移動機構3は、X軸移動機構3aと、Y軸移動機構3bと、Z軸移動機構3cとを備えており、固定部2に対して、インクジェットヘッド4、硬化部5及びカメラ6を相対的にX方向、Y方向及びZ方向に移動させるように構成されている。
【0023】
X軸移動機構3aは、装置本体1aに対してX軸移動体12をX方向に相対移動させるように構成されており、装置本体1aに対して回転自在に支持されてX方向に延びるX軸ボールネジ16と、該X軸ボールネジ16に螺合される雌ネジ穴(図示略)を有するX軸移動体12と、該X軸移動体12のX方向への移動をガイドするX軸リニアガイド18と、X軸ボールネジ16を駆動するX軸モータ20とを備える。
【0024】
Y軸移動機構3bは、装置本体1aに対して固定部2をY方向に相対移動させるように構成されており、装置本体1aに対して回転自在に支持されてY方向に延びるY軸ボールネジ17と、該Y軸ボールネジ17に螺合される雌ネジ穴(図示略)を有する固定部2と、該固定部2のY方向への移動をガイドするY軸リニアガイド19と、Y軸ボールネジ17を駆動するY軸モータ21とを備える。
【0025】
Z軸移動機構3cは、X軸移動体12に対してZ軸移動体14をZ方向に相対移動させるように構成されており、X軸移動体12に対して回転自在に支持されてZ方向に延びるZ軸ボールネジ(図示略)と、該Z軸ボールネジに螺合される雌ネジ穴(図示略)を有するZ軸移動体14と、該Z軸移動体14のZ方向への移動をガイドするZ軸リニアガイド(図示略)と、Z軸ボールネジを駆動するZ軸モータ(図示略)とを備える。Z軸移動体14には、インクジェットヘッド4、硬化部5及びカメラ6が取り付けられている。
【0026】
インクジェットヘッド4は、図4に示すように複数のノズル4aが作り込まれており、各ノズル4aから印刷用のインクの液滴27を吐出し、ワーク11にインクを塗布するように構成されている。
【0027】
硬化部5は、ワーク11に付着したインクを硬化させるように構成されており、インクジェットヘッド4と連動して移動するようにインクジェットヘッド4の移動方向(本例ではX方向)の両側に取り付けている。硬化部5としては、特に限定されないが、例えばUV硬化型インクを使用する場合にはUV硬化ランプを用いることを例示する。
【0028】
カメラ6は、一方の硬化部5の後方に配設されており、インクジェットヘッド4及び硬化部5と一体的に移動され、固定部2に固定されたワーク11の印刷対象面を撮像した画像を生成するように構成されている。
【0029】
制御部7は、固定部2に固定されたワーク11に対して移動機構3によりノズル4aを有するインクジェットヘッド4を相対移動させながらノズル4aからインクを吐出させることにより、ワーク11に印刷させる印刷処理、ワーク11の画像をカメラ6から取得する画像取得処理、インクの射出速度を算出するインク射出速度算出処理、インクの粘度変化を検出するインク粘度検出処理などを行うことが可能に構成されている。
【0030】
次に、本例のインクジェット印刷装置1の印刷処理の動作概要について説明する。図8は、印刷時におけるインクジェット印刷装置1のインクジェットヘッド4、ノズル4a、ワーク11、及びインクの液滴27の位置関係を表している。印刷処理を行う前の準備として、印刷用データを作成するとともに、固定部2にワーク11を固定する。印刷用データの内容としては、特に限定されないが、印刷する文字、図形又は模様の情報やアライメントマーク等の情報が含まれている態様を例示する。
(1)まず、カメラ6を使用して、ワーク11の表面に表されているアライメントマーク(図示略)を撮像し、ワーク11の位置情報を取得する。
(2)ワーク11の位置情報を元にワーク11の伸縮や取り付け角度を計算し、印刷用データに伸縮補正や回転補正を行った後、それをラスタライズ(パス等の複雑なデータや重いリンク画像・埋め込み画像をビットマップ画像へ変換)することにより、ラスタライズデータを得る。
(3)インクを吐出させる位置の高さ(例えばワーク面から1mm)にインクジェットヘッド4を移動させる(Z方向)。
(4)固定部2に対してインクジェットヘッド4を相対的にX方向及びY方向に移動させた後、インクジェットヘッド4をX方向に移動させながら各ノズル4aからのインクの吐出を制御し、所定位置にインクの液滴27を付着させる。その際、必要に応じてインクの吐出とほぼ同時に硬化部5でインクの硬化を行う。
(5)インクジェットヘッド4のノズル幅分(図4に表された全てのノズル4a分の上下方向の幅、すなわち印刷幅分)の印刷完了後、インクジェットヘッド4に対して該ノズル幅分だけ固定部2をY方向に移動させる。
(6)すべての印刷予定の領域の印刷が完了するまで、(4)、(5)の作業を繰り返すと、印刷が終了する。
【0031】
次に、本例のインクジェット印刷装置1の画像取得処理の動作概要について説明すると、制御部7によって制御される移動機構3により、固定部2に対してカメラ6を相対的にX方向及びY方向に移動させることにより、固定部2に固定されたワーク11の印刷対象面における所要部位の上方へカメラ6を移動させ、該所要部位の画像を制御部7によって制御されるカメラ6により撮影し、その画像をカメラ6から制御部7が取得するようになっている。
【0032】
次に、制御部7によって実行されるインク粘度検出処理(図5参照)について説明する。この処理を行う前の準備として、固定部2にワーク11としての調整用基板(基板全面に銅箔がない基板)を固定する。このインク粘度検出処理は、ワーク11及びノズル4aの間の相対的な特定の物理的条件を互いに異ならせた二状態において、ワーク11に対して所定の印刷パターン25を目標印刷座標に印刷するように前記印刷処理を行うとともに、前記画像取得処理により取得されたワーク11の画像を用いることにより前記各状態における前記目標印刷座標に対する実印刷座標のオフセットx1及びx2をそれぞれ取得する二状態オフセット取得処理(ステップS101)と、前記二状態におけるそれぞれの前記物理条件とともに前記二状態のオフセットx1及びx2を用いて前記ノズルからのインクの射出速度を算出するインク射出速度算出処理(ステップS102)と、該インクの射出速度を、所定の判定基準に基づいて所定の基準射出速度と比較することによりインクの粘度変化の有無を検出するインク粘度変化判定処理(ステップS103)とを含んでいる。
【0033】
なお、このインク粘度検出処理では、ワーク11及びノズル4aの間の相対的な特定の物理的条件を互いに異ならせた二状態において、ワーク11に対して所定の印刷パターン25を目標印刷座標に印刷するように前記印刷処理を行うとともに、前記画像取得処理により取得されたワーク11の画像を用いることにより前記各状態における前記目標印刷座標に対する実印刷座標のオフセットx1及びx2をそれぞれ取得する二状態オフセット取得段階(前記二状態オフセット取得処理により実施。)と、前記二状態におけるそれぞれの前記物理条件とともに前記二状態のオフセットx1及びx2を用いて前記ノズルからのインクの射出速度を算出するインク射出速度算出段階(前記インク射出速度算出処理により実施。)と、該インクの射出速度を、所定の判定基準に基づいて所定の基準射出速度と比較することによりインクの粘度変化の有無を検出するインク粘度変化判定段階(前記インク粘度変化判定処理により実施。)とを含むインク粘度検出方法を実施している。
【0034】
二状態オフセット取得処理(ステップS101)について説明する。この処理では、ワーク11及びノズル4aの間を相対的な特定の物理的条件にした状態において取得されたワーク11の画像(所定の印刷パターン25を目標印刷座標に印刷した結果の画像)を用いることにより、該状態における前記目標印刷座標に対する実印刷座標のオフセットx(目標座標に対するインクの着弾位置のずれ)を取得する単一状態オフセット取得段階(ステップS101a)を、前記特定の物理条件を互いに異ならせた二状態についてそれぞれ実行するようになっている。本例では、この特定の物理的条件として、印字速度S(m/sec)を用い、互いに異なる印刷速度S1及びS2について、それぞれオフセットx1及びx2を取得する。
【0035】
単一状態オフセット取得処理(ステップS101a)について説明する。
(1)まず、ワーク11上における所定の目標印刷座標に対して、図6に示す所定の印刷パターン25の基準点25aが位置させることを目標にして印刷パターン25を印刷する。この印刷は、具体的には前述した印刷処理を行うことによりなす。
(2)印刷後のワーク11の画像24を前記画像取得処理により取得し、その画像24における前記目標印刷座標に対する、印刷された印刷パターン25の基準点25aの実印刷座標(ワーク11上に実際に印刷された座標)を取得する。この取得態様としては、特に限定されないが、次の態様を例示する。
(a)図7に示すように、印刷後のワーク11を撮影した画像を、制御部7に設けられた表示装置の画面26に表示させ、その画像に含まれる印刷パターンの基準点25aをユーザーが目視で特定し、その位置を前記表示装置と連携するように設けられたポインティングデバイスで指定することにより、その実印刷座標を取得する態様。なお、図7において、カメラ6の画像24の座標を読み取るためのガイドライン26aを破線で示し、印刷パターン25が目標印刷座標に目標どおりに印刷された場合の位置を二点鎖線で示し、印刷パターン25が実際に印刷された位置を実線で示している。
(b)印刷後のワーク11を撮影した画像24をカメラ6から制御部7へ入力し、該画像24に含まれる印刷パターン25の基準点25aの実印刷座標(ワーク11上に実際に印刷された座標)を、画像解析処理により自動検出することで取得する態様。この画像解析処理により自動検出する態様としては、印刷後のワーク11を撮影した画像24の中から、パターンマッチングにより印刷パターン25の基準点25aの位置を探し出すことにより、その実印刷座標を取得する態様を例示する。
(3)前記目標印刷座標に対する前記実印刷座標のX方向のオフセットx(図7参照)を算出する。
【0036】
インク射出速度算出処理(ステップS102)について説明する。まず、インク射出速度の計算方法について説明すると、インクの射出速度を厳密に計算するためには、空気抵抗等を考慮する必要があるが、実印刷時の印刷高さは数ミリm程度、実験でも1.3mmと微小距離のため、計算を簡易化するために空気抵抗等は無視して考える。
【0037】
図8に示すように、インクジェットヘッド4のノズル面とワーク11の距離(=印刷高さ)をH(mm)、インクの射出速度をV0(m/sec)、インクの液滴27がワーク11に着弾するまでの時間をt(sec)とすると、近似的に次の式(1)が成立する。なお、本来であれば、Z方向成分は鉛直投げ下ろしの落下運動なので、式(1)とは異なるが(式(1)は等速度運動)、Hが小さい場合には、近似的に式(1)が成立するのである。鉛直投げ下ろしの落下運動の場合の計算も後述するが、式(1)の計算式の値と、鉛直投げ下ろしの落下運動の場合の計算式の値は、ほぼ同じ結果となっている(小数点第4位まで同じ)。
【0038】
【数1】
【0039】
また、印字速度S(m/sec)でインクがワークに着弾するまでのXY方向の距離であるオフセットxは、次式(2)で表される。
【0040】
【数2】
【0041】
上記より、(a)印字速度S1で移動する距離であるオフセットをx1、(b)印字速度S2で移動する距離であるオフセットをx2とすると、(a)と(b)の差Dは、次式(3)で表される。
【0042】
【数3】
【0043】
式(1)、式(3)より、V0は次式のように表される。
【0044】
【数4】
【0045】
この式において、H、S1及びS2は既知(印刷設定で指定)であるので、測定により得たx1及びx2を用いることで、インクの射出速度V0を算出することができる。このインク射出速度の計算方法を実施することにより、インク射出速度算出処理(ステップS102)はインクの射出速度V0を算出するように構成されている。
【0046】
次に、インクの運動を鉛直投げ下ろしの落下運動としてインクの射出速度を計算した場合についても説明する。
【0047】
厳密に計算するためには、空気抵抗等を考慮する必要があるが、実印刷時の印刷高さは数ミリm程度、実験でも1.3mmのため、計算を簡易化するために空気抵抗等は無視して考える。
【0048】
インクジェットヘッドのノズル面とワークの距離(=印刷高さ)をH(mm)、インクの射出速度をV0(m/sec)、インクの液滴27がワークに着弾するまでの時間をt(sec)、インクの液滴27がワークに着弾する時のZ方向の速度をV(m/sec)、重力加速度をgとすると、次式(4)が成立する。
【0049】
【数5】
【0050】
また、Vは次式(5)のように表すこともできる。
【0051】
【数6】
【0052】
式(4)、式(5)より、次式(6)を得ることができる。
【0053】
【数7】
【0054】
また、印字速度S(m/sec)でインクがワークに着弾するまでのXY方向の距離であるオフセットxは、次式のように表すことができる。
【0055】
【数8】
【0056】
上記より、(a)印字速度S1で移動する距離であるオフセットをx1、(b)印字速度S2で移動する距離であるオフセットをx2とすると、(a)と(b)の差Dは、次式(7)で表される。
【0057】
【数9】
【0058】
式(6)、式(7)より、V0は次式のように表される。
【0059】
【数10】
【0060】
H、g、S1及びS2は既知(H、S1及びS2は印刷設定で指定、gは9.8m/s2)であるので、測定により得たx1及びx2を用いることで、インクの射出速度V0を算出することができる。このインク射出速度の計算方法を実施することによっても、インク射出速度算出処理(ステップS102)はインクの射出速度V0を算出するように構成されることができる。
【0061】
ここで、インクの液滴27の運動を等速度運動として計算した場合と、落下運動として計算した場合とを比較した実施例について説明する。
【0062】
この実施例では、次の条件で、印刷パターンを印刷したときのオフセットx[μm]を測定した。
(条件1)5種類の印刷速度(50.3936 / 123.5202 / 251.9934 / 370.5606 / 484.5812)[mm/sec])で測定
(条件2)印刷高さH:1.3[mm]固定
なお、本実施例で使用したインクジェット印刷装置1は、インクジェトヘッド4が2個搭載されているモデルであるため、両方のインクジェットヘッド(ヘッド1、ヘッド2)で測定した。また、この実施例で使用したインクジェット印刷装置1は、液滴27の射出速度の計測機能を有している。
【0063】
図9は、ヘッド1及びヘッド2のそれぞれについて、5種類の印刷速度Sで測定したオフセットxの値を表している。図10は、ヘッド1及びヘッド2のそれぞれについて、5種類の印刷速度Sの中から選ばれたあらゆる2つの印刷速度の組み合わせについて、インクジェット印刷装置が備える液滴27の射出速度の計測結果と、インクの液滴27の運動を等速度運動として計算した場合と、落下運動として計算した場合のインクの射出速度V0の値とを表している。図11は、インクの射出速度V0の平均射出速度、最小射出速度、最大射出速度をまとめたものであり、(a)はインクジェット印刷装置が備える液滴27の射出速度の計測結果をまとめたもの、(b)はインクの液滴27の運動を等速度運動として計算した場合の計算結果をまとめたものである。同図(b)においては、計算で求めた射出速度から最大値、最小値を除外して算出している。
【0064】
図10に示すように、インクの液滴27の運動を等速度運動として計算した場合と、落下運動として計算した場合のインクの射出速度V0の値は一致している。この図10では小数点第3位までしか表れしていないが、小数点第4位まで一致していた。また、図10及び図11に示すように、インクジェット印刷装置による射出速度の計測結果と、計算で求めた射出速度とが高精度に一致していることが分かる。
【0065】
インク粘度変化判定処理(ステップS103)について説明する。インク射出速度算出処理(ステップS102)で算出したインクの射出速度と、所定の基準射出速度(本例では、インクタンクへのインク投入直後の増粘がない状態のインクを用いて取得しておいたインクの射出速度を採用している。)を比較することで、インクが増粘したかどうかを判定する。例えば、前記所定の基準射出速度に対して、所定の判定基準(例えば、所定割合以上射出速度が低下していることや、所定値以上射出速度が低下していることなど。)に該当するとインクが増粘していると判定し、そうでないとインクが増粘していないと判定する。この判定は、算出したインクの射出速度、所定の基準射出速度、及び所定の判断基準に基づいて制御部7により自動的にするようにしてもよいし、これらの情報を含む判断情報をユーザーに提示し、ユーザーにしてもらうようにしてもよい。
【0066】
以上のように構成された本例のインクの粘度変化検出方法及びインクジェット印刷装置1によれば、固定部2に固定されたワーク11の印刷対象面を撮像した画像を生成するカメラ6を備えていれば容易に実施できる。このようにインク粘度を取得するための専用のハードウェア構成(例えば、インクの液滴27の吐出速度を得るために発光素子と受光素子や、インクタンク内の粘度を測定する粘度センサー)を設ける必要がないので、それにより装置が大型化したり、コストが増加したりする問題が生じない。また、前記粘度センサーはインクタンクが無いインクカートリッジ式には適用できないが、本発明にはそのような制限がない。そして、インクの粘度が変化した場合には、インクの着弾位置がずれる(印刷位置精度が悪くなる)ので、インクを射出するタイミングを再調整することで印刷位置精度を回復することに利用が可能である。
【0067】
次に、本発明を具体化した第二実施形態について説明する。この実施形態は、以下に示す点において、主に第一実施形態と相違している。従って、同実施形態と共通する部分については、同一符号を付することにより重複説明を省く。
【0068】
本例では、ワーク11及びノズル4aの間の相対的な特定の物理的条件として、印刷高さHを用い、互いに異なる高さH1及びH2について、それぞれオフセットx1及びx2を取得する。
【0069】
本例のインク射出速度算出処理(ステップS102)におけるインク射出速度の計算方法について説明する。インクの射出速度を厳密に計算するためには、空気抵抗等を考慮する必要があるが、実印刷時の印刷高さは数ミリm程度、実験でも1.3mmと微小距離のため、計算を簡易化するために空気抵抗等は無視して考える。本実施形態では、インクの液滴27の運動を等速度運動として計算する方法についてのみ説明し、落下運動として計算する方法については説明を省略する。
【0070】
図8に示すように、インクジェットヘッドのノズル面とワークの距離(=印刷高さ)をH(mm)、インクの射出速度をV0(m/sec)、インクの液滴27がワークに着弾するまでの時間をt(sec)とすると、近似的に次の式(8)が成立する。
【0071】
【数11】
【0072】
また、印字速度S(m/sec)でインクがワークに着弾するまでのXY方向の距離であるオフセットxは、次式(9)で表される。
【0073】
【数12】
【0074】
式(9)のtに式(8)を代入すると、次式が得られる。
【0075】
【数13】
【0076】
上記より、(a)印字高さH1で移動する距離であるオフセットをx1、(b)印字高さH2で移動する距離であるオフセットをx2とすると、(a)と(b)の差Dは、次式(10)で表される。
【0077】
【数14】
【0078】
式(10)より、V0は次式のように表される。
【0079】
【数15】
【0080】
この式において、S、H1及びH2は既知(印刷設定で指定)であるので、測定により得たx1及びx2を用いることで、上式からインク射出速度算出処理(ステップS102)は、インクの射出速度V0を算出する。
【0081】
本例のインクの粘度変化検出方法及びインクジェット印刷装置1によっても、第一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0082】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)印刷対象のワーク11として、プリント配線板等の基板以外の物体を用いること。
(2)インクジェットヘッド4におけるノズル4aの配置パターンとして、前記実施形態とは異なるパターンのものを用いること。
(3)カメラ6を装置本体1aに支持させることにより、固定部2の上方における所定位置に固定的に設けるようにすること。
【符号の説明】
【0083】
1 インクジェット印刷装置
1a 装置本体
2 固定部
3 移動機構
3a X軸移動機構
3b Y軸移動機構
3c Z軸移動機構
4 インクジェットヘッド
4a ノズル
5 硬化部
6 カメラ
7 制御部
8 載置台
11 ワーク
12 X軸移動体
14 Z軸移動体
16 X軸ボールネジ
17 Y軸ボールネジ
18 X軸リニアガイド
19 Y軸リニアガイド
20 X軸モータ
21 Y軸モータ
24 画像
25 印刷パターン
25a 印刷パターンの基準点
26 画面
26a ガイドライン
27 インクの液滴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12