(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002035
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】踵用貼付材
(51)【国際特許分類】
A61F 13/02 20240101AFI20241226BHJP
A61F 13/0246 20240101ALI20241226BHJP
A61F 13/06 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
A61F13/02 310D
A61F13/02 350
A61F13/02 310T
A61F13/02 380
A61F13/02 310J
A61F13/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101942
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】591069570
【氏名又は名称】東洋化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】森 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】窪田 大亮
(57)【要約】
【課題】踵に生じたひび割れを含む創傷に起因する痛みを軽減することができ、しかも薄く半透明なストッキング等を穿いても目立ちにくい踵用貼付材を提供する。
【解決手段】踵に生じた創傷を覆うように貼付する踵用貼付材1であって、単層フィルムから構成される基材31と、基材31の片面に形成される粘着層32とを有する基布3を備え、当該基布3のJIS Z 0237に準拠して測定される10%引張荷重(W)が1.5N/20mm以上であるものとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
踵に生じた創傷を覆うように貼付する踵用貼付材であって、
単層フィルムから構成される基材と、前記基材の片面に形成される粘着層とを有する基布を備え、当該基布のJIS Z 0237に準拠して測定される10%引張荷重(W)が1.5N/20mm以上である踵用貼付材。
【請求項2】
前記基布のJIS Z 0237に準拠して測定される10%引張荷重(W)が5.0N/20mm以下である請求項1に記載の踵用貼付材。
【請求項3】
前記基布の厚さが当該基布の縁部において300μm以下である請求項1又は2に記載の踵用貼付材。
【請求項4】
前記基材における他の片面は、JIS P 8147に準拠して測定される動摩擦係数が1.0以下である請求項1又は2に記載の踵用貼付材。
【請求項5】
前記粘着層は、JIS Z 0237に準拠して測定されるSUS304鋼板に対する粘着力(F)が2.0~15.0N/20mmである請求項1又は2に記載の踵用貼付材。
【請求項6】
前記10%引張荷重(W)と前記粘着力(F)との比率(W/F)が0.1~2.5である請求項5に記載の踵用貼付材。
【請求項7】
前記基布は、
踵を部分的に被覆可能な踵被覆部と、
踵周縁を部分的に被覆可能な踵周縁被覆部と、
前記踵周縁の上方を部分的に被覆可能な摘み状被覆部とを有し、
少なくとも前記踵周縁被覆部の両側部が円弧状に括れた形状に形成される請求項1又は2に記載の踵用貼付材。
【請求項8】
前記基布全体の面積が200~1600mm2である請求項1又は2に記載の踵用貼付材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、踵に生じた創傷を覆うように貼付する踵用貼付材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、踵や踝、膝、肘、手等の皮膚は、角質化しやすい。特に、冬季には、乾燥により皮膚の柔軟性が失われるので、角質化した部分の厚肉化が進み、ひび割れやあかぎれ(以下、単に「ひび割れ」と称する。)が生じやすい。このようなひび割れは、特に角質化しやすい踵に生じることが多い。踵に生じたひび割れは、自然治癒力によって塞がろうとしても、起立時や歩行時に大きな負荷が作用するため、拡開されてなかなか塞がらず、強い痛みを感じるとともに、悪化の一途をたどることがある。
【0003】
踵に生じたひび割れに対する対策として、踵用貼付材が用いられている(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【0004】
特許文献1には、踵を覆う形状に形成された伸縮性を有する基布を備え、この基布の内面に創傷治癒促進剤の層を設けた踵用貼付材が開示されている。
【0005】
特許文献2には、踵及びその周辺部を広く覆う大きさに形成された非通気性のラテックスシートを備え、このラテックスシートの裏面に、当該ラテックスシートよりも一回り大きい粘着シートを貼り付けることで、ラテックスシートの回りに粘着部を設け、この粘着部を皮膚に粘着して踵及びその周辺部を密閉し、踵を確実に保湿できるようにした踵用貼付材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-141929号公報
【特許文献2】特開2000-24026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の踵用貼付材では、基布が踵を覆うように立体的形状に形成されてはいるものの、使用者の足の形状、サイズ等によっては基布が踵にフィットしにくく、隙間が生じてしまうため、踵に大きな負荷が作用したときに、ひび割れが拡開されるのを防ぐことができない。一方、特許文献2の踵用貼付材では、ラテックスシートの回りに設けられた粘着部は皮膚に粘着しているものの、ラテックスシート自体は踵に粘着していないため、踵に大きな負荷が作用したときに、ひび割れが拡開されるのを防ぐことができない。このように、特許文献1及び2の何れの踵用貼付材でも、起立時や歩行時に大きな負荷が作用すると、ひび割れが拡開されてしまうことに変わりはなく、痛みを軽減することができず、ひび割れが生じた後の対策として用いるには未だ満足のいくものではなかった。
【0008】
ところで、特に女性は、踵に貼り付けられた踵用貼付材が目立つことを嫌悪する傾向があり、薄く半透明なストッキングを穿く場合、その傾向がより顕著に現れる。従って、特に女性において、薄く半透明なストッキング等を穿いても目立ちにくい踵用貼付材が望まれている。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、踵に生じたひび割れを含む創傷に起因する痛みを軽減することができ、しかも薄く半透明なストッキング等を穿いても目立ちにくい踵用貼付材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る踵用貼付材の特徴構成は、
踵に生じた創傷を覆うように貼付する踵用貼付材であって、
単層フィルムから構成される基材と、前記基材の片面に形成される粘着層とを有する基布を備え、当該基布のJIS Z 0237に準拠して測定される10%引張荷重(W)が1.5N/20mm以上であることにある。
【0011】
本構成の踵用貼付材によれば、JIS Z 0237に準拠して測定される10%引張荷重(W)が1.5N/20mm以上である基布が、踵に生じた創傷を覆うようにその周辺の皮膚に粘着層を介して貼付されると、起立時や歩行時に大きな負荷が作用して創傷周辺の皮膚が伸びようとしても、その伸びようとする皮膚の動きが基布によって規制される。これにより、創傷が開かない状態に保つことができる。従って、踵に生じたひび割れを含む創傷に起因する痛みを軽減することができる。また、本構成の踵用貼付材においては、基布の主たる構成材である基材が単層フィルムから構成されるので、基布の薄肉化を容易に図ることができ、薄く半透明なストッキング等を穿いても目立ちにくくすることができる。
【0012】
本発明に係る踵用貼付材において、
前記基布のJIS Z 0237に準拠して測定される10%引張荷重(W)が5.0N/20mm以下であることが好ましい。
【0013】
本構成の踵用貼付材によれば、基布のJIS Z 0237に準拠して測定される10%引張荷重(W)が5.0N/20mm以下であるので、創傷が開かない状態に保ちつつ、創傷周辺の皮膚の微妙な表面変形に追従することができる。従って、創傷に起因する痛みを軽減しつつ、違和感なく長時間に亘って貼付状態を保つことができる。
【0014】
本発明に係る踵用貼付材において、
前記基布の厚さが当該基布の縁部において300μm以下であることが好ましい。
【0015】
基布の厚さが大きすぎると、当該基布の縁部における皮膚に対する物理的な高さが増してしまい、ストッキングを含む靴下等と擦れた際に引っ掛かって捲れやすくなる。そこで、本構成の踵用貼付材においては、基布の厚さが当該基布の縁部において300μm以下に設定される。こうして、基布縁部の厚さの上限が適切な値に設定されることにより、靴下等と擦れたとしても捲れにくくなり、創傷が生じた部分(創傷部)を安定的に保護することができる。
【0016】
本発明に係る踵用貼付材において、
前記基材における他の片面は、JIS P 8147に準拠して測定される動摩擦係数が1.0以下であることが好ましい。
【0017】
本構成の踵用貼付材によれば、基材における他の片面、すなわち皮膚に粘着される粘着層が設けられる面とは反対側で踵に貼付された際に外側に現れる面のJIS P 8147に準拠して測定される動摩擦係数が1.0以下に設定されるので、滑りやすさを確保することができる。これにより、靴下やストッキング等と擦れた際の動摩擦力が軽減され、靴下等と擦れたとしても捲れにくくなり、創傷部を安定的に保護することができるとともに、ストッキングの伝線を効果的に防ぐことができる。
【0018】
本発明に係る踵用貼付材において、
前記粘着層は、JIS Z 0237に準拠して測定されるSUS304鋼板に対する粘着力(F)が2.0~15.0N/20mmであることが好ましい。
【0019】
本構成の踵用貼付材によれば、JIS Z 0237に準拠して測定されるSUS304鋼板に対する粘着力(F)が2.0~15.0N/20mmであるので、起立時や歩行時に大きな負荷が作用しても、創傷が開かないように皮膚への貼付状態を安定的に保つ上で必要とされる貼着力が確保されるとともに、意図して皮膚から基布を取り除くことができる。
【0020】
本発明に係る踵用貼付材において、
前記10%引張荷重(W)と前記粘着力(F)との比率(W/F)が0.1~2.5であることが好ましい。
【0021】
本構成の踵用貼付材において、10%引張荷重(W)は、皮膚の動きを規制する非伸縮性に関係し、粘着力(F)は、主に皮膚に対する剥離性に関係する。起立時や歩行時に大きな負荷が作用して創傷周辺の皮膚が伸びようとした際の皮膚の動きを規制して創傷が開かない状態に保つ一方で、意図して皮膚から取り除く際に皮膚に痛みを与えることなく容易に剥離するためには、10%引張荷重(W)と粘着力(F)とのバランスが極めて重要となる。そこで、踵用貼付材において、皮膚の動きを規制する非伸縮性と皮膚に対する剥離性とを両立させ、取り扱いを容易なものとするために、本構成の貼付材においては、10%引張荷重(W)と粘着力(F)との比率(W/F)が0.1~2.5に設定される。このような範囲であれば、起立時や歩行時においても皮膚の動きを規制して創傷が開かない状態に安定的に保つことができるとともに、皮膚から取り除く際に、断裂することなく容易に剥離させることができる。
【0022】
本発明に係る踵用貼付材において、
前記基布は、
踵を部分的に被覆可能な踵被覆部と、
踵周縁を部分的に被覆可能な踵周縁被覆部と、
前記踵周縁の上方を部分的に被覆可能な摘み状被覆部とを有し、
少なくとも前記踵周縁被覆部の両側部が円弧状に括れた形状に形成されることが好ましい。
【0023】
ひび割れを含む創傷は、踵(足の裏の後部)から、踵周縁(踵と足の周面との境界部)に亘って生じることが多い。本構成の踵用貼付材によれば、踵を部分的に被覆可能な踵被覆部と踵周縁を部分的に被覆可能な踵周縁被覆部とを有しているので、踵や踵周縁における創傷部をピンポイントで覆うことができる。こうして、創傷部の周りの余計に広い部分まで覆うことなく、可及的に小さい面積で創傷部を覆うことができるので、経済的であり、且つ貼った後の見栄えも良いという利点がある。また、本構成の踵用貼付材が貼付された状態では、踵被覆部は踵を部分的に被覆し、踵周縁被覆部は踵周縁を部分的に被覆しており、これら踵被覆部及び踵周縁被覆部は外部から見えにくくアクセスしにくいのに対し、摘み状被覆部は踵周縁の上方を部分的に被覆しており、外部から見えやすくアクセスしやすい。このため、摘み状被覆部を摘まんで引き剥がすことにより、踵用貼付材を容易に取り外すことができる。ところで、起立時や歩行時においては、踵の皮膚の表面変形よりも踵周縁の皮膚の表面変形の方が大きい。そこで、本構成の踵用貼付材においては、少なくとも踵周縁被覆部の両側部が円弧状に括れた形状に形成される。これにより、踵周縁の皮膚の表面変形に追従することができ、皮膚から踵周縁被覆部が剥がれるのを未然に防ぐことができる。
【0024】
本発明に係る踵用貼付材において、
前記基布全体の面積が200~1600mm2であることが好ましい。
【0025】
本構成の踵用貼付材によれば、基布全体の面積が200~1600mm2の範囲であれば、創傷部の周りの余計に広い部分まで覆うことなく、創傷部をピンポイントで覆うことができるので、機能性と経済性とを両立させることができるとともに、薄肉化と相俟ってより目立ちにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図4】
図4は、基布の積層構造を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、踵用貼付材の使用方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることは意図しない。なお、
図4及び5において、本発明の踵用貼付材1を構成する基布3は複数の層で構成されていることが示されているが、各層の厚み関係は適宜誇張しており、実際の基布における各層の厚みの大小関係(縮尺)を厳密に反映したものではない。
【0028】
<全体構成>
図1は、踵用貼付材1の説明図である。
図1(a)は、基布3の全体外観斜視図である。
図1(b)は、基布3に剥離シート5を貼付した状態図であり、本実施形態の踵用貼付材1の全体外観斜視図である。
【0029】
踵用貼付材1は、
図1(a)に示すような基布3を備えている。また、踵用貼付材1は、さらに任意の構成として、
図1(b)に示すような剥離シート5を備えている。
【0030】
<基布>
図2は、基布3の六面図である。
図2(a)は正面図、
図2(b)は背面図、
図2(c)は平面図、
図2(d)は底面図、
図2(e)は右側面図、
図2(f)は左側面図である。
図2(a)に示すように、基布3は、踵を部分的に被覆可能な踵被覆部11と、踵周縁を部分的に被覆可能な踵周縁被覆部12と、踵周縁の上方を部分的に被覆可能な摘み状被覆部13とを有している。基布3においては、踵被覆部11における下部から中間部に亘る部分が略半楕円状に形成され、摘み状被覆部13の上縁が凸円弧状に形成されている。また、基布3においては、踵被覆部11の上部から踵周縁被覆部12及び摘み状被覆部13の下半部分に亘ってその両側部が円弧状に括れた形状に形成されている。なお、起立時や歩行時においては、踵の皮膚の表面変形や、踵周縁の上方の皮膚の表面変形よりも、踵周縁の皮膚の表面変形の方が大きいため、少なくとも踵周縁被覆部12の両側部が円弧状に括れた形状に形成されていればよい。
【0031】
<剥離シート>
図3は、剥離シート5を貼付した状態の基布3の六面図、すなわち本実施形態の踵用貼付材1の六面図である。
図3(a)は正面図、
図3(b)は背面図、
図3(c)は平面図、
図3(d)は底面図、
図3(e)は右側面図、
図3(f)は左側面図である。
図3(a)及び(b)に示すように、剥離シート5は、基布3における後述する粘着層32を被覆・保護するために、使用時に粘着層32から剥離可能に粘着層32の表面に貼付されている。剥離シート5は、1枚で構成されてもよいが、踵への仮貼付及びその後の本貼付の操作性の観点から、例えば、2つに分割された第一剥離シート片21と第二剥離シート片22とにより構成されることが好ましい。
【0032】
図3(a)に示すように、第一剥離シート片21は、踵被覆部11(
図2(a)参照)の略全体を被覆する第一被覆部21aと、第一被覆部21aと略面一をなすように連設される第一摘み部21bとを有している。一方、第二剥離シート片22は、踵周縁被覆部12及び摘み状被覆部13(
図2(a)参照)を被覆する第二被覆部22aと、第二被覆部22a上に折り返して重ね合わせるように第二被覆部22aに連設される第二摘み部22bとを有している。剥離シート5においては、第二摘み部22bの折返し側端部が外部に露出するように、第一摘み部21bが第二摘み部22b上に重ね合わされている。
【0033】
図4は、基布3の積層構造を模式的に示す断面図である。
図4に示すように、基布3は、基材31と当該基材31の片面31aに形成される粘着層32とを含む。
【0034】
<基材>
基材31は、単層フィルムから構成される。単層フィルムとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等からなるプラスチックフィルムが用いられる。貼付状態において目立たないようにするため、透明又は半透明のプラスチックフィルムを用いることが好ましい。
【0035】
<粘着層>
粘着層32は、基材31の片面31aに粘着剤を薄膜状に塗布することで形成される。粘着剤の種類としては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤等が挙げられる。
【0036】
<10%引張荷重(W)>
基布3は、JIS Z 0237に準拠して測定される10%引張荷重(W)が1.5N/20mm以上である。10%引張荷重(W)が1.5N/20mm以上であれば、創傷が開かない状態に保つことができる。なお、基布3において、粘着層32は、前述したように、粘着剤を薄膜状に塗布して形成されるものであるため、引張強さに殆ど影響がないことから、基布3の引張強さは、実質的に基材31の引張強さのことである。
【0037】
基布3の上記10%引張荷重(W)は、5.0N/20mm以下であることが好ましい。10%引張荷重(W)が5.0N/20mm以下であれば、創傷周辺の皮膚の微妙な表面変形に追従することができ、違和感なく長時間に亘って貼付状態を保つことができる。
【0038】
<10%引張荷重(W)>
図5は、各種測定法の説明図である。
図5(a)は、10%引張荷重(W)の測定法の説明図である。10%引張荷重(W)の測定方法としては、
図5(a)に示すように、踵用の貼付材として実質的に機能する基布3を幅20mm、長さ70mmに切り出してこれを試料50として準備する。次いで、この試料50の両端にチャック挟み代が15mm、チャック間距離が40mmとなるようにチャック(図示せず)を装着し、長さ方向に300mm/minの速度で10%伸長する。この状態で試料50に発生した応力(N)を測定し、試料50の20mm幅当たりの荷重(N/20mm)に換算する。なお、この方法は、JIS Z 0237に準拠した測定法である。
【0039】
<基布の厚さ>
基布3の厚さ(基材31と粘着層32との合計厚さ)は、当該基布の縁部において300μm以下であることが好ましい。基布3の厚さが大きすぎると、当該基布3の縁部における皮膚に対する物理的な高さが増してしまい、靴下やストッキング等と擦れた際に引っ掛かって捲れ易くなる。そこで、基布3の厚さが当該基布3の縁部で300μm以下に設定される。こうして、基布3の縁部における厚さの上限が適切な値に設定されることにより、靴下やストッキング等と擦れたとしても捲れにくくなり、創傷部を安定的に保護することができる。なお、基布3において、中央部分の厚さが相対的に大きく、縁部に向って進むに従って厚さが小さくなることが好ましい。このような構成を採用することにより、実質的に創傷を覆う中央部分の厚さが相対的に大きく、縁部に向って進むに従って厚さが小さくなって靴下やストッキング等と擦れる際に引っ掛かり易い縁部の厚さが相対的に小さくなるので、創傷に対して作用する外部からの衝撃等を確実に緩和することができるとともに、靴下やストッキング等と擦れたとしても捲れにくくなる。
【0040】
<動摩擦係数>
基材31における他の片面31b(
図4参照)は、JIS P 8147に準拠して測定される動摩擦係数が1.0以下であることが好ましい。基材31における他の片面31b、すなわち皮膚に粘着される粘着層32が設けられる片面31aとは反対側で踵に貼付された際に外側に現れる他の片面31bの動摩擦係数が1.0以下に設定されることにより、滑りやすさを確保することができる。これにより、靴下やストッキング等と擦れた際の動摩擦力が軽減され、靴下等と擦れたとしても捲れにくくなり、創傷部を安定的に保護することができるとともに、ストッキングの伝線を効果的に防ぐことができる。
【0041】
なお、基材31における他の片面31bには、必要に応じてコーティング層を設けて、表面の動摩擦係数を低くして滑り性をよくするようにすることができる。具体的には、後述するように、JIS P 8147に基づいて測定したとき、動摩擦係数が1.0以下となるようコーティングするのが好ましい。コーティングの処理剤としては、例えば、顔料、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、又はメジューム等の処理剤を使用し、印刷やスプレー法などによりコーティングするのがよい。処理剤は、平面状に塗布することもできるが、ドット状や線状などにして塗布してもよい。
【0042】
<動摩擦係数の測定法>
図5(b)は、動摩擦係数の測定法の説明図である。動摩擦係数の測定は、例えば、定速伸張引張試験機((株)島津製作所製 EZ Test)を用いて行うことができる。すなわち、
図5(b)に示すように、ポリエステル基布を試料101として、これを定速伸張引張試験機100における試料台102上に固定し、前記試料50と同様の試料50´を、当該試料50´における基材31(
図4参照)の側の面(
図4中符号「31b」で示される面)が試料101の上面に接触するように、試料50´を試料101上に載置し、試料50´における粘着層32(
図4参照)の側の面上に、重さ26.9gのおもり(20mm角の真鍮製の立方体)103を載せ、試料50´に付された引き紐104を、滑車105を経由させてロードセル106に接続する。そして、ロードセル106を介して引き紐104を引張速度100mm/分で引っ張って、試料101上で試料50´を滑らせ、その際に発生する抵抗力(摩擦力)をロードセル106にて計測する。なお、この方法は、JIS P 8147に準拠した測定法である。
【0043】
<粘着力(F)>
粘着層32は、JIS Z 0237に準拠して測定されるSUS304鋼板に対する粘着力(F)が2.0~15.0N/20mmであることが好ましい。粘着力(F)がこの範囲であれば、起立時や歩行時に大きな負荷が作用しても、創傷が開かないように皮膚への貼付状態を安定的に保つ上で必要とされる貼着力が確保されるとともに、意図して皮膚から基布を取り除くことができる。
【0044】
<粘着力(F)>
図5(c)は、粘着力(F)の測定法の説明図である。粘着力(F)の測定方法としては、
図5(c)に示すように、前記試料50と同様の試料50´(ただし、貼り付け前のものとする。)を、当該試料50´における粘着層32を介して表面仕上げがBAのステンレス板Nに貼り付ける。次いで、試料50´を一端側よりステンレス板Nから所定の速度で逆向き(180°方向)に引き剥がし、このとき試料50´に発生した応力(N)を測定し、試料50´の20mm幅当たりの荷重(N/20mm)に換算する。なお、この方法は、JIS Z 0237に準拠した測定法である。
【0045】
<10%引張荷重(W)/粘着力(F)>
踵用貼付材1において、10%引張荷重(W)と粘着力(F)との比率は、0.1~2.5に設定されることが好ましい。踵用貼付材1において、10%引張荷重(W)は、皮膚の動きを規制する非伸縮性に関係し、粘着力(F)は、主に皮膚に対する剥離性に関係する。起立時や歩行時に大きな負荷が作用して創傷周辺の皮膚が伸びようとした際の皮膚の動きを規制して創傷が開かない状態に保つ一方で、意図して皮膚から取り除く際に皮膚に痛みを与えることなく容易に剥離するためには、10%引張荷重(W)と粘着力(F)とのバランスが極めて重要となる。そこで、踵用貼付材において、皮膚の動きを規制する非伸縮性と剥離性とを両立させ、取り扱いを容易なものとするために、本構成の貼付材においては、10%引張荷重(W)と粘着力(F)との比率(W/F)が0.1~2.5に設定される。このような範囲であれば、起立時や歩行時においても皮膚の動きを規制して創傷が開かない状態に安定的に保たれるとともに、皮膚から取り除く際に、断裂することなく容易に剥離させることができる。
【0046】
<基布全体の面積>
踵用貼付材1において、基布3の全体の面積は、200~1600mm2であることが好ましい。このような範囲であれば、創傷部の周りの余計に広い部分まで覆うことなく、創傷部をピンポイントで覆うことができるので、機能性と経済性とを両立させることができるとともに、薄肉化と相俟ってより目立ちにくくすることができる。
【0047】
<踵用貼付材の使用方法>
図6は、踵用貼付材1の使用方法の説明図である。踵用貼付材1を使用する際には、まず、
図6(a)に示すように、第一摘み部21bを摘んで第一剥離シート片21を基布3から剥ぎ取る。次いで、
図6(b)に示すように、踵(K)から踵周縁(Ka)を経て踵周縁上方部分(Kb)に亘って生じた創傷(S)のうち、踵(K)における創傷(S)を覆うように、露出された踵被覆部11の粘着層32(
図4参照)を、創傷(S)の周辺の皮膚に貼り付ける。次いで、
図6(c)~(d)に示すように、第二摘み部22bを摘んで第二被覆部22aを捲りながら、踵周縁被覆部12を踵周縁部(Ka)に貼り付け、続いて摘み状被覆部13を踵周縁上方部分(Kb)の皮膚に貼り付ける。
【0048】
図6(d)に示すように、踵用貼付材1における基布3が、踵(K)に生じた創傷(S)を覆うようにその周辺の皮膚に貼付されると、起立時や歩行時に大きな負荷が作用して創傷(S)の周辺の皮膚が伸びようとしても、その伸びようようとする皮膚の動きが基布3によって規制される。こうして、創傷(S)が開かない状態に保つことができる。従って、踵(K)に生じたひび割れを含む創傷(S)に起因する痛みを軽減することができる。また、本構成の踵用貼付材1においては、基布3の主たる構成材である基材が単層フィルムから構成されるので、基布3の薄肉化を容易に図ることができ、薄く半透明なストッキング等を穿いても目立ちにくいものとなる。
【実施例0049】
以下、本発明の踵用貼付材の実施例について説明する。ただし、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
〔10%引張荷重(W)に関する実施例〕
(実施例1~4、比較例1~3)
性状や性質の異なる4種の単層フィルムに粘着剤を塗工して実施例1~4、比較例1~3の踵用貼付材(本実施形態の基布3に相当)を得た。得られた踵用貼付材を、被験者36名の踵から踵周縁部及び踵周縁上方部に亘って貼り付けて、日常生活を送った時の痛み軽減及び貼付感を評価した。実施例1~4の評価結果を表1に、比較例1~3の評価結果を表2に示す。なお、表1及び2中記号A~Cで示す評価基準は、以下のとおりである。
<評価基準>
A:軽減された。
B:少し軽減された。
C:軽減されなかった。
【0051】
【0052】
【0053】
表1に示すように、実施例1~4の踵用貼付材は、何れもJIS Z 0237に準拠して測定される10%引張荷重(W)が1.5N/20mm以上であった。実施例3及び4の踵用貼付材は、何れも痛み軽減評価が「A」又は「B」であり、非常に良好又は良好な結果を示した。一方、表2に示すように、上記10%引張荷重(W)が1.5N/20mm未満になると(比較例1~3)、痛みが軽減されなかった被験者が現れたことから、痛みを軽減するという課題を解決する上では、10%引張荷重(W)が1.5N/20mm以上であればよいことが分かった。ただし、10%引張荷重(W)が5.0N/20mmを大きく超えると(実施例1)、被験者36名中14名が、貼付感が不快であることを示したことから、貼付感を考慮した場合、10%引張荷重(W)が5.0N/20mm以下、好ましくは4.5N/20mm以下、さらに好ましくは1.7N/20mm以下であることが好ましいことが分かった。
【0054】
〔動摩擦係数に関する実施例〕
図5(b)に示す方法で測定される動摩擦係数が異なる踵用貼付材(本実施形態の基布3に相当)のサンプルを作製し、得られたサンプルを、被験者36名の踵から踵周縁部及び踵周縁上方部に亘って貼り付けて、日常生活を送った時の剥がれが生じた被験者の人数を調べた。その結果を表3に示す。
【0055】
【0056】
上記表3の結果より、動摩擦係数が1.0以下となる本発明の踵用貼付材(本実施形態の基布3に相当)は、剥がれにくい特徴を持つことが分かった。
【0057】
〔粘着力(F)に関する実施例〕
種々の粘着剤を用いて、
図5(c)に示す方法で測定される粘着力(F)が異なる踵用貼付材(本実施形態の基布3に相当)のサンプルを作製し、サンプルを被験者36名の踵及びその周辺の皮膚に、8時間貼付した後の剥がれ状態及び剥がすときの痛みを調べた。その結果を表4に示す。
【0058】
【0059】
粘着力(F)が2.81N/20mmの場合では、5名の剥がれが見られたものの、皮膚への付着性は改善されており、実用レベルに達しているものと判断された。粘着力(F)が3.78N/20mm及び6.43N/20mmの場合では、皮膚への付着性は大幅に改善されており、粘着力(F)が3.78N/20mmの場合において、1名が剥離時の痛みを訴えたものの、実用レベルに到達していると判断されたことから、粘着力(F)が2.81N/20mm~6.43N/20mmであることがより好ましいことが分かった。
【0060】
〔10%引張荷重(W)/粘着力(F)に関する実施例〕
10%引張荷重(W)と上記粘着力(F)との複数の組み合わせについて、その比率(W/F)を求めるとともに、上記と同様の痛み軽減評価及び剥離容易性評価を行った。その結果を表5に示す。なお、剥離容易性に関する表5中記号A~Cで示す評価基準は、以下のとおりである。
<評価基準>
A:皮膚に粘着剤の後残りが確認されず、容易に剥離できた。
B:皮膚に粘着剤の後残りが確認されたが、容易に剥離できた。
C:皮膚に粘着剤の後残りが確認され、しかも一部が断裂した。
【0061】
【0062】
表5に示すように、上記10%引張荷重(W)と上記粘着力(F)との比率(W/F)が0.22~4.14の範囲であれば、起立時や歩行時においても皮膚の動きを規制して創傷が開かない状態に安定的に保って痛みを軽減することができるとともに、皮膚から取り除く際に、断裂することなく容易に剥離させることができることが分かった。
【0063】
以上、本発明の踵用貼付材について、実施形態及び実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態や実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
本発明の踵用貼付材は、踵に生じた創傷を保護し、痛みを軽減する用途において利用可能であるが、踵以外の部位(例えば、踝、膝、肘、手、関節等)において利用することも可能である。
前記粘着層は、JIS Z 0237に準拠して測定されるSUS304鋼板に対する粘着力(F)が2.0~15.0N/20mmである請求項1又は2に記載の踵用貼付材。