(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020385
(43)【公開日】2025-02-12
(54)【発明の名称】オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症の治療用アデノ随伴ウイルスビリオン
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20250204BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20250204BHJP
C12N 15/35 20060101ALI20250204BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250204BHJP
A61K 38/43 20060101ALI20250204BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20250204BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20250204BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20250204BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N9/10
C12N15/35
A61K48/00
A61K38/43
A61K35/76
A61P3/00
C12N15/52 Z ZNA
C12N15/52 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024198105
(22)【出願日】2024-11-13
(62)【分割の表示】P 2019230560の分割
【原出願日】2019-12-20
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】516017455
【氏名又は名称】株式会社遺伝子治療研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(72)【発明者】
【氏名】村松 慎一
(72)【発明者】
【氏名】滝野 直美
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 美加
(72)【発明者】
【氏名】山形 崇倫
(72)【発明者】
【氏名】村松 一洋
(57)【要約】
【課題】オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症に対する新規治療手段の提供。
【解決手段】本出願は、オルニチントランスカルバミラーゼを発現し、血中の中和抗体か
らの攻撃を低減させて、生体(例えば、ヒト)の肝臓に効率よく遺伝子導入する改変型ア
デノ随伴ウイルスベクターを提供する。本出願は、オルニチントランスカルバミラーゼを
発現する、VP1タンパク質のアミノ酸配列において472番目、587番目及び706番目のうちの
少なくとも1つが他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列などを含む改変型VP1タンパク
質を含み、AAV2に対する中和抗体と交差反応しない、改変型アデノ随伴ウイルスベクター
などを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2または3のアミノ酸配列において、472番目のセリン、587番目のセリン、及
び706番目のアスパラギンのうちの少なくとも1つが他のアミノ酸で置換されたアミノ酸
配列、または前記置換されたアミノ酸配列に対して、472番目、587番目及び706番目の残
基の他に1~6個の残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含む
キャプシドタンパク質、ならびに
配列番号11のアミノ酸配列、または配列番号11のアミノ酸配列に対して90%以上
の同一性を有するアミノ酸配列を含み、オルニチントランスカルバミラーゼ活性を有する
タンパク質をコードするポリヌクレオチド
を含むアデノ随伴ウイルスベクターであって、少なくとも2型AAVに対する中和抗体と交
差反応しない、アデノ随伴ウイルスベクター。
【請求項2】
前記472番目のセリン、587番目のセリンおよび706番目のアスパラギンが、それぞれ、
グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、トレオニンおよびイソロイシンからなる群から
選択されるアミノ酸で置換されたアミノ酸配列を有するキャプシドタンパク質を含む、請
求項1に記載のアデノ随伴ウイルスベクター。
【請求項3】
前記472番目のセリン、587番目のセリンおよび706番目のアスパラギンのうちの少なく
とも1つがアラニンに置換されたアミノ酸配列を有するキャプシドタンパク質を含む、請
求項1に記載のアデノ随伴ウイルスベクター。
【請求項4】
前記キャプシドタンパク質が、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質を
含む、請求項1に記載のアデノ随伴ウイルスベクター。
【請求項5】
前記中和抗体が、AAV3またはAAV8とは異なる型のアデノ随伴ウイルスに対する抗体であ
る、請求項1に記載のアデノ随伴ウイルスベクター。
【請求項6】
前記中和抗体が、AAV2に対する抗体である、請求項1に記載のアデノ随伴ウイルスベク
ター。
【請求項7】
肝臓細胞特異的プロモーター配列を含むウイルスゲノムを有する、請求項1に記載のア
デノ随伴ウイルスベクター。
【請求項8】
前記肝臓細胞特異的プロモーター配列が、ApoEプロモーター、アンチトリプシンプロモ
ーター、cKitプロモーター、肝臓特異的転写因子(HNF-1、HNF-2、HNF-3、HNF-6、C/ERP
、DBP)のプロモーター、アルブミンプロモーター、サイロキシン結合グロブリン(TBG)の
プロモーター、およびHCRhAATプロモーターからなる群から選択されるプロモーター、ま
たはこれらプロモーターと90%以上の相同性を有するポリヌクレオチド配列を含み肝臓特
異的に機能するプロモーターを含む、請求項1に記載のアデノ随伴ウイルスベクター。
【請求項9】
配列番号2または3に記載のアミノ酸配列において、472番目のセリン、587番目のセリ
ン、及び706番目のアスパラギンのうちの少なくとも1つが他のアミノ酸で置換されたア
ミノ酸配列、または前記置換されたアミン酸配列に対して、472番目、587番目及び706番
目の残基の他に1~6個の残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
を含むキャプシドタンパク質、ならびに
配列番号11のアミノ酸配列、または配列番号11のアミノ酸配列に対して90%以上
の同一性を有するアミノ酸配列を含み、オルニチントランスカルバミラーゼ活性を有する
タンパク質をコードするポリヌクレオチド
を含む、アデノ随伴ウイルスベクター。
【請求項10】
配列番号2または3に記載のアミノ酸配列において、472番目のセリン、587番目のセリ
ンおよび706番目のアスパラギンのうちの少なくとも1つが他のアミノ酸で置換されたア
ミノ酸配列であって、他の残基位置において1~6個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入ま
たは付加されたアミノ酸配列、
前記472番目のセリン、587番目のセリンおよび706番目のアスパラギンが、それぞれ、
グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、トレオニンおよびイソロイシンからなる群から
選択されるアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、
前記472番目のセリン、587番目のセリンおよび706番目のアスパラギンのうちの少なく
とも1つがアラニンに置換されたアミノ酸配列、または
配列番号4に記載のアミノ酸配列
のうちのいずれか1つの配列をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載のアデノ随伴ウイルスベクターを含む、生体の肝臓
への遺伝子導入のための医薬組成物。
【請求項12】
前記生体がヒトである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症の治療のための請求項11または12に記載
の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素サイクル異常症の治療のための、血清中の中和抗体の影響を受けにくい
組換えアデノ随伴ウイルス(recombinant adeno-associated virus: rAAV)ベクターに関
する。より詳細には、本発明は、組換えオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)を発
現可能であり、生体の血清中の中和抗体との交差反応性が低減しており、生体(例えば、
ヒト)の肝臓により高効率の遺伝子導入を可能とする改変型rAAV、およびこのrAAVを含む
医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)は、アンモニアの代謝に関わる尿素サイク
ルの酵素で、その欠損症は、X染色体にあるOTC遺伝子の機能喪失型変異に起因する。OTC
欠損症は尿素サイクル異常症の中では最も頻度が高い。X連鎖性遺伝性疾患であるが、女
性でも様々な症候を呈する。異化の亢進(発熱、絶食など)、蛋白質の過剰摂取などによ
って高アンモニア血症を生じる。臨床症状は嘔吐、哺乳力低下、多呼吸、けいれん、意識
障害、行動異常、発達障害などがみられる。男児では新生児発症が多く、致死的になるこ
ともある。女児では肝機能障害を契機に発見されることがある。生涯にわたり、低蛋白食
事療法、残余窒素排泄促進剤や塩酸アルギニンの投与が必要となる。また、急性期には血
液浄化療法が必要で、高アンモニア発作を繰り返すときには生体肝移植の適応となる。治
療を開始しても中枢神経系への影響は必須であり、それに伴う知的障害によって社会的に
自立できない生活を余儀なくされることが多い。以上の背景からも有効な治療法開発が喫
緊の課題である(非特許文献1)。
【0003】
アデノ随伴ウイルス(AAV)を応用した遺伝子導入用ベクターは、神経細胞、肝細胞(肝
実質細胞)、網膜細胞、筋肉細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、脂肪細胞などの体内の細胞
に遺伝子を導入し、長期間発現させることができる(特許文献1~3)。そのため、血友
病、網膜色素変性症、パーキンソン病などの遺伝子治療用ベクターとして臨床応用が進ん
でいる(非特許文献2、3)。さらに、最近では遺伝子編集におけるsgRNAとCAS9蛋白質の
遺伝子を導入するためのベクターとして頻用されている(特許文献3、非特許文献4)。血
友病に対しては、第VIII因子またはIX因子を発現するAAVベクターを肝細胞に導入する遺
伝子治療で有望な結果が報告されている(特許文献4、非特許文献5、6)。
【0004】
上記のOTC欠損症の遺伝子治療ではヒト肝臓を標的臓器として、8型アデノ随伴ウイルス
(AAV8)ベクターが応用されている(非特許文献7)。しかし、AAV8ベクターは、マウス
の肝臓へ遺伝子導入効率は高いが、ヒト肝臓への遺伝子導入効率は低い。また、ヒト肝細
胞への遺伝子導入効率がAAV8より優れているとされるAAV3Bでは、成人の80%以上が持つA
AV2に対する中和抗体と交差反応するため(非特許文献8~10)、多くの患者で効果が期
待できない。また、中和抗体を持つため遺伝子治療の対象外であった患者に遺伝子治療を
行うこと、1回目の遺伝子治療で十分な効果が得られなかった患者に再度遺伝子治療を行
うこと等が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/124724号
【特許文献2】国際公開第2012/057363号
【特許文献3】国際公開第2018/131551号
【特許文献4】特表2016-525356
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nakamura K, et al., Pediatr Int. ;56(4):506-9, 2014
【非特許文献2】Dunber CE, et al., Science 359: eaan4672, 2018.
【非特許文献3】Hastie E, Samulski RJ, Hum Gene Ther 26: 257-265, 2015.
【非特許文献4】Ohmori T, et al., Sci Rep 7: 4159, 2017.
【非特許文献5】George LA, et al., N Engl J Med 377: 2215-2227,2017.
【非特許文献6】Rangarajan S, et al., N Engl J Med 377: 2519-2530, 2017.
【非特許文献7】Wang L., et al., Gene Therapy (2012) 19, 404-410
【非特許文献8】Mimuro J, et al., J Med Virol 86: 1990-1997, 2014.
【非特許文献9】Ling C, et al., J Integr Med 13: 341-346, 2015.
【非特許文献10】Meliani A, et al., Hum Gene Ther Methods 26: 45-53, 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、AAV2等に対する血清中の中和抗体に対する交差反応性が低減しており、肝細胞
に対する遺伝子導入効率が高いAAVベクター、例えばAAV3BやAAV8に由来する新規のAAVベ
クターによって肝臓細胞のゲノム障害に起因する疾患(例えばオルニチントランスカルバ
ミラーゼ欠損症)に対する治療手段の確立が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、オルニチントランスカルバミラーゼを発
現する、血清中の中和抗体(AAV2中和抗体など)に対する交差反応性が低減した改変型AA
Vベクターを創出して、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、オルニチントランスカルバミラーゼを発現する、血清中の中和抗
体に対する交差反応性が低減しており、肝細胞に対する遺伝子導入効率が高いAAVベクタ
ー、例えば肝細胞を標的とする遺伝子治療のための組換えアデノ随伴ウイルスベクター、
それを含む医薬組成物など、以下に例示する発明を提供する。
[1] 配列番号2または3のアミノ酸配列において、472番目のセリン、587番目のセリ
ン、及び706番目のアスパラギンのうちの少なくとも1つが他のアミノ酸で置換されたア
ミノ酸配列、または前記置換されたアミノ酸配列に対して、472番目、587番目及び706番
目の残基の他に1~6個の残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
を含むキャプシドタンパク質、ならびに
配列番号11のアミノ酸配列、または配列番号11のアミノ酸配列に対して90%以上
の同一性を有するアミノ酸配列を含み、オルニチントランスカルバミラーゼ活性を有する
タンパク質をコードするポリヌクレオチド
を含むアデノ随伴ウイルスベクターであって、少なくとも2型AAVに対する中和抗体と交
差反応しない、アデノ随伴ウイルスベクター。
[2] 前記472番目のセリン、587番目のセリンおよび706番目のアスパラギンが、それ
ぞれ、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、トレオニンおよびイソロイシンからなる
群から選択されるアミノ酸で置換されたアミノ酸配列を有するキャプシドタンパク質を含
む、上記[1]に記載のアデノ随伴ウイルスベクター。
[3] 前記472番目のセリン、587番目のセリンおよび706番目のアスパラギンのうちの
少なくとも1つがアラニンに置換されたアミノ酸配列を有するキャプシドタンパク質を含
む、上記[1]に記載のアデノ随伴ウイルスベクター。
[4] 前記キャプシドタンパク質が、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するタンパ
ク質を含む、上記[1]に記載のアデノ随伴ウイルスベクター。
[5] 前記中和抗体が、AAV3(例えばAAV3B)またはAAV8とは異なる型のアデノ随伴ウイ
ルスに対する抗体である、上記[1]に記載のアデノ随伴ウイルスベクター。
[6] 前記中和抗体が、AAV2に対する抗体である、上記[1]に記載のアデノ随伴ウイ
ルスベクター。
[7] 肝臓細胞特異的プロモーター配列を含むウイルスゲノムを有する、上記[1]に
記載のアデノ随伴ウイルスベクター。
[8] 前記肝臓細胞特異的プロモーター配列が、ApoEプロモーター、アンチトリプシ
ンプロモーター、cKitプロモーター、肝臓特異的転写因子(HNF-1、HNF-2、HNF-3、HNF-6
、C/ERP、DBP)のプロモーター、アルブミンプロモーター、サイロキシン結合グロブリン
(TBG)のプロモーター、およびHCRhAATプロモーターからなる群から選択されるプロモータ
ー、またはこれらプロモーターと90%以上の相同性を有するポリヌクレオチド配列を含み
、肝臓特異的に機能するプロモーターを含む、上記[1]に記載のアデノ随伴ウイルスベ
クター。
[9] 配列番号2または3に記載のアミノ酸配列において、472番目のセリン、587番目
のセリン、及び706番目のアスパラギンのうちの少なくとも1つが他のアミノ酸で置換さ
れたアミノ酸配列、または前記置換されたアミン酸配列に対して、472番目、587番目及び
706番目の残基の他に1~6個の残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ
酸配列を含むキャプシドタンパク質、ならびに
配列番号11のアミノ酸配列、または配列番号11のアミノ酸配列に対して90%以上
の同一性を有するアミノ酸配列を含み、オルニチントランスカルバミラーゼ活性を有する
タンパク質をコードするポリヌクレオチド
を含む、アデノ随伴ウイルスベクター。
[10] 配列番号2または3に記載のアミノ酸配列において、472番目のセリン、587番
目のセリンおよび706番目のアスパラギンのうちの少なくとも1つが他のアミノ酸で置換
されたアミノ酸配列であって、他の残基位置において1~6個のアミノ酸残基が欠失、置換
、挿入または付加されたアミノ酸配列、
前記472番目のセリン、587番目のセリンおよび706番目のアスパラギンが、それぞれ、
グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、トレオニンおよびイソロイシンからなる群から
選択されるアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、
前記472番目のセリン、587番目のセリンおよび706番目のアスパラギンのうちの少なく
とも1つがアラニンに置換されたアミノ酸配列、または
配列番号4に記載のアミノ酸配列
のうちのいずれか1つの配列をコードする、ポリヌクレオチド。
[11] 上記[1]~[9]のいずれか1項に記載のアデノ随伴ウイルスベクターを含
む、生体の肝臓への遺伝子導入のための医薬組成物。
[12] 前記生体がヒトである、上記[11]に記載の医薬組成物。
[13] オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症の治療のための上記[11]または
[12]に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、組換えオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)を発現し、AAV2等に対す
る中和抗体に対する交差反応性が低減しており、肝細胞に対する遺伝子導入効率が高いAA
Vベクター、例えばAAV3BやAAV8に由来するAAVベクターを提供する。さらに、本発明に係
るAAVベクターを用いることにより、元々、中和抗体を持つため遺伝子治療の対象外であ
った患者への遺伝治療や、1回目の遺伝子治療で十分な効果が得られなかった患者に再度
遺伝子治療を行うことが可能となる。本願発明のAAVベクターを用いることにより、特に
肝細胞へのオルニチントランスカルバミラーゼ遺伝子導入を向上させることができるので
、特にオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症の治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、AAV3A、AAV3B及びAAV.GT5のVP1タンパク質アミノ酸のアラインメントを示す。
【
図1C】
図1Cは、AAV3A、AAV3B及びAAV.GT5のRepタンパク質アミノ酸配列(各々ARep、BRep、baRepとして示される)のアラインメントを示す。
【
図2A】
図2Aは、AAV.GT5のヒト肝臓由来HepG2細胞におけるGFP発現量を示す。
【
図2C】
図2Cは、AAV.GT5によるヒト肝臓由来HepG2細胞におけるルシフェラーゼ発現量を示す。
【
図3A】
図3Aは、AAV.GT5のヒト肝臓由来PXB細胞におけるGFP発現量を示す。
【
図4A】
図4Aは、AAVに対する中和抗体を含む血清(血清#01)との反応後の各AAVベクターによる、HEK293細胞におけるルシフェラーゼ発現量を比較した結果を示す。
【
図4B】
図4Bは、AAVに対する中和抗体を含む血清(血清#02)との反応後の各AAVベクターによる、HEK293細胞におけるルシフェラーゼ発現量を比較した結果を示す。
【
図4C】
図4Cは、AAVに対する中和抗体を含む血清(血清#03)との反応後の各AAVベクターによる、HEK293細胞におけるルシフェラーゼ発現量を比較した結果を示す。
【
図4D】
図4Dは、AAVに対する中和抗体を含む血清(血清#04)との反応後の各AAVベクターによる、HEK293細胞におけるルシフェラーゼ発現量を比較した結果を示す。
【
図4E】
図4Eは、AAVに対する中和抗体を含む血清(血清#05)との反応後の各AAVベクターによる、HEK293細胞におけるルシフェラーゼ発現量を比較した結果を示す。
【
図4F】
図4Fは、AAVに対する中和抗体を含む血清(血清#06)との反応後の各AAVベクターによる、HEK293細胞におけるルシフェラーゼ発現量を比較した結果を示す。
【
図4G】
図4Gは、AAVに対する中和抗体を含む血清(血清#07)との反応後の各AAVベクターによる、HEK293細胞におけるルシフェラーゼ発現量を比較した結果を示す。
【
図4H】
図4Hは、AAVに対する中和抗体を含む血清(血清#08)との反応後の各AAVベクターによる、HEK293細胞におけるルシフェラーゼ発現量を比較した結果を示す。
【
図4I】
図4Iは、AAVに対する中和抗体を含む血清(血清#09)との反応後の各AAVベクターによる、HEK293細胞におけるルシフェラーゼ発現量を比較した結果を示す。
【
図4J】
図4Jは、AAVに対する中和抗体を含む血清(血清#10)との反応後の各AAVベクターによる、HEK293細胞におけるルシフェラーゼ発現量を比較した結果を示す。
【
図5A】
図5Aは組換えウイルスゲノムAAV.GT5-HCRhAAT promoter-human OTC-WPREの構造を示す。
【
図6】
図6は、マウスPBX細胞における組換えOTCのmRNA発現量を示す。
【
図7】
図7は、マウスPBX細胞における組換えOTCのタンパク質発現量を示す。
【
図8】
図8は、マウスPBX細胞における組換えOTCのタンパク質活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、組換えオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)を発現し、肝臓の細胞へ
の遺伝子導入の効率を向上させる組換えアデノ随伴ウイルスベクター、そのベクターを含
む医薬組成物などを提供する。
【0013】
1.本発明に係る組換えアデノ随伴ウイルスベクターについて
1.1.アデノ随伴ウイルスについて
アデノ随伴ウイルスは、公知の多数の血液型のウイルスを含む。肝細胞(肝実質細胞)
に対して指向性を示すアデノ随伴ウイルスとしては、例えば、2型、3型(3A及び3B
)、8型の血液型のウイルスが挙げられる。本発明において、生体の肝細胞に送達するた
めのベクターとしては、例えば、特許文献1(WO 2008/124724)に記載される種々のアデ
ノ随伴ウイルスベクターを用いることができる。
【0014】
天然のアデノ随伴ウイルスは非病原性ウイルスである。この特徴を利用して、所望の遺
伝子を保持する種々の組換ウイルスベクターが作製されて、遺伝子治療のために利用され
ている(例えば、WO2003/018821、WO2003/053476、WO2007/001010、薬学雑誌126(11)1021
-1028などを参照のこと)。野生型AAVゲノムは、全長が約5kbのヌクレオチド長を有する
一本鎖DNA分子であり、センス鎖またはアンチセンス鎖である。AAVゲノムは、一般に、ゲ
ノムの5'側および3'側の両末端に約145ヌクレオチド長のインバーテッドターミナルリ
ピート(ITR)配列を有する。このITRは、AAVゲノムの複製起点としての機能及びこのゲ
ノムのビリオン内へのパッケージングシグナルとしての機能等の多様な機能を有すること
が知られている(例えば、上記の文献である薬学雑誌 126(11)1021-1028などを参照のこ
と)。ITRに挟まれた野生型AAVゲノムの内部領域(以下、内部領域)は、AAV複製(rep)
遺伝子及びキャプシド(cap)遺伝子を含む。これらrep遺伝子及びcap遺伝子は、それぞ
れ、ウイルスの複製に関与するタンパク質(Rep)、及び正20面体構造の外殻であるウイル
ス粒子を形成するキャプシドタンパク質(例えば、VP1、VP2及びVP3の少なくとも1つ)
をコードする。さらなる詳細については、例えば、Human Gene Therapy, 13, pp.345-354
, 2002、Neuronal Development 45, pp.92-103, 2001、実験医学 20,pp.1296-1300, 2002
、薬学雑誌126(11)1021-1028、Hum Gene Ther,16,541-550, 2005などを参照のこと。
【0015】
本発明のrAAVベクターは、天然のアデノ随伴ウイルス1型(AAV1)、2型(AAV2)、3
型(AAV3A/AAV3B)、4型(AAV4)、5型(AAV5)、6型(AAV6)、7型(AAV7)、8型
(AAV8)、9型(AAV9)、10型(AAV10)、RH10型(AVVrh10;Hu,C.ら、Molecular
Therapy vol. 22 no. 10 oct. 2014, 1792-1802)に由来するベクターであるが、これに
限定されない。これらのアデノ随伴ウイルスゲノムのヌクレオチド配列は公知であり、そ
れぞれ、GenBank登録番号:AF063497.1(AAV1)、AF043303(AAV2)、NC_001729(AAV3)、
NC_001829.1(AAV4)、NC_006152.1(AAV5)、AF028704.1(AAV6)、NC_006260.1(AAV7
)、NC_006261.1(AAV8)、AY530579(AAV9)、AY631965.1 (AAV10)のヌクレオチド配列
を参照できる。
本発明において、特に肝細胞への指向性のために、AAV2、AAV3B(AF028705.1)、AAV8
、またはAAV9に由来するキャプシドタンパク質(VP1、VP2、VP3など)を利用することが
好ましい。これら各キャプシドタンパク質のアミノ酸配列は公知であり、例えば、各AAV
に対応する上記のGenBank登録番号に登録された配列を参照できる。
【0016】
1.2.本発明に係るキャプシドタンパク質について
本発明に用いるrAAVベクターは、変異(改変)されたキャプシドタンパク質を含む。こ
のような変異体キャプシドタンパク質としては、配列番号2または3に記載のアミノ酸配
列において、472番目のセリン、587番目のセリン、及び706番目のアスパラギンのうちの
少なくとも1つ、例えば1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全てが他のアミノ酸
で置換された変異アミノ酸配列を有するキャプシドタンパク質、さらに当該変異アミノ酸
配列に対して472番目、587番目及び706番目以外の他の残基位置において複数のアミノ酸
残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、キャプシドタン
パク質として機能できる変異体タンパク質を含む。これら欠失、置換、挿入および/また
は付加のうち2種以上の組合せを同時に含んでもよい。
また、本発明に用いるrAAVベクターは、配列番号2または3に記載のアミノ酸配列にお
いて、472番目のセリンが、587番目のセリン及び706番目のアスパラギンのうちの少なく
とも1つ、例えば1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全てが、グリシン、アラニ
ン、バリン、ロイシン、トレオニンおよびイソロイシンからなる群から選択されるアミノ
酸で置換されたアミノ酸配列、好ましくはアラニンで置換された配列(例えば配列番号4
のアミノ酸配列)を有するキャプシドタンパク質、さらに当該変異アミノ酸配列に対して
472番目、587番目及び706番目以外の他の残基位置において複数のアミノ酸残基が欠失、
置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含むキャプシドタンパク質を含む。
これら欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上の組合せを同時に含んでもよい。
上記のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入および/または付加の数としては、例えば、1
~74個、1~70個、1~60個、1~50個、1~40個、1~35個、1~30個、1~25個、1~20個、
1~15個、1~14個、1~13個、1~12個、1~11個、1~10個、1~9個(1~数個)、1~8個
、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個または1個の数が挙げられる。上記
アミノ酸残基の欠失、置換、挿入および/または付加の数は、一般的に小さい程好ましい
。
本発明に用いるrAAVベクターの変異体キャプシドタンパク質は、好ましくは、上記配列
番号2~4のいずれかのアミノ酸配列(735~738残基)に対して約90%以上、91%以上、
92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、
99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以
上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつキャプシドタン
パク質として機能できるタンパク質であり得る。
本発明においてキャプシドタンパク質として機能するとは、標的細胞に対する感染能を
有するウイルスベクターを形成可能であるタンパク質を指す。本発明に用いるキャプシド
タンパク質は、単独で又は他のキャプシドタンパク質メンバー(例えば、VP2、VP3など)
と一緒になってウイルスベクターを形成できる。当該ウイルスベクター内には、標的細胞
、例えば肝臓細胞に送達されるための目的の治療用遺伝子などを含むポリヌクレオチドが
パッケージングされる。
好ましくは、変異体キャプシドタンパク質を含むウイルスベクターは、野生型キャプシ
ドタンパク質を含むウイルスベクターと同等以上の感染能を有するものであり、具体的に
は、野生型のウイルスゲノム重量当たりの感染能と比較して、好ましくは50%、60%、70%
、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上で
あることを意味する。感染能の測定には、当該分野において公知の方法、例えばβガラク
トシダーゼ、GFPタンパク質、ルシフェラーゼなどのレポーターを利用したレポーター
アッセイを用いることができる。
【0017】
本発明のタンパク質(ポリペプチド)において相互に置換可能なアミノ酸残基の例を以
下に示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-ア
ミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シ
クロヘキシルアラニン;
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-ア
ミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸;
C群:アスパラギン、グルタミン;
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピ
オン酸;
E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン;
F群:セリン、トレオニン、ホモセリン;
G群:フェニルアラニン、チロシン。
目的のアミノ酸残基置換を含むタンパク質は、通常の遺伝子操作技術、化学合成など、当
業者に公知の手法に従って作製することができる。このような遺伝子操作手順については
、例えば、Molecular Cloning 4th Edition, J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor
Lab. Press. 2012、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987
-2018(ISSN:1934-3647等)などを参照することができる。
【0018】
本発明において用いられるrAAVウイルスベクターは、内包するゲノム中またはヘルパー
ウイルスのゲノム中に、複製のためのRepタンパク質をコードする遺伝子を含み得る。そ
のようなRepタンパク質は、本発明のrAAVを複製させるために、ITR配列を認識してその配
列に依存してゲノム複製を行う機能、ウイルスベクター内に野生型AAVゲノム(又はrAAV
ゲノム)をパッケージングする機能、本発明のrAAVベクターを形成する機能を、野生型と
同程度に有する限り、好ましくは約90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上
、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3
%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の
同一性を有するアミノ酸配列を有し得る。あるいは、60残基以下、50残基以下、40残基以
下、30残基以下、20残基以下、15残基以下、10残基以下、又は5残基以下のアミノ酸の欠
失、置換、挿入および/または付加を含んでいてもよい。ここで、野生型と同程度に有す
るとは、野生型に対する比活性として50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上であるこ
とを意味する。本発明において、好ましくは、公知のAAV3由来のRepタンパク質、例えばA
AV3A、AAV3BのRepタンパク質、あるいはこれらの融合タンパク質(配列番号8のアミノ酸
配列)などが使用されるがこれらに限定されない。
【0019】
本発明の1実施形態において、上記の野生型AAVゲノムの内部領域にコードされるキャ
プシドタンパク質VP1など(VP1、VP2および/またはVP3)、およびRepタンパク質は、こ
れらタンパク質をコードするポリヌクレオチドがAAVヘルパープラスミドに組込まれて、
本発明のrAAVを得るために用いられる。本発明で用いるキャプシドタンパク質(VP1、VP2
および/またはVP3)、ならびにRepタンパク質は、必要に応じて1種、2種、3種または
それ以上のプラスミドに組込まれていてもよい。場合によって、これらのキャプシドタン
パク質およびRepタンパク質のうちの1種以上がAAVゲノムに含まれてもよい。本発明にお
いて、好ましくは、キャプシドタンパク質(VP1、VP2および/またはVP3)およびRepタン
パク質は全て、1種のポリヌクレオチドにコードされ、AAVヘルパープラスミドとして提
供される。
【0020】
1.3.ウイルスゲノムについて
(1)rAAVウイルスゲノムについて
本発明のrAAVベクター中にパッケージングされるポリヌクレオチド(すなわち、ポリヌ
クレオチド)は、野生型ゲノムの5'側および3'側に位置するITRの間に位置する内部領域
(すなわち、rep遺伝子及びcap遺伝子の一方または両方)のポリヌクレオチドを、目的の
タンパク質をコードするポリヌクレオチド(ゲノム編集手段、及び/又は修復用遺伝子)
およびこのポリヌクレオチドを転写するためのプロモーター配列などを含む遺伝子カセッ
トによって置換することにより作製できる。好ましくは、5'側および3'側に位置するITR
は、それぞれAAVゲノムの5’末端および3’末端に位置する。好ましくは、本発明のrAAV
ゲノムにおいて、5’末端および3’末端に位置するITRは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV6、AAV
8、またはAAV9のゲノムに含まれる5'側ITRおよび3'側ITRを含むが、これら特定のAAVに限
定されない。一般的に、ITR部分は容易に相補配列が入れ替わった配列(flip and flop st
ructure)をとるため、本発明のrAAVゲノムに含まれるITRは、5’と3’の方向が逆転して
いてもよい。本発明のrAAVゲノムにおいて、内部領域と置き換えられるポリヌクレオチド
(すなわち、ゲノム編集手段及び/又は修復用遺伝子)の長さは、元のポリヌクレオチド
の長さと同程度が実用上好ましい。すなわち、本発明のrAAVゲノムは、全長が野生型の全
長である5kbと同程度、例えば約2~6kb、好ましくは約4~6kbであることが好ましい。本
発明のrAAVゲノムに組込まれる治療用遺伝子の長さは、プロモーター、ポリアデニレーシ
ョンなどを含めた転写調節領域の長さ(例えば、約1~1.5kbと仮定する場合)を差し引
くと、好ましくは長さが約0.01~3.7kb、より好ましくは長さが約0.01~2.5kb、さらに好
ましく約0.01~2kbであるが、これに限定されない。さらに、公知のinternal ribosome e
ntry site (IRES)配列、T2A配列等を介在させるなどの公知の手法を用いて、rAAVゲノム
の全長が上記の範囲内である限り、二種類以上の治療用遺伝子を同時に組み込むことが可
能である。本発明のrAAVが二種以上のタンパク質を発現する場合、各々のタンパク質をコ
ードする遺伝子は、同じ方向に配置されても、異なる方向に配置されてもよい。
【0021】
一般的に、組換えアデノ随伴ウイルスベクター内にパッケージングされるポリヌクレオ
チドが一本鎖である場合、目的の遺伝子(治療用遺伝子など)は発現されるまでに時間(
数日)を要し得る。この場合、導入される目的の遺伝子を自己相補性(self-complementa
ry:sc)型となるように設計して、発現までの時間をより短くできる。具体的には、例え
ば、Foust K.D.ら(Nat Biotechnol. 2009 Jan;27(1):59-65)などに記載されている。本発
明のrAAVベクター中にパッケージングされるポリヌクレオチドは、非sc型であってもよい
しsc型であってもよい。好ましくは、本発明のrAAVベクター中にパッケージングされてい
るポリヌクレオチドは非sc型である。
【0022】
本発明に用いるキャプシドタンパク質は、例えば、宿主細胞におけるコドン優先度に基
づき適宜改変されたポリヌクレオチドによってコードされ得る。本発明に用いられる好ま
しいキャプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、例えば、配列番号2~4の
アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列において、1個以上(例えば、1~50個
、1~40個、1~30個、1~25個、1~20個、1~15個、1~10個、1~9個(1~数個)、1~8
個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、1個など)のヌクレオチドの欠
失、置換、挿入および/または付加を有するポリヌクレオチドであって、配列番号2~4
のアミノ酸配列を含むタンパク質、あるいは配列番号2~4のアミノ酸配列において上記
の1個以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列を含みキ
ャプシドタンパク質として機能する(キャプソメアを形成可能である)タンパク質をコー
ドするポリヌクレオチドを含む。これら欠失、置換、挿入および/または付加のうち2種
以上の組合せを同時に含んでもよい。上記ヌクレオチドの欠失、置換、挿入および/また
は付加の数は、一般的に小さい程好ましい。また、本願発明において好ましいポリヌクレ
オチドは、例えば、配列番号2~4のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドまたは
その相補配列にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズ可能
なポリヌクレオチドであって、配列番号2~4のアミノ酸配列を含むタンパク質、あるい
は配列番号2~4のアミノ酸配列において上記の1個以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入
および/または付加したアミノ酸配列を含みキャプシドタンパク質をコードするポリヌク
レオチドを含む。
【0023】
ハイブリダイゼーションは、公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュ
ラー・クローニング(Molecular Cloning 4th Edition, J. Sambrook et al., Cold Spri
ng Harbor Lab. Press. 2012)に記載の方法などに従って行うことができる。また、市販
のライブラリーを使用する場合、製造業者により提供される使用説明書などに記載の方法
に従って行うことができる。ここで、「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェン
トな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。
「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50
%ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、
5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ス
トリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホル
ムアミド、50℃の条件である。これらの条件において、温度を上げるほど高い相同性を有
するDNAが効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのスト
リンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強
度、時間、塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択する
ことで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0024】
ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとしては、FASTA、BLASTなどの相同性検索ソフ
トウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、対照のポリヌクレ
オチド配列と比較して、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93
%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、
99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以
上、99.9%以上の同一性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。上記相同性の
数値は一般的に大きい程好ましい。
【0025】
なお、アミノ酸配列やポリヌクレオチド配列の同一性または相同性は、カーリンおよび
アルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 872264-2268,1990
; Proc. Natl. Acad. Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリ
ズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, e
t al: J Mol Biol 215: 403,1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメ
ーターは、例えばExpect threshold=100、Word size=12とする。また、BLASTXを用いて
アミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばExpect threshold=50、Word s
ize=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、好ましくは各プログラ
ムのデフォルトパラメーターを用いるが、これらパラメーターは当業者に公知の範囲内で
適宜変更されてもよい。
【0026】
2.中和抗体の交差反応性について
本発明に係るアデノ随伴ウイルスベクターは、少なくとも血清中に存在する2型AAV(A
AV2)、場合によりさらに1型AAV(AAV1)および/または8型AAV(AAV8)もしくは他の
野生型AAVに対する中和抗体と交差反応しないものである。
本発明において、中和抗体とは、ある抗原が生体に対して毒性や感染力などの活性をも
つとき、その抗原に結合して活性を減退または消失させる抗体を指す。本発明において、
抗体の活性に関する文脈において「中和」とは、例えば血清中の抗アデノ随伴ウイルス中
和抗体(例えば、IgG、IgM、IgA)が、抗原であるAAVベクターと結合した結果、そのAAV
ベクターの遺伝子導入能力を低下または喪失させることをいう。この中和反応は、抗原(
例えばAAVベクター)と抗体との結合、抗体のFc部分と補体第1成分(C1)との結合など
の一連の補体反応等を含み、結果的にそのAAVベクターは標的細胞への感染能(遺伝子導
入能)を低下または喪失する。また、本発明において、中和抗体は、血清成分を伴うこと
、すなわち補体などの抗体と結合して抗原の不活性化や除去などの中和反応に直接的に関
係する成分も含むことが意図される。
【0027】
本発明において、中和抗体の交差反応とは、中和抗体が、本来の標的抗原(例えば、AA
V2)とは異なる標的物質(例えば、AAV3)と結合する反応を指す。また、本発明において
「中和抗体と交差反応しない」とは、中和抗体が本来の標的抗原ではない標的物質との結
合反応において、十分には機能しないこと、好ましくは検出可能には結合しないことを指
すが、または検出可能であっても本来の標的抗原と比較する場合に標的物質の結合量(モ
ル比または質量比)が有意に低減されることを指す。このような低減される標的物質の量
としては、本来の標的抗原の結合量と比較して、数%(約5%)、約10%、約15%、約20
%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約60%の結合量が挙げられる。
この割合は、抗体に結合したタンパク質量を測定する方法などの公知の方法を用いて取得
できる。あるいは、中和抗体の交差反応は、組換えウイルス内にコードされるタンパク質
(レポーター遺伝子など)を用いて間接的に測定して比較することもできる。
【0028】
本発明に係る中和抗体は、好ましくは哺乳動物由来ものであり、より好ましくは霊長類
由来のもの、最も好ましくはヒト由来のものである。本発明に用いる中和抗体は、特に記
載されない場合、AAV2に対する中和抗体である。通常、ヒトはAAV2に対する抗体を所持し
ている可能性が高いが、その大部分は中和能力を有する抗体ではなく、中和能力を有する
ものは18~32%との報告もある(Chirmule N. et al., Gene Ther 6: 1574-1583, 1999;
Moskalenko M, et al., J Virol 74: 1761-1766, 2000)。さらに、AAV2に対する中和抗
体を含むヒト血清の多くは、AAV3AやAAV3Bに対する中和抗体を含むことが公知である(Fu
Hら、Hum Gene Ther Clin Dev 2017; 28:187-196, Ling CJら Integr Med 2015;13:341-
346)。このことはAAV2のVP1タンパク質(配列番号1)とAAV3AまたはAAV3BのVP1タンパ
ク質(配列番号2または3)とのアミノ酸同一性が比較的高いこと(具体的には約87~88
%)によっても示唆される。
さらに、本発明に用いる中和抗体は、複数のアイソタイプ(例えば、IgG、IgM、IgAな
ど)を含み得る。したがって、本発明に係るAAV2に対する中和抗体は、事前に抗体濃度も
しくは抗体力価などの性能について検証する必要がある。そのような検証手段は公知であ
り、例えば、Itoらの文献(Ito et al., Ann Clin Biochem 46: 508-510, 2009)に記載
される手段を用いることができる。具体的には、中和抗体の力価(抗体価)を、HEK293細
胞に対してβガラクトシダーゼやルシフェラーゼ等のレポーター遺伝子を含むAAV2ベクタ
ーを導入する場合の阻害能力を評価することによって分析できる(上記Itoらの文献)。
【0029】
本発明に用いる中和抗体は、抗体価が1:4~1:640であり、好ましくは1:16~1:254、よ
り好ましくは1:32~1:128である。本発明における抗体価の具体的な測定方法については
、実施例中の「(e) 血清中の中和抗体との交差反応性の検証」、「(3)中和抗体の抗体価
の測定」の記載等を参照できる。
また、中和抗体の交差反応性を確認するためのアッセイ方法の具体的な手順として、Li
C, et al., Gene Ther 19: 288-294, 2012、Meliani A, et al., Hum Gene Ther Methos
26:45-53, 2015などの文献に記載の方法を用いることができる。
【0030】
本願発明のアデノ随伴ウイルスベクターは、野生型のものと比較して、血清中の中和抗
体の影響を受けにくいものである。具体的には、本発明のウイルスベクター(例えば、配
列番号4のアミノ酸配列を有するキャプシドタンパク質を含むもの)は、血清中の中和抗
体によって処理された後に、標的細胞に遺伝導入する能力を少なくとも60%、好ましくは7
0%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、85%以上、90%以上、95%以
上維持するものである。ここで、遺伝子導入能力の比較には、例えばレポーターアッセイ
、インサイチュハイブリダイゼーション、ラジオアイソトープ標識などの公知のアッセイ
を利用することができる。一方、野生型のウイルスベクター(例えば、配列番号2または
3のアミノ酸配列を有するキャプシドタンパク質を含むもの)は、同様に血清中の中和抗
体によって処理された後に、標的細胞に遺伝導入する能力を約60%未満、約50%未満、約4
0%未満、約35%未満、約30%未満保持し得る。
あるいは、本発明のウイルスベクターは、野生型のウイルスベクターと比較して、血清
中の中和抗体によって処理された後に、標的細胞に対して1.2倍以上、好ましくは1.5倍以
上、より好ましくは1.75倍以上、さらに好ましくは2倍以上の量の遺伝子を導入できるも
のである。
【0031】
本発明において、例えばAAV2に対する中和抗体は、交差反応によってAAV3等に対しても
中和活性を有し得ることが公知である(Fu Hら、Hum Gene Ther Clin Dev 2017; 28:187-
196, Ling CJら Integr Med 2015;13:341-346, Mimuro J, et al., J Med Virol 86: 199
0-1997, 2014.)。ここで、AAV2のキャプシドタンパク質VP1とAAV3A VP1との間のアミノ
酸配列の同一性は87%、AAV2 VP1とAAV3B VP1との同一性は88%と計算される(これら同
一性はBlastpのウェブサイト(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を利用して
得た結果)。さらに、抗AAV2中和抗体のエピトープマッピングに関する研究が、Moskalen
ko, M.ら(J Virol 74: 1761-1766, 2000)に記載されている。
また、AAVの細胞への感染に関する細胞外レセプターとして、以下のものが知られてい
る(Summerfold et al., Mol Ther 24: 2016;Pillay et al., Nature 530:108-112, 201
6)。
一次レセプター
AAV2、3、6:ヘパラン硫酸プロテオグリカン
AAV9:N末端ガラクトース
AAV1、4、5、6:特定のN連結型またはO連結型シアル酸部分
二次レセプター
AAV2:線維芽細胞増殖因子レセプター及びインテグリン
AAV2、3:肝細胞増殖因子レセプター(c-Met)
AAV5:血小板由来増殖因子(これはシアル酸によって修飾され得る)
本出願の開示内容と上記の受容体に関する知見に基づいて、本発明に係る組換えウイル
スベクターに基づいて、AAV2等に対する生体の中和抗体による阻害をより一層受けにくい
組換えベクターを設計、スクリーニング、取得することも考えられる。
【0032】
3.本発明のウイルスベクターが含む遺伝子について
1実施形態において、本発明のrAAVベクターは、好ましくは、肝臓特異的なプロモータ
ーおよびそのプロモーターと作動可能に連結された目的遺伝子を含むポリヌクレオチドを
含む(すなわち、そのようなポリヌクレオチドがパッケージングされている)。本発明に
用いるプロモーターとしては、肝臓中の細胞に特異的なプロモーター、例えば、肝実質細
胞、肝非実質細胞(星状細胞等)などに特異的なプロモーターを用いることができる。こ
のようなプロモーター配列としては、具体的には、ApoEプロモーター、アンチトリプシン
プロモーター、cKitプロモーター、肝臓特異的転写因子(HNF-1、HNF-2、HNF-3、HNF-6、
C/ERP、DBPなど)のプロモーター、サイロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーター(Ran
FA, et al., Nature 520(7546):186-91, 2015)、その他の肝臓特異的タンパク質(アル
ブミンなど)のプロモーター、これらプロモーターを組み合わせた合成プロモーターなど
が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらのプロモーターはさらに、公知の
エンハンサー、好ましくは肝臓特異的なエンハンサーと組み合わせることができる。この
ようなエンハンサーとしては、ApoEエンハンサーなどが挙げられる。これらプロモーター
およびエンハンサーは、単独または任意の複数を組み合わせて用いることができる。さら
にまた、上記の肝臓特異的なプロモーター及びエンハンサーを利用した合成プロモーター
を用いることもできる。本発明のrAAVベクターは、好ましくは、肝臓特異的、より好まし
くは肝細胞(肝実質細胞)特異的なApoEプロモーター、アンチトリプシンプロモーター、
TBGプロモーター、または公知の合成プロモーターであるHCRhAATプロモーター(例えば配
列番号12のヌクレオチド397~1046の配列を有するもの)を含み得る。
【0033】
また、本発明において用いる肝臓特異的なプロモーター(またはエンハンサー)は、上
記のプロモーターのポリヌクレオチド配列において、1個以上(例えば、1~100個、1~5
0個、1~40個、1~30個、1~25個、1~20個、1~15個、1~10個、1~9個(1~数個)、1
~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、1個など)のヌクレオチドの
欠失、置換、挿入および/または付加を有する配列を含むポリヌクレオチドであって、肝
臓特異的なプロモーターとして機能し得るものを用いることもできる。本明細書中、肝臓
特異的なプロモーターとして機能し得ることは、例えば、肝臓由来の細胞と肝臓に由来し
ない細胞とをレポーターアッセイにおいて比較した場合、肝臓に由来しない細胞では、検
出の閾値程度のレポーターを発現するか、または肝臓由来の細胞と比較して約25%以下、
約20%以下、約15%以下、約10%以下もしくはそれ以下のレポーターを発現することをい
う。また、上記の欠失、置換、挿入および/または付加を有するポリヌクレオチドは、元
のプロモーター配列に対する比活性として50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上であ
ることを意味する。上記の変異の数は少ないほど好ましい。
【0034】
本発明のAAVベクターを用いる治療対象となる疾患として、肝細胞のゲノム障害と関連
するオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、血友病、急性間欠性ポルフィリア症、Wi
lson病、フェニルケトン尿症、家族性高コレステロール血症などが挙げられる。
上記の治療を行うために、本発明に用いる組換えウイルスベクターは、様々な治療用遺
伝子(ポリヌクレオチド)を含み得る。そのような治療用遺伝子がコードするタンパク質
としては、例えば、オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)、カルバモイルリン酸シ
ンターゼI(CPS1)、血液凝固VIII因子(FVIII)、血液凝固IX因子(FIX)、肝細胞増殖因子
(HGF)、肝細胞増殖因子受容体(c-Kit)などのタンパク質が挙げられるが、これらに限
定されない。
【0035】
オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症は、オルニチントランスカルバミラーゼ遺伝
子に係る障害であり、肝臓における尿素サイクルの機能不全などを原因とする。生体の肝
臓では、生体に有毒なアンモニアから無害な尿素を生成しており、この経路は尿素サイク
ルと称される。この尿素サイクルに関与する酵素の例として、オルニチントランスカルバ
ミラーゼ(OTC)、カルバモイルリン酸シンターゼI(CPS1)、アルギニノコハク酸シンターゼ
(ASS)、アルギニノコハク酸リアーゼ(ASL)、アルギナーゼI(ARG1)、N-アセチルグルタミ
ン酸シンターゼ(NAGS)、オルニチン/シトルリンアンチポーター (ORNT1)が挙げられる。
これらの酵素の遺伝子的な異常が生じると尿素サイクル異常症が生じる。この尿素サイク
ル異常症のうち、OTC欠損症は最も頻度が高い。
OTCの成熟体は、X染色体上にコードされる約36kda(ヒトの場合)のタンパク質(配列
番号11のアミノ酸配列)の三量体から構成される。OTCは、詳細には、尿素サイクルに
おいてオルニチンをシトルリンに変換する(下記図中の(3))。
【化1】
(岩波書店「岩波 生物学辞典 第4版」より)
【0036】
本願発明において用いるOTCとしては、オルニチンをシトルリンに変換する酵素であれ
ば特に限定されず、好ましくは哺乳動物由来のもの、より好ましくはヒト由来ものが挙げ
られる。例えば、本発明に用いるOTCとして、配列番号11のアミノ酸配列を有するタン
パク質を使用できる。また、オルニチントランスカルバミラーゼ活性として、野生型と比
較して好ましくは40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上ま
たは99%以上の比活性を保持する変異体を用いることもできる。そのような変異体として
は、例えば、配列番号11のアミノ酸配列に対して60%以上、70%以上、80%以上、90%以
上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上の同一性を有するアミノ酸配
列を有するものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
OTCの測定方法としては、例えば、酵素活性による測定方法(Piersonら(1977) J. Biol
. Chem. 252, 6464-6469)、免疫学的測定法(WO 2006/073073)が公知である。本願発明
において、OTCの測定方法として当該分野で公知である任意の測定方法を使用できる。
【0038】
また、本発明に用いる治療用遺伝子は、例えば、標的の機能を阻害するための遺伝子(
アンチセンスヌクレオチド、CAS9等)であってもよいが、これらに限定されない。本明細
書中で用いる場合、アンチセンスヌクレオチドとは、標的とする内在性遺伝子の機能を変
化(例えば、破壊、低下)させるためのポリヌクレオチド、または内在性タンパク質の発
現レベルを変化(例えば、低下)させるためのポリヌクレオチドを指す。このようなポリ
ヌクレオチドとしては、例えば、アンチセンス分子、リボザイム、干渉性RNA(iRNA)、
マイクロRNA(miRNA)、sgRNAが挙げられるが、これらに限定されない。二重鎖RNA(dsRNA、
siRNA、shRNA又はmiRNA)の調製方法、使用方法などは、多くの文献から公知である(特表
2002-516062号公報; 米国公開許第2002/086356A号; Nature Genetics, 24(2), 180-183,
2000 Feb.等参照)。さらに、本発明に用いる組換えウイルスベクターは、1種以上の治
療用遺伝子を含んでもよい。
【0039】
4.医薬組成物について
本発明のさらなる実施形態において、本発明のrAAVベクター(rAAVビリオン)を含む医
薬組成物が提供される。本発明のrAAVベクターを含む医薬組成物(以下、本発明の医薬組
成物という)を利用することによって、被検体の肝臓の細胞に高い効率で治療用遺伝子を
導入可能であり、導入される治療用遺伝子が発現することによって目的の疾患を治療でき
る医薬組成物を提供する。このような治療用遺伝子を含むrAAVベクターは、本発明の医薬
組成物に含められる。このような治療用遺伝子としては、例えば上記のようなゲノム編集
手段、ゲノム修復手段などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
1実施形態において、本発明のrAAVベクターは、好ましくは肝臓の細胞に特異的なプロ
モーターおよびそのプロモーターと作動可能に連結された遺伝子を含む。本発明のrAAVベ
クターは、血友病などに対する治療に有用である遺伝子を含むことができ、それら遺伝子
を、肝臓の細胞、好ましくは肝実質細胞に組込むことができる。
【0041】
本発明の医薬組成物を使用する場合、例えば、経口、非経口(静脈内)、筋肉、口腔粘
膜、直腸、膣、経皮、鼻腔経由または吸入経由などで投与することができるが、非経口的
に投与するのが好ましい。静脈内投与がさらに好ましい。本発明の医薬組成物の有効成分
は単独で、あるいは組み合わせて配合されても良いが、これに製薬学的に許容しうる担体
あるいは製剤用添加物を配合して製剤の形態で提供することもできる。この場合、本発明
の有効成分は、例えば、製剤中、0.1~99.9重量%含有することができる。
【0042】
本発明の医薬組成物の有効成分は単独で、あるいは組み合わせて配合されても良いが、
これに製薬学的に許容しうる担体あるいは製剤用添加物を配合して製剤の形態で提供する
こともできる。この場合、本発明の有効成分は、例えば、製剤中、力価が105~1016 vg/m
L(900 fg/mL~90 mg/mL)、力価が106~1015 vg/mL(9.0 pg/mL~9.0 mg/mL)、力価10
7~1014 vg/mL(90 pg/mL~900 μg/mL)、力価108~1013 vg/mL(900 pg/mL~90 μg/mL
)、力価109~1012 vg/mL(9 ng/mL~9 μg/mL)、力価1010~1011 vg/mL(90 ng/mL~90
0 ng/mL)の量を含有することができる。また、製薬学的に許容しうる担体あるいは添加
剤としては、例えば賦形剤、崩壊剤、崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色
素、希釈剤、溶解剤、溶解補助剤、等張化剤、pH調整剤、安定化剤等を用いることができ
る。
【0043】
非経口投与に適する製剤としては、例えば注射剤、坐剤等が挙げられる。非経口投与の
場合、本発明の有効成分をゴマ油または落花生油のいずれかに溶解するか、あるいはプロ
ピレングリコール水溶液、またはソルビトール水溶液に溶解した溶液を使用することがで
きる。水溶液は必要に応じて適宜に緩衝し(好適にはpH8以上)、液体希釈剤をまず等
張にする必要がある。このような液体希釈剤としては、例えば、生理食塩水を使用できる
。調製された水溶液は静脈内注射に適し、一方、油性溶液は関節内注射、筋肉注射および
皮下注射に適する。これらすべての溶液を無菌状態で製造するには、当業者に周知の標準
的な製薬技術で容易に達成することができる。さらに、本発明の有効成分は皮膚など局所
的に投与することも可能である。この場合は標準的な医薬慣行によりクリーム、ゼリー、
ペースト、軟膏の形で局所投与するのが望ましい。
【0044】
経口投与に適する製剤の例としては、例えば散剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤
、液剤またはシロップ剤等を挙げることが出来る。経口投与の場合、微晶質セルロース、
クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ジカリウム、グリシンのような種々の賦形
剤を、澱粉、好適にはとうもろこし、じゃがいもまたはタピオカの澱粉、およびアルギン
酸やある種のケイ酸複塩のような種々の崩壊剤、およびポリビニルピロリドン、蔗糖、ゼ
ラチン、アラビアゴムのような顆粒形成結合剤と共に使用することができる。
【0045】
本発明の医薬組成物の投与量は特に限定されず、疾患の種類、患者の年齢や症状、投与
経路、治療の目的、併用薬剤の有無等の種々の条件に応じて適切な投与量を選択すること
が可能である。本発明の医薬組成物の投与量は、例えば、成人(例えば、体重60kg)1日
当たり1~5000 mg、好ましくは10~1000 mgであるが、これらに限定されない。これらの
1日投与量は2回から4回に分けて投与されても良い。また、投与単位としてvg(vector
genome)を利用する場合、例えば、体重1kgあたり、106~1014 vg、好ましくは108~101
3 vg、さらに好ましくは109~1012 vgの範囲の投与量を選択することが可能であるが、こ
れらに限定されない。
【0046】
5.本発明のウイルスベクターの投与
本発明のウイルスベクターは、好ましくは、対象に末梢投与によってより安全かつ容易
に投与される。本明細書において末梢投与とは、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、
心腔内投与、筋肉内投与など、当業者に末梢投与として通常理解される投与経路をいう。
【0047】
本発明のウイルスベクターは、対象に投与されて、肝臓の細胞に感染し、感染した細胞
においてウイルスによって送達された上記のゲノム編集手段を提供し、ゲノム編集をもた
らすことができる。本発明のウイルスベクターは、好ましくは、肝実質細胞に感染してゲ
ノム編集をもたらすことができる。本発明のウイルスベクターは、好ましくは、投与され
た対象の肝臓の肝実質細胞のうちゲノム編集を受ける細胞の割合が、好ましくは、70%以
上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以
上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、
99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上、または10
0%である。
【0048】
6.本発明のrAAVベクターの調製キット
本発明は別の実施形態において、本発明のrAAVを作製するためのキットを提供する。こ
のようなキットは、例えば、(a)キャプシドタンパク質VP1等を発現するための第1のポリ
ヌクレオチド、および(b)rAAVベクター内にパッケージングされる第2のポリヌクレオチ
ドを含むことができる。例えば、第1のポリヌクレオチドは、配列番号4のアミノ酸をコ
ードするポリヌクレオチドを含み、第2のポリヌクレオチドは、目的の治療用遺伝子を含
んでも含まなくてもよい。好ましくは、そのような目的の治療用遺伝子を組込むための種
々の制限酵素切断部位を含むことができる。
【0049】
本発明のrAAVビリオンを作製するためのキットは、本明細書中に記載されるいずれの構
成(例えば、AdVヘルパーなど)もさらに含むことができる。本発明のキットはまた、本
発明のキットを使用してrAAVビリオンを作製するためのプロトコルを記載した指示書もさ
らに含み得る。
【0050】
7.本明細書中のその他の用語について
本明細書中に用いられる各用語が示す意味は以下のとおりである。本明細書中、特には
説明されない用語については、当業者が通常理解する用語が意味する範囲を指すことが意
図される。
【0051】
本明細書中で使用される場合、特に述べられない限り、「ウイルスベクター」、「ウイ
ルスビリオン」、「ウイルス粒子」の各用語は、相互に交換可能に用いられる。また、「
アデノ随伴ウイルスベクター」は、遺伝子組換えを含むアデノ随伴ウイルスを含む。
【0052】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「核酸」、「遺伝子」ま
たは「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書
中で使用される場合、用語「ヌクレオチド配列」は、「核酸配列」または「塩基配列」と
交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の
配列として示される。例えば、「配列番号1のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド
またはそのフラグメント」とは、配列番号1の各デオキシヌクレオチドA、G、Cおよび
/またはTによって示される配列を含むポリヌクレオチドまたはその断片部分が意図され
る。
【0053】
本発明に係る「ウイルスゲノム」および「ポリヌクレオチド」は各々、DNAの形態(例
えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得るが、場合によってはRNA(例えば、mRNA)の形
態であってもよい。本明細書において使用されるウイルスゲノムおよびポリヌクレオチド
は各々、二本鎖または一本鎖のDNAであり得る。一本鎖DNAまたはRNAの場合、コード鎖(
センス鎖としても知られる)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる
)であってもよい。
特に述べられない限り、本明細書中、rAAVゲノムがコードするプロモーター、目的遺伝
子、ポリアデニレーションシグナルなどの遺伝子上の配置について説明される場合、rAAV
ゲノムがセンス鎖である場合についてはその鎖自体について、アンチセンス鎖である場合
はその相補鎖について記載される。また、本明細書中、文脈より明らかな場合、組換えを
表す「r」は省略されることもある。
【0054】
本明細書において、「タンパク質」と「ポリペプチド」とは相互に交換可能に用いられ
、アミノ酸の重合体が意図される。本明細書において使用されるポリペプチドは、ペプチ
ド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)で
ある。本発明のポリペプチドの部分ペプチド(本明細書中、本発明の部分ペプチドと略記
する場合がある)としては、前記した本発明のポリペプチドの部分ペプチドで、好ましく
は、前記した本発明のポリペプチドと同様の性質を有するものである。
【0055】
本明細書において、用語「プラスミド」は、種々の公知の遺伝子要素、例えば、プラス
ミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体等を意味する。プラスミドは特定の
宿主において複製することができ、そして細胞間で遺伝子配列を輸送できる。本明細書に
おいて、プラスミドは、種々の公知のヌクレオチド(DNA、RNA、PNAおよびその混合物)
を含み、一本鎖であっても二本鎖であってもよいが、好ましくは二本鎖である。例えば、
本明細書において、用語「rAAVベクタープラスミド」は、特に明記しない限り、rAAVベク
ターゲノムおよびその相補鎖により形成される二本鎖を含むことが意図される。本発明に
おいて使用されるプラスミドは、直鎖状であっても環状であってもよい。
【0056】
本明細書中において使用される場合、用語「パッケージング」とは、1本鎖ウイルスゲ
ノムの調製、外被タンパク質(キャプシド)の組み立て、およびウイルスゲノムをキャプ
シドで包むこと(encapsidation)などを含む事象をいう。適切なプラスミドベクター(
通常、複数のプラスミド)が適切な条件下でパッケージング可能な細胞株に導入される場
合、組換えウイルス粒子(すなわち、ウイルスビリオン、ウイルスベクター)が組み立て
られ、培養物中に分泌される。
【0057】
本明細書中、特には説明されない用語については、当業者が通常理解する用語が意味す
る範囲を指すことが意図される。
【実施例0058】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例
に限定されるものではない。
【0059】
A. 材料及び方法
(a) AAVベクター
5種類のAAVベクター(AAV2、AAV3B、AAV.GT5、AAV8、およびAAV-LK03)を使用した。
AAV.GT5は、AAV3Aおよび3Bの外被蛋白VP1の3か所のアミノ酸置換、すなわち472番目の
セリン(S)をアラニン(A)に、587番目のセリン(S)をアラニン(A)に、706番目のアスパラギ
ン(N)をアラニン(A)に置換したアミノ酸配列を含む。
各AAVベクターに発現させるタンパクをコードする遺伝子は3種類を使用した。
緑色蛍光蛋白質(AcGFP)については、cytomegalovirus promoter (CMV)プロモーター、緑
色蛍光蛋白質(AcGFP)のcDNA、SV40 poly(A)からなる発現カセットを、AAV3Aのinverted t
erminal repeats (ITR)の間に挿入し、AAV2-CMV-AcGFP、AAV3B-CMV-AcGFP、AAV.GT5-CMV-
AcGFP、AAV8-CMV-AcGFPの4種を作製した。LuciferaseについてはAcGFPの代わりにLucifer
aseをコードする配列を挿入し、AAV2-CMV-Luciferase、AAV3B-CMV-Luciferase、AAV.GT5-
CMV-Luciferase、AAV-LK03-CMV-Luciferaseの4種を作製した。OTCについては、ApoE/C1遺
伝子の肝臓制御領域のエンハンサー及びヒト抗トリプシンプロモーター(HCRhAAT)、OTC
のcDNA、SV40 poly(A)からなる発現カセットを、AAV3Aのinverted terminal repeats (IT
R)の間に挿入し、2種のベクターAAV.GT5-HCRhAAT-OTC、AAV8- HCRhAAT-OTCを作製した。
AAV2: GenBank Accession # NC_001401.2(全ゲノム配列)
(AAV2 キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列を配列番号1に示す。)
AAV3A: GenBank Accession # U48704(ゲノム配列)
(AAV3A キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列を配列番号2に示す。)
AAV3B: GenBank Accession # AF028705.1(ゲノム配列)
(AAV3B キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列を配列番号3に示す。)
AAV.GT5:(本出願において作製したもの)
(キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列を配列番号4に示す。)
AAV8: GenBank Accession # NC_006261(ゲノム配列)
(AAV8 キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列を配列番号5に示す。)
AAV-LK03:(キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列を配列番号9に示す。)(Lisow
ski L.ら、Nature. 2014 February 20; 506(7488): 382-386)
【0060】
(b) 細胞培養
1)HEK 293細胞
2×104または5×104 cells/wellのHEK293細胞を播き、10% ウシ胎仔血清(FCS)- DME
M/F12培地(Thermo Fisher Scientific)を使用して5% CO2、37℃で培養した。
2)HepG2細胞
2×104または5×104 cells/wellのHepG2細胞を播き、10% FCS- DMEM Low glucose培地
(Thermo Fisher Scientific)を使用して5% CO2、37℃で培養した。
3)PXB細胞(フェニックスバイオ社)
PXBマウス肝臓から採取した細胞であり、ヒト肝細胞が90%以上を占める。7×104(96 we
ll plate)または 7.4×105(12 well plate) cells/wellの細胞を播き、専用のdHCGM培
地(フェニックスバイオ社)を使用して5% CO2、37℃で培養した。
【0061】
AAV2に対する中和抗体の活性を、 Melian Aら、HUMAN GENE THERAPY METHODS, 26:45-5
2, 2015に記載の方法により測定し、中和抗体価が1:32~1:128もしくは1:128以上を示し
た血清10人分を使用した。
【0062】
(c) ベクター感染
(a)に記載した、GFPを発現する各種のAAVベクター(AAV2-CMV-AcGFP、AAV8-CMV-AcGFP
、AAV3B-CMV-AcGFP、あるいはAAV.GT5-CMV-AcGFP)は2×103~1×104 vg/cellを、Lucfer
aseを発現するAAVベクター(AAV2-CMV-Luciferase, AAV3B-CMV-Luciferase, AAV.GT5-CMV
-Luciferase, AAV-LK03-CMV-Luciferase)は400または800 vg/cellを、OTCを発現するベ
クター(AAV.GT5-HCRhAAT-OTC, AAV8-HCRhAAT-OTC)は4×104 vg/cellを各培養細胞に添
加し、1~10日間、培養した。
【0063】
(d) GFPまたはルシフェラーゼの発現の評価
GFPの発現測定のため、プレートリーダー(バイオテックジャパン)を用いて、各種AAV
ベクターによって発現されたGFPの蛍光強度測定し比較した。また、GFP発現細胞の代表的
な視野の画像を蛍光顕微鏡(オリンパスIX83)で撮影した。
ルシフェラーゼの活性測定のため、各細胞に細胞溶解バッファー、ルシフェリンなどを
含む試薬(Bright-GloTM Luciferase Assay System, Promega)を添加し、プレートリー
ダー(バイオテックジャパン)を用いて、発光強度を測定し比較した。
【0064】
(e) 血清中の中和抗体との交差反応性の検証
レポーターとしてルシフェラーゼを用いて中和抗体に対する抵抗性を確認した。比較対照
として、AAV2、AAV3B、及びAAV-LK03(公知の中和抗体抵抗性の改変型AAV:Perocheau, D
.P.ら(2018)HUMAN GENE THERAPY, 30,1, 79-87)を用いた。
健常人より採取した10種の血清について、FCSで1:2~1:128まで2倍希釈系列を調製した
。4種のAAV(AAV.GT5-CMV-Luciferase、AAV-LK03-CMV-Luciferase、AAV3B-CMV-Luciferas
e、及びAAV2-CMV-Luciferase)を前述の血清と1:1の比率で混和し、37℃、1時間反応
後、HEK293細胞に投与した。24時間後に、Luciferase Assay Kitを用いて、ルシフェラー
ゼの発光活性を測定した。対照として検体血清の代わりにFCSと混和させたAAVの値を100%
とし、各AAVの発光活性の相対値を%で表した。また、ルシフェラーゼ活性を50%以下に抑
える最大希釈率を中和抗体価とした。
【0065】
(f) オルニチンカルバミルトランスフェラーゼ(OTC)発現ベクターの調製
慣用的な遺伝子組み換え手法等を用いてヒトオルニチンカルバミルトランスフェラーゼ
cDNA(配列番号10)を組み込んだ各AAVベクターを調製した。
【0066】
(g) OTCの発現確認
7.4×105/wellのPXB細胞を12 well Plate、3枚に播き、専用のdHCGM培地(フェニック
スバイオ社)を使用して5% CO2、37℃で培養した。培養6日後に、AAV.GT5-HCR-hAAT-OTC
及びAAV8-HCRhAAT-OTCを4×104vg/cellで各群4wellずつ投与した。内因性OTCレベルの確
認のため、非投与4well を対照とした。投与3日、7日後に培地を交換しつつ、37℃、5% C
O2 で培養した。投与10日後に培養を終了し、OTC mRNA測定、OTCタンパク測定、及びOTC
酵素活性測定を行った。
(OTC mRNAの測定)
AAV.GT5-HCRhAAT-OTC, AAV8-HCRhAAT-OTCを投与したPXB cell(n=4)よりRNeasy Mini Ki
t (QIAGEN)を使用してtotal RNAを精製した。total RNA 100ngよりcDNA合成を行い、逆転
写反応にはHigh Capacity cDNA Reverse Transcription Kit with RNase Inhibitor (App
lied Biosystems)を使用した。cDNA サンプルをnuclease-free Waterを用いて6倍に希釈
し、real time PCR(Applied Biosystems)のSYBR Green法にてCt値を測定した。プライマ
ーは最適化されたOTC配列にて作製した。
OTC Forward: ACCGGCGAAGAGATCAAGTA (配列番号13)
OTC Reverse: ATCATGCCCAGAGACTTTCC (配列番号14)
また、標準化用として以下の配列をGAPDHの検出に使用した。
GAPDH Forward: AATTCCATGGCACCGTCAAG (配列番号15)
GAPDH Reverse: ATCGCCCCACTTGATTTTGG (配列番号16)
各mRNA発現量の解析は比較Ct法(ΔΔCt法)を使用した。GAPDH遺伝子を内部標準として
、AAV8-HCRhAAT-OTC投与群の発現量を1とした場合のAAV.GT5-HCRhAAT-OTC投与群のOTC相
対量を算出した。
(OTC タンパク質の測定)
培養を終了したPXB細胞をPBSでリンスし、RIPA Buffer+プロテアーゼ阻害剤を100 μl/
well加えて細胞を溶解した。遠心分離により上清を回収後、Laemmli Buffer+βMEを加え
て加熱し、タンパクを還元した。
4-15% ポリアクリルアミドゲル、トリス/グリシン/SDSバッファーで電気泳動し、PVDF
膜に転写、ブロッキング後、OTC抗体(1:2000, SantaCruz)と4℃、一晩反応させた。0.
1% PBSTで6回洗浄後、HRP-anti-mouse-IgG (1:5000, GEヘルスケア)と室温、60分間反応
させた。0.1% PBSTで6回洗浄後、ECL Prime Western Blotting Detection Reagent(GEヘ
ルスケア)で化学発光させてAmersham Imager 600で検出し、内蔵の解析ソフトでバンドの
Volume値を測定した。同様に、GAPDH抗体(1:10000, Abcam)でハウスキーピングタンパ
ク量を測定し、OTC Volume値/GAPDH Volume値の補正値で比較した。
(OTCの活性測定)
PXB細胞をディッシュから剥がして遠心(1000 rpm、3分間、室温)し培地を除去した。
さらにPBSで2回洗浄した。ミトコンドリア溶解緩衝液(0.5% Triton X-100 [v/v] in dH
2O, 10 mM HEPES, 2 mM DTT [pH 7.4])を加えて氷上でホモジェナイズした。遠心(20630
G、20分間、4℃)し、上清を回収して蛋白量を測定した。5-10μgの蛋白量を10μlにし
て、reaction solution (5 mM ornithine, 15 mM carbamyl phosphate, 270 mM triethan
olamine)を加えて計700μl にした。60分間37℃でインキュベートし、Stop solution(0
.5% antipyrine/50% sulfuric acid (w/v): 0.8% 2,3-butanedion monoxime :distilled
water [1:1:1.5])を270μL 添加した。遮光して15分間煮沸した。96ウェルプレートに20
0μl入れて、波長490 nmにおける吸光度を測定した。酵素活性はμmol of citrulline pr
oduced/mg of liver protein/hrで示した。
【0067】
B. 結果
(1) 改変体AAV.GT5の作製
アデノ随伴ウイルスAAV3AとAAV3Bとの融合Rep配列、およびAAV3BのVP配列を含むDNAを
人工合成した。その際にAAV3BのVP1においてS472A、S587A、N706Aの変異を生じるように
遺伝子操作し、アデノ随伴ウイルス改変体AAV.GT5を得た。
AAV3A、AAV3B及びAAV.GT5のそれぞれのVP1タンパク質アミノ酸配列(配列番号2~4)
及びRepタンパク質アミノ酸配列(配列番号6~8)のアラインメントを
図1A~
図1D
に示す。
【0068】
(2) AAV.GT5のヒト肝臓由来株細胞HepG2及びPXBに対する感染能の確認
上記で作製したAAV.GT5のヒト肝臓由来細胞HepG2細胞への感染能を確認した。
HepG2細胞 5×10
4 cells/wellを96 well Optical bottom Plateに播種した翌日、AAV8-
CMV-AcGFP、AAV2-CMV-AcGFP、AAV3B-CMV-AcGFPおよびAAV.GT5-CMV-AcGFP 5×10
8vg/well
を投与した。37℃、5% CO
2インキュベーターで7日間培養後、プレートリーダーでGFPの
蛍光強度を測定して定量的に比較した(表1および
図2A)、このときの細胞の様子を
図2
Bに示す。
【表1】
GFP強度の測定結果に基づくと、AAV.GT5はAAV3Bの約1.1倍(107.9%)の発現を示した。
よって、AAV.GT5はこのヒト肝臓由来細胞に対してAAV3Bと同等以上の遺伝子導入が可能と
考えられる。一方、AAV8とAAV2は、AAV3BやAAV.GT5に比べてヒト肝臓由来細胞への遺伝子
導入効率がより低かった(
図2A)。
【0069】
上記のGFP発現による測定系において、AAV.GT5およびAAV3Bの両者は、測定範囲の上限
に近いため、実際の量比よりも小さな差が示された可能性がある。そこで、ヒト肝臓由来
細胞株HepG2細胞に対する各rAAVベクターの感染能を、ルシフェラーゼを用いて確認した
。また、対照としてAAV3BおよびAAV-LK03を用いた。
AAV.GT5-CMV-Luciferase、AAV-LK03-CMV-LuciferaseおよびAAV3B-CMV-Luciferaseの各
々を、HepG2細胞 2×10
4cells/wellを播種して1日後の細胞に対して、MOI=800 vg/cell
で投与して培養した。
AAV投与2日後にBright-Glo Luciferase Assay System(Promega)を用いてLuciferaseの
活性を測定した(n=4)。発光強度(RLU)の測定値の結果のグラフ及び相対値を
図2Cに
示す。
RLUの測定値から、AAV.GT5はAAV3Bと比較して2.0倍の発現であること、AAV-LK03と比較
して1.3倍の発現であることを確認した(表2および
図2C)。
【表2】
PXBマウス肝臓から採取した、ヒト肝細胞が90%以上をしめるPXB細胞に対する遺伝子導
入の結果を
図3A及び3Bに示した。PXB細胞(フェニックスバイオ社)7×10
4 cell/wel
lを96well Plateに播種した6日後、AAV8-CMV-AcGFP、AAV2-CMV-AcGFP、AAV3B-CMV-AcGFP
およびAAV.GT5-CMV-AcGFP 5×10
8 vg/well を投与した。37℃、5% CO
2インキュベータ
ーで7日間培養後、プレートリーダーでGFPの蛍光強度を測定して定量的に比較した(表3
および
図3A)。このときの細胞の様子を
図3Bに示す。
【表3】
HepG2細胞の場合と同様に、PXB細胞においてもAAV.GT5-CMV-AcGFPのGFP発現量はAAV3B
の約1.1倍であった。
よって、AAV.GT5はこれらヒト肝臓由来細胞に対してAAV3Bと同等以上の遺伝子導入が可
能と考えられる。一方、AAV8とAAV2は、AAV3B、AAV.GT5に比べてヒト肝細胞への遺伝子導
入効率は低かった(
図2、
図3)。
【0070】
(3) 中和抗体の抗体価の測定
上記(e)の手順に従って10種の血清(血清#01~#10)を用いて、AAV.GT5、AAV-LK03、AA
V3B、AAV2によるルシフェラーゼ活性を50%以下に抑える最大希釈率(中和抗体価)を得た
。これらの結果を表4に示す。
中和抗体価は試験した10種の血清において、AAV.GT5が最も低かった。すなわち、抗体
との反応性が弱かった。AAV.GT5に対する中和抗体価はAAV-LK03、およびAAV3Bの1/8~1/4
程度であった。
【表4】
【0071】
さらに、中和抗体価測定を行った際のAAV.GT5、AAV-LK03、AAV3B、AAV2による遺伝子発
現を比較した。その結果を
図4A~4Jに示す。
中和抗体価で約4倍以上の向上は、同じ血清希釈率で比較すると発現量では非常に大き
な差を生じた。
【0072】
(4) OTC発現ベクターの調製
AAV.GT5によって組換えOTCを発現させるために下記構成のDNA(AAV.GT5-OTCと称する)
を調製した。より詳細な配列の構成を
図5A、
図5B及び配列番号12に示す。
【化2】
【0073】
(5) 組換えAAVベクターによるOTC発現比較
PXBマウス肝臓から採取した細胞でありヒト肝細胞が90%以上を占めるPXB細胞を用いて
、AAV.GT5-OTCのヒト肝臓細胞への感染、発現効率をAAV8-OTCと比較した。
AAV.GT5によるOTCのmRNA発現量の比較結果を表5及び
図6に示す。
【表5】
AAV.GT5は、OTC mRNAの発現において対照と比較して約90倍以上の発現量向上を確認し
た。
【0074】
また、AAV.GT5によるOTCのタンパク質発現量の比較結果を表6及び
図7に示す。
【表6】
AAV.GT5は、mRNAの発現量の結果と同様に、対照と比較して約86倍のタンパク質発現量
の向上を確認した。
【0075】
さらに、AAV.GT5によるOTCの酵素活性の比較結果を表7及び
図8に示す。
【表7】
以上の結果より、AAV.GT5-OTCを治療手段として使用することによって非常に強力なOTC
発現および/またはウイルスベクター投与量の大きな低減などの利点が期待できる。