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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020397
(43)【公開日】2025-02-12
(54)【発明の名称】熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/17 20230101AFI20250204BHJP
   H10N 10/852 20230101ALN20250204BHJP
   H10N 10/856 20230101ALN20250204BHJP
【FI】
H10N10/17 A
H10N10/852
H10N10/856
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024198702
(22)【出願日】2024-11-14
(62)【分割の表示】P 2020057645の分割
【原出願日】2020-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 悠介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 邦久
(72)【発明者】
【氏名】西尾 太寿
(57)【要約】
【課題】外部から付与された熱を効率的に伝達することで熱伝達効率を向上させ、高い起電力が得られる熱電変換モジュールを提供する。
【解決手段】支持体と、前記支持体上に形成されたP型熱電素子及びN型熱電素子が交互に配置され、前記配置の方向に電子が移動するように、隣り合うP型熱電素子及びN型熱電素子が電気的に接続された熱電素子層と、を有し、前記熱電素子層は塗布膜からなり、前記P型熱電素子及び前記N型熱電素子の少なくともいずれか一方の熱電素子の、前記配置の方向に対して垂直方向に沿った断面における、厚み差tdifが、50um以下である、熱電変換モジュール。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
前記支持体上に形成されたP型熱電素子及びN型熱電素子が交互に配置され、前記配置の方向に電子が移動するように、隣り合うP型熱電素子及びN型熱電素子が電気的に接続された熱電素子層と、を有し、
前記熱電素子層は塗布膜からなり、
前記P型熱電素子及び前記N型熱電素子の少なくともいずれか一方の熱電素子の、前記配置の方向に対して垂直方向に沿った断面における、下記(1)~(4)により定義される厚み差tdifが、20um以下であり、
前記P型熱電素子のゲージ素子厚みtgaと前記N型熱電素子のゲージ素子厚みtgaとが異なり、
前記P型熱電素子及び前記N型熱電素子のうち、ゲージ素子厚みtgaが大きい方の熱電素子の、前記厚み差tdifが20um以下である、熱電変換モジュール。
(1)前記断面における熱電素子の厚みプロファイルを触針式表面形状測定器により測定する。
(2)前記測定された厚みプロファイルより、前記熱電素子の両端部を除いた中央部における厚みの平均を算出し、該算出された厚みの平均を素子平均厚みtavとする。但し、前記中央部とは、前記断面における前記熱電素子と前記支持体との境界線の長さをLとし、前記長さLの境界線から、前記境界線の一端から内側に1/6Lまでの線分及び前記境界線の他端から内側に1/6Lまでの線分を除いた、長さ2/3Lの線分を中央線分としたときに、前記熱電素子のうち、前記中央線分の両端から前記支持体主面の垂直方向に延在する線分とによって挟まれる領域部をいう。
(3)前記測定された厚みプロファイルより、前記熱電素子の厚みの最大値を検出し、該検出された厚みの最大値を最大厚みtmaxとする。
(4)前記厚み差tdifを、前記最大厚みtmaxと前記素子平均厚みtavとの差(tdif=tmax-tav)とする。
【請求項2】
支持体と、
前記支持体上に形成されたP型熱電素子及びN型熱電素子が交互に配置され、前記配置の方向に電子が移動するように、隣り合うP型熱電素子及びN型熱電素子が電気的に接続された熱電素子層と、を有し、
前記熱電素子層は、熱電半導体粒子と樹脂とを含む熱電半導体組成物からなり、
前記P型熱電素子及び前記N型熱電素子の少なくともいずれか一方の熱電素子の、前記配置の方向に対して垂直方向に沿った断面における、下記(1)~(4)により定義される厚み差tdifが、20um以下であり、
前記P型熱電素子のゲージ素子厚みtgaと前記N型熱電素子のゲージ素子厚みtgaとが異なり、
前記P型熱電素子及び前記N型熱電素子のうち、ゲージ素子厚みtgaが大きい方の熱電素子の、前記厚み差tdifが20um以下である、熱電変換モジュール。
(1)前記断面における熱電素子の厚みプロファイルを触針式表面形状測定器により測定する。
(2)前記測定された厚みプロファイルより、前記熱電素子の両端部を除いた中央部における厚みの平均を算出し、該算出された厚みの平均を素子平均厚みtavとする。但し、前記中央部とは、前記断面における前記熱電素子と前記支持体との境界線の長さをLとし、前記長さLの境界線から、前記境界線の一端から内側に1/6Lまでの線分及び前記境界線の他端から内側に1/6Lまでの線分を除いた、長さ2/3Lの線分を中央線分としたときに、前記熱電素子のうち、前記中央線分の両端から前記支持体主面の垂直方向に延在する線分とによって挟まれる領域部をいう。
(3)前記測定された厚みプロファイルより、前記熱電素子の厚みの最大値を検出し、該検出された厚みの最大値を最大厚みtmaxとする。
(4)前記厚み差tdifを、前記最大厚みtmaxと前記素子平均厚みtavとの差(tdif=tmax-tav)とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換モジュールに関し、特に、フレキシブル熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換を利用したエネルギー変換技術として、熱電発電技術及びペルチェ冷却技術が知られている。熱電発電技術は、ゼーベック効果による熱エネルギーから電気エネルギーへの変換を利用した技術である。この技術は、熱電変換を実現するための熱電変換素子を動作させるのに多大なコストを必要としないので、特にビル、工場等の施設で使用される化石燃料資源等から発生する未利用の廃熱エネルギーを電気エネルギーとして回収できる省エネルギー技術として大きな脚光を浴びている。ペルチェ冷却技術は、熱電発電とは逆に、ペルチェ効果による電気エネルギーから熱エネルギーへの変換を利用する技術である。この技術は、例えば、ワインクーラーや携帯可能な小型冷蔵庫に用いられている。この技術は、その他にも、コンピュータに用いられるCPUの冷却手段や、精密な温度制御が必要な部品や装置(例えば、光通信の半導体レーザー発振器)の温度制御手段としても用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱電性能、歩留まり、信頼性、及び生産性を向上させることを目的として、支持基板と、該支持基板上に複数配列された熱電素子とを具備し、熱電素子が互いに対になって配列されている、N型熱電素子及び焼結体からなるP型熱電素子で構成され、複数の熱電素子のうち、最大高さの熱電素子と最小高さの熱電素子との高さの差(熱電素子間の高さの差)が20μm以下である熱電モジュール(いわゆるπ型熱電モジュール)が開示されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、接合材料溜まり部が熱電変換素子を押し広げる力を抑えることができ、熱電変換素子間における導電断面積を確保することを目的として、第1電極層及び第2電極層に接合材料により接合された熱電変換材料からなる複数個の熱電変換素子を具備し、複数の熱電変換素子の高さ(熱電素子間の高さ)について、最大値と最小値との差が0.02ミリメートル以下に設定されている熱電変換素子(いわゆるπ型熱電変換素子)が開示されている。
【0005】
一方、インプレーン型と呼ばれる熱電変換素子も提案されている。インプレーン型の熱電変換素子は、熱電素子層の面方向に温度差を生じさせて熱エネルギーを電気エネルギーに変換し得る構成を備える熱電変換素子である。インプレーン型の熱電変換素子は、温度差が生じる長さを面方向に拡大できるので、熱電変換層が薄くても効率よく熱起電力を発生し、また、熱電変換層を薄くすることで素子全体を薄くフレキシブルにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-34605号公報
【特許文献2】特開平2006-303017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、熱電変換素子が普及するにつれて、様々な環境での使用が求められている。とりわけ、インプレーン型の熱電変換素子は概して薄型であるため、使用環境がさらに拡がっており、様々な環境下で使用できることが求められている。
しかしながら、起電力を向上させるという点で、インプレーン型の熱電変換素子を有する熱電変換モジュールにはまだ改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上記問題を鑑み、外部から付与された熱を効率的に伝達することで熱伝達効率を向上させ、高い起電力が得られる熱電変換モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、インプレーン型の熱電変換素子においては、素子間の厚みの差ではなく、熱電素子内における厚み差tdif、特に、P型熱電素子及びN型熱電素子のうちのゲージ素子厚みtgaが大きい方の熱電素子の素子内における厚み差tdifを所定範囲内に調整することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供するものである。
[1]支持体と、前記支持体上に形成されたP型熱電素子及びN型熱電素子が交互に配置され、前記配置の方向に電子が移動するように、隣り合うP型熱電素子及びN型熱電素子が電気的に接続された熱電素子層と、を有し、前記熱電素子層は塗布膜からなり、前記P型熱電素子及び前記N型熱電素子の少なくともいずれか一方の熱電素子の、前記配置の方向に対して垂直方向に沿った断面における、下記(1)~(4)により定義される厚み差tdifが、50um以下である、熱電変換モジュール。
(1)前記断面における熱電素子の厚みプロファイルを触針式表面形状測定器により測定する。
(2)前記測定された厚みプロファイルより、前記熱電素子の両端部を除いた中央部における厚みの平均を算出し、該算出された厚みの平均を素子平均厚みtavとする。但し、前記中央部とは、前記断面における前記熱電素子と前記支持体との境界線の長さをLとし、前記長さLの境界線から、前記境界線の一端から内側に1/6Lまでの線分及び前記境界線の他端から内側に1/6Lまでの線分を除いた、長さ2/3Lの線分を中央線分としたときに、前記熱電素子のうち、前記中央線分の両端から前記支持体主面の垂直方向に延在する線分とによって挟まれる領域部をいう。
(3)前記測定された厚みプロファイルより、前記熱電素子の厚みの最大値を検出し、該検出された厚みの最大値を最大厚みtmaxとする。
(4)前記厚み差tdifを、前記最大厚みtmaxと前記素子平均厚みtavとの差(tdif=tmax-tav)とする。
[2]支持体と、前記支持体上に形成されたP型熱電素子及びN型熱電素子が交互に配置され、前記配置の方向に電子が移動するように、隣り合うP型熱電素子及びN型熱電素子が電気的に接続された熱電素子層と、を有し、前記熱電素子層は、熱電半導体粒子と樹脂とを含む熱電半導体組成物からなり、前記P型熱電素子及び前記N型熱電素子の少なくともいずれか一方の熱電素子の、前記配置の方向に対して垂直方向に沿った断面における、下記(1)~(4)により定義される厚み差tdifが、50um以下である、熱電変換モジュール。
(1)前記断面における熱電素子の厚みプロファイルを触針式表面形状測定器により測定する。
(2)前記測定された厚みプロファイルより、前記熱電素子の両端部を除いた中央部における厚みの平均を算出し、該算出された厚みの平均を素子平均厚みtavとする。但し、前記中央部とは、前記断面における前記熱電素子と前記支持体との境界線の長さをLとし、前記長さLの境界線から、前記境界線の一端から内側に1/6Lまでの線分及び前記境界線の他端から内側に1/6Lまでの線分を除いた、長さ2/3Lの線分を中央線分としたときに、前記熱電素子のうち、前記中央線分の両端から前記支持体主面の垂直方向に延在する線分とによって挟まれる領域部をいう。
(3)前記測定された厚みプロファイルより、前記熱電素子の厚みの最大値を検出し、該検出された厚みの最大値を最大厚みtmaxとする。
(4)前記厚み差tdifを、前記最大厚みtmaxと前記素子平均厚みtavとの差(tdif=tmax-tav)とする。
[3]前記P型熱電素子のゲージ素子厚みtgaと前記N型熱電素子のゲージ素子厚みtgaとが異なり、前記P型熱電素子及び前記N型熱電素子のうち、ゲージ素子厚みtgaが大きい方の熱電素子の、前記厚み差tdifが50μm以下である、上記[1]又は[2]に記載の熱電変換モジュール。
[4]前記P型熱電素子のゲージ素子厚みtgaと前記N型熱電素子のゲージ素子厚みtgaとが等しく、前記P型熱電素子及び前記N型熱電素子の両方の、前記厚み差tdifが50μm以下である、上記[1]又は[2]に記載の熱電変換モジュール。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外部から付与された熱を効率的に伝達することで熱伝達効率を向上させ、高い起電力が得られる熱電変換モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る熱電変換モジュールの構成を示す部分断面図である。
図2】所定の配列パターンで電極が設けられた支持体の模式的な平面図である。
図3】電極を備える支持体の一方の主面側に設けられたP型熱電素子及びN型熱電素子の配置パターンを示す平面図である。
図4】P型熱電素子及びN型熱電素子を備える支持体の主面側に設けられた第1高熱伝導層の配置パターンを示す平面図である。
図5図3の符号III-IIIで示すラインに沿った熱電変換モジュールの部分断面図である。
図6A】熱電素子層を形成する工程の一例を説明するための図である(その1)。
図6B】熱電素子層を形成する工程の一例を説明するための図である(その2)。
図6C図6A及び図6Bにおける印刷版を説明するための斜視図である。
図7A】比較例2~4で使用したN型熱電素子形成用印刷版を説明するための図である。
図7B図7AにおけるN型熱電素子形成用印刷版を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある)について説明する。
本明細書において、「Aの厚みとBの厚みとが異なる」とは、A及びBのうちの一方の厚みが、他方の厚みの0.900倍以下又は1.111倍以上であることを意味する。
また、本明細書において、「Aの厚みとBの厚みとが等しい」とは、A及びBのうちの一方の厚みが他方の厚みの0.900倍超1.111倍未満であることを意味する。
また、本明細書において、「Aの厚みがBの厚みより大きい」とは、Aの厚みがBの厚みの1.111倍以上であることを意味する。
さらに、本明細書において、「Aの厚みがBの厚みより小さい」とは、Aの厚みがBの厚みの0.900倍以下であることを意味する。
【0013】
[熱電変換モジュールの構成]
本発明の実施形態に係る熱電変換モジュールは、支持体と、該支持体上に形成されたP型熱電素子及びN型熱電素子が交互に配置され、該配置の方向に電子が移動するように、隣り合うP型熱電素子及びN型熱電素子が電気的に接続された熱電素子層と、を有し、必要に応じて、熱電素子層を構成するP型熱電素子とN型熱電素子との電気的な接続を行う電極と、熱電素子層の表面を覆う被覆層と、被覆層の熱電素子層とは反対側の面に設けられた高熱伝導層と、をさらに有する。
ここで、熱電素子層は、(1)塗布膜からなること、及び、(2)熱電半導体粒子と樹脂とを含む熱電半導体組成物からなること、の少なくともいずれかを満たすものであり、スクリーン印刷等の塗布で形成される。
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る熱電変換モジュールの構成を、図面を用いて説明する。図面は全て模式的なものであり、理解を容易にするため誇張している場合がある。
図1は、本発明の実施形態に係る熱電変換モジュールの構成を示す部分断面図であり、後述する図4の符号IV-IVで示すラインに沿う、熱電変換モジュール1Aの中央付近の部分断面図である。図1に示すように、熱電変換モジュール1Aは、所定のパターンを有する電極3が形成された支持体2を有し、支持体2の一方の主面(電極3側の主面側)に形成されたP型熱電素子5及びN型熱電素子4からなる熱電素子層6と、熱電素子層6の支持体2とは反対側の面に積層された、第1被覆層81と、第1被覆層81の熱電素子層6とは反対側の面に設けられた第1高熱伝導層91と、支持体2の他方の主面上に積層された第2被覆層82と、第2被覆層82の熱電素子層6とは反対側の面に設けられた第2高熱伝導層92と、を有する。この実施形態においては、支持体は、熱電変換モジュールの実装時に残存する基板である。
以下の説明において、第1被覆層と第2被覆層とをまとめて「被覆層」ということがある。また、第1高熱伝導層と第2高熱伝導層とをまとめて「高熱伝導層」ということがある。
【0015】
図2は、所定の配列パターンで電極が設けられた支持体の模式的な平面図である。図2に示すように、四角形状の支持体2の一方の主面上に設けられる電極3は、複数の列状に設けられた熱電素子層6の各列を互いに電気的に接続するための複数の第1電極部3a(連結用電極部)と、熱電素子層6からの熱起電力の取り出し、又は、熱電素子層6への電圧印加のための端子となる2つの外部接続用の第2電極部3b(起電力取り出し用電極部)と、交互に隣り合うようにして列状に配置されたP型熱電素子5とN型熱電素子4とを電気的に接続するための多数の第3電極部3cと、を有する。各電極部3a~3cはそれぞれ島状に分かれて配置されている。
【0016】
図3は、電極を備える支持体の一方の主面側に設けられたP型熱電素子及びN型熱電素子の配置パターンを示す平面図である。
図3に示すように、P型熱電素子5とN型熱電素子4で構成される熱電素子層6の列が、複数並んで配置されている。熱電素子層6の各列において、端部以外の隣り合う熱電素子4,5の接合部に重なるように第3電極部3cが配置されている。熱電素子層6の各列の一方の端部に接するように、第1電極部3aが配置されている。第1電極部3aは、ある熱電素子層6の列の一方の端部のP型熱電素子5又はN型熱電素子4と、次の熱電素子層6の列の一方の端部のN型熱電素子4又はP型熱電素子5とを電気的に接合している。熱電素子層6の各列の他方の端部も同様に次の熱電素子層6の列の端部と第1電極部3aによって電気的に接合されている。両端に位置する熱電素子層6の列における一方の端部の熱電素子4,5が、第2電極部3bにそれぞれ接続されている。こうして、支持体2上に二次元的に配置されたP型熱電素子5及びN型熱電素子4が、各電極部3a~3cによって電気的に直列接続され、結果的に、支持体2の主面上で蛇行するように通電経路が形成されている。
【0017】
P型熱電素子5及びN型熱電素子4の形状は、特に限定されないが、P型熱電素子5及びN型熱電素子4を、隣り合う熱電素子層6同士を電気的に接続させつつ交互に配置することが容易である観点から、矩形であることが好ましい。矩形の熱電素子4,5のは、熱電素子4,5の配置の方向Yに短辺を有し、熱電素子4,5の配置の方向Yの垂直方向Zに長辺を有することが好ましい。熱電素子4,5がこのような形状であることで、P型熱電素子5及びN型熱電素子4の面積あたりの繰り返し数を増やしつつ、配置されたP型熱電素子5及びN型熱電素子4の帯状の列の幅を大きくし、熱電効率を高めることができる。矩形の熱電素子4,5の短辺の長さは、0.3~3mmであることが好ましく、0.5~2mmであることがより好ましい。長辺の長さは、2~20mmであることが好ましく、4~15mmであることがより好ましい。
ここで、「熱電素子4,5の配置の方向Yに対して垂直方向Z」は、図3の平面図に即した平面視における、熱電素子4,5の配置の方向Yに対して垂直となる方向であり、通常、後述する「熱電素子層6を形成する工程」において、熱電半導体組成物(塗工液)を支持体上に塗布する際の塗布方向Zである。
【0018】
図4は、P型熱電素子及びN型熱電素子を備える支持体の主面側に設けられた第1高熱伝導層の配置パターンを示す図である。
なお、図4においては、理解を容易にするために、第1被覆層81の図示を省略している。
図4に示すように、第1高熱伝導層91は、各熱電素子層6の列に交差するように配置された複数のストライプ状に形成されている。第1高熱伝導層91は、P型熱電素子5とN型熱電素子4との接合部を一つおきに覆っている。第2高熱伝導層92も、各熱電素子層6の列に交差する複数のストライプ状に形成されており、図4には示していないが、支持体2の主面に垂直な方向から見て、第1高熱伝導層91によって覆われていない熱電素子4,5の接合部に対応する位置に、第2高熱伝導層92が配置されている。結果的に、ストライプ状の高熱伝導層91、92の並び方向の縦断面において、第1高熱伝導層91と第2高熱伝導層92とが、熱電素子層6に対して互い違いに配置されている。なお、支持体2の主面に垂直な方向において、第1高熱伝導層91の幅方向の端部と第2高熱伝導層92の幅方向の端部とが一致してもよいし、重なっていてもよいし、離れていてもよい。
【0019】
図2図3においては、第3電極部3cの数を42個(=7個×6列)、第1電極部3aの数を5個、P型熱電素子5及びN型熱電素子4の数をそれぞれ24個(=4個×6列)としており、また、図4においては、第1高熱伝導層91の数を4本としているが、これらの数は適宜変更可能である。各電極部3の大きさや位置も適宜変更可能である。また、図2では、2つの第2電極部3bを支持体2の一つの辺に接するように配置しているが、これに限るものではなく、熱電変換モジュールの用途分野や使用環境等に合わせて、2つの第2電極部3bを支持体2の別々の辺に接するように配置しても構わない。
【0020】
なお、上記実施形態において、被覆層上の高熱伝導層が設けられていない領域には何らの層も設けられていないが、例えば、低熱伝導層等の部材を設けてもよい。この場合には、被覆層は高熱伝導層だけでなく、低熱伝導層等の部材の固定材として機能することもできる。熱電変換モジュールの熱電変換性能の向上の観点から、低熱伝導層の熱伝導率は、高熱伝導層の熱伝導率よりも低いことが好ましい。
なお、上記実施形態のように、被覆層上の高熱伝導層が設けられていない領域に何らの層も設けられず、被覆層が露出している場合には、低熱伝導層の代わりに大気が存在することになり、大気の熱伝導率は、例えば、0.02W/(m・K)程度と非常に低いために、低熱伝導層を設けた場合と同等以上の熱電変換性能を発揮し得る。
【0021】
図5は、図3の符号III-IIIで示すラインに沿った熱電変換モジュールの部分断面図である。
図5に示す断面50は、熱電素子4,5の配置の方向(即ち、熱電素子層6における電子の移動方向)に対して垂直方向(図3における塗布方向Z)に沿った、支持体2及び熱電素子4,5についての断面である。
なお、図3の符号III-IIIに示すラインは、図3における右から2個目の熱電素子4,5の方向Yにおける長さの中央に沿うラインである。すなわち、図5における熱電素子4,5の断面は、熱電素子4,5の方向Y(図3)の長さにおける中央を通る様にZ方向に切断した場合における断面である。
【0022】
P型熱電素子5及びN型熱電素子4のゲージ素子厚みtgaが異なる場合は、熱電変換モジュール1Bの外部からの熱が、より厚い熱電素子に優先的に伝わることから、より厚い熱電素子内の厚み差tdifを小さくすることが、熱電素子層6の起電力をより向上させることができる点で好ましい。一方、P型熱電素子5及びN型熱電素子4のゲージ素子厚みtgaが等しい場合は、上述したような優先的な熱伝達はないため、P型熱電素子5及びN型熱電素子4のいずれの厚み差tdifをも、小さくすることが好ましい。
ここで、ゲージ素子厚みtgaとは、熱電素子に対して、厚みゲージで1点厚み測定し、測定された厚みから支持体の厚みを減じることにより求めた、熱電素子の厚みである。ここで、熱電素子のゲージ素子厚みtgaの算出は、例えば、後述する実施例でも示すように、以下のように行う。まず、1枚の熱電素子層付き支持体における複数の熱電素子から無作為に選んだ5個の熱電素子に対してゲージ素子厚みtgaの測定を行い、5個の熱電素子の測定値の平均である第1平均値を算出する。斯かる厚み測定を、3枚の熱電素子層付き支持体について行い、熱電素子層付き支持体3枚分の3個の第1平均値の平均を算出して第2平均値とし、該第2平均値をゲージ素子厚みtgaとする。
なお、ゲージ素子厚みtgaの測定に用いる厚みゲージとしては、特に制限はなく、例えば、株式会社テクロック製デジタルインジケータPC-465J等の市販品が挙げられる。
【0023】
P型熱電素子及びN型熱電素子のゲージ素子厚みtgaの値は、特に限定はなく、上述のとおり、両者が、同じ厚みでも異なる厚みでもよい。屈曲性、材料コストの観点から、P型熱電素子及びN型熱電素子のゲージ素子厚みtgaは、0.1~300μmが好ましく、1~200μmがさらに好ましい。
【0024】
なお、熱電素子層の形成をスクリーン印刷法で以下のように行う場合、先に形成された熱電素子(図6A及び図6Bでは、P型熱電素子5)よりも、後に形成された熱電素子(図6A及び図6Bでは、N型熱電素子4)の方が、通常、ゲージ素子厚みtgaが大きくなる。
以下、スクリーン印刷法による熱電素子層の形成を説明する。
まず、図6Aに示すように、印刷版60を支持体2の上方に配置し、熱電半導体組成物(塗工液)を印刷版60の開口(孔部)61を介して支持体2上に塗布し、乾燥することにより、P型熱電素子5及びN型熱電素子4のうちの一方の熱電素子(図6Aでは、P型熱電素子5)を支持体2上に形成する。次に、図6Bに示すように、支持体2上に既に形成された熱電素子(図6Bでは、P型熱電素子5)を潰さないように、印刷版60を支持体2の上方に配置し、熱電半導体組成物(塗工液)を印刷版60の開口(孔部)61を介して支持体2上に塗布し、乾燥することで、P型熱電素子5及びN型熱電素子4のうちの他方の熱電素子(図6Bでは、N型熱電素子4)を支持体2上に形成する。その後、アニール処理を行う。ここで、熱電半導体組成物を塗布する方向(塗布方向Z)は、熱電素子4,5の配置の方向Yに対して垂直方向Zであることが好ましい。上述のように、熱電素子が矩形である場合には、熱電素子4,5の配置の方向Yに対して垂直方向Zに熱電素子が長辺を有することが好ましい。この場合に、熱電素子4,5の配置の方向Yに熱電半導体組成物を塗布すると、スキージが印刷版の矩形パターンの長辺に引っかかりやすく、塗布に支障が生じる場合がある。塗布方向Zを熱電素子4,5の長辺方向、すなわち、熱電素子4,5の配置の方向Yに対して垂直方向Zとすることで、このような問題を回避でき、塗布を容易にすることができる。
【0025】
以下、厚み差tdifを定義するために必要な文言について図5を用いて説明する。
図5において、熱電素子4,5と支持体2との界面を境界線51とし、該境界線51の長さをLとする。また、境界線51の一端Pから内側に1/6Lまでの線分52、及び、境界線51の他端Qから内側に1/6Lまでの線分53を、長さLの境界線51から除いた、長さ2/3Lの線分を中央線分54とする。また、熱電素子4,5のうち、中央線分54の両端54a,54bから支持体主面2aの垂直方向に延在する線分55,56とによって挟まれる領域部を中央部57とする。さらに、線分55から一端Pまでの領域を端部58とし、線分56から一端Qまでの領域を端部59とする。
【0026】
以下、本発明で規定された厚み差tdifの算出について図5を用いて説明する。
(1)まず、図5の断面における熱電素子4,5の厚みプロファイルを触針式表面形状測定器により測定する。
ここで、厚みプロファイルは、断面の全領域(即ち、中央部57及び両端部58,59)について測定される。
なお、厚みプロファイルの測定に用いる触針式表面形状測定器としては、特に制限はなく、例えば、アルバック社製Dectak150等の市販品が挙げられる。
厚みプロファイルにおける厚みの測定頻度としては、特に制限はないが、より正確な厚みプロファイルを得ることができる点で、1μm毎の頻度よりも大きい(1μm未満毎の頻度である)ことが好ましい。
なお、厚みプロファイルは、例えば、後述する実施例に示すように測定する。まず、1枚の熱電素子層付き基板における複数の熱電素子から無作為に選んだ5個の熱電素子に対して、厚みプロファイル測定を行い、斯かる厚みプロファイル測定を3枚の熱電素子層付き基板について行う。即ち、厚みプロファイルを15個得る。
なお、本明細書において、「熱電素子層付き基板」とは、支持体としての基板と熱電素子層とを備えるユニットであって、本発明の「熱電変換モジュール」に相当する。
(2)次に、測定された厚みプロファイルより、熱電素子4,5の両端部58,59を除いた中央部57における厚みの平均を各厚みプロファイル毎に算出し、該算出された厚みの平均をそれぞれ素子平均厚みtavとする。
(3)さらに、測定された厚みプロファイルより、熱電素子4,5の厚みの最大値を各厚みプロファイル毎に検出し、該検出された厚みの最大値をそれぞれ最大厚みtmaxとする。
(4)最後に、最大厚みtmaxと素子平均厚みtavとの差(tdif=tmax-tav)を各厚みプロファイル毎に算出し、まず、上記無作為に選んだ5つの熱電素子についての最大厚みtmaxと素子平均厚みtavとの差の平均(即ち、5個の厚みプロファイルから得られた5個の差の平均)を算出してこれを第1平均値とし、さらに、熱電素子層付き基板3枚分の3個の第1平均値の平均(即ち、15個の厚みプロファイルから得られた15個の差の平均)を算出してこれを第2平均値とし、該第2平均値を厚み差tdifとする。
なお、ここでは、3枚の熱電素子層付き基板についての厚みプロファイルを測定したが、2枚の熱電素子層付き基板しか得られない場合は、2枚の熱電素子層付き基板についての厚みプロファイルを測定して、上記と同様に第2平均値を算出し、また、1枚の熱電素子層付き基板しか得られない場合は、第1平均値を第2平均値とする。
【0027】
本発明の熱電変換モジュールにおける熱電素子層、即ち、スクリーン印刷等の塗布によりP型熱電素子及びN型熱電素子を交互に形成したインプレーン型熱電素子層において、P型熱電素子及びN型熱電素子の少なくともいずれか一方の素子内における厚み差tdifが50um以下となることで、外部から付与された熱が熱電素子層により効率的に伝達され、熱電素子層と熱電モジュール外部の間の熱伝達効率を向上させることができ、起電力を向上させることができる。
【0028】
厚み差tdifとしては、50um以下である限り、特に制限はないが、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。
ここで、厚み差tdifをより小さくするために、熱電素子の厚みを小さくしてもよく、プレスや研磨等により、形成時に生じた厚み差tdifを矯正してもよく(即ち、最大厚みtmaxを小さくしてもよく)、熱電半導体組成物(塗工液)の粘度を調製して最大厚みtmaxを小さくしてもよい。
また、起電力をより向上させる観点から、通常、熱電素子4,5のゲージ素子厚みtga及び素子平均厚みtavの絶対値を大きくすることが好ましい。
【0029】
本発明の熱電変換モジュールにおける熱電素子層は塗布により形成されるものであるが、後述する実施例のように、矩形状の開口(孔部)を有する印刷版を用いたスクリーン印刷法で塗布を行った場合、熱電素子の断面は、通常、図5に示すように、塗布の終点側の端部59に最大厚みtmaxが存在する形状となる。このような傾向は、矩形状の開口の塗布方向の長さが、例えば、2mm以上と長い場合に顕著である。
【0030】
以下、熱電変換モジュール1Aを構成する各部について詳細に説明する。
<支持体>
支持体は、少なくとも熱電素子層を支持するものである。支持体は、熱電素子層を他の部材に適用した後に除去される仮固定用の支持体であってもよいし、最終的に熱電変換モジュールに残存する基板であってもよい。支持体は、熱電素子層のほか、電極等を支持してもよく、基板は、さらに被覆層、高熱伝導層等を支持してもよい。
支持体としては、熱電素子層の電気伝導率の低下、熱伝導率の増加に影響を及ぼさず、仮固定用と使用した場合でも除去が容易であり、屈曲性に優れるプラスチックフィルムを用いることが好ましい。支持体を基板として用いる場合には、後述する熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、基板が熱変形することなく、熱電素子層の性能を維持することができ、耐熱性及び寸法安定性が高いという点から、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、ポリアミドイミドフィルムが好ましく、さらに、汎用性が高いという点から、ポリイミドフィルムが特に好ましい。基板は、熱電素子層と対向する表面に、熱電素子層と接合するための接着層を有していてもよい。
【0031】
支持体として用いるプラスチックフィルムの厚みは、屈曲性、耐熱性及び寸法安定性の観点から、1~1,000μmが好ましく、10~500μmがより好ましく、20~100μmがさらに好ましい。
また、上記フィルムは、分解温度が300℃以上であることが好ましい。
【0032】
基板としてプラスチックフィルムを用いるとともに、他の層を薄く形成することにより、熱電変換モジュール全体を、薄くてフレキシブルなシート状のものとすることができる。
【0033】
<熱電素子層>
熱電素子層は、P型熱電素子及びN型熱電素子が交互に配置され、該配置の方向に電子が移動するように、隣り合うP型熱電素子及びN型熱電素子が電気的に接続されている。ここで、隣り合うP型熱電素子及びN型熱電素子は、例えば、図1に示すように、素子側面において電気的に接続されていることが好ましい。
さらに、熱電素子層は、(1)塗布膜からなること、及び、(2)熱電半導体粒子と樹脂とを含む熱電半導体組成物からなること、の少なくともいずれかを満たす。
熱電半導体組成物は、熱電半導体粒子、樹脂、並びに、イオン液体及び無機イオン性化合物の一方又は双方を含むことが好ましい。
【0034】
(熱電半導体粒子)
熱電素子層に用いる熱電半導体粒子は、熱電半導体材料を、微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕することが好ましい。
【0035】
P型熱電素子及びN型熱電素子を構成する材料としては、温度差を付与することにより、熱起電力を発生させることができる材料であれば特に制限されず、例えば、P型ビスマステルライド、N型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料;GeTe、PbTe等のテルライド系熱電半導体材料;アンチモン-テルル系熱電半導体材料;ZnSb、ZnSb、ZnSb等の亜鉛-アンチモン系熱電半導体材料;SiGe等のシリコン-ゲルマニウム系熱電半導体材料;BiSe等のビスマスセレナイド系熱電半導体材料;β―FeSi、CrSi、MnSi1.73、MgSi等のシリサイド系熱電半導体材料;酸化物系熱電半導体材料;FeVAl、FeVAlSi、FeVTiAl等のホイスラー材料;TiS等の硫化物系熱電半導体材料;スクッテルダイト材料;などが用いられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、地政学的な問題から供給が不安定なレアメタルを含まないという観点からは、シリサイド系熱電半導体材料が好ましく、高温環境で熱電変換モジュールを機能させることを容易とすることができるという観点からは、スクッテルダイト材料が好ましい。
【0036】
また、低温環境での熱電変換性能が高いという観点からは、熱電半導体材料は、P型ビスマステルライド又はN型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料であることが好ましい。
P型ビスマステルライドは、キャリアが正孔で、ゼーベック係数が正値であり、例えば、BiTeSb2-Xで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Xは、好ましくは0<X≦0.8であり、より好ましくは0.4≦X≦0.6である。Xが0より大きく0.8以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、P型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
また、N型ビスマステルライドは、キャリアが電子で、ゼーベック係数が負値であり、例えば、BiTe3-YSeで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Yは、好ましくは0≦Y≦3(Y=0の時:BiTe)である。Yが0以上3以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、N型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
【0037】
熱電半導体粒子の熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは、30~99質量%である。より好ましくは、50~98質量%であり、さらに好ましくは、70~97質量%である。熱電半導体粒子の配合量が、上記範囲内であれば、ゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が大きく、また電気伝導率の低下が抑制され、熱伝導率のみが低下するため高い熱電性能を示すとともに、十分な皮膜強度、屈曲性を有する膜が得られ好ましい。
【0038】
熱電半導体粒子の平均粒径は、好ましくは、10nm~200μm、より好ましくは、10nm~30μm、さらに好ましくは、50nm~10μm、特に好ましくは、1~6μmである。上記範囲内であれば、均一分散が容易になり、電気伝導率を高くすることができる。
熱電半導体材料を粉砕して熱電半導体粒子を得る方法は特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、エッジミル、製粉ミル、ハンマーミル、ペレットミル、ウィリーミル、ローラーミル等の公知の微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕すればよい。
なお、熱電半導体粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分析装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)にて測定することにより得られ、粒径分布の中央値とした。
【0039】
また、熱電半導体粒子は、アニール処理(以下、「アニール処理A」ということがある。)されたものであることが好ましい。アニール処理Aを行うことにより、熱電半導体粒子は、結晶性が向上し、さらに、熱電半導体粒子の表面酸化膜が除去されるため、熱電変換材料のゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が増大し、熱電性能指数をさらに向上させることができる。アニール処理Aは、特に限定されないが、熱電半導体組成物を調製する前に、熱電半導体粒子に悪影響を及ぼすことがないように、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、同じく水素等の還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行うことが好ましく、不活性ガス及び還元ガスの混合ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。具体的な温度条件は、用いる熱電半導体粒子に依存するが、通常、粒子の融点以下の温度で、かつ100~1500℃で、数分~数十時間行うことが好ましい。
【0040】
(樹脂)
熱電素子層に含まれる樹脂は、熱電半導体粒子間のバインダーとして働き、熱電変換材料の印刷適性や被膜強度を高めるためのものである。樹脂としては、特に制限されるものではないが、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理等により熱電半導体粒子を結晶成長させる際に、樹脂としての機械的強度及び熱伝導率等の諸物性が損なわれず維持される樹脂を用いることが好ましい。
樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、エポキシ樹脂、及びこれらの樹脂の化学構造を有する共重合体等が挙げられる。樹脂は、単独でも又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、耐熱性が高く、かつ薄膜中の熱電半導体粒子の結晶成長に悪影響を及ぼさないという点から、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、耐熱性により優れるという点からポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましい。前述の支持体として、ポリイミドフィルムを用いる場合、ポリイミドフィルムとの密着性などの点から、樹脂としては、ポリイミド樹脂がより好ましい。なお、本願明細書においてポリイミド樹脂とは、ポリイミド及びその前駆体(例えば、ポリアミック酸等)を総称する。
【0041】
樹脂は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電変換材料の被膜強度を維持することができる。
【0042】
また、樹脂は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電変換材料の被膜強度を維持することができる。
【0043】
樹脂の熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.1~40質量%、より好ましくは0.5~20質量%、さらに好ましくは0.7~20質量%である。樹脂の配合量が、上記範囲内であれば、高い熱電性能と印刷適性、皮膜強度が両立した膜が得られやすい。
【0044】
(イオン液体)
熱電素子層に含まれるイオン液体は、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、-50以上400℃未満の幅広い温度領域において液体で存在し得る塩をいう。イオン液体は、蒸気圧が極めて低く不揮発性であること、優れた熱安定性及び電気化学安定性を有していること、粘度が低いこと、かつイオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。また、イオン液体は、非プロトン性のイオン構造に基づく高い極性を示し、樹脂との相溶性に優れるため、熱電変換材料の電気伝導率を均一にすることができる。
【0045】
イオン液体は、公知または市販のものが使用できる。例えば、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピラゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、イミダゾリウム等の窒素含有環状カチオン化合物及びそれらの誘導体;テトラアルキルアンモニウム系のアミン系カチオン及びそれらの誘導体;ホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、テトラアルキルホスホニウム等のホスフィン系カチオン及びそれらの誘導体;リチウムカチオン及びその誘導体等のカチオン成分と、Cl、Br、I、AlCl 、AlCl 、BF 、PF 、ClO 、NO 、CHCOO、CFCOO、CHSO 、CFSO 、(FSO、(CFSO、(CFSO、AsF 、SbF 、NbF 、TaF 、F(HF) 、(CN)、CSO 、(CSO、CCOO、(CFSO)(CFCO)N等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0046】
上記のイオン液体の中で、高温安定性、熱電半導体粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、イオン液体のカチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0047】
カチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、4-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、3-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、3-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、4-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3、4-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、3、5-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、4-メチル-ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチルピリジニウムブロミド(N-ブチルピリジニウムブロミド)、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、1-ブチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファートが好ましい。
【0048】
また、カチオン成分が、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムメチルスルフェート、1、3-ジブチルイミダゾリウムメチルスルフェート等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]が好ましい。
【0049】
上記のイオン液体は、電気伝導度が10-7S/cm以上であることが好ましい。イオン伝導度が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0050】
また、上記のイオン液体は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0051】
また、上記のイオン液体は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0052】
イオン液体の熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~20質量%である。イオン液体の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下が効果的に抑制され、高い熱電性能を有する膜が得られる。
【0053】
(無機イオン性化合物)
熱電素子層に含まれる無機イオン性化合物は、少なくともカチオンとアニオンから構成される化合物である。無機イオン性化合物は400~900℃の幅広い温度領域において固体で存在し、イオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体粒子間の電気伝導率の低減を抑制することができる。
【0054】
上記無機イオン性化合物を構成するカチオンとしては、金属カチオンを用いる。
金属カチオンとしては、例えば、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、典型金属カチオン及び遷移金属カチオンが挙げられ、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンがより好ましい。
アルカリ金属カチオンとしては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs及びFr等が挙げられる。
アルカリ土類金属カチオンとしては、例えば、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+等が挙げられる。
【0055】
上記無機イオン性化合物を構成するアニオンとしては、例えば、F、Cl、Br、I、OH、CN、NO 、NO 、ClO、ClO 、ClO 、ClO 、CrO 2-、HSO 、SCN、BF 、PF 等が挙げられる。
【0056】
熱電素子層に含まれる無機イオン性化合物は、公知または市販のものが使用できる。例えば、カリウムカチオン、ナトリウムカチオン、又はリチウムカチオン等のカチオン成分と、Cl、AlCl 、AlCl 、ClO 等の塩化物イオン、Br等の臭化物イオン、I等のヨウ化物イオン、BF 、PF 等のフッ化物イオン、F(HF) 等のハロゲン化物アニオン、NO 、OH、CN等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0057】
上記の無機イオン性化合物の中で、高温安定性、熱電半導体粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、無機イオン性化合物のカチオン成分が、カリウム、ナトリウム、及びリチウムから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。また、無機イオン性化合物のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl、Br、及びIから選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0058】
カチオン成分が、カリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、KBr、KI、KCl、KF、KOH、KCO等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、KBr、KIが好ましい。
カチオン成分が、ナトリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、NaBr、NaI、NaOH、NaF、NaCO等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、NaBr、NaIが好ましい。
カチオン成分が、リチウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、LiF、LiOH、LiNO等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、LiF、LiOHが好ましい。
【0059】
上記の無機イオン性化合物は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましく、10-6S/cm以上であることがより好ましい。電気伝導率が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0060】
また、上記の無機イオン性化合物は、分解温度が400℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0061】
また、上記の無機イオン性化合物は、熱重量測定(TG)による400℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0062】
無機イオン性化合物の熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。無機イオン性化合物の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下を効果的に抑制でき、結果として熱電性能が向上した膜が得られる。
なお、無機イオン性化合物とイオン液体とを併用する場合においては、熱電半導体組成物中における、無機イオン性化合物及びイオン液体の含有量の総量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。
【0063】
<電極>
電極は、熱電素子層を構成するP型熱電素子とN型熱電素子との電気的な接続を行うため、又は熱電素子層と外部との電気的な接続のために設けられる。電極には、各種の電極材料を用いることができる。接続の安定性、熱電性能の観点から、導電性の高い金属材料を用いることが好ましい。好ましい電極材料としては、金、銀、ニッケル、銅、これらの金属の合金、これらの金属や合金を積層したもの等が挙げられる。
電極の厚みは、好ましくは1μm~50μm、より好ましくは2.5μm~30μm、さらに好ましくは3μm~20μmである。電極の厚みが、上記範囲内であれば、電気伝導率が高く低抵抗となり熱電素子層のトータルの電気抵抗値を低く抑えられる。また、電極として十分な強度が得られる。さらに、電極の体積を大きくでき、使用中に電極を構成する金属元素の熱電素子中への拡散が起きても、電極の性能低下を抑制し得る。さらにまた、電極が熱電素子層中に埋め込まれやすく、熱電変換モジュールの表面の平滑性が保たれ、熱電性能も安定しやすくなる。
【0064】
<高熱伝導層>
高熱伝導層としては、熱伝導性に優れており、その熱伝導率が被覆層の熱伝導率よりも大きいものを用いる。高熱伝導層として、熱伝導率が5~500W/(m・K)のものを用いることが好ましく、15~420W/(m・K)のものがより好ましく、300~420W/(m・K)のものがさらに好ましい。
高熱伝導層を構成する材料としては、熱伝導率の大きいものであれば、特に制限されないが、好ましくは金属であり、より好ましくは銅、アルミニウム、銀、及びニッケルのいずれか1種であり、さらに好ましくは銅、アルミニウム、及び銀のいずれか1種であり、よりさらに好ましくは銅及びアルミニウムのいずれか1種である。
高熱伝導層は、ストライプ状、格子状、ハニカム状、櫛状、マトリクス状などのパターンで配置される。これによって、熱電変換モジュールの面方向に温度差を生じさせやすくなり、また、P型熱電素子とN型熱電素子との境界部分を露出させることで、外部との熱交換が効率的に行われる。結果的に、熱電変換モジュールの起電力性能、発熱性能、吸熱性能を向上させることができる。
図4でも説明したように、第1の高熱伝導層を、P型熱電素子とN型熱電素子との接合部を一つおきに覆うように熱電素子層の一方の面側に配置し、第2の高熱伝導層を、支持体(基板)の主面に垂直な方向から見て、第1の高熱伝導層によって覆われていない熱電素子の接合部に対応する位置に配置し、高熱伝導層の並び方向の縦断面において、第1の高熱伝導層と第2の高熱伝導層とが、熱電素子層に対して互い違いに配置することが好ましい。
高熱伝導層の厚みは、屈曲性、放熱性及び寸法安定性の観点から、40~550μmが好ましく、60~530μmがより好ましく、80~510μmがさらに好ましい。第1高熱伝導層91と第2高熱伝導層92の2つの高熱伝導層を設ける場合、これらは、同じ材質のものでもよいし、異なる材質のものでもよく、これらは、同じ厚みであってもよく、異なる厚みであってもよい。
【0065】
<被覆層>
被覆層は熱電素子層を覆うように配置する。被覆層の配置をこのようにすると、被覆層をパターン化して形成する必要がないため、生産性に優れる。また、熱電素子層の高熱伝導層が設けられていない領域に、低熱伝導層等の部材が設けられていない場合には、被覆層が熱電素子層を覆っていなければ熱電素子層が露出するが、被覆層が熱電素子層を覆うことで、高熱伝導層が存在しない領域において、被覆層が熱電素子層を保護することができる。
【0066】
上述した第1被覆層81と第2被覆層82のように、2つの被覆層を設ける場合、これらは、同じ材質のものでもよいし、異なる材質のものでもよい。
【0067】
支持体2(基板)の熱電素子層6側の面に対して反対側の面に積層した第2被覆層82は、単層のものであってもよいし、多層構成のものであってもよい。また、熱電変換モジュールから第2被覆層82をなくして、支持体2の裏面上に第2高熱伝導層を直接設けるようにしてもよい。
【0068】
単層の被覆層を用いる場合は、それ自体が接着性を有しており、高熱伝導層を熱電素子層に接着して固定できるものであることが好ましい。また、この単層の被覆層自体が、封止層であり、後述するように、所定の範囲内の水蒸気透過率を有する層や、ポリオレフィン系樹脂を含む組成物からなる層である場合は、被覆層は熱電素子層を覆っており、被覆層が熱電素子層を封止する部材として機能するためより好ましい。単層の被覆層を用いると、熱電変換モジュール内の層の数が少ないため、熱電変換モジュールの構成を簡素化することができ、熱電変換モジュールの製造工程も簡略にすることができる。また、被覆層の全体の厚みを小さくできるので、高熱伝導層と熱電素子層間の熱交換の効率を上げることができる。
【0069】
熱電変換モジュールが、複数の層を含む被覆層を有する場合、高熱伝導層と熱電素子層とを接着する機能や封止の機能など、複数の機能を各層に分担させやすくなるというメリットがある。例えば、中間層としての、後述する補助基板層にガスバリア性を付与し、補助基板層の両面に、それぞれ接着層としての内側層と外側層とを設けることで、ガスバリアの機能と接着の機能との両立を容易にすることができる。この場合に、さらに内側層および外側層の少なくとも一方が封止層も兼ねるものであれば、補助基板層のガスバリア性と、封止層である内側層および/または外側層の封止性により、熱電変換モジュールの耐久性の向上が期待できる。熱電変換モジュールが第1被覆層81を有する場合、熱電素子の厚み差tdifが大きいことにより、より熱電効率の低下が顕著になると考えられる。その理由は、厚み差tdifが大きいことにより、被覆層と熱電素子層の間の接着性が低下し、熱電素子層と外気との熱伝導が阻害されるためと推測される。
【0070】
被覆層の全体の厚みは、高熱伝導層と熱電素子層との間の熱伝導が効率的に行われるようにする観点から、1~200μmであることが好ましく、5~175μmであることがより好ましい。
【0071】
本実施形態に係る熱電変換モジュールは、外部から付与された熱を効率的に伝達することで熱伝達効率を向上させることができ、高い起電力を得ることができる。
また、本実施形態は、第1高熱伝導層91と第2高熱伝導層92という2つの高熱伝導層を備えることにより、熱電変換モジュールの面内に効率よく温度差を生じさせることができ、好ましい構成である。しかし、例えば、熱電変換モジュールの面積を大きくできたり、熱電変換モジュールの構成を極力簡素化することが求められたりする場合には、第2高熱伝導層92を省略することも可能である。
【0072】
[熱電変換モジュールの製造方法]
本実施形態の熱電変換モジュールの製造方法の一例としては、熱電素子層上に被覆層を形成し、被覆層の一方の面の一部に高熱伝導層をパターン状に形成する。より具体的な例を挙げると、図2に示すように、電極3がパターン配置された支持体2を準備する工程、図3に示すように、支持体2の一方の面上に、P型熱電素子5及びN型熱電素子4からなる熱電素子層6を形成する工程、熱電素子層6の面上に第1被覆層81を形成する工程、図4に示すように、第1被覆層81の面上の少なくとも一部に第1高熱伝導層91を形成する工程、支持体2の他方の面上に第2高熱伝導層92を形成する工程を含む。
以下、図に基づいて各工程を順次説明する。
【0073】
<電極が形成された支持体を準備する工程>
熱電変換モジュールの製造方法においては、例えば、図2に示すように、まず、所定パターンの電極3が一方の主面に形成された支持体2を準備する。電極3が形成された支持体を準備するためには支持体2上に前述した電極材料等を用いて電極を形成すればよい。支持体上に電極を形成する方法としては、支持体上にパターンが形成されていない電極を設けた後、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理(例えば、ウェットエッチング)、又はそれらを併用する等により、所定のパターンに加工する方法、又は、スクリーン印刷法、インクジェット法等により直接電極のパターンを形成する方法等が挙げられる。
パターンが形成されていない電極の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理気相成長法)、もしくは熱CVD、原子層蒸着(ALD)等のCVD(化学気相成長法)等のドライプロセス、又はディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティングや電着法等のウェットプロセス、銀塩法、電解めっき法、無電解めっき法、金属箔の積層等が挙げられ、電極の材料に応じて適宜選択される。
【0074】
<熱電素子層を形成する工程>
次に、図3に示すように、電極3がパターン配置された支持体2の一方の主面上に、熱電半導体組成物を用いて、P型熱電素子5及びN型熱電素子4からなる熱電素子層6を形成する。熱電素子層6は、例えば、上述した熱電半導体組成物の各材料が溶媒に溶解あるいは分散したワニス、インク等を支持体上に塗布することにより形成される。熱電半導体組成物を支持体上に塗布する方法としては、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スピンコート、ディップコート、ダイコート、スプレーコート、バーコート、ドクターブレード等の公知の方法が挙げられ、特に制限されない。塗布膜をパターン状に形成する場合は、所望のパターンを有するスクリーン版(印刷版)を用いて簡便にパターン形成が可能なスクリーン印刷が好ましく用いられる。スクリーン印刷法による熱電素子層の形成の具体的な実施形態は、上述したとおりである。
次いで、得られた塗布膜を乾燥することにより薄膜を形成する。塗布膜の乾燥方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等、従来公知の乾燥方法が採用できる。乾燥時の加熱温度は、80~150℃の範囲とすることができる。乾燥時の加熱時間は、加熱方法により異なるが、数秒~数十分とすることができる。
また、溶媒を使用して熱電半導体組成物を調製した場合、この組成物の塗布膜を乾燥するための加熱温度は、使用した溶媒を乾燥できる温度範囲であれば特に制限はない。
さらに、得られた塗布膜に対してアニール処理を行ってもよい。アニール処理は、前述したアニール処理Aと同様の条件で行うことができる。
なお、熱電素子層を形成した後、熱電素子層を支持体2から剥離し、例えば、別の支持体(基板)であって、耐熱性の低いものに貼り換えてもよい。
【0075】
<第1被覆層を形成する工程>
次に、熱電素子層6の、支持体2とは反対側の面上に第1被覆層81を形成する。被覆層は公知の方法で形成することができる。被覆層は、熱電素子層の面に直接形成してもよいし、予め剥離シート上に形成した被覆層を、熱電素子層に貼り合わせて、被覆層を熱電素子層に転写させることにより形成してもよい。
【0076】
被覆層が複数の層で構成される場合は、予め複数の層を含む被覆層を準備しておき、これを熱電素子層に貼り付けてもよいし、複数の層を構成する各層を順次熱電素子層上に積層して複数の層で構成される被覆層を熱電素子層上に形成してもよい。
【0077】
<第1の高熱伝導層を形成する工程>
第1被覆層81の面上の少なくとも一部に第1高熱伝導層91を形成する。熱電素子層6上に形成した被覆層81上に第1高熱伝導層91を設けてもよいし、被覆層81上に第1高熱伝導層91を設けてから、第1高熱伝導層91付きの被覆層81を支持体2に設けることもできる。
【0078】
<第2の高熱伝導層を形成する工程>
支持体2の他方の面の一部に第2高熱伝導層92を形成する。この場合、支持体2に第2被覆層82を設けてから第2高熱伝導層92を設けてもよいし、第2高熱伝導層92を設けた第2被覆層82を支持体2の他方の面に設けるようにしてもよい。蒸着、スパッタリング、印刷等によって、第2高熱伝導層92を直接形成した支持体を用いれば、支持体上に直接接して高熱伝導層が設けられた熱電変換モジュールを得ることができる。
【実施例0079】
次に、本発明の具体的な実施例を説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
後述する実施例及び比較例における厚み差評価及び起電力評価は、以下の手順で行った。
【0080】
[厚み差評価]
P型熱電素子及びN型熱電素子を配置した後であってアニール処理を行う前の熱電素子付き基板上に形成された熱電素子に対して、厚みゲージ(株式会社テクロック製、デジタルインジケータPC-465J)で1点厚み測定し、測定された厚みから基板の厚み(50μm)を減じることにより、熱電素子の厚みを求めた。熱電素子の厚みを求めるにあたり、まず、1枚の熱電素子層付き基板における複数の熱電素子から無作為に選んだ5個の熱電素子に対して厚み測定を行い、5個の熱電素子の測定値の平均である第1平均値を算出した。斯かる厚み測定を、3枚の熱電素子層付き基板について行い、熱電素子層付き基板3枚分の3個の第1平均値の平均を算出して第2平均値とし、該第2平均値をゲージ素子厚みtgaとした。
【0081】
次に、上記熱電素子層付き基板と同様の熱電素子付き基板をガラス板(長さ100mm×幅100mm×厚み0.7mm)に貼合し、P型熱電素子及びN型熱電素子のうち、ゲージ素子厚みtgaがより大きい素子(以下、ゲージ素子厚みtgaがより大きい素子を、「より厚い素子」ともいう。)(実施例1~5及び比較例1~4:N型熱電素子、実施例6:P型熱電素子)の、熱電素子の配置の方向と垂直方向(後述する塗工液(P)及び塗工液(N)の塗布方向)に沿った断面の厚みプロファイルを、触針式表面形状測定器(アルバック社製、Dectak150)を用いて測定した。測定頻度は、0.4μm毎とした。なお、測定部位は、電極の設けられていない部分とした。熱電素子の両端部を除いた中央部における厚みの平均を算出し、該算出された厚みの平均を素子平均厚みtavとした。なお、中央部は、上述のとおり定義した領域である。厚みプロファイルの測定を、まず、1枚の熱電素子層付き基板における複数の熱電素子から無作為に選んだ5個の熱電素子に対して行った。その結果、5個の素子平均厚みtavを得た。斯かる厚みプロファイルの測定を、3枚の熱電素子層付き基板について行った。その結果、15個の素子平均厚みtavを得た。さらに、測定した15個の厚みプロファイルより、熱電素子の厚みの最大値(最も厚い箇所の厚み)を各厚みプロファイル毎に検出し、検出された厚みの最大値を最大厚みtmaxとした。その結果、15個の最大厚みtmaxを得た。さらに、最大厚みtmaxと素子平均厚みtavとの差の平均を、上記無作為に選んだ5つの熱電素子について算出し、第1平均値(即ち、5個の厚みプロファイルから得られた5個の差の平均)とした。斯かる算出を、上記3枚の熱電素子層付き基板について行い、熱電素子層付き基板3枚分の3個の第1平均値の平均を算出して第2平均値(即ち、15個の厚みプロファイルから得られた15個の差の平均)とし、該第2平均値を厚み差tdifとした。結果を表1に示す。
【0082】
[起電力評価]
実施例および比較例で作製した熱電変換モジュールに対して、ホットプレートと水冷式チラーで温度差を20℃付与した状態(ホットプレートと水冷式チラーの設定温度を温度差が20℃となるように調整)で、ディジタルハイテスタ(日置電機株式会社製、型名:3801-50)を用いて、取り出し電極間の起電力を測定した。取り出し電極間の起電力が、0.4V以上となる場合を(○:許容)とし、0.4V未満となる場合を(×:不良)とした。
なお、起電力の測定は、作製した熱電変換モジュールの両側に熱電対を設置し、高温側と低温側の温度差の実測値を測定しながら行った。なお、温度差の実測値が20℃に一致せず、±5℃以内の差が生じる場合は、起電力と温度差との比例関係に基づき、上記のとおり測定した起電力を、20℃相当となるように補正計算した。結果を表1に示す。
【0083】
[熱電変換モジュールの作製]
<実施例1>
(熱電半導体粒子の作製)
ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるP型ビスマステルライドBi0.4TeSb1.6(高純度化学研究所製、粒径:90μm)を、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン社製、Premium line P-7)を使用し、窒素ガス雰囲気下で粉砕することで、熱電半導体粒子としての平均粒径2.5μmの熱電半導体微粒子T1を作製した。
また、ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるN型ビスマステルライドBiTe(高純度化学研究所製、粒径:90μm)を上記と同様に粉砕し、熱電半導体粒子としての平均粒径2.5μmの熱電半導体微粒子T2を作製した。
T1及びT2の平均粒径は、粉砕して得られた熱電半導体粒子に関して、レーザー回折式粒度分析装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)により粒度分布測定を行うことにより得た。
【0084】
(熱電半導体組成物の作製)
得られたP型ビスマス-テルル系熱電半導体材料の微粒子T1を94.6質量部、樹脂としてのポリアミドイミド溶液(荒川化学工業社製、製品名:コンポラセン AI301、溶媒:N-メチルピロリドン、固形分濃度:18質量%)2.9質量部(固形分換算)、及びイオン液体としてのN-ブチルピリジニウムブロミド2.5質量部を混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液(P)を調製した。
また、得られたN型ビスマス-テルル系熱電半導体材料の微粒子T2を95.0質量部、樹脂としてのポリアミドイミド溶液(荒川化学工業社製、製品名:コンポラセンAI301、溶媒:N-メチルピロリドン、固形分濃度:18質量%)2.7質量部(固形分換算)、及びイオン液体としてのN-ブチルピリジニウムブロミド2.3質量部を混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液(N)を調製した。
【0085】
(電極の形成及び配置)
以下の手順により、上述した図2及び3に準じた配置パターンで電極が設けられた基板を作製した。なお、上記図2及び3は、電極及び熱電素子の配置を概念的に示したものであり、実際に作製した電極及び熱電素子とは個数が異なる。
まず、銅箔を添付したポリイミドフィルム基板(宇部エクシモ株式会社製、製品名:ユピセルN、ポリイミド基板の厚み:50μm、銅箔:9μm)を準備した。そして、このポリイミドフィルム基板上の銅箔を、塩化第二鉄溶液を用いてウェットエッチングし、後述するP型及びN型熱電素子の配列に対応した配置パターンで配列された電極を形成した。電極は、後述する熱電素子の配置の、隣接するP型熱電素子とN型熱電素子の各境界を跨ぐように、550μm×6mmのサイズで形成した。パターニングされた銅箔上に、無電解めっきによりニッケル層(厚み:3μm)を選択的に積層し、次いでニッケル層上に、無電解めっきにより金層(厚み:400nm)を選択的に積層することで、電極を形成した。
【0086】
(熱電素子層の形成)
上記で調製した塗工液(P)を、板厚が30um、開口が1mm×6mmのP型熱電素子形成用印刷版を用いて、スクリーン印刷法により、熱電素子の配置の方向Yの垂直方向を塗布方向Zとして、電極が形成されたポリイミドフィルム上に塗布し、温度150℃で、10分間アルゴン雰囲気下で乾燥し、薄膜を形成した(図6A及び図6C図6Cの印刷版60は、図示の分かりやすさの便宜上、開口(孔部)61を3個有しているが、開口(孔部)61の数はこれに限定されるものではない。)参照)。次いで、同様に、上記で調製した塗工液(N)を、板厚が30um、開口が1mm×6mmのN型熱電素子形成用印刷版を用いて、スクリーン印刷法により、熱電素子の配置の方向Yの垂直方向Zを塗布方向として、前記ポリイミドフィルム上に塗布し、温度150℃で、10分間アルゴン雰囲気下で乾燥し、薄膜を形成した(図6B及び図6C参照)。
さらに、得られたそれぞれの薄膜に対し、水素とアルゴンの混合ガス(水素:アルゴン=3体積%:97体積%)雰囲気下で、加温速度5K/minで昇温し、325℃で30分間保持し、薄膜形成後のアニール処理を行うことにより、熱電半導体材料の微粒子を結晶成長させ、P型熱電素子及びN型熱電素子を作製した。
【0087】
(熱電素子の配置)
ポリイミドフィルム基板上の電極上に、塗工液(P)及び塗工液(N)を用い塗布することにより、1mm×6mmのP型熱電素子と、1mm×6mmのN型熱電素子とを交互に形成した。P型熱電素子とN型熱電素子は、長さ6mmの辺で接するように隣接して1つの対となっている。このようにして、P型熱電素子及びN型熱電素子380対を、ポリイミドフィルム基板の面内に、電気的に直列になるように設けた熱電素子層を、図3の熱電素子の配置と類似の配置で作製した。これにより、P型熱電素子及びN型熱電素子からなる熱電素子層の内部を熱電素子の配置の方向に電子が移動する。熱電素子層は、折り返し構造を有している。この際、P型熱電素子とN型熱電素子とを38対連結したものを一列として、これを10列設けた。熱電素子層の各列間の間隔は1mmであり、熱電素子層の各列の連結用電極は、0.55mm×13mmであり、起電力取り出し用電極は、12.775mm×6mmである。
なお、N型熱電素子のゲージ素子厚みtgaの方がP型熱電素子のゲージ素子厚みtgaよりも大きかった。
【0088】
(被覆層および高熱伝導層の形成)
絶縁層としてアルミ蒸着PETフィルム(三菱伸銅社製、厚み:12μm)を利用し、その両面に接着層(ソマール社製、商品名:EP-0002EF-01MB、厚み:25μm)をラミネートした構成の被覆層を作製した。ラミネートは、50℃の温度で行った。
作製した熱電素子層付き基板の上面(熱電素子層の表面)に、上記の被覆層を介して、また、熱電素子層付き基板の下面(基板における熱電素子層が設けられているのとは逆側の面)には、単層の接着層からなる被覆層(ソマール社製、商品名:EP-0002EF-01MB、厚み:25μm)を介して、それそれ、ストライプ状の高熱伝導性材料(銅箔)からなる高熱伝導層(C1020、厚み:200μm、幅:1mm、長さ:100mm、間隔:1mm、熱伝導率:398(W/m・K))を配置した。この際、ストライプ状の高熱伝導層は、P型熱電素子とN型熱電素子とが隣接する部位の上部(熱電素子の表面)及び下部(基板における熱電素子層が設けられているのとは逆側の面)に互い違いに配置した。また、熱電素子層付き基板の表面に設けた被覆層は、アルミ蒸着PETフィルムのアルミ蒸着形成面が、熱電素子層から遠位になるように配置した。
熱電素子層への被覆層のラミネート、基板への接着層のラミネート、並びに、被覆層及び接着層への高熱伝導層のラミネートは、いずれも80℃の温度で行った。
その後、150℃の環境下に30分間熱電変換モジュールを静置し、接着層を硬化させ、熱電変換モジュールを得た。
【0089】
<実施例2>
実施例1において、板厚が30umのN型熱電素子形成用印刷版を用いる代わりに、板厚が50umのN型熱電素子形成用印刷版を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱電変換モジュールを作製し、同様の測定及び評価を行った。なお、N型熱電素子のゲージ素子厚みtgaの方がP型熱電素子のゲージ素子厚みtgaよりも大きかった。
【0090】
<実施例3>
実施例1において、板厚が30umのN型熱電素子形成用印刷版を用いる代わりに、板厚が110umのN型熱電素子形成用印刷版を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱電変換モジュールを作製し、同様の測定及び評価を行った。なお、N型熱電素子のゲージ素子厚みtgaの方がP型熱電素子のゲージ素子厚みtgaよりも大きかった。
【0091】
<実施例4>
実施例1において、板厚が30umのP型熱電素子形成用印刷版を用いる代わりに、板厚が80umのP型熱電素子形成用印刷版を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱電変換モジュールを作製し、同様の測定及び評価を行った。なお、N型熱電素子のゲージ素子厚みtgaの方がP型熱電素子のゲージ素子厚みtgaよりも大きかった。
【0092】
<実施例5>
実施例1において、板厚が30umのP型熱電素子形成用印刷版及び板厚が30umのN型熱電素子形成用印刷版を用いる代わりに、板厚が80umのP型熱電素子形成用印刷版及び板厚が50umのN型熱電素子形成用印刷版を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱電変換モジュールを作製し、同様の測定及び評価を行った。なお、N型熱電素子のゲージ素子厚みtgaの方がP型熱電素子のゲージ素子厚みtgaよりも大きかった。
【0093】
<実施例6>
実施例1において、P型熱電素子を印刷した後にN型熱電素子を印刷する代わりに、N型熱電素子を印刷した後にP型熱電素子を印刷したこと以外は、実施例1と同様にして熱電変換モジュールを作製し、同様の測定及び評価を行った。なお、P型熱電素子のゲージ素子厚みtgaの方がN型熱電素子のゲージ素子厚みtgaよりも大きかった。
【0094】
<比較例1>
実施例1において、板厚が30umのP型熱電素子形成用印刷版及び板厚が30umのN型熱電素子形成用印刷版を用いる代わりに、板厚が150umのP型熱電素子形成用印刷版及び板厚が50umのN型熱電素子形成用印刷版を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱電変換モジュールを作製し、同様の測定及び評価を行った。なお、N型熱電素子のゲージ素子厚みtgaの方がP型熱電素子のゲージ素子厚みtgaよりも大きかった。
【0095】
<比較例2>
実施例1において、板厚が30umのP型熱電素子形成用印刷版及び板厚が30umのN型熱電素子形成用印刷版を用いる代わりに、板厚が150umのP型熱電素子形成用印刷版、及び、図7A及び図7B(但し、図7BのN型熱電素子形成用印刷版70は、図示の分かりやすさの便宜上、空隙部(溝)70Aを3個と開口(孔部)70Bを2個有しているが、空隙部(溝)70A及び開口(孔部)70Bの数はこれに限定されるものではない。また、図7BのN型熱電素子形成用印刷版70は、塗布方向Zについて180°反転して用いる)に示すような、板厚Tが180umであり、既に形成されたP型熱電素子が嵌るように高さHが130umの空隙部(溝)70Aが形成されているN型熱電素子形成用印刷版70を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱電変換モジュールを作製し、同様の測定及び評価を行った。なお、N型熱電素子のゲージ素子厚みtgaの方がP型熱電素子のゲージ素子厚みtgaよりも大きかった。
【0096】
<比較例3>
実施例1において、板厚が30um、開口が1mm×6mmのP型熱電素子形成用印刷版、及び、板厚が30umのN型熱電素子形成用印刷版を用いる代わりに、板厚が150um、開口が0.8mm×6mmのP型熱電素子形成用印刷版、及び、図7A及び図7Bに示すような、板厚Tが180umであり、既に形成されたP型熱電素子が嵌るように高さHが130umの空隙部(溝)70Aが形成されているN型熱電素子形成用印刷版70を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱電変換モジュールを作製し、同様の測定及び評価を行った。なお、N型熱電素子のゲージ素子厚みtgaの方がP型熱電素子のゲージ素子厚みtgaよりも大きかった。
【0097】
<比較例4>
実施例1において、板厚が30um、開口が1mm×6mmのP型熱電素子形成用印刷版、及び、板厚が30um、開口が1mm×6mmのN型熱電素子形成用印刷版を用いる代わりに、板厚が150um、開口が0.8mm×6mmのP型熱電素子形成用印刷版、及び、図7A及び図7Bに示すような、板厚Tが180um、開口(孔部)70Bが0.8mm×6mmであり、既に形成されたP型熱電素子が嵌るように高さHが130umの空隙部(溝)70Aが形成されているN型熱電素子形成用印刷版70を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱電変換モジュールを作製し、同様の測定及び評価を行った。なお、N型熱電素子のゲージ素子厚みtgaの方がP型熱電素子のゲージ素子厚みtgaよりも大きかった。
【0098】
【表1】
【0099】
表1より、比較例1~4の熱電変換モジュールにおいては、いずれの比較例でも、厚み差tdifが50um超であるため、高い起電力が得られなかった(0.40V未満:評価×)のに対し、実施例1~6の熱電変換モジュールにおいては、いずれの実施例でも、厚み差tdifが50um以下であるため、高い起電力が得られた(0.40V以上:評価〇)。
【0100】
1A、1B:熱電変換モジュール
2:支持体
2a:支持体主面
3:電極
3a:第1電極部(連結用電極部)
3b:第2電極部(起電力取り出し用電極部)
3c:第3電極部
4:N型熱電素子
5:P型熱電素子
6:熱電素子層
50:断面
51:境界線
52:線分
53:線分
54:中央線分
54a:端
54b:端
55:線分
56:線分
57:中央部
58:端部
59:端部
60:印刷版(スクリーン版)
61:開口(孔部)
70:印刷版(スクリーン版)
70A:空隙部(溝)
70B:開口(孔部)
81:第1被覆層
82:第2被覆層
91:第1高熱伝導層
92:第2高熱伝導層
H:高さ
P:一端
Q:他端
T:板厚
av:素子平均厚み
max:最大厚み
Y:熱電素子の配置の方向
Z:塗布方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B