IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤマハ発動機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-鞍乗型車両 図1
  • 特開-鞍乗型車両 図2
  • 特開-鞍乗型車両 図3
  • 特開-鞍乗型車両 図4
  • 特開-鞍乗型車両 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002051
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/04 20060101AFI20241226BHJP
   F16D 48/06 20060101ALI20241226BHJP
   B60W 10/00 20060101ALI20241226BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20241226BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20241226BHJP
【FI】
B60W50/04
F16D28/00 A
F16D48/06 102
B60W10/00 150
B60W10/02
B60W10/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101961
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】笠井 志信
(72)【発明者】
【氏名】南 賢吾
【テーマコード(参考)】
3D241
3J057
【Fターム(参考)】
3D241AA09
3D241AA71
3D241AB01
3D241AD30
3D241BA41
3D241CA12
3J057AA02
3J057BB04
3J057GA11
3J057GB40
3J057GE10
3J057HH06
3J057JJ01
(57)【要約】
【課題】クラッチの駆動システムを小型化しつつ、破損を抑制する。
【解決手段】鞍乗型車両は、エンジンと、変速装置と、クラッチと、クラッチモータと、回転出力軸と、ポテンショメータと、リンク機構と、制御装置とを備える。制御装置は、電源の投入後、且つ、前記鞍乗型車両の前記走行開始よりも前に、前記クラッチモータの回転が阻止されるまで前記クラッチモータを、前記クラッチにおける前記接続位置を超えた可動限度位置の方向へ検査駆動することによって前記調整機構を含む前記リンク機構を介してプレッシャプレートを移動させ、前記クラッチモータの回転が阻止された時の前記ポテンショメータの位置信号が前記可動限度位置に対応する範囲の外を表わす場合、前記鞍乗型車両の走行を禁止する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗型車両であって、
前記鞍乗型車両は、
エンジンと、
複数の変速段を有する変速装置と、
接続位置及び切断位置の間で移動するプレッシャプレートの位置に応じて前記エンジンと前記変速装置との間の動力伝達の切断及び接続を行なうクラッチと、
クラッチモータと、
前記クラッチモータの回転力を出力する回転出力軸と、
前記回転出力軸の回転位置を表わす位置信号を出力するポテンショメータと、
互いに結合された複数のリンクと、前記複数のリンクの少なくとも一つの長さを調整する調整機構とを有し、前記回転出力軸の回転力を伝達することで前記プレッシャプレートを移動させるリンク機構と、
前記鞍乗型車両の走行開始時又は前記変速装置における前記変速段の切換え時に、前記クラッチモータを制御して前記プレッシャプレートの位置を変更し、
電源の投入よりも後、且つ、前記鞍乗型車両の前記走行開始よりも前に、前記クラッチモータの回転が阻止されるまで前記クラッチモータを、前記クラッチにおける前記接続位置を超えた可動限度位置の方向へ検査駆動することによって前記調整機構を含む前記リンク機構を介してプレッシャプレートを移動させ、前記クラッチモータの回転が阻止された時の前記ポテンショメータの位置信号が前記可動限度位置に対応する範囲の外を表わす場合、前記鞍乗型車両の走行を禁止する制御装置と
を備える。
【請求項2】
請求項1に記載の鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記電源の切断時に、前記クラッチモータを前記クラッチにおける前記接続位置に駆動し、前記電源の投入後、前記検査駆動の前に、前記ポテンショメータの位置信号が前記クラッチの前記接続位置に対応する範囲内であること表わす場合、前記検査駆動を省略する。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記変速段の切換え時における前記接続位置の方向への前記クラッチモータの移動速度よりも遅い速度で、前記検査駆動における前記可動限度位置の方向へ前記クラッチモータを移動させる。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、電源の投入後、且つ、前記エンジンの始動よりも前に、前記クラッチモータを検査駆動した後、前記クラッチモータの回転が阻止された時の前記ポテンショメータの位置信号が前記可動限度位置に対応する範囲の外を表わす場合、前記エンジンの始動を禁止する。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記クラッチモータに供給される電流の増加、前記ポテンショメータの位置信号の変化量の減少、又は前記クラッチモータの制御目標角度と前記ポテンショメータの位置信号の偏差によって、回転が阻止されたことを検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、自動クラッチ装置を備えた鞍乗型車両が記載されている。特許文献1の自動クラッチ装置は、電動式のアクチュエータと油圧シリンダとを備える。自動クラッチ装置は、アクチュエータを用いて油圧シリンダを駆動することによって、摩擦クラッチの断続を行う。また、特許文献1には、アクチュエータの電流値の検出結果に基づいて、作動油漏れを異常として検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-225045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鞍乗型車両では、走行時及び旋回時において、ライダの体重移動を伴って車体の姿勢制御を行う。従って、鞍乗型車両は、ライダの体重移動を伴って効率的に姿勢制御が行われるように小型化乃至軽量化されていることが好ましい。鞍乗型車両のクラッチ駆動システムについても、小型化が望まれている。
【0005】
本発明の目的は、鞍乗型車両のクラッチの駆動システムを小型化しつつ、破損を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、クラッチの駆動システムの小型化について検討した。クラッチのプレッシャプレートの移動によってクラッチの状態が接続状態又は切断状態に変化する時、プレッシャプレートにはクラッチばねに起因する反力が生じる。プレッシャプレートに生じる反力の大きさは、クラッチばねの変形量に応じて、即ちクラッチの動作量に応じて変化する。
本発明者らは、クラッチを動作させる力の伝達にリンク機構を適用することを検討した。リンク機構は、例えば、それぞれ2つの回転軸を中心として揺動する揺動リンクと、これら2つの揺動リンクに結合された結合リンクとを介して回転及び力を伝達する。リンク機構は、揺動リンクと結合リンクの成す角度に応じて、出力される力を変化できるという特性を有する。このリンク機構の力の特性をクラッチの反力の特性に適応させることで、力の源となるモータの小型化が図れる。
【0007】
作動油が満充填状態に充填される油圧シリンダの場合とは異なり、リンク機構の場合、クラッチの交換等に伴いリンクの動作位置を調整することが求められる。リンク機構では、例えば、結合リンクの長さが調整されることで動作位置が調整される。
しかしながら、例えば交換時のメンテナンスにおける長さの調整が不十分であったり、ユーザによって不用意に長さが変更されたりすると、クラッチの動作時に、部品の一部が移動の途中で設計の想定外の他の部品に当たる場合がある。部品の一部が他の部品に当たることに起因して構成部品が破損することを抑制するために構成部品及びその支持部品を堅牢化しようとする場合、クラッチ及び駆動システムが大型化する。
【0008】
クラッチ及び駆動システムの大型化を抑制するため、本発明者らは、鞍乗型車両の走行開始よりも前に、クラッチモータの回転が阻止されるまでクラッチモータを接続位置又は切断位置に対応する可動限度位置の方向へ検査駆動することによってリンク機構及び調整機構を介してプレッシャプレートを移動させる構成を検討した。そして、本発明者らは、クラッチモータの回転が阻止された時の位置信号がクラッチの可動限度位置に対応する範囲の外を表わす場合、鞍乗型車両の走行を禁止する構成を検討した。クラッチモータの回転停止位置が可動限度位置にない場合には、リンクの長さの調整が不十分のため、部品の一部が他の部品に当たっている可能性がある。この場合、鞍乗型車両の走行を禁止することで、その後、走行開始時又は変速段の切換えに伴う部品の移動の途中で部品同士が当たる事態が抑制される。このため、構成部品の破損を抑制するための大型化が抑えられる。従って、鞍乗型車両のクラッチの駆動システムを小型化しつつ、クラッチ及び駆動システム破損を抑制することができる。本発明は、以上の知見に基づいて完成したものである。
【0009】
以上の目的を達成するために、本発明の一つの観点によれば、鞍乗型車両は、次の構成を備える。
【0010】
(1) 鞍乗型車両であって、
前記鞍乗型車両は、
エンジンと、
複数の変速段を有する変速装置と、
接続位置及び切断位置の間で移動するプレッシャプレートの位置に応じて前記エンジンと前記変速装置との間の動力伝達の切断及び接続を行なうクラッチと、
クラッチモータと、
前記クラッチモータの回転力を出力する回転出力軸と、
前記回転出力軸の回転位置を表わす位置信号を出力するポテンショメータと、
互いに結合された複数のリンクと、前記複数のリンクの少なくとも一つの長さを調整する調整機構とを有し、前記回転出力軸の回転力を伝達することで前記プレッシャプレートを移動させるリンク機構と、
前記鞍乗型車両の走行開始時又は前記変速装置における前記変速段の切換え時に、前記クラッチモータを制御して前記プレッシャプレートの位置を変更し、
電源の投入よりも後、且つ、前記鞍乗型車両の前記走行開始よりも前に、前記クラッチモータの回転が阻止されるまで前記クラッチモータを、前記クラッチにおける前記接続位置を超えた可動限度位置の方向へ検査駆動することによって前記調整機構を含む前記リンク機構を介してプレッシャプレートを移動させ、前記クラッチモータの回転が阻止された時の前記ポテンショメータの位置信号が前記可動限度位置に対応する範囲の外を表わす場合、前記鞍乗型車両の走行を禁止する制御装置と
を備える。
【0011】
(1)の鞍乗型車両によれば、クラッチが、プレッシャプレートの位置に応じてエンジンと変速装置との間の動力伝達の切断及び接続を行なう。クラッチモータの回転力は、回転出力軸から出力され、リンク機構で伝達され、そして、プレッシャプレートを移動させる。リンク機構で伝達される回転力は、複数のリンクが互いに成す角度に応じて変化する。リンク機構で伝達される回転力の特性をプレッシャプレートの反力の特性に適応させることで、回転力の源となるクラッチモータを小型化することができる。リンク機構が有する複数のリンク少なくとも一つは、調整機構によって長さが調整できる。このため、クラッチの交換又は摩耗に対応して、リンク機構で伝達される回転力で移動するプレッシャプレートの位置を調整することができる。
調整機構における長さの調整が不十分であると、クラッチの動作時に、移動する部品の一部が他の部品に当たる場合がある。(1)の鞍乗型車両の制御装置は、鞍乗型車両の走行開始よりも前に、クラッチモータの回転が阻止されるまでクラッチモータを駆動することによってリンク機構を介してプレッシャプレートを移動させる。そして、制御装置は、クラッチモータの回転が阻止された時のポテンショメータの位置信号が可動限度位置に対応する範囲の外である場合、鞍乗型車両の走行を禁止する。例えば、回転が阻止される時の回転出力軸の位置が、クラッチの可動限度位置に対応する範囲にない場合、結合リンクの長さの調整が不十分のため、部品の一部が他の部品に当たっている可能性がある。この場合、鞍乗型車両の走行が禁止されることで、その後、走行開始時又は変速段の切換え時にプレッシャプレートの移動で部品同士が当たる事態が抑制される。このため、部品の破損することを抑制するための大型化を抑制することができる。可動限度位置は、クラッチが接続される接続位置を超えて位置している。つまり、鞍乗型車両の発進時又は変速段の切換え時にクラッチが移動する接続位置は、可動限度位置に対し余裕を見込んで位置している。このため、走行開始時又は変速段の切換え時にプレッシャプレートの移動で部品同士が当たる事態がより抑制される。従って、鞍乗型車両のクラッチの駆動システムを小型化しつつ、破損を抑制することができる。
【0012】
本発明の一つの観点によれば、鞍乗型車両は、以下の構成を採用できる。
(2) (1)の鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記電源の切断時に、前記クラッチモータを前記クラッチにおける前記接続位置に駆動し、前記電源の投入後、前記検査駆動の前に、前記ポテンショメータの位置信号が前記クラッチの前記接続位置に対応する範囲内であること表わす場合、前記検査駆動を省略する。
【0013】
(2)の鞍乗型車両によれば、電源の投入後、検査駆動の前にクラッチが接続位置にある場合、電源の投入よりも前の電源の切断時に、クラッチが接続位置に正常に移動した可能性が高い。この場合、電源の投入前にクラッチが交換されたりしていない可能性が高い。この場合、その後の接続位置へのクラッチの移動でアクチュエータが破損する可能性は低い。この場合、検査駆動が省略されることで、検査駆動による部品の破損を抑制することができ、更に、電源の投入から短時間で走行を開始することができる。
【0014】
本発明の一つの観点によれば、鞍乗型車両は、以下の構成を採用できる。
(3) (1)又は(2)の鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記変速段の切換え時における前記接続位置の方向への前記クラッチモータの移動速度よりも遅い速度で、前記検査駆動における前記可動限度位置の方向へ前記クラッチモータを移動させる。
【0015】
(3)の鞍乗型車両によれば、検査駆動による破損の可能性を抑制することができる。従って、鞍乗型車両のクラッチの駆動システムを小型化しつつ、破損をより抑制することができる。
【0016】
本発明の一つの観点によれば、鞍乗型車両は、以下の構成を採用できる。
(4) (1)から(3)のいずれか1の鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、電源の投入後、且つ、前記エンジンの始動よりも前に、前記クラッチモータを検査駆動した後、前記クラッチモータの回転が阻止された時の前記ポテンショメータの位置信号が前記可動限度位置に対応する範囲の外を表わす場合、前記エンジンの始動を禁止する。
【0017】
(4)の鞍乗型車両によれば、エンジンの始動の前に、プレッシャプレートの移動に伴い部品同士が当たる状況であることが検出される。従って、例えば、変速装置がニュートラル状態でエンジンが始動した後で検査駆動を行なう場合と比較して、電源の投入後のより早い時期に異常事態を検出することができる。
【0018】
本発明の一つの観点によれば、鞍乗型車両は、以下の構成を採用できる。
(5) (1)から(4)のいずれか1の鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記クラッチモータに供給される電流の増加、前記ポテンショメータの位置信号の変化量の減少、又は前記クラッチモータの制御目標角度と前記ポテンショメータの位置信号の偏差によって、回転が阻止されたことを検出する。
【0019】
(5)の鞍乗型車両によれば、回転が阻止されたことを検出するための専用の検出装置なしで回転が阻止されたことを検出できる。従って、鞍乗型車両のクラッチの駆動システムをより小型化しつつ、破損を抑制することができる。
【0020】
鞍乗型車両(straddled vehicle)とは、運転者がサドルに跨って着座する形式のビークルをいう。鞍乗型車両は、車輪を有する。鞍乗型車両としては、例えば、自動二輪車が挙げられる。また、鞍乗型車両は、自動二輪車に限定されず、例えば、自動三輪車、ATV(All-Terrain Vehicle)等であってもよい。自動三輪車は、2つの前輪と1つの後輪とを備えていてもよく、1つの前輪と2つの後輪とを備えていてもよい。鞍乗型車両は、例えば、リーン姿勢で旋回可能に構成されたリーン車両である。リーン車両は、カーブの中心に向かって傾いた姿勢で旋回するように構成される。これにより、リーン車両は、旋回時にリーン車両に加わる遠心力に対抗する。リーン車両では、操作に対する応答性が重要視されるため、更なる小型化及び軽量化が求められる。
【0021】
エンジンは、内燃機関である。エンジンは、車輪を駆動する駆動力を出力する。エンジンは、単気筒エンジン及び2以上の気筒を有するエンジンを含む。エンジンは、クランク軸を有し、燃焼によって生じる駆動力をクランク軸のトルク及び回転速度として出力する。
【0022】
変速装置は、複数の変速段を有する有段変速装置である。変速装置は、ギア式である。変速装置は、ライダの操作に基づいて変速段を切換える。変速装置は、例えば、電動変速装置である。電動変速装置は、電動アクチュエータの駆動によって変速段が切換えられる。
【0023】
クラッチは、摩擦クラッチである。クラッチは、接続位置及び切断位置の間で移動するプレッシャプレートを有する。接続位置は、クラッチがエンジンと変速装置との間の動力を滑りなしに伝達する位置である。プレッシャプレートは、接続位置を超えて可動限度位置まで移動することができる。
【0024】
クラッチモータは、電動モータである。また、回転出力軸は、クラッチモータの回転力を出力する。回転出力軸は、例えば、電動モータの回転軸にギア接続されている。回転出力軸が電動モータの回転軸に減速ギアで接続される場合、小型のモータでプレッシャプレートを移動させるための力(トルク)を回転出力軸から出力することができる。ただし、クラッチモータと回転出力軸の減速比は、特に限定されず、回転出力軸は、例えば電動モータの回転軸でもよい。
【0025】
ポテンショメータは、回転出力軸の回転位置を表わす位置信号を出力する。ポテンショメータは、例えば非接触式のセンサである。ポテンショメータは、特に限定されず、接触式でもよい。ポテンショメータは、例えば、回転出力軸に取付けられている。ただし、ポテンショメータは、特に限定されず、例えば、回転出力軸に接続されたギア又はクラッチモータに取付けられ、間接的に回転出力軸の回転位置を表わす位置信号を出力してもよい。
【0026】
リンク機構は、複数のリンクを有する。複数のリンクは、対偶によって回転自在に結合される。
【0027】
調整機構は、例えば、結合リンクの長さを調整する。調整機構は、特に限定されず、例えば、揺動リンクの長さを調整してもよい。ただし、調整機構が、結合リンクの長さを調整することで、揺動リンクの揺動半径を変更せずに、入力軸と出力軸の関係を効率的に調整することができる。
【0028】
制御装置は、クラッチモータを制御する。制御装置は、例えば、クラッチモータ及びエンジンを制御する。この場合、クラッチモータを制御する部分とエンジンを制御する部分は、互いに分離しており鞍乗型車両の異なる位置に配置されていてもよい。また、クラッチモータを制御する部分とエンジンを制御する部分は一体でもよい。制御装置は、走行開始時に、例えば、プレッシャプレートの位置を切断状態から接続状態へ変更する。また、制御装置は、変速装置における変速段の切換え時に、例えば、プレッシャプレートの位置を接続状態から切断状態へ変更し、次に切断状態から接続状態へ変更する。
【0029】
電源の投入は、例えば、鞍乗型車両におけるメインスイッチがオンに操作されることで、制御装置に電力が供給されることである。
【0030】
本明細書にて使用される専門用語は特定の実施例のみを定義する目的であって発明を制限する意図を有しない。本明細書にて使用される用語「および/または」はひとつの、または複数の関連した列挙された構成物のあらゆるまたはすべての組み合わせを含む。本明細書中で使用される場合、用語「含む、備える(including)」「含む、備える(comprising)」または「有する(having)」およびその変形の使用は、記載された特徴、工程、操作、要素、成分および/またはそれらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、および/またはそれらのグループのうちの1つまたは複数を含むことができる。本明細書中で使用される場合、用語「取り付けられた」、「接続された」、「結合された」および/またはそれらの等価物は広く使用され、直接的および間接的な取り付け、接続および結合の両方を包含する。さらに、「接続された」および「結合された」は、物理的または機械的な接続または結合に限定されず、直接的または間接的な電気的接続または結合を含むことができる。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術および本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的または過度に形式的な意味で解釈されることはない。本発明の説明においては、多数の技術および工程が開示されていると理解される。これらの各々は個別の利益を有し、それぞれは、他の開示された技術の1つ以上、または、場合によっては全てと共に使用することもできる。したがって、明確にするために、この説明は、不要に個々のステップの可能な組み合わせをすべて繰り返すことを控える。それにもかかわらず、明細書および特許請求の範囲は、そのような組み合わせがすべて本発明および請求項の範囲内にあることを理解して読まれるべきである。
本明細書では、新しい鞍乗型車両について説明する。以下の説明では、説明の目的で、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な詳細を述べる。しかしながら、当業者には、これらの特定の詳細なしに本発明を実施できることが明らかである。本開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面または説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、鞍乗型車両のクラッチの駆動システムを小型化しつつ、破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】第1実施形態の鞍乗型車両を概略的に示す図である。パート(A)は、鞍乗型車両の側面図であり、パート(B)は、鞍乗型車両の電動クラッチシステムを模式的に示す図であり、パート(C)はクラッチ制御動作を説明するタイムチャートである。
図2】制御装置の動作を説明するフローチャートである。
図3】調整機構の状態が異常である場合の動作状態を示す図である。
図4】第2実施形態の鞍乗型車両に係る制御装置の動作を説明するフローチャートである。
図5】第3実施形態の鞍乗型車両における制御装置におけるクラッチ制御動作を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る鞍乗型車両について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、あくまでも一例である。本発明は、以下に説明する実施形態によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0034】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の鞍乗型車両を概略的に示す図である。図1のパート(A)は、鞍乗型車両の側面図である。パート(B)は、鞍乗型車両の電動クラッチシステムを模式的に示す図である。パート(C)はクラッチ制御動作を説明するタイムチャートである。
【0035】
図1のパート(A)に示す鞍乗型車両1は、エンジン10と、クラッチシステム20と、変速システム30と、制御装置40と、を備える。
図1のパート(B)に示すように、クラッチシステム20は、クラッチ21と、クラッチモータ22と、回転出力軸23と、ポテンショメータ25と、リンク機構24と、を備える。変速システム30は、変速装置31と、図示しないシフトモータと、を備える。つまり、鞍乗型車両1は、エンジン10と、変速装置31と、クラッチ21と、クラッチモータ22と、回転出力軸23と、ポテンショメータ25と、リンク機構24と、制御装置40と、を備える。クラッチモータ22と、回転出力軸23と、リンク機構24と、ポテンショメータ25とは、クラッチ21を駆動するクラッチ駆動システムを構成する。
【0036】
変速装置31は、複数の変速段を有する。複数の変速段には、互いに異なる変速比が設定されている。変速比は、変速装置31の入力軸の回転速度と出力軸の回転速度の比である。変速装置31では、変速段の切換えに伴い、変速比が不連続に変化する。
鞍乗型車両1は、電動変速機能を有する。鞍乗型車両1は、例えばライダのシフトスイッチ操作に基づいて変速段を切換えるセミオート変速機能を有する。また、鞍乗型車両1は、例えばエンジン10の回転速度、又はエンジン10に連動して回転する部材の回転速度に応じて変速段を切換える自動変速機能を備えることもできる。クラッチシステム20は、変速システム30における変速段の切換えと同期するように動作する。
【0037】
クラッチ21は、多板式クラッチである。クラッチ21は、プレッシャプレート211を有する。クラッチ21は、接続位置及び切断位置の間で移動するプレッシャプレート211の位置に応じてエンジン10と変速装置31との間の動力伝達の切断及び接続を行なう。
より詳細には、クラッチ21は、更に、プレート軸212と、クラッチばね213と、メイン軸214と、クラッチハウジング215と、クラッチボス216と、フリクションプレート218と、クラッチプレート219と、を有する。クラッチハウジング215には、エンジン10からの動力が伝達される。クラッチハウジング215には、フリクションプレート218が取付けられている。クラッチボス216は、メイン軸214に固定されている。メイン軸214は、変速装置31の入力軸として機能する。メイン軸214は、変速装置31に動力を伝達する。クラッチボス216には、クラッチプレート219が取付けられている。
【0038】
クラッチ21は、プレッシャプレート211の位置に応じてエンジン10と変速装置31との間の動力伝達の切断及び接続を行なう。プレッシャプレート211は、接続位置と切断位置の間で移動する。これにより、クラッチ21の接続状態と切断状態が切り替わる。
プレッシャプレート211は、クラッチばね213の反力によって接続位置へ向かって付勢されている。プレッシャプレート211が接続位置へ移動すると、フリクションプレート218とクラッチプレート219が押圧される。これにより、エンジン10の駆動力が、フリクションプレート218及びクラッチプレート219の摩擦力を介して変速装置31に伝達される。プレッシャプレート211が切断位置に移動すると、フリクションプレート218とクラッチプレート219の摩擦力が減少する。これにより、エンジン10の駆動力の変速装置31への伝達が切断される。この時、クラッチばね213の弾性変形の量が増大する。プレッシャプレート211は、切断位置から接続位置へ向かう方向へ移動する場合、接続位置を超えた可動限度位置まで移動することが可能である。換言すると、プレッシャプレート211の接続位置は、可動限度位置と切断位置の間にある。
【0039】
クラッチモータ22は、制御装置40の制御に応じて、プレッシャプレート211を移動させる。クラッチモータ22は、油圧を用いることなくプレッシャプレート211を駆動する。
制御装置40は、クラッチモータ22及び図示しないシフトモータを制御することで、クラッチ21と変速装置31とを動作させる。制御装置40は、エンジン10の動作を制御する装置とは異なる装置である。ただし、制御装置40はこれに限られず、例えば、エンジン10の動作を制御する機能を兼ね備えてもよい。
回転出力軸23は、クラッチモータ22の回転力を出力する。図の例では、回転出力軸23は、クラッチモータ22とギア201を介して接続されている。ただし、回転出力軸23の接続構成はこれに限られず、例えばクラッチモータ22と直接に接続されてもよい。
【0040】
ポテンショメータ25は、回転出力軸23の回転位置を表わす位置信号を出力する。ポテンショメータ25から出力される位置信号は、間接的にクラッチモータ22の回転位置を表わす。また、ポテンショメータ25から出力される位置信号は、間接的にプレッシャプレート211の位置を表わす。
なお、図の例において、ポテンショメータ25は、回転出力軸23に設けられている。ただし、ポテンショメータ25の位置は特に限られず、例えばクラッチモータ22に設けられてもよい。
【0041】
リンク機構24は、複数のリンク241,242,243と、調整機構244とを有する。複数のリンク241,242,243は、互いに結合されている。より詳細には、リンク241,242,243は、順に互いに回転自在に接続されている。リンク機構は、4節リンク機構である。リンク241,243は、揺動リンクに相当する。リンク242は、揺動リンクに結合された結合リンクに相当する。リンク241は、回転出力軸23に固定されており、回転出力軸23とともに回転する。リンク243は、プレート軸212とラック・ピニオン機構によって接続されている。プレート軸212は、プレッシャプレート211を回転自在に支持し、プレッシャプレート211とともに接続位置と切断位置の間で移動する。これによって、クラッチ21が、接続状態または切断状態になる。
【0042】
調整機構244が適切に調整されている場合、クラッチモータ22は、プレッシャプレート211を、接続位置を超えた可動限度位置まで移動することが可能である。可動限度位置は、クラッチモータ22が回転できる限度の位置である。可動限度位置への移動は検査で用いられる。規制部材234は、クラッチモータ22の回転を阻止するように構成されている。クラッチモータ22の回転が規制部材234によって阻止される位置が可動限度位置である。
なお、図の例において規制部材234は、回転出力軸23の移動を阻止するように構成されている。但し、規制部材234はこれに限られず、例えば、クラッチモータ22又はリンク241,242,243といった部材の移動を阻止するように構成されてもよい。
【0043】
規制部材234及びポテンショメータ25は、クラッチモータ22を駆動する力の伝達方向についてクラッチ21よりも上流に設けられてもよい。この場合、規制部材234及びポテンショメータ25は、クラッチ21に設けられない。この構成の場合、クラッチモータ22及びリンク機構24といった、プレッシャプレート211の駆動機構の代わりに、機械式ワイヤや油圧伝達部を介して、クラッチレバーを接続することが容易である。つまり、電動クラッチを備えるタイプの車両と、クラッチレバーを備えるタイプの車両の双方を容易に設計・製造することができる。従って、鞍乗型車両1のバリエーションの自由度が高い。
【0044】
クラッチモータ22の回転力は、回転出力軸23から出力され、リンク機構24で伝達され、そして、プレッシャプレート211を移動させる。リンク機構24は、回転出力軸23の回転力を伝達することでプレッシャプレート211を移動させる。図1の矢印Cは、クラッチ21が接続状態となる場合の各部材の回転方向又は移動方向を示す。
リンク機構24で伝達される回転力は、リンク241,242,243が互いに成す角度に応じて変化する。これに対し、クラッチ21のプレッシャプレート211には、クラッチばね213の弾性力に起因する反力が生じる。プレッシャプレート211に生じる反力は、プレッシャプレート211の動作量、即ち、クラッチばね213の弾性変形量に応じて変化する。
クラッチシステム20では、回転力の伝達経路にリンク機構24が採用される。このため、リンク機構24で伝達される回転力の特性をプレッシャプレート211の反力の特性に適用することができる。これによって、クラッチモータ22に要求される最大の回転力を、リンク機構24を用いない場合と比べて小さくすることができる。従って、クラッチモータ22を小型化することができる。これにともない、回転力を伝達する回転出力軸23又はリンク機構24も小型化することができる。
【0045】
調整機構244は、複数のリンク241,242,243の少なくとも一つの長さを調整する。図に示す例では、調整機構244は、リンク242の長さを調整する。図に示す例では、調整機構244は、ネジ機構によってリンク242の長さを調整する。ただし、調整機構244の調整方法は特に限定されず、例えば、部材の交換、又は、クランプ機構も採用され得る。
リンク242の長さは、調整機構244によって調整することができる。このため、例えばクラッチ21が交換される場合、クラッチモータ22の動作目標に対するプレッシャプレート211の位置を調整することができる。
調整機構244の調整は、通常、メーカーによる鞍乗型車両1の製造時・組立時、又は、ディーラーによるクラッチ21の交換時・メンテナンス時に行なわれる。調整では、例えば、位置固定ピンの装着によって回転出力軸23が所定の調整位置で固定される。そしてこの状態で、プレッシャプレート211が基準位置となるように調整機構244の長さが調整される。
【0046】
制御装置40は、鞍乗型車両1の走行開始時又は変速装置31での変速段の切換え時に、クラッチモータ22を制御してプレッシャプレート211の位置を変更する。また、制御装置40は、調整機構244の状態が適正であるか否かを検査する。
【0047】
図2は、制御装置の動作を説明するフローチャートである。
図1のパート(C)のチャートも合わせて参照して動作を説明する。
【0048】
まず、制御装置40は、調整機構244の状態を検査する。より詳細には、制御装置40は、電源の投入後、且つ、鞍乗型車両1の走行開始よりも前に、検査駆動を行なう(S11)。電源の投入は、例えば図示しないメインスイッチの操作に応じて実施される。
制御装置40は、クラッチモータ22を、可動限度位置の方向へ検査駆動する。可動限度位置は、クラッチモータ22が回転できる限度の位置である。より詳細には、制御装置40は、可動限度位置を超えた位置を制御目標角度としてクラッチモータ22を検査駆動する。
図1のパート(C)に示すように、時刻t1で制御装置40がクラッチモータ22を検査駆動することによって、プレッシャプレート211が可動限度位置の方向へ移動する。制御装置40は、制御目標角度に応じた電流を逐次クラッチモータ22に供給することで、クラッチモータ22の位置及び回転速度を制御する。プレッシャプレート211は、調整機構244を含むリンク機構24を介してクラッチモータ22の力を受け、移動する。
【0049】
制御装置40は、クラッチモータ22の回転が阻止されたか否かを検査する(S12)。制御装置40は、例えば、クラッチモータ22に供給する電流の増加によって、回転が阻止されたことを検出する。ただし、検出方法はこれに限られず、制御装置40は、ポテンショメータ25の位置信号の変化量の減少、又は、制御目標角度とポテンショメータ25の位置信号(実角度)の偏差の増大によって、回転が阻止されたことを検出してもよい。あるいは、制御装置40は、例えば、上記の検出方法の組合せを実行してもよい。制御装置40は、例えば、電流の増加による検出と、制御目標角度とポテンショメータ25の位置信号の偏差による検出の双方を実施してもよい。
制御装置40は、クラッチモータ22の回転が阻止された時(S12でYes)のポテンショメータ25の位置信号を読み出す(S13)。
制御装置40は、ポテンショメータ25の位置信号が可動限度位置に対応する範囲R(図1のパート(C))内を表わす場合(S14でYes)、走行動作(S15)を実行する。なお、ステップS14の検査の後、且つ、走行動作(S15)の前に、調整機構244以外の検査が実行されてもよい。
【0050】
走行動作(S15)では、制御装置40は、ライダの操作又はエンジン10の回転速度に応じて、クラッチ21及び変速装置31を動作させる。これによって、鞍乗型車両1が走行できる。
より詳細には、例えば、ライダの操作に応じて鞍乗型車両1が発進する場合、制御装置40は、クラッチ21を切断状態にする。その後、制御装置40は、変速装置31の変速段をニュートラルから第1速に切換える。その後、制御装置40は、クラッチ21を接続状態にする。より詳細には、制御装置40は、半クラッチ制御を経て、クラッチ21を接続状態にする。また、変速段が変更される場合、制御装置40は、クラッチ21を切断状態にする。その後、制御装置40は、変速装置31の変速段を切換える。その後、制御装置40は、クラッチ21を接続状態にする。また、鞍乗型車両1が停止する場合、制御装置40は、クラッチ21を切断状態にする。
制御装置40は、ライダの操作を受けるスイッチの状態に基づいて、クラッチ21及び変速装置31を制御する。また、制御装置40は、エンジン10の回転速度、又はエンジン10の回転に連動して回転する部品の回転速度に基づいて、クラッチ21及び変速装置31を制御することもできる。
【0051】
制御装置40は、ステップS14で、ポテンショメータ25の位置信号が可動限度位置に対応する範囲R(図1のパート(C))の外を表わす場合(S14でNo)、走行を禁止する(S16)。
【0052】
なお、本実施形態における検査駆動(S11)、及び、ポテンショメータ25の位置信号の読み出し(S13)は、エンジン10の始動と並行して実行されてもよい。例えば、変速装置31がニュートラル状態である場合、検査駆動(S11)の途中で、ライダによる始動操作が行なわれた場合、エンジン10を始動する。
【0053】
図1のパート(C)のチャートにおける破線は、調整機構244の状態が適正な場合における電源の投入後のポテンショメータ25の位置信号の変化を示す。実線は、調整機構244の状態が異常である場合のポテンショメータ25の位置信号の変化を示す。ポテンショメータ25の位置信号は、間接的にプレッシャプレート211の位置を表わしている。
【0054】
図3は、調整機構の状態が異常である場合の動作状態を示す図である。
【0055】
図1のパート(C)のチャートにおける時刻t11で電源が投入された後、検査動作が実行される。チャートにおける破線は、クラッチモータ22の制御位置目標も示している。
【0056】
調整機構244の状態が適正である場合、破線で示すように、クラッチモータ22は、制御位置目標に追従する。つまり、調整機構244の状態が適正である場合、破線で示すように、クラッチモータ22は、クラッチ21における接続位置を通り越し、可動限度位置まで回転する。クラッチモータ22は、時刻t3において可動限度位置で回転が阻止され、停止する。即ち、クラッチモータ22の回転は、可動限度位置で規制部材234によって阻止される。つまり、プレッシャプレート211は、可動限度位置まで移動する。
制御装置40は、クラッチモータ22の回転が阻止された時のポテンショメータ25の位置信号が、時刻t3における値のように、可動限度位置の範囲R内を表わす場合、調整機構244の状態及び回転出力軸23の状態は適正である。この場合、制御装置40は、鞍乗型車両1の走行を許容する。より詳細には、位置信号が可動限度の範囲R内を表わす場合、制御装置40は、鞍乗型車両1の走行のための動作を実行する。例えば、制御装置40は、破線で示すように、エンジン10の始動後、時刻t11でライダの操作に応じて、クラッチ21を切断状態にし、変速装置31の変速段を変更し、時刻t12でクラッチ21を接続状態にする。
なお、制御装置40は、鞍乗型車両1の走行のための動作の前に、調整機構244の検査以外の検査を実行してもよい。
【0057】
調整機構244の状態が適正でない場合、図1のパート(C)の実線で示すように、クラッチモータ22は、可動限度位置よりも手前の位置(時刻t2)で回転が阻止される。この原因として、例えば、交換時のメンテナンスで調整機構244の調整が不十分であった可能性がある。また、調整機構244の長さがユーザによって不用意に変えられた場合がある。
【0058】
図3に示す例では、クラッチモータ22を接続位置の方向へ移動すると、クラッチモータ22の回転が規制部材234によって阻止される前に、プレート軸212がメイン軸214に当たる。このため、クラッチモータ22の回転が阻止される。
図1のパート(C)の時刻t2からt3における実線のように、クラッチモータ22は、可動限度位置よりも手前の位置で回転が阻止される。従って、クラッチモータ22の回転が阻止された時のポテンショメータ25の位置信号は、可動限度に対応する範囲Rの外を表わす。この場合、制御装置40は、鞍乗型車両1の走行を禁止する。例えば、制御装置40は、ライダの操作があってもクラッチ21及び変速装置31を動作させない。
このため、走行開始時又は変速段の切換え時にプレッシャプレート211の移動でプレート軸212及びメイン軸214といった部品同士が当たる事態が抑制される。このため、部品の破損が抑制される。例えば、クラッチモータ22、ギア201、又は回転出力軸23が破損することが抑制される。
また、本実施形態によれば、例えば、クラッチ21の交換時における調整作業で装着された位置固定ピンの取り外し忘れがあった場合に、位置信号が可動限度に対応する範囲Rの外を表わす。このため、位置固定ピンの取り外し忘れによる破損することが抑制される。従って、部品の破損を抑制するための大型化を抑制することができる。
【0059】
[第2実施形態]
図4は、第2実施形態の鞍乗型車両に係る制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【0060】
本実施形態に係る制御装置40は、電源の切断時に(S17でYes)、クラッチモータ22をクラッチ21における接続位置へ駆動する(S28)。より詳細には、制御装置40は、例えばライダによる電源の切断操作を検出すると(S17でYes)、クラッチモータ22を駆動し、クラッチ21における接続位置に移動させる。その後、電源供給が切断される。
また、本実施形態に係る制御装置40は、電源の投入後、検査駆動(S11)の前に、ポテンショメータ25の位置信号を読み出す(S21)。制御装置40は、位置信号がクラッチ21の接続位置に対応する範囲内(図1のパート(C)における範囲T)であること表わす場合(S22でYes)、検査駆動(S11)を省略する。
【0061】
電源の投入後、検査駆動の前にクラッチ21が接続位置にある場合、その前の電源の切断時に、クラッチ21が接続位置に異常なしに移動した可能性が高い。また、クラッチ21が交換されていない可能性が高い。この場合、検査駆動(S11)が省略されることで、検査駆動による部品の破損を抑制することができ、更に、電源の投入から短時間で走行を開始することができる。
【0062】
本実施形態におけるその他の構成及び動作は、第1実施形態と同じである。このため、第1実施形態と対応する構成には第1実施形態と同じ符号を付し、図示説明を省略する。
【0063】
[第3実施形態]
図5は、第3実施形態の鞍乗型車両における制御装置におけるクラッチ制御動作を説明するタイムチャートである。
【0064】
本実施形態に係る制御装置40は、検査駆動(図2のS11)において、変速段の切換え時における接続位置の方向へのクラッチモータ22の移動速度よりも遅い速度で、可動限度位置の方向へクラッチモータ22を移動させる。
図5のチャートにおけるt21から始まる破線の傾きAは、検査駆動における可動限度位置の方向へのクラッチモータ22の移動速度を表わす。また、t32から始まる破線の傾きBは、変速段の切換え時における接続位置の方向へのクラッチモータ22の移動速度を表わす。検査駆動における可動限度位置の方向へのクラッチモータ22の移動速度(傾きA)は、変速段の切換え時における接続位置の方向へのクラッチモータ22の移動速度(傾きB)よりも遅い。
【0065】
本実施形態の鞍乗型車両1によれば、検査駆動による破損の可能性を抑制することができる。従って、クラッチ21の駆動システムを小型化しつつ、破損をより抑制することができる。
【0066】
本実施形態におけるその他の構成及び動作は、第1実施形態と同じであるため、第1実施形態と同じ符号を付し、説明を省略する。
【0067】
[第4実施形態]
本実施形態における制御装置40は、調整機構244の調整が不十分である場合、エンジン10の始動を禁止する。
図2のフローチャートを参照すると、本実施形態における制御装置40は、電源の投入後、走行動作(S15)まで、エンジン10の始動を禁止する。
さらに、制御装置40は、クラッチモータ22を検査駆動した後(S11)、回転が阻止された時のポテンショメータ25の位置信号が可動限度位置に対応する範囲Rの外を表わす場合(S14でNo)、鞍乗型車両1の走行を禁止する(S16)。制御装置40は、ステップS16において、エンジン10の始動を禁止する。
本実施形態によれば、例えば、ニュートラル状態でエンジン10が始動した後で検査駆動(S11)を行なう場合と比較して、電源の投入後のより早い時期に異常事態を検出することができる。
【0068】
本実施形態におけるその他の構成及び動作は、第1実施形態と同じであるため、第1実施形態と同じ符号を付し、説明を省略する。
【0069】
上述した実施形態の特徴は、任意に組合せることができる。例えば、検査駆動におけるクラッチモータ22の移動を低速で行なう第3実施形態は、検査駆動の省略に関する第2実施形態と組合せることができる。また、エンジン10の始動を禁止する第4実施形態は、検査駆動の省略に関する第2実施形態と組合せることができる。また、第2実施形態、第3実施形態、及び第4実施形態は、すべて組合せることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 鞍乗型車両
10 エンジン
21 クラッチ
22 クラッチモータ
23 回転出力軸
24 リンク機構
25 ポテンショメータ
31 変速装置
40 制御装置
211 プレッシャプレート
241,242,243 リンク
244 調整機構
図1
図2
図3
図4
図5