(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020561
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】模擬骨または模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術用トレーニング器具
(51)【国際特許分類】
G09B 23/30 20060101AFI20250205BHJP
【FI】
G09B23/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124028
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】521278829
【氏名又は名称】湘南メディカルテクニック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000693
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人滝田三良法律事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 良平
【テーマコード(参考)】
2C032
【Fターム(参考)】
2C032CA04
2C032CA06
(57)【要約】
【課題】実際の手術を簡易かつ確実に再現することができる模擬骨または模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術トレーニング器具およびその製造方法を提供する。
【解決手段】模擬骨1を用いた骨の手術用トレーニング器具は、対象部位決定工程(STEP10)と、脂肪部貼付工程(STEP11)と、筋肉部配置工程(STEP12)と、血管部配置工程(STEP13)と、皮下組織部配置工程(STEP14)と、皮膚部形成工程(STEP15)とにより形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
模擬骨または模擬骨により構成される関節組織の手術用トレーニング器具であって、
前記模擬骨のトレーニング対象となる部位に貼付された、脂肪組織に相当する色を有し弾力のある塑性体である脂肪部と、
前記脂肪部を覆うように配置された、筋肉組織に相当する色を有し弾力のある塑性体である筋肉部と、
前記脂肪部および前記筋肉部に隣接して配置された、血管に相当するチューブ状の血管部と、
前記筋肉部を含めて前記部位の全体を覆うように配置された、皮下組織に相当する色を有し弾力のある塑性体である皮下組織部と、
前記皮下組織部の表面を覆うように被覆された、皮膚に相当するフィルム状の皮膚部と
を備え、
前記脂肪部と前記筋肉部と前記血管部と前記皮下組織部と前記皮膚部とが前記模擬骨のトレーニング対象となる部位に部分的に形成されていることを特徴とする模擬骨または模擬骨により構成される関節組織の手術用トレーニング器具。
【請求項2】
請求項1記載の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織の手術用トレーニング器具において、
前記筋肉部に隣接して配置された、神経に相当する糸状の神経部をさらに備えることを特徴とする模擬骨または模擬骨により構成される関節組織の手術用トレーニング器具。
【請求項3】
請求項1記載の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織の手術用トレーニング器具において、
前記模擬骨または模擬骨により構成される関節組織に隣接して配置された、靭帯に相当する樹脂製の靭帯部と腱組織に相当する線維束の腱組織部といずれか一方または両方をさらに備えることを特徴とする模擬骨または模擬骨により構成される関節組織の手術用トレーニング器具。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれか1項記載の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織の手術用トレーニング器具において、
前記血管部には、血液に似せた液体が挿通していることを特徴とする模擬骨または模擬骨により構成される関節組織の手術用トレーニング器具。
【請求項5】
模擬骨または模擬骨により構成される関節組織の手術用トレーニング器具の製造方法であって、
前記模擬骨のトレーニング対象となる部位を決定する対象部位決定工程と、
前記対象部位決定工程により決定されたトレーニング対象となる前記部位に、脂肪組織に相当する色を有し弾力のある塑性体である脂肪部を貼付する脂肪部貼付工程と、
前記脂肪部貼付工程により貼付された前記脂肪部を覆うように、筋肉組織に相当する色を有し弾力のある塑性体である筋肉部を配置する筋肉部配置工程と、
前記脂肪部貼付工程により貼付された前記脂肪部と筋肉部配置工程により配置された筋肉部とに隣接させて、血管に相当するチューブ状の血管部を配置する血管部配置工程と、
前記筋肉部配置工程により配置された前記筋肉部を含めて前記部位の全体を覆うように、皮下組織に相当する色を有し弾力のある塑性体である皮下組織部で覆う皮下組織部配置工程と、
前記皮下組織部配置工程により前記部位全体が覆われた皮下組織部の表面を、皮膚に相当するフィルム状の皮膚部で被覆する皮膚部形成工程と
を備え、
前記脂肪部貼付工程により貼付される脂肪部と、前記筋肉部配置工程により配置された前記筋肉部と、前記血管部配置工程により配置された前記血管部と、前記皮下組織部配置工程により配置された前記皮下組織部と、前記皮膚部形成工程により被覆された前記皮膚部とが、前記対象部位決定工程により決定された前記模擬骨のトレーニング対象となる前記部位に部分的に形成されていることを特徴とする模擬骨または模擬骨により構成される関節組織の手術用トレーニング器具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模擬骨を用いた骨と実際の生体を模して解剖学的位置に配置された軟部組織とで構成された手術用トレーニング器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の人体模型としては、下記特許文献1に示すように、人体の画像解析により、骨、筋肉、皮膚の形態データおよび位置データを取得し、取得したこれらのデータに基づいて、模擬骨および模擬筋を成形すると共に、人体の少なくとも一部の外形の模型を作製するための鋳型を形成する。そして、鋳型の内部に、模擬骨および模擬筋肉を配置し、それ以外の領域に模擬皮膚を成形するための材料を充填してなる人体模型が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる従来の人体模型によれば、実際の人体の構造により忠実な人体模型となっているものの大掛かりなもので、骨の手術を主目的とするトレーニング器具としては不適切なものとなっていた。
【0005】
一方、模擬骨自体は、骨の手術用トレーニング器具としては、古くから存在するものの、骨そのものが露出した状態で手術トレーニングを行っても、筋肉等により視野が限られる中での実際の手術とはかけ離れたものとなっていた。
【0006】
そこで、本発明は、実際の手術を簡易かつ確実に再現することができる模擬骨および解剖学的位置に配置された構成物(関節組織)を用いた骨の手術トレーニング器具およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術用トレーニング器具は、
前記模擬骨のトレーニング対象となる部位に貼付された、脂肪組織に相当する色を有し弾力のある塑性体である脂肪部と、
前記脂肪部を覆うように配置された、筋肉組織に相当する色を有し弾力のある塑性体である筋肉部と、
前記脂肪部および前記筋肉部に隣接して配置された、血管に相当するチューブ状の血管部と、
前記筋肉部を含めて前記部位の全体を覆うように配置された、皮下組織に相当する色を有し弾力のある塑性体である皮下組織部と、
前記皮下組織部の表面を覆うように被覆された、皮膚に相当するフィルム状の皮膚部と
を備え、
前記脂肪部と前記筋肉部と前記血管部と前記皮下組織部と前記皮膚部とが前記模擬骨のトレーニング対象となる部位に部分的に形成されていることを特徴とする。
【0008】
第1発明の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術用トレーニング器具によれば、模擬骨または模擬骨により構成される関節組織に対して、脂肪部と筋肉部と皮下組織部とをそれぞれに相当する色を有する弾力のある塑性体を順番に配置することで、骨や関節の手術の際に対応が必要な生体組織等を模擬骨または関節組織に付随して簡易かつ確実に構成することができる。
【0009】
加えて、血管に相当するチューブ状の血管部を設けることで、骨の手術の際に注意が必要な血管を考慮した手術トレーニングが可能となる。
【0010】
また、模擬骨に脂肪部と筋肉部と血管部と皮下組織部を配置した状態で、フィルム状の皮膚部でラッピングすることでこれらを一体化させることができると共に、皮膚をその表面を含めて再現することができる。
【0011】
ここで、脂肪部と筋肉部と血管部と皮下組織部と皮膚部を模擬骨または模擬骨により構成される関節組織のトレーニング対象となる部位に部分的に形成することで、大掛かりな人体模型とは異なり、骨の手術を主目的とした簡易な構成を実現することができる。
【0012】
一方で、模擬骨または模擬骨により構成される関節組織のトレーニング対象となる部位には、手術の際に術者が骨や関節に到達するまでに考慮すべき皮膚膜と皮膚と筋肉と血管と脂肪とに相当する皮膚部と皮下組織部と筋肉部と血管部と脂肪部とが配置されているため、これらを実際の手術と同様に処置した上で、トレーニング対象となる模擬骨または模擬骨により構成される関節組織の部位を露出させるトレーニングを行うことできる。
【0013】
加えて、各部は、実際の生体組織に対応した色や配置が採用されることから処置をする術者は、どの生体組織かを意識した処置のトレーニングが可能となる。
【0014】
さらに、処置により露出させたトレーニング対象となる模擬骨または模擬骨により構成される関節組織の部位も、実際に筋肉により視野が限られるのと同様に、筋肉部等により術野も再現したものとすることができ、模擬骨自体の切除等の手術も実際の手術に近いシミュレーションが可能となる。
【0015】
このように、第1発明の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術用トレーニング器具によれば、血管等の損傷を起こさず、筋肉組織の最低限の挫滅にとどめるトレーニングとして、実際の手術を簡易かつ確実にそして安全に再現することができる。
【0016】
第2発明の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術用トレーニング器具は、第1発明において、
前記筋肉部に隣接して配置された、神経に相当する糸状の神経部をさらに備えることを特徴とする。
【0017】
第2発明の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術用トレーニング器具によれば、神経に相当する糸状の神経部を筋肉部に隣接して配置することで、骨や関節の手術の際に対応が必要な生体組織である神経を簡易かつ確実に再現することができる。
【0018】
このように、第2発明の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術用トレーニング器具によれば、神経損傷を起こさないトレーニングを含めて、実際の手術を神経を含めて簡易かつ確実に再現することができる。
【0019】
第3発明の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術用トレーニング器具は、第1発明において、
前記模擬骨または模擬骨により構成される関節組織に隣接して配置された、靭帯に相当する樹脂製の靭帯部と腱組織に相当する線維束の腱組織部といずれか一方または両方をさらに備えることを特徴とする。
【0020】
第3発明の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術用トレーニング器具によれば、靭帯に相当する樹脂製の靭帯部と腱組織に相当する線維束の腱組織部といずれか一方または両方を模擬骨または模擬骨により構成される関節組織に隣接して配置することで、骨や関節の手術の際に対応が必要な生体組織である靭帯や腱を簡易かつ確実に再現することができる。
【0021】
このように、第3発明の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術用トレーニング器具によれば、靭帯や腱の損傷を起こさないトレーニングを含めて、実際の手術を靭帯や腱を含めて簡易かつ確実に再現することができる。
【0022】
第4発明の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術用トレーニング器具は、第1~第3発明のいずれかにおいて、
前記血管部には、血液に似せた液体が挿通していることを特徴とする。
【0023】
第4発明の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術用トレーニング器具によれば、血管部に血液に似せた液体(例えば赤色液体)を挿通しておくことで、実際の手術と同様の血管の質感と血管を傷つけた際の状況を簡易かつ確実に実際に再現することができる。
【0024】
このように、第4発明の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術用トレーニング器具によれば、実際の手術の際に考慮が必要な血管をよりリアリティをもって簡易かつ確実に現実に再現することができる。
【0025】
第5発明の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織の手術用トレーニング器具の製造方法は、
前記模擬骨のトレーニング対象となる部位を決定する対象部位決定工程と、
前記対象部位決定工程により決定されたトレーニング対象となる前記部位に、脂肪組織に相当する色を有し弾力のある塑性体である脂肪部を貼付する脂肪部貼付工程と、
前記脂肪部貼付工程により貼付された前記脂肪部を覆うように、筋肉組織に相当する色を有し弾力のある塑性体である筋肉部を配置する筋肉部配置工程と、
前記脂肪部貼付工程により貼付された前記脂肪部と筋肉部配置工程により配置された筋肉部とに隣接させて、血管に相当するチューブ状の血管部を配置する血管部配置工程と、
前記筋肉部配置工程により配置された前記筋肉部を含めて前記部位の全体を覆うように、皮下組織に相当する色を有し弾力のある塑性体である皮下組織部で覆う皮下組織部配置工程と、
前記皮下組織部配置工程により前記部位全体が覆われた皮下組織部の表面を、皮膚に相当するフィルム状の皮膚部で被覆する皮膚部形成工程と
を備え、
前記脂肪部貼付工程により貼付される脂肪部と、前記筋肉部配置工程により配置された前記筋肉部と、前記血管部配置工程により配置された前記血管部と、前記皮下組織部配置工程により配置された前記皮下組織部と、前記皮膚部形成工程により被覆された前記皮膚部とが、前記対象部位決定工程により決定された前記模擬骨のトレーニング対象となる前記部位に部分的に形成されていることを特徴とする。
【0026】
第5発明の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術用トレーニング器具の製造方法によれば、模擬骨に対して、脂肪部と筋肉部と皮下組織部とをそれぞれに相当する色を有する弾力のある塑性体を順番に配置することで、骨や関節の手術の際に対応が必要な生体組織等を模擬骨や関節組織に付随して簡易かつ確実に構成することができる。
【0027】
加えて、血管に相当するチューブ状の血管部を設けることで、骨の手術の際に注意が必要な血管を考慮した手術トレーニングが可能となる。
【0028】
また、模擬骨に脂肪部と血管部と筋肉部と皮下組織部を配置した状態で、フィルム状の皮膚部でラッピングすることでこれらを一体化させることができると共に、皮膚をその表面を含めて再現することができる。
【0029】
ここで、脂肪部と筋肉部と血管部と皮下組織部と皮膚部を模擬骨または模擬骨により構成される関節組織のトレーニング対象となる部位に部分的に形成することで、大掛かりな人体模型とは異なり、骨の手術を主目的とした簡易な構成を実現することができる。
【0030】
一方で、模擬骨のトレーニング対象となる部位には、手術の際に術者が骨や関節に到達するまでに考慮すべき皮膚膜と皮膚と筋肉と血管と脂肪とに相当する皮膚部と皮下組織部と筋肉部と血管部と脂肪部とが配置されているため、これらを実際の手術と同様に処置した上で、トレーニング対象となる模擬骨や関節組織の部位を露出させるトレーニングを行うことできる。
【0031】
加えて、各部は、実際の生体組織に対応した色や配置が採用されることから処置をする術者は、どの生体組織かを意識した処置のトレーニングが可能となる。
【0032】
さらに、処置により露出させたトレーニング対象となる模擬骨や関節組織の部位も、実際に筋肉により視野が限られるのと同様に、筋肉部等により術野も再現したものとすることができ、模擬骨自体や関節組織自体の切除等の手術も実際の手術に近いシミュレーションが可能となる。
【0033】
このように、第5発明の模擬骨または模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術用トレーニング器具の製造方法によれば、実際の手術を簡易かつ確実に再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の実施形態の模擬骨を用いた骨の手術用トレーニング器具の製造方法の手順を示すフローチャート。
【
図2A】
図1の対象部位決定工程(STEP10)の内容を示す説明図。
【
図2B】
図1の脂肪部貼付工程(STEP11)で形成される脂肪部を示す説明図。
【
図3A】
図1の筋肉部配置工程(STEP12)で形成される筋肉部を示す説明図。
【
図3B】
図1の血管部配置工程(STEP13)で形成される血管部を示す説明図。
【
図4A】
図1の皮下組織部配置工程(STEP14)で形成される皮下組織部を示す説明図。
【
図4B】
図1の皮膚部形成工程(STEP15)で形成される皮膚部を示す説明図。
【
図5】本発明の実施形態の模擬骨を用いた骨の手術用トレーニング器具の使用方法を示す説明図。
【
図6】
図5に続く、本発明の実施形態の模擬骨を用いた骨の手術用トレーニング器具の使用方法を示す説明図。
【
図7】
図6に続く、本発明の実施形態の模擬骨を用いた骨の手術用トレーニング器具の使用方法を示す説明図。
【
図8】
図7に続く、本発明の実施形態の模擬骨を用いた骨の手術用トレーニング器具の使用方法を示す説明図。
【
図9】本発明の実施形態の模擬骨により構成される関節組織を用いた骨の手術用トレーニング器具の例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1に示すように、本実施形態において、模擬骨1を用いた骨の手術用トレーニング器具の製造方法は、対象部位決定工程(STEP10)と、脂肪部貼付工程(STEP11)と、筋肉部配置工程(STEP12)と、血管部配置工程(STEP13)と、皮下組織部配置工程(STEP14)と、皮膚部形成工程(STEP15)とを備える。
【0036】
ここで、模擬骨1は、例えば、
図2Aに示す大腿骨であって、模擬骨1は、基台2に複数の支持棒3,4,5により支持される。支持棒3~5と模擬骨1との間は、模擬骨1に設けられた貫通孔に支持棒3~5先端の挿通部3A~5Aを挿通させた状態で支持され、適宜、挿通部3A~5Aに切られたネジ山に蝶ナット(図示省略)を螺合させることによりより強固に固定するようにしてもよい。
【0037】
まず、対象部位決定工程(STEP10)では、
図2Aに示す模擬骨1に対して、骨の手術用トレーニング対象とする部位を決定する。例えば、大腿骨顆部をターゲットTとする場合について、以下説明する。
【0038】
次に、脂肪部貼付工程(STEP11)では、
図2Bに示すように、対象部位決定工程(STEP10)でターゲットTとした大腿骨顆部に対して、脂肪に相当する色を有する弾力のある塑性体(粘性体)である脂肪部11を貼付する。
【0039】
脂肪に相当する色を有する弾力のある塑性体(粘性体)は、例えば、脂肪に相当する黄色の粘土(木粉粘土)により構成され、かかる黄色の粘土を脂肪部11として、ターゲットTの大腿骨顆部の周りに満遍なく貼付する。
【0040】
次に、筋肉部配置工程(STEP12)では、
図3Aに示すように、脂肪部貼付工程(STEP11)により脂肪部11が貼付された模擬骨1のターゲットTに対して、脂肪部11を覆うように、筋肉に相当する色を有する弾力のある塑性体(粘性体)である筋肉部12を配置する。
【0041】
筋肉に相当する色を有する弾力のある塑性体(粘性体)は、例えば、筋肉に相当する赤色の粘土(木粉粘土)により構成され、かかる赤色の粘土を筋肉部12(ここでは大腿四頭筋に対応させた複数の筋肉部12A,12B)として、ターゲットTの大腿骨顆部の脂肪部11に被せるように配置する。
【0042】
次に、血管部配置工程(STEP13)では、
図3Bに示すように、脂肪部貼付工程(STEP11)により貼付された脂肪部11と筋肉部配置工程(STEP12)により配置された筋肉部12とに隣接させて、血管に相当するチューブ状の血管部13を配置する。
【0043】
血管部13は、簡易にはストローにより構成され、かかる血管部13(ここでは大腿骨の下側を通る大腿動脈)として、ターゲットTの大腿骨顆部の下側に脂肪部11および筋肉部12に隣接して配置する。
【0044】
なお、チューブ状の血管部13には、図示しないポンプや赤い液体を満たした風船等により血液に似せた赤色液体を挿通させるようにしてもよい。
【0045】
次に、皮下組織部配置工程(STEP14)では、
図4Aに示すように、筋肉部配置工程(STEP12)により配置された筋肉部12を含めてターゲットTの全体を覆うように、皮膚に相当する色を有する弾力のある塑性体(粘性体)である皮下組織部で覆う。
【0046】
皮膚に相当する色を有する弾力のある塑性体(粘性体)は、例えば、皮膚に相当する肌色の粘土(木粉粘土)により構成され、かかる肌色の粘土を皮下組織部14として、ターゲットTの大腿骨顆部の筋肉部12(血管部13を含む)全体が隠れるように覆う。
【0047】
次に、皮膚部形成工程(STEP15)では、
図4Bに示すように、皮下組織部配置工程(STEP14)によりターゲットT全体が覆われた皮下組織部14の表面を、皮膚膜に相当するフィルム状の皮膚部15で被覆する。
【0048】
皮膚膜に相当するフィルムは、例えば、透明または半透明のポリ塩化ビニリデン(PVDC)により構成され、かかるフィルムを皮膚部15として、皮下組織部14の全体を複数回被覆して皮膚部を形成する。
【0049】
なお、皮膚部形成工程(STEP15)では、適宜、皮下組織部14まで形成された模擬骨1を支持棒3~5から外して、フィルムと模擬骨1とのいずれか一方を回転させることにより皮膚部15を形成し、皮膚部15を形成した模擬骨1を支持棒3~5に固定することが皮膚部15を皮下組織部14に密着させる上で好ましい。
【0050】
以上のように構成された模擬骨1を用いた骨の手術用トレーニング器具の使用方法について説明する。
【0051】
まず、トレーニングを行う術者は、
図5に示すように、実際の大腿骨の手術と同様に、大腿骨の対象部位にアプローチするように、メスにより皮膚膜と皮膚に相当するターゲットTの皮膚部15と皮下組織部14を切開することできる。
【0052】
この状態から術者は、
図6に示すように、実際の手術と同様に指やレトラクター等の手術器具を用いて、目標部位Xを押し広げながら、大腿骨の対象部位にアプローチする。
【0053】
このとき、目標部位Xでは、皮下組織部14を割くように筋肉部12に到達したことが、皮下組織部14と筋肉部12とがそれぞれに肌色と赤色の塑性体(粘土)の色で把握することができる。
【0054】
さらに、筋肉部12を避けるように大腿骨の対象部位にアプローチすることで、対象部位の脂肪部11に到達したことが脂肪部11を構成する黄色の塑性体(粘土)の色で把握することができる。
【0055】
さらに、この状態から術者は、
図7に示すように、実際の手術と同様に、さらに指やレトラクター等の手術器具を用いて、大腿骨の対象部位にアプローチすることで脂肪部11を除けて、模擬骨1の手術対象部位1´を露出させることができる。
【0056】
そして、
図8に示すように、術者は、実際の手術と同様に、手術対象部位1´が露出した目標部位Xの上下にレトラクターY,Zをセットする。このとき、術者は、上側のレトラクターYをその先端のブレードが手術対象部位1´と筋肉部12との間に入るようにセットする。また、術者は、下側のレトラクターZに対して、血管部13を指で確認しながら、レトラクターZのブレードが手術対象部位1´と血管部13(および筋肉部12)との間に入るようにセットする。
【0057】
このようにして手術対象部位1´を目標部位Xから露出させた状態で、かかる手術対象部位1´を骨切断工具等により切断することで、従来の骨全体が露出した模擬骨を用いたトレーニングとは異なり、筋肉等により視野が限られる中での実際の手術を再現したトレーニングが可能となる。
【0058】
以上、詳しく説明したように本実施形態の模擬骨1を用いた骨の手術用トレーニング器具によれば、模擬骨1に対して、脂肪部11と筋肉部12と皮下組織部14とをそれぞれに相当する色を有する塑性体を順番に配置することで、骨の手術の際に対応が必要な生体組織等を模擬骨1に付随して簡易かつ確実に構成することができる。
【0059】
加えて、血管に相当するチューブ状の血管部13を設けることで、骨の手術の際に注意が必要な血管を考慮した手術トレーニングが可能となる。
【0060】
また、模擬骨1に脂肪部11と筋肉部12と血管部13と皮下組織部14を配置した状態で、フィルム状の皮膚部15でラッピングすることでこれらを一体化させることができると共に、皮膚表面の皮膚膜を再現して、メスによる切断等を行うことができる。
【0061】
ここで、脂肪部11と筋肉部12と血管部13と皮下組織部14と皮膚部15を模擬骨1のトレーニング対象となる部位(ターゲットT)にのみ部分的に形成することで、大掛かりな人体模型とは異なり、骨の手術を主目的とした簡易な構成を実現することができる。
【0062】
一方で、模擬骨1のトレーニング対象となる部位(ターゲットT)には、手術の際に術者が骨や関節に到達するまでに考慮すべき皮膚膜と皮膚と筋肉と血管と脂肪とに相当する皮膚部15と皮下組織部14と血管部13と筋肉部12と脂肪部11とが配置されているため、これらを実際の手術と同様に処置した上で、トレーニング対象となる模擬骨の部位を露出させるトレーニングを行うことできる。
【0063】
加えて、各部11~15は、実際の生体組織に対応した色や配置が採用されることから処置をする術者は、どの生体組織かを意識した処置のトレーニングが可能となる。
【0064】
さらに、処置により露出させたトレーニング対象となる模擬骨1の手術対象部位1´も、実際に筋肉により視野が限られるのと同様に、筋肉部12等により術野も再現したものとすることができ、模擬骨1自体の切除等の手術も実際の手術に近いシミュレーションが可能となる。
【0065】
このように、本実施形態の模擬骨1を用いた骨の手術用トレーニング器具によれば、実際の手術を簡易かつ確実に再現することができる。
【0066】
なお、本実施形態では、脂肪部11と筋肉部12と皮下組織部14とをそれぞれに相当する色を有する塑性体である粘土(木粉粘土)により構成する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、粘弾性を有する着色樹脂材等により構成してもよい。
【0067】
また、本実施形態では、大腿骨を模擬骨1として説明したが、単独の模擬骨に限らず、模擬骨により構成される関節組織を対象としてもよく、さらに、上述した脂肪部11、筋肉部12、血管部13、皮下組織部14、皮膚部15に加えてまたは代えて、神経に相当する糸状の神経部、靭帯に相当する靭帯部や腱組織に相当する腱組織部の一部または全部を備えてもよい。
【0068】
例えば、
図9に示すように、大腿骨である模擬骨1と脛骨である模擬骨1´との間の関節組織である膝関節の模擬関節に対して、大腿四頭筋に相当する筋肉部12Cを配置すると共に、筋肉部12Cを膝蓋骨である模擬骨10に、大腿四頭筋腱に相当する腱組織部16Aを介して接続した構成としてもよい。同様に、膝蓋骨である模擬骨10と脛骨である模擬骨1´との間を膝蓋腱に相当する腱組織部16Bを介して接続した構成としてもよい。なお、靭帯部16A,16Bは、繊維バンド等の繊維束により構成され、各接続箇所は適宜、接着剤やビスどめ等により接続固定される。
【0069】
また、大腿骨である模擬骨1と脛骨である模擬骨1´とは、両側の外側側副靭帯および内側側副靭帯に相当する靭帯部17A,17Bを介して接続された構成としてもよい。なお、靭帯部17A,17Bは、樹脂材により構成され、各接続箇所は適宜、接着剤やビスどめ等により接続固定される。
【0070】
さらに、伏在神経に相当する神経部18を糸状の部材により構成し、これを隣接する模擬骨1、1´や筋肉部12等に隣接して配置してもよい。
【0071】
以上のように構成した模擬骨により構成される関節組織(脂肪部11および血管部13は省略している)に対して、皮下組織部14および皮膚部15を形成することで、膝関節に対する手術トレーニング器具を構成することができる。
【0072】
なお、関節組織は、膝関節について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、肘関節を対象として構成してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1…模擬骨、1´…手術対象部位、11…脂肪部、12…筋肉部、13…血管部、14…皮下組織部、15…皮膚部、T…トレーニング対象部位(ターゲット)、X…目標部位、Y,Z…レトラクター。