(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020586
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】燃料電池シール部材用接着剤組成物、燃料電池用部材、燃料電池用部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/028 20160101AFI20250205BHJP
H01M 8/0204 20160101ALI20250205BHJP
H01M 8/0284 20160101ALI20250205BHJP
H01M 8/021 20160101ALI20250205BHJP
H01M 8/0286 20160101ALI20250205BHJP
C09J 183/04 20060101ALI20250205BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20250205BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20250205BHJP
【FI】
H01M8/028
H01M8/0204
H01M8/0284
H01M8/021
H01M8/0286
C09J183/04
C09J11/06
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124066
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】奥田 博文
(72)【発明者】
【氏名】今井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 健次
(72)【発明者】
【氏名】眞崎 智弘
(72)【発明者】
【氏名】大西 將博
【テーマコード(参考)】
4J040
5H126
【Fターム(参考)】
4J040EK031
4J040JA02
4J040JB02
4J040KA35
4J040MA10
4J040MA12
5H126AA12
5H126AA13
5H126BB06
5H126GG08
5H126GG17
5H126GG18
5H126HH01
5H126HH02
5H126HH04
5H126HH10
5H126JJ03
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】 接着性と識別性とを両立することができる燃料電池シール部材用接着剤組成物、当該接着剤組成物を用いて製造される燃料電池用部材、および燃料電池用部材の製造方法を提供する。
【解決手段】 本開示の燃料電池シール部材用接着剤組成物は、燃料電池の構成部材である薄板状の基材と、ゴム組成物から製造されるシール部材と、を接着する接着剤組成物であって、(A)主成分がシランカップリング剤からなる、または主成分がシランカップリング剤および有機チタネート化合物からなる接着成分と、溶剤と、を有する接着剤液と、(B)該接着成分に相溶であり、かつ該溶剤に溶解する染料と、を有する。該染料の含有量は、該接着剤組成物の不揮発分を100質量部とした場合の3質量部以上25質量部以下であり、該接着剤組成物は、該染料により、該基材または該シール部材の色と異なる色に着色されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の構成部材である薄板状の基材と、ゴム組成物から製造されるシール部材と、を接着する燃料電池シール部材用接着剤組成物であって、
(A)主成分がシランカップリング剤からなる、または主成分がシランカップリング剤および有機チタネート化合物からなる接着成分と、溶剤と、を有する接着剤液と、
(B)該接着成分に相溶であり、かつ該溶剤に溶解する染料と、
を有し、
該染料の含有量は、該接着剤組成物の不揮発分を100質量部とした場合の3質量部以上25質量部以下であり、
該接着剤組成物は、該染料により、該基材または該シール部材の色と異なる色に着色されていることを特徴とする燃料電池シール部材用接着剤組成物。
【請求項2】
前記基材または前記シール部材に0.01μm以上1μm以下の厚さで塗布される請求項1に記載の燃料電池シール部材用接着剤組成物。
【請求項3】
前記基材に塗布される請求項1に記載の燃料電池シール部材用接着剤組成物。
【請求項4】
前記基材は、セパレータである請求項3に記載の燃料電池シール部材用接着剤組成物。
【請求項5】
前記セパレータは銀系色であり、
前記染料は、黒系色または赤系色である請求項4に記載の燃料電池シール部材用接着剤組成物。
【請求項6】
前記染料は、キサンテン系染料またはアジン系染料である請求項1に記載の燃料電池シール部材用接着剤組成物。
【請求項7】
薄板状の基材と、ゴム組成物から製造されるシール部材と、該基材と該シール部材とを接着する接着剤層と、を備え、
該接着剤層は、請求項1に記載の燃料電池シール部材用接着剤組成物から形成されることを特徴とする燃料電池用部材。
【請求項8】
前記接着剤層の厚さは、0.01μm以上1μm以下である請求項7に記載の燃料電池用部材。
【請求項9】
前記基材は、ステンレス鋼製のセパレータである請求項7に記載の燃料電池用部材。
【請求項10】
前記ゴム組成物は、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴムから選ばれる一種以上を有する請求項7に記載の燃料電池用部材。
【請求項11】
請求項7に記載の燃料電池用部材の製造方法であって、
前記基材に前記燃料電池シール部材用接着剤組成物を塗布する塗布工程と、
塗布された該接着剤組成物の色により、塗布状態の良否を判定する判定工程と、
該塗布状態が良と判定された場合、該基材の該接着剤組成物の塗布面に、未架橋の前記ゴム組成物を配置して積層体とし、該積層体を加熱および加圧して該ゴム組成物を架橋して前記シール部材とすると共に、該シール部材を該基材に接着させる接着工程と、
を有することを特徴とする燃料電池用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池の構成部材とシール部材とを接着するための接着剤組成物、当該接着剤組成物を用いて製造される燃料電池用部材、および燃料電池用部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、多数のセルが積層されたスタック構造を呈する。セルの積層体は、積層方向両側に配置されたエンドプレートにより締結される。例えば、固体高分子型燃料電池のセルは、膜電極接合体(MEA)を含む電極部材と、電極部材を挟んで配置されるセパレータと、を有する。電極部材の周囲や、隣り合うセパレータの間には、反応ガスや冷媒に対するシール性と絶縁性とを確保するために、ゴム製のシール部材が配置される。燃料電池の作動環境において高いシール性を維持するためには、シール部材と相手部材とを接着剤を用いて一体化させる方法が有効である。例えば、特許文献1には、ゴムガスケット(シール部材)とセパレータとを接着させる方法として、ゴムガスケット表面にシランカップリング剤系プライマーを塗布し、当該プライマー塗布面をセパレータに密着させて、ゴムガスケットを圧着固定した状態で加熱する方法が記載されている。特許文献2には、シール部材とセパレータとを接着させる接着剤として、親水性官能基および疎水性官能基を特定の割合で有する共重合オリゴマータイプのシランカップリング剤を主成分とする接着剤が記載されている。特許文献2においては、シランカップリング剤を主成分とする接着剤を、セパレータの表面に塗布、乾燥した後、ゴム組成物を積層して、架橋、接着させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-183198号公報
【特許文献2】国際公開第2022/208926号
【特許文献3】特開2018-59630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シランカップリング剤を主成分とする接着剤はほぼ無色透明であり、セパレータなどの被塗物の表面に形成される塗膜は極めて薄い。このため、目視しただけでは、接着剤が所定の範囲にきちんと塗布されているかどうかがわかりにくい。仮に、塗りむらがあったり、塗布されていない箇所があると、シール部材が剥がれたり、シール性が低下したりするおそれがある。
【0005】
接着剤の塗布状態を判定する方法として、接着剤に着色剤を配合して塗膜を着色する方法が考えられる。しかしながら、着色剤は接着性を有しないため、配合量によっては接着性が低下するおそれがある。着色剤としては顔料が知られているが、顔料は溶剤に溶解しないため、沈殿しやすく、均質な塗膜を形成することが難しい。また、形成された接着剤層に接着性を有しない顔料粒子が分散されるため、シール部材が剥がれやすくなったり、積層方向の圧縮力により顔料粒子近傍に応力が集中し、顔料粒子を起点としたシール部材の割れが発生するおそれがある。
【0006】
この点、特許文献3には、環状の金属製芯材とエラストマー部材とを接着する接着剤を、染料により着色することが記載されている。しかしながら、特許文献3に記載されている接着剤は、自動車や風力発電機などの軸受部に用いられる、フェノール樹脂系、エポキシ樹脂系などの一般的な接着剤であり、シランカップリング剤を用いたものではない。染料についても水溶性、油溶性を問わないと記載されている。すなわち、特許文献3においては、接着成分としてシランカップリング剤は想定されておらず、染料と接着成分との相溶性についても何ら検討されていない。
【0007】
例えば、接着剤において、接着成分と染料との相溶性が悪いと、染料が沈殿したり、だまになったりして、均質な塗膜を形成することが難しい。この場合、シール部材が剥がれやすくなったり、積層方向の圧縮力によりシール部材の割れが発生するおそれがある。また、燃料電池においては、構成部材の薄型化と共に高い寸法精度が要求されており、シール部材と相手部材との間に介在する接着剤層の厚さも、極めて薄いものとなる。このように、燃料電池の構成部材とシール部材とを接着するための接着剤においては、燃料電池ならではの要求特性を満足する必要があり、それ故、接着性と識別性とを両立させることは難しい。
【0008】
本開示は、このような実情に鑑みてなされたものであり、接着性と識別性とを両立することができる燃料電池シール部材用接着剤組成物、当該接着剤組成物を用いて製造される燃料電池用部材、および燃料電池用部材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するため、本開示の燃料電池シール部材用接着剤組成物は、燃料電池の構成部材である薄板状の基材と、ゴム組成物から製造されるシール部材と、を接着する燃料電池シール部材用接着剤組成物であって、(A)主成分がシランカップリング剤からなる、または主成分がシランカップリング剤および有機チタネート化合物からなる接着成分と、溶剤と、を有する接着剤液と、(B)該接着成分に相溶であり、かつ該溶剤に溶解する染料と、を有し、該染料の含有量は、該接着剤組成物の不揮発分を100質量部とした場合の3質量部以上25質量部以下であり、該接着剤組成物は、該染料により、該基材または該シール部材の色と異なる色に着色されていることを特徴とする。
【0010】
本開示の燃料電池シール部材用接着剤組成物(以下、単に「接着剤組成物」と称する場合がある)は、染料により着色されている。接着剤組成物は、被塗物が基材の場合には基材の色と異なる色に着色され、被塗物がシール部材の場合にはシール部材の色と異なる色に着される。これにより、被塗物の表面において接着剤組成物が識別しやすくなり、目視や色検査機などにより、塗布状態の良否判定が容易になる。結果、塗りむら、塗り残しなどが生じにくくなり、シール部材の剥がれ、シール性の低下などを抑制することができる。本開示における「色」とは、色の三要素のうちの主に色相を意味し、赤、青、緑、黄などの色合いのことである。
【0011】
本開示の接着剤組成物において、染料は接着成分に相溶であり、かつ溶剤に溶解する。これにより、染料が沈殿しにくく、だまも生成されにくくなり、均質な塗膜を形成することができる。結果、シール部材の剥がれ、シール性の低下などを抑制することができる。また、染料の含有量は、接着剤組成物の不揮発分を100質量部とした場合の3質量部以上25質量部以下である。比較的少量の染料により着色力が発揮されるため、染料が接着性を有しなくても、接着性が低下しにくい。このように、本開示の接着剤組成物によると、接着性と識別性とを両立することができる。
【0012】
(2)上記(1)の構成において、燃料電池シール部材用接着剤組成物は、前記基材または前記シール部材に0.01μm以上1μm以下の厚さで塗布される構成としてもよい。本構成は、燃料電池に要求される構成部材の薄型化および高い寸法精度の実現に好適である。
【0013】
(3)上記いずれかの構成において、燃料電池シール部材用接着剤組成物は、前記基材に塗布される構成としてもよい。本構成によると、薄板状の基材に、柔軟なゴム製のシール部材(未架橋のゴム組成物でもよい)が積層されるため、シール部材の位置ずれが抑制され、寸法精度、作業性が向上する。
【0014】
(4)上記(3)の構成において、前記基材は、セパレータである構成としてもよい。本構成によると、セパレータとシール部材との接着信頼性を高めることができる。
【0015】
(5)上記(4)の構成において、前記セパレータは銀系色であり、前記染料は、黒系色または赤系色である構成としてもよい。本構成によると、銀系色のセパレータに、黒系色または赤系色の接着剤組成物が塗布される。よって、セパレータに対して接着剤組成物の存在が目立ちやすく、塗布状態の良否判定を容易に行うことができる。
【0016】
(6)上記いずれかの構成において、前記染料は、キサンテン系染料またはアジン系染料である構成としてもよい。本構成によると、接着成分に相溶で、溶剤に溶解し、さらには比較的少量で着色が可能な染料を選択しやすい。
【0017】
(7)本開示の燃料電池用部材は、薄板状の基材と、ゴム組成物から製造されるシール部材と、該基材と該シール部材とを接着する接着剤層と、を備え、該接着剤層は、上記(1)の構成の燃料電池シール部材用接着剤組成物から形成されることを特徴とする。
【0018】
本開示の燃料電池用部材によると、製造過程において、基材またはシール部材の表面に塗布された状態の接着剤組成物が識別しやすく、目視や色検査機などにより塗布状態の良否判定を容易に行うことができる。これにより、接着不良が生じにくくなり、シール性が高い高品質な燃料電池用部材が実現される。
【0019】
(8)上記(7)の構成において、前記接着剤層の厚さは、0.01μm以上1μm以下である構成としてもよい。本構成は、燃料電池に要求される構成部材の薄型化および高い寸法精度の実現に好適である。
【0020】
(9)上記(7)または(8)の構成において、前記基材は、ステンレス鋼製のセパレータである構成としてもよい。本構成によると、セパレータとシール部材との接着信頼性を高めることができる。また、ステンレス鋼製のセパレータは、通常、金属光沢による銀系色を呈する。このため、セパレータの色と対比した場合、黒色、赤色、青色、緑色など様々な色が識別可能であり、着色に用いる染料の選択の幅が広くなる。
【0021】
(10)上記(7)ないし(9)のいずれかの構成において、前記ゴム組成物は、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴムから選ばれる一種以上を有する構成としてもよい。本構成によると、シール性、耐久性、高温特性などに優れるシール部材を実現することができる。
【0022】
(11)本開示の燃料電池用部材の製造方法は、上記(7)の構成の燃料電池用部材の製造方法であって、前記基材に前記燃料電池シール部材用接着剤組成物を塗布する塗布工程と、塗布された該接着剤組成物の色により、塗布状態の良否を判定する判定工程と、該塗布状態が良と判定された場合、該基材の該接着剤組成物の塗布面に、未架橋の前記ゴム組成物を配置して積層体とし、該積層体を加熱および加圧して該ゴム組成物を架橋して前記シール部材とすると共に、該シール部材を該基材に接着させる接着工程と、を有することを特徴とする。
【0023】
本開示の燃料電池用部材の製造方法によると、判定工程において、塗布された接着剤組成物の色により、塗布状態の良否を判定する。これにより、塗りむら、塗り残しなどを回避することができる。結果、製造される燃料電池用部材において、シール部材の剥がれ、シール性の低下などを抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
本開示の燃料電池シール部材用接着剤組成物によると、基材またはシール部材の表面に塗布された状態において接着剤組成物が識別しやすい。よって、目視や色検査機などにより、塗布状態の良否判定が容易になる。結果、塗りむら、塗り残しなどが生じにくくなり、シール部材の剥がれ、シール性の低下などを抑制することができる。また、特定の染料を比較的少量用いることで、接着性と識別性とを両立させることができる。本開示の燃料電池用部材は、接着不良が少なく、シール性に優れる。本開示の燃料電池用部材の製造方法は、判定工程において、塗布された接着剤組成物の色により、塗布状態の良否を判定する。これにより、接着剤組成物の塗りむら、塗り残しなどを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本開示の燃料電池用部材の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示の燃料電池シール部材用接着剤組成物、燃料電池用部材、燃料電池用部材の製造方法の実施の形態について説明する。なお、実施の形態は以下の形態に限定されるものではなく、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することができる。
【0027】
<燃料電池シール部材用接着剤組成物>
本開示の接着剤組成物は、燃料電池の構成部材である薄板状の基材と、ゴム組成物から製造されるシール部材と、を接着する。燃料電池としては、固体高分子型燃料電池(PEFC)(ダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)を含む)などが挙げられる。基材は、燃料電池の種類、構成などにより様々であり、固体高分子型燃料電池においては、セパレータ、電極部材の膜電極接合体(MEA)、ガス拡散層(GDL)などが挙げられる。基材、シール部材については後述する。
【0028】
本開示の接着剤組成物は、(A)主成分がシランカップリング剤からなる、または主成分がシランカップリング剤および有機チタネート化合物からなる接着成分と、溶剤と、を有する接着剤液と、(B)接着剤液の接着成分に相溶であり、かつ溶剤に溶解する染料と、を有する。
【0029】
(A)接着剤液
[接着成分]
接着成分の主成分は、シランカップリング剤か、シランカップリング剤および有機チタネート化合物である。本明細書において「主成分」とは、接着成分の全体を100質量%とした場合に、50質量%以上を占める成分である。例えば、接着成分は、シランカップリング剤のみからなる形態(含有割合100質量%)でもよく、シランカップリング剤および有機チタネート化合物のみからなる形態(両者合わせて含有割合100質量%)でもよく、シランカップリング剤、および必要に応じて配合される有機チタネート化合物と、それ以外の成分(含有割合50質量%未満)と、を含む形態でもよい。
【0030】
シランカップリング剤は、官能基としてアミノ基、ビニル基、エポキシ基から選ばれる一つ以上の官能基を有する化合物群の中から、接着性などを考慮して適宜選択すればよい。シランカップリング剤としては、一種を単独で、または二種以上を混合して用いることができる。あるいは、二種以上のシランカップリング剤が共重合された共重合オリゴマーを用いてもよい。共重合オリゴマーとしては、次の(a)の親水性官能基と(b)の疎水性官能基とを有するものが好適である。
(a)シラノール基、アルコキシ基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、ウレイド基、カルボキシ基、およびヒドロキシ基からなる群から選ばれる一種以上であり、少なくともシラノール基またはアルコキシ基を含む。
(b)ビニル基、(メタ)アクリロイル基、マレイミド基、メチル基、エチル基、スチリル基、フェニル基、およびメルカプト基からなる群から選ばれる一種以上。
【0031】
シランカップリング剤における親水性官能基および疎水性官能基を、(a)および(b)に示される特定の官能基とすることにより、接着剤層の接着性、耐水性、耐酸性を向上させることができる。このうち、疎水性官能基は、疎水性を付与することにより接着剤層への水の浸入を防ぎ、耐水性、耐酸性の向上に寄与する。親水性官能基は、基材や、シール部材中の成分(カーボンブラックなど)と反応して、接着性に寄与する。例えば、(a)の官能基を有するシランカップリング剤と、(b)の官能基を有するシランカップリング剤と、をオリゴマー化反応させて、共重合オリゴマーを製造すればよい。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基またはメタクリロイル基を意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0032】
(a)の親水性官能基を有するシランカップリング剤のうち、シラノール基、アルコキシ基以外の親水性官能基をも有するシランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-カルボキシプロピルトリメトキシシラン、3-カルボキシプロピルトリエトキシシラン、3-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3-ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。なかでも、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが好適である。
【0033】
(b)の疎水性官能基を有するシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)マレイミド、N-(トリエトキシシリルプロピル)マレイミド、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。なかでも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)マレイミド、N-(トリエトキシシリルプロピル)マレイミドが好適である。
【0034】
オリゴマー化反応は、まず、各シランカップリング剤を蒸留装置および撹拌機を有する反応器内に仕込み、約60℃で約1時間撹拌する。次に、(a)に示す親水性官能基を有するシランカップリング剤および(b)に示す疎水性官能基を有するシランカップリング剤の合計1モルに対し、ギ酸などの酸約0.5~2.0モルを1時間以内に添加する。酸を添加している間、反応器内の温度を約65℃に保持する。さらに1~5時間撹拌し、反応を進行させると同時に、加水分解によって生成したアルコールを減圧下で蒸留する。蒸留液に水しか存在しなくなった時点で蒸留を終了させ、その後シラン濃度が30~80質量%になるように希釈する。このようにして得られる共重合オリゴマーは、メタノール、エタノールなどのアルコール系有機溶媒に可溶なオリゴマーである。共重合オリゴマーは、接着剤組成物を塗布する際の成膜性、耐水性、耐酸性を高める観点から、3量体以上のものが望ましい。
【0035】
接着成分のうち、シランカップリング剤以外の成分としては、有機チタネート化合物、アルミネート系カップリング剤などが挙げられる。有機チタネート化合物およびアルミネート系カップリング剤から選ばれる一種以上を用いる場合、シランカップリング剤との合計含有割合を、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、さらには100質量%にするとよい。また、基材との密着性を高め、かつ疎水性を付与することにより、形成される接着剤層の耐水性、耐酸性を向上させる目的で、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、ビニル樹脂などを添加してもよい。なお、これらの樹脂を添加する場合は、接着成分の全体を100質量%とした場合の20質量%以下にするとよい。
【0036】
有機チタネート化合物を含む場合には、耐酸接着性、とりわけ高温かつ長期間の使用における耐酸接着性が向上する。有機チタネート化合物としては、チタンアルコキシド、チタンキレート、およびチタンアシレートから選ばれる一種以上を用いることが望ましい。
【0037】
チタンアルコキシドとしては、例えば、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラノルマルプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラ-t-ブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、テトラステアリルチタネート、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネートなどが挙げられる。なかでも、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラステアリルチタネートが好適である。
【0038】
チタンキレートとしては、例えば、チタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンエチルアセトアセテート、チタントリエタノールアルミネートなどが挙げられる。なかでも、チタンアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテートが好適である。
【0039】
チタンアシレートとしては、例えば、チタンイソステアレート、トリ-n-ブトキシチタンモノステアレート、ジ-i-プロポキシチタンジステアレート、チタニウムステアレート、ジ-i-プロポキシチタン ジイソステアレート、(2-n-ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタンなどが挙げられる。なかでも、チタニウムステアレートが好適である。
【0040】
アルミネート系カップリング剤を含む場合には、塗膜強度が向上する。アルミネート系カップリング剤としては、例えば、アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムジイソプロピレートモノセカンダリーブチレート、アルミニウムセカンダリーブチレート、アルミニウムエチレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムモノイソプロポキシモノオレキシエチルアセトアセテートなどが挙げられる。これらの一種を単独で、または二種以上を混合して用いることができる。なかでも、アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテートが好適である。
【0041】
[溶剤]
溶剤は、接着成分を溶解可能なものであれば特に限定されない。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、2-エトキシエタノール(エチレングリコールモノエチルエーテル)、ブトキシエタノール(エチレングリコールモノブチルエーテル)などのアルコール系有機溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤などが挙げられる。接着剤液における接着成分の濃度は、接着性などを考慮して適宜決定すればよく、例えば、0.5質量%以上25質量%以下にするとよい。
【0042】
前述したシランカップリング剤の共重合オリゴマーおよび溶剤を有する接着剤液として、例えば、ロード・コーポレーション製の「CHEMLOK(登録商標)5151」、ダウ・ケミカル社製の「MEGUM(登録商標)3290、信越化学工業(株)製の「X-12-1048」、「KR-513」などの市販品を使用してもよい。
【0043】
(B)染料
染料としては、接着剤液の接着成分に相溶であり、かつ接着剤液の溶剤に溶解するものを採用する。ここで、「接着成分に相溶」とは、接着成分の濃度が5質量%の接着剤液100mLに染料を1.5g加えて5分間撹拌した状態を目視で観察した場合に、濁りおよび沈殿物がない状態を意味する。
【0044】
本開示の接着剤組成物は、染料により、基材またはシール部材の色と異なる色に着色されている。接着剤組成物を基材に塗布する場合には、基材の色と異なる色に着色すればよく、シール部材に塗布する場合には、シール部材の色と異なる色に着色すればよい。塗膜の色を無色透明ではなく、被塗物の色と異なる色にすることにより、塗布状態の良否判定がしやすくなる。染料の色は限定されないが、被塗物の色に対して目立つ色が望ましい。例えば、基材が銀系色のセパレータの場合に、黒系色または赤系色の染料を用いると、基材に塗布された接着剤組成物の存在が容易に識別でき好適である。
【0045】
できるだけ色を濃くして識別性を高めるという観点から、染料の含有量は、接着剤組成物の不揮発分を100質量部とした場合の3質量部以上とする。5質量部以上、さらには10質量部以上が好適である。他方、所望の接着性を確保するという観点から、染料の含有量は、接着剤組成物の不揮発分を100質量部とした場合の25質量部以下とする。20質量部以下、さらには15質量部以下が好適である。本発明書において「不揮発分」とは、接着剤組成物から溶剤を除去した後の残留成分の質量を意味する。また、塗膜が薄くても接着剤組成物の存在を識別できることが望ましい。例えば、接着剤組成物の塗膜の厚さが0.01μm以上1μm以下の厚さの場合でも、染料の着色力が発揮され、接着剤組成物の存在を識別できると好適である。
【0046】
比較的少量でも着色力が高い染料として、キサンテン系染料、アジン系染料などが好適である。キサンテン系染料のなかではローダミン類が望ましい。赤系色の染料としては、ローダミンB(C.I. Basic Violet 10)、C.I. Solvent RED 49、C.I. Basic RED 1:1、黒系色の染料としては、C.I. Solvent Black 7などが挙げられる。「C.I.」は、カラーインデックスを意味する。カラーインデックスは、英国染料染色学会などによって構築されている色材のデータベースである。
【0047】
<燃料電池用部材>
本開示の燃料電池用部材は、薄板状の基材と、ゴム組成物から製造されるシール部材と、該基材と該シール部材とを接着する接着剤層と、を備え、該接着剤層は、本開示の燃料電池シール部材用接着剤組成物から形成される。
【0048】
まず、本開示の燃料電池用部材の一実施形態を説明する。
図1に、本実施形態の燃料電池用部材の断面図を示す。
図1に示すように、燃料電池用部材1は、セパレータ10と、シール部材20と、接着剤層30と、を備えている。セパレータ10は、ステンレス鋼製であり、銀系色の矩形薄板状を呈している。セパレータ10の、燃料電池を構成した際に電極部材(図略)と重なる領域には、長手方向に延在する溝部11が合計六つ凹設されている。溝部11は、冷媒などの流路になる。シール部材20は、セパレータ10の上面周縁部に配置されている。シール部材20は、上方から見て枠状を呈している。シール部材20は、エチレン-ブテン-ジエンゴムを有するゴム組成物の架橋物からなる。シール部材20は、上方に突出するリップ部21を有している。リップ部21の頂部は、曲面状を呈している。シール部材20は、燃料電池を構成した際に、積層される別のセパレータに弾接する。接着剤層30は、上方から見て枠状を呈しており、セパレータ10とシール部材20との間に配置されている。接着剤層30は、本開示の接着剤組成物から形成されており、赤系色を呈している。接着剤層30は、セパレータ10とシール部材とを接着している。
【0049】
燃料電池用部材1は、次のようにして製造される。まず、シール部材20形成用のゴム組成物を調製する。調製したゴム組成物を所定の形状に成形し、未架橋のゴム部材を作製する。次に、セパレータ10の上面の所定位置に、接着剤組成物を塗布して、塗布状態を確認する。ここで、接着剤組成物は赤系色を呈するため、銀系色のセパレータ10の上面において識別しやすい。そして、塗布状態が良好であれば、塗膜の上面に、作製したゴム部材を積層し、所定条件で架橋、接着させる。このようにして、セパレータ10とシール部材20とが接着剤層30を介して一体化した燃料電池用部材1が製造される。次に、本開示の燃料電池用部材を構成する個々の部材について説明する。
【0050】
[基材]
前述したように、燃料電池に用いられる基材は、燃料電池の種類、構成などにより様々であり、固体高分子型燃料電池においては、セパレータ、電極部材の膜電極接合体、ガス拡散層などが挙げられる。このうち、セパレータの材質としては、ステンレス鋼、チタン、銅、マグネシウム、アルミニウム、カーボン、グラファイト、導電性樹脂(カーボン、グラファイト、ポリアクリロニトリル系炭素繊維などを含む熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂)などが挙げられる。耐酸性、コストの観点においては、ステンレス鋼(特にオーステナイト系)、チタン(特に純チタン)が望ましい。また、これらの材料からなる本体部の表面に、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)などの処理によりダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)、グラファイト膜などの炭素薄膜が形成されたものでもよい。セパレータにおけるシール部材が接着される領域(接着剤組成物が塗布される領域)には、接着剤組成物の濡れ性を高めて接着性を向上させるため、凹凸を形成するなどの表面処理が施されてもよい。形成される流路、マニホールド孔などを含めて、セパレータの構成は限定されず、形状、厚さなどは適宜決定すればよい。発電性能などを考慮すると、セパレータの厚さは、0.1mm以上0.5mm以下であるとよい。
【0051】
[シール部材]
シール部材は、ゴム組成物を射出成形、プレス成形するなどして製造される。ゴム組成物を構成するゴム成分は、液状ゴムでもソリッドゴムでもよい。ゴム成分としては、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-ブテン-ジエンゴム(EBT)、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(H-NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)などが挙げられる。なかでも、高温下における耐水性、耐酸性が高いという理由から、EPM、EPDMおよびEBTから選ばれる一種以上を用いることが望ましい。ゴム組成物は、ゴム成分の他に、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、補強剤、老化防止剤、加工助剤などを含んでもよい。
【0052】
架橋剤としては、硫黄などの揮発成分を含まないという理由から、有機過酸化物を用いることが望ましい。なかでも、比較的低温で架橋可能なジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、ケトンパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネートなどが好適である。架橋助剤としては、マレイミド化合物、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、2官能(メタ)アクリレート、1,2-ポリブタジエンなどが挙げられる。可塑剤としては、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、ワセリンなどの石油系可塑剤、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油などの脂肪油系可塑剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリンなどのワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸などが挙げられる。補強剤としては、カーボンブラック、非晶質シリカ(ホワイトカーボン)などが挙げられる。老化防止剤としては、フェノール系、アミン系、イミダゾール系、リン酸系、ワックスなどが挙げられる。
【0053】
シール部材は、基材の表面において外周縁に沿って環状に配置してもよく、所定の部位を囲むように配置してもよい。シール部材の厚さは0.2mm以上5mm以下、さらには0.5mm以上3mm以下が好適である。
【0054】
[接着剤層]
基材とシール部材とを接着する接着剤層は、前述した本開示の燃料電池シール部材用接着剤組成物から形成される。構成部材の薄型化および高い寸法精度を実現するという観点から、接着剤層の厚さは、0.01μm以上1μm以下であることが望ましい。接着剤層の色は、接着剤組成物を塗布した部材(基材またはシール部材)の色と異なれば特に限定されない。
【0055】
<燃料電池用部材の製造方法>
本開示の燃料電池用部材の製造方法の一形態は、塗布工程と、判定工程と、接着工程と、を有する。以下、各工程を順に説明する。
【0056】
[塗布工程]
本工程においては、基材に本開示の燃料電池シール部材用接着剤組成物を塗布する。接着剤組成物は、予め染料を溶剤に溶解した染料液を製造しておき、この染料液と接着剤液とを合わせて撹拌して調製すればよい。あるいは、接着剤液に染料を添加、撹拌して調製してもよい。接着剤組成物は、刷毛塗りの他、ディスペンサー、ブレードコーター、バーコーター、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、ロールコーターなどの塗工機や、スプレー法、浸漬法などにより塗布し、室温にて自然乾燥するか、必要であれば加熱して乾燥すればよい。なお、接着剤組成物は、二層以上の多層に塗布してもよいが、塗布工程の短時間化などの観点から、単層の塗布が望ましい。
【0057】
[判定工程]
本工程においては、塗布された接着剤組成物(塗膜)の色により、塗布状態の良否を判定する。判定は、目視で行っても、色検査機などで行ってもよく、これらの両方で行ってもよい。
【0058】
[接着工程]
本工程においては、接着剤組成物の塗布状態が良と判定された場合、基材の接着剤組成物の塗布面に、未架橋のゴム組成物を配置して積層体とし、該積層体を加熱および加圧して該ゴム組成物を架橋してシール部材とすると共に、該シール部材を基材に接着させる。本工程において、または本工程の前に、まず、シール部材形成用のゴム組成物を調製する。ゴム組成物の調製は、ゴム成分および必要に応じて配合される成分を、ロール、ニーダー、バンバリーミキサーなどにより混練すればよい。調製したゴム組成物は、射出成形、プレス成形などにより所定の形状に成形しておくとよい(未架橋のゴム部材の作製)。こうすることにより、煩雑な位置合わせが不要になり、連続加工がしやすく、生産性が向上する。そして、基材に形成された塗膜に、ゴム組成物(ゴム部材)を積層し、加熱および加圧する。加熱および加圧は、プレス機、ボンディングマシーンなどを用いて行えばよい。加熱温度は、ゴム成分の架橋温度などを考慮して、130℃以上200℃以下にすればよい。加圧する際の圧力は、接着性およびシール部材の破壊抑制などを考慮して、適宜設定すればよい。加熱および加圧時間(接着時間)は、3~30分程度にすればよい。
【0059】
以上、接着工程において、未架橋のゴム組成物を用いて架橋、接着する形態を説明したが、本開示の燃料電池用部材は、予めゴム組成物を架橋してシール部材を製造しておき、それを基材の接着剤組成物の塗布面に配置して、必要に応じて加熱、加圧するという方法で製造してもよい。
【実施例0060】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。種々の接着剤組成物を製造し、基材に塗布した場合の識別性を評価した。また、製造した接着剤組成物を用いて、基材にシール部材を接着して評価用サンプルを製造し、その接着性、およびシール部材の圧縮耐久性を評価した。
【0061】
<接着剤組成物の識別性>
[接着剤液(A1)]
二種のシランカップリング剤を共重合して共重合オリゴマーを製造した。まず、ビニルトリメトキシシラン100質量部、3-アミノプロピルトリメトキシシラン68.4質量部、水33.1質量部を、蒸留装置および撹拌機を有する反応器内に仕込み、約60℃で約1時間撹拌した。次に、シランカップリング剤の合計質量1モルに対し、ギ酸をその添加量が1.0モルとなるよう、1時間以内に添加した。ギ酸を添加している間、反応器内の温度を約65℃に保持した。さらに3時間撹拌し、反応を進行させると同時に、加水分解によって生成したアルコールを減圧下で蒸留した。蒸留液に水しか存在しなくなった時点で蒸留を終了させ、その後シラン濃度が50質量%になるように希釈して、共重合オリゴマーを得た。共重合オリゴマーにおける疎水性官能基はビニル基であり、親水性官能基はシラノール基、アルコキシ基、アミノ基である。製造した共重合オリゴマーを、メタノールとエタノールとの混合溶剤(質量比1:1)で希釈し、接着成分である共重合オリゴマー(シランカップリング剤)の濃度が5質量%の接着剤液(A1)を得た。
【0062】
[接着剤液(A2)]
接着剤液(A1)に使用した共重合オリゴマー(シランカップリング剤)100質量部に対して有機チタネート化合物のテトライソプロピルチタネートを12.5質量部混合して、接着成分とした。これを、エタノールと2-エトキシエタノールとの混合溶剤(質量比9:1)で希釈し、接着成分の濃度が5質量%の接着剤液(A2)を得た。
【0063】
[接着剤液(A3)]
接着剤液(A1)に使用した共重合オリゴマー(シランカップリング剤)100質量部に対して有機チタネート化合物のテトライソプロピルチタネートを50質量部混合して、接着成分とした。これを、エタノールと2-エトキシエタノールとの混合溶剤(質量比9:1)で希釈し、接着成分の濃度が5質量%の接着剤液(A3)を得た。
【0064】
さらに、共重合オリゴマータイプのシランカップリング剤を含む市販の接着剤を、接着剤液(A4)~(A6)として準備した。
【0065】
[接着剤液(A4)]
ロード・コーポレーション製「CHEMLOK(登録商標)5151」。共重合オリゴマーの親水性官能基はシラノール基、アルコキシ基、疎水性官能基はビニル基。溶剤(希釈剤)はエタノール。
【0066】
[接着剤液(A5)]
ダウ・ケミカル社製の「MEGUM(登録商標)3290」。共重合オリゴマーの親水性官能基はシラノール基、アルコキシ基、アミノ基、疎水性官能基はビニル基。溶剤はエタノール。
【0067】
[接着剤液(A6)]
信越化学工業(株)製の「KR-513」。共重合オリゴマーの親水性官能基はシラノール基、アルコキシ基、疎水性官能基はアクリロイル基、メチル基。溶剤はエタノール。
【0068】
[着色剤]
着色剤として、五種の染料と一種の顔料とを準備した。詳細は次のとおりである。
(i)染料
(B1)ローダミンB(C.I. Basic Violet 10)、赤色。
(B2)C.I. Solvent RED 49、赤色。
(B3)C.I. Basic RED 1:1、赤色。
(B4)C.I. Solvent Black 7、黒色。
(B5)C.I. Acid Red 27、赤色。
(ii)顔料
カーボンブラック:東海カーボン(株)製「Aqua-Black(登録商標) 001」、黒色。
【0069】
[接着剤組成物の製造]
予め、溶剤に着色剤を添加、撹拌して着色剤液を製造し、この着色剤液と接着剤液とを合わせて撹拌することにより種々の接着剤組成物を製造した。着色剤に加える溶剤は、組み合わせる接着剤液の溶剤と同じものを使用した。製造した接着剤組成物には、1から15までの番号を付加した。表1、表2に、接着剤組成物の成分(接着剤液の接着成分と着色剤との組み合わせ、および各々の含有量)を示す。表1、表2中、成分の単位は、接着剤組成物の不揮発分を100質量部とした場合の質量部である。
【0070】
【0071】
【0072】
[着色剤の溶剤に対する溶解性]
着色剤を、接着剤組成物を製造する際に組み合わせる接着剤液の溶剤に添加、撹拌して、溶解するか否かを目視で観察した。結果、No.1~14の接着剤組成物に使用した染料は全て溶解し(表1、表2中、○印で示す)、No.15の接着剤組成物に使用した顔料は溶解しなかった(表2中、×印で示す)。
【0073】
[着色剤の接着成分に対する相溶性]
着色剤1.5gを、接着剤組成物を製造する際に組み合わせる、接着成分の濃度が5質量%の接着剤液100mLに加え、5分間撹拌した状態を目視で観察した。市販の接着剤を用いた接着剤液(A4)~(A6)の接着成分の濃度については、適宜溶剤を用いて5質量%に調整した。そして、濁りおよび沈殿物がない場合を相溶性良好、濁りおよび沈殿物の少なくとも一方が見られた場合を相溶性不良と評価した。結果、No.1~13の接着剤組成物に使用した染料の相溶性は良好(表1、表2中、○印で示す)であったが、No.14の接着剤組成物に使用した染料、およびNo.15の接着剤組成物に使用した顔料の相溶性は不良(表2中、×印で示す)であった。
【0074】
[識別性の評価]
製造した接着剤組成物を、基材の表面に所定の厚さになるようスプレー塗布し、室温(20℃±5℃)にて自然乾燥した後、塗膜を目視で観察した。基材としては、SUS304製の銀系色のステンレス鋼板、純チタン製の銀系色のチタン板を使用した。いずれの基材も、幅25mm、長さ60mm、厚さ1.5mmの長方形板状を呈している。接着剤組成物は、基材の表面における幅25mm、長さ25mmの正方形領域に塗布した。基材の種類、塗膜(接着剤層)の厚さについては、前出の表1、表2にまとめて示す。表1、表2においては、ステンレス鋼板を「SUS」、チタン板を「Ti」と示す。
【0075】
結果、No.1~13、15の接着剤組成物については、塗膜の厚さに関わらず、塗膜の色が基材の色と異なり、基材上で塗膜を識別することができた(表1、表2中、○印で示す)。しかしながら、No.13のサンプルにおいては、染料の含有量が25質量部を超えている。このため、識別性は発揮されたが、後述するように接着性が低下した。他方、No.14の接着剤組成物については、塗膜の厚さが0.2μmであっても、発色が薄く、基材上で塗膜を識別することは難しかった(表2中、×印で示す)。この理由は、接着成分に対する染料の相溶性が悪いことが考えられる。なお、黒色の顔料を用いたNo.15の接着剤組成物については、基材上で塗膜を識別することができた。
【0076】
<接着剤組成物の接着性およびシール部材の圧縮耐久性>
[評価用サンプルの製造]
まず、シール部材形成用のゴム組成物を、次のようにして調製した。ゴム成分のエチレン-ブテン-ジエンゴム(三井化学(株)製「EBT-K-9330M」)100質量部と、フェノール系老化防止剤(大内新興化学工業(株)製「ノクラック(登録商標)NS-5」)1.0質量部と、補強剤のカーボンブラック(東海カーボン(株)製「シースト(登録商標)SO」)50質量部と、可塑剤のポリ-α-オレフィン(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製「PAO601」)15質量部と、をバンバリーミキサーを用いて120℃で5分間混練した。それから混練物を冷却し、架橋剤の1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(日油(株)製「パーヘキサ(登録商標)C-80」)6質量部を加えて、オープンロールを用いて50℃で10分間混練することにより、ゴム組成物を調製した。
【0077】
次に、識別性の評価で使用した基材の表面に、ゴム組成物を接着剤組成物の塗膜に重なるように配置して積層体とし、この積層体を金型に配置して、170℃下で10分間加熱、加圧した。このようにして、ゴム組成物の架橋物であるシール部材(厚さ2.0mm)と、基材と、が接着剤層を介して接着されてなる評価用サンプルを製造した。以下、評価用サンプルの番号は、使用した接着剤組成物の番号に対応している。
【0078】
[接着性の評価]
評価用サンプルについて剥離試験を行い、基材とシール部材との接着性を評価した。剥離試験においては、基材に接着されていないシール部材の端部に切り込みを入れてつかみ部を作製し、つかみ部を基材に対して垂直方向に10mm/秒の速度で引っ張り、シール部材を剥離させた。そして、剥離面の状態を目視で観察し、材料破壊(シール部材の切断)の場合を接着性良好、界面破壊の場合を接着性不良と評価した。
【0079】
剥離試験は、「初期」および「酸性水浸漬後」の二種類のサンプルについて行った。「初期」のサンプルは、サンプル製造後、室温下で放置したものであり、「酸性水浸漬後」のサンプルは、製造したサンプルを90℃の硫酸水溶液(pH3.0)に368時間浸漬した後、取り出して室温下で放置したものである。酸性水浸漬後のサンプルの試験結果は、高温下での耐酸接着性の良否を判断する指標になる。
【0080】
結果、No.1~12のサンプルについては、初期および酸性水浸漬後のいずれの場合においても、接着性は良好であった(前出の表1中、○印で示す)。これに対して、染料の含有量が多いNo.13のサンプルについては、初期の接着性が不良であった(前出の表2中、×印で示す)。No.13のサンプルについては、初期の接着性が不良であったため、耐酸接着性の評価を行わなかった。なお、No.14、15のサンプルについては、着色剤の接着成分に対する相溶性が悪く、着色剤が接着剤組成物中に沈殿したため、接着剤の評価を行わなかった。
【0081】
[圧縮耐久性の評価]
評価用サンプルについて圧縮試験を行い、シール部材の耐久性を評価した。圧縮試験は次のようにして行った。まず、評価用サンプルをプレス機に設置して、シール部材を厚さ方向に40%圧縮した状態で固定した。この状態で温度を100℃まで上げて、10分間保持した。その後、室温まで冷却し、評価用サンプルをプレス機から取り出した。取り出した評価用サンプルのシール部材を厚さ方向に切断し、断面を目視で観察した。そして、クラックがなければ圧縮耐久性良好、クラックがあれば圧縮耐久性不良と評価した。
【0082】
結果、No.1~13のサンプルについては、いずれもクラックはなく、圧縮耐久性は良好であった(前出の表1、表2中、○印で示す)。他方、接着成分に対する相溶性が悪い着色剤を使用したNo.14、15のサンプルについては、クラックが発生しており、圧縮耐久性は不良という結果になった(前出の表2中、×印で示す)。
【0083】
以上より、No.1~12の接着剤組成物によると、接着性を確保しつつ識別性を付与することができ、塗布状態の良否判定を容易に行うことができることが確認された。