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特開2025-20640脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法、及び覆工コンクリートの脱型時期判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020640
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法、及び覆工コンクリートの脱型時期判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20250205BHJP
   G01N 29/07 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
G01N29/04
G01N29/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124142
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000172813
【氏名又は名称】佐藤工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】歌川 紀之
(72)【発明者】
【氏名】早川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】北川 真也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 謙吾
(72)【発明者】
【氏名】黒田 千歳
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA10
2G047BA04
2G047BC02
2G047CA03
2G047GG30
2G047GG47
(57)【要約】
【課題】より簡易に、脱型前における覆工コンクリートの強度を推定する。
【解決手段】上記課題は、覆工コンクリート3を打設した後、脱型前に、セントル2内面における打撃位置2Hを打撃してセントル2及び覆工コンクリート3を振動させるとともに打撃位置2Hから第1距離Xだけ離れた第1振動測定器11、及び打撃位置2Hから第1距離Xよりも第2距離Lだけ遠くに離れた第2振動測定器12でそれぞれ打設後振動を計測し、第2距離Lは第1距離X以下とし、計測された打設後振動に基づいて、打撃位置2Hから第1振動測定器11及び第2振動測定器12にそれぞれ伝播する弾性波の到達時間の差を求め、これと、打撃位置2Hから第1振動測定器11及び第2振動測定器12にそれぞれ伝播する弾性波の経路長の差とに基づいて弾性波速度を求め、弾性波速度から強度推定領域における覆工コンクリート3の圧縮強度を推定する方法により解決される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
覆工コンクリートを打設した後、脱型前に、セントル内面における打撃位置を打撃してセントル及び前記覆工コンクリートを振動させるとともに、前記セントル内面における前記打撃位置から第1距離だけ離れた第1位置で第1振動測定器により打設後振動を計測し、かつ前記セントル内面における前記打撃位置から前記第1距離よりも第2距離だけ遠くに離れた第2位置で第2振動測定器によりそれぞれ打設後振動を計測し、
前記第2距離は前記第1距離以下とし、
前記第1振動測定器で計測された打設後振動及び前記第2振動測定器で計測された打設後振動に基づいて、前記打撃位置から前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器にそれぞれ伝播する弾性波の到達時間の差を求め、
前記弾性波の到達時間の差と、前記打撃位置から前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器にそれぞれ伝播する前記弾性波の経路長の差とに基づいて弾性波速度を求め、
前記弾性波速度から、前記打撃位置、前記第1位置及び前記第2位置を含む強度推定領域における前記覆工コンクリートの圧縮強度を推定する、
ことを特徴とする脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【請求項2】
前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器は、前記セントル内面に対して垂直な方向の振動を測定するものであり、
前記セントル内面の打撃により、前記セントル内面に対して垂直な方向の振動を、前記セントル及び前記覆工コンクリートに発生させる、
請求項1記載の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【請求項3】
前記第1振動測定器により測定される第1波形と前記第2振動測定器により測定される第2波形とから位相限定相関法により求まる時間領域での位相差;
前記第1振動測定器の測定結果と前記第2振動測定器の測定結果から求まる、周波数領域での特定の周波数の位相差、又は;
前記第1振動測定器により測定される第1波形のピークと、これに対応する前記第2振動測定器により測定される第2波形のピークとの位相差;
を、前記到達時間の差とする、
請求項1又は2記載の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【請求項4】
トンネル延伸方向における第1のセントル位置で覆工コンクリートを打設する際、その覆工用のコンクリートで供試体を試験数分作製し、これら供試体を前記第1のセントル位置と同環境下に置きつつ、複数の試験実施材齢における前記供試体の弾性波速度を測定することにより、前記供試体における材齢と弾性波速度との関係を求め、
前記覆工コンクリートを対象として、複数の材齢で、前記セントルを介した打撃並びに前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器による振動測定に基づいて前記弾性波の到達時間の差を測定するとともに、
前記打撃位置から前記覆工コンクリート中を通過し前記覆工コンクリートの背面で反射して、前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器にそれぞれ伝播する第1経路、前記セントル中を伝播し、前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器にそれぞれ伝播する第2経路、及び前記打撃位置から前記覆工コンクリート中を通過し前記覆工コンクリートの背面で反射して前記第1振動測定器に向かった後、前記セントルの外面及び前記覆工コンクリートの背面で順に反射して前記第2振動測定器に伝播する第3経路のそれぞれにおける前記弾性波の経路長と、前記弾性波の到達時間の差とから、前記覆工コンクリートにおける材齢と前記弾性波の速度との関係を前記第1経路、前記第2経路及び前記第3経路の各場合について求め、
前記第1経路、前記第2経路及び前記第3経路の各場合における前記覆工コンクリートにおける材齢と前記弾性波の速度との関係のうち、前記供試体における材齢と弾性波速度との関係に類似する関係を選定し、以降のセントル位置での覆工では前記選定した関係の経路に基づいて、前記弾性波の経路長の差を算出する、
請求項1又は2記載の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【請求項5】
トンネル延伸方向における第1のセントル位置で覆工コンクリートを打設する際、その覆工用のコンクリートで供試体を試験数分作製し、これら供試体を前記第1のセントル位置と同環境下に置きつつ、複数の試験実施材齢における前記供試体の弾性波速度を測定することにより、前記供試体における材齢と弾性波速度との関係を求め、
前記覆工コンクリートを対象として、前記供試体の前記試験実施材齢と同じ材齢で、前記セントルを介した打撃並びに前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器による振動測定に基づいて前記弾性波の到達時間の差を測定し、
前記試験実施材齢の数をkとし、k回目の測定における、前記打撃位置から前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器にそれぞれ伝播する弾性波の到達時間の差をΔtdとし、k回目の測定対象の覆工コンクリートと同材齢の前記供試体について測定された弾性波速度をVtとし、測定回数をn>2とし、Σを括弧内の式のk=1からnまでの和としたとき、下記式(4)により推定経路長差Rを求め、
=Σ(Vt・Δtd)/n …(4)
以降のセントル位置での覆工では、前記推定経路長差Rを前記弾性波の経路長の差とする、
請求項1又は2記載の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【請求項6】
前記覆工コンクリートの巻厚が200~800mmである、
請求項1又は2記載の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【請求項7】
覆工コンクリートを打設した後、脱型前に、セントル内面における打撃位置を打撃してセントル及び前記覆工コンクリートを振動させるとともに、前記セントル内面における前記打撃位置から第1距離だけ離れた第1位置で第1振動測定器により打設後振動を計測し、かつ前記セントル内面における前記打撃位置から前記第1距離よりも第2距離だけ遠くに離れた第2位置で第2振動測定器によりそれぞれ打設後振動を計測し、
前記第2距離は前記第1距離以下とし、
前記第1振動測定器で計測された打設後振動及び前記第2振動測定器で計測された打設後振動に基づいて、前記打撃位置から前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器にそれぞれ伝播する弾性波の到達時間の差を求め、
前記弾性波の到達時間の差と、前記打撃位置から前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器にそれぞれ伝播する前記弾性波の経路長の差とに基づいて弾性波速度を求め、
前記弾性波速度が、予め設定された目標値に達した時に脱型時期と判定する、
ことを特徴とする脱型前における覆工コンクリートの脱型時期判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法、及び覆工コンクリートの脱型時期判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル工事における覆工コンクリートの施工において、普通コンクリートの打設は、側壁から天端へ向けて順に行われるため、最終打込み箇所となる天端が最も若材齢となる。したがって、若材齢となる天端において脱型時のコンクリートの強度発現が乏しくなりやすく、コンクリートの剥離や剥落の懸念がある。また、打設条件や環境条件によっては天端以外のコンクリートの強度発現が遅れることもありうる。さらに、高流動(自己充填)コンクリートを低位置から圧入する場合には、天端が最も若材齢になるとは限らない。
【0003】
このため、例えば、脱型前における覆工コンクリートの積算温度を測定し、これと圧縮強度との相関に基づいて覆工コンクリートの圧縮強度を測定する方法(特許文献1参照)等が提案されている。
【0004】
しかし、この方法はセントル(鋼製型枠)内のコンクリートの温度を直接計測するため、セントルの一部改造を伴う、若しくは硬化後のコンクリート内部にセンサ等の機器を残置させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-26734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の主たる課題は、より簡易に、脱型前における覆工コンクリートの強度を推定できる方法を提供すること、等にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法は以下のとおりである。
<第1の態様>
覆工コンクリートを打設した後、脱型前に、セントル内面における打撃位置を打撃してセントル及び前記覆工コンクリートを振動させるとともに、前記セントル内面における前記打撃位置から第1距離だけ離れた第1位置で第1振動測定器により打設後振動を計測し、かつ前記セントル内面における前記打撃位置から前記第1距離よりも第2距離だけ遠くに離れた第2位置で第2振動測定器により打設後振動を計測し、
前記第2距離は前記第1距離以下とし、
前記第1振動測定器で計測された打設後振動及び前記第2振動測定器で計測された打設後振動に基づいて、前記打撃位置から前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器にそれぞれ伝播する弾性波の到達時間の差を求め、
前記弾性波の到達時間の差と、前記打撃位置から前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器にそれぞれ伝播する前記弾性波の経路長の差とに基づいて弾性波速度を求め、
前記弾性波速度から、前記打撃位置、前記第1位置及び前記第2位置を含む強度推定領域における前記覆工コンクリートの圧縮強度を推定する、
ことを特徴とする脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【0008】
(作用効果)
本脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法によれば、セントル内面のうち上記打撃及び振動計測が可能な場所であれば任意の場所で覆工コンクリートの強度推定を行うことができ、かつコンクリートに直接アクセスする必要もない。また、本方法のようにセントル内面を打撃すると、未硬化の覆工コンクリートであっても破損なしに確実に打撃を与えて振動を測定できる。よって、従来よりも簡易に脱型前における覆工コンクリートの強度を推定することができる。
なお、十分に硬化したコンクリートを直接打撃するとともにそのコンクリートに接する振動測定器による測定結果に基づいて弾性波速度を測定することにより、コンクリートの圧縮強度を推定する方法は知られていたが、硬化の程度が不明の覆工コンクリートに対してセントルを介して打撃及び振動測定を行う場合にも同様の方法が有効であるか否かは不明であった。そこで、後述するように本発明者が試験した結果、有効であることが判明し、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
<第2の態様>
前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器は、前記セントル内面に対して垂直な方向の振動を測定するものであり、
前記セントル内面の打撃により、前記セントル内面に対して垂直な方向の振動を、前記セントル及び前記覆工コンクリートに発生させる、
第1の態様の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【0010】
(作用効果)
振動測定器が計測する振動の方向は特に限定されるものではないが、セントル内面に対して垂直な方向であると、振幅が大きく、計測が容易になるため好ましい。
【0011】
<第3の態様>
前記第1振動測定器により測定される第1波形と前記第2振動測定器により測定される第2波形とから位相限定相関法により求まる時間領域での位相差;
前記第1振動測定器の測定結果と前記第2振動測定器の測定結果から求まる、周波数領域での特定の周波数の位相差、又は;
前記第1振動測定器により測定される第1波形のピークと、これに対応する前記第2振動測定器により測定される第2波形のピークとの位相差;
を、前記到達時間の差とする、
第1又は2の態様の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【0012】
(作用効果)
打撃位置から第1振動測定器及び第2振動測定器にそれぞれ伝播する弾性波の到達時間の差は、例えばこれらの方法で求めることができる。なお、位相限定相関法を用いる手法は、到達時間の差を機械的に求めることができる点で他の方法より好ましい。
【0013】
<第4の態様>
トンネル延伸方向における第1のセントル位置で覆工コンクリートを打設する際、その覆工用のコンクリートで供試体を試験数分作製し、これら供試体を前記第1のセントル位置と同環境下に置きつつ、複数の試験実施材齢における前記供試体の弾性波速度を測定することにより、前記供試体における材齢と弾性波速度との関係を求め、
前記覆工コンクリートを対象として、複数の材齢で、前記セントルを介した打撃並びに前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器による振動測定に基づいて前記弾性波の到達時間の差を測定するとともに、
前記打撃位置から前記覆工コンクリート中を通過し前記覆工コンクリートの背面で反射して、前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器にそれぞれ伝播する第1経路、前記セントル中を伝播し、前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器にそれぞれ伝播する第2経路、及び前記打撃位置から前記覆工コンクリート中を通過し前記覆工コンクリートの背面で反射して前記第1振動測定器に向かった後、前記セントルの外面及び前記覆工コンクリートの背面で順に反射して前記第2振動測定器に伝播する第3経路のそれぞれにおける前記弾性波の経路長と、前記弾性波の到達時間の差とから、前記覆工コンクリートにおける材齢と前記弾性波の速度との関係を前記第1経路、前記第2経路及び前記第3経路の各場合について求め、
前記第1経路、前記第2経路及び前記第3経路の各場合における前記覆工コンクリートにおける材齢と前記弾性波の速度との関係のうち、前記供試体における材齢と弾性波速度との関係に類似する関係を選定し、以降のセントル位置での覆工では前記選定した関係の経路に基づいて、前記弾性波の経路長の差を算出する、
第1~3のいずれか1つの態様の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【0014】
(作用効果)
このように供試体を用いた事前実験に基づいて、弾性波速度の算出に用いる弾性波の経路長の差を算出することができる。
【0015】
<第5の態様>
トンネル延伸方向における第1のセントル位置で覆工コンクリートを打設する際、その覆工用のコンクリートで供試体を試験数分作製し、これら供試体を前記第1のセントル位置と同環境下に置きつつ、複数の試験実施材齢における前記供試体の弾性波速度を測定することにより、前記供試体における材齢と弾性波速度との関係を求め、
前記覆工コンクリートを対象として、前記供試体の前記試験実施材齢と同じ材齢で、前記セントルを介した打撃並びに前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器による振動測定に基づいて前記弾性波の到達時間の差を測定し、
前記試験実施材齢の数をkとし、k回目の測定における、前記打撃位置から前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器にそれぞれ伝播する弾性波の到達時間の差をΔtdとし、k回目の測定対象の覆工コンクリートと同材齢の前記供試体について測定された弾性波速度をVtとし、測定回数をn>2とし、Σを括弧内の式のk=1からnまでの和としたとき、下記式(4)により推定経路長差Rを求め、
=Σ(Vt・Δtd)/n …(4)
以降のセントル位置での覆工では、前記推定経路長差Rを前記弾性波の経路長の差とする、
第1~3のいずれか1つの態様の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【0016】
(作用効果)
このように供試体を用いた事前実験に基づいて、弾性波速度の算出に用いる弾性波の経路長の差を推定することができる。
【0017】
<第6の態様>
前記覆工コンクリートの巻厚が200~800mmである、
第1~5のいずれか1つの態様の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【0018】
(作用効果)
上述の覆工コンクリートの強度推定方法は、覆工コンクリートの巻厚が本態様の範囲内である場合に特に有効である。
【0019】
<第7の態様>
覆工コンクリートを打設した後、脱型前に、セントル内面における打撃位置を打撃してセントル及び前記覆工コンクリートを振動させるとともに、前記セントル内面における前記打撃位置から第1距離だけ離れた第1位置で第1振動測定器により打設後振動を計測し、かつ前記セントル内面における前記打撃位置から前記第1距離よりも第2距離だけ遠くに離れた第2位置で第2振動測定器によりそれぞれ打設後振動を計測し、
前記第2距離は前記第1距離以下とし、
前記第1振動測定器で計測された打設後振動及び前記第2振動測定器で計測された打設後振動に基づいて、前記打撃位置から前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器にそれぞれ伝播する弾性波の到達時間の差を求め、
前記弾性波の到達時間の差と、前記打撃位置から前記第1振動測定器及び前記第2振動測定器にそれぞれ伝播する前記弾性波の経路長の差とに基づいて弾性波速度を求め、
前記弾性波速度が、予め設定された目標値に達した時に脱型時期と判定する、
ことを特徴とする脱型前における覆工コンクリートの脱型時期判定方法。
【0020】
(作用効果)
本脱型前における覆工コンクリートの脱型時期判定方法によれば、セントル内面のうち上記打撃及び振動計測が可能な場所であれば任意の場所で覆工コンクリートの脱型時期を判定することができ、かつコンクリートに直接アクセスする必要もない。また、本方法のようにセントル内面を打撃すると、未硬化の覆工コンクリートであっても破損なしに確実に打撃を与えて振動を測定できる。よって、従来よりも簡易に脱型前における覆工コンクリートの脱型時期を判定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、より簡易に、脱型前における覆工コンクリートの強度を推定できるようになる、等の利点がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】覆工コンクリート打設時のトンネル断面を示す概略図である。
図2】天端部の計測状況を示す断面概略図である。
図3】実験における計測状況を示す断面概略図である。
図4】打設から4.4時間経過後の計測波形の例である。
図5】打設から19.1時間経過後の計測波形の例である。
図6】材齢22.5時間、第1距離X1=50cmの場合の、(a)X方向の測定波形、(b)Y方向の測定波形、及び(c)Z方向の測定波形である。
図7】材齢6時間における(a)第1距離X1=50cmの場合の測定波形、(b)第1距離X2=100cmの場合の測定波形、及び(c)第1距離X3=150cmの場合の測定波形である。
図8】材齢12時間における(a)第1距離X1=50cmの場合の測定波形、(b)第1距離X2=100cmの場合の測定波形、及び(c)第1距離X3=150cmの場合の測定波形である。
図9】材齢22.5時間における(a)第1距離X1=50cmの場合の測定波形、(b)第1距離X2=100cmの場合の測定波形、及び(c)第1距離X3=150cmの場合の測定波形である。
図10】打撃位置から第1振動測定器及び第2振動測定器にそれぞれ伝播する弾性波の到達時間の差と、材齢との関係を示すグラフである。
図11】推定される弾性波速度と、材齢との関係を示すグラフである。
図12】円柱供試体における弾性波速度と圧縮強度との関係を示すグラフである。である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、セントル2が設置されたトンネル1の断面を示しており、覆工コンクリート3の打設が完了した後、脱型前の状態を想定している。図中の符号1Aは天端部、1Bは左肩部、1Cは右肩部、1Dは左スプリングライン部、及び1Eは右スプリングライン部をそれぞれ示しており、符号4は地山を示している。
【0024】
脱型前に覆工コンクリート3の圧縮強度(一軸圧縮強度)を推定するために、強度推定領域におけるセントル2内面に、図2に示すように、打撃位置2Hを設定するとともに、打撃位置2Hから第1距離Xだけ離れた第1位置に第1振動測定器11を設置するとともに、打撃位置2Hから第1距離Xと第1距離X以下の第2距離Lとの和だけ離れた第2位置に第2振動測定器12を設置する。打撃位置2Hの設定、第1振動測定器11及び第2振動測定器12の設置は、振動測定前であれば、覆工コンクリート3の打設前に限られず、覆工コンクリート3の打設後に行うこともできる。強度推定領域は、強度推定の実施対象領域であり、例えば天端部1A、左肩部1B、右肩部1C、左スプリングライン部1D、及び右スプリングライン部1Eの中から、打設条件や環境条件によって一箇所若しくは複数箇所を選択したり、又は全箇所としたりすることができる。1つの強度推定領域には1つ又は複数の打撃位置2Hを定めることができる。強度推定領域が複数箇所ある場合には各箇所に第1振動測定器11及び第2振動測定器12の両方を設置する。周知のように、通常はラップ側から妻部側にかけて、及びスプリングライン部から天端部1Aにかけて普通コンクリートが充填され、最終打設箇所となる天端部1A(特に妻部)が脱型時に最も若材齢になるため、少なくとも天端部1Aの覆工コンクリート3の圧縮強度を推定することにより、脱型時期を判定することができる。一方、高流動(自己充填)コンクリートを低位置から圧入する場合には、天端部1Aが最も若材齢になるとは限らないため、強度推定領域を複数箇所(例えば天端部1A、左肩部1B、右肩部1C、左スプリングライン部1D、及び右スプリングライン部1Eの全箇所)として、各部の覆工コンクリート3の圧縮強度を推定することにより、脱型時期を判定することができる。打撃位置2H、第1振動測定器11及び第2振動測定器12の設置位置は、強度推定領域内である限り適宜定めればよいが、可能な限り強度推定領域の中央とすることが望ましい。
【0025】
第1振動測定器11及び第2振動測定器12は、衝撃弾性波の測定で広く用いられている加速度計の他、速度計、変位計、マイクロフォン等を用いることができる。第1振動測定器11及び第2振動測定器12の性能は特に限定されるものではないが、加速度計を用いる場合、その感度は1~20mV/(m/s)程度、周波数範囲±3dB:3Hz~10kHz程度、又はこれらより広い範囲のものを好適に用いることができる。また、第1振動測定器11及び第2振動測定器12が計測する振動の方向は特に限定されるものではないが、セントル2内面に対してほぼ垂直な方向であると、振幅が大きく、計測が容易になるため好ましい。第1振動測定器11及び第2振動測定器12のサンプリング周波数は限定されるものではないが、例えば50kHz以上とすると好ましい。
【0026】
第2振動測定器12は、図示例のように打撃位置2Hから第1位置(第1振動測定器11)を通り延びる直線上に設置することが好ましいが、これに限定されるものではない。第1距離Xは適宜定めることができるが、後述する弾性波の経路推定を容易にする(測定波形において反射波の影響を少なくする)観点から、覆工コンクリート3の巻厚Tの3倍以下であることが好ましく、巻厚Tの1~2倍であるとより好ましい。第2距離Lは第1距離X以下であればよいが、例えば第2距離Lは第1距離Xの0.33~1倍とすることができる。この場合、第1振動測定器11及び第2振動測定器12は別々に設置してもよいが、第1位置及び第2位置の間隔を一定にするために第1振動測定器11及び第2振動測定器12を単一の支持体に固定し、この支持体を作業員が持って、第1振動測定器11及び第2振動測定器12を所望の強度推定領域においてセントル2内面に押し当てて計測するようにしてもよい。
【0027】
圧縮強度の推定に際しては、覆工コンクリート3を打設した後、脱型前に、強度推定領域におけるセントル2内面の打撃位置2Hをハンマー5等で打撃してセントル2及び覆工コンクリート3を振動させるとともに第1振動測定器11及び第2振動測定器12で打設後振動を計測する。そして、第1振動測定器11で計測された打設後振動及び第2振動測定器12で計測された打設後振動に基づいて、打撃位置2Hから第1振動測定器11及び第2振動測定器12にそれぞれ伝播する弾性波の到達時間の差を求め、弾性波の到達時間の差と、打撃位置2Hから第1振動測定器11及び第2振動測定器12にそれぞれ伝播する弾性波の経路長の差とに基づいて弾性波速度を求めた後、この弾性波速度から強度推定領域における覆工コンクリート3の圧縮強度を推定する。打撃により生じる弾性波が第1振動測定器11及び第2振動測定器12に到達する時間は振動媒体の剛性により変化する。セントル2の剛性は一定であり、覆工コンクリート3の剛性は硬化に伴い増加するため、波の伝播速度は材齢の経過に伴い目標圧縮強度(実施工での脱型の目安となる圧縮強度)以上まで変化し続ける。よって、セントル2内面の打撃であっても、計測される弾性波速度を指標とすることにより、弾性波速度と圧縮強度との相関に基づいて、圧縮強度を推定することができる。各材齢における弾性波速度や圧縮強度の変化を記録する場合や、圧縮強度が脱型に必要な弾性波速度や圧縮強度に達していない場合等、必要に応じて所定の時間間隔で同位置での打撃及び振動計測を繰り返したり、所望の時間経過後に再び同位置での打撃及び振動計測を行ったりすることができる。また、測定のばらつきの影響を回避する等の目的で、同材齢かつ同位置で複数回の打撃及び振動計測を行い、その平均値としての圧縮強度を求めることもできる(到達時間の差の平均値に基づいて弾性波速度を推定することはもちろん、弾性波速度の平均値に基づいて圧縮強度を推定することや、圧縮強度の平均値を推定値とすることを含む)。この場合、打撃位置2Hと第1振動測定器11及び第2振動測定器12の位置との距離は一定とすることが好ましい。本推定方法によれば、セントル2内面のうち上記打撃及び振動計測が可能な場所であれば任意の場所で非破壊で覆工コンクリート3の強度推定を行うことができ、かつ覆工コンクリート3に直接アクセスする必要もない。よって、従来よりも簡易に脱型前における覆工コンクリート3の強度を推定することができ、脱型時期も判定することができる。
【0028】
覆工コンクリート3の圧縮強度と、打撃により計測される弾性波速度等との相関は、現場の条件により変化するため、現場又は現場と同条件(例えば気温)での事前実験により相関を求めておくことが望ましい。すなわち、事前に現場又は現場と同条件(例えば気温)で、覆工に使用するのと同配合のコンクリートを用いて必要数の供試体を作製するとともに、これら供試体を所定の時間間隔(例えば1時間)で順番に弾性波速度及び圧縮強度を測定し、これら各材齢における測定データに基づいて弾性波速度と圧縮強度の関係式(例えば近似直線)を求めておき、実施工でセントル2の打撃及び振動測定に基づいて求まる弾性波速度をこの関係式に代入することにより施工中の覆工コンクリート3の圧縮強度を推定することができる。また、この関係式から脱型目標強度(例えば2N/mm)のときの弾性波速度を求めておき、実施工でセントル2の打撃及び振動測定に基づいて求まる弾性波速度が目標振動特性値に達した時に脱型時期と判定することができる。
【0029】
弾性波速度と圧縮強度の関係式を求めるための事前実験では、供試体の仕様や弾性波速度の測定方法は特に限定されない。ただし、供試体は圧縮強度試験を行うものであるため、圧縮強度試験用の通常の円柱供試体を用いることが好ましい。また、このような円柱供試体を用いることを考慮すると、事前実験における弾性波速度の測定は、円形の上面及び下面のいずれか一方から他方に向けて弾性波(縦波)を発信し、他方に設置したセンサで弾性波を受信する透過法が好適である。この場合の弾性波は、超音波や衝撃(軸方向の打撃)とすることができ、センサとしては前者の場合は超音波探触子、後者の場合は加速度計等とすることができる。もちろん、供試体における横波の弾性波速度を求める場合には、横方向の振動を検出可能なセンサにより横波を直接検出して横波の弾性波速度を測定する他、縦波の弾性波速度からポアソン比を用いて横波の弾性波速度を算出してもよい。
【0030】
前述の事前実験のタイミングは、圧縮強度の推定又は脱型時期の判定よりも前であれば特に限定されるものではない。トンネル施工ではセントル2をトンネル延伸方向に移動させながら覆工を繰り返し行うため、一つの好ましい例は、トンネル延伸方向における任意の一又は複数のセントル位置(例えば最初のセントル位置や、地盤性状が変化した後の最初のセントル位置等)での覆工の際に、当該覆工に使用する(又は使用した)コンクリートで供試体を試験数分作製し、これら供試体を当該セントル位置と同環境(当該セントル2の内空環境)下に置きつつ前述の事前実験を行い、その事前実験の結果を、以降のセントル位置での覆工の際に用いることが好ましい。供試体は覆工コンクリート3とほぼ同材齢となるように作製することが好ましい。また、この場合、前述のセントル2を介した打撃並びに第1振動測定器11及び第2振動測定器12による振動測定に基づいて、複数の材齢(供試体の試験実施材齢と同じとするのが好ましい)で弾性波速度を測定し、材齢と弾性波速度との関係が供試体に基づく事前実験と同様の結果となるのかを確認するのも好ましく、後述するようにこの結果を用いて弾性波の伝播経路を推定することもできる。
【0031】
覆工コンクリート3の巻厚Tは特に限定されるものではないが、200~800mmである場合に特に有効である。また、セントル2の打撃位置2Hにおける鋼板の厚みSも特に限定されるものではないが、6~9mmであると好ましい。
【0032】
打撃によりセントル2及び覆工コンクリート3を振動させることができる限り、打撃手段は特に限定されるものではなく、作業員が柄を持って腕力で打撃する手動式のハンマー5や、ソレノイド等の駆動源により打撃を行うハンマー装置等を用いることができる。ハンマー5としては、衝撃弾性波の測定で加振に用いられるインパクトハンマー(加速度センサを内蔵する)等、特に限定なく使用できるが、ハンマー5の材質や重さ等の影響を低減するため、好適なハンマー5を事前実験等により選定することが望ましい。ハンマー5としては、打撃面が直径30~70mmの球面からなる鋼製の頭部を備えたハンマーを用いることもできる。
【0033】
到達時間の差は、例えば、第1振動測定器11により測定される第1波形と第2振動測定器12により測定される第2波形とから位相限定相関法により求まる時間領域での位相差から求めることができる。図4は打設から4.4時間経過後、図5は打設から19.1時間経過後の第1波形及び第2波形、並びに打撃に用いたインパクトハンマー(PCB Piezotronics社製のモデル086C04、最大加力:4484N)の波形の例を示しており、いずれも巻厚T=400mm、第1距離X=100cm、第2距離L=50cmの場合である。これらの例からも分かるように、第1波形及び第2波形は非常に類似しているため、第1波形及び第2波形の各測定データに基づいて位相限定相関法を用いることにより位相差(時間差Δtd)を容易に求めることができる。
【0034】
また、到達時間の差は、第1振動測定器11の測定結果と第2振動測定器12の測定結果から求まる、周波数領域での特定の周波数(例えば1250~4000Hz)の位相差から求めることもできる。
【0035】
さらに、到達時間の差は、第1振動測定器11により測定される第1波形のピークと、これに対応する第2振動測定器12により測定される第2波形のピークとの時間差から求めることもできる。前述の図4及び図5の波形例からも分かるように、第1波形の最初のピーク及び第2波形の最初のピークは振幅が大きくかつ類似しているため、これらのピークの位相差(時間差Δtd)を作業員が目視で計測することができる。
【0036】
打撃位置2Hから第1振動測定器11に伝播する弾性波の経路長及び打撃位置2Hから第2振動測定器12に伝播する弾性波の経路長の差は、弾性波の伝播経路を選定して算出することができる。セントル2をハンマリングした場合の疎密波及び表面波の伝播経路は、例えば図2に示すように、(1) 打撃位置2Hから覆工コンクリート中を通過し覆工コンクリート背面で反射して、第1振動測定器11及び第2振動測定器12にそれぞれ伝播する第1経路P1、(2)セントル2中を伝播し、第1振動測定器11及び第2振動測定器12にそれぞれ伝播する第2経路P2、及び(3) 打撃位置2Hから覆工コンクリート中を通過し覆工コンクリート背面で反射して第1振動測定器11に向かった後、セントル2の外面及び覆工コンクリート背面で順に反射して第2振動測定器12に伝播する第3経路P3の、3種類から任意に選択することができる。一例として、セントル2内面の打撃によりセントル2内面に対して垂直な方向の振動をセントル2及び覆工コンクリート3に発生させる場合を考えると、横波又はそれに相当する弾性波速度と圧縮強度との相関に基づいて圧縮強度を推定する場合、横波の経路として想定される第2経路P2を選定することができ、縦波又はそれに相当する弾性波速度(前述の透過法の場合)と圧縮強度との相関に基づいて圧縮強度を推定する場合、縦波の経路として想定される第3経路P3を選定することができる。そして、この経路選定に基づいて算出される経路長の差と前述の到達時間の差に基づいて弾性波速度を算出することができる。
【0037】
また、前述のように、トンネル延伸方向における任意の一又は複数のセントル位置での覆工の際に事前実験を行う場合、その事前実験に基づいて、複数の試験実施材齢における供試体の弾性波速度を測定することにより、供試体における材齢と弾性波速度との関係を求めるとともに、複数の材齢(試験実施材齢と同じとするのが好ましい)で、覆工コンクリート3を対象として、セントル2を介した打撃並びに第1振動測定器11及び第2振動測定器12による振動測定に基づいて弾性波の到達時間の差を測定するとともに、第1経路P1、第2経路P2及び第3経路P3のそれぞれにおける弾性波の経路長と、弾性波の到達時間の差とから、覆工コンクリート3における材齢と弾性波の速度との関係を第1経路P1、第2経路P2及び第3経路P3の各場合について求め、後者の関係のうち前者の関係に類似する関係を選定し、以降のセントル位置での覆工ではその選定した関係の経路に基づいて、弾性波の経路長の差を算出することができる。類似性の高い関係が複数ある場合には、類似性が最も高い関係を1つ選定する他、類似性の高さ以外の観点で選定することもできる。例えば、第2経路P2の場合の関係の類似性が高い場合、それ以外の経路の関係の類似性がそれと同等又はそれより高くても、巻厚Tの影響を受け難いという点で第2経路P2を選定することができる。
【0038】
なお、伝播経路が第1経路P1の場合、伝播速度をV、打撃位置2Hから第1振動測定器11に至る第1経路P1の最短距離をR、打撃位置2Hから第2振動測定器12に至る第1経路P1の最短距離をR、巻厚をT、打撃位置2Hから第1振動測定器11及び第2振動測定器12にそれぞれ伝播する弾性波の到達時間の差をΔtdとし、セントル2の厚みを無視する(セントル2の剛性が一定であること、及び経路長の影響が少ないことによる。以下同じ)と、経路長の差はR-Rとなり、伝播速度Vは下記式(1)で求めることができる。
= 2・{T+(X/2)}1/2
= 2・{T+((X+L)/2)}1/2
V = (R-R)/Δtd …(1)
【0039】
また、伝播経路が第2経路P2の場合、伝播速度をV、打撃位置2Hから第1振動測定器11に至る第2経路P2の最短距離をR、打撃位置2Hから第2振動測定器12に至る第2経路P2の最短距離をR、巻厚をT、打撃位置2Hから第1振動測定器11及び第2振動測定器12にそれぞれ伝播する弾性波の到達時間の差をΔtdとし、セントル2の厚みを無視すると、経路長の差はR-Rとなり、伝播速度Vは下記式(2)で求めることができる。第2経路P2は巻厚に関係がない点で特に好ましい。
= X
= X+L
V = (R-R)/Δtd …(2)
【0040】
また、伝播経路が第3経路P3の場合、第1振動測定器11と第2振動測定器12の距離をL、巻厚をT、打撃位置2Hから第1振動測定器11及び第2振動測定器12にそれぞれ伝播する弾性波の到達時間の差をΔtdとし、セントル2の厚みを無視すると、伝播速度Vは下記式(3)で求めることができる。この場合の経路長の差は、2・((L/2)+T1/2である。
V=2・((L/2)+T1/2/Δtd …(3)
【0041】
他方、前述のように、トンネル延伸方向における任意の一又は複数のセントル位置での覆工の際に事前実験を行う場合、その事前実験に基づいて、複数の試験実施材齢における供試体の弾性波速度を測定することにより、供試体における材齢と弾性波速度との関係を求めるとともに、覆工コンクリート3を対象として、供試体の試験実施材齢と同じ材齢で、セントル2を介した打撃並びに第1振動測定器11及び第2振動測定器12による振動測定を行い、これに基づいて、覆工コンクリート3における材齢及び打撃位置2Hから第1振動測定器11及び第2振動測定器12にそれぞれ伝播する弾性波の到達時間の差を前述の方法で測定し、下記の方法で推定経路長差を算出し、以降のセントル位置での覆工ではその推定経路長差を用いて、弾性波速度を算出することができる。すなわち、k回目の測定における、打撃位置2Hから第1振動測定器11及び第2振動測定器12にそれぞれ伝播する弾性波の到達時間の差をΔtdとし、k回目の測定対象の覆工コンクリートと同材齢の供試体について測定された弾性波速度をVtとし、測定回数をn>2とし、Σを括弧内の式のk=1からnまでの和としたとき、推定経路長差Rは、下記式(4)で求めることができる。
=Σ(Vt・Δtd)/n …(4)
この手法は、幾何学的に算出するものではないが、各測定回で、施工対象で測定される到達時間の差、及びそれと同材齢の供試体で測定される弾性波速度の積を求め、その平均値を推定経路長差とすることにより、測定済みのデータに基づいて経路長差を十分な精度で推定できるものである。
【0042】
なお、実施工においては、覆工に使用するコンクリート又はそれと同配合のコンクリートを用いて必要数(少なくとも1回の圧縮強度試験に必要とされる3本以上)の円柱供試体を作製し、施工中の覆工コンクリート3と同じ材齢となるように現場環境又はそれと同じ環境でかつ養生する一方で、施工中の覆工コンクリート3についてはセントル2内面の打撃に基づく弾性波速度の計測により圧縮強度を推定し、この推定結果が脱型に必要な圧縮強度に達したときに、円柱供試体の圧縮強度試験を行って圧縮強度を実測することにより、施工中の覆工コンクリート3の圧縮強度が目標値に達したか否かを確認することもできる。
【0043】
<弾性波速度を指標とする圧縮強度推定実験>
(実験方法)
実施工で使用されるセントルを用意し、セントルの外周面に対して一定の間隔(巻厚400mm)を空けて地山を模した模擬地山型枠を設置して模擬環境を構築し、実施工同様に覆工コンクリートを打設した。コンクリートの配合は表1に示されるものを採用した。また、模擬環境で打設したものと同一のコンクリートを用いてφ100×高さ200mmの円柱供試体を試験数分作製した。
【0044】
【表1】
【0045】
図3に示すように、一直線上に並ぶように、3か所の打撃位置に突起6(1辺の長さが5cmの立方体磁石)を固着するとともに、第1振動測定器11及び第2振動測定器12を設置した。第1振動測定器11及び第2振動測定器12としては、3軸方向及び最大加速度5.0gが計測可能な加速度計(PCB Piezotronics社製の3軸加速度計(Model356B21)、感度:1.02mV/(m/s)、Y軸及びZ軸周波数範囲±5%:2~10,000Hz、X軸周波数範囲±5%:2~7,000Hz)を用いた。第1距離X1,X2,X3(打撃位置と第1振動測定器11の距離)は50、100、150cmとし、第2距離L(第1振動測定器11及び第2振動測定器12間の距離)Lは50cmとした。覆工コンクリート3の打設から6,7,8,9,10,12,15,17,19,21,22.5時間後に、インパクトハンマー(PCB Piezotronics社製のモデル086C04、最大加力:4484N)を用いて、各突起6に対しX方向、Y方向、及びZ方向に打撃を行い、第1振動測定器11及び第2振動測定器12でそれぞれ打設後振動を計測した。
【0046】
また、円柱供試体は覆工コンクリート3の振動測定と同材齢(すなわち、6,7,8,9,10,12,15,17,19,21,22.5時間)で、超音波を用いる透過法により弾性波速度(縦波)を計測するとともに、圧縮強度試験を実施した。圧縮強度試験は、円柱供試体打込み面を石膏でキャッピングし、載荷速度を0.01N/mm/sとして実施した。
【0047】
(実験結果1:振動測定器の測定方向の影響)
図6(a)~(c)に、覆工コンクリート3の打設から22.5時間経過後(材齢22.5時間)に計測した第1距離X1=50cmにおけるX方向、Y方向、及びZ方向の計測波形をそれぞれ示した。これらの結果を比較すると、図6(c)に示すZ方向の計測波形の振幅が最も大きかった。また、第1振動測定器11によるZ方向の計測波形と、第2振動測定器12によるZ方向の計測波形との間で、最初の2つのピークが対応していることが分かった。
【0048】
(実験結果2:打撃位置の影響及び材齢による変化)
図7(a)~(c)に、覆工コンクリート3の打設から6時間経過後(材齢6時間)に計測した、第1距離X1=50cm、X2=100cm、X3=150cmの場合のZ方向の計測波形をそれぞれ示した。同様に、材齢12時間及び22.5時間のZ方向の計測波形を、図8(a)~(c)及び図9(a)~(c)に示した。第1距離が長くなるにつれて反射波の影響が大きくなり、ピークの対応の目視判別が困難になっていくことが分かる。この場合、目視判別の観点からは、第1距離は100cm以下であることが好ましい。
【0049】
また、図10は、覆工コンクリート3の各材齢における到達時間の差を各打撃位置(50cm、100cm、150cm)についてプロットしたグラフである。材齢増加に伴い到達時間の差が小さくなった(つまり、弾性波速度が上昇した)ことが分かる。なお、到達時間の差は、第1波形の最初のピーク及び第2波形の最初のピークを目視で判別し、それらの位相差から求めた。
【0050】
図11(a)は、第1波形及び第2波形に基づいて計測した、覆工コンクリート3の各材齢における弾性波速度の計測結果(第1距離X1=50cm、100cm、150cmの場合の弾性波速度の平均値を、前述の第1~第3経路P1~P3のそれぞれの場合で算出)と、円柱供試体の各材齢における弾性波速度(縦波)の計測結果とを示している。図11(b)は、第1距離X1=50cmの場合の第1波形及び第2波形に基づいて計測した、覆工コンクリート3の各材齢における弾性波速度の計算結果(第1距離X1=50cm、100cm、150cmの場合の弾性波速度の平均値を、前述の第1~第3経路P1~P3のそれぞれの場合で算出)と、円柱供試体の各材齢における弾性波速度(縦波)の計測結果を55%(横波相当)としたものとを示している。材齢の経過とともに弾性波速度が上昇しており、セントル2の剛性が一定であることを考慮すると、硬化によるコンクリート3の剛性変化が弾性波の伝播時間に影響したものと考えられる。また、弾性波の伝播経路を前述の第3経路P3として求めた弾性波速度と、円柱供試体で計測した弾性波速度(縦波)とがほぼ一致し、弾性波の伝播経路を前述の第2経路P2として求めた弾性波速度と、円柱供試体で計測した弾性波速度(縦波)の55%(横波相当)とがほぼ一致した。したがって、覆工コンクリート3の圧縮強度を推定するために弾性波の経路長の差を算出する場合、弾性波の経路として第2経路P2及び第3経路P3のいずれかを選定すればよい。
【0051】
図12は、円柱供試体で計測した、弾性波速度(縦波)及び一軸圧縮強度をプロットしたグラフである。この結果と、施工中の覆工コンクリートについてセントル越しに計測される弾性波速度から、覆工コンクリートの圧縮強度を推定できることが分かる。また、仮にセントルの脱型に必要な一軸圧縮強度を2MPaとすると、本実験の場合では、弾性波の伝播経路を第3経路P3として、弾性波速度が3000m/s以上になったとき(材齢10時間)に脱型できると判定できることが分かる。また、弾性波の伝播経路を第2経路P2とした場合は、弾性波速度を横波相当に換算(55%)して1650m/s以上になったときに脱型できると判定できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、脱型前における覆工コンクリートの強度推定、つまり脱型時期の判定に利用できるものである。なお、上述のセントル打撃による圧縮強度の推定を行う場合であっても、必要に応じて従来の覆工コンクリートの積算温度に基づく圧縮強度の推定を併用することもできる。
【符号の説明】
【0053】
1…トンネル、1A…天端部、1B…左肩部、1C…右肩部、1D…左スプリングライン部、1E…右スプリングライン部、2…セントル、3…覆工コンクリート、4…地山、2H…打撃位置、T…巻厚、5…ハンマー、6…突起、X…第1距離、11…第1振動測定器、L…第2距離、12…第2振動測定器、21…鋼板、22…型枠。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12