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特開2025-20666カテーテルシャフト及びカテーテル装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020666
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】カテーテルシャフト及びカテーテル装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20250205BHJP
   A61M 25/14 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
A61M25/00 620
A61M25/14 512
A61M25/00 504
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124181
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】神山 洋輝
(72)【発明者】
【氏名】木村 篤人
(72)【発明者】
【氏名】今井 翼
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA01
4C267BB09
4C267BB15
4C267CC08
4C267GG02
4C267GG03
4C267GG04
4C267GG05
4C267GG07
4C267GG21
4C267GG22
4C267HH01
4C267HH07
4C267HH18
(57)【要約】
【課題】スパスムにより血管から外力が加わった場合でも、体外に引き抜き易く、かつ、引き抜くときに破断し難いカテーテルシャフトを提供する。
【解決手段】マルチルーメン構造のシャフト本体と、前記シャフト本体に埋設された少なくとも一つの補強層と、を備えるカテーテルシャフトであって、チャック間距離30mm、引張速度300mm/minの試験条件で前記カテーテルシャフトから得た試験片を引っ張る引張試験をしたときの、前記試験片の所定位置の引張前の最小外径に対する引張後の最小外径の変化量の比率を縮径率(%)とし、前記カテーテルシャフトの引張前の軸方向寸法に対する引張後の軸方向寸法の変化量の比率を伸び率(%)としたとき、前記引張試験において、前記試験片が破断せず前記伸び率が100%になったとき、前記縮径率が5%以上である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチルーメン構造のシャフト本体と、
前記シャフト本体に埋設された少なくとも一つの補強層と、を備えるカテーテルシャフトであって、
チャック間距離30mm、引張速度300mm/minの試験条件で前記カテーテルシャフトから得た試験片を引っ張る引張試験をしたときの、前記試験片の所定位置の引張前の最小外径に対する引張後の最小外径の変化量の比率を縮径率(%)とし、前記カテーテルシャフトの引張前の軸方向寸法に対する引張後の軸方向寸法の変化量の比率を伸び率(%)としたとき、前記引張試験において、前記試験片が破断せずに前記伸び率が100%になったとき、前記縮径率が5%以上であるカテーテルシャフト。
【請求項2】
前記引張試験において前記伸び率が100%になったとき、前記補強層が外部に露出していない請求項1に記載のカテーテルシャフト。
【請求項3】
前記補強層は、複数の素線を筒状かつ網状に編むことで構成される編組であり、
前記伸び率が100%以上となるように、前記編組が伸び変形しようとしたときの前記素線の動き易さに影響する因子が調整されている請求項1に記載のカテーテルシャフト。
【請求項4】
前記引張試験によって前記試験片が破断するまでの間に前記試験片に付与できる最大引張荷重(N)が90N以上となる請求項1に記載のカテーテルシャフト。
【請求項5】
前記引張試験によって前記試験片に90Nの引張荷重が付与され始めたとき、前記補強層が外部に露出していない請求項1に記載のカテーテルシャフト。
【請求項6】
マルチルーメン構造のシャフト本体と、
前記シャフト本体に埋設された少なくとも一つの補強層と、を備えるカテーテルシャフトであって、
チャック間距離30mm、引張速度300mm/minの試験条件で前記カテーテルシャフトから得た試験片を引っ張る引張試験をしたときの、前記試験片の所定位置の引張前の最小外径に対する引張後の最小外径の変化量の比率を縮径率(%)としたとき、前記引張試験において前記試験片に90Nの引張荷重が付与され始めたとき、前記縮径率が20%以上であるカテーテルシャフト。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のカテーテルシャフトを備えるカテーテル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カテーテル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、カテーテルシャフトを備えるカテーテル装置を開示している。このカテーテルシャフトは、マルチルーメン構造のシャフト本体と、シャフト本体に埋設される補強層とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-171372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
手、足等にある末梢血管からカテーテルシャフトを挿入する場合がある。末梢血管等の細い血管にカテーテルシャフトを通す場合、その血管においてスパスムとよばれる異常な血管収縮が生じることがある。このスパスムにより血管からカテーテルシャフトに外力が加わってしまった場合、カテーテルシャフトを体外側(近位側)に引っ張っても抜けなくなってしまうという問題がある。
【0005】
本開示の目的の1つは、スパスムにより血管から外力が加わった場合でも、体外に引き抜き易く、かつ、引き抜くときに破断し難いカテーテルシャフトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様のカテーテルシャフトは、マルチルーメン構造のシャフト本体と、前記シャフト本体に埋設された少なくとも一つの補強層と、を備えるカテーテルシャフトであって、チャック間距離30mm、引張速度300mm/minの試験条件で前記カテーテルシャフトから得た試験片を引っ張る引張試験をしたときの、前記試験片の所定位置の引張前の最小外径に対する引張後の最小外径の変化量の比率を縮径率(%)とし、前記カテーテルシャフトの引張前の軸方向寸法に対する引張後の軸方向寸法の変化量の比率を伸び率(%)としたとき、前記引張試験において、前記試験片が破断せずに前記伸び率が100%になったとき、前記縮径率が5%以上である。
【0007】
本開示の他の態様のカテーテルシャフトは、マルチルーメン構造のシャフト本体と、前記シャフト本体に埋設された少なくとも一つの補強層と、を備えるカテーテルシャフトであって、チャック間距離30mm、引張速度300mm/minの試験条件で前記カテーテルシャフトから得た試験片を引っ張る引張試験をしたときの、前記試験片の所定位置の引張前の最小外径に対する引張後の最小外径の変化量の比率を縮径率(%)としたとき、前記引張試験において前記試験片に90Nの引張荷重が付与され始めたとき、前記縮径率が20%以上である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、スパスムにより血管から外力が加わった場合でも、体外に引き抜き易く、かつ、引き抜くときに破断し難いカテーテルシャフトを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(A)は、編組が伸び変形する前の状態を示し、図1(B)は、編組が伸び変形した後の状態を示す説明図である。
図2】実施形態のカテーテル装置を示す全体図である。
図3図2のA-A断面図である。
図4図4(A)は、実施形態の編組の編みパターンの例を示す図であり、図4(B)は、他の編みパターンの例を示す図である。
図5図5(A)は、引張試験に用いられる試験片を示す模式図であり、図5(B)は、引張試験機に試験片をセットした状態を示す模式図である。
図6】引張試験により得られた伸び率と縮径率の関係を示すグラフである。
図7】引張試験により得られた引張荷重と縮径率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を実施するための実施形態を説明する。同一又は同等の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。本明細書での「又は」は、言及している二つ以上の要素の少なくとも一つが成り立つことを意味する。
【0011】
まず、本開示のカテーテルシャフトを想到するに至った背景から説明する。マルチルーメン構造のシャフト本体と、シャフト本体に埋設された少なくとも一つの補強層とを備えるカテーテルシャフトを想定する。本願発明者は、このようなカテーテルシャフトにおいて、スパスムにより血管から外力が加わった場合に、カテーテルシャフトを体外に引き抜き易くするための検討を進めた。
【0012】
マルチルーメン構造に着目したのは、マルチルーメン構造の場合、スパスムにより血管から外力が加わったカテーテルシャフトを引き抜くときに、シングルルーメン構造と比べ、カテーテルシャフトが破断し易いためである。この原因は必ずしも明らかではないが、次の理由が考えられる。マルチルーメン構造の場合、シャフト本体の外周面とルーメンとの間、又は、隣り合うルーメンの間において、シングルルーメン構造と比べ、肉厚の薄い部位が生じ易い。マルチルーメン構造の場合、シングルルーメン構造と比べ、この肉厚の薄い部位で生じる応力集中に起因して、カテーテルシャフトが破断し易くなると考えられる。
【0013】
この検討を進める過程で、本願発明者は、スパスムにより血管から外力が加わってしまったカテーテルシャフトの引き抜き易さとの関係で、カテーテルシャフトを引っ張ったときの細り易さに新たに着目した。カテーテルシャフトを引っ張ったときに、血管から外力が加わっている箇所でカテーテルシャフトを細らせることで、カテーテルシャフトを引き抜き易くなるためである。
【0014】
本願発明者は、このカテーテルシャフトの細り易さを示す新たな指標として、引張試験により測定できるカテーテルシャフトの縮径率という概念を見出した。一般的なマルチルーメン構造のカテーテルシャフトで取り得る縮径率を確認したところ、この試験片の取り得る最大の縮径率は、通常、0~3%程度であり、5%を上回ることはないことを新たに見出した。
【0015】
そこで、本開示のカテーテルシャフトは、カテーテルシャフトを引き抜き易くするという課題との関係で、縮径率の測定のし易さを考慮して、次のシャフトに関する第1シャフト条件又は第2シャフト条件の少なくともいずれかを満たすことを条件としている。第1シャフト条件は、引張試験において試験片が破断せずに試験片の伸び率(後述する)が100%になったとき、縮径率が5%以上になることである。第2シャフト条件は、引張試験において試験片が破断せずに試験片に90Nの引張荷重が付与され始めたとき、縮径率が20%になることである。ここでの試験片の伸び率とは、カテーテルシャフトの伸び易さを示す値である。いずれのシャフト条件も、引張試験時において基準条件(試験片の伸び率が100%になること又は試験片に90Nの引張荷重が付与され始めること)を満たしたときに測定される縮径率が許容値以上であることを条件としていることになる。この縮径率の許容値は、カテーテルシャフトを引き抜き易くするという課題との関係で目安として設定している。このような第1のシャフト条件又は第2のシャフト条件の少なくともいずれかを満たすことで、この条件を満たさない場合と比べ、スパスムにより血管から外力が加わってしまったときでも、カテーテルシャフトを引き抜き易く、かつ、引き抜くときに破断し難くすることができる。
【0016】
また、本願発明者は、試験片の取り得る最大の伸び率を大きくするほど、その取り得る最大の縮径率を大きくするうえで有利になる傾向があることを新たに見出した。一般的なマルチルーメン構造のカテーテルシャフトの縮径率と伸び率の関係を確認したところ、前述の最大の縮径率が0~3%程度となる場合、その最大の伸び率が50%以下となり、100%を上回ることはないことを新たに見出した。この試験片の取り得る伸び率を大きくするための考え方を説明する。
【0017】
図1(A)、図1(B)は、カテーテルシャフトの補強層を構成する編組42の伸び変形の前後の状態を示す図である。図1(A)では、編組42の網目43の軸方向寸法がPであり、図1(B)では、その網目43の軸方向寸法がP’となるまで伸びた状態を示す。本願発明者は、前述の伸び率を大きくするうえで、補強層が編組42により構成される場合、シャフト本体の伸び易さだけではなく、編組42の伸び変形時の素線40A、40Bの動き易さに着目することが重要であることを見出した。この素線40A、40Bの動き易さは、素線40A、40B同士の交点での摩擦力が小さくなるほど、又は、素線40A、40Bのピッチが小さくなるほど良好となる。樹脂製のシャフト本体そのものが破断するまでに伸びることのできる伸び量(以下、「限界伸び量」という)は、通常、編組42が破断するまでに伸びることのできる伸び量と比べて、非常に大きくなる。しかしながら、シャフト本体に編組42を埋設した場合、素線40A、40Bの動き易さが過度に低くなってしまうと、シャフト本体が限界伸び量に達するよりも過度に早いタイミングで、シャフト本体の伸び変形が編組42により拘束されるという問題が生じる。このようにシャフト本体の伸び変形が編組42により拘束されてしまうと、試験片全体の伸び変形量が不十分となり、大きな伸び率を得るうえで不利となってしまう。
【0018】
ここで、本願発明者は、試験片の取り得る伸び率を大きくするうえで、この編組42が伸び変形しようとしたときの素線40A、40Bの動き易さに影響する因子を調整し、素線40A、40Bの動き易さを適度に高めることが有効であることを見出した。この素線40A、40Bの動き易さを適度に高めることで、シャフト本体の限界伸び量に達するよりも過度に早いタイミングで、シャフト本体の伸び変形が編組42により拘束されてしまう事態を回避でき、大きい伸び率を得るうえで有利となる。以下、このような考えのもとで想到されたカテーテルシャフトの詳細を説明する。
【0019】
図2を参照する。以下、カテーテル装置12の各構成要素の位置関係を説明するとき、カテーテルシャフト10の軸方向、径方向、周方向を用いて説明し、これらに関して、単に「軸方向」、「径方向」、「周方向」という。
【0020】
カテーテルシャフト10は、カテーテル装置12の一部として用いられる。本実施形態のカテーテル装置12は、カテーテルシャフト10にバルーン14を装着したバルーンカテーテルである。カテーテル装置12の具体例は特に限定されず、例えば、電極カテーテル、デリバリーカテーテル、ガイディングカテーテル、異物除去カテーテル、造影カテーテル、マイクロカテーテル等として用いられてもよい。カテーテルシャフト10は、血管等の目標器官の処置のために体内に挿入される。ここでの「処置」とは、生体の治療又は検査に関する行為をいう。カテーテルシャフト10は、例えば、手、足等にある末梢血管から体内に挿入される。
【0021】
カテーテル装置12は、カテーテルシャフト10の他に、カテーテルシャフト10の基端部に取り付けられ術者により把持されるハンドル16を備える。本実施形態のカテーテル装置12は、任意の構成として、カテーテルシャフト10の先端部に装着されるバルーン14を備える。
【0022】
カテーテルシャフト10は、曲げ変形可能な可撓性を持つ。ここでは、カテーテルシャフト10の軸方向の途中部分に曲げ部18が設けられる例を示す。カテーテルシャフト10の先端部にはチップ部材20が取り付けられる。カテーテルシャフト10の外径(直径)は、例えば、5Fr(1.67mm)以上9.5Fr(3.2mm)以下である。
【0023】
図3を参照する。図3では、軸方向から見て、後述する各補強層24A、24Bが存在する範囲全体を示す。実際には、軸方向に直交する断面において、この補強層24A、24Bを示す範囲において部分的に補強層24A、24Bを構成する素線(後述する)が存在する。
【0024】
カテーテルシャフト10は、マルチルーメン構造のシャフト本体22と、シャフト本体22に埋設された少なくとも一つの補強層24A、24Bとを備える。ここでのマルチルーメン構造とは、シャフト本体22に複数のルーメン26A、26Bが形成される構造をいう。ここではルーメン26A、26Bの個数が二つである例を示すが、その個数は三つ以上であってもよい。本実施形態の複数のルーメン26A、26Bにはメインルーメン26Aとサブルーメン26Bが含まれる。本実施形態において、カテーテルシャフト10の軸方向に直交する断面において、メインルーメン26Aの断面積はサブルーメン26Bの断面積よりも大きくなる。各ルーメンの断面積の大小関係は特に限定されず、全ルーメンの断面積は同じでもよい。
【0025】
複数のルーメン26A、26Bのそれぞれは、医療デバイス又は流体の少なくとも何れかを通すために用いられる。本実施形態のメインルーメン26Aは、医療デバイスを通すために用いられる。本実施形態のサブルーメン26Bは、バルーン14を拡張する流体を通すために用いられる。各ルーメン26A、26Bに通すべき医療デバイスとは、例えば、ガイドワイヤー、ステントグラフト、コイル、配線部材等の他に、電極カテーテル、バルーンカテーテル、マイクロカテーテル等の各種カテーテルをいう。ここでの配線部材とは、例えば、カテーテルシャフト10に装着される電気デバイスと電気的に接続される配線用フレキシブル基板をいう。ここでの電気デバイスは、例えば、ICE(Intracardiac Echocardiography)に用いられる超音波トランスデューサ等である。各ルーメン26A、26Bに通すべき流体とは、例えば、バルーン14を拡張するための流体の他に、造影剤等の液剤、イリゲーション用の液体(生理食塩水等)等をいう。
【0026】
各ルーメン26A、26Bに通すべき物体は、ハンドル16に設けられた導入ポート28A、28Bを通して体外からルーメン26A、26B内に導入され、カテーテルシャフト10に設けられた導出ポート30A、30Bを通してルーメン26A、26B外に導出される。図2では、メインルーメン26Aに対応する第1導入ポート28A、第1導出ポート30Aと、サブルーメン26Bに対応する第2導入ポート28B、第2導出ポート30Bとを示す。
【0027】
シャフト本体22は、少なくとも一層の樹脂層を備える。本実施形態のシャフト本体22は、このような樹脂層として、内層32と、内層32を被覆する中間層34と、中間層34を被覆する外層36とを備える。メインルーメン26Aは、内層32により形成され、サブルーメン26Bは、中間層34により形成される。
【0028】
補強層24A、24Bは、シャフト本体22を補強するために用いられる。本実施形態の補強層24A、24Bは、メインルーメン26Aを取り囲む内側補強層24Aと、メインルーメン26A及びサブルーメン26Bを取り囲む外側補強層24Bとを含む。
【0029】
なお、シャフト本体22を構成する樹脂層の数、シャフト本体22に埋設される補強層の数は特に限定されない。また、シャフト本体22内での補強層、ルーメンの位置も特に限定されない。例えば、補強層として、前述した内側補強層24A及び外側補強層24Bのうちの一方のみが存在していてもよいし、これらとは異なる補強層が存在していてもよい。
【0030】
図4(A)、図4(B)を参照する。図4(A)、図4(B)は、補強層24Aを構成する編組42の一部を径方向外側から見た断面図である。本実施形態の補強層24A、24Bは、複数の素線40A、40Bを筒状かつ網状に編むことで構成される編組42である。補強層24A、24Bは、編組42に替えて、螺旋状の素線からなるコイルによって構成されてもよい。
【0031】
編組42は、軸方向一側に向かうに連れて周方向一側に延びる複数の第1素線40Aと、軸方向一側に向かうに連れて周方向他側に延びる複数の第2素線40Bとにより構成される。複数の第1素線40Aと複数の第2素線40Bは交差している。編組42は、複数の素線40A、40Bによって複数の網目43を形成する。網目43は、周方向に隣り合う第1素線40Aと、周方向に隣り合う第2素線40Bとに囲まれた箇所に隙間として形成され、菱形状をなす。
【0032】
編組42は、第1素線40Aと第2素線40Bのそれぞれが、それらの軸線方向に向かって、他の素線に対して浮き沈みする編み単位を繰り返す編みパターンで編まれている。この編みパターンとしては、例えば、図4(A)に示すハーフパターン(two over two under pattern)、図4(B)に示すフルパターン(one over one under pattern)がある。図4(A)のハーフパターンは、第1素線40Aが、二つの第2素線40Bの径方向外側、二つの第2素線40Bの径方向内側を順に経由する編み単位を繰り返す編みパターンである。図4(B)のフルパターンは、第1素線40Aが、第2素線40Bの径方向外側、第2素線40Bの径方向内側を順に経由する編み単位を繰り返す編みパターンである。編み単位あたりの一の素線(例えば、第1素線40A)と交差する他の素線(例えば、第2素線40B)の本数を編み単位あたりの素線交差本数という。ハーフパターンの編み単位あたりの素線交差本数は四つとなり、フルパターンの編み単位あたりの素線交差本数は二つとなる。ここで挙げた編組42の編みパターンは一例に過ぎず、これ以外の各種編みパターンを採用してもよい。
【0033】
次に、前述したカテーテルシャフト10に関する伸び率、縮径率を測定するために用いられる引張試験を説明する。図5(A)を参照する。この引張試験では、カテーテルシャフト10を100mmの軸方向寸法に切り出すことで得た試験片50を用いる。この試験片50には、その軸方向の中央位置(軸方向末端から50mmの軸方向位置)にマジックマーキングにより標線を付すことで標線部50aを設ける。
【0034】
引張試験に先立って、引張前の試験片50の標線部50aの外径を非接触式の外径測定機により測定する。このとき、試験片50の標線部50aの軸方向に直交する断面内における最小外径(直径)を測定する。ここでの最小外径とは、試験片50の標線部50aの外径を外径測定機により全周に亘り測定したときに得られる測定値の最小値をいう。
【0035】
図5(B)を参照する。引張試験は、次の「条件」に列挙する事項を満たすように行う。例えば、引張試験機は、島津製作所製の型番EZ Test EZ-LXを使用し、エアチャックは、型番PFG―5kNAを使用する。引張試験機及びエアチャックの具体例は、以下の条件を満たすものであれば限定されない。引張試験により引っ張られた試験片50は、均等に円形に縮小することもあれば、扁平形状に縮小することもある。
(条件)
・ロードセルの定格容量が5kNの引張試験機を使用する
・試験片50の両端部には、エアチャック54と試験片50との直接接触によるダメージを防ぐため、シリコーンチューブ52(内径直径3mm、外径直径5mm)を被せる(シリコーンチューブ52はエアチャック54からはみ出してもよい)
・試験片50の上下の両端部は、最大容量5kNの一対のエアチャック54により、チャック圧0.6MPaとして、シリコーンチューブ52が動かないようにチャックする
・一対のエアチャック54間の距離であるチャック間距離を30mm、引張速度を300mm/minとした試験条件で、一方のエアチャック54を移動させることで、試験片50を引っ張る
【0036】
この引張試験は、所定の試験終了条件を満たすまで試験片50を引っ張ったところで終了する。ここでの試験終了条件は、試験片50が破断せずに試験片50の伸び率(後述する)が規定伸び率(ここでは100%)となることである。試験終了条件を満たす前に試験片50が破断した場合、そこで引張試験を終了する。引張試験が終了したら、試験片50に付与される引張荷重を除荷し、引張試験機から試験片50を取り出す。この後、引張試験に供した試験片50を対象として、次に説明する試験片50の縮径率を測定する。また、試験片50が破断せずに規定伸び率となるまで引っ張った試験片50については、補強層24A、24Bの露出の有無を判定する。
【0037】
試験片50の破断の有無は目視により判別する。「試験片50が破断する」とは、試験片50のシャフト本体22及び補強層24A、24Bのいずれについても、試験片50の軸方向両側の部分が互いに繋がらずに完全に分かれた状態になることを意味する。
【0038】
試験片50の引張前の軸方向寸法をL0(mm)、引張後の軸方向寸法をL1(mm)、引張後の軸方向寸法の変化量をΔL(=|L1-L0|)とする。この軸方向寸法の変化量ΔLは、前述の引張試験における一方のエアチャック54の移動量により表される。このとき、試験片50の伸び率(%)とは、試験片50の引張前の軸方向寸法L0(mm)に対する引張後の軸方向寸法の変化量ΔLの比率となり、次の式(1)により表される。以下の式(1)から把握できるように、この伸び率は、引張試験中にエアチャック54の移動量(ΔL)から逐次的に求めることができる値である。
伸び率(%)=(ΔL/L0)×100 ・・・(1)
【0039】
試験片50の所定位置の引張前の最小外径(直径)をΦ0(mm)、その所定位置の引張後の最小外径(直径)をΦ1(mm)、引張後の最小外径の変化量をΔΦ(=|Φ0-Φ1|)とする。このとき、試験片50の縮径率(%)は、引張前の最小外径Φ0に対する引張後の最小外径の変化量ΔΦの比率となり、次の式(2)により表される。ここでの所定位置とは、前述の試験片50の標線部50aのある軸方向中央位置をいう。
縮径率(%)=(ΔΦ/Φ0)×100 ・・・(2)
【0040】
補強層24A、24Bの露出の有無は、標線部50a±10mmの軸方向範囲を対象として、顕微鏡を用いて、50倍の倍率で観察することにより判別する。本明細書での「補強層24A、24Bが外部に露出する」とは、試験片50のシャフト本体22が部分的に裂けることで補強層24A、24Bが外部空間に露出することを意味する。「補強層が外部に露出する」という条件を満たすうえで、複数の補強層24A、24Bがある場合、少なくとも一つの補強層24A、24Bが外部に露出していればよい。「補強層が外部に露出する」という条件を満たすうえで、内側補強層24Aのみが外部に露出してもよいし、外側補強層24Bのみが外部に露出してもよいし、内側補強層24A、外側補強層24Bの双方が外部に露出してもよいということである。
【0041】
試験片50が前述した基準条件を満たしたときの縮径率は、スパスムにより血管から外力が加わったカテーテルシャフト10を引っ張ったときの細り易さを示す指標となる。この縮径率が大きくなるほど、血管から外力が加わった状態のカテーテルシャフト10を体外側(近位側)に引っ張ることで、その収縮した血管内においてカテーテルシャフト10を細らせ易くなり、その血管からカテーテルシャフト10を引き抜き易くなる。このような観点から、カテーテルシャフト10は、試験片50が破断せずに試験片50の伸び率が100%になったとき(第1の基準条件を満たしたとき)の縮径率は5%以上であることを条件としている。同様の観点から、カテーテルシャフト10は、同様に伸び率が100%になったとき、その縮径率は好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上であるとよい。本発明を適用したシャフトとして許容される縮径率の下限値は、マルチルーメン構造のカテーテルシャフト10において通常の数値となる0~3%と比べて大きくなることを、目安となる数値を用いて規定したものである。この試験片50が破断せずに試験片50の伸び率が100%になったときの縮径率の上限値は特に限定されるものではないが、現実的には、80%となる。
【0042】
また、カテーテルシャフト10は、試験片50が破断せずに試験片50の伸び率が100%になることを条件とする。これにより、カテーテルシャフト10を引き抜き易くしつつ、引き抜くときに破断し難くすることができる。
【0043】
カテーテルシャフト10は、引張試験において前述のように試験片50の伸び率が100%になったとき、補強層24A、24Bが外部に露出していないことを条件としている。これにより血管から外力が加わったカテーテルシャフト10を引き抜く過程で、試験片50の伸び率が100%となるまでシャフト本体22から補強層24A、24Bが露出しない。このため、その露出した補強層24A、24Bが生体組織に擦れてしまうリスクを低減できる。
【0044】
試験片50が取り得る伸び率は、それが大きくなるほど、試験片50が取り得る縮径率を大きくするうえで有利となる傾向がある。このような観点から、本発明を適用したカテーテルシャフトとして許容される伸び率の下限値は、100%の伸び率から100%刻みで大きくなるほど好ましい。つまり、この伸び率の下限値は200%、300%、400%、500%の順で好ましい。この伸び率の上限値は特に限定されるものではないが、現実的には1000%となる。いずれも、試験片50が破断していないことを前提とする。
【0045】
試験片50を破断させずに伸び率を大きくするうえでは、補強層24A、24Bとして編組42を採用した場合、その伸び率を達成できる伸び易さを持つシャフト本体22の素材を選択することを前提に、編組42が伸び変形しようとしたときの素線40A、40Bの動き易さに影響する因子を調整するとよい。この素線40A、40Bの動き易さは、前述の通り、素線40A、40B同士の交点での摩擦力が小さくなるほど、又は、素線40A、40Bのピッチが小さくなるほど良好となる。
【0046】
本願発明者は、この素線40A、40Bの動き易さに影響する因子として、(1)素線40A、40Bの断面形状、(2)素線40A、40Bの持ち数、(3)編組42の編みパターン、(4)素線40A、40Bの表面粗さ、摩擦係数、(5)素線40A、40Bのピッチ等があることを新たに見出した。この因子のうち、(1)~(4)は、素線40A、40B同士の交点での摩擦力に関係する因子である。
【0047】
(1)の素線40A、40Bの断面形状は、素線40A、40B同士の交点での接触面積に影響しており、その交点での摩擦力を小さくするうえでは、その接触面積を小さくできる断面形状が好ましい。この観点から、素線40A、40Bの断面形状は、素線40A、40Bの動き易さを高めるうえで、交点での接触面積が大きくなる平形断面を用いた場合よりも、その接触面積が小さくなる円形断面を用いた場合の方が有利となる。
【0048】
(2)の素線40A、40Bの持ち数(素線40A、40Bを構成する線材の本数)も、素線40A、40B同士の交点での接触面積に影響しており、その交点での摩擦力を小さくするうえでは、その持ち数が少ないほど好ましい。この観点から、持ち数は、素線40A、40Bの動き易さを高めるうえで、複数である場合よりも、1本である場合の方が有利となる。
【0049】
(3)の編組42の編みパターンは、素線40A、40B同士の交点での垂直抗力に影響しており、その交点での摩擦力を小さくするうえでは、前述した編み単位当たりの素線交差本数が多くなる編みパターンが好ましい。この観点から、編組42の編みパターンは、素線40A、40Bの動き易さを高めるうえで、編み単位当たりの素線交差本数が少ない編みパターン(例えば、フルパターン)を用いた場合よりも、その素線交差本数が多い編みパターン(例えば、ハーフパターン)を用いた場合の方が有利となる。
【0050】
素線40A、40B同士の交点での摩擦力を小さくするうえでは、(4)の素線40A、40Bの表面粗さ及び摩擦係数のいずれかを小さくするための表面処理を素線40A、40Bに施してもよい。
【0051】
素線40A、40Bの動き易さを高めるうえでは、軸方向に対する素線40A、40Bの傾斜角を急にするほど好ましい。この観点から、(5)の素線40A、40Bのピッチは、素線40A、40Bの動き易さを高めるうえで、そのピッチが広い場合よりも、そのピッチが狭い場合の方が有利となる。ここでのピッチとは、編組42の網目43の軸方向寸法P(図1参照)を意味する。
【0052】
試験片を破断させずに伸び率を調整するうえでは、少なくとも、これら(1)~(5)の因子のうちの何れかを調整してもよい。言い換えると、カテーテルシャフト10は、前述した伸び率の条件(例えば、100%以上の条件)を満たすように、これら因子の何れかが調整されているともいえる。
【0053】
なお、補強層24A、24Bとしてコイルを採用する場合、伸び率を調整するうえでは、コイルピッチ(ピッチ角)、素線の線径、持ち数、素材、断面形状等を調整してもよい。例えば、伸び率を大きくするうえでは、素線が軸方向に伸び変形し易くなるよう、コイルピッチを小さくする、線径を細くする、又は、持ち数を小さくしてもよい。この他にも、伸び率を大きくするうえでは、素線が軸方向に伸び変形し易くなるよう素材、断面形状を調整してもよい。
【0054】
前述の伸び率を達成できる伸び易さを持つシャフト本体22の素材とは、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(ペルフルオロアルコキシフッ化樹脂)、PEBAX(ポリエーテルブロックアミド、登録商標)、PA12(ポリアミド12)、TPU(熱可塑性ポリウレタン)等の樹脂をいう。伸び率を大きくするうえでは、シャフト本体22の素材として伸び易い素材を採用するとよい。また、素線40A、40Bの素材は特に限定されないものの、例えば、ステンレス、Ni-Ti合金等の金属を採用してもよい。また、素線40A、40Bの素材としては樹脂を採用してもよい。
【0055】
なお、縮径率を調整するうえでは、伸び率そのものを調整してもよいし、伸び率に影響する要素(シャフト本体22の素材の伸び易さ、素線40A、40Bの動き易さに影響する因子)を調整してもよい。例えば、縮径率を大きくするうえでは、前述した伸び率を大きくするために採用した調整手法を採用してもよいということである。また、補強層24A、24Bを外部に露出させずに縮径率、伸び率を大きくするうえで、次の(1)~(3)のそれぞれを設計が許容する範囲で調整してもよい。(1)はシャフト本体22の素材であり、(2)はシャフト本体22において補強層24A、24Bより径方向外側にある部位(実施形態でいう外層26)の肉厚であり、(3)は素線40A、40Bの動き易さに影響する因子である。例えば、(1)のシャフト本体22の素材は伸び易い素材を採用すると好ましい。このような伸び易い素材を採用するうえでは、樹脂素材の硬度が低くなるほど伸び易くなるため、低硬度の樹脂素材を採用すると好ましい。例えば、低硬度のPEBAXの方が高硬度のPEBAXより伸び易く、シャフト本体22の素材として好ましい。また、シャフト本体22の素材には、造影性等の向上を目的として、硫酸バリウム等の無機物を添加する場合がある。無機物の添加量を多くなるほどシャフト本体22が伸び難くなる。よって、伸び易い素材を採用するうえでは、無機物の添加量をできるだけ少なくしたり、無機物が添加されていない素材を採用すると好ましい。(2)のシャフト本体22の部分的な肉厚を厚くすることで、シャフト本体22の部分的な裂けに起因する補強層24A、24Bの露出を回避するうえで有利となる。(3)の素線40A、40Bの動き易さに影響する因子を調整することで、素線40A、40Bを動き易くしてもよい。仮に、シャフト本体22の伸び変形時に素線40A、40Bが動き難くなっていると、前述のように、シャフト本体22の伸び変形が編組42により早期に拘束されてしまい、シャフト本体22と編組42の接点を起点にシャフト本体22の部分的な裂けを招き得る。素線40A、40Bを動き易くすることで、このようにシャフト本体22の伸び変形が編組42により早期に拘束される事態を回避し、シャフト本体22の部分的な裂けに起因する補強層24A、24Bの露出を回避するうえで有利となる。
【0056】
引張試験によって試験片50が破断するまでの間に試験片50に付与できる最大荷重(N)は、好ましくは、90N以上であるとよい。この「最大荷重」は、試験片50を引っ張り始めてから試験片50が破断するまでの間に試験片50に付与できる最大の引張荷重をいう。本願発明者は、血管から外力が加わった状態のカテーテルシャフトを術者が引っ張ることでカテーテルシャフト10に引張荷重を付与するとき、その引張荷重は、通常、90N未満となることを見出した。前述の最大荷重の条件を満たすことで、術者が通常に付与する引張荷重の範囲であれば、カテーテルシャフト10が破断する事態を回避できる。
【0057】
試験片50が最大荷重になるときの試験片50の引張量(引張前後での試験片50の軸方向寸法の変化量)を最大荷重時引張量という。このとき、試験片を引っ張り始めてから最大荷重時引張量に達するまでに試験片50に付与される引張荷重の変化の仕方は特に限定されない。例えば、試験片50を引っ張り始めてから所定引張量(例えば、最大荷重時引張量の3/4)に達するまでの間に試験片50に付与される引張荷重が90N未満であってもよいし、その間に引張荷重が90N以上に達してもよい。
【0058】
引張試験によって試験片50に付与できる最大荷重を調整するうえでは、補強層24A、24Bが編組42の場合、素線40A、40Bの破断強度の合計値を調整すればよい。この素線40A、40Bの破断強度の合計値には、(1)素線40A、40Bの断面積、(2)編組42の打ち数(軸方向に直交する断面内での網目43の数)等が影響している。破断強度を大きくするうえでは、(1)の素線40A、40Bの断面積を大きくするほど有利となる。破断強度を大きくするうえでは、(2)の打ち数が多くなるほど有利となる。カテーテルシャフト10は、これら(1)、(2)の何れかを調整することで前述した条件の最大荷重(90N以上)となるように構成されるとよい。なお、補強層24A、24Bがコイルの場合、(1)を調整することで前述した条件の最大荷重(90N以上)となるように構成すればよい。
【0059】
引張試験によって試験片50に付与できる最大荷重(N)は、好ましくは、以下の条件を満たすとよい。以下の条件は、ISO 10555(滅菌状態で供給され単回使用を目的とした血管内カテーテルの為の一般要求事項)に規定される、カテーテルシャフト10に要求される破断強度を規定したものである。以下の条件を満たすことで、ISOにおいてカテーテルシャフト10に要求される最低限の破断強度を担保できる。
(条件)
0.55mm≦Φ0<0.75mmの場合:最大荷重が3N以上である
0.75mm≦Φ0<1.15mmの場合:最大荷重が5N以上である
1.15mm≦Φ0<1.85mmの場合:最大荷重が10N以上である
1.85mm≦Φ0の場合:最大荷重が15N以上である
【0060】
カテーテルシャフト10は、好ましくは、前述の引張試験において試験片50に90Nの引張荷重が付与され始めたとき、補強層24A、24Bが外部に露出していないという条件を満たすとよい。ここでの「試験片50に90Nの引張荷重が付与され始めたとき」とは、引張試験において試験片50に付与される引張荷重を増やす過程ではじめて90Nの引張荷重が付与されたときを意味する。これにより、血管から外力が加わった状態のカテーテルシャフト10を引っ張るにあたり、術者が通常に付与する引張荷重の範囲(90N未満)であれば、シャフト本体22が部分的に裂けることで補強層24A、24Bが外部に露出する事態を回避できる。この条件を満たすうえでは、前述した補強層24A、24Bを外部に露出させずに縮径率、伸び率を大きくするために採用した調整手法を用いてもよい。
【0061】
ここまで、カテーテルシャフト10が満たすべきシャフト条件は、前述の引張試験において試験片50が破断せずに試験片50の伸び率が100%になったときに測定される縮径率が5%以上であるという前述の第1シャフト条件を例に説明した。これに替えて、カテーテルシャフト10が満たすべきシャフト条件は、前述の引張試験において90Nの引張荷重が付与され始めるまで試験片50を引っ張ったとき、縮径率が20%以上であるという前述の第2シャフト条件でもよい。この場合、引張試験において、90Nの引張荷重が付与され始めるまで引っ張った直後に、引張試験を終了する。この後、その試験片50に付与される引張荷重を除荷し、引張試験機から取り出した試験片50に関して測定される縮径率が20%以上であればよい。第2シャフト条件を満たすうえで、90Nの引張荷重が付与され始めるまで引っ張ったとき、試験片50が破断していないことが前提となる。この場合も、前述した試験片50に90Nの引張荷重が付与され始めたとき、補強層24A、24Bが外部に露出していないという条件を満たすとよい。なお、引張試験において90Nの引張荷重が付与され始める時点では、試験片50の伸び率が100%を越えており、その伸び率が100%となるときの縮径率よりも大きくなる。この関係から、第1シャフト条件で満たすべき縮径率の許容値(5%)よりも、第2シャフト条件で満たすべき縮径率の許容値(20%)が大きくなっている。
【0062】
次に、以上の縮径率と伸び率との関係を確認するために行った引張試験を説明する。この引張試験では、次の表1に示す条件の試験片50を用いて、所定の伸び率となるまで引っ張る引張試験を行った。表1では、試験片の種類の他に、その種類毎のシャフト本体の樹脂素材の伸び易さ、素線の断面形状、打ち数を記載している。素線の断面形状は、外側補強層24B、内側補強層24Aの断面形状を順に記載する。種類A、Eは、素線のピッチのみを変更した例である。
【0063】
【表1】
【0064】
この試験結果を説明する。表1には、試験片50毎の引張試験の結果として、引張前の最小外径、引張後の最小外径、伸び率、縮径率の他に、最大荷重、補強層24A、24Bの露出の有無、試験片50の破断の有無を示す。表1の最大荷重は、試験片50を引っ張り始めてから所定の伸び率となるまでに付与された最大の荷重を示す。No.9(種類B)、No.18(種類D)は、引っ張り始めてから伸び率が50%となるまで引っ張る以前に破断している例である。
【0065】
図6は、以上の引張試験の結果を示すグラフである。種類B、Dは最大の伸び率が50%未満のときに破断しており、試験片が破断せずに伸び率が100%となるときに、縮径率を5%以上にできていない例である。これに対して、種類A、C、Eは、試験片が破断せずに伸び率が100%のときに、縮径率を5%以上にできている例である。また、これらの比較から、試験片50が破断せずに伸び率が100%になったとき、その縮径率を5%以上にするうえで有利になることを把握できる。また、図6から、試験片50が破断せずに取り得る伸び率が大きくなるほど縮径率を大きくするうえで有利となる傾向があることを把握できる。例えば、試験片50の取り得る伸び率が300%未満になる種類Eと、その伸び率が300%以上になる種類A、Cを比べると、後者の方が取り得る縮径率が大きくなることを把握できる。
【0066】
また、種類A、Eの比較から、E→Aの順で素線のピッチが狭くなるほど、取り得る伸び率及び縮径率を大きくするうえで有利になることを把握できる。また、種類A、Cの比較から、素線の断面形状が平形断面よりも丸形断面の方が、取り得る伸び率及び縮径率を大きくするうえで有利になることを把握できる。
【0067】
図7は、表1に示す結果について、引張荷重と縮径率との関係で整理したグラフである。種類B、Dは、試験片に90Nの引張荷重を付与する前に破断しており、試験片に90Nの引張荷重が付与され始めたときの縮径率を20%以上にできていない例である。種類A、C、Eは、試験片に90Nの引張荷重が付与され始めたときの縮径率が20%以上となる例である。
【0068】
以上の実施形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0069】
補強層24A、24Bが露出していない状態で取り得る試験片50の最大の縮径率及び伸び率は、次の手順に従って測定してもよい。
(1)まず、試験片50が破断するまで引っ張る初回の引張試験をする。初回の引張試験では、試験片50が破断したときの試験片50の伸び率を測定する。
(2)次に、初回の引張試験で用いた試験片50と同じサンプルから得た試験片50を用いて、二回目の引張試験をする。二回目の引張試験では、一回目の引張試験で測定した伸び率-10%の伸び率となるまで試験片50を引っ張る。この後、この引張試験により得られた試験片50の補強層の露出の有無を判定する。
(3)(2)において補強層が露出していた場合、前回の引張試験で達した伸び率-10%の伸び率となるまで引っ張る引張試験を行い、その引張試験により得られた試験片50の補強層の露出の有無を判定するまでの一連の流れを再び行う。この一連の流れは、引張試験後に補強層が露出しない試験片50を得られるまで繰り返し行う。
(4)(2)、(3)において、引張試験後に補強層が露出しない試験片50を得られたら、その試験片50の縮径率を測定する。これにより測定された試験片50の縮径率と、その試験片50に対する引張試験で達した伸び率を、補強層が露出していない状態で取り得る試験片50の最大の縮径率及び伸び率として用いてもよい。
【符号の説明】
【0070】
10…カテーテルシャフト、12…カテーテル装置、22…シャフト本体、24A、24B…補強層、26A、26B…ルーメン、40A、40B…素線、42…編組、50…試験片。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7