(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020675
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】測定システム、送信システム及び受信システム
(51)【国際特許分類】
G01R 29/10 20060101AFI20250205BHJP
H04B 17/17 20150101ALI20250205BHJP
H04B 17/29 20150101ALI20250205BHJP
H01Q 3/02 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
G01R29/10 A
H04B17/17
H04B17/29 200
H01Q3/02
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124193
(22)【出願日】2023-07-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和5年2月28日に、EiC電子情報通信学会2023年総合大会講演論文集(DVD及びWEB公開),B-1-130(一般社団法人電子情報通信学会)にて公開 (2)令和5年3月7日に、EiC電子情報通信学会2023年総合大会,ハイブリッド開催,芝浦工業大学大宮キャンパス(埼玉県さいたま市見沼区大字深作307番地),B-1-130にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】山口 良
(72)【発明者】
【氏名】保前 俊稀
(72)【発明者】
【氏名】豊見本 和馬
(72)【発明者】
【氏名】宮下 真行
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 歩
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021DA04
5J021JA10
(57)【要約】
【課題】多重波環境におけるミリ波帯アンテナの特性測定において周波数安定度を低下させることなく測定の適用範囲の拡大を図ることができる測定システムを提供する。
【解決手段】測定システムは、送信システムと受信システムとを備える。送信システムは、外部の共通装置から無線送信された共通基準信号を受信し、共通基準信号に基づいて、所定の周波数範囲の複数の送信周波数を所定の周波数切替タイミングで切り替えながら測定対象のアンテナの特性を測定するためのテスト信号を生成して無線送信する。受信システムは、前記外部の共通装置から無線送信された共通基準信号を受信し、共通基準信号と前記所定の周波数範囲の複数の送信周波数の情報と所定の周波数切替タイミングに対応するトリガ信号とに基づいて、送信システムから送信されたテスト信号を受信してアンテナの特性を測定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波帯のアンテナの特性を測定する測定システムであって、
外部の共通装置から無線送信された共通基準信号を受信し、前記共通基準信号に基づいて、所定の周波数範囲の複数の送信周波数を所定の周波数切替タイミングで切り替えながら測定対象のアンテナの特性を測定するためのテスト信号を生成して無線送信する送信システムと、
前記外部の共通装置から無線送信された前記共通基準信号を受信し、前記共通基準信号と前記所定の周波数範囲の複数の送信周波数の情報と前記所定の周波数切替タイミングに対応するトリガ信号とに基づいて、前記送信システムから送信された前記テスト信号を受信して前記アンテナの特性を測定する受信システムと、
を備える、測定システム。
【請求項2】
請求項1の測定システムにおいて、
前記送信システムは、
前記共通基準信号に基づいて周波数基準信号及び同期用基準信号を発生する基準信号発生部と、
前記同期用基準信号に基づいて、前記周波数切替タイミングに対応するトリガ信号を発生するトリガ信号発生部と、
前記周波数基準信号と前記トリガ信号とに基づいて前記送信周波数を切り替えて前記テスト信号を生成する信号発生器と、
前記信号発生器で生成した前記テスト信号の電波を送信する送信アンテナと、を有し、
前記受信システムは、
前記共通基準信号に基づいて周波数基準信号及び同期用基準信号を発生する基準信号発生部と、
前記同期用基準信号に基づいて、前記周波数切替タイミングに対応するトリガ信号を発生するトリガ信号発生部と、
前記送信システムから送信された前記テスト信号の電波を受信した前記測定対象のアンテナから出力される受信信号と、前記トリガ信号と、前記所定の周波数範囲の複数の送信周波数の情報とに基づいて、前記測定対象のアンテナの特性の測定を行うベクトルネットワークアナライザと、を有する、
測定システム。
【請求項3】
請求項2の測定システムにおいて、
前記送信システム及び前記受信システムはそれぞれ、前記共通基準信号の受信信号を出力するGNSS(Global Navigation Satellite System)受信機を有し、
前記送信システムの前記基準信号発生部及び前記受信システムの前記基準信号発生部はそれぞれ、前記GNSS受信機の受信信号に基づいて、前記周波数基準信号及び前記同期用基準信号を発生するルビジウム発振器である、
測定システム。
【請求項4】
請求項2又は3の測定システムにおいて、
前記ベクトルネットワークアナライザは、
前記トリガ信号発生部から、前記所定の周波数範囲の複数の送信周波数について前記送信周波数ごとに前記トリガ信号が入力され、
前記トリガ信号を測定ポイントトリガとして動作する、
測定システム。
【請求項5】
請求項4の測定システムにおいて、
前記測定対象のアンテナは、指向性を有し、所定の回転角度ステップで回転駆動可能なアンテナであり、
前記ベクトルネットワークアナライザは、前記トリガ信号発生部から、前記所定の周波数範囲の複数の送信周波数について前記送信周波数ごとに及び前記アンテナの回転角度ステップごとに、前記トリガ信号が入力される、
測定システム。
【請求項6】
ミリ波帯のアンテナの特性を測定する測定システムを構成する送信システムであって、
外部の共通装置から無線送信された共通基準信号を受信する手段と、
前記共通基準信号に基づいて、所定の周波数範囲の複数の送信周波数を所定の周波数切替タイミングで切り替えながら測定対象のアンテナの特性を測定するためのテスト信号を生成して無線送信する手段と、
を備える、送信システム。
【請求項7】
ミリ波帯のアンテナの特性を測定する測定システムを構成する受信システムであって、
外部の共通装置から無線送信された前記共通基準信号を受信する手段と、
前記共通基準信号と所定の周波数範囲の複数の送信周波数の情報と所定の周波数切替タイミングに対応するトリガ信号とに基づいて、送信システムから送信されたテスト信号を受信して前記アンテナの特性を測定する手段と、
を備える、受信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナの特性を測定する測定システム、送信システム及び受信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の測定システムとして、ミリ波帯(30GHz~300GHz)の高周波のテスト信号を送信する送信系統の信号発生器(SG)と、測定対象のアンテナで受信されたテスト信号の受信信号を解析する受信系統のベクトルネットワークアナライザ(VNA)とを備え、制御用信号を伝送するための複数のケーブルでSGとVNAとの間を有線接続したシステムが知られている。このシステムによれば、送信系統を受信系統から離れた外部に設置するとともにSパラメータセットを迂回して測定対象のアンテナに受信系統をダイレクト接続する構成を採用することで、テスト信号の入出力端の距離が長いミリ波帯多重波環境における測定ができる。
【0003】
非引用文献1には、送信系統の外部に設置するとともに測定対象のアンテナをVNAにダイレクト接続する構成において、SGとVNAとの間で制御用の無線回線を介して制御コマンド及びトリガ信号(周波数切替トリガ信号及び周波数切替ビジー信号)を伝送するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】山口 良,芹澤 弘一,豊見本 和馬,宮下 真行,「縦列走行V2V直接通信ドップラースペクトル」,電子情報通信学会論文誌B,Vol.J103-B,No.11,pp.515-527.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のシステムでは、次のような課題がある。すなわち、上記従来のシステムでは、SGとVNAとの間を複数のケーブルで接続する有線接続があるため、適用範囲が制限される、という課題がある。また、非特許文献1のシステムでは、制御コマンドやトリガ信号を伝送する無線回線の品質の安定化が前提となるため、適用範囲がオープンサイトや縦列走行車車間等での測定に限られる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るシステムは、ミリ波帯のアンテナの特性を測定する測定システムである。この測定システムは、外部の共通装置から無線送信された共通基準信号を受信し、前記共通基準信号に基づいて、所定の周波数範囲の複数の送信周波数を所定の周波数切替タイミングで切り替えながら測定対象のアンテナの特性を測定するためのテスト信号を生成して無線送信する送信システムと、前記外部の共通装置から無線送信された前記共通基準信号を受信し、前記共通基準信号と前記所定の周波数範囲の複数の送信周波数の情報と前記所定の周波数切替タイミングに対応するトリガ信号とに基づいて、前記送信システムから送信された前記テスト信号を受信して前記アンテナの特性を測定する受信システムと、を備える。
【0007】
本発明の他の態様に係るシステムは、ミリ波帯のアンテナの特性を測定する測定システムを構成する送信システムである。この送信システムは、外部の共通装置から無線送信された共通基準信号を受信する手段と、前記共通基準信号に基づいて、所定の周波数範囲の複数の送信周波数を所定の周波数切替タイミングで切り替えながら測定対象のアンテナの特性を測定するためのテスト信号を生成して無線送信する手段と、を備える。
【0008】
本発明の他の態様に係るシステムは、ミリ波帯のアンテナの特性を測定する測定システムを構成する受信システムである。この受信システムは、外部の共通装置から無線送信された前記共通基準信号を受信する手段と、前記共通基準信号と所定の周波数範囲の複数の送信周波数の情報と所定の周波数切替タイミングに対応するトリガ信号とに基づいて、送信システムから送信されたテスト信号を受信して前記アンテナの特性を測定する手段と、を備える。
【0009】
前記測定システムにおいて、前記送信システムは、前記共通基準信号に基づいて周波数基準信号及び同期用基準信号を発生する基準信号発生部と、前記同期用基準信号に基づいて、前記周波数切替タイミングに対応するトリガ信号を発生するトリガ信号発生部と、前記周波数基準信号と前記トリガ信号とに基づいて前記送信周波数を切り替えて前記テスト信号を生成する信号発生器と、前記信号発生器で生成した前記テスト信号の電波を送信する送信アンテナと、を有してもよい。また、前記受信システムは、前記共通基準信号に基づいて周波数基準信号及び同期用基準信号を発生する基準信号発生部と、前記同期用基準信号に基づいて、前記周波数切替タイミングに対応するトリガ信号を発生するトリガ信号発生部と、前記送信システムから送信された前記テスト信号の電波を受信した前記測定対象のアンテナから出力される受信信号と、前記トリガ信号と、前記所定の周波数範囲の複数の送信周波数の情報とに基づいて、前記測定対象のアンテナの特性の測定を行うベクトルネットワークアナライザと、を有してもよい。
【0010】
前記測定システムにおいて、前記送信システムの前記基準信号発生部及び前記受信システムの前記基準信号発生部はそれぞれ、前記共通基準信号の受信信号を出力するGNSS(Global Navigation Satellite System)受信機と、前記GNSS受信機の受信信号に基づいて、前記周波数基準信号及び前記同期用基準信号を発生するルビジウム発振器とを有してもよい。
【0011】
前記測定システムにおいて、前記ベクトルネットワークアナライザは、前記トリガ信号発生部から、前記所定の周波数範囲の複数の送信周波数について前記送信周波数ごとに前記トリガ信号が入力され、前記トリガ信号を測定ポイントトリガとして動作してもよい。
【0012】
前記測定システムにおいて、前記測定対象のアンテナは、指向性を有し、所定の回転角度ステップで回転駆動可能なアンテナであり、前記ベクトルネットワークアナライザは、前記トリガ信号発生部から、前記所定の周波数範囲の複数の送信周波数について前記送信周波数ごとに及び前記アンテナの回転角度ステップごとに、前記トリガ信号が入力されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多重波環境におけるミリ波帯アンテナの特性測定において周波数安定度を低下させることなく測定の適用範囲の拡大を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、参考例に係る有線接続VNA構成の測定システムの要部構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1の有線接続VNA構成の測定システムにおいて送受信されるトリガ信号の波形の観測例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る仮想接続VNA構成の測定システムの要部構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、
図3の仮想接続VNA構成の測定システムにおいて送受信されるトリガ信号の波形の観測例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、各図は本発明の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ及び位置関係を概略的に示してあるに過ぎず、従って、本発明は各図で例示された形状、大きさ及び位置関係のみに限定されるものではない。また、後述において例示する数値は、本発明の好適な例に過ぎず、従って、本発明は例示された数値に限定されるものではない。
【0016】
本書に記載された実施形態に係るシステムは、多重波環境におけるミリ波帯(30~300GHz)のアンテナの特性の測定において周波数安定度を低下させることなく測定の適用範囲の拡大を図ることができる外部送信系統を仮想接続したベクトルネットワークアナライザ(以下「VNA」ともいう。)構成の測定システムである。また、本実施形態の測定システムは、ミリ波帯アンテナの多重波環境における特性評価を効率的に行うことができる。
【0017】
多重波環境におけるアンテナ測定においてはVNAが多用される。VNAは位相測定、マルチチャンネル測定、超広帯域測定、周波数掃引によるリアルタイム高分解能遅延測定、周波数変換測定、キャリブレーション機能、狭帯域信号に伴う高ダイナミックレンジ等の利点を有するためミリ波帯フィールド測定においても実用的な測定器といえる。VNAを用いたアンテナ測定システムの一般的な構成では、VNAの3要素である送信系統、受信系統およびSパラメータセットが同一筐体に搭載される。マイクロ波デバイスのような入出力端距離が短い場合では、この一般的な構成で問題はないが、大型電波暗室やオープンサイトでのアンテナ測定では送受信アンテナ距離が長いためVNAの送信系統を外部接続し、Sパラメータセットをバイパスして受信系統のVNAを測定対象のアンテナにダイレクト接続して受信する構成(以下「VNAダイレクト接続構成」ともいう。)が用いられる。多重波環境におけるアンテナ特性や到来方向特性の評価においても、送信系統の外部接続及びVNAダイレクト接続構成の活用は有効と考えられる。
【0018】
図1は、参考例に係る有線接続VNA構成の測定システム90の要部構成の一例を示す図である。
図1の測定システムでは、ケーブルを介して、送信系統と受信系統のVNAとの間の制御コマンド及びトリガ信号を送受信する。
【0019】
図1において、測定システム90は、送信系統を構成する送信システム910と、受信系統を構成する受信システム920とを備える。送信システム910は、周波数基準信号(10MHz基準信号)と周波数切替タイミングに対応するトリガ信号(周波数切替トリガ信号)とに基づいて送信周波数を切り替えてテスト信号を生成する信号発生器(SG)911と、信号発生器911で生成したテスト信号の電波を送信する送信アンテナ912とを有する。
【0020】
受信システム920は、掃引トリガ信号に基づいて測定対象のアンテナ200の特性の測定を行うVNA921と、アンテナ装置20においてアンテナ200を回転駆動する回転駆動部210から所定の回転角度ごとに出力される角度パルスに基づいて掃引トリガ信号を生成して出力する。
【0021】
ここで、VNAを用いた測定制御方式には、トリガ方式とコマンド方式がある。トリガ方式は掃引周波数リストを予め送受信系統(送信システム及び受信システム)の双方が持っており、周波数切替指示及び切替完了報告をトリガ信号でハンドシェイクする方式でありコマンド方式より高速な動作となる。トリガ方式のトリガモードとしては、掃引トリガモードとポイントトリガモードがある。前者の掃引トリガモードは、
図1の有線接続VNA構成の測定システム90で用いられ、後者のポイントトリガモードは、後述の
図3の仮想接続VNA構成の測定システム10で用いられる。一方、コマンド方式は掃引周波数を都度制御コマンドで設定する方式のため低速であり、
図1の有線接続VNA構成の測定システム90及び後述の
図3の仮想接続VNA構成の測定システム10では利用しない。
【0022】
送信システム910と受信システム920との間は4本のケーブルからなるケーブル群930で接続されている。ケーブル群930は、
図1に示すように、制御コマンドを送受信するためのLANケーブル931と、周波数切替ビジー信号を送受信するためのケーブル932と、周波数切替トリガ信号を送受信するためのケーブル933と、周波数基準信号(10MHz基準信号)を送受信するためのケーブル934とを含む。アンテナ200の所定回転角度ごとに計測パルス発生器922から出力される掃引トリガ信号は、外部トリガとしてVNA921に入力される。外部トリガ(掃引トリガ信号)に基づいてVNA921から出力される周波数切替トリガ信号は、ケーブル933を介して伝送され、信号発生器(SG)911に入力される。信号発生器(SG)911から出力される周波数切替ビジー信号はケーブル932を介して伝送され、VNA921に入力される。また、信号発生器(SG)911から出力される周波数基準信号(10MHz基準信号)はケーブル934を介して伝送され、VNA921に入力される。
【0023】
図2は、
図1の有線接続VNA構成の測定システムにおいて送受信される掃引トリガモードのトリガ信号の波形の観測例を示す図である。
図2において、受信系統側のVNA921は外部トリガの掃引トリガ信号(図中の上段の信号)を計測パルス発生器922から受信すると、所定の測定時間Tmに初期周波数(掃引の最初の周波数)についてアンテナ200からの受信信号を測定する。測定が終わると周波数切替トリガ信号(図中の中段の信号)を信号発生器(SG)911に送信する。なお、
図2の観測例では、回転角度あたり201点の掃引中の先頭2つの周波数切替トリガ信号が観測されている。送信系統側の号発生器(SG)911は、周波数切替開始と同時に周波数切替ビジー(Busy)信号(図中の下段の信号)をVNA921送信する。VNA911は、所定の周波数切替時間(Ts)が経過して周波数切替ビジー(Busy)信号の立下り(切替完了)を検出した後、一定時間(図中の待機時間Tw)待機して次の新周波数についてアンテナ200からの受信信号を測定する。
【0024】
図1及び
図2の参考に係る有線接続VNA構成の測定システムでは、送信システム910と受信システム920との間を4本のケーブル931~934で接続する必要があるため、ミリ波帯多重波環境におけるアンテナ測定の適用範囲が限られてしまう。
【0025】
上記ケーブルの有線接続を用いない方法として、送信システム910と受信システム920との間をケーブルの有線接続ではなく無線接続し、無線回線を介して、上記制御コマンド、周波数切替ビジー信号、周波数切替トリガ信号及び周波数基準信号(10MHz基準信号)を送受信する無線接続方式の構成が考えられる。この無線接続方式の構成によれば、例えば縦列走行車車間通信における伝搬特性の評価にも適用できる。しかしながら、無線接続方式の構成では、制御コマンドや各種信号の伝送に用いられる無線回線品質の安定化が前提となるため、適用範囲はオープンサイトや縦列走行車車間等に限られる。
【0026】
本実施形態の測定システムは、ミリ波帯多重波環境アンテナ測定のさらなる適用範囲拡大のため、無線接続方式を拡張した方式として、以下に示すように送信系統と受信系統(VNA)を仮想的に接続する方式を適用した構成(以下「仮想接続VNA構成」ともいう。)を備えている。
【0027】
図3は、実施形態に係る仮想接続VNA構成の測定システム10の要部構成の一例を示す図である。なお、
図3の例では、外部の共通装置がGNSS衛星であり、共通基準信号がGNSS衛星から受信するGNSS信号である場合について説明するが、外部の共通装置はGNSS衛星以外の装置であってもよく、共通基準信号はGNSS衛星以外の共通装置から受信した信号であってもよい。
【0028】
図3において、測定システム10は、前述のポイントトリガモードで動作し、送信系統を構成する送信システム110と、受信系統を構成する受信システム120とを備える。送信システム110は、外部の共通装置(GNSS衛星)から無線送信された共通基準信号(GNSS信号)を受信し、その共通基準信号に基づいて、所定の周波数範囲の複数の送信周波数を所定の周波数切替タイミングで切り替えながら測定対象のアンテナ200の特性を測定するためのテスト信号を生成して無線送信する。受信システム120は、外部の共通装置(GNSS衛星)から無線送信された共通基準信号を受信し、その共通基準信号と所定の周波数範囲の複数の送信周波数の情報と所定の周波数切替タイミングに対応するトリガ信号(測定ポイントトリガ信号)とに基づいて、送信システム110から送信されたテスト信号を受信してアンテナ200の特性を測定する。
【0029】
送信システム110は、共通基準信号(GNSS信号)に基づいて周波数基準信号及び同期用基準信号を発生する基準信号発生部114と、同期用基準信号に基づいて、前記周波数切替タイミングに対応するトリガ信号を発生するトリガ信号発生部としての計測パルス発生器113と、前記周波数基準信号と前記トリガ信号とに基づいて送信周波数を切り替えてテスト信号を生成する信号発生器(SG)111と、信号発生器(SG)111で生成したテスト信号の電波を送信する送信アンテナ112と、を有する。
【0030】
基準信号発生部114は、共通基準信号(GNSS信号)の受信信号を出力するGNSS受信機115と、GNSS受信機115の受信信号に基づいて、前記周波数基準信号及び前記同期用基準信号を発生するルビジウム(Rb)発振器116とを有する。前記周波数基準信号は例えば10MHz基準信号であり、前記同期用基準信号は例えば1PPS(Pulse per Second)信号である。
【0031】
受信システム120は、共通基準信号(GNSS信号)に基づいて周波数基準信号及び同期用基準信号を発生する基準信号発生部123と、同期用基準信号に基づいて、周波数切替タイミングに対応するトリガ信号を発生するトリガ信号発生部としての計測パルス発生器122と、送信システム110から送信されたテスト信号の電波を受信した測定対象のアンテナ200から出力される受信信号と、前記トリガ信号と、前記所定の周波数範囲の複数の送信周波数の情報とに基づいて、測定対象のアンテナ200の特性の測定を行うVNA(ベクトルネットワークアナライザ)121と、を有する。
【0032】
基準信号発生部123は、共通基準信号(GNSS信号)の受信信号を出力するGNSS受信機115と、GNSS受信機115の受信信号に基づいて、周波数基準信号及び同期用基準信号を発生するルビジウム(Rb)発振器116とを有する。前記周波数基準信号は例えば10MHz基準信号であり、前記同期用基準信号は例えば1PPS(Pulse per Second)信号である。
【0033】
VNA121は、計測パルス発生器122から測定ポイントトリガ信号が入力され、その測定ポイントトリガ信号を測定ポイントトリガとして動作する。
【0034】
測定対象のアンテナ装置20のアンテナ200は、指向性を有し、所定の回転角度ステップで回転駆動可能なアンテナである。VNA121は、計測パルス発生器122から、所定の周波数範囲の複数の送信周波数について送信周波数ごとに及びアンテナ200の回転角度ステップごとに、前記測定ポイントトリガ信号が入力される。
【0035】
図4は、
図3の仮想接続VNA構成の測定システム10において送受信されるトリガ信号の波形の観測例を示す図である。なお、
図4では、参考のため、信号発生器(SG)111から出力される周波数ビジー信号も図示されているが、本実施形態の測定システム10では使用されない。
【0036】
仮想接続VNA構成の測定システム10において、
図4に示す各トリガ信号(測定ポイントトリガ信号及び周波数切替トリガ信号)の振舞いを観測した結果、設定を変える毎に特定の周期で各トリガ信号が送信されており、その再現性も高いことが分かった。一般的なアンテナ測定では掃引周波数、ポイント数、IF(中間周波数)帯域幅等の設定を動的に変化させることはなく固定的に運用されることから、本実施形態の構成では、各トリガ信号(測定ポイントトリガ信号及び周波数切替トリガ信号)を送信システム110及び受信システム120の双方に設置した計測パルス発生器113,122でエミュレートすることにより、ケーブル接続をなくすことができる。
【0037】
本実施形態の仮想接続VNA構成の測定システム10において、前述のように、送信系統の送信システム110及び受信系統の受信システム120にはそれぞれ別個のGNSS受信機115,124を備え、送信系統の信号発生器(SG)111及び受信系統のVNA121にはそれぞれ別個のルビジウム発振器(Rb)及び計測パルス発生器113,122が接続されている。送信システム(送信系統)110はVNA121から制御されていないため、GNSSの1PPS信号を基準として同期したタイミングで周波数掃引してテスト信号を送信する、いわゆる垂れ流し掃引方式となっている。また、VNA121(受信系統)も同様にGNSSの1PPS信号を基準としたタイミングで周波数掃引して受信することにより、テスト信号の送受信は同期される。
【0038】
なお、本実施形態の仮想接続VNA構成の測定システム10では、前述の
図1の参考例の有線接続VNA構成の測定システム90と異なり、ポイントトリガモードが採用されており、掃引周波数ポイント毎に測定ポイントトリガ信号(
図4の上段の信号)が外部トリガとしてVNA121与えられる。
【0039】
前述の
図1の参考例の有線接続VNA構成の測定システム90の掃引トリガモードではVNA121はアンテナ200の所定の回転角度毎(例えば1゜毎)の外部トリガを受信し、システム全体として内部的に周波数切替トリガ信号と周波数切替ビジー(Busy)信号を発出している。一方、本実施形態の仮想接続VNA構成の測定システム10のポイントトリガモードでは、所定の周波数範囲の複数の掃引周波数(送信周波数)について、アンテナ200の所定の回転角度毎(例えば1゜毎)かつ掃引周波数毎に合計72360(=360×201)個の外部トリガを、送信システム110及び受信システム120のそれぞれにおいて使用している。例えば、送信システム110の信号発生器(SG)111には、合計72360(=360×201)個の周波数切替トリガ信号が外部トリガとして入力され、受信システム120のVNA121には、合計72360(=360×201)個の測定ポイントトリガ信号が外部トリガとして入力される。
【0040】
以上示したように、本実施形態の仮想接続VNA構成の測定システム10では、送信システム(送信系統)110の制御がないため制御コマンド用LANケーブルが不要であり、同期したトリガ信号が手元にあるためトリガ信号用のケーブルが不要であり、GNSS受信機付きのルビジウム発振器116、125を備えているため周波数基準信号用のケーブルが不要であり、一切のケーブルは存在しない構成となる。そのため、ミリ波帯多重波環境におけるアンテナ測定の適用範囲の拡大を図ることができる。
【0041】
表1は、本実施形態の仮想接続VNA構成の測定システム10で動作させたときの8.5GHz~300GHzの周波数帯での周波数安定度(受信信号の変動)の測定例を示す。なお、表中の括弧内の数値は受信信号の変動幅である。表1には、比較するため、参考例の有線接続VNA構成の測定システム90の測定例についても示している。参考例の有線接続VNA構成では送信システム(送信系統)の10MHz基準信号を用いた。本実施形態の仮想接続VNA構成では(A)内蔵の信号源からの基準信号を用いる場合と、(B)
図3の構成のルビジウム発振器からの基準信号を用いる場合についての測定例を示した。各周波数帯で有線接続VNA構成(IF帯域幅10kHz)の場合を基準値(0dB)として表記した。
【0042】
【0043】
表1に示すように、内蔵の信号源からの基準信号を用いる場合(A)は、周波数ずれが起こり受信レベルの著しい低下(表中の太字部分)が観測された。一方、
図3の構成のルビジウム発振器からの基準信号を用いる場合(B)では有線接続VNA構成と比較して遜色ない高い周波数安定度が確認され、有効性が示された。
【0044】
以上、本実施形態によれば、多重波環境におけるミリ波帯アンテナの特性測定において周波数安定度を低下させることなく測定の適用範囲の拡大を図ることができる。
【0045】
また、本発明は、多重波環境におけるミリ波帯アンテナの特性測定において周波数安定度を低下させることなく測定の適用範囲の拡大を図ることができるため、持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成に貢献できる。
【0046】
なお、本明細書で説明された処理工程並びに測定システムの構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0047】
ハードウェア実装については、実体(例えば、信号発生器、ネットワークアナライザ、発振器)において上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0048】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、上記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0049】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であればよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【0050】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0051】
10 :測定システム
20 :アンテナ装置
110 :送信システム
112 :送信アンテナ
113 :計測パルス発生器
114 :基準信号発生部
115 :GNSS受信機
116 :ルビジウム発振器
120 :受信システム
122 :計測パルス発生器
123 :基準信号発生部
124 :受信機
125 :ルビジウム発振器
200 :アンテナ
210 :回転駆動部