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特開2025-20710系統連系電力変換装置および系統連系電力変換装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020710
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】系統連系電力変換装置および系統連系電力変換装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20250205BHJP
【FI】
H02M7/48 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124243
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
(72)【発明者】
【氏名】磯尾 淳
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 良太
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】東海林 和
(72)【発明者】
【氏名】井上 稔也
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA11
5H770CA06
5H770DA11
5H770EA01
5H770EA27
5H770HA02Y
5H770HA03Y
5H770LA03Y
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】電圧制御型の仮想同期発電機制御を行う系統連系電力変換装置において、過電流の抑制動作中に仮想同期発電機の同期化力を維持し脱調を抑制する。
【解決手段】直流電源VdcをインバータINVとLCフィルタLCとトランスTrを介して系統連系する。電気出力算出部4は、通常時は出力電流検出値Iacに基づいて電気出力Pを算出し、出力電流抑制時は出力電流推定値に基づいて電気出力Pを算出する。瞬時電圧制御部6は、出力電圧指令値Vac と電気出力Pに基づいて算出される出力位相θから瞬時電圧指令値v 、v 、v を出力する。PWM変調部7は、瞬時電圧指令値v 、v 、v に基づいてインバータINVのゲート信号Gateを生成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源をインバータとLCフィルタとトランスを介して系統連系し、電圧制御型の仮想同期発電機制御を行う系統連系電力変換装置であって、
通常時は出力電流検出値に基づいて電気出力を算出し、出力電流抑制時は出力電流推定値に基づいて前記電気出力を算出する電気出力算出部と、
出力電圧指令値と前記電気出力に基づいて算出される出力位相から瞬時電圧指令値を出力する瞬時電圧制御部と、
前記瞬時電圧指令値に基づいて前記インバータのゲート信号を生成するPWM変調部と、を備えたことを特徴とする系統連系電力変換装置。
【請求項2】
前記電気出力算出部は、
通常時は、(2)式または(3)式により前記電気出力を算出し、
出力電流抑制時は、d軸内部誘起電圧にd軸推定出力電流を乗算した値とq軸内部誘起電圧にq軸推定出力電流を乗算した値とを加算して、または、d軸出力電圧検出値に前記d軸推定出力電流を乗算した値とq軸出力電圧検出値に前記q軸推定出力電流を乗算した値とを加算して、前記電気出力を算出することを特徴とする請求項1記載の系統連系電力変換装置。
【数2】

【数3】

:電気出力
f_d:d軸内部誘起電圧
f_q:q軸内部誘起電圧
ac_d:d軸出力電流検出値
ac_q:q軸出力電流検出値
ac_d:d軸出力電圧検出値
ac_q:q軸出力電圧検出値
【請求項3】
前記電気出力算出部は、
(4)式により、前記d軸推定出力電流と前記q軸推定出力電流を算出することを特徴とする請求項2記載の系統連系電力変換装置。
【数4】

^Iac_d:d軸推定出力電流
^Iac_q:q軸推定出力電流
、x:仮想インピーダンス
f_d:d軸内部誘起電圧
f_q:q軸内部誘起電圧
ac_d:d軸出力電圧検出値
ac_q:q軸出力電圧検出値
【請求項4】
前記電気出力算出部は、
(5)式により、前記d軸推定出力電流と前記q軸推定出力電流を算出することを特徴とする請求項2記載の系統連系電力変換装置。
【数5】

^Iac_d:d軸推定出力電流
^Iac_q:q軸推定出力電流
tr、xtr:変圧器インピーダンス
f_d:d軸内部誘起電圧
f_q:q軸内部誘起電圧
sys_d:d軸系統電圧検出値
sys_q:q軸系統電圧検出値
【請求項5】
出力電圧検出値と前記出力電流検出値に基づいて無効電力を算出する無効電力算出部と、
基準電圧指令と前記無効電力に基づいて内部誘起電圧を算出する電圧振幅指令生成部と、
前記出力電流検出値に基づいて仮想インピーダンスによる降下電圧を算出するインピーダンス制御部と、
前記内部誘起電圧から前記仮想インピーダンスによる前記降下電圧を減算して前記出力電圧指令値を算出する減算器と、
前記電気出力と機械入力指令値から動揺方程式に基づいた前記出力位相を算出する電圧位相指令算出部と、
を備えたことを特徴とする請求項3記載の系統連系電力変換装置。
【請求項6】
出力電圧検出値と前記出力電流検出値に基づいて無効電力を算出する無効電力算出部と、
基準電圧指令と前記無効電力に基づいて内部誘起電圧を算出し、前記出力電圧指令値として出力する電圧振幅指令生成部と、
前記電気出力と機械入力指令値から動揺方程式に基づいた前記出力位相を算出する電圧位相指令算出部と、
を備えたことを特徴とする請求項4記載の系統連系電力変換装置。
【請求項7】
直流電源をインバータとLCフィルタとトランスを介して系統連系し、電圧制御型の仮想同期発電機制御を行う系統連系電力変換装置の制御方法であって、
電気出力算出部が、通常時は出力電流検出値に基づいて電気出力を算出し、出力電流抑制時は出力電流推定値に基づいて前記電気出力を算出し、
瞬時電圧制御部が、出力電圧指令値と前記電気出力に基づいて算出される出力位相から瞬時電圧指令値を出力し、
PWM変調部が、前記瞬時電圧指令値に基づいて前記インバータのゲート信号を生成することを特徴とする系統連系電力変換装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期発電機を模擬した電圧制御型の仮想同期発電機制御を行う系統連系電力変換装置において、系統事故等によって引き起こされる過電流を抑制する際に同期化力を働かせる制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電圧振幅指令値と、動揺方程式に基づき算出された周波数および位相から求まる瞬時電圧指令値と仮想インピーダンスの関係から算出される電流指令値を基にインバータの出力する電流を制御する電流制御型の仮想発電機制御が開示されている。
【0003】
特許文献2には、電圧振幅指令値と、動揺方程式に基づき算出された周波数および位相から求まる瞬時電圧指令値を直接電圧制御する電圧制御型の仮想発電機制御において、過電流を抑制するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許6084863号
【特許文献2】WO2021/029313A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2の問題点は、仮想同期発電機制御を行うインバータが過電流を抑制する際、仮想同期発電機と他の発電装置との位相差に応じた同期化力が発揮されず、仮想同期発電機が不安定になることや系統からの脱調が発生する点にある。
【0006】
特許文献1のような電流制御型の仮想同期発電機制御では、インバータを電流指令値と実際に流れる出力電流が一致するように制御することで、仮想同期発電機の駆動を模擬している。インバータが過電流を抑制する方法には、上記電流指令値の振幅を制限する方法があり、このとき出力有効電力および無効電力は減少する。
【0007】
一方、特許文献2のような電圧制御型の仮想同期発電機制御では、インバータを電圧指令値と実際の出力電圧が一致するように制御することで仮想同期発電機の駆動を模擬しており、出力電流を直接制御しない。過電流を抑制する方法には仮想同期発電機モデルのインピーダンスを増加させる方法や系統電圧ベクトルと電圧指令値を近づける方法などがあり、インバータの出力有効電力および無効電力は、過電流の抑制方法や系統インピーダンスなどの外部要因によって増加する場合もあれば減少する場合もある。
【0008】
前述の仮想同期発電機制御で過電流を抑制していない場合、インバータは仮想同期発電機の駆動を模擬するための電流指令値や電圧指令値に一致するように制御を行っており、このときの出力有効電力は、仮想同期発電機を模擬した結果が反映された値になる。仮想同期発電機の出力周波数は出力有効電力の要素を含む動揺方程式から求められ、仮想同期発電機と他の発電装置との位相差に応じた同期化力が働くことで、出力周波数は安定方向に動作する。
【0009】
一方、過電流を抑制している場合、インバータは前述のような過電流を抑制するための制御を優先するために仮想同期発電機の挙動を模擬しなくなり、出力有効電力が仮想同期発電機を模擬した結果を反映しない。よって、仮想同期発電機の出力周波数に同期化力が働かず、仮想同期発電機としての動作が不安定になる場合がある。具体的には、系統事故からの復帰時や過負荷による出力電流抑制時に、出力周波数の応答が変化することで仮想同期発電機の動作が不安定となり、場合によっては脱調を引き起こす点が問題となる。
【0010】
以上示したようなことから、電圧制御型の仮想同期発電機制御を行う系統連系電力変換装置において、過電流の抑制動作中に仮想同期発電機の同期化力を維持し脱調を抑制することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、直流電源をインバータとLCフィルタとトランスを介して系統連系し、電圧制御型の仮想同期発電機制御を行う系統連系電力変換装置であって、通常時は出力電流検出値に基づいて電気出力を算出し、出力電流抑制時は出力電流推定値に基づいて前記電気出力を算出する電気出力算出部と、出力電圧指令値と前記電気出力に基づいて算出される出力位相から瞬時電圧指令値を出力する瞬時電圧制御部と、前記瞬時電圧指令値に基づいて前記インバータのゲート信号を生成するPWM変調部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、その一態様として、前記電気出力算出部は、通常時は、(2)式または(3)式により前記電気出力を算出し、出力電流抑制時は、d軸内部誘起電圧にd軸推定出力電流を乗算した値とq軸内部誘起電圧にq軸推定出力電流を乗算した値とを加算して、または、d軸出力電圧検出値に前記d軸推定出力電流を乗算した値とq軸出力電圧検出値に前記q軸推定出力電流を乗算した値とを加算して、前記電気出力を算出することを特徴とする。
【0013】
【数2】
【0014】
【数3】
【0015】
:電気出力
f_d:d軸内部誘起電圧
f_q:q軸内部誘起電圧
ac_d:d軸出力電流検出値
ac_q:q軸出力電流検出値
ac_d:d軸出力電圧検出値
ac_q:q軸出力電圧検出値。
【0016】
また、その一態様として、前記電気出力算出部は、(4)式により、前記d軸推定出力電流と前記q軸推定出力電流を算出することを特徴とする。
【0017】
【数4】
【0018】
^Iac_d:d軸推定出力電流
^Iac_q:q軸推定出力電流
、x:仮想インピーダンス
f_d:d軸内部誘起電圧
f_q:q軸内部誘起電圧
ac_d:d軸出力電圧検出値
ac_q:q軸出力電圧検出値。
【0019】
また、他の態様として、前記電気出力算出部は、(5)式により、前記d軸推定出力電流と前記q軸推定出力電流を算出することを特徴とする。
【0020】
【数5】
【0021】
^Iac_d:d軸推定出力電流
^Iac_q:q軸推定出力電流
tr、xtr:変圧器インピーダンス
f_d:d軸内部誘起電圧
f_q:q軸内部誘起電圧
sys_d:d軸系統電圧検出値
sys_q:q軸系統電圧検出値。
【0022】
また、一態様として出力電圧検出値と前記出力電流検出値に基づいて無効電力を算出する無効電力算出部と、基準電圧指令と前記無効電力に基づいて内部誘起電圧を算出する電圧振幅指令生成部と、前記出力電流検出値に基づいて仮想インピーダンスによる降下電圧を算出するインピーダンス制御部と、前記内部誘起電圧から前記仮想インピーダンスによる前記降下電圧を減算して前記出力電圧指令値を算出する減算器と、前記電気出力と機械入力指令値から動揺方程式に基づいた前記出力位相を算出する電圧位相指令算出部と、を備えたことを特徴とする。
【0023】
また、他の態様として、出力電圧検出値と前記出力電流検出値に基づいて無効電力を算出する無効電力算出部と、基準電圧指令と前記無効電力に基づいて内部誘起電圧を算出し、前記出力電圧指令値として出力する電圧振幅指令生成部と、前記電気出力と機械入力指令値から動揺方程式に基づいた前記出力位相を算出する電圧位相指令算出部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電圧制御型の仮想同期発電機制御を行う系統連系電力変換装置において、過電流の抑制動作中に仮想同期発電機の同期化力を維持し脱調を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態1の系統連系電力変換装置の全体構成を示す概略図。
図2】実施形態1の電気出力算出部を示す概略図。
図3】実施形態1の仮想同期発電機モデルを示す図。
図4】従来法の系統電圧低下時の周波数挙動(脱調する場合の一例)を示す図。
図5】実施形態1の系統電圧低下時の周波数挙動を示す図。
図6】実施形態2の系統連系電力変換装置の全体構成を示す概略図。
図7】実施形態2の電気出力算出部を示す概略図。
図8】実施形態2の仮想同期発電機モデルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本願発明における系統連系電力変換装置の実施形態1~2を図1図8に基づいて詳述する。
【0027】
[実施形態1]
図1は本実施形態1における系統連系電力変換装置の全体概略図である。図1に示すように、系統連系電力変換装置の主回路構成は、蓄電池等の直流電源VdcをIGBT等から成るインバータINVとLCフィルタLCとトランスTrを介して系統Gridと連系する。
【0028】
LCフィルタLCはフィルタリアクトルLとフィルタコンデンサCとを有する。また、LCフィルタLCとトランスTrとの間の出力電流検出値Iacと出力電圧検出値Vacが検出され、後述する制御ブロックに出力される。
【0029】
本実施形態1における系統連系電力変換装置の制御ブロックは、無効電力算出部1と、電圧振幅指令生成部2と、インピーダンス制御部3と、電気出力算出部4と、電圧位相指令生成部5と、瞬時電圧制御部6と、PWM変調部7と、減算器8と、を備える。
【0030】
無効電力算出部1は、出力電圧検出値Vacと出力電流検出値Iacから無効電力Qacを算出する。
【0031】
電圧振幅指令生成部2は、基準電圧指令値Vrefと無効電力Qacから内部誘起電圧Eを算出する。電圧振幅指令生成部2は、無効電力ドループ制御部9と、減算器10と、電圧振幅制御部11と、を備える。無効電力ドループ制御部9は、無効電力Qacに基づいて電源間の横流を抑制する値を出力する。減算器10は、基準電圧指令値Vrefから無効電力ドループ制御部9の出力を減算する。電圧振幅制御部11は、減算器10の出力に基づいて内部誘起電圧Eを出力する。
【0032】
インピーダンス制御部3は、出力電流検出値Iacから仮想インピーダンスZによる出力特性を模擬して降下電圧Vを出力する。減算器8は、内部誘起電圧Eから降下電圧Vを減算して出力電圧指令値Vac を出力する。
【0033】
電気出力算出部4は、内部誘起電圧Eもしくは出力電圧検出値Vacと、出力電流検出値Iacから電気出力Pを算出する。電圧位相指令生成部5は、機械入力指令値Pと電気出力Pから動揺方程式に基づいた出力位相θを算出する。
【0034】
瞬時電圧制御部6は、出力電圧指令値Vac と出力位相θからインバータINVの出力電圧を制御する瞬時電圧指令値v ,v ,v を出力する。PWM変調部7は、瞬時電圧指令値v ,v ,v とキャリア三角波との比較によってゲート信号Gateを生成する。
【0035】
無効電力算出部1、電圧振幅指令生成部2、インピーダンス制御部3、電圧位相指令生成部5、瞬時電圧制御部6、PWM変調部7は本願発明と直接関係ないため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0036】
図2に本実施形態1の電気出力算出部4を示す。図2に示すように、電気出力算出部4の出力電流推定部12は、内部誘起電圧Efと出力電圧検出値Vacと仮想インピーダンスZを用いて推定出力電流^Iacを算出する。
【0037】
なお、内部誘起電圧E=Ef_d+jEf_q、出力電圧検出値Vac=Vac_d+jVac_q、仮想インピーダンスZ=r+jx、推定出力電流^Iac=^Iac_d+j^Iac_qとする。
【0038】
具体的には、減算器13dは、d軸内部誘起電圧Ef_dからd軸出力電圧検出値Vac_dを減算する。減算器13qは、q軸内部誘起電圧Ef_qからq軸出力電圧検出値Vac_qを減算する。
【0039】
乗算器14aは減算器13dの出力にr/r +x を乗算する。乗算器14bは減算器13qの出力にx/r +x を乗算する。乗算器14cは減算器13dの出力に-x/r +x を乗算する。乗算器14dは減算器13qの出力にr/r +x を乗算する。
【0040】
加算器15dは乗算器14aの出力と乗算器14bの出力とを加算してd軸推定出力電流^Iac_dとして出力する。加算器15qは乗算器14cの出力と乗算器14dの出力とを加算してq軸推定出力電流^Iac_qとして出力する。
【0041】
スイッチSW1は、出力電流抑制フラグに基づいて通常時はd軸出力電流検出値Iac_dを出力し、出力電流抑制時はd軸推定出力電流^Iac_dを出力する。スイッチSW2は、出力電流抑制フラグに基づいて通常時はq軸出力電流検出値Iac_qを出力し、出力電流抑制時はq軸推定出力電流^Iac_qを出力する。
【0042】
乗算器16dはd軸内部誘起電圧Ef_dまたはd軸出力電圧検出値Vac_dにスイッチSW1の出力を乗算する。乗算器16qはq軸内部誘起電圧Ef_qまたはq軸出力電圧検出値Vac_qにスイッチSW2の出力を乗算する。加算器17は乗算器16dの出力と乗算器16qの出力を加算して電気出力Pとして出力する。
【0043】
本実施形態1が模擬する仮想同期発電機モデルを図3に示す。過電流抑制していない場合(以下、通常時と称する)のインバータINVの出力電圧指令値Vac は(1)式で求められる。
【0044】
【数1】
【0045】
acは仮想インピーダンスZ=r+jxによる電圧降下(降下電圧V)を表し、インピーダンス制御部3で算出する。
【0046】
通常時、インバータINVは出力電圧検出値Vacが出力電圧指令値Vac と一致するように電圧制御を行い、仮想同期発電機モデルを模擬する。
【0047】
電気出力算出部4の電気出力Pは、インバータINVの出力に加えて仮想インピーダンスの損失を考慮する場合は(2)式、インバータINVの出力のみ考慮する場合は(3)式で求められ、いずれを使用してもよい。
【0048】
【数2】
【0049】
【数3】
【0050】
なお、出力電流検出値Iac=Iac_d+jIac_qとする。
【0051】
この電気出力Pは仮想同期発電機モデルと系統側電圧との位相差によって生じ、同期化力を発揮して仮想同期発電機を安定させる方向に働く。
【0052】
ここで出力電流抑制を行う場合を考える。出力電流抑制の手法としては、仮想インピーダンスZを調整することにより出力電流を抑制する特許文献2などが開示されている。本実施形態1でも特許文献2などの手法を用いて出力電流の抑制を行うものとする。いずれも出力電流抑制を優先するため、インバータINVは(1)式から求められる出力電圧指令値Vac とは異なる電圧を出力し、出力電流抑制中は仮想同期発電機モデルが成り立たなくなる。よって、出力電流検出値Iacから求められる電気出力Pは同期化力として働かず、仮想同期発電機が不安定になる恐れがある。
【0053】
そこで、出力電流抑制動作中のフラグ情報を使って、電気出力Pの導出に使う出力電流を(4)式で算出する推定出力電流^Iac=^Iac_d+j^Iac_qに切り替える。図2の出力電流推定部12は(4)式を図示したものである。
【0054】
【数4】
【0055】
推定出力電流^Iacは仮想同期発電機モデルが成り立っている場合に流れるべき出力電流値を表す。これにより、出力電流抑制手法によって出力電流検出値Iacを抑制しつつ、出力電圧検出値Vacに対して仮想同期発電機モデルが成り立っている場合と同じ同期化力を発生させ、仮想同期発電機を安定方向に動作させることができる。
【0056】
なお、上位の変圧器や系統のインピーダンスと抑制された出力電流からなる電圧変動が(4)式の出力電圧検出値Vacに影響するため、通常時と完全に同様の周波数応答にはならない。
【0057】
系統電圧の瞬時電圧低下後の電圧復帰時を例に、実施形態1の効果を説明する。
【0058】
まず、従来の動作について説明する。従来の動作では、図2のスイッチSW1、SW2はd軸出力電流検出値Iac_d、q軸出力電流検出値Iac_q側に固定となる。系統電圧の瞬時電圧低下中、仮想同期発電機モデルの模擬により流れる電流値がインバータINVの最大出力電流値を超過する場合、インバータINVは出力電流抑制動作を行う。インバータINVの出力電圧は低下して仮想同期発電機の電気出力Pが減少し、機械入力指令値Pを維持している場合は周波数が上昇する。
【0059】
続いて、系統電圧復帰時、インバータINVの出力位相θと系統電圧の位相差が小さく、出力電流検出値IacがインバータINVの最大出力電流値以内になれば、出力電流抑制は終了する。その後、電気出力Pは仮想同期発電機と系統電圧の位相差からなる電力となり同期化力を持つため、仮想同期発電機と系統電圧の位相差は徐々に小さくなり、安定方向に動作する。
【0060】
対して、系統電圧復帰時のインバータINVの出力位相θと系統電圧の位相差が大きく、出力電流抑制が継続する場合、電気出力Pは仮想同期発電機と系統電圧の位相差からなる電力にならず同期化力を持たない。出力電流抑制動作によるインバータINVの出力位相θと系統電圧の位相差からなる電力は、増える場合もあれば減る場合もあり、仮想同期発電機は減速する場合もあれば加速する場合もある。
【0061】
よって、仮想同期発電機の出力振動や脱調を引き起こす可能性がある。従来法で系統電圧復帰時に仮想同期発電機が加速し脱調方向の動作となる一例を図4に示す。系統電圧復帰時のインバータINVの出力位相θと系統電圧位相の関係から有効電力が減少すると、インバータINVの周波数は上昇してしまい系統電圧との周波数差がさらに開いてしまい発散していることが判る。
【0062】
次に、本実施形態1の動作について説明する。
【0063】
系統電圧の瞬時電圧低下中に電流抑制になった場合は、同様に仮想同期発電機の電気出力Pが減少し、機械入力指令値Pを維持している場合は周波数が上昇する。この時、出力電流推定フラグが立っているので、図2のスイッチSW1、SW2はd軸推定出力電流^Iac_d、q軸推定出力電流^Iac_q側に切り替えられている。
【0064】
続いて、系統電圧復帰時にインバータINVの出力位相θと系統電圧の位相差が大きく、出力電流抑制動作が継続する場合、推定出力電流^Iacを使用することで仮想同期発電機と出力電圧Vacとの位相関係から本来得られる電気出力Pが算出される。このとき電気出力Pは実際のインバータINVの出力電力と一致しない。これにより、出力電流抑制動作中にも同期化力が働き、仮想同期発電機を安定方向へ動作させることができる。図4と同様の事象において、本実施形態1で系統電圧復帰時に仮想発電機が安定方向の動作となる様子を図5に示す。系統電圧復帰時のインバータINVの出力位相θと系統電圧位相の関係から有効電力が減少するが、電気出力Peは増加するためインバータINVの周波数は低下し、系統電圧に同期していくことが判る。
【0065】
以上示したように、本実施形態1によれば、電圧制御型の仮想同期発電機制御を行う系統連系電力変換装置において、出力電流の抑制動作中に電流計測値ではなく推定出力電流に基づいた電気出力を算出することで仮想同期発電機の同期化力を働かせ、脱調を抑制することが可能となる。
【0066】
[実施形態2]
図6は本実施形態2における系統連系電力変換装置の全体概略図を示し、図7は本実施形態2の電気出力算出部4を示す。実施形態1とは以下の点が異なる。
【0067】
図6に示すように、本実施形態2ではインピーダンス制御部3と減算器8を省略している。電圧振幅指令生成部2で算出した内部誘起電圧Eがそのまま出力電圧指令値Vac として瞬時電圧制御部6に出力される。
【0068】
また、図6に示すように、電気出力算出部4は、内部誘起電圧Eと系統電圧検出値Vsysと出力電流検出値Iacと出力電圧検出値Vacを入力して電気出力Pを出力する。
【0069】
電気出力算出部4の推定出力電流の算出に、出力電圧検出値Vacと仮想インピーダンスZに代えて、系統電圧検出値Vsysと変圧器インピーダンスZtrを用いる。
【0070】
図7に示すように、本実施形態2では出力電流推定部18でd軸推定出力電流^Iac_d、q軸推定出力電流^Iac_qを算出する。具体的には、減算器19dは、d軸内部誘起電圧Ef_dからd軸系統電圧検出値Vsys_dを減算する。減算器19qは、q軸内部誘起電圧Ef_qからq軸系統電圧検出値Vsys_qを減算する。
【0071】
乗算器20aは減算器19dの出力にrtr/rtr +xtr を乗算する。乗算器20bは減算器19qの出力にxtr/rtr +xtr を乗算する。乗算器20cは減算器19dの出力に-xtr/rtr +xtr を乗算する。乗算器20dは減算器19qの出力にrtr/rtr +xtr を乗算する。
【0072】
加算器21dは乗算器20aの出力と乗算器20bの出力とを加算してd軸推定出力電流^Iac_dとして出力する。加算器21qは乗算器20cの出力と乗算器20dの出力とを加算してq軸推定出力電流^Iac_qとして出力する。以降は実施形態1と同様である。
【0073】
本実施形態2が模擬する仮想同期発電機モデルを図8に示す。本実施形態2は仮想インピーダンスを含まないモデルのため、内部誘起電圧Eがそのまま出力電圧指令Vac になる。
【0074】
本実施形態2では出力電流抑制の際に、実施形態1と同様に電気出力Pの導出に使う出力電流を推定出力電流^Iacに切り替える。ただし、推定出力電流^Iac を系統電圧Vsys=Vsys_d+jVsys_qと系統側の変圧器インピーダンスZtr==rtr+jxtrから(5)式で算出する。
【0075】
【数5】
【0076】
これにより、仮想同期発電機モデルに仮想インピーダンスを持たない電圧制御型の仮想同期発電機制御においても、出力電流抑制中に同期化力を保つことが可能となる。ここではインピーダンスを変圧器のインピーダンスZtrとしたが、インバータ出力から系統側電圧検出点までのインピーダンスの合計値であれば変圧器に限らない。
【0077】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0078】
dc…直流電源
INV…インバータ
LC…LCフィルタ
Tr…トランス
Grid…系統
1…無効電力算出部
2…電圧振幅指令生成部
3…インピーダンス制御部
4…電気出力算出部
5…電圧位相指令生成部
6…瞬時電圧制御部
7…PWM変調部
8…減算器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8