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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020727
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】半割スラスト軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 9/02 20060101AFI20250205BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
F16C9/02
F16C17/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124273
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡野 真治
【テーマコード(参考)】
3J011
3J033
【Fターム(参考)】
3J011AA01
3J011BA09
3J011BA13
3J011CA04
3J011KA03
3J011MA02
3J011MA08
3J011NA01
3J033AA05
3J033AB03
3J033GA02
3J033GA09
(57)【要約】
【課題】内燃機関の運転時に、損傷(疲労)が生じにくい、クランク軸の軸線方向力を受けるための半割スラスト軸受を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、摺動面と背面との間の軸受壁厚が一定である半割スラスト軸受であって、略平坦な中央領域と、中央領域の周方向両側の2つの端部領域とを有し、各端部領域は、半割スラスト軸受の各周方向端部から周方向中央部へ向かって5°以上、35°以下の円周角度に亘って延びる半割スラスト軸受が提供される。基準面が、半割スラスト軸受の軸線方向に垂直であり、中央領域における摺動面と平行であり、且つ摺動面から離れて位置する仮想平面として定義されるとき、摺動面と基準面との間の軸線方向距離は、中央領域において最小であり、また各端部領域では、径方向のいずれの位置においても、中央領域側から周方向端部側に向かって周方向に連続して大きくなっている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるための略半円環形状の半割スラスト軸受(8)であって、
前記半割スラスト軸受は、前記軸線方向力を受ける摺動面(81)と、その反対側の背面(84)とを有し、前記摺動面(81)と前記背面(84)との間の軸受壁厚(T)が一定であり、
前記半割スラスト軸受(8)は、前記半割スラスト軸受(8)の周方向中央部(C)を含む略平坦な中央領域(8C)と、前記中央領域(8C)の周方向両側の2つの端部領域(8E)とを有し、各端部領域(8E)は、前記半割スラスト軸受(8)の各周方向端部(86)から前記周方向中央部(C)へ向かって5°以上、35°以下の円周角度(θ1)に亘って延びており、
基準面(90)が、前記半割スラスト軸受(8)の軸線方向に垂直であり、前記半割スラスト軸受(8)の前記中央領域(8C)における前記摺動面(81)と平行であり、且つ前記半割スラスト軸受(8)の前記摺動面(81)側に、前記摺動面(81)から離れて位置する仮想平面によって定義され、このとき、前記摺動面(81)と前記基準面(90)との間の軸線方向距離(L)は、前記中央領域(8C)において最小(L1)であり、且つ各端部領域(8E)において、径方向のいずれの位置においても、前記中央領域(8C)側から前記周方向端部(86)側に向かって周方向に連続して大きくなっている、半割スラスト軸受。
【請求項2】
前記中央領域(8C)における前記摺動面(81)と前記基準面(90)との間の軸線方向距離(L1)と、前記周方向端部(86)における前記摺動面(81)と前記基準面(90)との間の軸線方向距離(L2)との差が10~60μmである、請求項1に記載の半割スラスト軸受。
【請求項3】
前記摺動面(81)に形成された、前記半割スラスト軸受(8)の前記周方向端部(86)にそれぞれ隣接する2つのスラストリリーフ(82)を有する、請求項1または請求項2に記載の半割スラスト軸受。
【請求項4】
前記摺動面(81)に形成された少なくとも1つの油溝(81a)を有する、請求項1または請求項2に記載の半割スラスト軸受。
【請求項5】
前記油溝(81a)は、前記半割スラスト軸受(8)の径方向に延びる溝部と、前記溝部の一方または両方の周方向端部(81aE)に隣接して形成された、径方向に延びる1つまたは2つの傾斜部とを有し、前記傾斜部は、前記半割スラスト軸受(8)の壁厚が、前記半割スラスト軸受(8)を周方向に切断した断面で見て前記摺動面(81)側から前記溝部側に向かって小さくなるように傾斜している、請求項4に記載の半割スラスト軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるスラスト軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半割軸受を円筒形状に組み合わせて構成される主軸受を介して、内燃機関のシリンダブロック下部に回転自在に支承される。一対の半割軸受のうちの一方または両方が、クランク軸の軸線方向力を受ける半割スラスト軸受と組み合わせて用いられる。半割スラスト軸受は、半割軸受の軸線方向端面の一方または両方に配設される。半割スラスト軸受は、クランク軸に生じる軸線方向力を受けること、すなわち、クラッチによってクランク軸と変速機とが接続される際等にクランク軸に対して入力される軸線方向力を支承することを目的として配置される。
【0003】
一般に半割スラスト軸受の軸線方向力を受ける摺動面およびその反対側の背面は、半割スラスト軸受の軸線方向に垂直な平面と平行になされ、摺動面と背面との間の厚さは一定になされている。また、半割スラスト軸受の周方向両端部近傍の摺動面側には、周方向端部へ向かって軸受部材の厚さが薄くなるようにスラストリリーフが形成される。一般にスラストリリーフは、半割スラスト軸受の周方向端部から摺動面までのスラストリリーフ長さや周方向端部におけるスラストリリーフ深さが、径方向の位置によらずに一定になるように形成される。スラストリリーフは、半割スラスト軸受を分割型軸受ハウジング内に組み付ける際の一対の半割スラスト軸受の端面同士の位置ずれを吸収するために形成される(特許文献1の図10参照)。
【0004】
従来、内燃機関の運転時のクランク軸の撓み変形を考慮して、半割スラスト軸受の摺動面の少なくとも外径側に曲面形状のクラウニング面を設け、それにより半割スラスト軸受の摺動面のクランク軸との局所的な接触応力を低減することが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-201145号公報
【特許文献2】特開2013-19517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、内燃機関の軽量化のためにクランク軸の軸径が小径化され、従来のクランク軸よりも低剛性となってきている。このため、内燃機関の運転時にクランク軸に撓みが発生しやすく、クランク軸の振動が大きくなる傾向にあり、半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面に対するスラストカラー面の傾斜が特に大きくなる。したがって、半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面とクランク軸のスラストカラー面とが局所的に接触し、損傷(疲労)が起きやすくなっている。
【0007】
半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面とクランク軸のスラストカラー面とが接触し、損傷(疲労)が起きやすくなることを防止するために特許文献2に記載されたように摺動面の少なくとも外径側に曲面形状のクラウニング面を設けても、上述のクランク軸の撓みによる振動が大きい場合には、特に半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面がクランク軸のスラストカラーと接触し、損傷(疲労)を防止することは困難である。
【0008】
したがって本発明の目的は、上記問題に対処し、内燃機関の運転時に損傷(疲労)が生じにくい半割スラスト軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるための略半円環形状の半割スラスト軸受が提供され、この半割スラスト軸受は、軸線方向力を受ける摺動面と、その反対側の背面とを有し、摺動面と背面との間の軸受壁厚が一定である。
また半割スラスト軸受は、
半割スラスト軸受の周方向中央部を含む略平坦な中央領域と、
中央領域の周方向両側の2つの端部領域であって、半割スラスト軸受の各周方向端部から周方向中央部へ向かって5°以上、35°以下の円周角度に亘って延びる2つの端部領域と
を有する。
基準面が、半割スラスト軸受の軸線方向に垂直であり、半割スラスト軸受の中央領域における摺動面と平行であり、且つ半割スラスト軸受の摺動面側に、摺動面から離れて位置する仮想平面によって定義され、このとき、摺動面と基準面との間の軸線方向距離は、中央領域において最小であり、且つ各端部領域において、径方向のいずれの位置においても、中央領域側から周方向端部側に向かって周方向に連続して大きくなっている。
【0010】
本発明の一具体例によれば、中央領域における摺動面と基準面との間の軸線方向距離と、周方向端部における摺動面と基準面との間の軸線方向距離との差が10~60μmである。
【0011】
また本発明の一具体例によれば、摺動面に、半割スラスト軸受の周方向両端部にそれぞれ隣接して、2つのスラストリリーフが形成される。
【0012】
さらに、本発明の一具体例によれば、摺動面に少なくとも1つの油溝が形成される。
【0013】
本発明の一具体例によれば、油溝は、半割スラスト軸受の径方向に延びる溝部と、溝部の一方または両方の周方向端部に隣接して形成された、径方向に延びる1つまたは2つの傾斜部とを有し、この傾斜部は、半割スラスト軸受の壁厚が、半割スラスト軸受を摺動面の周方向に切断した断面で見て摺動面側から溝部側に向かって小さくなるように傾斜している。
【発明の効果】
【0014】
本発明の半割スラスト軸受によれば、内燃機関の運転時のクランク軸の撓みに起因して半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面に対するクランク軸のスラストカラー面の傾斜角度が大きくなった場合でも、半割スラスト軸受の周方向両端部付近の摺動面がクランク軸のスラストカラー面と接触するので、半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面のみがクランク軸のスラストカラー面と接触することが防止され、半割スラスト軸受の摺動面の損傷が起きにくい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】軸受装置の分解斜視図である。
図2】半割軸受およびスラスト軸受の正面図である。
図3】軸受装置の断面図である。
図4】従来技術の半割スラスト軸受の正面図である。
図5図4の従来技術の半割スラスト軸受のY2矢視側面図である。
図6】従来技術の半割スラスト軸受の作用を説明するための側面図である。
図7】実施例1の半割スラスト軸受の正面図である。
図8図7の半割スラスト軸受のA-A断面図である。
図9図7の半割スラスト軸受のY1矢視底面図である。
図10】本発明の作用を説明するための実施例1の半割スラスト軸受の断面図である。
図11】本発明の作用を説明するための実施例1の半割スラスト軸受の断面図である。
図12】実施例2の半割スラスト軸受の正面図である。
図13図12の半割スラスト軸受のY3矢視側面図である。
図14】実施例3の半割スラスト軸受の正面図である。
図15図14の半割スラスト軸受のB-B断面図である。
図16】本発明の他の実施形態の半割スラスト軸受の正面図である。
図17図16の半割スラスト軸受の周方向端部付近の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
(軸受装置の全体構成)
まず、図1図3を用いて軸受装置1の全体構成を説明する。図1図3に示すように、シリンダブロック2の下部に軸受キャップ3を取り付けて構成される軸受ハウジング4には、両側面間を貫通する円形孔である軸受孔(保持孔)5が形成されており、側面における軸受孔5の周縁には円環状凹部である受座6、6が形成されている。軸受孔5には、クランク軸のジャーナル部11を回転自在に支承する半割軸受7、7が円筒状に組み合わされて嵌合される。上側(シリンダブロック2側)の半割軸受7の内周面には周方向に延びる潤滑油溝71が形成され、この潤滑油溝71には、半割軸受7の軸受壁に形成された貫通孔72を通して潤滑油が供給される。受座6、6には、クランク軸のスラストカラー面12を介して軸線方向力f(図3参照)を受ける半割スラスト軸受8、8が円環状に組み合わされて嵌合される。
【0018】
(従来技術)
次に、図4図6を用いて、従来の半割スラスト軸受18の問題点を説明する。
図4は、従来の半割スラスト軸受18の正面図を示し、図5は、図4に示す半割スラスト軸受18のY2矢視から見た側面図を示す。従来の半割スラスト軸受18の摺動面181および背面184は、半割スラスト軸受18の軸線方向に垂直な平面であり、摺動面181と背面184との間の軸受壁厚Tは一定である。
【0019】
図6は、内燃機関の運転時のクランク軸の撓みに起因して従来の半割スラスト軸受18の周方向中央部付近の摺動面181に対するクランク軸のスラストカラー面12の傾斜角度が大きくなった状態を示す断面図である(符号183が周方向端面を示す)。従来の半割スラスト軸受18の摺動面181および背面184は、軸線方向に垂直な平面であるため、半割スラスト軸受18の周方向中央部付近の摺動面181に対するクランク軸のスラストカラー面12の傾斜角度が大きくなった場合、半割スラスト軸受18の周方向中央部付近の摺動面181のみがクランク軸のスラストカラー面12と強く接触し、したがって周方向中央部付近の摺動面181に損傷(疲労)が起きやすいという問題があった。
【実施例0020】
(半割スラスト軸受の構成)
次に、図7図11を用いて本発明の実施例1の半割スラスト軸受8の構成について説明する。図7は、半割スラスト軸受8の正面図を示し、図8は、図7に示す半割スラスト軸受のA-A断面図を示し、図9は、図7に示す半割スラスト軸受8のY1矢視の底面図を示す。本実施例の半割スラスト軸受8は、鋼製の裏金層に薄い軸受合金層を接着したバイメタルによって、略半円環形状に形成される(半割スラスト軸受8は後述の通り図7の紙面垂直方向に湾曲しているため「略」半円環形状と称される)。半割スラスト軸受8は、軸線方向を向いた摺動面81を備え、摺動面81は軸受合金層から構成される。半割スラスト軸受8は、摺動面81の反対側に背面84を備える。
【0021】
摺動面81は、潤滑油の保油性を高めるために油溝81aを有してもよい。図7および図2には、2つの油溝81a、81aが示されているが、本実施例とは異なり、摺動面81には、油溝81aが1つ、または3つ以上形成されてもよい。ただし、油溝81aが形成されている場合、油溝81aの部分における「摺動面81」は、油溝81aが存在しないと仮定した場合の仮想面となる。
【0022】
半割スラスト軸受8は、半割スラスト軸受8の周方向中央部Cを含む中央領域8Cと、半割スラスト軸受8の各周方向端部86から周方向中央部Cへ向かって5°以上、35°以下の円周角度θ1(周方向長さ)に亘ってそれぞれ延びる2つの端部領域8Eとを有する。なお、本実施例では、端部領域8Eの円周角度θ1は、径方向内側端部8iおよび径方向外側端部8oの間で一定であるが、これに限定されないで、端部領域8Eの円周角度θ1は径方向内側端部8iおよび径方向外側端部8oの間で変化し、一定でなくてもよい(実施例2参照)。
【0023】
中央領域8Cにおける摺動面81は、略平坦(略平面形状)となっている。2つの端部領域8Eにおける摺動面81はいずれも、半割スラスト軸受8の周方向において全体として背面側84側から摺動面81側へ向かって凸状に湾曲している。ここで、「湾曲している」とは、図8に示すように各端部領域8Eにおける摺動面81が全体として1つの曲面となるように湾曲していればよく、曲面の曲率が周方向において変化してもよい(他の実施例においても同様である)。この場合においても、背面84は摺動面81と平行になされている。すなわち、摺動面81と背面84との間の摺動面81に垂直方向の軸受壁厚Tは一定であるので、中央領域8Cおよび端部領域8Eにおける背面84は、摺動面と対応する形状になる。なお、軸受壁厚Tは、例えば加工精度に起因して、僅かに変位(15μm以下)していてもよい。
【0024】
半割スラスト軸受8の軸線方向に垂直な平面としての基準面90を以下の通り定義する。すなわち、基準面90は、半割スラスト軸受8の摺動面81が基準面90と対向するように摺動面81から離れて位置する仮想平面であって、半割スラスト軸受8の中央領域8Cの摺動面81が基準面90と平行となる仮想平面として定義される。
ここで、軸線方向は基準面90と垂直な方向であり、軸線は、半割スラスト軸受8の円中心を通り軸線方向に延びる仮想線であり、軸線方向距離とは、2つの対象物の軸線方向における離間距離である。
【0025】
基準面90をこのように定義したとき、摺動面81と基準面90との間の軸線方向距離Lは、中央領域8Cにおいて最小(L1)且つ一定であり、各端部領域8Eにおいては、径方向のいずれの位置においても、中央領域8Cと隣接する縁部の位置8Xから摺動面81の周方向端部86側に向かって(周方向に)連続して大きく(最大L2)なっている(図8図9参照)。この時、半割スラスト軸受8の背面84と基準面90との間の軸線方向距離も同様に、径方向のいずれの位置においても中央領域8Cにおいて最小であり、各端部領域8Eにおいては、径方向のいずれの位置においても、中央領域8Cと隣接する縁部の位置8Xから背面84の周方向端部側に向かって(周方向に)連続して大きくなっている。摺動面81と背面84は平行であるため、背面84についても同様の関係が成り立つことは言うまでもない。
【0026】
具体的には、乗用車用等の小型内燃機関のクランク軸(直径が30~100mm程度のジャーナル部を有する)に使用する場合、半割スラスト軸受8の中央領域8Cにおける摺動面81と基準面90との間の軸線方向距離L1と周方向端部86における摺動面81と基準面90との間の軸線方向距離L2の差L3(L3=L2-L1)は、例えば5~100μmであり、より好適には10~60μmである。この軸線方向距離の差L3が5μm未満であると、半割スラスト軸受8の周方向中央部C付近の摺動面81に対するクランク軸のスラストカラー面12の傾斜角度が大きくなった時に、周方向端部86付近の摺動面81がクランク軸のスラストカラー面12と接触しなくなり、半割スラスト軸受8の周方向中央部C付近の摺動面81のみがスラストカラー面12と接触しやすくなる。また、この軸線方向距離の差L3が100μmを超えると、半割スラスト軸受8の周方向中央部C付近の摺動面81に対するクランク軸のスラストカラー面12の傾斜角度が大きくなった時に、周方向端部86付近の摺動面81に加わる負荷が大きくなり過ぎて損傷することがある。しかし、これらの寸法は上記使用例における一例に過ぎず、軸線方向距離の差L3は上記寸法範囲に限定されない。
【0027】
本実施例の半割スラスト軸受8においては、中央領域8Cにおける摺動面(およびそれに対応する背面84)は、全体が基準面90と平行(すなわち平坦)になっている。しかし、これに限定されないで、中央領域8Cにおける摺動面81および背面84は、例えば加工精度に起因して、径方向に切断した断面で見て背面84側から摺動面81側へ向かって僅かに突出した湾曲形状(高低差が15μm以下の1つの凸形状)、または摺動面81側から背面84側へ向かって僅かに突出した湾曲形状(高低差が15μm以下の1つの凸形状)を有してもよく、あるいはその他の曲線形状を有していてもよい。中央領域8Cにおける摺動面81が径方向で湾曲している場合、半割スラスト8は、中央領域8Cの径方向外側端部8oにおける摺動面81と基準面90との間の軸線方向距離L1と中央領域8Cの径方向内側端部8iにおける摺動面81と基準面90との間の軸線方向距離L1が同じとなるように配置された状態が、「中央領域8Cにおける摺動面81の径方向中心線CLが基準面90と平行」である状態に相当する。この配置状態での中央領域8Cの摺動面81の径方向内側端部8iおよび径方向外側端部8oでの軸線方向距離L1が、「中央領域8Cにおける摺動面81と基準面90との間の軸線方向距離L1」として定義される。
【0028】
また、本実施例の半割スラスト軸受8は、周方向端部86において、端部領域8Eの摺動面81(すなわち周方向端縁)が基準面90と平行になっている。しかし、これに限定されないで、周方向端部86における摺動面81(周方向端縁)は、例えば加工精度に起因して、基準面90に対して僅かに傾斜(基準面90に対する距離の差が15μm以下)してもよい。周方向端部86における摺動面81(周方向端縁)が基準面90に対して傾斜している場合、軸線方向距離L2は、周方向端部86における摺動面81(周方向端縁)において基準面90からの軸線方向距離Lが最大となる位置での軸線方向距離として定義される。
【0029】
半割スラスト軸受8は、背面84がシリンダブロック2の受座6に対向するように配置され、摺動面81は、クランク軸のスラストカラー面12を介して軸線方向力f(図3参照)を受けるようになっている。
図10は、半割スラスト軸受8の周方向中央Cの中央領域8Cの背面84と、各周方向端部86の端部領域8Eの背面84とがシリンダブロック2の受座6に対向するように配置された時の半割スラスト軸受8の断面図である。断面図に示されるように、半割スラスト軸受8の背面84と受座6との間には軸線方向の隙間S2が形成されており、この隙間S2は、中央領域8Cでは、周方向中央Cの受座6と接する位置から中央領域8Cと端部領域8Eが隣接する位置(中央領域8Cと端部領域8Eの境界)8Xへ向かって連続して大きくなり、端部領域8Eでは、各周方向端部86付近の受座6と接する位置から中央領域8Cと端部領域8Eとが隣接する位置(中央領域8Cと端部領域8Eの境界)8Xへ向かって連続して大きくなっている。また、半割スラスト軸受8の中央領域8Cにおける摺動面81では、摺動面81が向いている方向への軸線方向変位量が半割スラスト軸受8の周方向中央Cにおいて最小で、中央領域8Cと端部領域8Eとが隣接する位置(中央領域8Cと端部領域8Eの境界)8Xへ向かって連続して大きくなり、半割スラスト軸受8の端部領域8Eにおける摺動面81では、摺動面81が向いている方向への軸線方向変位量が半割スラスト軸受8の周方向端部86において最小で、中央領域8Cと端部領域8Eとが隣接する位置(中央領域8Cと端部領域の境界)8Xへ向かって連続して大きくなっている。
【0030】
(作用)
次に、図11を用いて本実施例の半割スラスト軸受8の作用を説明する。
図11は、内燃機関の運転時のクランク軸の撓みに起因して半割スラスト軸受8の周方向中央部C付近の摺動面81に対するクランク軸のスラストカラー面12の傾斜角度が大きくなった状態を示す。半割スラスト軸受8の中央領域8Cにおける摺動面81は、摺動面81が向いている方向(スラストカラー面12側)への軸線方向変位量が中央領域8Cと端部領域8Eとが隣接する位置(中央領域8Cと端部領域8Eの境界)8Xへ向かって連続して大きくなっている。このため、半割スラスト軸受8の周方向中央部C付近の摺動面81に対するクランク軸のスラストカラー面12の傾斜角度が大きくなった場合でも、中央領域8Cにおける摺動面81の全体、および端部領域8Eにおける中央領域8Cと隣接する区域の摺動面81がクランク軸のスラストカラー面12と接触するので、半割スラスト軸受8の周方向中央部C付近の摺動面81のみがクランク軸のスラストカラー面と接触することが防止される。
また、上述したように、本実施例では、半割スラスト軸受8の背面84と受座6との間には軸線方向の隙間S2であって、中央領域8Cでは周方向中央Cの受座6と接する位置から中央領域8Cと端部領域8Eがと隣接する位置(中央領域8Cと端部領域8Eの境界)8Xへ向かって連続して大きくなり、端部領域8Eでは、各周方向端部86付近の受座6と接する位置から中央領域8Cと端部領域8Eとがと隣接する位置(中央領域8Cと端部領域8Eの境界)8Xへ向かって連続して大きくなっている隙間S2が形成されている。中央領域8Cと端部領域8Eとが隣接する位置(中央領域8Cと端部領域8Eの境界)8X付近の摺動面81がクランク軸のスラストカラー面12と接触すると、半割スラスト軸受8の中央領域8Cと端部領域8Eとがと隣接する位置(中央領域8Cと端部領域8Eの境界)8X付近では、半割スラスト軸受8が隙間S2側へ向かって弾性変形し、摺動面81の軸線方向変位量が小さくなる。このため、中央領域8Cと端部領域8Eとがと隣接する位置(中央領域8Cと端部領域8Eの境界)8X付近の摺動面81のみがクランク軸のスラストカラー面12と接触することも防止される。したがって本発明の半割スラスト軸受8は、摺動面81全体に亘って損傷が起きにくい。
【実施例0031】
図12図13を用いて、実施例1とは別の形態の半割スラスト軸受8について説明する。なお、実施例1で説明した内容と同一または類似の部分の説明については同一の符号を付して説明する。
【0032】
図12は、実施例2の半割スラスト軸受8の摺動面81側を見た正面図を示し、図13は、図12の半割スラスト軸受8のY3矢視側面図を示す。
【0033】
(構成)
まず、構成について説明する。本実施例の半割スラスト軸受8の構成は、端部領域8Eの構成およびスラストリリーフ82、82の構成を除いて実施例1と概ね同様である。
【0034】
本実施例の半割スラスト軸受8の各端部領域8Eの円周角度θ1(周方向長さ)は、径方向内側端部8iおよび径方向外側端部8oの間で変化している。それにより各端部領域8Eにおいては、中央領域8Cと隣接する位置8Xは半割スラスト軸受8の周方向両端面83を通る平面(スラスト軸受分割平面HP)と平行となっている。
【0035】
また本実施例の半割スラスト軸受8は、周方向両側の端面83、83に隣接する領域にスラストリリーフ82、82を備えている。
【0036】
スラストリリーフ82は、周方向両端面83、83に隣接する摺動面81側の領域に、半割スラスト軸受8の軸受壁厚Tが端面に向かって徐々に薄くなるように形成される壁厚減少領域であり、半割スラスト軸受8の周方向端面83の径方向全長に亘って延びている。スラストリリーフ82は、半割スラスト軸受8を分割型の軸受ハウジング4内に組み付けた際の位置ずれ等に起因する、一対の半割スラスト軸受8、8の周方向端面83、83同士の位置ずれを緩和するために形成される。
【0037】
この場合において、摺動面81は、油溝81aおよびスラストリリーフ82の部分には、それらが存在しないと仮定した場合の仮想面を含むものと定義される。したがって中央領域8Cにおける摺動面81は略平坦であり、また端部領域8Eにおける摺動面81は、半割スラスト軸受8の周方向で全体が背面84側から摺動面81側へ向かって突出した1つの凸形状の曲面となるように湾曲している(図13)。
【0038】
図12に示すように、スラストリリーフ82は、半割スラスト軸受8の径方向内側端部8iと径方向外側端部8oの間で一定のスラストリリーフ長さL5を有している。
乗用車用等の小型内燃機関のクランク軸(ジャーナル部の直径が30~100mm程度)に使用する場合、半割スラスト軸受8の周方向端面83からのスラストリリーフ長さL5は、3~25mmになされる。
【0039】
ここで、スラストリリーフ長さL5とは、半割スラスト軸受8の周方向両端面83を通る平面(スラスト軸受分割平面HP)から垂直方向に測った長さとして定義される。特に、径方向内側端部8iにおけるスラストリリーフ長さL5は、半割スラスト軸受8の周方向端面83から、スラストリリーフ表面82が摺動面81と交わる点までの垂直方向の長さとして定義される。
【0040】
また半割スラスト軸受8のスラストリリーフ82は、周方向端面83において、半割スラスト軸受8の径方向内側端部8iと径方向外側端部8oとの間で一定の深さRD1を有するように形成できる。このスラストリリーフ82の深さRD1は、0.1~1mmにすることができる(図13)。
【0041】
ここで、スラストリリーフ82の深さとは、半割スラスト軸受8の摺動面81からスラストリリーフ82の表面までの摺動面81に垂直な方向の距離を意味する。換言すれば、深さは、摺動面81をスラストリリーフ82上まで延長した仮想摺動面からスラストリリーフ82の表面まで垂直に測った距離である。したがって周方向端面83におけるスラストリリーフ82の深さRD1とは、特に、半割スラスト軸受8の周方向端面83におけるスラストリリーフ82の表面から仮想摺動面までの深さとして定義される。
【0042】
しかし、これらのスラストリリーフ長さL5の寸法およびスラストリリーフ82の深さRD1の寸法は一例に過ぎず、上記寸法範囲に限定されない。また、スラストリリーフ長さL5の寸法およびスラストリリーフ82の深さRD1の寸法は、半割スラスト軸受8の径方向内側端部8iと径方向外側端部8oとの間で変化するように形成してもよい。なお、本実施例では、スラストリリーフ82は、端部領域8E内に形成されているが、スラストリリーフ82は、端部領域8Eに隣接する付近の中央領域8Cを含むように形成されていてもよい。
【0043】
上記の通り、スラストリリーフ82を形成した場合、軸線方向距離L2は、スラストリリーフ82を形成しなかった場合の周方向端部86における仮想摺動面と基準面90との間の軸線方向距離として定義される。
【実施例0044】
図14図15を用いて、実施例1とは別の実施形態の半割スラスト軸受8について説明する。なお、実施例1で説明した内容と同一または類似の部分の説明については同一の符号を付して説明する。
【0045】
図14は、実施例3の半割スラスト軸受8の摺動面81側を見た正面図を示し、図15は、図14の半割スラスト軸受8のB-B断面図を示す。
【0046】
(構成)
まず、構成について説明する。本実施例の半割スラスト軸受8の構成は、油溝81aの構成、および傾斜面85F、85Rの構成を除いて実施例1と概ね同様である。
【0047】
この実施例でも、摺動面81(油溝81aおよび傾斜面85F、85Rの部分における、それらが存在しないと仮定した場合の仮想面を含む)は、中央領域8Cでは略平坦となっており、端部領域8Eでは、半割スラスト軸受8の周方向において全体が背面84側から摺動面81側へ向かって凸状の1つの曲面となるように湾曲している。
【0048】
傾斜面85F、85Rの構成の理解を容易にするため、図15において摺動面81および背面84は、半割スラスト軸受8の軸線方向に垂直な平面と平行に描かれている。本実施例の半割スラスト軸受8は、摺動面81側に(半割スラスト軸受の中心から)放射状に延びる4個の油溝81aを備えている。
【0049】
半割スラスト軸受8はさらに、摺動面81側に、油溝81aの周方向端部81aE、81aEに隣接して傾斜面85F、85Rを備えている。傾斜面85F、85Rは、半割スラスト軸受8の壁厚Tが摺動面81から油溝81aの周方向端部81aE、81aEに向かって徐々に薄くなり、油溝81aの周方向端部81aEにおいて最小の厚さT1となるように形成される壁厚減少領域であり、半割スラスト軸受8の径方向全長に亘って延びている。傾斜面85F、85Rは、内燃機関の運転時に傾斜面85F、85Rとスラストカラー面12のとの間の隙間を流れる油の圧力を高めて、半割スラスト軸受8の負荷能力を高めるために形成される。
【0050】
摺動面81からから、油溝81aの周方向端部81aEと隣接する位置における傾斜面85F、85Rまでの、摺動面81に垂直方向の長さとして定義される傾斜面の深さD0は、5~80μmとすることができる。各傾斜面85F、85Rの半割スラスト軸受8の周方向に平行な長さ(周方向長さ)は、円周角度5°~25°に相当する長さすることができる。しかし、これらの傾斜面の深さD0の寸法および傾斜面の長さの寸法は一例に過ぎず、上記寸法範囲に限定されない。
【0051】
なお、本実施例に限定されないで、油溝81aのスラストカラー面12の回転方向X(図14のX矢印方向)の前方側の周方向端部81aEに隣接する傾斜面85Fのみを形成し、油溝81aのクランク軸(スラストカラー面12)の回転方向Xの後方側の周方向端部81aEに隣接する傾斜面85Rは形成しなくてもよい。
【0052】
また、端部領域8Eにおける摺動面81の周方向端部86を含む位置に油溝81aが形成される場合には、軸線方向距離L2は、周方向端部86における油溝81aを形成しなかった場合の仮想摺動面と基準面90との間の軸線方向距離として定義される。
【0053】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更が本発明に含まれることを理解すべきである。
【0054】
例えば実施例では、半割軸受と半割スラスト軸受が分離しているタイプの軸受装置1について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、半割軸受と半割スラスト軸受が一体化したタイプの軸受装置1にも適用できる。
【0055】
また図16に示すように、半割スラスト軸受は、位置決めおよび回転止めのために、径方向外側に突出する突出部88を備えていてもよい。なお、突出部88は、上述した軸線方向距離L1、L2および軸受壁厚Tの構成を満足していなくてもよい。
また図16および図17に示すように、半割スラスト軸受の周方向長さは、実施例1に示す半割スラスト軸受8の周方向端面の位置(スラスト軸受分割平面HP)から所定の長さS1だけ短く形成されてもよい。さらに、半割スラスト軸受は、周方向両端部近傍において内周面を半径Rの円弧状に切り欠かれてもよい。また、半割スラスト軸受の背面84と、周方向端面83に隣接する領域に背面リリーフ82Bを形成することもできる。
【0056】
また、半割スラスト軸受の摺動面の径方向外側の縁部および/または径方向内側の縁部に、周方向に沿って面取りを形成するもこともできる。その場合、半割スラスト軸受の軸受壁厚Tは、面取りを形成しなかった場合の軸受壁厚によって表すことができる。
【0057】
また上記実施例は、軸受装置に半割スラスト軸受を4つ使用する場合について説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくとも1つの本発明による半割スラスト軸受を使用することで所望の効果を得ることができる。また軸受装置において、本発明の半割スラスト軸受は、クランク軸を回転自在に支承する半割軸受の軸線方向の一方または両方の端面に一体に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 軸受装置
11 ジャーナル部
12 スラストカラー面
2 シリンダブロック
3 軸受キャップ
4 軸受ハウジング
5 軸受孔(保持孔)
6 受座
7 半割軸受
71 潤滑油溝
72 貫通孔
8 半割スラスト軸受
8C 中央領域
8E 端部領域
8X 隣接する位置
81 摺動面
81a 油溝
82 スラストリリーフ
82B 背面リリーフ
83 周方向端面
84 背面
85F 傾斜面
85R 傾斜面
86 周方向端部
88 突出部
90 基準面
C 周方向中央部
HP スラスト軸受分割平面
L1 軸線方向距離
L2 軸線方向距離
L3 軸線方向距離の差
L4 軸線方向距離
L5 スラストリリーフ長さ
RD1 スラストリリーフの深さ
T 軸受壁厚
T1 軸受壁厚
X 回転方向
θ1 円周角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17