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  • 特開-燃料電池用の積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020751
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】燃料電池用の積層体
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/028 20160101AFI20250205BHJP
   H01M 8/0284 20160101ALI20250205BHJP
   H01M 8/021 20160101ALI20250205BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20250205BHJP
   C09J 183/06 20060101ALI20250205BHJP
   C09J 183/07 20060101ALI20250205BHJP
   C09J 183/08 20060101ALI20250205BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20250205BHJP
【FI】
H01M8/028
H01M8/0284
H01M8/021
C09K3/10 Z
C09J183/06
C09J183/07
C09J183/08
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124324
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】今井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 健次
(72)【発明者】
【氏名】奥田 博文
【テーマコード(参考)】
4H017
4J040
5H126
【Fターム(参考)】
4H017AA03
4H017AB07
4H017AC14
4H017AD01
4H017AE05
4J040EK061
4J040EK081
4J040HD41
4J040JA13
4J040MA02
4J040MA12
4J040NA19
4J040PA30
5H126AA12
5H126AA13
5H126BB06
5H126DD04
5H126DD05
5H126DD14
5H126FF07
5H126GG08
5H126GG18
5H126JJ05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高温かつ長期間の条件下においても、耐酸接着性に優れる燃料電池用の積層体を提供する。
【解決手段】基材であるセパレータ5と、シール部材であるリップ4bとが接着剤層6を介して接着されてなる積層体であって、リップ4bが下記の(A)成分を含有するゴム組成物からなり、上記接着剤層6が下記の(α)成分および(β)成分を含有する接着剤からなる。
(A)エチレン-プロピレン-ジエンゴムおよびエチレン-ブテン-ジエンゴムの少なくとも一方からなるゴム成分。
(α)特定の親水性官能基および疎水性官能基を特定の割合で有する、共重合オリゴマータイプのシランカップリング剤。
(β)有機チタネート化合物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材とシール部材とが接着剤層を介して接着されてなる燃料電池用の積層体であって、
上記シール部材が下記の(A)成分を含有するゴム組成物からなり、
上記接着剤層が下記の(α)成分および(β)成分を含有する接着剤からなる、
燃料電池用の積層体。
(A)エチレン-プロピレン-ジエンゴムおよびエチレン-ブテン-ジエンゴムの少なくとも一方。
(α)親水性官能基および疎水性官能基を有する共重合オリゴマータイプのシランカップリング剤であって、上記親水性官能基が下記(a)であり、上記疎水性官能基が下記(b)であり、その分子1モル中に含まれる疎水性官能基の物質量Mb(モル)に対する親水性官能基の物質量Ma(モル)のモル比(Ma/Mb)が0.33~3.00であるシランカップリング剤。
(a)シラノール基、アルコキシ基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、ウレイド基、カルボキシ基、およびヒドロキシ基からなる群より選ばれた少なくとも一つであり、少なくともシラノール基またはアルコキシ基を含む。
(b)ビニル基、(メタ)アクリロイル基、マレイミド基、メチル基、エチル基、スチリル基、フェニル基、およびメルカプト基からなる群より選ばれた少なくとも一つ。
(β)有機チタネート化合物。
【請求項2】
上記接着剤における(β)成分が、チタンアルコキシドおよびチタンキレートの少なくとも一方である、請求項1記載の燃料電池用の積層体。
【請求項3】
上記接着剤における(β)成分の配合量が、上記(α)成分100質量部に対して0.5~200質量部である、請求項1または2記載の燃料電池用の積層体。
【請求項4】
上記基材が、オーステナイト系ステンレスからなる基材である、請求項1または2記載の燃料電池用の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材とシール部材とが接着剤層を介して接着されてなる燃料電池用の積層体に関し、詳しくは、金属製のセパレータ等の燃料電池用基材と、ゴム製のシール部材とが、接着剤層を介して接着されてなる燃料電池シール用の積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスの電気化学反応により電気を発生させる燃料電池は、発電効率が高く、排出されるガスがクリーンで環境に対する影響が極めて少ない。なかでも固体高分子型燃料電池は、比較的低温で作動させることができ、大きな出力密度を有する。このため、発電用、自動車用電源等、種々の用途が期待される。
【0003】
固体高分子型燃料電池においては、膜電極接合体(MEA)等をセパレータ(金属等からなるセパレータ)で挟持したセルが発電単位となる。MEAは、電解質となる高分子膜(電解質膜)と、電解質膜の厚み方向両面に配置された一対の電極触媒層〔燃料極(アノード)触媒層、酸素極(カソード)触媒層〕とからなる。一対の電極触媒層の表面には、さらにガスを拡散させるための多孔質層(ガス拡散層)が配置される。燃料極側には水素等の燃料ガスが、酸素極側には酸素や空気等の酸化剤ガスがそれぞれ供給される。供給されたガスと電解質と電極触媒層との三相界面における電気化学反応により、発電が行われる。固体高分子型燃料電池は、上記セルを多数積層したセル積層体を、セル積層方向の両端に配置したエンドプレート等により締め付けて構成される。
【0004】
上記セパレータには、各々の電極に供給されるガスの流路や、発電の際の発熱を緩和するための冷媒の流路が形成される。また、上記電解質膜は、水を含んだ状態でプロトン導電性を有するため、作動時には、電解質膜を湿潤状態に保つ必要がある。したがって、ガスの混合、ガスおよび冷媒の漏れを防止するとともに、セル内を湿潤状態に保持するためには、MEAおよび多孔質層の周囲や、隣り合う上記セパレータ間のシール性を確保することが重要となり、そのために、上記の各箇所をシールするためのシール部材(ガスケット)が必要となる。
【0005】
上記シール部材は、発電によって生じる水にも晒されるが、この水には、電解質膜から溶出したスルホン酸等が含まれるため、上記セパレータに対するシール部材の接着性においては、耐酸接着性が求められている。
【0006】
本出願人は、耐酸接着性を高める観点から、セパレータとシール部材とが、特定の接着剤からなる接着層を介して接着されてなる燃料電池用の積層体を既に提案している(特許文献1)。かかる燃料電池用の積層体は、特定の親水性官能基と特定の疎水性官能基を有する共重合オリゴマータイプであって、その分子1モル中に含まれる疎水性官能基の物質量Mb(モル)に対する親水性官能基の物質量Ma(モル)のモル比(Ma/Mb)を特定範囲にしたシランカップリング剤を含有する接着剤を用いることにより、良好な耐酸接着性を発揮するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2022/208926号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の燃料電池用の積層体は、良好な耐酸接着性を示すものではあるが、近年、発電効率化のため発電温度が上昇する傾向があり、より過酷な条件下においても良好な接着性が得られるよう、基材とシール部材間の耐酸接着性を向上させるための新たな技術開発が求められる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、優れた耐酸接着性を示す、燃料電池用の積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、基材と、特定のゴム組成物からなるシール部材とを接着するための接着剤として、特定のシランカップリング剤と有機チタネート化合物とを併用した接着剤を用いることにより、基材とシール部材間における耐酸接着性を高めることができ、高温かつ長期間の条件下においても、優れた耐酸接着性を示すことを突き止めた。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を、その要旨とする。
[1] 基材とシール部材とが接着剤層を介して接着されてなる燃料電池用の積層体であって、上記シール部材が下記の(A)成分を含有するゴム組成物からなり、上記接着剤層が下記の(α)成分および(β)成分を含有する接着剤からなる、燃料電池用の積層体。
(A)エチレン-プロピレン-ジエンゴムおよびエチレン-ブテン-ジエンゴムの少なくとも一方。
(α)親水性官能基および疎水性官能基を有する共重合オリゴマータイプのシランカップリング剤であって、上記親水性官能基が下記(a)であり、上記疎水性官能基が下記(b)であり、その分子1モル中に含まれる疎水性官能基の物質量Mb(モル)に対する親水性官能基の物質量Ma(モル)のモル比(Ma/Mb)が0.33~3.00であるシランカップリング剤。
(a)シラノール基、アルコキシ基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、ウレイド基、カルボキシ基、およびヒドロキシ基からなる群より選ばれた少なくとも一つであり、少なくともシラノール基またはアルコキシ基を含む。
(b)ビニル基、(メタ)アクリロイル基、マレイミド基、メチル基、エチル基、スチリル基、フェニル基、およびメルカプト基からなる群より選ばれた少なくとも一つ。
(β)有機チタネート化合物。
[2] 上記接着剤における(β)成分が、チタンアルコキシドおよびチタンキレートの少なくとも一方である、[1]記載の燃料電池用の積層体。
[3] 上記接着剤における(β)成分の配合量が、上記(α)成分100質量部に対して0.5~200質量部である、[1]または[2]記載の燃料電池用の積層体。
[4]上記基材が、オーステナイト系ステンレスからなる基材である、[1]~[3]のいずれかに記載の燃料電池用の積層体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた耐酸接着性を示す燃料電池用の積層体を提供できる。
とりわけ、高温かつ長期間の条件下における耐酸接着性に優れる燃料電池用の積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る燃料電池用の積層体の一例を示す断面図である。
図2】本発明に係る燃料電池用の積層体を用いた燃料電池シール体の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
なお、本明細書において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基あるいはメタクリロイル基を意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレートあるいはメタクリレートを意味する。
【0015】
本発明の一実施形態に係る燃料電池用の積層体(以下、「本燃料電池用積層体」という場合がある)は、基材とシール部材とが接着剤層を介して接着されてなる燃料電池用の積層体であり、上記シール部材が下記の(A)成分を含有するゴム組成物(以下、「本ゴム組成物」という場合がある)からなり、上記接着剤層が下記の(α)成分および(β)成分を含有する接着剤からなることを特徴とする。
(A)エチレン-プロピレン-ジエンゴムおよびエチレン-ブテン-ジエンゴムの少なくとも一方。
(α)親水性官能基および疎水性官能基を有する共重合オリゴマータイプのシランカップリング剤であって、上記親水性官能基が下記(a)であり、上記疎水性官能基が下記(b)であり、その分子1モル中に含まれる疎水性官能基の物質量Mb(モル)に対する親水性官能基の物質量Ma(モル)のモル比(Ma/Mb)が0.33~3.00であるシランカップリング剤。
(a)シラノール基、アルコキシ基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、ウレイド基、カルボキシ基、およびヒドロキシ基からなる群から選ばれた少なくとも一つであり、少なくともシラノール基またはアルコキシ基を含む。
(b)ビニル基、(メタ)アクリロイル基、マレイミド基、メチル基、エチル基、スチリル基、フェニル基、およびメルカプト基からなる群から選ばれた少なくとも一つ。
(β)有機チタネート化合物。
【0016】
前述の従来技術である特許文献1の燃料電池用の積層体は、例えば、90℃の硫酸水溶液(pH=3.0)に、168時間または336時間浸漬した後においては、良好な耐酸接着性を示すものであったが、場合によっては、例えば、より高温となる環境下や、より長期間等の過酷な条件等によっては、耐酸接着性について改善の余地がある。例えば、特許文献1の燃料電池用の積層体は、より過酷な条件である120℃の硫酸水溶液(pH=3.0)に、336時間浸漬した後においては、耐酸接着性について改善の余地がある。
【0017】
本燃料電池用積層体によれば、より高温環境下や長期間等の過酷な条件下においても、良好な耐酸接着性を維持することができる。例えば、本燃料電池用積層体によれば、高温下である120℃の硫酸水溶液(pH=3.0)に、長期間である336時間浸漬した後においても、良好な耐酸接着性を示すため、従来技術に比して接着信頼性をさらに高めることができる。
【0018】
また、本燃料電池用積層体は、驚くべきことに、例えば、120℃の硫酸水溶液(pH=3.0)に、さらに長い期間である672時間浸漬した後においても、良好な耐酸接着性を示すため、従来技術に比して接着信頼性を飛躍的に高めることができる。
とりわけ、本燃料電池用積層体の接着剤層に配合する有機チタネート化合物(β)として、例えばチタンアルコキシドを用いる場合には、例えば、120℃の硫酸水溶液(pH=3.0)に、さらに長い期間である840時間浸漬した後においても、良好な耐酸接着性を示すため、特に有用性が高い。
以下、本燃料電池用の積層体を構成する、シール部材、接着剤層、基材について説明する。
【0019】
<シール部材>
まず、シール部材形成用の本ゴム組成物の各材料について説明する。
【0020】
《ゴム成分(A)》
ゴム成分(A)としては、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)およびエチレン-ブテン-ジエンゴム(EBT)の少なくとも一方が用いられる。シール材の耐酸接着性、とりわけ高温かつ長期間の条件下における耐酸接着性をより一層向上させる観点や、シール性の観点からは、上記ゴム成分(A)としては、EBTを用いることが好ましい。
【0021】
EPDMおよびEBTのジエン量(ジエン成分の質量割合)は、例えば、3.0~15質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは3.5~14.5質量%の範囲である。
【0022】
EPDMおよびEBTのジエン成分としては、例えば、炭素数5~20のジエン系モノマーが好ましく、具体的には、1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、2,5-ジメチル-1,5-ヘキサジエン、1,4-オクタジエン、1,4-シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン(DCP)、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)、5-ビニル-2-ノルボルネン(VNB)、5-ブチリデン-2-ノルボルネン、2-メタリル-5-ノルボルネン、2-イソプロペニル-5-ノルボルネン等が挙げられる。
【0023】
EPDMのエチレン量(エチレン成分の質量割合)は、例えば、35~50質量%の範囲が好ましく、より好ましくは40~50質量%の範囲である。また、プロピレン量(プロピレン成分の質量割合)は、例えば、42~55質量%の範囲が好ましく、より好ましくは44~50質量%の範囲である。
【0024】
EBTのエチレン量(エチレン成分の質量割合)は、例えば、35~55質量%の範囲が好ましく、より好ましくは40~53質量%の範囲である。また、ブテン量(ブテン成分の質量割合)は、例えば、35~55質量%の範囲が好ましく、より好ましくは38~50質量%の範囲である。
【0025】
ゴム成分(A)は、本ゴム組成物の主たる成分であって、通常、本ゴム組成物全体に対して40質量%以上を占める。ゴム成分(A)の配合量は、本ゴム組成物全体に対して、例えば、40~80質量%の範囲が好ましく、より好ましくは45~75質量%の範囲である。
【0026】
本ゴム組成物には、ゴム成分(A)以外に、可塑剤、フィラー、架橋剤(有機過酸化物等)、架橋助剤、老化防止剤等の、通常のゴム組成物に用いられる各種添加剤を配合することができる。
【0027】
《可塑剤》
可塑剤としては、例えば、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、ワセリン等の石油系可塑剤、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油等の脂肪油系可塑剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリン等のワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0028】
可塑剤の配合量は、ゴム成分(A)100質量部に対して、通常60質量部以下であり、5~50質量部の範囲が好ましく、8~40質量部の範囲がより好ましい。可塑剤の配合量は、ゴム成分(A)100質量部に対して、10~30質量部の範囲、10~25質量部の範囲であってもよい。
【0029】
可塑剤のなかでも、流動点が-30℃以下の可塑剤が好ましく、流動点が-40℃以下の可塑剤がより好ましい。このような可塑剤としては、例えば、ポリ-α-オレフィン、ジオクチルフタレート(DOP)、ジオクチルアジペート(DOA)、ジオクチルセバケート(DOS)、ジブチルセバケート(DBS)等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、ゴム成分(A)との相溶性が良好で、ブリードしにくいという観点から、ポリ-α-オレフィンが好ましい。ポリ-α-オレフィンは、炭素数6~16のα-オレフィンを重合させたものである。ポリ-α-オレフィンにおいては、分子量が小さいほど、粘度が小さく流動点も低い。
【0030】
上記のように、流動点が低い可塑剤ほど、極低温下において硬化しにくい。したがって、流動点が低い可塑剤ほど、極低温下におけるゴム成分の結晶化抑制効果が大きい。一方、流動点が低すぎると、燃料電池の作動時等において揮発しやすくなる。よって、可塑剤の流動点は、-80℃以上であることが望ましい。
なお、流動点の測定は、JIS K 2269(1987)に準じて行うことができる。
【0031】
また、上記可塑剤の40℃における動粘度は、好ましくは8~500mm2/sの範囲であり、より好ましくは9~460mm2/sの範囲である。すなわち、このような動粘度を示す可塑剤を用いると、ゴムとの相溶が良い、かつ揮発性が小さいため、圧縮永久歪み性(低へたり性)に優れるからである。なお、上記可塑剤の動粘度は、JIS K 2283に準拠して測定されたものである。
【0032】
《フィラー》
フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。上記カーボンブラックのグレードは、特に限定されるものではなく、SAF級、ISAF級、HAF級、MAF級、FEF級、GPF級、SRF級、FT級、MT級等が挙げられる。
【0033】
フィラーとしては、接着剤層との接着性等の観点から、カーボンブラックを含むフィラーであることが好ましく、フィラーがカーボンブラックのみであってもよい。
フィラーの配合量は、ゴム成分(A)100質量部に対して、通常10~150質量部の範囲であり、20~100質量部の範囲が好ましい。フィラーの配合量は、ゴム成分(A)100質量部に対して、25~80質量部の範囲、30~70質量部の範囲であってもよい。
【0034】
《架橋剤》
架橋剤としては、有機過酸化物が好ましく、1時間半減期温度が160℃以下のものが好ましい。有機過酸化物としては、例えば、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、ケトンパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、架橋剤を加えて混練したゴム組成物の耐スコーチ性および接着剤との反応性に優れるという理由から、1時間半減期温度が100~160℃の、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステルからなる群から少なくとも一つを用いることが好ましく、1時間半減期温度が110~160℃の、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステルからなる群から少なくとも一つを用いることが特に好ましい。
【0035】
ここで「半減期」とは、有機過酸化物の濃度が初期値の半分になるまでの時間である。よって、「半減期温度」は、有機過酸化物の分解温度を示す指標となる。上記「1時間半減期温度」は、半減期が1時間となる温度である。つまり、1時間半減期温度が低いほど、低温で分解しやすく、反応速度が速い。1時間半減期温度が低すぎると、スコーチが発生しやすくなり、接着剤とも反応しにくくなる。
【0036】
ジアルキルパーオキサイドとしては、例えば、ジ(2-t-ブチルパーオキシプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3が挙げられる。
【0037】
パーオキシケタールとしては、例えば、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ジ(4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0038】
パーオキシエステルとしては、例えば、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-プロピルパーオキシアセテート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネートが挙げられる。
【0039】
これらのうち、ゴム成分(A)との反応性が高いという理由から、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(2-t-ブチルパーオキシプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3が好ましい。特に好ましくは、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(2-t-ブチルパーオキシプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイドである。
【0040】
架橋剤(純度100%の原体の場合)の配合量は、例えば、ゴム成分(A)100質量部に対して0.4~12質量部の範囲が好ましい。架橋剤の配合量が少なすぎると、架橋反応を充分に進行させることが困難となる傾向がみられ、架橋剤の配合量が多すぎると、架橋反応時に架橋密度が急激に上昇して、接着力の低下を招く傾向がみられる。
なお、上記有機過酸化物として、純度100%の原体を用いない場合、原体換算した割合が上記範囲内となるよう、配合される。
【0041】
《架橋助剤》
架橋助剤としては、例えば、マレイミド化合物、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、2官能(メタ)アクリレート、1,2-ポリブタジエン等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、架橋密度や強度の向上効果が大きいという理由から、マレイミド化合物、TAICを用いることが好ましい。
【0042】
架橋助剤の配合量は、ゴム成分(A)100質量部に対して5質量部以下が好ましい。上記架橋助剤の配合量が多すぎると、架橋反応時に架橋密度が急激に上昇して、引張伸びや接着力が低下する傾向がみられる。
【0043】
《老化防止剤》
老化防止剤としては、例えば、アミン系、フェノール系、イミダゾール系、リン酸系、ワックス等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
具体的には、例えば、N-フェニル-1-ナフチルアミン、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N'-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、ジ(4-オクチルフェニル)アミン、4,4'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミンなどのアミン系老化防止剤、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、スチレン化フェノール、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-メチレンビス(2,6-t-ブチルフェノール)、4,4'-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2'-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール)などのフェノール系老化防止剤、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール亜鉛塩、2-メルカプトメチルベンズイミダゾールなどのイミダゾール系老化防止剤等が挙げられる。
【0044】
老化防止剤の配合量は、ゴム成分(A)100質量部に対して、通常0.1~10質量部の範囲である。老化防止剤の配合量は、上記範囲内において適宜設定でき、例えば、1~8質量部、2~6質量部等であってもよい。
【0045】
なお、本ゴム組成物には、接着成分(シランカップリング剤等)を含有させてもよいが、シール部材を金型成形する際の離型性を高める観点から、含まないようにする(不含とする)ことが好ましい。そのため、接着成分(シランカップリング剤等)の配合量は、本ゴム組成物全体に対して0.1質量%未満であることが好ましく、0.01質量%未満であることが好ましく、より好ましくは0質量%である。
【0046】
《ゴム組成物の調製》
上記シール部材形成用の本ゴム組成物は、ゴム成分(A)と、必要に応じて、可塑剤、フィラー、有機過酸化物(架橋剤)、架橋助剤、老化防止剤、加工助剤等の各種添加剤とを、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー等により混練することにより、調製される。後記に示すように、本ゴム組成物を、金型成形、プレス成形等することにより、所定厚みのシール部材が形成される。
【0047】
<接着剤層>
つぎに、本ゴム組成物からなるシール部材と基材とを接着させる接着剤層について説明する。接着剤層を形成する接着剤としては、下記の(α)成分および(β)成分を含有する接着剤を用いることが重要である。下記の(α)成分および(β)成分のいずれか一方のみを含有する接着剤では、高温かつ長期間の条件下において、シール部材と基材間における耐酸接着性を向上させることは困難となる傾向がある。
【0048】
《シランカップリング剤(α)》
(α)成分は、親水性官能基および疎水性官能基を有する共重合オリゴマータイプのシランカップリング剤であって、上記親水性官能基が下記(a)であり、上記疎水性官能基が下記(b)であり、その分子1モル中に含まれる疎水性官能基の物質量Mb(モル)に対する親水性官能基の物質量Ma(モル)のモル比(Ma/Mb)が0.33~3.00であるシランカップリング剤である。
(a)シラノール基、アルコキシ基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、ウレイド基、カルボキシ基、およびヒドロキシ基からなる群から選ばれた少なくとも一つであり、少なくともシラノール基またはアルコキシ基を含む。
(b)ビニル基、(メタ)アクリロイル基、マレイミド基、メチル基、エチル基、スチリル基、フェニル基、およびメルカプト基からなる群から選ばれた少なくとも一つ。
【0049】
上記のように、(α)に示すシランカップリング剤は、(a)に示す親水性官能基を単独種あるいは複数種有する(但し、シラノール基またはアルコキシ基は必須で有し、それ以外は任意で有する)とともに、(b)に示す疎水性官能基を単独種あるいは複数種有する。
そして、基材との反応性とシール部材との反応性の観点から、(a)に示す親水性官能基のなかでも、シラノール基(シラノール構造を構成するヒドロキシ基)、アルコキシ基、アミノ基、イソシアネート基が好ましく、より好ましくは、シラノール基、アルコキシ基、アミノ基である。
また、シール部材中のゴム成分、架橋剤、架橋助剤との反応性の観点から(b)に示す疎水性官能基のなかでも、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、マレイミド基が好ましく、より好ましくは、ビニル基である。
【0050】
また、(α)に示すシランカップリング剤は、耐酸接着性、とりわけ高温かつ長期間の条件下における耐酸接着性を得る観点から、その分子1モル中に含まれる疎水性官能基の物質量Mb(モル)に対する親水性官能基の物質量Ma(モル)のモル比(Ma/Mb)を、0.33~3.00とする必要がある。同様の観点から、モル比(Ma/Mb)は、0.40~2.90の範囲とすることが好ましく、0.45~2.75の範囲とすることがより好ましい。また、モル比(Ma/Mb)は、0.45~2.0の範囲であってもよい。
【0051】
さらに、(α)に示すシランカップリング剤は、成膜性等の観点から、共重合オリゴマータイプのもの、つまりは、共重合オリゴマーであるものが用いられる。すなわち、(a)や(b)に示す各官能基を有するシランカップリング剤を、オリゴマー化反応させることにより、(α)に示すシランカップリング剤とすることができる。
【0052】
(a)に示す親水性官能基を有するシランカップリング剤のうち、シラノール基、アルコキシ基以外の親水性官能基も有するシランカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-カルボキシプロピルトリメトキシシラン、3-カルボキシプロピルトリエトキシシラン、3-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
なかでも、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0053】
(b)に示す疎水性官能基を有するシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)マレイミド、N-(トリエトキシシリルプロピル)マレイミド、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
なかでも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)マレイミド、N-(トリエトキシシリルプロピル)マレイミドが好ましい。
【0054】
上記のオリゴマー化反応に際しては、例えば、(b)に示す疎水性官能基を有するシランカップリング剤1.0モルに対し、上記疎水性官能基を有さないが(a)に示す親水性官能基を有するシランカップリング剤0.5~2.0モルが用いられる。また、(a)に示す親水性官能基を有するシランカップリング剤および(b)に示す疎水性官能基を有するシランカップリング剤の合計物質量1モルに対し、加水分解用の水0.2~5.0モル等が用いられる。なお、(a)に示す親水性官能基を有するシランカップリング剤のうち、シラノール基、アルコキシ基以外の親水性官能基も有するシランカップリング剤は、必ずしも含まなくてよい。
そして、上記のオリゴマー化反応は、上記の各原料を、蒸留装置および撹拌機を有する反応器内に仕込み、約60℃で約1時間撹拌する。その後、(a)に示す親水性官能基を有するシランカップリング剤および(b)に示す疎水性官能基を有するシランカップリング剤の合計物質量1モルに対し、ギ酸等の酸約0.5~2.0モルを1時間以内に添加する。この際の温度は約65℃に保たれる。さらに1~5時間撹拌し、反応を進行させると同時に、加水分解によって生成したアルコールを減圧下で蒸留する。蒸留水が水しか存在しなくなった時点で蒸留を終了させ、その後シラン濃度が30~80質量%の範囲になるように希釈して調節することにより、共重合オリゴマー(シランカップリング剤(α))を得ることができる。この共重合オリゴマーは、メタノール、エタノール等のアルコール系有機溶剤に可溶な程度のオリゴマーである。なお、上記共重合オリゴマーは、接着剤塗布時の成膜性と耐水性、耐酸性を高める観点から、3量体以上のものが好ましい。
【0055】
また、上記共重合オリゴマーを含んだ接着剤として、市販品をそのまま用いることもできる。具体例としては、ロード・ファー・イースト社製のCHEMLOK5151〔その共重合オリゴマー1モル中に含まれる疎水性官能基の物質量Mb(モル)に対する親水性官能基の物質量Ma(モル)のモル比(Ma/Mb):1.13〕、ダウ・ケミカル社製のMEGUM3290〔その共重合オリゴマー1モル中に含まれる疎水性官能基の物質量Mb(モル)に対する親水性官能基の物質量Ma(モル)のモル比(Ma/Mb):2.70〕、信越化学工業社製のX-12-1048〔その共重合オリゴマー1モル中に含まれる疎水性官能基の物質量Mb(モル)に対する親水性官能基の物質量Ma(モル)のモル比(Ma/Mb):3.00〕、信越化学工業社製のX-12-1050〔その共重合オリゴマー1モル中に含まれる疎水性官能基の物質量Mb(モル)に対する親水性官能基の物質量Ma(モル)のモル比(Ma/Mb):1.67〕、信越化学工業社製のKR-513〔その共重合オリゴマー1モル中に含まれる疎水性官能基の物質量Mb(モル)に対する親水性官能基の物質量Ma(モル)のモル比(Ma/Mb):0.49〕等が挙げられる。
【0056】
《有機チタネート化合物(β)》
(β)成分は、(α)成分とともに接着剤を構成する成分であり、耐酸接着性、とりわけ高温かつ長期間の条件下における基材とシール部材間における耐酸接着性を向上させるために用いられる。有機チタネート化合物(β)としては、チタンアルコキシド、チタンキレート、およびチタンアシレートからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることが好ましい。
【0057】
チタンアルコキシドとしては、例えば、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラノルマルプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラ-t-ブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、テトラステアリルチタネート、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネート等が挙げられる。なかでも、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラステアリルチタネートが好適である。
【0058】
チタンキレートとしては、例えば、チタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンエチルアセトアセテート、チタントリエタノールアルミネート等が挙げられる。なかでも、チタンアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテートが好適である。
【0059】
チタンアシレートとしては、例えば、チタンイソステアレート、トリ-n-ブトキシチタンモノステアレート、ジ-i-プロポキシチタンジステアレート、チタニウムステアレート、ジ-i-プロポキシチタンジイソステアレート、(2-n-ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン等が挙げられる。なかでも、チタニウムステアレートが好適である。
【0060】
これら有機チタネート化合物(β)のなかでも、耐酸接着性、とりわけ高温かつ長期間の条件下における基材とシール部材間の耐酸接着性をより一層向上させる観点から、チタンアルコキシド、チタンキレートが好ましく、より好ましくはチタンアルコキシドである。
【0061】
チタンアルコキシドのなかでも、溶解性および加水分解性の観点から、下記式(1)のR1で表されるアルキル基が炭素数1~18のアルキル基であるチタンアルコキシドが好ましく、より好ましくは炭素数2~10のアルキル基であるチタンアルコキシドである。
式:Ti(OR14 ・・・・(1)
〔式(1)中、R1は独立に同種または異種のアルキル基を示す。〕
【0062】
上記(1)中のR1の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、ステアリル基、イソステアリル基等が挙げられる。
【0063】
(β)成分の配合量は、耐酸接着性、とりわけ高温かつ長期間の条件下における耐酸接着性の観点から、(α)成分100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、より好ましくは1~200質量部の範囲、さらに好ましくは3~200質量部の範囲であり、特に好ましくは5~200質量部の範囲である。
(β)成分の配合量が上記範囲外になると、高温かつ長期間の条件下における耐酸接着性が不十分になる傾向がある。
なお、(β)成分の配合量は、上記の範囲において適宜設定することができ、例えば、(α)成分100質量部に対して、10~150質量部の範囲、30~120質量部の範囲、35~70質量部の範囲であってもよい。
【0064】
接着剤層を形成する接着剤は、(α)成分、(β)成分以外に、基材との密着性を高め、かつ疎水性を担保することで、接着剤層への水の浸入を防ぎ、耐水性、耐酸性を向上させる目的で、フェノール樹脂やビスマレイミド樹脂、ビニル樹脂等を添加してもよい。但し、接着剤は、(α)成分および(β)成分を主成分とすることが好ましい。
上記「主成分」とは、接着剤の主たる成分を示し、(α)および(β)成分の合計配合量が、接着剤(溶剤を除く)の50質量%以上であることを意味する。また、(α)および(β)成分の合計配合量は、上記範囲内において適宜調整することができ、例えば、接着剤(溶剤を除く)の60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0065】
接着剤層を形成する接着剤は、通常、(α)に示すシランカップリング剤および(β)に示す有機チタネート化合物の合計量が約0.5~25質量%程度になるように有機溶剤で希釈した溶液として用いられる。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、ブトキシエタノール、イソプロパノール、2-エトキシエタノール(エチレングリコールモノエチルエーテル)等のアルコール系有機溶剤や、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等のケトン系有機溶剤、キシレン、トルエン等の炭化水素系溶剤等が挙げられる。
【0066】
<基材>
つぎに、基材について説明する。
基材の材質としては、例えば、ステンレス、チタン、銅、マグネシウム、アルミニウム、カーボン、グラファイト、導電樹脂(黒鉛、ポリアクリロニトリル系炭素繊維等を混入させた熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂)等が挙げられる。これらのなかでも、耐酸性の観点からは、ステンレス、チタン(純チタンやチタン合金)、導電樹脂からなる基材が好ましい。また、耐酸接着性に優れる燃料電池用積層体を提供する観点からは、オーステナイト系ステンレスからなる基材を用いることが好ましい。オーステナイト系ステンレスの具体例としては、SUS304、SUS301、SUS316L等が挙げられる。
【0067】
なお、耐酸性の観点から、基材としてステンレスからなる基材、とりわけオーステナイト系ステンレスからなる基材を用いることが有効ではあるが、かかる基材は難接着性である点に課題がある。したがって、例えば、接着剤としてシランカップリング剤(α)のみを用いた場合には、高温かつ長期間の条件下における耐酸接着性に改善の余地があるが、本発明のように、接着剤の構成成分として、さらに有機チタネート化合物(β)を配合した場合には、基材としてステンレスからなる基材、とりわけオーステナイト系ステンレスからなる基材を用いた場合においても、耐酸接着性を満足させることができる点において優れているといえる。
【0068】
また、上記の材料からなる基材の表面は、導通信頼性の観点から、PVD法(物理蒸着)、CVD法(化学蒸着)等の処理により形成された、DLC膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)やグラファイト膜等の炭素薄膜を有するであってもよい。上記炭素薄膜の厚みとしては、10~500nmが好ましい。
【0069】
<積層体の製造方法>
つぎに、本燃料電池用積層体の製造方法について説明する。
まず、先に述べたようにして、シール部材形成用の本ゴム組成物を調製する。本ゴム組成物を、金型成形、プレス成形等して、所定厚みの平板状ゴム部材を作製する。
上記平板状ゴム部材は、架橋されたものであっても未架橋のものであってもよいが、接着性を高める観点から、未架橋のものが好ましい。
そして、ステンレス板等の基材上に、シランカップリング剤(α)および有機チタネート化合物(β)を含有する接着剤を、スプレー法、浸漬法、ロールコート法等の任意の方法によって塗布し、必要により室温で乾燥した後、その表面に、上記平板状ゴム部材を積層し、これを所定条件(130~200℃×3~30分間等)で架橋、接着させることにより、基材と架橋ゴム部材(シール部材)とが接着してなる積層体を作製することができる。
なお、上記架橋ゴム部材は、シール部の形状に応じて、予め所定形状に成形しておくと、煩雑な位置合わせが不要になり、連続加工がしやすく、生産性が向上するため好ましい。
また、上記架橋ゴム部材は、上記のように接着剤が塗布された基材上で、所定の金型を用いて上記調製された本ゴム組成物を架橋させて、形成してもよい。このようにすることにより、架橋接着がより強固となる。
【0070】
本燃料電池用積層体における各部材の厚み等は、積層体が使用されるシール部位によって異なるが、例えば、基材の厚みは、通常0.05~5mmの範囲、好ましくは0.1~3mmの範囲である。シール部材の厚みは、通常、0.2~5mmの範囲、好ましくは0.5~3mmの範囲である。接着剤層の厚みは、通常、1×10-5~0.025mmの範囲、好ましくは2×10-5~0.002mmの範囲である。なお、接着剤層は、2層以上の多層とすることもできるが、塗装工程を短時間化できる点から、単層が好ましい。
【0071】
<燃料電池構成用部材>
本燃料電池用積層体は、燃料電池構成用部材として用いられる。
燃料電池構成用部材としては、燃料電池用の基材と、それをシールするシール部材とが、接着剤層を介して接着されてなる積層体等が挙げられる。
【0072】
燃料電池用の基材は、燃料電池の種類、構造等により様々であるが、例えば、セパレータ、ガス拡散層(GDL)、MEA(電解質膜、電極)等が挙げられる。
セパレータは、ステンレス(SUS304等)、チタン等からなる金属製のものや、導電樹脂(黒鉛、ポリアクリロニトリル系炭素繊維等を混入させた熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂)からなるものが挙げられる。また、セパレータは、上記の金属等からなるセパレータの表面に、PVD法、CVD法等の処理により形成された、DLC膜やグラファイト膜等の炭素薄膜を有するものとしてもよい。
適用対象となる燃料電池としては、例えば、固体高分子型燃料電池(PEFC)(ダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)を含む)等が挙げられる。
【0073】
本燃料電池用積層体の一例を図1に示す。図1は、矩形薄板状を呈し、長手方向に延在する溝が合計六つ凹設された、断面凹凸形状を呈するセパレータ5の周縁部に、接着剤層6を介して、矩形状で断面凸部形状のリップ4bが設けられてなる部材である。そして、リップ4bが、ゴム成分(A)を含有する本ゴム組成物からなるシール部材であり、接着剤層6が、シランカップリング剤(α)および有機チタネート化合物(β)を含有する接着剤からなるものである。
【0074】
<燃料電池シール体>
つぎに、本発明に係る燃料電池用積層体を使用した燃料電池シール体の一例を図2に示す。図2は、複数枚のセルが積層されてなる燃料電池における単一のセル1を主として示したものであり、セル1は、MEA2と、ガス拡散層(GDL)3と、シール部材4と、セパレータ5と、接着剤層6を備えている。シール部材4がゴム成分(A)を含有する本ゴム組成物からなり、接着剤層6がシランカップリング剤(α)および有機チタネート化合物(β)を含有する接着剤からなる。
【0075】
上記燃料電池シール体としては、例えば、図2に示すように、セパレータ5とシール部材4とが接着剤層6を介して接着されてなるもの、MEA2とシール部材4とが接着剤層6を介して接着されてなるもの、ガス拡散層3とシール部材4とが接着剤層6を介して接着されてなるもの等が挙げられる。
なお、隣接するシール部材4同士を接着する接着剤層6'は、シランカップリング剤(α)および有機チタネート化合物(β)を含有する接着剤からなる層であってもよいが、例えば、ゴム糊、常温(23℃)で液状のゴム組成物(液状エチレンプロピレンゴム(液状EPM)、液状EPDM、液状アクリロニトリル-ブタジエンゴム(液状NBR)、液状水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(液状H-NBR)等)からなる接着剤層であってもよい。
【0076】
MEA2は、図示しないが、電解質膜と、電解質膜を挟んで積層方向両側に配置されている一対の電極からなる。電解質膜および一対の電極は、矩形薄板状を呈している。MEA2を挟んで積層方向両側には、ガス拡散層3が配置されている。ガス拡散層3は、多孔質層で、矩形薄板状を呈している。
【0077】
セパレータ5は、チタン、矩形薄板状を呈しており、長手方向に延在する溝が合計六つ凹設されており、この溝により、セパレータ5の断面は、凹凸形状を呈している。セパレータ5は、ガス拡散層3の積層方向両側に、対向して配置されている。ガス拡散層3とセパレータ5との間には、凹凸形状を利用して、電極にガスを供給するためのガス流路7が区画されている。
【0078】
シール部材4は、矩形枠状を呈している。そして、上記シール部材4は、接着剤層6を介して、MEA2やガス拡散層3の周縁部、およびセパレータ5に接着され、MEA2やガス拡散層3の周縁部を封止している。なお、図2の例において、シール部材4は、上下に分かれた2個の部材を使用しているが、両者を合わせた単一のシール部材であっても差し支えない。
【0079】
固体高分子型燃料電池等の燃料電池の作動時には、燃料ガスおよび酸化剤ガスが、各々ガス流路7を通じて供給される。ここで、MEA2の周縁部は、接着剤層6を介して、シール部材4によりシールされている。このため、ガスの混合や漏れは生じない。
【0080】
<燃料電池用積層体を含む燃料電池等>
本発明の一実施形態としては、本燃料電池用積層体を含む燃料電池、および、上記燃料電池を備える燃料電池自動車(FVC)等が挙げられる。
すなわち、本発明の一実施形態としては、基材とシール部材とが接着剤層を介して接着されてなる燃料電池用の積層体を含む燃料電池であって、シール部材が(A)成分を含有する本ゴム組成物からなり、接着剤層が(α)成分および(β)成分を含有する接着剤からなる、燃料電池用の積層体を含む燃料電池が挙げられる。
また、本発明の一実施形態としては、基材とシール部材とが接着剤層を介して接着されてなる燃料電池用の積層体を含む燃料電池を備える燃料電池自動車(FVC)であって、シール部材が(A)成分を含有する本ゴム組成物からなり、接着剤層が(α)成分および(β)成分を含有する接着剤からなる、燃料電池用の積層体を含む燃料電池を備える燃料電池自動車(FVC)が挙げられる。
【実施例0081】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
まず、下記に示すゴム組成物、接着剤および基材を準備した。
【0083】
<ゴム組成物>
《ゴム組成物(R1)》
エチレン-ブテン-ジエンゴム(三井化学社製、EBT-K-9330M)100質量部、老化防止剤(大内新興化学工業社製、ノクラックNS-5)1質量部、カーボンブラック(東海カーボン社製、FEF級カーボンブラック、シーストSO)50質量部、および可塑剤(日鉄ケミカル&マテリアル社製、ポリ-α-オレフィン、PAO601)15質量部を、バンバリーミキサーを用いて120℃で5分間混練した。その混練物を冷却した後、架橋剤(日油社製、パーヘキサC-80)6質量部を加え、さらにオープンロールを用いて50℃で10分間混練し、ゴム組成物(R1)を調製した。
【0084】
《ゴム組成物(R2)》
エチレン-ブテン-ジエンゴム(三井化学社製、EBT-K-9330M)を、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(三井化学社製、EPT-9090M)に変更した以外は、上記ゴム組成物(R1)と同様にして、ゴム組成物(R2)を調製した。
【0085】
《ゴム組成物(R3)》
エチレン-ブテン-ジエンゴム(三井化学社製、EBT-K-9330M)を、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(住友化学社製、エスプレン5361)に変更した以外は、上記ゴム組成物(R1)と同様にして、ゴム組成物(R3)を調製した。
【0086】
<接着剤>
下記に示す接着剤の材料を準備した。
【0087】
《シランカップリング剤(α1)》
ビニルトリメトキシシラン100質量部、3-アミノプロピルトリメトキシシラン68.4質量部、水33.1質量部(上記各シランカップリング剤の合計物質量1モルに対し1.74モル)を、蒸留装置および撹拌機を有する反応器内に仕込み、約60℃で約1時間撹拌した。その後、上記各シランカップリング剤の合計物質量1モルに対し、ギ酸等の酸を、その添加量が約0.5~2.0モルとなるよう、1時間以内に添加した。この際の温度は約65℃に保たれた。さらに1~5時間撹拌し、反応を進行させると同時に、加水分解によって生成したアルコールを減圧下で蒸留した。蒸留水が水しか存在しなくなった時点で蒸留を終了させ、その後シラン濃度が30~80質量%になるように希釈して調節することにより、その分子1モル中に含まれる疎水性官能基の物質量Mb(モル)に対する親水性官能基の物質量Ma(モル)のモル比(Ma/Mb)が1.17の共重合オリゴマーを得た。なお、上記疎水性官能基はビニル基であり、上記親水性官能基はシラノール基、アルコキシ基、アミノ基である。
【0088】
《シランカップリング剤(α2)》
信越化学工業社製のX-12-1050〔その共重合オリゴマー1モル中に含まれる疎水性官能基の物質量Mb(モル)に対する親水性官能基の物質量Ma(モル)のモル比(Ma/Mb)は1.67、上記疎水性官能基はアクリロイル基、上記親水性官能基はシラノール基、アルコキシ基である。〕
【0089】
《シランカップリング剤(α3)》
信越化学工業社製のKR-513〔その共重合オリゴマー1モル中に含まれる疎水性官能基の物質量Mb(モル)に対する親水性官能基の物質量Ma(モル)のモル比(Ma/Mb)は0.49、上記疎水性官能基はアクリロイル基、メチル基、上記親水性官能基はシラノール基、アルコキシ基である。〕
【0090】
《シランカップリング剤(α’1)》
信越化学工業社製のX-12-972F〔その共重合オリゴマーにおける官能基は、親水性官能基のみ。上記親水性官能基はシラノール基、アルコキシ基、アミノ基である。〕
【0091】
《シランカップリング剤(α’2)》
信越化学工業社製のX-24-9590〔その共重合オリゴマーにおける官能基は、親水性官能基のみ。上記親水性官能基はシラノール基、アルコキシ基、アミノ基である。〕
【0092】
《チタンアルコキシド(β1-1)》
テトライソプロピルチタネート(日本曹達社製、A-1)
【0093】
《チタンアルコキシド(β1-2)》
テトラノルマルブチルチタネート(日本曹達社製、B-1)
【0094】
《チタンアルコキシド(β1-3)》
テトラステアリルチタネート(松本ファインケミカル社製、オルガチックスTA-90)
【0095】
《チタンアシレート(β2)》
チタニウムステアレート(日本曹達社製、S-151)
【0096】
《チタンキレート(β3-1)》
チタンアセチルアセトネート(松本ファインケミカル社製、オルガチックスTC-100)
【0097】
《チタンキレート(β3-2)》
チタンエチルアセトアセテート(松本ファインケミカル社製、オルガチックスTC-710)
【0098】
《無機チタネート化合物(β’1)》
酸化チタン(堺化学工業社製、SSP-M)
【0099】
《無機チタネート化合物(β’2)》
酸化チタン(堺化学工業社製、STR-100N)
【0100】
<基材>
下記に示す基材を準備した。
《SUS(1)》
ステンレス(SUS304)製の基材(幅25mm、長さ60mm、厚み1.5mm)
【0101】
《SUS(2)》
ステンレス(SUS316)製の基材(幅25mm、長さ60mm、厚み1.5mm)
【0102】
〔実施例1〕
シランカップリング剤(α1)100質量部に対してチタンアルコキシド(β1-1)を0.5質量部の割合で混合し、エタノールおよびブトキシエタノールを含むアルコール系有機溶剤で希釈して、固形分濃度10質量%の接着剤を調製した(シランカップリング剤(α1)およびチタンアルコキシド(β1-1)の合計配合量が10質量%、エタノール85質量%、ブトキシエタノール5質量%の接着剤)。
基材としてSUS(1)を準備し、その表面の、JIS K 6256-2で指定された範囲に、先に調製した接着剤を、塗布後の厚みが約0.5μmになるようスプレー塗布した。その後、JIS K 6256-2に準拠した形状になるよう、ゴム組成物(R1)と基材とを、所定の金型を用いて170℃で15分間保持することにより架橋接着し、厚み2.0mmのゴム成形体(シール部材)と基材とが接着剤層(厚み0.5μm)を介して接着されてなる、接着評価サンプル(積層体)を作製した。
【0103】
〔実施例2~15、比較例1~7〕
ゴム組成物の種別、シランカップリング剤およびチタネート化合物の種別および配合割合、基材の種別を表1および表2のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~15および比較例1~7に係る接着評価サンプル(積層体)を作製した。
例えば、実施例2であれば、以下のとおりに接着評価サンプル(積層体)を作製した。
シランカップリング剤(α1)100質量部に対してチタンアルコキシド(β1-1)を5質量部の割合で混合し、エタノールおよびブトキシエタノールを含むアルコール系有機溶剤で希釈して、固形分濃度10質量%の接着剤を調製した(シランカップリング剤(α1)およびチタンアルコキシド(β1-1)の合計配合量が10質量%、エタノール85質量%、ブトキシエタノール5質量%の接着剤)。
基材としてSUS(1)を準備し、その表面の、JIS K 6256-2で指定された範囲に、先に調製した接着剤を、塗布後の厚みが約0.5μmになるようスプレー塗布した。その後、JIS K 6256-2に準拠した形状になるよう、ゴム組成物(R1)と基材とを、所定の金型を用いて170℃で15分間保持することにより架橋接着し、厚み2.0mmのゴム成形体(シール部材)と基材とが接着剤層(厚み0.5μm)を介して接着されてなる、接着評価サンプル(積層体)を作製した。
【0104】
このようにして得られた実施例および比較例の接着評価サンプル(積層体)に関し、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。これらの結果を、後記の表1~表3に併せて示す。
【0105】
<初期接着性の評価試験>
上記により得られた接着評価サンプル(積層体)について、常温(23℃)環境下において、JIS K6256-2(2006)に規定される90°剥離試験を行い、目視で観察し、各接着評価サンプル(積層体)における基材とゴム成形体(シール部材)との接着性を、下記基準により評価した。その結果を表1、表2に示す。
(評価基準)
〇:ゴム成形体(シール部材)の材料破壊が存在した。
×:ゴム成形体(シール部材)の材料破壊が存在しなかった。
【0106】
<高温かつ長期間の条件下における耐酸接着性の評価試験(1)>
pH=3.0に調整した硫酸水溶液に、実施例および比較例の接着評価サンプル(積層体)を投入し、120℃の硫酸水溶液で336時間(もしくは672時間)浸漬した。
その後、上記硫酸水溶液から接着評価サンプルを取出し、一日放置した後、JIS K 6256-2(2006)に準拠した90°剥離試験を行い、目視で観察し、下記の基準により評価した。その結果を表1、表2に示す。
なお、表2の評価の欄における「-」は、初期接着性評価において「×」であったことから、耐酸接着性については未評価であることを示す。
(評価基準)
◎:ゴム成形体の材料破壊と接着剤層の凝集破壊の合計割合が80%を超える。
○:ゴム成形体の材料破壊と接着剤層の凝集破壊の合計割合が50~80%である。
△:ゴム成形体の材料破壊や接着剤層の凝集破壊が存在するが、その合計割合が50%未満である。
×:界面剥離の割合がほぼ100%である。
【0107】
<高温かつ長期間の条件下における耐酸接着性の評価試験(2)>
次に、有機チタネート化合物の種別による耐酸接着性に対する影響を検証するため、浸漬時間をさらに長期とした試験を行った。
具体的には、実施例3、実施例8および実施例9は、有機チタネート化合物の種別のみ異なる実施例であり、実施例3はチタンアルコキシド、実施例8はチタンアシレート、実施例9はチタンキレートを用いている。
pH=3.0に調整した硫酸水溶液に、実施例3、実施例8および実施例9の接着評価サンプル(積層体)を投入し、120℃の硫酸水溶液で840時間浸漬した。その後、上記硫酸水溶液から接着評価サンプルを取出し、一日放置した後、JIS K 6256-2(2006)に準拠した90°剥離試験を行い、目視で観察し、上記<高温かつ長期間の条件下における耐酸接着性の評価試験(1)>の基準により評価した。その結果を表3に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
<高温かつ長期間の条件下における耐酸接着性の評価試験(1)の結果>
上記表1、2の結果から、実施例の接着評価サンプル(積層体)は、いずれも、「初期接着性」が良好であり、さらに、「120℃ 336h 耐酸接着性」および「120℃ 672h 耐酸接着性」の各評価において、優れた評価が得られた。
【0112】
これに対し、比較例1、2の接着評価サンプル(積層体)は、本発明において規定する有機チタネート化合物(β)を用いていないため、「120℃ 336h 耐酸接着性」の評価において劣り、高温かつ長期間の条件下における耐酸接着性において満足できない結果となった。
【0113】
比較例3の接着評価サンプル(積層体)は、本発明において規定するシランカップリング剤(α)を用いていないため、「初期接着性」の評価において劣る結果となった。具体的には、ゴム成形体(シール部材)と接着剤層との界面剥離が観察され、接着性において満足できない結果となった。比較例4、5は、本発明において規定するシランカップリング剤(α)を用いず、他のシランカップリング剤(α’)を用いているため、「初期接着性」の評価において劣る結果となった。具体的には、ゴム成形体(シール部材)と接着剤層との界面剥離が観察され、接着性において満足できない結果となった。このように、比較例3~5は、初期接着性において満足できないことから、高温かつ長期間の条件下における耐酸接着性においても満足できない結果になると優に推定された。
【0114】
また、比較例6、7は、本発明において規定する有機チタネート化合物(β)を用いず、無機チタネート化合物(β’)を用いているため、「120℃ 336h 耐酸接着性」の評価において劣り、高温かつ長期間の条件下における耐酸接着性において満足できない結果となった。
【0115】
以上により、本発明に規定する要件を充足する積層体であれば、初期接着性、高温かつ長期間の条件下における耐酸接着性に優れることが示された。
【0116】
<高温かつ長期間の条件下における耐酸接着性の評価試験(2)の結果>
上記表1のとおり、実施例3、実施例8、および実施例9はいずれも耐酸接着性に優れているものであるが、上記表3の結果から、これらのなかでも、実施例3および実施例9が優れており、実施例3は特に優れている結果となった。
以上により、有機チタネート化合物(β)として、チタンアルコキシド、チタンキレートを用いることにより、高温かつ長期間の条件下における耐酸接着性をさらに高めることができることが示され、また、両者の対比においては、チタンアルコキシドがより好ましいことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の積層体は、各種の基材上に接着剤層を介してシール部材が接着されたものであり、金属セパレータ等の燃料電池用の基材と、シール部材とが、接着剤層を介して接着されてなる燃料電池シール用の積層体に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0118】
4b リップ(シール部材)
5 セパレータ(基材)
6 接着剤層
図1
図2