(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020759
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】水硬性硬化体の製造方法、流動性組成物および水硬性硬化体
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20250205BHJP
C04B 18/16 20230101ALI20250205BHJP
C04B 14/26 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/16
C04B14/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124334
(22)【出願日】2023-07-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーンイノベーション基金事業/CO2を用いたコンクリート等製造技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000228660
【氏名又は名称】日本コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】森 香奈子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢三
(72)【発明者】
【氏名】クマル アワド
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祐麻
(72)【発明者】
【氏名】取違 剛
(72)【発明者】
【氏名】関 健吾
(72)【発明者】
【氏名】山野 泰明
(72)【発明者】
【氏名】向 俊成
(72)【発明者】
【氏名】境 美緒
(72)【発明者】
【氏名】早川 康之
(72)【発明者】
【氏名】八木 利之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 猛
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA30
(57)【要約】
【課題】入手の難易度が高くなく、製造量が多い材料を炭酸化かつ含水させた原料を用い、二酸化炭素固定量および圧縮強度を増加できる水硬性硬化体の製造方法、水硬性硬化体の二酸化炭素固定量および圧縮強度を増加できる流動性組成物、および二酸化炭素固定量および圧縮強度を向上した水硬性硬化体を提供する。
【解決手段】本発明の水硬性硬化体の製造方法は、水と、セメントと、水分を含み炭酸化している含水炭酸化スラッジ粉末とを含有する流動性組成物を調製する調製工程と、前記調製工程で得られた前記流動性組成物を打設して硬化し、水硬性硬化体を得る硬化工程とを有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、セメントと、水分を含み炭酸化している含水炭酸化スラッジ粉末とを含有する流動性組成物を調製する調製工程と、
前記調製工程で得られた前記流動性組成物を打設して硬化し、水硬性硬化体を得る硬化工程と
を有する、水硬性硬化体の製造方法。
【請求項2】
前記含水炭酸化スラッジ粉末の含水率は、25.0%以下である、請求項1に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【請求項3】
前記流動性組成物に含まれる前記セメントの含有割合(R1)に対する前記流動性組成物に含まれる前記含水炭酸化スラッジ粉末の含有割合(R2)の体積比(R2/R1)は、0.02以上1.70以下である、請求項1に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【請求項4】
前記流動性組成物に含まれる前記含水炭酸化スラッジ粉末の含有割合(R2)は、0.02体積%以上1.70体積%以下である、請求項1に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【請求項5】
前記硬化工程では、前記流動性組成物を封緘養生して前記水硬性硬化体を得る、請求項1~4のいずれか1項に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【請求項6】
水と、セメントと、水分を含み炭酸化している含水炭酸化スラッジ粉末とを含有する流動性組成物。
【請求項7】
水と、セメントと、炭酸化している炭酸化スラッジ粉末とを含有する水硬性硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性硬化体の製造方法、流動性組成物および水硬性硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素の削減を目的に、様々な技術的検討が進んでいる。建設分野においても、セメントやコンクリート関連技術で二酸化炭素を削減や固定する技術が検討および開発されている。コンクリートに二酸化炭素を固定する技術開発として、例えばCO2-SUICOM(登録商標)では、炭酸ガス(二酸化炭素、CO2)を供給した養生槽内で硬化初期のコンクリートに二酸化炭素を吸収や固定化させる炭酸化養生によって達成している。
【0003】
ここで、比較的高い強度を有するコンクリートは一般的に炭酸ガスなどの気体を通しにくい緻密な組織体であることから、炭酸化養生によってコンクリート内部にまで二酸化炭素を固定化させることは、技術的難易度が高い。
【0004】
そこで、二酸化炭素を予め固定した材料(例えば骨材、粉体、セメント)などを原料として用いることで、コンクリート中に二酸化炭素を固定する技術が開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、炭酸カルシウム、ポルトランドセメントおよび高炉スラグを含む粉体を含有し、粉体に対する炭酸カルシウムの割合が所定範囲内である水硬性組成物が記載されている。水硬性組成物に含まれる炭酸カルシウムは、カルシウム溶液に排ガスや大気を吹き込むなどによって、排ガスや大気中の二酸化炭素を固定している。しかしながら、このような炭酸カルシウムについて、効率よく製造することは容易ではなく、製造量が少ない。そのため、このような炭酸カルシウムをコンクリート材料として広く普及させることは難しい。さらに、炭酸カルシウムの含有量が増えるにつれて、水硬性硬化体の圧縮強度は低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、入手の難易度が高くなく、製造量が多い材料を炭酸化かつ含水させた原料を用い、二酸化炭素固定量および圧縮強度を増加できる水硬性硬化体の製造方法、水硬性硬化体の二酸化炭素固定量および圧縮強度を増加できる流動性組成物、および二酸化炭素固定量および圧縮強度を向上した水硬性硬化体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 水と、セメントと、水分を含み炭酸化している含水炭酸化スラッジ粉末とを含有する流動性組成物を調製する調製工程と、前記調製工程で得られた前記流動性組成物を打設して硬化し、水硬性硬化体を得る硬化工程とを有する、水硬性硬化体の製造方法。
[2] 前記含水炭酸化スラッジ粉末の含水率は、25.0%以下である、上記[1]に記載の水硬性硬化体の製造方法。
[3] 前記流動性組成物に含まれる前記セメントの含有割合(R1)に対する前記流動性組成物に含まれる前記含水炭酸化スラッジ粉末の含有割合(R2)の体積比(R2/R1)は、0.02以上1.70以下である、上記[1]または[2]に記載の水硬性硬化体の製造方法。
[4] 前記流動性組成物に含まれる前記含水炭酸化スラッジ粉末の含有割合(R2)は、0.02体積%以上1.70体積%以下である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の水硬性硬化体の製造方法。
[5] 前記硬化工程では、前記流動性組成物を封緘養生して前記水硬性硬化体を得る、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の水硬性硬化体の製造方法。
[6] 水と、セメントと、水分を含み炭酸化している含水炭酸化スラッジ粉末とを含有する流動性組成物。
[7] 水と、セメントと、炭酸化している炭酸化スラッジ粉末とを含有する水硬性硬化体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、入手の難易度が高くなく、製造量が多い材料を炭酸化かつ含水させた原料を用い、二酸化炭素固定量および圧縮強度を増加できる水硬性硬化体の製造方法、水硬性硬化体の二酸化炭素固定量および圧縮強度を増加できる流動性組成物、および二酸化炭素固定量および圧縮強度を向上した水硬性硬化体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0011】
本発明者らは、生コン工場などで大量に発生する産業廃棄物であるスラッジに着目した。ペースト状のスラッジを固液分離して得られた固形分であるスラッジケーキは、高純度の炭酸カルシウム粉末を製造する過程で得られ、炭酸カルシウム粉末の約40倍に相当する量が発生する。このスラッジケーキは、約10%程度の二酸化炭素を固定していることから、水硬性硬化体の原料の一部として使用することで、水硬性硬化体の1m3当たりの二酸化炭素固定量を向上できる。
【0012】
ただし、スラッジケーキを乾燥した後に粉砕して得られるスラッジ粉末を含む流動性組成物では、フレッシュ性状が悪くなることがわかった。この点、スラッジ粉末に水分を含ませること、すなわちスラッジ粉末を含水させることで、流動性組成物のフレッシュ性状の悪化を抑制できること、さらには水硬性硬化体の圧縮強度を増加できることがわかった。
【0013】
一方、スラッジ粉末を炭酸化させた炭酸化スラッジ粉末は、スラッジ粉末に二酸化炭素を固定させているため、スラッジ粉末に比べて、二酸化炭素固定量が多い。そのため、炭酸化スラッジ粉末を含む流動性組成物を硬化させてなる水硬性硬化体の二酸化炭素固定量を増加できる。さらには、炭酸化スラッジ粉末を含む流動性組成物を硬化させてなる水硬性硬化体は、炭酸化スラッジ粉末を含まない水硬性硬化体に比べて、圧縮強度が向上することがわかった。
【0014】
このような知見を基に、入手の難易度が高くなく、製造量が多いスラッジ粉末を炭酸化かつ含水させた含水炭酸化スラッジ粉末を原料として用いることで、二酸化炭素固定量および圧縮強度の高い水硬性硬化体を製造できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成させるに至った。
【0015】
まず、本発明の水硬性硬化体の製造方法について説明する。
【0016】
本発明の水硬性硬化体の製造方法は、水と、セメントと、水分を含み炭酸化している含水炭酸化スラッジ粉末とを含有する流動性組成物を調製する調製工程と、調製工程で得られた流動性組成物を打設して硬化し、水硬性硬化体を得る硬化工程とを有する。
【0017】
水硬性硬化体の製造方法は、調製工程S1と硬化工程S2とを有する。
【0018】
調製工程S1では、水とセメントと含水炭酸化スラッジ粉末とを含む流動性組成物を調製する。調製工程S1では、これら原料を混練することで流動性組成物を調製できる。
【0019】
流動性組成物に含まれるセメントは、ポルトランドセメントであることが好ましい。ポルトランドセメントには、普通ポルトランドセメントの他、早強、超早強、中庸熱、低熱耐硫酸塩等の種類があり、これらはJIS R 5210:2019に規定されている。流動性組成物においては、これら種々のポルトランドセメントの1種又は2種以上を配合するものを用いることができる。
【0020】
また、セメントとして、高炉スラグ微粉末とセメント材とを含む高炉セメント(混合セメント)を用いてもよい。高炉セメントは、JIS R 5211:2009に規定されているものを用いることができる。高炉セメントB種であると、二酸化炭素排出量をさらに低減させることができる。
【0021】
流動性組成物に含まれる含水炭酸化スラッジ粉末は、スラッジ粉末を炭酸化かつ含水させたものであり、水分を含み、炭酸化している。
【0022】
スラッジ粉末は、例えば以下のようにして得ることができる。
【0023】
スラッジ粉末は、コンクリート二次製品製造時の遠心成形工程で不要物として分離排出された余剰セメントペーストであるスラッジを原料とする。このようなスラッジとしては、コンクリートスラッジ、モルタルスラッジ、セメントスラッジが挙げられ、産業廃棄物として大量に発生する。また、コンクリート二次製品製造としては、セメント、水、細骨材、粗骨材、混和材からなるコンクリート材料を固化させたコンクリート柱やコンクリート杭などが挙げられる。
【0024】
そして、ペースト状のスラッジを固液分離して脱水した後、乾燥および粉砕することで、スラッジ粉末を得ることができる。スラッジ粉末は、乾燥の過程で大気中の二酸化炭素を固定している。スラッジ粉末の粒径は、流動性組成物や水硬性硬化体の用途や特性に応じて適宜設定され、例えば10μm~20mm程度である。
【0025】
また、スラッジ粉末製造の乾燥時に二酸化炭素を含むガスを供給することで、スラッジ粉末に二酸化炭素を強制的に固定してもよい。
【0026】
含水炭酸化スラッジ粉末は、このようなスラッジ粉末に対して二酸化炭素を含むガスを供給して二酸化炭素をさらに固定させている(炭酸化)ので、スラッジ粉末に比べて二酸化炭素の固定量が多い。そのため、含水炭酸化スラッジ粉末を含む流動性組成物を硬化させてなる水硬性硬化体について、スラッジ粉末を含む水硬性硬化体よりも二酸化炭素固定量を増加できる。
【0027】
二酸化炭素を含むガスにおける二酸化炭素の供給源としては、大気中の二酸化炭素を効率的に削減する観点から、火力発電所の排ガス、ボイラーからの排ガス、他の製品の製造工程で排出される二酸化炭素を含む排ガス、排ガス中の二酸化炭素濃度を高めた高濃度二酸化炭素ガスなどであることが好ましい。また、これらのガスは、湿度や温度を調整してもよい。
【0028】
さらには、含水炭酸化スラッジ粉末を含む流動性組成物を硬化させてなる水硬性硬化体について、含水炭酸化スラッジ粉末を含まない水硬性硬化体やスラッジ粉末を含む水硬性硬化体よりも圧縮強度を向上できる。このように、含水炭酸化スラッジ粉末を含む流動性組成物を硬化させてなる水硬性硬化体の圧縮強度を増加できることから、水硬性硬化体の単位セメント量を低減することができる。その結果、製造時に二酸化炭素排出量の多いセメントの使用量を減らすことができるため、水硬性硬化体の二酸化炭素排出原単位を低減することができる。
【0029】
また、含水炭酸化スラッジ粉末は、上記のスラッジ粉末やスラッジ粉末を炭酸化した炭酸化スラッジ粉末を含水させてなるものであり、水分を含んでいる。例えば、スラッジ粉末や炭酸化スラッジ粉末を水に所定時間浸漬させることで含水できる。含水炭酸化スラッジ粉末の含水率は、水への浸漬時間によって制御できる。
【0030】
含水炭酸化スラッジ粉末を含む流動性組成物を硬化させてなる水硬性硬化体は、含水していないスラッジ粉末や炭酸化スラッジ粉末を含む流動性組成物を硬化させてなる水硬性硬化体に比べて、圧縮強度を向上できる。このように、スラッジ粉末を含水させることで、水硬性硬化体の圧縮強度を増加できることから、水硬性硬化体の単位セメント量を低減することができるため、水硬性硬化体の二酸化炭素排出原単位を低減することができる。
【0031】
また、含水していないスラッジ粉末や炭酸化スラッジ粉末を含む流動性組成物では、流動性組成物の原料の練り混ぜ中にこれらスラッジ粉末が原料の水を多く吸水したり保水したりすることで、流動性組成物のフレッシュ性状が悪くなる。一方、流動性組成物が含水炭酸化スラッジ粉末を含有することで、含水炭酸化スラッジ粉末には水分が含まれているため、流動性組成物の練り混ぜ中に含水炭酸化スラッジ粉末が原料の水を吸水したり保水したりすることを抑制し、流動性組成物のフレッシュ性状の悪化を抑制できる。
【0032】
スラッジ粉末に対する炭酸化と含水は、どちらを先に行ってもよいし、同時に行ってもよい。スラッジ粉末に二酸化炭素を効率的に固定させ、含水炭酸化スラッジ粉末の含水率を容易に制御する観点から、スラッジ粉末を炭酸化させて炭酸化スラッジ粉末を調製し、炭酸化スラッジ粉末を含水することで含水炭酸化スラッジ粉末を得ることが好ましい。
【0033】
含水炭酸化スラッジ粉末の粒径は、スラッジ粉末の粒径と同程度であり、例えば10μm~20mm程度である。
【0034】
水硬性硬化体の圧縮強度を向上する観点から、流動性組成物に含まれる含水炭酸化スラッジ粉末の含水率は、25.0%以下であることが好ましい。さらには、含水炭酸化スラッジ粉末の含水率が上記範囲内であると、流動性組成物のフレッシュ性状は良好である。なかでも、圧縮強度を高めることを目的とする場合には、含水炭酸化スラッジ粉末の含水率が10.0%以下であることがより好ましく、流動性組成物のフレッシュ性状を良好にすることを目的とする場合には、含水炭酸化スラッジ粉末の含水率が10.0%以上であることがより好ましい。
【0035】
また、流動性組成物に含まれるセメントの含有割合(R1)に対する流動性組成物に含まれる含水炭酸化スラッジ粉末の含有割合(R2)の体積比(R2/R1)について、下限値は、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.20以上であり、上限値は、好ましくは1.70以下、より好ましくは1.30以下、さらに好ましくは1.00以下である。
【0036】
上記体積比(R2/R1)が0.02以上であると、水硬性硬化体の二酸化炭素固定量を向上できる。また、上記体積比(R2/R1)が1.70以下であると、水硬性硬化体の圧縮強度を向上できる。
【0037】
また、流動性組成物に含まれる含水炭酸化スラッジ粉末の含有割合(R2)について、下限値は、好ましくは0.02体積%以上、より好ましくは0.10体積%以上、さらに好ましくは0.20体積%以上であり、上限値は、好ましくは1.70体積%以下、より好ましくは1.30体積%以下、さらに好ましくは1.00体積%以下である。
【0038】
上記含有割合(R2)が0.02体積%以上であると、水硬性硬化体の二酸化炭素固定量および圧縮強度を共に向上できる。また、上記含有割合(R2)が1.70体積%以下であると、流動性組成物のフレッシュ性状の悪化を抑制できる。
【0039】
また、水硬性硬化体の用途や特性に応じて、流動性組成物は、水、セメント、および含水炭酸化スラッジ粉末に加えて、高炉スラグ微粉末や骨材をさらに含んでもよい。
【0040】
流動性組成物に含まれる高炉スラグ微粉末はJIS A 6206:2013「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に規定される微粉末である。高炉で、せん鉄と同時に生成する溶融状態の高炉スラグを水や空気によって急冷したものが高炉水砕スラグであり、その塩基度は1.60以上である。この高炉水砕スラグを乾燥・粉砕したもの、又はこれに、石膏を添加したものが、高炉スラグ微粉末である。ポルトランドセメントの一部を高炉スラグ微粉末で代替することにより、セメント製造段階での二酸化炭素排出量を低減させることができる。
【0041】
高炉スラグ微粉末の種類は、比表面積(cm2/g)によって次の4種類が存在するが、本発明においてはいずれを用いてもよい。
a)高炉スラグ微粉末3000:比表面積が2750以上3500未満
b)高炉スラグ微粉末4000:比表面積が3500以上5000未満
c)高炉スラグ微粉末6000:比表面積が5000以上7000未満
d)高炉スラグ微粉末8000:比表面積が7000以上10000未満
【0042】
水硬性硬化体に含まれる骨材は、細骨材および粗骨材の少なくとも一方を含む。
【0043】
細骨材とは、JIS A 5308、JIS A 5005、JIS A 5002及びJIS A 5011で定義される骨材である。細骨材としては、例えば砕砂、砂、川砂、海砂、石灰砕砂、再生骨材、軽量骨材、重量骨材等が挙げられる。
【0044】
粗骨材とは、JIS A 5308、JIS A 5005、JIS A 5002及びJIS A 5011で定義される骨材であり、粒の大きさにより上記の細骨材と区別されるもので、5mm篩を通るか否かで区分する。実用上、10mm篩をすべて通り5mm篩を重量で85%以上通るものを細骨材、5mm篩に重量で85%以上とどまるものを粗骨材としている。
【0045】
また、水硬性硬化体の用途や特性に応じて、流動性組成物は、各種の機能性成分をさらに含んでもよい。例えば、結合材としてCemR3やECMセメント含むことで、二酸化炭素排出量をさらに低減させることができる。
【0046】
調製工程S1の後に実施する硬化工程S2では、調製工程S1で得られた流動性組成物を打設して硬化し、水硬性硬化体を得る。水硬性硬化体には、含水炭酸化スラッジ粉末から水分が除かれた炭酸化スラッジ粉末が含まれている。また、水硬性硬化体には、炭酸化スラッジ粉末と共に含水炭酸化スラッジ粉末が混在してもよい。炭酸化スラッジ粉末の粒径は、含水炭酸化スラッジ粉末の粒径と同程度であり、例えば10μm~20mm程度である。
【0047】
また、硬化工程S2では、流動性組成物を封緘養生して水硬性硬化体を得ることが好ましい。封緘養生により外部から水が供給されない状態では、含水炭酸化スラッジ粉末が保水していた水はセメントの水和反応に使用されるため、水硬性硬化体の強度をさらに向上できる。
【0048】
こうして得られた水硬性硬化体について、流動性組成物における含水炭酸化スラッジ粉末を細骨材の一部に置き換えるなど、流動性組成物が含水炭酸化スラッジ粉末を含むことで、水硬性硬化体の二酸化炭素固定量を増加できる。さらに、含水炭酸化スラッジ粉末はスラッジ粉末よりも多くの二酸化炭素を固定しているため、含水炭酸化スラッジ粉末を含む流動性組成物を硬化してなる水硬性硬化体は二酸化炭素固定量をさらに増加できる。また、流動性組成物が含水炭酸化スラッジ粉末を含むことで、水硬性硬化体の圧縮強度を増加できる。さらに、含水炭酸化スラッジ粉末を含む流動性組成物を硬化してなる水硬性硬化体は圧縮強度を増加できることから、水硬性硬化体の単位セメント量を減らすことができるため、水硬性硬化体の二酸化炭素排出原単位を低減することができる。含水炭酸化スラッジ粉末を調製するためのスラッジ粉末は、コンクリート二次製品製造時に産業廃棄物として大量に発生するため、入手の難易度が高くなく、製造量が多い。
【0049】
次に、本発明の流動性組成物について説明する。
【0050】
本発明の流動性組成物は、水と、セメントと、水分を含み炭酸化している含水炭酸化スラッジ粉末とを含有する。
【0051】
この流動性組成物は、上記本発明の水硬性硬化体の製造方法で用いられる流動性組成物に好適に用いられる。流動性組成物は、上記本発明の水硬性硬化体の製造方法で用いられる流動性組成物と同じ組成であることが好ましい。本発明の流動性組成物は含水炭酸化スラッジ粉末を含んでいるため、流動性組成物を硬化してなる水硬性硬化体は、二酸化炭素固定量および圧縮強度を高めることができる。また、流動性組成物に含まれる含水炭酸化スラッジ粉末を調製するためのスラッジ粉末は、コンクリート二次製品製造時に産業廃棄物として大量に発生するため、入手の難易度が高くなく、製造量が多い。
【0052】
次に、本発明の水硬性硬化体について説明する。
【0053】
本発明の水硬性硬化体は、水と、セメントと、炭酸化している炭酸化スラッジ粉末とを含有する。
【0054】
この水硬性硬化体は、上記本発明の水硬性硬化体の製造方法で製造される水硬性硬化体、および上記本発明の流動性組成物を硬化してなる水硬性硬化体と同じ組成であることが好ましい。流動性組成物に含まれる含水炭酸化スラッジ粉末は水硬性硬化体に含まれる炭酸化スラッジ粉末に読み替える。例えば、水硬性硬化体に含まれるセメントの含有割合(R1)に対する水硬性硬化体に含まれる炭酸化スラッジ粉末の含有割合(R3)の体積比(R3/R1)は、上記本発明の水硬性硬化体の製造方法で用いられる流動性組成物の体積比(R2/R1)と同じであることが好ましい。また、水硬性硬化体に含まれる含水炭酸化スラッジ粉末の含有割合(R3)は、上記本発明の水硬性硬化体の製造方法で用いられる流動性組成物に含まれる含水炭酸化スラッジ粉末の含有割合(R2)と同じであることが好ましい。
【0055】
本発明の水硬性硬化体は、炭酸化スラッジ粉末を含んでいるため、二酸化炭素固定量および圧縮強度を高めることができる。また、水硬性硬化体に含まれる炭酸化スラッジ粉末を調製するためのスラッジ粉末は、コンクリート二次製品製造時に産業廃棄物として大量に発生するため、入手の難易度が高くなく、製造量が多い。水硬性硬化体に含まれる炭酸化スラッジ粉末は、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)で観察できる。
【0056】
以上説明した実施形態によれば、入手の難易度が高くなく、製造量が多いスラッジ粉末を炭酸化かつ含水させた含水炭酸化スラッジ粉末を原料として用いることで、二酸化炭素固定量および圧縮強度の高い水硬性硬化体を製造することができる。
【0057】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0058】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1~19)
まず、スラッジ粉末(PAdeCS(登録商標)、日本コンクリート工業社製)を含水および炭酸化して、表1に示す粒径および含水率の含水炭酸化スラッジ粉末を得た。続いて、水(W)、セメント(C)、含水炭酸化スラッジ粉末、細骨材(S)および粗骨材(G)が表1に示す割合の流動性組成物を調製した後、打設した流動性組成物を表1に示す養生方法で養生することで、水硬性硬化体を製造した。
【0060】
(比較例1~2)
比較例1では、表2に示す組成の流動性組成物にしたこと以外は実施例1と同様にして、水硬性硬化体を製造した。また、比較例2では、表2に示す組成の流動性組成物にしたこと、および表2に示す養生方法にしたこと以外は実施例1と同様にして、水硬性硬化体を製造した。すなわち、比較例1~2では、含水炭酸化スラッジ粉末を用いなかった。
【0061】
(比較例3~5)
まず、スラッジ粉末(PAdeCS(登録商標)、日本コンクリート工業社製)を含水して、表1に示す粒径および含水率の含水スラッジ粉末を得た。続いて、水(W)、セメント(C)、含水スラッジ粉末、細骨材(S)および粗骨材(G)が表2に示す割合の流動性組成物を調製した後、打設した流動性組成物を表2に示す養生方法で養生することで、水硬性硬化体を製造した。すなわち、比較例3~5では、炭酸化していない含水スラッジ粉末を用いた。
【0062】
上記実施例および比較例で調製した流動性組成物および上記実施例および比較例で製造した水硬性硬化体について、下記の測定および評価を行った。
【0063】
[1] スランプ
流動性組成物のフレッシュ性状の評価として、JIS A 1101:2005「コンクリートのスランプ試験方法」に準拠して流動性組成物のスランプ試験を行った。
【0064】
[2] 圧縮強度
JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に従い、材齢7日および材齢28日の水硬性硬化体の圧縮強度を測定した。
【0065】
[3] 二酸化炭素の排出量
水硬性硬化体への二酸化炭素の固定量が増加すると、水硬性硬化体を製造したときの二酸化炭素の排出量が減ることから、水硬性硬化体の二酸化炭素固定量の評価として、水硬性硬化体を製造したときの二酸化炭素の排出量を算出した。そして、以下の基準でランク付けを行った。
【0066】
◎:二酸化炭素の排出量が210kg/m3未満であった。
〇:二酸化炭素の排出量が210kg/m3以上240kg/m3未満であった。
×:二酸化炭素の排出量が240kg/m3以上であった。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
表1~4に示すように、上記実施例では、含水炭酸化スラッジ粉末を含有する流動性組成物を用いたため、流動性組成物のフレッシュ性状の悪化を抑制でき、さらには、水硬性硬化体の二酸化炭素固定量および圧縮強度を向上することができた。一方、上記比較例では、含水炭酸化スラッジ粉末を含有しない流動性組成物を用いたため、水硬性硬化体における二酸化炭素固定量および圧縮強度の少なくとも一方が不十分であった。