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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020775
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】歯車機構および産業用ロボット
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20250205BHJP
   B25J 9/06 20060101ALI20250205BHJP
   F16H 55/26 20060101ALI20250205BHJP
   F16H 55/06 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
F16H57/04 L
B25J9/06 D
F16H55/26
F16H57/04 Z
F16H55/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124354
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【弁理士】
【氏名又は名称】小平 晋
(72)【発明者】
【氏名】荒川 洋
【テーマコード(参考)】
3C707
3J030
3J063
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707BS15
3C707BS26
3C707HS27
3C707HT12
3C707HT22
3C707NS21
3J030AC01
3J030BA01
3J030BA05
3J030BB03
3J030BC01
3J030CA10
3J063AA27
3J063AB02
3J063AC20
3J063BA01
3J063BB48
3J063CA01
3J063CB01
3J063XA11
3J063XC10
3J063XD03
3J063XD72
3J063XE11
3J063XE18
3J063XF30
(57)【要約】
【課題】はすば歯車と、はすば歯車の歯面に潤滑剤を塗布するための潤滑用部材とを備える歯車機構において、潤滑用部材を容易に製造することが可能な歯車機構を提供する。
【解決手段】この歯車機構は、第1のはすば歯車30と、第1のはすば歯車30と噛み合う第2のはすば歯車と、第1のはすば歯車30の歯面に潤滑剤を塗布するための潤滑用部材32とを備えている。潤滑用部材32は、第1のはすば歯車30と噛み合うとともに潤滑剤を浸み込ませた不織布製またはフェルト製の複数の平歯車40を備え、平歯車40の幅は、第1のはすば歯車30の幅よりも狭くなっており、複数の平歯車40は、第1のはすば歯車30の幅方向で重なっている。この歯車機構では、複数の平歯車40のそれぞれが第1のはすば歯車30と噛み合うように、第1のはすば歯車30の幅方向で隣り合う平歯車40の位相が互いにずれている。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のはすば歯車と、前記第1のはすば歯車と噛み合う第2のはすば歯車と、前記第1のはすば歯車の歯面に潤滑剤を塗布するための潤滑用部材とを備え、
前記潤滑用部材は、前記第1のはすば歯車と噛み合うとともに前記潤滑剤を浸み込ませた不織布製またはフェルト製の複数の平歯車を備え、
前記平歯車の幅は、前記第1のはすば歯車の幅よりも狭くなっており、
複数の前記平歯車は、前記第1のはすば歯車の幅方向で重なり、
複数の前記平歯車のそれぞれが前記第1のはすば歯車と噛み合うように、前記第1のはすば歯車の幅方向で隣り合う前記平歯車の位相が互いにずれていることを特徴とする歯車機構。
【請求項2】
前記平歯車に前記潤滑剤を自動で供給するための潤滑剤供給機構を備え、
前記潤滑用部材は、前記第1のはすば歯車の幅方向において前記平歯車の間に配置されるスペーサを備え、
前記スペーサには、前記潤滑剤供給機構から供給される前記潤滑剤の供給経路が形成されていることを特徴とする請求項1記載の歯車機構。
【請求項3】
前記第2のはすば歯車および前記潤滑用部材を保持する保持部材を備え、
前記第1のはすば歯車は、ラックであり、
前記第2のはすば歯車は、ピニオンであり、
前記潤滑用部材は、前記ピニオンと一緒に前記ラックの長手方向に移動することを特徴とする請求項1または2記載の歯車機構。
【請求項4】
前記潤滑用部材は、前記ラックの長手方向において前記ピニオンの一方側に配置されていることを特徴とする請求項3記載の歯車機構。
【請求項5】
前記潤滑用部材は、前記ラックの長手方向において前記ピニオンの両側に配置されていることを特徴とする請求項3記載の歯車機構。
【請求項6】
ハンドと、前記ハンドが連結されるアームと、前記アームが連結される本体部と、前記本体部を移動可能に保持するベース部材と、前記ベース部材に対して前記本体部を水平方向に直線的に移動させる水平移動機構とを備え、
前記水平移動機構は、請求項3に記載の歯車機構と、前記ピニオンを回転させるためのモータとを備えることを特徴とする産業用ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はすば歯車を有する歯車機構に関する。また、本発明は、かかる歯車機構を備える産業用ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ用のガラス基板を搬送する水平多関節型の産業用ロボットが知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の産業用ロボットは、ガラス基板が搭載されるハンドと、ハンドが先端側に連結されるアームと、アームを支持する本体部と、本体部を水平方向に移動可能に支持するベース部材とを備えている。また、この産業用ロボットは、ベース部材に対して本体部を水平方向に移動させる水平移動機構を備えている。水平移動機構は、駆動源としてのモータを備えている。また、水平移動機構は、モータの動力を本体部に伝達するためのラックおよびピニオン等を備えている。
【0003】
また、従来、減速機の一部分を構成する駆動ピニオンと内歯車との噛み合い部分に潤滑油を供給するための潤滑油供給歯車が知られている(たとえば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の潤滑油供給歯車は、潤滑油供給歯車の骨格をなすホイール部と、潤滑油供給歯車の歯面が形成されるとともに潤滑油供給歯車の外周側部分をなす潤滑用歯車部とを備えている。潤滑用歯車部は、フェルトで形成されている。潤滑用歯車部には、潤滑油が浸み込んでいる。潤滑用歯車部は、駆動ピニオンと噛み合っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-209473号公報
【特許文献2】特開2004-239340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、たとえば、特許文献1に記載された水平移動機構のラックの歯面に潤滑剤を塗布するために、ラックと噛み合う潤滑用歯車を採用することを検討した。この潤滑用歯車は、不織布またはフェルトで形成されており、不織布製またはフェルト製の潤滑用歯車には、潤滑剤が浸み込んでいる。しかしながら、ラックと噛み合う潤滑用歯車を採用する場合、ラックおよびピニオンの強度を高めたり、ラックおよびピニオンの精度を確保したりするために、ラックおよびピニオンをはすば歯車とすると、ラックと噛み合う潤滑用歯車もはすば歯車としなければならない。したがって、この場合には、潤滑用歯車の加工が複雑になって、潤滑用歯車を容易に製造することは困難になる。
【0006】
そこで、本発明の課題は、はすば歯車と、はすば歯車の歯面に潤滑剤を塗布するための潤滑用部材とを備える歯車機構において、潤滑用部材を容易に製造することが可能な歯車機構を提供することにある。また、本発明の課題は、かかる歯車機構を備える産業用ロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様の歯車機構は、第1のはすば歯車と、第1のはすば歯車と噛み合う第2のはすば歯車と、第1のはすば歯車の歯面に潤滑剤を塗布するための潤滑用部材とを備え、潤滑用部材は、第1のはすば歯車と噛み合うとともに潤滑剤を浸み込ませた不織布製またはフェルト製の複数の平歯車を備え、平歯車の幅は、第1のはすば歯車の幅よりも狭くなっており、複数の平歯車は、第1のはすば歯車の幅方向で重なり、複数の平歯車のそれぞれが第1のはすば歯車と噛み合うように、第1のはすば歯車の幅方向で隣り合う平歯車の位相が互いにずれていることを特徴とする。
【0008】
本態様の歯車機構では、第1のはすば歯車の歯面に潤滑剤を塗布するための潤滑用部材は、潤滑剤を浸み込ませた不織布製またはフェルト製の複数の平歯車を備えている。また、本態様では、平歯車の幅は、第1のはすば歯車の幅よりも狭くなっており、複数の平歯車は、第1のはすば歯車の幅方向で重なっている。さらに、本態様では、複数の平歯車のそれぞれが第1のはすば歯車と噛み合うように、第1のはすば歯車の幅方向で隣り合う平歯車の位相が互いにずれている。すなわち、本態様では、加工が容易な複数の平歯車を、複数の平歯車のそれぞれが第1のはすば歯車と噛み合うように位相をずらした状態で第1のはすば歯車の幅方向に重ねることで潤滑用部材が製造されている。そのため、本態様では、第1のはすば歯車の歯面に潤滑剤を塗布するための潤滑用部材を容易に製造することが可能になる。
【0009】
また、本態様では、第1のはすば歯車の幅が変更されても、同じ形状の平歯車の個数を変更することで、第1のはすば歯車の幅に応じて潤滑用部材の幅を変更することが可能になる。また、本態様では、第1のはすば歯車のねじれ角が変更されても、同じ形状の平歯車の位相のずれ量を調整することで、複数の平歯車のそれぞれが第1のはすば歯車と噛み合うように潤滑用部材を製造することが可能になる。そのため、本態様では、潤滑用部材を構成する平歯車の汎用性を高めることが可能になる。
【0010】
本態様において、たとえば、歯車機構は、平歯車に潤滑剤を自動で供給するための潤滑剤供給機構を備え、潤滑用部材は、第1のはすば歯車の幅方向において平歯車の間に配置されるスペーサを備え、スペーサには、潤滑剤供給機構から供給される潤滑剤の供給経路が形成されている。この場合には、スペーサを介して平歯車に潤滑剤を継続的に供給することが可能になる。
【0011】
本態様において、たとえば、歯車機構は、第2のはすば歯車および潤滑用部材を保持する保持部材を備え、第1のはすば歯車は、ラックであり、第2のはすば歯車は、ピニオンであり、潤滑用部材は、ピニオンと一緒にラックの長手方向に移動する。第1のはすば歯車が回転型の歯車である場合と比較して、第1のはすば歯車がラックである場合には、ラックの歯面に潤滑剤を塗布しにくくなるが、本態様では、第1のはすば歯車がラックであっても、潤滑用部材を用いてラックの歯面に潤滑剤を容易に塗布することが可能になる。
【0012】
本態様において、たとえば、潤滑用部材は、ラックの長手方向においてピニオンの一方側に配置されている。この場合には、歯車機構の構成を簡素化することが可能になる。また、本態様において、潤滑用部材は、ラックの長手方向においてピニオンの両側に配置されていても良い。この場合には、ラックの歯面に潤滑剤を効果的に塗布することが可能になる。
【0013】
本態様の歯車機構は、産業用ロボットに用いることができる。この産業用ロボットは、ハンドと、ハンドが連結されるアームと、アームが連結される本体部と、本体部を移動可能に保持するベース部材と、ベース部材に対して本体部を水平方向に直線的に移動させる水平移動機構とを備え、水平移動機構は、本態様の歯車機構と、ピニオンを回転させるためのモータとを備えている。この産業用ロボットでは、第1のはすば歯車の歯面に潤滑剤を塗布するための潤滑用部材を容易に製造することが可能になる。また、この産業用ロボットでは、潤滑用部材を構成する平歯車の汎用性を高めることが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の態様では、はすば歯車と、はすば歯車の歯面に潤滑剤を塗布するための潤滑用部材とを備える歯車機構において、潤滑用部材を容易に製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態にかかる産業用ロボットの平面図である。
図2図1に示す産業用ロボットの側面図である。
図3図1に示す産業用ロボットの水平移動機構およびガイド機構の構成を説明するための平面図である。
図4図3のE-E方向から水平移動機構の構成を説明するための図である。
図5図3のF-F方向から水平移動機構の構成を説明するための図である。
図6図5に示すスペーサおよび固定軸の構成を説明するための図である。
図7】(A)は、図5のG部の構成を説明するための拡大図であり、(B)は、(A)に示す2個の平歯車の平面図である。
図8】本発明の他の実施の形態にかかる歯車機構の構成を説明するための平面図である。
図9図8のH-H方向から歯車機構の構成を説明するための図である。
図10図9のJ-J方向から潤滑用部材等を示す図である。
図11】(A)は、図9のK部の構成を説明するための拡大図であり、(B)は、(A)に示す3個の平歯車の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
(産業用ロボットの全体構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかる産業用ロボット1の平面図である。図2は、図1に示す産業用ロボット1の側面図である。図3は、図1に示す産業用ロボット1の水平移動機構19およびガイド機構20の構成を説明するための平面図である。
【0018】
本形態の産業用ロボット1(以下、「ロボット1」とする。)は、液晶ディスプレイ用のガラス基板2(以下、「基板2」とする。)を搬送するための水平多関節型のロボットである。ロボット1は、基板2が搭載される2個のハンド3と、2個のハンド3のそれぞれが連結される2本のアーム4と、2本のアーム4が連結される本体部5と、本体部5を移動可能に保持するベース部材6とを備えている。ハンド3は、アーム4の先端側に回動可能に連結されている。アーム4の基端側は、本体部5に回動可能に連結されている。
【0019】
本体部5は、ベース部材6に対して水平方向に直線的に移動可能となっている。本体部5は、アーム4の基端側を支持するとともに昇降可能なアームサポート7と、アームサポート7を昇降可能に支持する支持フレーム8と、本体部5の下端部分を構成するとともにベース部材6に対して水平移動可能な基台9と、支持フレーム8の下端が固定されるとともに基台9に対して回動可能な旋回フレーム10とを備えている。なお、図3では、ベース部材6の図示を省略している。
【0020】
アーム4は、第1アーム部14と第2アーム部15との2個のアーム部によって構成されている。第1アーム部14の基端側は、アームサポート7に回動可能に連結されている。第1アーム部14の先端側には、第2アーム部15の基端側が回動可能に連結されている。第2アーム部15の先端側には、ハンド3が回動可能に連結されている。アーム4は、ハンド3が一定方向を向いた状態で直線的に移動するように水平方向へ伸縮可能となっている。具体的には、アーム4は、ハンド3が一定方向を向いた状態で、かつ、ハンド3とアーム4との連結部分が直線的に移動するように水平方向へ伸縮可能となっている。
【0021】
支持フレーム8は、アームサポート7を介してハンド3およびアーム4を昇降可能に保持している。支持フレーム8は、アームサポート7を昇降可能に保持する柱状の第1支持フレーム16と、第1支持フレーム16を昇降可能に保持する柱状の第2支持フレーム17とを備えている。旋回フレーム10は、上下方向の厚さが薄い扁平な直方体状に形成されている。また、旋回フレーム10は、細長い直方体状に形成されている。旋回フレーム10の先端側の上面には、第2支持フレーム17の下端部が固定されている。旋回フレーム10の基端側は、上下方向を回動の軸方向とする回動が可能となるように基台9に支持されている。旋回フレーム10は、基台9よりも上側に配置されている。
【0022】
ロボット1は、アーム4を駆動するアーム駆動機構を備えている。具体的には、ロボット1は、2本のアーム4を個別に駆動する2個のアーム駆動機構を備えている。また、ロボット1は、第1支持フレーム16に対してアームサポート7を昇降させるとともに第2支持フレーム17に対して第1支持フレーム16を昇降させる昇降機構と、第1支持フレーム16を上下方向に案内するガイド機構と、アームサポート7を上下方向へ案内するガイド機構と、旋回フレーム10を回動させる回動機構とを備えている。
【0023】
また、ロボット1は、ベース部材6に対して本体部5を水平方向に直線的に移動させる水平移動機構19と、本体部5を水平方向へ案内するガイド機構20とを備えている(図3参照)。水平移動機構19は、駆動源としてのモータ21と、モータ21の動力を本体部5に伝達するための動力伝達機構22とを備えている。ガイド機構20は、ベース部材6に固定されるガイドレール23と、基台9に固定されるとともにガイドレール23に係合する複数のスライダー24とを備えている。水平移動機構19の具体的な構成については後述する。
【0024】
ロボット1は、アーム4の伸縮動作と、アーム4等の昇降動作、回動動作および水平移動動作との組合せによって基板2の搬送を行う。以下の説明では、ベース部材6に対する本体部5の移動方向(図1等のY方向)を「前後方向」とし、上下方向と前後方向とに直交する図1等のX方向を「左右方向」とする。また、前後方向の一方側である図1等のY1方向側を「前」側とし、その反対側である図1等のY2方向側を「後ろ」側とし、左右方向の一方側である図1等のX1方向側を「右」側とし、その反対側である図1等のY2方向側を「左」側とする。
【0025】
(水平移動機構の構成)
図4は、図3のE-E方向から水平移動機構19の構成を説明するための図である。図5は、図3のF-F方向から水平移動機構19の構成を説明するための図である。図6は、図5に示すスペーサ41および固定軸42の構成を説明するための図である。図7(A)は、図5のG部の構成を説明するための拡大図であり、図7(B)は、図7(A)に示す2個の平歯車40の平面図である。
【0026】
上述のように、水平移動機構19は、モータ21と動力伝達機構22とを備えている。動力伝達機構22は、駆動側のプーリ27と、従動側のプーリ28と、2個のプーリ27、28に掛け渡されるベルト29と、ベース部材6に固定されるラック30と、ラック30と噛み合うピニオン31と、ラック30の歯面に潤滑剤を塗布するための潤滑用部材32と、潤滑用部材32の一部を構成する後述の平歯車40に潤滑剤を自動で供給するための潤滑剤供給機構33とを備えている。また、動力伝達機構22は、モータ21、プーリ27、28、ピニオン31、潤滑用部材32および潤滑剤供給機構33を保持する保持部材34を備えている。なお、図3では、潤滑剤供給機構33の図示を省略している。
【0027】
保持部材34は、基台9に固定されている。具体的には、保持部材34は、基台9の右端部に固定されている。モータ21は、保持部材34に固定されている。モータ21の出力軸は、上側に向かって突出している。プーリ27は、モータ21の出力軸に固定されている。図4に示すように、プーリ28は、回転軸35に固定されている。回転軸35は、軸受36に回転可能に保持されている。軸受36は、保持部材34に取り付けられている。回転軸35の軸方向は、上下方向と一致している。回転軸35は、モータ21よりも前側に配置されている。プーリ28は、回転軸35の上端側に固定されている。プーリ27、28は、上下方向を回転の軸方向として回転する。プーリ28の外径は、プーリ27の外径よりも大きくなっている。
【0028】
ラック30は、はすば歯車である。すなわち、ラック30は、ヘリカルラックである。ピニオン31は、はすば歯車である。すなわち、ピニオン31は、ヘリカルピニオンである。本形態のラック30は、第1のはすば歯車であり、ピニオン31は、第2のはすば歯車である。また、本形態の動力伝達機構22は、第1のはすば歯車と第2のはすば歯車とを備える歯車機構である。
【0029】
ラック30は、ラック30の長手方向と前後方向とが一致するようにベース部材6に固定されている。すなわち、前後方向(Y方向)は、ラック30の長手方向である。また、ラック30は、ラック30の歯先が右側を向くように配置されている。ラック30の幅方向は、上下方向と一致している。すなわち、上下方向は、ラック30の幅方向である。ピニオン31は、回転軸35の下端側に固定されている。ピニオン31は、右側からラック30と噛み合っている。モータ21が回転すると、上下方向を回転の軸方向としてピニオン31が回転して、ベース部材6に対して本体部5が前後方向に移動する。
【0030】
潤滑用部材32は、プーリ28およびピニオン31よりも前側に配置されている。すなわち、潤滑用部材32は、前後方向においてピニオン31の一方側に配置されている。潤滑用部材32は、ラック30と噛み合うとともに潤滑剤を浸み込ませた不織布製またはフェルト製の複数の平歯車40を備えている。本形態の潤滑用部材32は、2個の平歯車40を備えている。2個の平歯車40は、上下方向で重なっている。また、潤滑用部材32は、2個の平歯車40の間に配置されるスペーサ41と、2個の平歯車40を回転可能に保持する固定軸42とを備えている。
【0031】
固定軸42は、保持部材34に固定されている。固定軸42は、保持部材34と一緒に前後方向に移動する。すなわち、潤滑用部材32は、回転軸35を介して保持部材34に取り付けられるピニオン31と一緒に前後方向に移動する。固定軸42の軸方向は、上下方向と一致している。固定軸42は、平歯車40の内周側に挿通されている。平歯車40は、上下方向を回転の軸方向として固定軸42に対して回転可能になっている。
【0032】
スペーサ41は、たとえば、樹脂で形成されている。また、スペーサ41は、略円板状に形成されている。スペーサ41は、スペーサ41の厚さ方向と上下方向とが一致するように配置されている。スペーサ41は、上下方向において2個の平歯車40の間に配置されている。スペーサ41の中心に形成される貫通穴には固定軸42が挿通されている。スペーサ41は、保持部材34に固定されている。上下方向で重なる平歯車40とスペーサ41とは軽く接触している。あるいは、上下方向における平歯車40とスペーサ41との間にはわずかな隙間が形成されている。
【0033】
平歯車40は、たとえば、金型を用いたプレス加工によって形成される。平歯車40の歯形は単純な形状であるため、平歯車40の加工は容易である。平歯車40には、潤滑剤としての潤滑油が浸み込んでいる。具体的には、平歯車40には、グリースが浸み込んでいる。すなわち、平歯車40は、潤滑用歯車となっている。平歯車40の幅は、ラック30の幅よりも狭くなっている。スペーサ41の厚さ(上下方向の厚さ)は、ラック30の幅よりも薄くなっている。ラック30の幅は、2個の平歯車40の幅とスペーサ41の厚さとの合計よりも広くなっている。
【0034】
平歯車40は、右側からラック30と噛み合っている。本形態では、図7に示すように、2個の平歯車40のそれぞれがラック30と噛み合うように、2個の平歯車40の位相が互いにずれている。すなわち、2個の平歯車40のそれぞれがラック30と噛み合うように、スペーサ41を介して上下方向で隣り合う平歯車40の位相が互いにずれている。すなわち、本形態では、2個の平歯車40のそれぞれがラック30と噛み合うように、2個の平歯車40のうちの一方の平歯車40の歯先の位置と他方の平歯車40の歯先の位置とが、ラック30の歯の形状に応じて平歯車40の周方向で互いにずれている。なお、平歯車40は不織布またはフェルトで形成されているため、ベース部材6に対して本体部5が前後方向に何回か移動してラック30と噛み合う平歯車40が複数回、回転すると、平歯車40とラック30との噛み合い状態がより良好になる。
【0035】
潤滑剤供給機構33は、たとえば、シマテック社製の「シマルーベ」という製品名の製品である。潤滑剤供給機構33では、微量の電気で発生させた水素ガスがグリースの収納容器の内部に充満していくことによってピストンが押し下げられて、グリースが吐出される。潤滑剤供給機構33は、固定軸42の上端部に固定されている。図6に示すように、固定軸42には、潤滑剤供給機構33から供給されるグリースの供給経路42aが形成されている。スペーサ41には、潤滑剤供給機構33から供給されるグリースの供給経路41aが形成されている。供給経路41aは、供給経路42aに通じている。供給経路41aは、スペーサ41の外周面で開口している。潤滑剤供給機構33から供給されるグリースは、供給経路41a、42aを経由して平歯車40の歯先部分に供給される。
【0036】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、ラック30の歯面にグリースを塗布するための潤滑用部材32は、不織布製またはフェルト製の2個の平歯車40を備えている。また、本形態では、平歯車40の幅は、ラック30の幅よりも狭くなっており、2個の平歯車40は、ラック30の幅方向となる上下方向で重なっている。さらに、本形態では、2個の平歯車40のそれぞれがラック30と噛み合うように、2個の平歯車40の位相が互いにずれている。すなわち、本形態では、加工が容易な2個の平歯車40を、2個の平歯車40のそれぞれがラック30と噛み合うように位相をずらした状態で上下方向に重ねることで潤滑用部材32が製造されている。そのため、本形態では、潤滑用部材32を容易に製造することが可能になる。
【0037】
また、本形態では、ラック30の幅が変更されても、上下方向で重なる平歯車40の個数を変更することで、ラック30の幅に応じて潤滑用部材32の幅を変更することが可能になる。また、本形態は、ラック30のねじれ角が変更されても、2個の平歯車40の位相のずれ量を調整することで、2個の平歯車40のそれぞれがラック30と噛み合うように潤滑用部材32を製造することが可能になる。そのため、本形態では、潤滑用部材32を構成する平歯車40の汎用性を高めることが可能になる。また、本形態では、潤滑剤供給機構33から供給経路41a、42aを介して平歯車40にグリースが自動で供給されるため、平歯車40にグリースを継続的に供給することが可能になる。
【0038】
(動力伝達機構の変更例)
図8は、本発明の他の実施の形態にかかる動力伝達機構22の構成を説明するための平面図である。図9は、図8のH-H方向から動力伝達機構22の構成を説明するための図である。図10は、図9のJ-J方向から潤滑用部材32等を示す図である。図11(A)は、図9のK部の構成を説明するための拡大図であり、図11(B)は、図11(A)に示す3個の平歯車40の平面図である。
【0039】
上述した形態において、潤滑用部材32は、3個以上の平歯車40を備えていても良い。たとえば、潤滑用部材32は、図9図11に示すように、3個の平歯車40を備えていても良い。この場合には、たとえば、潤滑用部材32は、スペーサ41を備えていない。3個の平歯車40は、上下方向で重なっている。上下方向で重なる3個の平歯車40は互いに軽く接触している。3個の平歯車40は、固定軸42に回転可能に保持されており、上下方向を回転の軸方向として固定軸42に対して回転可能になっている。
【0040】
上述した形態と同様に、平歯車40の幅は、ラック30の幅よりも狭くなっている。ラック30の幅は、3個の平歯車40の幅の合計よりも広くなっている。この変更例においても、図11に示すように、3個の平歯車40のそれぞれがラック30と噛み合うように、3個の平歯車40の位相が互いにずれている。すなわち、3個の平歯車40のそれぞれがラック30と噛み合うように、上下方向で隣り合う平歯車40の位相が互いにずれている。すなわち、3個の平歯車40のそれぞれがラック30と噛み合うように、3個の平歯車40のうちの1個の平歯車40の歯先の位置と、残りの2個の平歯車40のうちの1個の平歯車40の歯先の位置と、残りの1個の平歯車40の歯先の位置とが、ラック30の歯の形状に応じて平歯車40の周方向で互いにずれている。
【0041】
この変更例では、図8に示すように、潤滑用部材32は、前後方向でピニオン31を挟むように2箇所に配置されている。すなわち、動力伝達機構22は、2個の潤滑用部材32を備えており、潤滑用部材32は、前後方向においてピニオン31の両側に配置されている。また、この変更例では、動力伝達機構22は、潤滑剤供給機構33を備えていない。固定軸42の上端部には、グリース供給用の継ぎ手45が取り付けられている。平歯車40には、たとえば、継ぎ手45に接続されるグリースの供給機から手動でグリースが供給される。この変更例においても、上述した形態と同様の効果を得ることができる。
【0042】
なお、動力伝達機構22は、3個以上の潤滑用部材32を備えていても良い。また、潤滑用部材32が3個以上の複数の平歯車40を備えている場合には、複数の平歯車40の中に位相が同じになる平歯車40が含まれていても良い。たとえば、潤滑用部材32が4個の平歯車40を備えている場合、一番上に配置される平歯車40の位相と一番下に配置される平歯車40の位相とが同じになっていても良い。すなわち、一番上に配置される平歯車40の歯先の位置と一番下に配置される平歯車40の歯先の位置とが平歯車40の周方向で同じ位置に配置されていても良い。この場合であっても、上下方向で隣り合う平歯車40の位相は互いにずれている。
【0043】
(他の実施の形態)
上述した形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形実施が可能である。
【0044】
上述した形態において、アーム4は、3個以上のアーム部によって構成されていても良い。また、上述した形態において、ロボット1は、基板2以外の搬送対象物を搬送しても良い。また、上述した形態において、潤滑剤供給機構33は、シマテック社製のシマルーベ以外の物であっても良い。たとえば、潤滑剤供給機構33は、グリースが収容されるタンクと、タンクの中のグリースを固定軸42の供給経路42aに向かって送る電動ポンプとを備えるグリースの自動供給装置であっても良い。
【0045】
本発明が適用される歯車機構は、たとえば、第1支持フレーム16に対してアームサポート7を昇降させるとともに第2支持フレーム17に対して第1支持フレーム16を昇降させる昇降機構の動力伝達機構として使用されても良い。また、本発明が適用される歯車機構は、水平多関節型のロボット以外のロボットで使用されても良いし、ロボット以外の装置で使用されても良い。
【0046】
本発明が適用される歯車機構では、第1のはすば歯車および第2のはすば歯車が回転型の歯車であっても良い。なお、第1のはすば歯車が回転型の歯車である場合と比較して、第1のはすば歯車がラック30である場合には、ラック30の歯面に潤滑剤を塗布しにくくなるが、上述した形態では、第1のはすば歯車がラック30であっても、潤滑用部材32を用いてラック30の歯面に潤滑剤を容易に塗布することが可能になる。
【0047】
(本技術の構成)
なお、本技術は以下のような構成を取ることが可能である。
(1)第1のはすば歯車と、前記第1のはすば歯車と噛み合う第2のはすば歯車と、前記第1のはすば歯車の歯面に潤滑剤を塗布するための潤滑用部材とを備え、
前記潤滑用部材は、前記第1のはすば歯車と噛み合うとともに前記潤滑剤を浸み込ませた不織布製またはフェルト製の複数の平歯車を備え、
前記平歯車の幅は、前記第1のはすば歯車の幅よりも狭くなっており、
複数の前記平歯車は、前記第1のはすば歯車の幅方向で重なり、
複数の前記平歯車のそれぞれが前記第1のはすば歯車と噛み合うように、前記第1のはすば歯車の幅方向で隣り合う前記平歯車の位相が互いにずれていることを特徴とする歯車機構。
(2)前記平歯車に前記潤滑剤を自動で供給するための潤滑剤供給機構を備え、
前記潤滑用部材は、前記第1のはすば歯車の幅方向において前記平歯車の間に配置されるスペーサを備え、
前記スペーサには、前記潤滑剤供給機構から供給される前記潤滑剤の供給経路が形成されていることを特徴とする(1)記載の歯車機構。
(3)前記第2のはすば歯車および前記潤滑用部材を保持する保持部材を備え、
前記第1のはすば歯車は、ラックであり、
前記第2のはすば歯車は、ピニオンであり、
前記潤滑用部材は、前記ピニオンと一緒に前記ラックの長手方向に移動することを特徴とする(1)または(2)記載の歯車機構。
(4)前記潤滑用部材は、前記ラックの長手方向において前記ピニオンの一方側に配置されていることを特徴とする(3)記載の歯車機構。
(5)前記潤滑用部材は、前記ラックの長手方向において前記ピニオンの両側に配置されていることを特徴とする(3)記載の歯車機構。
(6)ハンドと、前記ハンドが連結されるアームと、前記アームが連結される本体部と、前記本体部を移動可能に保持するベース部材と、前記ベース部材に対して前記本体部を水平方向に直線的に移動させる水平移動機構とを備え、
前記水平移動機構は、(3)から(5)のいずれかに記載の歯車機構と、前記ピニオンを回転させるためのモータとを備えることを特徴とする産業用ロボット。
【符号の説明】
【0048】
1 ロボット(産業用ロボット)
3 ハンド
4 アーム
5 本体部
6 ベース部材
19 水平移動機構
21 モータ
22 動力伝達機構(歯車機構)
30 ラック(第1のはすば歯車)
31 ピニオン(第2のはすば歯車)
32 潤滑用部材
33 潤滑剤供給機構
34 保持部材
40 平歯車
41 スペーサ
41a 供給経路
Y ラックの長手方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11