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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002080
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】玩具用毛髪
(51)【国際特許分類】
   A63H 3/44 20060101AFI20241226BHJP
   A63H 3/04 20060101ALI20241226BHJP
   A63H 9/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
A63H3/44
A63H3/04 B
A63H9/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102001
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000111890
【氏名又は名称】パイロットインキ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】堀山 英杜
【テーマコード(参考)】
2C150
【Fターム(参考)】
2C150BC02
2C150CA01
2C150EB46
2C150FB11
2C150FB20
2C150FB33
2C150FB43
(57)【要約】
【課題】 特定温度域において外部応力の適用により任意形状に変形可能であり、さらに、変形させた状態を特定温度域で固定でき、必要に応じて元の状態に復元させることができる機能を備え、繰り返し変形可能で遊戯性に優れると共に、質感が良好であり、フィラメント同士の融着が抑制された玩具用毛髪と、この玩具用毛髪を用いた人形等の玩具を提供する。
【解決手段】 4-メチル-1-ペンテン由来の構成単位と、4-メチル-1-ペンテン以外のC2-20のα-オレフィン由来の構成単位とを含んでなる4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と、低密度ポリエチレンと、を含んでなり、平均外径が0.2~3mmであるフィラメントから構成される玩具用毛髪。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位と、4-メチル-1-ペンテン以外のC2-20のα-オレフィン由来の構成単位とを含んでなる4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィンン共重合体と、
低密度ポリエチレンと、
を含んでなり、平均外径が0.2~3mmであるフィラメントから構成される、
玩具用毛髪。
【請求項2】
前記4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と低密度ポリエチレンとが溶融ブレンドされてなる、請求項1記載の玩具用毛髪。
【請求項3】
前記4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と低密度ポリエチレンの質量比率が、20:80~99:1である、請求項1又は2記載の玩具用毛髪。
【請求項4】
熱変色性材料を含んでなる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の玩具用毛髪。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の玩具用毛髪を具備してなる、玩具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は玩具用毛髪に関する。さらに詳細には、特定温度域における外部応力の適用により簡易に任意形状に変形可能であり、さらに、外部応力を適用させて任意形状に変形させた状態を特定温度域で固定することができ、必要に応じて元の形状に復元できる機能を備えた玩具用毛髪に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、玩具用毛髪としてポリアミド、ポリオレフィン、塩化ビニリデン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等からなる繊維が用いられている。これらの繊維を用いた玩具用毛髪は、繊維の軟化点以上の高温下で、特殊の治具を使用しなければ毛髪を変形させることができず、毛髪を変形させてカール等を施して遊ぶことは困難であった。
【0003】
このような問題を解消するために、形状記憶合金や形状記憶樹脂を用いた毛髪が開示されている(例えば、特許文献1および2参照)。
形状記憶合金や形状記憶樹脂は、初期形状から任意形状に変形させた後、変形形状で固定することができ、特定の温度以上に加熱することにより初期形状に戻る性質を有するものであるが、引用文献1で開示される毛髪は金属を用いるものであるため、毛髪としての風合いに劣るものであった。また、引用文献2で開示される毛髪は樹脂を用いるものであるが、使用する樹脂によっては毛髪を構成する繊維の紡糸性に劣り、また、特定の温度以上で繊維同士が融着を起こすことがあり、商品性を満足させるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭62-137086号公報
【特許文献2】実開平2-14198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述のような問題に着目してなされたものであり、特定温度域において外部応力の適用により簡易に任意形状に変形可能であり、さらに、変形させた状態を特定温度域で固定することができ、必要に応じて元の形状に復元できる機能を備えると共に、質感が良好で、フィラメント同士の融着が抑制された玩具用毛髪と、この玩具用毛髪を用いた人形等の玩具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、4-メチル-1-ペンテン由来の構成単位と、4-メチル-1-ペンテン以外のC2-20のα-オレフィン由来の構成単位とを含んでなる4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と、低密度ポリエチレンと、を含んでなり、平均外径が0.2~3mmであるフィラメントから構成される玩具用毛髪を要件とする。
また、前記4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と低密度ポリエチレンとが溶融ブレンドされてなること、前記4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と低密度ポリエチレンの質量比率が、20:80~99:1であること、熱変色性材料を含んでなることを要件とする。
さらには、前記玩具用毛髪を具備してなる玩具を要件とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、特定温度域において外部応力の適用により任意形状に変形可能であり、さらに、変形させた状態を特定温度域で固定でき、必要に応じて元の状態に復元させることができる機能を備え、繰り返し変形可能で遊戯性に優れると共に、質感が良好であり、フィラメント同士の融着が抑制された玩具用毛髪と、この玩具用毛髪を用いた人形等の玩具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】加熱消色型の可逆熱変色性組成物の色濃度-温度曲線におけるヒステリシス特性を説明するグラフである。
図2】色彩記憶性を有する加熱消色型の可逆熱変色性組成物の色濃度-温度曲線におけるヒステリシス特性を説明するグラフである。
図3】加熱発色型の可逆熱変色性組成物の色濃度-温度曲線におけるヒステリシス特性を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明による玩具用毛髪(以下、「毛髪」と表すことがある)は、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と、低密度ポリエチレンとを含んでなるフィラメントから構成される。そして、特定温度域において簡易に任意形状に変形可能であり、変形させた状態を特定温度域で固定することができる(形状保持性)と共に、必要に応じて変形形状から元の形状に復元できる(形状復元性)機能を有する。ここで、形状保持性と形状復元性をまとめて「形状記憶性」といい、本発明による玩具用毛髪を構成するフィラメントは形状記憶性を有する。以下に、本発明による玩具用毛髪を構成する各成分について説明する。
【0010】
本発明による玩具用毛髪を構成するフィラメントは、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体〔以下、「重合体(I)と表すことがある」〕を含んでなる。4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体は、少なくとも4-メチル-1-ペンテン由来の構成単位(Ia)と、4-メチル-1-ペンテン以外のC2-20のα-オレフィン由来の構成単位(Ib)を含む。ここで「C2-20のα-オレフィン」は、特に断らない限り、4-メチル-1-ペンテンを含まないことを意味する。
【0011】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体において、構成単位(Ia)と構成単位(Ib)の配合割合は特に限定されるものではない。共重合体の共重合性および物性に優れることから、構成単位(Ia)と構成単位(Ib)との合計を100mol%とした場合、構成単位(Ia)が50~95mol%であり、構成単位(Ib)が5~50mol%であることが好ましく、構成単位(Ia)が70~90mol%であり、構成単位(Ib)が10~30mol%であることがより好ましい。
【0012】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体に用いられる、C2-20のα-オレフィンとしては、例えば、直鎖状または分岐状α-オレフィン、環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、官能基化ビニル化合物等を例示できる。
【0013】
直鎖状α-オレフィンの炭素数としては、好ましくは2~15、より好ましくは2~10、さらに好ましくは2または3である。
直鎖状α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等を例示できる。これらの中でも好ましくは、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンであり、より好ましくは、エチレンまたはプロピレンである。
【0014】
分岐状α-オレフィンの炭素数としては、好ましくは5~20、より好ましくは5~15である。
分岐状α-オレフィンとしては、例えば、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン等を例示できる。
【0015】
環状オレフィンの炭素数としては3~20であり、好ましくは5~15である。
環状オレフィンとしては、例えば、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロへプテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン、テトラシクロドデセン、ビニルシクロヘキサン等を例示できる。
【0016】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o,p-ジメチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン等の、モノまたはポリアルキルスチレン等を例示できる。
【0017】
共役ジエンの炭素数としては4~20であり、好ましくは4~10である。
共役ジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、4-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン等を例示できる。
【0018】
官能基化ビニル化合物としては、例えば、C2-20の直鎖状または分岐状の末端水酸基化α-オレフィン等の水酸基含有オレフィン;周期表第17族原子を有する、C2-20の、直鎖状または分岐状のハロゲン化α-オレフィン等のハロゲン化オレフィン;(メタ)アクリル酸、プロピオン酸、3-ブテン酸、4-ペンテン酸、5-ヘキセン酸、6-ヘプテン酸、7-オクテン酸、8-ノネン酸、9-デセン酸、10-ウンデセン酸等の不飽和カルボン酸;アリルアミン、5-ヘキセンアミン、6-へプテンアミン等の不飽和アミン;(2,7-オクタジエニル)コハク酸無水物、ペンタプロペニルコハク酸無水物等のコハク酸無水物;上記不飽和カルボン酸から得られる無水物等の不飽和カルボン酸無水物;上記不飽和カルボン酸から得られるハロゲン化物等の不飽和カルボン酸ハライド;不飽和エポキシ化合物;エチレン性不飽和シラン化合物等を例示できる。
【0019】
α-オレフィンは一種、または二種以上を併用して用いることもできる。
【0020】
α-オレフィンとしては、C2-4の直鎖状α-オレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等を例示できる。フィラメントの柔軟性を良好とし易いことから、エチレンまたはプロピレンがより好ましく、プロピレンがさらに好ましい。
【0021】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体における、4-メチル-1-ペンテンおよびα-オレフィン等の配合割合は、例えば、13C NMRにより測定することができる。
【0022】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体は、後述する要件(i)~(v)を満たすことが好ましい。
【0023】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体は、(i)135℃のデカリン中での極限粘度[η]が、好ましくは0.5~5.0dL/g、より好ましくは0.6~4.0dL/g、さらに好ましくは1.0~2.5dL/gである。極限粘度[η]は、共重合体を調製する際の、重合工程における水素の添加量により調整することができる。
極限粘度[η]は、デカリンを用いて135℃で測定した値であり、下記の方法により測定することができる。
【0024】
(極限粘度の測定方法)
1.4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体約20mgをデカリン15mlに溶解させてデカリン溶液とし、135℃のオイルバス中で比粘度(ηsp)を測定する。
2.デカリン溶液に、さらにデカリン5mlを加えて希釈し、比粘度(ηsp)を同様に測定する。
3.4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体の単位濃度(C)あたりの粘度の増加量、すなわち還元粘度(ηred=ηsp/C)を求める。
4.濃度と還元粘度との関係をプロットし、濃度(C)を0に外挿したときの切片から極限粘度[η]を求める。あるいは、下記式(I)により極限粘度[η]を求める。
【数1】
【0025】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体は、(ii)示差走査熱量測定(DSC)により測定した融点(Tm)が、200℃以下、または実質的に融点がないことが好ましく、融点が110~180℃、または実質的に融点がないことがより好ましく、融点が160℃未満、または実質的に融点がないことがさらに好ましい。融点(Tm)は、共重合体におけるC2-20のα-オレフィンの配合割合により調整することができる。
融点(Tm)は、下記の示差走査熱量測定により測定することができる。
【0026】
(示差走査熱量測定)
1.4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体約5mgをアルミニウム製容器に入れ蓋をして密封し、測定用試料とする。
2.測定用試料を測定装置にセットし、10℃/minの昇温速度で290℃まで昇温させ、290℃で5分間保持し、10℃/minの冷却速度で-50℃まで降温させる。
3.得られるDSC曲線における融解による吸熱ピークの頂点の温度から、融点(Tm)を求める。
【0027】
DSC曲線において、吸熱ピークの面積は融解エンタルピー(ΔH)を表す。融点が存在しない場合は吸熱ピークが観測されないことから、吸熱ピークの面積、すなわち融解エンタルピー(ΔH)は求められない。
本発明において「実質的に融点が存在しない」とは、DSC曲線における融解エンタルピーが実質的に存在しないことを意味する。「融解エンタルピーが実質的に存在しない」とは、融解エンタルピー(ΔH)が0~10J/gであることも含み、好ましくは0~5J/gである。
【0028】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体は、(iii)密度が、好ましくは820~850kg/m、より好ましくは825~850kg/m、さらに好ましくは825~845kg/m、特に好ましくは825~840kg/mである。密度は、共重合体におけるC2-20のα-オレフィンの種類、あるいは、4-メチル-1-ペンテンおよびC2-20のα-オレフィンの配合割合により調整することができる。
密度は、JIS K7112に準拠した方法により測定することができる。
【0029】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体は、(iv)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した分子量分布(Mw/Mn)が、好ましくは1.0~3.5、より好ましくは1.3~3.0、さらに好ましくは1.5~2.5である。分子量分布(Mw/Mn)は、共重合体を調製する際に用いられる重合用触媒の種類により調整することができる。
分子量分布(Mw/Mn)は、下記のゲル浸透クロマトグラフィーにより質量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を測定し、求めることができる。
【0030】
(ゲル浸透クロマトグラフィー)
1.カラム温度を140℃とし、移動相にはo-ジクロロベンゼンおよび酸化防止剤(ジブチルヒドロキシトルエン)0.025質量%を用い、1.0mL/minで移動させる。
2.4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体の濃度を15mg/10mLに調整し、500μL注入し、示差屈折計を用いて検出する。
【0031】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体は、(v)JIS K7210に準拠したメルトフローレート(MFR)が、好ましくは0.1~100g/10min、より好ましくは0.5~50g/10min、さらに好ましくは0.5~30g/10minである。フィラメントを成形する際の流動性の観点から、メルトフローレートが上記範囲内にあることが好適である。
なお、メルトフローレートはJIS K7210に準拠し、230℃、2.16kg荷重により測定した値である。
【0032】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体の製造方法は特に限定されるものではなく、種々の方法により製造することができる。例えば、重合用触媒の存在下で、4-メチル-1-ペンテンと、C2-20のα-オレフィンとを重合することにより製造することができる。
【0033】
本発明による玩具用毛髪を構成するフィラメントは、低密度ポリエチレン〔以下、「ポリエチレン」または「重合体(II)」と表すことがある〕を含んでなる。
低密度ポリエチレンとしては特に限定されるものではなく、例えば、直鎖状低密度ポリエチレンもこれに含まれる。
【0034】
低密度ポリエチレンは、メルトフローレート(MFR)が、好ましくは0.1~60g/10min、より好ましくは1~40g/10minである。フィラメントを成形する際の流動性の観点から、メルトフローレートが上記範囲内にあることが好適である。
なお、メルトフローレートはJIS K6922-2に準拠し、190℃、2.16kg荷重により測定した値である。
【0035】
低密度ポリエチレンは一種、または二種以上を併用して用いることもできる。
【0036】
本発明によるフィラメントは前述のとおり形状記憶性を有するものであるが、これは、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体中の4-メチル-1-ペンテン由来の構成単位(ポリメチルペンテン)における側鎖部分(-CH-CH(CH)によるものと推察され、側鎖部分どうしが複雑に絡み合って疑似的架橋点を形成することにより良好な形状記憶性が発現されると考えられる。
【0037】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(重合体I)において、疑似的架橋点を起点とした網目構造が形成される。重合体Iのガラス転移温度未満の温度域では分子鎖の熱運動(ミクロブラウン運動)が制限され、エネルギー弾性のために弾性率が高く、剛性的性状を示す。温度が上昇して重合体Iのガラス転移温度以上の温度域に達すると、ミクロブラウン運動に基づくエントロピー弾性のため弾性率が低下して粘性的性状を示すようになるため、外部応力を適用してフィラメントを変形させることが可能となる。フィラメントを、外部応力を適用して変形させた状態を保持したまま、重合体Iのガラス転移温度未満の温度域まで冷却すると、再び分子鎖のミクロブラウン運動が制限され、弾性率が高くなり、フィラメントを変形させた状態で固定することができる。なお、この状態は外部応力を除去しても保持される。再び重合体Iのガラス転移温度以上の温度域に達すると、ミクロブラウン運動により弾性率が低くなり、架橋点が初期の位置に移動して安定な状態に戻ろうとするため、フィラメントを元の形状に復元させることが可能となる。
すなわち、本発明によるフィラメントの形状記憶特性は、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体のガラス転移温度が関与するものであり、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体のガラス転移温度を、フィラメントの変形可能温度とみなすことができる。
【0038】
低密度ポリエチレンは形状記憶性を損なうことなく、フィラメントの紡糸性を向上させると共に、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体がガラス転移温度以上の温度域で粘性的性状に転移した際のフィラメントの融着を抑制する効果を奏する。これにより、フィラメント同士が密着した際のくっつき等によるトラブルを回避することが容易となる。これは低密度ポリエチレンの分岐構造が前述の側鎖部分と絡み合いを生じ易く、また、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体のガラス転移温度以上の温度域においても低密度ポリエチレンの性状が変化し難いことによるものと推察される。
よって、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と低密度ポリエチレンとを併用した樹脂組成物により、形状記憶性を有すると共に、フィラメント同士の融着が抑制された紡糸性に優れるフィラメントを得ることができ、商品性に優れる玩具用毛髪とすることができる。
【0039】
玩具用毛髪を構成するフィラメントは、溶融紡糸装置等を用いた溶融紡糸によりモノフィラメント形態またはマルチフィラメント形態として製造される。
フィラメントの形態としては特に制限されるものではないが、低密度ポリエチレンによるフィラメントの粘着性を抑制する効果を発現させ易いことから、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(重合体I)と低密度ポリエチレン(重合体II)とが溶融一体化した領域を有する形態が好ましく、例えば、(1)重合体(I)と重合体(II)が溶融ブレンドして一体となった形態、(2)重合体(I)による芯部の外周の一部または全部が、重合体(II)による鞘部に覆われた芯鞘型の形態、(3)重合体(I)と重合体(II)が並列に接合されたサイドバイサイド型の形態等を例示できる。
なお、芯鞘型の形態にあっては、芯部の外周の全部が鞘部に覆われていることが好ましい。
これらの中でも、形状記憶性とフィラメントの融着性抑制を両立し易いことから、フィラメントの形態としては、溶融ブレンドして一体となった形態が好ましい。
【0040】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と低密度ポリエチレンは溶融ブレンドにより、重合体同士が互いに相溶した状態の混合物を形成する。そのため、それぞれの重合体の配合割合を調整することにより、混合物のガラス転移温度を調整することが可能である。ここで「互いに相溶した状態」とは、重合体同士が完全に相溶した状態だけでなく、部分的に相溶した状態(一方の重合体が他方の重合体中に分散した箇所と、重合体同士が相溶した箇所が混在した状態)も含まれる。
すなわち、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と低密度ポリエチレンとが溶融ブレンドされてなる形態にあっては、フィラメントの形状記憶特性は、重合体(I)と重合体(II)による混合物のガラス転移温度が関与するようになり、混合物のガラス転移温度を、フィラメントの変形可能温度とみなすことができる。
【0041】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(重合体I)、あるいは、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と低密度ポリエチレンによる混合物のガラス転移温度(以下、「Tg」と表すことがある)は、JIS K 7121で規定されたプラスチックの転移温度測定方法に準拠し、下記の示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。
【0042】
(示差走査熱量測定)
1.重合体Iまたは混合物約5mgをアルミニウム製容器に入れ蓋をして密封し、測定用試料とする。
2.測定用試料を測定装置にセットし、装置が安定するまで-20℃で保持した後、20℃/minの昇温速度で70℃まで昇温させ(1st heating)、70℃で5分間保持する。
3.20℃/minの冷却速度で-20℃まで降温させ、-20℃で5分間保持する。
4.20℃/minの昇温速度で再び70℃まで昇温させる。(2nd heating)
5.2nd heatingより得られたDSC曲線におけるベースラインの変化から、ガラス転移温度を求める。
【0043】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(重合体I)のガラス転移温度、または、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と低密度ポリエチレンによる混合物のガラス転移温度は、好ましくは0~70℃、より好ましくは10~60℃、さらに好ましくは20~50℃、特に好ましくは20~40℃の温度域にある。
重合体Iまたは混合物のガラス転移温度が上記温度域にあるフィラメントは、日常的に用いられる従来公知の加熱手段や冷却手段、あるいは変形手段を適用することにより、任意形状への変形、変形形状での固定および保持、初期形状への復元等を繰り返し行うことが可能である。
【0044】
加熱手段としては、手指等の熱、温水等の媒体によるもの、スチームやレーザー光を用いるもの、通電抵抗発熱体(ニクロム線、正特性抵抗発熱体等)を熱源とする温風装置、ボックス型加熱装置、ヘアドライヤー等を、
冷却手段としては、冷水等の冷媒によるもの、ペルチェ素子等を冷熱源とする冷風装置、ボックス型冷却装置、冷凍庫、冷蔵庫、畜冷剤等を、
変形手段としては、手指によるもの、鏝あるいは各種形状の賦形治具等を
それぞれ例示できる。
特に、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体、あるいは、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と低密度ポリエチレンによる混合物が20~40℃の温度域にガラス転移温度を有する場合、生活環境温度域の温度あるいはその近傍の温度域で、日常的な熱または冷熱(例えば、手指による熱や、温水、氷水等)を適用して、簡易的に任意形状への変形、変形形状での固定および保持、初期形状への復元等を行うことが可能となる。
【0045】
本発明によるフィラメントにおいて、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と、低密度ポリエチレンの質量比率は、20:80~99:1であることが好ましく、25:75~85:15であることがより好ましく、30:70~80:20であることがさらに好ましい。質量比率が上記の範囲にあることにより、フィラメントの融着性の抑制と形状記憶性を高度に両立することが容易となる。
【0046】
本発明によるフィラメントは、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(重合体I)、あるいは、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と低密度ポリエチレンによる混合物のガラス転移温度以上の温度域で、外部応力を適応して曲げ変形させることにより、フィラメントを円形、楕円形、正方形、長方形、ハート形、星形、螺旋状、渦巻き状等の形状に変形させることができる。
また、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(重合体I)、あるいは、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と低密度ポリエチレンによる混合物のガラス転移温度以上の温度域で、外部応力を適用して伸長変形させることにより、フィラメントの長さを変えることもできる。
【0047】
具体的には、ある長さ(初期長さ)のフィラメントは、重合体Iあるいは混合物のガラス転移温度以上の温度域で外部応力を適応することにより伸長させることができ、2倍未満(好ましくは1.5倍未満)の長さに伸長させた場合には、重合体Iあるいは混合物のガラス転移温度未満の温度域まで冷却することにより、毛髪を伸長させた状態で固定することができる。なお、この状態は外部応力を除去しても保持される。再び重合体Iあるいは混合物のガラス転移温度以上の温度域に達すると、フィラメントが収縮し、初期長さに復元させることができる。
一方、2倍以上の長さに伸長させた場合には、重合体Iあるいは混合物のガラス転移温度未満の温度域まで冷却することにより、毛髪を伸長させた状態で固定することができる。なお、この状態は外部応力を除去しても保持される。再び重合体Iあるいは混合物のガラス転移温度以上の温度域に達すると、フィラメントは収縮するが、初期長さより長い状態で維持され、初期長さに復元しない。
すなわちフィラメントは、初期長さに対して2倍未満の長さに伸長させる場合には、伸長させた状態から収縮させると初期長さへ復元し、これは繰り返し行うことができる。また、初期長さに対して2倍以上の長さに伸長させる場合には、伸長させた状態から収縮させても初期長さより長い状態で維持され、初期長さに復元しない。この場合、ハサミなどを用いて切断することにより元の状態(初期長さ)に復元させることができる。
よって、本発明によるフィラメントを毛髪として用いた玩具は、毛髪を初期長さに対して一定倍率未満の長さに伸長させる場合には、繰り返し毛髪を伸長させたり収縮させたりして、自在に毛髪の長さを変える遊びを行うことができる。また、毛髪を初期長さに対して一定倍率以上の長さに伸長させる場合には、不可逆に毛髪の長さを長くしたり、長くなった毛髪をハサミなどを用いて切断して任意の長さに変えたりする遊びを行うことができる。
【0048】
本発明によるフィラメントは平均外径が0.2~3mmの範囲にあり、好ましくは0.5~2mmである。なお、平均外径とは、単一のフィラメントの複数箇所における外径の平均に相当する。
外径は、光学顕微鏡や電子顕微鏡によるフィラメントの断面写真を元に、例えば、画像解析ソフトやプラニメーターで算出できる。なお、フィラメントの断面形状が円形ではない場合には、断面面積を円の面積とした場合の円の直径を外径とする。
所望の外径または平均外径を有するフィラメントは、溶融紡糸装置によりフィラメントを製造する際の、フィラメントを形成する樹脂組成物を紡糸口金から押し出して延伸する工程における温度や速度などの条件を適宜調整することにより得ることができる。
平均外径が0.2mm未満では、フィラメントの形状を変形させる際にフィラメント同士が絡み易く、手入れに手間がかかることがある。一方、平均外径が3mmを超えると太くなり過ぎるため、毛髪の性状を示し難くなる。
【0049】
平均外径が0.2~0.5mmである場合、植毛ミシンを用いる方法や、フィラメントを複数本束ねることのできる固定片を用いてフィラメントの端部を固定し、固定片を玩具の植毛する部分に固定する方法等により、フィラメントを玩具用毛髪として人形等の玩具に適用することができる。
平均外径が0.5~1.5mmである場合、フィラメントを複数本束ねることのできる固定片を用いてフィラメントの一部を固定し、固定片を玩具の植毛する部分に固定する方法や、金属線間にフィラメントを介在させ、金属線を縒り合わせてフィラメントを金属線に固定し、この金属線を玩具の植毛する部分に固定する方法等により、フィラメントを玩具用毛髪として人形等の玩具に適用することができる。
平均外径が1~3mm(好ましくは1.5~3mm)である場合、上記の固定片や金属線を用いてフィラメントを玩具用毛髪として玩具の植毛する部分に固定する方法の他に、玩具(例えば、人形の頭部あるいは頭皮)と一体に成形する方法により、フィラメントを玩具用毛髪として人形等の玩具に適用することができる。
【0050】
フィラメントの断面形状は、真円、楕円等の円形状;三葉形、三角形、四角形、五角形、星形等の多角形状;Y型形状等を例示できるが、紡糸性および加工性の観点から断面形状は円形であることが好ましい。
フィラメントが芯鞘型の形態である場合、毛髪の断面を観察した際に、芯部および鞘部が同心円状に配置されている(同心状芯鞘型である)必要はなく、芯部と鞘部の中心が異なる異心状芯鞘型であってもよい。
【0051】
本発明によるフィラメントは着色剤により着色させることができる。
着色剤としては一般染料、蛍光染料、一般顔料、光輝性顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、熱変色性材料、光変色性材料等を例示できる。また、これらの着色剤を含有する樹脂粒子や、これらの着色剤を内包するマイクロカプセル顔料も着色剤として用いることができる。
【0052】
熱変色性材料としては、(イ)電子供与性呈色性有機化合物と、(ロ)電子受容性化合物とから少なくともなる熱変色性組成物や、(イ)成分と、(ロ)成分と、(ハ)(イ)成分および(ロ)成分の呈色反応の生起温度を決める反応媒体とから少なくともなる熱変色性組成物(可逆熱変色性組成物)等を例示できる。
光変色性材料としては、スピロオキサジン誘導体、スピロピラン誘導体、ナフトピラン誘導体、ジアリールエテン誘導体等のフォトクロミック化合物や、これらのフォトクロミック化合物と、オリゴマーとから少なくともなる光変色性組成物(可逆光変色性組成物)等を例示できる。
【0053】
可逆熱変色性組成物としては、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載された、ヒステリシス幅(ΔH)が比較的小さい特性(ΔH=1~7℃)を有する加熱消色型の可逆熱変色性組成物を用いることができる。加熱消色型とは、加熱により消色し、冷却により発色することを意味する。この可逆熱変色性組成物は、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱または冷熱が適用されている間は維持されるが、熱または冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る(図1参照)。
【0054】
可逆熱変色性組成物としては、特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報、特開2005-1369号公報等に記載されているヒステリシス幅が大きい特性(ΔH=8~80℃)を有する加熱消色型の可逆熱変色性組成物を用いることもできる。加熱消色型とは、加熱により消色し、冷却により発色することを意味する。この可逆熱変色性組成物は、温度変化による発色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と、逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度t以下の温度域での発色状態、または完全消色温度t以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔発色開始温度t~消色開始温度tの間の温度域(実質二相保持温度域)〕で色彩記憶性を有する(図2参照)。
【0055】
可逆熱変色性組成物として、特公昭51-44706号公報、特開2003-253149号公報等に記載された、没食子酸エステルを用いた加熱発色型の可逆熱変色性組成物を用いることもできる。加熱発色型とは、加熱により発色し、冷却により消色することを意味する(図3参照)。
【0056】
着色剤として可逆熱変色性組成物、可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(以下、「可逆熱変色性マイクロカプセル顔料」と表すことがある)、可逆熱変色性組成物を含有した樹脂粒子(以下、「可逆熱変色性樹脂粒子」と表すことがある)等の可逆熱変色性材料;可逆光変色性組成物、可逆光変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(以下、「可逆光変色性マイクロカプセル顔料」と表すことがある)、可逆光変色性組成物を含有した樹脂粒子(以下、「可逆光変色性樹脂粒子」と表すことがある)等の可逆光変色性材料等の変色性着色剤を用いる場合、温度変化あるいは光の照射により、フィラメントに可逆的な色変化をもたらすことができる。
また、これらの変色性着色剤と、一般染料や一般顔料等の非変色性着色剤とを併用することにより、フィラメントに有色(1)から有色(2)への互変的色変化をもたらすこともできる。
【0057】
可逆熱変色性組成物または可逆光変色性組成物はマイクロカプセルに内包させてマイクロカプセル顔料として使用することが好ましい。これは、マイクロカプセルに内包させることにより、化学的、物理的に安定な顔料を構成することができ、種々の使用条件において、可逆熱変色性組成物または可逆光変色性組成物は同一の組成に保たれ、同一の作用効果を奏することができるからである。
【0058】
マイクロカプセル化は、公知のイソシアネート系の界面重合法、メラミン-ホルマリン系等のin Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等があり、用途に応じて適宜選択される。
【0059】
マイクロカプセルの表面には、目的に応じてさらに二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与させたり、表面特性を改質させて実用に供したりすることもできる。
【0060】
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆光変色性マイクロカプセル顔料は、内包物:壁膜の質量比が7:1~1:1であることが好ましく、内包物と壁膜の質量比が上記の範囲内にあることにより、発色時の色濃度および鮮明性の低下を防止することができる。より好ましくは、内包物:壁膜の質量比は6:1~1:1である。
【0061】
着色されたフィラメントは、着色剤を、フィラメントを形成する樹脂組成物中に含有させることにより得ることができる。また、バインダー樹脂と必要により各種添加剤を含むビヒクル中に着色剤を分散させて調製した印刷インキや塗料等の液状組成物を、種々の印刷手段あるいは塗布手段によりフィラメント表面に印刷あるいは塗布して着色層を設けることにより、着色されたフィラメントを得ることもできる。
【0062】
フィラメントを形成する樹脂組成物の総質量に対する着色剤の配合割合は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01~30質量%であり、より好ましくは0.1~20質量%であり、さらに好ましくは1~15質量%である。
着色剤が上記の変色性着色剤である場合、フィラメントを形成する樹脂組成物の総質量に対する着色剤の配合割合は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1~30質量%であり、より好ましくは1~20質量%であり、さらに好ましくは5~15質量%である。
着色剤の配合割合が上記の範囲内にあることにより、樹脂組成物中における着色剤の分散安定性に優れ、所望の色濃度を有するフィラメントを得られ易くなる。
【0063】
液状組成物の総質量に対する着色剤の配合割合は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01~50質量%であり、より好ましくは0.1~30質量%であり、さらに好ましくは1~15質量%である。
着色剤が上記の変色性着色剤である場合、液状組成物の総質量に対する着色剤の配合割合は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.5~40質量%であり、より好ましくは1~30質量%であり、さらに好ましくは5~15質量%である。
着色剤の配合割合が上記の範囲内にあることにより、ビヒクル中における着色剤の分散安定性に優れ、所望の色濃度を有する着色層が得られ易くなる。
【0064】
着色剤として可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆光変色性マイクロカプセル顔料を用いる場合、これらのマイクロカプセル顔料の平均粒子径は、好ましくは0.1~30μmであり、より好ましくは0.5~20μmであり、さらに好ましくは0.5~10μmである。平均粒子径が30μmを超えると、樹脂組成物あるいは液状組成物中へのブレンドに際して、分散安定性や加工適性に欠け易くなる。一方、平均粒子径が0.1μm未満では、高濃度の発色性を示し難くなる。
【0065】
平均粒子径は、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア〔(株)マウンテック製、製品名:マックビュー〕を用いて粒子の領域を判定し、粒子の領域の面積から投影面積円相当径(Heywood径)を算出し、その値による等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定した値である。
また、全ての粒子あるいは大部分の粒子の粒子径が0.2μmを超える場合は、粒度分布測定装置〔ベックマン・コールター(株)製、製品名:Multisizer 4e〕を用いて、コールター法により等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定することも可能である。
さらに、上記のソフトウェアまたはコールター法による測定装置を用いて計測した数値を基にして、キャリブレーションを行ったレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置〔(株)堀場製作所製、製品名:LA-300〕を用いて、体積基準の粒子径および平均粒子径を測定してもよい。
【0066】
本発明によるフィラメントには、その他必要に応じて、各種添加剤を配合させることもできる。
添加剤としては、例えば、難燃剤;ワックス類等の分散剤;紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、一重項酸素消光剤、オゾン消光剤、スーパーオキシドアニオン消光剤、オゾン消光剤、可視光線吸収剤、赤外線吸収剤等の光安定剤;蛍光増白剤;界面活性剤;帯電防止剤;撥水剤;防黴剤;防虫剤;フタル酸系、脂肪族二塩基酸エステル系、リン酸エステル系、エポキシ系。フェノール系、トリメット酸系等の可塑剤;潤滑剤等を例示できる。
さらには、加工性や物性等を改善するために、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、タルク等を配合させることもできる。
【0067】
本発明によるフィラメントは熱または冷熱により任意形状への変形、変形形状での固定および保持、初期形状への復元を行うことができることから、着色剤としては温度変化により色変化する熱変色性材料を用いることが好適であり、繰り返し色変化させることができることから、熱変色性材料としては上記した可逆熱変色性材料が好ましく、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料がより好ましい。
【0068】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(重合体I)、あるいは、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体と低密度ポリエチレンによる混合物のガラス転移温度(Tg)は、可逆熱変色性材料(可逆熱変色性組成物)の完全発色温度tあるいは完全消色温度tと略同一であることが好ましい。これにより、フィラメントが剛性的性状から粘性的性状に変化する温度と、変色性着色剤が色変化する温度を同調させることができ、フィラメントが変形可能となる温度に達したかどうかを、変色性着色剤の色変化により判別することができる。
【0069】
ここで「略同一」とは、ガラス転移温度を温度Tとしたとき、温度Tと温度t、あるいは温度Tと温度tが全く同一の温度であることを含む。また本発明においては、温度Tと温度tの差(Δt=T-t)が0以上2以下を満たすこと、あるいは、温度Tと温度tの差(Δt=t-T)が0以上2以下を満たすことも含まれる。すなわち本発明における「略同一」とは、0≦Δt≦2、あるいは、0≦Δt≦2を満たすことである。
ΔtあるいはΔtに関して、好ましくは0≦Δt≦1、あるいは、0≦Δt≦1、より好ましくは0≦Δt<1、あるいは、0≦Δt<1、さらに好ましくはΔt=0(T=t)、あるいは、Δt=0(T=t)である。
【0070】
重合体Iあるいは混合物のガラス転移温度が可逆熱変色性材料の完全発色温度tと同一である、すなわちΔt=0(T=t)である場合について、以下に一例を示す。
フィラメントを温度t以上に加熱すると、可逆熱変色性材料は消色してフィラメントが色変化する。この時、フィラメントは柔軟性を有しており、外力の適用により任意形状に変形させることができる。フィラメントを外力の適用により任意形状に変形させた後、外力を適用したまま温度T(温度t)未満に冷却すると、可逆熱変色性材料は発色してフィラメントが色変化すると共に、外力を除去してもフィラメントを変形形状で固定することができる。よって、フィラメントの性状が変化して、外力を適用することなくフィラメントを変形形状で保持させることができる温度に達したことを、可逆熱変色性材料の消色状態から発色状態への変化、すなわち、フィラメントの色変化により判別することができる。
【0071】
重合体Iあるいは混合物のガラス転移温度が可逆熱変色性材料の完全消色温度tと同一である、すなわちΔt=0(T=t)である場合について、以下に一例を示す。
発色状態のフィラメントを温度T(温度t)以上に加熱すると、可逆熱変色性材料は消色してフィラメントが色変化すると共に、外力の適用によりフィラメントを任意形状に変形させることができる。よって、フィラメントの性状が変化して、外力の適用によりフィラメントを任意形状に変形させることができる温度に達したことを、可逆熱変色性材料の発色状態から消色状態への変化、すなわち、フィラメントの色変化により判別することができる。
【0072】
重合体Iあるいは混合物のガラス転移温度は、可逆熱変色性材料の完全発色温度tと完全消色温度tの間にあり、Δt≧5またはΔt≧5の少なくとも一方を満たすことも好ましく、Δt≧5およびΔt≧5を満たすことがより好ましい。これにより、フィラメントの性状が変化する温度より十分高い温度に達して、外力の適用により容易に任意形状に変形させることができること、あるいは、外力の適用によりフィラメントを任意形状に変形させた後で、フィラメントの性状が変化する温度より十分低い温度に達して、外力を適用することなく変形形状が良好に保持されることを、フィラメントの色変化により判別することができる。
ΔtあるいはΔtに関して、好ましくはΔt≧10、あるいは、Δt≧10である。
【0073】
重合体Iあるいは混合物のガラス転移温度が、可逆熱変色性材料の完全発色温度tと完全消色温度tの間にあり、Δt≧5およびΔt≧5を満たす場合について、以下に一例を示す。
フィラメントは温度Tにおいて発色状態であり、温度t以上に加熱すると、可逆熱変色性材料は消色してフィラメントが色変化すると共に、外力の適用によりフィラメントを容易に任意形状に変形させることができる。よって、フィラメントの性状が変化する温度より十分高い温度に達して、フィラメントを外力の適用により容易に任意形状に変形させることができることを、可逆熱変色性材料の発色状態から消色状態への変化、すなわち、フィラメントの色変化により判別することができる。
外力の適用によりフィラメントを任意形状に変形させた後、外力を適用したまま温度t以下に冷却すると、可逆熱変色性材料は発色してフィラメントが色変化すると共に、外力を除去してもフィラメントの変形形状が良好に保持される。よって、フィラメントの性状が変化する温度より十分に低い温度に達して、外力を適用することなくフィラメントの変形形状が良好に保持されることを、可逆熱変色性材料の消色状態から発色状態への変化、すなわち、フィラメントの色変化により判別することができる。
ここで、温度t以上に加熱されて任意形状に変形させたフィラメントを、外力を適用したまま温度tを超え温度T未満の温度域に冷却すると、可逆熱変色性材料を消色状態としたまま、外力を適用することなくフィラメントを変形形状で保持させることができる。そして、温度t以下に冷却しない限り、可逆熱変色性材料を消色状態としたままで、フィラメントの任意形状への変形と変形形状の保持を繰り返し行うことができる。また、温度t以下に冷却すると可逆熱変色性材料は発色状態となり。温度T以上温度t未満の温度域に加熱すると、可逆熱変色性材料を発色状態としたまま、外力の適用によりフィラメントを任意形状へ変形させることができる。そして、温度t以上に加熱しない限り、可逆熱変色性材料を発色状態としたままで、フィラメントの任意形状への変形と変形形状の保持を繰り返すことができる。
つまり、可逆熱変色性材料を発色状態または消色状態のいずれかを選択して保持させつつ、フィラメントの任意形状への変形と変形形状の保持を繰り返し行うことができる。
【0074】
本発明による玩具用毛髪は、フィラメントが形状記憶性を有すると共に質感が良好で、フィラメント同士の融着が抑制されることから、このフィラメントから構成される玩具用毛髪を設けた玩具は、商品性に優れるものである。
玩具としては特に限定されるものではないが、人形玩具や動物形象玩具、これらの付属品等を例示でき、付属品としては例えば、人形のヘアーエクステンションを例示できる。玩具用毛髪は、人形玩具または動物形象玩具の頭部、顔部、胴部、手足部等に植毛して用いることができる。
【0075】
また、本発明によるフィラメントを用いた製品として、さらに以下のものを例示することができる。
(1)衣類
Tシャツ、トレーナー、ブラウス、ドレス、水着、レインコート、スキーウェア等の被覆;靴、靴紐等の履物;タオル、ハンカチ、風呂敷等の布製身の回り品;手袋;ネクタイ;帽子;リボン;スカーフ;マフラー等
(2)屋内装飾品
カーテン、カーテン紐、テーブル掛け、敷物、クッション、カーペット、ラグ、椅子張り地、シート、マット等
(3)装飾品
付けまつ毛、付け髭、付け眉毛、ヘアーウィッグ、ヘアーエクステンション等
(4)その他
カレンダー、カード、絵本等の書籍、鞄、刺繍糸、釣り具、コースター、財布等の袋物、教習具等
【実施例0076】
以下に実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断らない限り実施例中の「部」は、「質量部」を示す。
【0077】
以下の実施例および比較例において、フィラメントの平均外径は以下の方法により求めた。
【0078】
[平均外径の測定]
フィラメントの平均外径は、10cmのフィラメントを5等分に切断し、切断後の5本のフィラメントそれぞれの切断断面を光学電子顕微鏡により観察し、その最大外径をフィラメントの外径とした。そして、これらのフィラメントの外径(最大外径)の平均値を算出し、平均外径とした、なお、光学顕微鏡観察によるフィラメントの切断断面画像の外周上の任意の2点を結ぶ直線を引き、その直線の長さが最大となる箇所を特定し、当該箇所の直線の長さを測定し、これをフィラメントの最大外径とした。
【0079】
実施例1
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体〔三井化学(株)製、製品名:アブソートマーEP-1001〕20部と、低密度ポリエチレン〔日本ポリエチレン(株)製、製品名:ノバテックLD LJ803〕80部とを、200℃で溶融ブレンドして、フィラメントを構成する樹脂組成物を調製した。
この樹脂組成物を汎用の溶融紡糸装置に供給し、200℃で紡出して延伸処理をすることにより、平均外径が0.8mmのモノフィラメントを得た。
【0080】
実施例2~6の各フィラメントは、表1に示す材料および配合量に変更した以外は、実施例1と同様の方法で得た。実施例2~6の各フィラメントの平均外径は、いずれも0.8mmであった。
【0081】
実施例7
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体〔三井化学(株)製、製品名:アブソートマーEP-1001〕75部と、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体〔三井化学(株)製、製品名:アブソートマーEP-1013〕5部と、低密度ポリエチレン〔日本ポリエチレン(株)製、製品名:ノバテックLD LJ803〕20部とを、200℃で溶融ブレンドして、フィラメントを構成する樹脂組成物を調製した。
この樹脂組成物を汎用の溶融防紡糸装置に供給し、200℃で紡出して延伸処理をすることにより、平均外径が0.9mmのモノフィラメントを得た。
【0082】
実施例8
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体〔三井化学(株)製、製品名:アブソートマーEP-1001〕76部と、低密度ポリエチレン〔日本ポリエチレン(株)製、製品名:ノバテックLD LJ803〕19部と、桃色の一般顔料0.2部と、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料4.8部とを、200℃で溶融ブレンドして、フィラメントを構成する樹脂組成物を調製した。
この樹脂組成物を汎用の溶融紡糸装置に供給し、200℃で紡出して延伸処理をすることにより、平均外径が1.4mmのモノフィラメントを得た。
このフィラメントは38℃以上に加熱すると、マイクロカプセル顔料が完全に消色して一般顔料による桃色を呈し、14℃以下に冷却すると、マイクロカプセル顔料が完全に発色して、マイクロカプセル顔料による青色と一般顔料による桃色とが混色となった紫色を呈し、温度変化により可逆的に色変化した。
【0083】
上記の可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、以下のように調製したものである。
(イ)成分として、3,3-ビス(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-4-アザフタリド1部と、(ロ)成分として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5部と、(ハ)成分として、ステアリン酸シクロヘキシルメチル50部とからなる可逆熱変色性組成物を、壁膜材料として芳香族イソシアネートプレポリマー35部と、助溶剤40部とからなる混合溶液に投入した後、8%ポリビニルアルコール水溶液中で乳化分散し、加温しながら攪拌を続けた後、水溶性脂肪族変性アミン2.5部を加え、さらに攪拌を続けてマイクロカプセル分散液を調製した。上記のマイクロカプセル分散液から遠心分離法により、平均粒子径が8μmの可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を得た。
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は完全発色温度tが14℃、完全消色温度tが38℃であり、温度変化により青色から無色に可逆的に変化した。
【0084】
比較例1
低密度ポリエチレン〔日本ポリエチレン(株)製、製品名:ノバテックLD LJ803〕100部を汎用の溶融防紡糸装置に供給し、200℃で紡出して延伸処理をすることにより、平均外径が0.8mmのモノフィラメントを得た。
【0085】
比較例2
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体〔三井化学(株)製、製品名:アブソートマーEP-1001〕100部を汎用の溶融防紡糸装置に供給し、200℃で紡出して延伸処理をすることにより、平均外径が0.8mmのモノフィラメントを得た。
【0086】
比較例3
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体〔三井化学(株)製、製品名:アブソートマーEP-1001〕80部と、高密度ポリエチレン〔日本ポリエチレン(株)製、製品名:ノバテックHD H590N〕20部とを、200℃で溶融ブレンドして、フィラメントを構成する樹脂組成物を調製した。
この樹脂組成物を汎用の溶融防紡糸装置に供給し、200℃で紡出して延伸処理をすることにより、平均外径が0.8mmのモノフィラメントを得た。
【0087】
比較例4
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体〔三井化学(株)製、製品名:アブソートマーEP-1001〕80部と、ポリプロピレン〔サンアロマー(株)製、製品名:サンアロマーPM600A〕20部とを、200℃で溶融ブレンドして、フィラメントを構成する樹脂組成物を調製した。
この樹脂組成物を汎用の溶融防紡糸装置に供給し、200℃で紡出して延伸処理をすることにより、平均外径が0.8mmのモノフィラメントを得た。
【0088】
【表1】
【0089】
表1中の材料の内容と、注番号に沿って説明する。
(1)三井化学(株)製、製品名:アブソートマーEP-1001
・4-メチル-1-ペンテン由来の構成単位の配合割合:72mol%、プロピレン由来の構成単位の配合割合:28mol%
・極限粘度[η]:1.4dL/g
・融点(Tm):なし
・密度:840kg/cm
・分子量分布(Mw/Mn):2.1
・メルトフローレート(MFR):10g/10min
・ガラス転移温度(Tg):30℃
(2)三井化学(株)製、製品名:アブソートマーEP-1013
・4-メチル-1-ペンテン由来の構成単位の配合割合:85mol%、プロピレン由来の構成単位の配合割合:15mol%
・極限粘度[η]:1.5dL/g
・融点(Tm):130℃
・密度:838kg/cm
・分子量分布(Mw/Mn):2.0
・ガラス転移温度(Tg):40℃
・メルトフローレート(MFR):10g/10min
(3)日本ポリエチレン(株)製、製品名:ノバテックLD LJ803
・メルトフローレート(MFR):22g/10min
(4)日本ポリエチレン(株)製、製品名:ノバテックLD LF441A
・メルトフローレート(MFR):2g/10min
(5)日本ポリエチレン(株)製、製品名:ノバテックHD HJ590N
・メルトフローレート(MFR):40g/10min
(6)サンアロマー(株)製、製品名:サンアロマーPM600A
・メルトフローレート(MFR):7.5g/10min
(7)桃色一般顔料
(8)可逆熱変色性マイクロカプセル顔料
【0090】
[紡糸性試験]
実施例および比較例に記載した紡糸条件で作製したフィラメントの外観を目視により確認し、下記基準でフィラメントの紡糸性を評価した。試験結果は、以下の表2に記載した。
A:外径が均一で、見栄えの良いフィラメントであった。
B:太い箇所と細い箇所が多数存在し、外径が不均一なフィラメントであった。
【0091】
[ガラス転移温度測定]
JIS K7121で規定されたプラスチックの転移温度測定方法に従って、実施例1~8、ならびに、比較例1~4のフィラメントをそれぞれ、長さが0.5mm以下となるよう切断して試験片とし、試験片約10mgをアルミニウム製容器に入れ蓋をして密封し、ガラス転移温度測定用試料を作製した。
各測定用試料を、示差走査熱量測定(DSC)装置〔METTLER TOLEDO(株)製、製品名:FP900サーモシステム(FP-85)〕にセットし、装置が安定するまで-20℃で保持した後、-20℃から70℃まで20℃/minの昇温速度で加熱(1st heating)して、70℃で5分間保持した。次いで、70℃から-20℃まで20℃/minの冷却速度で急冷して、-20℃で5分間保持した。再び、-20℃から70℃まで20℃/minの昇温速度で加熱(2nd heating)して、DSC曲線を得た。2nd heatingより得られたDSC曲線から各フィラメントのガラス転移温度を求めた。各フィラメントのガラス転移温度は、以下の表2に記載した。
【0092】
[融着性試験]
実施例1~8、ならびに、比較例1~4のフィラメントそれぞれに関して、長さ10cmのフィラメント20本の片端をテープで留め、融着性試験用試料を作製した。
試験用試料を、(Tg+10)℃に設定した恒温槽に入れ、さらに500gの重りを載せた。1分間経過後に試験用試料を恒温槽から取り出し、フィラメント同士の密着度合いおよび剥離のし易さから、下記基準でフィラメントの融着性を評価した。評価結果は、以下の表2に記載した。
A:フィラメント同士が互いに密着していなかった。あるいは、密着していたが容易に剥がすことができた。
B:フィラメント同士が互いに密着していたが、剥がすことができた。
C:フィラメント同士が強固に密着しており、剥がすことが困難であった。
ここで、融着性試験における「Tg」は、上記のガラス転移温度測定より得られた各フィラメントのガラス転移温度のことである。
【0093】
[形状記憶性試験]
実施例1~8、ならびに、比較例1~4のフィラメントをそれぞれ、長さ15cmに切断して、直線形状の形状記憶性試験用試料を作製した。
試験用試料を、変形温度として(Tg+10)℃に設定した恒温槽に入れ、5分間加熱して恒温槽から取り出し、直径1cmの円筒に巻き付けて試験用試料をコイル形状に変形させた。直ちに、固定温度として(Tg-10)℃に設定した恒温槽に入れ、5分間冷却して形状を固定させた。その後、試験用試料を恒温槽から取り出し、円筒から外し、直ちに(Tg-10)℃に設定した恒温槽に再度入れた。5分間経過後に試験用試料を恒温槽から取り出し、試験用試料が変形形状(コイル形状)で保持されるか(形状保持性)を、試験用試料によるコイルの内径の大きさから、下記基準で評価した。評価結果は、以下の表2に記載した。
A:コイルの内径は1cm(円筒の内径に等しい)であり、試験用試料は変形形状と同一形状を保持していた。
B:コイルの内径は1cmより大きく1.5cm以下であり、試験用試料は変形形状から僅かに変化したが、実用上問題のないレベルであった。
C:コイルの内径は1.5cmより大きく、試験用試料は変形形状と同一形状を保持しなかった。
【0094】
次に、形状保持性を評価した後のコイル形状の試験用試料を、(Tg+10)℃に設定した恒温槽に再度入れた。5分間経過後に試験用試料を恒温槽から取り出し、試験用試料が元の形状(長さ15cmの直線形状)に復元されるか(形状復元性)を目視にて確認し、試験用試料の形状の状況から、下記基準で評価した。評価結果は、以下の表2に記載した。
A:試験用試料は変形形状から直線形状に復元した。
B:試験用試料は変形形状から直線形状に復元しなかった。
ここで、形状記憶性試験における「Tg」は、上記のガラス転移温度測定より得られた各フィラメントのガラス転移温度のことである。
なお、形状保持性が「C」評価であったものは、形状復元性の試験を行わなかった。
【0095】
【表2】
※比較例1のフィラメントはガラス転移温度が求められなかったため、融着性試験および形状記憶性試験は実施しなかった。
【0096】
応用例1
人形玩具の作製
長さ300mmに切断した実施例4のフィラメントを100本用いて、各フィラメント5本ずつを中央部より折り曲げ、屈曲した部分に固定片を取付け、固定片を人形の頭部に埋め込み毛髪とし、胴体部と組み合わせて人形玩具を作製した。
上記の人形玩具の毛髪は初期では直線形状であった。直線形状の毛髪を39℃の温水に浸漬させた状態で直径9mmの円筒状のヘアーカーラーに巻き付けた後、15℃の冷水に浸漬させた状態でカーラーを外すと、毛髪はカーラーと同一径でカールした状態となり、外力を加えない限りその形状を保持した。
さらに、毛髪を直線形状に伸ばした状態で再度39℃の温水に浸漬させ、その後15℃の冷水に浸漬させると、毛髪は初期の直線形状となり、容易に元の状態に戻すことができた。
上記の曲げ変形は、繰り返し行うことができた。
また、初期の直線形状の毛髪を39℃の温水に浸漬させた状態で手指により420mmの長さに伸長変形させた後、15℃の冷水に浸漬させた状態で手指による外力を除去すると、毛髪は初期の長さに対して1.4倍に伸長した状態となり、外力を加えない限りその形状を保持した。
さらに、毛髪を再度39℃の温水に浸漬させると、毛髪は初期の長さ(300mm)に復元し、その後手指により直線形状とした状態で15℃の冷水に浸漬させると、毛髪は初期の直線形状となり、容易に元の状態に戻すことができた。
上記の伸長変形は、繰り返し行うことができた。
【0097】
応用例2
動物形象玩具の作製
長さ150mmに切断した実施例8のフィラメントを10本、14℃以下に冷却した後、ポリ塩化ビニル製の馬の形態の玩具の尾部に、常法(例えば、植毛ミシン)により植毛し、動物形象玩具を作製した。
上記の動物形象玩具の毛髪は初期では直線形状であり、室温(例えば、25℃)下ではマイクロカプセル顔料による青色と一般顔料による桃色が混色となった紫色であった。直線形状の毛髪を39℃の温水に浸漬させると、マイクロカプセル顔料が完全に消色して毛髪は紫色から桃色に変化した。そして毛髪を、温水に浸漬させた状態でハート形の成形体の外周に巻き付けた後、室温(25℃)で毛髪を成形体から外すと毛髪はハート型となり、数分間その形状を保持した。また10℃の冷水に浸漬させると、マイクロカプセル顔料が完全に発色して毛髪は桃色から紫色に変化した。
さらに、毛髪を再度39℃の温水に浸漬させると、マイクロカプセル顔料が完全に消色して毛髪は紫色から桃色に変化した。その後、毛髪を直線形状に伸ばした状態で室温(25℃)で放置すると、毛髪は初期の直線形状になり、容易に元の状態に戻すことができた。さらに10℃の水に浸漬させると、マイクロカプセル顔料が完全に発色して毛髪は桃色から紫色に変化した。
上記の曲げ変形は、繰り返し行うことができた。
また、初期の直線形状の毛髪を39℃の温水に浸漬させると、マイクロカプセル顔料が完全に消色して毛髪は紫色から桃色に変化した。そして温水に浸漬させた状態で手指により300mmの長さに伸長変形させた後、10℃の冷水に浸漬させると、マイクロカプセル顔料が完全に発色して毛髪は桃色から紫色に変化した。そして冷水に浸漬させた状態で手指による外力を除去すると、毛髪は初期の長さに対して2倍に伸長した状態となり、外力を加えない限りその形状を保持した。
さらに、毛髪を再度39℃の温水に浸漬させると、マイクロカプセル顔料が完全に消色して毛髪は紫色から桃色に変化した。その後手指により直線形状とした状態で10℃の冷水に浸漬させると、毛髪は直線形状となるが、初期の長さ(150mm)に復元しなかった。
上記の伸長変形は繰り返し行うことができるものの、毛髪を一定倍率以上に伸長させるため毛髪は初期の長さに復元せず、不可逆に毛髪の長さが長くなった。よって、長くなった毛髪をハサミなどを用いて切断することにより、任意の長さに変えたり、元の状態(初期長さ)に戻したりすることができた。
【符号の説明】
【0098】
完全発色温度
発色開始温度
消色開始温度
完全消色温度
完全消色温度
消色開始温度
発色開始温度
完全発色温度
ΔH ヒステリシス幅
図1
図2
図3