(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020831
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】工具診断システム、工具診断装置、工具診断方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20250205BHJP
B23Q 17/24 20060101ALI20250205BHJP
G05B 19/4155 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
B23Q17/09 B
B23Q17/24 Z
G05B19/4155 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124436
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100181618
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 良平
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】坂本 朝和
(72)【発明者】
【氏名】松下 敦
【テーマコード(参考)】
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C029DD01
3C029DD02
3C029DD08
3C029DD20
3C029EE01
3C029EE20
3C269AB01
3C269BB03
3C269JJ09
3C269MN16
3C269MN23
3C269MN24
3C269MN29
3C269MN44
(57)【要約】
【課題】工具診断において手間をかけずに十分な予測精度を持つ学習済モデルを生成する。
【解決手段】工具診断システム100は、工作物14を加工する工作機械1と、工具15の刃部を撮像する撮像装置と、刃部に照明光を照射する照明5と、刃部の画像を画像処理する画像処理部と、画像処理後の刃部の画像、工作機械1の加工条件、工具15及び工作物14の諸元を学習用データとし、工具15の残り工具寿命を学習する機械学習によって学習済モデルを生成するモデル生成部と、学習済モデルに画像処理後の刃部の画像、工作機械1の加工条件、工具15及び工作物14の諸元を入力することで工具15の残り工具寿命を出力する推論部とを備え、画像処理部は加工直前に照明5から照明光を照射して撮像した刃部の画像内の影と、加工直後に照明5から照明光を照射して撮像した刃部の画像内の影を比較することにより、刃部の摩耗痕又は欠けを特定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物を加工する工作機械と、
前記工作機械に取り付けられた工具の刃部を撮像する撮像装置と、
前記工具の刃部に照明光を照射する照明と、
前記工具の刃部の画像を画像処理する画像処理部と、
前記画像処理後の前記工具の刃部の画像、前記工作機械の加工条件、前記工具及び前記工作物の諸元を学習用データとし、前記工具の残り工具寿命を学習する機械学習によって学習済モデルを生成するモデル生成部と、
前記学習済モデルに前記画像処理後の前記工具の刃部の画像、前記工作機械の加工条件、前記工具及び前記工作物の諸元を入力することで、前記工具の残り工具寿命を出力する推論部と、
を備え、
前記画像処理部は、加工直前に前記照明から照明光を照射して撮像した前記工具の刃部の画像内の影と、加工直後に前記照明から照明光を照射して撮像した前記工具の刃部の画像内の影を比較することにより、前記工具の刃部の摩耗痕又は欠けを特定する、
工具診断システム。
【請求項2】
前記画像処理部は、前記比較により、画像内の影のうち、影の減少した部分を生成した模様を前記工具の刃部の摩耗痕又は欠けとして特定し、前記工具の刃部の摩耗痕又は欠けとして特定された模様の画像を保存又は画像処理によって強調する、
請求項1に記載の工具診断システム。
【請求項3】
前記画像処理部は、前記比較により、画像内の影のうち、影の増加した部分を生成した模様を前記工具の刃部に付着する付着物として特定し、前記付着物として特定された模様の画像を画像処理によって画像内から除去する、
請求項1又は2に記載の工具診断システム。
【請求項4】
前記照明は、前記工具の刃部の逃げ面の法線方向と一致しない方向から照明光を照射する、
請求項1に記載の工具診断システム。
【請求項5】
複数の前記照明を備え、複数の前記照明の各々は、異なる方向から照明光を照射する、
請求項4に記載の工具診断システム。
【請求項6】
前記工具の残り工具寿命と工作物を加工するのに必要な加工回数及び加工距離を比較し、前記工具の残り工具寿命が前記工作物を加工するのに必要な加工回数及び加工距離に対して不足していた場合、工具の交換を促す警報を発令する警報発令部を備える、
請求項1に記載の工具診断システム。
【請求項7】
前記撮像装置を前記工作機械の内部に設けた、
請求項1に記載の工具診断システム。
【請求項8】
前記工具の刃部を洗浄する超音波洗浄機を前記工作機械の内部に設けた、
請求項1に記載の工具診断システム。
【請求項9】
前記工具の刃部を清掃するブラシ又はエアー吐出口を前記工作機械の内部に設けた、
請求項1に記載の工具診断システム。
【請求項10】
工作物を加工する工作機械の工具の摩耗状態を画像から診断する工具診断装置において、
前記工具の刃部の画像を画像処理する画像処理部と、
前記画像処理後の前記工具の刃部の画像、前記工作機械の加工条件、前記工具及び前記工作物の諸元を学習用データとし、前記工具の残り工具寿命を学習する機械学習によって学習済モデルを生成するモデル生成部と、
前記学習済モデルに前記画像処理後の前記工具の刃部の画像、前記工作機械の加工条件、前記工具及び前記工作物の諸元を入力することで、前記工具の残り工具寿命を出力する推論部と、
を備え、
前記画像処理部は、加工直前に照明光を照射して撮像した前記工具の刃部の画像内の影と、加工直後に照明光を照射して撮像した前記工具の刃部の画像内の影を比較することにより、前記工具の刃部の摩耗痕又は欠けを特定する、
工具診断装置。
【請求項11】
工具診断装置が行う工具診断方法において、
工作物を加工する工作機械の工具の刃部の画像を画像処理する画像処理ステップと、
前記画像処理後の前記工具の刃部の画像、前記工作機械の加工条件、前記工具及び前記工作物の諸元を学習用データとし、前記工具の残り工具寿命を学習する機械学習によって学習済モデルを生成するモデル生成ステップと、
前記学習済モデルに前記画像処理後の前記工具の刃部の画像、前記工作機械の加工条件、前記工具及び前記工作物の諸元を入力することで、前記工具の残り工具寿命を出力する推論ステップと、
を備え、
前記画像処理ステップでは、加工直前に照明光を照射して撮像した前記工具の刃部の画像内の影と、加工直後に照明光を照射して撮像した前記工具の刃部の画像内の影を比較することにより、前記工具の刃部の摩耗痕又は欠けを特定する、
工具診断方法。
【請求項12】
コンピュータを、
工作物を加工する工作機械の工具の刃部の画像を画像処理する画像処理部、
前記画像処理後の前記工具の刃部の画像、前記工作機械の加工条件、前記工具及び前記工作物の諸元を学習用データとし、前記工具の残り工具寿命を学習する機械学習によって学習済モデルを生成するモデル生成部、
前記学習済モデルに前記画像処理後の前記工具の刃部の画像、前記工作機械の加工条件、前記工具及び前記工作物の諸元を入力することで、前記工具の残り工具寿命を出力する推論部、
として機能させ、
前記画像処理部は、加工直前に照明光を照射して撮像した前記工具の刃部の画像内の影と、加工直後に照明光を照射して撮像した前記工具の刃部の画像内の影の面積を比較することにより、前記工具の刃部の摩耗痕又は欠けを特定する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工具診断システム、工具診断装置、工具診断方法及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の工具診断装置では、工具の刃部の画像と、加工条件と、工具及び工作物の諸元を用いて機械学習により学習済モデルを作成し、新たな工具の刃部の画像と、加工条件と、工具及び工作物の諸元を学習済モデルに入力することで、工具の摩耗予測を出力として得ることが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような工具診断装置にあっては、工具の刃部の画像に摩耗による模様以外のもの、例えば切粉、切削液などの異物が付着していた場合、それらを摩耗による模様と誤認識してしまい、学習済モデルの予測精度が低下するという問題点があった。さらに、手動により異物を除去することも可能ではあるが、機械学習には数十から数百枚の画像を用いる必要があるため、実際に行うには手間がかかり過ぎるという問題がある。
【0005】
本開示は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、工具診断において手間をかけずに十分な予測精度を持つ学習済モデルを生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示の工具診断システムは、工作物を加工する工作機械と、工作機械に取り付けられた工具の刃部を撮像する撮像装置と、工具の刃部に照明光を照射する照明と、工具の刃部の画像を画像処理する画像処理部と、画像処理後の工具の刃部の画像、工作機械の加工条件、工具及び工作物の諸元を学習用データとし、工具の残り工具寿命を学習する機械学習によって学習済モデルを生成するモデル生成部と、学習済モデルに画像処理後の工具の刃部の画像、工作機械の加工条件、工具及び工作物の諸元を入力することで、工具の残り工具寿命を出力する推論部と、を備え、画像処理部は、加工直前に照明から照明光を照射して撮像した工具の刃部の画像内の影と、加工直後に照明から照明光を照射して撮像した工具の刃部の画像内の影を比較することにより、工具の刃部の摩耗痕又は欠けを特定する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、加工前後に撮像した画像内の影を比較して工具の摩耗痕又は欠けを特定することにより、工具診断において手間をかけずに十分な予測精度を持つ学習済モデルを生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の第1の実施の形態に係る工具診断システムの構成を示す図
【
図2】本開示の第1の実施の形態に係る工具診断装置の構成を示す図
【
図3】(a)は、工具の刃部が工作物を削り取る過程を示す図、(b)は、工具の刃部が工作物を削り取る過程により工具の刃部が摩耗していく過程を示す図
【
図4】本開示の第1の実施の形態に係る摩耗痕の大きさと残り工具寿命の関係を示すグラフ
【
図5】(a)は、加工直前の工具を工具の回転軸方向から観察した図、(b)は、加工直後の工具を工具の回転軸方向から観察した図
【
図6】(a)は、加工直前の工具の刃部の照明による影を示す図、(b)は、加工直後の工具の刃部の照明による影を示す図、(c)及び(d)は、照明の照射方向を変えた場合に生成される影を示す図
【
図7】(a)は、工具の回転軸方向から見た照明が設置される位置を示す図、(b)は、工具の側面方向から見た照明が設置される位置を示す図
【
図8】本開示の第1の実施の形態に係る撮像処理の動作を示すフローチャート
【
図9】本開示の第1の実施の形態に係る画像処理の動作を示すフローチャート
【
図10】本開示の第1の実施の形態に係る学習部の構成を示す図
【
図11】本開示の第1の実施の形態に係るニューラルネットワークを示す図
【
図12】本開示の第1の実施の形態に係る学習処理の動作を示すフローチャート
【
図13】本開示の第1の実施の形態に係る推論部の構成を示す図
【
図14】本開示の第1の実施の形態に係る工具交換の判断処理の動作を示すフローチャート
【
図15】本開示の第1の実施の形態に係る工具診断装置のハードウェア構成を示す図
【
図16】本開示の第2の実施の形態に係る工具診断システムの構成を示す図
【
図17】本開示の第3の実施の形態に係る工具診断システムの構成を示す図
【
図18】本開示の第4の実施の形態に係る工具診断システムの構成を示す図
【
図19】(a)は、加工直前の工具を工具の側面から観察した図、(b)は、加工直後の工具を工具の側面から観察した図
【
図20】本開示の第5の実施の形態に係る工具診断システムの構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施の形態に係る工具診断システム100を説明する。各図面においては、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。
【0010】
(第1の実施の形態)
図1は、本開示の第1の実施の形態に係る工具診断システム100を示す構成図である。工具診断システム100は、被加工物を切削加工する工作機械1と、工作機械1に接続され、工作機械の動作を制御する制御装置2と、工作機械1で使用される工具の摩耗状態を診断する工具診断装置3と、工具診断装置3に接続され、工具の状態を撮像する撮像装置であるカメラ4と、工具の刃部に光を照射する照明5と、工具診断装置3に接続され、工作機械1の加工時の状態を検出するセンサ6と、を備える。
【0011】
工作機械1は、被加工物である工作物14を切削加工する工具15と、工具15を回転する主軸モータ17と、加工時に工具15に切削液を吹きかける切削液吐出口18と、工具15を自動で交換するオートツールチェンジャ19と、を備える。工具15は、例えばフライス、ドリル等の機械加工を行う工具であり、主軸モータ17に取り外しが可能な状態で取付固定されている。主軸モータ17が回転駆動することによって工具15が回転する。主軸モータ17を回転させながら工具15を工作物14に近づけていき、工作物14に刃を接触させることで、工作物14を削り取りながら工作物14を所望の形状に加工する。その際、工具15は工作物14との摩擦により熱が発生する。そこで、工具15の近傍には、工具15を冷却するために切削液を工具15に吐出する切削液吐出口18が設けられている。切削加工時において切削液吐出口18から切削液を工具15に吹きかけることにより、摩擦熱が発生した工具15を冷却する。オートツールチェンジャ19は、加工を行う際に工具の自動交換を行う装置であり、複数の工具を収納するツールマガジンを備え、主軸モータ17に装着されている工具15とツールマガジン内の工具を交換する。自動工具交換は、工作機械1を制御する制御装置2で実行される加工プログラムの工具交換指示に従い、ツールマガジンに装着された複数の工具の中から次に使用する工具15を選択し、工具交換位置である主軸に近い位置までツールマガジンを旋回して移動させ、主軸に装着された工具15と交換することによって行われる。
【0012】
工作機械1の外部には、オートツールチェンジャ19に交換される工具15が固定される状態で、工具15の刃部を撮像できる位置にカメラ4が設置されている。カメラ4は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラ、CCD(Charge Coupled Device)カメラ、ハイパースペクトルカメラ、TOF(Time of Flight)カメラ等である。カメラ4は通信ケーブルによって工具診断装置3に接続されており、カメラ4で撮像された画像はA/D(Analog/Digital)変換されて工具診断装置3に送られる。
【0013】
また、工作機械1には、センサ6が設置されている。センサ6は、例えば、加工時のモータ諸元データ(モータ速度、モータトルク、加速度波形、電流波形、電圧波形など)、加工関係情報(切削液吐出圧、切削液温度など)等の加工状態データを検出するために、主軸モータ17に設置された加速度センサ、電流検出センサ、電圧検出センサ、切削液吐出口18に設置された圧力センサ、温度センサ等である。センサ6は通信ケーブルによって工具診断装置3に接続されており、センサ6で検出された加工状態データは工具診断装置3に送られる。
【0014】
制御装置2は、工作機械1を制御する数値制御装置である。制御装置2は、工作機械1で工作物14の切削加工を行う場合、例えば主軸回転数、送り速度、切込み量等の工作機械1の加工条件、使用する工具15の種類・材質、及び工作物14の材質等の工具15及び工作物14の諸元を予め記憶された加工プログラムに設定することにより、工作機械1を制御する。また、制御装置2は、設定された工作機械1の加工条件、工具15及び工作物14の諸元のデータを工具診断装置3に送出する。
【0015】
工具診断装置3は、
図2に示すように、カメラ4が撮像した画像データを画像処理する画像処理部31と、画像処理部31で画像処理された画像データ、制御装置2から送出される工作機械1の加工条件、工具15及び工作物14の諸元のデータ、センサ6で検出された加工状態検出データが入力され、工具15の摩耗による使用限界までの残り工具寿命を学習する学習部32と、学習により生成された学習済モデルを記憶する学習済モデル記憶部33と、学習部32と同様に画像処理部31で画像処理された画像データ、制御装置2から送出される工作機械1の加工条件、工具15及び工作物14の諸元のデータ、センサ6で検出された加工状態検出データが入力され、学習済モデル記憶部33に記憶された学習済モデルを利用して工具15の残り工具寿命を推論する推論部34と、推論された工具15の残り工具寿命に基づいて工具15の交換の必要を警報する警報発令部35と、を備える。画像処理部31は、カメラ4が撮像した工具15の刃部の画像データを画像処理して、摩耗により変色した色領域を抽出し、ラベリング処理された色領域についてエッジ検出を行い、摩耗痕の輪郭形状を抽出して摩耗痕のエッジ情報を求める。摩耗痕は、工具の摩耗が増大すると、大きくなることから、摩耗痕の大きさを測定することによって工具15の残り工具寿命を求め、残り工具寿命の有無から、工具交換要否の判断を行うことが可能である。
【0016】
図3(a)は、工具15の刃部151が工作物14を削り取る過程を示す模式図を示している。工具15の刃部151が工作物14を削り取ることにより、切粉141が発生する。
図3(b)は、
図3(a)の工具15の刃部151が工作物14を削り取る過程により工具15の刃部151が摩耗していく過程を示す模式図を示している。工具15の刃部151はすくい面153と逃げ面154で構成されており、刃部151が工作物14を削り取ることにより、切粉141が逃げ面154上を摺接する。このため、逃げ面154側に切粉141との摩擦による摩耗痕155が生じる。摩耗痕155は、工具15の加工回数及び加工距離に比例して大きくなっていき、摩耗痕155がある程度の大きさに達すると、工作物14を削り取る際の抵抗が増大し、工作物14の加工面の荒さが増大する。また、工具15がドリル形状である場合、ドリルの刃に生じる摩耗痕155がある程度の大きさに達すると、工作物14に穴をあける際の抵抗が増大し、形成される穴の直径が設計より大きくなる。上述した段階に達すると、工具15は使用の限界に達したと判断され、工具15は交換される。ここで、工具15が新品の状態から使用の限界に達するまでに要する加工回数及び加工距離、又は使用限界までの耐用加工回数及び加工距離を工具寿命と呼び、工具15が現在の状態から使用の限界に達するまでに要する加工回数及び加工距離、又は使用限界までの耐用加工回数及び加工距離を残り工具寿命と呼ぶ。工具15の刃部151の摩耗痕155がある程度の大きさに達すると、工具15は工具寿命に達したと判断できるため、工具の刃部151の摩耗痕155の大きさを観察すれば、工具15の使用可否を判断することができる。
図4は、摩耗痕155の大きさと工具15の残り工具寿命の関係の例を示し、縦軸が残り工具寿命であり、横軸が摩耗痕155の大きさである。
図4において、摩耗痕155の大きさが拡大すると、残り工具寿命は急激に短くなる。
図4に示すように、摩耗痕155の大きさと工具15の残り工具寿命の関係が判明していれば、摩耗痕155から工具15の残り工具寿命を算出することができ、工具15の交換要否を判断することができる。
【0017】
また、工具15の刃部151に欠損が生じると、工作物14の加工面に刃部151の欠けが転写されるので、加工面の粗さが増大し、所望の加工精度が得られなくなる。
【0018】
したがって、工具15の残り工具寿命を的確に算出するためには、摩耗痕155を正しく検出することが必要である。また、工具15の工具寿命が残っていても、欠け156が無いことを確認しなければならない。しかしながら、加工時に発生する切粉141、工具15の冷却に必要な切削液の存在により、摩耗痕155と欠け156が正しく検出されない場合が生じ得る。
図5は工具15を工具の回転軸方向から観察した図であり、(a)は加工直前の工具15の状態を、(b)は加工直後の工具15の状態をそれぞれ示している。
図5(a)において、それまでの工具15の使用により刃部151の逃げ面154に摩耗痕155が形成されている。
図5(a)の状態から加工が終了した直後の工具15の状態を観察すると、
図5(b)に示すように、加工による刃部151の摩耗により、摩耗痕155の大きさが広がっている。また、加工により、逃げ面154には切削液157及び切粉141が付着している。さらに、加工により、刃部151の先端には欠け156が生じている。しかしながら、カメラ4で撮像する画像は2次元データであり、深さ方向のデータが無いため、画像内に存在する模様に対して、それが摩耗痕155及び欠け156であるのか、それとも切削液157及び切粉141であるのかを判別することができない。その結果、切削液157及び切粉141を摩耗痕155として計測してしまい、工具の刃部151の摩耗痕155の大きさが実際と異なることが生じ得る。このデータを用いて工具15の残り工具寿命を算出した場合、正しい工具15の交換要否を判断できず、加工中に工具15が工具寿命に達する、もしくは欠け156が生じて工作物14が正しく加工されず、不良品となるといった問題が発生する。
【0019】
これに対して、カメラ4に撮像面の法線方向に移動する機能を追加し、凹凸の底と頂点にピントが合うカメラ4の位置から、深さ方向のデータを取得する手段、カメラ4に加えてレーザ変位計を設置し、レーザ変位計を用いて深さ方向のデータを取得する手段等により、摩耗痕155及び欠け156と、切削液157及び切粉141を判別することができる。しかし、これらの手段は高額な機器の追加が必要且つ、深さ方向のデータ取得に時間がかかるという課題がある。
【0020】
そこで、高額な機器の追加を必要とせず、短時間で摩耗痕155及び欠け156と、切削液157及び切粉141を判別する手法として、工具15の刃部151の逃げ面154に平行な方向、少なくとも逃げ面154の法線方向と一致しない方向から照明5の光を照射し、生成される影51によって摩耗痕155及び欠け156と、切削液157及び切粉141とを判別する。
【0021】
図6(a)は、加工直前の工具15の刃部151の逃げ面154に、逃げ面154に平行な方向から照明5の光を照射すると生成される影51を示す図である。一般的に刃部151は用途に応じた複雑な形状をしており、工作物14との接触により摩耗する部分を構造152と称することとする。逃げ面154に平行な方向から照明5の光を照射すると、構造152により照射光が遮られ、影51が生成される。
【0022】
図6(b)は加工直後の工具15の刃部151の逃げ面154に、逃げ面154に平行な方向から照明5の光を照射すると生成される影52と影53を示す図である。逃げ面154に切粉141又は切削液157が付着している場合、加工直前の影51と比較して面積が増加した影52となる。一方、摩耗痕155と欠け156によって構造152の体積が減少すると、加工直前の影51と比較して面積が減少した影53となる。よって、加工の前後で面積が増加した影52に相当する模様は切粉141又は切削液157などの付着物、面積が減少した影53に相当する模様は摩耗痕155又は欠け156と判別することができる。
【0023】
ただし、切粉141及び切削液157が付着する場所は様々であり、
図6(c)に示すように、照明光を当てる方向によっては、構造152により生成される影51と影52が重なってしまい、影の増減を判別できない場合が想定される。
図6(c)において、
図6(b)と同様に、構造152に対し、紙面上において左側に照明5が配置され、照明光が照射されている。ただし、切粉141あるいは切削液157が付着している位置が構造152に隣接しており、切粉141あるいは切削液157により生成される影52は、構造152により生成される加工前の影51と重なっている。これに対し、
図6(d)では、照明5が、
図6(c)とは反対に、紙面上において右側に配置されている。この場合、切粉141あるいは切削液157の影52及び構造152の加工前の影51は、
図6(c)とは反対方向に形成され、影52は影51と重ならない。したがって、異なる方向から照明光を照射することにより、摩耗痕155及び欠け156と、切削液157及び切粉141との判別がより正確となる。
図7は、工具15の周囲に複数の照明5を設けた構成を示しており、
図7(a)は、工具15の回転軸方向から見た照明5が設置される位置を示し、
図7(b)は、工具15の側面方向から見た照明が設置される位置を示している。
図7に示すように、逃げ面154に平行な平面上の複数の方向から照明5の光を照射することによって、影51と影52が重ならない照明5の光の照射方向があるので、加工直前と加工直後の影の面積を比較することが可能となる。その結果、摩耗痕155及び欠け156と、切削液157及び切粉141を判別することができる。
【0024】
図8に、加工直前と加工直後のカメラ4による工具15の撮像処理動作のフローチャートを示す。制御装置2は、加工開始前、オートツールチェンジャ19に工具15が固定される状態で、カメラ4が撮像できる位置に工具15を移動し、カメラ4は工具15の刃部151を照明5の位置を変更しながら撮像する(ステップS101)。撮像後、制御装置2は、工具15を主軸モータ17に取り付け、工作物14の加工処理を実行させる(ステップS102)。加工後、制御装置2は、工具15をカメラ4が撮像できる位置に移動させて、カメラ4は工具15の刃部151を照明5の位置を変更しながら再度撮像する(ステップS103)。ステップS103の処理が実行されると、撮像処理を終了する。なお、工具15のカメラ4での撮像は、1回だけでなく複数回行ってもよい。また、照明5の照度又は照射角度を変化させてもよく、撮像中に照度又は照射角度を変化させてもよい。撮像処理が終了すると、撮像された画像は、工具診断装置3に送出される。工具診断装置3では、送られてきた画像を画像処理部31で画像処理を行う。次に、
図9に画像処理部31で行われる画像処理動作を示す。画像処理部31は、送られてきた加工前後の画像を比較して、影51の面積が変化している模様がないかを確認する(ステップS201)。比較の結果、影51の面積が増加している模様が検出されるとその領域を付着物である切削液157又は切粉141であると特定し、影51の面積が減少している模様が検出されるとその領域を刃の損傷である摩耗痕155又は欠け156と特定する(ステップS202)。画像処理部31は、切削液157又は切粉141として特定された模様を画像から除去し、摩耗痕155又は欠け156として特定された模様を保存、又は強調する画像処理を行い(ステップS203)、画像処理を終了する。これによって、画像から摩耗痕155と欠け156のみが抽出され、工具15の刃部151の画像からは摩耗痕155と欠け156の大きさのみが計測されることができる。なお、上記画像処理は画像処理部31が実行したが、カメラ4において上記画像処理を実行してもよい。
【0025】
工具診断装置3は、前述したように、上記画像処理がなされた画像データを入力の1つとし、工具15の摩耗による使用限界までの残り工具寿命を学習する学習部32と、学習済モデルを利用して工具15の残り工具寿命を推論する推論部34を備える。学習部32は、
図10に示すように、カメラ4から送信される工具15の刃部151の画像データ、制御装置2から送信される工作機械1の加工条件、工具及び工作物の諸元データ、センサ6で検出された加工状態検出データといった学習用データを取得するデータ取得部321と、データ取得部321で取得した学習用データを入力データとし、機械学習によって学習済モデルを生成するモデル生成部322と、を備え、モデル生成部322で生成された学習済モデルを記憶する学習済モデル記憶部33が設けられている。カメラ4で撮像される工具15の刃部151の画像データと、データ取得部321で取得する工作機械1の加工条件データと、工具15及び工作物14の諸元データと、加工状態検出データを学習用データとし、工具15の残り工具寿命を学習する。すなわち、工具15の刃部151の画像データと、工作機械1の加工条件データと、工具15及び工作物14の諸元データ、加工状態検出データから、工具15の残り工具寿命を推論する学習済モデルを作成する。ここで学習用データとは、工具の刃部151の画像データと、工作機械1の加工条件データと、工具15及び工作物14の諸元データと、加工状態検出データと、工具15の残り工具寿命を互いに関連付けたデータである。
【0026】
なお、学習部32及び推論部34は、工作機械1の工具15の残り工具寿命を学習するために使用されるが、例えば、ネットワークを介して工作機械1に接続され、この工作機械1とは別個の装置である学習装置、推論装置として存在してもよい。また、学習装置及び推論装置は、工作機械1に内蔵されていてもよいし、制御装置2に内蔵されていてもよい。さらに、学習装置及び推論装置は、クラウドサーバ上に存在していてもよい。
【0027】
モデル生成部322が用いる学習アルゴリズムは教師あり学習、教師なし学習、強化学習等の公知のアルゴリズムを用いることができる。一例として、ニューラルネットワークを適用した場合について説明する。モデル生成部322は、例えば、ニューラルネットワークモデルに従って、いわゆる教師あり学習により、工具15の使用限界までの耐用加工回数及び加工距離を学習する。ここで、教師あり学習とは、入力と結果(ラベル)のデータの組を学習部32に与えることで、それらの学習用データにある特徴を学習し、入力から結果を推論する手法をいう。
【0028】
ニューラルネットワークは、複数のニューロンによって構成される入力層、複数のニューロンによって構成される中間層(隠れ層)、及び複数のニューロンによって構成される出力層で構成される。中間層は、1層、又は2層以上でもよい。例えば、
図11に示すような3層のニューラルネットワークであれば、複数の入力が入力層(X1‐X3)に入力されると、その値に重みW1(w11‐w16)を掛けて中間層(Y1‐Y2)に入力され、その結果にさらに重みW2(w21‐w26)を掛けて出力層(Z1‐Z3)から出力される。この出力結果は、重みW1とW2の値によって変わる。
【0029】
本実施の形態において、ニューラルネットワークは、データ取得部321によって取得される工具15の刃部151の画像データと、工作機械1の加工条件データと、工具15及び工作物14の諸元データと、加工状態データと、工具15の残り工具寿命の組合せに基づいて作成される学習用データに従って、いわゆる教師あり学習により、工具15の残り工具寿命を学習する。すなわち、ニューラルネットワークは、入力層に工具15の刃部151の画像データと、工作機械1の加工条件データと、工具15及び工作物14の諸元データと、加工状態データと、を入力して出力層から出力された結果が、工具15の残り工具寿命に近づくために重みW1とW2を調整することで学習する。モデル生成部322は、以上の学習を実行することで学習済モデルを生成する。生成された学習済モデルは、学習済モデル記憶部33に出力される。学習済モデル記憶部33は、モデル生成部322から出力された学習済モデルを記憶する。
【0030】
次に、
図12を用いて、学習部32が学習する処理について説明する。ステップS301において、データ取得部321は工具15の刃部151の画像データと、工作機械1の加工条件データと、工具15及び工作物14の諸元データと、加工状態データと、工具15の残り工具寿命を取得する。なお、工具15の刃部151の画像データ、工具15の残り工具寿命を同時に取得するものとしたが、工具15の刃部151の画像データ、工具15の残り工具寿命を関連づけて入力できれば良く、工具15の刃部151の画像データ、工具15の残り工具寿命のデータをそれぞれ別のタイミングで取得しても良い。ステップS302において、モデル生成部322は、データ取得部321によって取得される工具15の刃部151の画像データと、工作機械1の加工条件データと、工具15及び工作物14の諸元データと、加工状態データと、工具15の残り工具寿命の組合せに基づいて作成される学習用データに従って、いわゆる教師あり学習により、工具15の残り工具寿命を学習し、学習済モデルを生成する学習処理を行う。ステップS303において、学習済モデル記憶部33は、モデル生成部322が生成した学習済モデルを記憶する。ステップS303が実行されると学習処理を終了する。
【0031】
学習済モデルが生成されると、学習済モデルを用いて推論部34が工具15の残り工具寿命を推論する。推論部34は、
図13に示すように、データ取得部341と、残り工具寿命推論部342と、を備え、学習済モデル記憶部33から学習済モデルを読み出して推論に利用する。データ取得部341は工具15の刃部151の画像データと、工作機械1の加工条件データと、工具15及び工作物14の諸元データと、加工状態データと、を取得する。残り工具寿命推論部342は、学習済モデルを利用して得られる工具15の残り工具寿命を推論する。すなわち、この学習済モデルにデータ取得部341で取得した工具15の刃部151の画像データと、工作機械1の加工条件データと、工具15及び工作物14の諸元データと、加工状態データと、を入力することで、工具15の刃部151の画像データと、工作機械1の加工条件データと、工具15及び工作物14の諸元データから推論される工具15の残り工具寿命を出力することができる。なお、本実施の形態では、工作機械1のデータを入力として学習部32のモデル生成部322で学習した学習済モデルを用いて工具15の残り工具寿命を出力するものとして説明したが、他の工作機械、他の学習装置等の外部から学習済モデルを取得し、この学習済モデルに基づいて工具15の残り工具寿命を出力してもよい。
【0032】
次に、
図14を用いて、推論部34と警報発令部35による工具交換の判断処理の動作について説明する。ステップS401において、データ取得部341は 工具15の刃部151の画像データと、工作機械1の加工条件データと、工具15及び工作物14の諸元データと、加工状態データと、を取得する。なお、工具15の刃部151の画像データを取得する際は、加工直前と加工直後の工具15の刃部151をそれぞれ照明5の位置を変更しながらカメラ4で撮像し、2枚の画像を比較し、影の面積が変化している模様がないかを確認して、影の面積が増加している模様を切削液157又は切粉141であると特定し、影の面積が減少している模様を摩耗痕155又は欠け156と特定する。特定された切削液157及び切粉141は、画像処理部31の画像処理によって画像から除去され、工具15の刃部151の画像からは摩耗痕155と欠け156のみが抽出され、摩耗痕155と欠け156の大きさを計測する。ステップS402において、推論部34は学習済モデル記憶部33に記憶された学習済モデルに工具15の刃部151の画像データと、工作機械1の加工条件データと、工具15及び工作物14の諸元データと、加工状態データを入力し、工具15の残り工具寿命を得る。ステップS403において、推論部34は、学習済モデルにより得られた工具15の残り工具寿命を警報発令部35に出力する。ステップS404において、警報発令部35は、出力された工具15の残り工具寿命と工作物14を加工するのに必要な加工回数及び加工距離を比較し、工作物14を加工するのに必要な加工回数及び加工距離に対して工具15の残り工具寿命が不足していた場合、警報を発令し、ユーザに工具15の交換を促す。警報は、映像によるものであっても音声であるものであってもよい。また、警報発令部35は、制御装置2に工具15の残り工具寿命が不足している旨を通知する。制御装置2は、この通知を受けて、工具15を自動的に交換する制御を行ってもよい。これにより、工具15の工具寿命を余すところなく使い切ることができる。
【0033】
なお、本実施の形態では、学習部32のモデル生成部322が用いる学習アルゴリズムに教師あり学習を適用した場合について説明したが、これに限られるものではない。学習アルゴリズムについては、教師あり学習以外にも、強化学習、教師なし学習、又は半教師あり学習等を適用することも可能である。また、モデル生成部322は、複数の工作機械1に対して作成される学習用データに従って、工具15の使用限界までの耐用加工回数及び加工距離を学習してもよい。なお、モデル生成部322は、同一のエリアで使用される複数の工作機械1から学習用データを取得してもよいし、異なるエリアで独立して動作する複数の工作機械1から収集される学習用データを利用して工具15の使用限界までの耐用加工回数及び加工距離を学習してもよい。また、学習用データを収集する工作機械1を途中で対象に追加、または対象から除去することも可能である。さらに、ある工作機械1に関して工具15の使用限界までの耐用加工回数及び加工距離を学習した学習装置を、これとは別の工作機械1に適用し、当該別の工作機械1に関して工具15の使用限界までの耐用加工回数及び加工距離を再学習して更新してもよい。また、モデル生成部322に用いられる学習アルゴリズムとしては、特徴量そのものの抽出を学習する、深層学習(Deep Learning)を用いることもでき、他の公知の方法、例えば遺伝的プログラミング、機能論理プログラミング、サポートベクターマシンなどに従って機械学習を実行してもよい。
【0034】
工具診断装置3は、コンピュータであり、ハードウェア的には、
図15に示すように、制御プログラムにしたがってデータを処理するプロセッサ41と、プロセッサのワークエリアとして機能する主記憶部42と、データを長期間にわたって記憶するための補助記憶部43と、データ入力を受け付ける入力部44と、データを出力する出力部45と、他の装置と通信する通信部46と、表示部47と、これらの要素を相互に接続するバスと、を備える。補助記憶部43には、プロセッサが実行するデータ収集処理の制御プログラムが記憶されている。入力部44は、カメラ4から送信されてくる画像データ、制御装置2から送信されてくる加工条件、工具15及び工作物14の諸元データ、センサ6から送信されてくる加工状態データを受信し、プロセッサ41に提供する。プロセッサ41は、補助記憶部43に記憶されたプログラムを主記憶部42に読み出して実行することにより、
図2に示した画像処理部31、学習部32、推論部34、警報発令部35として機能する。また、補助記憶部43は、学習済モデル記憶部33として機能する。
【0035】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態においては、工作機械1内にオートツールチェンジャ19が設けられており、カメラ4は、オートツールチェンジャ19に交換される工具15が固定される状態で、工具15の刃部151を撮像できる工作機械1の外部の位置に設置されていた。これに対して第2の実施の形態では、オートツールチェンジャ19が設けられていない工作機械1の場合におけるカメラ4の配置について開示する。
図16は本開示の第2の実施の形態に係る工具診断システム100を示す構成図である。工作機械1はオートツールチェンジャ19を設けていないことから、工具15の刃部151を観察するカメラ4及び照明5は、主軸モータ17に取り付けられた工具15を直接撮像するため、工作機械1の内部に設置される。この場合、切削液157及び切粉141からカメラ4及び照明5を保護するため、カメラ4及び照明5は、カメラ保護カバー7とカメラ保護シャッタ8の内部に設置される。カメラ保護カバー7は、上面を除くカメラ4の周囲を覆う箱状体である。カメラ保護カバー7の上面には、カメラ保護カバー7内に配置されたカメラ4のレンズ及び照明5を覆うカメラ保護シャッタ8が設けられている。カメラ保護シャッタ8は、開閉可能であり、制御装置2の制御により自動開閉される。また、カメラ保護カバー7は、水平方向に移動可能に設けられており、主軸モータ17に取り付けられた工具15に対向する下方位置と工具15に対向しない位置の間で移動できる。カメラ保護カバー7は、制御装置2の制御により自動的に移動する。
【0036】
工具15の刃部151を撮像する際は、主軸モータ17と切削液157の吐出が停止し、カメラ保護カバー7とカメラ保護シャッタ8に保護されたカメラ4及び照明5がカメラ保護カバー7とカメラ保護シャッタ8とともに工具15の直下に移動する。その後、カメラ保護シャッタ8が開き、カメラ4及び照明5が露出された状態で照明5は光を照射してカメラ4は工具15の刃部151を撮像する。撮像が終了すると、カメラ保護シャッタ8は閉じられ、カメラ保護カバー7が工具15の直下の位置から移動することにより、カメラ4は工具15の直下の位置から待避する。
【0037】
なお、本実施の形態ではカメラ4及び照明5が移動するとしたが、カメラ4及び照明5の位置は固定され、工具15がカメラ4及び照明5の位置に移動してもよい。この構成によれば、オートツールチェンジャ19を装備していない工作機械1にも本開示の工具診断システムを適用することができる。また、工具15をオートツールチェンジャ19に移し替える作業が不要となるので、工具診断の時間を短縮することができる。
【0038】
(第3の実施の形態)
第1の実施の形態においては、加工直前に照明を照射して撮像した工具15の刃部151の画像と、加工直後に照明を照射して撮像した工具15の刃部151の画像を比較し、生成される影の面積の増減から、刃部151に付着した切削液157及び切粉141を特定し、画像処理により除去することで、切削液157及び切粉141を、摩耗痕155及び欠け156と誤認することなく、正しく摩耗痕155及び欠け156を抽出できることを開示した。これに対して第3の実施の形態では、影の面積の増加が画像から検出できる限界以下である微小な切粉141、もしくは照明光を透過するため影を生成しない切削液157を判別・特定し、画像から除去可能とする。
図17は、第3の実施の形態に係る工具診断システム100を示す構成図である。本実施の形態では、工作機械1の内部に工具15を洗浄する超音波洗浄機9が設置されている。超音波洗浄機9は、超音波洗浄機保護カバー10と超音波洗浄機保護シャッタ11の内部に設置され、切削液157及び切粉141から保護されている。加工終了後、工具15をオートツールチェンジャ19に移し替える前に、工具15を超音波洗浄機9の直上に移動し、工具15の刃部151を超音波洗浄機9の洗浄容器に蓄えられたアセトン、エタノール等の洗浄液に浸漬した状態で超音波洗浄する。超音波洗浄後、工具15をオートツールチェンジャ19に移し替え、工具診断装置3にて工具15の交換要否を判断する。この構成によれば、影の面積の増加が画像から検出できる限界以下である微小な切粉141又は照明光を透過するため影を生成しない切削液157による模様が消失、もしくは当該模様が移動することにより切削液157及び切粉141の判別・特定がより正確となり、画像から除去することが可能となる。したがって、第1の実施の形態に比べて確実に切削液157と切粉141を撮像画像から除去することができる。
【0039】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態では、第2の実施の形態における工作機械1に第3の実施の形態における超音波洗浄機9を設けた構成を開示する。
図18は第4の実施の形態に係る工具診断システム100を示す構成図である。本実施の形態では、工作機械1の内部に、工具15の刃部151を観察するカメラ4及び照明5と、超音波洗浄機9を設置している。カメラ4及び照明5はカメラ保護カバー7とカメラ保護シャッタ8の内部に設置され、切削液157及び切粉141から保護されている。また、超音波洗浄機9は、超音波洗浄機保護カバー10と超音波洗浄機保護シャッタ11の内部に設置され、切削液157及び切粉141から保護されている。
【0040】
加工終了後、工具15を超音波洗浄機9の直上に移動し、工具15の刃部151を超音波洗浄機9の洗浄容器に蓄えられたアセトン、エタノール等の洗浄液に浸漬した状態で超音波洗浄する。超音波洗浄後、工具15の刃部151を撮像する際は、カメラ保護カバー7とカメラ保護シャッタ8に保護されたカメラ4及び照明5が工具15の直下に移動する。その後、カメラ保護シャッタ8が開き、カメラ4及び照明5が露出された状態となる。カメラ4及び照明5が露出されると、照明5は光を照射してカメラ4は工具15の刃部151を撮像する。
【0041】
なお、本実施の形態ではカメラ4及び照明5が移動するとしたが、工具15が固定されたカメラ4及び照明5の位置に移動してもよい。この構成によれば、オートツールチェンジャ19を装備していない工作機械1にも本開示の工具診断システムを適用することができる。また、工具15をオートツールチェンジャ19に移し替える作業が不要となるので、工具診断の時間を短縮することができる。更には、影の面積の増加が画像から検出できる限界以下である微小な切粉141、もしくは照明光を透過するため影を生成しない切削液157を除去、あるいは切削液157及び切粉141の位置が変化するので、第1の実施の形態に比べて確実に切削液157と切粉141を撮像画像から除去することができる。
【0042】
(第5の実施の形態)
第1~4の実施の形態においては、カメラ4は工具15の回転軸方向、照明5は工具15の回転軸と垂直方向に配置されていた。これに対して第5の形態では、工具の回転軸と垂直の方向にカメラ4、工具の回転軸方向に照明5が追加される場合について開示する。本実施の形態は、回転軸方向から、工具の刃部の逃げ面十分に見えない回転軸と平行の方向に刃を持つ形状を有した工具の場合において有効である。
図19は、上記形状を有した工具の例として工具16を示す。
図19(a)は、加工直前に、回転軸と刃部161が平行である工具16を、回転軸方向と垂直の方向(側面)から観察した図を示している。
図19(b)は、加工直後の工具16を、回転軸方向と垂直の方向から観察した図を示している。加工直後の工具16の刃部161の逃げ面163には、加工直前に比べて、切削液157及び切粉141がさらに付着している。照明5を照射することにより生成される加工直前の影51の面積の増減から実施の形態1と同様に、切削液157及び切粉141を特定し、画像処理により除去する。
【0043】
図20は、本開示の第5の実施の形態に係る工具診断システム100を示す構成図である。工具16の刃部161を観察するカメラ4及び照明5は、工具16の回転軸方向、及び回転軸方向と垂直の方向に配置されている。なお、カメラ4及び照明5は、工具16の回転軸方向から、回転軸方向と垂直の方向に位置と姿勢を変更、又は、工具16の回転軸方向と垂直の方向から、回転軸方向に位置と姿勢を変更することにより、カメラ4及び照明5の必要台数を2台から1台に削減することができる。また、カメラ4及び照明5は固定されており、工具16が位置と姿勢を変更しても良い。
【0044】
工具16が回転軸周りに回転する際、工具16より十分に硬度が低いブラシ12(ナイロンブラシ、ポリエステルブラシ等)を工具16に接触させる、もしくは、エアー吐出口13から吐出されるエアーを工具16の刃部161に吹き付けることにより、切削液157及び切粉141を除去しても良い。この動作の前後で、超音波洗浄機9により、切削液157及び切粉141を除去しても良い。
【0045】
第5の実施の形態を採用することにより、回転軸と垂直の方向に刃を持つ工具15のみならず、回転軸と平行の方向に刃を持つ工具16にも工具診断することが可能となる。また、刃部151及び刃部161が、ブラシ12又はエアー吐出口13より吐出されるエアーに接触することにより、切削液157及び切粉141を除去できる可能性が高まるため、第1の実施の形態に比べて確実に切削液157及び切粉141を撮像画像から除去することができる。さらに、超音波洗浄機9を併用すれば、第4の実施の形態に比べて確実に切削液157及び切粉141を撮像画像から除去することができる。
【0046】
上記の実施の形態では、学習部32及び推論部34への入力として画像データ、加工条件データ、工具及び工作物の諸元データ、センサ6から検出される加工状態データとしたが、必ずしもこれらの全てのデータを入力とする必要はなく、例えば、加工状態データを省略することができる。また、他に関連性のあるデータを入力として加えてもよい。
【0047】
本開示は、本開示の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本開示を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定するものではない。つまり、本開示の範囲は、実施の形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の開示の意義の範囲内で施される様々な変形が、本開示の範囲内とみなされる。
【0048】
(付記1)
工作物を加工する工作機械と、
前記工作機械に取り付けられた工具の刃部を撮像する撮像装置と、
前記工具の刃部に照明光を照射する照明と、
前記工具の刃部の画像を画像処理する画像処理部と、
前記画像処理後の前記工具の刃部の画像、前記工作機械の加工条件、前記工具及び前記工作物の諸元を学習用データとし、前記工具の残り工具寿命を学習する機械学習によって学習済モデルを生成するモデル生成部と、
前記学習済モデルに前記画像処理後の前記工具の刃部の画像、前記工作機械の加工条件、前記工具及び前記工作物の諸元を入力することで、前記工具の残り工具寿命を出力する推論部と、
を備え、
前記画像処理部は、加工直前に前記照明から照明光を照射して撮像した前記工具の刃部の画像内の影と、加工直後に前記照明から照明光を照射して撮像した前記工具の刃部の画像内の影を比較することにより、前記工具の刃部の摩耗痕又は欠けを特定する、
工具診断システム。
(付記2)
前記画像処理部は、前記比較により、画像内の影のうち、影の減少した部分を生成した模様を前記工具の刃部の摩耗痕又は欠けとして特定し、前記工具の刃部の摩耗痕又は欠けとして特定された模様の画像を保存又は画像処理によって強調する、
付記1に記載の工具診断システム。
(付記3)
前記画像処理部は、前記比較により、画像内の影のうち、影の増加した部分を生成した模様を前記工具の刃部に付着する付着物として特定し、前記付着物として特定された模様の画像を画像処理によって画像内から除去する、
付記1又は2に記載の工具診断システム。
(付記4)
前記照明は、前記工具の刃部の逃げ面の法線方向と一致しない方向から照明光を照射する、
付記1から3のいずれか1つに記載の工具診断システム。
(付記5)
複数の前記照明を備え、複数の前記照明の各々は、異なる方向から照明光を照射する、
付記4に記載の工具診断システム。
(付記6)
前記工具の残り工具寿命と工作物を加工するのに必要な加工回数及び加工距離を比較し、前記工具の残り工具寿命が前記工作物を加工するのに必要な加工回数及び加工距離に対して不足していた場合、工具の交換を促す警報を発令する警報発令部を備える、
付記1から5のいずれか1つに記載の工具診断システム。
(付記7)
前記撮像装置を前記工作機械の内部に設けた、
付記1から6のいずれか1つに記載の工具診断システム。
(付記8)
前記工具の刃部を洗浄する超音波洗浄機を前記工作機械の内部に設けた、
付記1から7のいずれか1つに記載の工具診断システム。
(付記9)
前記工具の刃部を清掃するブラシ又はエアー吐出口を前記工作機械の内部に設けた、
付記1から8のいずれか1つに記載の工具診断システム。
(付記10)
工作物を加工する工作機械の工具の摩耗状態を画像から診断する工具診断装置において、
前記工具の刃部の画像を画像処理する画像処理部と、
前記画像処理後の前記工具の刃部の画像、前記工作機械の加工条件、前記工具及び前記工作物の諸元を学習用データとし、前記工具の残り工具寿命を学習する機械学習によって学習済モデルを生成するモデル生成部と、
前記学習済モデルに前記画像処理後の前記工具の刃部の画像、前記工作機械の加工条件、前記工具及び前記工作物の諸元を入力することで、前記工具の残り工具寿命を出力する推論部と、
を備え、
前記画像処理部は、加工直前に照明光を照射して撮像した前記工具の刃部の画像内の影と、加工直後に照明光を照射して撮像した前記工具の刃部の画像内の影の面積を比較することにより、前記工具の刃部の摩耗痕又は欠けを特定する、
工具診断装置。
(付記11)
工具診断装置が行う工具診断方法において、
工作物を加工する工作機械の工具の刃部の画像を画像処理する画像処理ステップと、
前記画像処理後の前記工具の刃部の画像、前記工作機械の加工条件、前記工具及び前記工作物の諸元を学習用データとし、前記工具の残り工具寿命を学習する機械学習によって学習済モデルを生成するモデル生成ステップと、
前記学習済モデルに前記画像処理後の前記工具の刃部の画像、前記工作機械の加工条件、前記工具及び前記工作物の諸元を入力することで、前記工具の残り工具寿命を出力する推論ステップと、
を備え、
前記画像処理ステップでは、加工直前に照明光を照射して撮像した前記工具の刃部の画像内の影と、加工直後に照明光を照射して撮像した前記工具の刃部の画像内の影を比較することにより、前記工具の刃部の摩耗痕又は欠けを特定する、
工具診断方法。
(付記12)
コンピュータを、
工作物を加工する工作機械の工具の刃部の画像を画像処理する画像処理部、
前記画像処理後の前記工具の刃部の画像、前記工作機械の加工条件、前記工具及び前記工作物の諸元を学習用データとし、前記工具の残り工具寿命を学習する機械学習によって学習済モデルを生成するモデル生成部、
前記学習済モデルに前記画像処理後の前記工具の刃部の画像、前記工作機械の加工条件、前記工具及び前記工作物の諸元を入力することで、前記工具の残り工具寿命を出力する推論部、
として機能させ、
前記画像処理部は、加工直前に照明光を照射して撮像した前記工具の刃部の画像内の影と、加工直後に照明光を照射して撮像した前記工具の刃部の画像内の影を比較することにより、前記工具の刃部の摩耗痕又は欠けを特定する、
プログラム。
【符号の説明】
【0049】
1 工作機械、2 制御装置、3 工具診断装置、4 カメラ、5 照明、6 センサ、7 カメラ保護カバー、8 カメラ保護シャッタ、9 超音波洗浄機、10 超音波洗浄機保護カバー、11 超音波洗浄機保護シャッタ、12 ブラシ、13 エアー吐出口、14 工作物、15,16 工具、17 主軸モータ、18 切削液吐出口、19 オートツールチェンジャ、31 画像処理部、32 学習部、33 学習済モデル記憶部、34 推論部、35 警報発令部、41 プロセッサ、42 主記憶部、43 補助記憶部、44 入力部、45 出力部、46 通信部、47 表示部、51,52,53 影、100 工具診断システム、141 切粉、151,161 刃部、152 構造、153 すくい面、154,163 逃げ面、155 摩耗痕、156 欠け、157 切削液、321,341 データ取得部、322 モデル生成部、342 残り工具寿命推論部。