(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020856
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】二次電池の充電装置、充電方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 7/10 20060101AFI20250205BHJP
H02J 7/02 20160101ALI20250205BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20250205BHJP
H02J 7/04 20060101ALI20250205BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20250205BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
H02J7/10 B
H02J7/02 E
H02J7/00 Y
H02J7/04 Q
H02J7/10 Q
H01M10/44 Q
H01M10/48 P
H01M10/48 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124472
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石坂 龍斗
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BB01
5G503BB04
5G503CA11
5G503CA20
5G503CB13
5G503EA08
5G503GB03
5G503GD03
5G503GD06
5H030AS20
5H030BB01
5H030FF27
5H030FF43
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】不活性状態のニッケル水素二次電池を誤検知されることなく適切に充電することができる二次電池の充電装置、充電方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】充電装置は、装着された二次電池を充電する充電装置であって、装着された電池の環境温度に応じて、電池の種類を検知するための検知閾値を設定する検知閾値設定部と、電池の電池電圧と検知閾値とに基づき、装着された電池が二次電池であるか否かを判断する電池種類判断部とを有し、検知閾値設定部は、電池の充電開始からの充電時間が所定時間以内である場合に、装着された電池の環境温度を含む所定の温度環境に対応する検知閾値を所定値だけ上昇させた値を、新たな検知閾値として設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着された二次電池を充電する充電装置であって、
装着された電池の環境温度に応じて、前記電池の種類を検知するための検知閾値を設定する検知閾値設定部と、
前記電池の電池電圧と前記検知閾値とに基づき、装着された前記電池が二次電池であるか否かを判断する電池種類判断部と
を有し、
前記検知閾値設定部は、
前記電池の充電開始からの充電時間が所定時間以内である場合に、装着された前記電池の前記環境温度を含む所定の温度環境に対応する検知閾値を所定値だけ上昇させた値を、新たな検知閾値として設定する
充電装置。
【請求項2】
前記検知閾値設定部は、
前記充電時間が60秒以内である場合に、10℃を超える前記環境温度を含む温度環境に対応する前記検知閾値を0.1Vだけ上昇させた値を、前記新たな検知閾値として設定する
請求項1に記載の充電装置。
【請求項3】
前記検知閾値設定部は、
装着された前記電池の前記環境温度および電池サイズに応じて前記検知閾値を設定する
請求項1に記載の充電装置。
【請求項4】
前記電池種類判断部は、
前記電池電圧が前記検知閾値未満である場合に、装着された前記電池がニッケル水素二次電池であると判断する
請求項1に記載の充電装置。
【請求項5】
前記電池種類判断部は、
前記電池電圧が前記検知閾値以上である場合に、装着された前記電池がアルカリ電池であると判断する
請求項1に記載の充電装置。
【請求項6】
装着された前記電池がアルカリ電池であると判断された場合に、異常が発生したことを報知する報知部をさらに備える
請求項1に記載の充電装置。
【請求項7】
装着された二次電池を充電する充電方法であって、
装着された電池の環境温度に応じて、前記電池の種類を検知するための検知閾値を設定する際に、前記電池の充電開始からの充電時間が所定時間以内である場合に、装着された前記電池の前記環境温度を含む所定の温度環境に対応する検知閾値を所定値だけ上昇させた値を、新たな検知閾値として設定し、
前記電池の電池電圧と前記検知閾値とに基づき、装着された前記電池が二次電池であるか否かを判断する
充電方法。
【請求項8】
請求項7に記載の充電方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池の充電装置、充電方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の機器等を動作させるための電源として、ニッケル水素二次電池等の充放電可能な二次電池が普及している。一般に、二次電池を充電するための充電器では、一次電池等の異なる種類の電池が装着された際に、誤って充電されないように、電池検知機能が搭載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
例えば、ニッケル水素二次電池を充電するための充電器には、一次電池であるアルカリ電池を検知するアルカリ電池検知機能が搭載されている。アルカリ電池検知機能は、ニッケル水素二次電池用の充電器に、使用者が誤ってアルカリ電池を装着しても、エラーとして検知し、充電を防止する機能である。
【0004】
アルカリ電池検知機能は、例えば、電池電圧に基づき、電池の種類を検知する。通常、アルカリ電池の電池電圧は、ニッケル水素二次電池の電池電圧よりも高いため、電池の種類を検知するための電池電圧に対する検知閾値を、ニッケル水素二次電池の電池電圧よりも高くすることで、アルカリ電池を検知することができる。装着された電池がアルカリ電池であることを検知した場合、充電器は充電を停止し、アルカリ電池が装着されたことをエラーとして表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ニッケル水素二次電池には、長期間放置すると、内部の化学反応力が低下する不活性状態となることがある。不活性状態のニッケル水素二次電池は、充電開始直後にインピーダンスが高くなることによって充電中の電池電圧が高くなり、一定時間充電を継続すると、インピーダンスが本来の値に戻り、充電中の電池電圧が本来の状態に戻るという性質がある。
【0007】
このような不活性状態のニッケル水素二次電池を充電した場合、充電初期のインピーダンス上昇によって上昇した電池電圧が、充電器に予め設定された検知閾値を超えてしまい、アルカリ電池として誤検知されてしまうという問題点があった。
【0008】
このような問題点を解消する方法として、検知閾値を上げ、充電初期のニッケル水素二次電池の電池電圧よりも高くすることが考えられる。しかしながら、検知閾値を高くすると、アルカリ電池がニッケル水素二次電池として誤検知されて長時間充電されることにより、漏液が発生することが考えられる。
【0009】
本開示は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、不活性状態のニッケル水素二次電池を誤検知されることなく適切に充電することができる二次電池の充電装置、充電方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る二次電池の充電装置は、
装着された二次電池を充電する充電装置であって、
装着された電池の環境温度に応じて、前記電池の種類を検知するための検知閾値を設定する検知閾値設定部と、
前記電池の電池電圧と前記検知閾値とに基づき、装着された前記電池が二次電池であるか否かを判断する電池種類判断部と
を有し、
前記検知閾値設定部は、
前記電池の充電開始からの充電時間が所定時間以内である場合に、装着された前記電池の前記環境温度を含む所定の温度環境に対応する検知閾値を所定値だけ上昇させた値を、新たな検知閾値として設定する。
【0011】
また、本開示に係る充電方法は、
装着された二次電池を充電する充電方法であって、
装着された電池の環境温度に応じて、前記電池の種類を検知するための検知閾値を設定する際に、前記電池の充電開始からの充電時間が所定時間以内である場合に、装着された前記電池の前記環境温度を含む所定の温度環境に対応する検知閾値を所定値だけ上昇させた値を、新たな検知閾値として設定し、
前記電池の電池電圧と前記検知閾値とに基づき、装着された前記電池が二次電池であるか否かを判断する。
【0012】
さらに、本開示に係るプログラムは、
上記の充電方法を、コンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、不活性状態のニッケル水素二次電池を誤検知されることなく適切に充電することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施の形態に係る充電装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1の制御部の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、本実施の形態に係る充電装置の検知閾値と、不活性状態のニッケル水素二次電池の充電特性との関係について説明するための概略図である。
【
図4】
図4は、不活性ニッケル水素二次電池の充電特性の一例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本実施の形態に係る充電装置による検知閾値変更処理および充電処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して説明する。本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各図において、同一の符号を付したものは、同一のまたはこれに相当するものであり、これは明細書の全文において共通している。
【0016】
以下、本開示の実施の形態1について説明する。本実施の形態1に係る二次電池の充電装置は、例えば、ニッケル水素二次電池を充電するためのものであり、アルカリ電池検知機能を搭載している。
【0017】
[充電装置100の構成]
図1は、本実施の形態に係る充電装置100の構成の一例を示すブロック図である。
図1に示すように、充電装置100は、AC/DC変換部10、CV/CC変換部20、DC/DC変換部30、充電回路40、制御部50、検出部60および報知部70を備えている。充電装置100は、図示しない外部の商用電源に接続されている。商用電源は、例えば、100Vの交流電源である。
【0018】
AC/DC変換部10は、外部の商用電源から供給される交流電圧を所定の直流電圧に変換して出力する。CV/CC変換部20は、AC/DC変換部10で変換された定電圧である直流電圧を、充電回路40で必要な定電流である充電電流に変換する回路である。DC/DC変換部30は、AC/DC変換部10で変換された直流電圧を、制御部50が動作するのに必要な所定の直流電圧に変換して出力する。
【0019】
充電回路40は、電池が装着されることにより、当該電池に対する充電を行う。充電回路40には、図示しないスイッチが設けられている。充電回路40では、装着された電池に接続される経路上に配置されたスイッチに対する制御部50からの制御信号によってスイッチがオンとされることにより、当該電池の充電が行われる。また、充電回路40では、制御部50からの制御信号によってスイッチがオフとされることにより、充電回路40に装着された電池の充電が停止される。なお、以下の説明では、充電回路40に電池が装着されることを、「充電装置100に電池が装着される」と記載することがある。
【0020】
検出部60は、例えば、各種のセンサで構成されるセンサ群である。本実施の形態において、検出部60は、充電装置100に装着された電池の周囲の温度である環境温度Taを検出する温度検出手段を有している。
【0021】
また、検出部60は、電池の装着位置に配置された2つの電極間に印加される電極間電圧を検出する電圧検出手段を有している。電極間電圧は、充電装置100に電池が装着されている場合には、当該電池の電池電圧である。また、電極間電圧は、充電装置100に電池が装着されていない場合には、充電回路40に接続されたCV/CC変換部20から出力される電圧である。
【0022】
報知部70は、制御部50で行われる各種の処理の際に発生する異常等を報知する。本実施の形態において、報知部70は、充電対象の電池と異なる種類の電池が装着された場合に、電池種類の異常を報知する。具体的には、例えば、報知部70は、ニッケル水素二次電池ではなくアルカリ電池が装着された場合に、アルカリ電池が装着されていることを報知する。
【0023】
報知部70は、例えば、LED(Light Emitting Diode)等の表示手段であり、点灯または点滅等により、発生した異常を示す表示を行う。なお、報知部70は、これに限られず、例えば、音声を出力するスピーカー等の音声出力手段であってもよい。
【0024】
制御部50は、この充電装置100全体を制御する。制御部50は、MPU(Micro Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)等を備えている(いずれも図示せず)。CPUは、ROMから処理内容に応じたプログラムを読み出してRAMに展開し、展開したプログラムと協働して充電装置100の動作を集中制御する。
【0025】
例えば、制御部50は、検出部60で検出された電池に関する情報に基づき、充電回路40を制御する。また、本実施の形態において、制御部50は、検出部60で検出された各種の情報に基づき、充電装置100に装着された電池の種類を検知するための電池電圧に対する閾値である検知閾値を設定し、後述する検知閾値変更処理および充電処理を行う。
【0026】
図2は、
図1の制御部50の構成の一例を示す機能ブロック図である。
図2に示すように、制御部50は、情報取得部51、電池種類判断部52、充電状態判断部53、検知閾値設定部54、充電制御部55、タイマー56および記憶部57を有している。なお、
図2には、制御部50が有する構成のうち、充電処理および検知閾値変更処理に関連する機能についての処理部のみが示されている。
【0027】
情報取得部51は、検出部60で検出された各種の情報を取得する。例えば、本実施の形態では、情報取得部51は、検出部60で検出された、充電回路40における電極間電圧および環境温度Taを取得する。取得された電極間電圧および環境温度Taは、電池種類判断部52に供給される。
【0028】
電池種類判断部52は、検知閾値変更処理および充電処理の際に、充電装置100に対する電池の装着の有無、および、装着された電池の種類等の電池状態を判断する。例えば、電池種類判断部52は、充電装置100に装着された電池の電池電圧と、記憶部57に記憶された検知閾値とを比較し、比較結果に応じて、装着された電池の種類を判断する。
【0029】
本実施の形態において、電池種類判断部52は、電池の種類がニッケル水素二次電池およびアルカリ電池のいずれであるのかを判断する。具体的には、電池種類判断部52は、電池電圧が検知閾値以上である場合に、装着された電池がアルカリ電池であると判定する。また、電池種類判断部52は、電池電圧が検知閾値より小さい場合に、装着された電池がニッケル水素二次電池であると判定する。
【0030】
充電状態判断部53は、検知閾値変更処理および充電処理の際に、充電装置100に装着された電池に対する充電状態を判断する。例えば、本実施の形態において、充電状態判断部53は、タイマー56によるカウント値に基づき、充電が開始されてからの経過時間が所定時間以内であるか否かを判断する。
【0031】
検知閾値設定部54は、充電装置100に装着された電池の環境温度Taおよび電池サイズに応じて、検知閾値を設定する。本実施の形態において、検知閾値設定部54は、温度環境が「Ta>10」である場合に、電池サイズに対応する検知閾値を初期値から所定値だけ上昇させた値に変更して設定する。
【0032】
充電制御部55は、充電装置100に装着された電池に対する充電を制御する。例えば、本実施の形態において、充電制御部55は、充電装置100に装着された電池の種類の判断結果に応じて、装着された電池に対する充電の開始および停止を行うように、充電回路40を制御する。
【0033】
タイマー56は、充電装置100に装着された電池の充電が開始された際にカウントを開始する。すなわち、タイマー56は、装着された電池に対する充電時間をカウントする。
【0034】
記憶部57は、制御部50で用いられる各種の情報を記憶する。本実施の形態において、記憶部57は、電池種類判断部52で電池の種類を検知するための電池電圧に対する検知閾値を、電池の温度環境毎に、初期値として予め記憶している。
【0035】
[検知閾値の変更]
次に、本実施の形態に係る充電装置100における検知閾値の変更について説明する。背景技術の項でも説明したように、不活性状態のニッケル水素二次電池は、充電開始直後のインピーダンスが高くなることによって充電中の電池電圧が高くなる。一方で、充電を開始してから一定時間が経過すると、インピーダンスが本来の値に戻り、充電中の電池電圧が本来の状態に戻る。
【0036】
このような不活性状態のニッケル水素二次電池を通常の充電装置で充電した場合、充電開始直後のインピーダンス上昇によって上昇した電池電圧が、電池種類を検知するための電池電圧に対する検知閾値を超えてしまうことがある。例えば、ニッケル水素二次電池が充電装置に装着された場合には、このニッケル水素二次電池がアルカリ電池として誤検知され、充電できなくなる可能性がある。
【0037】
そこで、本実施の形態に係る充電装置100は、装着された電池が不活性状態のニッケル水素二次電池であっても、アルカリ電池として誤検知されることなく適切に充電できるように、検知閾値を変更する検知閾値変更処理を行う。
【0038】
(検知閾値および不活性状態のニッケル水素二次電池の充電特性)
図3は、本実施の形態に係る充電装置100の検知閾値と、不活性状態のニッケル水素二次電池の充電特性との関係について説明するための概略図である。
図3では、電池の状態を「温度環境」および「電池サイズ」で分類した場合の検知閾値と、充電装置100に装着される不活性状態のニッケル水素二次電池(以下、「不活性ニッケル水素二次電池」と適宜称する)の充電特性とが示されている。
【0039】
「温度環境」は、充電装置100に装着される電池の周囲の温度である環境温度Taを大まかに区分したものである。この例では、温度環境は、「Ta≦10」および「Ta>10」に分類されている。ここでは、温度環境が「Ta≦10」の一例として、環境温度Taが「-5℃」の場合が示されている。また、温度環境が「Ta>10」の一例として、環境温度Taが「6℃」および「40℃」の場合が示されている。
【0040】
なお、この例では、検出部60における温度検出手段の測定誤差が最大で5℃程度である場合が示されており、このことを考慮すると、環境温度Taが6℃であることは、環境温度Taが11℃であることと同等であると考えることができる。そのため、ここでは、環境温度Taが6℃の例をTa>10℃の温度環境に含めている。
【0041】
「電池サイズ」は、充電装置100に装着される電池の大きさを示すものである。この例では、電池サイズは、「単3形(AA)」および「単4形(AAA)」に分類されている。
【0042】
また、
図3において、検知閾値は、温度環境および電池サイズに応じて異なる値が設定されている。これは、温度環境および電池サイズによって、充電中の不活性ニッケル水素二次電池の電池電圧のピーク値が異なるからである。この例では、温度環境がTa≦10であり、電池サイズが単3形(AA)および単4形(AAA)である場合の検知閾値は、それぞれ「2.10V」および「2.50V」である。また、温度環境がTa>10であり、電池サイズが単3形(AA)および単4形(AAA)である場合の検知閾値は、それぞれ「2.00V」および「2.20V」である。
【0043】
さらに、この例では、不活性ニッケル水素二次電池の充電特性として、「ピーク値」および「マージン」が示されている。「ピーク値」は、充電中の不活性ニッケル水素二次電池における電池電圧の最大値である。「マージン」は、検知閾値とピーク値との差分値である。
【0044】
(マージンの変化と起こりうる影響)
ところで、
図3に示すように、不活性ニッケル水素二次電池における充電中の電池電圧のピーク値は、環境温度Taおよび電池サイズに応じて異なっている。そのため、検知閾値と電池電圧のピーク値との差分であるマージンも、環境温度Taおよび電池サイズに応じて異なる。
【0045】
例えば、この例では、環境温度Taが6℃である場合において、電池サイズが単4形(AAA)であるときのマージンが「20mV」であり、その他の条件と比較してマージンが小さい。そのため、
図3に示す検知閾値を用いて電池の種類を判断する場合には、不活性ニッケル水素二次電池の個体差および電池電圧の測定誤差等により、不活性ニッケル水素二次電池の充電中の電池電圧が検知閾値を超える可能性がある。
【0046】
図4は、不活性ニッケル水素二次電池の充電特性の一例を示すグラフである。
図4において、横軸は充電時間[分]を示し、縦軸は電池電圧[V]を示す。また、この例では、環境温度Taが6℃であり、電池サイズが単4形(AAA)である不活性ニッケル水素二次電池における充電開始からの電池電圧が示されている。
【0047】
図4に示すように、不活性ニッケル水素二次電池の電池電圧は、充電開始直後に2.16V程度まで上昇した後に低下し、1分(60秒)経過後に2.06V程度となる。このように、不活性ニッケル水素二次電池では、充電開始直後に、電池電圧のピーク値が現れ、このときに検知閾値と電池電圧のピーク値との差分であるマージンが最小値となる。
【0048】
上述したように、マージンが小さくなると、不活性状態のニッケル水素二次電池の電池電圧が検知閾値を超え、電池種類の誤検知が発生する可能性がある。そのため、誤検知の発生を抑制する方法として、検知閾値を上昇させてマージンを大きくすることが考えられる。
【0049】
ここで、電池サイズおよび環境温度Taにかかわらず、検知閾値を一律に変更すると、充電装置100にアルカリ電池を装着した場合に、ニッケル水素二次電池として誤検知される可能性がある。したがって、本実施の形態では、マージンが小さい条件での検知閾値を、所定値だけ上昇させる。具体的には、本実施の形態では、環境温度Taが10℃を超える場合(Ta>10)の検知閾値を、所定値だけ上昇させる。
【0050】
また、不活性ニッケル水素二次電池の電池電圧は、充電開始直後では上昇するが、充電を開始してから一定時間が経過した後には、通常の状態に戻る。したがって、本実施の形態では、充電を開始してから一定時間が経過するまでの間だけ、検知閾値を上昇させ、その後は初期値に戻す。
【0051】
以上のことから、本実施の形態では、マージンが小さい、環境温度Taが10℃を超える場合の検知閾値を、充電を開始してから所定時間経過するまで所定値だけ上昇させ、所定時間が経過した後に、検知閾値を初期値に戻す検知閾値変更処理を行う。
【0052】
図4に示す結果によれば、充電開始から1分経過後には、電池電圧が低下する。また、検知閾値の上昇量は、大きくしすぎると、検知閾値がアルカリ電池の電池電圧を超えることになり、アルカリ電池を適切に検知できなくなってしまう。したがって、検知閾値変更処理では、充電開始から1分(60秒)が経過するまでの間、検知閾値を例えば0.1V程度上昇させると好ましい。
【0053】
(検知閾値変更処理)
図5は、本実施の形態に係る充電装置100による検知閾値変更処理および充電処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図5には、検知閾値変更処理および充電処理の際に、制御部50によって行われる処理が示されている。
【0054】
ステップS1において、制御部50の電池種類判断部52は、充電装置100への電池の装着の有無を判断する。具体的には、例えば、情報取得部51は、検出部60で検出された、充電回路40における電池の装着位置に配置された2つの電極間に印加される電極間電圧を取得し、電池種類判断部52に供給する。そして、電池種類判断部52は、情報取得部51から受け取った電極間電圧に基づき、電池が装着されているか否かを判断する。
【0055】
充電回路40に電池が装着されていない場合、電極間電圧は、接続されたCV/CC変換部20から出力される所定電圧となる。一方、充電回路40に電池が装着されている場合、電極間電圧は、当該電池の電池電圧となる。この場合の電池電圧は、CV/CC変換部20から出力される所定電圧よりも低い電圧である。
【0056】
例えば、CV/CC変換部20から出力される電圧が4Vである場合において、充電装置100に電池が装着されていないときの電極間電圧は4Vとなる。したがって、電池種類判断部52は、電極間電圧が4Vよりも低い場合に、充電装置100に電池が装着されていると判断する。また、電池種類判断部52は、電極間電圧が4V以上である場合に、充電装置100に電池が装着されていないと判断する。
【0057】
充電装置100に電池が装着されていると判断された場合(ステップS1:Yes)には、処理がステップS2に移行する。一方、充電装置100に電池が装着されていないと判断された場合(ステップS1:No)には、一連の処理が終了する。
【0058】
ステップS2において、充電状態判断部53は、タイマー56によるカウント値に基づき、充電が開始されてからの経過時間が60秒以内であるか否かを判断する。充電状態判断部53による判断の結果、経過時間が充電開始から60秒以内である場合(ステップS2:Yes)、検知閾値設定部54は、ステップS3において、充電状態判断部53の判断結果に基づき、検知閾値の設定値を変更する。
【0059】
この場合、本実施の形態では、検知閾値設定部54は、環境温度Taが10℃よりも高い場合における、単3形(AA)および単4形(AAA)に対応する検知閾値を、それぞれ0.1Vだけ上昇させた値に設定する。すなわち、
図3の例では、検知閾値設定部54は、環境温度Taが10℃よりも高い場合における、単3形(AA)および単4形(AAA)に対応する検知閾値を、それぞれ0.1Vだけ上昇させた、「2.10V」および「2.30V」に設定する。
【0060】
一方、充電開始から60秒を超えている場合(ステップS2:No)、検知閾値設定部54は、ステップS4において、充電状態判断部53の判断結果に基づき、検知閾値の設定値を初期値に戻す。
図3の例では、検知閾値設定部54は、環境温度Taが10℃よりも高い場合における、単3形(AA)および単4形(AAA)に対応する検知閾値を、それぞれ初期値である「2.00V」および「2.20V」に設定する。なお、検知閾値が変更されていない場合には、現在の設定値を維持する。
【0061】
次に、ステップS5において、制御部50は、装着された電池の種類を判断する。具体的には、例えば、情報取得部51は、検出部60で検出された、充電装置100に装着された電池の電池電圧を取得し、電池種類判断部52に供給する。電池種類判断部52は、情報取得部51から受け取った電池電圧と、ステップS3またはステップS4で設定された、装着された電池の状態(計測された環境温度Taを含む温度環境および電池サイズ)に応じた検知閾値とを比較し、装着された電池がニッケル水素二次電池およびアルカリ電池のいずれであるのかを判断する。
【0062】
比較の結果、電池電圧が検知閾値以上である場合(ステップS5:Yes)、電池種類判断部52は、装着された電池がアルカリ電池であると判断する。そして、電池種類判断部52は、ステップS6において、充電装置100に装着された電池がアルカリ電池であることを、報知部70を用いて報知する。そして、ステップS7において、充電制御部55は、充電回路40のスイッチに対して制御信号を供給し、装着された電池に対する充電を停止させる。
【0063】
次に、ステップS8において、電池種類判断部52は、充電装置100に装着された電池が交換されたか否かを判断する。電池が交換された場合(ステップS8:Yes)には、処理がステップS9に移行する。また、電池が交換されていない場合には、処理がステップS8に戻り、電池が交換されるまで、ステップS8の処理が繰り返される。
【0064】
一方、ステップS5において、電池電圧が検知閾値未満である場合(ステップS5:No)、電池種類判断部52は、装着された電池がニッケル水素二次電池であると判断する。そして、処理がステップS9に移行する。
【0065】
ステップS9において、充電状態判断部53は、充電装置100に装着された電池が充電中であるか否かを判断する。電池が充電中である場合(ステップS9:Yes)には、処理がステップS12に移行する。一方、電池が充電中でない場合(ステップS9:No)には、処理がステップS10に移行する。
【0066】
ステップS10において、充電制御部55は、充電回路40の図示しないスイッチに対して制御信号を供給し、充電装置100に装着された電池に対する充電を開始する。また、ステップS11において、充電制御部55は、タイマー56による充電開始からの経過時間のカウントを開始する。
【0067】
ステップS12において、充電状態判断部53は、充電装置100に装着された電池の充電が完了したか否かを判断する。充電が完了したか否かの判断は、例えば、-ΔV方式およびdT/dt方式等の周知の充電制御方式を用いて行われる。充電が完了した場合(ステップS12:Yes)、充電制御部55は、ステップS13において、充電回路40のスイッチに対して制御信号を供給し、装着された電池に対する充電を停止させる。処理がステップS13に移行する。
【0068】
一方、充電が完了していない場合(ステップS12:No)には、処理がステップS2に戻る。これにより、装着された電池に対する充電が継続される。
【0069】
以上のように、本実施の形態に係る充電装置100では、充電装置100に装着された電池の充電開始からの充電時間が所定時間以内である場合に、装着された電池の環境温度を含む所定の温度環境に対応する検知閾値を所定値だけ上昇させた値が、新たな検知閾値として設定される。これにより、充電初期の電池電圧が高い不活性状態のニッケル水素二次電池が充電装置100に装着された場合でも、電池電圧が検知閾値を超えることがない。そのため、不活性状態のニッケル水素二次電池がアルカリ電池として誤検知されることなく、ニッケル水素二次電池を適切に充電することができる。
【0070】
また、検知閾値は、充電初期において一時的に変更される。そのため、アルカリ電池をニッケル水素二次電池として誤検知することにより、アルカリ電池が誤って充電されてしまうことを防ぐこともできる。
【符号の説明】
【0071】
10 AC/DC変換部
20 CV/CC変換部
30 DC/DC変換部
40 充電回路
50 制御部
51 情報取得部
52 電池種類判断部
53 充電状態判断部
54 検知閾値設定部
55 充電制御部
56 タイマー
57 記憶部
60 検出部
70 報知部
100 充電装置