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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002086
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】試料分析方法及び試料分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20241226BHJP
   G01N 33/72 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
G01N27/447 331K
G01N27/447 301A
G01N33/72 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102011
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大沼 直嗣
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045DA51
2G045FB05
2G045GC10
(57)【要約】
【課題】試料に含まれる成分の濃度によらず、試料に含まれる成分を特定することが可能な試料分析方法及び試料分析装置を提供する。
【解決手段】キャピラリ電気泳動により試料に含まれる複数の成分を分離する工程と、試料のエレクトロフェログラムを得る工程と、エレクトロフェログラムより、各ピークの検出時間と各ピークに対応する濃度を取得する工程と、取得した検出時間と取得した濃度に対して、既知の成分を用いて算出された検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータを用いて、試料に含まれる成分を特定する工程と、を含む、試料分析方法等。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャピラリ電気泳動により試料に含まれる複数の成分を分離する工程と、
前記試料のエレクトロフェログラムを得る工程と、
前記エレクトロフェログラムより、各ピークの検出時間と各ピークに対応する濃度を取得する工程と、
取得した検出時間と取得した濃度に対して、既知の成分を用いて算出された検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータを用いて、前記試料に含まれる成分を特定する工程と、を含む、試料分析方法。
【請求項2】
前記試料のエレクトロフェログラムを得る工程は、
前記試料を光学的に測定して吸光度を得る工程と、
前記吸光度を時間軸に沿って二次元平面上にプロットした元波形として取得する工程と、
前記元波形を前記時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する工程と、を含み、
前記エレクトロフェログラムより、各ピークの検出時間と各ピークに対応する濃度を取得する工程は、
前記時間微分波形における各ピークの検出時間を取得し、取得した各ピークの検出時間に対応する吸光度を取得する工程を含み、
前記試料に含まれる成分を特定する工程は、
取得した検出時間と取得した吸光度に対して、既知の成分を用いて算出された検出時間と吸光度との相関関係を示すパラメータを用いて、前記試料に含まれる成分を特定する工程を含む、請求項1に記載の試料分析方法。
【請求項3】
前記検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータは、
既知の成分を用いて二次元平面上に検出時間と吸光度とをプロットすることによって得られるパラメータである、請求項1に記載の試料分析方法。
【請求項4】
前記検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータは、
既知の成分を用いて二次元平面上に検出時間と吸光度とをプロットすることによって得られる、成分ごとの近似直線の傾きのデータであり、
前記試料に含まれる成分を特定する工程は、
前記傾きのデータを用いて、前記取得した検出時間を補正し、補正検出時間を算出する工程と、
前記補正検出時間に基づいて、前記試料に含まれる成分を特定する工程と、を含む、請求項3に記載の試料分析方法。
【請求項5】
前記検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータは、
既知の成分を用いて二次元平面上に検出時間と吸光度とをプロットすることによって得られる、成分ごとに分離する境界線のデータであり、
前記試料に含まれる成分を特定する工程は、
前記境界線のデータを用いて、前記境界線で隔てられる各領域において、前記取得した検出時間と前記取得した吸光度とが属する領域を特定する工程と、
特定した領域に基づいて、前記試料に含まれる成分を特定する工程を含む、請求項3に記載の試料分析方法。
【請求項6】
前記成分は、ヘモグロビンである、請求項1に記載の試料分析方法。
【請求項7】
キャピラリ電気泳動により試料に含まれる複数の成分を分離する手段と、
前記試料のエレクトロフェログラムを得る手段と、
前記エレクトロフェログラムより、各ピークの検出時間と各ピークに対応する濃度を取得する手段と、
取得した検出時間と取得した濃度に対して、既知の成分を用いて算出された検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータを用いて、前記試料に含まれる成分を特定する手段と、を含む、試料分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料分析方法及び試料分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
臨床検査の現場においてヘモグロビン(以下、「Hb」とも記す。)の分析が日常的に行われている。分析対象となるHb種は検査の目的に応じて異なる。糖尿病の診断や病状把握のための分析対象としてはHbA1cが良く知られている。異常Hb症の診断のための分析対象としては、HbS(鎌状赤血球Hb)、HbC、HbD及びHbEなどに代表される変異Hbが使用されている。また、βサラセミアの診断のための分析対象としては、HbA2及びHbF(胎児Hb)が広く用いられている。
【0003】
Hbの分析は、イオン交換クロマトグラフィー法等の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法、キャピラリ電気泳動(CE)法などにより行われる。
特許文献1には、擬似固定相としてカチオン性ポリマーを含有する溶液を用いた、陰イオン交換動電クロマトグラフィーによる、HbA2の分析方法が記載されている。
特許文献2及び特許文献3には、イオン交換動電クロマトグラフィーによる、界面到達時点を利用したHbA1c等の成分を同定する方法の分析方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-136135号公報
【特許文献2】特許第6846324号公報
【特許文献3】特許第6871129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法を用いた場合、装置の小型化や、測定時間の短時間化が可能である。また、特許文献2又は特許文献3に記載の方法と組み合わせることで、簡便な装置により、相対検出時間に基づいて各ピークのHb種を特定することが可能である。しかしながら、これらの方法では、検体中のHb濃度が変動すると、ピークが重なる場合があった。ピークが重なると、Hb種を特定することが困難である。
【0006】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、試料に含まれる成分の濃度によらず、試料に含まれる成分を特定することが可能な試料分析方法及び試料分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の態様を含む。
<1>
キャピラリ電気泳動により試料に含まれる複数の成分を分離する工程と、
前記試料のエレクトロフェログラムを得る工程と、
前記エレクトロフェログラムより、各ピークの検出時間と各ピークに対応する濃度を取得する工程と、
取得した検出時間と取得した濃度に対して、既知の成分を用いて算出された検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータを用いて、前記試料に含まれる成分を特定する工程と、を含む、試料分析方法。
<2>
前記試料のエレクトロフェログラムを得る工程は、
前記試料を光学的に測定して吸光度を得る工程と、
前記吸光度を時間軸に沿って二次元平面上にプロットした元波形として取得する工程と、
前記元波形を前記時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する工程と、を含み、
前記エレクトロフェログラムより、各ピークの検出時間と各ピークに対応する濃度を取得する工程は、
前記時間微分波形における各ピークの検出時間を取得し、取得した各ピークの検出時間に対応する吸光度を取得する工程を含み、
前記試料に含まれる成分を特定する工程は、
取得した検出時間と取得した吸光度に対して、既知の成分を用いて算出された検出時間と吸光度との相関関係を示すパラメータを用いて、前記試料に含まれる成分を特定する工程を含む、<1>に記載の試料分析方法。
<3>
前記検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータは、
既知の成分を用いて二次元平面上に検出時間と吸光度とをプロットすることによって得られるパラメータである、<1>又は<2>に記載の試料分析方法。
<4>
前記検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータは、
既知の成分を用いて二次元平面上に検出時間と吸光度とをプロットすることによって得られる、成分ごとの近似直線の傾きのデータであり
前記試料に含まれる成分を特定する工程は、
前記傾きのデータを用いて、前記取得した検出時間を補正し、補正検出時間を算出する工程と、
前記補正検出時間に基づいて、前記試料に含まれる成分を特定する工程と、を含む、<3>に記載の試料分析方法。
<5>
前記検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータは、
既知の成分を用いて二次元平面上に検出時間と吸光度とをプロットすることによって得られる、成分ごとに分離する境界線のデータであり、
前記試料に含まれる成分を特定する工程は、
前記境界線のデータを用いて、前記境界線で隔てられる各領域において、前記取得した検出時間と前記取得した吸光度とが属する領域を特定する工程と、
特定した領域に基づいて、前記試料に含まれる成分を特定する工程を含む、<3>に記載の試料分析方法。
<6>
前記成分は、ヘモグロビンである、<1>~<5>のいずれか1つに記載の試料分析方法。
<7>
キャピラリ電気泳動により試料に含まれる複数の成分を分離する手段と、
前記試料のエレクトロフェログラムを得る手段と、
前記エレクトロフェログラムより、各ピークの検出時間と各ピークに対応する濃度を取得する手段と、
取得した検出時間と取得した濃度に対して、既知の成分を用いて算出された検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータを用いて、前記試料に含まれる成分を特定する手段と、を含む、試料の分析装置。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、試料に含まれる成分の濃度によらず、試料に含まれる成分を特定することが可能な試料分析方法及び試料分析装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1Aは、キャピラリ電気泳動チップの一実施形態を示す上面図である。図1Bは、図1Aに示す電気泳動チップの断面図である。
図2図2は、元波形の例を示した図である。
図3図3は、図2の元波形に対する時間微分波形を示した図である。
図4図4は、横軸を相対検出時間PkTimeRtとし、縦軸を吸光度TlAbsとした図である。
図5図5は、Hb種と、補正検出時間との関係の一例を示す図である。
図6図6は、横軸を相対検出時間PkTimeRtとし、縦軸を吸光度TlAbsとした図である。
図7図7は、本実施態様の試料分析方法を実行するのに使用することができる試料分析システムを示すシステム概略図である。
図8図8は、図7の試料分析システムに用いられる分析チップを示す平面図である。
図9図9は、図8のIII-III線に沿う断面図である。
図10図10は、制御部のハードウェア構成を示すブロック図である。
図11図11は、Hb種と、相対検出時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、「工程」という語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において図面を参照して実施形態を説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0012】
[試料分析方法]
本開示に係る試料分析方法は、キャピラリ電気泳動により試料に含まれる複数の成分を分離する工程(以下、「分離工程」ともいう)と、試料のエレクトロフェログラムを得る工程(以下、「エレクトロフェログラム取得工程」ともいう)と、エレクトロフェログラムより、各ピークの検出時間と各ピークに対応する濃度を取得する工程(以下、「検出時間・濃度取得工程」ともいう)と、取得した検出時間と取得した濃度に対して、既知の成分を用いて算出された検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータを用いて、試料に含まれる成分を特定する工程(以下、「成分特定工程」ともいう)と、を含む。
【0013】
本開示に係る試料分析方法によれば、試料に含まれる成分の濃度によらず、試料に含まれる成分を特定することができる。
例えば、変異ヘモグロビン保有者の遺伝子型は、HbA/HbVのヘテロ接合体(HbVはHbA以外の変異ヘモグロビン)、又はHbV/HbVのホモ接合体である。ヘテロ接合体を持つ人の血液と比べてホモ接合体を持つ人の血液の方が、そのHb(HbV)の濃度が高く、ピークが前倒しになる傾向がある。ピークが前倒しになることにより、複数のピークが重なる場合がある。
【0014】
従来、試料に含まれるHb種の特定において、ピークが重なるとHb種の特定が難しい場合があった。
【0015】
本発明者は、エレクトロフェログラムより取得できる各ピークの検出時間と各ピークに対応する濃度との間に相関があることを見出した。そして、既知の成分を用いて算出された検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータを用いることにより、各成分の濃度によらず、試料に含まれる成分を正確に特定できることを見出した。
【0016】
<分離工程>
本開示に係る試料分析方法は、キャピラリ電気泳動により試料に含まれる複数の成分を分離する工程を含む。
【0017】
試料としては、キャピラリ電気泳動法で分析可能な成分を含み、かつ、そのような溶媒に溶解可能なものであれば、液体、固体又は気体等その態様は問わない。
【0018】
試料に含まれる成分のうち分析の対象となるものとしては、ヘモグロビン(Hb)、アルブミン(Alb)、グロブリン(α1、α2、β、γグロブリン)、フィブリノーゲン等が挙げられる。上記ヘモグロビンとしては、例えば、HbA、HbA2、HbF(胎児ヘモグロビン)、変異ヘモグロビン(HbC、HbD、HbE、HbG、HbS等)等の複数のヘモグロビン種が挙げられる。健常人及び変異ヘモグロビン保有者の全血のいずれにも、僅かなHbA2が含まれる。これらの成分は、構成要素であるアミノ酸の変異が蛋白分子に電気的に反映されやすいため、キャピラリ電気泳動法による分析には好適である。
【0019】
なお、分析対象となる成分によっては、試料を適当な試薬で事前処理したり、別途の方法(例えば、クロマトグラフィ法)によって予備的な分離処理をしておくこととしてもよい。
【0020】
Hbの分離は、通常、泳動液中で行われる。泳動液は、アルカリ性溶液であってもよく、酸性溶液であってもよいが、アルカリ性溶液であることが好ましい。
試料は、例えば、HbA2、HbE、HbA、HbF、HbC、HbD、HbG、HbS等を含有する。
【0021】
アルカリ性溶液中におけるキャピラリ電気泳動による試料中のHbの分離は、キャピラリ流路を備える装置を使用することにより行うことができる。
具体的には、アルカリ性溶液が充填されたキャピラリ流路に試料を導入し、試料の導入後、キャピラリ流路の全体又は一部に電圧を印加することにより行うことができる。上記電圧の印加により、試料中のHbを電気泳動させることができ、分離することができる。
キャピラリ流路への電圧の印加は、キャピラリ流路の試料導入側に負電極を接触させ、アルカリ性溶液供給側に正電極を接触させることにより行うことができる。
【0022】
キャピラリ流路の断面形状は、特に限定されるものではなく、円形状であってもよく、矩形状であってもよく、その他の形状であってもよい。
矩形状の場合、キャピラリ流路の流路高さ及び流路幅は、それぞれ、1μm~1000μmであることが好ましく、10μm~200μmであることがより好ましく、25μm~100μmであることが更に好ましい。円形状の場合、キャピラリ流路の内径は、10μm以上又は25μm以上が好ましく、100μm以下又は75μm以下が好ましい。
キャピラリ流路の流路長は、5mm~150mmであることが好ましく、10mm~150mmであることがより好ましく、20mm~60mmであることが更に好ましい。
【0023】
キャピラリ流路の材質は特に限定されず、例えば、ガラス、溶融シリカ、プラスチック等が挙げられる。プラスチックとしては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。
【0024】
分離工程においては、上記キャピラリ流路がマイクロチップ化されたキャピラリ電気泳動チップを使用してもよい。後述する図1A及び図1Bに示すキャピラリ電気泳動チップ、並びに、後述する図8及び図9に示す分析チップは、キャピラリ電気泳動法で用いるチップの一例である。
【0025】
キャピラリ電気泳動チップは、試料保持槽、泳動液保持槽及びキャピラリ流路を有することができ、試料保持槽と泳動液保持槽とはキャピラリ流路により連通する。
【0026】
キャピラリ電気泳動チップのサイズは、特に限定されるものではなく、適宜調整することが好ましい。キャピラリ電気泳動チップのサイズは、例えば、長さ10mm~200mm、幅1mm~60mm、厚み0.3mm~5mmとすることができる。
【0027】
試料保持槽及び泳動液保持槽の容積は、キャピラリ流路の内径及び長さに応じて適宜決定されるが、それぞれ、1mm~1000mmであることが好ましく、5mm~100mmであることがより好ましい。
試料保持槽に充填する試料の量は、特に限定されるものではなく、1μL~30μLとすることができる。
泳動液保持槽に充填するアルカリ性溶液の量は、特に限定されるものではなく、1μL~30μLとすることができる。
【0028】
キャピラリ流路の両端に印加する電圧は、500V~20000Vであることが好ましく、500V~10000Vであることがより好ましく、500V~5000Vであることが更に好ましい。
【0029】
キャピラリ流路内において、負電極側から正電極側に向かう液流を生じさせてもよい。液流としては、電気浸透流等が挙げられる。
【0030】
キャピラリ流路は、その内壁がカチオン性物質又はアニオン性物質で被覆されていることが好ましい。
カチオン性物質によりキャピラリ流路の内壁を被覆することによって、キャピラリ流路の内壁をプラスに帯電させることができる。その結果、キャピラリ流路内に負電極側から正電極側に向かう電気浸透流を容易に生じさせることができる。
アニオン性物質によりキャピラリ流路の内壁を被覆した場合、キャピラリ流路の内壁はマイナスに帯電するが、アルカリ性溶液に含有されるカチオン性ポリマーがマイナスに帯電したキャピラリ流路の内壁に結合する。これにより、キャピラリ流路の内壁はプラスに帯電され、上記と同様にキャピラリ流路内に負電極側から正電極側に向かう電気浸透流を容易に生じさせることができる。
【0031】
カチオン性物質は、特に限定されるものではなく、カチオン性官能基を有するシランカップリング剤等を使用することができる。分離精度を向上する観点から、カチオン性物質は、第4級アンモニウム塩基を有するポリマーであることが好ましく、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドがより好ましい。
【0032】
アニオン性物質は、特に限定されるものではなく、アニオン性基を有する多糖類、アニオン性官能基を有するシランカップリング剤等を使用することができる。
アニオン性基を有する多糖類としては、硫酸化多糖類、カルボン酸化多糖類、スルホン酸化多糖類、リン酸化多糖類等が挙げられる。
硫酸化多糖類としては、コンドロイチン硫酸、へパリン、へパラン、フコイダン、これらの塩等が挙げられる。カルボン酸化多糖類としては、アルギン酸、ヒアルロン酸、これらの塩等が挙げられる。
【0033】
図1A及び図1Bに、キャピラリ電気泳動チップの一実施形態を示す。図1Aは、キャピラリ電気泳動チップの一実施形態を示す上面図であり、図1Bは、図1Aに示す電気泳動チップの断面図である。
図1A及び図1Bに示すキャピラリ電気泳動チップは、キャピラリ流路1、試料保持槽2及び泳動液保持槽3を備え、試料保持槽2及び泳動液保持槽3は、キャピラリ流路1により連通している。キャピラリ流路1には検出部4が形成されている。
試料保持槽2及び泳動液保持槽3は、キャピラリ流路1の両端に電圧を印加するための電極をそれぞれ備えていてもよい(図示せず)。具体的には、試料保持槽2(試料導入側)が負電極を備え、泳動液保持槽3(アルカリ性溶液供給側)が正電極を備えることができる。
【0034】
検出部4の位置、すなわち、分離に要する長さ(試料保持槽2から検出部4までの距離、図1Aにおけるx)は、キャピラリ流路1の長さ等により適宜決定できる。キャピラリ流路1の長さ(図1Aにおけるx+y)が10mm~150mmである場合、試料保持槽2から検出部4までの距離(x)は、5mm~140mmであることが好ましく、10mm~100mmであることがより好ましく、15mm~50mmであることが更に好ましい。
【0035】
-アルカリ性溶液-
本開示において、「アルカリ性」とは、pH7.0超であることを意味する。アルカリ性溶液のpHは、Hbの等電点よりも高いことが好ましく、7.5~12.0であることが好ましく、8.5~11.0であることがより好ましく、9.5~10.5であることが更に好ましい。
なお、本開示において、アルカリ性溶液のpHは、25℃におけるアルカリ性溶液のpHであり、電極を浸漬してから30分経過後にpHメータを用いて測定する。pHメータとしては、堀場製作所社製のF-72又はこれと同程度の装置を使用することができる。
【0036】
アルカリ性溶液は、カチオン性ポリマーを含有する。アルカリ性溶液は、カチオン性ポリマーを2種以上含有してもよい。
本開示において、「カチオン性ポリマー」とは、カチオン性基を有するポリマーを意味する。
本開示において、「カチオン性基」とは、カチオン基及びイオン化されてカチオン基となる基を包含する。
カチオン性基としては、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム塩基、イミノ基等が挙げられる。
【0037】
カチオン性ポリマーは、水溶性であることが好ましい。なお、本開示において、「水溶性」とは、対象物質が25℃の水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0038】
第1級~第3級アミノ基又は第1級~第3級アミノ基にイオン化されうるカチオン性基を有するカチオン性ポリマーとしては、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリオルニチン、ポリジアリルアミン、ポリメチルジアリルアミン、ポリエチレンイミン、ジアリルアミン-アクリルアミド重合物、ジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重合物、アリルアミン-ジアリルアミン重合物等が挙げられる。上記したカチオン性ポリマーは塩の状態であってもよく、塩酸塩等が挙げられる。
【0039】
イミノ基又はイミノ基にイオン化されうるカチオン性基を有するカチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0040】
第4級アンモニウム塩基又は第4級アンモニウム塩基にイオン化されうるカチオン性基を有するカチオン性ポリマーとしては、ポリクオタニウム、ジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重合物、ジメチルアミン-エピクロルヒドリン重合物等が挙げられる。
【0041】
本開示において「ポリクオタニウム」とは、第4級アンモニウム基を有するモノマーに由来する構成単位を含むカチオン性ポリマーをいう。ポリクオタニウムは、INCI(InternationalNomenclatureforCosmeticIngredients)directoryで確認できる。ポリクオタニウムとしては、一又は複数の実施形態において、ポリクオタニウム-6(poly(diallyldimethylammoniumchloride)、ポリクオタニウム-7(copolymerofacrylamideanddiallyldimethylammoniumchloride)、ポリクオタニウム-4(Diallyldimethylammoniumchloride-hydroxyethylcellulosecopolymer)、ポリクオタニウム-22(copolymerofacrylicacidanddiallyldimethylammoniumchloride)等のポリジアリルジメチルアンモニウム塩、及びポリクオタニウム-2(poly[bis(2-chloroethyl)ether-alt-1,3-bis[3-(dimethylamino)propyl]urea])等が挙げられる。
【0042】
また、カチオン性ポリマーとしては、上記アンモニウム塩以外にも、一又は複数の実施形態において、ホスホニウム塩、オキソニウム塩、スルホニウム塩、フルオロニウム塩、クロロニウム塩等のオニウム塩のカチオンポリマーも利用できる。
ヒドラジド基又はヒドラジド基にイオン化されうるカチオン性基を有するカチオン性ポリマーとしては、アミノポリアクリルアミド等が挙げられる。
【0043】
分離時間を短縮する観点からは、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、10,000~500,000であることが好ましい。
本開示において、カチオン性ポリマーの重量平均分子量はカタログ値を参照する。重量平均分子量のカタログ値がない場合、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量とする。
【0044】
分離時間を短縮する観点からは、アルカリ性溶液の総質量に対するカチオン性ポリマーの含有率は、0.5質量%~10質量%であることが好ましく、0.75質量%~5.0質量%であることがより好ましく、1.0質量%~3.0質量%であることが更に好ましい。
【0045】
カチオン性ポリマーは、従来公知の方法により合成したものを使用してもよく、市販されるものを使用してもよい。
【0046】
アルカリ性溶液は、水を含有してもよい。水としては、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等が挙げられる。
アルカリ性溶液の総質量に対する水の含有率は、特に限定されるものではなく、10質量%~99.9質量%とすることができる。
【0047】
アルカリ性溶液は、非界面活性剤型の両イオン性物質、pH緩衝物質、微生物の繁殖等を抑制するための保存剤などの添加剤を含有してもよい。保存剤としては、例えば、アジ化ナトリウム、エチルパラベン、プロクリン等が挙げられる。
【0048】
-試料-
試料の総質量に対するHbの含有量の和は、特に限定されるものではなく、0.001質量%~100質量%とすることができる。
試料の形態は特に限定されるものではなく、試料原料を調製したものであってもよく、試料原料そのものであってもよい。
試料原料としては、Hbを含む原料、生体試料等が挙げられる。
生体試料としては、血液、赤血球成分等を含む血液由来物等が挙げられる。
血液は、生体から採取された血液が挙げられ、ヒト以外の哺乳類の血液、ヒトの血液等が挙げられる。
赤血球成分を含む血液由来物としては、血液から分離又は調製されたものであり、且つ赤血球成分を含むものが挙げられる。例えば、血漿が除かれた血球画分、血球濃縮物、血液又は血球の凍結乾燥物、全血を溶血処理した溶血試料、遠心分離血液、自然沈降血液、洗浄血球等が挙げられる。
【0049】
分離精度を向上する観点から、試料は、カチオン性ポリマーを含有するアルカリ性溶液を含有することが好ましい。
上記アルカリ性溶液を含有する試料は、上記アルカリ性溶液を用いて試料原料を希釈することにより得ることができる。希釈率は、質量基準で、1.2倍~100倍であることが好ましく、2倍~60倍であることがより好ましく、3倍~50倍であることが更に好ましい。希釈に使用する材料は特に限定されるものではなく、pH調整剤(例えば、塩酸等)、界面活性剤(例えば、エマルゲンLS-110(花王製)等)、防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)、イオン強度調整剤(例えば、塩化ナトリウム等)、屈折率調整剤(例えば、スクロース等の糖類)などが挙げられる。
また、上記アルカリ性溶液は、キャピラリ流路に充填されるアルカリ性溶液と同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0050】
<エレクトロフェログラム取得工程>
本開示に係る試料分析方法は、試料のエレクトロフェログラムを得る工程を含む。具体的には、エレクトロフェログラム取得工程は、試料を光学的に測定して吸光度を得る工程と、吸光度を時間軸に沿って二次元平面上にプロットした元波形として取得する工程と、元波形を時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する工程と、を含むことが好ましい。
図2は、元波形の例を示した図である。
図3は、図2の元波形に対する時間微分波形を示した図である。
【0051】
(試料を光学的に測定して吸光度を得る工程)
吸光度は、例えば、以下の方法により測定される。
試料は、連続的にキャピラリ流路に導入され、キャピラリ流路において試料に含まれる複数の成分が電圧の印加により分離される。キャピラリ流路の途中に設けられている検出部4において、波長415~420nmの光を照射し、吸光度測定装置により、吸光度を測定する。
【0052】
たとえば、分析対象の成分がHbである場合、アルカリ性溶液中においてその分子表面は負電荷を帯びているので、キャピラリ流路の上流に陰極を、下流に陽極を配置することで、分析対象の成分は陽極に向かって泳動される。その際、分子表面の荷電状態によって、電気的な泳動速度が異なってくる。すなわち、分子表面の負電荷が強いほど、泳動速度は高くなる。したがって、試料がキャピラリ流路に導入された後、泳動速度の高い成分は、より速く検出部に到達することになる。
【0053】
そして、泳動速度の低い成分が検出部に到達した時点では、後から導入された試料に由来する、泳動速度の高い成分も検出部に到達することになる。すなわち、キャピラリ流路においては、泳動速度の高い成分が先に検出部に到達すると、試料がキャピラリ流路に導入され続ける限り、当該成分は持続的に到達し続けることになる。また、泳動速度がより低い成分は遅れて検出部に到達するが、一旦検出部に到達すると、試料がキャピラリ流路に導入され続ける限り、やはり当該成分は持続的に検出部に到達し続けることになる。
【0054】
換言すると、検出部においては、泳動速度の高い成分が先に到達し、以後は泳動速度のより低い成分が累積的に到達することになる。よって、検出部において測定される吸光度は、経時的に累積的に単調増加していくことになる。
【0055】
(吸光度を時間軸に沿って二次元平面上にプロットした元波形として取得する工程)
吸光度を一方の軸(たとえば、Y軸)とし、時間を他方の軸(たとえば、X軸)とした二次元平面上にプロットし、元波形として取得する。なお、吸光度は、二次元平面上にプロットすることが可能なデータとして取得されていればよく、このようなデータを基に実際にグラフとして描画されることは必須ではない。
【0056】
(元波形を時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する工程)
上記元波形を時間軸に沿って見た場合、勾配の大きい部分は、ある成分が検出部4に初めて到達したことによる吸光度の増加に由来するものである。また、勾配の小さい部分は、次の成分がまだ検出部4に到達していないことを示すものである。すなわち、元波形で勾配が大きくなっている部分は、試料溶液中の成分が検出部4に到達していることを示すものである。このような元波形における勾配の大きい部分は、元波形を時間軸に沿って微分して得られる波形(「時間微分波形」と称する。)において現れるピーク波形として表される。これらのピーク波形は、試料に含まれる各成分に由来する。なお、時間軸においては、より左側にあるピーク波形に対応する成分の方が、より右側にあるピーク波形に対応する成分よりも泳動速度が高いことを表す。
【0057】
<検出時間・濃度取得工程、及び、成分特定工程>
本開示に係る試料分析方法は、エレクトロフェログラムより、各ピークの検出時間と各ピークに対応する濃度を取得する工程を含む。
また、本開示に係る試料分析方法は、取得した検出時間と取得した濃度に対して、既知の成分を用いて算出された検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータを用いて、試料に含まれる成分を特定する工程を含む。
【0058】
検出時間・濃度取得工程は、時間微分波形における各ピークの検出時間を取得し、取得した各ピークの検出時間に対応する吸光度を取得する工程を含むことが好ましい。
成分特定工程は、取得した検出時間と取得した吸光度に対して、既知の成分を用いて算出された検出時間と吸光度との相関関係を示すパラメータを用いて、試料に含まれる成分を特定する工程を含むことが好ましい。
【0059】
既知の成分を用いて算出された検出時間と吸光度との相関関係を示すパラメータ(以下、「特定パラメータ」ともいう)は、分析対象とする試料を分析する前に、試料分析装置において、あらかじめ設定されていることが好ましい。
【0060】
特定パラメータは、既知の成分を用いて二次元平面上に検出時間と吸光度とをプロットすることによって得られるパラメータであることが好ましい。
【0061】
以下、特定パラメータを用いて、試料に含まれる成分を特定する具体的な方法について説明する。
【0062】
(方法A)
方法Aにおいて、特定パラメータは、既知の成分を用いて二次元平面上に検出時間と吸光度とをプロットすることによって得られる、成分ごとの近似直線の傾きのデータである。
方法Aでは、試料に含まれる成分を特定する工程は、傾きのデータを用いて、取得した検出時間を補正し、補正検出時間を算出する工程と、補正検出時間に基づいて、試料に含まれる成分を特定する工程と、を含む。
【0063】
方法Aにおける特定パラメータは、例えば、以下の方法で算出される。
【0064】
キャピラリ電気泳動により、濃度の異なる既知のHb種を用いて、吸光度を得る。吸光度を時間軸に沿って二次元平面上にプロットした元波形Aとして取得し、元波形Aを時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形Aを取得する。X軸を時間、Y軸を吸光度変化量とする。
【0065】
時間微分波形Aより、以下のデータを取得する。
・PkTime:ピークの極大値をPkTopとし、PkTopにおける検出時間を意味する。
・PkBtTime:PkTopの直前にある極小値をPkBtとし、PkBtにおける検出時間を意味する。
・PkTlTime:PkTopの直後にある極小値をPkTlとし、PkTlにおける検出時間を意味する。
・EOFTime:吸光度変化量が0.2mAbs/secを超えたPkTopにおける検出時間の中で、最も早い検出時間を意味する。
・PkArea:PkTopにおける、PkBtTimeからPkTlTimeまでの吸光度変化量の積算値を意味する。
・Pk%:全てのPkAreaに占める各PkAreaの割合(%)を意味する。
・A2Time:HbA2のPkTimeを意味する。EOFTimeの直後にある、Pk%が1%以上となるピークにおけるPkTimeを、A2Timeとした。
【0066】
以下の式Aに基づいて、PkTimeを相対検出時間PkTimeRtへ変換する。
PkTimeRt=(PkTime-EOFTime)/(A2Time-EOFTime) …式A
【0067】
なお、上記式Aでは、A2Timeを用いて相対検出時間を算出しているが、A2Timeの代わりに、血中のHbA、又は外部から試料に添加したタンパク質(415nmの波長を吸収し、かつHbと同じ挙動を示すタンパク質)の検出時間を用いてもよい。
【0068】
次に、元波形Aより、PkTlTimeに対応する吸光度TlAbsを取得する。
なお、吸光度TlAbsの代わりに、PkTimeに対応する吸光度を取得してもよい。
【0069】
図4は、横軸を相対検出時間PkTimeRtとし、縦軸を吸光度TlAbsとした図である。
【0070】
図4に示すように、Hb種ごとに近似直線を描き、近似直線の傾きをそれぞれ算出する。そして、近似直線の傾きの平均値を算出する。
【0071】
以下の式Bに基づいて、Hb種ごとに補正検出時間を算出する。
補正検出時間=PkTimeRt+{TlAbs/(-近似直線の傾きの平均値)} …式B
【0072】
図5は、Hb種と、補正検出時間との関係の一例を示す図である。
【0073】
図5より、Hb種と、Hb種に対応する補正検出時間の範囲を決定する。
・HbE:補正検出時間が1.010以上1.070未満である。
・HbC:補正検出時間が1.070以上1.110未満である。
・HbD:補正検出時間が1.110以上1.145未満である。
・HbS:補正検出時間が1.145以上1.190未満である。
・HbG:補正検出時間が1.190以上1.250未満である。
・HbA:補正検出時間が1.250以上1.450未満である。
【0074】
図5に示すように、Hb種によって、補正検出時間は重なっていない。そのため、分析対象とする試料について、相対検出時間PkTimeRt及び吸光度TlAbsを取得し、式Bに基づいて補正検出時間を算出し、補正検出時間に基づいて、試料に含まれるHb種を特定することができる。
【0075】
分析対象とする試料(含まれるHb種が不明である試料)について、相対検出時間PkTimeRt及び吸光度TlAbsを取得する方法は、濃度の異なる既知のHb種について、相対検出時間PkTimeRt及び吸光度TlAbsを取得する方法と同様である。
【0076】
(方法B)
方法Bにおいて、特定パラメータは、既知の成分を用いて二次元平面上に検出時間と吸光度とをプロットすることによって得られる、成分ごとに分離する境界線のデータである。
方法Bでは、試料に含まれる成分を特定する工程は、境界線のデータを用いて、境界線で隔てられる各領域において、取得した検出時間と取得した吸光度とが属する領域を特定する工程と、特定した領域に基づいて、試料に含まれる成分を特定する工程を含む。
【0077】
方法Bにおける特定パラメータは、例えば、以下の方法で算出される。
【0078】
方法Aと同様に、濃度の異なる既知のHb種について、相対検出時間PkTimeRt及び吸光度TlAbsを取得する。
【0079】
図6は、横軸を相対検出時間PkTimeRtとし、縦軸を吸光度TlAbsとした図である。
【0080】
図6に示すように、Hb種ごとに分離する境界線を描き、境界線の一次式を算出する。 Elineは、HbEとHbCとを分離する境界線である。
Clineは、HbCとHbDとを分離する境界線である。
Dlineは、HbDとHbSとを分離する境界線である。
Slineは、HbSとHbGとを分離する境界線である。
Glineは、HbGとHbAとを分離する境界線である。
【0081】
各境界線の一次式は、例えば、以下のように設定される。
Eline: TlAbs=4583-4250×PkTimeRt
Cline: TlAbs=4450-4000×PkTimeRt
Dline: TlAbs=4550-3950×PkTimeRt
Sline: TlAbs=4794-3967×PkTimeRt
Gline: TlAbs=5079-3991×PkTimeRt
【0082】
図6に示すように、Hb種が境界線で分離されている。そのため、分析対象とする試料について、相対検出時間PkTimeRt及び吸光度TlAbsを取得し、境界線で隔てられる各領域において、取得した相対検出時間と取得した吸光度が属する領域を特定する。特定した領域に基づいて、試料に含まれるHb種を特定することができる。
【0083】
以下の式E1及びE2を満たす場合、HbEであると特定する。
PkTimeRt>1 …式E1
TlAbs<4583-4250×PkTimeRt …式E2
【0084】
以下の式C1を満たす場合、HbCであると特定する。
4583-4250×PkTimeRt≦TlAbs<4450-4000×PkTimeRt …式C1
【0085】
以下の式D1を満たす場合、HbDであると特定する。
4450-4000×PkTimeRt≦TlAbs<4550-3950×PkTimeRt …式D1
【0086】
以下の式S1を満たす場合、HbSであると特定する。
4550-3950×PkTimeRt≦TlAbs<4794-3967×PkTimeRt …式S1
【0087】
以下の式G1を満たす場合、HbGであると特定する。
4794-3967×PkTimeRt≦TlAbs<5079-3991×PkTimeRt …式G1
【0088】
以下の式A1を満たす場合、HbAであると特定する。
5079-3991×PkTimeRt≦TlAbs …式A1
【0089】
[試料分析装置]
本開示に係る試料分析装置は、キャピラリ電気泳動により試料に含まれる複数の成分を分離する手段と、試料のエレクトロフェログラムを得る手段と、エレクトロフェログラムより、各ピークの検出時間と各ピークに対応する濃度を取得する手段と、取得した検出時間と取得した濃度に対して、既知の成分を用いて算出された検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータを用いて、試料に含まれる成分を特定する手段と、を含む。
【0090】
試料のエレクトロフェログラムを得る手段は、試料を光学的に測定して吸光度を得る手段と、吸光度を時間軸に沿って二次元平面上にプロットした元波形として取得する手段と、元波形を時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する手段と、を含むことが好ましい。
【0091】
エレクトロフェログラムより、各ピークの検出時間と各ピークに対応する濃度を取得する手段は、時間微分波形における各ピークの検出時間を取得し、取得した各ピークの検出時間に対応する吸光度を取得する手段を含むことが好ましい。
【0092】
試料に含まれる成分を特定する手段は、取得した検出時間と取得した吸光度に対して、既知の成分を用いて算出された検出時間と吸光度との相関関係を示すパラメータを用いて、試料に含まれる成分を特定する工程を含むことが好ましい。
具体的には、検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータは、既知の成分を用いて二次元平面上に検出時間と吸光度とをプロットすることによって得られる、成分ごとの近似直線の傾きのデータであり、試料に含まれる成分を特定する工程は、傾きのデータを用いて、取得した検出時間を補正し、補正検出時間を算出する手段と、補正検出時間に基づいて、試料に含まれる成分を特定する手段と、を含むことが好ましい。
また、検出時間と濃度との相関関係を示すパラメータは、既知の成分を用いて二次元平面上に検出時間と吸光度とをプロットすることによって得られる、成分ごとに分離する境界線のデータであり、試料に含まれる成分を特定する手段は、境界線のデータを用いて、境界線で隔てられる各領域において、取得した検出時間と取得した吸光度とが属する領域を特定する手段と、特定した領域に基づいて、試料に含まれる成分を特定する手段を含むことが好ましい。
【0093】
<試料分析システム>
図7は、本実施態様に係る試料分析方法を実行するのに使用することができる試料分析システムA1の概略構成を示している。試料分析システムA1は、試料分析装置100及び分析チップ10を備えて構成されている。試料分析システムA1は、試料Saを対象としてキャピラリ電気泳動法による分析方法を実行するシステムである。
【0094】
分析チップ10は、試料Saを保持し、かつ試料分析装置100に装填された状態で試料Saを対象とした分析の場を提供するものである。図8及び図9に示すように、分析チップ10は、本体21、混合槽22、導入槽23、フィルタ24、排出槽25、電極槽26、流路27及び連絡流路28を備えている。図8は、分析チップ10の平面図であり、図9は、図8のIII-III線に沿う断面図である。分析チップ10は、ディスポーザブルタイプのものに限定されず、複数回の分析に用いられるものであってもよい。また、本実施態様の試料分析システムは、試料分析装置100に装填される別体の分析チップ10を備える構成に限定されず、分析チップ10と同様の機能を果たす機能部位が試料分析装置100に組み込まれた構成であってもよい。
【0095】
本体21は、分析チップ10の土台となるものである。本体21の材質は、上記キャピラリ流路の材質で説明したとおりである。本実施態様においては、本体21は、図9における上側部分2Aと下側部分2Bとが別体に形成されており、これらが互いに結合された構成である。なお、これに限らず、たとえば、本体21を一体的に形成してもよい。
【0096】
混合槽22は、試料Saと希釈液Ldとが混合される箇所である。混合槽22は、たとえば、本体21の上側部分2Aに形成された貫通孔によって、上方に開口した凹部として構成されている。導入槽23は、混合槽22において試料Saと希釈液Ldとが混合されて得られた試料溶液が導入される槽である。導入槽23は、たとえば、本体21の上側部分2Aに形成された貫通孔によって、上方に開口した凹部として構成されている。
【0097】
フィルタ24は、導入槽23への導入経路の一例である導入槽23の開口部に設けられている。フィルタ24の具体的構成は限定されず、好適な例として、たとえばセルロースアセテート膜フィルタ(ADVANTEC社製、孔径0.45μm)が挙げられる。
【0098】
排出槽25は、流路27の下流側に位置する槽である。排出槽25は、たとえば、本体21の上側部分2Aに形成された貫通孔によって、上方に開口した凹部として構成されている。電極槽26は、キャピラリ電気泳動法において、電極31が挿入される槽である。電極槽26は、たとえば、本体21の上側部分2Aに形成された貫通孔によって、上方に開口した凹部として構成されている。連絡流路28は、導入槽23と電極槽26とを繋いでおり、導入槽23と電極槽26との導通経路を構成している。
【0099】
流路27は、導入槽23と排出槽25とを繋ぐキャピラリ管として形成され、電気泳動法における電気浸透流(EOF、electro-osmotic flow)が生じる場である。流路27は、たとえば本体21の下側部分2Bに形成された溝として構成されている。なお、本体21には、流路27への光の照射及び流路27を透過した光の出射を促進するための凹部等が適宜形成されていてもよい。流路27の断面形状及びサイズ(矩形状の場合における流路高さ及び流路幅、並びに、円形状の場合における内径及び流路長)は、上記キャピラリ流路の断面形状及びサイズで説明したとおりである。分析チップ10全体のサイズは、流路27のサイズ並びに混合槽22、導入槽23、排出槽25及び電極槽26のサイズや配置等に応じて適宜設定される。
【0100】
なお、上記構成の分析チップ10は一例であって、キャピラリ電気泳動法による成分分析が可能な構成の分析チップを適宜採用することができる。
【0101】
試料分析装置100は、試料Saが点着された分析チップ10が装填された状態で、試料Saを対象とした分析処理を行う。試料分析装置100は、電極31、電極32、光源41、光学フィルタ42、レンズ43、スリット44、検出器45、分注器6、ポンプ61、希釈液槽71、泳動液槽72及び制御部8を備えている。なお、光源41、光学フィルタ42、レンズ43及び検出器45は、本実施態様でいう測定部40を構成する。
【0102】
電極31及び電極32は、キャピラリ電気泳動法において流路27に所定の電圧を印加するためのものである。電極31は、分析チップ10の電極槽26に挿入されるものであり、電極32は、分析チップ10の排出槽25に挿入されるものである。電極31及び電極32に印加される電圧は、上記キャピラリ流路の両端に印加する電圧で説明したとおりである。
【0103】
光源41は、キャピラリ電気泳動法において光学測定値としての吸光度を測定するための光を発する部位である。光源41は、たとえば所定の波長域の光を出射するLEDチップを具備する。光学フィルタ42は、光源41からの光のうち所定の波長の光を減衰させつつ、その余の波長の光を透過させるものである。レンズ43は、光学フィルタ42を透過した光を分析チップ10の流路27の分析箇所へと集光するためのものである。スリット44は、レンズ43によって集光された光のうち、散乱などを引き起こしうる余分な光を除去するためのものである。
【0104】
検出器45は、分析チップ10の流路27を透過してきた光源41からの光を受光するものであり、たとえばフォトダイオードやフォトICなどを具備して構成されている。
【0105】
このように、光源41から発した光が検出器45へと至る経路が光路である。そして、当該光路が流路27と交わる位置である測定位置27Aでその流路27を流れる溶液(すなわち、試料溶液及び泳動液のいずれか又はその混合溶液)について光学測定値が測定される。すなわち、流路27における測定位置27Aにおいて、測定部40が試料溶液の光学測定値を測定する。この光学測定値としては、例えば吸光度が挙げられる。吸光度は、該光路の光が流路27を流れる溶液によって吸収された度合いを表すものであり、入射光強度と透過光強度の比の常用対数の値の絶対値を表したものである。この場合、検出器45としては汎用的な分光光度計を利用することができる。なお、吸光度を使用せずとも、単純に透過光強度の値そのものなど、光学測定値であれば利用することができる。以下においては、光学測定値として吸光度を使用した場合を例に説明する。
【0106】
分注器6は、所望の量の希釈液Ldや泳動液Lm及び試料溶液を分注するものであり、たとえばノズルを含む。分注器6は図示しない駆動機構によって試料分析装置100内の複数の所定位置を自在に移動可能である。ポンプ61は、分注器6への吸引源及び吐出源である。また、ポンプ61は、試料分析装置100に設けられた図示しないポートの吸引源及び吐出源として用いてもよい。これらのポートは、泳動液Lmの充填などに用いられる。また、ポンプ61とは別の専用のポンプを備えてもよい。
【0107】
希釈液槽71は、希釈液Ldを貯蔵するための槽である。希釈液槽71は、試料分析装置100に恒久的に設置された槽でもよいし、所定量の希釈液Ldが封入された容器が試料分析装置100に装填されたものであってもよい。泳動液槽72は、泳動液Lmを貯蔵するための槽である。泳動液槽72は、試料分析装置100に恒久的に設置された槽でもよいし、所定量の泳動液Lmが封入された容器が試料分析装置100に装填されたものであってもよい。
【0108】
希釈液Ldは、試料Saと混合されることにより、試料溶液を生成するためのものである。希釈液Ldの主剤は特に限定されず、水、生理食塩水が挙げられ、好ましい例として後述する泳動液Lmと類似の成分の液体が挙げられる。また、希釈液Ldは、上記主剤の他に、必要に応じて添加物が添加されてもよい。
【0109】
泳動液Lmは、電気泳動法による分析工程において、排出槽25及び流路27に充填され、電気泳動法における電気浸透流を生じさせる媒体である。泳動液Lmの好ましい態様は、上記のとおりである。また、泳動液Lmにも、希釈液Ldの説明で述べたのと同様に、必要に応じて添加物が添加されてもよい。
【0110】
制御部8は、試料分析装置100における各部を制御するものである。制御部8は、図10のハードウェア構成に示すように、CPU(Central Processing Unit)81、ROM(Read Only Memory)82、RAM(Random Access Memory)83及びストレージ84を有する。各構成は、バス89を介して相互に通信可能に接続されている。
【0111】
CPU81は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU81は、ROM82又はストレージ84からプログラムを読み出し、RAM83を作業領域としてプログラムを実行する。CPU81は、ROM82又はストレージ84に記録されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。
【0112】
ROM82は、各種プログラムおよび各種データを格納する。RAM83は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ84は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)又はフラッシュメモリにより構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。本実施態様では、ROM82又はストレージ84には、本実施態様に係る試料分析方法を実行するためのプログラムや各種データが格納されている。
【0113】
試料分析装置100は、本実施態様に係る試料分析方法を実行する際に、上記のハードウェア資源及び前記した各構成を用いて、測定及び分析を行う。
【実施例0114】
以下に実施例について説明するが、本開示はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0115】
<分離デバイスと測定機器>
分離デバイスとしては、図1に示す構造のキャピラリ流路1を有する樹脂製のチップ(流路幅40μm、流路高さ40μm、流路長:30mm、試料保持槽2から検出部4までの距離(x)20mm)を用いた。試料保持槽2及び泳動液保持槽3の容量は10μLとした。キャピラリ流路の内壁は、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドで被覆した。
分離デバイスはザ ラボ 001A1c HD(アークレイ株式会社)、測定装置はザ ラボ 001(アークレイ株式会社)を用いた。
【0116】
<キャピラリ電気泳動用溶液の調製>
下記の各物質を混合して、pHが9.8となるまで、水酸化ナトリウム及び水を加え、キャピラリ電気泳動用溶液を調製した。
・ジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重縮合物(カチオン性ポリマー、センカ製、ユニセンスKHE 1000L、重量平均分子量100,000~500,000)…1.5質量%
・アジ化ナトリウム…0.02質量%
・水酸化ナトリウム
・水
【0117】
<希釈用溶液の調製>
下記の各物質を混合して、pHが8.8となるまで、塩酸及び水を加え、キャピラリ希釈用溶液を調製した。
・ポリエチレンイミン(富士フイルム和光純薬製、重量平均分子量70,000)…1質量%
・エマルゲンLS-110(花王製)…0.4質量%
・アジ化ナトリウム…0.02質量%
・スクロース…7.87質量%
・塩化ナトリウム…0.26質量%
・塩酸
・水
【0118】
<Hb検体の準備>
健常者全血及び各種変異Hbキャリア全血のいずれにもHbA2が含まれる。
・健常者全血:AA(HbA/HbA)
・各種変異Hbキャリア全血:AE(HbA/HbE)、AC(HbA/HbC)、AD(HbA/HbD)、AS(HbA/HbS)、AG(HbA/HbG)、CC(HbC/HbC)、DD(HbD/HbD)、SS(HbS/HbS)
【0119】
[実施例1]
(特定パラメータの設定)
-分離工程-
キャピラリ電気泳動チップにおける泳動液保持槽3にキャピラリ電気泳動用溶液を9μL供給し、毛細管現象によりキャピラリ流路1内にキャピラリ電気泳動用溶液を充填した。
【0120】
試料保持槽2に、健常者全血及び各種変異Hbキャリア全血を、希釈用溶液で41倍又は121倍に希釈したサンプル9μLを供給した。
次いで、試料保持槽2に負電極、泳動液保持槽3に正電極を接触させ、75μAの定電流制御にて電圧を印加して電気泳動を開始した。電気泳動は90秒間行った。
【0121】
-エレクトロフェログラム取得工程-
電気泳動が行われている間、検出部4に415nmの光を照射し、その吸光度を測定し、吸光度スペクトルの元波形Aを得た。
元波形Aを時間軸に沿って微分し、時間微分波形Aを得た。
なお、光の照射、吸光度の測定及びエレクトロフェログラムの取得には、アークレイ社製のザラボ001を使用した。
健常者全血及び各種変異Hbキャリア全血について、上記測定を実施し、エレクトロフェログラムを取得した。キャピラリ電気泳動チップは、測定ごとに使い捨てとした。
【0122】
-検出時間・濃度取得工程-
時間微分波形Aより、PkTime、EOFTime、PkTlTime、及びA2Timeを取得した。
以下の式Aに基づいて、PkTimeを相対検出時間PkTimeRtへ変換した。
PkTimeRt=(PkTime-EOFTime)/(A2Time-EOFTime) …式A
また、元波形Aより、PkTlTimeに対応する吸光度TlAbsを取得した。
【0123】
横軸を相対検出時間PkTimeRtとし、縦軸を吸光度TlAbsとした図4において、Hb種ごとに近似直線を描き、近似直線の傾きをそれぞれ算出した。近似直線の傾きの平均値は、-4923であった。
以下の式Bに基づいて、補正検出時間を算出した。
補正検出時間=PkTimeRt+{TlAbs/(-近似直線の傾きの平均値)}… 式B
【0124】
図5より、Hb種と、Hb種に対応する補正検出時間の範囲を決定した。
・HbE:補正検出時間が1.010以上1.070未満である。
・HbC:補正検出時間が1.070以上1.110未満である。
・HbD:補正検出時間が1.110以上1.145未満である。
・HbS:補正検出時間が1.145以上1.190未満である。
・HbG:補正検出時間が1.190以上1.250未満である。
・HbA:補正検出時間が1.250以上1.450未満である。
【0125】
(成分特定工程)
得られた補正検出時間が、上記補正検出時間の範囲のいずれに該当するかを判定し、Hb種を特定することができた。
【0126】
[実施例2]
試料保持槽2に、上記健常者全血及び各種変異Hbキャリア全血を用いた場合と同様の方法で、分離し、エレクトロフェログラムを取得した。
エレクトロフェログラムより、相対検出時間PkTimeRt及び吸光度TlAbsを取得した。
【0127】
図6は、横軸を相対検出時間PkTimeRtとし、縦軸を吸光度TlAbsとした図である。
【0128】
図6に示すように、Hb種ごとに分離する境界線を描き、境界線の一次式を算出した。
【0129】
各境界線の一次式は、以下のように設定した。
Eline: TlAbs=4583-4250×PkTimeRt
Cline: TlAbs=4450-4000×PkTimeRt
Dline: TlAbs=4550-3950×PkTimeRt
Sline: TlAbs=4794-3967×PkTimeRt
Gline: TlAbs=5079-3991×PkTimeRt
【0130】
(成分特定工程)
得られた相対検出時間PkTimeRt及び吸光度TlAbsが属する領域を特定し、特定した領域に基づいて、Hb種を特定することができた。
【0131】
[比較例1]
実施例1と同様に、健常者全血及び各種変異Hbキャリア全血を用いて、相対検出時間PkTimeRtを取得した。
図11は、Hb種と、相対検出時間との関係を示す図である。
【0132】
図11に示すように、各Hb種に対して相対検出時間PkTimeRtが重なっている部分がある。すなわち、相対検出時間PkTimeRtのみでは、試料に含まれる成分を特定することができないことが分かる。
【符号の説明】
【0133】
1:キャピラリ流路
2:試料保持槽
3:泳動液保持槽
4:検出部
Tx:Xピークの検出時間
Ta2:HbA2ピークの検出時間
Ty:Yピークの検出時間
A1:分析システム
Sa:試料
Ld:希釈液
Lm:泳動液、
100:成分分析装置
10:分析チップ
2A:上側部分
2B:下側部分
21:本体
22:混合槽
23:導入槽
24:フィルタ
25:排出槽
26:電極槽
27:流路
27A:測定位置
28:連絡流路
31:電極
32:電極
40:測定部
41:光源
42:光学フィルタ
43:レンズ
44:スリット
45:検出器
6:分注器
61:ポンプ
71:希釈液槽
72:泳動液槽
8:制御部
81:CPU
82:ROM
83:RAM
84:ストレージ
89:バス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11