IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱農機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-作業車両 図1
  • 特開-作業車両 図2
  • 特開-作業車両 図3
  • 特開-作業車両 図4
  • 特開-作業車両 図5
  • 特開-作業車両 図6
  • 特開-作業車両 図7
  • 特開-作業車両 図8
  • 特開-作業車両 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020914
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20250205BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
A01B69/00 303C
A01B69/00 303M
A01B69/00 303Q
B60R11/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124551
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鶴原 優太
(72)【発明者】
【氏名】内山 直人
【テーマコード(参考)】
2B043
3D020
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043BA02
2B043BA09
2B043BB01
2B043DA04
2B043DA17
2B043EA23
2B043EA34
2B043EB18
2B043EB23
2B043EB27
2B043EB28
2B043EB29
2B043EC02
2B043EC13
2B043ED02
2B043ED12
2B043EE01
2B043EE06
2B043EE08
3D020BA20
3D020BB06
3D020BC14
3D020BD01
3D020BD09
(57)【要約】
【課題】運転席の後方に安全フレームを備えるような作業車両であっても、作業走行中の前方地面やその遠方となる風景を車載カメラによって撮影して、直進走行や前行程の作業跡に沿った追従走行を自動操舵によって行うことができ、しかも、係る直進走行や追従走行を運転者が手動操舵によって行う場合であっても、車載カメラが運転者の前方視界を妨げることがない作業車両を提供する。
【解決手段】車載カメラは可倒式となして、走行機体の前部に設けるボンネットの後部寄り上方、或いはそのボンネットの後部に続くパネルカバーの前部寄り上方となる画像の撮影位置から、ボンネットの後部寄り上面、或いはパネルカバーの前部寄り上面に近接する退避位置に倒して、パネルカバーやステアリングハンドルの後方に設ける運転席に座った運転者が、車載カメラに遮られることなくボンネット越しに前方地面やその遠方となる風景を見通すことができるように構成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業走行中の前方地面やその遠方となる風景を車載カメラで撮影した画像に基づいて、直進走行や前行程の作業跡に沿った追従走行を行う自動操舵装置を備える作業車両にあって、前記車載カメラは可倒式となして、走行機体の前部に設けるボンネットの後部寄り上方、或いはそのボンネットの後部に続くパネルカバーの前部寄り上方となる画像の撮影位置から、ボンネットの後部寄り上面、或いはパネルカバーの前部寄り上面に近接する退避位置に倒して、前記パネルカバーやステアリングハンドルの後方に設ける運転席に座った運転者が、前記車載カメラに遮られることなくボンネット越しに前方地面やその遠方となる風景を見通すことができるように構成する作業車両。
【請求項2】
前記車載カメラは、前記ボンネットの後部寄り上方、或いはそのボンネットの後部に続くパネルカバーの前部寄り上方で、その撮影した画像に前記ボンネットが写り込まない極力低い位置を画像の撮影位置に設定する請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記走行機体に立設する門型支持フレームの上部に、前記車載カメラの取付ブラケットから延出する取付アームの軸支部を設けて、前記車載カメラを画像の撮影位置と退避位置に亘って回動自在、並びに任意の回動角度に車載カメラを保持してピッチ角の微調整を可能にする請求項1又は請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記車載カメラの取付ブラケットから延出する取付アームを金属管で形成して、この取付アームの管内に車載カメラの電源や通信ケーブルを通し、また、管内から導出したケーブルをボンネット或いはパネルカバーで覆いながら制御装置等に向けて配索する請求項3に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ等の主に農業用の作業車両に関し、詳しくは、車載カメラで撮影した画像に基づいて、直進走行や前行程の作業跡に沿った追従走行を行う自動操舵装置を備える作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
麦や大豆、或いは野菜等を水田転換畑等で栽培する場合には、水分の多い土壌によって種子の発芽不良や生育障害が発生して作物の多収を阻害する要因となっている。そこで、播種時から畝立てを行うことによって栽培床を高くして適度に乾燥した土壌で生育させる栽培方法が用いられている。また、このような畝立、或いは畝立と同時に播種等を行う場合は、トラクタの後部に畝立機や播種機等を連結して、これ等の作業機を用いて畝立作業を行う。
【0003】
そして、前述の水田転換畑等で直線距離にして凡そ50~200メートルにも及ぶ長い畝を多数並べて形成(作成)する場合には、圃場を区画する直線状の畦畔等に沿ってトラクタを走行させて最初の1列目の畝を形成する。また、この畝を畦畔に依らずに真っすぐに作成したい場合には、例えば、作成しようとする畝の開始点に至って、その作成する畝の終点となる位置に合致する遠方の山や建物などをターゲット(標的、まと)として、トラクタのボンネツト前部に設ける照準等をこれに合わせて走行させることにより直線状の畝を作成する。
【0004】
さらに、次行程以降の畝は、1列目(前行程)で作成した畝の条列に平行で、且つ前行程で作成した畝の条列に対して所定の条間を備えさせるので、この前行程の作業跡(畝溝等)に沿ってトラクタを追従走行させて作成する。なお、作業機側に例えばV字状等の溝を地面に形成するサイドマーカーを備えている場合には、現行程の畝の作成と同時に次行程の畝を作成する際の目印をこのサイドマーカーによって作成し、その後、次行程にあってはボンネット前部の照準をこの目印(V字状溝)に合わせてトラクタを走行させる。
【0005】
以上、トラクタに連結する作業機を用いて畝立作業を行う際の走行の仕方について説明したが、直進安定性に欠ける圃場において直線状に延びる畝を所定の条間を隔てて多数並べて作成するためには、トラクタの熟練した操縦(操向、操舵)技術が必要となると共に、作成した畝が仮に蛇行してその後の管理作業等が行い難く止む無く畝立をやり直す場合には、作成した畝の崩し耕耘が必要となったり、無駄に種子を浪費するといった余分な労力や経費が発生するので、やり直しが許されず気を抜くこくができない見た目以上に過酷な作業となる。
【0006】
そこで、このような畝立等の作業走行における操縦負担の軽減を図り、無駄のない高精度な作業の実践を支援するために、作業車両にカメラを装備して、この車載カメラで撮影した画像に基づいて、直進走行や前行程の作業跡に沿った追従走行を行う自動操舵装置を備える作業車両が研究開発され(例えば、特許文献1、2参照)、実用化されている。また、この自動操舵装置に装備する車載カメラや、そのカメラの具体的な支持構造についても研究されている(例えば、特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-146061号公報
【特許文献2】特開2017-211893号公報
【特許文献3】特開2016-203788号公報
【特許文献4】特開2022-79049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
作業車両に車載カメラで撮影した画像に基づいて直進走行や前行程の作業跡に沿った追従走行を行う自動操舵装置を備えると、作業走行における操縦負担の軽減を図り、無駄のない高精度な作業を行うことができる。また、作業車両を同様に直進走行させるものとして、GNSS(全地球航法衛星システム)を用いた自動操舵装置が知られているが、この装置で指摘されている測位機器のウォーミングアップや経路設定等に時間を取られるといった問題もなく、車載カメラの撮影を開始するだけで自動操舵を迅速に開始させることができる。
【0009】
ところで、畝立作業等を行う場合に運転者は前述のように、圃場の畦畔や遠方の山や建物、或いは前行程の作業跡等を注視しながら手動操舵して、作業車両を直進走行させたり追従走行させる。一方、車載カメラで撮影した画像に基づいて直進走行や前行程の作業跡に沿った追従走行を行わせる自動操舵装置は、車載カメラを運転者の目に代替えすることによって直進走行や追従走行を行わせるので、ここで用いるカメラは運転者と同様に作業走行中の前方地面やその遠方となる風景等を撮影する必要がある。
【0010】
つまり、作業車両に取り付けた車載カメラは、作業走行中の前方地面やその遠方となる風景等をフレームに納めながら画像処理に必要な鮮明な画像を取得する必要があるから、車載カメラを単一のカメラで構成する限り、その撮影したフレームの上辺寄りに地平線を写り込ませて、作業車両の例えば10m内外となる前方の地面がフレームの下辺寄りに全体的に大きく写り込むように、カメラをややハイアングル(俯角)となして車載する必要がある。
【0011】
そこで、車載カメラは特許文献1~3に記載されているように、作業車両の操縦部を覆うキャビンの室内、より詳しくは、キャビンのフロントウィンドウの左右方向中央上部にやや浅めの俯角をもって、作業車両の前進方向の中央を向くように設置し、これにより作業走行中の前方地面やその遠方となる風景を、1つのフレームに写り込むようになす。また、車載カメラはそのためにピッチ角やロール角を調整して適切な画像が得られるように構成する。
【0012】
しかし、作業車両としてのトラクタは、このようにカメラを設けるキャビンによって操縦部を覆うものだけが提供されているわけではない。例えば、運転席の後方にキャビンに代わる逆U字状の安全フレームを備えて、トラクタの不測な転倒の際に運転者の安全をこの安全フレームで確保するという所謂、フレーム車と云われる車両も以前から提供されている。従って、このようなフレーム車であっても、カメラを適切に取り付けて直進走行や追従走行を自動操舵で行うことができるようにしなければならない。
【0013】
そして、係る点で特許文献4に記載されたキャビンを備えずに逆U字状の安全フレームを備えるトラクタは、操縦部前側(ボンネット後端)の上方に支持機構を設けて車載カメラを取り付ける。なお、この場合、全体が操縦部前側を跨ぐ逆U字状に構成する支持機構は、そのカメラを取り付ける支持フレームの高さ位置を、オペレータの座高等に応じて多段階に調節できるようにして、運転席に座ったオペレータの前方視界を車載カメラが妨げないように構成する。
【0014】
従って、キャビンを備えない作業車両は、キャビンの室内に設けると同等の高さ位置に車載カメラを設けようとするために、作業車両の操縦部前側に逆U字状等に形成する支持機構を新たに設けなければならないのでコストアップが避けられない。また、このように運転席に座った運転者より高く設ける支持フレーム等は、運転席の後方に設ける安全フレームと同様に作業車両が転倒した際に運転者を保護する前方のフレームと見做され、運転者の保護に必要な安全域を確保する十分な強度を必要として車載カメラを取り付けるだけの極細なフレームでは強度不足となる。
【0015】
そこで、このようなコストアップを避けながら、車載カメラを適正に取り付けることができる新たな取付位置、並びに取付方法等について検討するとき、例えば、車載カメラを運転席の後方に設ける安全フレームの上方にブラケットを取り付けて設けることが考えられる。しかし、車載カメラを運転席後方の安全フレーム上方に設けた場合、運転者の体格や姿勢によって運転者の頭部がカメラで撮影した画像に写ってしまい、前方地面等を適切に撮影できない虞がある。
【0016】
また、原動部を覆うボンネットの前方に車載カメラを運転者の視界を考慮して比較的低い位置に設けることが考えられる。しかし、トラクタのように左右の前輪と後輪を備える作業車両は、操舵輪となる前輪を操舵すると概ね後車軸の延長線上となる点(旋回中心)を中心に進行方向を変えるので、後車軸から遠く離れた作業車両の前方に車載カメラを設けると、進行方向の変化に伴ってカメラが左右方向に大きく振られ、また、車載カメラは地面に近づいて被写体となる前方地面をクローズアップ気味に撮影することになるので、この影響もあって映像が乱れるという虞がある。
【0017】
さらに、前者のように安全フレーム上方に車載カメラを設けると、運転者の上方を覆う日除けを安全フレームを用いて取り付けることができなくなり、また、後者のようにボンネットの前方に車載カメラを設けると車両の前部に肥料散布機等の作業機を取り付けることができなくなる。そのうえ、ボンネット上に車載カメラを直接的に載置するように設けると、車載カメラが運転者の前方視界を妨げてしまうので作業車両の手動操舵による作業走行を困難にする。
【0018】
そこで、本発明は係る問題点に鑑み、操縦部を覆うキャビンを備えることなく、例えば、運転席の後方に安全フレームを備えるような作業車両であっても、作業走行中の前方地面やその遠方となる風景を車載カメラによって撮影して、直進走行や前行程の作業跡に沿った追従走行を自動操舵によって行うことができ、しかも、係る直進走行や追従走行を運転者が手動操舵によって行う場合であっても、車載カメラが運転者の前方視界を妨げることがない作業車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の作業車両は、前述の課題を解決するため第1に、作業走行中の前方地面やその遠方となる風景を車載カメラで撮影した画像に基づいて、直進走行や前行程の作業跡に沿った追従走行を行う自動操舵装置を備える作業車両にあって、前記車載カメラは可倒式となして、走行機体の前部に設けるボンネットの後部寄り上方、或いはそのボンネットの後部に続くパネルカバーの前部寄り上方となる画像の撮影位置から、ボンネットの後部寄り上面、或いはパネルカバーの前部寄り上面に近接する退避位置に倒して、前記パネルカバーやステアリングハンドルの後方に設ける運転席に座った運転者が、前記車載カメラに遮られることなくボンネット越しに前方地面やその遠方となる風景を見通すことができるように構成する。
【0020】
また、本発明の作業車両は第2に、前記車載カメラは、前記ボンネットの後部寄り上方、或いはそのボンネットの後部に続くパネルカバーの前部寄り上方で、その撮影した画像に前記ボンネットが写り込まない極力低い位置を画像の撮影位置に設定する。
【0021】
さらに、本発明の作業車両は第3に、前記走行機体に立設する門型支持フレームの上部に、前記車載カメラの取付ブラケットから延出する取付アームの軸支部を設けて、前記車載カメラを画像の撮影位置と退避位置に亘って回動自在、並びに任意の回動角度に車載カメラを保持してピッチ角の微調整を可能にする。
【0022】
そして、本発明の作業車両は第4に、前記車載カメラの取付ブラケットから延出する取付アームを金属管で形成して、この取付アームの管内に車載カメラの電源や通信ケーブルを通し、また、管内から導出したケーブルをボンネット或いはパネルカバーで覆いながら制御装置等に向けて配索する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の作業車両によれば、作業走行中の前方地面やその遠方となる風景を車載カメラで撮影した画像に基づいて、直進走行や前行程の作業跡に沿った追従走行を行う自動操舵装置を備える作業車両にあって、前記車載カメラは可倒式となして、走行機体の前部に設けるボンネットの後部寄り上方、或いはそのボンネットの後部に続くパネルカバーの前部寄り上方となる画像の撮影位置から、ボンネットの後部寄り上面、或いはパネルカバーの前部寄り上面に近接する退避位置に倒して、前記パネルカバーやステアリングハンドルの後方に設ける運転席に座った運転者が、前記車載カメラに遮られることなくボンネット越しに前方地面やその遠方となる風景を見通すことができるように構成する。
【0024】
そのため、操縦部を覆うキャビンを備えることなく、例えば、運転席の後方に安全フレームを備えるような作業車両であっても、車載カメラを画像の撮影位置に起立させると、走行機体の前部に設けるボンネットの後部寄り上方、或いはそのボンネットの後部に続くパネルカバーの前部寄り上方の走行機体の比較的高い位置に車載カメラを位置させて、作業走行中の前方地面やその遠方となる風景を撮影することができるので、自動操舵装置はこの車載カメラが撮影した画像に基づいて、直進走行や前行程の作業跡に沿った追従走行を自動操舵によって行うことができる。
【0025】
また、車載カメラを画像の撮影位置から退避位置に倒すと、ボンネットの後部寄り上面、或いはパネルカバーの前部寄り上面に近接する走行機体の比較的低い位置に車載カメラを位置させて、運転席に座った運転者がこの車載カメラに遮られることなくボンネット越しに前方地面やその遠方となる風景を見通すことができるので、運転者は、例えばボンネット前部に突出させて設ける照準等を利用しながら自ら手動操舵して、直進走行や追従走行、或いは圃場への移動走行等を車載カメラを備えない場合と同様に支障なく行うことができる。
【0026】
さらに、本発明の作業車両によれば、前記車載カメラは、前記ボンネットの後部寄り上方、或いはそのボンネットの後部に続くパネルカバーの前部寄り上方で、その撮影した画像に前記ボンネットが写り込まない極力低い位置を画像の撮影位置に設定する。そのため、車載カメラが撮影した画像には、自動操舵を行う上で不要な走行機体の前部に設けるボンネットが写り込まずに、自動操舵を行う上で必要となる作業走行中の前方地面やその遠方となる風景が主体的に写り込むので、このような適切な画像を用いて自動操舵を行って作業精度を向上させることができる。
【0027】
また、車載カメラは例えば、ボンネットの後部寄り上方、或いはそのボンネットの後部に続くパネルカバーの前部寄り上方の低い位置から上方に向けて徐々に上昇させた場合に、その撮影した画像にボンネットが最初に写り込まなくなった位置というような、極力低い位置を画像の撮影位置に設定する。
【0028】
そのため、運転者が運転席に座って前方を見ると、車載カメラに隠されてボンネットの前部やこの前部に設ける照準等を見ることができない。しかし、車載カメラは前述のように極力低い位置を画像の撮影位置に設定するから、車載カメラのボンネット上への突出量は少なくて、前方視界を僅かに悪化させるだけであるから、枕地旋回における運転者の手動操舵等に悪影響等を及ぼすことはない。
【0029】
さらに、本発明の作業車両によれば、前記走行機体に立設する門型支持フレームの上部に、前記車載カメラの取付ブラケットから延出する取付アームの軸支部を設けて、前記車載カメラを画像の撮影位置と退避位置に亘って回動自在、並びに任意の回動角度に車載カメラを保持してピッチ角の微調整を可能にする。そのため、可倒式となす車載カメラの取付支持構造を、走行機体に立設する既存の門型支持フレームを利用して、コンパクト且つ安価に必要な強度を備えて構築することができる。
【0030】
また、車載カメラの取付ブラケットから延出する取付アームの軸支部に摩擦板等を介挿して、車載カメラをその撮影位置における任意の回動角度に保持することができるようになすと、携帯端末等に映した画像を見ながらボンネットが写り込まないように車載カメラのピッチ角の調整を運転者自らが行うことができる。さらに、このように車載カメラを走行機体にコンパクトに取り付けると、その取付アーム等が運転者の安全域を侵す虞がないので、4柱式等の安全フレームと見做されることもない。
【0031】
そして、本発明の作業車両によれば、前記車載カメラの取付ブラケットから延出する取付アームを金属管で形成して、この取付アームの管内に車載カメラの電源や通信ケーブルを通し、また、管内から導出したケーブルをボンネット或いはパネルカバーで覆いながら制御装置等に向けて配索する。そのため、車載カメラを画像の撮影位置や退避位置に回動する際に電源や通信ケーブルが外部に露出して邪魔になることを防止しながら、外観を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明を適用するトラクタの側面図である。
図2】車載カメラの取付状態を示し、(a)は画像の撮影位置に起立させた状態、(b)は退避位置に倒した状態を示す斜視図である。
図3】パネルカバーを無くした車載カメラの取付状態を示し、(a)は画像の撮影位置に起立させた状態、(b)は退避位置に倒した状態を示す斜視図である。
図4】車載カメラの取付構造を示し、(a)は前方よりみた状態、(b)は後方よりみた状態を示す分解斜視図である。
図5】車載カメラの取付構造を示し、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は平面図である。
図6】操縦部のステアリングハンドル回りを示す斜視図である。
図7】自動操舵装置のブロック図である。
図8】畝立作業における走行方法を示し、(a)は遠景直進、(b)はあぜ追従、(c)は前行程跡追従、(d)はVミゾ追従の説明図である。
図9】前輪の操舵系に設ける駆動ユニットを示し、(a)は操舵系への取付状態を示す斜視図、(b)は内部構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように作業車両としての農業用のトラクタ1は、前方からエンジン2、クラッチハウジング3、トランスミッションケース4等を一体的に連結して車体(走行機体)を構成する。また、車体の前部寄りにはエンジン2とエンジン2の補器類、バッテリ等から構成する原動部を上方から覆うボンネット5を設け、このボンネット5は前面のフロントグリル部6にヘッドランプ7を備えると共に、先端寄りの左右中央の上面に突出する略三角錐形状の照準8を備えて、後方に設ける回動支点を中心に前部側を開閉自在に構成する。
【0034】
さらに、エンジン2の下部寄り左右にその基部を固定して前方に延びるフロントブラケット9は、図示しないフロントアクスルケースを中央寄りに設けるホルダを介して左右揺動自在に軸支する。また、このフロントアクスルケースの左右端には、前車軸ケース(キングピンケース及びファイナルケース)を取付ける。さらに、前車軸ケースは前輪10を取付ける前車軸11を軸支し、操縦部に設けるステアリングハンドル12は左右の前輪10を全油圧式パワーステアリング装置を介して操舵する。
【0035】
一方、トランスミッションケース4の後部に連結する図示しないデフハウジングの左右側面にリアアクスルケースを設け、この左右リアアクスルケースに軸支する後車軸13に左右の後輪14を取付ける。また、車体の後部には、トップリンク15と左右のロワリンク16からなる周知の三点リンク機構やドローバ等の連結装置を設け、これらの連結装置にはロータリ耕耘装置、畝立機、或いは播種機や移植機等の作業機を連結し、前述のデフハウジングの後部に軸支するPTO軸(動力取出軸)からエンジン動力を作業機に伝達する。
【0036】
さらに、エンジン2より後方のクラッチハウジング3以下の車体には、操縦部の床を構成するフロア17と、このフロア17から後方に立ち上げる運転席18を設けるシートフレーム及び後部壁と、左右の後輪14の前寄り上部を覆う左右フェンダ19等を夫々ブラケットを介して取付ける。また、運転席18の後部寄り上方には逆U字状のロールバーによって構成する安全フレーム20を、左右のリアアクスルケースに固定した下部フレーム20aの上部に折り畳み自在に取付けて設け、さらに、この安全フレーム20には左右のフラッシャーランプ21を設ける。
【0037】
一方、エンジン2後部のリアプレート等に下部を取付けて立設する門型支持フレーム22は、原動部と操縦部を前後に区分けし、その門型支持フレーム22の中央部に、エンジン2のクーリングファンによって生じた高温の冷却風が操縦部側に至らないように遮る遮蔽板(遮熱板)を設ける。また、この門型支持フレーム22には、エンジン2の燃料タンク23を遮蔽板の後方となるように取付けると共に、前述のボンネット5の後部寄りを支点ピンを備えるブラケットを介して回動自在に取付ける。
【0038】
さらに、門型支持フレーム22の後方となるクラッチハウジング3の前部寄り上部に図9に示すステアリングコラム24を立設し、このステアリングコラム24はその下部寄りにパワーステアリングユニット25を取付け、このパワーステアリングユニット25に連結するステアリングシャフト26は、そのステアリングコラム25の円筒部に内装して、スアリングハンドル12を上端に取付けて設ける。なお、係るスアリングハンドル12の下方にはブーツ27を設けて、ステアリングコラム24の上部寄りをこのブーツ27により覆う。
【0039】
そして、門型支持フレーム22より後方に設ける燃料タンク23やステアリングコラム24等は、樹脂製のパネルカバー28と着脱自在なリアパネルカバー29で覆い、この内、上方に設けるパネルカバー28は門型支持フレーム22やステアリングコラム24に取付け、その頂部には図3図6に示すようにタコメーター、燃料計、警告ランプ等を備えるモニタパネル30を運転席18に座った運転者がその表示面を見易いように傾斜させて設ける。なお、パネルカバー28にはモニタパネル30の他、後述する自動操舵装置に関わる操作スイッチ等を纏めて設けるスイッチパネル31、モニタパネル30の表示内容を変更する切替スイッチ32、エンジンスタータースイッチ33等を下部寄りの左右に設ける。
【0040】
なお、ステアリングハンドル12の左右には前後進切換レバー34、エンジンコントロールレバー35等を設け、ステアリングハンドル12の下方となるフロア17上には走行クラッチペダル36や左右のブレーキペダル等を設ける。また、運転席18の左右側方には走行主変速レバー37、副変速レバー、PTO変速レバー、作業機昇降レバーを設ける他、トラクタ1の自動制御用の設定器等を設ける。
【0041】
以上、トラクタ1の概要について説明したが、このトラクタ1が採用する4輪ホイール式の走行装置に替えて、例えば後輪14をゴムクローラを用いた履帯式としたセミクローラ式(半履帯式)の走行装置を採用する場合がある。また、トラクタ1はディーゼル又はガソリンエンジン2を搭載して、牽引走行や作業機を駆動するための動力源とするが、EV化が叫ばれる昨今、バッテリによって駆動される電動モーター等を動力源として用いてよいことは言うまでもない。
【0042】
ところで、トラクタ1は前述のように車体後部にロータリ耕耘装置、畝立機、或いは播種機や移植機等の作業機を連結して田畑の耕耘作業等を行うが、麦や大豆、或いは野菜等を水田転換畑等で栽培する場合には、栽培床を高くして適度に乾燥した土壌で生育させるために畝立を行うことが慣行されている。そこで、係る畝立作業について説明すると、先ず、除草や平坦な作付圃場を得るためにトラクタ1に例えば、ロータリ耕耘装置を連結して、圃場の凹凸を平らに均らしながら普通耕耘作業を行う。
【0043】
また、このように圃場を耕耘して数日経過すると除草されてやや土壌が引き締まった作付圃場が得られるので、次に、トラクタ1に連結したロータリ耕耘装置の後部左右に畝立用の畝盛器を取り付けたり、ロータリ耕耘装置の後方にアタッチメントタイプの畝立成型器を取り付けて畝立機として用いる。或いは、ロータリ耕耘装置に代えて畝立ロータリ耕耘装置と畝立成型器とを一体に構成した専用の畝立機を用いて畝立作業を行う場合がある。
【0044】
なお、野菜等の生育を促進させるために作成した畝をポリエチレンフィルムなどで同時に覆う場合は、マルチ仕様の畝立機や畝立成型器を用いる。また、畝立作業と同時に播種や薬剤散布を行う場合は、畝立機の後方に播種機や薬剤散布機を装着して作業の省力化を図る。
【0045】
そして、ここで専用の畝立機、或いはマルチ畝立機を連結して作業を行う場合、図1に示すように畝立機38は畝立ロータリ耕耘装置39によって圃場を耕耘爪によって耕耘しながら中央寄りに耕耘した土を寄せる。また、中央寄りに寄せられた土は、その後部に連結した畝成形板40の内面で押し均され、圃場に畝Wを作る。なお、畝成形板40の後部寄り左右には耕耘深さを調節する接地輪41を設ける。
【0046】
また、マルチ装置は畝成形板40の上方にフィルムロール42を保持するホルダを備え、フィルムロール42の下方に設ける押えロール43はフィルムロール42から繰り出されたフィルムを畝Wの表面に押し付けながら畝Wの表面を整形する。そして、畝Wを被覆したフィルムは左右の踏圧輪44により両端部が踏圧されるとともに覆土輪45による覆土が行われ、これによりマルチフィルムの敷設が行われる。
【0047】
なお、畝の種類は成形する畝の高さによって平畝と高畝、或いはその中間となる短冊畝等があり、また、畝の形状によって台形や山形等があり、さらに、一度に1畝や多数の畝を作ることができるものがある。そのため、これに対応してメーカーは複数の畝立機の型式を用意しており、ユーザーはトラクタ1の能力を考慮しながら適合する型式の畝立機を用いて畝立作業を行うことになる。そして、圃場において畝立作業を行う場合に運転者は、その後の管理作業等を容易にするために出来るだけ畝を真っすぐに綺麗に作ろうとし、また、圃場の効率的な利用を図るために出来るだけ畝列(条列)を多く作ろうとする。
【0048】
そのため、このような畝立作業を行う際の要望を受けて、車載カメラで撮影した画像に基づいて直進走行や前行程の作業跡に沿った追従走行を行う自動操舵装置を備えるトラクタが開発されて実用化されている。しかし、係るトラクタは、カメラで作業走行中の前方地面やその遠方となる風景を撮影するために、車体上で見通しが利くと共に既存の構造物を利用できるという観点から、キャビンの室内、殊にフロントウィンドウの中央上部にカメラを設けることが既定路線となっていたので、キャビンを備えないトラクタにおいてはその開発が遅れていた。
【0049】
そこで、本発明は、このような自動操舵装置を備えるトラクタ1を、キャビンを備えない所謂フレーム車において提供することを目的とし、以下、そのトラクタ1に備える自動操舵装置について説明すると、図7のブロック図に示ように自動操舵装置は、車載カメラ(カメラモジュール)46と、無線LAN機能を搭載した画像処理用のシングルボードコンピュータ(画像処理SBC)47と、自動操舵用の電子制御ユニット(自動操舵ECU)48と、携帯端末(タブレット端末又はスマートフォン)49等を備える。
【0050】
そして、この内、車載カメラ46は例えば、レンズ、IRカットフィルター、イメージセンサー、制御電子回路などで構成するモノクロ出力30数万画素等のボード型CMOSカメラモジュールを用いて、所定の周期で撮影した画像データを画像処理SBC47に出力する。また、この画像処理SBC47はカメラモジュール46のボードにスペーサを介して取付けて設けて、カメラモジュール46に対して画像の撮影指令を行うと共に、取得した画像データに対して必要な画像処理(パターンマッチング等)を行って、トラクタ1を直進走行や追従走行を行う際に必要となる前輪10の目標操舵角を演算する。
【0051】
なお、画像処理SBC47は無線LAN機能を搭載しているため、カメラモジュール46で撮影した映像を無線送信して、タブレット端末又はスマートフォン等の携帯端末49が備えるディスプレイにその映像を表示することができる。一方、画像処理SBC47で演算した前輪10の目標操舵角は、自動操舵ECU48に車載ネットワークを介して伝達し、また、自動操舵ECU48は、前輪10の操舵角を指令された目標操舵角に一致するように、駆動ユニット50に備える電動モータ(ステッピングモータ)51を駆動回転させる。
【0052】
より詳細に説明すると、図9に示すように前輪10の操舵系に設ける駆動ユニット50は、2つ割ケース52内に収容してステアリングシャフト26の中途にセレーションを用いて結合するはすば歯車53と、ステッピングモータ51によって駆動されて回転する駆動軸に設けるはすば歯車54の対によって構成する歯車減速機構を備える。そして、自動操舵ECU48がステッピングモータ51を正転又は逆転させると、係る歯車減速機構によって減速させた駆動力によってステアリングシャフト26が回転し、また、これに伴って前輪10はパワーステアリングユニット25を介して操舵することができる。
【0053】
一方、このように前輪10を自動操舵している状態で、運転者がステアリングハンドル12を操作すると、その手動操作力によって歯車減速機構のはすば歯車54に負荷が加わって駆動軸が軸心方向に移動する。そして、この移動をポテンショメータで構成する変位計55が検出すると、自動操舵ECU48はステッピングモータ51に対する励磁電流を遮断して、ステッピングモータ51の自己保持力を消失させて自動操舵を解除する。
【0054】
従って、自動操舵ECU48は、運転者の手動操舵を自動操舵に優先させることによって常に安全に作業が行われることを心掛ける。また、自動操舵ECU48は前輪10の操舵系に操舵角センサ56を備えて、例えば、前輪10が左右40度を超えて操舵されたことを操舵角センサ56が検出すると、トラクタ1が枕地で旋回を行っていると判断して、この場合も自動操舵を解除する。さらに、トラクタ1の走行速度を画像解析等によって検出し、その速度が自動操舵に適さない高速度であれば、自動操舵を解除する。
【0055】
次に、このような自動操舵装置を用いて畝立作業を行う際の機能について説明すると、先ず、圃場において畝立作業を行う際には、最初の1行程目の畝を真っすぐに作成することが2行程目以降の畝を作成うえで重要となる。そこで、この最初の1行程目の畝を作成する際には、図8(a)に示す「遠景直進」のようにトラクタ1の前方にある遠くの風景(遠景)を基準とした目標地点とトラクタ1を前進させて作業を開始させたスタート地点を結んだ直線上をトラクタ1が走行(直進走行)するように自動操舵する。
【0056】
そして、運転者がこの遠景直進機能を使用する場合には、図6に示すように操縦部のスイッチパネル31に設けるモード切替用のロータリスイッチ57を「直進・遠景」位置に合わせて、自動操舵制御における遠景直進モードを選択する。また、スイッチパネル31に設ける自動操舵ボタン(スイッチ)58を押して自動操舵制御をON状態にする。そして、自動操舵ECU48は自動操舵スイッチ58がONとなると、その左側に設ける自動操舵LED59を点滅させる。
【0057】
また、圃場における作業開始位置で遠景直進の目標地点を目視によって決め、次に、作業を開始しながらトラクタ1の左右中心が目標地点に向かうように手動操舵して5~10m前進させる(目標の確定と直進性の確保)。そして、ここで画像処理SBC47がフレームの上辺寄りとなる左右中心付近の風景を自動的に目標に設定すると、スイッチパネル31の非検出LED61を消灯させる代わりに検出LED60を点灯する。そのため、この点灯を確認して自動操舵ボタン58を再び押すと目標地点が固定され、画像処理SBC47と自動操舵ECU48は協働してトラクタ1の自動操舵を開始する(自動操舵LED59点灯)。
【0058】
なお、最初の行程の端に近づいて運転者が自動操舵ボタン58を押した場合や、カメラ画像に基づいて画像処理SBC47が行程端を過ぎたと認識した場合には、自動操舵ECU48は遠景直進機能による自動操舵を解除する(自動操舵LED59消灯)。また、最初の1行程目の畝を作成する場合に圃場を区画する畦が比較的真っすぐに作られていて、尚且つ畦際から畝を作成したい場合には、遠景直進機能に代えて図8(b)に示すあぜ追従機能を用いることができ、この場合、トラクタ1は畦に対して平行に追従して走行(追従走行)するように自動操舵を行う。
【0059】
そして、運転者がこのあぜ追従機能を使用する場合には、スイッチパネル31に設けるモード切替ロータリスイッチ57を「追従・あぜ」位置に合わせて、自動操舵制御におけるあぜ追従モードを選択する。また、スイッチパネル31に設ける自動操舵ボタン58を押して自動操舵制御をON状態にする。そして、自動操舵ECU48は自動操舵スイッチ58がONとなると、その左側に設ける自動操舵LED59を同様に点滅させる。
【0060】
さらに、圃場における作業開始位置でトラクタ1が畦に対して平行になるように合わせる。また、手動操舵によって作業を開始し、畦との距離を保ちながら5~10m前進させる(畦の検出と直進性の確保)。そして、ここでカメラ画像に基づいて画像処理SBC47が地面に対して10cm以上高くなる段差を畦と認識して検出すると、非検出LED61を消灯する代わりに検出LED60を点灯する。そのため、この点灯を確認して自動操舵ボタン58を押すと画像処理SBC47と自動操舵ECU48は協働してトラクタ1の自動操舵を開始する(自動操舵LED59点灯)。
【0061】
なお、この場合に画像処理SBC47と自動操舵ECU48は、前述の自動操舵ボタン58を再び押した時のトラクタ1と畦との間の距離を維持して自動操舵を行うので、畝を畦に対して所望の距離をとって作成することができる。また、行程の端に近づいて運転者が自動操舵ボタン58を押した場合や、カメラ画像に基づいて画像処理SBC47が行程端を過ぎたと認識した場合には、あぜ追従機能による自動操舵を解除する(自動操舵LED59消灯)。
【0062】
以上、最初の1行程目の畝を作成する場合について説明したが、2行程目以降の畝を作成する場合は、図8(c)に示すように前行程で作成した畝の作業跡に沿うように自動操舵を行う「前行程跡追従」によるか、或いは、図8(d)に示すように前行程作業時に、例えば作業機のツールバー等に装着したサイドマーカー62で地面に付けたV溝に沿うように自動操舵を行う「Vミゾ追従」を用いて作成する。そして、運転者がこの前行程跡追従機能やVミゾ追従機能を使用する場合には、スイッチパネル31に設けるモード切替ロータリスイッチ57を「追従・前行程」や「追従・Vミゾ」位置に合わせて、自動操舵制御における前行程跡追従モードやVミゾ追従モードを選択する。
【0063】
そして、これ以降の運転者が行う自動操舵ボタン58による自動操舵制御のON操作や、作業開始位置でトラクタ1を前行程で作成した畝の作業跡に対して平行になるように合わせたり、或いは作業開始位置でトラクタ1の左右中心をサイドマーカー62で付けたV溝ラインに合わせたりすること等は、前述のあぜ追従モードでの自動操舵制御と同様であるので説明を省略するが、この場合に画像処理SBC47は、地面に対して低くなる段差(10cm以上)を作業跡として認識し、また、所定以上の幅(20cm)と高さ(5cm)を備えたものをV溝として認識し、また、これらの角が明確であるほど認識しやすくなる。
【0064】
さらに、前述の自動操舵時に圃場の硬軟等によってステアリングハンドル12が回り過ぎたり、緩慢過ぎて前輪10の操舵量に過不足を感じる場合は、運転者がスイッチパネル31に設ける高・中・低の感度調整ボタン(スイッチ)63、64、65を押すと、自動操舵ECU48は電動モータ51を指示された操舵量で制御し、その調整状態は高・中・低の感度LED66、67、68の点灯状態によって表示する。また、自動操舵運転を行わない時や作業終了後或いは、公道走行を行う場合は自動操舵ボタン58を押して自動操舵をOFFにしておく。
【0065】
次に、本発明の特徴とする車載カメラ46のトラクタ1への取付構造について説明すると、図4及び図5に示すように、レンズ、IRカットフィルター、イメージセンサー、制御電子回路などを1つのボード(基板)に取付けたカメラモジュール46は、画像処理SBC47を取付けたボード47aをスペーサ69を用いて後方に取り付けた状態で、カメラモジュール用のコ字状に折り曲げ形成した取付ブラケット70に後方からねじ止めして取付ける。なお、この取付ブラケット70の上部寄りには無線通信アンテナ71を取付ける。
【0066】
また、取付ブラケット70の前面に穿設した開口70aから突出するカメラモジュール46のレンズ及びそのホルダ部46aは、その周囲をスポンジ72で覆った状態で前面カバー73を取付けた樹脂製の前ケース74で覆う。さらに、画像処理SBC47のボード47a等の後方側は前ケース74にねじ止めして取付ける樹脂製の後ケース75によって覆う。なお、カメラモジュール46や画像処理SBC47に電源を供給する電源ケーブルと自動操舵ECU48に接続する通信ケーブルはワイヤーハーネス76として纏めて、後述する金属管で形成する一方の取付アーム77の管内を通し、各ケーブルの先端にはコネクタ78を設ける。
【0067】
そして、このように防水や防塵を目的にカメラケース74、75に収容した車載カメラ46は、直進走行や前行程の作業跡に沿った追従走行等を前述の自動操舵制御によって行えるように、トラクタ1の作業走行中の前方、約10m内外の地面やその遠方となる風景を撮影することができるようになすと共に、この直進走行や追従走行を運転者が手動操舵によって行う場合であっても、運転者の前方視界を車載カメラ46が妨げないように工夫する必要がある。
【0068】
そこで、車載カメラ46は可倒式となして、走行機体の前部に設けるボンネット5の後部寄り上方、或いはそのボンネット5の後部に続くパネルカバー28の前部寄り上方となる画像の撮影位置から、ボンネット5の後部寄り上面、或いはパネルカバー28の前部寄り上面に近接する退避位置に倒して、パネルカバー28やステアリングハンドル12の後方に設ける運転席18に座った運転者が、車載カメラ46に遮られることなくボンネット5越しに前方地面やその遠方となる風景を見通すことができるように構成する。
【0069】
即ち、ボンネット5の後部より若干後方には原動部と操縦部を前後に区分けする遮蔽板を備える門型支持フレーム22を車体から立設しており、この門型支持フレーム22は遮蔽板の他にボンネット5の回動支点を設けたり、燃料タンク23やパネルカバー28を取付けてこれ等を支持するフレームとして用いているので十分な強度を備えている。そこで、この門型支持フレーム22を利用して、車載カメラ46の振れ等を極力無くしながらコンパクトに車載カメラ46を取付けることを画策する。
【0070】
つまり、門型支持フレーム22の上部(上面)には、車載カメラ46取付用の左右方向となる補強プレート79をボルト80で取付ける。また、この補強プレート79の左右端寄りに固着したコ字状の金具81は、その折曲げて形成する左右の側板部に取付穴を穿設している。一方、車載カメラ46の取付ブラケット70の左右側板部から下方に向けて折り曲げながら延出する取付アーム77の下端部には、左右方向となるパイプ基部77aを固着している。
【0071】
そこで、左右のコ字状金具81の側板部の間に取付アーム77のパイプ基部77aを臨ませ、外側方から両者の穴に支点ボルト82を通してナット止めする。従って、これにより車載カメラ46は、門型支持フレーム22の上部に支点ボルト82を中心として前方及び後方に回動自在に取付けることになる。なお、以上の組付けに当ってパイプ基部77aの端面と金具81の端面との間には摩擦板83を介装している(図5参照)。
【0072】
そのため、この摩擦板83は車載カメラ46の自重等による自由回動を阻止して、車載カメラ46の任意回動角度での保持機能を果たす。なお、度重なる車載カメラ46の回動操作によって摩擦板83による保持機能が低下した際には、支点ボルト82の頭部とナットとの間の締め込み量を調節して、摩擦板83にかかる押付け力を増大させればよい。また、この摩擦板83の摩擦力に抗して、運転者はカメラケース74、75や取付アーム77を把持して車載カメラ46を前方や後方に向けて回動することができる。
【0073】
しかし、車載カメラ46は、取付アーム77の下部に固着したL型プレート77bの先端切欠部77cがコ字状金具81の上端(前ストッパ)に当接すると、それ以上の前方への回動ができなくなる。また、取付アーム77の下端部77dが補強プレート79の後端部(後ストッパ)に当接すると、車載カメラ46はそれ以上の後方への回動ができなくなる。
【0074】
一方、図2及び図3に示すように操縦部に設けるパネルカバー28の前部寄りの上面には、運転席18に座った運転者が携帯端末49のディスプレイを作業走行中に視認できるようにするために、携帯端末の載置台28aを突出させて一体成形している。また、この載置台28aの前下部寄りには開口28bを設け、この開口28bには燃料タンク23の給油孔23aを臨ませて設けているので、燃料タンク23のキャップ23bを開口28bの上方から着脱して燃料の補給を行うことができる。さらに、パネルカバー28の開口28bを挟んでその左右には、前後方向の穴28cを夫々設ける。
【0075】
従って、車載カメラ46を門型支持フレーム22の上部に支点ボルト82を中心として前方及び後方に回動自在に取付ける際には、パネルカバー28を予め取外しておくと共に、車載カメラ46の取付けが終わると、車載カメラ46の左右取付アーム77にパネルカバー28の左右穴28cが嵌り込むように後方から差し入れてパネルカバー28を取付ける。なお、左右取付アーム77のL型プレート77bの上面と、補強プレート79の左右端寄りの上面にはクッション84を貼り付け、これらのクッション84によってパネルカバー28の左右穴28cの隙間塞ぎを行って見栄えを向上させる。
【0076】
また、一方の取付アーム77の管内を通して、その下方から取り出したワイヤーハーネス76の電源ケーブルと通信ケーブルは、燃料タンク23の給油孔23aの周囲を迂回させながら、そのケーブルの端部に設けるコネクタ78をボンネット5やパネルカバー28で上方を覆ったなかで、自動操舵ECU48等から導出するコネクタに結合して配索するので、車載カメラ46から導出するケーブル等を外部に露出させて見栄えを悪くするといった虞はない。
【0077】
以上、車載カメラ46の走行機体への取付構造について説明したが、車載カメラ46を門型支持フレーム22の上部に支点ボルト82を中心として後方に回動して、図1又は図2(a)に示すように、走行機体の前部に設けるボンネット5の後部寄り上方、或いはそのボンネット5の後部に続くパネルカバー28の前部寄り上方となる画像の撮影位置に保持すると、車載カメラ46から前方、約10m内外の地面やその遠方となる風景を車載カメラ46で撮影することができる。
【0078】
詳述すると、例えば、車載カメラ46から10m前方の地面からボンネット5先端部の曲面に接する接線Sを描いた場合に、その接線Sが車載カメラ46の垂直画角αの下線uと一致するように後方に向けて回動させた位置(角度)を車載カメラ46の画像の撮影位置に設定することが最も望ましい。つまり、このように車載カメラ46の画像の撮影位置を設定すると、撮影したフレームにボンネット5がギリギリ写り込まないので、車載カメラ46から前方10mの地面やその遠方となる風景をフレームいっぱいに写り込ますことができ、その後の画像処理における精度を最大に引き上げることができる。
【0079】
従って、車載カメラ46の取付アーム77の下端部77dが補強プレート79の後端部に当接する位置を、前述の車載カメラ46の最も望ましい画像の撮影位置に対応させたとすれば、この後ストッパに当接するまで車載カメラ46を回動させれば、常に望ましい画像の撮影位置に車載カメラ46を回動させて位置させることができるようになる。
【0080】
しかし、圃場が軟弱であったりトラクタ1に連結する作業機の重量が増大すると、トラクタ1は地面への沈下量が増して、これにより相対的に地表面はトラクタ1に対して上昇することになる。従って、この場合に車載カメラ46から水平距離にして10m前方にあった地面は、沈下する前よりフレーム中で上方に移動して写り込むことになって、結局、車載カメラ46はそのフレームに画像処理に不要となる10mより手前の地面を写り込ませてしまう。
【0081】
そこで、この問題を解消するためには、車載カメラ46の光軸を若干上げて俯角をより浅くすることによって、車載カメラ46から水平距離にして10m前方の地面やその遠方となる風景をフレームいっぱいに写り込ますことができる。そのため、前述の取付アーム77の下端部77dが補強プレート79の後端部に当接する位置を、実際にはより前方側に設定して、前述のように車載カメラ46から前方、約10m内外の地面やその遠方となる風景をフレームいっぱいに写り込ますことができるように、車載カメラ46のピッチ角を調整(微調整)できるようにして置く必要がある。
【0082】
なお、トラクタ1の地面への沈下量が通常より増大したりしなければ、車載カメラ46のピッチ角の調整は、例えば、携帯端末49に車載カメラ46の映像を表示させながら、その撮影した画像にボンネット5が最初に写り込まなくなった位置というような、車載カメラ46が極力低くなる位置を画像の撮影位置に設定すればよい。
【0083】
そして、このようにピッチ角を調整して車載カメラ46を画像の撮影位置に設定した場合に、運転者が運転席18に座って前方を見ると、車載カメラ46に隠されてボンネット5の前部やこの前部に設ける照準8等を見ることができない(図1参照)。しかし、車載カメラ46は前述のように極力低い位置を画像の撮影位置に設定するから、運転席18から見た車載カメラ46のボンネット5上への突出量は少なくて、前方視界は僅かに悪化するだけであるから、枕地旋回における運転者の手動操舵等に悪影響等を及ぼすことはない。
【0084】
但し、車載カメラ46のボンネット5上への突出は、枕地旋回する際等に悪影響をあまり及ぼさないとはいえ、車載カメラ46は極力低く位置する方が好ましい。そこで、例えば、原動部を覆うボンネット5の前方に車載カメラ46をその取付フレームによって比較的低い位置に取り付けることが考えられる。しかし、トラクタ1のように左右の前輪10と後輪14を備える作業車両は、操舵輪となる前輪10を操舵すると概ね後車軸13の延長線上となる点(旋回中心)を中心に進行方向を変える(アッカーマン・ジャントー機構の採用)。
【0085】
そのため、後車軸13から遠く離れた作業車両の前方に車載カメラ46を設けると、進行方向の変化に伴ってカメラ46が左右方向に大きく振られ、また、車載カメラ46は地面に近付けて被写体となる前方地面をクローズアップ気味に撮影することになるので、この影響もあって映像が乱れるという虞がある。従って、車載カメラ46を設ける位置は後車軸13から適度に離れて、また、地面に近づき過ぎない位置が望まれる。
【0086】
従って、以上の観点から本実施形態の、走行機体の前部に設けるボンネット5の後部寄り上方、或いはそのボンネット5の後部に続くパネルカバー28の前部寄り上方となる位置を、車載カメラ46の画像の撮影位置に設定することは最も適切なものと考えられる。なお、その点でキャビンの室内上方に車載カメラ46を設けることも同様に好ましいものと考えられる。
【0087】
しかし、この場合、車載カメラ46は地面から高く離れた運転者の頭上に設けることになるために、仮にトラクタ1が圃場の傾斜等によって左右にローリングしたりすると、車載カメラ46が左右に大きく振られることにより映像が乱れて自動操舵が安定しないという虞が想定される。依って、車載カメラ46をキャビンの室内上方に設けることも、全面的に推奨することができるわけではない。
【0088】
一方、本実施形態において、その車載カメラ46は運転者の頭上に比較してかなり低い、ステアリングハンドル12を運転者が把持すると同等の高さを画像の撮影位置に設定するから、トラクタ1が左右にローリングした際の左右振れの影響は少ないといえる。そして、車載カメラ46はその起立させた画像の撮影位置から、図2(b)に示すようにボンネット5の後部寄り上面に近接する退避位置に倒すと、パネルカバー28やステアリングハンドル12の後方に設ける運転席18に座った運転者が、車載カメラ46に遮られることなくボンネット5越しに前方地面やその遠方となる風景を見通すことができる。
【0089】
そのため、運転者は、例えばボンネット5前部に突出させて設ける照準8等を利用しながら、自ら手動操舵して直進走行や追従走行、或いは圃場への移動走行等を車載カメラ46を備えない場合と同様に支障なく行うことができる。また、原動部の点検等を行うためにボンネット5を開くと、予め車載カメラ46を起立させていなくとも車載カメラ46はボンネット5の上面に当接して自ら起立するので、車載カメラ46が損傷することはない。さらに、燃料タンク23への給油時に車載カメラ46が邪魔になるようであれば、車載カメラ46を退避位置に倒すとキャップ23bの前方が広く開放されるので給油作業がやり易くなる。
【0090】
なお、車載カメラ46をその起立させた画像の撮影位置から、ボンネットの5後部寄り上面とは逆に、パネルカバー28の前部寄り上面に近接する位置に倒しても、運転者が車載カメラ46に遮られることなくボンネット5越しに前方地面やその遠方となる風景を見通すことができる。しかし、パネルカバー28の前部寄り上面には携帯端末49の載置台28aを突出させて設けているために、車載カメラ46はその側に倒すことができない。但し、載置台28aを別の箇所に移設する場合にはこの限りではない。
【0091】
ところで、本実施形態においては、車載カメラ46と画像処理SBC47等をカメラケース74、75に纏めて収容するが、画像処理SBC47が行う画像処理等の役割を自動操舵ECU48に荷わせれば、カメラケース74、75を小型化することができて運転者の前方視界を多少良好にすることができる。また、自動操舵ECU48はクラッチハウジング3の上面等の空きスペースを利用して設ける。しかし、作業機昇降等の主たる自動制御を荷うトラクタ1のメインECUに余裕があれば、このメインECU等に画像処理SBC47や自動操舵ECU48の役割を荷わせてもよく、本発明の作業車両は必ずしも前述の実施形態に限定するものではない。
【符号の説明】
【0092】
1 トラクタ(作業車両)
5 ボンネット
10 前輪
12 ステアリングハンドル
14 後輪
18 運転席
22 門型支持フレーム
28 パネルカバー
46 車載カメラ(カメラモジュール)
47 画像処理SBC
48 自動操舵ECU
70 車載カメラの取付ブラケット
77 取付アーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9