(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020933
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】逆入力遮断クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 43/02 20060101AFI20250205BHJP
【FI】
F16D43/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124573
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】高田 声一
【テーマコード(参考)】
3J068
【Fターム(参考)】
3J068AA01
3J068CB09
3J068GA03
(57)【要約】
【課題】製作や組立が容易で、逆入力トルクが加えられたときのロック動作を安定して行える逆入力遮断クラッチを提供する。
【解決手段】入力トルクが加えられたときは、入力軸1から偶力を受けたカム受け2がその偏心穴2aに摺動可能に嵌め込まれたスペーサ5を押圧し、スペーサ5がオルダムジョイント(旋回支持機構)7に支持されて公転旋回することにより、スペーサ5内周に摺動可能に嵌め込まれた偏心カム4が出力軸3と一体に回転し、逆入力トルクに対しては、偏心カム4に押されるスペーサ5が並進力を受けて公転旋回運動を規制されるとともに、ハウジング6と入力軸1との間に組み込んだ制動機構8の2つの転がり軸受13が予圧を受けて入力軸1の回転に対する一定のブレーキ力を生じさせることにより、出力軸3が安定してロックし、出力軸3と入力軸1の共回りが生じない構成とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一軸線のまわりに回転する状態で配される入力軸および出力軸と、前記出力軸の軸線と平行な偏心軸線を有し、前記出力軸と一体回転するように出力軸に設けられた円筒状の偏心カムと、前記偏心カムの偏心軸線と同一の偏心軸線を有する円形の偏心穴に偏心カムを受け入れ、前記入力軸と一体回転するように入力軸に設けられたカム受けと、前記カム受けの偏心穴の内周面と前記偏心カムの外周面との間に摺動可能に嵌め込まれる円筒状のスペーサと、前記入力軸および前記出力軸を回転自在に支持する固定部材と、前記スペーサと前記固定部材との間に配されてスペーサを自転不能かつ公転旋回可能に支持する旋回支持機構と、前記入力軸および前記カム受けからなる入力側部材の回転にブレーキを掛ける制動機構とを備え、
前記入力軸に入力トルクが加えられたときは、前記入力軸から前記カム受けに偶力が作用して、前記スペーサが公転旋回することにより、前記偏心カムと前記出力軸が一体に回転し、
前記出力軸に逆入力トルクが加えられたときは、前記出力軸から前記偏心カムを介して前記カム受けおよび前記スペーサに並進力が作用し、前記スペーサが公転旋回運動を規制されることにより、前記出力軸がロック状態となるようにした逆入力遮断クラッチにおいて、
前記制動機構は、前記入力側部材と前記固定部材との間に組み込む転がり軸受が予圧が掛かる状態であることを特徴とする逆入力遮断クラッチ。
【請求項2】
前記制動機構は、前記転がり軸受が前記固定部材に連結される位置決め部材を径方向で挟むように2つ配置され、前記位置決め部材が、前記入力側部材との間で径方向外側の転がり軸受を位置決めするとともに、前記入力軸に連結される予圧部材との間で径方向内側の転がり軸受を位置決めしており、前記予圧部材が、前記径方向内側の転がり軸受に予圧を負荷するとともに、前記径方向内側の転がり軸受および前記位置決め部材を介して前記径方向外側の転がり軸受に予圧を負荷するようになっているものであることを特徴とする請求項1に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項3】
前記入力側部材と前記出力軸および前記偏心カムからなる出力側部材とを一体回転可能に連結して、前記出力軸に逆入力トルクが加えられたときに、前記出力軸をロックさせないようにするロック解除機構が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の逆入力遮断クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力トルクが加えられたときは入力側部材の回転を出力側部材に伝達し、逆入力トルクに対しては出力側部材をロックさせて入力側部材が回転しないようにするロック式の逆入力遮断クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械において、モータ駆動される位置決め装置で部品等を位置決めする場合には、その部品等を停止位置まで移動させてモータの回転を停止させた後も、部品等が外力を受けても位置決め装置によって停止位置に保持されるようにモータに通電しており、これによって電力を消費している。このような位置決め装置にロック式の逆入力遮断クラッチを組み込めば、部品等の位置決め完了後には、位置決め装置が部品等から加わる力に対してロックすることによって部品等を停止位置に保持できるので、位置決め完了と同時にモータへの通電を遮断するようにして省電力化を図れるようになる。また、停電等によって位置決め装置が突然停止しても、逆入力遮断クラッチの作用により位置決め装置がその停止位置で保持され、安全性が確保されるという利点もある。
【0003】
上記のようなロック式の逆入力遮断クラッチとしては、例えば、特許文献1に記載されているものがある。この逆入力遮断クラッチは、同一軸心のまわりに回転する入力側部材と出力側部材との間に、入力側部材の回転を僅かな角度遅れをもって出力側部材に伝達するトルク伝達手段を設け、内周側に円筒面を有する固定外輪を出力側部材の径方向外側に配し、出力側部材の外周面に複数のカム面を設けて、固定外輪の内周円筒面と出力側部材の各カム面との間に周方向両側で次第に狭小となる楔形空間を形成し、これらの各楔形空間に一対のローラとそのローラを楔形空間の狭小部へ押し込むばねを組み込むとともに、各楔形空間の周方向両側に挿入される柱部を有する保持器を、入力側部材と一体回転するように連結したものである。
【0004】
しかし、上記特許文献1の逆入力遮断クラッチでは、出力側部材を製作する際に複雑な加工(カム面の形成)が必要になるし、組立時には複数の楔形空間へ小型部品となるローラやばねを組み込むのに手間がかかるという難点がある。
【0005】
これに対し、この発明の発明者らは、
図7および
図8に示すような構造の逆入力遮断クラッチを考案した(特願2015-107078)。この逆入力遮断クラッチは、入力軸51と固定軸55が通された出力軸53とを同一軸線上に配して、出力軸53にその軸線と平行な偏心軸線を有する円筒状の偏心カム54を設け、入力軸51にハウジング(固定部材)57の内周面と摺動する円筒状のカム受け52を設け、カム受け52に偏心カム54の偏心軸線と同一の偏心軸線を有する円形の偏心穴52aを形成して、その偏心穴52aに偏心カム54を挿入するとともに、偏心穴52aの内周面と偏心カム54の外周面との間に円筒状のスペーサ56を摺動可能に嵌め込み、スペーサ56とハウジング57との間にスペーサ56を自転不能かつ公転旋回可能に支持するオルダムジョイント(旋回支持機構)58を設けている。
【0006】
そのハウジング57は、一端側内周に蓋59が嵌め込まれ、他端側に蓋部57aが設けられている。また、オルダムジョイント58は、スペーサ56とハウジング57の蓋部57aとの間に、その両者と摺動する連結部材60を配したものである。
【0007】
そして、入力軸51に入力トルクが加えられたときは、入力軸51から偶力を受けたカム受け52がスペーサ56を押圧し、スペーサ56がオルダムジョイント58を構成している連結部材60に案内されて上下方向に摺動すると同時に、連結部材60がハウジング57に案内されて左右方向に摺動することにより、スペーサ56が自転することなく公転旋回し、スペーサ56の内周に嵌合している偏心カム54と出力軸53が一体に回転するようにしている。このとき、カム受け52は、ハウジング57に対する摺動抵抗を受けてブレーキを掛けられた状態で回転することになる。
【0008】
一方、出力軸53に逆入力トルクが加えられたときには、出力軸53と一体の偏心カム54がスペーサ56を介してカム受け52を押圧するが、その押圧力は偶力ではなく、カム受け52およびスペーサ56に並進力が作用するため、オルダムジョイント58の連結部材60は摺動できず、スペーサ56が公転旋回運動を規制されて出力軸53がロック状態となる。
【0009】
この逆入力遮断クラッチは、小型のローラやばねを複数組み込んだ従来のロック式のものに比べて、部品製作時の複雑な加工をなくすとともに部品点数を減らすことができ、製作および組立を容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記
図7および
図8に示した構造の逆入力遮断クラッチでは、出力軸53に逆入力トルクが加えられたとき、上述のように、出力軸53から偏心カム54およびスペーサ56を介してカム受け52に伝わる力はカム受け52および入力軸51を回転させない。また、入力軸51およびカム受け52からなる入力側部材と、出力軸53および偏心カム54からなる出力側部材とは互いに接触するように組み込まれており、入力側部材と出力側部材との間の摩擦力は入力側部材を回転させようとするが、その摩擦力よりもカム受け52のハウジング57に対する摺動抵抗によるブレーキ力の方が大きくなるように設計して、出力側部材と入力側部材の共回りを防止している。
【0012】
しかしながら、入力軸51がモータ駆動等により高速回転する条件で使用される場合には、使用中にカム受け52の外周面とハウジング57の内周面が摩耗して、その間の隙間が大きくなり、カム受け52の摺動抵抗(ブレーキ力)が小さくなることによって、入力側部材と出力側部材との間の摩擦力が入力側部材を回転させる(出力側部材と共回りさせる)ようになり、出力軸53のロック不良が生じるおそれがある。
【0013】
そこで、本発明は、製作や組立が容易で、逆入力トルクが加えられたときのロック動作を安定して行える逆入力遮断クラッチを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、本発明は、同一軸線のまわりに回転する状態で配される入力軸および出力軸と、前記出力軸の軸線と平行な偏心軸線を有し、前記出力軸と一体回転するように出力軸に設けられた円筒状の偏心カムと、前記偏心カムの偏心軸線と同一の偏心軸線を有する円形の偏心穴に偏心カムを受け入れ、前記入力軸と一体回転するように入力軸に設けられたカム受けと、前記カム受けの偏心穴の内周面と前記偏心カムの外周面との間に摺動可能に嵌め込まれる円筒状のスペーサと、前記入力軸および前記出力軸を回転自在に支持する固定部材と、前記スペーサと前記固定部材との間に配されてスペーサを自転不能かつ公転旋回可能に支持する旋回支持機構と、前記入力軸および前記カム受けからなる入力側部材の回転にブレーキを掛ける制動機構とを備え、前記入力軸に入力トルクが加えられたときは、前記入力軸から前記カム受けに偶力が作用して、前記スペーサが公転旋回することにより、前記偏心カムと前記出力軸が一体に回転し、前記出力軸に逆入力トルクが加えられたときは、前記出力軸から前記偏心カムを介して前記カム受けおよび前記スペーサに並進力が作用し、前記スペーサが公転旋回運動を規制されることにより、前記出力軸がロック状態となるようにした逆入力遮断クラッチにおいて、前記制動機構は、前記入力側部材と前記固定部材との間に組み込む転がり軸受が予圧が掛かる状態である構成(構成1)を採用した。
【0015】
上記の構成1によれば、小型のローラやばねを複数組み込んだ従来のロック式のものに比べて、部品点数を減らすことができ、製作および組立を容易に行える。また、入力軸をモータで駆動する条件で使用しても、使用中に制動機構の転がり軸受に掛かる予圧力が変化することはなく、入力側部材の回転に対するブレーキ力が一定に保持されるので、出力軸に逆入力トルクが加えられたときには、スペーサの公転旋回運動を規制する作用と制動機構のブレーキ力によって出力軸を安定してロックさせることができる。
【0016】
前記制動機構としては、前記転がり軸受が前記固定部材に連結される位置決め部材を径方向で挟むように2つ配置され、前記位置決め部材が、前記入力側部材との間で径方向外側の転がり軸受を位置決めするとともに、前記入力軸に連結される予圧部材との間で径方向内側の転がり軸受を位置決めしており、前記予圧部材が、前記径方向内側の転がり軸受に予圧を負荷するとともに、前記径方向内側の転がり軸受および前記位置決め部材を介して前記径方向外側の転がり軸受に予圧を負荷するようになっているものを採用することができる(構成2)。この構成2の制動機構を用いれば、入力側部材と固定部材との間に予圧を負荷される転がり軸受を軸方向に2つ並べる制動機構を用いる場合に比べて、クラッチ全体を軸方向にコンパクト化することができる。
【0017】
また、上記構成1、2のいずれにおいても、前記入力側部材と前記出力軸および前記偏心カムからなる出力側部材とを一体回転可能に連結して、前記出力軸に逆入力トルクが加えられたときに、前記出力軸をロックさせないようにするロック解除機構が設けられている構成とすることが望ましい(構成3)。このようにすれば、この逆入力遮断クラッチを組み込んだ装置が非常停止したときも、ロック解除機構で入力側部材と出力側部材を連結し、逆入力トルクを加えて出力側部材と入力側部材を一体に回転させることにより、容易に装置の位置変更を行うことができ、停止状態の装置の操作性が向上する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の逆入力遮断クラッチは、上述したように、従来のロック式のものに比べて製作および組立が容易なうえ、逆入力トルクが加えられたときのロック動作を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態の逆入力遮断クラッチの横断平面図
【
図3】aは
図1のIII-III線に沿った断面図、bはaに対応してクラッチ動作を説明する断面図
【
図4】
図1に対応してロック解除機構の作用を説明する要部の横断平面図
【
図5】第2実施形態の逆入力遮断クラッチの横断平面図
【
図7】本発明の基礎となる逆入力遮断クラッチの横断平面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1乃至
図6に基づき本発明の実施形態を説明する。
図1乃至
図4は第1実施形態を示す。この逆入力遮断クラッチは、円筒状の入力軸1と、入力軸1の一端側のフランジ部に一体形成される円筒状のカム受け2と、入力軸1の内周に他端側を摺動可能に嵌め込まれる出力軸3と、出力軸3の軸方向中央部に一体形成される円筒状の偏心カム4と、カム受け2の内周面と偏心カム4の外周面との間に摺動可能に嵌め込まれる円筒状のスペーサ5と、入力軸1および出力軸3を回転自在に支持するハウジング(固定部材)6と、スペーサ5とハウジング6との間に配されてスペーサ5を自転不能かつ公転旋回可能に支持するオルダムジョイント(旋回支持機構)7と、入力軸1およびカム受け2からなる入力側部材の回転にブレーキを掛ける制動機構8と、入力側部材と出力軸3および偏心カム4からなる出力側部材とを連結するロック解除機構9とで基本的に構成されている。
【0021】
入力軸1と出力軸3は同一軸線のまわりに回転する状態で配されており、入力軸1と一体のカム受け2も入力軸1の軸線と同一の軸線を有している。一方、出力軸3と一体の偏心カム4は出力軸3の軸線と平行な偏心軸線を有しており、カム受け2には偏心カム4の偏心軸線と同一の偏心軸線を有し、スペーサ5および偏心カム4を受け入れる円形の偏心穴2aが形成されている。
【0022】
ハウジング6は、円筒部の一端に蓋部10aが形成された第1ハウジング部材10と、大径円筒部の他端に連続する小径円筒部の外周面におねじ部11aが形成された第2ハウジング部材11とからなり、第1ハウジング部材10の円筒部を第2ハウジング部材11の大径円筒部の内周に嵌め込んで、その内側にカム受け2、偏心カム4およびスペーサ5を収納する状態で一体化されている。ここで、第1ハウジング部材10の蓋部10aの外周および第2ハウジング部材11の大径円筒部の一端の外周には、互いに対応する周方向位置に突片10b、11bが設けられており、各突片10b、11bにあけられた貫通孔を利用して両ハウジング部材10、11を一体に締結できるようになっている。
【0023】
第1ハウジング部材10は、その蓋部10aと出力軸3の一端側小径部との間に組み込まれた転がり軸受12を介して、出力軸3を回転自在に支持している。一方、第2ハウジング部材11は、その小径円筒部と入力軸1との間に組み込まれた2つの転がり軸受13を介して入力軸1を回転自在に支持している。なお、転がり軸受12、13は、この例では、深溝玉軸受を用いている。また、第1ハウジング部材10の円筒部の内周面とカム受け2の外周面との間、および第2ハウジング部材11内周の軸方向内側の段差面と入力軸1のフランジ部の外側面との間には隙間が設けられ、入力側部材がハウジング6と摺動しないようになっている。
【0024】
入力軸1を支持する2つの転がり軸受(以下、単に「軸受」とも称する。)13は、内輪どうしが入力軸1の外周の環状溝に嵌め込まれた間座14を介して対向し、軸方向内側の軸受13の外輪が第2ハウジング部材11の小径円筒部の内周の段差面に当接し、軸方向外側の軸受13の外輪が第2ハウジング部材11のおねじ部11aにねじ結合する予圧部材15に当接する状態で組み込まれている。予圧部材15は内向きフランジの内周部から軸方向内側に突出する環状突部15aで軸方向外側の軸受13の外輪に当接しており、この予圧部材15のねじ込みによって2つの軸受13に予圧が掛けられている。これにより、各軸受13の回転トルクを増加させて、入力側部材の回転にブレーキを掛ける制動機構8が構成されている。
【0025】
また、第1ハウジング部材10の蓋部10aとスペーサ5の一端に設けられた内向きフランジ状の連結部5aとに軸方向で挟まれる位置には、後述するようにオルダムジョイント7の一部を構成する円板状の連結部材16が配されている。
【0026】
オルダムジョイント7は、連結部材16とスペーサ5の連結部5aの互いの軸方向対向面に、スペーサ5の径方向に延びて互いに摺動可能に嵌合する第1の凹凸嵌合部を設けるとともに、連結部材16と第1ハウジング部材10の蓋部10aの互いの軸方向対向面に、第1の凹凸嵌合部と直交する方向に延び、互いに摺動可能に嵌合する第2の凹凸嵌合部を設けたものである。
【0027】
ここで、第1の凹凸嵌合部は、スペーサ5の連結部5aの外側面(連結部材16との軸方向対向面)に径方向に延びるように形成された凹部5bと、連結部材16の内側面(スペーサ5の連結部5aとの軸方向対向面)に形成され、スペーサ5の凹部5bに摺動可能に嵌まり込む凸部16aとからなる。
【0028】
また、第2の凹凸嵌合部は、連結部材16の内側面の凸部16aと直交する方向に延びるように連結部材16の外側面(第1ハウジング部材10の蓋部10aとの軸方向対向面)に形成された凸部16bと、第1ハウジング部材10の蓋部10aの内側面(連結部材16との軸方向対向面)に形成され、連結部材16の凸部16bが摺動可能に嵌まり込む凹部10cとからなる。
【0029】
このオルダムジョイント7により、スペーサ5が前述のようにハウジング6に対して自転不能かつ公転旋回可能に支持されている。なお、スペーサ5の連結部5aおよび連結部材16にはそれぞれ出力軸3を通す中心孔5c、16cがあけられており、その孔5c、16cは、いずれもスペーサ5が公転旋回すると同時に連結部材16が平行移動するときに出力軸3と干渉しない大きさに形成されている。
【0030】
ロック解除機構9は、入力軸1の外周面から出力軸3の他端部に向かって径方向に貫通するねじ孔1aを周方向に複数設け、各ねじ孔1aにねじ込まれたねじ17を締め込んで出力軸3に押し付けることにより(
図4参照)、入力側部材と出力側部材とを一体回転可能に連結して、後述するように出力軸3に逆入力トルクが加えられたときに、出力軸3をロックさせないようにするものである。ただし、通常は、
図1に示すように、ねじ17が出力軸3と接触しておらず(ロック解除機構9は作用しておらず)、入力側部材と出力側部材は連結されていない。
【0031】
この逆入力遮断クラッチは、上記の構成であり、小型のローラやばねを複数組み込んだ従来のロック式のものに比べて、部品点数が少なく、製作および組立を容易に行える。
【0032】
次に、この逆入力遮断クラッチの動作について説明する。まず、入力側部材と出力側部材が連結されていない通常時において、
図3(a)の状態から入力軸1に左回りの入力トルクが加えられたときには、
図3(b)に示すように、入力軸1から偶力を受けたカム受け2がその偏心穴2aに摺動可能に嵌め込まれたスペーサ5を押圧し、スペーサ5がオルダムジョイント7を構成している連結部材16に案内されて上方へ移動すると同時に、連結部材16が第1ハウジング部材10の蓋部10aに案内されて左方へ移動することにより、スペーサ5がハウジング6に対して自転することなく左回りに公転旋回する。そして、このスペーサ5の公転旋回にともなって、スペーサ5内周に摺動可能に嵌めこまれた偏心カム4が偏心回転し、偏心カム4と一体の出力軸3が回転する。
【0033】
一方、出力軸3に逆入力トルクが加えられたときには、出力軸3と一体の偏心カム4がスペーサ5を介してカム受け2を押圧するが、その押圧力は偶力ではなく、カム受け2およびスペーサ5に並進力が作用するため、オルダムジョイント7の連結部材16は摺動できず、スペーサ5が公転旋回運動を規制される。
【0034】
また、このとき、出力側部材(出力軸3および偏心カム4)に接触するように組み込まれた入力軸1は、出力側部材から出力側部材と共回りする方向に摩擦力を受けるが、その摩擦力よりも制動機構8のブレーキ力の方が大きくなるように2つの転がり軸受13の予圧を調整しておくことにより、その摩擦力による出力側部材と入力側部材の共回りも防止することができる。
【0035】
すなわち、この逆入力遮断クラッチでは、逆入力トルクに対して、スペーサ5の公転旋回運動を規制する作用と制動機構8のブレーキ力によって、出力軸3を確実にロックできるようになっている。
【0036】
ここで、入力側部材は入力トルクに対してハウジング6と摺動することなく、転がり軸受13に支持されて滑らかに回転し、転がり軸受13に掛かる予圧力は使用中に変化しないので、入力側部材の回転に対するブレーキ力は一定に保たれる。
【0037】
したがって、この逆入力遮断クラッチは、前述の
図7および
図8の構造のもので問題となる、入力側部材およびハウジング6の摩耗によるロック不良が生じるおそれがなく、長期間にわたって安定したロック動作を行うことができ、モータ駆動によって入力軸1が高速回転する使用条件にも対応可能なものとなっている。
【0038】
また、非常時等で、出力側から入力側を動かすことが必要となったときは、
図4に示すように、図示省略したドライバーでロック解除機構9のねじ17を締め込み、ねじ17の先端部を出力軸3の他端部の外周面に押し付けて入力側部材と出力側部材とを連結することにより、出力軸3に逆入力トルクを加えて出力側部材を入力側部材と一体に回転させることもできる。なお、ねじ17は六角穴つきのものとし、六角レンチで操作するようにしてもよい。
【0039】
したがって、例えば、この逆入力遮断クラッチを組み込んだ装置が停電等によって非常停止した場合、上記のようにロック解除機構9で入力側部材と出力側部材とを連結し、手動で逆入力トルクを加えて出力側部材と入力側部材を回転させることにより、装置を再起動に適した位置まで移動させて、再起動時の作業を効率よく行えるようにすることができる。
【0040】
図5および
図6は第2実施形態を示す。この実施形態は、第1実施形態をベースとし、制動機構とそれに関連する部材の構成を変更したものである。以下、第1実施形態との相違点について説明する。
【0041】
この第2実施形態では、入力軸1は、ロック解除機構9用のねじ孔1aよりも軸方向内側の外周におねじ部1bが形成され、フランジ部の外周部には軸方向外側に延びる円筒状の位置決め部1cが設けられている。
【0042】
また、ハウジング18は、第1実施形態の第1ハウジング部材10の円筒部を他端側へ延長した形状のもので、その蓋部18aの外周に形成された突片18bの貫通孔を利用して、図示省略した外部部材へ取り付けられるようになっている。また、蓋部18aの内側面に連結部材16の凸部16bが摺動可能に嵌まり込む凹部18cが形成され、円筒部の他端部の内周にめねじ部18dが形成されている。
【0043】
そして、制動機構19は、ハウジング18のめねじ部18dにねじ結合する蓋状の位置決め部材20と、位置決め部材20の内周から軸方向内側に延びる円筒部を径方向で挟むように配置される外内2つの転がり軸受21、22と、入力軸1のおねじ部1bにねじ結合する断面L字状の予圧部材23とで構成されている。
【0044】
その径方向外側の軸受21は、外輪が入力軸1の位置決め部1cの内周の段差面に当接し、内輪が位置決め部材20の円筒部の外周の段差面に当接して位置決めされている。一方、径方向内側の軸受22は、外輪が位置決め部材20の円筒部の一端から張り出す内向きフランジ部20aに当接し、内輪が予圧部材23に当接して位置決めされている。そして、予圧部材23のねじ込みによって、径方向内側の軸受22に予圧が負荷されるとともに、径方向内側の軸受22および位置決め部材20を介して径方向外側の軸受21に予圧が負荷されている。
【0045】
この第2実施形態の逆入力遮断クラッチは、第1実施形態と同様の作用効果が得られるうえ、上述のように制動機構19を構成する2つの転がり軸受21、22を径方向に並べて組み込んでいるので、第1実施形態が制動機構8の2つの転がり軸受13を軸方向に並べて組み込んでいるのに比べて、クラッチ全体を軸方向にコンパクト化できるという利点がある。
【0046】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0047】
例えば、ロック解除機構は、上述した各実施形態のもののほかにも、入力側部材と出力側部材を一体回転可能に連結する種々の構成のものを採用することができる。
【0048】
また、旋回支持機構も、各実施形態のオルダムジョイントに限らず、スペーサとハウジング等の固定部材との間でスペーサを自転不能かつ公転旋回可能に支持する機能を有しているものであればよい。
【符号の説明】
【0049】
1 入力軸
2 カム受け
2a 偏心穴
3 出力軸
4 偏心カム
5 スペーサ
6、18 ハウジング(固定部材)
7 オルダムジョイント(旋回支持機構)
8、19 制動機構
9 ロック解除機構
12、13、21、22 転がり軸受
14 間座
15、23 予圧部材
16 連結部材
17 ねじ
20 位置決め部材