(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020937
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】オートテンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/12 20060101AFI20250205BHJP
【FI】
F16H7/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124579
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】中村 龍
(72)【発明者】
【氏名】田中 唯久
【テーマコード(参考)】
3J049
【Fターム(参考)】
3J049AA01
3J049BB05
3J049BB15
3J049BB23
3J049BC03
3J049CA02
3J049CA03
(57)【要約】
【課題】最適なベルト張力と高い追従性を確保することができるとともに、耐久性に優れたオートテンショナを提供する。
【解決手段】第一および第二のプーリアーム9、10と、各プーリアーム9、10を揺動可能に支持する揺動支点軸11と、両プーリアーム9、10を付勢する弾性部材22と、各プーリアーム9、10に対し、揺動抵抗を生じさせる揺動抵抗部材33、34と、を有し、揺動抵抗部材33、34がC字形の円弧部35a、35bを有する弾性素材からなり、その円弧部35a、35bの径方向幅が、その両端部よりも中央部において大きく形成された構成とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補機ベルト(6)に接触する第一のアイドラプーリ(7)を支持する第一のプーリアーム(9)と、
前記補機ベルト(6)に接触する第二のアイドラプーリ(8)を支持する第二のプーリアーム(10)と、
前記第一のプーリアーム(9)および前記第二のプーリアーム(10)を揺動可能に支持する揺動支点軸(11)と、
前記第一のアイドラプーリ(7)と前記第二のアイドラプーリ(8)が互いに接近するように前記第一のプーリアーム(9)に対して前記第二のプーリアーム(10)を付勢する弾性部材(22)と、
前記第一のプーリアーム(9)および前記第二のプーリアーム(10)に対し、それぞれの揺動方向の一方向にのみ揺動抵抗を生じさせる揺動抵抗部材(33、34)と、
を有し、
前記揺動抵抗部材(33、34)がC字形の円弧部(35a、35b)を有する弾性素材からなり、その円弧部(35a、35b)の径方向幅が、その両端部よりも中央部において大きく形成されているオートテンショナ。
【請求項2】
前記揺動抵抗部材(33、34)の前記円弧部(35a、35b)の一端側が前記揺動支点軸(11)に係止される一方で、他端側が前記第一のプーリアーム(9)または前記第二のプーリアーム(10)に形成された受け部(17a、17b)に設けられており、前記第一のプーリアーム(9)および前記第二のプーリアーム(10)が前記一方向に揺動した際に、前記他端側が前記受け部(17a、17b)に係合して前記揺動抵抗部材(33、34)が弾性変形することによって、前記第一のプーリアーム(9)および前記第二のプーリアーム(10)に揺動抵抗を生じさせるように構成されている請求項1に記載のオートテンショナ。
【請求項3】
前記両端部における最小径方向幅(wmin)に対する前記中央部における最大径方向幅(wmax)の比率(wmax/wmin)が、1.2以上3.0以下の範囲内である請求項1に記載のオートテンショナ。
【請求項4】
前記円弧部(35a、35b)の軸方向の肉厚(t)に対する前記最小径方向幅(wmin)の比率(wmin/t)が、0.6以上2.0以下の範囲内である請求項3に記載のオートテンショナ。
【請求項5】
前記円弧部(35a、35b)が、その内縁を構成する内縁円弧(36)とその外縁を構成する外縁円弧(37)を有しており、前記外縁円弧(37)の中心(c2)が、前記内縁円弧(36)の中心(c1)と前記中央部とを結ぶ線上にあって、かつ、前記内縁円弧(36)の中心から前記中央部側に向かって偏心している請求項1から4のいずれか1項に記載のオートテンショナ。
【請求項6】
前記円弧部(35a、35b)の内縁または外縁の少なくとも一方が円弧以外の曲線から構成されており、前記中央部において前記内縁と前記外縁との間の最短距離が最大となっている請求項1から4のいずれか1項に記載のオートテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車用エンジンの補機駆動用のベルトシステムやタイミングベルトなどに用いられるオートテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用エンジンの補機駆動用のベルトシステムにおいては、従来のオルタネータの機能に加えて、アイドリングストップ後のエンジン再始動や、走行中のエンジン動力アシストを行うベルトスタータジェネレータ(Belt Starter Generator、以下BSGと略称する。)を搭載するマイルドハイブリッド車が増えている。この補機駆動用のベルトシステムは、エンジンのクランク軸に設けられるクランクプーリと、BSGの駆動軸に設けられるプーリ(以下、BSGプーリと称する。)との間に跨るように掛け渡された補機ベルト(以下、ベルトと称する。)によって動力を伝達するベルト伝動装置を有する。
【0003】
このベルト伝動装置は、クランクプーリが駆動する通常運転時と、BSGプーリが駆動するアイドリングストップ後のエンジン再始動時や走行中の駆動アシスト時とで、ベルトの張り側と弛み側が入れ替わるという特徴を有する。
【0004】
すなわち、BSGが発電機として作動する通常運転時は、クランクプーリがベルトを介してBSGプーリを駆動するので、BSGプーリからクランクプーリに向かって走行するベルトの部分が張り側となり、クランクプーリからBSGプーリに向かって走行するベルトの部分が弛み側となる。その一方で、BSGによるアイドリングストップ後のエンジン再始動時や、走行中の駆動アシスト時には、BSGプーリがベルトを介してクランクプーリを駆動するので、クランクプーリからBSGプーリに向かって走行するベルトの部分が張り側となり、BSGプーリからクランクプーリに向かって走行するベルトの部分が弛み側となる。
【0005】
このようなベルトの弛みを防止してベルト張力を適正に調整するために、例えば特許文献1に示すオートテンショナでは、BSGプーリの両側のベルトスパンにそれぞれオートテンショナのプーリを配置し、このプーリ同士を中間部材で相対移動可能に連結して互いのプーリを連動させることによって、通常運転時とアイドリングストップ後のエンジン再始動時などのベルト張力を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示すBSGプーリの両側のベルトスパンの張力を2個のプーリを連動させて調整するオートテンショナでは、エンジンの回転変動に伴うベルトの張力変動に応じて、オートテンショナ全体の揺動と付勢力によってベルト張力を調整する。ところが、ベルトの張力変動が大きくなると、オートテンショナ全体の揺動が大きくなり、振動や係止機構への接触による異音が生じたり、ベルトとプーリが離れてしまい、ベルトに張力を付与することができなくなったりするおそれがある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、通常運転時と、アイドリングストップ後のエンジン再始動時などに最適なベルト張力を付与することができ、かつ、プーリアームの過大な揺動を抑制して高い追従性を確保することができるとともに、繰り返しの揺動に対する耐久性に優れたオートテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明では、
補機ベルトに接触する第一のアイドラプーリを支持する第一のプーリアームと、
前記補機ベルトに接触する第二のアイドラプーリを支持する第二のプーリアームと、
前記第一のプーリアームおよび前記第二のプーリアームを揺動可能に支持する揺動支点軸と、
前記第一のアイドラプーリと前記第二のアイドラプーリが互いに接近するように前記第一のプーリアームに対して前記第二のプーリアームを付勢する弾性部材と、
前記第一のプーリアームおよび前記第二のプーリアームに対し、それぞれの揺動方向の一方向にのみ揺動抵抗を生じさせる揺動抵抗部材と、
を有し、
前記揺動抵抗部材がC字形の円弧部を有する弾性素材からなり、その円弧部の径方向幅が、その両端部よりも中央部において大きく形成されているオートテンショナを構成した。
【0010】
このようにすると、揺動抵抗部材による一方向への揺動抵抗によって、通常運転時と、アイドリングストップ後のエンジン再始動時などのいずれの場合も最適なベルト張力を付与することができ、かつ、プーリアームの過大な揺動を抑制して補機ベルトへの高い追従性を確保することができる。しかも、揺動抵抗部材の円弧部の径方向幅が、その両端部よりも中央部において大きく形成されていることから、この揺動抵抗部材に繰り返しの揺動に伴う応力集中が生じるのを低減することができ、耐久性に優れたオートテンショナを提供することができる。
【0011】
前記構成においては、
前記揺動抵抗部材の前記円弧部の一端側が前記揺動支点軸に係止される一方で、他端側が前記第一のプーリアームまたは前記第二のプーリアームに形成された受け部に設けられており、前記第一のプーリアームおよび前記第二のプーリアームが前記一方向に揺動した際に、前記他端側が前記受け部に係合して前記揺動抵抗部材が弾性変形することによって、前記第一のプーリアームおよび前記第二のプーリアームに揺動抵抗を生じさせるように構成するのが好ましい。
【0012】
このようにすると、各プーリアームが前記一方向に揺動した際に、揺動抵抗部材からの揺動抵抗を各プーリアームに確実に作用させることができる。
【0013】
前記構成においては、
前記両端部における最小径方向幅に対する前記中央部における最大径方向幅の比率wmax/wminが、1.2以上3.0以下の範囲内である構成とするのが好ましい。
【0014】
このようにすると、揺動抵抗部材に要求される必要な拡径量と揺動抵抗力の両立を図ることができる。この比率wmax/wminが1.2よりも小さいと、揺動抵抗部材に揺動抵抗を生じさせたときに円弧部の中央部に応力集中が生じやすく、その最大応力が疲労限度を超えるおそれがある。また、この比率wmax/wminが3.0を超えると、所定の拡径量を得るために大きな外力を作用させる必要があり、最大径方向幅とした円弧部の中央部における最大応力が大きくなり、その最大応力が疲労限度を超えるおそれがある。
【0015】
前記比率wmax/wminの適切な範囲を定めた構成においては、
前記円弧部の軸方向の肉厚tに対する前記最小径方向幅wminの比率wmin/tが、0.6以上2.0以下の範囲内である構成とするのが好ましい。
【0016】
このようにすると、母材の打ち抜きプレス加工によって揺動抵抗部材をスムーズに形成することができる。この比率wmin/tが0.6よりも小さいときはプレス加工で成形が困難となり、2.0よりも大きいときは加工時に大きな荷重を必要とするので金型寿命が短くなるおそれがある。このように、いずれの場合においても、揺動抵抗部材のスムーズな打ち抜きプレス加工に支障をきたすおそれがある。
【0017】
前記のすべての構成においては、
前記円弧部が、その内縁を構成する内縁円弧とその外縁を構成する外縁円弧を有しており、前記外縁円弧の中心が、前記内縁円弧の中心と前記中央部とを結ぶ線上にあって、かつ、前記内縁円弧の中心から前記中央部側に向かって偏心している構成とすることができる。あるいは、前記円弧部の内縁または外縁の少なくとも一方が円弧以外の曲線から構成されており、前記中央部において前記内縁と前記外縁との間の最短距離が最大となっている構成とすることもできる。
【0018】
このようにすると、内縁円弧および外縁円弧の位置と形状の組み合わせによって、円弧部の両端部における一端が最小径方向幅、かつ、中央部が最大径方向幅となるように、揺動抵抗部材を構成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のオートテンショナは、揺動支点軸周りに揺動するプーリアームに、このプーリアームの揺動方向の一方向にのみ揺動抵抗を生じさせる揺動抵抗部材を設け、かつ、この揺動抵抗部材の円弧部の径方向幅をその両端部よりも中央部において大きく形成したので、通常運転時と、アイドリングストップ後のエンジン再始動時などに最適なベルト張力を付与することができ、かつ、プーリアームの過大な揺動を抑制して高い追従性を確保することができるとともに、繰り返しの揺動に対する耐久性に優れたオートテンショナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係るオートテンショナを用いた補機駆動システムの一例を示す正面図
【
図2】
図1に示すオートテンショナの一部を切り欠いた正面図
【
図7】
図1に示すオートテンショナに用いられる揺動抵抗部材の正面図
【
図8】(a)は通常運転時におけるオートテンショナの作用を示す正面図、(b)は第二のプーリアームの要部の断面図、(c)は第一のプーリアームの要部の断面図
【
図9】(a)はBSG動作時におけるオートテンショナの作用を示す正面図、(b)は第一のプーリアームの要部の断面図、(c)は第二のプーリアームの要部の断面図
【
図10】揺動抵抗部材に作用する最大応力を模式的に示す図
【
図11】
図7に示す揺動抵抗部材の変形例を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るオートテンショナ1を用いた補機駆動システムの一例を
図1および
図2に示す。この補機駆動システムは、ベルトスタータジェネレータ(Belt Starter Generator、以下BSGと略称する。)のBSG駆動軸2(補機駆動軸)に取り付けられたBSGプーリ3と、クランク軸4に取り付けられたクランクプーリ5と、BSGプーリ3とクランクプーリ5との間に跨るように掛け渡された補機ベルト6(以下、単にベルト6と略称する。)と、ベルト6の張力を適正範囲に保つオートテンショナ1とを有する。
【0022】
オートテンショナ1は、
図3から
図6に示すように、第一のアイドラプーリ7と、第二のアイドラプーリ8と、第一のアイドラプーリ7を支持する第一のプーリアーム9と、第二のアイドラプーリ8を支持する第二のプーリアーム10と、第一のプーリアーム9および第二のプーリアーム10を揺動可能に支持する揺動支点軸11とを有する。なお、
図3においては、ベルト6の記載を省略している。
【0023】
第一のアイドラプーリ7は、クランクプーリ5からBSGプーリ3に向かって走行するベルト6の部分の外周面に接触している。また、第二のアイドラプーリ8は、BSGプーリ3からクランクプーリ5に向かって走行するベルト6の部分の外周面に接触している。両プーリアーム9、10を支持する揺動支点軸11の軸心は、クランク軸4の軸心とBSG駆動軸2の軸心とを結ぶ線上に配置されている。
【0024】
第一のプーリアーム9と第二のプーリアーム10は、基部12a、12b(以下、第一のプーリアーム9側の要素にaを付し、第二のプーリアーム10側の要素にbを付する。)と、基部12a、12bから径方向外向きに延設された延設片13a、13bとを有している。第一のプーリアーム9と第二のプーリアーム10は、それぞれの基部12a、12bが軸方向に並び、かつ、それぞれの延設片13a、13bが周方向の異なる位置となるように配置される。
【0025】
基部12a、12bは、同心に配置された円筒状の小径筒部14a、14bと大径筒部15a、15bから構成されている。小径筒部14a、14bと大径筒部15a、15bの軸方向の一端部は径方向に延びるフランジ16a、16bで連結されている。小径筒部14a、14bの円筒の周方向の一部(プーリアーム9、10の内径面)には、扇形の凹部状の受け部17a、17bが形成されている。この実施形態においては受け部17a、17bの中心角を約50度としたが、例えば20度以上80度以下の範囲内で適宜変更することもできる。大径筒部15a、15bの円筒の周方向の一部にはスリット18a、18bが形成されている。受け部17a、17bとスリット18a、18bは、周方向において互いにずれた位置に形成されている。小径筒部14a、14bの内径側には、滑り軸受19a、19bが圧入されている。
【0026】
延設片13a、13bの先端には、第一のアイドラプーリ7および第二のアイドラプーリ8の回転軸20a、20bを通すための貫通穴21a、21bが形成されている。第一のプーリアーム9および第二のプーリアーム10の長さは、第一のアイドラプーリ7の揺動半径(揺動支点軸11の軸心位置から第一のアイドラプーリ7とベルト6との接触点までの距離)と、第二のアイドラプーリ8の揺動半径(揺動支点軸11の軸心位置から第二のアイドラプーリ8とベルト6との接触点までの距離)が同一となるように決められている。なお、ここでいう同一とは、完全な同一だけでなく、ベルト6の張力に大きな影響を与えない限りにおいて多少の相違を有する場合も含む。
【0027】
第一のプーリアーム9および第二のプーリアーム10の小径筒部14a、14bと大径筒部15a、15bとの間の径方向隙間には、両プーリアーム9、10に跨るように共通の弾性部材22が設けられる。この弾性部材22は、鋼製のコイルばねである。この弾性部材22の両端は、径方向外向きに屈曲した屈曲片23a、23bとなっている。一端側の屈曲片23aは、第一のプーリアーム9の大径筒部15aに形成されたスリット18aに、他端側の屈曲片23bは、第二のプーリアーム10の大径筒部15bに形成されたスリット18bにそれぞれ係止される。この弾性部材22によって、補機駆動システムへの取り付け状態において、第一のアイドラプーリ7と第二のアイドラプーリ8が互いに接近するように第一のプーリアーム9に対して第二のプーリアーム10が付勢される。
【0028】
揺動支点軸11は、第一のプーリアーム9と第二のプーリアーム10を揺動可能に支持している。揺動支点軸11は、第一の支点軸24と、第二の支点軸25と、第一の支点軸24と第二の支点軸25を圧入することによって接続する主軸26とを有している。第一の支点軸24および第二の支点軸25はいずれも筒状の部材であって、主軸26に臨む端部には、外径が他所よりも小さい縮径部27a、27bが形成されている。また、第一の支点軸24および第二の支点軸25に形成された縮径部27a、27bとは反対側の軸方向端部には、段差状の圧入段部28a、28bが形成されている。
【0029】
主軸26は筒状の部材であって、その軸方向の中央部には、径方向外向きに起立したフランジ29が周方向の全周に亘って形成されている。また、主軸26の周方向の1箇所には、径方向外向きに起立し軸方向に沿って延びる当接部30が形成されている。主軸26の両端に第一の支点軸24の縮径部27aと第二の支点軸25の縮径部27bをそれぞれ圧入することによって、これらは一体化される。主軸26と一体化された第一の支点軸24および第二の支点軸25の両端に形成された圧入段部28a、28bには、座金31が圧入される。揺動支点軸11の軸心には、このオートテンショナ1をエンジンEなどに固定するためのボルト32が挿通される。
【0030】
第一の支点軸24は、第一のプーリアーム9の小径筒部14aに圧入された滑り軸受19aの内径側に、第二の支点軸25は、第二のプーリアーム10の小径筒部14bに圧入された滑り軸受19bの内径側に、それぞれ配置される。
【0031】
揺動支点軸11には、第一のプーリアーム9および第二のプーリアーム10に対し、それぞれの揺動方向の一方向にのみ揺動抵抗を生じさせる揺動抵抗部材33、34が設けられる。この揺動抵抗部材33、34は、C字形の円弧部35a、35bを有する板状の弾性素材で構成される。
図7に示すように、円弧部35a、35bは、その内縁を構成する内縁円弧36と、その外縁を構成する外縁円弧37を有している。外縁円弧37の中心c2は、内縁円弧36の中心c1と円弧部35a、35bの中央部とを結ぶ線上にあって、かつ、内縁円弧36の中心c1から中央部側に向かって偏心している。
【0032】
円弧部35a、35bの径方向幅は、上記のように外縁円弧37の中心c2を偏心させることによって、その両端部よりも中央部において大きく形成されている。この実施形態では、両端部における最小径方向幅wminに対する中央部における最大径方向幅wmaxの比率wmax/wminは約1.5となっている。この比率wmax/wminは、1.2以上3.0以下の範囲内で適宜変更することができる。
【0033】
また、この実施形態では、円弧部35a、35bの軸方向の肉厚tに対する最小径方向幅wminの比率wmin/tは、約1.6となっている。この比率wmin/tは、0.6以上2.0以下の範囲内で適宜変更することができる。なお、ここでいう中央部とは、内縁円弧36の中心c1に対して、円弧部35a、35bの開口部の反対側に相当する部分付近(開口部の180度位置付近)のことを指し、例えば、開口部の中心角が40度の場合、この開口部の反対側の中心角が60度(開口部の中心角の大きさ±10度)程度のやや広い範囲を含む。
【0034】
円弧部35a、35bの一端側は周方向に沿って終端した終端部38a、38bとなっている一方で、他端側は径方向外向きに屈曲した屈曲部39a、39bとなっている。
【0035】
揺動抵抗部材33、34は、主軸26の外周に形成されたフランジ29の軸方向両側にそれぞれ設けられる。この揺動抵抗部材33、34は、必要とされる揺動抵抗力を発揮させるために複数枚(この実施形態では4枚)重ね合わせることができる(
図6などを参照)。以下においては、第一の支点軸24側に設けられる揺動抵抗部材33を第一の揺動抵抗部材33、第二の支点軸25側に設けられる揺動抵抗部材34を第二の揺動抵抗部材34とそれぞれ称する。
【0036】
第一の揺動抵抗部材33と第二の揺動抵抗部材34は、主軸26に対し逆向きに取り付けられている。すなわち、第一の揺動抵抗部材33の終端部38aは、主軸26に形成された当接部30に対し、周方向の一方向から当接するのに対し、第二の揺動抵抗部材34の終端部38bは、主軸26に形成された当接部30に対し、周方向の逆方向から当接している。第一の揺動抵抗部材33の屈曲部39aは、第一のプーリアーム9の小径筒部14aに形成された受け部17aに、第二の揺動抵抗部材34の屈曲部39bは、第二のプーリアーム10の小径筒部14bに形成された受け部17bにそれぞれ設けられている。
【0037】
第一の揺動抵抗部材33および第二の揺動抵抗部材34に形成された屈曲部39a、39bは、第一のプーリアーム9または第二のプーリアーム10の小径筒部14a、14bに形成された受け部17a、17bの中心角の角度範囲内での移動が許容される。補機駆動システムへの取り付け状態において、各屈曲部39a、39bは、主軸26の当接部30に若干の予圧をもって接触している。
図4および
図5に示すように、第一のプーリアーム9と第二のプーリアーム10では、屈曲部39a、39bが接触する内縁の周方向位置が逆となるが、いずれのプーリアーム9、10においても、屈曲部39a、39bと受け部17a、17bの内縁が接触する周方向一端から受け部17a、17bの周方向他端に向かう方向を「一方向」、一方向とは逆の方向を「逆方向」とそれぞれ称する。この一方向は、ベルト6の張力によって第一のアイドラプーリ7または第二のアイドラプーリ8が押されることによって、第一のプーリアーム9または第二のプーリアーム10が揺動する方向に対応する。
【0038】
図4に示す第一のプーリアーム9を揺動支点軸11に対して一方向(
図4中に矢印で示す方向)に揺動すると、第一のプーリアーム9に形成された受け部17aの内縁と第一の揺動抵抗部材33の屈曲部39aとの接触に伴って、この第一の揺動抵抗部材33が弾性変形する。これにより、第一のプーリアーム9に対して揺動抵抗が作用する。その一方で、第一のプーリアーム9を揺動支点軸11に対して逆方向に揺動すると、第一のプーリアーム9に形成された受け部17aの内縁と第一の揺動抵抗部材33の屈曲部39aとの間が離間し、第一の揺動抵抗部材33からの揺動抵抗を受けることなく、第一のプーリアーム9を前記逆方向に揺動することができる。
【0039】
また、
図5に示す第二のプーリアーム10を揺動支点軸11に対して一方向(
図5中に矢印で示す方向)に揺動すると、第二のプーリアーム10に形成された受け部17bの内縁と第二の揺動抵抗部材34の屈曲部39bとの接触に伴って、この第二の揺動抵抗部材34が弾性変形する。これにより、第二のプーリアーム10に対して揺動抵抗が作用する。その一方で、第二のプーリアーム10を揺動支点軸11に対して逆方向に揺動すると、第二のプーリアーム10に形成された受け部17bの内縁と第二の揺動抵抗部材34の屈曲部39bとの間が離間し、第二の揺動抵抗部材34からの揺動抵抗を受けることなく、第二のプーリアーム10を前記逆方向に揺動することができる。
【0040】
このオートテンショナ1の動作例を
図1、
図8および
図9を用いて説明する。エンジンが停止しているときは、
図1に示すように、BSGプーリ3とクランクプーリ5は、いずれも停止した状態となっている。このとき、第一のアイドラプーリ7および第二のアイドラプーリ8からベルト6に作用する付勢力によって、両アイドラプーリ7、8が接触するベルト6のベルト張力は釣り合った状態となっている。
【0041】
図8(a)に示す通常運転時(BSGにおける発電時)においては、クランクプーリ5がベルト6を介してBSGプーリ3を駆動し、BSGプーリ3からクランクプーリ5に向かって走行するベルト6の部分が張り側となり、クランクプーリ5からBSGプーリ3に向かって走行するベルト6の部分が弛み側となる。すると、第二のプーリアーム10が、ベルト6からの張力を受けて一方向(
図8(a)中の矢印r2を参照)に揺動する。このとき、
図8(b)に示すように、第二の揺動抵抗部材34の弾性変形によって、第二のプーリアーム10に揺動抵抗が作用するため、この第二のプーリアーム10の揺動が抑制される。その一方で、第一のプーリアーム9は、ベルト6の弛みに対応するように逆方向(
図8(a)中の矢印r1を参照)に揺動する。このとき、
図8(c)に示すように、第一の揺動抵抗部材33から第一のプーリアーム9に対して揺動抵抗は生じないため、弾性部材22の付勢力によって、第一のプーリアーム9はベルト6を付勢する方向にスムーズに揺動する。
【0042】
図9(a)に示すBSG動作時(アイドリングストップ後のエンジン再始動時や、エンジンの駆動力のアシスト時など)においては、BSGプーリ3がベルト6を介してクランクプーリ5を駆動し、クランクプーリ5からBSGプーリ3に向かって走行するベルト6の部分が張り側となり、BSGプーリ3からクランクプーリ5に向かって走行するベルト6の部分が弛み側となる。すると、第一のプーリアーム9が、ベルト6からの張力を受けて一方向(
図9(a)中の矢印r1を参照)に揺動する。このとき、
図9(b)に示すように、第一の揺動抵抗部材33の弾性変形によって、第一のプーリアーム9に揺動抵抗が作用するため、この第一のプーリアーム9の揺動が抑制される。その一方で、第二のプーリアーム10は、ベルト6の弛みに対応するように逆方向(
図9(a)中の矢印r2を参照)に揺動する。このとき、
図9(c)に示すように、第二の揺動抵抗部材34から第二のプーリアーム10に対して揺動抵抗は作用しないため、弾性部材22の付勢力によって、第二のプーリアーム10はベルト6を付勢する方向にスムーズに揺動する。
【0043】
上記の通常運転時およびBSG動作時においては、各揺動抵抗部材33、34が頻繁に拡縮径を繰り返す。この拡縮径の際に、揺動抵抗部材33、34の円弧部35a、35bの中央部近傍に応力集中が生じ、この応力集中の最大応力の値が疲労限度の応力を超えると、揺動抵抗部材33、34の寿命が急激に低下するおそれがある。
【0044】
この最大応力の値は、円弧部35a、35bの両端部における最小径方向幅w
minに対する中央部における最大径方向幅w
maxの比率w
max/w
minが大きくなるほど小さくなる傾向がある。例えば
図10中に破線の曲線で示すように、揺動抵抗部材33、34の円弧部35a、35bの径方向幅がその両端部から中央部に亘って一定の場合(破線の曲線上の最も左の点を参照)、揺動抵抗部材33、34に要求される所定の揺動抵抗力(トルク)(例えば、10N・m)を生じさせるときに大きな応力集中が生じ、揺動抵抗部材33、34に発生する最大応力が疲労限度の応力を上回る。これに対し、その比率w
max/w
minを大きくすると、応力集中の程度が低下して、揺動抵抗部材33、34に発生する最大応力が疲労限度の応力を下回るようになる。
【0045】
その一方で、例えば
図10中に実線の曲線で示すように、揺動抵抗部材33、34を所定の角度(例えば10度)だけ拡径させるときにこの揺動抵抗部材33、34に発生する最大応力は、両端部における最小径方向幅w
minに対する中央部における最大径方向幅w
maxの比率w
max/w
minが大きくなるほど大きくなり、やがて疲労限度の応力を上回る。
【0046】
すなわち、揺動抵抗部材33、34に要求される所定の揺動抵抗力を発生しつつ、所定の拡径量を得るための比率w
max/w
minには最適とされる範囲があり、上記の構成においては、1.2以上3.0以下の範囲内(
図10に示す適切範囲)とするのが適切であることが明らかとなった。
【0047】
上記のオートテンショナ1においては、通常運転時またはBSG動作時におけるベルト6の張力によって、ベルト6からアイドラプーリ7、8が離れるようにプーリアーム9、10が揺動する場合においても、揺動抵抗部材33、34の揺動抵抗によってその揺動が抑制される。このため、通常運転時またはBSG動作時のいずれの場合においても最適なベルト張力を付与することができるとともに、プーリアーム9、10の過大な揺動を抑制してベルト6への追従性を高めることができる。
【0048】
また、上記のオートテンショナ1においては、揺動抵抗部材33、34が、第一のプーリアーム9および第二のプーリアーム10のそれぞれに設けられているので、通常運転時とアイドリングストップ後のエンジン再始動時などのいずれの場合においても、ベルト張力を適切に保つことができる。なお、一方のプーリアーム9、10のみに揺動抵抗部材33、34を設けた構成とすることもできる。
【0049】
また、上記のオートテンショナ1においては、揺動抵抗部材33、34をC字形の円弧部35a、35bを有する弾性素材で構成したので、コンパクトな構成で揺動支点軸11からプーリアーム9、10に対して揺動抵抗を付与することができる。しかも、揺動抵抗部材33、34に屈曲部39a、39bを形成し、この屈曲部39a、39bがプーリアーム9、10に形成された扇形の凹部からなる受け部17a、17bに設けられた構成とし、プーリアーム9、10の揺動方向の一方向にのみ揺動抵抗が生じるようにしたので、オートテンショナ1全体の過剰な揺動を抑制しつつ、ベルト6の弛みに対して瞬時に追従することができ、ベルト張力を適正に保持することができる。
【0050】
しかも、揺動抵抗部材33、34のC字形の円弧部35a、35bの径方向幅をその両端部よりも中央部で大きくしたので、この揺動抵抗部材に発生する最大応力を疲労限度の応力を下回る値に抑えることができる。このため、繰り返しの揺動に対する耐久性に優れたオートテンショナ1を提供することができる。特に、円弧部35a、35bの両端部における最小径方向幅wminに対する中央部における最大径方向幅wmaxの比率wmax/wminを1.2以上3.0以下の範囲内としたので、最大応力が疲労限度の応力を上回るのを確実に防止することができる。
【0051】
また、上記のオートテンショナ1においては、円弧部35a、35bの軸方向の肉厚tに対する最小径方向幅wminの比率wmin/tを0.6以上2.0以下の範囲内としたので、打ち抜きプレス加工によって揺動抵抗部材33、34を容易に形成することができる。
【0052】
また、上記のオートテンショナ1においては、円弧部35a、35bの外縁円弧37の中心C2が、内縁円弧36の中心C1と円弧部35a、35bの中央部とを結ぶ線上にあって、かつ、内縁円弧36の中心c1から中央部側に向かって偏心している構成としたので、内縁円弧36と外縁円弧37の位置と形状の組み合わせによって、円弧部35a、35bの両端部が最小径方向幅wmin、かつ、中央部が最大径方向幅wmaxとなるように、揺動抵抗部材33、34を構成することができる。
【0053】
揺動抵抗部材33、34の変形例を
図11に示す。この揺動抵抗部材33、34は、
図7に示した構成と同様に、C字形の円弧部35a、35bを有する板状の弾性素材で構成され、円弧部35a、35bが、その内縁を構成する内縁円弧36と、その外縁を構成する外縁円弧37を有している点で共通する。その一方で、円弧部35a、35bの内縁または外縁の少なくとも一方が円弧以外の曲線から構成されており、前記中央部において前記内縁と前記外縁との間の最短距離が最大となっている点で相違している。
【0054】
具体的には、円弧部35a、35bの内縁を内縁円弧36で構成し、外縁を外縁楕円弧40で構成している。内縁円弧36と外縁楕円弧40の中心c1、c3は一致している。外縁楕円弧40の長軸の向きは、円弧部35a、35bの開口部と中央部を結ぶ直線に一致している。この場合も円弧部35a、35bの内縁および外縁を円弧で構成したときと同様に、内縁円弧36と外縁楕円弧40の形状の組み合わせによって、円弧部35a、35bの両端部が最小径方向幅wmin、および、中央部が最大径方向幅wmaxとなるように、揺動抵抗部材33、34を構成することができる。この変形例では、外縁を楕円弧で構成したが、例えば、外縁を放物線とする、内縁を楕円弧とする一方で外縁を円弧とする、内外縁の両方を楕円弧とするなど、種々のパターンから選択できる可能性がある。
【0055】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
2 BSG駆動軸(補機駆動軸)
3 BSGプーリ(補機プーリ)
4 クランク軸
5 クランクプーリ
6 補機ベルト(ベルト)
7 第一のアイドラプーリ
8 第二のアイドラプーリ
9 第一のプーリアーム
10 第二のプーリアーム
11 揺動支点軸
17a、17b 受け部
22 弾性部材
33 第一の揺動抵抗部材
34 第二の揺動抵抗部材
35a、35b 円弧部
36 内縁円弧
37 外縁円弧
39a、39b 屈曲部
c1 内縁円弧の中心
c2 外縁円弧の中心
wmin 最小径方向幅
wmax 最大径方向幅
t 肉厚