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特開2025-20943圧電薄膜、圧電薄膜素子、及び圧電トランスデューサ
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  • 特開-圧電薄膜、圧電薄膜素子、及び圧電トランスデューサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020943
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】圧電薄膜、圧電薄膜素子、及び圧電トランスデューサ
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/853 20230101AFI20250205BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20250205BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20250205BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20250205BHJP
   H10N 30/06 20230101ALI20250205BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/20
H10N30/30
H10N30/87
H10N30/06
H03H9/17 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124586
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】森下 純平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐介
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA07
5J108BB08
5J108CC11
5J108EE03
5J108EE04
5J108EE07
5J108EE13
(57)【要約】
【課題】圧電特性に優れた圧電薄膜の提供。
【解決手段】圧電薄膜3は、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物を含む。金属酸化物は、ビスマス、カリウム、チタン、マグネシウム、鉄、及び元素Mを含む。元素Mは、ガリウム及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素である。少なくとも一部の金属酸化物は、正方晶及び直方晶からなる群より選ばれる少なくとも一つの結晶である。結晶の(001)面は、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト構造を有する金属酸化物を含む圧電薄膜であって、
前記金属酸化物が、ビスマス、カリウム、チタン、マグネシウム、鉄、及び元素Mを含み、
前記元素Mが、ガリウム及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であり、
少なくとも一部の前記金属酸化物が、正方晶及び直方晶からなる群より選ばれる少なくとも一つの結晶であり、

前記結晶の(001)面が、前記圧電薄膜の表面の法線方向において配向している、
圧電薄膜。
【請求項2】
前記金属酸化物が、下記化学式1で表され、
下記化学式1中のx、y及びzそれぞれが、正の実数であり、
x+y+zが1であり、
下記化学式1中のαが、0より大きく1未満であり、
下記化学式1中のβが、0より大きく1未満であり、
下記化学式1中のγが、0.05以上0.40以下であり、
下記化学式1中のMが、Ga1-δCoδと表され、
δが、0以上1以下である、
請求項1に記載の圧電薄膜。
x(Bi1-αα)TiO‐yBi(Ti1-βMgβ)O‐zBi(Fe1-γγ)O (1)
【請求項3】
三次元の座標系が、X軸、Y軸、及びZ軸から構成され、
前記座標系における任意の座標が、(X,Y,Z)と表され、
前記座標系における座標(x,y,z)は、前記化学式1中のx、y、及びzを示し、
前記座標系における座標Aは、(0.250, 0.005, 0.700)であり、
前記座標系における座標Bは、(0.450, 0.250, 0.300)であり、
前記座標系における座標Cは、(0.200, 0.500, 0.300)であり、
前記座標系における座標Dは、(0.005, 0.250, 0.700)であり、
前記座標(x,y,z)は、頂点が前記座標A、前記座標B、前記座標C、及び前記座標Dである四角形以内に位置する、
請求項2に記載の圧電薄膜。
【請求項4】
エピタキシャル膜である、
請求項1に記載の圧電薄膜。
【請求項5】
強誘電性薄膜である、
請求項1に記載の圧電薄膜。
【請求項6】
請求項1に記載の圧電薄膜を備える、
圧電薄膜素子。
【請求項7】
結晶質基板と、
前記結晶質基板に直接又は間接的に重なる前記圧電薄膜と、
を備える、
請求項6に記載の圧電薄膜素子。
【請求項8】
結晶質基板と、
前記結晶質基板に直接又は間接的に重なる電極層と、
前記電極層に直接又は間接的に重なる前記圧電薄膜と、
を備える、
請求項6に記載の圧電薄膜素子。
【請求項9】
電極層と、
前記電極層に直接又は間接的に重なる前記圧電薄膜と、
を備える、
請求項6に記載の圧電薄膜素子。
【請求項10】
少なくとも一つの中間層を更に備え、
前記中間層が、前記結晶質基板と前記電極層との間に配置されている、
請求項8に記載の圧電薄膜素子。
【請求項11】
少なくとも一つの中間層を更に備え、
前記中間層が、前記電極層と前記圧電薄膜との間に配置されている、
請求項8に記載の圧電薄膜素子。
【請求項12】
少なくとも一つの中間層を更に備え、
前記中間層が、前記電極層と前記圧電薄膜との間に配置されている、
請求項9に記載の圧電薄膜素子。
【請求項13】
前記電極層が、白金の結晶を含み、
前記白金の結晶の(002)面が、前記電極層の表面の法線方向において配向しており、
前記白金の結晶の(200)面が、前記電極層の表面の面内方向において配向している、
請求項8に記載の圧電薄膜素子。
【請求項14】
前記電極層が、白金の結晶を含み、
前記白金の結晶の(002)面が、前記電極層の表面の法線方向において配向しており、
前記白金の結晶の(200)面が、前記電極層の表面の面内方向において配向している、
請求項9に記載の圧電薄膜素子。
【請求項15】
請求項1~5のいずれか一項に記載の圧電薄膜を備える、
圧電トランスデューサ。
【請求項16】
請求項6~14のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子を備える、
圧電トランスデューサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧電薄膜、圧電薄膜素子、及び圧電トランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体は、種々の目的に応じて様々な圧電素子に加工される。例えば、圧電アクチュエータは、圧電体に電圧を加えて圧電体を変形させる逆圧電効果により、電圧を力に変換する。例えば、圧電センサは、圧電体に圧力を加えて圧電体を変形させる圧電効果により、力を電圧に変換する。これらの圧電素子は、様々な電子機器に搭載される。近年の市場では、電子機器の小型化及び性能の向上が要求されるため、圧電薄膜を用いた圧電素子(圧電薄膜素子)が盛んに研究されている。しかしながら、圧電体が薄いほど、圧電効果及び逆圧電効果が得られ難いため、薄膜の状態において優れた圧電特性を有する圧電体の開発が期待されている。
【0003】
従来、圧電体として、ペロブスカイト型強誘電体であるジルコン酸チタン酸鉛(いわゆるPZT)が多用されてきた。しかしながら、PZTは、人体や環境を害する鉛を含むため、PZTの代替として、無鉛(Lead-free)の圧電体の開発が期待されている。例えば、下記の非特許文献1には、無鉛の圧電体の一例として、BaTiO系材料が記載されている。BaTiO系材料は、無鉛の圧電体の中でも比較的優れた圧電特性を有し、圧電薄膜素子への応用が特に期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yiping GUO et al., “ThicknessDependence of Electrical Properties of Highly (100)-Oriented BaTiO3Thin Films Prepared by One-Step Chemical Solution Deposition” Japanese Journalof Applied Physics, Vol.45, No.2A, 2006, pp.855-859
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一側面の目的は、圧電特性に優れた圧電薄膜、当該圧電薄膜を含む圧電薄膜素子、及び圧電薄膜又は圧電薄膜素子を含む圧電トランスデューサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
例えば、本発明の一側面は、下記の[1]~[5]のいずれか一つに記載の圧電薄膜、下記の[6]~[14]のいずれか一つの記載の圧電薄膜素子、及び下記の[15]及び[16]のいずれか一つの記載の圧電トランスデューサに関する。
【0007】
[1] ペロブスカイト構造を有する金属酸化物を含む圧電薄膜であって、
金属酸化物が、ビスマス、カリウム、チタン、マグネシウム、鉄、及び元素Mを含み、
元素Mが、ガリウム及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であり、
少なくとも一部の金属酸化物が、正方晶(tetragonal crystal)及び直方晶(orthorhombic crystal)からなる群より選ばれる少なくとも一つの結晶であり、
結晶の(001)面が、圧電薄膜の表面の法線方向において配向している、
圧電薄膜。
【0008】
[2] 金属酸化物が、下記化学式1で表され、
下記化学式1中のx、y及びzそれぞれが、正の実数であり、
x+y+zが1であり、
下記化学式1中のαが、0より大きく1未満であり、
下記化学式1中のβが、0より大きく1未満であり、
下記化学式1中のγが、0.05以上0.40以下であり、
下記化学式1中のMが、Ga1-δCoδと表され、
δが、0以上1以下である、
[1]に記載の圧電薄膜。
x(Bi1-αα)TiO‐yBi(Ti1-βMgβ)O‐zBi(Fe1-γγ)O (1)
【0009】
[3] 三次元の座標系が、X軸、Y軸、及びZ軸から構成され、
座標系における任意の座標が、(X,Y,Z)と表され、
座標系における座標(x,y,z)は、化学式1中のx、y、及びzを示し、
座標系における座標Aは、(0.250, 0.005, 0.700)であり、
座標系における座標Bは、(0.450, 0.250, 0.300)であり、
座標系における座標Cは、(0.200, 0.500, 0.300)であり、
座標系における座標Dは、(0.005, 0.250, 0.700)であり、
座標(x,y,z)は、頂点が座標A、座標B、座標C、及び座標Dである四角形以内に位置する、
[2]に記載の圧電薄膜。
【0010】
[4] エピタキシャル膜である、
[1]~[3]のいずれか一つに記載の圧電薄膜。
【0011】
[5] 強誘電性薄膜である、
[1]~[4]のいずれか一つに記載の圧電薄膜。
【0012】
[6] [1]~[5]のいずれか一つに記載の圧電薄膜を含む、
圧電薄膜素子。
【0013】
[7] 結晶質基板と、
結晶質基板に直接又は間接的に重なる圧電薄膜と、
を含む、
[6]に記載の圧電薄膜素子。
【0014】
[8] 結晶質基板と、
結晶質基板に直接又は間接的に重なる電極層と、
電極層に直接又は間接的に重なる圧電薄膜と、
を含む、
[6]に記載の圧電薄膜素子。
【0015】
[9] 電極層と、
電極層に直接又は間接的に重なる圧電薄膜と、
を含む、
[6]に記載の圧電薄膜素子。
【0016】
[10] 少なくとも一つの中間層(第一中間層)を更に含み、
中間層(第一中間層)が、結晶質基板と電極層との間に配置されている、
[8]に記載の圧電薄膜素子。
【0017】
[11] 少なくとも一つの中間層(第二中間層)を更に含み、
中間層(第二中間層)が、電極層と圧電薄膜との間に配置されている、
[8]に記載の圧電薄膜素子。
【0018】
[12] 少なくとも一つの中間層(第二中間層)を更に含み、
中間層(第二中間層)が、電極層と圧電薄膜との間に配置されている、
[9]に記載の圧電薄膜素子。
【0019】
[13] 電極層が、白金の結晶を含み、
白金の結晶の(002)面が、電極層の表面の法線方向において配向しており、
白金の結晶の(200)面が、電極層の表面の面内方向において配向している、
[8]又は[11]に記載の圧電薄膜素子。
【0020】
[14] 電極層が、白金の結晶を含み、
白金の結晶の(002)面が、電極層の表面の法線方向において配向しており、
白金の結晶の(200)面が、電極層の表面の面内方向において配向している、
[9]又は[12]に記載の圧電薄膜素子。
【0021】
[15] [1]~[5]のいずれか一つに記載の圧電薄膜を含む、
圧電トランスデューサ。
【0022】
[16] [6]~[14]のいずれか一つに記載の圧電薄膜素子を含む、
圧電トランスデューサ。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一側面によれば、圧電特性に優れた圧電薄膜、当該圧電薄膜を含む圧電薄膜素子、及び圧電薄膜又は圧電薄膜素子を含む圧電トランスデューサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1中の(a)は、本発明の一実施形態に係る圧電薄膜素子の模式的な断面図であり、図1中の(b)は、図1中の(a)に示す圧電薄膜素子の斜視分解図であり、図1中の(b)では基板、第一中間層、第二中間層及び第二電極層が省略されている。
図2図2は、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物の結晶(単位胞)の斜視図であり、ペロブスカイト構造における各元素の配置を示す。
図3図3は、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物の結晶(単位胞)の斜視図であり、結晶の格子面及び結晶方位を示す。
図4図4は、圧電薄膜の組成を示すための三次元の座標系である。
図5図5は、図4に示される三角形に相当する三角座標系である。
図6図6は、本発明の他の一実施形態に係る圧電薄膜素子(超音波トランスデューサ)の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態の詳細が説明される。ただし、本発明は下記実施形態に限定されない。図面において、同一又は同等の要素は、同一の符号が付される。図1中の(a)、図1中の(b)、及び図6に示されるX軸,Y軸及びZ軸は、互いに直交する三つの座標軸である。X軸,Y軸及びZ軸は、図1中の(a)、図1中の(b)及び図6に共通するが、図1中の(a)、図1中の(b)及び図6に示される座標系は、図4及び図5に示される座標系と全く関係ない。
【0026】
(圧電薄膜素子)
本実施形態に係る圧電薄膜素子は、少なくとも圧電薄膜を含む。例えば、図1中の(a)に示されるように、本実施形態に係る圧電薄膜素子10は、結晶質基板1と、結晶質基板1に直接又は間接的に重なる第一電極層2(下部電極層)と、第一電極層2に直接又は間接的に重なる圧電薄膜3と、圧電薄膜3に直接又は間接的に重なる第二電極層4(上部電極層)と、を含んでよい。圧電薄膜素子10は、少なくとも一つの中間層を更に含んでよい。例えば、圧電薄膜素子10は第一中間層5を含んでよい。第一中間層5は結晶質基板1と第一電極層2との間に配置されてよく、第一電極層2は第一中間層5の表面に直接重なっていてよい。圧電薄膜素子10は第二中間層6を含んでよい。第二中間層6は第一電極層2と圧電薄膜3の間に配置されてよく、圧電薄膜3は第二中間層6の表面に直接重なっていてよい。結晶質基板1、第一中間層5、第一電極層2、第二中間層6、圧電薄膜3及び第二電極層4それぞれの厚みは均一であってよい。図1中の(b)に示されるように、圧電薄膜3の表面の法線方向dnは、第一電極層2の表面の法線方向Dと略又は完全に平行であってよい。つまり圧電薄膜3の表面は、第一電極層2の表面に略又は完全に平行であってよい。圧電薄膜3の表面の法線方向dnは、圧電薄膜3の分極方向である。圧電薄膜3の表面の法線方向dnは、圧電薄膜3の厚み方向と言い換えられてよい。
【0027】
圧電薄膜素子10の変形例は、結晶質基板1を含まなくてよい。例えば、第一電極層2、圧電薄膜3及び第二電極層4の形成後、結晶質基板1が除去されてよい。結晶質基板1が電極として機能する場合、結晶質基板1が第一電極層2であってよい。つまり、結晶質基板1が電極として機能する場合、圧電薄膜素子10の変形例は、結晶質基板1と、結晶質基板1に重なる圧電薄膜3と、を含んでよい。結晶質基板1が電極として機能する場合、圧電薄膜3が結晶質基板1に直接重なっていてよい。結晶質基板1が電極として機能する場合、圧電薄膜3が、第一中間層5及び第二中間層6のうち少なくとも一つの中間層を介して結晶質基板1に重なっていてもよい。
【0028】
圧電薄膜3は、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物を含む。金属酸化物は、ビスマス(Bi)、カリウム(K)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、及び元素Mを含む。元素Mは、ガリウム(Ga)及びコバルト(Co)からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素である。上記の組成を有する金属酸化物は、正方晶及び直方晶からなる群より選ばれる少なくとも一つの結晶になり易く、当該結晶の(001)面が、圧電薄膜の表面の法線方向において配向し易い。その結果、圧電薄膜3が優れた圧電特性(大きい圧電歪定数d33,f)と強誘電性を有することができある。
金属酸化物は、Bi、K、Ti、Mg、Fe、元素M、及び酸素(O)のみからなっていてよい。金属酸化物は、Bi、K、Ti、Mg、Fe、元素M、及びOに加えて、他の元素を含んでもよい。金属酸化物は、ランタン(La)、イットリウム(Y)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、及び鉛(Pb)からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を更に含んでよい。ただし、金属酸化物はPbを含まなくてよい。
金属酸化物は、圧電薄膜3の主成分である。圧電薄膜3において金属酸化物を構成する全元素の割合は、99%モル以上100モル%以下であってよい。圧電薄膜3は、金属酸化物のみからなっていてよい。圧電薄膜3の圧電特性が損なわれない限りにおいて、圧電薄膜3は、Bi、K、Ti、Mg、Fe、元素M、及びOに加えて、他の元素を含んでもよい。例えば、圧電薄膜3は、La、Y、Na、Li、Zr、Ni、Zn、Mn、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を更に含んでよい。ただし、圧電薄膜3はPbを含まなくてよい。
【0029】
以下では、ペロブスカイト構造を有する上記金属酸化物が、「ペロブスカイト型酸化物」と表記される。図2は、ペロブスカイト型酸化物の結晶の単位胞を示す。単位胞ucのAサイトに位置する元素は、Bi又はKである。単位胞ucのBサイトに位置する元素は、Ti、Mg、Fe、又は元素Mである。図2に示される単位胞ucは、図3に示される単位胞ucと同じである。ただし、図3では、格子面を示すために、単位胞uc中のBサイト及び酸素(O)が省略されている。単位胞uc中の格子並進ベクトルa(つまりa軸)は、[100]方向を向き、単位胞uc中の格子並進ベクトルb(つまりb軸)は、[010]方向を向き、単位胞uc中の格子並進ベクトルc(つまりc軸)は、[001]方向を向く。格子並進ベクトルa、格子並進ベクトルb、及び格子並進ベクトルcは、互いに垂直である。格子並進ベクトルaの長さaは、ペロブスカイト型酸化物の(100)面の間隔a(格子定数a)である。格子並進ベクトルbの長さbは、ペロブスカイト型酸化物の(010)面の間隔b(格子定数b)である。格子並進ベクトルcの長さcは、ペロブスカイト型酸化物の(001)面の間隔c(格子定数c)である。圧電薄膜3は、ペロブスカイト型酸化物の単結晶からなっていてよい。圧電薄膜3は、ペロブスカイト型酸化物の多結晶からなっていてもよい。
【0030】
常温、又はペロブスカイト型酸化物のキュリー温度以下である温度において、一部又は全てのペロブスカイト型酸化物は、正方晶(tetragonal crystal)及び直方晶(orthorhombic crystal)からなる群より選ばれる少なくとも一つの結晶である。正方晶及び直方晶のいずれのc軸における異方性に因り、圧電薄膜3は優れた圧電特性と強誘電性を有することができる。正方晶において、格子定数aは格子定数bに等しい。正方晶において、格子定数aは格子定数cと異なる。正方晶において、格子定数cは格子定数aよりも大きくてよい。直方晶において、格子定数a、格子定数b、及び格子定数cは互いに異なる。直方晶において、格子定数cは、格子定数a及び格子定数bそれぞれよりも大きくてよい。ペロブスカイト型酸化物は、正方晶のみからなってよい。ペロブスカイト型酸化物は、直方晶のみからなっていてもよい。ペロブスカイト型酸化物は、正方晶及び直方晶のみからなっていてもよい。圧電薄膜3は、正方晶及び直方晶以外の結晶を更に含んでもよい。例えば、圧電薄膜3は、ペロブスカイト型酸化物の立方晶(cubic crystal)及びペロブスカイト型酸化物の菱面体晶(rhombohedral crystal)の一方又は両方を更に含んでもよい。
【0031】
正方晶及び直方晶からなる群より選ばれる少なくとも一つの結晶の(001)面は、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向していている。圧電薄膜3は、複数の結晶を含んでよく、圧電薄膜3中の一部又は全ての結晶の(001)面が、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向していてよい。例えば、結晶(単位胞uc)の(001)面が、法線方向dnに略又は完全に垂直であってよく、結晶(単位胞uc)の[001](格子面の方位)が、法線方向dnと略又は完全に平行であってよい。換言すれば、結晶(単位胞uc)の(001)面が、圧電薄膜3の表面に略又は完全に平行であってよい。上述された組成を有するペロブスカイト型酸化物が分極し易い結晶方位は、[001]である。したがって、ペロブスカイト型酸化物の結晶の(001)面が圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向していることにより、圧電薄膜3が優れた圧電特性と強誘電性を有することができる。同様の理由から、例えば、正方晶及び直方晶それぞれのc/aは、1.05以上1.20以下であってよい。例えば、正方晶及び直方晶それぞれの格子定数aは、0.375Å以上0.395Å以下であってよい。正方晶の格子定数bは、正方晶の格子定数aと等しい。例えば、直方晶の格子定数bは、0.375Å以上0.395Å以下であってよく、且つ直方晶の格子定数aと異なる値であればよい。例えば、正方晶及び直方結晶それぞれの格子定数cは、0.430Å以上0.450Å以下であってよい。正方晶のc/aは、直方晶のc/aと同一であってよく、異なってもよい。正方晶の格子定数aは、直方晶の格子定数aと同一であってよく、異なってもよい。正方晶の格子定数cは、直方晶の格子定数cと同一であってよく、異なってもよい。
【0032】
結晶の各格子面の配向の程度は、配向度(単位:%)によって定量化されてよい。各格子面の配向度は、各格子面に由来する回折X線のピークに基づいて算出されてよい。各格子面に由来する回折X線のピークは、圧電薄膜3の表面におけるOut оf Plane測定によって測定されてよい。(001)面の配向度は、100×I(001)/ΣI(hkl)と表されてよい。(110)面の配向度は、100×I(110)/ΣI(hkl)と表されてよい。(111)面の配向度は、100×I(111)/ΣI(hkl)と表されてよい。I(001)は、(001)面に由来する回折X線のピークの最大値である。I(110)は、(110)面に由来する回折X線のピークの最大値である。I(111)は、(111)面に由来する回折X線のピークの最大値である。ΣI(hkl)は、I(001)+I(110)+I(111)である。(001)面の配向度は、100×S(001)/ΣS(hkl)と表されてもよい。(110)面の配向度は、100×S(110)/ΣS(hkl)と表されてもよい。(111)面の配向度は、100×S(111)/ΣS(hkl)と表されてもよい。S(001)は、(001)面に由来する回折X線のピークの面積(ピークの積分)である。S(110)は、(110)面に由来する回折X線のピークの面積(ピークの積分)である。S(111)は、(111)面に由来する回折X線のピークの面積(ピークの積分)である。ΣS(hkl)は、S(001)+S(110)+S(111)である。各格子面の配向の程度は、ロットゲーリング(Lotgering)法に基づく配向度によって定量化されてもよい。
【0033】
圧電薄膜3が優れた圧電特性と強誘電性を有し易いという理由から、結晶の(001)面が圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて優先的に配向していることが好ましい。つまり、(001)面の配向度は、(110)面及び(111)面それぞれの配向度よりも高いことが好ましい。例えば、(001)面の配向度は、70%以上100%以下、好ましくは80%以上100%以下、より好ましくは90%以上100%以下であってよい。
【0034】
圧電薄膜3とは対照的に、立方晶構造又は擬立方晶(pseudo cubic crystal)構造を有する圧電体のバルクを歪ませて圧電体のバルクを正方晶又は直方晶にすることは難しい。したがって、圧電体のバルクはペロブスカイト型酸化物の正方晶又は直方晶に起因する圧電特性を有し難い傾向がある。
【0035】
以下に記載の結晶配向性とは、正方晶及び直方晶からなる群より選ばれる少なくとも一つの結晶の(001)面が圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向していることを意味する。
【0036】
圧電薄膜3は、気相成長法又は溶液法によって形成される結晶質の膜であり、上記の結晶配向性を有し易い。一方、圧電薄膜3と同じ組成を有する圧電体のバルクは、圧電薄膜3に比べて上記の結晶配向性を有し難い傾向がある。圧電体のバルクは、圧電体の必須元素を含む粉末の焼結体(セラミックス)であり、焼結体を構成する多数の結晶の構造及び配向性を制御することが困難であるからである。圧電体のバルクがFeを含むことに起因して、圧電体のバルクの比抵抗率は圧電薄膜3に比べて低い。その結果、リーク電流が圧電体のバルクにおいて発生し易い。したがって、高い電界の印加によって圧電体のバルクを分極させることが困難であり、圧電体のバルクが圧電薄膜と同様の圧電特性を有することは困難である。
【0037】
圧電薄膜3に含まれる金属酸化物は、下記化学式1で表されてよい。下記化学式1は、下記化学式1a及び下記化学式1bと実質的に同じである。下記化学式1及び化学式1a中のMは、Ga1-δCoδと表される。化学式1a及び化学式1b中の(Bi1-ααBiy+zは、ペロブスカイト型酸化物(ABO)の単位胞ucのAサイトに相当する。化学式1a中のTi(Ti1-βMgβ(Fe1-γγは、ペロブスカイト型酸化物の単位胞ucのBサイトに相当する。下記化学式1b中のTi(Ti1-βMgβ(Fe1-γ(Ga1-δCoδγは、ペロブスカイト型酸化物の単位胞ucのBサイトに相当する。金属酸化物が下記化学式1で表される場合、圧電薄膜3が正方晶及び直方晶からなる群より選ばれる少なくとも一つの結晶を含み易く、結晶が上記の結晶配向性を有し易く、圧電薄膜3が優れた圧電特性と強誘電性を有し易い。
x(Bi1-αα)TiO‐yBi(Ti1-βMgβ)O‐zBi(Fe1-γγ)O (1)
(Bi1-ααBiy+zTi(Ti1-βMgβ(Fe1-γγ3±ε (1a)
(Bi1-ααBiy+zTi(Ti1-βMgβ(Fe1-γ(Ga1-δCoδγ3±ε (1b)
【0038】
上記の各化学式中のx、y、z、α、β、γ、δ、及びεそれぞれの単位は、モル又はモル比である。x、y、及びz其々は、正の実数である。x+y+zは1.000である。各化学式中のxは、0.000より大きく1.000未満である。各化学式中のyは、0.000より大きく1.000未満である。各化学式中のzは、0.000より大きく1.000未満である。ペロブスカイト型酸化物の結晶構造が維持される限りにおいて、各化学式中のαは、0.000より大きく1.000未満である。ペロブスカイト型酸化物の結晶構造が維持される限りにおいて、各化学式中のβは、0.000より大きく1.000未満である。例えば、αは0.500であってよく、βは0.500であってよい。各化学式中のγは、0.050以上0.400以下である。各化学式中のδは、0.000以上1.000以下である。
各化学式中のγが0.050以上0.400以下である場合、圧電薄膜3が正方晶及び直方晶からなる群より選ばれる少なくとも一つの結晶を含み易く、結晶が上記の結晶配向性を有し易く、圧電薄膜3が優れた圧電特性と強誘電性を有し易い。
【0039】
金属酸化物中のBi及びKの物質量の合計値は[A]モルと表されてよく、金属酸化物中のTi、Mg、Fe、及び元素Mの物質量の合計値が[B]モルと表されてよく、[A]/[B]は1.000であってよい。金属酸化物がペロブスカイト構造を有し得る限りにおいて、[A]/[B]は1.000以外の値であってよい。つまり、[A]/[B]は1.000未満であってよく、1.000より大きくてもよい。化学式1a及び化学式1bにおけるεは、0.000以上である。金属酸化物がペロブスカイト構造を有し得る限りにおいてεは、0.000以外の値であってよい。例えば、εは、0.000より大きく1.000以下であってよい。εは、ペロブスカイト構造のAサイトの元素及びBサイトの原ン素それぞれの価数から算出されてよい。各元素の価数は、X線光電子分光(XPS)法により測定されてよい。
【0040】
以下では、(Bi1-αα)TiOは、BKTと表記される。Bi(Ti1-βMgβ)Oは、BMTと表記される。BiFe1-γγは、BFMOと表記される。BiFeOは、BFOと表記される。BKT及びBMTの和で表される組成を有する金属酸化物は、BKT‐BMTと表記される。BKT、BMT、及びBFOの和で表される組成を有する金属酸化物は、BKT‐BMT‐BFOと表記される。上記化学式1で表される組成を有する金属酸化物は、xBKT‐yBMT‐zBFMOと表記される。BKT、BMT、BFMO、BFO、BKT‐BMT、BKT‐BMT‐BFO、及びxBKT‐yBMT‐zBFMOそれぞれの結晶は、ペロブスカイト構造を有している。
【0041】
ガリウム酸ビスマス(BiGaO; BGO)及びコバルト酸ビスマス(BiCoO; BCO)のいずれもペロブスカイト型酸化物である。ガリウム酸ビスマス及びコバルト酸ビスマスそれぞれの結晶(正方晶)のc/aは、BFOの結晶(菱面体晶)のc/aよりも大きい。xBKT‐yBMT‐zBFMOにおいて、BFOの一部がBGO及びBCOのうち一つ又は両方で置換されているので、xBKT‐yBMT‐zBFMOの結晶のc/aは、従来のBKT‐BMT‐BFOのc/aよりも大きい傾向がある。その結果、xBKT‐yBMT‐zBFMOを含む圧電薄膜3が優れた圧電特性と強誘電性を有することができる。
【0042】
BKTの結晶は、常温において正方晶であり、BKTは強誘電体である。BMTの結晶は、常温において菱面体晶であり、BMTは強誘電体である。BFOの結晶は、常温において菱面体晶であり、BFOは強誘電体である。BKT‐BMTからなる薄膜は、常温において正方晶である。BKT‐BMTの正方晶のc/aは、BKTのc/aよりも大きい傾向がある。BKT‐BMTからなる薄膜は、BKTからなる薄膜及びBMTからなる薄膜に比べて、強誘電性に優れている。xBKT‐yBMT‐zBFMOからなる薄膜は、常温において正方晶及び直方晶の少なくとも一つである傾向がある。xBKT‐yBMT‐zBFMOのc/aは、BKT‐BMT及びBKT‐BMT-BFOそれぞれのc/aよりも大きい傾向がある。xBKT‐yBMT‐zBFMOからなる薄膜は、BKT‐BMT又はBKT‐BMT-BFOからなる薄膜に比べて、強誘電性に優れている。つまり、xBKT‐yBMT‐zBFMOを含む圧電薄膜3は、強誘電性薄膜になり易い。圧電薄膜3の強誘電性は、xBKT‐yBMT‐zBFMOの組成がモルフォトロピック相境界(Morphotropic PhaseBoundary,MPB)を有していることに起因している、と推察される。ただし、圧電薄膜3は正方晶系又は直方晶系に属するので、圧電薄膜3の強誘電性は単にMPBのみに起因するものではない、と推察される。圧電薄膜3が強誘電性を有することにより、圧電薄膜3が大きいd33,fを有し易い。圧電薄膜3とは対照的に、xBKT‐yBMT‐zBFMOのバルクに含まれる結晶は擬立方晶であり、xBKT‐yBMT‐zBFMOのバルクは圧電薄膜3に比べて上記の結晶配向性及び強誘電性を有し難い傾向がある。
【0043】
xBKT‐yBMT‐zBFMOの組成は、三次元の座標系に基づいて表されてよい。図4に示されるように、三次元の座標系は、X軸、Y軸、及びZ軸から構成される。座標系における任意の座標は、(X,Y,Z)と表される。座標系における座標(x,y,z)は、上記化学式1中のx、y、及びzを示す。化学式1中のx、y、及びzの和は1であり、x、y及びzのいずれも正の実数である。したがって、座標(x,y,z)は、X+Y+Z=1で表される平面のうち点線で描かれた三角形の内側に位置する。つまり座標(x,y,z)は、頂点が座標(1,0,0)、座標(1,1,0)、及び座標(0,0,1)である三角形の内側に位置する。この三角形は、三角座標系であり、三角座標系においてX+Y+Zは1である。三角座標系は、図5に示される。三角座標系は、座標(x,y,z)に加えて、座標A、座標B、座標C、及び座標Dを含む。つまり、座標(x,y,z)、座標A、座標B、座標C、座標D、座標E及び座標Fのいずれも、X+Y+Z=1で表される平面内に位置する。座標Aは、(0.250, 0.005, 0.700)である。座標Bは、(0.450, 0.250, 0.300)である。座標Cは、(0.200, 0.500, 0.300)である。座標Dは、(0.005, 0.250, 0.700)である。化学式1中のx、y及びzを示す座標(x,y,z)は、頂点が座標A、座標B、座標C及び座標Dである四角形以内に位置してよい。座標(x,y,z)が四角形ABCD以内にある場合、xBKT‐yBMT‐zBFMOの組成がMPBを有し易く、圧電薄膜3の圧電特性及び強誘電性が向上し易い。xがyと等しい場合、座標(x,y,z)は、座標(0.500, 0.500, 0.000)及び座標(0.000, 0.000, 1.000)を通る直線の上に位置する。xがyと等しい場合、xBKT‐yBMT‐zBFMOの組成がMPBを有し易く、圧電薄膜3の圧電特性及び強誘電性が向上し易い。
【0044】
xは、0.050以上0.450以下、又は0.100以上0.350以下であってよく、yは、0.050以上0.500以下、又は0.100以上0.350以下であってよく、zは、0.300以上0.700以下であってよい。x、y及びzが上記の範囲であり、且つx+y+zが1である場合、xBKT‐yBMT‐zBFMOの組成がMPBを有し易く、圧電薄膜3の圧電特性及び強誘電性が向上し易い。
【0045】
例えば、圧電薄膜3の厚みは、10nm以上10μm以下、0.3μm以上10μm以下、0.3μm以上5μm以下、0.5μm以上5μm以下、0.3μm以上3μm以下、又は0.5μm以上3μm以下であってよい。例えば、圧電薄膜3の面積は、1μm以上500mm以下であってよい。結晶質基板1、第一中間層5、第一電極層2、第二中間層6、及び第二電極層4それぞれの面積は、圧電薄膜3の面積と同じであってよく、異なってもよい。
【0046】
例えば、圧電薄膜3の組成は、蛍光X線分析法(XRF法)、又は誘導結合プラズマ(ICP)発光分光法によって分析されてよい。圧電薄膜3の結晶構造及び結晶配向性は、X線回折(XRD)法によって特定されてよい。
【0047】
例えば、圧電薄膜3は、以下の方法により形成されてよい。
【0048】
圧電薄膜3の原料としては、圧電薄膜3と同様の組成を有するターゲットが用いられてよい。ターゲットの作製方法は、次の通りである。
【0049】
出発原料として、例えば、酸化ビスマス(Bi)、炭酸カリウム(KCO)、酸化チタン(TiO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化鉄(Fe)、及び元素Mの酸化物それぞれの粉末が用いられてよい。元素Mの酸化物は、酸化ガリウム(Ga)及び酸化コバルト(Cо)からなる群より選ばれる少なくとも一つの酸化物であってよい。出発原料として、上記の酸化物に代えて、炭酸塩又はシュウ酸塩等のように、焼成(sintering)により酸化物になる物質が用いられてよい。これらの出発原料を100℃以上で十分に乾燥した後、Bi、K、Ti、Mg、Fe、及び元素Mそれぞれの物質量(モル比)が、上記化学式1、化学式1a、又は化学式1bで規定された範囲内になるように、各出発原料が秤量される。後述される気相成長法において、ターゲット中のBi及びKは、他の元素に比べて揮発し易い。したがって、ターゲット中のBiのモル比は、圧電薄膜3中のBiのモル比よりも高い値に調整されてよい。ターゲット中のKのモル比は、圧電薄膜3中のKのモル比よりも高い値に調整されてよい。
【0050】
秤量された出発原料は、有機溶媒又は水の中で十分に混合される。混合時間は、5時間以上20時間以下であってよい。混合手段は、ボールミルであってよい。混合後の出発原料を十分乾燥した後、出発原料はプレス機で成形される。成形された出発原料を仮焼き(calcine)することより、仮焼物が得られる。仮焼きの温度は、750℃以上900℃以下であってよい。仮焼きの時間は、1時間以上3時間以下であってよい。仮焼物は、有機溶媒又は水の中で粉砕される。粉砕時間は、5時間以上30時間以下であってよい。粉砕手段は、ボールミルであってよい。粉砕された仮焼物の乾燥後、バインダー溶液が加えられた仮焼物を造粒することにより、仮焼物の粉が得られる。仮焼物の粉のプレス成形により、ブロック状の成形体(cоmpact)が得られる。
【0051】
ブロック状の成形体を加熱することにより、成形体中のバインダーが揮発する。加熱温度は、400℃以上800℃以下であってよい。加熱時間は、2時間以上4時間以下であってよい。続いて、成形体を焼成(sinter)することにより、ターゲットが得られる。焼成温度は、800℃以上1100℃以下であってよい。焼成時間は、2時間以上4時間以下であってよい。焼成過程における成形体の昇温速度及び降温速度は、例えば50℃/時間以上300℃/時間以下であってよい。ターゲットに含まれる金属酸化物の結晶粒の平均粒径は、例えば、1μm以上20μm以下であってよい。
【0052】
上記ターゲットを用いた気相成長法によって、圧電薄膜3が形成されてよい。気相成長法では、真空雰囲気下において、ターゲットを構成する元素を蒸発させる。蒸発した元素が、第二中間層6、第一電極層2、又は結晶質基板1のいずれかの表面に付着及び堆積することにより、圧電薄膜3が成長する。気相成長法は、例えば、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition)法、又はパルスレーザー堆積(Pulsed-laser deposition)法であってよい。以下では、パルスレーザー堆積法が、PLD法と表記される。これらの気相成長法を用いることによって、原子レベルで緻密である圧電薄膜3を形成することが可能であり、圧電薄膜3中における元素の偏析が抑制される。気相成長法の種類に依って、励起源が異なる。スパッタリング法の励起源は、Arプラズマである。電子ビーム蒸着法の励起源は、電子ビームである。PLD法の励起源は、レーザー光(例えば、エキシマレーザー)である。これらの励起源がターゲットに照射されると、ターゲットを構成する元素が蒸発する。
【0053】
上記の気相成長法の中でも、以下の点において、PLD法が比較的に優れている。PLD法では、パルスレーザーにより、ターゲットを構成する各元素を、一瞬で斑なくプラズマ化させることができる。したがって、ターゲットと略又は完全に同じ組成を有する圧電薄膜3が形成され易い。またPLD法では、レーザーパルスのショット数を変えることで、圧電薄膜3の厚みを制御し易い。
【0054】
圧電薄膜3はエピタキシャル膜であってよい。つまり、圧電薄膜3は、エピタキシャル成長によって形成されていてよい。エピタキシャル成長により、結晶配向性に優れた圧電薄膜3が形成され易い。圧電薄膜3がPLD法によって形成される場合、圧電薄膜3がエピタキシャル成長によって形成され易い。
【0055】
PLD法では、真空チャンバー内における結晶質基板1及び第一電極層2を加熱しながら、圧電薄膜3が形成されてよい。結晶質基板1及び第一電極層2の温度(成膜温度)は、例えば、300℃以上800℃以下、500℃以上700℃以下、又は500℃以上600℃以下であればよい。成膜温度が高いほど、結晶質基板1又は第一電極層2の表面の清浄度が改善され、圧電薄膜3の結晶性が高まり、圧電薄膜3中の(001)面の配向度が高まり易い。成膜温度が高過ぎる場合、Bi又はKが圧電薄膜3から脱離し易く、圧電薄膜3の組成が制御され難い。
【0056】
PLD法では、真空チャンバー内の酸素分圧は、例えば、10mTorrより大きく400mTorr未満、15mTorr以上300mTorr以下、又は20mTorr以上200mTorr以下であってよい。換言すると、真空チャンバー内の酸素分圧は、例えば、1Paより大きく53Pa未満、2Pa以上40Pa以下、又は3Pa以上30Pa以下であってよい。酸素分圧を上記範囲内に維持することにより、結晶質基板1の上に堆積したBi,K、Ti、Mg、Fe、及び元素Mが十分に酸化され易い。酸素分圧が高過ぎる場合、圧電薄膜3の成長速度が低下し易く、圧電薄膜3中の(001)面の配向度が低下し易い。
【0057】
PLD法で制御される上記以外のパラメータは、例えば、レーザー発振周波数、及び基板とターゲットとの間の距離などである。これらのパラメータの制御によって、圧電薄膜3の結晶構造及び結晶配向性が制御され易い。例えば、レーザー発振周波数が10Hz以下である場合、圧電薄膜3中の(001)面の配向度が高まり易い。
【0058】
圧電薄膜3が成長した後、圧電薄膜3のアニール処理(加熱処理)が行われてよい。アニール処理における圧電薄膜3の温度(アニール温度)は、例えば、300℃以上1000℃以下、600℃以上1000℃以下、又は850℃以上1000℃以下であってよい。圧電薄膜3のアニール処理により、圧電薄膜3の圧電特性が更に向上する傾向がある。特に850℃以上1000℃以下でのアニール処理により、圧電薄膜3の圧電特性が向上し易い。ただし、アニール処理は必須でない。
【0059】
例えば、結晶質基板1は、Siの単結晶からなる基板、又はGaAs等の化合物半導体の単結晶からなる基板であってよい。結晶質基板1は、MgO又はペロブスカイト型酸化物(例えばSrTiO)等の酸化物の単結晶からなる基板であってもよい。例えば、結晶質基板1の厚みは、10μm以上1000μm以下であってよい。結晶質基板1が導電性を有する場合、結晶質基板1が電極として機能するので、第一電極層2はなくてもよい。つまり、例えば、導電性を有する結晶質基板1は、ニオブ(Nb)がドープされたSrTiOの単結晶であってよい。結晶質基板1のとして、SOI(Silicon-on-Insulator)基板が用いられてもよい。
【0060】
結晶質基板1の結晶方位は、結晶質基板1の表面の法線方向と等しくてよい。つまり、結晶質基板1の表面は、結晶質基板1の格子面と平行であってよい。結晶質基板1は一軸配向基板であってよい。例えば、(100)面、(001)面、(110)面、(101)面、及び(111)面からなる群より選ばれる一つの格子面が、結晶質基板1の表面と平行であってよい。結晶質基板1(例えばSi)の(100)面が結晶質基板1の表面と平行である場合、圧電薄膜3中の結晶の(001)面が、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向し易い。
【0061】
上述の通り、第一中間層5が、結晶質基板1と第一電極層2との間に配置されていてよい。例えば、第一中間層5は、チタン(Ti)、クロム(Cr)、酸化チタン(TiO)、酸化ケイ素(SiO)、及び酸化ジルコニウム(ZrO)からなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでよい。第一中間層5を介することにより、第一電極層2が結晶質基板1に密着し易い。第一中間層5は、結晶質であってよい。第一中間層5の格子面が、結晶質基板1の表面の法線方向において配向していてよい。結晶質基板1の格子面と、第一中間層5の格子面と、の両方が、結晶質基板1の表面の法線方向において配向していてよい。第一中間層5の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。
【0062】
第一中間層5は、ZrO及び希土類元素の酸化物を含んでよい。第一中間層5が、ZrO及び希土類元素の酸化物を含むことにより、白金の結晶からなる第一電極層2が第一中間層5の表面に形成され易く、白金の結晶の(002)面が、第一電極層2の表面の法線方向Dにおいて配向し易く、白金の結晶の(200)面が、第一電極層2の表面の面内方向において配向し易い。希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であってよい。第一中間層5は、イットリア安定化ジルコニア(Yが添加されたZrO)からなっていてよい。第一中間層5がイットリア安定化ジルコニアからなることにより、白金の結晶からなる第一電極層2が第一中間層5の表面に形成され易く、白金の結晶の(002)面が、第一電極層2の表面の法線方向Dにおいて配向し易く、白金の結晶の(200)面が、第一電極層2の表面の面内方向において配向し易い。同様の理由から、第一中間層5は、ZrOからなる第一層と、Yからなる第二層とを有してよい。第一層は、結晶質基板1の表面に直接積層されてよく、第二層は、第一層の表面に直接積層されてよく、第一電極層2は、第二層の表面に直接積層されてよい。
【0063】
例えば、第一電極層2は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、及びニッケル(Ni)からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属からなっていてよい。第一電極層2は、例えば、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)、ニッケル酸ランタン(LaNiO)、又はコバルト酸ランタンストロンチウム((La,Sr)CoO)等の導電性金属酸化物からなっていてもよい。第一電極層2は、結晶質であってよい。第一電極層2の格子面が、結晶質基板1の表面の法線方向において配向していてよい。第一電極層2の格子面は、結晶質基板1の表面と略又は完全に平行であってよい。結晶質基板1の格子面と、第一電極層2の格子面と、の両方が、結晶質基板1の表面の法線方向において配向していてよい。第一電極層2の格子面が、圧電薄膜3中において配向するペロブスカイト型酸化物の格子面と略又は完全に平行であってよい。例えば、第一電極層2の厚みは、1nm以上1.0μm以下であってよい。第一電極層2の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法の場合、第一電極層2の結晶性を高めるために、第一電極層2の加熱処理(アニーリング)が行われてよい。
【0064】
第一電極層2は、白金の結晶を含んでよい。第一電極層2は、白金の結晶のみからなっていてよい。白金の結晶は、面心立方格子構造を有する立方晶である。白金の結晶の(002)面が、第一電極層2の表面の法線方向Dにおいて配向していてよく、白金の結晶の(200)面が、第一電極層2の表面の面内方向において配向していてよい。換言すれば、白金の結晶の(002)面が、第一電極層2の表面に略又は完全に平行であってよく、白金の結晶の(200)面が、第一電極層2の表面に略又は完全に垂直であってよい。第一電極層2を構成する白金の結晶の(002)面及び(200)面が上記の配向性を有する場合、圧電薄膜3が、第一電極層2の表面においてエピタキシャルに成長し易く、第一電極層2及び圧電薄膜3の間の格子不整合に因る格子応力が圧電薄膜3に作用し易い。格子応力は、圧電薄膜3の表面の面内方向における圧縮応力であってよい。その結果、圧電薄膜3が正方晶及び直方晶からなる群より選ばれる少なくとも一つの結晶を含み易く、結晶の(001)面が圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて優先的に配向し易い。その結果、圧電薄膜素子10が優れた圧電特性と強誘電性を有し易い。
【0065】
第二中間層6が、第一電極層2と圧電薄膜3との間に配置されていてよい。第二中間層6は、例えば、SrRuO、LaNiO、及び(La,Sr)CoOからなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物を含んでよい。第二中間層6を介することにより、圧電薄膜3が第一電極層2に密着し易い。第二中間層6は、結晶質であってよい。第二中間層6がSrRuO及びLaNiOのうち少なくともいずれかを含む場合、第二中間層6及び圧電薄膜3の間の格子不整合に因る格子応力が圧電薄膜3に作用し易い。格子応力は、圧電薄膜3の表面の面内方向における圧縮応力であってよい。その結果、圧電薄膜3が正方晶及び直方晶からなる群より選ばれる少なくとも一つの結晶を含み易く、結晶の(001)面が圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて優先的に配向し易い。その結果、圧電薄膜素子10が優れた圧電特性と強誘電性を有し易い。第二中間層6の格子面は、第一電極層2の表面の法線方向Dにおいて配向していてよい。結晶質基板1の格子面と、第二中間層6の格子面と、の両方が、第一電極層2の表面の法線方向Dにおいて配向してよい。第二中間層6の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。
【0066】
第二電極層4は、例えば、例えば、Pt、Pd、Rh、Au、Ru、Ir、Mo、Ti、Ta、及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属からなっていてよい。第二電極層4は、例えば、LaNiO、SrRuO、及び(La,Sr)CoOからなる群より選ばれる少なくとも一種の導電性金属酸化物からなっていてよい。第二電極層4は、結晶質であってよい。第二電極層4の格子面は、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向していてよい。第二電極層4の格子面は、圧電薄膜3の表面と略又は完全に平行であってよい。第二電極層4の格子面は、圧電薄膜3中において配向する(001)面と略又は完全に平行であってよい。例えば、第二電極層4の厚みは、1nm以上1.0μm以下であってよい。第二電極層4の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法の場合、第二電極層4の結晶性を高めるために、第二電極層4の加熱処理(アニーリング)が行われてもよい。
【0067】
第三中間層が、圧電薄膜3と第二電極層4との間に配置されていてよい。第三中間層を介することにより、第二電極層4が圧電薄膜3に密着し易い。結晶質の第三中間層及び圧電薄膜3の間の格子不整合に因り、上述された格子応力が圧電薄膜3に作用し易い。その結果、圧電薄膜3が正方晶及び直方晶からなる群より選ばれる少なくとも一つの結晶を含み易く、結晶の(001)面が圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて優先的に配向し易い。その結果、圧電薄膜素子10が優れた圧電特性と強誘電性を有し易い。第三中間層の組成、結晶構造及び形成方法は、第二中間層6と同じであってよい。
【0068】
圧電薄膜素子10の表面の少なくとも一部又は全体は、保護膜によって被覆されていてよい。圧電薄膜素子10を保護膜で被覆することにより、例えば圧電薄膜素子10の耐湿性が向上する。
【0069】
本実施形態に係る圧電薄膜素子の用途は、多岐にわたる。例えば、圧電薄膜素子は、圧電アクチュエータ、圧電センサ、圧電トランスデューサ、圧電マイクロフォン、ハーベスタ、発振子、共振子、音響多層膜、焦電素子、及びフィルタからなる群より選ばれる一つのデバイスの一部又は全体であってよい。例えば、圧電アクチュエータは、ハプティクス(haptics)に用いられてよい。つまり、圧電アクチュエータは、皮膚感覚(触覚)によるフィードバックが求められる様々なデバイスに用いられてよい。例えば、皮膚感覚によるフィードバックが求められるデバイスとは、ウェアラブルデバイス、タッチパッド、ディスプレイ、又はゲームコントローラであってよい。例えば、圧電アクチュエータは、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、又はハードディスクドライブに用いられてよい。例えば、圧電アクチュエータは、プリンタヘッド、又はインクジェットプリンタ装置に用いられてもよい。例えば、圧電アクチュエータは、圧電スイッチに用いられてもよい。例えば、圧電センサ又は圧電トランスデューサは、ジャイロセンサ、圧力センサ、脈波センサ、超音波センサ、超音波トランスデューサ、赤外線センサ、又はショックセンサに用いられてよい。超音波トランスデューサは、圧電微小機械超音波トランスデューサ(Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer; PMUT)であってよい。圧電微小機械超音波トランスデューサを応用した製品は、指紋センサ及び超音波式血管認証センサ等の生体認証センサ、医療若しくはヘルスケア用のセンサ、又はToF(Time of Flight)センサであってよい。例えば、フィルタは、BAW(Bulk Acoustic Wave)フィルタ、又はSAW(Surface Acoustic Wave)フィルタであってよい。上述された各圧電薄膜素子は、微小電気機械システム(Micro Electro Mechanical Systems; MEMS)の一部又は全体であってよい。上述された各圧電薄膜素子は、ウェアラブルデバイス、又は携帯型デバイスであってよい。
【0070】
本実施形態に係る圧電トランスデューサは、上述された圧電薄膜又は圧電薄膜素子を含む。図6は、圧電トランスデューサの一例である超音波トランスデューサ10aの模式的な断面を示す。この超音波トランスデューサ10aの断面は、圧電薄膜3の表面の法線方向dnに略又は完全に平行である。超音波トランスデューサ10aは、基板1a及び1bと、基板1a及び1bの上に設置された第一電極層2と、第一電極層2に重なる圧電薄膜3と、圧電薄膜3に重なる第二電極層4と、を含んでよい。圧電薄膜3の下方には、音響用の空洞1cが設けられていてよい。圧電薄膜3の撓み又は振動により、超音波信号が発信又は受信される。第一中間層が基板1a及び1bと第一電極層2の間に介在してよい。第二中間層が第一電極層2と圧電薄膜3の間に介在してよい。第二中間層が圧電薄膜3と第二電極層4の間に介在してよい。
【実施例0071】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
実施例1の圧電薄膜素子の作製には、Siの単結晶からなる結晶質基板が用いられた。Siの(100)面は、結晶質基板の表面と平行であった。結晶質基板は、20mm×20mmの正方形であった。結晶質基板の厚みは、500μmであった。
【0073】
真空チャンバー内で、ZrO及びYからなる結晶質の第一中間層が、結晶質基板の表面全体に形成された。第一中間層は、スパッタリング法により形成された。第一中間層の厚みは、30nmであった。
【0074】
真空チャンバー内で、Ptの結晶からなる第一電極層が、第一中間層の表面全体に形成された。第一電極層は、スパッタリング法により形成された。第一電極層の厚みは、200nmであった。第一電極層の形成過程における結晶質基板の温度(成膜温度)は、500℃に維持した。
【0075】
第一電極層の表面におけるOut оf Plane測定により、第一電極層のX線回折(XRD)パターンが測定された。第一電極層の表面におけるIn Plane測定により、第一電極層のXRDパターンが測定された。これらのXRDパターンの測定には、株式会社リガク製のX線回折装置(SmartLab)が用いられた。XRDパターン中の各ピーク強度がバックグラウンド強度に対して少なくとも3桁以上高くなるように、測定条件が設定された。Out оf Plane測定により、Ptの結晶の(002)面の回折X線のピークが検出された。つまり、Ptの結晶の(002)面が、第一電極層の表面の法線方向において配向していた。In Plane測定により、Ptの結晶の(200)面の回折X線のピークが検出された。つまり、Ptの結晶の(200)面が、第一電極層の表面の面内方向において配向していた。
【0076】
真空チャンバー内で、圧電薄膜が第一電極層の表面全体に形成された。圧電薄膜は、PLD法により形成された。圧電薄膜の厚みは、2000nmであった。圧電薄膜の形成過程における結晶質基板の温度(成膜温度)は、500℃に維持した。圧電薄膜の形成過程における真空チャンバー内の酸素分圧は、10Paに維持された。圧電薄膜の原料には、ターゲット(原料粉末の焼結体)が用いられた。ターゲットの作製の際には、目的とする圧電薄膜の組成に応じて、原料粉末(酸化ビスマス、炭酸カリウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化鉄、及び酸化ガリウム)の配合比が調整された。目的とする圧電薄膜の組成は、下記化学式1Aで表された。つまり、ターゲットの組成は、下記化学式1Aで表された。下記化学式1A中のx、y、z、α、β、及びγそれぞれの値は、下記表1に示す値であった。
x(Bi1-αα)TiO‐yBi(Ti1-βMgβ)O‐zBi(Fe1-γGaγ)O (1A)
【0077】
圧電薄膜の組成が、蛍光X線分析法(XRF法)により分析された。分析には、日本フィリップス株式会社製の装置PW2404を用いた。分析の結果、実施例1の圧電薄膜の組成は、上記化学式1Aで表され、上記化学式1Aにおけるx、y、z、α、β、及びγそれぞれの値は、下記表1に示す値に一致した。つまり圧電薄膜の組成は、ターゲットの組成と一致した。
【0078】
圧電薄膜の表面におけるOut оf Plane測定により、圧電薄膜のXRDパターンが測定された。圧電薄膜の表面におけるIn Plane測定により、圧電薄膜のXRDパターンが測定された。XRDパターンの測定装置及び測定条件は、上記と同様であった。
圧電薄膜のXRDパターンは、圧電薄膜がペロブスカイト型酸化物の結晶から構成されていることを示していた。
Out оf Plane測定により、圧電薄膜の表面の法線方向における上記結晶の格子定数cが測定された。格子定数cは、圧電薄膜の表面に平行な格子面の間隔と言い換えられる。In Plane測定により、圧電薄膜の表面に平行な方向における上記結晶の格子定数a及びbが測定された。格子定数a及びbは、圧電薄膜の表面に垂直な格子面の間隔と言い換えられる。a及びbは互いに略等しかった。a及びbのいずれも、cより小さかった。つまり、圧電薄膜に含まれる少なくとも一部の上記結晶は、c/aが1よりも大きい正方晶であった。
Out оf Plane測定により、ペロブスカイト型酸化物の結晶の(001)面の回折X線のピークが検出された。XRDパターンに基づき、結晶の(001)面の配向度が算出された。上述の通り、(001)面の配向度は、100×I1(001)/(I1(001)+I1(110)+I1(111))と表される。圧電薄膜の表面の法線方向dnにおける(001)面の配向度は、90%以上であった。つまり、結晶の(001)面は、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。圧電薄膜の表面の法線方向dnにおいて優先的に配向している格子面(配向度が90%以上である格子面)は、下記の各表において「配向面」と表記される。
【0079】
以上の方法で、結晶質基板と、結晶質基板に重なる第一中間層と、第一中間層に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる圧電薄膜と、から構成される積層体が作製された。この積層体を用いて更に以下の工程が実施された。
【0080】
真空チャンバー内で、Ptからなる第二電極層が、圧電薄膜の表面全体に形成された。第二電極層は、スパッタリング法により形成された。第二電極層の形成過程における結晶質基板の温度は500℃に維持した。第二電極層の厚みは、200nmであった。
【0081】
以上の工程により、結晶質基板と、結晶質基板に重なる第一中間層と、第一中間層に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる圧電薄膜と、圧電薄膜に重なる第二電極層と、から構成される積層体が作製された。続くフォトリソグラフィにより、結晶質基板上の積層構造のパターニングが行われた。パターニング後、積層体がダイシングにより切断された。
【0082】
以上の工程により、短冊状の実施例1の圧電薄膜素子を得た。圧電薄膜素子は、結晶質基板と、結晶質基板に重なる第一中間層と、第一中間層に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる圧電薄膜と、圧電薄膜に重なる第二電極層と、から構成されていた。圧電薄膜の可動部分の面積は、20mm×1.0mmであった。
【0083】
[圧電歪定数d33,fの測定]
実施例1の圧電薄膜素子を用いて圧電薄膜の圧電歪定数d33,fが測定された。d33,fの測定には、原子間顕微鏡(AFM)と強誘電体評価システムとを組み合わせた装置が用いられた。原子間顕微鏡は、セイコーインスツル株式会社製のSPA-400であり、強誘電体評価システムは、株式会社東陽テクニカ製のFCEであった。d33,fの測定における交流電界(交流電圧)の周波数は5Hzであった。圧電薄膜に印加される電圧の最大値は20Vであった。d33,fの単位はpm/Vである。実施例1のd33,fは、下記表1に示される。
【0084】
(実施例2~18及び比較例1~4)
実施例2~18及び比較例1~4それぞれのターゲットの作製の際には、目的とする圧電薄膜の組成に応じて、原料粉末(酸化ビスマス、炭酸カリウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化鉄、及び酸化ガリウム)の配合比が調整された。
比較例1のターゲットの原料として、炭酸カリウムは用いられなかった。
比較例2のターゲットの原料として、酸化マグネシウムは用いられなかった。
比較例3のターゲットの原料として、酸化ガリウムは用いられなかった。
比較例4のターゲットの原料として、酸化鉄は用いられなかった。
圧電薄膜の形成に用いたターゲットの組成が異なることを除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~18及び比較例1~4それぞれの圧電薄膜素子が作製された。
【0085】
実施例1と同様の方法により、実施例2~18及び比較例1~4それぞれの第一電極層のXRDパターンが測定された。実施例2~18及び比較例1~4のいずれの場合も、第一電極層を構成するPtの結晶の(002)面が、第一電極層の表面の法線方向において配向しており、Ptの結晶の(200)面が、第一電極層の表面の面内方向において配向していた。
【0086】
実施例1と同様の方法により、実施例2~18及び比較例1~4それぞれの圧電薄膜の組成が分析された。実施例2~18及び比較例1~4のいずれの場合も、圧電薄膜の組成は、ターゲットの組成(上記化学式1A)と一致した。実施例2~18及び比較例1~4それぞれの場合、化学式1A中のx,y、z、α、β、γ、及びδそれぞれの値は、下記の表1に示される値であった。実施例1~14それぞれのx、y及びzは、座標(x、y、z)として図5(三角座標系)中に示される。
図5中の座標Aは、実施例1に対応する。
図5中の座標Bは、実施例2に対応する。
図5中の座標Cは、実施例3に対応する。
図5中の座標Dは、実施例4に対応する。
図5中の座標Eは、実施例5に対応する。
図5中の座標Fは、実施例6に対応する。
図5中の座標Gは、実施例7に対応する。
図5中の座標Hは、実施例8に対応する。
図5中の座標Iは、実施例9に対応する。
図5中の座標Jは、実施例10に対応する。
図5中の座標Kは、実施例11に対応する。
図5中の座標Lは、実施例12に対応する。
図5中の座標Mは、実施例13に対応する。
図5中の座標Oは、実施例14に対応する。
【0087】
実施例1と同様の方法により、実施例2~18及び比較例1~4それぞれの圧電薄膜のXRDパターンが測定された。実施例2~18及び比較例1~4のいずれのXRDパターンも、圧電薄膜がペロブスカイト型酸化物の結晶から構成されていることを示していた。実施例2~18及び比較例1~4のいずれの場合も、圧電薄膜に含まれる結晶の少なくとも一部は、正方晶であった。実施例2~18及び比較例1~4のいずれの場合も、結晶の(001)面が、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。
【0088】
実施例1と同様の方法により、実施例2~18及び比較例1~4それぞれの圧電薄膜の圧電歪定数d33,fが測定された。実施例2~18及び比較例1~4それぞれのd33,fは、下記表1に示される。
【0089】
(比較例5)
比較例5のターゲットはビスマスを含んでいなかった。比較例5のターゲットは、下記化学式5で表される組成を有していた。下記化学式5中の各数値は、モル比を表す。薄膜の形成に用いたターゲットの組成が異なることを除いて実施例1と同様の方法で、比較例5の薄膜及び薄膜素子が作製された。
実施例1と同様の方法で、比較例5の薄膜及び薄膜素子に関する分析及び測定が実施された。比較例5の場合も、第一電極層を構成するPtの結晶の(002)面が、第一電極層の表面の法線方向において配向しており、Ptの結晶の(200)面が、第一電極層の表面の面内方向において配向していた。比較例5の薄膜の組成は、比較例5のターゲットの組成と一致した。比較例5の薄膜は、配向した格子面を有する結晶ではなく、圧電特性を有していなかった。
0.20MgTiO-0.10KO-0.20TiO-0.50(Fe0.9Ga0.1 (5)
【0090】
【表1】
【0091】
(比較例6~8)
比較例6の圧電薄膜の形成過程における真空チャンバー内の酸素分圧は、1Paに維持された。
比較例7の圧電薄膜の形成過程における真空チャンバー内の酸素分圧は、20Paに維持された。
比較例8の圧電薄膜の形成過程における真空チャンバー内の酸素分圧は、0.1Paに維持された。
圧電薄膜の形成過程における酸素分圧を除いて実施例9と同様の方法で、比較例6~8それぞれの圧電薄膜素子が作製された。
【0092】
実施例1と同様の方法により、比較例6~8それぞれの第一電極層のXRDパターンが測定された。比較例6~8のいずれの場合も、第一電極層を構成するPtの結晶の(002)面が、第一電極層の表面の法線方向において配向しており、Ptの結晶の(200)面が、第一電極層の表面の面内方向において配向していた。
【0093】
実施例1と同様の方法により、比較例6~8それぞれの圧電薄膜の組成が分析された。比較例6~8のいずれの場合も、圧電薄膜の組成は、ターゲットの組成と一致した。つまり比較例6~8それぞれの圧電薄膜の組成は、実施例9の圧電薄膜の組成と同じであった。
【0094】
実施例1と同様の方法により、比較例6~8それぞれの圧電薄膜のXRDパターンが測定された。
比較例6~8のいずれのXRDパターンも、圧電薄膜がペロブスカイト型酸化物の結晶から構成されていることを示していた。
比較例6~8のいずれの場合も、圧電薄膜に含まれる結晶の少なくとも一部は、正方晶であった。
比較例6の場合、圧電薄膜中の結晶の(110)面が、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。
比較例7の場合、圧電薄膜中の結晶の(111)面が、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。
比較例8の場合、圧電薄膜中の結晶の特定の格子面が圧電薄膜の表面の法線方向において配向していなかった。つまり比較例8の場合、いずれの格子面の配向度も50%未満であった。
【0095】
実施例1と同様の方法により、比較例6~8それぞれの圧電薄膜の圧電歪定数d33,fが測定された。比較例6~8それぞれのd33,fは、下記表2に示される。
【0096】
【表2】
【0097】
(実施例19及び20)
実施例19及び20の場合、第二中間層が第一電極層の表面全体に直接形成され、圧電薄膜が第二中間層の表面全体に直性形成された。
実施例19の第二中間層は、結晶質のSrRuOからなっていた。実施例19の第二中間層の厚みは、50nmであった。
実施例20の第二中間層は、結晶質のLaNiOからなっていた。実施例20の第二中間層の厚みは、20nmであった。。
下記の表3中の「SRO」は、SrRuOを意味する。下記の表3中の「LNO」は、LaNiOを意味する。
第二中間層が形成されたことを除いて実施例9と同様の方法で、実施例19及び20それぞれの圧電薄膜素子が作製された。
【0098】
実施例1と同様の方法により、実施例19及び20それぞれの第一電極層のXRDパターンが測定された。実施例19及び20のいずれの場合も、第一電極層を構成するPtの結晶の(002)面が、第一電極層の表面の法線方向において配向しており、Ptの結晶の(200)面が、第一電極層の表面の面内方向において配向していた。
【0099】
実施例1と同様の方法により、実施例19及び20それぞれの圧電薄膜の組成が分析された。実施例19及び20のいずれの場合も、圧電薄膜の組成は、ターゲットの組成と一致した。つまり実施例19及び20それぞれの圧電薄膜の組成は、実施例9の圧電薄膜の組成と同じであった。
【0100】
実施例1と同様の方法により、実施例19及び20それぞれの圧電薄膜のXRDパターンが測定された。
実施例19及び20のいずれのXRDパターンも、圧電薄膜がペロブスカイト型酸化物の結晶から構成されていることを示していた。
実施例19及び20のいずれの場合も、圧電薄膜に含まれる結晶の少なくとも一部は、正方晶であった。
実施例19及び20のいずれの場合も、結晶の(001)面が、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。
【0101】
実施例1と同様の方法により、実施例19及び20それぞれの圧電薄膜の圧電歪定数d33,fが測定された。実施例19及び20それぞれのd33,fは、下記表3に示される。
【0102】
【表3】
【0103】
(実施例21)
実施例21の圧電薄膜素子の作製過程では、第一中間層が形成されなかった。実施例21の圧電薄膜素子の作製過程では、結晶質のSrRuOからなる第一電極層が結晶質基板の表面全体に直接形成された。実施例21の第一電極層の厚みは、200nmであった。これらの事項を除いて実施例9と同様の方法で、実施例21の圧電薄膜素子が作製された。
【0104】
実施例1と同様の方法により、実施例21の第一電極層のXRDパターンが測定された。実施例21の第一電極層の格子面は、第一電極層の表面の面内方向において配向してなかった。つまり、実施例21の場合、第一電極層の結晶の面内配向性がなかった。
【0105】
実施例1と同様の方法により、実施例21の圧電薄膜の組成が分析された。実施例21の圧電薄膜の組成は、ターゲットの組成と一致した。つまり実施例21の圧電薄膜の組成は、実施例9の圧電薄膜の組成と同じであった。
【0106】
実施例1と同様の方法により、実施例21の圧電薄膜のXRDパターンが測定された。
実施例21のXRDパターンも、圧電薄膜がペロブスカイト型酸化物の結晶から構成されていることを示していた。
実施例21の圧電薄膜に含まれる結晶の少なくとも一部は、正方晶であった。
実施例21の場合も、ペロブスカイト型結晶の(001)面が、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。
【0107】
実施例1と同様の方法により、実施例21の圧電薄膜の圧電歪定数d33,fが測定された。実施例21のd33,fは、下記表4に示される。
【0108】
【表4】
【0109】
(実施例22及び23)
実施例22のターゲットの作製では、原料として、酸化ガリウムに加えて酸化コバルトが更に用いられられた。
実施例23のターゲットの作製では、原料として、酸化ガリウムの代わりに酸化コバルトが用いられられた。つまり、実施例23のターゲットの作製では、酸化ガリウムは用いられなかった。
実施例22及び23それぞれのターゲットの組成は、下記化学式1Bで表された。実施例22及び23それぞれの場合、下記化学式1B中のx、y、z、γ、及びδそれぞれの値は、下記表5に示す値であった。
x(Bi0.50.5)TiO‐yBi(Ti0.5Mg0.5)O‐zBi(Fe1-γ(Ga1-δCoδγ)O (1B)
圧電薄膜の形成に用いたターゲットの組成が異なることを除いて実施例1と同様の方法で、実施例22及び23それぞれの圧電薄膜素子が作製された。
【0110】
実施例1と同様の方法により、実施例22及び23それぞれの第一電極層のXRDパターンが測定された。実施例22及び23のいずれの場合も、第一電極層を構成するPtの結晶の(002)面が、第一電極層の表面の法線方向において配向しており、Ptの結晶の(200)面が、第一電極層の表面の面内方向において配向していた。
【0111】
実施例1と同様の方法により、実施例22及び23それぞれの圧電薄膜の組成が分析された。実施例22及び23のいずれの場合も、圧電薄膜の組成は、ターゲットの組成と一致した。上記化学式1B中のGa1-δCoδを除いて、実施例22及び23それぞれの圧電薄膜の組成は、実施例9の圧電薄膜の組成と同じであった。
【0112】
実施例1と同様の方法により、実施例22及び23それぞれの圧電薄膜のXRDパターンが測定された。
実施例22及び23のいずれのXRDパターンも、圧電薄膜がペロブスカイト型酸化物の結晶から構成されていることを示していた。
実施例22及び23のいずれの場合も、圧電薄膜に含まれる結晶の少なくとも一部は、正方晶であった。
実施例22及び23のいずれの場合も、結晶の(001)面が、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。
【0113】
実施例1と同様の方法により、実施例22及び23それぞれの圧電薄膜の圧電歪定数d33,fが測定された。実施例22及び23それぞれのd33,fは、下記表5に示される。
【0114】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0115】
例えば、本発明の一側面に係る圧電薄膜素子は、圧電トランスデューサ、圧電アクチュエータ、及び圧電センサに応用されてよい。
【符号の説明】
【0116】
10…圧電薄膜素子、10a…圧電トランスデューサ(超音波トランスデューサ)、1…結晶質基板、2…第一電極層、3…圧電薄膜、4…第二電極層、5…第一中間層、6…第二中間層、D…第一電極層の表面の法線方向、dn…圧電薄膜の表面の法線方向、uc…ペロブスカイト型酸化物の結晶の単位胞。

図1
図2
図3
図4
図5
図6