(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020949
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】絶縁転がり軸受ユニット
(51)【国際特許分類】
F16C 33/58 20060101AFI20250205BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124594
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 慎太郎
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA69
3J701BA71
3J701DA05
3J701EA31
3J701EA78
3J701FA11
3J701GA01
3J701GA24
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】外輪が組み付けられるハウジングと外輪との間の絶縁性能を安定して確保することが可能な絶縁転がり軸受ユニットを提供する。
【解決手段】外輪3が外輪幅面9と外周円筒面10と外輪面取り部11とを有し、外周円筒面10の全体と、外輪面取り部11の少なくとも一部とが絶縁皮膜12でコーティングされている絶縁転がり軸受ユニットにおいて、外輪面取り部11の断面の円弧の曲率半径が10mm以上に設定されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪(3)と、前記外輪(3)の径方向内側に配置される内輪(4)と、前記外輪(3)と前記内輪(4)の間に組み込まれる複数の転動体(5)とを有する転がり軸受(1)と、
前記外輪(3)に軸方向に隣接して設けられる円環状の絶縁ワッシャ(2)と、を有し、
前記外輪(3)が、前記絶縁ワッシャ(2)の側の軸方向端に形成された軸方向に直角な外輪幅面(9)と、軸方向に沿って外径が一定の外周円筒面(10)と、前記外周円筒面(10)と前記外輪幅面(9)との間を接続する断面円弧状の外輪面取り部(11)とを有し、
前記外周円筒面(10)の全体と、前記外輪面取り部(11)の少なくとも一部とが絶縁皮膜(12)でコーティングされている絶縁転がり軸受ユニットにおいて、
前記外輪面取り部(11)の断面の円弧の曲率半径が10mm以上に設定されていることを特徴とする絶縁転がり軸受ユニット。
【請求項2】
前記外輪面取り部(11)のうち、前記外輪面取り部(11)の前記外周円筒面(10)の側の端から前記外輪面取り部(11)の軸方向の途中までの範囲にのみ前記絶縁皮膜(12)がコーティングされ、前記外輪面取り部(11)のうち、前記外輪面取り部(11)の軸方向の途中から前記外輪面取り部(11)の前記外輪幅面(9)の側の端までの軸方向範囲は、前記絶縁皮膜(12)がコーティングされずに、前記外輪(3)を構成する鋼材が露出した面となっている請求項1に記載の絶縁転がり軸受ユニット。
【請求項3】
前記絶縁皮膜(12)は、前記外輪面取り部(11)のうち、前記外輪面取り部(11)の前記外周円筒面(10)の側の端から前記外輪面取り部(11)の軸方向幅寸法の50%以上70%以下の範囲にコーティングされている請求項2に記載の絶縁転がり軸受ユニット。
【請求項4】
前記絶縁ワッシャ(2)が、前記外輪幅面(9)と軸方向に対向する円環板部(19)と、前記外輪面取り部(11)を径方向外側から取り囲むように前記円環板部(19)の径方向外端から軸方向に突出して形成された環状突起(20)とを有する請求項1から3のいずれかに記載の絶縁転がり軸受ユニット。
【請求項5】
前記絶縁ワッシャ(2)が、金属製のワッシャ(13)の表面全体に樹脂皮膜(14)をコーティングして形成されている請求項1から3のいずれかに記載の絶縁転がり軸受ユニット。
【請求項6】
前記絶縁ワッシャ(2)が絶縁樹脂で形成されている請求項1から3のいずれかに記載の絶縁転がり軸受ユニット。
【請求項7】
前記絶縁皮膜(12)の厚さが10~50μmに設定されている請求項1から3のいずれかに記載の絶縁転がり軸受ユニット。
【請求項8】
前記外輪面取り部(11)の軸方向幅寸法および径方向幅寸法がそれぞれ3.5mm以下に設定されている請求項1から3のいずれかに記載の絶縁転がり軸受ユニット。
【請求項9】
前記外輪面取り部(11)の軸方向幅寸法が2.0mm以上に設定され、前記外輪面取り部(11)の径方向幅寸法が0.5mm以上に設定されている請求項1から3のいずれかに記載の絶縁転がり軸受ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、絶縁転がり軸受ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
走行用の原動機として電動モータを使用する自動車として、EV(バッテリー式電気自動車)やHEV(ハイブリッド電気自動車)などの電気自動車が知られている。これらの電気自動車では、電動モータに交流電力を供給するために、バッテリの直流電力を交流電力に変換するインバータが使用され、電動モータの高効率化を図るために、電動モータに供給する交流電力の周波数が高く設定される。
【0003】
ここで、電動モータに供給される交流電力の周波数が高くなると、電動モータの主軸とモータハウジングとの間に生じる電位差によって、電動モータの主軸を支持する転がり軸受に電流が流れやすくなる。そして、転がり軸受に電流が流れると、転がり軸受の軌道面と転動体の間にスパークが発生し、そのスパークによって軌道面の損傷が次第に進行する現象(電食)が生じることがある。
【0004】
この電食を防止可能な絶縁転がり軸受ユニットとして、特許文献1、2のものが知られている。特許文献1、2の絶縁転がり軸受ユニットは、転がり軸受と、転がり軸受の外輪に軸方向に隣接して設けられる円環状の絶縁ワッシャとを有する。外輪は、絶縁ワッシャの側の軸方向端に形成された軸方向に直角な外輪幅面と、軸方向に沿って外径が一定の外周円筒面と、外周円筒面と外輪幅面との間を接続する断面円弧状の外輪面取り部とを有し、外周円筒面と外輪面取り部が、絶縁皮膜でコーティングされている。
【0005】
この絶縁転がり軸受ユニットは、外輪に軸方向に隣接して絶縁ワッシャが設けられているので、外輪幅面と、外輪を軸方向に位置決めするハウジングの内周の軸方向端面との間の軸方向の沿面距離を大きくとることができ、軸方向の絶縁を安定して確保することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平5-38420号公報
【特許文献2】特開2021-76227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2の絶縁転がり軸受ユニットにおいては、外輪とハウジングの内周との間での径方向の絶縁を確保するため、外輪の外周円筒面の全体と外輪面取り部の全体とに絶縁皮膜をコーティングする必要がある。
【0008】
ところが、外輪の外周円筒面と外輪面取り部とにコーティングされた絶縁皮膜のうち、外輪面取り部にコーティングされた部分は、外周円筒面にコーティングされた部分よりも比較的剥がれやすく、外輪面取り部の外輪幅面の側の端(すなわち外輪面取り部と外輪幅面の境界)の位置から剥がれるおそれがあることが分かった。
【0009】
外輪面取り部にコーティングされた絶縁皮膜が、外輪幅面の側の端から剥がれると、外輪面取り部の絶縁皮膜が剥がれた部分とハウジングの内周との間の径方向の沿面距離を確保することができなくなり、転がり軸受の電食が生じるおそれがある。
【0010】
この発明が解決しようとする課題は、外輪が組み付けられるハウジングと外輪との間の絶縁性能を安定して確保することが可能な絶縁転がり軸受ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ところで、一般の転がり軸受においては、断面円弧状の外輪面取り部の断面の円弧の曲率半径が2mm~3mm程度に設定されている。
【0012】
本願の発明者は、この外輪面取り部の断面の円弧の曲率半径を、一般的な外輪面取り部の断面の円弧の曲率半径(2mm~3mm程度)よりも大きくすれば、外輪が組み付けられるハウジングの内周と外輪面取り部との間の径方向距離を大きくすることができ、その結果、外輪面取り部にコーティングされた絶縁皮膜の一部が剥がれた場合にも、外輪面取り部の絶縁皮膜が剥がれた部分とハウジングの内周との間の径方向の沿面距離を確保することが可能となるという着想を得た。
【0013】
この着想に基づいて、この発明では、上記の課題を解決するため、以下の構成の絶縁転がり軸受ユニットを提供する。
[構成1]
外輪と、前記外輪の径方向内側に配置される内輪と、前記外輪と前記内輪の間に組み込まれる複数の転動体とを有する転がり軸受と、
前記外輪に軸方向に隣接して設けられる円環状の絶縁ワッシャと、を有し、
前記外輪が、前記絶縁ワッシャの側の軸方向端に形成された軸方向に直角な外輪幅面と、軸方向に沿って外径が一定の外周円筒面と、前記外周円筒面と前記外輪幅面との間を接続する断面円弧状の外輪面取り部とを有し、
前記外周円筒面の全体と、前記外輪面取り部の少なくとも一部とが絶縁皮膜でコーティングされている絶縁転がり軸受ユニットにおいて、
前記外輪面取り部の断面の円弧の曲率半径が10mm以上に設定されていることを特徴とする絶縁転がり軸受ユニット。
【0014】
この構成を採用すると、外輪面取り部の断面の円弧の曲率半径が、一般的な外輪面取り部の断面の円弧の曲率半径(2mm~3mm程度)よりも大きいので、外輪が組み付けられるハウジングの内周と外輪面取り部との間の径方向距離を大きくなる。そのため、外輪が組み付けられるハウジングと外輪との間の絶縁性能を安定して確保することが可能である。
【0015】
[構成2]
前記外輪面取り部のうち、前記外輪面取り部の前記外周円筒面の側の端から前記外輪面取り部の軸方向の途中までの範囲にのみ前記絶縁皮膜がコーティングされ、前記外輪面取り部のうち、前記外輪面取り部の軸方向の途中から前記外輪面取り部の前記外輪幅面の側の端までの軸方向範囲は、前記絶縁皮膜がコーティングされずに、前記外輪を構成する鋼材が露出した面となっている構成1に記載の絶縁転がり軸受ユニット。
【0016】
この構成を採用すると、外輪面取り部の絶縁皮膜が、絶縁皮膜の剥がれのきっかけになりやすい外輪面取り部の外輪幅面の側の端(すなわち外輪面取り部と外輪幅面の境界)にコーティングされていないので、外輪面取り部の絶縁皮膜の剥がれを抑制することが可能となる。
【0017】
[構成3]
前記絶縁皮膜は、前記外輪面取り部のうち、前記外輪面取り部の前記外周円筒面の側の端から前記外輪面取り部の軸方向幅寸法の50%以上70%以下の範囲にコーティングされている構成1または2に記載の絶縁転がり軸受ユニット。
【0018】
この構成を採用すると、外輪面取り部のうち絶縁皮膜がコーティングされていない部分とハウジングの内周との間の径方向の沿面距離を確保しながら、絶縁皮膜をコーティングする面積を抑えて低コスト化することができる。
【0019】
[構成4]
前記絶縁ワッシャが、前記外輪幅面と軸方向に対向する円環板部と、前記外輪面取り部を径方向外側から取り囲むように前記円環板部の径方向外端から軸方向に突出して形成された環状突起とを有する構成1から3のいずれかに記載の絶縁転がり軸受ユニット。
【0020】
この構成を採用すると、絶縁ワッシャが、外輪面取り部を径方向外側から取り囲む環状突起を有するので、外輪が組み付けられるハウジングの内周と外輪面取り部との間の絶縁性能をより安定して確保することが可能となる。
【0021】
[構成5]
前記絶縁ワッシャが、金属製のワッシャの表面全体に樹脂皮膜をコーティングして形成されている構成1から4のいずれかに記載の絶縁転がり軸受ユニット。
【0022】
[構成6]
前記絶縁ワッシャが絶縁樹脂で形成されている構成1から4のいずれかに記載の絶縁転がり軸受ユニット。
【0023】
[構成7]
前記絶縁皮膜の厚さが10~50μmに設定されている構成1から6のいずれかに記載の絶縁転がり軸受ユニット。
【0024】
このようにすると、絶縁皮膜の厚さが50μm以下なので、絶縁皮膜の剥がれを効果的に抑制することが可能となる。
【0025】
[構成8]
前記外輪面取り部の軸方向幅寸法および径方向幅寸法がそれぞれ3.5mm以下に設定されている構成1から7のいずれかに記載の絶縁転がり軸受ユニット。
【0026】
[構成9]
前記外輪面取り部の軸方向幅寸法が2.0mm以上に設定され、前記外輪面取り部の径方向幅寸法が0.5mm以上に設定されている構成1から8のいずれかに記載の絶縁転がり軸受ユニット。
【発明の効果】
【0027】
この発明の絶縁転がり軸受ユニットは、外輪面取り部の断面の円弧の曲率半径が、一般的な外輪面取り部の断面の円弧の曲率半径(2mm~3mm程度)よりも大きいので、外輪が組み付けられるハウジングの内周と外輪面取り部との間の径方向距離が大きい。そのため、外輪が組み付けられるハウジングと外輪との間の絶縁性能を安定して確保することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】この発明の第1実施形態にかかる絶縁転がり軸受ユニットをハウジングに組み付けた状態を示す断面図
【
図3】この発明の第2実施形態を
図2に対応して示す拡大断面図
【
図4】この発明の第3実施形態を
図1に対応して示す断面図
【
図6】この発明の第4実施形態を
図2に対応して示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1に、この発明の第1実施形態にかかる絶縁転がり軸受ユニットを示す。この絶縁転がり軸受ユニットは、転がり軸受1と円環状の絶縁ワッシャ2とを有する。
【0030】
転がり軸受1は、外輪3と、外輪3の径方向内側に同軸に配置される内輪4と、外輪3と内輪4の間に周方向に間隔をおいて組み込まれる複数の転動体5と、複数の転動体5の周方向の間隔を保持する保持器6とを有する。
【0031】
外輪3、内輪4、転動体5は、それぞれ鋼材で形成されている。転動体5は、ここでは玉である。転動体5は、外輪3の内周に形成された外輪軌道溝7と、内輪4の外周に形成された内輪軌道溝8との間で径方向に挟み込まれている。外輪軌道溝7および内輪軌道溝8は、周方向に直交する断面形状が円弧状の溝である。
【0032】
図2に示すように、外輪3は、絶縁ワッシャ2の側(図では左側)の軸方向端に形成された軸方向に直角な外輪幅面9と、軸方向に沿って外径が変化せず一定の外周円筒面10と、外周円筒面10と外輪幅面9との間を接続する断面円弧状の外輪面取り部11とを有する。
【0033】
外周円筒面10の全体と外輪面取り部11の全体は、絶縁皮膜12でコーティングされている。一方、外輪幅面9は、絶縁皮膜12でコーティングされず、外輪3を構成する鋼材が露出した面となっている。
【0034】
絶縁皮膜12は、樹脂で形成されている。絶縁皮膜12を構成する樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、イソシアネート樹脂、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ブチラール樹脂、エラストマー樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレア樹脂、アミノ樹脂、アクリル樹脂などを採用することができる。絶縁皮膜12は、外輪3の外周円筒面10と外輪面取り部11に下地処理を施し、次に、溶剤に溶かした樹脂を塗布し、乾燥した塗膜を焼成することで形成することができる。絶縁皮膜12は10~50μmの厚さを有し、0.01kV/μm以上の耐電圧を有する。なお図では、理解しやすくするために絶縁皮膜12の厚さを誇張して示しているが、実際の絶縁皮膜12の厚さは、図に示すよりも極めて薄い。
【0035】
一般の転がり軸受においては、外輪面取り部11の断面の円弧の曲率半径は2mm~3mm程度に設定されるが、この実施形態においては、外輪面取り部11の断面の円弧の曲率半径が10mm以上に設定されている。外輪面取り部11の軸方向幅寸法(すなわち、外輪面取り部11と外周円筒面10の境界の位置から、外輪面取り部11と外輪幅面9の境界の位置までの軸方向距離)は、2.0mm以上3.5mm以下に設定されている。外輪面取り部11の径方向幅寸法(すなわち、外輪面取り部11と外周円筒面10の境界の位置から、外輪面取り部11と外輪幅面9の境界の位置までの径方向距離)は、0.5mm以上(好ましくは1.0mm以上、より好ましくは1.5mm以上)3.5mm以下に設定されている。
【0036】
絶縁ワッシャ2は、外輪3に軸方向に隣接して設けられている。絶縁ワッシャ2は、軸方向の厚さが径方向に沿って一定の平板状に形成されている。また、絶縁ワッシャ2は、軸方向から見て外輪幅面9を覆う円環状である。絶縁ワッシャ2の内径は、外輪幅面9の径方向内端の径よりも小径である。
【0037】
図2に示すように、絶縁ワッシャ2は、金属(ステンレススチール等)製のワッシャ13の表面全体に樹脂皮膜14をコーティングして形成されている。樹脂皮膜14を構成する樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、イソシアネート樹脂、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ブチラール樹脂、エラストマー樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレア樹脂、アミノ樹脂、アクリル樹脂などを採用することができる。樹脂皮膜14は10~50μmの厚さを有し、0.01kV/μm以上の耐電圧を有する。
【0038】
この絶縁転がり軸受ユニットは、
図1、
図2に示すように、ハウジング15に組み付けて使用することができる。
図2に示すように、ハウジング15は、外輪3の外周円筒面10に嵌合する円筒状の内周嵌合面16と、内周嵌合面16の軸方向端部から径方向内方に延びる軸方向端面17と、軸方向端面17の径方向内端から内周嵌合面16の側とは反対側(図では左側)に延びる内周円筒面18とを有する。絶縁ワッシャ2は、ハウジング15の軸方向端面17に突き当てて組み込まれる。絶縁ワッシャ2の内径は、ハウジング15の内周円筒面18の内径よりも小径に設定されている。
【0039】
この絶縁転がり軸受ユニットは、
図2に示す外輪面取り部11の断面の円弧の曲率半径が、一般的な外輪面取り部11の断面の円弧の曲率半径(2mm~3mm程度)よりも大きく、10mm以上に設定されているので、ハウジング15の内周嵌合面16と外輪面取り部11との間の径方向距離が大きい。そのため、外輪面取り部11にコーティングされた絶縁皮膜12の一部が、外輪面取り部11の外輪幅面9の側の端(すなわち外輪面取り部11と外輪幅面9の境界)の位置から剥がれた場合にも、外輪面取り部11の絶縁皮膜12が剥がれた部分とハウジング15の内周嵌合面16との間の径方向の沿面距離を確保することが可能であり、ハウジング15と外輪3との間の絶縁性能を安定して確保することが可能である。
【0040】
また、絶縁皮膜12の厚さが50μm以下なので、絶縁皮膜12の剥がれを効果的に抑制することが可能となっている。
【0041】
図3に、この発明の第2実施形態を示す。第2実施形態は、第1実施形態と比べて絶縁ワッシャ2の形状が異なるが、それ以外の構成は同一である。第1実施形態に対応する部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0042】
絶縁ワッシャ2は、外輪幅面9と軸方向に対向する円環板部19と、外輪面取り部11を径方向外側から取り囲むように円環板部19の径方向外端から軸方向に突出して形成された環状突起20とを有する。
【0043】
円環板部19は、軸方向の厚さが径方向に沿って一定の平板状に形成されている。また、円環板部19は、軸方向から見て外輪幅面9を覆う円環状である。円環板部19の内径は、外輪幅面9の径方向内端の径よりも小径である。環状突起20は、先端に向かって径方向の幅が次第に小さくなる先細の断面形状を有する。環状突起20の内周は、外輪面取り部11に嵌合する断面凹円弧状の曲面とされている。
【0044】
この実施形態の絶縁転がり軸受ユニットは、絶縁ワッシャ2が、外輪面取り部11を径方向外側から取り囲む環状突起20を有するので、外輪3が組み付けられるハウジング15の内周と外輪面取り部11との間の絶縁性能をより安定して確保することが可能である。その他の作用効果は、第1実施形態と同様である。
【0045】
図4、
図5に、この発明の第3実施形態を示す。第3実施形態は、第1実施形態と比べて絶縁皮膜12のコーティング範囲と絶縁ワッシャ2の材質とが異なるが、それ以外の構成は同一である。第1実施形態に対応する部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0046】
図5に示すように、外輪面取り部11のうち、外輪面取り部11の外周円筒面10の側(図では右側)の端から外輪面取り部11の軸方向の途中までの範囲にのみ絶縁皮膜12がコーティングされ、外輪面取り部11のうち、外輪面取り部11の軸方向の途中から外輪面取り部11の外輪幅面9の側(図では左側)の端までの軸方向範囲は、絶縁皮膜12がコーティングされずに、外輪3を構成する鋼材が露出した面となっている。
【0047】
ここで、絶縁皮膜12は、外輪面取り部11のうち、外輪面取り部11の外周円筒面10の側(図では右側)の端の位置から、外輪面取り部11の軸方向幅寸法(すなわち、外輪面取り部11と外周円筒面10の境界の位置から、外輪面取り部11と外輪幅面9の境界の位置までの軸方向距離)の50%以上70%以下の範囲にコーティングされている。
【0048】
絶縁ワッシャ2は、樹脂材料にガラス繊維等の繊維強化材を添加した絶縁樹脂で一体に形成されている。絶縁樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、イソシアネート樹脂、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ブチラール樹脂、エラストマー樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレア樹脂、アミノ樹脂、アクリル樹脂などを採用することができる。
【0049】
この実施形態の絶縁転がり軸受ユニットは、外輪面取り部11の絶縁皮膜12が、絶縁皮膜12の剥がれのきっかけになりやすい外輪面取り部11の外輪幅面9の側の端(すなわち外輪面取り部11と外輪幅面9の境界)にコーティングされていないので、外輪面取り部11の絶縁皮膜12の剥がれを抑制することが可能である。
【0050】
また、この実施形態の絶縁転がり軸受ユニットは、外輪面取り部11のうち、外輪面取り部11の外周円筒面10の側(図では右側)の端から外輪面取り部11の軸方向幅寸法の50%以上70%以下の範囲にコーティングされているので、外輪面取り部11のうち絶縁皮膜12がコーティングされていない部分とハウジング15の内周嵌合面16との間の径方向の沿面距離を確保しながら、絶縁皮膜12をコーティングする面積を抑えて低コスト化することが可能となっている。
【0051】
図6に、この発明の第4実施形態を示す。第4実施形態は、第3実施形態と比べて絶縁ワッシャ2の形状が異なるが、それ以外の構成は同一である。第3実施形態に対応する部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0052】
絶縁ワッシャ2は、外輪幅面9と軸方向に対向する円環板部19と、外輪面取り部11を径方向外側から取り囲むように円環板部19の径方向外端から軸方向に突出して形成された環状突起20とを有する。
【0053】
円環板部19は、軸方向の厚さが径方向に沿って一定の平板状に形成されている。また、円環板部19は、軸方向から見て外輪幅面9を覆う円環状である。円環板部19の内径は、外輪幅面9の径方向内端の径よりも小径である。環状突起20は、先端に向かって径方向の幅が次第に小さくなる先細の断面形状を有する。環状突起20の内周は、外輪面取り部11に嵌合する断面凹円弧状の曲面とされている。環状突起20の先端は、外輪面取り部11にコーティングされた絶縁皮膜12と径方向に重なるように配置されている。
【0054】
この実施形態の絶縁転がり軸受ユニットは、絶縁ワッシャ2が、外輪面取り部11を径方向外側から取り囲む環状突起20を有するので、外輪3が組み付けられるハウジング15の内周と外輪面取り部11との間の絶縁性能をより安定して確保することが可能である。
【0055】
また、この実施形態の絶縁転がり軸受ユニットは、絶縁ワッシャ2の環状突起20の先端と、外輪面取り部11にコーティングされた絶縁皮膜12とが径方向に重なる位置関係とされているので、ハウジング15の内周嵌合面16と外輪面取り部11との間の径方向の絶縁が確実である。
【0056】
また、この実施形態の絶縁転がり軸受ユニットは、絶縁ワッシャ2が絶縁樹脂で形成されているので、絶縁ワッシャ2の環状突起20を金型で容易に形成することが可能であり、低コストである。その他の作用効果は、第3実施形態と同様である。
【0057】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
1 転がり軸受
2 絶縁ワッシャ
3 外輪
4 内輪
5 転動体
9 外輪幅面
10 外周円筒面
11 外輪面取り部
12 絶縁皮膜
13 ワッシャ
14 樹脂皮膜
19 円環板部
20 環状突起