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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020994
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】サーボ加速度計
(51)【国際特許分類】
   G01P 15/13 20060101AFI20250205BHJP
   G01P 15/08 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
G01P15/13 C
G01P15/08 101B
G01P15/08 102Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124661
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 茂高
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来のサーボ速度計では、接着剤により振子の支持部が変形し、ヒンジが応力を受けて錘部の動きが変わり、センサ精度が低下する可能性がある。
【解決手段】加速度に応じて変位する振子1と、振子1に設けられたトルカコイル11、12と、トルカコイル11、12が受ける磁束を内部に通して磁気回路を形成するヨーク15、16と、を備え、振子1の変位を制御する電流をトルカコイル11、12に供給するサーボ加速度計であって、振子1の支持部10bの表面に設けられる応力緩和層41と、ヨーク15、16の表面に設けられ、応力緩和層41に接している接着層40により、支持部10bはヨーク15、16に固定され、応力緩和層41のヤング率が、支持部10bのヤング率よりも小さいことを特徴とするサーボ加速度計で解決する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度に応じて変位する振子と、前記振子に設けられたトルカコイルと、前記トルカコイルが受ける磁束を内部に通して磁気回路を形成するヨークと、を備え、前記振子の変位を制御する電流を前記トルカコイルに供給するサーボ加速度計であって、
前記振子の支持部の表面に設けられる応力緩和層と、
前記ヨークの表面に設けられ、前記応力緩和層に接している接着層により、
前記支持部は前記ヨークに固定され、
前記応力緩和層のヤング率が、前記支持部のヤング率よりも小さいことを特徴とするサーボ加速度計。
【請求項2】
前記ヨークの表面に溝を有し
前記接着層が前記溝の中に設けられ、
前記ヨーク、前記応力緩和層は、それぞれ2つ設けられ、
前記支持部の厚み方向において、前記支持部を中心に、対称配置されていることを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項3】
前記振子がコンデンサの電極として機能する薄膜電極を有し、
前記ヨークが前記コンデンサのもう一つの電極として機能する電極面を有し、
前記薄膜電極を表面に有する前記振子の錘部の厚みが前記支持部の厚みと等しく、
前記応力緩和層の厚みが5~30μmであり、
前記支持部の表面に対向する前記ヨークの表面が、前記電極面から凸にならず、
前記接着層と前記ヨークの接触面の少なくとも一部が、前記電極面と同一の高さである平坦面であり、
前記平坦面と対向する前記支持部の表面と、前記平坦面の距離が、前記薄膜電極と前記電極面との空間に設けられるダンピングギャップの高さと前記薄膜電極の厚みの合計と等しいことを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計
【請求項4】
前記支持部と前記応力緩和層の接触面は、前記接着層と前記応力緩和層が接触面よりも広く、前記接着層が前記支持部と接していない
ことを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項5】
前記接着層の厚みが100nm以上1μm未満である
ことを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項6】
前記応力緩和層と前記支持部の界面に密着層を有し、
前記応力緩和層の表面に酸化防止層を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項7】
前記支持部が石英ガラスである
ことを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項8】
前記応力緩和層がAuおよびAu合金、AlおよびAl合金、MgおよびMg合金から選択される少なくとも一種である
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のサーボ加速度計。
【請求項9】
前記応力緩和層の厚みが1μm未満である
ことを特徴とする請求項8に記載のサーボ加速度計。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振子を用いた力サーボ加速度計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のサーボ加速度計は、磁気回路を形成するヨークユニットと、入力加速度で揺動する振子を備えている。ヨークユニットは磁束を生み出す永久磁石と、内部に磁束が通るポールピースとヨークで構成される。振子は、加速度によって変位が生じる錘部と、錘部を懸架するヒンジと、ヒンジを介して錘部を固定する支持部で構成される。錘部の表面にはトルカカップが固定され、トルカカップにはトルカコイルが巻きつけられる。加速度の検出では、加速度で生じた錘部の変位を、振子やヨークユニットなどに形成された電極の隙間に生じる静電容量で検出し、電圧に変換・増幅してトルカコイルに供給する。そして、ヨークユニットが有する磁気空隙内の磁場と、トルカコイルに流れる電流によって生じるローレンツ力(復元力)により、錘部の変位をゼロに制御される。このときの復元力は慣性力と等しくなるので、加速度をトルカコイル電流から検知できる。
【0003】
潜水艦や航空機、ロケットなどの慣性航法を必要とする乗物若しくは移動体では、その位置や速度を高精度に算出するために、10μG(G:重力加速度)以下のセンサ分解能を持つサーボ加速度計が使用されている。高いセンサ精度を得るためには、振子を構成する錘部やヒンジ、支持部の意図しない変形を抑制する必要がある。支持部が変形すると、支持部に固定されたヒンジは応力を受けて変形し、錘部は他の部品に対する位置が変わる。これらは錘部の変位に影響を与えて、サーボ加速度計の誤差要因となる。例えば、特許文献1のサーボ加速度計では、振子の支持部はヨークユニットに接着剤で固定される。接着剤は硬化により収縮するため、支持部は応力を受けて変形し、サーボ加速度計のセンサ精度は低下する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-070356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のサーボ速度計では、接着剤により振子の支持部が変形し、ヒンジが応力を受けて錘部の動きが変わり、センサ精度が低下する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のサーボ加速度計は、加速度に応じて変位する振子と、前記振子に設けられたトルカコイルと、前記トルカコイルが受ける磁束を内部に通して磁気回路を形成するヨークと、を備え、前記振子の変位を制御する電流を前記トルカコイルに供給するサーボ加速度計であって、前記振子の支持部の表面に設けられる応力緩和層と、前記ヨークの表面に設けられ、前記応力緩和層に接している接着層により、前記支持部は前記ヨークに固定され、前記応力緩和層のヤング率が、前記支持部のヤング率よりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
接着剤が支持部に与える応力を軽減することで、高精度のサーボ加速度計を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施例におけるサーボ加速度計の分解斜視図
図2】本実施例におけるサーボ加速度計の断面図
図3】実施例1における振子の正面図
図4】実施例1における振子の背面図
図5】実施例1における接着層と応力緩和層
図6】実施例2における接着層と応力緩和層
図7】実施例2におけるヨークユニット
図8】実施例2におけるヨークユニット
図9】実施例3における接着層と応力緩和層
図10】実施例3における接着層と応力緩和層
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。図1はこの発明によるーボ加速度計の一実施例の構成を示したものであり、構成部品の分解斜視図である。図2にはサーボ加速度計の断面図を示す。サーボ加速度計は円板や円筒形状の部品を重ねた装置であり、これら部品群の中心軸は一致している。
【0010】
振子1は、振子の基部10の表面にトルカコイル11、12を巻回されたトルカカップ13、14が固定されている。固定の方法としては、エポキシ系接着剤などによる接着や、ネジなどを用いた機械的な固定、溶接などを用いた接合が挙げられる。トルカカップ13、14の材質は非磁性で軽量な材料が適しており、アルミ合金やチタン合金、樹脂材料などで構成される。トルカコイル11、12は線形状で金属材料の導電性ワイヤで構成され、その材料には高い導電性が必要となるため、銅や銅合金、アルミ、アルミ合金などが適している。導電性ワイヤの外周には、ポリウレタンやポリエステル、ポリエステルイミドなどで構成される絶縁層を備え、その外周には、主にポリビニルブチラルやポリアミド、ポリエステルなどで構成される融着層を備える。導電性ワイヤ24はトルカカップ13、14に巻きつけられた後に、隣接する融着層同士が接着することで、トルカコイル11、12の形状が固定される。融着層の接着方法は、溶剤を塗布する方法や、加熱による軟化・融解が挙げられる。
【0011】
図3に振子1の正面図を、図4に振子1の背面図を示す。舌片形状の振子の錘部10aは、円筒状の枠体である支持部10bの枠内に位置する。錘部10aはヒンジ10cに連結し支持部10bに支持される。加速度検知軸30方向に加速度が生じると、振子の支持部10bに対して薄肉のヒンジ10cが弾性変形し、ヒンジ10cの長手方向の中心を軸にして、錘部10aが回転運動する。
【0012】
錘部10aと支持部10b、ヒンジ10cの製作方法を説明する。金属やガラス材料の母材から板材を切り出し、研磨することで所望の厚みと面精度となる基板を製作する。振子1の表面は、トルカカップ13、14やヨーク15、16の位置の基準となる。そのため、振子表面の面精度が高いほど、各部品の組立精度は向上する。次に切削加工やウェットエッチング、レーザなどによって、母材の一部を除去することで、錘部10aと支持部10b、ヒンジ10cの形状を製作する。
【0013】
ヨークユニット2、3の構成を説明する。ヨーク15、16の一端側は、円形状のヨーク17、18によって閉塞され、他の一端側である開放端面側が支持部10bを固定している。ポールピース19、20、は、ヨーク15、16の開放端面の中心の穴の周囲に設けられ、円柱状の永久磁石21、22はポールピース19、20と接し、ヨーク15、16の内部に収納されている。この構成によって各部品に磁束が通り、ヨークユニットによって磁気回路が形成される。そして、ヨーク15、16の開放端内周面とポールピース19、20の外周面との間に環状の磁気空隙がそれぞれ形成される。シールバンド23は、ヨーク15と16の外周に接着剤などを用いて固定さる。これにより、振子1とヨーク15、16が一体となる。
【0014】
永久磁石21、22は、板厚方向に着磁されたネオジウムやサマリウムコバルト、アルニコ磁石などで構成され、ヨーク15、16と円形状ヨーク17、18、ポールピース19、20は軟磁性材料で構成される。永久磁石21、22と円形状ヨーク17、18と、ポールピース19、20は、それぞれ接着剤により固定され、ヨーク15、16と円形状ヨーク17、18はレーザ溶接によって接合される。
【0015】
ヨーク表面の電極面15e、16eと、それに対向する錘部10aの薄膜電極10dは、コンデンサの2つの電極として機能する。加速度の入力によって生じた錘部10aの変位は、電極間の静電容量を変化させ、その差を電圧として検出し、図示しないサーボアンプにより差動増幅される。そして、静電容量差に基づいたサーボ電流が一対のトルカコイル11、12に供給される。この静電容量を検出する電気信号とサーボ電流は、薄膜電極10dや、ヒンジ10cと支持部10bの表面に形成された薄膜配線10e、導電性ワイヤ24、および端子25を経路としてサーボアンプへと流れる。
【0016】
振子1の平面に垂直となる方向(加速度検知軸30)に加速度が印加されると、加速度を受けた錘部10aは変位するが、トルカ電流と磁気空隙内の磁界で生じるローレンツ力により変位は中立点へ戻り、加速度で生じる力、すなわち慣性力とローレンツ力は平衡する。この時、トルカ電流の大きさは、加速度検知軸に沿った加速度の大きさに直接的に対応するため、加速度を検知することが出来る。
【0017】
導電性ワイヤ24や端子25は主に導電性が高い材料、例えば、銅やアルミ、鉄などの単一の金属か、その合金で構成される。特に、銅は電機伝導率が高いため適している。だだし銅は酸化し易いため、その表面に酸化防止のためにAu薄膜を形成することが好ましい。端子25と導電性ワイヤ24の固定方法には、ワイヤボンディングや半田付け、レーザ溶接が挙げられる。
【0018】
(実施例1)
図5に支持部10bがヨーク15、16に固定される箇所の断面を示す。また、図5図3のAA線で加速度計を切断し,その周辺の支持部10bとヨーク15、16を抽出した模式図である。支持部10bの表面に応力緩和層41を備え、応力緩和層41とヨークの間には接着剤で構成された接着層40を備える。接着層40、応力緩和層41は、ヨーク15、16と同様にそれぞれ2つ設けられ、支持部10bの厚み方向において支持部を中心に対称配置されている。
【0019】
接着剤の構成材料としては、特に限定されず、例えばエポキシ系接着剤やアクリル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等が挙げられる。硬化した接着層が発するアウトガスは、サーボ加速度計内部に微粒子として付着し、故障の原因となる場合がある。また、アウトガスはサーボ加速度計内部に充填される気体の組成を変えるため、振子とヨークのギャップに生じる流動抵抗(スクイーズフィルムダンピング)が変化し、振子の動きを変化させて、サーボ速度計のセンサ精度を低下させる。高精度なサーボ速度計に使用される接着剤のアウトガスは少ないほど好ましく、例えば、慣性航法に用いられる分解能10μGの高精度サーボ加速度計では、質量損失比(TML:Total Mass Loss)は1%以下、再凝縮物質量比(CVCM:Collected Volatile Condensable Materials)は0.5%以下が挙げられる。
接着剤が硬化し接着層40になると、体積の変化によって、接着層は支持部に応力を与えて変形させる。変形が大きければ、ヒンジ10cは支持部10bから応力を与えられて大きく変形し、錘部10aは電極面15e、16eに押し付けられた状態となり、加速度を受けても錘部10aには回転運動が生じない。つまり、加速度計の動作不良となる。変形が小さい場合でも、ヒンジの内部応力や変形によって錘部の回転運動が変化するため、サーボ速度計のセンサ精度を低下させる。更には、ヒンジ10cに懸架される錘部10aの姿勢は理想位置から移動し、振子1の薄膜電極10dに対する電極面15e、16eの距離にばらつきが生じる。薄膜電極10dと電極面15e、16eの距離のバラツキは、加速度を受けた錘部10aが受けるスクイーズフィルムダンピングを不安定にさせて、錘部の回転運動に微小な振動を与える。この振動はトルカコイル電流のノイズ成分となり、サーボ速度計のセンサ精度を低下させる。
【0020】
応力緩和層41は支持部10bの表面に設けられ、接着層40と接し、ヤング率が支持部41より小さい。支持部10bと応力緩和層41の接触面は、接着層40と応力緩和層41が接触面よりも広く、また接着層が支持部と直接的には接していない。接着層40が支持部10bに与えるひずみは、支持部10bよりも変形し易い応力緩和層41を間に挟むことによって減少し、支持部10bの変形は抑制される。ヤング率は、温度25℃で、ISO14577に準拠したナノインデンテーション法を用いて測定する。
【0021】
図5に示すヨーク15、16の表面にはそれぞれに接着層40を有しているが、ヨーク15の表面に有する接着層40だけでも、サーボ加速度計は組み立てることができる。例えば、ヨーク15に支持部10bを接着剤で固定した後に、ヨーク16の開放端側を支持部に被せて支持部10bに押し当て、シールバンド23をヨーク15、16に固定する。ヨーク16が支持部10bに対して力を与えることで、静止摩擦力で支持部10bはヨーク16に固定される。この方法では、接着層40を必要とする支持部10bの固定部は片面であり、接着層40を用いて支持部10bとヨーク15,16を固定させる場合と比較すると、接着剤の使用量を半減させることができ、接着層40による応力の影響を小さくすることができる。また、ヨークユニット2の端子25と振子の配線10eを導電性ワイヤ24で接続する工程、例えば、ワイヤボンディングやはんだ付け工程では、支持部10bはヨーク15に接着剤で固定されているため、端子25に対して支持部10bの位置ずれが起きない。つまり、加工の障害となる部品の位置ずれを抑制し、高い信頼性を持つ接合部を得られる。一方、ヨーク16には端子や導電性ワイヤが無いため、接着層による固定は必ずしも必要ではない。また、図5に示すサーボ加速度計ではヨークユニットが2つあるが、ヨークユニットを一つしか用いないサーボ加速度計においても同様である。
【0022】
振子1の材料は石英ガラスである。石英ガラスの線膨張係数は0.5×10-6/K程度であり、一般的な商用金属の1/10程度である。このため、温度変化による錘部10aの運動の変化が小さくなり、振子の変形を抑制することができる。更には、石英ガラスは絶縁材料であるため、振子1の表面に形成する薄膜配線10eと導通しないため、リーク電流によるセンサ精度の低下が起きない。更には、非磁性材料であるため、ヨークユニット2、3が形成する磁気空隙内の磁場を変化させない。石英ガラス製の振子はサーボ加速度計に適しており、特に慣性航法に必要となる分解能10μGを得やすい。
【0023】
応力緩和層の材料としては、例えばAuおよびAu合金、AlおよびAl合金、MgおよびMg合金から選択される少なくとも一種を採用することができる。中でも、化学的安定性、展延性の観点から、AuおよびAu合金が好ましく、さらにヤング率と経済性の観点から、1μm未満の金薄膜が適している。
【0024】
一般的な冶金で製作されたAuのインゴット(バルク材)のヤング率は74GPa程度であり、石英ガラスの70GPaと同等か、それ以上となる。一方、物理蒸着法に代表される微細加工技術により作製される厚み1μm未満の金薄膜のヤング率は20~50GPaである。Au薄膜の結晶構造は非晶質、もしくは結晶子サイズが数ナノメートルしかない多結晶である。結晶サイズが大きいバルク材と比較すると、ひずみに対する変形の抵抗力が小さくなるため、ヤング率が小さくなる傾向にある。この傾向はAu合金、AlおよびAl合金、MgおよびMg合金においても同様である。
【0025】
AuおよびAu合金は他の金属材料と比較して展延性が高い。接着層との界面において、局所的に応力緩和層が高い応力を受けても、応力緩和層が塑性変形することで、ひずみを吸収し、支持部が受ける応力が減少する。
【0026】
(実施例2)
図6はこの発明によるサーボ加速度計の他の実施例の構成を示したものである。図6図3のAA線で加速度計を切断し,その周辺の支持部10bとヨーク15、16を抽出した模式図である。図7図8はヨークユニット2、3の開放端側を示したものである。ヨーク15、16の表面には溝15a、16aがあり接着層40aが設けられ、接着層40aの上面が応力緩和層41と接する。同一の形状の溝15a、16aに対応して接着層40aが設けられ対称配置されている。
【0027】
支持部10bはヨーク15、16に挟まれて固定されるため、支持部10bは対向するヨーク15,16から方向が逆向きの力を接着層40aと応力緩和層41を介して受けることになる。理想的には支持部10bの厚み中心で対称位置にあるが、接着剤の塗布作業のばらつきなどによって接着層40aの位置がずれると、支持部10bが接着層40aから受ける2つの逆向きの力の基点がずれることで、支持部10bは曲げモーメントを受けて変形する。接着剤の硬化収縮により接着層40aが支持部10bに与える応力も同様のことが言える。加えて、固定箇所ごとに接着層40aによる支持部10bの変形量が異なると、支持部10bはヨーク15、16に対して傾いて固定され、ヨーク15、16に対する振子1の姿勢が傾く。支持部の変形を抑制するためには、接着層40aと応力緩和層41は支持部10bの厚み中心で対称位置にあり、接着層40aの大きさ、つまり接着剤の塗布量を一定にする必要がある。
【0028】
上述した実施例では、溝15a、16aに接着剤を充填するため、接着層40aの位置ずれや塗布量のばらつきは溝15a、16aの寸法精度と各部品の組立精度に依存する。これらは加工技術や組立技術によって制御できるが、液体である接着剤をヨーク15、16や支持部10bの表面に塗布する手法では、接着層40aの大きさや位置は各部品の表面張力や部品の位置関係によって大きく変化するため制御が困難である。一方、溝15a、16aを高精度に加工し、ヨーク15,16を高精度に組み立てることができれば、支持部10bの厚み中心で対称位置にある2つの接着層40aの位置ずれは小さくなる。その結果、支持部10bが接着層40aを介して受ける回転モーメントは小さくなり、支持部10bの変形も小さくなる。更には、接着層40aの厚みも均一になるため、固定箇所ごとの変形量も等しくなり、ヨーク15、16に対する振子1の姿勢も傾きにくい。同様に、2つの応力緩和層41が支持部10bの厚みを中心に対称の位置にあると、支持部10bに与えられる回転モーメントは小さくなる。
【0029】
物理蒸着法などの薄膜作製法では、原材料の原子にエネルギーを与えて、母材表面に堆積させていく。母材表面に付着した複数の原子が凝集や結晶化することで、母材表面に薄膜が形成される。母材は原子から受ける熱エネルギーや、原子の凝集や結晶化によって応力を受けて変形する。加工条件の調整により、母材に与える応力を少なくする事は可能だが、残留する応力は少なからず生じてしまう。
【0030】
支持部10bに対称配置された応力緩和層41は、それぞれ同じ材料と加工条件で製作される。それぞれの応力緩和層41が支持部10bに与える応力は等しいため、支持部10bの変形は厚み方向ではつり合いが取れる。そのため、対称配置されない応力緩和層41を形成した場合と比較すると、厚み方向における支持部10bの変形は少なくなる。リング形状の支持部10bは、平面方向よりも厚み方向に変形し易いため、対称配置された応力緩和層41による変形の抑制効果は大きい。
【0031】
溝15a、16aに接着剤を充填するため、従来のサーボ加速度計よりも接着剤の使用量が増える。1つの接着層40aの影響のみに着目すると、接着層40aが支持部10bに与える応力は増加するため、それを緩和するために応力緩和層41がより必要となる。
【0032】
(実施例3)
図9はこの発明によるサーボ加速度計の他の実施例の構成を示したものである。図9図3のBB線で加速度計を切断し,その周辺の支持部とヨーク15、16、薄膜電極10dを抽出した模式図である。応力緩和層41の厚みは5~30μmであり、支持部10bの表面に対向するヨーク15、16の表面が電極面15e、16eから凸にならず、接着層40aとヨーク15、16の接触面15b、16bの少なくとも一部が、電極面15e、16eと同一の高さとなる平坦面である。その平坦面に対向する支持部10bの表面と、平坦面との距離が、薄膜電極10dと電極面15e、16eの空間に設けられるダンピングギャップ44の高さと薄膜電極10dの厚みの合計と等しい
【0033】
電極面15e、16eと接着層40aがヨーク15、16と接する面の高さが異なると、それぞれの面を個別に加工するため、面同士の平行度は大きくなる。一方、接触面15b、16bにおける平坦面部分は同じ高さのため、同時加工により平面度や平行度を小さくすることができる。同じく、支持部10bと錘部10aの厚みを均一にすると、各両面の平面度や平行度は小さくできる。そして、応力緩和層41や薄膜電極10dは物理蒸着法に代表される微細加工技術により作製されるので、高精度に厚みを制御することが可能である。つまり、薄膜電極10dと電極面15e、16eのダンピングギャップを高精度に形成することができる。そして、ギャップの偏りで生じる流動抵抗の不均一が減少し、高いセンサ精度を得られる。
【0034】
接着層40aの厚みは100nm以上1μm未満である。接着層40aの厚みが小さいほど、支持部に与える応力は少なくなるが、せん断強度も小さくなるため適切な厚みが必要となる。潜水艦や航空機、ロケットなどの慣性航法を必要とする乗物若しくは移動体のサーボ加速度計では少なくとも耐衝撃性50Gが必要となる。本実施例に記載のサーボ加速度計は直径1インチ程度の円筒体であり、その重量は20g~90gであり、少なくとも±20Gの入力加速度を持つ。このようなサーボ加速度において、支持部10bとヨーク15、16が分離しない接着層40aの厚みは少なくとも100nmは必要となる。一方、接着層40aが厚いと、接着層40aごとの厚みのばらつきが大きくなるため、支持部10bはヨーク15、16に対して傾いて固定され、薄膜電極10dと電極面15eの平行度は低下する。これらの平行度が低下すると、ダンピングギャップ44を不均一にするが、ダンピングギャップ44は5~30μmであるため、1μm未満の接着層40aにおける厚みのばらつきの影響は無視できるほど小さい。更には、応力緩和層41の厚みは、接着層40aに比べて5~300倍であり接着層40aの硬化収縮で生じる応力を十分に緩和できる厚みを有する。
【0035】
図10に応力緩和層の形態の一つを示す。応力緩和層41と支持部10bの界面には密着層42を有し、酸化防止層43は密着層42が接してない応力緩和層41の表面を覆う。密着層42は、TiおよびTi合金、Cr、NiおよびNi合金から選択される少なくとも一種を採用することができる。応力緩和層41はAlおよびAl合金、MgおよびMg合金から選択される少なくとも一種を採用することができる。酸化防止層43はAuまたはAu合金である。密着層の厚みは200nm以下であり、酸化防止層43の厚みは1μm未満である。
【0036】
応力緩和層41としてAuまたはAu合金は優れているが、5~30μmの厚みの薄膜構造体を製作すると製造コストは高くなる。本発明のサーボ加速度では、安価である商用合金を応力緩和層41に用いることで高い経済性を得られる。一方、Auと比較すると化学的安定性が低いことから酸化しやすいので、応力緩和層41は酸化防止層43を表面に備える。
【0037】
ガラス材料と金属薄膜の密着性は低い傾向にある。先に述べた成膜方法により作製されるTiおよびTi合金、Cr、NiおよびNi合金から選択される少なくとも一種の密着層は、振子材料である石英ガラスの界面に、化学に安定で高強度の混合層を形成することができる。例えばチタンの場合、石英ガラスの酸素原子や珪素原子と結合して、界面に非晶質Si-Ti混合層や非晶質Si-O-Ti混合層を形成する。これらは準安定状態で高強度のため、チタンと石英ガラスは強い密着力を得ることができる。"
【符号の説明】
【0038】
1 振子
2、3 ヨークユニット
10 振子の基部
10a 振子の錘部
10b 振子の支持部
10c 振子のヒンジ
10d 振子の薄膜電極
10e ヒンジや支持部や錘部の表面に形成される薄膜配線
10f 取り付けパッド
15、16 ヨーク
15a、16a ヨークの溝
15b、16b ヨークと接着層の接触面
15e、16e ヨークの電極面
17、18 円形状ヨーク
23 シールバンド
24 導電性ワイヤ
25 端子
30 加速度検知軸
40 接着層
40a 溝に設けられた接着層
41 応力緩和層
42 密着層
43 酸化防止層
44 ダンピングギャップ

図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10