(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020995
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】サーボ加速度計
(51)【国際特許分類】
G01P 15/13 20060101AFI20250205BHJP
G01P 15/08 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
G01P15/13 C
G01P15/08 101B
G01P15/08 102Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124662
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 茂高
(57)【要約】 (修正有)
【課題】振子の支持部の変形を抑えて、良好な配線の接合を得ることを課題とする。
【解決手段】振子に生じた慣性力、及び、トルカカップに巻き付けられたトルカコイルに流れる電流とヨークを通る磁場とで生じるローレンツ力が平衡するサーボ加速度計であって、振子1はヒンジ10cを介して支持部10bに懸架され、支持部10bは表面に薄膜配線10eを備え、薄膜記配線10eが金属ワイヤ24と接続している第1の接続部を備え、金属ワイヤ24における第1の接続部の反対側である第2の接続部が端子25の端面に接続され、支持部10bにおける第1の接続部の裏面に接するものがなく、2つの固定部の間に前記ヒンジと前記第1の接続部が配置され、支持部10bで囲われる内側の領域が支持部10bの厚み方向に引き出された空間内に端子25が存在し、金属ワイヤ24と第1の接続部における薄膜配線10eの表面が貴金属材料であることを特徴とする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振子に生じた慣性力、及び、トルカカップに巻き付けられたトルカコイルに流れる電流とヨークを通る磁場とで生じるローレンツ力が平衡するサーボ加速度計であって、
前記振子はヒンジを介して支持部に懸架され、
前記支持部は前記ヨークに固定される2つの固定部を持ち、
前記支持部は表面に薄膜配線を備え、
前記薄膜配線が金属ワイヤと接続している第1の接続部を備え、
前記金属ワイヤにおける第1の接続部の反対側である第2の接続部が端子の端面に接続され、
前記支持部における前記第1の接続部の裏面に接するものがなく、
前記2つの固定部の間に前記ヒンジと前記第1の接続部が配置され、
前記支持部で囲われる内側の領域が前記支持部の厚み方向に
引き出された空間内に前記端子が存在し、
前記金属ワイヤと、前記第1の接続部における前記薄膜配線の表面が貴金属材料であることを特徴とするサーボ速度計。
【請求項2】
前記端子の端面の表面が貴金属材料であることを特徴とする請求項1に記載のサーボ速度計。
【請求項3】
前記貴金属材料がAuおよびAu合金から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項4】
前記ヒンジを2つ備え、
前記端子は、2つの前記ヒンジの外側の端部と、前記振子の中心部の端部と、前記支持部で囲われる内側の領域が前記支持部の厚み方向に引き出された空間内に存在することを特徴とする請求項1に記載のサーボ速度計。
【請求項5】
前記ヒンジを2つ備え、
前記端子は、2つの前記ヒンジの内側の端部と、前記振子の中心部の端部と、前記支持部で囲われる内側の領域が前記支持部の厚み方向に引き出された空間内に存在することを特徴とする請求項1に記載のサーボ速度計。
【請求項6】
前記振子が石英ガラスで構成されることを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項7】
前記薄膜配線の表面の貴金属材料の厚みが200nm以上であり、
前記薄膜配線の表面の貴金属材料の表面粗さがRa10nm以下であり、
前記端子の端面の表面の貴金属材料の厚みが2μm以上であり、
前記端子の端面の表面の貴金属材料の表面粗さがRa0.4μm以下であり、
前記貴金属材料の純度が99.99%以上であり、
前記端子の端面と、前記ヨークに前記端子を固定する固定部の距離は1mm以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のサーボ加速度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振子を用いた力サーボ加速度計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のサーボ加速度計は、磁気回路を形成するヨークユニットと、入力加速度で揺動する振子を備えている。ヨークユニットは、磁束を生み出す永久磁石と内部に磁束が通るポールピースとヨークで構成され、振子は加速度によって変位が生じる錘部と、錘部を懸架するヒンジと、ヒンジを介して錘部を懸架する支持部で構成される。錘部の表面にはトルカコイルが巻きつけされたトルカカップが固定され、錘部と共に加速度を受けて揺動する。錘部の変位は、錘部やヨークユニットなどに形成された電極の隙間に生じる静電容量として検出され、電圧に変換・増幅された電流がトルカコイルに供給される。ヨークユニットが有する磁気空隙内の磁場と、トルカコイルに流れる電流によって生じるローレンツ力(復元力)により、錘部の変位をゼロに制御される。このときの復元力は慣性力と等しくなるので、加速度をトルカコイル電流から検知できる。
【0003】
例えば、特許文献1のサーボ加速度においては、トルカコイルへの通電や振子の変位を検出するために、振子支持部の薄膜配線と電気的に接続される端子を備える。接続部品となる金属ワイヤを薄膜配線にはんだ付けをすると、その下地である振子の支持部が熱応力よって変形し、センサ精度が低下する可能性がある。また、熱応力を軽減するために加工温度を低下させると、良好な接合は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
振子の支持部の変形を抑えて、良好な配線の接合を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のサーボ加速度計は、振子に生じた慣性力、及び、トルカカップに巻き付けられたトルカコイルに流れる電流とヨークを通る磁場とで生じるローレンツ力が平衡するサーボ加速度計であって、前記振子はヒンジを介して支持部に懸架され、前記支持部は前記ヨークに固定される2つの固定部を持ち、前記支持部は表面に薄膜配線を備え、前記薄膜配線が金属ワイヤと接続している第1の接続部を備え、前記金属ワイヤにおける第1の接続部の反対側である第2の接続部が端子の端面に接続され、前記支持部における前記第1の接続部の裏面に接するものがなく、前記2つの固定部の間に前記ヒンジと前記第1の接続部が配置され、前記支持部で囲われる内側の領域が前記支持部の厚み方向に引き出された空間内に前記端子が存在し、前記金属ワイヤと、前記第1の接続部における前記薄膜配線の表面が貴金属材料であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
振子の支持部の変形を抑えて、良好な配線の接合を得られる加速度計を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1におけるサーボ加速度計の分解斜視図
【
図5】実施例1における振子とヨークユニットの組立体の正面図
【
図6】実施例1におけるワイヤボンディングの構成図
【
図8】実施例2におけるサーボ加速度計の分解斜視図
【
図12】実施例2における振子とヨークユニットの組立体の正面図
【
図13】実施例2におけるワイヤボンディングの構成図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
図1はこの発明によるサーボ加速度計の一実施例の構成を示したものであり、構成部品の分解斜視図である。
図2にはサーボ加速度計の断面図を示す。サーボ加速度計は円板や円筒形状の部品を重ねた装置であり、これら部品群の中心軸は一致している。
【0010】
振子1は、振子の基部10の表面にトルカコイル11、12を巻回されたトルカカップ13、14が固定される。トルカカップ13、14の固定の方法は、エポキシ系接着剤などによる接着や、ネジなどを用いた機械的な固定、溶接などを用いた接合が挙げられる。トルカカップ13、14の材質は非磁性で軽量な材料が適しており、アルミ合金やチタン合金、樹脂材料などで構成される。トルカコイル11、12は線形状で金属材料の金属ワイヤで構成され、その材料には高い導電性が必要となるため、銅や銅合金、アルミ、アルミ合金などが適している。金属ワイヤの外周には、ポリウレタンやポリエステル、ポリエステルイミドなどで構成される絶縁層を備え、その外周には、主にポリビニルブチラルやポリアミド、ポリエステルなどで構成される融着層を備える。金属ワイヤ24はトルカカップ13、14に巻きつけられた後に、隣接する融着層同士が接着することで、トルカコイル11、12の形状が固定される。融着層の接着方法は、溶剤を塗布する方法や、加熱による軟化・融解が挙げられる。
【0011】
図3に振子1の正面図を、
図4に振子1の背面図を示す。舌片形状の振子の錘部10aは、円筒状の枠体である支持部10bの枠内に位置する。錘部10aはヒンジ10cに連結し支持部10bに懸架される。加速度検知軸30方向に加速度が生じると、振子の支持部10bに対して薄肉のヒンジ10cが弾性変形し、ヒンジ10cの長手方向の中心を軸にして、錘部10aが回転運動する。
【0012】
錘部10aと支持部10b、ヒンジ10cの製作方法を説明する。金属やガラス材料の母材から板材を切り出し、研磨することで所望の厚みと面精度となる基板を製作する。振子1の表面は、トルカカップ13、14やヨーク15、16の位置の基準となる。そのため、振子表面の面精度が高いほど、各部品の組立精度は向上する。次に切削加工やウェットエッチング、レーザなどによって、母材の一部を除去することで、錘部10aと支持部10b、ヒンジ10cの形状を製作する。
【0013】
ヨークユニット2、3の構成を説明する。ヨーク15、16の一端側は、円形状ヨーク17、18によって閉塞され、他の一端側である開放端面側が支持部10bを固定している。ポールピース19、20、は、ヨーク15、16の開放端面の中心の穴の周囲に設けられ、円柱状の永久磁石21、22はポールピース19、20と接し、ヨーク15、16の内部に収納されている。この構成によって各部品に磁束が通り、ヨークユニット2、3によって磁気回路が形成される。そして、ヨーク15、16の開放端内周面とポールピース19、20の外周面との間に環状の磁気空隙がそれぞれ形成される。シールバンド23は、ヨーク15と16の外周に接着剤などを用いて固定さる。これにより、振子1とヨーク15、16が一体となる。
【0014】
永久磁石21、22は、板厚方向に着磁されたネオジウムやサマリウムコバルト、アルニコ磁石などで構成され、ヨーク15、16と円形状ヨーク17、18、ポールピース19、20は軟磁性材料で構成される。永久磁石21、22と円形状ヨーク17、18と、ポールピース19、20は、それぞれ接着剤により固定され、ヨーク15、16と円形状ヨーク17、18はレーザ溶接によって接合される。
【0015】
ヨーク表面の電極面15e、16eと、それに対向する錘部10aの薄膜電極10dは、コンデンサの2つの電極として機能する。加速度の入力によって生じた錘部10aの変位は、電極間の静電容量を変化させ、その差を電圧として検出し、図示しないサーボアンプにより差動増幅される。そして、静電容量差に基づいたサーボ電流が一対のトルカコイル11、12に供給される。この静電容量を検出する電気信号とサーボ電流は、薄膜電極10dや、ヒンジ10cと支持部10bの表面に形成された薄膜配線10e、金属ワイヤ24、および端子25を経路としてサーボアンプへと流れる。
【0016】
振子の基部10の平面に垂直となる方向(加速度検知軸30)に加速度が印加されると、加速度を受けた錘部10aは変位するが、トルカ電流と磁気空隙内の磁界で生じるローレンツ力により変位は中立点へ戻り、加速度で生じる力、すなわち慣性力とローレンツ力は平衡する。この時、トルカ電流の大きさは、加速度検知軸に沿った加速度の大きさに直接的に対応するため、加速度を検知することが出来る。
【0017】
(実施例1)
図5は、サーボ加速度計の振子1とヨークユニット2を抽出して示す。
図6は
図5におけるAA´線の端面図であり、この発明による実施例の構成を示したものである。薄膜配線10eが金属ワイヤ24と接続している第1の接続部を備え、金属ワイヤ24における第1の接続部の反対側である第2の接続部が端子25の端面に接続され、支持部10bにおける第1の接続部の裏面側が宙に浮く。また、金属ワイヤ24の一部が第1の接合部と第2の接合部よりも高い位置にあり、金属ワイヤ24はアーチ構造を持つ。金属ワイヤ24と薄膜配線10bの接合と、金属ワイヤ24と端子25の接合は、ワイヤボンディングによって行われる。金属ワイヤ24により薄膜配線10eと端子25が電気的に導通し、トルカコイル11、12にサーボ電流を印加する電流経路と、電極面15e、16eと薄膜電極10dの静電容量の検出回路へ接続する電流経路を形成する。
【0018】
支持部10bの変形はセンサ精度の低下や故障の原因となる。支持部10bの変形よってヒンジに応力が与えられると、錘部の変位と入力された加速度の比例関係が変化して、本来の関係との差分が誤差となる。もしくは、錘部がヒンジによってヨークに押し付けられて動かなくなる可能性がある。
【0019】
図5に示す組立体では、ヨークユニットの上面に振子が固定され、振子の支持部10bの内側に端子25の端面が配置される。端子25の端面は固定部から遠い自由端であり、金属ワイヤ24は細いため、それぞれ振動や熱変形し易い。これらが振動すると、ヨークユニット2、3内の磁場の影響を受けて起電力が生じ、電気的ノイズとなりセンサ精度が低下する。端子25や金属ワイヤ24は、加速度計の中心部に近い場所にあることで、外部からの振動や熱の影響を受けにくい。また、金属ワイヤ24を支持部10bの外側に出す構成と比較すると、加速度計の外径は小さくなる。
【0020】
測定する加速度とは異なる振動を支持部10bが受けると、その振動が錘部に伝わって変位となりセンサ出力のノイズとなる。端子25と金属ワイヤ24で生じた振動は、金属ワイヤ24のアーチ構造によって減衰するため、支持部10bに伝わる振動は小さくなる。金属ワイヤ24が直線に近い構造を持つ場合、端子25や金属ワイヤ24の振動が伝わり易くなると共に、金属ワイヤ24から受ける張力も増加する。例えば、温度変化により端子25と支持部10bの位置が離れた場合、その変化量を上回る金属ワイヤ24のたるみが無ければ、金属ワイヤ24が端子25と支持部10bに引っ張られ、接合部に大きな応力が発生し破断する。もしくは、金属ワイヤ24から受ける張力によって支持部10bが変形する。このように、金属ワイヤ24のアーチ構造は接合部の信頼性の向上と、支持部10bの変形の抑制に寄与する。
【0021】
図7に
図5におけるBB´線の断面を示す。ヒンジおよび金属ワイヤ24が接合される薄膜配線10eを備える支持部10bと、支持部10bの中心に接続されるヒンジは、支持部10bの固定部であるヨークとの接触点から離れており、それぞれが宙に浮いている。薄膜配線10eとヨークには大きな隙間があり、加速度計に大きい衝撃が与えられて支持部10bが動いても、薄膜配線10eとヨークは短絡しない。また、支持部10bの固定部からヒンジが遠いため、ヒンジにひずみを与えにくいことから振子は正常に動きやすい。
【0022】
端子25は、2つのヒンジの外側の端部と振子の中心部の端部、支持部10bで囲われる内側の領域が支持部10bの厚み方向に引き出された空間内に存在する。そして、薄膜配線10eにおける金属ワイヤ24の接合部は、ヒンジの端部と振子の中心部の端部の外側に備わる。薄膜配線10eと金属ワイヤ24の接合部は、振子の中心部およびヒンジから離れている為、金属ワイヤや端子25が受ける振動がヒンジや振子の中心部に伝わりにくい。また、接合部はヨークにおける振子の固定部15a、16aから近いため、支持部10bは振動しにくい構造である。このように金属ワイヤ24の振動による影響を軽減して、センサ精度の低下を抑制することができる。
【0023】
振子1と接する固定部15a、16a以外のヨーク15、16の端面は、振子1の両面に近接する。ヨークユニット2に備わる端子25が、ヨークユニット3と接触して短絡を起こさせないため、端子25の端面は振子の支持部10bの表面から低い位置に存在する。
一般的な金属ワイヤ24と薄膜配線10e、例えば銅やアルミなどの導電性材料を接合する場合、部品表面の酸化被膜を除去する必要がある。はんだ付けにおいては、接合部材に塗布されたフラックスが、はんだ付けの熱によって酸化被膜を還元し除去する。端子25の端面や支持部10bの薄膜配線10eは、振子の中心部に近接しているため、はんだ付けによって金属ワイヤ24を接合すると、振子の中心部やヒンジにフラックスやはんだの粒子が付着する。この異物が振子の変位に影響を与えて加速度計のセンサ精度を低下させる。
【0024】
ワイヤボンディングは、熱や圧力、振動を接合界面に与えて、構成材料の原子を相互に拡散し部品を接合する加工法である。超音波を用いた接合は、部品表面の酸化被膜の一部を破壊して、酸化被膜の下部にある活性が高い元素同士を接触させる。そのため、超音波を用いるワイヤボンディングは、銅やアルミなどの酸化被膜を持つ金属ワイヤ24や薄膜配線10eの接合で広く用いられている。
【0025】
ワイヤボンディングにおける一般的な熱圧着法では製品全体を加熱するが、加速度計には磁石や接着剤が使用されているため、製品全体を熱圧着法に適した温度(100℃以上)にすると、磁力が低下し接着剤が軟化する可能性がある。また加熱が無い圧着法では、大圧力により部品を破壊する可能性がある。他方、超音波接合法や、熱圧着法に超音波を併用する超音波熱圧着法では、振子の支持部10bと端子25端面は固定部から遠い自由端になるため、振動が加工面から逃げて接合不良を起こしやすい。このため、端子25と支持部10bの薄膜配線10eへのワイヤボンディングは、加熱した金属ワイヤ24を接合面に押し付けて接合させる局所的な熱圧着法が適している。
【0026】
はんだ付けでは、接合させる2つの部品の他に接合材料として「はんだ」が必要となる。溶融はんだが冷却され固体となることで接合部が形成されるが、接合対象と熱膨張率が異なるため、はんだは接合対象に残留応力(熱応力)を与える。ワイヤボンディングは対象同士を接合させる加工方法であり、熱膨張率の差が小さいほど互いが与える残留応力は低下する。特に、同一の材料で構成された接合対象であれば、熱膨張率に差が小さいためより効果的である。
【0027】
ワイヤボンディングは金属ワイヤの端部と金属面にエネルギーを与えて接合する加工方法である。エネルギーを与える領域はφ100μm程度であり、はんだ付けで使用する一般的なこて先の先端面積と比較すると非常に小さく、加工対象に与える熱量とその領域は小さくなる。つまり、ワイヤボンディングを用いて金属ワイヤと薄膜配線を接合すると、はんだ付けと比べて、熱の影響による支持部の変形を小さくすることが可能である。
ワイヤボンディングは支持部10bに熱や圧力を加えるため、その影響で支持部10bに
【0028】
変形が生じる可能性がある。金属ワイヤが接合される薄膜配線10eを表面にもつ支持部10bの裏側がヨークと接触した状態でワイヤボンディングをすると、支持部はヨーク側に押し付けられながら変形する。支持部がヨークと接触しない状態と比べると、ワイヤボンディングによる変形の他に、ヨークからも応力を受けて変形するため、支持部10bの変形が複雑化する。支持部10bの変形はセンサ精度の低下をまねくため、加速度計ではその誤差を電気的に補正することや、数値的な補正をすることで測定結果の精度を上げている。しかし、支持部10bの変形が複雑化すると、その補正が不十分に成り易く、センサ精度の低下の要因となる。ワイヤボンディングによる変形が起きてもヨークと接触しない隙間がヨークとの間にあれば。ワイヤボンディングによる支持部10bの変形の複雑化を抑制し、センサ精度は維持される。
【0029】
金属ワイヤ24と薄膜配線10e、端子25端面の表面は貴金属材料である。貴金属材料はイオン化傾向が小さいことから表面の酸化被膜が無い、もしくは薄いため、ワイヤボンディングによる加圧によって、接合部品内部の化学的に活性が高い元素が接合面へ露出しやすい。金属ワイヤ24と薄膜配線10eの内部にあった活性が高い元素同士が密着することで、接合面に金属結合や拡散結合が生じる。貴金属材料の中でも金(Au)またはAu合金は特にイオン化傾向が小さく、一般的な環境では酸化被膜が無い。また、展延性に優れている為、圧力が与えられた際に、部品が破断することなく変形することで、部品内部にある化学的に活性が高い元素が露出し易いことから、AuおよびAu合金から選択される少なくとも一種である貴金属材料が適している。また、同一の材料または、組成が近い材料同士を接合させるため、金属ワイヤ24と薄膜配線10e、端子25端面の表面の熱膨張率の差が小さくなり、それぞれが受ける残留応力は小さくなる。
【0030】
端子25端面および薄膜配線10eの表面の貴金属材料層は、経済性を考慮すると厚みが薄いほど良い。一方で、貴金属材料層の下地となる支持部10bや端子25の材料が、ワイヤボンディングによる熱によって貴金属材料層に拡散して、強度が低い合金層を形成する可能性がある。このため、貴金属材料層の厚みはワイヤボンディングの加工条件に合わせて、一定以上の厚みを確保する必要がある。
【0031】
ワイヤボンディングで生じる活性が高い元素同士の結合は、接合面の表面粗さが少ないほど促進される。なぜなら、接合面おける塑性変形がし易くなり、接合面へ露出する活性が高い元素が多くなり、それらが接合する面積は増大する。一方、表面粗さが大きいと、接合面の凹凸によって塑性変形は阻害され、活性が高い元素が接合面に露出する機会が減少する。また接合面の凹凸によって、局所的に圧力が高まる箇所が生じて貴金属材料層を部分的に破壊し、貴金属材料層の下地が露出する可能性がある。このため、表面荒さが大きい場合には貴金属材料層の厚みを大きくする必要がある。例えば、貴金属材料層の表面粗さの算術平均値(Ra)が10nm以下であれば厚みは200nm以上が必要となり、Raが0.1~0.4μmであれば、厚みは2μm以上が必要となる。
【0032】
金属ワイヤ24と、金属ワイヤ24が接合される薄膜配線10e、端子25端面を構成する材料の純度は高いほど好ましい。不純物が小さいほど、接合面における原子の欠陥が少なくなり良好な接合力を得られる。特に99.99%以上であると、接合力のばらつきが小さくなる。
【0033】
局所的熱圧着法によるワイヤボンディングは、金属ワイヤ24を端子25端面に押し付ける際に、端子25端面も加熱するため、端面に固定部が近接していると固定部も共に熱せされて、固定部の膨張や変形が生じ、端子25の位置がずれてワイヤボンディングの不良の原因となる可能性がある。これを抑制するために、本発明の端子25の端面と端子25をヨークに固定する固定部の距離は1mm以上である。
【0034】
振子1の材料は石英ガラスである。石英ガラスの線膨張係数は0.5×10-6/K程度であり、一般的な商用金属の1/10程度である。また絶縁材料であるため、振子1の表面に形成する薄膜配線10eと導通しない。更には、非磁性材料であるため、ヨークユニット2、3が形成する磁気空隙内の磁場に影響を与えない。また化学的に安定性が高いため、熱や圧力が与えられても薄膜配線10eに石英ガラスが殆ど拡散しないため、ワイヤボンディングの接合性の維持に寄与する。
【0035】
ヨーク15、16の材料はインバー合金である。インバー合金の線膨張係数は、0.5×10-6/K程度であり、石英ガラスとの差が小さいため、温度変化によるひずみを振子の支持部10bに与えにくい。また、飽和磁束密度は1.2Tであるため、磁気回路を形成する材料としても適している。
【0036】
加速度計に温度変化が生じると、熱膨張や熱収縮によりサーボ加速度計を構成する部品の形状が変化する。それにより、振子1の形状の変化が起きて、加速度を反映する振子1の動作が変化し、センサ精度の低下を招く。これを低減するには、構成部品の材料は可能な限り、低い線膨張係数を持つ材料を使用する必要がある。特に、各部品の位置の基準となり、振動子そのものである振子の基部10の変形が少ないことが求められる。
【0037】
本発明におけるワイヤボンディングの一例を示す。200℃以上に加熱したボンディングツールでφ15~75μmのAuワイヤの端部を保持し、200MPa以上の圧力でAuワイヤを端子25の端面に押し付ける。端子の端面表面の貴金属材料層は、表面粗さがRa0.4μm以下で厚み2μm以上のAu層である。ボンディングツールから与えられた圧力と熱により、Auワイヤと端子25端面との界面に拡散接合が起こる。次に、ボンディングツールで接合されていない金ワイヤ部分を振子の薄膜配線10eまで引き出し、100MPa以上の圧力で金ワイヤを振子の薄膜配線10eへ押し付けて接合する。薄膜配線10e表面の貴金属材料層は、表面粗さRa10nm以下で厚さ200nm以上のAu層である。ボンディングツールの先端の面積は、金属ワイヤ24の線径の数倍程度で十分あり、ボンディングツールが薄膜配線10eに接触する面積は小さい。なお、各部品のAu層の純度は99.99%である。
【0038】
Auワイヤと薄膜配線10eの接合部と、Auワイヤと端子25端面の接合部の破壊強度は、Auワイヤのプルテストにおいて6gf以上を得られる。直径1インチ程度の一般的なサーボ速度計において金属ワイヤ24の長さは5mm以下であり、その重量は密度が高いAuを材料に選択しても5×10-4g以下である。金属ワイヤ24の接合面に生じる最大荷重は金属ワイヤの重量と衝撃加速度に比例する。衝撃荷重における安全率を15と仮定すると、最大荷重の見積もりは、最大荷重=衝撃加速度×Auワイヤ重量×安全率15となる。つまり、本実施例におけるAuワイヤは900G(G:重力加速度)の衝撃加速度に耐えられる可能性が高い。一般的なサーボ速度計の耐衝撃性は300G以下であるため、Auワイヤは十分な接合力を有する。
【0039】
(実施例2)
図8はサーボ加速度計の一実施例の構成を示したものであり、構成部品の分解斜視図である。
図9にはサーボ加速度計の断面図を示す。サーボ加速度計は円板や円筒形状の部品を重ねた装置であり、これら部品群の中心軸は一致している。
図10に振子1の正面図を、
図11に振子1の背面図を示す。振子1は、振子の基部10の表面にトルカコイル11を巻回されたトルカカップ13と、1つの薄膜電極10dを備える。
図12は、サーボ加速度計の振子1とヨークユニット2を抽出した組立体の正面図を示す。薄膜配線10eは金属ワイヤ24に接続され端子25の端面と電気的に繋がる。この組立体の正面側に非磁性のカバー26が被せられ、カバー26とヨークユニット2がシールバンド23によって固定されることで、振子1が固定される。
図13は
図12におけるCC´線の断面図であり、この発明によるワイヤボンディングの構成を示したものである。支持部10bの薄膜配線10eが金属ワイヤ24と接続され、端子25端面と金属ワイヤ24は、はんだ付けで接続される。
ヨーク表面の電極面15eと、それに対向する錘部10aの薄膜電極10dは、コンデンサの1つの電極として機能する。加速度の入力によって生じた錘部10aの変位は、電極間の静電容量を変化させ、その差を電圧として検出し、図示しないサーボアンプにより差動増幅される。そして、静電容量差に基づいたサーボ電流が一対のトルカコイル11に供給される。この静電容量を検出する電気信号とサーボ電流は、薄膜電極10dや、ヒンジ10cと支持部10bの表面に形成された薄膜配線10e、金属ワイヤ24、および端子25を経路としてサーボアンプへと流れる。
【0040】
端子25は、2つのヒンジの内側の端部と、振子の中心部の端部と、支持部10bで囲われる内側の領域が支持部10bの厚み方向に引き出された空間内に存在する。1つのヨークユニット2を備え、それと対になる1つのトルカコイル11を備え、トルカコイル11に通電する1つの薄膜配線10eを支持部10bに有する。同様に、1つのヨークの電極面を備え、対になる1つの電極膜を備え、電極膜に通電する薄膜配線10eを支持部10bに有する。1つのヨークユニット2とトルカコイル11により、振子の変位の検出と制御を行うため、加速度は小型化が容易である。
【0041】
サーボ速度計は、電極間の静電容量によって錘部の位置を測定するので、加速度検知軸30方向の変位と、それ以外の方向の変位を識別することが出来ない。つまり、加速度検知軸30以外の方向から入力される加速度によって生じる錘部の変位が、センサ出力の誤差につながる。端子25の端面は、対向する2つのヒンジの外側に配置されないため、その分だけヒンジの距離を大きくすることで
図11に示すφ軸回転方向における2つのヒンジの剛性を高め、φ軸回転方向の変位を抑制することが可能である。対向する2つのヒンジの内側に端子25が存在することは、加速度検知軸30以外の方向からの加速度に対する感度(他軸感度)を低下させ、センサ精度の維持に寄与する。
【0042】
端子25の端面は、対向する2つのヒンジの内側に配置されるため、支持部10bにおいてヒンジが固定される扇形の部分にある薄膜配線10eに金属ワイヤ24が接続することができる。扇形部分は、その他の部分に比べて体積が大きいため、ワイヤボンディングで与えられる熱が周囲に逃げ易い。対向する2つのヒンジの内側に端子25端面が存在することで、ワイヤボンディングで生じる熱応力の変形を小さくすことが可能であり、センサ精度の低下を抑制することができる。
【0043】
薄膜配線10eと金属ワイヤ24の接合部は3つであり、これらは電極間の静電容量の検出と、トルカ電流をトルカコイルに流すための必要最小限の数の電流経路を形成する。接合部の数も必要最小限であるため、金属ワイヤの接合で生じる支持部10bの変形は最小限に抑えられる。また、ワイヤボンディングを行う際にワイヤを押し付ける針状のボンディングツールを妨害するトルカコイルが無いため加工性に優れ、良好な接合を得られ易い。
図12に示す組立体の製作方法について説明する。単体の部品である端子25の端面に金属ワイヤ24をはんだ付けし、溶剤などで接合部に付着した残渣物を除去する。この組立体をヨークの穴に固定し、磁石やポールピースを組み込むことで、ヨークユニット2が完成する。次に、ヨークユニット2に振子1を設置し、端子25の端面に接合した金属ワイヤ24のもう一端を振子の支持部10bの薄膜配線10eの上面に引き出す。局所的熱圧着法により金属ワイヤ24を薄膜配線10eにボンディングをすることで、端子25と薄膜配線10eが電気的に導通する。
【符号の説明】
【0044】
1 振子
10 振子の基部
10a 振子の錘部
10b 振子の支持部
10c 振子のヒンジ
10d 振子の薄膜電極
10e ヒンジや支持部や錘部の表面に形成される薄膜配線
10f 取り付けパッド
15、16 ヨーク
15a、16a ヨークにおける振子の固定部
15e、15e ヨークの電極面
23 シールバンド
24 金属ワイヤ
25 端子
26 カバー
27 はんだ部
30 加速度検知軸"