(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020998
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 9/067 20200101AFI20250205BHJP
B63B 1/32 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
B63H9/06 A
B63B1/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124669
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】502055377
【氏名又は名称】商船三井テクノトレード株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000144049
【氏名又は名称】株式会社三井造船昭島研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000205535
【氏名又は名称】株式会社 商船三井
(71)【出願人】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】池田 剛大
(72)【発明者】
【氏名】木村 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】福田 紘大
(57)【要約】
【課題】 エアドラフトを抑制しつつ、良好な帆走性能を発揮することを可能にした船舶を提供する。
【解決手段】 船体1の上甲板3に少なくとも1枚の翼型の帆10を備えた船舶において、帆10は、垂直軸Xの廻りに回動自在であって水平断面において左右対称の流線形をなす翼本体11を有し、翼本体11の水平方向長さLに対する翼本体11の垂直方向長さHの比からなるアスペクト比が2.0以下であり、翼本体11の最大幅Wが水平方向長さLの12%~25%の範囲にある。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の上甲板に少なくとも1枚の翼型の帆を備えた船舶において、
前記帆は垂直軸の廻りに回動自在であって水平断面において左右対称の流線形をなす翼本体を有し、前記翼本体の水平方向長さに対する前記翼本体の垂直方向長さの比からなるアスペクト比が2.0以下であり、前記翼本体の最大幅が水平方向長さの12%~25%の範囲にあることを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記翼本体は、水平方向の少なくとも1箇所に、厚さ方向に貫通するスリットを有することを特徴とする請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記翼本体は、前記スリットで分断された複数の分割片を有し、これら分割片の少なくとも1つが他の分割片に対して水平方向に揺動自在に構成されることを特徴とする請求項2に記載の船舶。
【請求項4】
前記帆は、前記翼本体の上端に前記翼本体の幅方向に突き出した上部端板を有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の船舶。
【請求項5】
前記翼本体は、その最前面に前記翼本体の前後方向の中心線に対して直交する平面からなるフラット部を有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の船舶。
【請求項6】
前記船体の前方に位置する船首部と、該船首部に繋がる上甲板と、該上甲板の両側に位置して前記船首部に繋がる一対の船側部とを有する船舶において、
前記船首部は、前記船体の垂直断面において、前記船体の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第1輪郭線を形成し、前記船体の水平断面において、前記船体の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第2輪郭線を形成する湾曲面を有することを特徴とする請求項1に記載の船舶。
【請求項7】
前記船首部の湾曲面は、前記船体の横断面において、前記船体の幅方向外側から内側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第3輪郭線を形成することを特徴とする請求項6に記載の船舶。
【請求項8】
前記船首部の湾曲面は、前記船体の中心線と平行であって前記中央垂直断面に対して傾斜する断面において、前記船体の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第4輪郭線を形成することを特徴とする請求項6に記載の船舶。
【請求項9】
前記上甲板と前記船側部の各々とを繋ぐガンネル部は、前記船体の横断面において、前記船体の幅方向外側から内側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第5輪郭線を形成する湾曲面を有することを特徴とする請求項6に記載の船舶。
【請求項10】
前記上甲板は平面で構成されることを特徴とする請求項6~9のいずれかに記載の船舶。
【請求項11】
前記船首部は、その最前面に前記船舶の中心線に対して直交する平面からなるフラット部を有することを特徴とする請求項6~9のいずれかに記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、翼型の帆を備えた船舶に関し、更に詳しくは、エアドラフトを抑制しつつ、良好な帆走性能を発揮することを可能にした船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
客船、貨客船、貨物船、自動車運搬船、タンカー等の船舶において、船体の水面下の部位にプロペラ及び舵を備えると共に、上甲板上の帆柱に翼型の帆を備えた船舶が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。このような帆を備えた船舶では、風がある場合に、帆柱を回転させて、風の相対的な向きに対して帆に迎え角を付けることにより、帆による推力を発生させることができる。
【0003】
しかしながら、帆を備えた船舶は、エアドラフト(水面から最高点までの距離)が大きくなるため、橋の下を通過する際に帆が干渉する恐れがある。このような帆の干渉を回避するには、例えば帆を折り畳み式とする必要があるが、その場合、帆の構造が複雑化するという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-18594号公報
【特許文献2】特開2014-184936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、エアドラフトを抑制しつつ、良好な帆走性能を発揮することを可能にした船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の船舶は、船体の上甲板に少なくとも1枚の翼型の帆を備えた船舶において、
前記帆は、垂直軸の廻りに回動自在であって水平断面において左右対称の流線形をなす翼本体を有し、前記翼本体の水平方向長さに対する前記翼本体の垂直方向長さの比からなるアスペクト比が2.0以下であり、前記翼本体の最大幅が水平方向長さの12%~25%の範囲にあることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明者は、船舶の帆の形状について鋭意研究した結果、特定の形状を有する翼型の帆はアスペクト比が小さい場合であっても、上甲板に沿って流れる風を効率的に捉えて良好な帆走性能を発揮することを知見し、本発明に至ったのである。
【0008】
即ち、本発明では、翼型の帆は、垂直軸の廻りに回動自在であって水平断面において左右対称の流線形をなす翼本体を有し、翼本体の水平方向長さに対する翼本体の垂直方向長さの比からなるアスペクト比が2.0以下であり、翼本体の最大幅が水平方向長さの12%~25%の範囲にあることにより、航行時に上甲板に沿って流れる風を捉えて揚力を発生させ、良好な帆走性能を発揮することができる。特に、海上での相対的な風は船自身の航行に起因する風と自然風との合力となり、自然風の速度が変化すると相対風向が変化する。そして、相対風向が目まぐるしく変化する状況下で、それに追従して帆の角度を変化させても、帆の角度が変わったときには相対風向が既に変わっている場合がある。これに対して、本発明者の知見によれば、翼本体の最大幅を水平方向長さの12%~25%の範囲として翼本体を太らせた構造とすることにより、相対風向の変化に対して揚力変化が生じ難くなり、翼本体のアスペクト比が小さい場合であっても、航行時に安定的に揚力を発生させることができる。しかも、翼本体のアスペクト比が2.0以下であるため、エアドラフトを抑制することができる。そのため、帆を折り畳み式とする必要がなく、帆の構造が複雑化するという問題も生じない。
【0009】
本発明において、翼本体は、水平方向の少なくとも1箇所に、厚さ方向に貫通するスリットを有することが好ましい。このようなスリットを翼本体に設けることにより、翼本体が風を受けた際に圧力側から背面側に風が抜けるので、背面側の失速を防止し、揚力を増大することができる。
【0010】
翼本体は、スリットで分断された複数の分割片を有し、これら分割片の少なくとも1つが他の分割片に対して水平方向に揺動自在に構成されることが好ましい。このように少なくとも1つの分割片が揺動自在に構成されることにより、翼本体に見掛け上のキャンバーを付与することが可能となり、揚力を増大することができる。
【0011】
帆は、翼本体の上端に翼本体の幅方向に突き出した上部端板を有することが好ましい。アスペクト比が小さい翼本体の上方を通って風が圧力側から背面側へ回り込む恐れがあるが、上部端板を設置することにより、そのような風の廻り込みを抑制し、揚力を増大することができる。
【0012】
翼本体は、その最前面に翼本体の前後方向の中心線に対して直交する平面からなるフラット部を有することが好ましい。このようなフラット部は斜め向かい風を受けた際に風の導入部として働いて翼本体の見掛け上のキャンバーとして機能するので、揚力の増大に寄与する。
【0013】
本発明においては、上述した翼型の帆に基づく揚力を最大限に発揮するために、船体の形状も最適化されるべきである。即ち、船体の前方に位置する船首部と、該船首部に繋がる上甲板と、該上甲板の両側に位置して船首部に繋がる一対の船側部とを有する船舶において、船首部は、船体の垂直断面において、船体の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第1輪郭線を形成し、船体の水平断面において、船体の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第2輪郭線を形成する湾曲面を有することが好ましい。船首部が上述の湾曲面を有することにより、航行時に受ける風を船体に沿ってスムーズに誘導し、風の流れを上甲板に貼り付かせて帆に基づく揚力を最大限に発揮することができる。これにより、良好な帆走性能を得ることができる。また、船首部が上述の湾曲面を有することにより、風の流れにおける風下側の剥離や渦の発生を低減することができるので、斜め向かい風に対する風圧抵抗を効果的に低減することができる。更には、上述のクロソイド曲線を含む湾曲面を有する船首部を設けた場合、上甲板上の風を増速することができる。その結果、正面風の時には有効な抵抗削減効果をもたらし、斜め向かい風や横風を受けた際に、その風圧を最大限に推力に変換することができる。
【0014】
本発明において、船首部の湾曲面は、船体の横断面において、船体の幅方向外側から内側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第3輪郭線を形成することが好ましい。また、船首部の湾曲面は、船体の中心線と平行であって垂直断面に対して傾斜する断面において、船体の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第4輪郭線を形成することが好ましい。これにより、航行時に受ける風を船体に沿ってスムーズに誘導し、風の流れを上甲板に貼り付かせて帆に基づく揚力を最大限に発揮することに加えて、斜め向かい風に対する風圧抵抗をより効果的に低減することができる。更に、斜め向かい風や横風を受けた際には、上甲板上の風が増速することにより、風下側への淀みがなくなって抵抗が減り、その結果、風力を最大限に推力に変換することができる。
【0015】
上甲板と船側部の各々とを繋ぐガンネル部は、船体の横断面において、船体の幅方向外側から内側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第5輪郭線を形成する湾曲面を有することが好ましい。これにより、航行時に受ける風を船体に沿ってスムーズに誘導し、風の流れを上甲板に貼り付かせて帆に基づく揚力を最大限に発揮することに加えて、風の流れにおける風下側の剥離や渦の発生を低減し、横風や斜め向かい風に対する風圧抵抗を効果的に低減することができる。また、上述のクロソイド曲線を含む湾曲面を有する船首部と共に上述のクロソイド曲線を有するガンネル部を設けた場合、数値流体力学(CFD)に基づく計算によれば、斜め向かい風や横風を受けた際の上甲板上の風を、船に入ってくる相対風速(自船の速度と自然風の合力)に対して約2割増速することができる。その結果、斜め向かい風や横風を受けた際には、その風力を最大限に推力に変換することができる。
【0016】
上甲板は平面で構成されることが好ましい。これにより、航行時に受ける風を船体に沿ってスムーズに誘導し、風の流れを上甲板に貼り付かせて帆に基づく揚力を最大限に発揮することに加えて、風の流れにおける風下側の剥離や渦の発生を低減し、横風や斜め向かい風に対する風圧抵抗を効果的に低減することができる。
【0017】
船首部は、その最前面に船舶の中心線に対して直交する平面からなるフラット部を有することが好ましい。このようなフラット部は斜め向かい風を受けた際に風の導入部として働いて翼の見掛け上のキャンバーとして機能するので、推力の増大に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態からなる船舶を示す前方斜視図である。
【
図3】
図1の船舶に搭載される翼型の帆の一例を示し、(a)は前方斜視図であり、(b)は平面図である。
【
図4】
図1の船舶に対する風の流れを示す前方斜視図である。
【
図5】翼型の帆の変形例を示し、(a)は前方斜視図であり、(b)は平面図である。
【
図6】翼型の帆の他の変形例を示し、(a)は前方斜視図であり、(b)は平面図である。
【
図7】翼型の帆の更に他の変形例を示し、(a)は前方斜視図であり、(b)は平面図である。
【
図8】翼型の帆を屈曲させた状態を示す平面図である。
【
図9】フラット部を備えた翼型の帆を示す平面図である。
【
図10】
図1の船舶の各部における輪郭線を示す斜視図である。
【
図11】船体の垂直断面における船首部の第1輪郭線を示す断面図である。
【
図12】船体の水平断面における船首部の第2輪郭線を示す断面図である。
【
図13】船体の横断面における船首部の第3輪郭線を示す断面図である。
【
図14】船体の中心線と平行であって垂直断面に対して傾斜する断面における船首部の第4輪郭線を示す断面図である。
【
図15】船体の横断面におけるガンネル部の第5輪郭線を示す断面図である。
【
図16】本発明の他の実施形態からなる船舶を示す前方斜視図である。
【
図17】本発明の更に他の実施形態からなる船舶を示す前方斜視図である。
【
図19】
図17の船舶の各部における輪郭線を示す斜視図である。
【
図20】船首部において生じる推力を示し、(a)は船首部がフラット部を持たない場合の平面図であり、(b)は船首部がフラット部を有する場合の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1~
図2は本発明の実施形態からなる船舶を示し、
図3はその船舶に搭載される翼型の帆の一例を示すものである。なお、
図1~
図2に示す船舶は自動車運搬船(自動車専用船)を例示するものであるが、本発明は所定の要件を満足するものであれば、その用途が特に限定されるものではなく、客船やフェリー等への適用も可能である。
【0020】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の船舶は、全長が例えば40m~400mの範囲にある船体1から構成されている。船体1は、その前方に位置する船首部2と、船首部2から連続する上甲板3と、上甲板3の両側に位置して船首部2から連続する一対の船側部4,4とを有している。
【0021】
船体1は、船首から船尾にわたって、自動車を固定して搬送するために、その内部に階層構造を有する複数の甲板(不図示)を備えている。また、船体1の船尾には、自動車の荷役を行うためのランプウェイ用の開口部とその扉(不図示)が設けられている。上甲板3上には、煙突5等が配設されているが、船橋や居住区等の船楼は設置されていない。この船舶では、船橋(不図示)や居住区(不図示)が上甲板3よりも下側に配設され、上甲板3上からは突出した構造物が可及的に排除されている。船体1の船尾側の下部には、
図2に示すように、プロペラ6と舵7が配設されている。ここでは1軸1舵となっているが、これに限定されることはなく、2軸2舵のような多軸船であっても良い。
【0022】
上述のように構成される船舶において、船体1の上甲板3には少なくとも1枚の翼型の帆10が設置されている。
図1及び
図2においては4枚の帆10が描写されているが、上甲板3には例えば3~4枚の帆10が設置されることが望ましい。
【0023】
図3(a),(b)に示すように、翼型の帆10は、垂直軸Xの廻りに回動自在であって水平断面において左右対称の流線形をなす翼本体11を有している。翼本体11を含む帆10は、鉄鋼やステンレス鋼やアルミニウム合金のような金属材料等の材料又は炭素繊維補強プラスチック(CFRP)やガラス繊維補強プラスチック等の繊維強化複合材料で構成される剛体である。翼本体11の水平方向長さLに対する翼本体11の垂直方向長さHの比(H/L)からなるアスペクト比は2.0以下に設定され、より好ましくは、0.5以上1.0以下に設定されている。翼本体11の高さHは特に限定されるものではないが、例えば、5m~20mの範囲に設定されている。翼本体11の最大幅Wは水平方向長さLの12%~25%の範囲に設定されている。
【0024】
上述のように構成される船舶では、翼型の帆10は、垂直軸Xの廻りに回動自在であって水平断面において左右対称の流線形をなす翼本体11を有し、この翼本体11は最大幅Wが水平方向長さLの12%~25%の範囲にある太らせた構造を有しているので、航行時に風向きが変化して帆10へのアタックアングルが変わっても安定的に揚力を発生させ、良好な帆走性能を発揮することができる。しかも、翼本体11のアスペクト比は2.0以下であるため、エアドラフトを抑制することができる。そのため、帆10を折り畳み式とする必要がなく、帆10の構造の複雑化を回避することができる。ここで、翼本体11の最大幅Wが上記範囲から外れると、揚力の発生が不十分になる。また、翼本体11のアスペクト比が2.0超であるとエアドラフトの抑制が困難になる。
【0025】
上述した船舶において、
図5(a),(b)、
図6(a),(b)又は
図7(a),(b)に示すように、翼本体11は、水平方向の少なくとも1箇所に翼本体11の厚さ方向に貫通するスリット12を有し、これらスリット12で分断された複数の分割片13を有していると良い。このようなスリット12を翼本体11に設けることにより、翼本体11が風を受けた際に圧力側から背面側に風が抜けるので、背面側の失速を防止し、揚力を増大することができる。スリット12を設けるにあたって、翼本体11の平面視において、スリット12の中心線は翼本体11の幅方向に延びる直線又は翼本体11の前方に向かって凸となる円弧とすることができる。円弧の場合、スリット12の中心線の位置における翼本体11の幅Bに対して、円弧の曲率半径をB/2以上とすれば良い。このような形状を有するスリット12は、翼本体11が風を受けた際に圧力側から背面側に風が抜けるのを適度に許容する。
【0026】
図7(a),(b)に示すように、帆10は、翼本体11の上端に翼本体11の幅方向に突き出した上部端板14を有していると良い。翼本体11はアスペクト比が小さいため、翼本体11の上方を通って風が圧力側から背面側へ回り込む恐れがある。しかしながら、翼本体11の上端に上部端板14を設置することにより、そのような風の廻り込みを抑制し、揚力を増大することができる。
【0027】
上述のように翼本体11がスリット12で分断された複数の分割片13を有する場合、これら分割片13の少なくとも1つが他の分割片13に対して水平方向に揺動自在に構成されていると良い。例えば、
図8においては、翼本体11がスリット12で分断された複数の分割片13a,13b,13cを有する場合に、中央に位置する分割片13bに対して両側の分割片13a,13cが水平方向に揺動自在に構成されている。このように少なくとも1つの分割片13が揺動自在に構成されることにより、翼本体11に見掛け上のキャンバーを付与することが可能となり、揚力を増大することができる。例えば、前方キャンバー角度α及び後方キャンバー角度βはそれぞれ例えば±10°以内の範囲に設定することができる。また、
図8では分割片13a,13cの揺動軸が翼本体11の回転軸となる垂直軸Xと一致しているが、これらは必ずしも一致する必要はない。
【0028】
翼本体11は、横断面において(
図5(b)、
図6(b)、
図7(b)の平面視形状は横断面形状に対応する)、その前方輪郭線Cfが左右対称の流線形をなしている。これにより、翼本体11の前縁で受ける風を翼本体11に沿ってスムーズに誘導し、揚力を増大することができる。
【0029】
特に、翼本体11は、
図9に示すように、その最前面に翼本体11の前後方向の中心線に対して直交する平面からなるフラット部15を有することが好ましい。このようなフラット部15は斜め向かい風を受けた際に風の導入部として働いて翼本体11の見掛け上のキャンバーとして機能するので、揚力の増大に寄与する。なお、フラット部15の幅Wfは翼本体11の最大幅Wの1/3以下とすることが望ましい。
【0030】
上述のように構成される船舶において、翼型の帆10に基づく揚力を最大限に発揮するために、船体1の形状も最適化されている。即ち、
図10に示すように、船首部2は湾曲面を有している。この船首部2の湾曲面は、船体1の垂直断面P1において、船体1の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第1輪郭線C1(
図11参照)を形成し、船体1の水平断面P2において、船体1の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第2輪郭線C2(
図12参照)を形成している。更に、船首部2の湾曲面は、船体1の横断面P3において、船体1の幅方向外側から内側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第3輪郭線C3(
図13参照)を形成している。また、船首部2の湾曲面は、船体1の中心線CLと平行であって垂直断面P1に対して傾斜する断面P4において、船体1の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第4輪郭線C4(
図14参照)を形成している。船体1の中心線CLとは、船体1の幅方向の中心位置において船体1の長手方向(水平方向)に沿って延びる仮想線である。
【0031】
クロソイド曲線とは、曲率を一定割合で変化させていった場合に描かれる軌跡である。船体1の垂直断面P1における船首部2の第1輪郭線C1は、船体1の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を連続的又は断続的に含み、好ましくは上記クロソイド曲線を連続的に含んでいる。そのため、第1輪郭線C1の曲率半径R11~R13は船体1の後方側に向かって順次大きくなり、第1輪郭線C1が上甲板3に対して滑らかに接続されている。同様に、船体1の水平断面P2における船首部2の第2輪郭線C2は、船体1の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を連続的又は断続的に含み、好ましくは上記クロソイド曲線を連続的に含んでいる。そのため、第2輪郭線C2の曲率半径R21~R23は船体1の後方側に向かって順次大きくなり、第2輪郭線C2が船側部4に対して滑らかに接続されている。船体1の横断面P3における船首部2の第3輪郭線C3は、船体1の幅方向外側から内側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を連続的又は断続的に含み、好ましくは上記クロソイド曲線を連続的に含んでいる。そのため、第3輪郭線C3の曲率半径R31~R33は船体1の幅方向内側に向かって順次大きくなっている。船体1の中心線CLと平行であって垂直断面P1に対して傾斜する断面P4における船首部2の第4輪郭線C4は、船体1の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を連続的又は断続的に含み、好ましくは上記クロソイド曲線を連続的に含んでいる。そのため、第4輪郭線C4の曲率半径R41~R43は船体1の後方側に向かって順次大きくなり、第4輪郭線C4が上甲板3又は船側部4に対して滑らかに接続されている。
【0032】
また、上述のように構成される船舶において、上甲板3と船側部4の各々とを繋ぐガンネル部8は湾曲面を有している。ガンネル部8の湾曲面は、船体1の横断面P5において、船体1の幅方向外側から内側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第4輪郭線C5(
図15参照)を形成している。つまり、船体1の横断面P5におけるガンネル部8の第5輪郭線C5は、船体1の幅方向外側から内側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を連続的又は断続的に含み、好ましくは上記クロソイド曲線を連続的に含んでいる。そのため、第5輪郭線C5の曲率半径R51~R53は船体1の幅方向内側に向かって順次大きくなり、第5輪郭線C5が上甲板3に対して滑らかに接続されている。
【0033】
上述した船舶によれば、船首部2は、船体1の垂直断面P1において、船体1の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第1輪郭線C1を形成し、船体1の水平断面P2において、船体1の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第2輪郭線C2を形成する湾曲面を有しているので、
図4に示すように、航行時に受ける風を船体1に沿ってスムーズに誘導し、風の流れを上甲板3に貼り付かせて帆10に基づく揚力を最大限に発揮することができる。これにより、良好な帆走性能を得ることができる。また、船首部2が上述の湾曲面を有することにより、風の流れにおける風下側の剥離や渦の発生を低減することができるので、斜め向かい風に対する風圧抵抗を効果的に低減し、更には、斜め向かい風を受けた際に、その風圧を最大限に推力に変換することができる。その結果、船舶の運航において、燃費を改善し、省エネルギー化を図ることができる。
【0034】
また、上述した船舶において、船首部2の湾曲面は、船体1の横断面P3において、船体1の幅方向外側から内側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第3輪郭線C3を形成することが望ましい。この場合、航行時に受ける風を船体1に沿ってスムーズに誘導し、風の流れを上甲板3に貼り付かせて帆10に基づく揚力を最大限に発揮することに加えて、斜め向かい風に対する風圧抵抗をより効果的に低減することができる。また、船首部2の湾曲面は、船体1の中心線CLと平行であって垂直断面P1に対して傾斜する断面P4において、船体1の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第4輪郭線C4を形成することが望ましい。この場合、航行時に受ける風を船体1に沿ってスムーズに誘導し、風の流れを上甲板3に貼り付かせて帆10に基づく揚力を最大限に発揮することに加えて、斜め向かい風に対する風圧抵抗をより効果的に低減することができる。
【0035】
更に、上述した船舶において、上甲板3と船側部4の各々とを繋ぐガンネル部8は、船体1の横断面P5において、船体1の幅方向外側から内側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第5輪郭線C5を形成する湾曲面を有することが望ましい。この場合、航行時に受ける風を船体1に沿ってスムーズに誘導し、風の流れを上甲板3に貼り付かせて帆10に基づく揚力を最大限に発揮することに加えて、風の流れにおける風下側の剥離や渦の発生を低減し、横風や斜め向かい風に対する風圧抵抗を効果的に低減することができる。
【0036】
また、上述した船舶において、上甲板3は水平方向に延びる平面で構成されることが望ましい。この場合、航行時に受ける風を船体1に沿ってスムーズに誘導し、風の流れを上甲板3に貼り付かせて帆10に基づく揚力を最大限に発揮することに加えて、風の流れにおける風下側の剥離や渦の発生を低減し、横風や斜め向かい風に対する風圧抵抗を効果的に低減することができる。上甲板3は可及的に平面で構成されることが望ましいが、煙突5等の最小限の突起物を設けることは許容される。例えば、上甲板3の総面積(船首部2及びガンネル部8の各々の湾曲部や隅切部を除く)に占める平面部分の面積の比率が90%以上であれば良い。
【0037】
図16は本発明の他の実施形態からなる船舶を示すものである。
図16において、
図1~
図2と同一物には同一符号を付してその部分の詳細な説明は省略する。本実施形態の船舶では、上甲板3と船側部4の各々とを繋ぐガンネル部8は、帆10に対応する位置に窪み部16を有している。帆10に対応する位置とは、船体1の前後方向において帆10と重なる位置である。
図16では、複数枚の帆10に対応する位置に複数の窪み部16が配設されている。このような窪み部16を設けた場合、航行時に斜め向かい風を受けた際に帆10の位置に高速の風が流入するようになるため、帆10に基づく揚力を最大限に発揮することができる。
【0038】
図17~
図19は本発明の更に他の実施形態からなる船舶を示すものである。
図17~
図19において、
図1~
図2と同一物には同一符号を付してその部分の詳細な説明は省略する。本実施形態の船舶では、船首部2は、船体1の垂直断面P1において、船体1の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第1輪郭線C1を形成し、船体1の水平断面P2において、船体1の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第2輪郭線C2を形成し、船体1の横断面P3において、船体1の幅方向外側から内側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第3輪郭線C3を形成し、船体1の中心線CLと平行であって垂直断面P1に対して傾斜する断面P4において、船体1の前方側から後方側に向かって曲率半径が増加するクロソイド曲線を含む第4輪郭線C4を形成する湾曲面を有するという条件を満たすものの、船首部2の形状が前述した実施形態とは若干相違している。
【0039】
特に、船首部2は、その最前面に船舶1の中心線CLに対して直交する平面からなるフラット部9を備えている。このようなフラット部9を設けた場合、船舶1が斜め向かい風を受けた際にフラット部9が風の導入部として働いて翼の見掛け上のキャンバーとして機能するので、推力を増大させることができる。即ち、
図20(a)のように船首部2がフラット部9を持たない場合に比べて、
図20(b)のように船首部2がフラット部9を有する場合、フラット部9が風下に向かって風を誘導する際に翼の見掛け上のキャンバーとして機能するので、より大きな推力Fを得ることができる。このような効果は左右両側から流入する風に対して生じる。なお、フラット部9の幅は船体1の全幅の1/3以下とすることが望ましい。
【0040】
フラット部9の面積は、船舶の常用速力に応じて調整することができる。例えば、横風を受ける頻度が少なくなる船速の速い船舶の場合、フラット部9を小さくするか、或いはフラット部9を設けない構造(
図1参照)とする。一方、横風を受ける頻度が多くなる船速の遅い船舶の場合、フラット部9を大きくした構造(
図17参照)とする。
【符号の説明】
【0041】
1 船体
2 船首部
3 上甲板
4 船側部
5 煙突
6 プロペラ
7 舵
8 ガンネル部
9 フラット部
10 帆
11 翼本体
12 スリット
13 分割片
14 上部端板
15 フラット部
C1 第1輪郭線
C2 第2輪郭線
C3 第3輪郭線
C4 第4輪郭線
C5 第5輪郭線
Cf 前方輪郭線