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特開2025-21108タッチプローブの補正値設定システム及び補正値設定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021108
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】タッチプローブの補正値設定システム及び補正値設定方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/401 20060101AFI20250205BHJP
   B23Q 17/22 20060101ALI20250205BHJP
   G01B 5/00 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
G05B19/401
B23Q17/22 B
G01B5/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124833
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】溝口 祐司
【テーマコード(参考)】
2F062
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
2F062AA01
2F062AA21
2F062BB03
2F062BB09
2F062BB10
2F062CC03
2F062CC27
2F062DD23
2F062EE01
2F062HH01
3C029AA06
3C029AA12
3C269AB26
3C269AB31
3C269BB03
3C269CC02
3C269EF22
3C269EF90
3C269JJ18
3C269MN05
3C269MN16
3C269MN27
(57)【要約】
【課題】特別な校正基準を使用することなく、タッチプローブに熱変形などによる経時変化が生じた場合に径方向補正値の再設定が容易に行えるようにする。
【解決手段】B1~B5で、計測対象の側面上に設定した所定の計測点の座標を、主軸に装着したタッチプローブにより、3つの主軸の回転角度で計測し、計測点の計測結果から、B6で、タッチプローブに生じた経時変化に伴う誤差を補正するための変動径方向補正値を算出し、B7で、算出された変動径方向補正値を記録して、記録された変動径方向補正値を径方向補正値に設定する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3軸以上の並進軸と、工具を装着して回転可能な主軸とを有する工作機械において、前記主軸に装着したタッチプローブの径方向補正値を設定する補正値設定システムであって、
所定の計測点の座標を、前記タッチプローブにより、少なくとも3つ以上の前記主軸の回転角度で計測する計測点計測手段と、
前記計測点の計測結果から、前記タッチプローブに生じた経時変化に伴う誤差を補正するための変動径方向補正値を算出する変動径方向補正値算出手段と、
算出された前記変動径方向補正値を記録する補正値記録手段と、
記録された前記変動径方向補正値を前記径方向補正値に設定する径方向補正値設定手段と、
を備えることを特徴とするタッチプローブの補正値設定システム。
【請求項2】
リング状または球状または円柱状の校正基準を用いて、前記タッチプローブにより、前記校正基準の円周の中心に対して少なくとも3つ以上の異なる角度である校正基準計測角度の方向から計測する校正基準計測手段と、
前記校正基準の計測結果から、前記タッチプローブのメカ特性に起因する誤差を補正するための基本径方向補正値を算出する基本径方向補正値算出手段と、をさらに備え、
前記補正値記録手段は、算出された前記基本径方向補正値を記録可能であり、
前記径方向補正値設定手段は、記録された前記基本径方向補正値と前記変動径方向補正値との合計値を前記径方向補正値に設定することを特徴とする請求項1に記載のタッチプローブの補正値設定システム。
【請求項3】
前記校正基準計測角度は、前記計測点計測手段で計測した回転角度と同じであることを特徴とする請求項2に記載のタッチプローブの補正値設定システム。
【請求項4】
前記校正基準計測角度は、等ピッチの角度として設定されることを特徴とする請求項2に記載のタッチプローブの補正値設定システム。
【請求項5】
前記校正基準は、前記工作機械に対して着脱可能であることを特徴とする請求項2乃至4の何れかに記載のタッチプローブの補正値設定システム。
【請求項6】
3軸以上の並進軸と、工具を装着して回転可能な主軸とを有する工作機械において、前記主軸に装着したタッチプローブの径方向補正値を設定するタッチプローブの補正値設定方法であって、
所定の計測点の座標を、前記タッチプローブにより、少なくとも3つ以上の前記主軸の回転角度で計測する計測点計測ステップと、
前記計測点の計測結果から、前記タッチプローブに生じた経時変化に伴う誤差を補正するための変動径方向補正値を算出する変動径方向補正値算出ステップと、
算出された前記変動径方向補正値を記録する補正値記録ステップと、
記録された前記変動径方向補正値を前記径方向補正値に設定する径方向補正値設定ステップと、
を実行することを特徴とするタッチプローブの補正値設定方法。
【請求項7】
リング状または球状または円柱状の校正基準を用いて、前記タッチプローブにより、前記校正基準の円周の中心に対して少なくとも3つ以上の異なる角度である校正基準計測角度の方向から計測する校正基準計測ステップと、
前記校正基準の計測結果から、前記タッチプローブのメカ特性に起因する誤差を補正するための基本径方向補正値を算出する基本径方向補正値算出ステップと、
算出された基本径方向補正値を記録する補正値記録ステップと、をさらに実行し、
前記径方向補正値設定ステップでは、記録された前記基本径方向補正値と前記変動径方向補正値との合計値を前記径方向補正値に設定することを特徴とする請求項6に記載のタッチプローブの補正値設定方法。
【請求項8】
前記校正基準計測角度は、前記計測点計測ステップで計測した回転角度と同じであることを特徴とする請求項7に記載のタッチプローブの補正値設定方法。
【請求項9】
前記校正基準計測角度は、等ピッチの角度として設定されることを特徴とする請求項7に記載のタッチプローブの補正値設定方法。
【請求項10】
前記校正基準は、前記工作機械に対して着脱可能であることを特徴とする請求項7乃至9の何れかに記載のタッチプローブの補正値設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械の機内においてワークの位置等を計測するために用いられるタッチプローブの補正値を設定するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタ等の工作機械においては、主軸にタッチプローブを取り付けて、ワーク原点位置の計測、加工後のワーク寸法の測定、機械精度の校正などが行われている。
しかし、タッチプローブを使用して位置を正確に計測するためには、タッチプローブ自身の長さおよび径方向の補正値をあらかじめ設定する必要がある。径方向の補正値の設定では、例えば以下のような誤差の影響を考慮する必要がある。
タッチプローブには、中心軸周りに120°ごとにタッチプローブのスタイラスと被測定物との接触を検知するための接点対が配置され、タッチプローブが被測定物に接触する方向によって接点対の離れ方が異なる性質を持つものがある。このタッチプローブのメカ特性に起因する誤差を補正するため、特許文献1には、環状ゲージの内周面に対するアプローチ方向を、タッチプローブの接点配置角度を等分した角度毎に変更しつつ測定する方法が開示されている。
【0003】
また、タッチプローブのメカ特性に起因する誤差に加えて、タッチプローブは、使用環境の温度変化の影響による熱変形などにより経時変化が生じるため、定期的に補正値の再設定が必要である。タッチプローブの径方向補正値の設定方法としては、正確な直径の寸法が予め分かっている校正基準を計測し、設定する方法が広く実施されている。特許文献2には、校正基準となる基準球の計測を行い、タッチプローブの先端部の径方向のキャリブレーションを行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-34240号公報
【特許文献2】特開2016-83729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2の方法では、タッチプローブの径方向補正値の設定をするために、あらかじめ正確な寸法が既知である校正基準(環状ゲージ、基準球)を使用する必要がある。タッチプローブは熱変形などにより経時変化するため、補正値を再設定することが必要であるが、補正値の再設定のための校正基準を工作機械の機内に常時設置する場合は、ワークを設置するためのスペースが小さくなる問題や、切粉や切削液の影響等により校正基準が経年劣化し、径方向補正値の計測精度が悪化する問題が生じるおそれがある。
一方、校正基準を着脱可能とし、計測時に機内に設置する場合は、毎回の径方向補正値の計測時に設置作業が必要となり、校正基準の計測にあたって余計な手間や時間が掛かってしまう。
【0006】
そこで、本開示は、基準球などの特別な校正基準を使用することなく、タッチプローブに熱変形などによる経時変化が生じた場合に径方向補正値の再設定を容易に行うことができるタッチプローブの補正値設定システム及び補正値設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の第1の構成は、3軸以上の並進軸と、工具を装着して回転可能な主軸とを有する工作機械において、前記主軸に装着したタッチプローブの径方向補正値を設定する補正値設定システムであって、
所定の計測点の座標を、前記タッチプローブにより、少なくとも3つ以上の前記主軸の回転角度で計測する計測点計測手段と、
前記計測点の計測結果から、前記タッチプローブに生じた経時変化に伴う誤差を補正するための変動径方向補正値を算出する変動径方向補正値算出手段と、
算出された前記変動径方向補正値を記録する補正値記録手段と、
記録された前記変動径方向補正値を前記径方向補正値に設定する径方向補正値設定手段と、を備えることを特徴とする。
第1の構成の別の態様は、上記構成において、リング状または球状または円柱状の校正基準を用いて、前記タッチプローブにより、前記校正基準の円周の中心に対して少なくとも3つ以上の異なる角度である校正基準計測角度の方向から計測する校正基準計測手段と、
前記校正基準の計測結果から、前記タッチプローブのメカ特性に起因する誤差を補正するための基本径方向補正値を算出する基本径方向補正値算出手段と、をさらに備え、
前記補正値記録手段は、算出された前記基本径方向補正値を記録可能であり、
前記径方向補正値設定手段は、記録された前記基本径方向補正値と前記変動径方向補正値との合計値を前記径方向補正値に設定することを特徴とする。
第1の構成の別の態様は、上記構成において、前記校正基準計測角度は、前記計測点計測手段で計測した回転角度と同じであることを特徴とする。
第1の構成の別の態様は、上記構成において、前記校正基準計測角度は、等ピッチの角度として設定されることを特徴とする。
第1の構成の別の態様は、上記構成において、前記校正基準は、前記工作機械に対して着脱可能であることを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するために、本開示の第2の構成は、3軸以上の並進軸と、工具を装着して回転可能な主軸とを有する工作機械において、前記主軸に装着したタッチプローブの径方向補正値を設定するタッチプローブの補正値設定方法であって、
所定の計測点の座標を、前記タッチプローブにより、少なくとも3つ以上の前記主軸の回転角度で計測する計測点計測ステップと、
前記計測点の計測結果から、前記タッチプローブに生じた経時変化に伴う誤差を補正するための変動径方向補正値を算出する変動径方向補正値算出ステップと、
算出された前記変動径方向補正値を記録する補正値記録ステップと、
記録された前記変動径方向補正値を前記径方向補正値に設定する径方向補正値設定ステップと、を実行することを特徴とする。
第2の構成の別の態様は、上記構成において、リング状または球状または円柱状の校正基準を用いて、前記タッチプローブにより、前記校正基準の円周の中心に対して少なくとも3つ以上の異なる角度である校正基準計測角度の方向から計測する校正基準計測ステップと、
前記校正基準の計測結果から、前記タッチプローブのメカ特性に起因する誤差を補正するための基本径方向補正値を算出する基本径方向補正値算出ステップと、
算出された基本径方向補正値を記録する補正値記録ステップと、をさらに実行し、
前記径方向補正値設定ステップでは、記録された前記基本径方向補正値と前記変動径方向補正値との合計値を前記径方向補正値に設定することを特徴とする。
第2の構成の別の態様は、上記構成において、前記校正基準計測角度は、前記計測点計測ステップで計測した回転角度と同じであることを特徴とする。
第2の構成の別の態様は、上記構成において、前記校正基準計測角度は、等ピッチの角度として設定されることを特徴とする。
第2の構成の別の態様は、上記構成において、前記校正基準は、前記工作機械に対して着脱可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、変動径方向補正値を、工作機械または工作機械に設置されたワークの側面等の所定の計測点について計測することにより求めることができる。つまり、基準球などの特別な校正基準を使用することなく変動径方向補正値を計測することができる。
よって、校正基準を工作機械の機内に常時設置する場合に生じる、ワークを設置するためのスペースが小さくなる問題や、切粉や切削液の影響等により校正基準が経年劣化し、径方向補正値の計測精度が悪化する問題がなくなる。また、校正基準を着脱可能として計測時に機内に設置する場合に生じる、毎回の径方向補正値の計測時に設置する作業も必要なくなる。
従って、基準球などの特別な校正基準を使用することなく、タッチプローブに熱変形などによる経時変化が生じた場合に径方向補正値の再設定を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】工作機械の構成を示す図である。
図2】NC装置におけるタッチプローブの補正値設定システムの構成を示す図である。
図3】タッチプローブのメカ特性に起因する誤差のイメージ図である。
図4】スタイラスの曲がりによる誤差のイメージ図で、図4Aが平面、図4Bが側面をそれぞれ示す。
図5】基本径方向補正値算出手段の動作を示すフローチャートである。
図6】基本径方向補正値算出手段における計測動作を示す図である。
図7】変動径方向補正値算出手段の動作を示すフローチャートである。
図8】変動径方向補正値算出手段における計測動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本開示が適用される工作機械の一例を示している。工作機械1は、3軸マシニングセンタであり、主軸頭6は、コラム4及びサドル5を介して、並進軸であり互いに直交するX軸、Z軸によってベッド2に対して並進2自由度の運動が可能である。テーブル3は、並進軸でありX軸およびZ軸に直交するY軸によりベッド2に対して並進1自由度の運動が可能である。したがって、主軸頭6は、テーブル3に対して並進3自由度の運動が可能である。各送り軸は、後述するNC装置10により制御されるサーボモータにより駆動され、図示しないワークをテーブル3に固定し、主軸頭6の主軸7に図示しない工具を装着して回転させ、ワークと工具との相対位置および相対姿勢を制御することで、ワークの加工を行うことができる。
主軸7には、タッチプローブ8を装着することができる。テーブル3には、タッチプローブ8の校正基準として基準球9を設置することができる。
【0012】
図2は、工作機械1に設けられるNC装置10の構成を示している。NC装置10は、CPU及びCPUに接続されたメモリを含んで構成される。主軸7及び各並進軸は、NC装置10により、動作プログラムや作業者によるボタン操作により制御される。NC装置10により制御される各送り軸及び主軸7は、本開示の計測点計測手段及び計測基準計測手段の一例である。
NC装置10には、本開示の第1の構成に係るタッチプローブ8の補正値設定システムの構成部として、基本径方向補正値算出手段11、変動径方向補正値算出手段12、径方向補正値記録手段13、径方向補正値設定手段16が備えられている。基本径方向補正値算出手段11、変動径方向補正値算出手段12および径方向補正値設定手段16は、工作機械1の動作指令や補正値の演算を行うためのプログラムとしてNC装置10に設定される。径方向補正値記録手段13は、記録のためのメモリとしてNC装置10に備えられている。径方向補正値記録手段13は、本開示の補正値記録手段の一例である。
【0013】
基本径方向補正値算出手段11では、後述する計測手順により、テーブル3に設置した基準球9を、主軸7に装着したタッチプローブ8により計測する。計測の結果、算出された基本径方向補正値14は、径方向補正値記録手段13に記録される。
ついで、変動径方向補正値算出手段12では、後述する計測手順により、計測対象となるテーブル3の側面またはテーブル3に設置されたワーク等の側面を、タッチプローブ8により計測する。変動径方向補正値算出手段12は、その計測結果と、基本径方向補正値14とを用いて、変動径方向補正値15を算出し、径方向補正値記録手段13に記録する。ついで、径方向補正値設定手段16では、基本径方向補正値14と変動径方向補正値15とを合計して、径方向補正値17を算出する。
【0014】
次に、基本径方向補正値14について説明する。基本径方向補正値14は、タッチプローブ8での計測時の誤差成分のうち、経時変化が生じにくい成分(基本径方向誤差)を補正するためのものである。具体的には、タッチプローブ8のメカ特性に起因する誤差がある。タッチプローブ8には、一般的に中心軸周りに120°ごとにタッチプローブ8のスタイラスと被測定物との接触を検知するための接点対が配置され、タッチプローブ8が被測定物に接触する方向によって接点対の離れ方が異なる性質を持つ。このような性質を持つタッチプローブ8で、様々な方向に径方向の計測を行うと、図3に示すような誤差が生じる。
図3は、タッチプローブ8の接触方向に対する計測結果をプロットしたものであり、誤差がないときは破線のように円形となる。これに対し、タッチプローブ8のメカ特性に起因する誤差が加わると、実線で示すように120°周期で凹凸が繰り返される波形となる。このとき、基本径方向誤差は、120°周期で変化するため、以下の式(1)の関係となる。
【0015】
【数1】
【0016】
本実施例では、基本径方向誤差が120°周期で変化すると仮定し、基本径方向補正値14を求めるが、変化する周期は120°に限らず、360°を3以上の任意の整数で等分した角度とすることができる。角度の周期をθとして、式(1)を書き直すと、以下の式(2)のようになる。
【0017】
【数2】
【0018】
次に、変動径方向補正値15について説明する。変動径方向補正値15は、タッチプローブ8での計測時の誤差成分のうち、経時的に変化する成分(変動径方向誤差)を補正するためのものである。具体的には、熱変形により、図4のようにタッチプローブ8が変形することによる誤差がある。図4はタッチプローブ8のスタイラス8aが曲がった状態について、タッチプローブ8の上から見た場合(図4A)と、真横から見た場合(図4B)について示している。スタイラス8aの曲がりは、主軸7の中心に対するスタイラス球8bの中心位置の角度θと、主軸7の中心に対するスタイラス球8bの中心位置までの距離dとで表すことができる。前者の角度θは、タッチプローブ8の接触方向の角度θに対して、平面視で主軸7の中心とスタイラス球8bの中心とを結ぶ線がなす角度である。後者の距離dは、主軸7の中心とスタイラス球8bの中心との水平方向の距離である。このとき、変動径方向誤差は、以下の式(3)で表すことができる。
【0019】
【数3】
【0020】
以上で説明したように、基本径方向補正値14は、タッチプローブ固有のメカ特性に依存する値であり、経時変化の影響を受けにくいため、基本径方向補正値算出手段11は、ある種類のタッチプローブに対して一度実行すればよい。また、基本径方向補正値算出手段11では、計測時に基準球9を使用する必要があるが、基本径方向補正値算出手段11は、ある種類のタッチプローブに対して一度実行すればよいため、基準球9は基本径方向補正値算出手段11を実行するときのみテーブル3に設置すればよい。
一方、変動径方向補正値15は、熱変形などの経時変化に依存する値であるため、変動径方向補正値算出手段12は、タッチプローブ8に生じた経時変化による誤差を補正する目的で、タッチプローブ8を使用してワークを計測する前などにその都度実施されることを想定している。しかし、変動径方向補正値算出手段12による計測は、テーブル3の側面またはテーブル3に設置されたワーク等の計測対象の側面をタッチプローブ8により計測することで実施可能であるため、基準球9をテーブル3に設置する必要はない。つまり、基準球9を常時テーブル3に設置したり、作業者が計測時にその都度テーブル3に設置したりする作業を行う必要はない。
【0021】
次に、図5のフローチャートを用いて、本開示の第2の構成に係る基本径方向補正値算出手段11での計測方法および基本径方向補正値14の算出方法を説明する。
A1:校正基準を工作機械1に設置する。ここでは図1のように基準球9をテーブル3に設置する。但し、設置場所はテーブル3でなくてもよい。校正基準は、基準球9以外に円柱状のものやリング状のものを使用してもよいが、工作機械1のXY面内に校正基準の円周が配置されるように校正基準を設置する。
A2:校正基準計測角度(校正基準の円周部を計測するときの、円周の中心に対する角度)を設定する。校正基準計測角度は、「径方向補正値を求めたい角度」をθ、メカ特性に起因する誤差の周期の角度をθとして、θ、θ+θ、θ+2θの少なくとも3つの角度を設定する。例えば、「径方向補正値を求めたい角度」が0°で、メカ特性に起因する誤差の周期が120°の場合は、0°、120°、240°のように120°の等ピッチで3つの角度を設定すればよい。
A3およびA4:設定された校正基準計測角度において、校正基準を径方向に計測する。これをA2で設定した全ての校正基準計測角度に対して行う。A1~A4は、本開示の校正基準計測ステップの一例である。
【0022】
この計測方法について図6を用いて説明する。
図6は、基準球9とタッチプローブ8のスタイラス球8bとを上から見た図である。大きい円が基準球9、その周囲の小さい円がスタイラス球8bを表している。また、黒い三角は主軸7の回転角度を表している。このとき、校正基準である基準球9の中心を通る線上を基準球9の円周に向かってタッチプローブ8を動かすことにより計測を行う。例えば、校正基準計測角度として0°、120°、240°を設定した場合は、図6の実線矢印の方向にタッチプローブ8を動かして基準球9にスタイラス球8bを接触させ、計測を行う。このとき、主軸7の回転角度は一定のまま、それぞれの校正基準計測角度での計測を行う。
A5およびA6:計測結果に基づいて、基本径方向補正値Eb,θおよび校正基準計測時の変動径方向補正値E^(ハット記号付きを示す。以下同じ)v,θを計算する。A5は、本開示の基本径方向補正値算出ステップの一例である。
【0023】
この計算の内容について説明する。ある校正基準計測角度θを設定して計測した場合の、校正基準の中心座標から、スタイラス球8bが校正基準の円周部に接触したときの座標までの距離は、校正基準の半径、スタイラス球8bの半径、基本径方向誤差、変動径方向誤差を考慮し、以下の式(4)で表すことができる。
【0024】
【数4】
【0025】
θ、θ+θ、θ+2θの3つの角度で計測を行うと、以下の式(5)の3つの結果が得られる。
【0026】
【数5】
【0027】
式(5)は、式(2)の関係より、以下の式(6)のようになる
【0028】
【数6】
【0029】
以上の式のうち、未知数はEb、θ、d^、θ^の3つであり、他の変数は既知である。3つの未知数に対し式が3つあるため、連立方程式として式(6)を解くことができる。すなわち、角度θにおける基本径方向誤差Eb,θおよび校正基準計測時の変動径方向誤差E^v,θを同定することができる。
具体的な例として、θ=120°で、θ=0°、90°、180°、270°の4方向について同定する場合について説明する。
まず、θ=0°、θ+θ=120°、θ+2θ=240°の校正基準計測角度に対して測定を行い、式(6)の連立方程式を解いて、Eb、0、d^、θ^を計算する。以上の計算で、d^、θ^が求められたため、任意の角度に対する校正基準計測時の変動径方向誤差E^v,θを計算することができる。
よって、残りの角度である90°、180°、270°については、式(4)の関係から簡単に求めることができる。つまり、θ=0°、90°、120°、180°、240°、270°の6つの角度で計測することで、θ=0°、90°、180°、270°の4方向についての基本径方向誤差Eb,0、Eb,90、Eb,180、Eb,270を同定することができる。
【0030】
A7:計算の結果、同定した誤差を、基本径方向補正値14および校正基準計測時の変動径方向補正値15として記録する。A7は、本開示の補正値記録ステップの一例である。
以上で説明した方法により、基本径方向補正値算出手段11で校正基準の計測結果から基本径方向補正値14を算出し記録する。
【0031】
次に、図7のフローチャートを用いて、本開示の第2の構成に係る変動径方向補正値算出手段12での計測方法および変動径方向補正値15の算出方法、径方向補正値設定手段16での径方向補正値17の設定方法を説明する。
B1:計測対象の側面上の計測点一か所を設定する。側面上の計測点の条件は、計測点での側面に対する法線ベクトルが、主軸7と直交する方向になることである。設定する計測対象の側面は、テーブル3など、工作機械1の構造物自体の側面でも良いし、テーブル3上に設置された治具やワークの側面でも良い。
B2:径方向補正値記録手段13に記録されている基本径方向補正値Eb、θを読み込む。
B3:設定した計測位置を計測するときの主軸割出角度を設定する。このとき、基本径方向補正値Eb、θが既知である(径方向補正値記録手段13に記録されている)角度を3つ以上設定する。
【0032】
B4およびB5:設定された主軸割出角度に主軸7を割出し、タッチプローブ8により、計測する側面に垂直な方向に動かして、側面上の計測点を径方向に計測する。これをB3で設定した全ての主軸割出角度に対して行う。B1~B5は、本開示の計測点計測ステップの一例である。
この計測方法について図8を用いて説明する。図8は、計測対象とタッチプローブ8のスタイラス球8bとを上から見た図である。図8は、計測対象のX+側の側面をタッチプローブ8で測定する場合を想定し、ハッチング部分が計測対象、黒丸が計測点、小さい円がスタイラス球8bを表している。また、黒い三角は主軸7の回転角度を表している。この図では説明のため3つの図に分けているが黒丸の計測点は同じ一か所の計測点を表している。主軸割出角度として0°、120°、240°を設定した場合は、図8のように、主軸回転角度を変えて測定を行う。このとき、スタイラス円周上の接触位置が、図6で示した基本径方向補正値算出手段11での計測時と同じになるように主軸回転角度を変える。その後、図8の左矢印方向にタッチプローブ8を動かして計測対象にスタイラス球8bを接触させ、計測を行う。
【0033】
B6:計測結果に基づいて、変動径方向補正値Ev,θを計算して記録する。B6は、本開示の変動径方向補正値算出ステップ及び補正値記録ステップの一例である。
この計算の内容について説明する。ある主軸割出角度θを設定して、ある側面を計測した場合に得られる座標値は、スタイラス球8bの半径、基本径方向誤差、変動径方向誤差を考慮し、以下の式(7)で表すことができる。
【0034】
【数7】
【0035】
例えば、θ、θ、θの3つの角度で計測を行うと以下の式(8)に示す3つの結果が得られる。B3で説明した通り、θ、θ、θに対する基本径方向補正値Eb,θ1、Eb,θ2、Eb,θ3は既知である。
【0036】
【数8】
【0037】
以上の式のうち、未知数はX、d、θの3つであり、他の変数は既知である。3つの未知数に対し式が3つあるため、連立方程式として式(8)を解くことができる。d、θが求められるため、任意の角度θにおける変動径方向誤差Ev,θを同定することができる。以上の方法で同定した各誤差を補正値として設定する。
B7:B2で読み込んだ基本径方向補正値とB6で求めた変動径方向補正値との合計となる径方向補正値を計算する。B7は、本開示の径方向補正値設定ステップの一例である。
径方向補正値は、式に表すと以下の式(9)のようになる。
【0038】
【数9】
【0039】
以上で説明した方法により、変動径方向補正値算出手段12において複数の主軸割出角度で側面を計測した結果から変動径方向補正値15を算出し、予め記録された基本径方向補正値14と足し合わせることで径方向補正値17を求めることができる。この方法で径方向補正値17の設定を行った後、タッチプローブ8で径方向にワークを計測したときの計測結果を径方向補正値17に基づいて補正することで、タッチプローブ8に熱変形などによる経時変化が生じた場合でも、ワークを精度よく計測することができる?
【0040】
このように、上記形態のタッチプローブ8の補正値設定システム及び補正値設定方法は、所定の計測点の座標を、主軸7に装着したタッチプローブ8により、3つの主軸7の回転角度で計測し、計測点の計測結果から、タッチプローブ8に生じた経時変化に伴う誤差を補正するための変動径方向補正値15を算出し、算出された変動径方向補正値15を記録して、記録された変動径方向補正値15を径方向補正値17に設定する。
この構成によれば、変動径方向補正値15を、工作機械1または工作機械1に設置された所定の計測点について計測することにより求めることができる。つまり、基準球などの特別な校正基準を使用することなく変動径方向補正値15を計測することができる。
よって、校正基準を工作機械1の機内に常時設置する場合に生じる、ワークを設置するためのスペースが小さくなる問題や、切粉や切削液の影響等により校正基準が経年劣化し、径方向補正値の計測精度が悪化する問題がなくなる。また、校正基準を着脱可能として計測時に機内に設置する場合に生じる、毎回の径方向補正値の計測時に設置する作業も必要なくなる。
従って、基準球などの特別な校正基準を使用することなく、タッチプローブ8に熱変形などによる経時変化が生じた場合に径方向補正値17の再設定を容易に行うことができる。
【0041】
特にここでは、基準球9を用いて、タッチプローブ8により、基準球9の円周の中心に対して3つの異なる角度である校正基準計測角度の方向から基準球9を計測し、基準球9の計測結果から、タッチプローブ8のメカ特性に起因する誤差を補正するための基本径方向補正値14を算出し、算出された基本径方向補正値14を記録して、記録された基本径方向補正値14と変動径方向補正値15との合計値を径方向補正値17に設定している。
すなわち、タッチプローブ8の径方向補正値17を、経時変化の影響を受けにくい基本径方向補正値14と、経時変化の影響を受けやすい変動径方向補正値15とに基づいて算出するので、精度の高い径方向補正値17が再設定可能となる。また、基本径方向補正値14の算出に基準球9を使用してもその設置作業等が最小限ですむ。
【0042】
以下、本開示の変更例について説明する。
上記形態では、基本径方向補正値の算出にあたり、校正基準計測時の変動径方向誤差値を用いているが、校正基準計測時の変動径方向誤差値を用いずに基本径方向補正値を算出してもよい。
基本径方向補正値は、タッチプローブのメカ特性に起因する誤差を補正するためのものであるが、タッチプローブの種類によっては、メカ特性に起因する誤差が小さい場合がある。この場合、基本径方向補正値の算出は必要ない。
よって、基本径方向補正値の算出が必要ない場合、補正値設定システムでは、図2の基本径方向補正値算出手段11および基本径方向補正値14は省略することができる。補正値設定方法では、図7において、B2の基本径方向補正値の読み込みが行われず、変動径方向補正値算出手段12によりB6で算出されて記録された変動径方向補正値が、そのままB7で径方向補正値として設定される。
【0043】
上記形態では、工作機械として3軸マシニングセンタを例示しているが、適用可能な工作機械の軸構成はこれに限らない。マシニングセンタに限らず旋盤や複合加工機、研削盤などでもよい。また軸数は3軸に限らず、回転軸によりテーブルや主軸頭が回転1自由度以上を持つ機構でもよい。
また、上記形態では、校正基準として基準球を使用しているが、基準球以外に、外側の円周面を計測可能な円柱形の基準や、内側の円周面を計測可能なリングゲージを使用してもよい。
基本径方向補正値及び変動径方向補正値の算出に当たって計測する主軸の回転角度及び校正基準計測角度は、適宜変更できる。角度も上記形態の3つに限らず、4つ以上で設定してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1・・工作機械、2・・ベッド、3・・テーブル、6・・主軸頭、7・・主軸、8・・タッチプローブ、8a・・スタイラス、8b・・スタイラス球、9・・基準球、10・・NC装置、11・・基本径方向補正値算出手段、12・・変動径方向補正値算出手段、13・・径方向補正値記録手段、14・・基本径方向補正値、15・・変動径方向補正値、16・・径方向補正値設定手段、17・・径方向補正値。
図1
図2
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図8